0910-1810/11/\100/頁/JCOPYで標本という)がどのような集団から構成されているかまとめることから始まる.たとえば,年齢,性別,収入,喫煙歴,bodymassindex(BMI),全身疾患(例:糖尿病,高血圧)と失明の関連を検討するのなら,まずこれらの基本属性をもった集団がどれくらいいるのか記述する必要がある.これらは表を用いてまとめることが一般的であるが,性別,喫煙歴,全身疾患の有無はカテゴリーごとにその度数(=人数)を記し,頻度(=パーセント)を計算する.年齢,収入,BMIについてはこれらを連続変数としてもカテゴリー変数としても扱うことができる.連続変数として扱う場合,箱髭図・度数分布図などを書いてその分布の正規性をまず確認する.もし,視覚的に正規性が認められるなら,平均値(mean)をその代表値として提示するが,あまりにも大きな外れ値(outlier)が存在したり,明らかに正規性が認められなかったりする場合には代表値に中央値(median)を用いる.連続変数として得たデータをカテゴリー化することも可能であるが,その分類が社会通念上正しく,また先行研究あるいは類似研究においても使われているカテゴリーを使用することが望ましい.多変量解析の結果,望ましい結果がでなかったからといって,自分で勝手なカテゴリーを作ることは好ましいものではない.それでも新しいカテゴリーを作る必要があるならば明確な理由付けを行うべきである.はじめにわが国においても疫学研究の重要性は高まっているが,疫学と聞くと拒絶反応を示す眼科医は多い.眼科医の多くは「疫学=統計学」と誤解し,検定方法やp値ばかりに目がいってしまう.疫学の勉強をしようと気合を入れてもなぜか疫学でなく古典的な統計学の教科書を読み始め,難解な数式が目に入るや否や本を閉じてしまう.疫学研究は研究仮説の証明のために,因果のありそうな要因とそのアウトカムの関連性を計算する.研究デザインが決まれば自ずと使うべき生物統計学が決まり難解な統計学は必ずしも必要でない.実際,眼科領域の横断研究に用いる生物統計学の多くは多重ロジスティック解析(multiplelogisticregressionanalysis)で,これさえ理解すれば横断研究の理解に苦しむことはない.難解な統計学の知識を必要とするならば医師でなく統計学の専門家にゆだねるべきであろう.本稿では「疫学研究(臨床疫学を含む)で最低限必要な生物統計学の知識」として基本属性のまとめ方,誤差の原因,疫学指標の算出方法,関連指標の算出方法,そして多変量解析で調整すべき因子の選び方についておもに述べたい.I基本属性の比較と検定1.変数の定義と代表値の選定疫学研究の第一歩は解析される集団(これを疫学用語(19)19*KoichiOno:順天堂大学医学部附属東京江東高齢者医療センター眼科〔別刷請求先〕小野浩一:〒136-0075東京都江東区新砂3-3-20順天堂大学医学部附属東京江東高齢者医療センター眼科特集●世界の眼科の疫学研究のすべてあたらしい眼科28(1):19.24,2011疫学研究に必要な統計学StatisticalMethodsinEpidemiology小野浩一*20あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(20)び,この誤差を踏まえてある程度の幅をもって年齢を推定することを区間推定という.通常,信頼係数に95%を用いこれを95%信頼区間という.信頼係数に99%を用いた場合はこれを99%信頼区間という.標本数が十分にあり,母集団の母数を推定する場合,95%信頼区間の上限は「点推定値+1.96×標準誤差注)」,下限は「点推定値.1.96×標準誤差」で計算される(99%信頼区間の場合は,1.96の代わりに2.58を用いる).図1の場合,「母集団の平均年齢は95%の確率で39.9~40.1歳の間にある」と結論付けられる.一方,標準偏差を用いて95%信頼区間を計算した場合には標本における年齢の分布を示し,「標本中の95%の人が32.2~47.8歳の間である」と結論付けることができる.注)標準誤差=標準偏差/標本数.2.系統誤差(systematicerror)相対危険度やオッズ比を計算したとしてもその値が「標本からの推測」と「母集団における真値」における隔たりがある場合がある.これを系統誤差(systematic2.基本属性の比較・検定集団の基本属性の度数・頻度が決定されれば,その検定ということになる.独立した2群間の連続変数の比較で,正規分布が認められるような場合にはt検定を用いるが,3群間以上の比較ではt検定を用いてはならない.なぜなら,3群から2群を抽出する方法は3通りあり,有意差が出ない確率は(1.0.05)3で,逆に3つの組み合わせのうち少なくとも1通りは有意差の出る確率は1.(1.0.05)3≒0.14となるからである.複数の群で比較する場合には分散分析(analysisofvariance:ANOVA)を用いる.正規性の認められない場合にはノンパラメトリック法によりその検定を行うが,疫学研究のようにサンプルサイズが十分に大きい場合にはパラメトリックな方法で統計解析を行っても結果に大きな影響はでないようである(中心極限定理).カテゴリー化された変数の場合にはc2検定を行う.臨床研究などで同じ人物に検査を2回行い,これらを比較検定するような場合(例:降眼圧薬使用前後の眼圧)には対応のある検定を行う.基本属性の検定に必要な検定を表1にまとめた.II疫学における誤差1.偶然誤差(randomerror)疫学研究は,母集団から選出された標本(サンプル)を対象にして未知である母集団の母数を推定する.たとえば,疫学調査の結果,標本の平均年齢(±標準偏差)が40歳(±4.0)であったとする(標本数10,000)(図1).この1回の標本抽出によって得られた値(この場合は平均年齢40歳)を点推定とよぶ.しかし,何度も同じ調査を行ったらどうだろうか?同じ方法で調査を行ったとしても標本の選び方次第である程度の誤差が生じることが予想される.これを偶然誤差(randomerror)とよ表1基本属性の検定代表値2群間対応のある2群間3群間以上正規性のあるデータ平均値(±標準偏差)t検定Pairedt検定一元配置の分散分析正規性がないデータ中央値(分位)Wilcoxonの順位和検定Wilcoxonの符号付順位検定Kruskal-Wallis検定割合パーセントc2検定McNemar検定c2検定正規性のあるデータの場合にはパラメトリック法を,正規性のないデータの場合にはノンパラメトリック法で検定を行う.ただし,サンプル数が十分にある場合は正規性のないデータでもパラメトリック法を使っても結果にあまり影響はない(中心極限定理).母集団標本(n=10,000)標本の年齢:平均40歳標準偏差4.095%信頼区間:32.2~47.8歳標本中95%の人が32.2~47.8歳である95%信頼区間:39.9~40.1歳40-1.96×4.0=32.1640+1.96×4.0=47.84母集団の平均年齢は95%の確率で39.9~40.1歳である標準誤差標準偏差40-1.96×4.0/√10,000=39.940+1.96×4.0/√10,000=40.1図1標準偏差と標準誤差(21)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011211.11となり,コーヒーとAMDに関連がありそうにみえる.しかし,「煙草を吸う人」と「吸わない人」に分けてそれぞれのオッズ比を計算すると,オッズ比はそれぞれ0.40,0.45という結果になる.喫煙はAMD発症の危険因子であることが知られており,また,コーヒーを飲む人は喫煙者が多いということも知られている.よって,喫煙状況がコーヒーとAMDの交絡因子となり,これを調整しない限り真の関連を知ることはできないのである.III疫学指標と関連の指標1.疫学指標a.有病率(prevalence)有病率とはある一定の時期における疾病の割合(proportion)を示し,「有病率(p)=疾病数(a)÷人口(n)」で計算される.慣習的に有病率と表現されるが,疫学において率(rate)とは「単位時間当たり」の頻度を示すものであるため,本来は,有病割合と表現するほうが正しい.有病率を区間推定で表す場合,95%信頼区間の上限はp+1.96×p(1.p)/n下限はp.1.96×p(1.p)/nとなる.b.罹患率(incidence)と累積罹患率(cumulativeincidence)罹患率とは単位時間当たりの新しく疾病が発症した率error)とよび,バイアス(bias)と交絡(confounder)によって生じる.a.バイアス(bias)バイアスは母集団から標本を選出するときに起こる場合〔選択バイアス(selectionbias)〕と標本を調査するときに起こる場合〔情報バイアス(informationbias)〕とに分けられる.選択バイアスを減らすには母集団から標本を無作為に選ぶ必要があり,情報バイアスを減らすには測定方法の標準化を図る必要がある.バイアスを生物統計学でコントロールすることは困難でスタディデザインの段階でコントロールされるべきものである.b.交絡(confounder)交絡因子(confoundingfactor)とは原因と考えている因子以外の結果に影響を与えると考えられる因子を指す.したがって,交絡による影響を調整しないと真の関連を知ることはできない.介入研究などで無作為化された研究では交絡因子による影響は受けにくいが,観察研究の場合には注意が必要である.疫学調査でコーヒーと加齢黄斑変性(AMD)の関連について調査を行い図2のような結果(仮想データ)を得たとする.AMDを認めた住民13人のうちコーヒーを飲むものが10人,飲まないものが3人,AMDを認めない住民387人中コーヒーを飲むものが290人,飲まないものが97人いたとする.このときのオッズ比はオッズ比=(10/3)/(290/97)=1.11AMD(+)AMD(.)合計コーヒー(+)10290300コーヒー(.)397100合計13387400喫煙あり喫煙なしオッズ比=(9/2)/(91/8)=0.40AMD(+)AMD(.)合計コーヒー(+)991100コーヒー(.)2810合計1199110オッズ比=(1/1)/(199/89)=0.45AMD(+)AMD(.)合計コーヒー(+)1199200コーヒー(.)18990合計2288290図2コーヒーと加齢黄斑変性(AMD)の関連(仮想データ)22あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(22)計算することはできない.図3に男性5人,女性3人からなるある疾患の発症を調査した仮想的なコホートを示す.このコホートにおけるID1,ID2,ID6,ID7はコホート研究開始後4年目まで発症してなかったがその後,何らかの原因(例:転居,死亡)で追跡不能になったことを示す.ID3は8年目に発症,ID5とID8は10年目に発症し,ID4は10年間発症しなかったことを示す.この仮想コホートの場合,観察された54人年のうち3人が発症したので罹患率は0.056/人年(=3/54)あるいは5.6/100人年,累積罹患率は8人中3人発症したので0.375(=3/8)あるいは37.5%ということになる.2.背景因子とアウトカムの関連を表す指標a.相対危険度(relativerisk,riskratio)と罹患率比(incidentrateratio)ある因子の曝露群と非曝露群における疾病の頻度(=を示すもので,「発症数÷観察された人年(人月)」によって計算される.一方,新規発症者の観察者数に対する割合(「発症数÷標本数」)を累積罹患率という.これらの疫学指標はコホート研究(cohortstudy)でなければID12345678性別男性男性男性男性男性女性女性女性観察年数4年4年8年10年10年4年4年10年発症(-)(-)(+)(-)(+)(-)(-)(+)図3仮想コホート研究観察された人年は,54人年(=4+4+8+10+10+4+4+10)である.54人年のうち3人が発症したので罹患率は0.056/人年(=3/54)あるいは5.6/100人年である.一方,累積罹患率は8人中3人発症したので0.375(=3/8)あるいは37.5%ということになる.発症未発症観察人数曝露ありabn1曝露なしcdn2相対危険度(RR)RR=(a/n1)/(c/n2)95%信頼区間の上限・下限:eLogRR±1.96×(6/(a×n1)+d/(c×n2))発症Person-years曝露ありaPYa曝露なしcPYc罹患率比(IRR)IRR=(a/PYa)/(c/PYc)95%信頼区間の上限・下限:eLogIRR±1.96×1/a+1/c図4相対危険度と罹患率比の95%信頼区間の計算方法対照症例マッチングなしマッチングあり()ペアー数()人数OR=(a/c)/(b/d)95%信頼区間の上限・下限:eOR=c/b95%信頼区間の上限・下限:e症例曝露(+)曝露(+)曝露(+)曝露(+)曝露(+)曝露(+)曝露(-)曝露(-)曝露(-)曝露(-)対照曝露(+)曝露(+)曝露(-)曝露(-)曝露(-)曝露(-)曝露(+)曝露(-)曝露(-)曝露(-)症例対照曝露ありa(6)b(3)曝露なしc(4)d(7)曝露あり曝露なし曝露ありa(2)b(4)曝露なしc(1)d(3)c─b1─b1─cLog±1.96×+1─a1─bLogOR±1.96×+1─c+1─d+図5オッズ比(マッチングなしとマッチングあり)の95%信頼区間の計算方法(23)あたらしい眼科Vol.28,No.1,201123時に計算してくれるが,問題となるのは何を調整すべき因子として選ぶかということである.眼科領域の論文では測定した因子をすべて多変量解析モデルに投入しそこからステップワイズ法によりモデルを決定する手法をとることが多いが,近年ではこのような統計学的手法を疫学研究では推奨していない.3.交絡因子の選択とdirectedacyclicgraph(DAG)DAGとは因果関係を示す矢印(→)により因果関係を累積罹患率)の比を相対危険度とよぶ.一方,曝露群と非曝露郡における罹患率の比を罹患率比とよぶ.これらの95%信頼区間の計算式を図4に示す.95%信頼区間が1をはさんだ範囲にある場合にはその因子は結果に対して有意な影響を与えていないと判断する.b.オッズ比(oddsratio)結果がすでに起きてしまった群とそうでない群の過去における危険因子の有無を調べるのがオッズ比である.おもにオッズ比は横断研究(cross-sectionalstudy)や対照症例研究(case-controlstudy)で用いる.オッズ比の計算はマッチしたデータか否かによって計算方法が異なるので注意が必要である.それぞれのオッズ比および95%信頼区間の計算式を図5に示す.オッズ比も95%信頼区間が1をはさんだ範囲にある場合にはその因子は結果に対して有意な影響を与えていないと判断する.IV交絡因子の調整と多変量解析1.交絡因子の調整方法交絡因子による影響を除外して相対危険度やオッズ比を計算するには交絡因子ごとに層化(stratification)して解析すればいい(上述のコーヒーとAMDの関連性の場合,喫煙する群と喫煙しない群に分ける)が,交絡因子が複数ある場合には層の数が多くなりすぎてしまう.標本を抽出する段階で喫煙する人のみ(あるいは,喫煙しない人のみ)抽出して解析することもできる.これを限定(specification)というが,この方法では対象を絞り込んでしまうためその結果を母集団に当てはめることができなくなってしまう.そのため,交絡因子を調整するには多変量解析を用いることが一般的である.2.多変量解析の選択アウトカムが連続変数である場合には重回帰分析(multipleregressionanalysis)を,アウトカムが「罹患しているか否か」といった2択の場合には多重ロジスティックモデルを用いる.生存時間分析の場合はCox比例ハザードモデル(Coxproportionalhazardmodel)を用いる.多変量解析による点推定値(例:オッズ比,相対危険度,ハザード比)と95%信頼区間の計算はSPSS,STATA,SASなどの統計ソフトを用いれば瞬a:所得が教育に影響を与え(因果),教育が失明に影響を与える(因果)と考えたDAGb:教育が所得と何らかの関係(因果ではない)があると考えたDAG教育所得失明性別年齢教育所得失明性別年齢図7DAGを用いた交絡因子の考え方要因A疾病B因果関係要因A疾病B要因X交絡要因X:疾病Bの危険因子である要因Aと関係がある要因Aと疾病Bの中間でない関係因果因果因果図6交絡(confounding)24あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(24)おわりにオッズ比や相対危険度といった関連を表す指標に統計学的有意差がでればその因子とアウトカムに因果関係があると思っている眼科医は多いが,これは大きな間違いである.本来,「因果」と「関連」というのはまったく別のものであり,因果関係を証明するには,①その関連性が医学的・生物学的に妥当であること,②量反応関係があること,③他の研究でも同様の関連性が示されていること,④原因が結果よりも先に起こっていることなどが証明されなくてはならない.多変量解析の結果,ある因子に有意差がみられたとしても,それが医学的におかしかったり,先行研究・類似研究の結果と異なったりするのであるとすれば,もう一度バイアスや交絡による影響を考えるべきであろう.参考文献.GordisL:Epidemiology.3rdEdition.Elsevier-Saunders,Philadelphia,2004.SzkloM,NietoFJ:EpidemiologybeyondtheBasis.JonesandBartlettPublisher,Boston,2004視覚的に表すことにより研究仮説を明確にして交絡因子の検討を行うものである.要因Aと疾病Bの因果を表すDAGにおいて交絡因子Xは,①疾病Bに影響を与える,②要因Aと何らかの関係(.で表す)がある,③要因Aと疾病Bの中間に位置しない,の条件をすべて満たさなければならない(図6).たとえば,疫学研究により「低所得者ほど失明率が高い」ということを実証したいとする.年齢や性別が失明と因果関係があることは過去の研究や隣国の研究などでわかっており,教育のレベルが高い人ほど行動変容を起こしやすく失明率が低いということも数多くの疫学研究で立証されている.では,所得と教育のレベルはどのように考えるべきであろうか?ある研究者は所得の多い人ほど教育を受ける機会が多いとしてDAG上で教育を所得と失明の因果関係の中間に置くことを主張し(図7a),別の研究者は行動変容を起こす教育は義務教育程度の教育であり所得とは互いに独立した要因であると主張したとする(図7b).前者の場合,所得と失明の因果関係の交絡因子は年齢・性別のみになり,後者の場合には年齢・性別に加えて教育が交絡因子ということになる.