0910-1810/10/\100/頁/JCOPY度)によっても異なり,視角が小さいほどグレア光源の影響は大きい.たとえば,日常生活で眩しさを感じるような状態について考えてみると,夜間に自動車の運転中に対向車のヘッドライトが視界に入るような場合には,自分の進行方向の近くにある光源からの強い光が眼に入ることで眩しさを感じ,見たい対象物(この場合,自分の進行方向)が見えづらくなる.この場合には,昼間であればあまり気にならないような対向車のヘッドライトが夜間で周囲が暗いために強い光に感じられ,さらに視標とグレア光源が狭い視角の中に入ってくるためにグレアを強く生じやすい状況にある.また,映画館から外に出た直後のように暗いところから明るいところへ出た場合には,それまで暗順応状態にあって光感受性が高まっており,かつ瞳孔も散大している状態で相対的に強い光を受け取ることになるため,眩しさを感じる.これは光環境の変化と眼の明順応のタイムラグによるものといえる.一方,十分に明順応していても,屋外の直射日光の下で本を読もうとするような場合には,周囲が明るい状況で,さらに強い太陽光線が紙の表面で反射して適切な明るさ以上の光が眼に入るために眩しさを感じる.この場合は,瞳孔反応の限界と網膜の明順応の限界を超えた光が入るために,眼が感覚器として飽和状態となり,文字と周囲のコントラストが減退している状況にある.上記のような事例は健常者でも認められる生理的な不能グレアともいえるものであるが,光を受け取る眼の病I「眩しさ」とは「眼が眩しい」という症状は過剰な光によって物の見えづらさや,不快感が生じている状態である.医学的にはグレア(glare)あるいは羞明(photophobia)という用語が使われるが,いずれも症状としては「眩しさ」として訴えられる.不適切な光によって物の見えづらさが生じ視機能の低下をきたしている状態を不能(あるいは減能)グレア(disabilityglare)とよび,視機能の低下はなくとも光によって不快感を生じている状態を不快グレア(discomfortglare)とよぶ1).さらに,光への感受性が異常に高い状態をdazzlingglareと区別してよぶ場合もあり,これは狭義の羞明にあたる2).ただし,これらの分類は明確に区分することはできず,互いに重なり合い,影響し合っている.たとえば,不能グレアは不快グレアにもつながり,不快グレアや羞明があれば眼を閉じたり視線をそらせたりする回避的行動をひき起こし,結果的に不能グレアを生ずる.グレアは健常者でも普通に起こる現象であり,ヒトの眼が光学器として不完全であることに由来する.実際に眩しさを感じるかどうかには,さまざまな条件が関係している.見ようとする対象(視標)の明るさに比べて強い光(グレア光源)が視界に入ってくるときに眩しさが生じるが,その際の光の主観的な強さは周囲の明るさとの対比(コントラスト)に左右され,また,グレア光源と視標とがなす視角(2つの視標に対する視線がなす角(3)575*YasuhikoHirami&YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科,先端医療センター病院眼科〔別刷請求先〕平見恭彦:〒650-0046神戸市中央区港島中町4-6神戸市立医療センター中央市民病院眼科特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):575.580,2010原因究明のコツTipsonFindingtheCauseoftheGlare平見恭彦*栗本康夫*576あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(4)ざるえない場合もある.通常,グレアはいくつかの原因が絡み合って発生するものである.眩しさを訴える患者の診察においては,先にあげたような複数の要素が関与していることを念頭において,眩しさの原因を慎重に吟味していかなければならない.II眼の疾患と「眩しさ」の原因眩しさの原因と疾患の存在する部位は,ある程度関連づけて考えることができる.①眼内での光の散乱が原因となっている場合は,前眼部および中間透光体における混濁,あるいは表面の不整な凹凸により生じている状態であり,すなわち角膜の疾患による,涙液層や角膜上皮の障害,角膜実質の混濁や,白内障による水晶体の混濁,ぶどう膜炎などによる硝子体混濁によってひき起こされたものと考えられる.また,②瞳孔の異常が原因となっている場合は,薬剤性,あるいは中枢性その他の原因で散瞳をひき起こす病態や,虹彩の先天性疾患によるものである.そして③網膜の問題による場合は,網膜疾患による錐体の減少が考えられる.また,羞明は,髄膜炎など眼より後方の疾患による場合もある.表1にあげたように,角膜,前房,水晶体,網膜など眼球全体から中枢性まで幅広い疾患が眩しさの原因となりうる3).「眩しい」という患者の訴えはいろいろな症状を含んでおり,その症状もいろいろな原因で起こっている.患者に,どういう状況で眩しさを感じるのか,たとえば,明るいところでは眼を開けていられない,暗いところにいるほうが楽であるとか,あるいは,見えないことはないが,白くかすんだような,膜がはったような見え方であるといった,眩しさの性質についてよく聞いてみると原因を診断するうえで参考になる.先に述べたように,的な状態によって眩しさ程度は変化する.眼に入ってくる光は,角膜,前房,水晶体,硝子体を通過して網膜に到達する.また,瞳孔運動によりその光の量は調節されているが,こうした光の通路あるいは調節のしくみに異常がある場合に,眩しさの症状は生理的には問題とならないような状況でも強く出現してくる.眼の病的状態によって眩しさを感じる場合,多くは視機能の低下を伴い,不能グレアを生じる.その原因として,①眼表面および中間透光体の光路の問題のために眼に入ってくる光が強く散乱している場合,②瞳孔の問題により眼に入ってくる光量が適切に調節できない場合,③網膜の問題によりコントラスト感度が低下する場合,などが考えられる(図1).また,視機能の低下にまでは至らず,不快感のみを生じているような不快グレアとしては,明暗の落差の大きい環境で頻繁な光順応や瞳孔反応を強いられる場合や,高輝度のディスプレイを長時間見続けた場合に,眼精疲労を起こすような状態が考えられる.これらの不快グレアは健常者においても認められるが,不能グレアと同様に,瞳孔や網膜の問題により,健常者では問題とならないような条件下でも症状が出たり増強したりする.また,光の感受性が異常に亢進しているような場合には羞明ないしdazzlingglareを生じ,光を見ることをつらく感じたり,ときには痛みすら感じられ,患者は眩しさを訴える.羞明には,症状を説明できるような明らかな器質的障害が認められない場合も存在し,心因性と結論せ混濁表面の凹凸不整混濁加齢による変化散瞳・先天異常錐体の障害混濁眼内での光の散乱角膜水晶体硝子体虹彩眼内への過剰な入射光網膜光受容体の問題図1眼の部位と眩しさの原因表1部位別「眩しさ」を訴える原因となる疾患角膜,結膜,涙液:ドライアイ,結膜炎,角膜炎,角膜変性,角膜混濁前房,虹彩:瞳孔緊張症,外傷・薬剤などによる散瞳,無虹彩症,白子症,虹彩毛様体炎水晶体:白内障網膜:錐体ジストロフィ,網膜色素変性,杆体一色覚視神経,中枢性:視神経炎,片頭痛,髄膜炎,くも膜下出血(5)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010577の症例でみられる角膜上皮下の混濁(diffuselamellarkeratitis:DLK)では眼痛を伴うことは少ないが,同様に眼に入る光が散乱することで,眩しさの原因となることがある.白内障による水晶体の混濁は比較的初期から光の散乱を生じて眩しさの原因となることが多い.また,強い混濁を生じていなくても,加齢により水晶体の厚みは増加し,核は硬化が進む.こうした変化は加齢による眼球の高次収差の増加に関連して,散乱光の増加から眩しさを生じることもあると考えられる4).瞳孔異常(散瞳)をきたしている場合では,瞳孔緊張症(Adie症候群)のほか,外傷や急性閉塞隅角症による瞳孔括約筋の障害や,抗コリン作用をもつ薬剤の使用による影響,アトロピンやトロピカミドといった散瞳薬の点眼などが原因として考えられる.動眼神経麻痺と散瞳を伴っている場合には,脳動脈瘤が原因となっていることがあり,脳神経外科への紹介が必要となる.また,まれな疾患ではあるが,虹彩の先天性異常で,無虹彩症や白子症では,乳児の眩しがるようなしぐさがみられる.網膜に原因がある場合は,錐体ジストロフィや杆体一色覚のような錐体視細胞が障害される疾患によって眩しさが生じる.こうした場合には色覚の異常を伴うことが多い.網膜色素変性でも,進行すると錐体の障害が生じて,視力低下や色覚の異常とともに眩しさを生じることも多い.また,薬剤性の網膜障害をひき起こす原因としては,フェノチアジン系の抗精神病薬やクロロキン誘導体,塩酸キニーネ,タモキシフェンなどがあり,これらの薬剤では不可逆性の網膜変性に至ることがある.虹彩毛様体炎の場合も眼痛や充血を伴うことが多いが,毛様体筋,虹彩括約筋の攣縮による痛みを生じ,光を見ると痛みが増悪するといった特徴がみられる.また,片頭痛や髄膜炎,くも膜下出血などの頭蓋内疾患では,頭痛とともに眩しさを訴える場合があり,専門科への紹介が必要となる.III眼内レンズと眩しさ大気中や液体中での光の散乱の強さは,波長の4乗に反比例し,短波長の光ほど散乱しやすい.眼内での光の散乱もこれと同様であり,波長の短い青色光は散乱しや眼内での光の散乱や網膜における錐体の障害では,瞳孔での眼内への入射光量の調節が働いており,コントラストの低下により白くかすんだような見え方をしていると考えられる.一方で瞳孔運動の障害では,網膜全体に過剰な光が照射されるため,明るい場所では眼を開けていられないといった症状が強く出やすいと考えられる.診察にあたっては,患者は「眩しい」といってきているのであるから,いきなりスリットランプや倒像鏡の光を浴びせるよりも,丁寧に問診をとってみるのも良いだろう.患者の話に耳を傾けることで,その後の診察にも協力が得られやすくなると思われる.実際に原因疾患を鑑別していくときには,「眩しい」症状に伴ってどういった症状があるのか,また症状の誘因になったものがあるかどうかも参考になる(表2).ドライアイや結膜炎,角膜炎などの眼表面の疾患では,眼痛,異物感,乾燥感や充血を伴うことが多く,むしろそうした症状が主体であることも多い.ただし,患者の訴える眩しさその他の症状の程度と,角膜障害の程度は,比例するとは限らない.軽度の角膜上皮障害や涙液層破壊時間(BUT)の短縮程度の障害であっても症状が強いこともあり,実際に治療により症状の改善がみられることもある.角膜障害の誘因になるものはさまざまであるが,たとえば異物や薬品の飛入,外傷による場合やコンタクトレンズの不適切な使用によって生じる場合,あるいは雪山へ行ったり,長時間の溶接作業による紫外線への曝露といったことも原因としてあげられる.また,多種類の点眼を処方されている患者では点眼薬による角膜障害の可能性も考えられる.陳旧性の瘢痕による角膜混濁や,角膜ジストロフィ,あるいはエキシマレーザーによる屈折矯正手術後に一部表2問診のポイント主訴:いつごろから,どのくらいの期間続いているか,症状の強さ,どういう条件下でどんな症状があるのか随伴症状:眼痛,充血,霧視,異物感,乾燥感,かゆみ,頭痛,吐気コンタクトレンズ使用歴異物や薬品が入ったか外傷,手術の既往内服などの薬の服用眼科受診(散瞳検査)の有無578あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(6)る原因となる.IVコントラスト感度,グレアテスト眩しさによって見えづらいという状態は,通常の矯正視力検査では検出されにくい.矯正視力検査は,室内の一定の照度条件のもとで高コントラストの視標を用いて行われるので,日常のさまざまな見え方を必ずしも反映していない部分がある.グレア評価のゴールドスタンダードは確立されていないが,視力に現れない視機能の評価方法の一つとして,コントラスト感度測定があり,矯正視力が良好でも不能グレアなどの視機能障害が疑われる症例について有用な場合がある.コントラストとは,明暗の対比のことであり,白黒の縞模様を見たときに,どれくらいの細かさの縞模様について,どのくらいの明暗の差まで区別ができるか,という評価方法で検査する.このときの縞模様の細かさを空間周波数といい,cycles/degree(cpd)という単位で表される.また,明暗の差については,縞の明るいほうの輝度をLmax,縞の暗いほうの輝度をLminとした場合に,MichaelsonコントラストC=(Lmax.Lmin)/(Lmax+Lmin)として表され,見分けられる最小のコントラストの値がすく,眩しさの原因となりやすい.遮光眼鏡などで短波長光をカットすることはコントラスト感度の改善につながる.白内障手術後に眩しさを訴える例をしばしば経験する.これは,水晶体混濁の除去により眼内に入る光の総量が増えることもあるが,術前は水晶体の加齢変化により青緑系の短波長光の透過率が低くなっているのに対し,術後,眼内レンズ挿入により短波長光が眼内に入射するようになった結果,散乱光が術前よりも増加して眩しさの原因になっていることも考えられる.最近では短波長光をカットする着色眼内レンズが使用されることも多くなっており,高齢者にとって自然な見え方になり,眩しさを抑える効果も期待できる.眼球の高次収差もグレアの原因となることがある.眼球の高次収差のうち,球面収差とは,レンズの中心を通過する光と周辺を通過する光の結像する位置がずれることで生じるもので,特に瞳孔径が大きい場合に問題となる.角膜は正の球面収差を有しており,若年者では水晶体が負の球面収差を有することで眼球全体の球面収差をなくすように保たれている.しかし,加齢に伴い,水晶体の厚みが増して核硬化が進行すると,水晶体の球面収差も増加し,眼球全体の球面収差も増加する.また,球面眼内レンズも正の球面収差を有しており,術後も眼球の球面収差は減少しない.これに対して,眼内レンズに負の球面収差を付与して眼球全体の球面収差を減少させ,視機能を改善することを目的としているのが非球面眼内レンズである.最近,白内障手術後に眼鏡依存度を減らす目的で多焦点眼内レンズが使用される例も増加している.多焦点眼内レンズには遠方焦点部分と近方焦点部分を同心円状に配置した屈折型と,回折現象を応用することにより眼内への入射光を遠方と近方の2つの焦点に振り分ける回折型の2種類がおもに用いられている.しかし,どちらの方式の場合も単焦点眼内レンズに比べて散乱光が増加し,さらに,遠方と近方の2カ所の像が常に中心窩に焦点を結んでいることになり,これがグレアを生じる可能性がある.その他,病的な状態として,眼内レンズの偏心,傾斜,亜脱臼なども散乱光の増大をきたし,グレアが生じ図2コントラストグレアテスター(CSV-1000HGT,VectorVision社)4種類の空間周波数での視標についてそれぞれ8段階のコントラスト感度を測定し,コントラスト感度曲線が描ける.視標パネルの両側のハロゲンライトを点灯することにより,グレア負荷の状態を測定する.(7)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010579ヘッドライトのようなグレア負荷の状態でのコントラスト感度の測定が可能である.実際に測定した結果の一例をあげる.図3に示すのは,55歳の患者のCSV-1000HGTの測定結果で,左眼への回折型多焦点眼内レンズ挿入後である.右眼の眩しさを訴えるようになり,水晶体に軽度の前.下の混濁を認め,視力は右眼矯正0.9であった.グレア負荷あり,なしの両方の状態でそれぞれコントラスト感度を測定した結果,コントラスト感度の低下がみられたが,グレア負荷時にはさらに低下がみられた.このように,グレア負荷によるコントラスト感度測定は,視力測定に現れにくい,眩しさによる視機能の低下を他覚的および定量的に評価するのに有用である.コントラスト閾値,その逆数がコントラスト感度として用いられる.横軸に空間周波数,縦軸にコントラスト閾値またはコントラスト感度を対数表示することでコントラスト感度曲線が描かれる.こうしたコントラスト感度の測定装置に,グレアをひき起こすような光源を付加し,光源の点灯時と消灯時でコントラスト感度を測定することで,グレアによる影響を評価することができるようになっているものがある.VectorVision社のCSV-1000HGT(図2)は,3,6,12,18cpdの4種類の空間周波数の視標について,それぞれ8段階のコントラストで検査する.また,視標のパネルの両脇にハロゲンライトがついており,ライトを点灯した状態では夜間に前方から向かってくる自動車のab図3グレアの有無とコントラスト感度CSV-1000HGTを使用しての測定結果.a:左眼で回折型多焦点眼内レンズ挿入眼(矯正視力1.2),b:右眼で軽度の水晶体前.下混濁を認めた(矯正視力0.9).右眼では高周波数でのコントラスト感度低下を認め,グレア負荷でさらに低下していた.左眼はグレア負荷時でも低下は認められなかった.580あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(8)3)臼井正彦:症状からの診断羞明.眼科学(丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦ほか編),p824,文光堂,20024)FujikadoT,KurodaT,NinomiyaSetal:Age-relatedchangesinocularandcornealaberrations.AmJOphthalmol138:143-146,2004文献1)vandenBergTJ:Ontherelationbetweenglareandstraylight.DocOphthalmol78:177-181,19912)LudtR:Threetypesofglare:lowvisionO&Massessmentandremediation.Review29:101-113,1997