その視神経炎,実は網膜の病気ではないですか?UveoretinalDiseaseEasilyMistakenforOpticNeuritis毛塚剛司*はじめに視神経乳頭腫脹をきたす疾患は,視神経炎をはじめとして数多くある.視神経乳頭腫脹は神経眼科的には,虚血性視神経症やうっ血乳頭が重要な鑑別疾患となるが,ほかにもLeber遺伝性視神経症や視神経鞘髄膜腫などの変化球のようなまれな疾患も忘れてはならない.教科書的には,このような疾患を鑑別して検索していくことになるが,実臨床はもっと複雑怪奇である.いわゆるぶどう膜網膜疾患では,視神経乳頭腫脹から始まり,しばらくたってから網膜病変が判明したり虹彩炎が出現したりするケースも多々みられる.本稿では,視神経乳頭腫脹をみつけたら,どのような鑑別をして確定診断に持ち込むか,順を追って解説する.I視神経乳頭腫脹をみたら,まず感染症かどうかの判断を!視神経乳頭腫脹をみつけたら,まず行うのは感染症かどうかの判定である.視神経乳頭腫脹は大抵,ステロイド治療を行うことが多い.ステロイド治療でもっとも注意しなければならない点は,視神経乳頭腫脹が感染症由来かどうかである.感染症チェックを行わずにステロイド治療を始めると,いったんは視神経乳頭腫脹が軽快するかもしれないが,のちに大きな感染症の逆襲を受ける可能性が高い.視神経乳頭腫脹でもっとも注意しなければならないのは,梅毒による感染である.梅毒性視神経網膜炎は,網膜色素上皮の炎症を起こし,黄白色の円形の滲出斑を後極付近に作ることが多い.一方,視神経乳頭腫脹を伴う梅毒は片眼性で,一見すると網膜病変をきたしていないようにみえる(図1a).しかし,このような患者は必ず蛍光眼底造影を行う必要がある.図1aの症例では,蛍光眼底造影を行うと,Behcet病のように毛細血管レベルにおいて蛍光色素の漏出があり,また動静脈の中小血管ににじみがみられ,炎症をきたしていることが推察される(図1b).梅毒性視神経網膜炎が疑われた場合には,眼外症状にも注目する必要がある.梅毒の眼外症状でよくみられるのが皮膚症状である.梅毒の皮膚症状は,手掌や上腕などに皮疹を伴う(図1c).視神経腫脹をきたした患者で鑑別診断に迷うことがあったら,全身に皮疹がないかどうか問診で聞く必要がある.実際,視神経乳頭腫脹がみられたら,初診時に全例で血清RPRテストや血清TPLAテストなどを行ったほうがよいと思う.次に視神経乳頭腫脹をきたしているにもかかわらず,網膜疾患が隠れている疾患に,結核があげられる.結核性視神経網膜炎も一見すると視神経の発赤腫脹のみがみられ,網膜には異常がないようにみえる(図2a).しかし,蛍光眼底造影を行うと視神経乳頭の蛍光色素漏出に留まらず,網膜上にむらのある蛍光色素漏出や無血管野(non-perfusionarea)がみられる(図2b).これらの視神経ぶどう膜炎では,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)が陽性とならないことが多い.視神経乳頭腫脹をきたしているにもかかわら*TakeshiKezuka:東京医科大学臨床医学系眼科学分野,毛塚眼科医院〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒131-0033東京都墨田区向島1-5-7毛塚眼科医院0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(59)907図1梅毒性視神経網膜炎の眼所見および皮膚所見a:眼底像.左眼視神経乳頭の発赤腫脹を認める.網膜病変ははっきりしない.Cb:蛍光眼底造影所見.視神経乳頭からの蛍光漏出および網膜毛細血管および中小動静脈からの蛍光漏出を認める.Cc:上腕に境界明瞭な皮疹を認める(ばら疹).図2結核性視神経網膜炎の眼所見a:眼底像.右眼視神経乳頭の発赤腫脹を認める.網膜病変ははっきりしない.b:蛍光眼底造影所見.視神経乳頭からの蛍光漏出および網膜毛細血管および中小静脈からのむらのある蛍光漏出を認める.一部無血管野もみられる.図3Vogt-小柳-原田病の眼所見a:右眼の眼底造.b:左眼の眼底像.両眼視神経乳頭の発赤腫脹を認める.また,両眼の黄斑近傍に網膜皺襞を認める.Cc:OCT所見.両眼の黄斑部に漿液性網膜.離を認める.図4サルコイドーシスの眼所見,胸部所見および皮膚所見a:眼底像.左眼視神経乳頭の発赤腫脹を認める.網膜血管,とくに静脈の口径不同を認める.b:蛍光眼底造影所見.視神経乳頭からの蛍光漏出および網膜毛細血管および中小静脈からの蛍光漏出を認める(網膜静脈周囲炎).c:胸部CX線所見.両側肺門部リンパ節腫張を認める.Cd:皮膚所見.上腕部に皮膚結節を認める.図5Behcet病の眼所見a:眼底像.左眼視神経乳頭の発赤腫脹を認める.網膜前に蓄膿を認める.b:蛍光眼底造影所見.視神経乳頭からの蛍光漏出および網膜毛細血管からの蛍光漏出を認める.表1視神経炎の新しい診断基準1)・臨床基準A)単眼性・亜急性の視力障害で眼球運動時痛,コントラスト視力低下,色覚異常,RAPDを伴うB)痛みはないが,他の点でA)を満たすC)両眼性であるが,他の点でA)もしくはB)を満たす・検査基準OCT:視神経腫脹もしくは発症C3カ月後のmGCIPL,pRNFLの菲薄化MRI:発症C3カ月以内の視神経高信号バイオマーカー異常(AQP4抗体,MOG抗体,CRMP5抗体,髄液中オリゴクローナルバンド陽性)・確定群(de.neopticneuritis)臨床基準A)+検査基準異常C1個臨床基準B)+検査基準異常C2個臨床基準C)+検査基準異常C2個(MRIを含む)・疑診群(possibleopticneuritis)臨床基準A),B),C)のみで,急性発症だが検査基準異常がなく,一貫性のある視神経炎眼底と自然経過である検査基準を満たし,視神経炎を疑わせる病歴があるmGCIPL:黄斑部の神経節細胞内網状層,pRNFL:視神経乳頭周囲網膜神経線維層.