———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY峙する緑内障様変化を呈し,中心視野が必ずしも低下しない場合があり,虚血性視神経症において認められることが多いが,ときに視神経炎でもみられることがある.鼻側放射状線維障害型では,マ盲点を含む楔状視野欠損を呈する.視神経炎,虚血性視神経症に多く認められる乳頭黄斑線維束障害型および弓状線維束障害型の両者が併発した混合型も,しばしば認められることがあり鑑別を要する.1. 虚血性視神経症(ischemic optic neuropathy:ION)境界不鮮明な視神経乳頭の検眼鏡的な所見からは前部虚血性視神経症(anterior ION:AION)が,視神経乳頭に検眼鏡的な所見の乏しいものでは,後部虚血性視神経症(posterior ION:PION)が疑われるものの,視野所見は両者とも中心暗点(図 1)や水平半盲(図 2)を呈することが多く,急性視神経炎と共通しており鑑別に苦慮することもある.鑑別診断には蛍光眼底造影検査が有用である.一般に AION では広範囲に脈絡膜の充盈遅延や欠損を生じることが多く,腕-網膜時間も大幅に遅延していることが多い.非動脈炎性の AION では健眼の小乳頭(disk at risk)を呈することが多いが,動脈硬化,高脂血症,糖尿病などの基礎疾患を有していることも少なくない.MRI(磁気共鳴画像)検査では視神経炎と異なり,T2 強調画像で高信号を呈することもなく,造影剤による増強効果もほとんど認められない.動脈炎性はじめに正常視野とは上方 60°, 内方 60°, 下方 75°, 外方 100°の範囲で下方および外側にやや広くなっており,視神経乳頭に対応する部位,すなわち中心固視点から耳側に15°,下方に 3°を中心に直径約 5°の縦楕円形の暗点である Mariotte 盲点(以下,マ盲点)を有する.このマ盲点は通常の日常生活では自覚することがないために,虚性暗点とよばれる.本稿で述べる視神経疾患の多くは,その視野障害の初期にはマ盲点の拡大に始まり,進行するにつれてマ盲点を含む盲点中心暗点の形態をとり,実性暗点へと進行する.初期には片眼性が比較的多いが,ときに両眼性のものもある.一方,視交叉より後方の中枢性の視野異常では,一般に両眼性で垂直経線の保全される異名半盲や同名半盲などの形態をとることが多い.視野測定には静的視野と動的視野を用い,前者では通常30°以内の中心視野を測定し,後者では全体の視野の情報が得られ周辺視野の把握に適する.I視神経疾患視神経疾患の視野障害の特徴は,乳頭黄斑線維束障害型,弓状線維束障害型,鼻側放射状線維障害型の 3 つの部位に分けられる1).乳頭黄斑線維障害型は盲点中心暗点を形成し,中心視力の著明な低下をきたす.視神経炎,Leber 遺伝性視神経症や中毒性視神経症に多くみられる.弓状線維束障害型は Bjerrum 暗点や Ronne 鼻側階段のように水平経線で視野障害部位と非障害部位が対(51) 1627 asashi ishim ra sam im ra 663 8501 1 1 特集●視野が欠ける あたらしい眼科 26(12):1627 1633,2009視神経疾患─中枢性の視野異常Optic Nerve Disorders ─ Visual Field Defect of Central Visual Pathways西村雅史*三村治*———————————————————————- Page 21628あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(52)他,輪状暗点型,1/4 分画盲型,傍中心暗点型など多彩な所見を呈する.視力が比較的良好なものでは静的視野検査を,視力が不良なものでは動的視野検査が適している.Riddoch 現象の存在もしばしば認められることから,可能な限り静的および動的視野の両方を測定することが望ましい(図 3,4).3. Leber遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy:LHON)LHON は 10 20 歳代の若年男性に多く発症する母系遺伝による遺伝性疾患である.まず片眼,次いで反対眼の ION では,血沈亢進,CRP(C 反応性蛋白)上昇,von Willebrand 因子の上昇を認めることがあり,側頭動脈炎の合併もしばしば認められる.側頭動脈生検で巨細胞が確認されれば,動脈炎性の ION の診断が確定する.2. 視神経炎(optic neuritis)中心暗点が典型的とされるが,神経線維束欠損型(水平半盲,弓状暗点,鼻側階段など)が約 20%と意外に多く,盲点中心暗点型は約 8%で同名半盲型も約 5%を占める2).抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎3)では,視交叉を障害し,両耳側半盲を呈することがある.その図 2静的視野:右眼水平半盲図 4図3の動的視野:右眼傍中心暗点(Riddoch現象)図 1動的視野:右眼中心暗点図 3静的視野:高度な右眼の中心視野障害———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091629(53)4. うっ血乳頭(papilledema)検眼鏡で観察した所見のうち,乳頭腫脹(disk swell-ing),乳頭浮腫(disk edema)と称されるもののなかで,特に頭蓋内圧亢進によって起こるものをうっ血乳頭(papilledema)とよぶ.多くは頭蓋内腫瘍が原因で発症し,発育した頭蓋内腫瘍の約 60 80%にうっ血乳頭がみられる4)とされている.発生機序としては,頭蓋内圧亢進に伴う視神経の軸索輸送の障害と考えられている.が急性または亜急性に発症し,視力低下が徐々に進行し,高度の視神経萎縮に至る.急性期には視神経乳頭の発赤,腫脹,拡張型微細血管症を呈し,視神経炎と紛らわしいことがある.ミトコンドリア DNA の変異が原因である.わが国に多く認められる 11778 変異,14484変異,3460 変異が確認されれば診断は確定する.両側の深い中心暗点(図 5)や櫛状暗点(sieve-like-scotoma)を認める.左眼右眼図 5動的視野:Leber遺伝性視神経症にみられた両眼の高度な中心暗点左眼右眼図 6動的視野:うっ血乳頭による両眼のマ盲点拡大———————————————————————- Page 41630あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(54)の対応を考慮しなければならない.網膜に始まる視神経線維は視神経管を通過し,脳内で視交叉を形成後,視索となり外側膝状体を経由したのち視放線を経て,後頭葉の視覚中枢に至る.網膜内の耳側に存在する視神経線維は,両眼とも視神経から,そのまま同側の視索へと進入したのち外側膝状体に入り,視交叉においてその神経線維は交叉しない(非交叉線維).一方,網膜内鼻側の視神経線維は視神経から視交叉に達したところで,各々,反対側の視索へと左右走行を交叉変更(交叉線維)したのち外側膝状体に至る.網膜内では,鼻側網膜は耳側視野を担当し,耳側網膜は鼻側視野を担当しているため,視交叉を正中部で圧迫すると両側の耳側視野障害が出現する.さらに網膜水平上部は視野の下方を,水平下部は視野の上方を担当しているため,視神経障害の部位と,実際の視野障害は左右上下が反転する.すなわち,下方からの腫瘍圧迫では上方視野が障害され,上方からの腫瘍圧迫では下方視野が障害されやすいことを意味する.一般に下垂体腺腫では下方の正中部が障害されやすく,頭蓋咽頭腫では上方の正中部が障害を受けやすい.1. 両耳側半盲a. 下垂体腺腫(pituitary adenoma)(図 7)下垂体腺腫は脳腫瘍手術例全体の約 15%を占める良初期には無症状のことが多いが,頭痛,嘔気,嘔吐やマ盲点拡大の視野所見(図 6)を呈する.進行すれば弓状暗点や鼻側階段などの緑内障に類似した所見が認められ,出血や白斑が黄斑部に及ぶと視力障害が発生する.走行の長い外転神経が斜台部において圧迫を受け,外転神経麻痺を合併することがある.脳腫瘍による患側の視神経萎縮と健側のうっ血乳頭をきたす Foster-Kennedy症候群が古くから知られているものの,日常診療上は虚血性視神経症による偽 Foster-Kennedy 症候群のほうが多い.POEMS 症候群5)や偽脳腫瘍6)との鑑別を要する.5. 傾斜乳頭症候群(tilted disk syndrome)視神経乳頭の先天異常で,視神経乳頭の垂直経線が傾斜している.下鼻側への傾斜が多く,しばしば視神経乳頭下方にコーヌスを伴い,網脈絡膜が菲薄化していることがある.一般に視神経乳頭下方の障害であると考えられており,上耳側もしくは上側の視野障害が予想されるものの,視野障害のパターンは多彩である.本症に合併する nasal fundus ectasia では,上耳側 1/4 盲や耳側半盲を呈することがある.II中枢性の視野障害視野障害を考えるとき,視神経線維の走行と網膜内で左眼右眼図 7動的視野:下垂体腺腫による両耳側半盲———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091631(55)と非交叉線維は分離し,交叉線維は反対側の視索へと走行するが,視交叉を通過後にいったん交叉前とは対側の視神経内前方に膨らんで進入したのちにようやく視索へと走行を変化させる.この交叉線維の視交叉通過後の対側視神経内前方への膨らみを Wilbrand の膝とよび,この部位の障害では,障害された側と同側の中心暗点,および障害された側と反対側の上耳側 1/4 盲を呈すると考えられている.トルコ鞍前部方向からの腫瘍(特に鞍結節髄膜腫)や動脈瘤による圧迫が疑われる所見である.3. 同名半盲(図 10)視放線は外側膝状体から出た神経線維が,後頭葉の視中枢へと至る最終経路であり,2 つの経路が存在する.1 つは外側膝状体外側から出た上 1/4 の視野を担当する神経線維は下前方の側頭葉に向かって進んだのち,後方へと反転(Meyer’s loop)し,後頭葉へと向かい鳥距溝の下唇に至る.もう一方の外側膝状体内側から出た下1/4 の視野を担当する神経線維は後頭葉へと向かい鳥距溝の上唇に至る.このため側頭葉に転移性脳腫瘍などが発生した場合,両側の上 1/4 の視野が障害される同名半盲が起こり,pie-in-the-sky と称される特徴的な視野障害(図 11)が出現する.後頭葉病変では完全同名半盲性腫瘍で,視交叉周辺に発生する腫瘍のなかで最も頻度が高い.直径が 10 mm 以上の腫瘍になると視交叉を下方から圧迫し,典型例では交叉線維の障害による典型的な両耳側半盲を呈する.視野障害の出現は下垂体と視交叉との解剖学的位置関係に依存しており,視交叉が下垂体の直上に位置する normal type は 70%で,視交叉が下垂体の上腹側に位置する preixed type は 15%,視交叉が下垂体の上背側に位置する postixed type は 15%とされ7),このため両耳側半盲が多いものの,視神経障害による患側視野のみの障害,視索障害による同名半盲を呈することもある8).b. 頭蓋咽頭腫(craniopharyngioma)(図 8)小児の脳腫瘍の約 10%を占めるが,成人発症例もある.下垂体前部に分化する胎生頭蓋咽頭管であるRathke の不完全退縮による遺残組織に由来する良性腫瘍である.扁平上皮に覆われた 胞で,鞍上部に多く発生することが特徴である. 胞内容は機械油様で, 胞壁は石灰化が著明である.視交叉を上方から圧迫し,下方から始まる両耳側半盲を呈することが比較的多い.2. 接合部暗点(図 9)視神経内では交叉線維も非交叉線維も 1 つに結束した状態で視交叉へと向かい,視交叉に入る直前に交叉線維左眼右眼図 8動的視野:頭蓋咽頭腫による両耳側半盲———————————————————————- Page 61632あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(56)おわりに診察時に対座法による簡便な視野測定で,視野障害の範囲などを特定することができる.視力測定の結果と照らし合わせ,まず最初に動的視野をオーダーするか,静的視野をオーダーするかを判断しなければならない.となり,中心固視点付近 5 10°の領域が保全されることがある.これを黄斑回避とよぶ.これは後頭葉後極の黄斑部視野の対応領域が,後大脳動脈および中大脳動脈の二重支配となっているためで,両側の後大脳動脈が閉塞したとしても,中大脳動脈からの側副血行によって黄斑部視野障害は起こりにくい.左眼右眼図 9動的視野:左Wilbrandの膝障害による接合部暗点左眼右眼図 10動的視野:右後頭葉障害による同名半盲———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091633文献 1) 柏井聡:視神経由来の視野.眼科診療プラクティス,28視野のすべて(本田孔士編),p54-61,文光堂,1997 2) Smith CH:Optic neuritis. In;Walsh & Hoyt’s Clinical Neuro-ophthalmology, 6th ed, Miller NR, Newman NJ eds, p293-347, Lippinncott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005 3) 中尾雄三,山本肇,有村英子ほか:抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神経眼科 25:327-342, 2008 4) Friedman DI:Papilledema. In;Walsh & Hoyt’s Clinical Neuro-ophthalmology, 6th ed, Miller NR, Newman NJ eds, p237-291, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005 5) Chong DY, Comer GM, Trobe JD:Optic disc edema, cys-toid macular edema, and elevated vascular endothelial growth factor in a patient with POEMS syndrome. J Neu-ro-ophthalmol 27:180-183, 2007 6) Finsterer J, Kuntscher D, Brunner S et al:Pseudotumor cerebri from sinus venous thrombosis associated with polycystic ovary syndrome and hereditary hypercoagula-bility. Gynecol Endocrinol 23:179-182, 2007 7) Dorotheo EU, Tang RA, Bahrani HN et al:Clinical chal-lenges:her vision tied down. Surv Ophthalmol 50:588-597, 2005 8) Nishimura M, Kurimoto T, Yamagata Y et al:Giant pitu-itary adenoma manifesting as homonymous hemianopia. Jpn J Ophthalmol 51:151-153, 2007(57)左眼右眼図 11動的視野:左側頭葉障害による上同名1/4盲(pie in the sky) 解 Riddoch現象:静止した視標に対してはほとんど知覚が存在しないのに対し,動く視標ではよく知覚される現象で,静的刺激と動的刺激の乖離(statokinetic dis-sociation)のことである.このため静的視野測定では暗点が深く著明な障害を呈し,動的視野測定では比較的視野障害が軽度か正常所見を呈することがある.櫛状暗点(sieve like scotoma):急性視神経炎の発症初期において,小さく感度低下の著しい暗点が視野中心に多数散在し,暗点と暗点の間隙は健常視野が残存しているようなとき,あたかも櫛の隙間から覗いているかのような視野を呈することがあり,櫛状暗点(sieve-like-scotoma)とよぶ.進行した際には,マ盲点と櫛状暗点は結合し,盲点中心暗点となりラケット状暗点となる.さらに視野障害が進行した場合は絶対暗点の中心暗点を呈する.