0910-1810/10/\100/頁/JCOPY「人の顔が半分見えなくなった」,「視野が欠けた」,「一部分が見えなくなり,だんだんその範囲が広がっていった」などと表現される.特殊な場合を除きいずれも一過性で,持続時間は通常は5.20分で,60分未満がほとんどである.実際の見え方の例を図1に示す.3.片頭痛発作の随伴症状として羞明が生じる片頭痛の患者は,前兆である閃輝暗点が消失した後も,眩しいと訴える.それは,片頭痛が光に対する過敏はじめに羞明(photophobia)とは,明るさに対する不快感のことである.「眩しい」と訴える患者のうち,原因が中枢性のもので頻度が多いのは,閃輝暗点,眼瞼けいれん,身体表現性障害(いわゆる神経症)である.本稿ではその3疾患について概説する.I閃輝暗点と片頭痛による羞明1.閃輝暗点は片頭痛の前兆である片頭痛(migraine)は人口の8.4%にみられ,男女比では女性に多く,20代から30代の発症が多い.前兆を伴うものと,伴わないものとに分けられ,全体の3割程度に前兆がみられ,その90%は閃輝暗点(scintillatingscotoma)である1).眼科には閃輝暗点だけを自覚し,頭痛を伴わない患者も少なからず受診し,これは片頭痛の不完全型と考えられる.閃輝暗点を有する患者が来院したら,頭痛の有無を問診することが大切である.2.閃輝暗点には陽性症状と陰性症状があり,陽性症状を眩しいと訴える閃輝暗点は文字通り,閃輝という陽性症状と,暗点という陰性症状をもつ.陽性症状は,「眩しい」,「キラキラした光が見えた」,「ギザギザの光が見えた」,「歯車のような光が見えた」,「稲妻のような光が見えた」,「目がチカチカした」などと表現される.陰性症状は視野欠損として出現し,「見ようとするところが見えなくなった」,(41)613*KazuteruKigasawa:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕気賀沢一輝:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●眼が眩しいあたらしい眼科27(5):613.619,2010中枢性の羞明PhotophobiaofCentralNervousSystem気賀沢一輝*図1閃輝暗点の見え方視界に歯車状の光が出現し,その内部の視野が欠損し,その範囲が次第に広がっていく.614あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(42)片頭痛におけるうつ病の生涯有病率は20.40%とされており,片頭痛をもたない人の3.4倍といわれている.不安と頭痛をやわらげるために,鎮痛薬を過剰に内服し,薬物乱用頭痛の原因となっている場合もある.眼科医は片頭痛患者の背後に潜む不安を聞き出し,それに共感し,適切な情報を与え,QOLの低下が明らかな場合は,頭痛専門家につなげてあげることも大切である.8.閃輝暗点,片頭痛の鑑別診断光視症:光源がない暗い部屋にいても,視野の周辺部にキラキラした光が走る,という訴えで眼科を受診する患者はまれではない.これは,硝子体が加齢により液化して流動性を増し,網膜硝子体境界部で牽引力が生じ,網膜が機械的な刺激を受けて発生する現象である.閃輝暗点のように,それに続く一過性の視野欠損を生じないので,鑑別は容易である.緊張型頭痛:緊張型頭痛でも光過敏性があり,羞明を訴える場合がある.ただし,片頭痛とは以下の点で異なるので鑑別は可能である.片頭痛は片側性,拍動性,中等度から重度,動作による増悪,前兆を有するなどの特徴があるが,緊張型頭痛は両側性,非拍動性,軽度から中等度,動作による増悪はなく,前兆もない.〔症例1:前兆のある片頭痛〕16歳,女性.授業中,急にチカチカした光が見え,見ようとするところが見えなくなり,保健室で休んでいたところ,ズキンズキンと頭痛がしてきて,嘔吐してしまった.とても不安になったため,帰宅後,家族とともに眼科を受診した.視力,視野異常はすでに消失していたが,羞明と頭痛は残っていた.前兆を伴う片頭痛であることを説明したが,不安が強く,MRI検査を希望したので,神経内科に依頼状を書いた.返事は異常なしであった.〔症例2:閃輝暗点のみ〕63歳,男性.40歳頃から,疲れたときなどに,急にギザギザした稲妻のような光が視野の中に出現し,見ようとするところが見づらくなり,その範囲が徐々に広がり,数十分で元に戻るという発作が,月に1度くらい出性を誘発するからである.約80%の片頭痛患者が頭痛とともに羞明を訴えるといわれている.そのような場合は,薄暗く,静かな場所での休息をすすめる.4.閃輝暗点,片頭痛の原因はいまだ不明である片頭痛の原因については,血管説,三叉神経説,神経血管説などがある.原因はまだ確定していないが,三叉神経血管系の異常な活性化に伴い,脳血管や脳硬膜が刺激され,閃輝暗点や頭痛が生じると考えられている.5.閃輝暗点の対処法患者はかなりの不安を訴えて来院するので,わかりやすく病態を解説し,器質的な異常はほとんどみられないこと,一定時間が経過すれば後遺症なく元に戻ることを説明する.それでも不安を訴える患者には,念のためMRI(磁気共鳴画像)検査で頭蓋内疾患の有無を精査する選択肢もあることを告げ,希望すれば神経内科か脳外科に依頼状を書く.まれに血管閉塞による視野欠損を残す症例もあるが,これをあまり強調すると不安が増強するので,軽く触れておく程度が無難である.頭痛を伴う場合は薬物療法も考慮する.6.片頭痛の薬物療法まずはアスピリン,アセトアミノフェノン,メフェナム酸などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与する.それで不十分なときは,スマトリプタン,ゾルミトリプタン,臭化水素酸エレトリプタンなどのトリプタン製剤を投与する.トリプタン製剤は,虚血性心疾患,脳梗塞などの既往がある場合は禁忌なので,高齢者の場合は内科に依頼するのが無難である.片頭痛の予防には,塩酸ロメリジンなどのカルシウム拮抗薬を用いる.7.閃輝暗点,片頭痛に対する心身医学的対応閃輝暗点と片頭痛は突然起こり,発作中は作業を継続することがむずかしくなる.この経験は,また不意に発作に襲われるのではないか,という予期不安を抱かせる.そのため,長時間の外出を控えたり,抑うつ的になったりして,QOL(qualityoflife,生活の質)の低下をきたしている患者がいることを忘れないようにしたい.(43)あたらしい眼科Vol.27,No.5,20106154.本態性眼瞼けいれんの患者はしばしば羞明を主訴とする眼瞼けいれんの95%の患者が「眩しい」と訴える.本疾患の患者は光に対する感受性が高まっており,視床との関連が指摘されている.よって,眩しいと訴えて来院した患者には,目の前で眼瞼けいれんがみられなくても,それを疑って以下の検査を試みることが大切である2).眼瞼けいれんのその他の訴えとしては,「まばたきが多い」,「目があけにくい」,「目がしょぼしょぼする」などがある.5.眩しいと訴える患者には,瞬目試験(眼瞼けいれんの検査)を試みる軽瞬テスト:眉毛が動かないようにして,軽いまばたきをくり返すことができるかどうかをみる.軽やかにできれば問題ないが,眉間にしわがよるほど力が入るようなら異常である.速瞬テスト:できるだけ速く軽いまばたきを10秒間してもらう.30回以上できたら問題ないが,それができずに途中で眉間にしわがよったり,リズムが乱れたり,強いまばたきが混入したりしたら,眼瞼けいれんの疑いがある.強瞬テスト:目を強く閉じ,すばやく目をあけてもらうことをくり返す.これができない場合は,開瞼失行型の眼瞼けいれんを疑う.6.眼瞼けいれんと診断したら日常でどのくらい不都合を感じているか問診する治療を必要とする眼瞼けいれんかどうかは,つぎのような日常生活における不都合の有無で判断する.眩しいので外出が苦痛,まばたきが多いことを指摘されるため人と会うのが苦痛,まぶたがあかないので自転車や自動車の運転ができない,人ごみで他人にぶつかりやすい,電柱などにぶつかりけがをしたことがある,階段の上り下りがこわい,指を使わないと目をあけられないときがある,など.これらによってQOLが明らかに低下している場合は治療の対象となる.現するようになった.頭痛は一度も伴っていない.本人はこの症状に慣れており,閃輝暗点という病態を受容している.〔症例3:重症例〕58歳,女性.若い頃からときどき頭痛を経験していたが,最近は週に3回ほど片頭痛発作がある.まず閃輝暗点が出現し,その後拍動性の頭痛が始まる.出先で発作が起こることに対する予期不安が強いため,外出,旅行を控えがちになった.この状態がずっと続くと思うと,ひどく憂うつになるとのこと.また,少しでも頭痛があると,それが増強するのが恐いため,ほとんど毎日鎮痛薬を内服するようになった.専門家の介入が必要と判断し,頭痛専門外来がある総合病院に紹介した.生活上の注意,予防薬,発作時の薬の内服方法などの指導を受け,QOLは向上してきた.II眼瞼けいれんと羞明1.眼瞼けいれんとは何か眼瞼けいれん(blepharospasm)とは,眼瞼に不要な力が加わり,自然な瞬目,まぶたの開閉に不具合が生じている病態のことである.神経学的には,眼輪筋の反復的な不随意運動であり,局所ジストニアに属する.原因による分類では,本態性,症候性,薬剤性に分けられるが,本稿では最も多い本態性眼瞼けいれんについて述べる.2.本態性眼瞼けいれんの原因本態性眼瞼けいれんとは,眼輪筋の不随意運動以外,他の神経学的,眼科的異常を示さないものである.基底核,脳幹の異常に加え,前頭葉の関与も指摘されている.瞬目を制御する神経回路の伝達障害と考えられるが,その詳細はいまだ不明である.心理的な緊張で症状が悪化する傾向がある.3.本態性眼瞼けいれんの疫学40.50歳以上の女性に多く,日本には30万人くらいの患者がいると推定されている.616あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(44)じるもので,神経が血管によって圧迫されて起こる場合が多い.A型ボツリヌス毒素の注射が有効である.眼輪筋ミオキミア:眼瞼の筋肉の一部がピクピク動くもので,健康な人でも疲労時に起こりやすい.瞬目テストは正常である.ほとんどが数日から数週で自然治癒する.重症筋無力症:眼瞼下垂はまばたきをくり返すことによって増強する.血中抗アセチルコリンリセプター抗体の測定,テンシロンテストなどで鑑別できる.チック:心理的要因で起こる瞬目過多である.小児に多い.周囲がそのことを話題にせず,コミュニケーションを密にすることによって,数週から数カ月で治癒するものが多い.〔症例4:A型ボツリヌス毒素の注射療法が奏効した例〕41歳,男性.営業職.数年前から顧客の前で緊張すると眼瞼けいれんが顕著となり,気にすれば気にするほど増悪するので,A型ボツリヌス毒素の注射療法を受けた.3カ月に一度の注射を続けているうちに,症状は明らかに改善し,注射の間隔をのばしていき,寛解に持ち込むことができた.〔症例5:クラッチ眼鏡を処方した例〕63歳,女性.40歳頃から羞明を自覚し,目をあけていられない時間が多くなっていった.外出時はサングラスをかけ,まばたきのことが気になり,人と会うのが苦痛になった.眼科をいくつか受診したが,異常なし,ドライアイ,神経症という診断が多く,理解されないことで孤独感を覚え,抑うつ状態となった.ある眼科専門病院でやっと本態性眼瞼けいれんと診断され,A型ボツリヌス毒素の注射をすすめられたが,定期的な注射が必要といわれ,踏み切れなかった.他の治療方法を尋ねたところ,クラッチ眼鏡を提案され,実際に装用してみたところ,自分の指で開瞼する必要がなくなり,視野が広がって生活しやすくなり,気分的にも楽になった.7.眼瞼けいれんの心身医学的対応眼瞼けいれんは心理的な緊張で増悪するが,その根本原因を心理的なものであると説明したり,ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を処方するのは適切ではない.患者は原因不明の疾患に長い間,周囲から理解されずに悩んでいて,抑うつ状態に陥っている者も少なくない3).そのことに共感を示すことで,患者はやっとわかってもらえたと安堵する.そのうえで,以下の治療法を提案する.8.眼瞼けいれんの治療第一選択はA型ボツリヌス毒素の注射である.眼周囲の眼輪筋部に注射すると,過剰な眼輪筋の収縮が緩和される.約80%の患者に著効するといわれている.効果の持続時間は数カ月であるが,これをきっかけに寛解に持ち込める症例もある.注射を希望しない患者には,クラッチ眼鏡が有効な場合がある.眼鏡にとり付けたアーム型のアタッチメントで開瞼補助を行うことができる(図2).羞明に対してはサングラスが有効である.眼表面の違和感に対してはヒアルロン酸の点眼薬を処方する.9.眼瞼けいれんの鑑別診断片側顔面けいれん:片側の眼瞼から顔面にかけて,ピクピクとけいれんし,顔の半分がひきつれを起こしたような,特有な表情を呈する.顔面神経が過敏になって生図2クラッチ眼鏡シリコーンカバーが付いたアームが開瞼を補助している.(45)あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010617B.(1)か(2)のどちらか.(1)適切な検査を行っても,その症状は,既知の一般的身体疾患または物質(例:乱用薬物,投薬)の直接作用によって十分説明できない.(2)関連する一般身体疾患がある場合,身体的愁訴または結果として生じている社会的,職業的障害が,既往歴,身体診察所見,または臨床検査所見から予測されるものをはるかに超えている.C.症状が,臨床的に著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害をひき起こしている.D.障害の持続期間は,少なくとも6カ月である.E.その疾患は他の精神疾患ではうまく説明されない.F.症状は(詐病のように)意図的に作り出されたり捏造されたものではない.4.心気症の診断基準DSM-IVの診断基準を引用すると以下のようになる.A.身体症状に対するその人の誤った解釈に基づき,自分が重篤な病気にかかる恐怖,または病気にかかっているという観念へのとらわれ.B.そのとらわれは,適切な医学的評価または保証にもかかわらず持続する.C.基準Aの確信は妄想的強固さがない.D.そのとらわれは,臨床的に著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.D.障害の持続期間は,少なくとも6カ月である.E.そのとらわれは他の精神疾患ではうまく説明されない.5.非器質的羞明の治療(1):カウンセリング的対応非器質的羞明に対する特効的な薬剤の報告はまだない.まずとるべき態度は傾聴であり,つぎに眼科医という専門家の立場から検査所見などの情報提供を行い,現時点では明らかな器質的異常がないことを告げる.傾聴は,単に聴くだけではなく,感情部分,思考部分に分けて,それぞれを受け取り,理解したことを,言葉と態度でフィードバックする.これによって,患者は理解されIII身体表現性障害(いわゆる神経症)による羞明1.器質的異常がみられない羞明を訴える患者にはどのように対応したらよいか眩しいと訴えて眼科を受診し,一般的な検査で異常が見出されない場合,どのように対応したらよいだろうか.このような問題については,臨床研修の現場ではあまり教育されていないのが現状である.自覚と他覚のギャップが大きい場合,そこに心理的な要因が介在している可能性が高い,と考えるのは妥当である.検査上異常がないことを告げた後,患者が安心していない様子がうかがわれたら,そこから一歩踏み込んで,心身医学的対応をとる必要がある.2.非器質的な羞明は身体表現性障害(いわゆる神経症)の可能性があるある身体的愁訴に対して,適切な検査を行っても,既知の身体疾患では説明できない,あるいはすでに身体疾患がある場合,そこから生じる訴えが予測される範囲をはるかに超えている場合,これまでは不定愁訴あるいは神経症と診断されることが多かった.ただし,精神科において神経症という病名は,1980年のDSM-(米国精神医学会疾患分類第3版)から正式には使用されなくなり,身体的愁訴をもつ神経症の多くは身体表現性障害(somatoformdisorders)という項目に分類された.精神科では病因よりも,症状群から診断を下す,操作的診断法が主流となっており,DSM-4)も,ICD10(国際疾病分類第10版)も,代表的な操作的診断マニュアルである.DSM-によれば,身体表現性障害には身体化障害,鑑別不能型身体表現性障害,転換性障害,疼痛性障害,心気症,身体醜形障害,特定不能型身体表現性障害という下位分類がある.眩しいと訴えて,器質的異常がみられない場合,鑑別不能型身体表現性障害あるいは心気症の可能性が高い.3.鑑別不能型身体表現性障害の診断基準DSM-IVの診断基準を引用すると以下のようになる.A.1つまたはそれ以上の身体的愁訴.618あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010(46)において,やるべきことをやっていこう,というものである.すなわち,焦点を症状から行動に移すのである.患者の多くは,この症状さえなければいろいろなことができる,だから早く症状を消してもらいたいと訴えるが,症状はそのままにしておいて,やりたいこと,やるべきことをやってみてください,それで眼科的異常が出てくるかはこちらで慎重に診ていきます,今後は症状の記録をとってくるのではなく,行動の記録を持ってきてください,と応じるのである.〔症例6:眩しくて読書,テレビ,外出が苦痛になった例〕28歳,女性.2年前,テレビゲームを大画面で夢中になってやりすぎてから,光に対して過敏になり,羞明に悩まされるようになった.書物,テレビ,パソコンなどを集中して見ることができなくなり,電車の外の景色を見ているのもつらくなった.外出が苦痛となり,退職に至った.光を見ると,めまいと吐き気がするので,耳鼻科にも通うようになった.本人は何らかの器質的異常が背景にあると考え,さまざまな医療機関を受診したが,明らかな異常は検出されなかった.このまま一生治らなかったらどうしようという不安にとりつかれ,早く羞明から解放されたいと訴えた.操作的診断マニュアルと心理テストでうつ病はほぼ否定できたので,鑑別不能型身体表現性障害と診断した.心療内科にも診察を依頼したところ,同じ診断であった.そこで,「症状を一気に排除しようとはせず,これからは行動に焦点を当てましょう.テレビ,パソコン,読書,外出など,持続時間を少しずつ増やしていき,その記録を診察時に聞かせて下さい.それで,目に異常が出るかどうかは,こちらが判定しますから」,と森田療法的に対応した.これによって1年後には,アルバイトができるまで回復し,「症状と共存できそうだ」,という受容的態度がみられるようになった.7.身体表現性障害の鑑別診断うつ病:非器質的な身体症状を訴える患者で見落としてはならないのはうつ病である.器質的な異常がみられない訴えに出会ったら,まずうつ病を疑い,つぎに身体たという安堵感で,ある程度苦痛が軽減する.これだけで解決する場合は,病的レベルに達していないものと判断する.医学的保証にもかかわらず,愁訴が長期間持続する場合は,身体表現性障害の可能性がある.この場合は,カウンセリング的対応のみでは,患者の満足は得られず,外来診療が渋滞する場合も少なくない.その際は,以下のように森田療法のエッセンスを生かすのも一法である.根拠が明らかではないのに,見込みで病名を伝えることは,患者が長期間その病名に固執することがあるので,避けるべきである.6.非器質的羞明の治療(2):森田療法のエッセンスを生かす森田療法は,森田正馬(1874.1938年)によって創始された,神経症に対する精神療法である.森田は身体症状にとらわれる機制を,精神交互作用の説を用いて解説した(図3).まず,何かのきっかけで自身の身体的変調に気づく.つぎに,その変調に注意を集中する.すると,感覚が鋭敏になり,意識も狭窄してくる.意識が狭窄すると,さらに注意の集中が起こり,感覚もさらに鋭敏になり,意識もさらに狭窄する.この悪循環から逃れられなくなった状態が神経症である,と考える.眼科を訪れ,眩しいと訴える患者のなかには,眩しいという感覚にとらわれ,そこから抜け出せなくなっている者がいる.その際には,森田療法のエッセンスを用いて対応するのも一法である.森田療法は,あるがまま療法ともよばれており,その要点は,症状はあるがままにいじらず目の変調への気づき注意の集中感覚の鋭敏化意識の狭窄とらわれ図3とらわれの機制(精神交互作用)ある身体症状への注意の集中が感覚の鋭敏化,意識の狭窄を誘導し,内向きの悪循環が形成される.あたらしい眼科Vol.27,No.5,2010619表現性障害を疑う5).うつ病においても,心気的傾向は出現しやすく,その顕著なものが心気妄想である.眩しいといった身体的な不快感が,何か重大な病気にかかってしまったという悲観的な認知を誘導し,そこから抜け出せなくなり,焦燥感にかられ,眼科を受診することもありうる.眼科においてもうつ病の診断能力を問われる時代である.まず,うつ病の一般的な身体症状と精神症状を知り,それを聞き出すことである.最も重要な身体症状は不眠と,体重減少である.最もよくみられる精神症状は興味・喜びの消失であり,重症になると自責傾向が強まり,自殺念慮が生じる.身体表現性障害の場合は,体重減少,興味・喜びの消失,自責傾向はそれほど一般的ではない.DSM-などの操作的診断マニュアル,CES-D(合衆国国立精神保健研究所疫学的抑うつ尺度)などの心理テストを用いれば,より確かな情報が得られる.もし,うつ病を強く疑ったら,説得して精神医療専門家へ紹介すべきである.文献1)坪井康次,端詰勝敬:片頭痛.心身症診断・治療ガイドライン2006(小牧元ほか編),p226.248,協和企画,20062)若倉雅登:眼瞼けいれんと顔面けいれん(総説).日眼会誌109:667-684,20053)若倉雅登:眼科における心身医学は黎明期.心身医50:37-42,20104)高橋三郎,大野裕他(監訳):DSM-IV-TR─精神疾患の分類と診断の手引き(新訂版)─.医学書院,20035)気賀沢一輝:視覚と目の異常感への心療眼科的アプローチ.神経眼科25:11-17,2008(47)