●連載◯275監修=福地健郎中野匡275.白内障手術併用線維柱帯切開術の廣岡一行広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CQOVへの影響白内障手術併用線維柱帯切開術の術後は角膜高次収差が増大する.筆者らの研究では,線維柱帯をC120°切開すると角膜高次収差が術前のレベルに戻るのにC3カ月要し,180°切開ではC3カ月経っても術前のレベルには戻らない.それにもかかわらず,白内障手術併用線維柱帯切開術後にCQOVが向上するのは,術後視力の向上が大きく寄与するためと考えられる.●はじめに眼外法で線維柱帯切開術を行う場合は,①強膜の焼灼,②CSchlemm管を露出させるために強膜弁を作製するが,その時の切開線が角膜に入る,③強膜弁の縫合,などにより術後の高次収差の増大や惹起乱視によるQOV(qualityCofvision)への影響が懸念される.ところが現在では,眼内から線維柱帯を切開するため,白内障手術併用線維柱帯切開術では白内障手術で作製された切開創のみで線維柱帯を切開することが可能となった.小切開による白内障手術では高次収差にほとんど影響を与えないことから,眼内法による白内障手術併用線維柱帯切開術も,高次収差にほとんど影響を与えないと予想される.本稿では白内障手術併用線維柱帯切開術の高次収差に与える影響とCQOVの関連について述べる.C●白内障手術併用線維柱帯切開術後の高次収差の変化筆者らが白内障手術単独と白内障手術併用線維柱帯切開術後の高次収差を測定したところ(図1),白内障手術単独では術後に角膜高次収差,コマ収差,球面収差のいずれの収差も増大しなかったのに対して,白内障手術併用線維柱帯切開術後ではいずれの収差も増大し,術後C3カ月間にわたって増大していた1).高次収差の増大に影響を及ぼす因子として線維柱帯の切開範囲(120°切開と180°切開)が抽出され,180°切開が術後の高次収差の増大をもたらす危険因子であることが明らかになった1).散布図を見ると一目瞭然であり,180°切開では術前に比べ術後C3カ月で高次収差が大きく増大している症例が多数あるのがわかる(図2).それではC120°切開では高次収差は増大しないのであろうか?C120°切開とC180°切開に分けて検討したところ,180°切開では術後C3カ月を経過しても高次収差は増大したままであったのに対して,120°切開では術後C2カ月まで高次収差は増大していたが,術後C3カ月で術前のレベルに戻っていた(表1).C180°切開でもいずれは術前のレベルに戻るであろうと考えられるが,術後C3カ月以降は定期的な高次収差の測定をしていなかったため,術前のレベルに戻るのにどの程度の期間を要するのかは不明である.緑内障手術の最大の目的は眼圧下降である.そこでC120°切開とC180°切開で術後成績に差があるのかを調べたところ,両切開とも術前に比べて眼圧は術後有意に下降しており,その下降の程度は切開範囲による違いを認めなかったことから,120°切開とC180°切開では眼圧下降効果は同程度であると考えられる2).C●白内障手術併用線維柱帯切開術がQOVに与える影響白内障手術併用線維柱帯切開術のCQOVへの影響を調べるために,術前と術後C2カ月に視覚に関連した健康関連CQOL(qualityCoflife)を測定する尺度であるCVFQ(VisualCFunctionQuestionnaire)-25を用いてアンケート調査を行った3).白内障手術併用線維柱帯切開術後には裸眼・矯正視力とも向上し,緑内障点眼数の減少・眼圧下降を認め,その結果,視覚に関連したCQOLの向上を認めた(図3).白内障手術単独では裸眼・矯正視力は向上し,緑内障点眼数は減少したものの眼圧下降は認めなかった.しかし視覚に関連したCQOLは向上した(図3).手術による惹起乱視は,眼外法による線維柱帯切開術に比べて眼内法では小さい.白内障手術併用線維柱帯切開術後C2カ月では先に述べたように高次収差の増大が表1角膜高次収差120°切開p値180°切開p値術前C1カ月C2カ月C3カ月C0.227±0.128C0.309±0.196C0.287±0.131C0.251±0.131C0.008C0.01C0.12C0.216±0.9500.282±0.099C0.476±0.361C0.439±0.223C0.0280.0170.001C(77)あたらしい眼科Vol.40,No.5,20236550910-1810/23/\100/頁/JCOPYa.術前b.術後2カ月図1術前・術後2カ月(180°切開)のマルチマップとIOLセレクションマップ術後高次収差は増大しており,Landolt環シミュレーションでは,ブレの大きなCLandolt環が表示されている.角膜高次収差コマ収差球面収差術後3カ月0.40.20.10.10.200000.10.20.30.40.50.60.700.10.20.30.40.50.600.050.10.150.20.25術前術前術前図2術前・術後3カ月の角膜高次収差,コマ収差,球面収差線維柱帯をC180°切開すると,いずれの収差も術後大きく増大している症例が多数みられる.*線維柱帯を切開すると高次収差は増大するが,これは1.1180°2180°0.6180°11.8120°120°120°0.50.91.60.8術後3カ月1.40.70.41.20.61術後3カ月0.50.30.80.40.60.20.3VFQ-25総合スコア白内障単独手術および白内障手術併用線維柱帯切開術のいずれChookCabCinternoCtrabeculotomy.CJCClinCMedC10:3181,においてもCVFQ-25総合スコアが術後に上昇している.C20213)YuasaY,HirookaK,OkadaNetal:Vision-relatedquali-認められたものの,視力が向上したことが視覚に関連しCtyCofClifeCfollowingCtrabeculotomyCabCinterno.CUnderCsub-たCQOLの向上に大きく関与していると考えられる.CmissionC656あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(78)90.0080.0070.0060.0050.0040.0030.0020.0010.000.00白内障手術単独白内障手術併用線維柱帯切開術図3術前・術後2カ月でのVFQ-25総合スコア角膜の形状が変わることが原因と考えている.眼圧下降効果が同等であるのであれば,高次収差に対する影響の小さいC120°切開のほうがよいと考え,現在筆者の施設では線維柱帯の切開範囲はC120°としている.文献1)OnoeCH,CHirookaCK,COkumichiCHCetal:CornealChigher-orderCaberrationsCafterCmicrohookCabCinternoCtrabeculoto-myCandCgoniotomyCwithCtheCkahookCdualblade:prelimi-naryearly3-monthresults.JClinMedC10:4115,C20212)OkadaN,HirookaK,OnoeHetal:Comparisonofe.cacybetweenC120°CandC180°CSchlemm’sCcanalCincisionCmicro-