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読みに関するロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

読みに関するロービジョンケアLowVisionCareforReading岩﨑佳奈枝*田中恵津子**I読みに困るとはどういうことか1.矯正視力からわかること視力から読みの困難さを考えてみると,新聞や一般書籍を読むために必要な近見矯正視力は0.4~0.6程度といわれている1,2)ので,少なくともそれ以下の視力では読みの手助けが必要な可能性が高い.「読めている?」と背後にある生活場面を想像しながら日々の視力値をみることは,読みに関するロービジョンケアの第一歩となる.2.視力だけでは判断できない(図1)では,視力0.5では困難がないかといえば,実際には異なる.角膜混濁では,羞明やコントラスト感度が低下し,配色によっては読みにくさがあるかもしれない.歪視や線が途切れて見える黄斑疾患では,視線を動かして0.5視標をなんとか判別しているとしたら,文字としての判断も即座にできないはずである.明るさの変化に敏感な視機能特性をもつ人であれば,明るい検査室で見えた0.5視標も暗い環境では見えにくい.視力は良好でも黄斑近傍の暗点や視野狭窄があると,全体から読む場所を探索することや,文字を追視するのは困難かもしれない.このように視力以外の多くの視機能が読みに影響するので,同じ視力0.5でも近用眼鏡のみで大丈夫な人から,遮光眼鏡が必要な人,とても大きく拡大したい人,白黒反転がよい人,音声を併用したい人まで,多様な対応が必要となる.医療機関では,屈折,眼鏡,中心視野の暗点や感度低下とその範囲,周辺視野の状況,コントラスト感度,色覚,他覚的所見(網膜・角膜・水晶体など)など多くの情報を取得できる.それらが日常の読み課題を困難にする原因になっていないかと意識を向けることが必要となる.「読めている?」と疑問に思ったら,「新聞は読みますか?」「スマホの文字はどのくらいの大きさで見ていますか?」「眼鏡や他の道具で文字を大きくしたら読めますよ.試してみますか?」などの声かけを行い,聞き取りに進むとよい.3.人によって読み書きを困難に思う尺度は違う(表1)さらに,日常直面する読み課題は人により異なるので,視機能だけで本人が感じる不便さを測ることはできない.したがって,読みに困る具体的な場面,もっとも優先順位の高い読みの場面,社会的背景(学生か社会人かなど)などの聞き取りを要する.また,読むための手段について,眼鏡や拡大鏡,拡大読書器,ICT(拡大表示・読み上げ)などの使用状況も確認する.読まない(諦めた),代読してもらうという回答を得ることもある.聞き取りを進めると,「新聞の本文が読みたい」見出しが読めれば困らない」「読めるけど疲れるし時間がかかる」「辞書が読めない」「拡大教科書以外の問題集が困る」「パソコンでの処理は対応できるが紙文書の扱いに*KanaeIwazaki:静岡県立総合病院眼科**EtsukoTanaka:浜松視覚特別支援学校,愛知淑徳大学〔別刷請求先〕岩﨑佳奈枝:〒420-8527静岡市葵区北安東4-27-1静岡県立総合病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(17)595図1読みに影響する視機能とロービジョンケア表1読みに関する聞き取り読みに関する聞き取り.各場面や課題(年代別に下表参照)での状況確認・読める,読めない,何とか読んでいる,読まない(諦めた).読む手段の確認・眼鏡の有無・遮光眼鏡の有無(羞明の確認を含む)・拡大鏡,拡大読書器,ICT(拡大表示機能)などの利用について・拡大教科書,拡大コピーなどの対応・代読(家族,障害福祉サービス)の有無・環境(照明,書見台,配席など)確認.音声読み上げ機器について・ICT(文字認識と音声読み上げ機能),専用機器の使用状況.家族,ケアマネジャー,事業所などキーパーソンの確認・代読依頼,拡大鏡や拡大読書器などの導入時に協力できる人材の有無学生成人(就労世代)高齢者・教科書・参考書,ドリル,辞書・黒板・スマホ,PC・趣味,雑誌,本など・バス,電車関連・新聞,本,紙の資料・会議(遠方と手元の資料)・PC,スマホ・趣味,雑誌,本など・バス,電車関連・新聞,本,郵便物・スマホ,PC・趣味・バス,電車関連・薬のただし書きなど図2文字を拡大してみるための方法↑速読み速度(文字数/分)遅↓MNREAD図3最適な文字サイズを調べる方法①拡大に必要な倍率=最適な文字サイズ÷読みたい文字サイズ②拡大に必要な視距離(cm)=最適な文字サイズを判断したときの視距離÷拡大に必要な倍率③拡大に必要な屈折力(D)=100cm÷拡大に必要な視距離(cm)例題1・読みたい文字サイズは,9pt(3.15mm)・視距離25cmで,最適な文字サイズは45ポイント(15.75mm)①拡大に必要な倍率=45pt(15.74mm)÷9pt(3.15mm)=5倍②拡大に必要な視距離=25÷5=5cm∴5cmに近づけると網膜像は5倍になる③5cmにピントを合わせる屈折=100cm÷5cm=20D∴拡大に必要な屈折力は20D45pt5倍最適な文字5倍20D=拡大鏡+矯正+眼の屈折例題2・読みたい文字サイズは,9pt(3.15mm)・視距離10cmで,最適な文字サイズは45pt(15.75mm)①拡大に必要な倍率=45pt(15.74mm)÷9pt(3.15mm)=5倍②拡大に必要な視距離=10÷5=2cm∴2cmに近づけると網膜像は5倍になる③2cmにピントを合わせる屈折=100cm÷2cm=50D∴拡大に必要な屈折力は50D最適な文字5倍45pt5倍50D=拡大鏡+矯正+眼の屈折図4最適な文字サイズから拡大に必要な屈折力を求める方法※拡大に必要な視距離が5cm,拡大に必要な屈折力が20Dの場合20D等価屈折力EVPEquivalentViewingPower等価屈折力20D20Dの拡大鏡を屈折遠見矯正調節力にするための使用した時の拡大鏡Diopter拡大効果なしなし20D20D=正視+5.00Dのなし調節ありとする15D25D↑近視あり.4.00Dなし20D20D=.4.00なしなし16D24D↑遠視ありなし20D20D=+4.00D+4.00なしなし24D16D↓図5拡大に必要な屈折力を調達する方法表2拡大鏡の種類と特徴ハイパワープラス眼鏡眼鏡型拡大鏡手持ち拡大鏡置型拡大鏡・スタンプ近用眼鏡(+3.00D加入)よりもさらに多くの加入度数を入れた眼鏡・両手があく・両眼使用なら+6.00D程度・片眼使用なら大きなDiopterも対応可能.形状は,跳ね上げ式,クリップ式,貼り付けタイプなどを検討する・両手があく・低倍率・近用眼鏡の上からかける・低~高倍率まである・遠用眼鏡で使用できる・近用眼鏡と同時に使う場合は,拡大鏡は密着させて使う(拡大鏡が離れるほど拡大効果は低下する)・両手が開く・調節力がないとピントが合わない・老眼鏡を併用すれば可・空間ができるタイプでは,書字が可能・簡便5×20D・拡大鏡はDiopter表示を確認する・Diopterが大きいほどレンズ径は小さくなり,一度に見える文字数は少なくなる目と拡大鏡が密着眼と拡大鏡が離れている一度に見える文字数は,多い一度に見える文字数は,少なくなる近用眼鏡を装用すると拡大効果は低下する書見台明るさの確保と姿勢保持のため書見台,照明(紙面を眼と拡大鏡は固定(視線も一定)し,紙面を眼前で動か照らす)を使うして文字を視界に入れていく図6拡大鏡の使い方表3視覚障害者用読書器の種類と特徴据置型拡大読書器・モニターが大きく,より高い倍率表示が可能・XYテーブルがあり安定した読み(文書内の移動)が得られる・読み書き以外の手作業も可能・置き場所が必要・持ち運びは困難携帯型拡大読書器・携帯性に優れている・モニターが小さい・カメラと読み物との空間がない,あるいは狭い電子ルーペ・拡大読書器より安価・モニターが小さい・電子ルーペとして拡大読書器とは別に日常生活用具の対象となる自治体あり音声(拡大)読書器・音声読み上げも拡大表示も可能・手書きの文字は読み上げない・音声読み上げ機能のみの機器は,比較的操作は簡単・ウェアラブルのデバイスもあるが高価・視覚障害者用読書器として日常生活用具の対象の自治体もある表4拡大読書器の使い方・拡大鏡の倍率では拡大不足,読むことが困難な場合・白黒反転やコントラスト調整をして読みたい場合・空間を利用した手作業をしたい場合・空間を利用した手作業(書字・爪切り・工作など)がある場合,目的に応じた広さ(奥行・高さ)があるか・画面の高さや角度の調整は可能か・画面の大きさが足りているか(最適な文字の大きさが画面に5~8文字程度入るか)・白黒反転表示が見えやすいか,操作性は容易か・コントラスト調整の操作性・最低倍率と見え方・全体表示と拡大表示の切替え機能・XYテーブルの使いやすさ・携帯性を重んじるか・音声を利用する場合,音声拡大読書器・音声読書器も検討・基本的な操作(拡大・表示切替・コントラスト調整)の習得をする・XYテーブルの操作性を習得する(読む方向にまっすぐゆっくり動かす,視線は固定,文字を視線の中に入れていく)・画面との距離に合わせた屈折矯正を行う・まぶしさを伴う場合は遮光眼鏡も検討・照明や光が画面に映りこまない位置・XYテーブルが十分に動くスペースを確保・画面の高さ,角度の調整(無理な姿勢になっていないか)・必要に応じてマスキングやライン機能を使う・無理して長時間使用しない,休憩をする

羞明に関するロービジョンケア─遮光眼鏡の理論と処方

2023年5月31日 水曜日

羞明に関するロービジョンケア─遮光眼鏡の理論と処方LowVisionCareforPhotophobia-TheoryandSelectionofLight-AbsorptiveGlasses立本志磨*阿曽沼早苗*はじめに羞明に対するロービジョンケアとして,本稿ではおもに遮光眼鏡とその選定について述べる.遮光眼鏡は,身体障害者および難病患者の補装具となっている.2010年に厚生労働省から出された「補装具費支給事務取扱指針の一部改正について」(障発0331第12号障害保健福祉部長通知)において,遮光眼鏡が身体障害者(視覚障害)の補装具として適用される際の支給対象者の要件などが見直され,疾患の限定がなくなった.2013年から難病患者も対象となり,疾患や手帳の有無を問わず広く紹介できる有効な選択肢となっている.I羞明とは光が強くて不快に感じたり見えにくい状態になったりする「まぶしさ」を,医学的に症状として表現する場合に,これを羞明という1).羞明は正常者においても病的状態においても生じうるものであり,過剰な輝度または過剰な輝度対比のために不快感または視機能低下を生じる現象であり,不快グレアと障害グレア(減能グレア)に分類される.ロービジョン者と視覚正常者では視機能に影響を及ぼすグレアレベルが異なり,ロービジョン者は視覚正常者よりも,より低照度のグレアによって視力低下が引き起こされる2).羞明と特定波長を抑制することによる羞明軽減のメカニズムは不明であるが,「短波長光のほうが高エネルギーである」「短波長光はレイリー(Rayleigh)散乱の影響が大きい」という波長の特性からの説明が広く知られている.レイリー散乱は,太陽光のうち波長の短い青色の光が波長の長い赤色の光よりも多く散乱される現象のことであり,日中の空が青く見えることで知られる.可視光のうち波長の短い青色光は眼内で散乱しやすく,視界に膜が張ったようなグレアの原因になりやすい3).人は色の明るさを知覚できるが,どれだけ明るくなっても知覚できるわけではなく,ある程度以上の明るさになると飽和して,すべて白に見えてしまう.同様に,ある程度以上暗くなると区別がつかなくなってすべて黒に見えてしまう.この,違いがわかる知覚可能範囲をダイナミックレンジという.疾患などによりダイナミックレンジの幅が狭まると,暗すぎて見えない夜盲を生じ,明るすぎて見えない昼盲を生じる.そしてこれは環境の明るさに応じて動的にシフトするものであるが,ダイナミックレンジのシフト不全(明順応・暗順応不全)が起こると,同様に夜盲・昼盲を生じる4).また,三叉神経第一枝である眼神経支配領域に病変があることで虹彩の血管拡張と痛覚過敏が起き,過敏性を獲得した状態のときに,対光反射で虹彩が動くことにより羞明痛が生じることで不快な羞明となるという報告がある5).視細胞変性などの疾患のために網膜神経節細胞の入力量が変化し過敏性を獲得することで,弱い入力でも脳への出力が増加するため羞明の原因となるという報告もあり,光受容器から神経節細胞,外側膝状態を経由して後頭葉の一次視覚野に運ばれる一連の視覚系が羞明*ShimaTatemoto&SanaeAsonuma:大阪大学医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕立本志磨:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学医学系研究科眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(9)587に関与することが示されている5).ほとんどの遮光眼鏡は短波長領域をカットしているが,眼内で散乱しやすい光を抑制できることに加え,明るさ知覚と瞳孔対光反射に関与する網膜神経節細胞のメラノプシンに入力される光を抑制できることが,短波長領域を抑制する遮光眼鏡により羞明が軽減する機序であることが示唆されている5).II遮光眼鏡(光吸収フィルタ)1.遮光眼鏡とは学術的には「グレアの軽減,コントラストの改善,暗順応の補助等を目的として装用する光吸収フィルタを用いた眼鏡」と定義されている1).障害者総合支援法による補装具の名称としては,「遮光眼鏡とは,羞明の軽減を目的として,可視光のうちの一部の透過を抑制するものであって,分光透過率曲線が公表されているものであること」と規定されている.一般的には,補装具支給の対象となりうる,一定の分光透過率曲線が得られるレンズを製作することのできるメーカーの製品を遮光眼鏡とよび,その他をカラーレンズ,サングラスとすることが多い.国内メーカーでは,東海光学CCPシリーズやCCG,HOYAのRETINEXなどがこれに該当する.遮光眼鏡はまぶしさの原因となる短波長光(500nm以下)を選択的にカットし散乱を抑え,比視感度の高い波長光(555nm付近)を透過させることから,まぶしさやコントラストを改善させる効果をもつ6).そのため比較的薄い色でも対応できる(図1).遮光眼鏡は,入射光そのものの青空の中にある白い建物や,緑の葉の上の赤や白の花といった領域のコントラストは上昇するが,白地に赤い文字で書かれた看板などでは,コントラストは低下する7,8)(図2).見やすくなる配色と,見えにくくなる配色の組み合わせがあることを使用者に説明することが重要である.羞明が改善されるレンズの種類は,疾患による特異性は低く,個人によるばらつきが大きい9).錐体の感受性がもっとも高い波長以下をカットする種類の遮光眼鏡の装用により,屋外ですでに暗順応をしているのと同じ状態となるので,暗順応に時間がかかる人では屋内に入っての順応時間が短縮する6).2.選定手順確立された方法はないが,大まかな手順を示す.①視力検査,屈折異常の確認,処方度数の決定②遮光レンズの選択③フレームの選択④補装具申請の有無の確認3.遮光レンズの選定方法通常の眼鏡処方同様にまずは完全屈折矯正を行ったうえで,遮光レンズの選択に移る.必要に応じて矯正値を装用した状態で遮光レンズを付加し,自覚的に羞明が改善するレンズを選択する.視感透過率を参考にする方法や,分光透過率曲線を参考にする方法がある.いずれの方法でも,パンフレットなどで決定せず,トライアルレンズを用いて実際に見え方を確認して選択することが重要である(図3).屋外用であれば,実際に共に屋外へ出て日なたや日陰,順光,逆光の状態での見え方を確認する.コントラストが低い具体的な対象物を見ながら比較してもらい,羞明の改善だけでなく,暗くなりすぎないか,くっきり感が改善するかも参考にして選定する(図4).視感透過率を参考にして選定する場合は,はじめに視感透過率が中間の色を提示して,羞明が残るなら視感透過率が低いものに変えていき,暗く感じるなら視感透過率が高いものに変えていく.選定にあたっては羞明を感じる天候や環境に合わせて試用する必要があるため,予約当日に悪天候によりトライアルレンズでの羞明の軽減が確認できない場合などは,患者と相談のうえ,日程を変更するとよい.屋外用であっても,外出時に日陰や屋内に入り急に暗くなった場合を想定し,その環境での屋内での見え方が許容できる範囲であるかも確認しておく必要がある.可能ならばより確実な処方のために一定期間の貸し出しを行うなど,実際の使用場面や複数の条件下でトライアルを行うことが重要である.機能的な側面から選定する場合は分光透過率曲線を参照する.遮光眼鏡にはさまざまな分光透過をもつレンズがあり,見た目の色味が似ていても分光透過率曲線が近いとは限らないので注意が必要である.眩しさの原因が眼内の散乱に起因すると考えられる場合は短波長のカッ588あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(10)ab100500300400500600700800図1各波長の透過率を示した分光透過曲線と可視光線レンズにより分光透過曲線は異なり,この透過率を参考にレンズを選定する.(東海光学HPより改変引用)abc図2遮光眼鏡のトライアルa:遮光眼鏡なし,b:CCPWH装用,c:CCPBR装用.白地に青の文字のコントラストが上昇し視認性は向上しているが,色の誤認が起こる可能性がある.また,白地に赤の文字や赤いコーンに貼られた白いシールはかえってコントラストが低下している.紫外線可視光線赤外線波長(nm)紫外線可視光線赤外線波長(nm)図3トライアルレンズクリップオンタイプ,板状,献眼枠に差し込むタイプなどがある.a:東海光学CCP.b:HOYARetinex.図4屋外,屋内でのトライアル屋外では自然光下での羞明の軽減と,対象物の見え方を確認する.日陰に入った場合に暗すぎないことも重要である.屋内用は目的に応じて,可能な限り実際に見るものを使用して選定を行う.とくにデスクワークに使用する場合は,PCやタブレットのバックライト,紙面の見え方などを確認する.図5遮光眼鏡メーカーのフレーム①のVergine(ヴェルジネ)とRetinexglassは度数を入れることが可能.②はオーバーグラスタイプのViewnal.③のナイロールのクリップオンタイプはフレームに合わせた成形が可能.④のC-CLIPはサイドシールドのついたクリップオンタイプで,③④とも跳ね上げが可能.図6小児のトライアルa:左遮光レンズなし,b:右遮光レンズ装用により顔の力が抜け開瞼している.LY/調光グレー視感透過率LY/LY発色62/9調光前調光後透過率(%)1.60PGC100500調光前調光後400600800波長(nm)図7その他の光吸収フィルタ調光機能つき遮光眼鏡であるCCPATは調光前後の分光透過曲線が公開されている.調光レンズは室温や紫外線の強さで発色の程度が変わるため注意が必要である.右は高濃度のサングラスHDGlassである.abc図8非光学的な補助具a:持ち運べる卓上ライト,軽量のLEDライトが近年安価で購入できる.光の色味を確認して購入するとよい.タイポスコープ(b),リーディングバー(c)を使用すると,紙面の反射を抑えることができる.

ロービジョンケアと視機能

2023年5月31日 水曜日

ロービジョンケアと視機能UnderstandingLowVisionCareandVisualFunction藤田京子*はじめにロービジョンケアとは,視覚障害によって日常生活・社会生活に支障をきたしているロービジョン者をさまざまな角度から支援することである.眼科で行うロービジョンケアには「ニーズの聞き取り」「視機能評価」「書類作成」「社会資源の紹介」「エイドの紹介」「環境整備」のC6つのステップがある1)が,なかでも詳細な視機能評価は眼科領域の重要な役目である.本稿では視機能評価の基本であり,かつ書類作成に欠かすことができない視力および視野についてロービジョンケアの観点から述べる.CIロービジョンケアと視力1.視力表視力はどこまで細かい判別ができるかという眼の解像度を表し,最小分離閾,最小可読閾で示される.眼科診療でもっとも基本的な検査であるが,各施設で設置されている視力表は統一されていないため,使用している視力表の特徴を知っておく必要がある.わが国ではCLandolt環小数視力表が広く普及しているが,小数視力は視角の逆数であるため各視標の大きさは等間隔に変化していないことに注意を要する.一方,logMAR視力表では各段の視標が等間隔で変化する.小数視力ではC0.1~0.3は間隔が大きいが,logMAR視力は小数視力C0.1とC0.2の間にC3段階の視標があるため,ロービジョンの詳細な視力評価に適している(表1).表1logMARと小数視力の関係0.0C0.1C0.2C0.3C0.4C0.5C0.6C0.7C0.8C0.9C1.0C1.0C0.8C0.63C0.5C0.4C0.32C0.25C0.2C0.16C0.13C0.1Cまた,視力表には字詰まり視力表と字ひとつ視力表とがあり(図1),字ひとつ視力表では一つのCLandolt環が単独で提示される.字詰まり視力表では多くの視標が一つの表に配列されるため,視標間の間隔が小さくなると視標の読み分けが困難になる混み合い現象の影響を受ける.ロービジョンでは混み合い現象のために実際の値よりも低く測定される可能性がある.C2.ロービジョンの視力検査で留意すること視力検査では視力値そのものもさることながら患者の視線や視標をみつけるまでにかかった時間など検査中の観察が重要である.視力測定時の視標提示時間は「3秒」2),学校保健では「3~5秒」と規定されているが,日常診療では患者の反応によりまちまちである.川畑ら*KyokoFujita:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕藤田京子:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)C581ab図1字ひとつ視力表と字詰まり視力表a:字ひとつ視力表.b:字詰まり視力表.図2偏心視域(preferredretinallocus:PRL)加齢黄斑変性瘢痕期のCmicroperimetry.黄斑部は瘢痕病巣のため絶対暗点であり(.),preferredCretinalClocus(+)は瘢痕病巣上方にみられる.水色の点は各刺激提示時の固視点を示す.最大読書速度(文字数.分)速い↑読書速度↓遅い読書視力臨界文字サイズ(logMAR)小さい←文字サイズ→大きい図3読書速度と文字サイズとの関係大きな文字サイズから順に読書速度をプロットすると,ある文字サイズまでは速い速度で読めるが(最大読書速度),ある文字サイズ以上に小さくなると読書速度は急激に低下する.読書速度が急激に低下する直前の文字サイズは臨界文字サイズとよばれ,読書に適した文字サイズとされている.読書視力は近見視力に相当する.Cab図4読書評価a:MNREAD-J.b:iPad版MNREAD.abcd図5BerkeleyRudimentaryVisionTesta:SingleTumblingCard(STE).カードはC2枚が連結されている.左上:視標サイズC100CM(145CmmC×145mm).右上:視標サイズC63M(92mmC×92mm).左下:視標サイズC25M(36mmC×36mm).右下:視標サイズC40M(58mmC×58Cmm).b:CGratingCAcuityCard(GA).STEで測定できない場合に視距離C25Ccmで提示する.左上:視標サイズC200CM(60Cmm幅).右上:視標サイズC125CM(38Cmm幅).左下:視標サイズC50CM(15Cmm幅).右下:視標サイズC80M(24Cmm幅).c:BasicVisionCard(WhiteFieldProjection).GAで測定できない場合に用い,視距離C25Ccmに提示する.上:白い領域が右上,右下,左上,左下のいずれにみられるかを答えてもらう.d:BasicVisionCard(BlackWhiteDiscrimination).GAで測定できない場合に視距離C25Ccmに提示し,白か黒かを答えてもらう.(文献C5より改変引用)図6両眼Esterman視野の測定点水平方向にそれぞれC90°,上方C30°,下方C60°の範囲内に合計C120ポイントが配置されている.(点)40353025201510(点)Estermanスコア図7日常生活困難とEstermanスコアとの関係日常生活困難度が高いほどCEstermanスコアが低かった.(文献C5より改変引用)総合得点020406080100図8Amslerチャート30Ccmの視距離で中心の点を見てもらいながら,線のゆがみや見えづらい部位を問い,記録する.-

序説:ロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

ロービジョンケアLowVisionCare石子智士*仲泊聡**厚生労働省のデータによると2016年における身体障害者手帳(視覚障害)所持者数は312,000人で,そのうち65歳以上の高齢者が69%を占めている.その主要な原因疾患として,緑内障や糖尿病網膜症,黄斑変性など加齢に伴って罹患率が上昇する疾患が含まれており,視覚障害に関する加齢の影響は大きい.このような状況の中,日本では超高齢社会に突入している.日本の人口はすでにピークを過ぎ年々減少しており,総人口は2020年の12,615万人から2065年には9,000万人を割り込むものの,65歳以上人口の割合を表す高齢化率は28.6%から38.4%に達すると推計されている.さらに,平均寿命は男女とも年々延びており,2019年には,男性82歳,女性87歳であったものが,2065年には,男性85歳,女性91歳となると見込まれている.したがって,視覚障害による身体障害者手帳所持者およびその障害程度に達していない視覚に障害を有する者は,今後ますます増え続けることが懸念され,そのような人々に対するロービジョンケアのニーズはますます高まるものと思われる.ロービジョンケアは,視機能の程度にかかわらず,視覚に障害があるため生活になんらかの支障をきたしている人に対する支援とされている.眼科医療においては,残された視機能を使って見えにくさを克服するのに役立つ適切なケアを行うもので,「見えない,見えにくいけれどできる」ようにすることが目的である.したがってロービジョンケアは,眼科医療の枠を超えて,必要とされる多職種との連携も包括したものとして行われるべきものである.わが国における第4次障害者基本計画では,すべての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため,障害者の自立および社会参加の支援などのための施策を総合的かつ計画的に推進することが目的として掲げられている.したがって,ロービジョンケアにおいても,患者の見え方の質(qualityofvision:QOV)を高め,生活の質(qualityoflife:QOL)の向上につなげるにとどまらず,他者との交流,社会参加を通して,幸福な満たされた状態であるwell-beingを達成することを目標とすることが求められる時代になってきた.これは,眼科医療だけで達成できるものではなく多職種との連携が重要であるものの,視覚障害を有する患者は眼科を受診することもあり,眼科医がまずは眼科医療としてできることを行い,適切な施設へ橋渡しをすることが重要である.眼科医療の現場で視覚に障害があるために日常生*SatoshiIshiko:森山病院眼科**SatoshiNakadomari:NEXTVISION0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)579

頭部MRI にて構造的異常を認めた視索症候群の1 例

2023年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(4):569.573,2023c頭部MRIにて構造的異常を認めた視索症候群の1例土橋一生*1原ルミ子*1槃木悠人*1中井駿一朗*1安田絵里子*1前田祥史*1中村誠*2*1加古川中央市民病院眼科*2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofOpticTractSyndromeinwhichStructuralAbnormalityWasRevealedbyMagneticResonanceImagingKazukiTsuchihashi1),RumikoHara1),YutoIwaki1),ShunichiroNakai1),ErikoYasuda1),YoshifumiMaeda1)andMakotoNakamura2)1)DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,2)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:磁気共鳴画像(MRI)で構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告する.症例:52歳,女性.1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医を受診.光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層の菲薄化および視野異常が認められたため,当院紹介受診となった.矯正視力は両眼ともC1.2と良好であったが,右眼の相対的求心路瞳孔障害が陽性であり,両眼の視神経乳頭に部分的蒼白を認めた.OCTで右眼は耳鼻側の乳頭周囲神経線維層厚と鼻側黄斑網膜の菲薄化,左眼は耳上下側の乳頭周囲神経線維層厚と耳側黄斑網膜の菲薄化があり,視野検査では右側の非調和性同名半盲を呈していた.MRIで左側視索の萎縮像があり,左視索症候群と診断した.結論:MRIで構造的異常を確認しえた貴重な視索症候群のC1例である.CPurpose:Toreportacaseofoptictractsyndromeinwhichstructuralabnormalitywasrevealedbymagneticresonanceimaging(MRI)C.Casereport:A52-year-oldfemalepatientwhowasbeingseenatanotherhospitalduetoCaC1-yearChistoryCofCvisualClossCinCherCleftCeyeCwasCreferredCtoCourChospitalCafterCopticalCcoherenceCtomography(OCT)revealedathinningoftheretinalnerve.berlayerandvisual.elddefect.Uponexamination,hercorrectedvisualacuitywas1.2inbotheyes,relativea.erentpupillarydefect(RAPD)waspresentintherighteye,andbothopticCdiscsCwereCpartiallyCpaleCinCcolor.COCTCrevealedCreductionCofCcircumperipapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness(cpRNFLT)ofthetemporalandnasalsegmentsintherighteyeandthesuperior-andinferior-temporalsegmentinthelefteye.Visual.eldexaminationdemonstratedarightincongruoushomonymoushemianopsia,andMRIrevealedaleftoptictractatrophy,whichledtothediagnosisofoptictractsyndrome.Conclusion:WereportararecaseofoptictractsyndromeinwhichanatomicalabnormalitieswererevealedbyMRI.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(4):569.573,C2023〕Keywords:視索症候群,磁気共鳴画像.optictractsyndrome,magneticresonanceimaging.Cはじめに視索症候群は病変の反対側の非調和性同名半盲,相対的求心路瞳孔障害(relativeCa.erentCpapillarydefect:RAPD)および特徴的な視神経萎縮を呈する片眼性の視索機能異常である.近年では光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)の発達により定量的な乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness:cpRNFLT)の計測や黄斑部解析が可能となり,その特徴的な所見などから視索症候群の診断が比較的容易になってきているが,多くは臨床的診断であり,実際に磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)で責任病巣が確認できた報告は少ない.今回,MRIで視索の構造的異常を認めた患者を経験したので報告する.CI症例患者:52歳,女性.〔別刷請求先〕土橋一生:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:KazukiTsuchihashi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Honmachi,Kakogawacho,KakogawaCity,Hyogo675-8611,JAPANC図1眼底写真上段:初診時の眼底所見.下段:視神経乳頭拡大写真.主訴:左眼の視力低下.現病歴:1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診.OCTで網膜神経線維層の菲薄化や静的視野検査での右同名半盲があったため,精査目的に加古川中央市民病院紹介受診となった.既往歴:12年前に交通事故による頭部外傷.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph+1.25D),左眼C0.9(1.2C×sph+1.25D),眼圧は右眼C16.0mmHg,左眼C14.7mmHg,眼位は正位で眼球運動に異常はなかった.限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)は右眼C37CHz,左眼C37CHzで左右差なく,対光反射も両眼とも迅速かつ十分であったが,右眼のCRAPDは陽性であった.前眼部・中間透光体に異常所見はなかった.視神経乳頭は右眼で耳鼻側が蒼白化し,いわゆる帯状萎縮を呈していた.一方,左眼は耳上下方向に蒼白化し,砂時計状萎縮を呈していた(図1).また,それに一致してCOCT(Heidelberg社製CSpectralis)のcpRNFLTマップでは右眼は鼻側と耳側の菲薄化があり(図2),左眼は耳上側・耳下側が菲薄化していた.黄斑部網膜厚のカラーマップでも右眼は乳頭黄斑線維束領域が相対的に菲薄化し,左眼は上下の弓状線維領域が菲薄化していた.これらの形態的異常に一致してCHumphrey視野検査(図3)では右同名半盲,Goldmann視野検査(図4)では右非調和性同名半盲を認めた.以上の所見から左視索症候群を疑い,頭部MRIを施行したところ,T1強調画像で左視索に明らかな萎縮性変化を認め(図5),左視索症候群と診断した.ほかに動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などを認めず,頭部外傷の既往があったことから以前の外傷が原因と考えた.CII考按視索症候群は先天性あるいは外傷や動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などの後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,反対側の非調和性同名半盲と健側のCRAPD陽性,半盲様視神経乳頭萎縮の三つを特徴とする疾患である.その診断においてはこれa右眼bら三徴からの臨床的所見に基づいたものが主体であり,実際に視索の構造的変化を明らかにした既報は少ない1).近年COCTの飛躍的な発展に伴い,視神経疾患の分野でもCmultimodalimagingによる診断が普及し,視索症候群の診断においてもその有用性が報告されている2).視神経線維は視交叉部で交叉性線維と非交叉性線維に分かれるが,一側の視索障害では,反対側の交叉性線維と同側の非交叉性線維が障害されるため反対側の同名半盲となる.また,交叉性神経線維は鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であり,これらの神経線維は視神経乳頭のおもに鼻耳側に投射することから,反対側(健眼)では鼻耳側のCcpRNFLが菲薄化し,検眼鏡的に視神経乳頭は帯状萎縮を呈する.一方,非交叉性神経線維は耳側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であるため,同側(患眼)の視神経乳頭においてとくに上下弓状線維が萎縮し,視神経乳頭は上下の砂時計状萎縮を呈する.これらの所見は視索障害に特徴的である.また,視索障害では,反対側のCRAPDが陽性となり,その理由として交叉線維が非交叉線維よりも多いためとした報告も多いが,そのあたりはまだ議論の余地がある3).本症例は視力低下を契機に眼科受診となったが,視力低下の原因は屈折異常によるものであり,たまたま施行したCOCTで異常があったため視索症候群を疑うきっかけとなった.反対側図3Humphrey視野検査(右)の非調和性同名半盲と右眼のCRAPD陽性,特徴的な視神経萎縮といったC3徴に加え,OCTでもCcpRNFLTならびに黄斑網膜マップにおいてそれぞれの神経線維障害に一致した菲薄化が証明され,左側の視索症候群を強く疑う根拠となった.通常視索症候群は,前述のような後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,他の神経学的異常があれば発症原因や発症時期を容易に推測することが可能であるが,本症例のように他の神経学的異常がなく,本人の自覚症状もない場合にはたまたま眼科受診をした際に発見されることも珍しくないと思われる.過去の外傷歴があっても,すでにその記憶がない場合もある.同名半盲性の視神経萎縮は通常視索障害後C6週以図2OCT所見a:乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFLT)マップ.Cb:黄斑部網膜厚のカラーマップ.左眼右眼図4Goldmann視野検査図5MRI所見a:頭部CMRI(T1強調画像).b:視索拡大像.左視索(.)に萎縮性変化を認める.内に発症するといわれており1),その診断においてCOCTは非常に有用であるが,MRIで構造的変化をとらえた報告は少なく,実際に構造的変化が生じているのかどうかは十分に解明されていない.本症例ではC12年前の事故と,既報に比べ発症までの経過は長い.視路病変のなかにはアクアポリン4やアクアポリンC9の異常値を示す病変もあるが4),上記所見により診断がついており,いまなお視力良好であることから,検査の意義が乏しかったために測定しなかった.Tat-sumiら5)は外傷性視索症候群のC1例において,受傷C1カ月のCMRIには異常所見はみられなかったとも述べている一方,Bruceら6)は一連の外傷性同名半盲症例を調べ,そのC10%に視索障害が起こるとしているが,MRIで異常を証明するのは神経放射線科医でも困難だと述べており,視索症候群におけるCMRIを用いた局在診断のむずかしさがうかがわれる.わが国で視索の器質的異常を証明した報告はCHayashiら1)の小児期てんかん既往のある視索症候群のC1症例しか見当たらず,その原因として胎生期または出生早期に生じた頭蓋内病変が原因と推測している.今回,本症例ではCT1強調画像で構造的変化を認めたため,それ以上の画像検査は行っていないが,NaghamらはCMRIの拡散テンソル画像(DTI)が外傷性視索症候群を診断するのに有用だと述べている7).拡散テンソル画像は拡散強調画像をもとに一定の方向に向かって連続する神経線維を画像化したもので,視索症候群において萎縮した視索が明瞭に描出されている.一般的なCMRIで原因の局在が判明しない場合には試してみてもよいかもしれない.今回筆者らはCOCT・視野検査でその特徴的な所見から視索症候群が疑われ,MRIにて視索に構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HayashiCK,CIshiiN:MorphologicalCchangesCofCtheCopticCtractinacaseofoptictractsyndrome.JpnJOphthalmolC69:231-236,C20152)金森章泰:視交叉部・視索疾患のOCT.神経眼科C31:175-180,C20143)KupferC,ChumbleyL,DownerJetal:Quantitativehis-tologyCofCopticCnerve,CopticCtractCandClateralCgeniculateCnucleusinman.JAnatC101:393-401,C19674)根木昭:視神経疾患の新しい展開.日眼会誌C117:187-210,C20135)TatsumiY,KanamoriA,KusuharaAetal:Retinalnerve.berClayerCthicknessCinCopticCtractCsyndrome.CJpnCJCOpthalmolC49:294-296,C20056)BruceCBB,CZhangCX,CKedarCSCetal:TraumaticChomony-moushemianopia.JNeurolNeurosurgPsychiatryC77:986-988,C20067)NaghamCA,CWaseemCA,CSteveCHCetal:Di.usionCtensorCimagingCinCtraumaticCopticCtractCsyndrome.CJCNeuro-OpthamolC34:95-104,C2014***

脈絡膜新生血管を伴った網膜および網膜色素上皮過誤腫に対して 血管内皮細胞増殖因子阻害薬硝子体内注射を行った1 例

2023年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(4):565.568,2023c脈絡膜新生血管を伴った網膜および網膜色素上皮過誤腫に対して血管内皮細胞増殖因子阻害薬硝子体内注射を行った1例橘晟後藤真依寺内稜神野英生渡邉朗中野匡東京慈恵会医科大学眼科学講座CTheTreatmentofChoroidalNeovascularizationAssociatedwithCombinedHamartomaoftheRetinaandRetinalPigmentEpitheliumSeiTachibana,MaiGoto,RyoTerauchi,HideoKohno,AkiraWatanabeandTadashiNakanoCDepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicineC特発性脈絡膜新生血管(CNV)と診断され,12回血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害薬硝子体内注射を全身麻酔下で施行されていたC11歳男児の報告.転居により当院を紹介受診した.右眼眼底に視神経乳頭に隣接する境界不明瞭な色素性隆起性病変を認め,光干渉断層計(OCT),フルオレセイン蛍光造影検査(FA)から活動性の低いCCNVを伴った網膜および網膜色素上皮過誤腫と診断した.前医からの治療継続の希望がありCVEGF阻害薬をC1回投与し,以降C16カ月間CCNVを認めなかったが,視力低下およびCOCTで網膜浮腫,FAでCCNVの再燃を認め,再度CVEGF阻害薬をC2回投与した.網膜浮腫の改善を認め,FAでCCNV再燃は認めず.その後C28カ月間視力低下や活動性の高いCCNVを認めていない.網膜および網膜色素上皮過誤腫に伴うCCNVの治療にはCVEGF阻害薬が有効であることが示唆された.CInCthisCstudy,CweCreportCanC11-year-oldCmaleCpatientCdiagnosedCwithCidiopathicCchoroidalCneovascularizationCwhohadreceived12dosesofvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)inhibitorsundergeneralanesthesiaandwhowasreferredtoourhospitalduetorelocation.Uponexamination,wediagnosedthepatientashavingchoroi-dalneovascularization(CNV)associatedwithcombinedhamartomaoftheretinaandretinalpigmentepitheliumoflowactivity.Thepatientreceived1doseofVEGFinhibitor,andstatedadesiretocontinuetreatmentathisprevi-oushospital.Afterthat,noactiveCNVwasobservedfor16months.However,heexperiencedvisionloss,andweobservedCretinalCedemaCandCrecurrenceCofCCNV.CACVEGFCinhibitorCinjectionCwasCtwice-againCadministered.CTheCretinaledemaimproved,andtherewasnolossofvisionoractiveCNVforthenext28months.The.ndingsinthisstudysuggestthatVEGFinhibitorscanbee.ectiveforthetreatmentofCNVassociatedwithcombinedhamarto-maoftheretinaandretinalpigmentepithelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(4):565.568,C2023〕Keywords:網膜色素上皮過誤腫,脈絡膜新生血管,血管内皮細胞増殖因子阻害薬.combinedChamartomaCofCreti-naandretinalpigmentepithelium,choroidalneovascularization,vascularendothelialgrowthfactorinhibitor.Cはじめに網膜および網膜色素上皮過誤腫(combinedhamartomaoftheCretinaCandCretinalpigmentCepithelium:CHRRPE)は1973年にCGass1)によって定義された,網膜色素上皮細胞,グリア細胞,毛細血管を主成分とする眼内良性腫瘍である2).CHRRPEは諸外国でC100余例3,4),わが国でも報告数はC10数例5.11)とまれであり,合併症による多彩な臨床像のため診断に難渋することがある.過去には脈絡膜悪性黒色腫と誤って眼球摘出されたとの報告もある2,12).CHRRPEに脈絡膜新生血管(choroidalneobascularizaion:CNV)を合併することが報告されているが,治療例の報告は少ない11,13,14).今回,CNVを合併したCCHRRPEに対して複数回の血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬硝子体内注射を行い,長期間にわたる経過を観察できたので報告する.〔別刷請求先〕橘晟:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座Reprintrequests:SeiTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishishinbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPANC図1前医初診時の右眼眼底視神経乳頭に隣接する境界不明瞭な色素性隆起性病変(.).I症例11歳,男児.20xx-2年C12月に右眼視力低下,歪視を主訴に前医を受診した.神経線維腫症などの全身疾患の既往歴なし.右眼視力(0.6+0.75D),左眼視力(1.5C.4.25D(cylC.0.25DAx170°),眼圧は右眼24.28mmHg,左眼10.14CmmHg,両眼の眼位,角膜,中間透光体に異常は認めなかった.左眼眼底正常.右眼眼底には視神経乳頭に隣接する境界不明瞭な色素性隆起性病変を認めた(図1).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では病変部網膜内層の高反射領域,網膜肥厚,層構造消失,網膜下液(sub-retinal.uid:SRF)を認めた(図2).CNVと診断され,当時,在住していたシンガポールの病院でC20xx-1年C2月から20xx年C4月までのC14カ月間にC8回のアフリベルセプト,1回のラニビズマブ,3回のベバシズマブ,計C12回のCVEGF阻害薬硝子体内注射を全身麻酔下で施行された.20xx年C5月に転居に伴い当院を紹介受診した.当院初診時視力は右眼(0.8×+1.00D),左眼(1.5C×.4.00D(cylC.0.75DAx170°),眼圧:右眼17mmHg,左眼17mmHgであった.右眼眼底には右眼視神経乳頭に隣接する境界不明瞭な色素性隆起性病変を認めた.OCTでは網膜色素上皮隆起,網膜内層高反射領域,病変部の網膜肥厚,層構造消失などを認め(図3),前医最終受診時から著変はなかった.診断,治療方針の決定のために当院にてフルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)を施行した.早期相で色素沈着部に一致する低蛍光,後期相で隆起性病変内の毛細血管から多数の蛍光漏出を認めたが,OCTにてCCNVと図2前医初診時の右眼OCT病変部網膜内層の高反射領域,網膜肥厚,層構造消失,網膜下液(.)を認める.図3当院初診時の右眼OCT網膜色素上皮隆起(.),網膜内層に高輝度領域(.),網膜肥厚・層構造消失.思われる部位からは明らかな蛍光漏出は認めなかった(図4).OCTおよびCFA所見から活動性の低いCCNVを合併したCCHRRPEと診断した.前医の治療を継続したいという保護者の希望が強く,CNVの再燃予防のため,20xx年C5月当院でアフリベルセプトを局所麻酔下でC1回投与したのち,CNVの再燃は認めず,視力は維持されていた.当院のCVEGF阻害薬硝子体内注射からC16カ月後,20xx+1年C9月右眼視力低下を自覚した.右眼視力C0.5(矯正不能),OCTで網膜内液(intraCretinal.uid:IRF)を認め,CNVの再燃を疑った.OCTAではCCNVの増生を認めた(図5).再度CFAを施行し,後期相でCCNVと思われる箇所に過蛍光所見を認めたため活動性のあるCCNVと判断し,アフリベルセプト硝子体内注射を施行した.治療後のCOCTでCIRFの改善,FAで過蛍光所見の改善を認めたため,CNVの活動性が低下したと判断した.網膜所見の改善に伴い右眼視力はC0.6(矯正不能)に向上した.VEGF阻害薬硝子体内注射からC4カ月後に,OCTにて再度CIRFを認めたのでアフリベルセプト硝子体内注射を施行した.以降C28カ月間COCT所見の増悪や視力低下を認めていない.図4フルオレセイン蛍光造影検査a:早期相.色素沈着部の低蛍光所見を認める.b:後期相.腫瘍内部毛細血管からの蛍光漏出を認め,CNVと思われる箇所(.)から明らかな蛍光漏出を認めず.図5再発時の右眼OCTとOCTAa:OCT.隆起病変の直上にCIRF(.)を認める.b:OCTA.隆起病変の位置にCCNVの増生(.)を認める.II考按CHRRPEの有病者は男性に多く,ほとんどが片眼性であり,小児期に診断されることが多い3,4).CHRRPE自体は通常経過中の増大傾向は少ないとされている1).そのため高齢になってから黄斑部の合併症を併発し診断される場合もある4).病理組織的所見についての報告では,主要組織は層状構造の乱れた肥厚した奇形網膜であり,多数の網膜色素上皮細胞,グリア細胞,毛細血管細胞から構成されている2).CHRRPEの眼底所見としては,境界不明瞭な色素性隆起性病変,網膜血管の蛇行,腫瘍内の多数の毛細血管,網膜皺襞,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)の色素脱・色素沈着があげられる1).FAは特徴的な所見を示し,CHRRPE診断には不可欠な検査である.FA初期相では腫瘍の色素沈着部が脈絡膜背景蛍光をブロックするため低蛍光を示し,後期相では腫瘍内微細血管毛細血管から蛍光漏出を示し,晩期まで残存する過蛍光を呈する6).OCTでは網膜内層に高反射領域,層構造の不整を認める5,10).CHRRPEを脈絡膜悪性黒色腫と誤診し,眼球摘出に至った例の報告があるため,脈絡膜悪性黒色腫との鑑別は重要である.脈絡膜悪性黒色腫では限局性脈絡膜の隆起性病変を形成し,FAでは早期相で腫瘍内の点状の過蛍光がしばしば認められ,後期相では腫瘍内に多発する色素貯留を認める9).本症例においては,OCTで網膜内層に高反射領域,層構造不整,FA早期相で色素沈着部に一致する低蛍光,後期相で腫瘍内毛細血管からの多数の蛍光漏出を認め,CHRRPEと診断した.CHRRPEのおもな合併症として視力低下や斜視が報告されているが,硝子体出血,CNV,網膜出血,黄斑浮腫,黄斑上膜,黄斑円孔,網膜.離などの合併も報告されており4),CNVの合併はまれである.RajanらはCCHRRPEの発生部位を視神経乳頭周囲,黄斑部,その他で分類し,視神経乳頭周囲に存在する場合,その他の部位に存在するよりもCRPE不整やCSRF,CNVを合併すると報告している15).本症例は視神経乳頭近傍にCHRRPEが存在し,CNVを合併する可能性は高いと考えられる症例であった.CNVを合併した際の治療法について確立した方法はないが,VEGF阻害薬治療,ステロイドのCTenon.下注射,硝子体手術などが報告されている11,13,14).ShieldsらはC77例のCHRRPEにおいてC3例にCCNVの合併を認め,1例はレーザー治療,2例は経過観察を選択したと報告している4).Lazza-riniらはCCNVに対してCVEGF阻害薬硝子体内注射とステロイドのCTenon.下注射によりCSRFは消失したと報告している13).RajanらはC21例中C3例にCCNVを認め,1例はCVEGF阻害薬硝子体内注射を施行し,1例は硝子体手術施行したと報告している14).本症例も既報と同様にCCNVの合併に対して複数回のVEGF阻害薬硝子体内注射を施行した.視力回復したのち,最終投与から約C1年でCCNVの再燃を認めたが,再度CVEGF阻害薬硝子体内注射をして以降C28カ月間CCNVの活動性の再燃を認めていない.以上から,VEGF阻害薬硝子体内注射がCCNVの活動抑制に寄与していることが示唆された.CHRRPEは,まれな疾患であり,腫瘍の増大は少ないとされているが,発生部位によっては合併症を併発する可能性もあり,詳細な評価を必要とする.その評価にはCOCTやFAが有用である.CNVを合併する場合もあり,VEGF阻害薬硝子体内注射の複数回投与によってCCNV活動性を抑制することが可能であり,視力低下を防ぐことができると考えられる.文献1)GassJD:AnusualhamartomaofthepigmentepitheliumandCretinaCsimulatingCchoroidalCmelanomaCandCretinoblas-toma.TransAmOphthalmolSocC71:171-183,C19732)VogelCMH,CZimmermanCLE,CGassJD:ProliferationCofCtheCjuxtapapillaryCretinalCpigmentCepitheliumCsimulatingCmalignantmelanoma.DocOphthalmolC26:461-481,C19693)SchachatCAP,CShieldsCJA,CFineCSKCetal:CombinedCham-artomaoftheretinalandpigmentepithelium.Ophtalmolo-gyC91:1609-1615,C19844)ShieldsCCL,CThangappanCA,CHartzellCKCetal:CombinedChamartomaCofCtheCretinaCandCretinalCpigmentCepitheliumCin77consecutivepatientsvisualoutcomebasedonmacu-larCversusCextramacularCtumorClocation.COpthalmologyC115:2246-2252,C20085)佐藤唯,竹田宗泰,吉田富士子:多彩な臨床像を持つ網膜及び網膜色素上皮過誤腫のC3例.日眼会誌C111:26-34,C20076)田平瑛美,吉川洋,河原澄枝ほか:網膜および網膜色素上皮過誤腫のC4例.臨眼C65:749-756,C20117)早坂依里子,早坂征次,越生晶ほか:自覚症状がなく視力良好な傍乳頭部網膜・網膜色素上皮過誤腫のC2例.眼臨C95:719-722,C20018)土師祐子,菅澤淳,田尻健介ほか:光干渉断層計が診断に有用であった網膜および網膜色素上皮過誤腫のC1例.臨眼C71:1331-1336,C20179)阿曹夏江,山上淳吉,山本禎子ほか:網膜および網膜色素上皮過誤腫のC1症例.あたらしい眼科C15:1037-1039,C199810)松山真弘,中道悠太,城信雄ほか:網膜・網膜色素上皮過誤腫の光干渉断層計所見.臨眼C70:1311-1318,C201611)InoueM,NodaK,IshidaSetal:SuccessfultreatmentofsubfovealCchoroidalCneovascularizationCassociatedCwithCcombinedChamartomaCofCtheCretinaCandCretinalCpigmentCepithelium.AmJOphthalmolC138:155-156,C200412)TheobaldGD,FloydG,KirkHQ:Hyperplasiaofthereti-nalCpigmentCepitheliumCsimulatingCaneoplasm:reportCofCtwocases.AmJOphthalmolC45:235-240,C195813)LazzariniCAT,CKhersanCAH,CPatelCANCetal:PeripheralCcombinedChamartomaCofCtheCretinaCandCretinalCpigmentCepitheliumCwithCremoteCperipapillaryCchoroidalCneovascu-larCmembrane.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC20:100954,C202014)RajanG,RajeevRP,VivekPDetal:Choroidalneovascu-larizationCassociatedCwithCcombinedChamartomaCofCretinaCandCretinalpigmentCepithelium:MultimodalCimaging.CIndianJOphthalmolC66:1866-1868,C201815)RajanCG,CFungCTA,CLupidiCMCetal:PeripapillaryCversusCmacularCcombinedChamartomaCofCtheCretinaCandCretinalCpigmentepithelium:imagingCcharacteristics.CAmCJCOph-thalmolC200:263-269,C2019***

1 日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズ 「クラリティワンデー」の装用調査

2023年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(4):560.564,2023c1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズ「クラリティワンデー」の装用調査小玉裕司*1植田喜一*2工藤昌之*3塩谷浩*4鈴木崇*5月山純子*6*1小玉眼科医院*2ウエダ眼科*3工藤眼科クリニック*4しおや眼科*5いしづち眼科*6社会医療法人博寿会山本病院CSurveyoftheclariti1day,aSingle-dayDisposableSiliconeHydrogelContactLensYujiKodama1),KiichiUeda2),MasayukiKudo3),HiroshiShioya4),TakashiSuzuki5)andJunkoTsukiyama6)1)KodamaEyeClinic,2)UedaEyeClinic,3)KudoEyeClinic,4)ShioyaEyeClinic,5)IshizuchiEyeClinic,6)DepartmentofOphthalmology,HakujukaiYamamotoHospitalC1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者にCCooperVision社の「クラリティワンデー」を処方し,装用時の取り扱いやすさや自覚症状などについて調査を実施した.2021年C1月C22日.4月C24日に国内C6施設において近視および近視性乱視を有する被検者C60例を登録し,クラリティワンデー装用開始前とC2週間の観察期間終了後にアンケート調査を実施できたC56例を対象にデータを解析した.レンズの取り扱いやすさに関する質問のうち,つけやすさの満足度がもっとも高く,49例(87.5%)が非常に満足または満足と回答しており,参加前レンズのC43例(75.0%)と比べても満足度が高かった.自覚症状については,参加前レンズと比較してクラリティワンデーでは日中の乾燥感が有意に少ないことが示された.本調査の結果からクラリティワンデーは取り扱いやすさの満足度が高く,日中の乾燥感が少ないCSCLであると考えられた.Inthisstudy,theclariti1day(CooperVision),asingle-daydisposablesiliconehydrogelsoftcontactlens(SCL),wasprescribedtodailydisposableSCLusers,andasurveywasthenconductedontheeaseofuseandsubjectivesymptomswhenwearingthelens.Thisstudyinvolved56subjectswithmyopiaandmyopicastigmatismwhowereenrolledCbetweenCJanuaryC22,C2021CandCAprilC24,C2021CatCsixCfacilitiesCinCJapan.CTheCsurveyCwasCadministeredCbeforethestartofclariti1dayuseandattheendoftheobservationperiod.Intermsoflenshandling,theitemwiththehighestlevelofsatisfactionwas“easeofapplication”,with49subjects(87.5%)answering“verysatis.ed”Cor“satis.ed”withCclaritiC1Cday,CindicatingCaChigherCsatisfactionCwithCclaritiC1CdayCthanCwithCtheCpreviouslyCusedSCL(n=43,75.0%).CMoreover,CtheCsubjectsCreportedCthatCthereCwasCsigni.cantlyClessCdrynessCduringCtheCdayCwhenCwearingCtheCclaritiC1CdayCcomparedCtoCtheCpreviouslyCusedCSCL.CTakenCtogether,CtheC.ndingsCinCthisCstudyCshowCthatCtheCclaritiC1CdayCappearsCtoCbeCanCSCLCthatCprovidesCtheCuserCwithCaChighClevelCofCsatisfactionCwithCregardtohandling.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(4):560.564,C2023〕Keywords:コンタクトレンズ,1日使い捨てコンタクトレンズ,シリコーンハイドロゲルレンズ,クラリティワンデー.contactlenses,1-daydisposablecontactlenses,siliconehydrogellenses,clarity1-day.Cはじめに1日使い捨てのソフトコンタクトレンズ(softCcontactlens:SCL)処方は増加の傾向がみられ,2020年のレポート1)によると,46%がC1日使い捨てCSCLであったと報告されている.なかでも,最近では高い酸素透過性などの優れた性能を有するシリコーンハイドロゲルレンズの処方が主流となりつつある.1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズである「クラリティワンデー」(CooperVision社)がわが国でもC2020年C4月に上市された.わが国にて販売されているCSCLのうち,より安価で手の届きやすいシリコーンハイドロゲルレンズという位置づけのクラリティワンデーであるが,わが国における装〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂C15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,Ph.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,Joyo-city,Kyoto610-0121,JAPANC560(128)表1クラリティワンデーのスペック項目スペック素材名Csomo.lconA含水率56%ベースカーブC8.6Cmm直径C14.0Cmm中心厚0.07Cmm(C.3.00D)酸素透過係数(DK値)C60×10.11(cm2/sec)・(mClOC2/(CmlC×mmHg))酸素透過率(DK/t値)C86×10.9(cm/sec)・(mClOC2/(CmlC×mmHg))(.3.00D)弾性率C0.5CMPaC用実績だけでなく,その装用感などについての情報も十分ではない.そこで,近視および近視性乱視を有するC1日使い捨てハイドロゲルレンズ装用者に対してクラリティワンデーを処方し,クラリティワンデー装用時の取り扱いやすさや自覚症状などについて,装用調査を実施した(jRCTC1032200350).CI方法本調査は,1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズであるクラリティワンデー(表1)をテストレンズとして国内C6施設において実施した.2021年C1月C22日.4月C24日に近視および近視性乱視を有する被検者を登録した.選択基準は,18歳以上(未成年の場合には保護者からの同意も取得),1日使い捨てハイドロゲルレンズを装用している,装用に問題となる異常所見が前眼部にないなどとした.除外基準は,単眼のみに装用予定,無水晶体眼および人工眼内レンズ挿入眼を有する,眼に影響を及ぼす可能性のある全身疾患を有する,視機能およびレンズの性能に影響を及ぼす可能性のある薬剤を使用している,角膜浸潤あるいは角膜潰瘍を有する,角膜手術の既往歴があるなどとした.事前検査にて装用中のC1日使い捨てハイドロゲルレンズの度数が適正な度数であることを確認した.フィッティングの状態については細隙灯顕微鏡を用いて評価した.観察期間は2週間(装用開始日をC0日,14C±5日に終了検査を実施)とし,クラリティワンデー装用開始前と観察期間終了後にアンケートを実施した.アンケートの主要評価項目は取り扱いやすさとし,副次評価項目は自覚症状の程度,満足度,継続意向および購入意向,調査参加前に装用していたレンズ(参加前レンズ)との比較,SCL全般についての印象とした.自覚症状である乾燥感(日中,夜間),装用感(装用直後,日中,夜間),見え方(装用直後,日中,夜間)はCvisualCanalogscale(VAS)を用いて非常に「良好」.「非常に不良」(0.100)で評価し,くもりおよび充血はC4段階(なし.重度)で評価した.自覚症状の程度以外の項目はC5段階で評価した.自覚症状の程度の変化についてはCWilcoxonの符号付順位検定を用い,自覚症状の程度以外の項目はCPearsonのC|2検定または二項検定を用いて解析した.なお本調査は,開始に先立って調査内容などの十分な説明を行い,インフォームド・コンセントを取得した被検者を対象として組み入れた.また,調査実施医療機関以外の外部倫理審査委員会の承認を得て実施した(特定非営利活動法人CMINS研究倫理審査委員会,整理番号CMINS-REC-200228).CII結果本調査には,60例C120眼を登録した.男性C15例(25.0%),女性C45例(75.0%)であり,平均年齢(標準偏差)は37(C±9.96)歳と幅広い年齢の被験者が本調査に参加した.うちC4例C8眼が観察期間内に終了検査を実施できず,それらを除外したC56例C112眼を本調査の解析対象とした.調査対象のC56例において,参加前レンズは,ワンデーアキュビューモイスト(22例;39.3%)がもっとも多く,ついでメニコンマジックとバイオトゥルーワンデー(それぞれC7例;12.5%)であった.初回検査時に測定した角膜曲率半径(弱主経線)の中央値(範囲)はC7.82(7.36.8.37)mmであった.処方したクラリティワンデーのレンズ度数の平均値(標準偏差)は,C.3.62(C±1.39)Dであった.また,フィッティングについて問題となる事象は認められなかった.C1.主要評価項目レンズの取り扱いやすさついて,満足度がもっとも高かった項目はつけやすさであり,49例(87.5%)が「非常に満足」または「満足」と回答しており,参加前レンズのC42例(75.0%)と比べて満足度が高い傾向がみられた.また,裏表のわかりやすさでもC17例(30.0%)が「非常に満足」と回答しており,参加前レンズのC9例(16.1%)と比べて満足度が高い傾向がみられた(図1).C2.副次評価項目a.自覚症状の程度乾燥感(VAS平均値)は参加前レンズで日中C36.13,夜間43.81,クラリティワンデーではそれぞれC28.06とC36.68であり,いずれも夜間の乾燥感が増加する傾向にあった.参加0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%レンズの裏表のわかりやすさ(参加前レンズ),nレンズの裏表のわかりやすさ(クラリティワンデー),nレンズのつけやすさ(参加前レンズ),nレンズのつけやすさ(クラリティワンデー),nレンズのはずしやすさ(参加前レンズ),nレンズのはずしやすさ(クラリティワンデー),n総合的な取り扱いやすさ(参加前レンズ),n総合的な取り扱いやすさ(クラリティワンデー),n■非常に満足■満足■どちらともいえない■満足していない■まったく満足していない図1レンズの取り扱いやすさあまりそう思わない非常にそう思う図2継続使用の意向前レンズとクラリティワンデーの比較では,日中の乾燥感がクラリティワンデーで有意に少ないことが示された(p<0.05).装用感(VAS平均値)は参加前レンズで装用直後C18.46,日中C26.11,夜間C36.05,クラリティワンデーではそれぞれ17.96,22.54,32.96であり,いずれも夜間の装用感が低下する傾向がみられたが,参加前レンズとクラリティワンデーの比較ではいずれの評価時点においても差は認められなかった.見え方(VAS平均値)は参加前レンズで装用直後C18.13,日中C22.13,夜間C30.57,クラリティワンデーではそれぞれ15.33,18.95,26.07であり,いずれも夜間の見え方が低下する傾向がみられたが,参加前レンズとクラリティワンデーの比較ではいずれの評価時点においても差は認められなかった.くもりを自覚した割合(軽度.重度)は参加前レンズC14あまりそう思わないそう思わない16.1%1.8%例とクラリティワンデーC15例で大きな差はなかった.充血を自覚した割合(軽度.重度)は参加前レンズC14例とクラリティワンデーC9例であり,クラリティワンデーで少ない傾向がみられた.Cb.満足度満足した被検者(「非常に満足」および「満足」と回答した被検者の合計)は,見え方および装用感ではそれぞれC78.6%とC75.0%と大多数を占め,うるおい感ではC58.9%と半数超であった.Cc.継続使用および購入意向クラリティワンデーを継続したい被検者(「非常にそう思う」,「そう思う」の合計)はC46%であった(図2).参加前レンズと同価格であれば購入したい被検者(「非常にそう思う」,「そう思う」の合計)はC48%であった(図3).Cd.参加前レンズとの比較快適さ,乾燥感,見え方,取り扱い,総合評価のいずれに(130)0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■非常にそう思う■そう思う■どちらともいえない■あまりそう思わない図5SCL全般についての印象図4クラリティワンデーと参加前レンズとの比較0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%より多くの酸素を通すレンズは眼にとってよいと感じますか,nより多くの酸素を通すレンズは健康的だと思いますか,nコンタクトレンズを選ぶとき,レンズの素材は重要だと思いますか,n「酸素透過性の高い素材のレンズです」と勧められて,現在ご使用のレンズと同じ価格であった場合,購入したいと思いますか,nおいても,クラリティワンデーを選択(「クラリティワンデー」,「ややクラリティワンデー」と回答)する被検者が多い傾向がみられた(図4).Ce.SCL全般についての印象酸素透過性が高いレンズは眼にとってよいと感じる,健康的だと思う(「非常にそう思う」,「そう思う」の合計)と回答した被検者がC90%以上を占めた.また,レンズの素材の重要性や酸素透過性の高いレンズが同価格であった場合の購入意向についても,大多数の被検者が肯定的に回答した(図5).CIII考察クラリティワンデー装用時の取り扱いやすさや自覚症状などについてアンケート調査を実施した結果,参加前レンズよりも肯定的な回答を示した被検者の割合が多かった.なかでも,クラリティワンデー装用時のつけやすさについては,49例(87.5%)が非常に満足または満足と回答しており,参加前レンズのC42例(75.0%)と比べて満足度が高かった.海外で実施された調査の結果からも装用者の満足度の高さが示されており2),同様の傾向が認められた.クラリティワンデー装用時の取り扱いについて,前述のつけやすさのほか,裏表のわかりやすさで非常に満足と回答した被検者がC30%であり,参加前レンズのC16%よりも高かった.シリコーンハイドロゲルレンズは,指に乗せてもレンズの形が保持されることから,従来のハイドロゲルレンズよりも裏表がわかりやすく,満足した被検者が多かったと考えられる.既報の研究結果からは,シリコーンハイドロゲルレンズはハイドロゲルレンズよりも充血や乾燥が低減し装用感が良好であったことや3),良好な装用感が得られた時間が長く,日中の装用感が良好であったこと4)が示されているが,本調査では装用感は参加前レンズとクラリティワンデーで大きく変わらなかった.装用感にレンズの弾性率が影響したのではないかと推察したが,クラリティワンデーの弾性率はC0.5CMPaと公表されており5),ハイドロゲルレンズで公表されている弾性率6)と大きな差違はない.しかし,本調査参加前レンズのもっとも多かったレンズ素材であるワンデーアキュビューの弾性率がC0.26CMPaと低いことから6),弾性率以外にもレンズフィッティングやレンズのエッジ形状などさまざまな要因が影響している可能性も考えられた.参加前レンズと比較してクラリティワンデーは乾燥感が少なかったことが示された.既報でも,シリコーンハイドロゲルレンズにおける乾燥感の減少については報告されているとおりである3,7).さらに,本調査では充血もクラリティワンデーで少ない傾向が示されており,シリコーンハイドロゲルレンズではハイドロゲルレンズよりも充血が低減したとの報告3)や,シリコーン素材による酸素透過性の高さが充血の軽減に寄与するとの報告8)と矛盾しない傾向がみられた.酸素透過性については,酸素を通すことが目にとってよい,健康的だと思うに対して肯定的な回答が多く得られたことから,SCL装用者は酸素透過性について非常に高い意識をもっていると考えられた.したがって,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズであるクラリティワンデーは,酸素透過性という面からも装用者の意向に合致したCSCLであると考えられた.また,近年ではCSCLの製造技術の進歩によりさまざまな製品開発が進むなか,低年齢から,より長い期間コンタクトレンズを装用して生活する人が増えてきており9),これまでのシリコーンハイドロゲルレンズに比べてコスト面で手に届きやすいレンズであるクラリティワンデーは,初めてCSCLを装用する場合にもその高い酸素透過性から長期装用期間を考慮しても眼にやさしいCSCLとして,装用者のCqualityoflife向上の一助となる可能性が期待できると考えられた.本調査の結果からクラリティワンデーは取り扱いの満足度が高くかつ良好なフィッティングを得られるCSCLであることが示された.SCLの素材にもさまざまな種類があるため,素材別の満足度について今後さらなる検討が必要であると考えられた.謝辞:本論文は,クーパービジョン・ジャパン株式会社プロフェッショナルサービスに協力いただいた.この場を借りて深く御礼申し上げる.本稿作成にあたっては,クーパービジョン・ジャパン株式会社からの資金提供により,株式会社コルボ,および株式会社MaxwellInternationalの山下弘毅氏に支援いただいた.利益相反:月山純子[F]日本アルコン文献1)MorganCPB,CWoodsCCA,CTranoudisCIGetal:InternationalCContactCLensCPrescribingCinC2020.Chttps://www.clspectrum.Ccom/issues/2021/january-2021/international-contact-lens-prescribing-in-2020.Accessed,2022年C2月C18日2)McParlandCM,CSulleyA:ClaritiC1day:aCcontinuousCimprovementstory.Optician36-43,6December20193)DumbletonK,KeirN,MoezziAetal:ObjectiveandsubC-jectiveresponsesinpatientsre.ttedtodailywearsiliconehydrogelcontactlenses.OptomVisSciC83:758-768,C20064)MichaudL,ForcierP:Comparingtwodi.erentdailydis-posablelensesforimprovingdiscomfortrelatedtocontactlenswear.ContLensAnteriorEyeC39:203-209,C20165)クーパービジョン・ジャパン社:クラリティワンデー製品ガイド.2021年C4月6)丸山邦夫:コンタクトレンズの弾性率.あたらしい眼科C35:1505-1506,C20187)RileyC,YoungG,ChalmersR:Prevalenceofocularsur-facesymptoms,signs,anduncomfortablehoursofwearincontactClenswearers:theCe.ectCofCre.ttingCwithCdaily-wearCsiliconeChydrogellenses(seno.lcona)C.CEyeCContactCLensC32:281-286,C20068)BrennanCN,CMorganP:ClinicalChighsCandClowsCofCDk/t.CPart1-Hasoxygenrunoutofpu.?COpticianC238:16-20,C20099)渡辺英臣,柏井真理子,大薮由布子ほか:平成C30年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査.日本の眼科C90:C1194-1216,C2019C***

レーザー生体共焦点顕微鏡が診断に有用であった 無痛性アカントアメーバ角膜炎の1 例

2023年4月30日 日曜日

《第58回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科40(4):556.559,2023cレーザー生体共焦点顕微鏡が診断に有用であった無痛性アカントアメーバ角膜炎の1例三澤真奈美*1伊野田悟*1,2渡辺芽里*1川島秀俊*1*1自治医科大学眼科学講座*2新小山市民病院眼科CACaseofPainlessAcanthamoebaKeratitisDiagnosedwithConfocalLaserScanningMicroscopyManamiMisawa1),SatoruInoda1,2),MeriWatanabe1)andHidetoshiKawashima1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,Shin-OyamaCityHospitalC症例はC52歳,男性.左眼視力低下を主訴に前医受診.前医初診時に疼痛はなく,角膜上皮障害・実質混濁のためヘルペス角膜炎が疑われ,抗ウイルス薬,ステロイド点眼を含む局所加療をC1カ月継続したが,改善なく自治医科大学附属病院(以下,当院)を紹介受診.当院初診時,左眼に毛様充血はなく,角膜上皮下に輪状浸潤影を認めた.疼痛を認めず,ステロイド点眼を休薬すると,毛様充血の出現と輪状浸潤影が増悪した.レーザー生体共焦点顕微鏡(LCM)によって,アメーバシスト様の円形高輝度物質を上皮内に認めた.浸潤影部の擦過・塗抹鏡検によりアメーバシストを同定し,アカントアメーバ角膜炎(AK)と確定診断した.角膜掻爬,クロルヘキシジン点眼,ボリコナゾール点眼で加療したが奏効せず,polyhexamethylenebiguanide点眼とベタメタゾン錠内服を開始し,病態が改善した.無痛性でもCAKを鑑別に上げることは重要であり,非侵襲的なCLCMはCAKの診断補助に有用である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCpainlessCAcanthamoebakeratitis(AK)thatCwasCsuccessfullyCdiagnosedCwithCconfocallaserscanningmicroscopy(CLSM).Casereport:A52-year-oldmalevisitedanotherclinicafterbecom-ingawareofdecreasedvisioninhislefteye.Slit-lampexaminationrevealedcornealsuper.cialpunctatekeratopa-thyandstromalopacity,yetwithnopain.Hewasdiagnosedwithherpeticsimplexkeratitis,andtreatedwithacy-clovirCandCtopicalCcorticosteroid.CHowever,CheCwasCreferredCtoCourChospitalC1CmonthClaterCdueCtoCnoCimprovement.CUponexamination,weobservedaring-shapedcornealstromalsuper.cialopacitywithoutciliaryhyperemiainhisleftCeye,CandCCLSMCexaminationCrevealedCAcanthamoebaCcyst-likeCcircularChyperintenseCmaterialsCinCtheCepitheli-um.CornealabrasionsmearmicroscopyrevealedAcanthamoebacysts,andade.nitivediagnosisofAKwasmade.TopicalCchlorhexidineCandCvoriconazoleCwereCadministered,CyetCthereCwasCnoCimprovement,CsoCtreatmentCwasCswitchedtotopicalpolyhexamethylenebiguanideandoralbetamethasoneandtheAKgraduallyimproved.Conclu-sions:CLSMwasfoundtobeausefulnoninvasivetoolforthediagnosisofpainlessAK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(4):556.559,C2023〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,レーザー生体共焦点顕微鏡,角膜知覚低下.acanthamoebakeratitis,laserconfocalscanningmicroscope,cornealhypoesthesia.Cはじめにアカントアメーバは土壌や水道水に常在する原生生物で,栄養体またはシストの二相性で存在する.アカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)は重篤な視力障害をきたす可能性のある角膜感染症で,ソフトコンタクトレンズ(SCL)使用者において増加傾向を認める1).典型的には,初期に偽樹枝状角膜炎,角膜上皮・上皮下混濁,結膜充血などの所見を呈し,移行期にリング状角膜浸潤病変,完成期には角膜円盤状混濁,角膜潰瘍,前房蓄膿をきたす2).発症者の50.95%が有痛性であるとされ,診断の一助となる1,3).確定診断は往々にして困難であり,確定診断前のステロイド加療は重症化のリスクとされている4.6).〔別刷請求先〕三澤真奈美:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:ManamiMisawa,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC556(124)図1当院初診時の左眼前眼部所見a:充血を伴わず,角膜輪状浸潤影を認めた.Cb:フルオレセイン染色にて角膜中央部から輪状混濁部にかけて点状上皮障害を認め,上皮欠損は伴わなかった.レーザー生体共焦点顕微鏡(laserCconfocalCscanningmicroscopy:LCM)は,レーザー光を光源として焦点に合わせるための角膜モジュールを使用すると,光学切片が2Cμm程度の高解像度の画像を得られ,アカントアメーバのシストの観察や真菌の菌糸の観察に有用とされる7,8).今回,LCMが無痛性CAKの診断に有用であった症例を経験したので報告する.CI症例患者:52歳,男性.主訴:左眼視力低下,眼痛なし.既往歴:特記すべき事項なし,2週間交換型CSCL使用.現病歴:20XX年C10月,左眼視力低下を主訴に前医受診.初診時に疼痛なく,角膜上皮障害・実質混濁を認めた.前医にて単純ヘルペス(herpesCsimplexvirus:HSV)角膜炎が疑われ,アシクロビル眼軟膏C3%,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼,レボフロキサシンC1.5%点眼,ヒアルロン酸ナトリウムC0.1%点眼各C5回/日を処方された.1カ月の経過で臨床所見,症状に改善が認められずC20XX年11月自治医科大学附属病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼(1.2C×sph.5.5D),左眼(0.3C×sph.5.0D).眼圧は右眼C10mmHg,左眼13mmHgであった.左眼に角膜の輪状浸潤影を認めたが,上皮欠損,結膜毛様充血,流涙,疼痛は伴わなかった(図1).右眼の前眼部および中間透光体には異常所見は認めなかった.前医でのベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼により,疼痛や充血などの臨床所見が修飾されている可能性を考え,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼を中止した.初診C3日後には左眼結膜毛様充血の出現,角膜輪状浸潤影の増悪を認めた.なお,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼中止後も疼痛はなかった.図2アカントアメーバの画像所見a:レーザー生体共焦点顕微鏡所見.深度C22Cμmでの撮影.アカントアメーバシスト様の隔壁を有した円形高輝度物質を角膜上皮内に認めた.Cb:前眼部光干渉断層計画像.角膜上皮下,実質浅層内に,輪状混濁と一致し,角膜曲線と平行に走る高反射域を認めた.Cc:角膜擦過検体の塗抹像(C×400).ディフクイック染色像.隔壁が染まったアカントアメーバシストを認めた.無痛性であったため,非侵襲的なCLCMによる探索を先行して施行した.LCMによる探索では,角膜上皮内にアカントアメーバのシスト様のC10.20Cμmの円形高輝度物質を認めた(図2a).無痛性であったが,前医からの経過,輪状角膜浸潤影所見,頻回交換型CSCL使用の既往,そしてCLCM図3角膜掻爬,0.05%クロルヘキシジン点眼,1%ボリコナゾール点眼開始後の経過a:治療開始前の左眼前眼部.Cb:治療C10日目.角膜輪状浸潤影の増悪,結膜毛様充血の前房蓄膿の増悪を認めた.Cc:治療C22日目.角膜浸潤影の深層への増悪,潰瘍病変の出現,前房蓄膿の増悪を認めた.図40.02%polyhexamethylenebiguanide点眼+ベタメタゾン1mg内服後1カ月の左眼前眼部所見治療変更からC1カ月,角膜輪状浸潤影は縮小傾向となり,瘢痕化しつつある.で確認された円形高輝度物質からCAKを疑った.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では角膜実質浅層に輪状混濁と一致し,角膜曲線に対して平行に走る高反射域を認めた(図2b).角膜擦過検体によるCHSV-PCRは陰性であり,角膜擦過塗抹検体のディフクイック染色でアメーバシストを認め(図2c),AKの確定診断に至った.またCCochet-Bonnet型角膜知覚計では右眼C55Cmm/左眼C35Cmmと角膜知覚の左右差を認めた.角膜知覚低下の可能性が示唆されたが,左眼角膜知覚以外の三叉神経支配領域の異常は認められず,その他の神経障害を疑う身体所見も認められなかった.確定診断後,週C2回の角膜掻爬,1時間ごとのC0.05%クロルヘキシジン点眼およびC1%ボリコナゾール点眼C8回/日で治療を開始した.しかし,徐々に角膜浸潤影の拡大,充血および前房内炎症の増悪を認めた(図3).上記C3剤による治療への反応性が悪く,治療開始よりC22日後C0.02%Cpolyhexa-methylenebiguanide(PHMB)点眼とベタメタゾンC1Cmg/日の内服を開始し,その後も同量を継続し,徐々に角膜浸潤影・細胞浸潤が鎮静化した(図4).治療開始C106日後,仕事の都合で転居が必要となったため,最終的な転機は不明である.CII考按無痛性CAKの既報としてトライアスロン選手における痛覚低下,HSV角膜炎の既往による角膜知覚の低下9)などの報告がある.本症例は初診時から無痛性であり,角膜知覚低下の可能性が示唆されたため,角膜知覚低下をきたす別の病態の関与の可能性を考慮し鑑別を行った.一般的に角膜知覚をきたしうる病態はCHSV角膜炎など角膜障害に起因するもの,糖尿病などの代謝異常に起因するもの,脳動脈瘤などの頭蓋内疾患に起因するものに大別される.本症例の既往に角膜知覚障害をきたす代謝異常はなく,左眼角膜知覚以外に神経障害を疑う身体所見はなかった.また,混合感染するHSV角膜炎は知覚低下を惹起する10)が,本症例で角膜擦過検体によるCHSV-PCRは陰性かつ前医で抗ヘルペス薬の使用歴があり,混合感染の特定はできなかった.本症例の診断において,LCMが有用であった.LCMは細隙灯顕微鏡では見えない細胞レベルの生体画像が非侵襲的に得られ,AK,真菌性角膜炎,角膜ジストロフィ,サイトメガロウイルス角膜内皮炎などの診断や病巣部位の判定に有用な画像検査である7,8).本症例でもアカントアメーバのシスト様の円形高輝度物質を検知することができた.AKの確定診断には角膜擦過検体の塗抹鏡検でアカントアメーバの同定が必須であるが,LCMは迅速に行うことができる非侵襲的な検査法であり,AK診断において中等度の感度と高度の特異度を有しており11),AKの診断補助に有用である.また,LCMによる探索を繰り返すことで治療によるアカントアメーバ.胞密度の減少をモニターすることができ,AKの予後予測や疾患モニタリングに臨床的に利用することが可能とする報告もある12).AK治療において,ステロイド局所投与はCAKの重症化リスクである.ステロイドは消炎作用によってCAKの臨床所見の増悪を修飾し,AKの診断遅延の原因となる.また,栄養体増殖作用をもつためCAKの活動性を増強し,重症化の原因となる4.6).AK診断前の抗炎症作用を期待したステロイド局所使用は症状の増悪を招くため厳に慎むべきである.本症例では,確定診断前のステロイド使用が診断の遅延,重症化をもたらし,クロルヘキシジン加療に抵抗を示した可能性がある.PHMB点眼およびベタメタゾン内服へと薬剤変更後の病勢変化も,転居のため最終経過を確認できておらず,ステロイドによる消炎効果によって臨床所見を修飾していた可能性は否定できない.確定診断前のステロイド使用は避けるべきであり,確定診断後もその病勢変化を修飾するため,消炎目的の安易なステロイド使用は控えるべきである.AK診断後のステロイド使用に関しては,有効性を論ずる報告もあるが13,14),その知見は少なく,今後の知見の集積が期待される.今回筆者らは,SCL装用者で無痛性のCAKを発症したC1例を経験した.無痛性でもCAKを鑑別に上げることが重要であり,非侵襲的で迅速に行うことができるCLCMはCAKの診断に有用であった.文献1)中川迅:アカントアメーバ角膜炎診断スキルアップへのコツ.臨眼C73:1418-1412,C20192)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科C35:C1613-1618,C2018C3)石橋康久,加治優一:疾患別診断・治療の進め方と処方例角膜疾患アカントアメーバ角膜炎.臨眼C70:204-211,C20164)SternGA,ButtrossM:Useofcorticosteroidsincombina-tionCwithCantimicrobialCdrugsCinCtheCtreatmentCofCinfec-tiouscornealdisease.OphthalmologyC98:847-853,C19915)森谷充雄,子島良平,森洋斉ほか:アカントアメーバ角膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬投与の影響.臨眼C65:C1827-1831,C20116)McClellanCK,CHowardCK,CNiederkornCJYCetal:E.ectCofCsteroidsConCAcanthamoebaCcystsCandCtrophozoites.CInvestCOphthalmolVisSciC42:2885-2893,C20017)小林顕:レーザー生体共焦点顕微鏡による角膜の観察.臨眼C62:1417-1423,C20088)KobayashiCA,CYokogawaCH,CYamazakiCNCetal:InCvivoClaserconfocalmicroscopy.ndingsofradialkeratoneuritisinpatientswithearlystageAcanthamoebakeratitis.Oph-thalmologyC120:1348-1353,C20139)TabinG,TaylorH,SnibsonGetal:Atypicalpresentationofacanthamoebakeratitis.CorneaC20:757-759,C200110)井上幸次:単純ヘルペスウイルス角膜炎.臨眼C70:180-185,C201611)KheirkhahCA,CSatitpitakulCV,CSyedCZACetal:FactorsCin.uencingCtheCdiagnosticCaccuracyCofClasor-scanningCinCvivoconfocalmicroscopyforAcanthamoebakeratitis.Cor-neaC37:818-823,C201812)WangCYE,CTepelusCTC,CGuiCWCetal:ReductionCofCAcan-thamoebacystdensityassociatedwithtreatmentdetectedbyinvivoconfocalmicroscopyinAcanthamoebakeratitis.CorneaC38:463-468,C201913)CarntN,RobaeiD,WatsonSLetal:Theimpactoftopi-calCcorticosteroidsCusedCinCconjunctionCwithCantiamoebicCtherapyConCtheCoutcomeCofCAcanthamoebaCkeratitis.COph-thalmologyC123:984-990,C201614)佐々木香る,嶋千絵子,大中恵里ほか:アカントアメーバ角膜炎の治療における低濃度ステロイド点眼の併用経験.あたらしい眼科36:253-261,C2019***

単純ヘルペスウイルスとメチシリン耐性ブドウ球菌の 混合感染による角膜炎の1 例

2023年4月30日 日曜日

《第58回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科40(4):552.555,2023c単純ヘルペスウイルスとメチシリン耐性ブドウ球菌の混合感染による角膜炎のC1例森山望*1春木智子*2清水由美子*2宮﨑大*2井上幸次*3*1鳥取県立中央病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学*3日野病院組合日野病院CACaseofKeratitisCausedbyaMixedInfectionofHerpesSimplexVirusandMethicillin-resistantStaphylococcusNozomiMoriyama1),TomokoHaruki2),YumikoShimizu2),DaiMiyazaki2)andYoshitsuguInoue3)1)DepartmentofOphthalmology,TottoriPrefecturalCentralHospital,2)CofMedicine,TottoriUniversity,3)HinoHospitalCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,Faculty目的:単純ヘルペスウイルス(HSV)とメチシリン耐性菌による角膜炎に対し,多面的な検査を用い診断・治療を行った症例の報告.症例:46歳,男性.アトピー性皮膚炎,左眼CHSV角膜炎の既往あり.左眼の視力低下,眼痛にて前医を受診.角膜穿孔の可能性があり,鳥取大学医学部附属病院眼科に紹介受診となった.左眼に菲薄化を伴った角膜潰瘍と,樹枝状病変を認めたため,HSVと細菌の混合感染を疑い,バラシクロビル内服,アシクロビル眼軟膏,セフメノキシム点眼,セファゾリン点滴を開始した.Real-timePCR検査でCmecA遺伝子,HSV-DNAが検出され,培養ではメチシリン耐性CStaphylococcusChaemolyticusが陽性となったためバンコマイシン点滴と点眼(0.5%)へ変更した.以後Creal-timePCRを再検しながら各薬剤を漸減終了し,瘢痕治癒した.結論:混合感染による角膜炎では多面的な検査が必要であり,とくにCreal-timePCRは診断,治療薬の減量・中止の判断や病態の推測に有用である.CPurpose:Toreportacaseofkeratitiscausedbyherpessimplexvirus(HSV)andmethicillin-resistantbacte-riaCthatCwasCdiagnosedCandCtreatedCbasedConCtheCresultsCofCmultipleCexaminations.CCaseCreport:AC46-year-oldCmaleCpatientCwithCatopicCdermatitisCandCaChistoryCofCHSVCkeratitisCofChisCleftCeyeCvisitedCaClocalCclinicCdueCtoCdecreasedCvisionCandCpainCinChisCleftCeye.CAnCimpendingCcornealCperforationCwasCobserved,CsoCheCwasCreferredCtoCourdepartmentfortreatment.Uponexamination,acornealulcerwiththinninganddendriticlesionswasobservedinChisCleftCeye,CandCaCmixedCHSV/bacteriaCinfectionCwasCsuspected.CReal-timeCPCRCdetectedCtheCmecACgeneCandCHSV-DNA,CandCtheCcultureCwasCpositiveCforCmethicillin-resistantCStaphylococcusChaemolyticus,CsoCheCwasCtreatedCwithCvalacyclovir,CtopicalCacyclovir,CandCvancomycin.CBasedConCtheC.ndingsCofCrepeatedCreal-timeCPCRCtests,CtheCdrugsweregraduallytaperedo.andthescarhealed.Conclusion:Incasesofkeratitiscausedbyamixedinfec-tion,Creal-timeCPCRCisCespeciallyCusefulCforCtheCdiagnosis,CtheCdecisionCofCdrugCreductionCandCcessation,CandCtheCinterpretationofthepathologicalstate.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(4):552.555,C2023〕Keywords:混合感染,単純ヘルペスウイルス,メチシリン耐性CStaphylococcushaemolyticus,real-timePCR.Cmixedinfection,herpessimplexvirus,methicillin-resistantStaphylococcushaemolyticus.Cはじめに単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)角膜炎は樹枝状角膜炎や地図状角膜炎など,典型的な臨床像を示すことが多いが,混合感染を起こすと非典型的な臨床像や経過を示すことが多く,的確に診断し治療することが困難である1).実臨床で,混合感染による角膜炎は一定数存在していると考えられるが,混合感染であることを明確に示した報告は多くはない1.5).今回筆者らはCHSVとメチシリン耐性StaphylococcusChaemolyticus(S.haemolyticus)による混合感染角膜炎に対し,real-timePCR(polymerasechainreac-〔別刷請求先〕森山望:〒680-0901鳥取県鳥取市江津C730鳥取県立中央病院眼科Reprintrequests:NozomiMoriyama,DepartmentofOphthalmology,TottoriPrefecturalCentralHospital,730Ezu,Tottori-shi,Tottori680-0901,JAPANC552(120)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(120)C552C0910-1810/23/\100/頁/JCOPYtion)を含む多面的な検査が診断,治療に有効であったC1例を経験したので報告する.なお,本症例報告の執筆・投稿について患者の自由意思による同意を得た.CI症例患者:46歳,男性.主訴:左眼視力低下,眼痛,羞明.既往歴:アトピー性皮膚炎,左眼CHSV角膜炎,左眼裂孔原性網膜.離に対して強膜バックリング術後,左眼白内障術後,両眼円錐角膜.数年前にハードコンタクトレンズ装用自己中断.現病歴:2021年C11月,1週間前からの左眼の視力低下と眼痛,羞明を訴え近医を受診した.左眼に角膜潰瘍を認め,角膜穿孔の可能性も考慮され,同日鳥取大学医学部附属病院眼科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.6C×sph.2.00D(cyl.6.00CDAx85°),左眼C0.07(0.1C×sph.2.00D)で,眼圧は右眼10mmHg,左眼C9mmHgと左右差はなく,角膜知覚はCochet-Bonnet角膜知覚計にて右眼C60Cmm,左眼はC30Cmmであった.左眼結膜に毛様充血を認め,角膜下方に径C5Cmm程度の円形上皮欠損と浸潤が認められ,菲薄化を伴っていた.形状解析では角膜炎による角膜浸潤部位に一致した限局性の菲薄化を認め,また形状的に突出せず,むしろ平坦化していたので,角膜炎による菲薄化が生じていると考えられた.菲薄部後面には少数の色素沈着を認め,前房細胞も認めた(図1).前房蓄膿は認めなかった.また,フルオレセイン染色で円形上皮欠損から瞳孔領に向かって伸びる樹枝状病変を認めた(図2).円形上皮欠損の上縁は,下縁のように平滑ではなく,不整な境界を示していた.眼瞼結膜に明らかなアレルギー所見は認めなかった.僚眼の右眼中央角膜はやや薄かったが,Vogt’sstriaeやCFleischerringは認めなかった.経過:初診時所見より,HSVと細菌の混合感染による角膜炎を疑った.HSVに対してバラシクロビルC1Cg/日内服,アシクロビル(ACV)眼軟膏C1日C5回を開始し,細菌に対しては穿孔の可能性を考慮して,薬剤毒性の要因のもっとも少ない生理食塩水溶解C0.5%セフメノキシム点眼をC1時間ごとで開始した.病因検索のために角膜下方の円形病変部を擦過し,各種検査に供した.塗抹検鏡ではグラム陽性球菌を多数認め,アカントアメーバや真菌は認めなかった.Real-timePCRではCbacteriaDNA(16srDNA)がC1.9C×104Ccopies/sample,メチシリン耐性遺伝子CmecAがC2.7C×103Ccopies/sample,HSV-DNAがC1.2C×106copies/sampleであった.培養はCS.haemolyticusが陽性であった.また,別の検体として樹枝状病変部を擦過しCHSV-DNAと水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)のCDNAをCreal-timePCRで検索したところ,HSV-DNAはC2.6C×107Ccopies/Csampleであり,VZV-DNAは陰性だった.以上の結果から,初診時所見で判断したとおり,HSVと細菌による混合感染であったことが確定された.初診日の翌日から入院し,S.haemolyticusに対してセファゾリン点滴を追加したが,Creal-timePCRでCmecAが検出され,入院C2日目には感受性結果よりメチシリン耐性CS.haemolyticusであること,加えてレボフロキサシンなどを含め多剤耐性であることが判明し(表1),セフメノキシム点眼を自家調剤C0.5%バンコマイシン点眼に,セファゾリン点滴をバンコマイシン点滴にそれぞれ切り替えた.このときすでに,樹枝状病変は消失していた.入院からC1週間後に,病変部上縁を擦過しCreal-timePCRを再検したところ,HSV-DNAはC1.3C×106Ccopies/sampleと減少しているものの,依然高値であったため,バラシクロビル内服は継続とした.一方,mecAはわずかな陽性反応を示すのみだった.臨床所見でも上皮欠損は明らかに縮小しており(図3),メチシリン耐性CS.haemolyticusに対しバンコマイシンが著効した結果と考え,バンコマイシン点滴を終了した.入院からC2週間後には,上皮欠損はさらに縮小した.Real-timePCRでは,mecAは陰性化し,HSV-DNAはC6.6C×104copies/sampleと著減したため,バンコマイシン点眼を漸減し,バラシクロビル内服を終了した.入院からC3週間後,上皮欠損はほぼ消失し(図4),Real-timePCRはわずかにフルオレセイン染色で染まる線状の部位を擦過し行った.mecAは陰性化を維持していたが,一方,HSV-DNAはC1.1C×103copies/sampleと依然検出され,陰性化は確認できなかったため,ACV眼軟膏は終了せず,1日C3回に減量し,入院からC4週間後に退院となった.退院後は涙液を検体としてCreal-timePCRを行い,HSV-DNAを測定した.退院からC7日後はC3.4C×103copies/sample,21日後はC6.9C×103copies/sample,42日後はC2.4C×103Ccopies/sampleと,数千コピーがC3回連続で検出された.しかし,その間に上皮欠損の再発や新たな病巣出現はなかったため,無症候で涙液中にウイルスが検出されるCsheddingの状態と判断し,退院からC70日後,ACV眼軟膏を中止した.左眼視力は矯正視力C0.4まで改善し,病巣部の菲薄化はあるものの瘢痕化し,現在まで再発を認めていない.CII考按アトピー性皮膚炎患者は,HSV角膜炎を発症しやすいことが知られている.要因として,HSVに対する細胞性免疫が低下していることや,湿疹のある皮膚ではCHSVが増殖しやすく,手を介して拡散させている可能性が示唆されている6).一般にアトピー性皮膚炎患者のCHSV角膜炎は,両眼性でおもに上皮型であり,遷延しやすいという特徴があり,アトピー性皮膚炎患者では,角膜擦過物・涙液のCHSV-DNA量が約C47倍増大し,再発期間を短縮する可能性があ(121)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C553C図1初診時前眼部写真図2初診時フルオレセイン染色写真菲薄化を伴った径C5Cmm程度の浸潤を認める.円形上皮欠損と瞳孔領に向かって伸びる樹枝状病変を認める.図3初診1週後前眼部写真上皮欠損の縮小を認める.図4初診3週後前眼部写真上皮欠損の消失を認める.表1分離されたStaphylococcusChaemolyticusの薬剤感受性薬剤名MIC(μg/ml)判定セファゾリンC≧4CRアルベカシンC≦1CSゲンタマイシンC≦0.5CSクリンダマイシンC≧8CRミノサイクリンC≦0.5CSバンコマイシンC1CSテイコプラニンC4CSレボフロキサシンC≧8CRリネゾリドC2CSダプトマイシンC0.25CSR:耐性(resistant)S:感受性(susceptible)ると報告されている7).また,アトピー性皮膚炎患者では,アトピー性皮膚炎をもたない患者に比べて,結膜.からの細菌の検出率が有意に高く,とくに黄色ブドウ球菌の検出率が高い8).このことからアトピー性皮膚炎患者はCHSVと同様,細菌性角膜炎を起こしやすいと考えられる.しかし,今回の症例で病因となったCS.haemolyticusについては,アトピー性皮膚炎との関連について報告はなく,関連性は不明である.CS.haemolyticusはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagu-lasenegativeCstaphylococci:CNS)の一種であり,一般的な皮膚常在菌で,ヒトの腋窩や会陰,鼠径部から分離される.ヒト血液培養から分離されるCCNSのなかでは,Staphy-lococcusepidermidisについでC2番目に多い9).S.haemolyti-cusはメチシリン耐性を含めた多剤耐性を早期に獲得し,近年ではC71%がメチシリン耐性と報告されている10).S.Chae-molyticusが角膜炎を起こす頻度は低く,スペインでは細菌性角膜炎の約C1%程度と報告されている11).日本眼感染症学会の行った感染性角膜炎サーベイランスでも,261例中わずかC1株の分離だった12).S.haemolyticusは角膜炎の起炎菌として頻度が低いために,角膜における病原性は不明である.しかし,本菌がCCNSの一種であることから,単独で角(122)膜のCmeltingや菲薄化を起こすとは考えにくい.今回の症例では,HSVとの混合感染ゆえに穿孔も懸念される病態を示した可能性が考えられる.また,この患者はもともと円錐角膜であり,感染以前に円錐角膜による菲薄化がすでにあり,感染によってさらに菲薄化が増強した可能性も考えられる.HSVは角膜を含む口腔顔面領域への一次感染に続いて,三叉神経節などに潜伏感染する.ストレスをきっかけに再活性化すると,上皮型,あるいは実質型角膜炎を引き起こす13).HSVはCVZVと異なり,潜伏感染の状態であっても個体によってはごく軽度の増殖が継続的・断続的に起こっており,無症候性にウイルスが眼表面から検出されるCsheddingがある14).このためCHSV-DNAが検出されても角膜炎を引き起こすとは限らない.今回の症例では,アトピー性皮膚炎があったことや,臨床的に治癒したのちもCsheddingが継続したことを勘案すると,元々Csheddingがあったうえに細菌感染が生じ,それが誘因となってCHSVによる角膜炎が誘発された可能性が考えられた.本症例でもし定性的なCPCRを使用していた場合は,つねにCHSVのCPCRは陽性になることから,他の原因で起こった角膜炎をすべてヘルペス性と誤診してしまう可能性が出てくる.SheddingのあるCHSVでは量的な情報の得られるCreal-timePCRであってこそ有用であることをこの症例は示していると考える15).今回の症例では,real-timePCRを含む多面的な検査によって,HSVとメチシリン耐性CS.haemolyticusによる混合感染角膜炎であることが明確となった.また,治療過程において,臨床所見ではCHSV角膜炎に典型的な樹枝状病変は早期に消失したものの,定期的なCreal-timePCRにより,HSVの残存,S.haemolyticusの消失を捉えることが可能であり,治療薬の減量・中止の判断や病態の推測に有用だった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YoshidaCM,CHariyaCT,CYokokuraCSCetal:DiagnosingCsuperinfectionCkeratitisCwithCmultiplexCpolymeraseCchainCreaction.JInfectChemotherC24:1004-1008,C20182)PorcarCPlanaCCA,CMunozCJM,CRocaCJMCetal:MoraxellanonliquefaciensCsuperinfectingCherpesCsimplexCkeratitis.CEurJOphthalmolC32:24-27,C20223)宮久保朋子,戸所大輔,横尾英明ほか:実質型角膜ヘルペスの経過中にCMycobacteriumchelonaeによる非定型抗酸菌感染を合併したC1例.日眼会誌125:136-141,C20214)HsuCHY,CTsaiCIL,CKuoCLLCetal:HerpeticCkeratouveitisCmixedCwithCbilateralCPseudomonasCcornealCulcersCinCvita-minCACde.ciency.CJCFormosCMedCAssocC114:184-187,C20155)北川和子,山村敏明,佐々木一之:混合感染を伴うヘルペス性角膜炎の検討.臨眼36:625-631,C19826)InoueY:Ocularinfectionsinpatientswithatopicderma-titis.IntOphthalmolClinC42:55-69,C20027)大松寛,宮﨑大,清水由美子ほか:単純ヘルペスウイルス角膜炎再発に関わる要因の評価.第C126回日本眼科学会総会,20228)NakataCK,CInoueCY,CHaradaCJCetal:AChighCincidenceCofCStaphylococcusaureusCcolonizationintheexternaleyesofpatientswithatopicdermatitis.OphthalmologyC107:2167-2171,C20009)TakeuchiCF,CWatanabeCS,CBabaCTCetal:Whole-genomeCsequencingCofCStaphylococcusChaemolyticusCuncoversCtheCextremeCplasticityCofCitsCgenomeCandCtheCevolutionCofChuman-colonizingstaphylococcalspecies.JBacteriolC187:C7292-7308,C200510)FarrellCDJ,CMendesCRE,CBensaciM:InCvitroCactivityCofCtedizolidCagainstCclinicalCisolatesCofCStaphylococcusClugdu-nensisCandCStaphylococcusChaemolyticusCfromCEuropeCandCtheCUnitedCStates.CDiagnCMicrobiolCInfectCDisC93:85-88,C201911)MedieroS,BotoA,SpiessKetal:Clinicalandmicrobio-logicalCpro.leCofCinfectiousCkeratitisCinCanCareaCofCMadrid,CSpain.EnfermInfeccMicrobiolClinC36:409-416,C201812)日本眼感染症学会:感染性角膜炎サーベイランス.日眼会誌110:961-972,C200613)RoweCAM,CStCLegerCAJ,CJeonCSCetal:HerpesCkeratitis.CProgRetinEyeResC32:88-101,C201314)KaufmanHE,AzcuyAM,VarnellEDetal:HSV-1DNAinCtearsCandCsalivaCofCnormalCadults.CInvestCOphthalmolCVisSciC46:241-247,C200515)Kakimaru-HasegawaA,KuoCH,KomatsuNetal:Clini-calCapplicationCofCreal-timeCpolymeraseCchainCreactionCforCdiagnosisCofCherpeticCdiseasesCofCanteriorCsegmentCofCtheCeye.JpnJOphthalmolC52:24-31,C2008***(123)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C555C

眼科受診を契機に診断された化膿性脊椎炎を伴う 猫ひっかき病の1 例

2023年4月30日 日曜日

《第58回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科40(4):544.551,2023c眼科受診を契機に診断された化膿性脊椎炎を伴う猫ひっかき病の1例篠原大輔*1林孝彰*1大庭好弘*2筒井健介*2根本昌実*2中野匡*3*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター総合診療部*3東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofCatScratchDiseasewithPyogenicSpondylitisDiagnosedafteranOphthalmologicalAssessmentDaisukeShinohara1),TakaakiHayashi1),YoshihiroOhba2),KensukeTsutsui2),MasamiNemoto2)andTadashiNakano3)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DivisionofGeneralMedicine,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:不明熱の精査中,眼症状と脊椎炎症状を呈し,眼科受診を契機に猫ひっかき病と診断されたC1例を報告する.症例:患者はC54歳,女性.約C1カ月前より持続する弛張熱に対して内科的精査が行われたが,原因を特定することができなかった.腰部の圧痛所見もみられた.右眼霧視と飛蚊症の自覚があり,眼科受診となった.視力は右眼(0.8),左眼(1.2)で,右眼眼底に網膜出血を伴う滲出斑と局所的な星芒状白斑を認めた.また,両眼の視神経乳頭周囲に複数の白色病巣がみられた.OCT検査では右眼黄斑部に漿液性網膜.離と視神経乳頭周囲網膜神経線維層の肥厚を認めた.視神経網膜炎を疑う眼底所見から,猫ひっかき病を鑑別にあげ血清学的検査を施行し,BartonellaChenselaeに対する抗体価の陽性を認め診断が確定した.脊椎CMRIでは椎体に多数の異常信号を認め,化膿性脊椎炎と診断された.抗菌薬投与後,右眼視力(1.2)となり,眼底所見,全身性の炎症所見ならびに脊椎CMRI所見も改善した.結論:眼底所見が軽微であっても視神経網膜炎を疑うCOCT所見がみられれば,猫ひっかき病を鑑別にあげることが重要と考えられた.CPurpose:Toreportacaseofcatscratchdisease(CSD)diagnosedafteranophthalmologicalassessmentinapatientwhopresentedwithocularandspondylitissymptomswhileundergoingadetailedmedicalexaminationforafeverofunknownorigin.Casereport:A54-year-oldfemaleunderwentamedicalexaminationforaremittentfeverthathadpersistedforapproximately1month,yetthecausewasindeterminate.Therewasalsoa.ndingoftendernessinherlowerback,andshecomplainedofblurredvisionanda.oaterinherrighteyeandvisitedourophthalmologyCdepartment.CUponCexamination,CherCbest-correctedCvisualacuity(BCVA)wasC0.8CODCandC1.2COS.CFunduscopyCrevealedCanCexudativeClesionCwithCretinalChemorrhageCandChardCstellateCexudatesCfocallyCinCtheCrightCeye,CandCmultipleCwhiteCspotsCwereCfoundCaroundCtheCopticCdiscsCinCbothCeyes.COpticalCcoherenceCtomography(OCT)revealedaserousmacularretinaldetachmentandthickeningofthecircumpapillaryretinalnerve.berlay-erintherighteye.Basedonthose.ndingsofsuspectedopticneuroretinitis,CSDwaslistedasadi.erentialdiag-nosisthatwaslatercon.rmedbyserologicaltestingthatshowedpositiveantibodytitersagainstBartonellaChense-lae.CSpinalCMRIC.ndingsCrevealedCmultipleCabnormalCsignalsCinCtheCvertebralCbodies,CdiagnosedCasCpyogenicCspondylitis.CAfterCtheCadministrationCofCantibacterialCdrugs,CherCBCVACrecoveredCtoC1.2,CandCtheCfundusC.ndings,CsystemicCin.ammatoryC.ndings,CandCspinalCMRIC.ndingsCalsoCimproved.CConclusion:WhenCOCTC.ndingsCofCsus-pectedCopticCneuroretinitisCareCfound,CitCisCimportantCtoCconsiderCCSDCasCaCdi.erentialCdiagnosis,CevenCthoughCtheCfundus.ndingsareminimal.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(4):544.551,C2023〕Keywords:不明熱,化膿性脊椎炎,視神経網膜炎,猫ひっかき病,光干渉断層計.feverofunknownorigin,pyo-genicspondylitis,opticneuroretinitis,catscratchdisease,opticalcoherencetomography.C〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC544(112)はじめに猫ひっかき病はネコのひっかき傷や咬傷が原因となり,受傷部位の所属リンパ節腫大や発熱を主徴とする人獣共通感染症であり,1992年にグラム陰性桿菌であるBartonellahenselae(B.henselae)が病原体であることが明らかになった1).わが国では,猫ひっかき病患者数の全国的な統計調査が行われていないため,年間発生患者数は不明である.典型例では抗菌薬投与を行わなくてもC4.8週間で自然治癒するとされているが2),近年血清学的診断法が確立したことで,眼症状や中枢神経症状のみを呈する症例や,抗菌薬不応例,膠原病類似症例などの非定型例の報告も散見される3,4).一方,猫ひっかき病患者は必ずしも眼症状を訴えるわけではないため,眼科医が日常診療で経験する機会は決して多くない.今回筆者らは,弛張熱で発症し眼科受診を契機に診断された,化膿性脊椎炎を伴う猫ひっかき病のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:54歳,女性.主訴:右眼の霧視および飛蚊症.現病歴:約C1カ月前よりC38℃前後の発熱が持続し,10日前に近医内科を受診した.咳嗽を認めたが,胸部CX線検査では異常はなかった.血液検査で白血球の上昇はなく,CRPの著明な上昇を認め,ウイルス感染が疑われた.肝酵素も軽度上昇していたが,Epstein-Barrウイルス(EBウイルス)に対する抗CEBNA抗体は陽性も抗CVCAIgM抗体は陰性であり,腹部エコーでも胆石以外の明らかな異常所見はなかった.細菌感染も鑑別にあげ,セフェム系抗菌薬内服が開始されたが,その後も弛張熱が持続し,3日前に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター(以下,当院)総合診療部に紹介受診となった.身体診察では腰椎中央部に圧痛を認めた.また,右眼の霧視および飛蚊症の自覚があり,当院眼科初診となった.既往歴:片頭痛,脂質異常症,不正性器出血.初診時所見:矯正視力は右眼C0.2(0.8C×sph+1.00D(cylC.0.50DAx75°),左眼C0.9(1.2×+1.25D(cyl.0.50DAx125°),眼圧は正常範囲内であった.前房内の細胞浮遊は明らかでなかったが,両眼に微細な角膜後面沈着物,前部硝子体中に色素散布がみられた.右眼底所見として,網膜出血を伴う滲出斑そして視神経乳頭鼻側に複数の白色病巣を認め,中心窩から上方にかけて星芒状白斑が局所的にみられた(図1a,b).左眼にも視神経乳頭周囲に複数の白色病巣を認めた(図1c).硝子体混濁はみられなかった.光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT,CirrusCHD-OCT5000)検査では右眼黄斑部に漿液性網膜.離の所見を認め,中心窩鼻側に小さな高輝度病変が外網状層に観察された(図2a).右眼の網膜厚は全体的に肥厚し,下方網膜静脈の肥厚が両眼でみられた(図2a,b).黄斑部の漿液性網膜.離が右眼視力低下の原因と考えられた.不明熱に対して,総合診療部で詳細な全身検査が行われた.血液検査所見:白血球C7,600/μl(白血球分画:好中球C58.5%,リンパ球C31.8%,単球C8.9%,好酸球C0.3%,好塩基球0.5%),CRP14.78Cmg/dl,プロカルシトニンC0.08Cng/ml,血沈(1時間値)77Cmm,赤血球数,血小板数,腎機能,電解質に異常なし,AST40CU/l,ALT37CU/l,LDH282CU/l,CT-Bil0.8Cmg/dl,ALP443CU/l,Cc-GTP62CU/l,PT-INR0.97,APTT31.2秒,Fbg666Cmg/dl,FDP11.1Cμg/ml,リウマトイド因子陰性,抗核抗体陰性,IgG2,646Cmg/dl,CIgA362mg/dl,IgM177mg/dl,C3162mg/dl,CH5057.5CU/ml,PR3-ANCA1.0CU/ml未満,MPO-ANCA1.0CU/ml未満,アンギオテンシンCI変換酵素(ACE)12.6CU/l,可図1初診時眼底写真a:右眼に網膜出血を伴う滲出斑,そして視神経乳頭鼻側に複数の白色病巣を認める.Cb:右黄斑部の拡大写真で,中心窩から上方にかけて星芒状白斑が局所的にみられる.c:左眼の視神経乳頭周囲に複数の白色病巣を認める.ab図2初診時OCT画像(a:右眼,b:左眼)a:右眼黄斑部に漿液性網膜.離の所見を認め,中心窩鼻側に小さな高輝度病変(→)が外網状層に観察される.網膜厚は全体的に肥厚している.下方網膜静脈の肥厚がみられる.Cb:左眼でも,下方網膜静脈の肥厚がみられる.図3初診から4日後の右眼滲出斑のOCT画像硝子体側に隆起した高反射病変が外顆粒層に及び,深部の信号はブロックされている.溶性IL-2レセプター(sIL-2R)1,210U/ml,抗ds-DNAIgG抗体C10CIU/ml未満,抗CSm抗体陰性,抗CRNP抗体陰性,抗CSS-A抗体陰性,マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)48.1Cng/ml,フェリチンC988Cng/ml,甲状腺刺激ホルモン(TSH)3.46CμIU/ml,FT41.33Cng/dl,抗ストレプトリジンCO抗体C78CIU/ml,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性,梅毒CRPR陰性,梅毒CTP抗体陰性,T-SPOT.TB陰性,サイトメガロウイルスCIgG抗体陽性,サイトメガロウイルスCIgM抗体陰性,サイトメガロウイルスCpp65抗原CC7-HRP陰性,EBウイルス核酸定量陰性,HTLV-1抗体陰性,トキソプラズマCIgG抗体陰性,トキソプラズマCIgM抗体陰性,b-D-グルカンC6.0Cpg/ml未満,カンジダ抗原陰性,クリプトコッカス抗原陰性,寄生虫抗体スクリーニング陰性という結果であった.高度の炎症反応,肝胆道系酵素軽度上昇,sIL-2R上昇,フェリチン上昇を認めた.尿検査:pH6.5,尿比重C1.010,蛋白陰性,潜血陰性,赤血球C0-1/HPF(highpower.eld),白血球C1-4/HPF.培養検査:血液培養,尿培養,咽頭抗酸菌培養検査はいずれも陰性であった.経胸壁心エコー:疣贅など感染性心内膜炎を疑う所見を認めなかった.側頭動脈エコー:壁肥厚など巨細胞性動脈炎を疑う所見を認めなかった.頭部・頸部コンピュータ断層撮影(computedCtomogra-phy:CT):頭蓋内・頭頸部に明らかな異常所見を認めなかった.胸部CCT:右肺中葉の陳旧性炎症以外に明らかな所見を認めなかった.腹部CCT:脂肪肝,胆.結石,軽度脾腫大のほかに明らかな所見を認めなかった.経過:眼科初診からC4日後の右眼滲出斑のCOCT所見として,硝子体側に隆起した高反射病変が外顆粒層におよび,深部の信号はブロックされていた(図3).フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)検査では,右眼滲出斑の組織染による過蛍光と出血部の蛍光ブロックを認めたが,両眼ともに明らかな網膜血管炎を示唆する所見はみられなかった(図4).FAの造影後期相で両眼視神経に軽度の過蛍光所見を認めた(図4).OCTによる視神経乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRN-FL)厚は,左眼に比べ右眼で肥厚していた.臨床経過ならびに右眼の視神経網膜炎を疑う眼底所見から,精査されていなかった猫ひっかき病の可能性も考慮し,内科で詳細な問診を行ったところ,動物との接触歴があることが判明し,ネコによる咬傷の既往を聴取した.バルトネラ感染症を鑑別にあげ,血清学的検査を施行した.眼科初診からC11日後,総合診療部に入院し猫ひっかき病を疑い,ミノサイクリン点滴(初回C300Cmg/日,その後C200mg/日)とリファンピシンC300Cmg/日の内服を開始した.同日施行した脳脊髄液検査所見は初圧C12CcmHC2O,細胞数C2/μl,52Cmg/dl,蛋白C18.6Cmg/dl,乳酸C13.9Cmg/dl,抗酸菌図4初診から4日後のフルオレセイン蛍光造影写真上段が右眼,下段が左眼で,各写真の右上に造影開始からの時間経過を示す.造影開始C19秒からC10分C10秒にかけて,右眼滲出斑に一致して,組織染による過蛍光と出血部の蛍光ブロックを認める.両眼ともに明らかな網膜血管炎を示唆する所見はみられない.後期相(右眼:10分C10秒,左眼:10分)で両眼視神経に軽度の過蛍光所見を認める.培養陰性であり,細胞診で腫瘍性病変を認めなかった.その後,腰部圧痛の精査目的に施行した脊椎磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)で,胸椎・腰椎の椎体に多数の異常信号を認め,T1強調像(図5a)で低信号を,T2強調像(図5b)では高信号を示し脊椎炎が疑われた.抗菌薬開始後もCCRP値C10.14Cmg/dlで経過したが,全身状態はやや改善し,体温もC37℃を下回るようになり,9日間の入院後退院となり,ミノサイクリン点滴をドキシサイクリンC100Cmg/日の内服に変更した.眼科初診からC20日後,抗CB.henselaeIgM抗体C20倍,IgG抗体C1,024倍以上とともに陽性であることが判明し,猫ひっかき病と診断した.その後,軽度肝機能障害が出現したため,抗菌薬をスルファメトキサゾールC400mg/トリメトプリムC80Cmg(ST)合剤に変更,その後CCRP3.30Cmg/dlと著明に低下した.椎体CMRIの異常信号は,猫ひっかき病による化膿性脊椎炎と診断された.眼科初診から約C1カ月後,右眼視力は(1.2)に改善,右眼眼底の滲出斑は縮小し,局所的にみられた星芒状白斑が初診時に比べ明瞭化していた(図6a).一方,左眼でみられた視神経乳頭周囲の白色病巣は消失した.また,右眼COCTでみられた漿液性網膜.離は消退し(図6b),肥厚していたcpRNFL厚も改善した.その後,ST合剤による薬疹が疑われ,シプロフロキサシンC600Cmg/日内服に変更し,約C1カ月間服用した.眼科初診からC2.5カ月後,ドキシサイクリン200mg/日の内服に変更,約C2カ月間の服用後終了となった.眼科初診から約C7カ月後の血清学的検査で,抗CB.ChenselaeIgM抗体は陰性化し,IgG抗体はC256倍に低下した.また,脊椎CMRIでは胸椎・腰椎ともに異常信号はほぼ消失した(図5c).眼科最終受診時(初診からC11カ月後),右眼視力(1.5)で,眼底所見の悪化はなかった.経過中,左眼視力は(1.2)を維持していた.ac図5脊椎MRI画像入院後の胸椎・腰椎の椎体に多数の異常信号を認め,T1強調像(Ca)で低信号を,T2強調像(Cb)では高信号を示す.眼科初診から約C7カ月後のCT2強調像(Cc)で異常信号はほぼ消失している.CII考按本症例はC3週間以上持続する弛張熱で発症し,不明熱として精査された.感染症をはじめ,膠原病やその他の非感染性炎症性疾患,悪性腫瘍などを鑑別疾患としてあげていたが,原因を特定することができなかった.総合診療部の問診で聴取された右眼の霧視と飛蚊症が眼科受診のきっかけとなり,猫ひっかき病の診断につながった.猫ひっかき病に伴う眼所見としては,Parinaud眼腺症候群,前部ぶどう膜炎,視神経乳頭腫脹,黄斑部星芒状白斑,漿液性網膜.離,網脈絡膜滲出斑,網膜出血,まれに網膜中心動脈分枝閉塞症などの報告がある5.8).FukudaらのC15例19眼の検討において8),眼底病変は,網膜白色斑/滲出斑(84%),網膜出血(63%),視神経病変(63%),漿液性網膜.離(53%),黄斑部星芒状白斑(47%)の順に多かったと報告されている.本症例では微細な角膜後面沈着物を両眼に認め,眼底所見で,右眼に網膜出血を伴う眼底滲出斑,漿液性網膜.離,また視神経網膜炎を疑う局所的な星芒状白斑(図1a,b,2a)とCOCTでの視神経乳頭周囲網膜神経線維層の肥厚を認め,視神経乳頭周囲の白色病巣(図1a,c)ならびに下方網膜静脈肥厚は両眼にみられた(図2).左眼の眼底所見は軽微であったが,いずれも猫ひっかき病でみられる所見であり,不明熱の原因疾患にあげるきっかけとなった.過去に報告された猫ひっかき病C24例の検討では9),13例(54%)が片眼性でC11例(46%)が両眼性であった.両眼性と診断されたC6例に星芒状白斑がみられ,いずれも片眼性であった9).このように両眼性であっても,左右眼で異なる眼底所見を示すことが,猫ひっかき病の特徴であるかもしれない.猫ひっ図6初診から1カ月後の右眼底写真とOCT画像a:右眼の眼底写真で,滲出斑は縮小し,局所的にみられた星芒状白斑が初診時に比べ明瞭化している.Cb:右眼COCTで,初診時にみられた漿液性網膜.離は消退している.かき病患者で視神経網膜炎を呈する頻度はC1.2%程度と考えられているが,逆に視神経網膜炎を発症した患者においては,約C6割の症例で血清学的にCB.henselaeの既感染が示されたとの報告がある10).視神経網膜炎は,視神経乳頭の腫脹と黄斑部の星芒状白斑が特徴的な所見であり,トキソプラズマ症やトキソカラ症などの感染症や,サルコイドーシス・Behcet病などでもみられるほかに,高血圧症・糖尿病・網膜静脈分枝閉塞症・頭蓋内圧亢進症・前部虚血性視神経症でも類似の所見を呈することがある11).そのため,他疾患を鑑別する必要があるものの,猫ひっかき病を疑ううえでは有用な所見と考えられる.局所または多発する網脈絡膜炎を合併する場合には,さらに猫ひっかき病の可能性が高くなるといわれている10).眼病変の発症機序は不明であるが,全身の炎症症状とは同時期に発生しないことが多く,B.henselaeの直接的な眼内感染以外にも,菌体由来の弱毒性のエンドトキシンの関与や,抗菌薬により破壊された菌体成分に関連する抗原による遅延型アレルギーの関与も考えられている12).視神経網膜炎やその他の眼所見に対し,ステロイドの局所または全身投与を行った報告も多数あるが3,6,13),本症例ではCB.henselaeに対する初期治療としてテトラサイクリン系抗菌薬に加えリファンピシンを投与し,その後,ST合剤へ変更し,眼所見ならびに全身の炎症所見はとともに改善した.B.henselaeは,細胞内寄生菌であるため,テトラサイクリン系やマクロライド系抗菌薬に感受性がある.本症例のように視機能障害が軽度で眼底所見が軽微であった場合には,眼科的に必ずしもステロイドの全身投与は必要ないかもしれない.本症例では全身性の高度炎症所見を認めたものの,プロカルシトニン値は基準範囲内であった.過去に猫ひっかき病と診断されたケースで,本症例と同様にCCRP高値にもかかわらずプロカルシトニン値が基準範囲内であった報告がある14,15)一方,プロカルシトニン値が上昇した報告例もあった16).一般的に,プロカルシトニンは敗血症などの重症細菌感染症で上昇することが知られている.過去の報告と照らし合わせると,本症例でプロカルシトニン値が基準範囲内であった理由として,重症細菌感染症の病態に至っていなかった可能性が考えられた.また,本症例では全身性の炎症所見や眼所見の他に,腰部の圧痛とCMRIでの脊椎の異常信号を認めた.画像所見からは,感染症のほか,非感染性炎症性疾患に関連した脊椎関節炎・骨髄炎,血液腫瘍,転移性腫瘍なども考慮されたが,抗菌薬投与により発熱や眼所見とともに画像所見も消退したことから,猫ひっかき病に伴う化膿性脊椎炎と考えられた.B.henselaeは血行性・リンパ行性もしくは隣接部に炎症が波及し,多臓器に影響を及ぼすことがあり,心内膜炎や肝臓・脾臓の多発性肉芽腫性病変,脳炎・髄膜炎・脊髄炎による神経症状の報告がある17).まれではあるが骨髄炎も引き起こし,猫ひっかき病患者のC0.1.0.3%に発症すると報告されている17,18).骨病変の部位としては脊椎・四肢骨・骨盤・.骨・頭蓋骨の報告があり,周囲の軟部組織へ炎症が波及したり,膿瘍を形成したりする症例もある17,18).発熱と骨髄炎発症部位の圧痛以外の明らかな所見を認めずに,診断に苦慮する症例に対して,骨病変を生検しCpolymeraseCchainreaction検査でCB.ChenselaeDNAが証明された報告例もあり17),骨髄炎は免疫機序というよりは骨への直接的な感染によるものと考えられる.また,感染が全身に波及し,肝脾腫や画像上で肝臓・脾臓の異常影を合併することも多い18,19).脊椎の骨髄炎に関して,抗菌薬投与が行われる症例がほとんどで,手術を要した症例も報告されているが,生命予後は良好とされている17).脊椎炎のCMRI所見として,T1強調像で低信号を,T2強調像では高信号を示すことが多く19),本症例も同様であった(図5a,b).また,本症例でも腹部CCTで軽度の脾腫が指摘されており,これまでの報告と同様に,全身へ感染が波及していた所見の一つと考えられた.本症例を経験し,眼底所見が軽微であっても視神経網膜炎を疑う所見がみられれば猫ひっかき病を鑑別にあげることが重要で,本疾患の診断において,眼科医の果たす役割は大きいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)RegneryCRL,COlsonCJG,CPerkinsCBACetal:SerologicalCresponseCto“RochalimaeaChenselae”antigenCinCsuspectedCcat-scratchdisease.LancetC339:1443-1445,C19922)土田里香:猫ひっかき病.小児科診療C65:118-119,C20023)藤井寛,清水浩志,阿部祥子ほか:弛張熱と眼底隆起性病変を伴う網脈絡膜炎を認めた猫ひっかき病の女児例.小児科臨床C57:1012-1016,C20044)池田衣里,南博明,福田和由ほか:間欠熱で発症した非定型的猫ひっかき病のC1例.小児科臨床C73:437-441,C20205)ZaccheiCAC,CNewmanCNJ,CSternbergP:SerousCretinalCdetachmentofthemaculaassociatedwithcatscratchdis-ease.AmJOphthalmolC120:796-797,C19956)小林かおり,古賀隆史,沖輝彦ほか:猫ひっかき病の眼底病変.日眼会誌C107:99-104,C20037)溝渕朋佳,天野絵梨,谷口義典ほか:ぶどう膜炎,視神経網膜炎,無菌性髄膜炎を呈した猫ひっかき病のC2例.日内会誌C106:2611-2617,C20178)FukudaCK,CMizobuchiCT,CKishimotoCTCetal:ClinicalCpro.leCandCvisualCoutcomeCofCintraocularCin.ammationCassociatedCwithCcat-scratchCdiseaseCinCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC65:506-514,C20219)SolleyCWA,CMartinCDF,CNewmanCNJCetal:CatCscratchdisease:posteriorsegmentmanifestations.OphthalmologyC106:1546-1553,C199910)CunninghamCET,CKoehlerJE:OcularCbartonellosis.CAmJOphthalmolC130:340-349,C200011)KsiaaI,AbrougN,MahmoudAetal:UpdateonBarton-ellaneuroretinitis.JCurrOphthalmolC31:254-261,C201912)棚成都子,堤清史,望月學ほか:ネコひっかき病にみられた限局性網脈絡膜炎のC1例.眼紀50:239-243,C199913)徳永孝史,渡久地鈴香,島袋美起子ほか:眼底所見が診断の契機となった非典型猫ひっかき病のC2例.那覇市立病院医学雑誌C7:47-51,C201514)DureyCA,CKwonCHY,CImCJHCetal:BartonellaChenselaeCinfectionCpresentingCwithCaCpictureCofCadult-onsetCStill’sCdisease.IntJInfectDisC46:61-63,C201615)TirottaCD,CMazzeoCV,CNizzoliM:HepatosplenicCcatscratchdisease:Descriptionoftwocasesundergoingcon-trast-enhancedCultrasoundCforCdiagnosisCandCfollow-upCandsystematicliteraturereview.SNComprClinMedC3:2154-2166,C202116)SodiniC,ZaniEM,PecoraFetal:Acaseofatypicalbar-tonellosisCinCaC4-year-oldCimmunocompetentCchild.CMicro-organismsC9:950,C202117)VermeulenCMJ,CRuttenCGJ,CVerhagenCICetal:TransientCparesisCassociatedCwithCcat-scratchdisease:caseCreportCandliteraturereviewofvertebralosteomyelitiscausedbyBartonellaChenselae.PediatrCInfectCDisCJC25:1177-1181,C200618)VerdonR,Ge.rayL,ColletTetal:Vertebralosteomyeli-tisCdueCtoCBartonellaChenselaeCinadults:aCreportCofC2Ccases.ClinInfectDisC35:e141-e144,C200219)NotoT,FukuharaJ,FujimotoHetal:Bonemarrowsig-nalsCwithoutCosteolyticClesionsConCmagneticCresonanceCimagingCinCaC4-year-oldCpatientCwithCcat-scratchCdisease.CPediatrIntC62:242-244,C2020***