———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS重篤になる可能性がある.小児では薬物代謝も遅いために薬物が蓄積する可能性が高く,全身副作用を有する点眼薬では成人以上に血漿中濃度が上昇する危険性をはらんでいる.以上のことより小児に対する点眼治療の際には,低濃度薬剤から投与するのみならず副作用発現に対してつねに監視する姿勢が大切である.一方,小児においては毛様体機能,房水流出路形態ともに発達途中にあるため,緑内障治療薬が成人と同じ作用をするという保証はない.実際の投与においてもコンプライアンスが高いとは言い難く,刺激のある点眼薬の場合には涙液の刺激性分泌により濃度が低下する可能性もある.さらに小児では本人の協力が得られにくく,視力や視野検査はもちろんのこと眼圧測定も困難であることが多いため,実際の薬効の評価がむずかしい.したがってこのような場合には薬物療法で長期にわたって経過観察を行うのではなく,眼圧コントロールがつかなければ手術を行うことを考慮して使用し,手術の時期を逸しないように注意を払う必要がある.実際の薬物治療としてはプロスタグランジン製剤を最初に用いることが多いが,ぶどう膜強膜路の未発達性から幼小児緑内障では無効例が多く,眼圧下降率も小さいとの報告1)がある.b遮断薬ではチモロールの使用報告2,3)が最も多くなされており,重篤な無呼吸発作や徐脈例の報告もあるものの,喘息や不整脈の既往例を避ければ小児に長期間使用しても深刻な問題はないとされている.しかし近年,日本では小児喘息が増加傾向にあはじめに小児,妊婦,高齢者はいずれも通常の成人とは体格,体内生理環境,内分泌環境などが異なるため,眼圧下降作用が同じとは限らず何らかの配慮が必要となる.副作用に関しても小児,妊婦,高齢者の場合にはより強く発現する可能性がある.一般に小児,妊産婦に対する薬物使用に関しては詳細な科学的データが少ないために添付文書に「安全性は確立されていない」としか記載されていないことが多く,実際の治療に関しては緑内障の病態を見計らいながら症例ごとに対応せざるを得ないものと考えられる.I小児の場合小児に対する緑内障治療の原則は手術療法である.薬物療法は術前の眼圧下降あるいは術後の眼圧下降を補う補助療法として位置づけられるが,いずれの眼圧下降薬も添付文書上「使用経験がないため安全性が確立されていない」との記載(表1,2)があり,使用の可否は医師の裁量に任されている.「小児は小さな大人ではない」ことは小児科における原則であるが,点眼薬を投与する場合においてもつねにその点には留意する必要がある.内服薬や注射薬では体重当たりに換算する投与法が可能であるが,点眼に関しては現在のところ換算が困難である.したがって通常の成人と同じ投与法では体重に比して点眼量が過多となり作用が強力に発現するだけではなく,副作用が高頻度・(49)799*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集緑内障点眼薬選択のポイントあたらしい眼科25(6):799804,2008小児,妊婦,高齢者への薬剤選択MedicalTherapyforChildren,PregnantWomenandElderlyPersons森和彦*———————————————————————-Page2800あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(50)表1各種緑内障治療薬の添付文書一覧(交感神経遮断薬)薬分類交感神経遮断薬b遮断薬ab遮断薬a1遮断薬薬剤名チモプトールR点眼液0.25%/0.5%チモプトールRXE点眼液0.25%/0.5%ミケランR点眼液1%/2%ミケランRLA点眼液1%/2%ベトプティックR点眼液0.5%ベトプティックRS懸濁性点眼液0.5%ミロルR点眼液0.5%ハイパジールRコーワ点眼液0.25%デタントールR0.01%点眼液妊婦,産婦,授乳婦等への投与1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない.〕1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない.〕1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.(妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.)1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.(妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.)1.動物実験で,胚・胎児の死亡の増加が報告されているので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.1.動物実験で,胚・胎児の死亡の増加が報告されているので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,動物実験で高用量の経口投与により胎児の死亡率増加及び発育抑制,死亡児数の増加,新生児生存率の低下が報告されている.〕妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.動物実験(ラット:経口)で催奇形作用が報告されている.](参考)器官形成期のラットに500mg/kg/dayを経口投与した試験で化骨遅延が,マウスに1,000mg/kg/day,ウサギに200mg/kg/dayを経口投与した試験で死亡胎児数の増加が認められている.(参考)器官形成期のラットに500mg/kg/dayを経口投与した試験で化骨遅延が,マウスに1,000mg/kg/day,ウサギに200mg/kg/dayを経口投与した試験で死亡胎児数の増加が認められている.(参考)器官形成期のラットに200mg/kg/日,ウサギに10mg/kg/日を経口投与した試験で死亡胎児数の増加が認められている.また,周産期及び授乳期のラットに100mg/kg/日を経口投与した試験で眼瞼開裂の遅延が,ラットに200mg/kg/日を経口投与した試験で生産児数の減少,生後7日目生存率の低下などが認められている.2.本剤投与中は授乳を中止させること.〔ヒト母乳中へ移行することがある.〕2.本剤投与中は授乳を中止させること.〔ヒト母乳中へ移行することがある.〕2.授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが,投与する場合は授乳を避けさせること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが,投与する場合は授乳を避けさせること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.動物実験で,乳汁中へ移行することが報告されているので,授乳婦に投与する場合は,投与中は授乳を避けさせること.2.動物実験で,乳汁中へ移行することが報告されているので,授乳婦に投与する場合は,投与中は授乳を避けさせること.2.授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが,投与する場合は授乳を避けさせること.[ヒト母乳中へ移行する可能性がある.]2.本剤投与中は授乳を避けること.〔動物実験で,経口投与で母乳中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人には投与しないこと.やむを得ず投与する場合には,授乳を中止させること.[授乳婦に投与した場合の乳児に対する安全性は確立していない.動物実験(ラット:経口)で乳汁中への移行が報告されている.]小児等への投与小児等に対する安全性は確立されていない.小児等に対する安全性は確立されていない.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験が少ない).(食事摂取不良等体調不良の状態の患児に本剤を投与した症例で低血糖が報告されている.低血糖症状があらわれた場合には,経口摂取可能な状態では角砂糖,あめ等の糖分の摂取,意識障害,痙攣を伴う場合には,ブドウ糖の静注等を行い,十分に経過観察すること.)低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).(ミケランR点眼液1%・2%を食事摂取不良等体調不良の状態の患児に投与した症例で低血糖が報告されている.低血糖症状があらわれた場合には,経口摂取可能な状態では角砂糖,あめ等の糖分の摂取,意識障害,痙攣を伴う場合には,ブドウ糖の静注等を行い,十分に経過観察すること.)低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008801(51)表2各種緑内障治療薬の添付文書一覧(その他)薬分類ンン薬薬交感神経薬交感神経薬トント薬剤レスキュラR点眼液0.12%キサラタンR点眼液トラバタンズR点眼液0.004%トルソプトR点眼液0.5%/1%エイゾプトR懸濁性点眼液1%ピバレフリンR0.04%/0.1%アイオピジンRUD点眼液1%サンピロR(0.5%/1%/2%/3%/4%)ウブレチドR点眼液0.5%/1%妊婦,産婦,授乳婦等への投与1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,生殖毒性試験において器官形成期のラットの高用量群(5mg/kg/day),周産期・授乳期のラットの高用量群(1.25mg/kg/day)及び器官形成期のウサギの高用量群(0.3mg/kg/day)で流早産の増加傾向がみられた.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.なお,動物実験(妊娠ウサギ)における器官形成期投与試験において,臨床用量の約80倍量(5.0μg/kg/日)を静脈内投与したことにより,流産及び後期吸収胚の発現率増加,胎児体重の減少が認められた.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.動物実験では,妊娠ラットに10μg/kg/日(臨床用量※)の250倍)を静脈内投与した場合に,催奇形性が認められ,妊娠マウスに1μg/kg/日(臨床用量※)の25倍)を皮下投与,又は妊娠ラットに10μg/kg/日(臨床用量※)の250倍)を静脈内投与した場合に,着床後胚死亡率の増加及び胎児数の減少が認められた.また,妊娠ウサギに0.1μg/kg/日(臨床用量※)の2.5倍)を静脈内投与もしくは0.003%点眼液(体重当りの投与量として臨床用量※)の約10倍に相当)を投与した場合,全胚・胎児死亡が観察された.さらに,妊娠・授乳ラットに0.12μg/kg/日(臨床用量※)の3倍)以上の用量を妊娠7日目から授乳21日目に皮下投与した場合に,発育及び分化に対する影響(早期新生児の死亡率の増加,新生児の体重増加の抑制,又は眼瞼開裂の遅延等)が認められた.また,摘出ラット子宮を用いた実験では,日本人健康成人で認められた本剤の最高血漿中濃度(0.025ng/ml=0.05nmol/l)の約6倍以上の濃度(0.3nmol/l)で,用量依存的な子宮収縮作用が認められた.]※)本剤0.004%を体重50kgの患者に1回1滴(25μl)を両眼に投与したと仮定して算出された投与量(0.04μg/kg/日)との比較.1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,生殖毒性試験において器官形成期のラットの高用量群(5mg/kg/day),周産期・授乳期のラットの高用量群(1.25mg/kg/day)及び器官形成期のウサギの高用量群(0.3mg/kg/day)で流早産の増加傾向がみられた.]1.動物実験で胎盤を通過することが報告されているので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,ウサギに3.0mg/kgを経口投与して胎児に影響があったことが報告されている.]妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい.[子宮筋の収縮を起こす可能性がある.]妊婦,産婦等に対する安全性は確立していない.2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット:静脈内投与)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット:皮下投与)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.動物実験で乳汁中に移行することが報告されているので,授乳中の婦人には授乳を避けさせること.[授乳中の投与に関する安全性は確立していない.]2.授乳中の婦人には投与しないこと.やむを得ず投与する場合には,授乳を中止させること.[授乳婦に投与した場合の乳児に対する安全性は確立していない.]2.授乳婦への投与は避けることが望ましいが,やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること.[ヒト母乳中へ移行するかどうかは不明である.]小児等への投与小児等に対する安全性は確立していない.(使用経験が少ない.)小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない).低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児等に対する安全性は確立していない.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児に対する安全性は確立していない.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立されていない(使用経験がない).小児投与に関する記載なし.長期連用時に虹彩腫があらわれることがあるので,この場合は休薬するかアドレナリン,フェニレフリンの点眼を行うこと.———————————————————————-Page4802あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(52)特に胎児の重要な器官形成に関わる妊娠初期(妊娠47週)には催奇形性という意味では絶対過渡期となるため,基本的にはすべての薬物は使用しないほうがよい.抗緑内障薬に関しても同様であり,いずれもヒト胎児への影響の有無は確立されていない.抗緑内障薬の妊娠時,周産期における影響については米国FDA(食品医薬品局)がカテゴリー(表3)別に示している(表46)).従来,妊婦に対して抗緑内障薬をやむを得ず使用する場合にはb遮断薬が用いられることが多かったが,これまで妊婦あるいは胎児に対して何らかの悪影響を与えたとする報告は今のところ存在しない.しかしb遮断薬は容易に乳汁中へ移行し,乳児に重篤な無呼吸発作をひき起こしたとの報告もある.したがって授乳婦に対するb遮断薬の投与は控えるべきである.プロスタグランジンは妊娠維持や出産に関して重要な役割を担っており,なかでもF2aは子宮収縮を惹起するだけではなく胎盤血管の収縮作用も有しており,プロスタグランジン製剤が胎盤や子宮に対して何らかの悪影響を及ぼす可能性は否定できない.さらにピロカルピンは子宮筋を収縮させて切迫流産を惹起するおそれがあるため,妊婦に対する投与は避けることが望ましい.また炭酸脱水酵素阻害薬は動物実験で催奇形性が認められり,診断基準に適合しない軽度の症例も含めれば約2割の小児にb遮断薬が投与できないともいわれている4).したがってb遮断薬を投与する場合にはつねに喘息や夜間喘鳴の出現に注意を払う必要がある.炭酸脱水酵素阻害薬点眼はこれまで重篤な副作用は報告されていないが,小児の使用症例が少ないうえに点眼時の刺激症状が強いためアドヒアランスの点で問題が多い.II妊婦・授乳婦の場合妊産婦に対しては「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」(表1,2)とされ,抗緑内障薬は医師の判断で投与することとなる.一般に妊娠により緑内障が発症あるいは増悪することはないとされ,むしろ妊娠中期から後期にかけて眼圧は下降し,出産後も眼圧下降が数カ月持続することが知られている5).妊娠中には末梢血管抵抗が低下し上強膜静脈圧が下がることで眼圧が下降する機序や妊娠中に増加するプロスタグランジンやヒト絨毛ゴナドトロピンなどのホルモンの影響が考えられている.したがって緑内障患者が妊娠した場合には妊娠中期以降は眼圧コントロールが良好となることも少なくなく,抗緑内障薬を休薬していても影響がない場合もある.表3米国FDAによる薬剤胎児危険度分類トの妊娠の胎児への危険はまそのの妊娠危険るとのは胎への危険はるト妊婦のはのるは(まはの)るトの妊娠のはまそのの妊娠危険るとはのは胎に胎その他のるとトののるはトとにはのに分類る薬剤は胎児への危険よ場合にのるとトの胎児にに危険るとる危険妊婦へのによるるの(と危険にるとまは薬剤とるはとその薬剤るる場合)まはトの胎児る場合るはトの経胎児への危険のる場合まはそのの場合の薬剤妊婦にるとは他ののよよに危険ののに分類る薬剤は妊婦まは妊娠るのる婦にはる———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008803(53)用を軽減するために患者教育の一環として点眼後12分間の閉瞼と涙部圧迫を患者に対して指示することが重要である.特に70歳以上の高齢者では循環器系や呼吸器系の予備能が低下しており,点眼薬の影響とわからず全身状態が悪化することもまれではない.したがって全身状態の変化につねに注意を払いつつ,ときどきは血圧や心拍数を測定するとともに自覚症状の有無について問診を行い,年に1度は心電図や呼吸器機能検査を施行したほうがよい.高齢者では身体的・精神的要因から点眼・内服療法が困難となる場合がある.たとえば,手が不自由なために点眼困難である場合や認知症によってコンプライアンスが悪い場合などである.点眼回数の少ない点眼液への変更や点眼補助器具の利用,家族を含めた介助者の教育などが重要となる.まとめ緑内障薬物治療におけるキーポイントは患者のコンプライアンスであり,自覚症状がない緑内障患者の多くは指示どおり薬物を使用しようとする動機が乏しいだけでなく,副作用による合併症出現時には安易に中止してしまう傾向がある.したがって患者が正しく薬物を使用しているかチェックするのみならず,薬物の投与・変更時には使用法・使用量とともに予期される副作用を十分知妊娠早期の投与は避けるべきである.一方,ジピベフリン,ブリモニジンはFDAカテゴリーで唯一カテゴリーBであり,他剤と比較して安全性が若干高いといえる.妊産婦に対する緑内障治療方針としては,原則として妊娠授乳期間中の薬物の中止であり,視神経障害が高度で休薬により悪化が予想される場合にはあらかじめ緑内障手術を行うことも考慮すべきである.胎児もしくは乳児に万一のことがあった場合,親として一生その負い目を感じて生きていかねばならない.最低でも妊娠中の9カ月間,たとえ多少眼圧が上昇して視野が障害されたとしても,次世代に危険が及ぶ可能性のあることは慎むべきであろう.いずれにしても十分なインフォームド・コンセントが重要であることはいうまでもない.III高齢者の場合高齢者緑内障治療の原則は「QOL(qualityoflife)を損なわない範囲で最大限のQOV(qualityofvision)を余命が尽きるまで維持すること」であり,点眼薬選択に当たっては治療効果と副作用のバランスをしっかりと評価する必要がある.点眼薬の全身へ及ぼす影響は意外と軽視されやすいが,緑内障治療薬のなかには全身副作用をきたす薬が多い.局所投与された点眼液の5565%が全身に吸収されるといわれており,少しでも全身副作表4抗緑内障薬の妊娠への影響薬剤胎への影響胎の乳分ンンンンンンンンaあり不明不明Cマンニトール不明不明不明Cグリセリン不明あり不明C5-FU不明不明不明DマイトマイシンC不明不明不明D(文献6より改変)———————————————————————-Page6804あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(54)oflatanoprostforthetreatmentofpediatricglaucoma.JAAPOS3:33-39,19992)ZimmermanTJ,KoonerKS,MorganKS:Safetyandecacyoftimololinpediatricglaucoma.SurvOphthalmol28:262-264,19833)HoskinsHD,HetheringtonJ,MageeSDetal:Clinicalexperiencewithtimololinchildhoodglaucoma.ArchOph-thalmol103:1163-1165,19854)宮田博:小児への緑内障治療薬の処方,特集緑内障治療薬物選択と指導のポイント.臨床と薬物治療19:1112-1114,20005)SunnessJS:Thepregnantwoman’seye.SurvOphthalmol32:219-238,19886)木村泰朗:症例に学ぶマネジメント.若い女性のNTG,治療中に妊娠した点眼は継続?中止?.緑内障3分診療を科学する!(吉川啓司,松元俊編),p110-113,中山書店,2006らせておくことが重要である.一方,ひとたび重篤な合併症が発症すると,以後その薬物の使用が著しく制限されるのみならず,視力に影響を及ぼすような後遺症を残す場合もある.したがって異常出現時には遅滞なく受診するように指示し,早期に異常を発見して適切な処置を行うことが重要である緑内障はどのような患者にとっても一生にわたってかかわってゆかねばならない疾患であり,有効な視機能を一生涯維持するためにも,良好な医師患者関係を構築しておくことが非常に重要である.文献1)EnyediLB,FreedmanSF,BuckleyEG:Theeectiveness外眼部外来手術マニアルの手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─05440(かっこ内は執筆者)