———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSこの発見が診断の契機になることが多い.人工水晶体眼では,眼内レンズの表面に沈着している所見もよく観察される.また,散瞳した際に未散瞳状態では確認できなかった水晶体周辺部に沈着した落屑物質が明らかにされることもまれならず経験される(図1).はじめに続発緑内障とは他の眼疾患,全身疾患,または薬物が原因となって眼圧上昇が生じるタイプの緑内障である.したがって続発緑内障の治療の大原則は眼圧上昇原因の除去,つまり原疾患の治療が最優先され,本来の緑内障治療の主役である眼圧下降薬は補助的な役割を果たすにすぎない.すなわち続発緑内障を治療するうえで最も重要なポイントは,症例が示しているさまざまな所見や臨床経過から眼圧上昇機序を的確に把握することにある.そこで本稿では,日常臨床の現場で遭遇する機会が多い続発緑内障の病型を中心に,どのように診断し,いかに病態に応じた治療薬剤を選択すべきか,私見を交えながら述べさせていただく.I落屑緑内障落屑緑内障とは,眼内の偽落屑物質の沈着を特徴とする落屑症候群に続発する開放隅角緑内障である.最近では,落屑症候群における落屑物質の沈着は,眼内のみに留まらず,脳,心血管組織,および皮膚など,全身の組織に及ぶ1)ことが明らかにされており,全身疾患として捉えられている.1.臨床所見の特徴a.前眼部所見最も特徴的な所見は,眼内の白色ふけ状の落屑物質であり,瞳孔縁,水晶体表面に沈着している場合が多く,(55)805*ShiroMizoue:愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学〔別刷請求先〕溝上志朗:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学特緑内障点眼薬─選択のポイントあたらしい眼科25(6):805809,2008続発緑内障への薬物選択─落屑緑内障・ぶどう膜炎による緑内障・内眼手術後の緑内障MedicalTreatmentofSecondaryGlaucoma溝上志朗*図1水晶体表面に沈着した白色の落屑物質(散瞳眼)図2Sampaolesi線(矢印)———————————————————————-Page2806あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(56)一選択とすることが望ましく,高齢の患者が多いことから,全身的副作用の少ないラタノプロストやトラボプロストを第一選択とする.第二選択薬としては,炭酸脱水酵素阻害薬やb遮断薬の点眼剤が候補としてあげられる.また,低濃度のピロカルピンが奏効することもしばしば経験されるが,縮瞳や白内障進行などの副作用や,Zinn小帯が脆弱化している浅前房の症例においては,さらに前房が浅くなることにより逆説的瞳孔ブロックをきたし,逆に眼圧が上昇する可能性もあることから慎重に投与する.点眼治療のみでコントロール不可能な場合には炭酸脱水酵素阻害薬の内服も考慮されるが,やはり高齢患者が多いことから全身副作用の発現が懸念され,長期投与が必要とされる場合には観血的治療を考慮すべきである.また本症は,ある受診日に眼圧が高値を示しても,次回受診時には通常の眼圧に復しているなど,変動する眼圧に翻弄されたあげく観血的治療に踏み切るタイミングを逸しやすい傾向があるので注意を要する.IIぶどう膜炎に伴う緑内障ぶどう膜炎患者の視神経乳頭,視野に緑内障性変化がみられる頻度は9.6%と報告されている5).ぶどう膜炎に伴う緑内障の眼圧上昇機序はさまざまであるが,大きくは開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に分類される.開放隅角の場合は,炎症細胞による線維柱帯の閉塞や線維柱帯の炎症,閉塞隅角の場合には周辺虹彩前癒着や虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロック(irisbombe)が主たる発症機序としてあげられる.1.臨床所見の特徴ぶどう膜炎の病型によって性状はさまざまではあるが,前房内の炎症細胞,フレアの増強,前房蓄膿および角膜後面沈着物をみる.サルコイドーシスによるぶどう膜炎では,隅角に特徴的な白色半透明の結節(図4)や,テント上,台形の虹彩前癒着がしばしば認められる(図5).虹彩後癒着の進行により,完全瞳孔ブロックをきたすとirisbombeとなり,前房は消失し眼圧は急激に上昇する.b.隅角所見強い色素沈着が本症の隅角にみられる特徴的所見である.色素沈着が高度な症例では,下方の隅角にSchwal-be線を超える波状の色素沈着がしばしば認められ,Sampaolesi線と称されている(図2).2.薬物治療のポイント落屑緑内障は,原発開放隅角緑内障と比較して,眼圧レベルが高く,眼圧変動も大きいことがKonstasらにより報告されている2).さらに,彼らは眼圧変動の大きい症例は,より進行しやすいことも明らかにし,5年間継続して治療した症例について,進行を認めた群と進行を認めなかった群とを比較し,進行群の治療中の平均眼圧と眼圧変動幅が非進行群よりも大きいことを報告している3)(図3).落屑症候群の眼圧変動の原因としては,短期的には散瞳により一斉に色素が散布され,一過性に急激な眼圧上昇をきたす4)ことがよく知られているが,本症はZinn小帯の脆弱化を伴いやすいため,水晶体の前方偏位を生じやすく,瞳孔ブロックの増大に起因する隅角閉塞機転が生じる可能性も高いことに留意する.このような場合には,レーザー虹彩切開術や白内障手術によって,まず瞳孔ブロックの解消を図ることが薬物治療に優先されるべきである.薬剤の選択としては,強力な眼圧下降,眼圧変動幅の抑制を得られ,さらに24時間効果が持続する薬剤を第図3落屑緑内障患者の眼圧変動の分布(文献3より):進行例:非進行例12345678910111213141516173432302826242220181614121086420患者数平均眼圧(mmHg)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008807(57)ある.このような場合,状況が許せばステロイド投与を中止して眼圧経過を見守る.ステロイド緑内障である場合,眼圧はステロイド中止後,数日から数週間で下降するとされている6).しかし実際の臨床上,眼圧上昇は炎症所見が沈静化した後に,ステロイドを漸減している最中の症例や,少量持続投与中の症例に発生することがよく経験され,原疾患の再燃による眼圧上昇との判別に戸惑うことは決して少なくない.眼圧下降治療に関しては,炭酸脱水酵素阻害薬,およびb遮断薬を中心とした房水産生抑制作用をもつ薬剤を処方する.炎症眼に対するプロスタグランジン製剤の使用に関しては意見が分かれるところである7,8).筆者らの施設では禁忌とはしていないが,現在までに胞状黄斑浮腫(CME)の発症,および炎症の増強や再燃に関して,プロスタグランジン製剤投与と明らかな因果関係が疑われた症例は経験していない.しかし炎症眼に対するピロカルピンの使用については,炎症が及んでいる毛様体筋に作用することで毛様痛の誘因となるほか,血管透過性亢進作用による炎症の遷延化,そして虹彩後癒着の原因ともなるため原則として禁忌とする.ほかの病型の緑内障と同様,最大限の薬物治療を行っても眼圧コントロールが得られず,視機能の維持が困難と判断された場合には,速やかに観血的治療に踏み切る.肉芽腫性ぶどう膜炎では,虹彩前癒着の範囲が広範囲に及ぶほど,手術治療を要する頻度が高くなることが報告されている9)(表1).III内眼手術後の緑内障内眼手術に続発する緑内障としては,悪性緑内障,白内障や角膜移植などの前眼部手術に続発する緑内障,および硝子体術後の硝子体内ガスやシリコーンオイル注入2.薬物治療のポイント薬物治療を開始する前の大原則は,ぶどう膜炎の原因検索を十分に行うことである.鑑別方法の詳細については他書に譲るが,片眼性か両眼性か,炎症反応を起こしている部位と性状,経過は急性か慢性か,随伴する全身症状の有無などが診断を下すうえでのキーポイントとなる.感染性のぶどう膜炎が疑われる場合は,病原微生物に対する血清抗体価の上昇が参考になる.またサルコイドーシス,Behcet病など全身管理を要する場合には他科との連携が重要となる.非感染性ぶどう膜炎の治療は,基本的に副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与が主軸となる.局所投与としてはリン酸ベタメタゾンやデキサメタゾンの点眼を1日46回行い,病状の変化に応じて増減する.さらに前眼部に強い炎症反応を認める場合には,結膜下注射を行う.中間部,もしくは後眼部が主体の病変に対しては,トリアムシノロンアセトニドの後部Tenon下注射を行う.通常眼圧は眼内炎症の寛解に伴って下降することが多い.しかし,一旦下降していた眼圧が一転して上昇する場合にはステロイド緑内障の発症を疑う必要が表1隅角の虹彩前癒着(PAS)所見と治療成績隅角眼薬物治療緑内障手術に眼隅角上文献図4サルコイドーシスにみられた隅角の結節(矢印)図5サルコイドーシスにみられた隅角の虹彩前癒着(矢印)———————————————————————-Page4808あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(58)房と高眼圧をきたす疾患である.発症機序としては,本来なら後房から前房へ流出すべき房水がmisdirectionされ,後方の硝子体腔に貯留することにより,水晶体,虹彩隔壁を角膜側に押し上げ,浅前房,隅角閉塞が生じる(図6).現在のところ,房水がmisdirectionされる詳細な機序は明らかにされていないが,近年,毛様体脈絡膜離との関連を示唆する報告がなされている12).a.臨床所見の特徴緑内障濾過手術,白内障手術,およびレーザー虹彩切開術などの内眼手術後に生じ,浅前房化に伴う眼圧上昇が診断の契機となる.緑内障濾過手術後の場合は,術後に過剰濾過をきたすと通常は低眼圧,浅前房となるが,眼圧が維持されているにもかかわらず浅前房である場合は,たとえ明らかな眼圧上昇をきたしていなくとも本症の発症を疑う必要がある.診断には超音波生体顕微鏡(UBM)が有用であり,毛様体突起が硝子体腔より圧排されることで扁平化し,前方回旋した所見が特徴的である.b.薬物治療のポイント毛様体ブロックを解除する目的で,毛様体筋の弛緩作用により前方偏位している毛様体の後方移動を促進するために1%アトロピン点眼を開始する.ピロカルピンが投与されている場合には,毛様体の前方移動促進作用により病態を悪化させるため,ただちに中止する.また,硝子体容積を減少させる目的にて,高浸透圧薬の点滴を行う.さらに房水産生を抑制する目的で,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼,内服,b遮断薬の点眼を行う.約50%の症例が薬物治療によって寛解可能であるとする報告がある13).薬物治療が奏効しない場合や,再発をくり返す場合には,レーザー治療や,前部硝子体切除によって房水動態の正常化を目指す.による緑内障などがあげられる.このなかでも特に経験する機会が多い,白内障術後の眼圧上昇と,発症初期の病態把握と薬物治療の選択が予後を左右する悪性緑内障について述べる.1.白内障術後の緑内障白内障術後の眼圧上昇は,術後いずれの段階でも起こりうる.術後早期では,粘弾性物質の残留,前房内炎症,ステロイド点眼,晩期では慢性炎症,YAGレーザーによる後切開術などが代表的であるが,日常臨床で遭遇する機会が多い術後早期の眼圧上昇への対応を考えてみたい.a.臨床所見の特徴近年の白内障手術の低侵襲化により,術後早期の眼圧上昇原因として術後炎症に起因するケースは著しく減少している.したがって,術中合併症なく終わった症例が術翌日に眼圧上昇をきたした場合,前房内に残留した粘弾性物質をまず疑う必要があろう.典型的な臨床所見としては,粘弾性物質によって満たされた前房水の熱対流の遅延であり,これは前房内を浮遊している炎症細胞の移動速度の低下として観察される.緑内障症例など,房水クリアランスが低下している眼は眼圧上昇の頻度が高い10).眼圧上昇は通常1216時間後にピークに達し,その後約72時間でヒアルロン酸ナトリウムが加水分解されることで下降する11).b.薬物治療のポイント眼圧上昇原因として,線維柱帯の房水通過障害が考えられており,房水産生抑制を目的として,b遮断薬や,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼剤を処方する.筆者らは,すでに術後点眼を多剤併用していること,眼圧上昇が通常一過性であることより,炭酸脱水酵素阻害薬の内服を処方することが多い.眼圧上昇が長期に及ぶ場合は,前房洗浄を考慮する必要があるが,手術終了時に粘弾性物質を可能な限り除去することで,発症そのものの予防を心がけることが大切である.2.悪性緑内障悪性緑内障とは,毛様体ブロック緑内障とも称され,瞳孔ブロックが解除されている眼に起こる進行性の浅前図6悪性緑内障の前眼部前した体水———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008809(59)rienceandincidenceinaretrospectivereviewof94patients.Ophthalmology105:263-268,19988)山口恵子,東永子,中島花子ほか:内因性ぶどう膜炎におけるラタノプロストの起炎性.臨眼95:498-501,20019)沖波聡:ぶどう膜炎による緑内障とその治療.眼紀39:1396-1403,198810)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Extracapsularcata-ractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198711)StamperRL,LiebermanMF,DrakeMV:Secondaryopen-angleglaucoma:Becker-Shaer’sdiagnosisandtherapyoftheglaucomas,7thed,p317-355,Mosby,StLouis,199912)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoM:Uvealeusioninprimaryangle-closureglaucoma.Ophthalmology112:413-419,200513)SimmonsRJ,MaestreFA:Malignantglaucoma.TheGlaucomas,Vol2,2nded(edbyRichR,ShieldsMB,KrupinT),p841-855,Mosby,StLouis,1996文献1)Schlotzer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.Ocularmanifestationofasys-temicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,19922)KonstasAG,MantzirisDA,StewartWC:Diurnalintraoc-ularpressureinuntreatedexfoliationandprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol115:182-185,19973)KonstasAG,HolloG,AstakhovYS:Factorsassociatedwithlong-termprogressionorstabilityinexfoliationglau-coma.ArchOphthalmol122:29-33,20044)大蔵文子:落屑緑内障の散瞳試験.落屑症候群─その緑内障と白内障─,p60-70,メディカル葵出版,19945)Merayo-LlovesJ,PowerWJ,RodriguezAetal:Second-aryglaucomainpatientswithuveitis.Ophthalmologica213:300-304,19996)Kass,MA:Corticosteroid-inducedglaucoma.TheGlauco-mas(edbyRitchR),p1161-1168,Mosby,StLouis,19897)WarwarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Expe-