———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSが,オートレフラクトメータは検査時に調節の介入を招きやすい(器械近視)ので,注意を払う必要がある.強い調節異常が疑われるときは成人といえども調節麻痺薬を点眼して検査するとよい.調節麻痺薬としてはシクロペントレート(サイプレジンR)が望ましい1).雲霧を持続した状態で自覚的屈折検査を行う.他覚的屈折検査で得られた値より3D程度プラス側の検眼レンズを装用した後に,視力表を用いて視力値を確認しながら検眼レンズの度数をマイナス側に交換する.凹レンズの交換は検眼枠から前のレンズをはずした後に次のレンズを挿入するが,凸レンズの交換は前のレンズに次のレンズを挿入した(加えた)後に前のレンズをはずすことを忘れてはならない.梶田は両眼同時雲霧法を推奨している2,3).眼鏡では円柱レンズによって全乱視を矯正するが,角膜乱視を確認することも大切である.全乱視は主として角膜乱視と水晶体乱視とからなるが,全乱視と角膜乱視の程度が大きく異なる,あるいは軸が大きく異なる場合には,測定した屈折検査の値が疑わしいことが多い.角膜乱視はオートケラトメータあるいはトポグラフィで測定する.視力検査では裸眼の遠方視力と近方視力,検眼レンズによって矯正した遠方視力と近方視力を測定する.患者が眼鏡あるいはコンタクトレンズ(CL)を使用している場合には,これらを使用した場合の視力も測定する.眼鏡ならびにCLの規格の確認も必要である.近点を測定すると,患者の屈折値から明視域が計算ではじめに屈折異常によって視力低下が生じた場合,調節力の低下によって希望する位置の物が見えなくなった場合,見えるけれども眼精疲労が生じた場合は,眼鏡による屈折異常あるいは調節異常の矯正を必要とする.成人に対する眼鏡処方においては,屈折異常の種類と程度を確認することに加えて,加齢に伴う調節力の低下による明視域を確認することが大切である.これまでの屈折異常や調節異常をどのように矯正していたかを把握したうえで,職業や生活習慣を考慮した眼鏡を処方することが求められる.単によく見える眼鏡ではなく,快適な眼鏡を処方するように心がける.快適な眼鏡とは楽によく見える眼鏡,長時間使用しても疲れない眼鏡であると考える.老視矯正を目的とする遠近両用レンズの処方は他稿に譲り,本稿では主として屈折異常や調節異常に対して単焦点レンズをどのように合わせるかのポイントを述べた後に,具体的な症例を提示して解説する.I眼鏡処方に必要な検査細隙灯顕微鏡検査や眼底検査などによって前眼部,中間透光体,眼底に眼疾患がないかを確認する.成人においては種々の眼疾患にかかっていることがあり,その場合には疾患が視力にどの程度影響するかを考える.屈折異常の種類と程度を測定するには他覚的屈折検査としてオートレフラクトメータや検影法が用いられる(31)755眼75108721115眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):755762,2009成人の眼鏡PrescribingSpectaclesforAdults植田喜一*———————————————————————-Page2756あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(32)用し,近見作業時は裸眼でよい.一方,軽度の遠視の者が裸眼では遠見時はあまり困らないが,近見時は視力低下となる場合には,少なくとも近見作業時には眼鏡を使用させる.しかしながら,軽度の遠視であっても調節力の低下に伴って,眼精疲労を訴えるようになると,眼鏡をなるべく常用するよう指導する.若い頃から眼鏡を使用していない者には眼鏡に対する抵抗があるため眼鏡の常用がむずかしい場合も多いが,見え方をよくするためだけでなく,眼精疲労を軽減することを理解してもらう必要がある.近見作業に伴う調節異常が疑われた場合には休日の午前中など,調節異常が比較的寛解しているときに再検査を行う.調節異常が強度の場合には調節麻痺下の屈折検査を行うとよい.〔症例1〕23歳,女性.主訴:遠見障害と近見障害.現病歴:以前は遠くも近くもよく見えていたが,仕事で長時間パソコンを使用するようになって近くが見づらくなった.最近では遠くもぼやけて見える.来院時所見:遠方視力RV=0.1(0.9×S0.50D)LV=0.7(0.9×S0.50D)近方視力NRV=0.4(0.8×S+1.50D)NLV=0.5×(0.8×S+1.50D)オートレフラクトメータ値(測定のたびに変動あり)R)S1.25DC0.50DAx160°L)S1.00DC0.75DAx180°オートレフラクトメータ値(シクロペントレート点眼後)R)S+0.75DC0.25DAx178°L)S+0.75DC0.25DAx179°再来時:眼鏡処方(近方作業時に使用)R)S+1.25DL)S+1.25D解説:作業後の来院時検査で,他覚的屈折値,自覚的屈折値の変動ならびにこれらの値の明らかな解離を認め,良好な矯正視力が得られなかった.シクロペントレート点眼後の他覚的屈折検査で軽度の遠視を認めたので,近方作業時に使用する眼鏡を処方した.きる.患者の近見時の作業距離も確認しておくとよい.眼位や両眼視機能についてもチェックしておいたほうがよいが,詳細は割愛する.II眼鏡処方の実際調節が介入していない状態の屈折値をもとにして,最良矯正視力が得られる最もプラス側の検眼レンズを眼鏡レンズ度数とするのが原則である.しかしながら,実際にはこうした眼鏡では快適に過ごすことができないと訴える患者もいる.調節力が比較的よく保たれている若い世代では順応性があるが,30代後半になると遠見だけでなく,近見も十分に考慮したレンズ度数を選択しないと患者は満足しないことが多い.年齢,職業,生活習慣を考慮したうえで,使用目的に合った眼鏡を処方することが重要である.初回の処方で眼科医が目標とする眼鏡レンズ度数と,患者が掛けられる眼鏡レンズ度数が隔たった場合には,再処方を念頭に入れて合わせることもある.こうした場合には,レンズ度数の変更に応じてくれる眼鏡店で眼鏡を購入するよう指導する必要がある.眼鏡処方にあたっては単焦点レンズの規格(球面度数,円柱度数,円柱軸)と瞳孔間距離(実際には芯取り点間距離)を記した処方せんを患者に渡すだけでなく,眼鏡フレームの選び方や使用方法(常用,近見時のみ,遠見時のみ)についても具体的に説明することが大切である.III患者の背景初めて眼鏡を使用するか,これまでに眼鏡を使用していたかを聴取する.CL使用者においても詳細な問診を聴取する必要がある.1.眼鏡初心者パーソナルコンピュータや携帯電話などのIT機器の普及に伴って,近見作業を強いられ,近見化が進んでいる.もともと正視あるいは軽度の近視で眼鏡を必要としなかった者でも,近視化あるいは近視の進行によって遠見障害を訴えた場合には,遠用眼鏡を処方することになる.近視が比較的軽度の場合は,遠見作業時に眼鏡を使———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009757(33)R)S2.50DC1.00DAx88°L)S3.00DC0.75DAx90°再来時:眼鏡処方(常用)R)S2.50DC0.50DAx90°L)S3.00DC0.25DAx90°解説:近視に対して過矯正の眼鏡を使用すると,当初遠方はよく見えるが,近方にピントが合いにくいという症状が出る.眼精疲労がひどくなると遠方の見え方も悪くなる.どの程度,球面マイナス度数を下げたらよいかわからないことが多い.本症例では調節麻痺薬を点眼して,屈折値を求めて眼鏡を処方した.〔症例3〕40歳,女性.主訴:近見障害,眼精疲労.現病歴:眼鏡(常用)を処方してもらったが,遠くは裸眼で見えるので近方を見るときにしか使用していない.最近目の疲れがひどい.来院時所見:遠方視力RV=0.9(1.5×所持眼鏡)(n.c.)LV=0.9(1.5×所持眼鏡)(n.c.)近方視力NRV=0.4(0.9×所持眼鏡)NLV=0.4(0.9×所持眼鏡)所持眼鏡R)S+2.00DC0.50DAx90°L)S+2.00DC0.50DAx90°解説:軽度の遠視の患者は,眼鏡を常用するように奨めても,若い頃,眼鏡を使用していないため,眼鏡に対する抵抗がある場合が多い.調節力がさらに低下して遠見視力が下がると眼鏡を常用する場合が多いが,眼精疲労の軽減のためにも眼鏡の必要性を詳しく説明する必要がある.本症例は眼鏡を常用するようになって眼精疲労は軽快した.3.CL使用者眼表面に接するCLは眼障害をきたす危険があるため,CL使用者は必ず眼鏡を併用すべきである.しかしながら,眼鏡を所持していない,所持していても適切な度数ではないといった者も少なからずいる.眼障害を起こし,CLをはずさなければならない状態になって,あわてて眼鏡処方を希望して来院する患者がいるが,角膜に障害があると眼鏡を処方できない場合も多い.したが2.眼鏡使用経験者眼鏡をいつから使用しているか,常用しているか,使用している眼鏡の遠方ならびに近方の見え方はどうか,眼精疲労の有無とその程度を聴取する.使用眼鏡の規格を測定し,実際にその眼鏡による遠見視力と近見視力(作業距離での視力)の測定と,眼鏡のフィッティング状態を確認する.近視で低矯正の眼鏡を使用していた場合には,球面マイナス度数を上げればよいが,過矯正の眼鏡を使用していた場合には調節異常をきたしている場合が多いので,適正な球面マイナス度数を決定することがむずかしい.適正な眼鏡であっても眼鏡を常用していないため調節異常をきたして,良好な視力が得られない場合や眼精疲労を生じている場合もある.こうした患者には眼鏡を常用するよう指導する.眼鏡のフィッティングが不良のため,良好な視力が得られていない場合も多い.問題があれば眼鏡店で眼鏡を調整してもらうように指導する.〔症例2〕35歳,女性.主訴:遠見障害,眼精疲労.現病歴:最近,遠くが見えにくくなったので,眼鏡店で眼鏡をつくった.遠くは見えるが,近くの物にピントが合いにくい,ぼやけることがある.目の病気があるかと心配になった.来院時所見:遠方視力RV= (1.2×所持眼鏡)(1.2×所持眼鏡(S+0.50D)LV= (1.2×所持眼鏡)(1.2×所持眼鏡(S+0.50D)近方視力NRV= (0.6×所持眼鏡)(1.0×所持眼鏡(S+1.0D)NLV= (0.6×所持眼鏡)(1.0×所持眼鏡(S+1.0D)所持眼鏡R)S3.00DC1.25DAx90°L)S3.50DC1.00DAx90°オートレフラクトメータ値R)S3.25DC1.50DAx82°L)S3.75DC1.50DAx92°オートレフラクトメータ値(シクロペントレート点眼後)———————————————————————-Page4758あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(34)合がある.オートレフラクトメータの値だけでなく,オートケラトメータで角膜乱視の変化をみる必要がある.角膜形状の変化はトポグラフィで観察すると詳細な情報を得ることができる4)(図1).角膜形状変化を認めた場合は,CLの使用を中止し,変化が落ち着いてから眼鏡を処方する.特にハードコンタクトレンズ(HCL)の装用者は角膜形状が大きく変化することがあるので,十分な観察が必要である4)(図1,2).酸素透過性の低いHCL装用や,高酸素透過性HCLであっても長時間装用って,普段の生活でCLを装用しないときは眼鏡を使用するように指導することが大切である.眼鏡を使用したことのない患者に対しては眼鏡とCLのメリット,デメリットを説明する.CLと眼鏡を併用するか,あるいはCLの使用を中止して眼鏡のみを使用するかで,処方内容が異なる.CLと眼鏡を併用する人は主としてCLを使用し,CLをはずした後の数時間しか眼鏡を使用しないことが多い.こうした場合の眼鏡は主として室内で使用するため,遠方重視というよりもやや中間距離に眼鏡の程度を合わせたほうがよい.〔症例4〕28歳,男性.主訴:遠見障害.現病歴:ソフトコンタクトレンズ(SCL)を使用している.SCLをはずしたときに使用する眼鏡を処方してほしい.来院時所見:遠方視力RV=(1.2×S7.0D)(1.2×SCL)LV=(1.2×S6.75D)(1.2×SCL)装用SCLR)S6.50DL)S6.25D再来時:眼鏡処方(SCL装用後)R)S6.50DL)S6.25D遠方視力RV=(0.8×処方眼鏡)LV=(0.8×処方眼鏡)解説:SCLを主として使用する患者で,SCLをはずした後に眼鏡を室内で使用するため,完全矯正ではなく,やや低矯正にしたものを処方した.CLと眼鏡は角膜頂点間距離が異なるため,屈折異常を矯正するレンズ度数は異なる.±4.00D以上では角膜頂点間距離補正をしなければならない.本症例では右眼の7.00Dは眼鏡では7.00Dになるのに対してCLでは6.50Dとなり,左眼の6.75Dは眼鏡では6.75Dになるのに対してCLでは6.25Dとなる.装用しているSCLの度数と処方眼鏡の度数は同じであるが,SCLは完全矯正であるのに対して処方眼鏡は0.5Dの低矯正である.CL装用によって角膜形状変化や角膜浮腫を生じる場HCL装用前HCL装用24日後図1HCL装用による角膜形状変化HCLの装用で角膜不正乱視を生じた.HCL装用前HCL装用20日後図2HCLの装用中止による角膜形状変化HCL装用を中止すると角膜形状が大きく変化した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009759(35)L)S3.25DC0.75DAx180°解説:HCLの内面は球面カーブであるため,HCLを装用するとこれに接する角膜はその形状に近づき角膜乱視は軽減するが,HCLの装用を中止するともとの角膜形状に戻る(図2).このように長期間HCL装用していた患者が装用を中止すると角膜乱視が強くなり,眼鏡の見え方も変化することがあるので,角膜形状変化が落ち着いたのを確認して再処方する.IV加齢に伴う調節力の変化調節力は10歳では1214Dあったものが,加齢に伴って直線的に低下し,30歳では69D,40歳代では46D,50歳代では13Dになる3)(図3).この調節力の低下によって明視域も低下するが,正視,近視,遠視ではこの明視域が異なる.図4は+2Dの遠視,正視,2Dの近視の調節力の低下に伴う明視域を示したものである.+2Dの遠視と正視は裸眼で遠方は見えても,2Dの近視に比して近方が見えないことがわかる.特に遠視では近見障害が起こりやすいため,早朝から近見用の眼鏡が必要となる.一方,2Dの近視は遠方は見えないため近視矯正の眼鏡を必要とするが,調節力が低下しても近方は裸眼でもほとんど不自由しないことになる.調節力の低下が著しくなると,明視域が狭くなるため,裸眼または単焦点レによって角膜浮腫をきたすことがある.こうした場合は屈折値にも変化を生じることが多い.HCLの装用をやめて眼鏡を常用する患者では,角膜形状変化が落ち着く前や角膜浮腫がよくなる前に眼鏡を処方すると,当初見えていた眼鏡が徐々に見えにくくなることがある.こうした場合には再処方を必要とする.〔症例5〕28歳,女性.主訴:遠見障害.現病歴:8年前よりHCLを装用しているが,装用をやめて眼鏡を常用したい.来院時所見:角膜曲率半径R)弱主経線値=8.03mm強主経線値=7.79mm(角膜乱視1.30DAx179°)L)弱主経線値=8.05mm強主経線値=7.77mm(角膜乱視1.51DAx2°)遠方視力RV=(1.2×S3.00D)(1.2×HCL)LV=(1.2×S3.00D)(1.2×HCL)装用HCLR)3.00DL)3.00D眼鏡処方(常用)R)2.75DL)2.75D遠方視力RV=(1.0×処方眼鏡)LV=(1.0×処方眼鏡)再来時(1カ月後)所見:角膜曲率半径R)弱主経線値=8.16mm強主経線値=7.63mm(角膜乱視2.87DAx178°)L)弱主経線値=8.17mm強主経線値=7.69mm(角膜乱視2.62DAx177°)遠方視力RV=(0.4×処方眼鏡)LV=(0.4×処方眼鏡)RV= (1.2×S3.25D(C1.00DAx180°)LV= (1.2×S3.25D(C1.25DAx180°)眼鏡再処方(常用)R)S3.25DC0.50DAx180°10304050607020201086412年齢(歳)14調節力(D):石原:福田:矢野:Clarke:Donders:Duane図3年齢調節力曲線(文献3より)———————————————————————-Page6760あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(36)2+10-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-121005033.3252016.714.312.511.1109.18.3Dcm2+10-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-121005033.3252016.714.312.511.1109.18.3Dcm2+10-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-121005033.3252016.714.312.511.1109.18.3Dcm2Dの遠視の明視域+2Dの遠視の明視域+2Dの遠視の明視域*+2Dに明視域はない(理論上遠点は∞となる)正視の明視域-2Dの近視の明視域正視の明視域-2Dの近視の明視域正視の明視域-2Dの近視の明視域調整力明視域調節力が5Dの場合調節力が10Dの場合調節力が2Dの場合図4屈折値と調節力の違いによる明視域———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009761(37)ンズでは患者の希望するすべての距離を見えることができなくなる.こうした場合には度数の異なる単焦点レンズを併用する(遠見重視のレンズと近見重視のレンズを使い分ける)か,遠近両用レンズを使用することを奨める.老視矯正の眼鏡処方については他稿に譲る.V眼鏡処方がむずかしい症例1.強度の遠視,近視と不同視強度の遠視や近視では,眼鏡で矯正すると網膜像の拡大,縮小が起こるため,眼鏡は使用しづらい.たとえば+10.0Dの眼鏡レンズでは12%の拡大,10.0Dでは12%が縮小される5).このような場合にはCLのほうがよい.特に眼内レンズの挿入が困難な無水晶体眼(強度遠視)ではCLが第一選択となる.屈折値の左右差が2D以上あると眼鏡では不等像を生じる.若い頃から眼鏡を使用して慣れている患者の場合はよいが,そうでない場合には眼鏡が使用できる状態まで左右のレンズ度数の差を減らす.また,片眼は遠見重視,反対眼を近見重視にする方法を試みてもよい1).一般に優位眼を遠用とする場合が多いが,患者によっては反対にしたほうがよい場合もあるので,時間をかけて試す必要がある.ただし,立体視が損なわれるという問題がある.〔症例6〕38歳,男性.主訴:遠見障害,眼精疲労.現病歴:右眼と左眼の屈折値に差があるので,SCLを使用しているが,目が乾くので,長時間の装用がむずかしい.眼鏡を併用したい.来院時所見:遠方視力RV=(1.2×S3.00D)LV=(1.2×S5.50D)近方視力NRV=(1.2×S2.25D)NLV=(1.2×S4.75D)眼鏡処方(SCLとの併用)R)S3.00DL)S4.75D解説:右眼と左眼の屈折値の差が2.50Dの不同視で直乱視倒乱視図5乱視を凹円柱レンズで矯正した場合の像の見え方正円は直乱視では横楕円形に,倒乱視では縦楕円形に見える.円柱は直乱視は横長く,倒乱視では縦長く見える.(所敬氏提供)図6乱視を円柱レンズで矯正した場合の像の見え方左右眼の乱視の度数,軸が同じ場合は同じ方向に傾いた楕円形になり,これらを融像することは可能である(②,③)が,左右眼で軸の方向が大きく異なる場合は同時視や両眼視ができない場合が多く,両眼視ができたとしても空間のゆがみを認識する(④⑧).(文献6より)———————————————————————-Page8762あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(38)ある.右眼を遠見重視,左眼を近見重視とするモノビジョンテクニックを試みた.慣れるまでに長時間を要したが,現在はSCLよりも眼鏡を常用している.2.強度の乱視と不正乱視強度の乱視を眼鏡レンズ(円柱レンズ)で完全矯正すると,網膜像の拡大,縮小が経線方向によって異なる1,6)(図5,6)ので,円柱レンズの度数を弱めないと眼鏡が使用できない場合が多い.垂直,水平方向の網膜像の拡大,縮小は順応しやすいが,斜め方向は順応できないことが多いので,斜乱視では矯正効果は弱まるが,円柱レンズの軸は180°または90°にしたほうが無難である.左右で乱視の軸が異なる場合は融像がむずかしいので,円柱レンズの度数を弱めても順応できない場合には,CLの処方を検討する.角膜不正乱視は眼鏡では良好な視力が得られないのでHCLが第一選択となるが,CLをはずしても最低限の日常生活ができるような眼鏡を処方する必要がある.〔症例7〕26歳,男性.主訴:遠見障害.現病歴:眼鏡店で眼鏡を合わせてもらったが,掛けると頭が痛くなる.来院時所見:遠方視力RV=(1.2×S6.00D(C2.00DAx20°)LV=(1.2×S6.50D(C2.00DAx160°)所持眼鏡R)S6.00DC2.25DAx20°L)S6.50DC2.25DAx160°RV=(1.2×所持眼鏡)LV=(1.2×所持眼鏡)眼鏡処方(常用)R)S6.00DC2.00DAx180°L)S6.50DC2.00DAx180°遠方視力RV=(0.9×処方眼鏡)LV=(0.9×処方眼鏡)解説:所持眼鏡の円柱軸は20°と160°であったので180°とした.円柱レンズによる乱視の矯正効果はやや弱まったが,患者の自覚症状は軽減した.おわりに屈折値ならびに調節力は年齢とともに変化する.生涯を通して遠見も近見も裸眼で楽によく見える人はいないはずで,いずれかの時期に眼鏡が必要となる.成人においては調節力の低下によって適正な眼鏡を処方したとしても年月が経つと見え方が変わることを実感する.患者によっては眼鏡を何本も使用しているが,どれも満足のいく見え方ではないと訴えることもある.快適な眼鏡を処方することはむずかしく,眼光学に関する知識に加えて眼鏡についての知識と処方技術を必要とする.不適正な眼鏡の使用による不具合が国民生活センターで数多く報告されている.無資格者による眼鏡作製が問題視されているが,適正な眼鏡を処方できる眼科医が多くないことも背景にあると考える.患者のqualityofvisionを考えるうえで,まず基本になるのは眼鏡処方である.快適な眼鏡を処方できるための知識と技術を身につけたい.文献1)平井宏明:4.眼鏡により成人の屈折矯正.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版(坪田一男ほか編),p56-60,文光堂,20062)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科学20:11-14,19993)梶田雅義:眼鏡処方のテクニック.あたらしい眼科21:1441-1447,20044)植田喜一:眼鏡とコンタクトレンズ.眼科診療プラクティス94:102,20035)所敬:眼鏡・コンタクトレンズの屈折と調節.日コレ誌48:S13-S19,20066)平井宏明:Q8左右眼の乱視軸が著しく異なる成人の眼鏡矯正の考え方を教えてください.あたらしい眼科14(臨増):194-196,1997