———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSI連続装用シリコーンハイドロゲルCLの種類海外では前述のNIGHT&DAYRとPureVisionRが1カ月間連続装用CLとして発売されているが,これらは終日装用CLとしても使用されている.CIBAVision社のO2OPTIXTMとJohnson&Johnson社のACUVUEROASYSTMは2週間終日装用CLとして発売されているが,1週間連続装用CLとしての使用も可能である.わが国においては,CIBAVision社のNIGHT&DAYRがO2オプティクスという名称で1カ月間終日装用として発売されているが,最近,連続装用の認可も得ている.また,Bausch&Lomb社のPureVisionRがピュアビジョンの名称で1週間連続装用CLとして発売されているが,終日装用も認可を得ている.1.O2オプティクス(チバビジョン社製)O2オプティクスの物性,規格を表1に示す.レンズの表面処理はメタンプラズマコーティングが行われている.+5.0Dの遠視から10.0Dの近視に対応している.2.ピュアビジョン(ボシュロム社製)ピュアビジョンの物性,規格を表2に示す.レンズ表面処理は酸化プラズマコーティングが行われている.+3.0Dの遠視から9.0Dの近視および近視性乱視に対応している.ピュアビジョンは海外では1カ月間の連続装用CLとして発売されているが,日本における治験の際,はじめにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲルCL)は,従来のソフトコンタクトレンズ(SCL)に比較して,510倍の酸素透過性を有している1).海外では1998年にCIBAVision社からNIGHT&DAYRが,1999年にBausch&Lomb社からPureVisionRが1カ月間の連続装用コンタクトレンズ(CL)として発売され普及した.しかし,1カ月間の連続装用を継続するのは困難な場合もあり,次第に終日装用の割合も増してきている.CL装用者にとって,安全で快適な連続装用ができるのであれば,それが理想的なライフスタイルになるであろう.強度近視や強度乱視を有している場合,CLをはずしてしまうと,そのままでは遠見のみならず近見も不自由で,眼鏡にても十分な視力が得られない場合もある.また,社会生活も多様化してきており,CLの装用時間も不規則になりがちであり,オーバーウェアや装用したままの睡眠などで,しばしばトラブルが生じることがある.医師,看護師などの医療従事者,救急救命隊員,消防士など急な対応に迫られる職種に就く者や授乳中の母親などにとっても,屈折異常を有する場合,連続装用CLは有難い存在となる.さらに,治療用CLとしても,シリコーンハイドロゲルCLは高い期待が寄せられる存在である.(27)93110012115459特集●コンタクトレンズ・ここが知りたいあたらしい眼科25(7):931935,2008シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと連続装用ExtendedWearUseofSiliconeHydrogelContactLenses小玉裕司*———————————————————————-Page2932あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(28)く,角膜への癒着が少ない高酸素透過性のシリコーンハイドロゲルCLの製造が可能になった.安全で快適なシリコーンハイドロゲルCL連続装用の条件としては,汚れにくいこと,乾燥しにくいこと,角膜に機械的刺激を与えて角膜感染症を誘発するCLの角膜への吸着が少ないことなどがあるが,表面処理によってこれらの条件は満足されたといえる.2.高酸素透過性CLを連続装用しているときに,睡眠後の角膜浮腫を生理的な範囲(4%)に抑えるには,酸素透過率(Dk/L)は87.0×109(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)が必要とされている2).O2オプティクスもピュアビジョンも酸素透過係数(Dk値)はその基準値を大きく超えている.従来のSCLによる連続装用においては,レンズの酸素透過性が低くて低酸素による角膜浮腫のみならず,角膜細胞浸潤,角膜血管新生,充血,角膜感染症などの合併症が問題となっていた.日本コンタクトレンズ協議会が行ったアンケート調査によると,1週間連続装用ディスポーザブルSCLの眼障害発生率は15.5%であり,2週間頻回交換SCLの9.6%,1日終日装用ディスポーザブルSCLの3.3%と比較すると,かなり高い発生率となっている3).シリコーンハイドロゲルCLの高い酸素透過性は,従来のSCL装用による低酸素がひき起こしていたような角膜上皮菲薄化や細菌の付着を抑える4)ので,連続装用CLとしての安全性に期待がもてる.3.レンズデザインO2オプティクスは海外での発売当初,前面・後面ともに球面デザインであったが,日本での治験の際に角膜障害が問題となり,前面・後面を非球面デザインに変更したとのことである.ピュアビジョンはエッジ部分を前後面対称の流線形状(ティアストリームデザイン)にし,レンズの角膜への張り付きを軽減する工夫をしている.4.終日装用現在,O2オプティクスは最長1カ月,ピュアビジョンは最長1週間の連続装用の認可を得ているわけであるが,いずれも終日装用も可能であることは,快適性や安4週間連続装用の達成率は41%であったのに対して,1週間連続装用の達成率は98%であったことを考慮して,1週間連続装用CLとして発売することに踏み切ったとのことである.II連続装用シリコーンハイドロゲルCLの条件1.表面処理シリコーンハイドロゲルCLは高い酸素透過性を有しているが,その素材はハイドロ相に水を含んだゲルであり,レンズの表面は疎水性である.そのために,レンズ表面は何らかの処理をして親水性にしなければCLとしての使用は不可能である.プラズマコーティングなどの表面処理を施すことによって,汚れにくく,乾きにく表1O2オプティクスの物性・規格表レンズ素材USAN:LotralconA含水率24%酸素透過係数(Dk*)140酸素透過率(Dk/L**)175直径13.8mmベースカーブ8.4,8.6mm球面度数+5.0010.0D*Dk:酸素透過係数〔×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔×109(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.表2ピュアビジョンの物性・規格表レンズ素材USAN:BalalconA含水率36%酸素透過係数(Dk*)91酸素透過率(Dk/L**)110直径14.0mmベースカーブ8.6(球面レンズ),8.7mm(トーリックレンズ)球面度数+3.0012.0D(球面レンズ)+0.009.0D(トーリックレンズ)円柱度数0.75D,1.25D,1.75D,2.25D円柱軸10°,20°,80°,90°,100°,160°,170°,180°*Dk:酸素透過係数〔×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔×109(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008933(29)が低い症例,アレルギー性結膜炎やドライアイを有した症例,周辺部角膜形状が扁平化の強い症例(epithelialsplittingが生じやすいと推察される)などがあげられる.3.ユーザー指導法先ずは,終日装用も必要になる場合があるので,ケア用品を購入させ,ケア方法を指導しておく.レンズを装用する前には必ずしっかり手洗いをさせる.手洗い後はタオルやティッシュで手を拭くことを避けさせる(タオルやティッシュの線維が手からレンズへ付着しないように).装用直後に異物感や違和感があった場合は,すぐにレンズをはずしてすすぎ洗いをさせ,その後に装用し直させる.連続装用中に,レンズをはずしたくなった場合は,人工涙液の点眼薬を使用させる.それでも,はずしたくなったら,無理に連続装用せずに終日装用に切り替えさせる.このようにして最初の1週間を過ぎたあたりから,次第に連続装用の快適性が向上することを,あらかじめ理解させておくとよい.また,1日1回は自分の眼を観察し,充血や角膜に白点がないか,レンズが汚れていないかなどをチェックするように指導する.異物感や充血や眼痛などの不都合が生じた場合は,すぐにレンズをはずして眼科受診をするように,そして,調子がよくても必ず定期検査に来るように指導する.IV治療用CLとしての連続装用シリコーンハイドロゲルCL治療用SCLの角膜上皮再生促進や保護,疼痛軽減,前房形成と維持,乾燥予防としての効果が期待できて,しかも比較的処方が容易な疾患は水疱性角膜症,糸状角膜症,反復角膜上皮離,角膜裂傷,Descemet膜瘤などである.Sjogren症候群,遷延性角膜上皮欠損,再発性角膜びらんなどの難治性眼表面疾患にシリコーンハイドロゲルCLの装用が有効であったとの報告もある5).以下に筆者が実際に経験した症例を紹介する.1.糸状角膜症ドライアイによる難治性糸状角膜症(図1)にO2オプティクスを人工涙液の点眼薬を使用しながら連続装用さ全面において望ましいことである.ピュアビジョンの市販後臨床治験において,連続装用後23日目に,一度レンズをはずしたくなる症例をときどき経験した.これは連続装用への不安感なのか乾燥感などのよるものか原因はわからないが,このようなときに終日装用に切り替えることが可能であれば,装用者への心理的,経済的負担は少なくなる.III連続装用シリコーンハイドロゲルCLのユーザー選択法と指導法1.装用意欲シリコーンハイドロゲルCL連続装用を成功に導くには,まず,連続装用に対する装用意欲が高いこと,あるいは連続装用の必要性が高いことが条件としてあげられる.長時間のCL装用を余儀なくされたり,うたた寝をよくしたり(授乳中の母親などを含む),朝まで着けたままにしたりすることが多いユーザーは安全性の観点からも高酸素透過性を有するシリコーンハイドロゲルCLの連続装用を希望することが多い.朝夕の装着脱が面倒,特に朝の装用時間がないというようなユーザーも装用意欲が高い.また,近視や乱視が比較的強いユーザーも,CLをはずした後の生活の不便性や不自由感から,連続装用への意欲は高い.職業的には,医師,看護師などの医療従事者,救急救命隊員,消防士など急な対応に迫られるユーザーも必要性は高いと考えられる.2.ユーザー選択法シリコーンハイドロゲルCL連続装用を安全に継続させるためには,処方時にユーザーを連続装用の適応かどうか選択する必要がある.基本的には,終日装用SCLを快適に使用していることが条件となるが,特に,レンズの装用がスムーズに行えているかが重要である.CLを連続装用する場合,レンズに付着した汚れや病原菌がトラブルの原因の大半を占めると考えられるため,レンズを睫毛や眼瞼に触れずにスムーズに装用できることが大切であると思われるからである.シリコーンハイドロゲルCL連続装用の禁忌としては,過去のCL装用歴においてトラブルをくり返している症例,CLの取り扱い,使用法,定期検査の励行などに対するコンプライアンス———————————————————————-Page4934あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(30)ズの装脱が不可能ということもあり,O2オプティクス(遠視度数)の1カ月間連続装用にて矯正している(図3).3.角膜上皮形成術後難治性の角膜上皮疾患に対して角膜上皮形成術が施されている.術後より従来型SCLの1週間連続装用を続けてきた(図4)が,レンズの安定性が悪く,装用感に満足が得られていなかった.ピュアビジョンの発売に伴い,ピュアビジョンの1週間連続装用に切り替えたところ,レンズの安定性がよくなり装用感の満足が得られたのみならず,角膜の透明性も改善した(図5).せた.O2オプティクス装用後2日目には糸状物は消失した(図2)が,レンズは2週間連続装用させた.レンズの装用を中止して暫くは糸状角膜症の発症は認めなかったが,1カ月後に再発したので,その後は再発に応じながら1カ月間の連続装用をくり返し,レンズ装用開始から9カ月ほど経過した時点で糸状角膜症の再発は認められなくなった.この2年間ほどはヒアルロン酸ナトリウム点眼薬の使用のみで再発を認めていない.2.エキシマレーザーによる角膜表層切除後角膜の表層性混濁をエキシマレーザーにて取り除いた後,眼鏡では眼精疲労が強く,高齢者で本人によるレン図1難治性糸状角膜症人工涙液の頻回点眼,糸状物の除去によっても改善が得られなかった.図2O2オプティクス装用2週間後糸状物は消失した.図3エキシマレーザーによる角膜表層切除後眼鏡による矯正では眼精疲労が強く,O2オプティクスの1カ月連続装用にて対処した.図4角膜上皮形成術後(従来型SCLの連続装用)レンズの安定性が不良で装用感の満足が得られなかった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008935(31)て,適応か否かをしっかり選別し,連続装用をするにあたっての指導を徹底することが重要になってくる.連続装用がCLユーザーにとっては理想的な装用形式であるとすれば,連続装用がわが国に定着するように,それにはシリコーンハイドロゲルCL連続装用において重篤な眼障害が発症しないことが大切であり,われわれ眼科医はそのための最大限の努力を惜しんではならない.文献1)CompanV,AndrioA,Lopez-AlemanyAetal:Oxygenpermiabilityofhydrogelcontactlenseswithorganosiliconemoieties.Biomaterials23:2767-2772,20022)HoldenB,MerzGW:Criticaloxygenlevelstoavoidcor-nealedemafordailyandextendedwearcontactlens.InvestOphthalmolVisSci25:1161-1167,19843)日本眼科医会医療対策部:「日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査」について.日本の眼科74:497-507,20034)RenDH,YamamotoK,LadagePMetal:Adaptiveeectsof30-nightwearofhyper-O2transmissiblecontactlensesonbacterialbindingandcornealepithelium:a1-yearclinicaltrial.Ophthalmology109:27-40,20025)東原尚代:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの治療用コンタクトレンズとしての可能性.あたらしい眼科22:1339-1344,2005おわりに高酸素透過性のシリコーンハイドロゲルCLは,表面処理,デザイン面での改善などで従来のSCLに比較すると,その安全性は飛躍的に向上した感がある.連続装用への意欲や必要性の高いCLユーザーにとっては,連続装用シリコーンハイドロゲルCLの登場は望ましいものに違いない.しかし,まだシリコーンハイドロゲルCLの連続装用に対する安全性は,わが国において確立されてはいない.連続装用を希望するユーザーに対し図5角膜上皮形成術後(ピュアビジョンの連続装用)レンズの安定性,装用感ともに良好となり,角膜の透明性も改善した.