———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS菌)より産生される11個のアミノ酸よりなる環状ポリペプチド,一方,タクロリムスは放線菌の一種Strepto-mycestsukubaensisの代謝産物でマクロライド系化合物である.両者とも強力なT細胞特異的免疫抑制作用をもちヘルパーT細胞からの分化・増殖因子であるインターロイキン2(IL-2),インターフェロンg(IFN-g)などのサイトカイン産生を抑制する.タクロリムスのはじめに新しい薬の登場は,疾患の治療方針を変更させる.そして,その薬剤の厳密な効果評価は,その疾患の発症・増悪メカニズムの解明につながる.2007年1月に0.1%シクロスポリン水性点眼が発売され,2008年春には0.1%タクロリムス点眼が使用可能になる.両薬剤とも,オーファンドラックとして春季カタルのみの使用となる.ともにT細胞選択的免疫抑制効果をもつ.シクロスポリン点眼に関しては発売後の全例調査にて約1,000例に近いデータが蓄積されている.一方,タクロリムス点眼に関しては治験による約67例のデータがある.本稿ではそれらの具体的データを提示し,その効果,副作用,安全性,その限界などを検討する.そして,この2種のカルシニューリン阻害薬の使い分け,抗アレルギー薬点眼・ステロイド点眼との併用方法を示し,春季カタルの新しい点眼治療方針について提案する.一般にシクロスポリン・タクロリムスとも免疫抑制薬とよばれるが,広い意味ではステロイドも抗アレルギー薬も免疫抑制薬である.皮膚科領域ではタクロリムス軟膏はTIM(topicalimmuno-modulater),米国ではカルシニューリン阻害薬とよばれている.ゆえに本稿ではシクロスポリン・タクロリムスの点眼をカルシニューリン阻害薬点眼とする.Iカルシニューリン阻害薬の作用機序シクロスポリンはTolypocladiuminatumGams(真(3)137*NobuyukiEbihara:順天堂大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕海老原伸行:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室特眼アレルギーの識はいまあたらしい眼科25(2):137141,2008カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)によって変わる春季カタルの治療ImprovementofVernalKeratoconjunctivitisTreatmentwithCalcineurinInhibitors海老原伸行*図1タクロリムス・シクロスポリンのサイトカイン産生抑制作用シクロスポリンFK結合蛋白シクロフィリンタクロリムスT細胞抗原提示TCRチロシンリン酸化ZAP70PLCgRasMAPKKIP3Ca2+小胞体CN:カルシニューリン,CaM:カルモジュリンMARKCNCaMPPPPNFATNFATNFAT核mRNAIL-2遺伝子AP-1AP-1TCR———————————————————————-Page2138あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(4)はよくなかった.人工涙液で希釈したものもあったが懸濁しておりやはり患者のコンプライアンスが低かった.a-シクロデキストランに溶解した0.05%の製剤は透明であったが自家調整や冷所保存が必要で処方が限定された.米国においてはドライアイ治療薬として0.05%のミセル製剤(RestasisR)がある.今回発売された0.1%水性シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)は室温で安定,防腐剤を有さない1回使い捨てのディスポーザブルタイプの製剤である.2.シクロスポリン点眼の至適濃度油性基剤による2%シクロスポリン点眼の春季カタルに対する有効性についての報告は多い16).トルコのグループはアトピー性皮膚炎を合併していないステロイド抵抗性春季カタル患者4例のシールド潰瘍に対する,2%オリーブ油溶解シクロスポリン点眼の効果を検討している7).2%シクロスポリン点眼後,約10日でシールド潰瘍の消失を認め,その後13カ月点眼継続し,1%シクロスポリン点眼に変更しても再発は認めなかった.しかし,0.5%シクロスポリン点眼に変更すると再発し,さらに1%に戻すと症状・所見が改善した.一方,イタリアのグループは1.25%の人工涙液希釈シクロスポリン点眼を20名の巨大乳頭をもつ子供の重症春季カタル患者(514歳)に点眼投与した二重盲検・プラセボ試験を実施している8).点眼4週後には著明な自覚・他覚所見の改善を認め,4カ月後には自覚症状の重症度スコアが点眼前に比較して90%軽減,他覚所見の重症度スコアも80%軽減を示している.そして,翌年に同様の方法で1.00%シクロスポリン点眼を32名の子供の重症春季カタル患者に4カ月間点眼し,自覚症状の重症度スコアの96%軽減,他覚所見の重症度スコアの96%軽減を認めている.以上の報告より重症春季カタルに対してシクロスポリン点眼を単独で用いる場合の有効最低濃度は1.0%となる.低濃度のシクロスポリン点眼の効果を検討した報告もある.オーストラリアのグループは0.05%シクロスポリン点眼(RestasisR)をステロイド点眼施行中の春季カタル患者17名に併用し,ステロイド点眼からの離脱または症状・所見の改善についてプラセボとの無作為コンinvitroでのT細胞分化・増殖抑制効果はシクロスポリンの約100倍であり,移植臓器に対する拒絶反応抑制作用は用量比でシクロスポリンの30100倍である.シクロスポリン・タクロリムスのT細胞活性化抑制メカニズムは以下のように考えられている(図1).T細胞レセプターが抗原を認識すると,数々のカスケードが活性化され小胞体よりCa2+が放出される.カルモジュリン(CaM)はCa2+と結合し活性化し,さらにカルシニューリン(CN)は活性化CaMと結合し活性化する.活性化CNは細胞質内のNFAT(nuclearfactorofacti-vatedTcell)を脱リン酸化してNFATを核内へ移行させ,サイトカインのmRNA転写をひき起こす.シクロスポリン・タクロリムスは,それぞれ細胞質内のイムノフィリンであるシクロフィリン・FK結合蛋白と結合し,さらに活性化型CNに結合し不活性化する.不活性化CNはNFATの脱リン酸化を阻害し,NFATの核内移行が阻止され,サイトカイン産生が抑制される.ゆえに両者ともカルシニューリン阻害薬といわれる.春季カタルにおける巨大乳頭・トランタス斑への好酸球浸潤には,T細胞が強く関与する.抗原特異的高親和性Ig(免疫グロブリン)E受容体(FceRI)を発現している樹状細胞にIgEが結合し,多価抗原によりFceRIが架橋され樹状細胞が活性化し,T細胞に対し抗原提示を行う.活性化されたT細胞は増殖しIL-4・5・13などのサイトカインを産生し,局所へ好酸球を遊走させる.シクロスポリン・タクロリムスはT細胞の分化・増殖を抑制することにより,局所への好酸球浸潤を阻止する.IIシクロスポリン点眼1.シクロスポリン点眼の歴史シクロスポリンは臓器・骨髄移植後の拒絶反応抑制・Behcet病・乾癬・再生不良性貧血・ネフローゼなどの治療に使用されている.欧米では内服にてアトピー性皮膚炎に適応がある.そして今回点眼として春季カタルの適応になった.以前よりシクロスポリンは水に不溶性のためオリーブ油やヒマシ油に溶解し12%濃度で使用されていたが,その刺激性や粘性のため眼刺激感,接触眼瞼炎や霧視などの訴えが多く患者のコンプライアンス———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008139(5)与した.患者の自覚症状(痒感,眼脂,流涙,羞明感,異物感,眼痛)は点眼後1カ月で点眼前に比べすべての症状で6割近く低下した.その効果は点眼中の6カ月にわたり継続した.他覚所見は眼瞼結膜の充血,腫脹,濾胞,乳頭,巨大乳頭において点眼後1カ月目にはそれぞれ40%,47%,33%,23%,45%の軽減を認めた.そして点眼中の6カ月間にわたりその効果は継続した.乳頭の軽減が23%と低いのは巨大乳頭が乳頭へ変化したためと思われる.眼球結膜・輪部・角膜所見においては充血が50%,浮腫が57%,輪部トランタス斑が69%,輪部腫脹が64%,角膜上皮障害が44%の軽減を認め,点眼中の6カ月間にわたり維持された(図2).特に,輪部病変に対しては著効した.b.副作用901例のうち81例(8.98%)に副作用を認めた.主な眼副作用は点眼時の眼刺激感(3.33%)であった.感染トロール試験を施行している9).結果は,ステロイドからの離脱効果・症状改善効果にプラセボとの有意差はなかった.一方,トルコのグループはステロイド点眼施行中の子供の重症春季カタル患者6名に対し0.05%シクロスポリン点眼(RestasisR)を6カ月間併用し,効果を検討している10).結果は自覚症状・他覚所見も63%・67%の改善を認め,6例中5例にステロイドからの離脱が可能であった.このようにステロイド施行中の重症春季カタル患者に対する0.05%シクロスポリン点眼の効果は報告により異なり確定していない.3.0.1%水性シクロスポリン点眼の効果と副作用a.効果抗アレルギー点眼のみではコントロールできない春季カタル患者約800名に,0.1%水性シクロスポリン点眼(パピロックRミニ)を1回1滴・1日3回・6カ月間投図2春季カタルに対するパピロックRミニ点眼の効果(1カ月後)点眼後,巨大乳頭の平坦化,粘性眼脂の改善,角膜上皮障害の消失が認められた.点眼前点眼後———————————————————————-Page4140あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(6)眼圧上昇例はなかった.今後,長期使用したときの感染症の誘発について注意深く経過をみていかなくてはならない.IV春季カタル治療のパラダイムチェンジ文献考察,全例調査,治験から重症春季カタルに対して,シクロスポリン点眼を単独使用する場合は,2%程度,最低でも1%の濃度が必要であることが推察される.抗アレルギー薬点眼やステロイド点眼との併用効果やステロイド点眼からの離脱を図るためには0.05%シクロスポリン点眼では不十分で,0.1%水性シクロスポリン点眼が必要になる.一方,0.1%タクロリムス点眼は単独でも重症春季カタルに効果がある.近い将来0.1%水性シクロスポリン点眼と0.1%タクロリムス点眼との使い分けが必要になる.タクロリムスはシクロスポリンに比べinvitroでのT細胞選択抑制効果は約100倍強い.また臓器移植後の拒絶反応抑制作用は30100倍強い.ゆえに同濃度の点眼ならば,タクロリムスのほうが少なくとも10倍は強い効果を期待してよい.また両者の分子量が異なることも重要である.シクロスポリンの分子量は1,202.61以上であり,タクロリムスは822.05で小さい.アトピー性皮膚炎の外用剤としてシクロスポリンがタクロリムスに比較して無効なのは分子量が大きく皮膚バリアを越えて真皮まで薬が到達できないからである.春季カタル巨大乳頭組織においても結膜上皮細胞が重層化しており,分子量が小さいタクロリムスのほうが効果的に組織へ浸潤していくと思われる.すなわち,0.1%タクロリムス点眼の効果は0.1%シクロスポリンの1020倍近くあり,12%シクロスポリン点眼と同程度またはそれ以上と推察され症は11例(1.44%)に認め,細菌性角膜潰瘍が2例,ヘルペス性角膜炎が3例あった.すべての症例でアトピー性皮膚炎の合併を認め,ヘルペスの既往があった.入院を有するような重篤な有害事象は4例認め,上記の細菌性・ヘルペス性角膜炎の2例と,重症例に対しステロイド点眼を急に中止し本剤へ切り替えた2症例であった.c.安全性眼圧や前房フレアへの影響はなく,6カ月間点眼しても副作用の上昇は認めなかった.d.ステロイド点眼からの離脱ステロイド点眼を使用していた310例のうち,シクロスポリン点眼開始後1カ月で31%,2カ月で33%の症例がステロイド点眼を中止している.0.1%ベタメタゾン使用率が点眼前は38.4%であったものが,2カ月後には21.0%へ,0.1%フルオロメトロンが52.6%から36.1%へ低下しており,0.1%シクロスポリン点眼によってステロイド点眼からの離脱が可能であることを示している.IIIタクロリムス点眼タクロリムスを点眼にして春季カタル治療に応用する考えは以前からあったが,不水溶性のため点眼として使用されることはなかった.一方,0.1%タクロリムス軟膏を眼科用軟膏と混ぜ使用した報告では,著明な改善が報告されている11).そして2008年春には0.1%タクロリムス点眼が発売される予定である.治験では10歳以上の春季カタル患者に各濃度(0.01%,0.03%,0.1%)の点眼液を1日4回・4週間連続投与された.各種自覚症状・他覚所見をスコア化し,その合計を臨床スコアとした.対象は,プラゼボ群16名・0.01%群17名・0.03%群17名・0.1%群17名で,男女比はほぼ1:1であった.他覚所見において0.1%点眼では点眼1週後で基準値(スコア0)より4,4週後には8の改善を認めた.0.03%,0.01%濃度では4週後で6程度の改善にとどまった.自覚症状では「良くなった」「とても良くなった」と回答した症例が0.01%群で全症例の58.8%,0.03%群で64.7%,0.1%群で88.2%と濃度に相関した.一方,副作用においては,どの濃度群でも約70%近くに眼部刺激感(熱感,刺激感,眼痛,流涙など)を認めた.表1カルシニューリン阻害薬点眼使用のkeypoint春季カタルにる12シクロスポリ1.ン0.1タクロリムスの春季カタルにルー薬2.スロ薬0.1シクロスポリン薬るによ,の,スロ薬よのるカルシニューリン阻害薬3.カルシニューリン阻害薬のに4.る———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008141cyclosporineinthetreatmentofvernalkeratoconjunctivi-tis.AmJOphthalmol110:641-645,19903)BleikJH,TabbaraKF:Topicalcyclosporineinvernalkeratoconjunctivitis.Ophthalmology98:1679-1684,19914)PucciN,NovembreE,CianferoniAetal:Ecacyandsafetyofcyclosporineeyedropsinvernalkeratoconjuncti-vitis.AnnAllergyAsthmaImmunol89:298-303,20025)KilicA,GurlerB:Topical2%cyclosporineAinpreser-vative-freearticialtearsforthetreatmentofvernalker-atoconjunctivitis.CanJOphthalmol41:693-698,20066)DoanS,GabisonE,AbitbolOetal:Ecacyoftopical2%cyclosporineAasasteroid-sparingagentinsteroid-dependentvernalkeratoconjunctivitis.JFrOphtalmol30:697-701,20077)CetinkayaA,AkovaYA,DursunDetal:Topicalcyclo-sporineinthemanagementofshieldulcers.Cornea23:194-200,20048)SpadavecchiaL,FanelliP,TesseRetal:Ecacyof1.25%and1%topicalcyclosporineinthetreatmentofseverevernalkeratoconjunctivitisinchildhood.PediatrAllergyImmunol17:527-532,20069)DaniellM,ConstantinouM,VuHTetal:RandomisedcontrolledtrialoftopicalciclosporinAinsteroiddepen-dentallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol90:461-464,200610)OzcanAA,ErsozTR,DulgerE:Managementofsevereallergicconjunctivitiswithtopicalcyclosporina0.05%eyedrops.Cornea26:1035-1038,200711)VichyanondP,TantimongkolsukC,DumrongkigchaipornPetal:Vernalkeratoconjunctivitis:Resultofanoveltherapywith0.1%topicalophthalmicFK-506ointment.JAllergyClinImmunol113:355-358,2004る.前述したように,1%シクロスポリン点眼がステロイド抵抗性春季カタルに対し有効最低濃度であることを考えると,ステロイド抵抗性重症春季カタルには0.1%タクロリムス点眼が良い.また,軽・中等度で抗アレルギー点眼のみでは十分コントロールできない症例,長期間のステロイド点眼により合併症(白内障/緑内障)が生じステロイドから離脱したい症例には0.1%水性シクロスポリン点眼を併用すべきと考える(表1).近い将来,春季カタルの治療は大きく変化していくと考えられる.すなわち,図3に示すように基盤点眼として抗アレルギー薬点眼±カルシニューリン阻害薬点眼を使用する.シクロスポリンかタクロリムスかは重症度によって決定する.そして,症状悪化時には各種ステロイド点眼を短期間併用する.このことによって,ステロイド点眼のもつ眼圧上昇・白内障誘発・創傷治癒過程の遅延などの副作用が回避できる.今までステロイド点眼が主であった春季カタル治療がカルシニューリン阻害薬点眼の登場により治療方針のパラダイムチェンジが生じている.文献1)BenEzraD,Pe’erJ,BrodskyMetal:Cyclosporineeye-dropsforthetreatmentofseverevernalkeratoconjuncti-vitis.AmJOphthalmol101:278-282,19862)SecchiAG,TognonMS,LeonardiA:Topicaluseof(7)図3春季カタルに対する新しい点眼療法Keypoint:抗アレルギー薬とカルシニューリン阻害薬を基盤点眼とし,症状悪化時のみステロイド点眼を併用する.基盤点眼追加点眼第1段階(軽度)抗アレルギー薬点眼↓第2段階(軽中等度)抗アレルギー薬点眼0.1%水性シクロスポリン点眼↓±0.1%フルオロメトロン点眼(悪化時のみ併用)第3段階(中等度)抗アレルギー薬点眼0.1%水性シクロスポリン点眼↓±0.1%ベタメタゾン点眼(悪化時のみ併用)第4段階(重度)抗アレルギー薬点眼0.1%タクロリムス点眼±0.1%ベタメタゾン点眼(悪化時のみ併用)