———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSを用いて調査したので,その一部を抜粋して紹介する.MVFTは三宅らが米国版VF14を日本人向けに改良したものであり,遠・中・近の各距離に大・中・小の大きさの文字や対象物を組み合わせて,日常生活の具体的な項目が設問されている1,2).図1に質問表の一部を紹介する.回答は「読みにくいことはない」から「ほとんど見えない」を5段階に分けて,4点~0点のスコアとして計算する.まず術後1年の眼鏡使用状況についてのアンケート結果を図2に示す.回折型IOL群では,眼鏡を使用せずが58.8%,遠用のみ使用が5.9%に対し,同時期に単焦点IOLを挿入した群では,全例近用または遠近両用眼鏡を使用していた.これは従来の回折型・屈折型IOL挿入後の眼鏡使用状況と比較しても良好な結果である3~5).最も興味ある眼鏡なしでのMVFTスコアを図3に示す.日常生活で不自由なしという100点が回折型IOLでは41%に比べ,単焦点IOLでは0%であった.また,90点以上が回折型IOLで91%,単焦点IOLで41%と明らかな違いが認められた.この結果から,患者の満足度が非常に高いことがわかり,このメリットについては,医師側が十分に強調してよいであろう.3.細かい字が見えるかどうか単焦点IOLでも,術後屈折が正視にもかかわらず,遠くも近くもよく見えると満足される症例を日常経験する.偽調節,瞳孔径など,いろいろ考察されているが,はじめに白内障手術時のインフォームド・コンセントについては,すでに各施設で工夫されたパンフレットやビデオなど,定番の説明様式があると思われる.従来の単焦点眼内レンズ(IOL)の説明に対し,バイフォーカルIOL,今回は特に回折型IOLにおいては,どのような内容を加え,どのような点に注意を払うべきか,さらに,どうすれば術後の患者満足度を上げることができるか,回折型IOLを100眼以上に挿入し,すでに2年の経過観察を行った経験から述べたい.I回折型IOL挿入によるメリットの説明1.眼鏡なしでの良好な遠方および近方視力このIOLのメリット,従来の単焦点IOLと比較した場合の優位性は「眼鏡なしで遠方,近方ともに見える」の一点に尽きる.適応や術後成績の詳細は他項に述べられているが,角膜乱視が少なく,裸眼遠方視力1.2が得られれば,裸眼近方視力もほぼ1.0近くが得られる.これは,患者側というより,まず医師側が感動する内容である.2.アンケート結果からわかる患者満足度視力が良好なのは,検査結果から数値として確認できるが,実際の見え方に対する自覚的な満足度はアンケート調査に頼るしかない.今回は,回折型IOL挿入後に改良型VF14(modi?edvisualfunctiontest:MVFT)(43)???*YokoTaira:眼科龍雲堂医院〔別刷請求先〕平容子:〒353-0004志木市本町4-3-17眼科龍雲堂医院特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):177~180,2007インフォームド・コンセントと患者満足度?????????????????????????????????????????平容子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007近くが見えるという場合の字の大きさに注意すべきである.近くが見えると一言で言っても,大きな字が見えるのと細かい字が見えるのでは,かなり違う.実際に単焦点IOL群のMVFTスコアでも,得点が低いのは近見の細かい文字であり,ある程度の大きさになると近見でも判読可能で得点は上がる.回折型IOLでは,近方視力が0.7以上の症例が多く,この視力であれば辞書の字も裸眼で読める.単焦点IOLで,遠方視に度数を合わせた症例で,近くがここまで見える例は今まで経験がない.4.患者側のメリットに対する理解度現在,回折型IOLの保険診療上の扱いが未定である.インフォームド・コンセントにより患者自身が回折型IOLを選び,そのメリットに対して海外のように,ある程度の代価を個人的に払うことになれば,その期待のハードルは高いものとなる.患者自身が「遠方・近方ともに眼鏡なしで見える」ことの,優位性・利便性・必要性を本当に確実に理解しているか,言い換えれば,単焦点IOLで正視にすると近くは見えないということを,理論的に理解できているか,医師側がしっかりと見きわめる必要がある.この点がしっかり理解されていれば,多少のデメリットが生じても患者の満足度は高いものとなるであろう.II回折型IOL挿入によるデメリットの説明1.自覚症状の有無にかかわらず起こりうるデメリット回折型IOL挿入後の患者満足度が非常に高いことから,自覚的に感じるデメリットは非常に少ないといえ(44)両用近用のみ遠用のみ眼鏡使用なし0100(%)50:単焦点群:多焦点群0058.805.9088.2411.8011.8023.50図2眼鏡使用状況10090~9980~89MVFTスコア70~790(%)50:単焦点群:多焦点群410504765330図3MVFTスコア図1視機能アンケート(MVFT)用紙(抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???る.しかし,回折というデザインによる理論的なデメリットがあり,実際の検査にても単焦点IOLより明らかである.大きく分けて3つで,グレア・ハロー,コントラスト感度の低下,中間視力の低下である.2.グレア,ハロー屈折型IOLでは,術前に夜間のグレア,ハローが出現することを十分説明し,納得できる症例にしか挿入すべきでなかった.海外では,このため,IOL摘出例がでている.回折型ではどうなのだろうか?モデル眼などから得られた写真でも単焦点IOLよりグレア,ハローが明らかである.特に夜間のハローは,回折型IOL挿入後のアンケート調査でも100%に認められた.しかし生活に支障をきたすようなものはではなく,そのために夜間の運転ができないという症例はなく,明らかに屈折型とは異なる.インフォームド・コンセントとして,これらは必ず説明しなければならないが,内容を具体的に説明することで,このIOLのメリットに比べると,非常に小さなデメリットであることが理解してもらえるであろう.3.コントラスト感度・コントラスト視力コントラスト感度についても,実際の測定結果では単焦点IOLより低下している例があるものの,日常生活に影響する例はなかった.このタイプのIOL挿入後早期に,「よく見えるが何となく落ち着かない」「水の中で見ているような感じがする」「ショボショボする」などの訴えを経験する.これらは,表現は異なっているが,ほぼ同じような感覚を表しているとも思える.幸いにもある程度時間が経過するとこの症状は自然に消失するが,これらの表現が,コントラスト感度と関係している可能性は否定できない.4.中間距離の見え方中間距離の見えにくさは,遠方と近方の2点に明らかにデフォーカスカーブをもつ回折型IOLの光学特性から,最も気にしていた点であるが,実際にはほとんどの症例で自覚的な訴えはなかった.中間視力に関して,「書店で書架に並んだ本の背表紙の文字が読めずビックリしたが,少し顔を近づけると読めたので,納得した」と話した症例を経験したが,このように,1メートル前後の距離では遠方や近方ほど視力がでていないことがわかる.この点は,術前に説明しておくべきである.すなわち,若い頃のように,どの距離でもはっきり見えるのではなく,遠方と30cmぐらいの近方が見やすいIOLなのである.5.視力の安定ほとんどの症例は術翌日,1週後と単焦点IOL挿入後と変わりない視力の回復をみせるが,まれに,術翌日は良好な視力が得られたにもかかわらず,その後しばらくの間,裸眼のみでなく矯正視力も不安定な症例を,高齢者で経験した.従来の回折型IOLでも高齢者において視力の戻りが遅いとの報告6)があるが,原因は明らかでない.しかし術後3カ月から6カ月で視力は安定したので,術後早期に視力が予想より不良な場合でも,時間経過とともに改善する可能性が高いと考える.おわりに以上,回折型IOL挿入前のインフォームド・コンセントは,単焦点IOLに比べ,付け加えるべき項目はそれほど多くない.従来の白内障手術について言えば,眼内炎の発生率や破?の割合を詳しく説明しても,白内障で日常生活に支障があるので,患者側は手術を選ぶことになる.それは今のところ手術以外に視力を回復する手段がないからである.つまり,従来のインフォームド・コンセントは,術後の医事紛争を避けることが主眼であり,患者の納得を得ることに傾けられている7,8).しかし「IOLの種類を選ぶ」となると,まさに医師側の説明と情報により,患者側が選択することになる.挿入後に起こりうる症状に言及しておくことは,インフォームド・コンセントの基本であり,患者の安心と信頼を高めるものであるが,あまり?子定規に説明すると,術後かえってその事柄にこだわり,神経質な患者の不定愁訴を誘発する恐れもあるので,注意を要する.回折型IOLは単焦点IOLに比べ,非常にメリットのあるIOLであることは,実際の臨床結果から明らかである.この回折型IOLが実際に使えるようになった場(45)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007合,まず適応を守り,そのうえで医師側が,患者の性格・生活状況・知識や理解度などを見きわめて,今まで述べた点について注意を払いインフォームド・コンセントをすれば,まず問題はないと考える.術後,患者とともに医師も高い満足度を得られる.今後,患者自身の理解と希望で,より高いqualityofvision(QOV)・quali-tyoflife(QOL)の得られるIOLが,自由に選択できるようになることが望まれる.文献1)三宅三平,太田一郎,前久保久美子ほか:視機能評価法(VF14)の改良.????????11:116-120,19972)三宅三平,三宅謙作,太田一郎ほか:アンケート調査を利用した白内障における視機能評価法.視覚の科学20:52-57,19993)別当京子,馬嶋慶直,黒部直樹ほか:多焦点眼内レンズの手術適応について.???6:330-334,19924)黒部直樹,馬嶋慶直:回折型多焦点眼内レンズ.あたらしい眼科8:1751-1754,19915)庄司信行,清水公也:屈折型多焦点眼内レンズの術後成績と適応.臨眼53:259-263,19996)上田勇作:回折型多焦点レンズ移植眼の術後視機能.臨眼46:1677-1681,19927)杉浦康弘:説明義務と手術承諾書.????????20:76-85,20068)平岡孝浩,大鹿哲郎:眼科手術におけるインフォームド・コンセント白内障手術.眼科47:813-820,2005(46)