———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI眼瞼皮膚の良性腫瘍1.老人性疣贅(senileverruca)〔脂漏性角化症(seborrheickeratosis)〕最も頻度が高いのは中高年に好発する老人性疣贅(脂漏性角化症)である(図1).皮膚のどこにでも発生しうるが,瞼縁部には少なく,睫毛部かそれ以遠が多い.表皮の増殖であるので表面は凹凸不整,光沢のあることもあるが表面を角質が覆って無光沢,ざらざらした感じになることが多い.色調は淡褐色から黒色までいろいろであるが,周囲皮膚よりもいくばくかは色素が多い.表面を覆う角質に出血を混じると黒く汚い外見を呈し,基底細胞癌ではないかとおそれられることがあるが,中心潰瘍の形態をとらないこと,乳頭状の表面所見,などで鑑別できる.基底細胞癌は乳頭状発育をすることはない.治療は,冷凍凝固も有効であるが,筆者は基本的に切除を行っている.良性であるが皮膚全層を切除して皮下組織を露出する.隆起部のみのそぎおとし(shaving)では再発することがある.2.母斑(nevus)眼瞼皮膚の母斑は特徴的に瞼縁部の真皮に発生する.表面が乳頭状のこともあるが,上記の老人性疣贅と異なりほとんどの場合光沢がある(図2).これは増殖細胞が表皮の下にあって表皮が緊満するからである.瞼縁に発生する表面平滑で光沢のある境界明瞭な隆起は,そのほはじめに眼瞼の腫瘍は全身の他の領域に比べ比較的小さいうちに発見,治療されるため,生検=(亜)全摘となることが多い.よって悪性と判明したときすでに腫瘍の存在位置が不明なことがあり,その後の方針が立てにくくなる.また,生検の侵襲によりせっかく微小であった悪性腫瘍が散布され,切除範囲を広くする必要が出てきたりする.したがって,臨床診断を正確に行い,悪性と考えられるなら初回から安全域をとった切除をするのが望ましい.生検を行う場合も,悪性であった場合の二次治療を考えて生検の仕方を決めなければならない.すなわち,眼瞼腫瘍の治療指針を決めるためには,まず臨床診断が重要なのである.さて,眼瞼部腫瘍臨床診断の最大のポイントは,その詳細の部位診断であろう.初発部位が皮膚か皮下か,瞼板か,結膜か,瞼縁皮膚か,マイボーム腺内か,睫毛部皮膚か,睫毛根か,眉毛部皮膚か,またどの隣接組織,どの層まで侵しているか,といった考察が重要である.腫瘍の発生部位の推定はすなわち発生細胞の推定であり,浸潤様式により良悪性を考えればすでに診断は下されたに等しい.またそういう心での観察が,手術範囲の決定に直接つながることはいうまでもない.(19)???*HiroshiYoshikawa:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕吉川洋:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):557~563,2007眼瞼腫瘍????????????????吉川洋*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007とんどが母斑であるといってよい.色調は紅色から白色,褐色,黒色まであり,決して黒いことを特徴としない.治療は隆起部のみの切除(shaving)無縫合が推奨される.睫毛をすべて残そうとすると腫瘍が切り株状に残るので,筆者は睫毛が減ることを説明してできるだけ隆起を残さないように切除している.3.眼瞼皮膚の類表皮?胞(epidermoidcyst)類表皮?胞は,毛胞に関連して発生するといわれている表皮直下の?胞である(図3).不思議なことに睫毛部にはできにくく,瞼縁からやや離れた眼瞼皮膚や眼角部皮膚に発生する.おそらく「産毛」の毛包から発生するのであろう.白色「おから」状ないし黒色泥状の内容物を容れた,弾性のない壁の薄い?胞である.治療は,?胞壁ごとの摘出で,内容掻爬では再発する.中心部は表皮と癒着しているのでまず,腫瘍近傍に麻酔液をたっぷりと注入し,皮膚と?胞を分離する.中央部の皮膚は?胞と癒着しているのでその部のみ皮膚を合併切除すると皮膚欠損を最小限にでき,特別な形成手技を要しないことが多い.II眼瞼皮膚の悪性腫瘍基底細胞癌(basalcellcarcinoma:BCC)基底細胞癌は代表的な皮膚悪性腫瘍で眼瞼皮膚のどこにでも発生しうる.しかし実際には多くの場合,瞼縁か睫毛部かそれより少しだけ離れた皮膚,それも下眼瞼にでき,たとえば瞼縁から1cm離れた上眼瞼皮膚などにはあまり発生しない,少なくともそのような例で眼科を受診することは少ない.表皮に関連して発生するため病変の中心部には必ず微細な凹凸不整や潰瘍を伴うが,周辺では腫瘍は皮内に存在して表面は平滑なこともある(図5).注意すべきは,ほとんど隆起を伴わず一見腫瘍より潰瘍に見えるケースがあることである.色調は白色から黒色まで色素の量はいろいろで,あまり参考にならない.(20)図1眼瞼皮膚の老人性疣贅ギザキザした表面で出血の混じた黒色調の角化物が表面に付着している(a).特に安全域をもうけず皮膚全層でbのように切除した.高齢で皮膚に余裕があったため皮膚を単純に縫縮(伸展皮弁)できた(c).皮膚が不足する場合は耳側から有茎皮弁を作製する予定で臨んだ.abc図2瞼縁母斑睫毛線と皮膚粘膜移行部の間にあり表面平滑である(a).隆起部のそぎおとし(shaving)無縫合1週後の状態(b),すでに上皮化されている.ab図3類表皮?胞の切除周囲にたっぷりと麻酔液を注入することで皮膚が浮き上がり,?胞との間を分離しやすくなる.それでも浮き上がらない中心部皮膚中心部皮膚は?胞につけたまま摘出する.そこを無理に皮膚と分離しようとすると破れやすい.皮膚切除範囲麻酔———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???基底細胞癌の治療はもちろん完全切除であるが,比較的低悪性度の腫瘍のため他の悪性腫瘍ほど水平方向に大きな安全域をとる必要はなく,筆者は手術顕微鏡下の所見で安全域1~2mmとしている.しかし深部方向はときに浸潤性(morphea-likeBCC)であり注意が必要である.瞼縁から離れていて瞼板を侵さない場合は瞼板を温存して皮膚のみの切除再建も可能である(図4のa).瞼板の小欠損はopentreatmentで肉芽の成長を待つことも可能であるが,ある程度の切除が必要な場合は瞼板を上下幅全幅で切除(図4のc)する.ただし,瞼板の切除幅と皮膚の切除幅を別々に設定する(図5)ことで,形成を容易にかつ仕上がりを美しくできるようなケースも多く,そのためにも術前術中の丁寧な病変観察が重要である.基底細胞癌は眼角部にもしばしば発生する.眼角部の深部浸潤傾向の強い基底細胞癌(図6)は,スコップで土を掘るような手術となり,いやなものである.深部端は可能な限り深く切除しておかないと,腫瘍細胞が残存すると眼窩内再発となり二次治療が困難となる.(21)図5基底細胞癌の切除瞼板の切除幅は皮膚より狭く設定(b),瞼板は単純縫合,皮膚は耳側からの有茎皮弁とした(c).後葉切除範囲前葉切除範囲acbd図4基底細胞癌切除の概念図bの瞼板の小欠損は肉芽の上昇を待つこともできる.cの場合も瞼板切除の左右幅を必要最小限になるようにする.abc———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007III睫毛部の腫瘍外毛根?腫(trichilemmoma),外毛根?癌(trichilem-malcarcinoma),睫毛根のMoll腺由来と思われる汗腺系の癌などがある.完全な良性でないものが多いこと,また睫毛根は瞼板に達するため,眼瞼前葉のみ切除すると再発することが多く,結果,瞼板を含む眼瞼全層の切除(多くは五角形切除)となる(図7).IV瞼板の良性腫瘍(腫瘤):霰粒腫(chalazion)霰粒腫の病態,治療についての詳説は近年多数文献があるため,本項では治療についての意見を簡単に述べる.病歴の短い霰粒腫は柔らかいゲル状で図8aのように結膜切開掻爬でほぼ完全に郭清できることが多い.陳旧化,基質化した霰粒腫は固形で壁に癒着しているため経結膜では不完全掻爬になりやすく,図8bのように皮膚切開で腫瘤を「切除」するのがよい.いずれのアプローチでも,必ず挟瞼器を用いて出血を抑制,病巣をきちんと観察してゲル状ないし半固形の黄色病変を確認する.術中所見が非典型であれば組織採取して病理検査を行わなければならない.V瞼板の悪性腫瘍:マイボーム腺癌マイボーム腺癌は眼瞼に特有な,最も代表的な眼瞼悪性腫瘍である.瞼板内またはマイボーム腺開口部から発生し,臨床像は多彩であるが初期像として,①マイボー(22)図6内眼角部の基底細胞癌深部方向の切除を十分に行う.眼角部に接する皮膚欠損の再建は上下対側の皮膚が利用しやすい.(写真は国家公務員共済浜の町病院眼科川野庸一先生のご厚意による)図7睫毛根の毛芽腫(trichoblastoma)瞼板を含む五角形切除で眼瞼を単純縫縮した.(写真は出田眼科病院佐々木香る先生のご厚意による)睫毛根由来腫瘍の瞼板への癒着腫瘍———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(23)ム腺開口部付近から発生して瞼縁表面の微細乳頭状腫瘍,②瞼板の中心付近から発生し,瞼板内に限局して霰粒腫との鑑別が困難なケース,③瞼結膜側に穿破した白色ないし黄白色の隆起,などがある.組織型「脂腺癌」は扁平上皮癌の亜型であるため分化が低いと組織所見は「扁平上皮癌」となる.しかし治療で重要なのは組織型よりも発生部位と広がりである.たとえば,瞼縁小腫瘍で生検結果が扁平上皮癌であっても,臨床的にマイボーム腺開孔部付近の導管から腫瘍が出てきているようならマイボーム瞼板を上下幅全幅で切除する必要があるし,結膜側の隆起で生検結果が扁平上皮癌であっても,それが瞼板内から出てきているように見えれば前葉への浸潤を考慮した切除範囲を設定しなければならない.ある程度以上進行したマイボーム腺は基本的に眼瞼の全層(前葉と後葉)切除となる(図9).比較的悪性度の高い腫瘍であり,左右の安全域を3mm以上とることが望ましい.微小な腫瘍で眼瞼の欠損が1/4~1/3までは単純に縫縮できるが,それ以上の欠損になると図10のような外眼角切開その他の形成手技が必要となる.ただ,瞼縁近くの発生で皮膚浸潤がない場合は,皮膚の切除範囲を小さめにして皮膚補?は小範囲の伸展皮弁のみで対応できることもある(瞼結膜の扁平上皮癌の項を参照).眼瞼後葉の再建は,筆者は自家瞼板移植または耳介軟骨+口唇粘膜としているが,ほかに硬口蓋や鼻中隔軟骨も利用できる.図8a霰粒腫新鮮例の経結膜切開鋭匙と綿棒によりほぼ郭清された状態.?胞様構造の壁が視認できる.図8b霰粒腫陳旧例の経皮切除半固形となった腫瘤を「切除」する.皮膚菲薄化がある場合はその部を避けて切開する.陳旧化固形化した腫瘍図10脂腺癌の切除,外眼角切開による再建眼瞼の約50%までの欠損はこの方法で再建可能である.abcd図9マイボーム腺癌切除の概念図マイボーム腺癌———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(24)眼瞼の1/2を超える欠損に対しては,上眼瞼耳側であれば側頭部皮膚の回転皮弁,上眼瞼鼻側であれば正中全顎からの皮下茎皮弁を利用できるが,皮弁が厚くなる欠点があり,可能な限り眼瞼皮膚の範囲で補?するよう症例に応じて検討する.上眼瞼の中央ではswitch-?apやCutler-Beard法(図11)といった,下眼瞼の全層組織を有茎で用い二次手術で切り離す術式が選択できる.下眼瞼の幅が広く丈の低い皮膚欠損は上眼瞼皮膚の有茎皮弁が使いやすいが,丈も高い欠損や100%欠損では頬部回転皮弁(Mustarde法)が必要となる.VI瞼結膜の悪性腫瘍:扁平上皮癌瞼結膜の悪性腫瘍は眼瞼悪性腫瘍のなかではやや頻度が低い.瞼結膜面に微細乳頭状,白色ないし紅色調の腫瘤を形成する.鑑別診断としては同じく瞼結膜上皮由来の良性の乳頭腫であるが,細い茎からカリフラワー状に成長する乳頭腫に対し,扁平上皮癌は広基性であるという特徴がある(図12).比較的初期であれば瞼板という厚いバリアより眼瞼前葉には浸潤がないと考え,前葉を温存しておもに後葉のみ切除再建するが,臨床所見で瞼板を前方に穿破していると判断すればマイボーム腺癌同様眼瞼全層の切除とな図11上眼瞼中央の2/3欠損に対するCutler-Beard法による再建眼瞼の中央で幅の広い欠損に用いる.二次手術(切り離し)を必要とするが,術野が眼部のみで血行に優れる良い術式である.abcd図12瞼結膜の扁平上皮癌とその切除標本眼瞼前葉を温存し,耳介軟骨と口唇粘膜で後葉のみ再建し良好な整容的結果を得た.瞼板腫瘍腫瘍睫毛扁平上皮癌———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(25)る.円蓋部結膜や球結膜まで進展している場合には,羊膜移植または粘膜移植を含めて広範な眼表面の再建が必要となる.おわりに眼瞼腫瘍,特に悪性腫瘍の治療は,①生命,②視機能,③容貌すなわち社会活動という多くの側面をもち,腫瘍治療のなかでも最も思慮深さを必要とする分野である.今回は診断と外科的治療を中心に解説したが,表在性腫瘍に対するマイトマイシンC(MMC)点眼や扁平上皮癌に対する放射線治療なども強力なツールである.実際には個々の患者の状況に応じ,ときにはこれら三者の総力戦で最善の治療プランを作り上げていくことになる.