●連載260監修=山本哲也福地健郎260.緑内障患者の点眼アドヒアランス向上を馬場昭典中野匡東京慈恵会医科大学眼科めざしたスマホアプリの活用法加藤昌寛東京慈恵会医科大学眼科,岸田眼科緑内障は長期にわたる治療継続が不可欠なため,患者の点眼アドヒアランスのレベルが治療効果に大きく影響すると考えられている.しかし,点眼状況を正確に把握することはかなりむずかしく,主治医は受診時の問診や患者が求める処方点眼本数などから間接的に推測する以外,なかなかよい評価方法がないのが現状である.本稿では近年高齢者の普及率がますます高まってきたスマートフォンを活用し,点眼アドヒアランスの向上をめざしたアプリケーションを開発したので,実施症例を交えて紹介する.●はじめに緑内障診療において点眼薬による薬物療法は治療戦略の要であり,いかに良好な点眼治療を長きにわたり継続し続けるかが予後に大きく影響すると思われる.そのため医師は外来診療で点眼薬の効果・副作用のみならず,点眼継続の必要性を重視して治療説明をすることが重要である.本稿では新しいアドヒアランス確認方法として,安価・導入時間の短縮・結果の即時確認をめざして作成したアプリケーション(以下,アプリ)を紹介する.C●MediFiles筆者らはCBeeline社と共同で点眼管理アプリCMediFilesを作成した.このアプリは,点眼時間に合わせスマートフォンに点眼指示が通知され,患者が点眼実施後にアプリの点眼終了ボタンを押すことで,何時に点眼されたかがクラウド上に記録されるようになっている.日本で使用されている後発薬品も含めたすべての薬品情報が入っており,患者側が薬局で後発品に変更した場合でも医師側がわかるようになっている.なお,クラウド上の管理に個人情報は一切入っていない.ホーム画面には点眼がしっかりできていると葉が生い茂り,点眼記録が確認されなくなると葉が落ちてキャラクターからのメッセージも変わり,患者を励まし,優しく点眼を促す表示がされる仕組みになっている.複数の点眼薬が処方された場合は点眼間隔,点眼時間が重なるが,その際は最初の点眼薬の点眼終了ボタンを押したあと,一般に推奨されているC5分間の点眼間隔からカウントダウン表示し,2剤目以降の点眼時間を指示していくようになっている.複数点眼を使用する可能性が高い緑内障患者にとって,ストレスなく確実に適切な点眼時間が指示されるよう配慮されている.図1aの画面は毎日の点眼がおろそかになっている患者スマートフォンのホーム画面である.木が枯れはじめ,キャラクターがアドヒアランスの不良を心配している.図1bの画面ではコソプトとキサラタンの点眼時間が同じだったためコソプトを点眼し,タップした直後の画像を表示している.コソプトは点眼済みとなっているが,その下に次にキサラタンを点眼するC5分間のカウントダウンが始まっている.C●実際の点眼状況の表示例図2にCMediFilesを使用した詳細な患者記録を示す.この患者は,朝はC2剤,夜はC3剤の点眼が指示されていた.受診時にこれまでの点眼状況を診療デスクのCPC画面上に提示し,点眼状況の問題点を検証することができる.生データを確認した患者からのコメントは,朝の点眼時間は規則正しく安定していたが(土日や祝日を除く),夜に関しては仕事の状況によって帰宅時間が不規Cab図1ModiFilesのスマートフォン画面(69)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C2010910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2ModiFilesの患者記録の表示例則となることが多く,結果として点眼時間のばらつきにつながったとの自己分析であった.既報でも朝点眼の方が夜点眼よりも比較的アドヒアランスがよくなる傾向があるとの報告もある1).このようにリアルデータを患者と共有することで,自身の点眼アドヒアランスを視覚的に理解し,今後のアドヒアランス改善をめざして具体的な取り組みを医師患者間で相談し,次回受診時に対策後の効果を容易に検証できるのが,このアプリの最大の特徴といえる.本症例では,朝点眼と比較して夜点眼で点眼時間のみならず点眼間隔のばらつきが増えた.過去の報告と同様,点眼回数の増加にともない点眼アドヒアランスが悪化する傾向にあった2,3).C●今後のMediFilesの可能性近年,電子端末はますます日常生活に浸透し,とくに過去C5年間は飛躍的に増加傾向にあったことが令和C2年度の総務省データで明らかとなった.この報告によればインターネット利用者はC13~59歳でC9割を超え,さらにC60~69歳のC64.4%がすでにスマートフォンを通常使用している4).今後スマートフォンがますます日常生活に不可欠なものとなっていくことは確実で,とくに緑内C202あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022障の有病率が高く,これまでモバイル端末の利用にストレスを感じる傾向にあった高齢者層においても,スマートフォンアプリへの抵抗感は徐々に解消されていくと思われる.配合剤や新規緑内障点眼薬が次々に上市され,点眼管理がますます複雑化する今日の緑内障治療戦略のなかで,いかに適切に長期継続治療を遂行できるかは,今後の緑内障診療の重要な課題である.緑内障患者の点眼アドヒアランスの向上をめざす有力なツールとしてMediFilesが活用されることを大いに期待する.文献1)FordCAB,CGooiCM,CCarlssonCACetal:MorningCdosingCofConce-dailyCglaucomaCmedicationCisCmoreCconvenientCandCmayCleadCtoCgreaterCadherenceCthanCeveningCdosing.CJGlaucomaC22:1-4,C20132)PatelCSC,CSpaethGL:ComplianceCinCpatientsCprescribedCeyedropsCforCglaucoma.COphthalmicCSurgC26:233-236,C19953)RobinCAL,CCovertD:DoesCadjunctiveCglaucomaCtherapyCa.ectCadherenceCtoCtheCinitialCprimaryCtherapy?COphthal-mology112:863-868,C20054)総務省:令和C2年通信利用動向調査.(70)