●連載259監修=山本哲也福地健郎259.First.lineSLT(点眼治療で開始せずいきなり新田耕治福井県済生会病院眼科CSLT施行)&Second.lineSLT(使用中の1剤の点眼は継続したままSLT施行)選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は,説明に時間がかかる,患者にレーザー治療に対する抵抗感が強い,期待したほど眼圧が下降しない,などの理由により日本では普及していない.2019年に原発開放隅角緑内障や高眼圧症のC.rst-line治療として有用であると報告され,緑内障治療のひとつのツールとして,今,.rst-line&second-lineSLTが注目されている.●はじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClaserCtra-beculoplasty:SLT)はC1990年代に登場したが,普及していないのは,当時,多剤使用中でも進行している緑内障眼で,しかも手術に同意が得られない場合に,手術を回避あるいは先延ばしする目的でCSLTを施行してきたことも一因である.C●なぜ今.rst.line&second.lineSLTが注目されているのかSLTを緑内障の第一選択治療として行うC.rst-lineSLT(つまり点眼治療で開始せず,いきなりCSLTを施行する方法)やC1剤の緑内障点眼で治療しても目標眼圧に到達しない,あるいは緑内障が進行する患者に第二選択治療として行うCsecond-lineSLT(つまり現在使用しているC1剤の点眼は継続したままCSLTを施行する治療方法)が注目されている.筆者らは日本人正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)42例C42眼にC.rst-lineSLT(隅角の全周に照射)を施行し,前向きにC3年間観察した結果,眼圧はCSLT前C15.8C±1.8mmHgに対し,1年後C13.2C±1.9CmmHg(15.8C±8.6%下降),2年後C13.5C±1.9CmmHg(13.2C±9.4%下降),3年後C13.5C±1.9CmmHg(12.7C±10.2%下降)と,およそ薬剤C1剤分の有意な眼圧下降が得られたことをC2013年に報告した1).図1の症例のように10年以上前にCSLTを施行し,現在も眼圧下降効果が持続している患者もいる.2019年に無治療の原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleCglaucoma:POAG),高眼圧症の連続症例を無作為にC.rst-lineSLTと点眼に振りわけて多施設で前向きに行われた研究CLiGHTstudyが“Lancet”から報告され2),SLTの成績が点眼よりも良好であったことから,SLTがC.rst-lineとして行われることに脚光を浴びている.初期のCPOAGではC1回のC.rst-lineSLTでC3年後にC64.3%が点眼の追加が不要で,それらの眼圧下降率はC31.4%で,3年後の目標眼圧達成率は,SLT群78.2%,点眼群C64.6%であった.視野進行速度が-0.5CdB/年よりも早い症例はCSLT群C16.9%,点眼群C26.2%と有意差を認めた.経過中に濾過手術を要したのは,図1正常眼圧緑内障に対する.rst.lineSLT長期管理例2011年C6月初診の正常眼圧緑内障症例.ベースライン眼圧は13.5CmmHgでベースライン検査のあとCSLTを希望したので,C.rst-lineSLTを施行した.その後C10年C3カ月間の眼圧はC8~11mmHgで推移し,構造も機能もこのC10年間進行しなかった.(79)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C790910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2SLTの際に使用する隅角鏡隅角鏡はレンズが回るCindexingレンズで,しかも白色のツバが目印としてC1面鏡の反対側についているCOcularHwang-Latina5.0IndexingSLTw/Flangeを使用している.このツバを目印にC45°にC10~12発を照射する.その部分の照射が終わればレンズをカチッと次の引っかかりまで回し,またC10~12発照射する.これをC8回繰り返す.SLTでは凝固斑が出現しないのでどこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくいが,このレンズを使用するようになって施行しやすくなった.点眼群でC11例あったがCSLT群ではなかった.3年間の費用はCSLT群のほうが点眼群よりもC451ポンド安価であり,治療効果と経済面でのバランスがよい治療であると報告されている2~4).C●First.lineSLT&second.lineSLTをどのように患者に呈示するか点眼治療は気軽に始めることができるが,毎日点眼をしなければならないことや長期間の点眼継続による副作用が懸念される.一方,SLTは点眼のようなわずらわしさがなく患者のアドヒアランス(治療における遵守状況)に依存しないことで,1回のCSLT治療で長期間眼圧下降効果が持続することが期待できる.しかし,1回の処置代金が高額(3割負担でC28,980円)でCSLTが効くかは施行してみないとわからないので,その点を十分に説明しておかないと患者との信頼関係に影響する可能性があり,注意を要する.レーザー治療は怖いというイメージを抱く患者が多いので,筆者は,点眼麻酔をして隅角鏡(図2)を装着しCNd:YAGレーザーで数分間の治療時間であることや,加齢変化による線維柱帯での流出障害を改善するための治療であることなどを具体的に患者に説明して,SLTに対する恐怖心を和らげるように努めている.SLTにて効果的に眼圧が下降する確率はC80%で,効果の持続期間は平均C3年で点眼C1剤分の眼圧下降が期待できる.霧視,結膜充血,違和感が出現する場合があるが,これらはC1週間以内に改善する.まれに一過性眼圧上昇(SLT施行後にC5CmmHg以上の眼圧上昇)をきたすことを十分に説明している.C●日本での.rst.line&second.lineSLTの展望LiGHTstudyでは,なぜCSLTが点眼と遜色のない結果を得られたのであろうか.その理由としては,第一にSLT治療により眼圧の日々変動や日内変動が小さくなった可能性がある.トリガーフィッシュというコンタクトレンズセンサーを装着して,NTGの眼圧変動に対するCSLTの効果を,SLT治療前と比較した結果,SLTは夜間の眼圧を大幅に低下させ,眼圧の変動を減少させる可能性があることが示された5).日中眼圧がコントロール良好でもなお緑内障が進行するCNTG患者に,夜間の眼圧下降も期待してCSLTを施行することも念頭に置く必要があろう.第二に,点眼は患者の遵守状況に影響を受けるが,SLTは影響を受けないことがあげられる.点眼はC1年間で半分以上の患者が中断するといわれているが,SLTではC1回の治療で長期間眼圧下降効果が持続することが,有用性につながったと思われる.現在,日本の緑内障ガイドラインでは,薬物治療に併用または薬物治療の代替として,眼圧コントロールにC3剤以上を要するときにCSLTを考慮することになっている.LiGHTstudyの結果を受け,ガイドラインを変更するためにさらなる検証が必要であろう.C●おわりに外来での簡単な処置であり,合併症もきわめて低率であるCSLTをより早いタイミングで施行するC.rst-line&second-lineSLTを,日常診療のツールのひとつとして活用していきたいものである.文献1)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20132)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20193)GargCA,CVickersta.CV,CNathwaniCNCetal:PrimaryCselec-tiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:ClinicalCoutcomes,CpredictorsCofCsuc-cess,CandCsafetyCfromCtheClaserCinCglaucomaCandCocularChypertensiontrial.OphthalmologyC126:1238-1248,C20194)WrightCDM,CKonstantakopoulouCE,CMontesanoCGCetal:CVisualC.eldCoutcomesCfromCtheCmulticenter,CrandomizedCcontrolledlaseringlaucomaandocularhypertensiontrial(LiGHT).OphthalmologyC127:1313-1321,C20205)TojoN,OkaM,MiyakoshiAetal:Comparisonof.uctua-tionsCofCintraocularCpressureCbeforeCandCafterCselectiveClasertrabeculoplastyinnormal-tensionglaucomapatients.JGlaucomaC23:e138-e143,C201480あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(80)