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Landolt環型角膜上皮症の4例

2025年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(1):107.110,2025cLandolt環型角膜上皮症の4例片岡大智*1小林顕*1横川英明*1森奈津子*1宮内修*2前田有*3川口一朗*4正木利憲*5杉山和久*1*1金沢大学附属病院眼科*2みやうち眼科*3前田眼科クリニック*4川口眼科医院*5正木アイクリニックCFourCasesofLandolt-RingShapedEpithelialKeratopathyDaichiKataoka1),AkiraKobayashi1),HideakiYokogawa1),NatsukoMori1),OsamuMiyauchi2),AriMaeda3),IchiroKawaguchi4),ToshinoriMasaki5)andKazuhisaSugiyama1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversity,2)MiyauchiEyeClinic,3)MaedaEyeClinic,4)KawaguchiEyeClinic,5)MasakiEyeClinicCLandolt環型角膜上皮症は角膜上皮に限局する非対称性のCLandolt環様病変をきたすきわめてまれな疾患である.異物感を主訴とする場合が多く,通常視力低下はきたさないが,原因は未だ不明である.今回,Landolt環型角膜症の4例を経験したため報告する.病変は点眼治療によりいずれも消失したが,4例中C2例が再発したため,本症例に遭遇した場合,再発も念頭に長期間のフォローアップが必要であると思われた.CPurpose:ToCreportC4CcasesCofLandolt-ringCshapedCepithelialCkeratopathy(LRSEK)C.CCaseReports:Case1involveda69-year-oldfemalewhowasreferredtoourdepartmentafterbeingseenatanoutsideclinicwiththeprimarycomplaintofdryeye-likesymptoms.FluoresceinstainingrevealedLRSEKinbotheyes.ShewastreatedwithCrebamipide2%CophthalmicCsuspensionCandChyaluronicCacidCophthalmicCdrops.CInCbothCeyes,CLRSEKCresolvedCwithtime,yetrecurredduringthewinterseason.Case2involveda40-year-oldfemalewhopresentedwithafor-eignCbodyCsensationCinCherCrightCeye.CUponCexamination,CLRSEKCwasCobservedCinCherCrightCeye,CandC2CdaysClaterCwasalsoobservedinherlefteye,sotreatmentwithantibioticeyedrops,low-dosesteroideyedrops,andantibioticointmentCwasCinitiated.CTheClesionsCresolvedCwithinC30Cdays,CyetCrecurrenceCoccurredCinCbothCeyesC3CyearsClater.CCase3involveda57-year-oldfemalewhowasbeingtreatedwithbrinzolamideandcarteololeyedropsforglauco-ma.COnCaCfollow-upCvisit,C.uoresceinCstainingCrevealedCLRSEKCinCherCrightCeye.CHyaluronicCacidCeyeCdropsCwereCstartedandthelesionworsenedoverthefollowing7days,yetimproved5dayslater.Case4involveda53-year-oldCfemaleCwhoCpresentedCtoCtheCclinicCwithCtheCprimaryCcomplaintCofCdecreasedCvisualCacuity.CLRSEKCwasCobservedinherlefteye.Hyaluronicacideyedropswerestarted,and2weekslaterthelesionhadresolved.Con-clusions:AlthoughtheLRSEKlesionsinthese4casesresolvedwithorwithouteyedroptreatment,strictlong-termfollow-upinsuchcasesisnecessary,asrecurrencecanoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(1):107.110,C2025〕Keywords:Landolt環型角膜上皮症,Landolt-ringshapedepithelialkeratopathy.はじめにLandolt環型角膜上皮症は,大橋らがC1992年に報告した異物感,羞明を主訴とする視力検査に用いるCLandolt環に似た形の角膜上皮隆起が生じる病変で1),わが国ではC10数例程度の報告がある.Inoueらの報告では,病変は冬季に好発し,片側,両側,非対称にランダムに発生すること,小さな病変が互いに連結してフラクタルパターンを形成すること,炎症所見や細胞浸潤を認めず,40代後半前後の女性に生じやすいことなどが判明しているが,原因は不明とされている2).小さなCC形状の病変が連なって大きなCC形状の病変を形成することをフラクタルパターンとよんでいる.今回,Landolt環型角膜上皮症をC4例経験したので報告する.CI症例症例1患者:69歳,女性.〔別刷請求先〕片岡大智:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:DaichiKataoka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital,13-1Takara-machi,Kanazawacity,Ishikawa920-8641,JAPANC図1症例1の前眼部所見a:初診時の右眼.角膜中央付近にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:初診時の左眼.角膜中央付近にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.c:2年後の再診時の右眼(6月).Landolt環型角膜上皮症が角膜中央部に再発しており,Landolt環のギャップの向きは初診時とは異なっていた.図2症例2の前眼部所見a:初診時の右眼.角膜周辺部にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:1カ月後の再診時(1月)の右眼.病変の数は減少していた.c:3年後の再診時の右眼(3月).Landolt環型角膜上皮症は再発し,Landolt環のギャップの向きは初診時とは異なっていた.図3症例3の前眼部所見a:初診時の右眼.角膜中央部にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:1週間後の再診時の右眼.病変は増悪し,フラクタルパターンを示した.Cc:初診時からC12日後の右眼.病変は減少していた.Cd:初診時からC12日後の右眼の共焦点顕微鏡画像.角膜上皮の基底細胞層での高反射析出物を認めた.炎症細胞は認めなかった.主訴:目の渇き.15mmHg,左眼C14CmmHgであった.現病歴:X年C12月にドライアイ症状があるとのことでフ治療および経過:レバミピド点眼C2%,ヒアルロン酸点眼ルオレセイン染色したところ,両眼にCLandolt環型角膜上皮で治療を開始した.両眼とも時間経過とともに病変の数は減症を認めた(図1).少し,X+1年C6月には消失したが,X+2年C2月に右眼に再既往歴:高血圧症,高脂血症.度出現し,病変の位置やCLandolt環のギャップの向きは初診家族歴:特記事項なし.時とは異なっていた(図1c).初診時所見:視力は右眼C0.80(1.00C×sph+1.0D(cyl症例2.0.5DAx31°),左眼C1.0(矯正不能)であった.眼圧は右眼患者:40歳,女性.図4症例4の前眼部所見a:初診時の左眼.角膜部にCLandolt環型角膜上皮症を認めた.Cb:2週間後の再診時の右眼.初診時には認めなかった病変が出現していた.主訴:異物感.現病歴:Y年C12月に異物感を主訴に受診.フルオレセイン染色で右眼にCLandolt環型角膜上皮症を認めた(図2a).左眼の角膜には異常所見を認めなかった.既往歴:流行性角結膜炎(Y-1年).家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.03(1.2C×sph.5.0D(cyl.0.5DAx180°),左眼C0.03(1.2C×sph.4.5D(cyl.1.0DAx180°)であった.眼圧は右眼C15mmHg,左眼C14CmmHgであった.治療および経過:抗生物質点眼とステロイド点眼にて治療開始した.Y+1年C1月時点で病変の数は減少し(図2b),症状は消失した.Y+3年C3月に処方希望で再診時にスリットで観察すると両眼に病変が再出現しており,再発時の病変の位置やCLandolt環のギャップの向きは初診時とは異なっていた(図2c).症例3患者:57歳,女性.主訴:なし.現病歴:両緑内障に対しブリンゾラミド点眼液を両眼C2回,カルテオロール塩酸塩点眼液を両眼C1回で治療中であり,1Cdayソフトコンタクトレンズ装用中.Z年C1月の再診時にフルオレセイン染色したところ,右眼にCLandolt環型角膜上皮症を認めた(図3a).左眼の角膜に異常所見を認めなかった.既往歴:高血圧症,高脂血症,子宮筋腫.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.03(1.0C×sph.9.50D(cylC.1.25DAx15°),左眼C0.05(1.2C×sph.6.00D(cyl.2.00DAx170°)であった.眼圧は右眼C20mmHg,左眼C20mmHgであった.治療および経過:ソフトコンタクトレンズの装用を中止し,ヒアルロン酸点眼で治療開始した.1週間後の再診時には病変は増悪しており,フラクタルパターンを示した(図3b).そのC5日後,病変は改善傾向となった(図3c).その時点で生体共焦点顕微鏡CHeidelbergCRetinaCTomographCIICRostockCCorneaModule(HeidelbergCEngineering)を撮像すると,角膜上皮の高輝度病変を認めた(図3d).症例4患者:53歳,女性.主訴:視力低下.現病歴:W年C1月に視力低下を主訴に受診.両眼にフルオレセイン染色したところ,左眼にCLandolt環型角膜上皮症を認めた(図4a).右眼の角膜には異常所見を認めなかった.既往歴:両眼レーシック.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph.1.25D(cylC.0.75DAx40°),左眼C0.9(1.2C×sph.0.50D)で,眼圧は右眼C10mmHg,左眼C11CmmHgであった.治療および経過:ヒアルロン酸点眼で治療開始した.2週間後の再診察時に左眼の病変は改善していたが,右眼の角膜中央に小さなCLandolt環型角膜上皮症が出現した(図4b).そのC15日後に病変は消失していた.CII考按Landolt環型角膜上皮症は,異物感,羞明を主訴とする角膜上皮病変で,大橋らがC1992年に報告して以降,わが国で現在のところC10数例程報告されている.Landolt環型角膜上皮症の臨床的特徴として,InoueらはC11例を評価検討した.報告によると発症平均年齢はC45.9歳(年齢範囲:17.73歳)で,視力低下はほとんど認めず,他の眼疾患や全身疾患の既往との関連はないとされている.また,病変は両眼性,片眼性,非対称にランダムに出現し,数・大きさ・Landolt環のギャップの向きもランダムで,冬季に再発傾向がある2).筆者らの症例の平均年齢はC54.8歳(40.69歳)で,矯正視力の低下はいずれも認めず,病変の形状はランダムであった.4例中C2例で再発を認めたが,2例とも冬季での再発であった.Landolt環型角膜上皮症の病因として大橋らはヘルペスウイルス群やサイトメガロウイルスによる感染を疑っており,涙液からポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreac-tion:PCR)法によりウイルスを同定しようとするもヒトヘルペスウイルスC1.8型すべてが陰性であった1,2).TS-1内服患者に発症した症例3)や脳神経外科手術による視床下部障害のための低体温との関連性が考えられた症例4)もあり,筆者らの症例でも流行性角結膜炎の既往のある患者,緑内障点眼とソフトコンタクトレンズ装用を継続している患者,またレーシック術後の患者がいたが,はっきりとした原因は不明である.しかし,どの報告でも冬季に発症することは一致しており,寒冷環境下で発生する病変と考えられる.InoueらはCLandolt環型角膜上皮症の細胞レベルの病変の特徴を得るためにC11例中のC1例に対し,共焦点顕微鏡検査であるCHeidelbergCRetinCTomographCIICRostockCCorneaModuleを用いた.共焦点顕微鏡では角膜の最表層である角膜上皮表層細胞層から順に角膜上皮翼状細胞層,角膜上皮基底細胞層,Bowman層,角膜実質細胞層,角膜内皮細胞層が観察される.正常所見として,角膜上皮表層細胞層に存在する表層細胞は直径C50Cμm程度の高輝度の細胞質をもつ多角形細胞として観察され,翼状細胞層では低輝度の細胞質,高輝度の細胞境界が観察される5).Inoueらの報告では,病変における表層細胞の肥大化と細胞質の低輝度性変化,翼状細胞層での核と細胞膜の高輝度性変化,基底細胞層での異常な高反射析出物がみられたが,Bowman層以下では正常な形態的特徴を有していた2).筆者らのC3症例目でも共焦点顕微鏡を用いて病変の観察を行い,既報と同様に基底細胞層での高反射析出物を認めた.病変に対する治療として,筆者らはヒアルロン酸点眼,抗生物質点眼,ステロイド点眼を使用したが,著効したものはなく,Inoueらの報告でも発症してから数週.数カ月,治療の有無にかかわらず,散発性の悪化と自然寛解を呈するとされている2).予後についても上皮病変は瘢痕などを残さずに完全に消失していた.本疾患は視力低下を生じず,角膜上皮に不可逆的な瘢痕を残さない良性な疾患ではあるが,日常診療において本症例に遭遇した場合,冬季での再発も念頭に長期間のフォローアップが必要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.臨眼46:594-595,C19922)InoueT,MaedaN,XZhengXetal:Landoltring-shapedepithelialkeratopathy.anovelclinicalentityofthecornea.JAMAOphthalmolC133:89-92,C20153)細谷比左志:写真セミナー366.ランドルト環型角膜上皮炎.あたらしい眼科31:1631-1632,C20144)西田功一,岡本紀夫,高田園子ほか:ランドルト環型角膜上皮症のC1例.眼臨紀10:172,C20175)近間泰一郎:生体共焦点顕微鏡検査.日本の眼科C82:908-914,C2011C***

基礎研究コラム:92.補体と加齢黄斑変性

2025年1月31日 金曜日

補体と加齢黄斑変性補体とは補体は肝臓で産生されて血清中に存在する蛋白質で,病原体の除去や炎症反応の調節など広範囲にわたる免疫機能を担います.補体系はC30種類以上の蛋白質で構成され,これらが綿密に調整されたカスケード反応を通じて活性化されます(図1).補体活性化は三つの主要な経路(古典経路,レクチン経路,第二経路)に分けられますが,最終的には膜侵襲複合体の形成に至り,病原体の細胞死を引き起こします.補体系はアナフィラトキシン(C3a,C5aなど)の生成を通じて炎症反応を誘発します.アナフィラトキシンは強力な炎症促進因子として機能し,白血球の遊走を促進するとともに局所の血管透過性を高め,免疫細胞が効率的に標的領域に移動できるようにします.しかし,これらの反応が過剰になると,自己組織への攻撃や慢性炎症を引き起こす原因となるため,補体は多くの自己免疫疾患や炎症性疾患に関連します.眼の領域では,とくに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)と補体の関連が示唆されています.補体因子CH(CFH)などの遺伝子との関連1)や,血液中の補体活性化2)がCAMDの進行と関連することが報告されおり,補体が治療標的として注目されています.補体を標的とした地図状萎縮の治療AMDは黄斑部新生血管を特徴とする新生血管CAMDと,網膜色素上皮の萎縮を特徴とする地図状萎縮のC2病型に分類されます.新生血管CAMDは抗CVEGF療法や光線力学療法などの治療方法がありますが,地図状萎縮には有効な治療法は存在しませんでした.最近,抗補体治療薬であるCpegceta-coplan(C3阻害薬)とCavacincaptadCpegol(C5阻害薬)が米国食品医薬品局の承認を取得しました(日本では未承認).この二つの治療薬は,補体カスケードの上流部分を阻害することで細胞死を抑制し,萎縮進行を防ぎます(図1).治験でも二つの治療薬は地図状萎縮の拡大を遅らせることがわかりました.また,新たに古典経路を阻害するCC1q阻害薬(annexon)も治験が進んでおり,有効性が示されつつあります.補体系のターゲット化による治療戦略は,炎症反応の調節を通じて網膜色素上皮の細胞死を抑制し,地図状萎縮の進行を遅らせる可能性があります.今後の展望抗補体治療は,今後の地図状萎縮の治療薬として期待が高(93)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY山本昭成畑匡侑京都大学医学部眼科学古典経路レクチン経路第二経路ClassicalpathwayLectinpathwayAlternativepathwayC1p,C1r,C1sMASP-1,MASP-2C3C4C4FactorBC2C2FactorDFactorHC3転換酵素FactorIC3convertasePegcetacoplanC3C3aC3bC5転換酵素C5convertaseC5AvacincaptadpegolC5aC5b膜侵襲複合体図1補体カスケードと地図状萎縮の治療ターゲット補体は古典経路,レクチン経路,第二経路のC3経路により活性化される.pegcetacoplanはCC3を,avacincaptadCpegolはCC5を阻害することで,補体カスケードの上流を阻害し,地図状萎縮の進行を抑制する.まっています.しかし,局所的な補体阻害が炎症反応と感染を惹起するリスクや,新規黄斑部新生血管の発症が増加することもわかってきました.治療効果が一時的で半永久的に投与を行う必要があること,治療薬が高額であることなど費用対効果の面でも社会的負担は大きいと考えます.現在,筆者らは地図状萎縮の病態解明および進行に及ぼす因子に焦点をあてて研究をしており,今後は地図状萎縮の進行速度や治療効果の高い患者の層別化が重要になると考えています.文献1)HainesJL,HauserMA,SchmidtSetal:Complementfac-torCHCvariantCincreasesCtheCriskCofCage-relatedCmacularCdegeneration.ScienceC15:419-421,C20052)ReynoldsCR,CHartnettCME,CAtkinsonCJPCetal:PlasmaCcomplementcomponentsandactivationfragments:Asso-ciationswithage-relatedmaculardegenerationgenotypesandCphenotypes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:5818,C20093)GirgisCS,CLeeLR:TreatmentCofCdryCage-relatedCmaculardegeneration:ACreview.CClinCExpCOphthalmolC51:835-852,C2003あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C93

硝子体手術のワンポイントアドバイス:260.裂孔原性網膜剝離の術前光干渉断層計所見(初級編)

2025年1月31日 金曜日

260裂孔原性網膜.離の術前光干渉断層計所見(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに裂孔原性網膜.離の術前光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)画像を見ると,しばしば網膜外層が高度に屈曲して波うち,その間に網膜分離様の所見が観察される.これはCouterCretinalCcorrugations(ORC)とよばれ,網膜外層に生じる浮腫がその一因と考えられている1,2).C●症例提示60歳,女性.右眼の上耳側やや深部に弁状裂孔を認め,黄斑部にかけて胞状の網膜.離が生じていた(図1a).術前の眼底写真で黄斑部から裂孔周囲にかけて,同心円状の白色の網膜浮腫と思われる所見,いわゆる鮫肌様パターン(shagreenCpattern)を認めた(図1b).OCTでこの部位を撮影すると,網膜の外層は高度に屈曲して波うつような所見を呈し,その間に網膜分離様の所見が観察された(図1c).また,この網膜分離部位がCshagreenpatternに一致していた.硝子体手術による網膜復位後,このCORCは軽快し,矯正視力もC0.1から0.9に改善したが,復位後早期ではCORCが存在した部位のCellipsoidzoneに濃淡が認められた(図2).C●裂孔原性網膜.離のOCT所見裂孔原性網膜.離のCOCT所見については視力経過との関連について多くの報告がなされているが,術前のOCTを評価した報告は比較的少ない.MuniらはCORCの発症リスクとして,網膜.離の進行が早く急速に網膜下腔が液化硝子体に暴露されること,網膜.離がC2日以上継続すること,網膜.離が広範囲であることをあげている.またCORCの発症機序として,網膜外層の弾性率の低下が起こり,網膜外層の浮腫(hydration)と側方拡張性の低下がCORCを引き起こすとしている1).検眼鏡(91)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1右眼の術前眼底写真(a,b)とOCT画像(c)上耳側やや深部に弁状裂孔を認め,黄斑部にかけて胞状の網膜.離が生じていた(a).網膜面には同心円状にCshagreenCpat-ternを認めた(b).OCTで網膜外層に波うち所見が観察され,ORCと考えられた.またCORCの網膜外層肥厚部位は白色病変に一致していた(c).図2右眼の術後OCT画像ORCが存在した部位のCellipsoidzoneに濃淡が認められた.的にめだった網膜皺襞を認めなくても,このCORCが術後に残存し視機能の回復が遅延することがあるので3,4),OCTによる経過観察が適宜必要である.文献1)MuniCRH,CDarabadCMN,COquendoCPLCetal:OuterCretinalCcorrugationsCinCrhegmatogenousCretinaldetachment:theCretinalCpigmentCepithelium-photoreceptorCdysregulationCtheory.AmJOphthalmolC245:14-24,C20232)MeloCIM,CBansalCA,CNaiduCSCetal:MorphologicCstagesCofCrhegmatogenousCretinalCdetachmentCassessedCusingCswept-sourceOCT.COphthalmolRetina7:398-405,C20233)FukuyamaCH,CYagiriCH,CArakiCTCatal:QuantitativeCassessmentCofCouterCretinalCfoldsConCenfaceCopticalCcoher-enceCtomographyCafterCvitrectomyCforCrhegmatogenousCretinaldetachment.SciRepC9:2327,C20194)白木暢彦,白木彰彦,若林卓:網膜.離の画像解析の進歩:OCTによる特徴を踏まえて.眼科65:797-806,C2023あたらしい眼科Vol.42,No.1,202591

考える手術:37.翼状片手術のコツ

2025年1月31日 金曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅翼状片手術のコツ家室怜大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室翼状片は結膜下に増殖組織が生じて角膜内に侵入した状態で,視機能障害や整容的な訴えがあれば外科的治療を行う.翼状片手術では翼状片および結膜下組織を切除後,露出した強膜部を自己結膜組織で覆う結膜弁移植が一般的に行われる.術式には切除部に隣接する結膜を移動させる有茎結膜弁移植と,他部位から結膜を採取するタゾン1mg(0.5mg2錠)の内服を併用する.翼状片を合併した白内障眼においては,先に翼状片切除を行って角膜形状を安定化させた後,白内障術前検査を実施して眼内レンズ度数を計算する.聞き手:翼状片の手術適応はどのように考えたらよいでと」を患者に伝えておかなければなりません.次に整容しょうか?面ですが,これは患者が「目が赤い」などと訴えている家室:適応を大別すると視機能的適応と整容的適応の二場合で,術後の充血を最小限に抑える術式の選択が必要つです.まず視機能的適応についてですが,侵入した翼です.状片が瞳孔領に達すれば高度の視力低下に陥ります.そこまで達していなくても翼状片が角膜を水平方向に牽引聞き手:手術では有茎結膜弁と遊離結膜弁のどちらを選すれば直乱視化,遠視化,または不正乱視を伴うことで択すべきでしょうか?視機能障害につながります.これらは自覚視力,オート家室:翼状片手術は再発が最大の問題であり,これを防レフケラトメーターだけでなく,前眼部光干渉断層計にぐことが第一とされます.そして,単純切除や強膜露出よる角膜形状解析,波面センサーによる不正乱視の検出法では再発率が高いために,再発率の低い有茎弁移植かを行えば詳細に評価可能です.注意点として,翼状片が遊離弁移植が一般的に行われています.両者の再発頻度存在するにもかかわらず,直乱視がごく軽度な例や,倒については報告によってばらつきが大きく,単純な比較乱視を呈している患者をときどき経験します.この場合がむずかしいので,術式の特性を理解して選択すればよは術後に倒乱視が増加して裸眼視力が低下することがあいと思います.私は遊離結膜弁移植を標準的に行っているため,術前に「裸眼視力が低下する可能性があるこます.遊離結膜弁移植は,遊離弁の採取や縫着の手技に(89)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025890910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術習熟が必要ですが,弁の採取部位とサイズ設定における自由度が高く,患者によらず一定の術式で行えます.さらに,健常な結膜を移植するので術後の充血を抑制でき,先述した整容的適応例において満足を得られやすいという大きなメリットがあります(図1).一方,有茎結膜弁移植では結膜弁が半固定されるため,弁の扱いが容易で遊離結膜弁と比較して短い手術時間で施行可能です.ただし,病変に隣接する結膜を用いるために術後の充血を惹起する懸念があること,翼状片のサイズが大きい場合には被覆する結膜を移動させることが困難な場合があることに注意しておく必要があるでしょう.聞き手:具体的な手術方法を教えてください.家室:私が標準的に行っている手順を紹介します(動画1).まず翼状片頭部にマーキングし,鼻側結膜下にリドカインを少量注射します.翼状片頭部を有鉤鑷子で把持し,スパーテルで鈍的に角膜から.離したあと,マーキングに沿って翼状片頭部を切除します.次に有鉤鑷子で結膜下組織を把持し,スプリング剪刀を用いて結膜と強膜から.離し切除します.露出強膜をキャリパーで測定して結膜弁サイズを決定し,測定したサイズを遊離結膜弁の採取予定部位にマーキングします.このとき,結膜弁は上方で採取しますが,将来的に濾過手術を行う可能性がある患者の場合は下方から採取します.結膜弁を損傷させないためにマーキング部のわずかに外側からリドカインを結膜下注射し,マーキングに沿ってTenon.を残し,結膜のみを.離して遊離弁を採取します.採取した遊離弁を露出強膜部に乗せて向きと表裏を合わせたあと,9-0ナイロン糸で縫合します.術後に抜糸をしやすくするため縫合糸は長めに残して切ります.最後にソフトコンタクトレンズを装用して,デキサメタゾン結膜下注射を行い手術を終了します.聞き手:翼状片手術後の再発を防ぐコツを教えてください.家室:まずは弁移植を基本手技とすることです.そして,若年,高度の充血,厚みのある翼状片,再発翼状片図1初発翼状片への遊離結膜弁移植a:術前,b:術後.といったハイリスク患者ではマイトマイシンCや羊膜移植といった追加の手技を検討します.マイトマイシンCは結膜下組織の線維芽細胞増殖を抑制する作用があり,弁移植に併用すれば再発率を低下させることができます.一方で強膜軟化症の合併リスクがあるため,私はハイリスク患者に限って適応としています.なお,保険適用外であるため倫理委員会などを通して病院の許可を得る必要があります.また,再発翼状片で翼状片のサイズが大きい場合や,眼球運動障害または瞼球癒着を伴う患者では,広範囲に結膜下組織を切除する必要があるので羊膜移植で対応しています.羊膜移植は翼状片と結膜下組織の切除後に,露出強膜を羊膜で覆って結膜上皮が進展する基質を供給することを目的としています.可能であれば遊離結膜弁移植を併用して上皮化を促し,炎症期間を短縮させるようにしています(動画2).こういった術式選択に加えて術後管理も重要です.術後は0.1%ベタメタゾン点眼1日4回を用いて消炎し,周術期はベタメタゾン1mg(0.5mg×2錠)4~7日間の内服を併用しています.なお,ベタメタゾン点眼は3カ月以上処方するようにしています.海外では免疫抑制薬を用いて消炎する報告もあります.患者のアドヒアランス不良により再発することもあり,患者への入念な説明と薬剤使用状況の確認も大切です.聞き手:白内障と翼状片の合併例を経験しますが,どのように対応すべきでしょうか?家室:先述のように翼状片眼では水平方向に角膜が牽引されるため,翼状片を切除すると,術後,牽引が解除され角膜形状が変化します.そのため,翼状片がある状態で白内障の術前検査を行い,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数を計算すると,度数ずれのリスクになります.正確な測定結果を得るために,先に翼状片切除を行って角膜形状を安定化させてからIOL度数を決定すべきです.形状安定化に要する期間についてはMiyataらの報告が非常に参考になります.翼状片先端の位置が角膜半径の1/3以下の軽度,1/3より大きく2/3以下の中度,2/3より大きい重度という分類をしたとき,軽度は術後1カ月以降,中度と重度は術後3カ月以降で角膜形状が安定するというものです.これを参考にしつつ,屈折の実測値が安定したタイミングでIOL度数決定を行うとよいでしょう.文献1)宮田和典,子島良平,森洋斉ほか:翼状片の進展率に基づく重症度分類の検討.日眼会誌122:586-592,201890あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(90)

抗VEGF治療セミナー:ガス注入による血腫移動術

2025年1月31日 金曜日

●連載◯151監修=安川力五味文131ガス注入による血腫移動術小野江元日本大学病院眼科ガス注入による血腫移動術は,黄斑部にC2乳頭径大以上の厚い網膜下出血を認め,術後に伏臥位をとれる患者であれば治療適応となりうる.黄斑下出血が器質化していたり,黄斑部が線維瘢痕化してしまった患者などでは有効性が乏しいと考えられるが,術後に硝子体を温存できるので,とくに加齢黄斑変性による黄斑下出血には積極的適応となる.はじめに硝子体内へのガス注入による血腫移動術は,おもに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)や網膜細動脈瘤破裂によって生じる黄斑下出血に対する治療法である.AMDによる黄斑下出血に対する治療としては,ガス注入のほかに硝子体手術,抗VEGF療法などがあるが,AMDは黄斑下出血治療後にも再度出血などの滲出性変化を生じることもあり,抗VEGF療法を継続していかなければならないケースも多く経験する.硝子体手術後には抗CVEGF薬のクリアランスが早くなるため,術後に硝子体を維持できることはメリットとなる.AMDによる黄斑下血腫に対して抗VEGF薬単独治療と抗CVEGF薬とガス注入術の併用治療を比較をした既報では,中心窩網膜厚と視力は術後C6カ月では有意差はなかったが,術後C1カ月までの早期には併用治療群でより改善を認めており,中心窩網膜厚が450Cμm以上の症例では,術後C6カ月の視力は併用治療群のほうが良好であった1).この抗CVEGF薬とガス注入の併用療法に加え,血栓を溶解する組織プラスミノーゲン活性因子(tissueplas-minogenactivator:tPA)を併用する治療法もある.日本大学病院(以下,当院)からは抗CVEGF薬,tPA,ガスを硝子体内注射する治療を報告しており,同治療では術後C6カ月における視力,中心窩網膜厚,中心窩網膜色素上皮.離厚は有意に改善し,85%で黄斑下出血の完全な移動を認めた2).しかし,tPAの眼局所での使用は適用外使用であり,ガス注入術単独とCtPAとガス注入併用群の術後C1カ月での視力改善,黄斑下出血の移動は同等であったとの既報もあり3),tPAの使用は施設によって判断が必要となる.網膜細動脈瘤破裂による黄斑下(87)出血に対しては,六フッ化硫黄(SF6)とCtPAを併用したガス血腫移動術の場合はC100%出血が再燃したという報告もあり4),網膜細動脈瘤破裂による黄斑下出血に対しては,tPAを併用せずガス単独での治療のほうがよい可能性がある.ガス注入術の有効性が乏しいと考えられるのは,出血から時間が経過しているために黄斑下出血が器質化している場合,黄斑部が線維瘢痕化している場合,伏臥位を維持することができない患者などが考えられる.また,視力と中心窩網膜色素上皮.離厚が関連したという報告もある2,5)が,ガス血腫移動術で網膜下出血は移動することが多く,それが理由で適応外とはならないと考える.適応としては,術後の伏臥位が可能であること,黄斑部にかかるC2乳頭径大以上の厚い網膜下出血があることであると考えられるが,AMDによる黄斑下出血では継続した抗CVEGF療法が必要となる可能性があり,硝子体を温存できるガス注入術がより積極的な適応となりやすいと考える.症例提示具体的な症例を提示する.患者はC71歳,男性.右眼黄斑下出血で当院を紹介受診した.右眼CETDRS文字数視力はC79字で,ポリープ状脈絡膜血管症による黄斑下血種の診断となった(図1).同日にアフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)を行い,翌日にtPA,100%八フッ化プロパン(C3F8)の硝子体内注射によるガス血腫移動術を施行した.術後体位を伏臥位とし,術翌日には網膜下血腫はアーケード下方に移動を認めていた(図2).このように中心窩から下方にかけての網膜色素上皮.離があっても,網膜下出血の移動は可能である.この症例はガス血腫移動術後も出血など滲出あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025870910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1黄斑下血種症例の術前カラー眼底写真(a)とOCT画像(b)中心窩にかかる網膜色素上皮.離を認め,橙赤色隆起病巣,黄斑部から下方にかけて厚い網膜下出血を認めている.図2図1の症例のガス注入による血種栓移動術翌日のカラー眼底写真(a)とOCT画像(b)中心窩にかかる網膜色素上皮.離より上方の網膜下出血も含めて,黄斑から網膜下出血は移動している.の再燃を繰り返し,IVAによるフォローを継続している.文献1)ShinCJY,CLeeCJM,CByeonSH:Anti-vascularCendothelialCgrowthfactorwithorwithoutpneumaticdisplacementforsubmacularhemorrhage.AmJOphthalmolC159:904-914,C20152)KitagawaCY,CShimadaCH,CMoriCRCetal:IntravitrealCtissueCplasminogenCactivator,Cranibizumab,CandCgasCinjectionCforCsubmacularhemorrhageinpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.Ophthalmology123:1278-1286,C20163)FujikawaCM,CSawadaCO,CMiyakeCTCetal:ComparisonCofCpneumaticdisplacementforsubmacularhemorrhageswithCgasaloneandgasplustissueplasminogenactivator.Reti-naC33:1908-1914,C20134)MizutaniT,YasukawaT,ItoYetal:Pneumaticdisplace-mentCofCsubmacularChemorrhageCwithCorCwithoutCtissueCplasminogenactivator.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1153-1157,C20115)OgataM,OhH,NakataAetal:Displacementofsubmac-ularhemorrhagesecondarytoage-relatedmaculardegen-erationwithsubretinalinjectionofairandtissueplasmin-ogenactivator.CSciRepC12:22139,C2022☆☆☆88あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(88)

緑内障セミナー:緑内障,近視に伴う篩状板変化

2025年1月31日 金曜日

●連載◯295監修=福地健郎中野匡295.緑内障,近視に伴う篩状板変化齋藤瞳東京大学医学系研究科眼科学教室篩状板は視神経の支持組織であり,篩状板を通る神経線維を圧負荷から守る組織である.眼圧上昇や眼軸延長は篩状板形状にさまざまな影響を与え,それらが視機能障害につながると考えられている.篩状板の構造の詳細な理解は,緑内障や近視の与える緑内障脆弱性の解明のうえで非常に重要である.●はじめに篩状板とは視神経が強膜を貫く部分であり,視神経の支持組織としての役割を果たす.篩状板は多数の孔(laminapore)を伴う網目状のコラーゲン組織であり,その孔を神経線維が通る.眼球には眼圧による内圧だけでなく,脳脊髄圧に代表される外圧も常にかかっているが,篩状板が両者の圧のバランスを取り,耐荷重性を発揮する.この篩状板に過剰な圧がかかったり,篩状板が変形・変性したりすることによって耐荷重性が下がると,視神経に障害が生じるため,篩状板は緑内障の主たる障害部位であると考えられている.C●緑内障に伴う篩状板変化著しい眼圧上昇が起きると,内圧の高まりにより篩状板が後方偏位を起こすことはよく知られている1).この現象は,濾過手術などによる眼圧下降によって回復することから2),篩状板の物理的な圧排が原因と考えられている.しかし,正常眼圧緑内障でも篩状板深度(網膜面から篩状板前面までの距離)は深化することが知られており(図1),緑内障の病期とともに深化するといわれている.これは圧排が原因ではなく,慢性的な篩状板への圧負荷や血流・栄養障害などにより篩状板厚が薄くなることと関係しているのではないかと考えられている.また,篩状板は常に眼内圧と脳脊髄圧にさらされており,そのバランスが崩れると篩状板変形が起きる可能性が指摘されている.動物実験では,眼内圧よりも脳脊髄圧のほうがより顕著に篩状板偏位に関係していたとの報告もあり3),正常眼圧緑内障などの病因の一つと考えられているが,生体内で脳脊髄圧の検査をすることは侵襲を伴うため,その詳細は未だ明らかにされていない.そのほか,人種によって篩状板の位置や眼圧上昇に対する圧耐性が異なることが報告されている.篩状板コラーゲン組織の性質の違いが,人種間の緑内障感受性に影響を与えている可能性がある.C●近視に伴う篩状板変化近視は眼軸延長と非常に強く相関しており,眼球組織が伸展する際に多岐にわたる組織変形を伴うことが知られている.非病的近視正常眼において,眼軸延長とともにCBruch膜と強膜の相対的位置ずれの拡大(臨床的には乳頭周囲網脈絡膜萎縮の拡大として観察される),乳頭周囲の脈絡膜の菲薄化,強膜管の拡大および乳頭周囲強膜の後弯が生じることが近年の光干渉断層計を用いた研究で報告されている4).篩状板は強膜で眼球に固定されているため,強膜の偏位,後弯,開口部の拡大は直接篩図1正常眼と緑内障眼の篩状板深度a:30歳代,女性.眼軸長C25.28Cmmの正常眼.b:40歳代,男性.眼軸長C25.02mm.静的視野検査のCmeandeviation.10.43CdBの緑内障眼.篩状板深度(..)をCBMO断端を結んだ線(ピンク線)から篩状板前面(青線)まで測っている.Bの緑内障眼のほうが深い.(85)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025850910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2正視眼と近視眼の篩状板形状の違いa:30歳代,女性.眼軸長C22.67Cmmの正常眼.Cb:50歳代,男性.眼軸長C26.50Cmmの強度近視正常眼.近視眼のほうが篩状板前面(青線)が平たく,浅くなっている.図3変形した強度近視眼の篩状板70歳,女性.眼軸長C27.81mm.Ca:眼底写真.全周を傍乳頭網脈絡膜萎縮に取り囲まれている.b:光干渉断層計像.乳頭周囲強膜が著しく後弯しており,下耳側には強膜の突出が認められる(..).篩状板前面(青線)は大きく歪んでいる.状板の変形につながる.典型的な近視眼では篩状板が耳側に引き延ばされて,皿型の,広く,浅い篩状板形状をとる(図2).病的近視眼のように眼軸延長がさらに著しくなると,組織の伸展が眼軸延長に追いつけなくなり,強膜の強い変形による篩状板の歪みが顕著になる(図3).C●近視性変化が緑内障感受性に与える影響近視は緑内障の最大のリスクファクターとされているが,その要因の一つとして近視による篩状板変形が関係していると推測されている.篩状板が変形することにより,低眼圧でも圧負荷を受けやすくなり,緑内障性障害を生じる可能性が指摘されている.これはわが国において近視を伴う正常眼圧緑内障の割合が非常に高いこととも関連していると思われる.また,病的近視眼の組織断裂などは眼圧上昇とは機序の異なる視機能障害を起こしているのではないかと考えられるが,これらの組織断裂が眼圧感受性を高めている可能性もあり,間接的に眼圧依存性の緑内障性変化につながっているとも考えられる.C●おわりにこのように篩状板は視神経線維を守るうえで非常に重C86あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025要な組織であるが,高眼圧により変形してしまったり,逆に近視により変形した篩状板が視機能障害につながったりするなど,篩状板が緑内障と深いつながりがあることを述べた.近年の画像化技術の進歩により篩状板関連の新規報告は多数行われており,緑内障の病態や近視が緑内障に与える影響が解明される日も少しずつ近づいているものと期待している.文献1)YanDB,ColomaFM,MetheetrairutAetal:DeformationofCtheClaminaCcribrosaCbyCelevatedCintraocularCpressure.CBrJOphthalmolC78:643-648,C19942)LeeEJ,KimTW,WeinrebRN:Reversaloflaminacribro-saCdisplacementCandCthicknessCafterCtrabeculectomyCinCglaucoma.OphthalmologyC119:1359-1366,C20123)MorganWH,ChauhanBC,YuDYetal:Opticdiscmove-mentwithvariationsinintraocularandcerebrospinal.uidpressure.InvestOphthalmolVisSciC43:3236-3242,C20024)SaitoH,KambayashiM,AraieMetal:Deepopticnerveheadstructuresassociatedwithincreasingaxiallengthinhealthymyopiceyesofmoderateaxiallength.AmJOph-thalmolC249:156-166,C2023(86)

屈折矯正手術セミナー:ICLサイズ不適合への対策

2025年1月31日 金曜日

●連載◯296監修=稗田牧神谷和孝296.ICLサイズ不適合への対策三木恵美子南青山アイクリニックHoleICLは術後合併症が少なくよい成績が認められているが,残された問題の一つはサイズ不適合である.複数の機器の測定値を比較し,いくつかの選択法を組み合わせて,より適切なサイズを選ぶ方法を紹介する.それでもサイズが合わずに入替えが必要になることがあるので,入替えの方法,結果についても紹介する.●はじめにスターサージカル社のCICL(implantableCcollamerlens)はCHoleICL(ICLCKSAquaPORT)の登場により術後合併症が減り,よい成績が認められている.今回は残された問題の一つであるサイズ不適合について述べる.C●サイズ選択サイズ不適合を防ぐためにはサイズ選択が重要である.サイズは,12.1,12.6,13.2,13.7CmmのC4種類である.スターサージカル社より提供される計算式ConlineCcalculationC&Corderingsystem(OCOS)で角膜横径(whiteCtowhite:WTW)と前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)から計算するが,これらの測定値は機器による違いがあるため最適化が必要である.たとえば筆者の施設(以下,当院)では,WTWはCIOLマスター700の測定値からC0.5Cmm引いて用いている.OCOSで推奨されるサイズは旧タイプのCICLに対応しており,大きめを選ぶ傾向がある.サイズ選択には他のファクターも確認するといい.隅角間距離(angleCtoangle:ATA)はレンズが固定される毛様溝間距離(sulcusCtosulcus:STS)との相関が認められる1).水晶体膨隆度(crystal-lineClensrise:CLR)は極端に大きい場合(≧300Cμm)は推奨より大きいサイズを,小さい場合(≦.150Cμm)は小さいサイズを検討するべきとする報告がある2).CASIA2のCICLSIZEの画面ではCNS式,KS式の結果から推奨サイズ,予測されるCpostvault,postACD,CpostTIA(trabecularirisangle:隅角角度)などが示される.画像で自動選択された測定点を確認し,必要があれば修整する.PostACDはC2.0Cmm以上あればいいが,選択サイズによるCvaultの違いも表示されているので,低めや高めを選ぶなど術者による選択が可能である.CPostTIAはC15.2°以上が推奨される.AIによるCvault予測の方法も出てきており,予想精度がさらに上がるこ(83)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPYとが期待される.C●サイズの評価サイズが適当かどうかの評価はCvaultで行い,0.5~1.5CT(cornealthickness)が適当とされる.術前のACDによっても評価は異なり(図1),ACDが浅い患者や深い患者ではCCTの値そのものではなく,前房内でのバランスをみる必要がある.HoleICLの合併症は少ないとされるものの,highvaultでは隅角閉塞による眼圧上昇や閉塞隅角症のリスクがあり,角膜内皮への接触ないか,瞳孔運動障害や毛様痛,光障害などがないか注意する.経過とともにCvaultは下がることが報告されており3),当院の患者でも同様の傾向がみられた(図2).CHoleICLでは前房水の循環が保たれることでClowvaultによる白内障のリスクは少ないが,調節障害を起こす可能性があり,0.3CT以下では慎重な経過観察が必要と思われる.当院でC3年間に使用したサイズはC1,041眼中C12.1mmがC183眼(17.6%),12.6mmがC697眼(69.9%),13.2mmがC125眼(12.5%)とC12.6mmの使用が多い(図3).ほとんどの患者で術後Cvaultは良好であるが,12.6Cmmのレンズを入れてChighvaultになっているケースがあり,12.1CmmとC12.6Cmmで選択を迷う患者では,STSは水平方向より垂直方向のほうが長いので,12.6Cmmのレンズを積極的に縦固定にするなど工夫が必要であろう.C●サイズ不適合になったら合併症が懸念される場合は対処が必要となる.水平方向に固定してあるノントーリックのCICLがChighCvaultであれば,垂直に回すとCvaultは下がる.ICLを回転させるにはC1Cmmの創から粘弾性物質(ophthalmicvisco-surgicaldevice:OVD)を前房内に少量入れ,マニピュレーターで回転させる.操作後に眼灌流液を穿刺創から流し,前房洗浄を行う.その他の場合やトーリックレンズの場合はサイズ変更が必要になり,当院ではC8眼(0.8あたらしい眼科Vol.42,No.1,202583図1前房深度とvaultICL後面と水晶体前面の距離を角膜厚と比較してCCTで表す.上:前房が浅い症例.ACD2.622Cmm.12.1Cmmのレンズを入れ,vaultはC0.23CTと低い.下:前房が深い症例.ACD3.862Cmm.12.6Cmmのレンズを入れ,vaultはC1.86CTでChighvaultであるが問題ない.(%)52.8%)がChighvaultで,4眼(0.4%)がClowvaultで入替えが必要であった.摘出はレンズの上下にCOVDを入れ,マニピュレーターでハプティクスを虹彩の上に出し,パックマンなどの鑷子でハプティクスを把持して,元の主創口から引き出す.レンズは柔らかく裂けやすく,また滑りやすいので,少し引き出したら他のレンズ鑷子で補助するようにしている.その後はCOVDを入れて新しいレンズを挿入する.入替え後の結果(表1)から,highvaultの場合はサイズをC2段階下げることも検討する.C●おわりにICLのサイズ不適合は完全になくすことはむずかしいが,複数の機器の測定値を比較し,いくつかの選択法を組み合わせることで,より適切なサイズが選べるものとC84あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(CT)highmoderate表1サイズ変更後のvaultの変化入替前(CT)レンズサイズ(mm)入替後(CT)C2.6613.2C→C12.6*C1.62C↓C2.59C13.2C→C12.1**C0.68C↓C2.53C13.2C→C12.1**C0.68C↓C2.45C12.6C→C12.1C0.78C↓C2.32C12.6C→C12.1C0.86C↓C2.30C12.6C→C12.1C0.63C↓C2.1213.2C→C12.6*C1.51C↓C1.88C12.6C→C12.1C0.89C↓C0.26C12.6C→C13.2C0.44C↑C0.23C12.6C→C13.2C0.60C↑C0.08C12.6C→C13.2C0.68C↑C0.05C12.6C→C13.2C0.71C↑low*サイズをC1段階小さくしてCvaultは下がったが,まだChighvaultであった.**サイズをC2段階小さくしてCvaultがよくなった.(いずれも同一の両眼)思う.不適合による合併症の可能性があれば抜去,入替えを行うことは術前に説明が必要であろう.文献1)荻瑳彩,西田知也,片岡嵩博ほか:前眼部COCTによる前眼部計測値と超音波生体顕微鏡(UBM)における毛様溝間距離との関係.日本視能訓練士協会誌47:181-189,C20182)ZhouZ.ZhaoX.JiaoXetal:Thedistributionofcrystal-lineClensCriseCinChighCmyopiaCpopulationCandCitsCin.uenceConCvaultCafterCimplantingCintraocularCcollamerClens.COph-thalmolTherC13:969-977,C20243)LiCB,CChenCX,CChengCMCetal:Long-termCvaultCchangesCindi.erentlevelsandfactorsa.ectingvaultchangeafterimplantationCofCimplantableCcollamerClensCwithCaCcentralChole.OphthalmolTherC12:251.261,C2023(84)

眼内レンズセミナー:マイクロ波手術器を用いた白内障ウェットラボ

2025年1月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋冨田晃生452.マイクロ波手術器を用いた白内障ウェットラボ川崎医科大学眼科学C1教室豚の眼球を用いたウェットラボは,白内障手術適齢期のヒト眼とは水晶体の状態が異なるため,実際とは異なった質感の解消が課題である.今回,外科領域で用いられてきた医療機器を利用して豚の眼球の水晶体核を効率よく熱変性させることにより,ヒト白内障の実感に近づけたウェットラボの創意工夫を紹介する.●はじめに眼科手術を学習するために豚の眼球(以下,豚眼)を利用したウェットラボや1),模型を使用したドライラボ2),シミュレーションを用いた各種の方法が存在する3).そのなかでも,豚眼を用いたウェットラボは眼科医であれば誰しもが経験したことがあるだろう.しかし,白内障手術の適応となる患者の眼球と豚眼とでは水晶体の状態が大きく異なるため,実際の手術とは少々異なった質感・操作感になりやすい.そのため,ウェットラボを実際の手術にいかにして近づけるか,さまざまな試みが存在する4).わが国からC2011年とC2016年に,バイポーラを用いて水晶体核を熱変性させることで成熟白内障モデル眼を作製するウェットラボ方法が発表された5,6).これは熱変性した水晶体核は白く混濁するため,実臨床に近い状態の成熟白内障モデル眼を作製できる.この水晶体は視認性が著しく不良であるため前.切開の練習が可能であり,熱変性した水晶体核は核硬度が上昇するため,ハン図1マイクロ波手術器のマイクロターゼ電子レンジと同様な原理で,水分子の摩擦熱で組織自体が発熱する.(写真はアルフレッサファーマのホームページより転載)ドピースを用いた超音波操作の練習を実現することができる.同手法を参考にして,より効率的に,かつ水晶体核を満遍なく熱変性させる方法を考案した.C●作製方法水晶体は核の中心がもっとも硬いため,これを実現するには水晶体核の中心から熱変性を実現する必要がある.今回,マイクロ波手術器であるマイクロターゼ(アルフレッサファーマ製)を使用した(図1).マイクロ波手術器は外科領域で一般的に用いられる止血・凝固装置である.同製品にはさまざまな電極が存在するが,そのなかでボール型電極を用いる.豚眼の角膜輪部C4Cmmを目安にスリットナイフを水晶体核方向へ穿刺し(2.4mmスリットナイフで穿刺し,やや創部を拡大させる),同部位からボール型電極を挿入して出力をC50CmWに設定し通電を開始する(図2a).すると,電極を中心に水晶体が熱変性していく.このとき,電極を中心に置いたままにせず,ややゆっくり上下左右に振りながら通電を行うと,満遍なく水晶体核を熱変性させることが可能である(図2b).通電時間を最低30秒は確保すると,核硬度がCnuclearsclerosis1~2程度の質感を再現できる.C●前.切開と超音波操作マイクロ波で作製した成熟白内障モデル眼も既報と同図2マイクロ波による成熟白内障の作製a:ボール型電極を水晶体核に向けて挿入する.Cb:通電を開始するとボール型電極を中心にして同心円状に水晶体核が変性していく.(81)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C810910-1810/25/\100/頁/JCOPY図3分割や超音波操作の練習a:凝集した状態で核硬度が増すため,フェイコチョップ動作を再現できる.Cb:核硬度が増しているため,フットペダル操作に合わせた核処理が可能である.様に,徹照不良状態を作製するためトリパンブルーで前.染色を行うと,実際の成熟白内障のような緊張感をもって前.切開の練習が行える.その後,ハンドピースを挿入してからの超音波操作では,水晶体核が凝集した状態で核硬度が上昇しているため,フェイコチョップ動作を再現することができる(図3a).分割した核も核硬度を維持しているため,フットペダル操作も実際の白内障手術と酷似した操作感を学習することができる(図3b).通電時間をC2分間程度に延長すると,色調は大きく変化しないが,超音波処理が行いにくくなるCnuclearsclerosis4~5に近い核硬度を達成することができる.ニードル型電極を使用すると,水晶体.前面のみを熱変性させることが可能であり,皮質混濁が高度な白内障を作製できる.通常,豚眼の水晶体.は張力に富んでいるため,前.切開が流れやすいが,熱変性した水晶体前.は張力が大きく減少するため,60~70歳台の患者と同程度の質感で,前.切開を再現することができる(図4).C●おわりに今回の手法は,既報のコンセプトを継承しつつ,短時間で核白内障の量産が可能となるように工夫した.マイクロ波手術器は効率よく水晶体核を熱変性させて核硬度図4前.切開の練習水晶体.前面のみを熱変性させると水晶体の張力が減少し,実臨床に近い前.切開を練習できる.を上昇させるが,高価であるため,本手法が広まるにはコスト面も含めたさまざまな課題が存在する.マイクロ波手術器を用いたウェットラボは,実際の眼科手術により近似した環境を創出できるため,眼科手術教育に広く寄与できると考える.文献1)ChigusaCH,CKurosakaCD,CUetsukiY:TeachingCcontinuousCcurvilinearCcapsulorhexisCusingCaCpostmortemCpigCeyeCwithCsimulatedcataract:JCCataractC&CRefractCSurgC27:C814-816,C20012)飽浦淳介:白内障手術教育の新しいツール机太郎.眼臨紀2:571,C20093)OseniCJ,CAdebayoCA,CRavalCNCetal:NationalCaccessCtoCEyeSisimulation:aCcomparativeCstudyCamongCUSCOph-thalmologyCResidencyCPrograms.CJCAcadCOphthalmolC15:Ce112-e118,C20234)德田芳浩:豚眼実習における模擬核の作り方カートンCNCRによる核の作製.眼科手術20:85-87,C20075)上甲覚:豚眼による白内障モデルの試作と使用経験.あたらしい眼科28:1599-1601,C20116)上甲覚:成熟白内障モデル眼の試作.あたらしい眼科C33:1801-1803,C2016

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 医療用コンタクトレンズ(1)

2025年1月31日 金曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く13.医療用コンタクトレンズ(1)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C8章は医療用コンタクトレンズを取りあげている.今回はその第C1回として,フィッティングの評価方法や強膜レンズの課題,今後の展望に関する部分を解説する.はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折異常の矯正だけでなく,円錐角膜や眼表面疾患に対する医療用として使用されることがある.今回は,医療用CCLの種類や対応疾患について1)紐解いていく.医療用コンタクトレンズの定義医療用CCLとは,基礎疾患または複雑な屈折状態の治療をおもな目的として装着するCCLである.眼鏡の必要性をなくすという美容目的以外の理由で処方されており,屈折異常を矯正する場合と矯正しない場合とがある.用途に応じて以下のように分類されている.・医療用またはCbandageソフトコンタクトレンズ(BSCL):眼不快感の治療,手術後または基礎疾患の治療中に角膜の創傷治癒を促すため,または眼瞼や睫毛などの機械的刺激から角膜を保護するために使用される.・リハビリテーション用CCL:強い屈折異常や角膜不正乱視などにより,眼鏡で十分な視力が得られない患者に処方される.外傷後や手術後などに視機能や外観を改善させるためのCCLもこのカテゴリーに含まれる.医療用コンタクトレンズの素材1880年代後半に屈折異常を矯正する最初のCCLが開発され,同じころ,円錐角膜患者の視力改善を目的としたCCLが医療用として用いられた.しかし,このCCLはガラス製の強膜レンズで,酸素を通さないため角膜浮腫と眼痛が問題となった.1950年代後半にはポリメチルメタクリレート(polymethyl-methacrylate:PMMA)製のレンズが治療用として使用されていたが,PMMAも酸素を通さない素材であったため,現在ではガス透過性素材に取って代わられた.(79)ソフトコンタクトレンズ(SCL)市場は,1970年代初頭にハイドロゲルCCLが導入されたが,連続装用に必要な酸素を角膜に供給することができなかったため,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲル(siliconehydro-gel:SiHy)製CSCLが開発され,現在,医療用CSCLまたはCBSCLとして使用が認められているCSCLはおもにSiHy素材である.医療用コンタクトレンズの種類ハードコンタクトレンズ(HCL):レンズの動きや小さなレンズ径,それに伴う涙液の不安定性により,眼表面疾患の治療用CCLとしては適さないが,角膜不正乱視を矯正できるため,視覚リハビリテーション用として使用されている.屈折異常や無水晶体眼の患者では,必要な度数を補うためにレンズが厚くなるので,レンズの酸素透過量が制限される.しかし,HCLはレンズが眼表面で動くことにより涙液交換が促進されるため,角膜全体を覆うCSCLよりも,大気中の酸素をより多く角膜に取り入れることができる.近年,強膜レンズのほうが装用感が良好であることから,角膜疾患に対するCHCL処方は,以前より減少傾向である.しかし,強膜レンズよりもCHCL装用の継続を希望する割合も一定数あり,疾患管理の選択肢の一つとしてCHCLが必要であることがうかがえる.強膜レンズはC2025年C1月現在,日本未認可である.ハイブリッドレンズ:中央にあるCHCLの部分で鮮明な視力を提供し,周辺部にレンズの安定性と快適性を高めるための柔らかいレンズスカートが融合している.初期のハイブリッドレンズは酸素透過率が低いため,角膜血管新生やレンズスカート接合部の破損が多かったが,近年では円錐角膜などの不正乱視や,角膜移植などの外科的治療後の患者に対する治療に有用であることが示唆あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C790910-1810/25/\100/頁/JCOPYされている.ハイブリッドレンズはC2025年C1月現在,日本未認可である.ピギーバックレンズ:手術や外傷などにより不正乱視や高度の屈折異常となった場合やCHCL不耐症などの場合に,医療目的でCSCLの上にCHCLを装着するシステムである.2枚のレンズ装用するため,レンズの選択時に十分に酸素供給の問題を考慮することが重要である.レンズや素材の技術革新に伴い,快適性,視力,生理機能の向上を目的とした多くのパラメータを操作することが可能となっている.強膜レンズ:強膜レンズは初めて開発されたCCLであり,治療目的で使用された初めてのCCLでもある.強膜レンズは,眼表面とCCLの間に防腐剤無添加の滅菌生理食塩水が満たされているため,角膜前面の収差が中和され,眼表面が潤い,眼瞼や睫毛などの機械的刺激から眼を保護することができる.そのため,角膜上皮疾患や円錐角膜などの不正乱視の視覚リハビリテーションや快適性のため,眼表面疾患に対する治療用など医療上重要な役割を担うことができる.急性期におけるBSCL角膜屈折矯正術後に使用されるCBSCLは,角膜表面切除術後の痛みを軽減し,瞬きによって生じる剪断応力から再生上皮を保護することで再上皮化を促進する.SiHyレンズは,ハイドロゲルレンズと比較して角膜の再上皮化が速く,患者の不快感が軽減するが,急性期におけるCBSCLの使用の欠点として,他のCCLの使用と同様に感染の可能性があり,管理には注意が必要である.また,LASIK術後はフラップの浮腫が生じるために,BSCL装用の継続が困難なこともある.角膜クロスリンキングで角膜上皮.離(epi-o.)を行った際に,BSCLを角膜上皮治癒の促進と術後疼痛の軽減のために使用する.角膜クロスリンキング後のCBSCLによる感染リスクはC0.0017~0.71%と非常に低いが,photorefractiveCkeratectomy(PRK)と比較し感染リスクが高い.このことは,円錐角膜にアトピー性皮膚炎の合併例が多いことが一因であると考えられている.遷延性角膜上皮欠損(persistentCepithelialdefect:PED)は,角膜上皮欠損がC2週間経過後も治療に反応しない場合をさす.PEDは医原性,手術合併症,神経麻痺性角膜症,眼表面疾患,感染症,外傷などさまざまな原因で生じる.BSCLは眼瞼からの機械的な刺激を減らし,角膜上皮の創傷治癒を促進するが,欠点としてレンズの位置ずれや微生物性角膜炎のリスクがあげられる.PEDに対するCBSCLとしてCSCLが使用されているが,長期の管理が必要な場合には強膜レンズを選択することが支持されている.角膜上皮.離および再発性角膜上皮びらん症候群(cornealepithelialerosionsyndrome:RCES)の患者に対して,損傷した角膜上皮を保護し再上皮化を促進するために酸素透過性の高いCBSCLがよく使用される.RCSE患者にとってCBSCL使用のおもなリスクは感染であり,炎症を抑えるためにステロイドを使用すると感染リスクが高くなるため,注意が必要である.角膜穿孔および角膜裂傷の患者にはフィブリンやシアノアクリレート組織接着剤が使用されることがある.接着剤の表面は粗く,圧迫や瞬きなどにより脱落する可能性があるため,BSCLを併用することで外科的な介入を回避できる場合がある.おわりに今回はCCLEARレポートの第C8章の前半を要約し解説した.医療用CCLはさまざまな疾患の治療や視力矯正だけでなく,手術後の疼痛軽減やの創傷治癒に必要なアイテムであり,医療用CCLの進歩を再確認する必要がある.文献1)YacobsCDS,CCarrasquilloCKG,CCottrellCPDCetal:CLEAR-MedicalCuseCofCcontactClenses.CContactCLensCandCAnteriorCEye44:289-329,C2021

写真セミナー:基底細胞癌

2025年1月31日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史488.基底細胞癌奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①出血を伴う潰瘍形成②黒色の隆起病変図1初診時所見下眼瞼中央に黒色の潰瘍を伴った腫瘍が瞼縁まで広がっている.図3術中所見下眼瞼の腫瘍切除後,単純縫縮が困難であったため,Tenzel.apにて下眼瞼を延長し,切除断端を縫合した.図4術後前眼部写真腫瘍の再発なく,下眼瞼を再建できている.(77)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C770910-1810/25/\100/頁/JCOPY眼瞼悪性腫瘍は脂腺癌,基底細胞癌,扁平上皮癌が大半を占める.わが国の報告では,基底細胞癌は眼瞼悪性腫瘍の35.9%を占めるされており,発症頻度としては眼瞼脂腺癌と並ぶ1).基底細胞癌は皮膚に発症する腫瘍であり,眼では眼瞼縁,睫毛部付近に発症しやすい.肉眼的所見としては黒色の潰瘍,出血を伴う病変が典型である.リスク因子は日光,加齢,女性の喫煙歴などがあり,とくに日光が当たりやすい下眼瞼に発症しやすい.近年のオゾン層の破壊により,発症頻度は今後徐々に増加するとされている2).鑑別疾患は母斑,脂漏性角化症があり,腫瘍が小さい場合は診断がむずかしいこともある.基底細胞癌は一般的に局所浸潤が少なく,ゆっくり成長する悪性腫瘍である.眼窩内浸潤の発症率は少なく,1.6~2.5%程度とされているが,内眼角に発症した基底細胞癌は眼窩内浸潤の頻度が高いとされている3).治療は外科的切除が第一選択である.瞼縁にまで広がる場合は瞼板を含めた眼瞼全層切除が必要なため,欠損した眼瞼にはさまざまな再建方法(単純縫縮,遊離瞼板移植,Hughes.apなど)を駆使した前葉および後葉の再建が必要である.一方,瞼縁から離れた腫瘍の場合は,眼輪筋を含めた前葉の切除のみで可能であることが多い.腫瘍が眼窩内に浸潤している場合は眼窩内容除去を選択する.放射線療法が奏効する場合も多く,手術ができない場合や残存腫瘍に対し選択される.しかし,放射線療法の合併症としてドライアイや白内障,新生血管緑内障,放射線網膜症があり,重大な眼障害や失明を引き起こすことがある.症例はC79歳,女性.3年前より左下眼瞼に腫瘤を自覚していた.徐々に腫瘍が増大してきたため京都府立医科大学附属病院受診した.下眼瞼皮膚にC12Cmm大の潰瘍を伴う黒色の腫瘤を認めた(図1,2).肉眼所見より基底細胞癌と診断し,外科的手術を行った.SafetymarginとしてC1Cmmを含めた腫瘍切除を行い,切除断端同士を縫合する単純縫縮を試みたが,縫合不可能であったため,Tenzel.apを用いて再建した(図3).現在,術後C1年であるが,局所再発を認めることなく経過している(図4).基底細胞癌の予後は悪性腫瘍の中では比較的よい.全身転移はほとんどなく,0.03%程度と報告されている4).一方,局所再発はしばしば認められるが,切除断端陰性の場合の局所再発率はC1%未満である.断端陽性の場合は再発率が上がる.腫瘍が小さければ単純縫縮で手術は可能であり,術後合併症も少ない.しかし,放置すれば徐々に局所で拡大し,切除範囲も広がり,広範囲の再建が必要となる.本症例は腫瘍発症からC3年間経過して基底細胞癌の確定診断となった.小さい腫瘍では母斑などの良性腫瘍との鑑別が困難であるが,拡大傾向であれば病理学的検査を施行し,なるべく早期に診断をすることが重要である.文献1)GotoCH,CYamakawaCN,CKomatsuCHCetal:EpidemiologicalCcharacteristicsCofCmalignantCeyelidCtumorsCatCaCreferralChospitalinJapan.CJpnJOphthalmolC66:343-349,C20222)LinCHY,CChengCCY,CHsuCWMCetal:IncidenceCofCeyelidCcancersCinTaiwan:aC21-yearCreview.COphthalmologyC113:2101-2107,C20063)MadgeCSN,CKhineCAA,CThallerCVTCetal:Globe-sparingCsurgeryformedialcanthalBasalcellcarcinomawithante-riorCorbitalCinvasion.COphthalmologyC117:2222-2228,C20104)YinVT,MerrittHA,SniegowskiMetal:Eyelidandocu-larCsurfacecarcinoma:diagnosisCandCmanagement.CClinCDermatol33:159-169,C2015