小児アレルギーに関するアップデートRecentAdvancesinPediatricAllergicDiseases角環*はじめに近年,アレルギー疾患は世界的に増加傾向が報告されており,日本においても小児アレルギー疾患の有病率上昇が指摘されている.アレルギー疾患はアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD),食物アレルギー,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜疾患などが含まれるが,皮膚,消化管,気道,鼻粘膜,眼表面といった複数臓器にわたり発症する多臓器横断的疾患群である.罹患すると小児期から患者の生活の質(qualityoflife:QOL)や学習効率の低下,さらに将来的な社会生産性にも大きな影響を及ぼすため,アレルギー疾患の有病率上昇は社会的課題である.アレルギー疾患の発症には遺伝的素因と環境因子の双方が関与するが,比較的短期間に集団全体の遺伝的背景が大きく変化したとは考えにくく,その増加には生活様式の変化,都市化,食生活,衛生環境,大気汚染,環境抗原曝露様式の変容など,環境因子の影響がきわめて大きいと考えられている.とくに小児期は環境因子の影響を強く受ける時期であり,乳児期の湿疹やADを起点として多様なアレルギー疾患へ進展するアレルギーマーチの理解が必要となる.このような背景のもと,アレルギー疾患を正しく理解し,適切に予防・管理することは全診療科に共通する課題であり,アレルギー性結膜疾患を診療する眼科医においても,その全身的背景を理解することが求められる.本稿ではアレルギーマーチ,小児アレルギー疾患の疫学,国内外のコホート研究,そしてエコチル調査の最新知見を中心に,小児アレルギーに関するアップデートを概説する.Iアレルギーマーチとはアレルギーマーチはアレルギー素因を有する個体が,時間・原因抗原・発症臓器を異にしながら複数のアレルギー疾患を次々と連続的に発症していく自然歴を示す概念で,1980年代に馬場により提唱.1)された(図1).乳児期のADや食物アレルギーを起点として,成長とともに気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜疾患などへとアレルギー疾患が進展・拡大し,原因抗原も食物抗原からダニ,花粉抗原へと加齢に伴い変化.2)するものとして広く認識され,現在では国際的にも広く受け入れられている.近年では,アレルギーマーチの発症機序として皮膚バリア障害の重要性.3)が明らかとなっている.フィラグリン遺伝子異常や皮膚炎によるバリア破綻により抗原が経皮的に侵入し,2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答を介した免疫グロブリンE(immuno-globulinE:IgE)感作(経皮感作)が成立する.さらに,上皮由来サイトカインを介した全身性アレルギー炎症や,腸内細菌叢,食生活,抗菌薬使用,都市化,大気汚染などの環境因子が発症・進展に関与すると考えられており,アレルギーマーチは「皮膚から始まる全身性アレルギー炎症」として再解釈されている.4).こうした遺伝.*TamakiSumi:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕角環:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座(1)(3)7190910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1アレルギーマーチ概念図表1ISAACPhaseOneとPhaseThreeにおける小児アレルギー疾患の比較疾患領域指標CPhaseCOne(1C990年代)CPhaseCThree(2C000年代)傾向地域差の特徴喘息喘鳴地域差大高所得国で高頻度一部で増加,先進国では横ばい傾向C↑C/C→低・中所得国で増加鼻炎鼻炎中.高頻度地域差あり全体として増加C↑都市化地域で増加鼻結膜炎鼻炎より低頻度だが明確に存在明らかに増加C↑↑思春期・都市部で高頻度湿疹屈曲部湿疹地域差大高所得国で高頻度低・中所得国で増加C↑C/C→高所得国では高止まり表2アレルギー疾患の有病率の変化(日本)疾患調査地有病率の変化特徴アトピー性皮膚炎滋賀県C20年間比較調査1975年9.C12歳8%18.C20歳2%1994.C96年9.C12歳C15%16.C18歳C11%小児期から増加アレルギー性鼻炎全国調査1998年:C29.8%2019年:C49.2%著明な増加スギ花粉症同上1998年:C19.6%ピーク:4C0.C49歳2019年:C42.5%ピーク:1C0.C19歳著明な増加低年齢化アレルギー性結膜疾患全国調査1990年代:C15.C20%2017年:C48.7%顕著な増加表3西日本小学児童におけるアレルギー疾患表4アレルギー疾患医療拠点病院ネットワークを活用した有症率調査1992,2002,2012年の比較アレルギー疾患有病率調査(2023年)疾患1992年2002年2012年アトピー性皮膚炎C17.3%C13.8%C11.7%気管支喘息C4.6%C6.5%C4.7%アレルギー性鼻炎C15.9%C20.5%C28.1%スギ花粉症C3.6%C5.7%C9.9%アレルギー性結膜炎C6.7%C9.8%C11.4%年代アトピー性皮膚炎食物アレルギー気管支喘息アレルギー性鼻炎アレルギー性結膜炎全体平均C15.6%C15.2%C14.7%C47.4%C19.5%0.C4歳C13.5%C13.0%C9.5%C7.6%C2.7%5.C9歳C19.6%C18.0%C15.6%C30.6%C13.7%10.14歳C19.7%C19.3%C14.3%C49.8%C21.6%15.19歳C16.9%C16.9%C18.4%C53.4%C21.0%C表5代表的な出生コホート研究(アレルギー疾患)コホート名国開始年対象主な特徴・目的CALSPAC英国C1991約C14,000母子妊娠期から追跡.環境因子,遺伝,アレルギー,精神発達などを包括的に解析.CBAMSEスウェーデンC1994約C4,000人小児喘息・アレルギー自然歴を長期追跡.環境曝露とアレルギーマーチ解析で有名.CDNBCデンマークC1996約C100,000人大規模出生コホート.喘息・アトピー性皮膚炎・食物アレルギーを長期追跡CJECS日本C2011約C100,000母子環境省主導,日本最大規模の全国出生コホート.妊娠期からの環境曝露,アレルギー疾患,神経発達などを前向きに解析.ALSPAC:AvonCLongitudinalCStudyCofCParentsCandChildren,BAMSE:Children,CAllergy,CMilieu,CStockholm,Epidemiology,DNBC:DanishCNationalCBirthCCohort,JECS:JapanCEnvironmentCandCChildren’sCStudy(エコチル調査).-表6子どもの健康と環境に関する全国調査(JECS,エコチル調査)より得られた小児アレルギー最新知見分類論文名おもな対象疾患おもな内容・ポイント雑誌・年筆頭著者総論・疫学CAllergicCpro.lesCofCmothersCandCfathersCinCtheCJECSBA,AR,花粉症,AD,FA,CACJECS参加両親の全国規模アレルギー疫学調査.スギ感作率や鼻炎・結膜炎有病率を報告.日本におけるアレルギー背景を示した代表的研究CWorldCAllergyCOrganCJ,C2017CYamamoto-HanadaCKアトピー性皮膚炎CAssociationCofCtheCincidenceCofCatopicCdermatitisCuntilC3CyearsColdCwithCcli-mateCconditionsCinCtheC.rstC6CmonthsCofClifeCAD乳児早期の気温・湿度などの気候条件とCAD発症との関連を解析.乾燥環境との関連を示唆CPLoSCOne,C2022CYokomichiCHアトピー性皮膚炎・食物アレルギーCPersistentCeczemaCleadsCtoCbothCimpairedCgrowthCandCfoodCallergy湿疹,FA持続性湿疹が食物アレルギー発症や身体発育へ影響する可能性を報告.アレルギーマーチ研究として重要CPLoSCOne,C2021CYamamoto-HanadaCK鼻炎・感作CExposureCtoCHouseCDustCMiteCAllergenCandCEndotoxinCinCEarlyCLifeCandCSensitizationCandCAllergicCRhinitisAR,ダニ感作乳幼児期のダニ抗原・エンドトキシン曝露と感作・鼻炎発症との関連を解析CIntCJCEnvironCResCPublicCHealth,C2022CKojimaCR花粉感作CAssociationCofCJapaneseCcedarCsensi-tizationCatC8CyearsCofCageCwithChouseCdustCmiteCsensitizationCandCmaternalCcedarCpollinosisCinCtheCJECSCYamanashiCadjunctCstudyスギ花粉感作,ダニ感作8歳時点の小児スギ花粉感作と,ダニ感作および母親のスギ花粉症との関連を解析.家族歴と早期感作の重要性を示唆CAllergolCInt,C2025CShimamuraCA鼻炎・アレルギーマーチCNotCAllCRhinitisCFollowsCtheCAtopicCMarchCAR鼻炎を複数フェノタイプに分類し,すべてが典型的アレルギーマーチを辿るわけではないことを報告CAllergy,C2026CHaramaCD結膜炎・栄養CDietaryCintakeCofC.shCandCω-3Cpoly-unsaturatedCfattyCacidsCandCphysi-cian-diagnosedCallergyCinCJapaneseCpopulationAC,AR魚摂取量・Cω3脂肪酸摂取量とCaller-gicCconjunctivitisとの関連を解析.JECSで結膜炎を独立解析した比較的まれな報告CNutrition,C2019CMiyakeCY喘息・環境因子JECS喘息関連解析群BA,喘鳴PM2.5,黄砂,受動喫煙,化学物質,室内環境などと喘息発症との関連を解析複数報告AD:アトピー性皮膚炎,FA:食物アレルギー,BA:喘息,AR:アレルギー性鼻炎,AC:アレルギー性結膜炎子が解析されており,小児アレルギー発症との関連が報告されている.とくに興味深い報告として,出生季節とAD発症との関連がある.秋生まれ児は春生まれ児と比較して乳幼児期CAD発症リスクが高く,出生地域の日照時間や湿度などの環境条件も発症に影響する可能性が示された.これは,出生直後の皮膚バリア形成や環境曝露条件が早期アレルギー発症に影響しうることを示す重要な知見であり,日本の気候特性を踏まえた予防戦略にもつながる可能性がある.また,母体栄養,ビタミンD,脂肪酸摂取,抗菌薬曝露,腸内細菌叢への影響なども検討されており,小児アレルギー発症には胎児期からの環境要因が深く関与することが明らかとなりつつある.比較的短期間で遺伝背景が大きく変化することは考えにくく,こうした環境要因こそが近年のアレルギー疾患増加の主要因であることを支持する.眼科領域においては,現時点でアレルギー性結膜疾患単独の詳細解析は限定的であるものの,ADやアレルギー性鼻炎との関連を通じ,眼アレルギーを多臓器横断的アレルギー疾患として理解するうえで重要な基盤となる.今後,涙液バイオマーカーや眼症状を含めた解析が進めば,小児アレルギー性結膜疾患の自然歴解明にも大きく寄与すると期待される.このようにエコチル調査は,小児アレルギー疾患を時間軸に沿って多角的に解析し,日本におけるアレルギーマーチ,感作形成,環境リスク因子を包括的に明らかにしている.小児アレルギー診療において,エコチル調査から得られる知見は,早期介入,予防医学,個別化医療を推進するうえできわめて重要であり,今後のアレルギー診療の方向性を示す中心的研究といえる.CV小児アレルギー診療への示唆―眼科医に求められる視点小児アレルギー疾患は,多臓器にわたり進展する全身性疾患として理解されるようになり,眼科医においてもアレルギー性結膜疾患を局所疾患としてのみ捉える時代ではなくなっている.とくに小児では,自覚症状の表現が未熟であり,アレルギー性結膜疾患の特徴的症状である「掻痒感」を十分に訴えられない場合が多い.さらに診察協力が得られにくいことから,診断の遅れや未診断例が少なからず存在すると考えられる.そのため,問診や視診のみならず,涙液総CIgE検査など客観的診断指標を積極的に活用し,早期診断精度を高めることが重要である.また,学校健診による視力低下を契機に受診する小児のなかには,アレルギー性結膜疾患が潜在している可能性がある.アレルギー性結膜炎を有する小児は近視リスクが高く,腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)-αなど炎症関連サイトカインが眼軸伸長に関与する可能性.14)も報告されている.したがって,アレルギー性結膜疾患の早期診断と治療介入は,小児期の視機能保護という観点からも重要である.眼科医は視力異常のみならず,背景に存在するアレルギー性眼疾患を見落とさない視点が求められる.さらに,ADを有する児では,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科との連携が不可欠である.近年は生物学的製剤の適応拡大により,乳幼児期から全身的介入が可能となりつつあり,眼科医も全身アレルギー診療の一翼を担うことが期待される.おわりに近年の疫学研究および出生コホート研究の進展により,小児アレルギー疾患は環境因子と遺伝的素因の相互作用のもと,多臓器にわたり時間軸に沿って進展する全身性疾患として理解されるようになった.とくにエコチル調査は,日本人集団におけるアレルギーマーチ,感作形成,環境リスク因子を大規模前向き研究として明らかにし,小児アレルギー研究に大きな転換をもたらしている.一方で,眼科領域における疫学データや長期自然歴解析はいまだ限定的であり,小児アレルギー性結膜疾患を全身アレルギー疾患のなかでどのように位置づけるかは今後の重要な課題である.今後は涙液バイオマーカー,感作プロファイル,遺伝背景などを活用した早期診断や重症化予測が進展し,より早期からの介入や個別化医療が可能になることが期待される.アレルギー性結膜疾患は有病率がきわめて高く,眼科医は小児アレルギー診療の最前線に位置している.眼科724あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(8)-