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考える手術:Ahmed ClearPathスモールチューブによる緑内障手術

2026年6月30日 火曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅AhmedClearPathスモールチューブによる緑内障手術谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座緑内障ロングチューブシャントとして,Baerveldt緑内障インプラント(BGI,2011年承認),Ahmed緑内障バルブ(AGV,2014年承認)が使用されてきた.近年,新しいデバイスとしてAhmedClearPath(ACP,2024年承認),ACPスモールチューブ(ACP-ST,2025年承認),Paul緑内障インプラント(PGI,2025年承認)が相次いで登場している.とくにACP-STとPGIはチューブ径が小さいことから,角膜内皮細胞への影響が従来のデバイスと比較して少ないことが期待されている.加えて,6-0ポリプロピレンステントのみで流出抵抗を確保できるため,チューブ結紮も不要である.ACP,ACP-ST,PGIはバルブなし構造であるため,AGVよりも低い術後眼圧が達成できる可能性もある.チューブを挿入する際には,自己強膜弁を用いたチューブ被覆に加えて,強膜トンネル法による方法も普及しつつある.とくに小切開強膜トンネル法(micro-incisionalscleraltunnel:MIST)は,グラフトが必要ないこと,前方アプローチであるため穿孔時の安全性が高いこと,前房・毛様溝・毛様体扁平部いずれのチューブ挿入も可能であること,縫合不要で手術時間が短縮できることなど,利点が多い.本稿では,MISTによるACP-STの毛様溝チューブ挿入の動画を提示する.聞き手:各種ロングチューブデバイスの大きさを教えてす.350モデルはCBGIやCPaul緑内障インプラント(Paulください.Cglaucomaimplant:PGI)と同様,2直筋の下にプレー谷戸:図1に外観を示します.バルブ付モデルであるトを留置します.250モデルはCAGVと同様に直筋間にAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)プレートを留置しますので,外眼筋に触れる操作は最小のモデルCFP-7のプレートはC184CmmC2(前後径C17.0Cmm限ですみます.C×幅C13.0mm,厚さC2.1mm),AhmedClearPath(ACP)とCACPスモールチューブ(ACP-ST)にはそれぞれプ聞き手:各種デバイスのチューブの太さはどのくらい違レートサイズC250CmmC2(前後径C16.7CmmC×幅C18.5mm,いますか?厚さC0.8Cmm)とC350CmmC2谷戸:図2にチューブの外観を示します.AGVとCACP(前後径C16.5CmmC×幅C30.5Cmm,厚さC0.8Cmm)があります.プレートの素材は,AGVはのチューブはCBGIと同じ外径C0.64Cmm,内径C0.31Cmmシリコーン製,ACP,ACP-STはCBaerveldt緑内障イです.ACP-STのチューブはCPGIと同じ外径C0.46Cmm,ンプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)と同内径C0.13Cmmです.プリザーフロマイクロシャントがじ硫酸バリウム含有シリコーン製で白い色をしていま外径C0.35Cmm,0.07Cmmですので,それよりは太いで(75)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026C6690910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術すが,ACP-STはCAGVなどと比較して随分細いことがわかります.ステント糸として,ACPにはC4-0ポリプロピレン糸が,ACP-STにはC6-0ポリプロピレン糸があらかじめ挿入されています.ACPにC4-0ステントを用いる場合(3-0ステントでも)は,低眼圧予防のためにチューブ結紮も必要となります.一方で,スモールチューブデバイスでは,6-0ステントのみで十分な流出抵抗が担保されるため,チューブ結紮は必要なく,そのため術中操作や術後の管理がシンプルになります1).プレートサイズがC2種類ありますが,私は操作性を考えてC250Cmm2のモデルをおもに使用しています.聞き手:ACP-STの適応を教えてください.谷戸:基本的には従来のロングチューブシャントと同様に,トラベクレクトミー不成功,あるいはトラベクレクトミーで十分な効果が見込めない患者が適応となります.ACP-STはバルブ構造を有しないため,AGVと比較して術後に達成される眼圧が低くなる可能性がありますが,現時点では十分な情報はありません.前房や毛様溝にチューブ挿入を行う際には,チューブが細いほうが角膜内皮への影響が少ないことが期待されています.私は前房挿入を行う際には,スモールチューブデバイスを選択することにしています.聞き手:小切開強膜トンネル法(micro-incisionalCscler-altunnel:MIST)について教えてください.谷戸:ブレブナイフⅡ(カイインダストリーズ製)などの細いクレセントナイフを用いて,輪部側から後方に向かって強膜トンネルを作製します.前房・毛様溝・扁平部にチューブを挿入する際には,それぞれ輪部から1Cmm,1.5Cmm,3Cmmぐらいの場所からトンネル作製を開始します.トンネルの長さはC4Cmm以上とします.トンネル作製の際には眼球穿孔に注意してください.通常,穿孔はトンネル作製開始時に発生しますので,輪部側からトンネルを作製した場合には穿孔しても網膜裂孔を生じる危険性はほとんどありません.作製した強膜トンネル内を,25ゲージ(G)硝子体鉗子や池田氏前.切開鑷子(エムイーテクニカ製)などを用いてチュC.ブを通します.トンネルの前端部分でC25G針を用いて眼内への刺入創を作製します.前房・毛様溝へのチューブ挿入では,分散型の粘弾性物質をC25G針に接続しておいて,眼内刺入した際に空間保持のために粘弾性物質を注入します.そのうえで,25G針をガイドにして,対側から眼内に挿入した硝子体鉗子や前.切開鑷子を眼外に導き,チューブを把持して眼内に引き込みます(図3).毛様溝挿入については動画①②を参照してください.過去の文献2)でも,前房・毛様溝・扁平部それぞれの手技についてビデオを見ることができます.聞き手:ステント抜去のタイミングを教えてください.谷戸:私は眼圧がC10CmmHgを越えた時点でCβ遮断薬と炭酸脱水酵素の合剤点眼を開始しています.そのうえで,眼圧をさらに下げたほうがよいと考えられる時点で,細隙灯顕微鏡下にC26G針で結膜切開をしてステントを抜去しています.少なくともC2週間は待ち,多くの場合は術後C2カ月以降にステントを抜去しています.文献1)MasdipaA,KaidzuS,TanitoM:Invitroanalysisofpres-sureresistanceinthePaulGlaucomaImplantandAhmedClearPathC250CwithCandCwithoutCpolypropyleneCthreadCinsidethetube.TranslVisSciTechnolC14:2,C20252)TanitoCM,COhtaniCH,CIdaCCCetal:TubeCinsertionCofCAhmedglaucomavalveusingamicro-incisionscleraltun-neltechnique.CureusC16:e75899,C2024図1各種ロングチューブデバイスの外観左からCAGV(モデルCFP-7),ACP(350CmmC2モデル),ACP-ST(250CmmC2モデル).図2各種チューブの外観左からCAGV(モデルCFP-7),ACP(4-0ステント入り),ACP-ST(6-0ステント入り)のチューブ.図3小切開強膜トンネル法(MIST)によるチューブ留置670あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(76)

抗VEGF治療セミナー:EVEREST Ⅱスタディとパキコロイド関連疾患治療の最新知見

2026年6月30日 火曜日

●連載◯監修=安川力五味文168148EVERESTⅡスタディとパキコロイド柳靖雄お花茶屋眼科関連疾患治療の最新知見抗CVEGF薬と光線力学療法(PDT)の併用療法は,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)をはじめとするパキコロイド関連疾患の長期管理に有用であり,EVERESTⅡスタディのC6年追跡による日本人サブグループ解析では良好な解剖学的安定を示した.また,個別化治療や,より低侵襲な減量CPDTも今後の有望な治療戦略として注目されている.本稿では,長期成績や安全性,長期予後の観点から,抗CVEGF薬とCPDT併用療法の最新知見について解説する.はじめに近年,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)やパキコロイド新生血管症(pachychoroidCneovasculopathy:PNV)といったパキコロイド関連疾患に対する治療戦略は,光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)と抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の併用療法(以下,併用療法)の進展により,大きく変化した.とくにCPDTは,PCVに特徴的なポリープ病変の退縮に効果的であり,抗CVEGF薬単独では得がたい解剖学的安定性をもたらす治療モダリティとして,その価値が再認識されている.ベルテポルフィンの供給制限という未曽有の危機は,PDTの適用を戦略的かつ精密な個別化医療へと進展させる契機となったといえる.EVERESTCⅡスタディは,PCVに対するCPDTとラニビズマブの併用療法の有効性を検証した大規模ランダム化比較試験であり,近年,そのC6年間にわたる追跡結果が報告された.本稿では,EVERESTⅡスタディのC6年間の長期追跡データ,とくに日本人サブグループ解析の知見を中心に,パキコロイド関連疾患に対する併用療法の長期的な意義,減量CPDTの補完的価値,そして今後の個別化治療の方向性について,最新の学術的知見に基づき概説する.解剖学的アウトカムの優位性EVERESTⅡスタディのC6年追跡の結果,併用療法群は,PDT単独や抗CVEGF単独群と比較して,中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)の減少や網膜下あるいは網膜内液の減少といった解剖学的アウトカムにおいて優れていることが示された.この知見は,PDTが脈絡膜の病変構造自体に働きかけ,長期的な形態学的安定に貢献していることを示唆している.ただし,視力(73)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY改善効果自体には両群間で有意な差は認められなかった1).日本人サブグループ解析の重要性2025年に筆者らによって報告されたCEVERESTⅡの日本人サブグループ解析(6年追跡)は,PCV治療における人種差や治療実態を明らかにするうえで貴重なデータを提供した2).日本人参加者(平均年齢C76歳)は,6年間を通して良好な視力(67.2ETDRS文字)が維持されていた.興味深いことに,日本人参加者は非日本人参加者と比較して,6年間でより多くの抗CVEGF薬注射(12.5回Cvs7.57回)を受けていた.また,アフリベルセプトがもっとも頻繁に使用されており,固定投与やCtreat-and-extend(TAE)プロトコルが日本人参加者で多く適用されていた.日本人サブグループ内において,6年間のCPDT施行群と非施行群の間で機能的・解剖学的アウトカムに有意差は認められなかったが,PDT非施行群で最終的な視力が数値的にやや劣る傾向が観察された.この結果は,PDTが長期的な視力維持に対して一定の貢献をしている可能性を示唆しつつ,日本人CPCV患者に対しては,疾患活動性を抑制するために集中的な抗CVEGF薬注射が必要となる実態を浮き彫りにしている.併用療法の長期成績併用療法がCPCVやCPNVの治療において不可欠な戦略となっているのは,その優れた長期成績と治療負担の軽減効果にある.PCVに対する併用療法は,視力改善,網膜厚減少に加えて,ポリープ退縮率の高さにおいて抗CVEGF薬単独療法より優れており,ポリープ退縮が得られた群ではC7年間の追跡でも良好な視力維持率が高く,重篤な合併あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026667症はまれであった.また,ポリープを伴わないCPNVに対する併用療法も,視力,網膜厚,脈絡膜厚の改善をC1~3年にわたり維持する傾向があり,長期的な効果が期待される.たとえば,UemuraらやCNomuraらの研究では,PNV患者に対するCPDT併用療法のC2~3年間の良好な治療成績が示されている3,4).CPCV治療を再定義する:Hemodynamicscontrolとしての併用療法パキコロイド関連疾患の治療において,抗CVEGF薬による網膜下液の消失を主眼とする従来の考え方はC.uidcontrol(液体管理)とよばれている.対照的にhemodynamicscontrol(血行動態管理:筆者造語)とは,網膜下に貯留した液体そのものを追うのではなく,その上流にある脈絡膜の血流・血管構造の安定化を治療標的に据えるパラダイムである.すなわち,脈絡膜におけるうっ滞や異常吻合などの構造的血流異常を,臨床画像・病態の連鎖として統合し,制御しようとする考え方である.アジア人に多いパキコロイド病態では,渦静脈うっ滞(vortexveincongestion),脈絡毛細血管板虚血(chorio-capillarisischemia),脈絡膜透過性亢進,色素上皮.離(PED)・網膜下液,脈絡膜肥厚(pachyvessels/pachy-choroid)といった所見が,かつては個別のバイオマーカーとして扱われてきた.HemodynamicsCcontrolの視点では,これらは強膜出口部における渦静脈うっ滞に端を発し,脈絡膜内静脈圧の上昇→脈絡毛細血管板の力学的圧迫と虚血→CRPE障害→CVEGFなどの放出→液体漏C668あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026出・PED・ポリープ形成という一連の血流動態の連鎖として理解できる(図1).したがって,モニタリングの指標は網膜内・網膜下液(.uid)のみにとどまらず,PED,脈絡膜肥厚,choriocapillarisの灌流状態を総合的に評価する必要がある.EVERESTⅡの結果は,PCV治療においてこのパラダイムが臨床的に重要であることを示している.抗VEGF薬は連鎖の末端である漏出(.uid)を制御し,PDTはCPCVに特徴的なポリープという異常血管構造へ直接介入する.併用療法は,疾患の根源である血管構造異常と下流の漏出の双方に働きかけるChemodynamicscontrolの実践的形式といえる.文献1)TeoCKYC,CParkCK-H,CNgahCNFCetal:Six-yearCoutcomesCinCsubjectsCwithCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCtheCEVERESTCⅡCStudy.OphthalmolTherC13:935-954,C20242)YanagiCY,CMoriCR,CTeoCKYCCetal:Six-yearC.ndingsCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCtheCEVERESTCⅡstudy:JapaneseCsubgroupCanalysis.CJpnCJCOphthalmolC69:894-901,C20253)UemuraCS,CMikiCA,CKishimoto-KishiCMCetal:Two-yearCtreatmentCoutcomeCofCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCpachychoroidneovasculopathy.TherC55:104746,C20254)NomuraCY,CAokiCS,CKitamotoCKCetal:Three-yearCout-comeCofCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCVEGFCinhibitorCforCpachychoroidCneovasculopathy.CGraefe’sCArchCClinExpOphthalmolC262:3191-3200,C2024(74)

緑内障セミナー:長浜スタディでわかったこと

2026年6月30日 火曜日

●連載◯308監修=福地健郎中野匡308.長浜スタディでわかったこと中野絵梨京都大学大学院医学研究科眼科学長浜スタディは住民約C1万人を対象とするコホート研究である.本研究から得られたデータに基づき,緑内障に関連する研究成果として,夜間低酸素と網膜神経線維層厚との関連,ならびに習慣的なコーヒー摂取と眼圧との関連について紹介する.●長浜スタディの概要長浜スタディは,人口約C12万人の地方都市・滋賀県長浜市において,2008~2010年にベースライン調査を開始した住民ベースのコホート研究である.対象はC30~74歳の一般住民で,新聞やチラシを通じて参加者を募集した.開始時の参加者はC1万C82人であり,5年ごとの追跡調査を継続し,多彩な健診項目を収集している(表1).眼科領域では,近視や円錐角膜に関連する遺伝子変異をゲノムワイド関連解析(genome-wideCassociationstudy:GWAS)として報告するなど,これまで多数の成果を発信してきた1~3).今回は,緑内障と関連が深い研究について,その詳細を簡単に紹介する.C●夜間低酸素と網膜神経線維層厚の菲薄化との関連夜間低酸素血症の代表的な原因疾患は睡眠時無呼吸症候群であり,同疾患と網膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)菲薄化との関連については,これまでに多数の報告がなされている4).しかし,従来の研表1長浜スタディの測定項目(一部抜粋)環境・生活習慣や既往歴に関するアンケート身体測定と臓器の機能測定(心電図,呼吸機能検査,中心血圧,動脈硬化度,眼科検査,聴力検査など)認知機能検査や頭部CMRI検査採血・採尿(血算・生化学・免疫学的検査,DNAデータ)長浜スタディで収集されている主要な測定項目を示す.生活習慣や既往歴のアンケートに加え,身体測定や心電図・呼吸機能・中心血圧・動脈硬化度などの臓器機能評価,眼科検査や聴力検査,さらに認知機能検査や頭部CMRI,血液・尿検査(血算・生化学・免疫学的検査,DNA解析)まで多岐にわたるデータを網羅している.究の多くは病院受診者を対象としており,症例数が限られるのみならず,選択バイアスを免れないという問題点を有していた.一方で,夜間低酸素血症は自覚症状に乏しく,未診断のまま一般集団に広く潜在している可能性が高い.したがって,よりバイアスの少ない評価のためには,コホートベースの疫学研究が不可欠であるが,これまでそのような検討は十分に行われてこなかった.長浜スタディでは,体動を感知する腕時計型デバイスをC7日間,サチュレーションモニターをC4日間装着してもらい,睡眠に関連する詳細なパラメーターをC6,123人から収集し,睡眠中に酸素飽和度がC90%未満となった時間の割合を示すCCT90と,乳頭周囲CRNFL厚との関連について検討した5).CT90が高値である群は,高齢,男性,BMI高値という特徴を有し,乳頭周囲CRNFL厚がより薄い傾向を示した.さらに多変量解析においても,CT90高値は独立してCRNFL菲薄化と有意に関連しており,夜間における低酸素負荷がCRNFL菲薄化と関連することを,一般住民を対象とした疫学的データにより裏づける結果となった.表2コーヒー摂取とリスク低下の関連が示唆されている代表的な疾患一覧2型糖尿病子宮体癌心血管疾患口腔・咽頭癌脳卒中Parkinson病高血圧うつ病肝細胞癌自殺習慣的なコーヒー摂取が発症リスク低下と関連すると報告されている代表的な全身疾患を示す.2型糖尿病や心血管疾患,脳卒中,高血圧,肝細胞癌などの身体疾患に加え,Parkinson病やうつ病,自殺リスクの低下との関連も示唆されている.(71)あたらしい眼科Vol.43,No.6,20266650910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1コーヒー摂取と眼圧の関係長浜スタディ参加者C9,850人を対象に解析を行った結果,各種交絡因子で調整後も,コーヒーをC1日C3回以上摂取する群は,ほとんど飲まない群と比較して約C0.4CmmHg程度眼圧が低かった.●習慣的なコーヒー摂取と眼圧・緑内障との関連近年,コーヒーにはカフェイン以外にも神経保護作用や抗酸化作用を有する多数の生理活性物質が含まれることが明らかとなり,全身疾患との関連についても多くの報告がなされている(表2)6).一方で,眼圧や緑内障との関連については,いまだ一定の見解が得られていない.そこで,長浜スタディ参加者C9,850名を対象として,コーヒー摂取頻度と眼圧・緑内障との関連を検討した7).コーヒー摂取頻度をC4段階に分類し,多変量解析では眼圧・緑内障に関連する既知の因子を調整した.その結果,非緑内障眼においてコーヒー摂取頻度が多いほど眼圧が低いという傾向が認められた.一方,緑内障の有無とは有意な関連を示さなかった.眼圧低下の幅は,1日3回以上飲む人でほとんど飲まない人より約C0.4CmmHg低い程度であり(図1),緑内障の有病率に影響するほどの大きな効果ではないと考えられる.本研究は観察研究であり,因果関係は不明であるため,コーヒー摂取を緑内障予防目的で推奨するものではない.しかし,少なくとも緑内障のない成人においては,全身的な健康利益も含め,習慣的なコーヒー摂取を過度に制限する必要はないと考えられる.一方,緑内障患者や家族歴を有する人では,眼圧上昇に言及した報告もあるため注意が必要である.外来で患者から「コーヒーは飲んでもよいか」と尋ねられた際に,説明の一助となるデータが示せたのではないかと考える.文献1)MiyakeM,YamashiroK,TabaraYetal:Identi.cationofmyopia-associatedCWNT7BCpolymorphismsCprovidesCinsightsCintoCtheCmechanismCunderlyingCtheCdevelopmentCofmyopia.NatCommunC6:6689,C20152)HosodaCY,CMiyakeCM,CMeguroCACetal:Keratoconus-sus-ceptibilityCgeneCidenti.cationCbyCcornealCthicknessCgenome-wideCassociationCstudyCandCarti.cialCintelligenceCIBMWatson.CommunBiolC3:410,C20203)NakaoSY,MiyakeM,FujiwaraKetal:Agenome-wideassociationCbetweenCfovealCthicknessCandCarrhythmia.CommunMed(Lond)C5:374,C20254)WangW,HeM,HuangW:Changesofretinalnerve.berlayerCthicknessCinCobstructiveCsleepCapneasyndrome:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CCurrCEyeCResC42:C796-802,C20175)NagasakiCT,CMiyakeCM,CSatoCSCetal:AssociationsCbetweenCnocturnalChypoxemiaCandCretinalCnerveC.berClayerCthinning:CTheCNagahamaCStudy.CAnnCAmCThoracCSocC21:644-650,C20246)vanCDamCRM,CHuCFB,CWillettWC:Co.ee,Cca.eine,CandChealth.NEnglJMedC383:369-378,C20207)NakanoCE,CMiyakeCM,CHosodaCYCetal:RelationshipCbetweenintraocularpressureandco.eeconsumptioninaJapaneseCpopulationCwithoutglaucoma:TheCNagahamaCStudy.OphthalmolGlaucomaC4:268-276,C2021666あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(72)

屈折矯正手術セミナー:2峰性視力測定法を用いた多焦点眼内レンズ挿入後のLASIKエンハンスメント

2026年6月30日 火曜日

●連載◯313監修=稗田牧神谷和孝313.2峰性視力測定法を用いた多焦点眼内レンズ伊藤光登志挿入後のLASIKエンハンスメント帯包敬太郎品川近視クリニック多焦点眼内レンズ挿入後の屈折誤差は患者満足度に大きく影響する.筆者らは独自の「2峰性視力測定法」を用いてCLASIKエンハンスメントにおける正確な矯正量を決定し,良好な術後成績を得ている.本法はC3焦点眼内レンズの遠用焦点と近用焦点を正確に同定することで屈折誤差を防ぐものであり,汎用性のある検査法である.●はじめに多焦点眼内レンズ挿入術は世界的に手術件数が増加しているが,術後の異常光視症(dysphotopsia)やハロー,グレアなどへの対応は慎重を要する.これらは,眼内レンズの光学特性そのものが原因の場合もあるが,残余屈折異常が原因であることも多い.Schallhornらは多焦点眼内レンズ挿入後の残余近視がC0.25CD増えるごとに満足度がC26.8%低下し,残余遠視がC0.25CD増えるごとに満足度がC19.3%低下すると報告している1).このような矯正誤差に対処するため,筆者らの施設(以下、当院)では多焦点眼内レンズ挿入後のCLASIK(laserCinCsitukeratomileusis)エンハンスメント(追加手術)において,「2峰性視力測定法」という独自の検査法を用いて矯正度数を決定し,良好な術後成績を得ている.C●2峰性視力測定法本法はC3焦点眼内レンズの多焦点性を利用し,デフォーカスカーブの原理を採り入れた視力測定方法である.たとえば,患者が眼内レンズの近用焦点あるいは中間焦点を利用して遠方に焦点を合わせて見てしまっている場合に,その矯正視力が得られた自覚度数をCLASIKによるエンハンスメントの矯正量とすると,屈折誤差が生じてしまう.このような誤差を防ぎ,矯正精度を向上させる視力測定方法である.典型例では,矯正視力C1.0以上が得られる「ピーク」が,2焦点レンズではC2カ所認められ,3焦点レンズでも(理論上はC3カ所だが,実際には後述するように中間用焦点のピークが不明瞭なことがあり)2カ所認められることが多いので,「2峰性視力測定法」と命名した.以下,五つのステップに分けて解説する.ステップ1:遠用焦点を用いてC1.0以上の遠方矯正視力を同定する.通常,3焦点眼内レンズは遠用焦点に光エネルギーの主要な配分があるため,複数の遠用焦点ライン(F)が検出される(表1).ステップ2:通常の視力検査よりも近視側にC0.5CD刻みで測定範囲を拡張し,レッドグリーンテストを併用する.これによりC3焦点眼内レンズが作り出す複数の焦点を網羅的に同定できる.ステップ3:矯正視力C1.0が得られる近用焦点ライン(N)を同定する.ステップC1で複数検出される遠用焦点ラインとは対照的に,近用焦点ラインは通常C1本のみであり,これが本法における基準点となる.ステップ4:近用焦点ライン(N)の屈折度数に,眼内レンズの近用加入度数(眼鏡面換算度数)を加算する.3焦点眼内レンズ,ファインビジョン(BVIMedical社)の場合,眼内レンズ面での近用加入度数+3.5CDは,眼鏡面において+2.6CDに相当するため,Nラインの球面度数に+2.6CDを加算する.その結果,算出された値が,ステップC1で同定された複数の遠用焦点ライン(F)のいずれかと一致することを確認する.この一致したライン(F*)をCLASIKエンハンスメントの矯正度数として選択する.ステップ5:中間用焦点データ(I)が明瞭である場合は,その球面度数に+1.3CD(中間加入度数+1.75CDの眼鏡面換算度数)を加算した値により,ステップC4で得られたライン(F*)が正しいことを確認する.ただし,ファイビジョンを含む,中間用焦点への光エネルギーの配分が相対的に少ない眼内レンズにおいては,(I)ラインが不明瞭な場合もある.(69)あたらしい眼科Vol.43,No.6,20266630910-1810/26/\100/頁/JCOPY表12峰性視力測定の実例遠方矯正視力測定(5m)レッドグリーンテスト0.5×sph+1.5DCcyl-1.25Ax10°-0.8×sph+1.0DCcyl-1.25Ax10°-(F)1.2×sph+0.5cyl-1.25Ax10°R>G(F*)1.2×planocyl-1.25Ax10°R<G(F)1.0×sph-0.5Dcyl-1.25Ax10°R<G0.9×sph-1.0DCcyl-1.25Ax10°CR<G(I)1.0×sph-1.5Dcyl-1.25Ax10°R<G0.8×sph-2.0DCcyl-1.25Ax10°CR<G(N)1.0×sph-2.5Dcyl-1.25Ax10°R<G0.9×sph-3.0DCcyl-1.25Ax10°CR<G0.6×sph-3.5DCcyl-1.25Ax10°CR<G1.0以上の矯正視力が得られた屈折度数を太字で示す.複数の遠用焦点ライン(F),単一の中間焦点ライン(I),および単一の近用焦点ライン(N)が検出された.(F*)がCLASIKエンハンスメントの矯正度数として選択された.表2LASIKエンハンスメント施行前後の臨床成績の推移IOL挿入後(LASIK施行前)LASIK後C1年遠方裸眼視力≧1.0C71.2%C83.3%*遠方矯正視力≧1.0C98.9%C100%近方(3C0cm)裸眼視力C≧0.9C16.9%C56.3%*中間(7C0cm)裸眼視力C≧0.8C87.6%C88.5%平均等価球面度数+0.35±0.75D-0.05±0.36D*等価球面度数≦±0.50DC50.6%C93.8%*乱視度数≦0.50DC44.9%C83.3%**:統計学的に有意な改善を認めた項目(文献C2より引用)C●臨床成績当院でファインビジョン眼内レンズ挿入後にCLASIKエンハンスメントを施行したC59例C89眼を対象とし,臨床成績を評価した.角膜フラップ作製にはフェムト秒レーザー装置クリスタルラインまたはCLDVZ6(Ziemer社製)を用い,エキシマレーザー装置CAMARISC750SまたはCAMARIS1050RS(図1,SCHWIND社製)によりCwavefront-optimizedLASIKを施行した.なお,本研究に使用したレーザー装置は,いずれも現時点で国内未承認医療機器である.エンハンスメント施行後C1年のおもな臨床成績を表2に示す2).C●おわりに2峰性視力測定法の特徴は,単一の近用焦点ラインC664あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026図1AMARISエキシマレーザー1050RS(SCHWIND社提供)(N)を基準点とすることで,複数存在する遠用焦点ライン(F)の中から最適な矯正度数を逆算できる点にある.ファインビジョンC3焦点眼内レンズ挿入眼に対するエンハンスメントについて,BarakovaらはC1,129眼中C61眼(5.4%)に,筆者らと同様のレーザー機種を用いたLASIKまたはCphotorefractiveCkeratectomy(PRK)を施行し,そのうちC3眼(4.9%)に再度のエンハンスメントが必要であったと報告している3).一方,当院のタッチアップ率もC1,477眼中C89眼(6.0%)と同程度であったが,初回エンハンスメント後の再タッチアップは経験しなかった.2峰性視力測定法が矯正精度の向上に寄与した可能性がある.当院では,ファインビジョンに限らず,他社のC2焦点およびC3焦点眼内レンズにおいても同検査法を採用し良好な成績を得ているので,汎用性のある手法といえる.他の眼内レンズに応用する際は,各眼内レンズの加入度数に応じた眼鏡面度数への換算が必要である点に留意されたい.文献1)SchallhornCSC,CHettingerCKA,CHannanCSJCetal:E.ectCofCresidualCsphereConCuncorrectedCvisualCacuityCandCsatisfac-tionCinCpatientsCwithCmonofocalCandCmultifocalCintraocularClenses.JCataractRefractSurgC50:591-598,C20242)ItoCM,CWatabeCM,CObikaneCKCetal:PrecisionCrefractionCmethodologyCforCLASIKCenhancementCafterCtrifocalCIOLCimplantation:CClinicalCoutcomesCandCtechnique.CJCCataractCRefractSurgC52:52-60,C20263)BarakovaCD,CJordanovovaCD,CSramkaCMCetal:TheCinci-denceandresultsoflaserenhancementaftercataractandrefractiveCsurgeryCwithCtrifocalClensCimplantation.CBiomedCPapCMedCFacCUnivCPalackyCOlomoucCCzechCRepubC166:C222-227,C2022(70)

眼内レンズセミナー:スポンジ留置法による虹彩脱出予防

2026年6月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋栗山晶治469.スポンジ留置法による虹彩脱出予防洛和会音羽病院アイセンター眼内レンズ摘出および眼内レンズ強膜内固定術では,房水流出に伴う虹彩脱出が問題となる.本稿では,創部にスポンジを留置することで房水流出を制御し,虹彩の前方移動を防止する手技を紹介する.本法は簡便かつ再現性が高く,術中の安全性向上に寄与する.●はじめに近年,眼内レンズの落下・脱臼例が増えている.その原因としては,1)白内障手術件数の増加,2)高齢化に伴うリスク増加(Zinn小帯の脆弱化など),3)白内障手術後の生存期間の延長,4)基礎疾患・眼の状態によるリスク(落屑症候群,強度近視,網膜硝子体手術既往歴,慢性ぶどう膜炎・外傷など),5)早期・若年での白内障手術増加などがあげられる.これ対して,小切開硝子体手術システムによる眼内レンズ摘出および眼内レンズ強膜内固定術が施行されることが多いが,その際に創からの虹彩脱出が生じることが多いように思われる.この虹彩脱出を予防する簡便な方法を本稿では提案する.●虹彩脱出の要因硝子体手術システムにおける眼内レンズ摘出の際に虹彩脱出が生じやすい要因として,以下のものがあげられる.①散瞳不良例が多い.図1スポンジ留置法のシェーマインフュージョンカニューラからの灌流は虹彩を押し上げるように働く.嵌頓ガードを強角膜創と虹彩の間に留置する.②落下・脱臼眼内レンズを摘出する際に一時的に虹彩前に留置するため,やや縮瞳気味にすることが多い.③眼内レンズを摘出するための強角膜創が幅広い(3~7mm).④インフュージョンカニューラからの灌流が虹彩を押し上げるように働く.以上の要因を解決する手段として,強角膜創と虹彩の間に嵌頓防止のための障害物(嵌頓ガード)を留置すればよいのではと考えた(図1).●嵌頓ガード用スポンジの作製嵌頓ガードとして,網膜.離に対するバックリング手術に用いるシリコーンスポンジを利用した.直径2mmのシリコーンスポンジを長さ4mmに切断し,それを長軸方向に4分割した.一端には8-0バイクリル糸を縫合し,落下防止として余ったシリコーンスポンジの小塊をつなげた(図2).図2完成した嵌頓ガード用のスポンジバックリング用のシリコーンスポンジを長さ4mm,幅1×1mmの1/4円柱形に成形する.一端には8-0バイクリル糸を用いて落下防止用のシリコーンスポンジの小塊をつなげておく.(67)あたらしい眼科Vol.43,No.6,20266610910-1810/26/\100/頁/JCOPY図3スポンジ留置法の連続写真①強角膜創よりスポンジを挿入.②サイドポートからのフックによる操作でスポンジを創と虹彩の間に留置.③眼内レンズをパックマン法にて摘出.④Soemmering輪を灌流圧によって創より摘出.⑤新たな眼内レンズを強膜内固定.⑥バイクリル糸を引っ張ってスポンジを摘出.●施行方法(図3)インフュージョンカニューラを毛様体扁平部に設置したあとに強角膜創を作製し,前房内を粘弾性物質で満たす.作製したシリコーンスポンジを創より前房内に挿入し,サイドポートからフックなどで操作して,創と虹彩の間に留置する.この操作の間,灌流圧はo.にしておく.その後,灌流圧のon/o.操作を繰り返しながら,型通りに眼内レンズを摘出し,続いて新たな眼内レンズを強膜内固定する.最後に灌流圧をo.にして,つながった糸を引っ張ってスポンジを取り出す.●スポンジ留置法の利点眼内レンズ摘出およびその後に行われる眼内レンズ強膜内固定術は,支持構造の欠如や房水動態の急激な変化を伴うため,術中に前房が不安定となりやすい.とくに眼内レンズ摘出後は房水の流出増加により前房圧が低下し,虹彩が前方へ偏位しやすい状態となる.この結果,虹彩の創部方向への移動や脱出が生じ,術野の視認性低下や手技の中断を余儀なくされることがある.従来,これらの状況に対しては粘弾性物質の追加注入や器具操作による対処が行われてきた.しかし,これらの方法では房水流出そのものを十分に制御できない場合があり,虹彩の不安定化が反復する患者も少なくない.本稿で示したスポンジ留置法は,こうした眼内レンズ摘出および眼内レンズ強膜内固定術特有の問題点に対する実践的な工夫である.本法では,術中に作製したスポンジを創部に留置することで,房水の急速な流出を物理的に抑制し,前房圧を安定化させる.これにより,虹彩の前方移動および創外逸脱が効果的に防止される.本手技の利点は,特別な専用器具を必要とせず,既存の手術環境下で即座に導入できる点にある.スポンジは術中に簡便に作製可能であり,留置および除去も容易で,追加侵襲は最小限に抑えられる.眼内レンズ摘出および眼内レンズ強膜内固定術における虹彩脱出予防法として,本スポンジ留置法は再現性が高く,日常臨床において有用な手技であると考える.

写真セミナー:プリザーフロマイクロシャント手術後のMRSA濾過胞感染

2026年6月30日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史505.プリザーフロマイクロシャント手術後三重野洋喜京都府立医科大学眼科学教室のMRSA濾過胞感染図2図1のシェーマ①濾過胞の白色混濁②濾過胞周囲の強い充血図1濾過胞炎発症時の前眼部所見濾過胞の白色混濁と濾過胞周囲の強い充血を認める.(文献C1より改変)図3図1のフルオレセイン所見濾過胞中央部からCSeidel陽性を認める.(文献C1より改変)図4チューブ露出時の前眼部所見濾過胞中央部からチューブ露出を認める.(文献C1より改変)(65)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026C6590910-1810/26/\100/頁/JCOPY原発開放隅角緑内障に対し長期の点眼治療が継続されていた70歳,女性の症例を提示する.右眼プリザーフロマイクロシャント(PreserFloMicroshunt:PMS)手術を施行し,経過が良好であったため,左眼にも同術式を施行した.手術は型通りに行い,チューブ後方をC10-0ナイロン糸で固定し,管腔内にはナイロン糸を挿入し流出を調整した.術後はレボフロキサシンC1.5%とベタメタゾン点眼をC1日C4回で開始した.術後C6日目にステントを抜去し,18日目に結膜縫合糸を除去した.その際に軽度のCSeidel陽性を認めたため,オフロキサシン眼軟膏眠前C1回を追加した.術後C25日目に結膜充血,膿性分泌,眼瞼腫脹が出現し,濾過胞の白色混濁とCSeidel陽性を認めた(図1~3)1).ベタメタゾン点眼を中止し,モキシフロキサシン点眼C2時間ごとを追加し,結膜分泌物を培養に提出した.2日後には濾過胞内の浸潤が拡大し,前房炎症を認めたため,バンコマイシン(1Cmg/0.1Cml)およびセフタジジム(2.25Cmg/0.1Cml)の前房内投与を行った.翌日には所見が改善したが,培養結果でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)が同定されたため,バンコマイシンC1%眼軟膏をC1日C6回,バンコマイシンC1g静注をC12時間ごとC4回,そのC24時間後に追加でC1回静注し,レボフロキサシン点眼C6回を併用した.炎症は改善したが,32日目にチューブ露出を認めたため(図4)1),同日にプリザーフロ抜去と強膜トンネル縫合,結膜前転による濾過胞再建を行った.術後はレボフロキサシン点眼とバンコマイシン眼軟膏を継続し,ベタメタゾン点眼液を再開した.これらの処方は漸減し終了した.2カ月後には結膜は完全に上皮化し,視力1.0,眼圧はC1剤点眼下でC16CmmHgと安定した.濾過胞感染(bleb-relatedinfection:BRI)は濾過手術に共通する合併症であり,PMSでも生じうる.PMSでは後方に厚い壁の濾過胞が形成されやすいが,術後早期の安定性は結膜閉鎖,点眼治療歴,マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)の作用などの影響を受ける.BRIの起炎菌は早期発症では常在菌が多く,主要菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(とくにCStaphylococcusCepi-dermidis)およびCStaphylococcusaureusである2).術後早期の微小漏出は菌侵入の契機となる.長期点眼歴は結膜およびCTenon.の線維化を招き創傷治癒に影響する.BRI治療は段階に応じた治療が基本である.PMS後のCBRIに対する標準化された治療指針は確立していないため,本症例では,従来のトラベクレクトミー後濾過胞感染の治療プロトコル3)を参考にした.MRSA同定後は局所および全身のバンコマイシン投与を併用したが,チューブ露出をきたしたため外科的治療を要した.MMCの作用や創傷治癒の遅延によりCearlyCblebCleak-ageが生じると,それが感染の成立に関与しうるとされている2).PMSの術後管理では,濾過胞形態や上皮化,漏出や炎症所見の有無を継続的に評価する必要がある.文献1)MienoCH,CUenoCM,CSotozonoC:Early-onsetCmethicillin-resistantCStaphylococcusCaureusCblebitisCfollowingCPRE-SERFLOTMCMicroShuntimplantation:Acasereport.Cure-usC17:e93967,C20252)RazeghinejadCMR,CHavensCSJ,CKatzLJ:TrabeculectomyCbleb-associatedCinfections.CSurvCOphthalmolC62:591-610,C20173)ShojiCN,CArakakiCY,CNakamotoCKCetal;CollaborativeCBleb-relatedCInfectionCIncidenceCandCTreatmentCStudyGroup:E.cacyCofCpredeterminedCtherapeuticCmeasuresCagainstCbleb-relatedCinfectionCinCtheCCollaborativeCBleb-relatedCInfectionCIncidenceCandCTreatmentCStudy.CActaCOphthalmolC96:e229-e236,C2018

総説:眼科の先生方にお伝えしたいGIP/GLP-1 dual agonistチルゼパチド

2026年6月30日 火曜日

あたらしい眼科43(6):653.658,2026c第30回日本糖尿病眼学会総会特別講演(内科)眼科の先生方にお伝えしたいGIP/GLP-1dualagonistチルゼパチドUnderstandingTirzepatide:Mechanism,Bene.ts,andClinicalApplication大西由希子*はじめに以下は第30回日本糖尿病眼学会総会特別講演2でお話しさせていただいた内容をまとめたものである.I朝日生命成人病研究所の紹介筆者の勤務する公益財団法人朝日生命成人病研究所は,朝日生命保険相互会社の創業70周年記念事業のひとつとして,社会福祉に貢献することを目的に1960年に設立された.その後,朝日生命糖尿病研究所の開設,成人病研究所との合併を経て,2011年以降は現在の中央区日本橋馬喰町の朝日生命ビル内で「医学研究と最適な診療で社会に貢献する」という理念と「一人ひとりの“生きる”を支え,健康寿命の延伸に寄与する」というビジョンのもと研究と診療を行っている.糖尿病を中心とする患者が毎月約3,000人受診する施設で,2023年医学会総会の会頭だった春日雅人所長のもと糖尿病内科,循環器内科,消化器内科の常勤医がいる.外来患者の8割以上が糖尿病患者という特殊な施設なので,非常勤だが眼科の先生に毎日糖尿病網膜症のスクリーニングおよび治療を手伝っている.そのおかげでほぼすべての糖尿病患者は眼底検査を定期的に受診することができる環境となっている.糖尿病患者は受付後に体重,血圧を測定したのち耳朶血にて血糖値とHbA1cを検査して,その日のデータをもとに糖尿病専門医が診療を行っている.また,当院に勤務しながら最先端の研究をされた先生がたが,全国で内分泌糖尿病代謝の大学教授としてご活躍されている.当院の診療の特徴のひとつに「学習入院」がある.「学習入院」とはいわゆる糖尿病教育入院である.当院ではおいしい糖尿病食の提供に力を入れている.恥ずかしながら筆者自身も朝日生命成人病研究所に就職するまでは「糖尿病食=まずい」と思っていた.しかし,当院の糖尿病食は出汁や香辛料などを駆使した丁寧な調理で患者からおいしいとの評価をいただいている.筆者も当直の際に検食するが,実際とてもおいしい.入院すると,糖尿病教室があり,午前1時間は医師が,午後1時間は看護師,栄養士,薬剤師,検査技師で糖尿病療養指導士の資格をもつスタッフが対面の糖尿病教室の授業を毎日行っている.また,2023年は病棟をリニューアルし,入院中に運動療法も実施してもらえるよう,運動マシンも3種類導入した.20代から80代までさまざまな世代の患者が安全に運動してもらえるように負荷を変更できる油圧式の運動機器もある.また,入院中にオンラインで仕事ができるようWi-Fiを整備するとともに簡素だがデスクワークスペースも設けた.学習入院をしてもらえると,糖尿病教室などを通じて糖尿病の病態,合併症,治療を理解できるようになるだけでなく,食事療法・運動療法を実践したりおいしい糖尿病食を食べたりといった生活習慣の改善に伴って血糖値も日々改善していくことも実感してもらえる.また,入院している患者同士の情報交換により,実体験に基づく病気との付き合い方を知ることで治療への取り組みも積極的になる患者が多い.*YukikoOnishi:朝日生命成人病研究所附属医院糖尿病内科〔別刷請求先〕大西由希子:〒103-0002東京都中央区日本橋馬喰町2-2-6朝日生命成人病研究所附属医院糖尿病内科0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(59)653図1糖尿病治療の目標(糖尿病ガイドラインより引用)II糖尿病治療の目標糖尿病治療の目的は,糖尿病のない人と変わらない寿命とCQOLをめざすことにある(図1).C1.寿命と併発かつて糖尿病患者は寿命がC10年短いといわれていた.その根拠となったのは日本糖尿病学会が定期的に実施している「糖尿病患者の死因に関するアンケート調査」と考えられる.2016年の同調査によると,糖尿病患者の平均死亡年齢は男性C71.4歳,女性C75.1歳だった1).当時の日本人C0歳平均余命は男性C79.6歳,女性C86.3歳だったため,その差はたしかに約C10年となる.しかし,これは直接比較できる指標ではない.はたして糖尿病患者は本当に寿命が短いのだろうか.別の調査では日本人のC40歳平均余命は非糖尿病患者と糖尿病患者それぞれで男性はC41年とC32年,女性はC48年とC41年でやはりC7.9年差があると報告している2).では糖尿病患者の死因のC1位はというと悪性新生物,つまり癌である.厚生労働省の疾患基礎調査「NIPPONDATA80」によると,糖尿病があると大腸癌,肝臓癌,膵臓癌,胆管癌のリスクが約C1.5.2倍という報告がある2).したがって,糖尿病患者の主治医は血糖,血圧,脂質,体重のマネージメントや禁煙指導にとどまらず,がん検診の受診を促すことで悪性腫瘍を早期発見早期治療して死因にしないことが大事である.一般的ながん検診にとどまらず,腹部エコーなどでハイリスクとされる膵.胞や脂肪肝などのフォローにも配慮した診療が必要である.私見だが,糖尿病は一病息災という言葉にふさわしい疾患だと思う.1.2カ月に一度,定期的に糖尿病外来に通院していると「そういえば,がん検診受けましたか?」などと主治医からリマインドされたり,少し体調不良があるときにすぐに主治医に相談できたりして,いろいろな糖尿病以外の病気の早期発見早期治療につながると思われる.当院の糖尿病患者の死亡年齢を調べたC2020年の研究報告では,40歳平均余命が男性C39年,女性C44年であり,糖尿病のない人と数年しか差がなかった3).さらに今年発表されたばかりの最新の糖尿病の死因に関する日本糖尿病学会の報告によると,糖尿病患者の平均死亡年齢は前回調査から男性でC3.0年,女性でC2.2年高くなり,その伸びはC0歳平均余命の伸びよりも長くなっている.さらに非糖尿病患者の死亡年齢も同時に調査したところ,主たる死因では糖尿病があってもなくても死亡年齢は差がないことが報告された4).つまり糖尿病合併症が糖尿病患者の寿命を短縮しているとは限らないとも解釈できる.C2.スティグマもうひとつ,日本糖尿病学会の最近の取り組みをご紹介したい.それは糖尿病患者のスティグマについてである.スティグマとは特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」とも訳され,誤った知識や情報が拡散することにより,対象となったものが精神的・物理的に困難な状況に陥ることをさす4).糖尿病患者のスティグマは精神的苦痛であるのみならず,血糖マネージメントにも影響することを筆者らは報告している5,6).したがって,糖尿病のある人が良好に血糖マネージメントをしつつ,糖尿病のない人と同じCQOLを得るにはスティグマをもたない正しい病気の理解が必要,ということである.そのためには日本糖尿病眼学会や日本糖尿病学会,日本糖尿病協会などが一丸となってアドボカシー活動を展開していくことが重要である.当院でも少しでも糖尿病患者のスティグマが減るようにと,教育入院から学習入院,栄養指導から栄養相談,といった言葉の見直しを進めている.以上述べたように,糖尿病診療では悪性疾患をはじめとする糖尿病併存症やスティグマを考慮した診療がとても大切である一方,食事運動療法とともに薬物療法は多くの患者で欠かせないものである.CIIIGLP-1受容体作動薬当院では糖尿病治療薬の開発に長くかかわってきた.現在広く使われているCDPP-4阻害薬,SGLT2阻害薬,速効性インスリン分泌促進薬,チアゾリジン薬,GLP-1受容体作動薬やインスリンアナログ製剤など糖尿病治療薬の治験を実施するとともに,糖尿病神経障害や肥満症の臨床試験にも参加してきた.そのなかでも血糖値依存的にインスリン分泌を促すインクレチンの作用を活かしたCDPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬はC2型糖尿病の治療を大きく変えた.なかでも低血糖を起こさず強力な血糖降下作用をもつCGLP-1受容体作動薬は画期的な注射薬として登場した.1.GLP-受容体作動薬の開発インクレチンのひとつであるCGLP-1は食事摂取に伴い小腸から分泌され,血糖値依存的にインスリン分泌を促すとともに食欲を抑制する作用がある.ただし,半減期は短い.そこでその半減期が長くなるように開発されたのがCGLP-1アナログ製剤である.GLP-1の生理的作用をはるかに上回る濃度と作用時間を実現することにより,血糖降下作用のみならず,食欲抑制作用も期待できる.そのため,当初は糖尿病治療薬として開発されたが,食欲抑制作用を利用した肥満症治療薬としての開発が進んだ.現在はセマグルチドが肥満症の治療薬として日本でも承認されている.GLP-1受容体作動薬はペプチド製剤であるため注射治療であったが,sodiumCN-[8-(2-hydroxybenzoyl)Caminocaprylate]通称CSNACとよばれる吸収促進剤とセマグルチドを配合することによって経口投与が可能となった.注射薬が経口薬になったことは画期的で,注射治療に対して強い抵抗を感じる患者には福音となった.しかし,経口セマグルチドの服薬には注意が必要で,起床後すぐなどの空腹状態でコップ半分くらいの水で服用し,その後C30分以上経過し薬剤の吸収を待ってから食事をしなければ薬剤有効性が落ちてしまう.実際の診療では,毎朝上記のような制限があるよりは週C1回の注射のほうがよい,という選択をする患者もいる.このように発売当初,毎日C1.2回注射することが必要だったGLP-1受容体作動薬が今は週C1回の注射,あるいは毎日の内服など投与頻度や投与経路の選択肢が広くなった.C2.非ペプチドGLP-1受容体作動薬の開発さらに,まだ治験の段階だが,非ペプチドCGLP-1受容体作動薬の開発も進んでいる.ペプチドではないことにより,注射投与の必要もなく,また経口セマグルチドのような服薬制限もなく一般的な経口薬と同じようにして服薬すればよい.なかでもCorforglipronは中外製薬が創薬しイーライリリーが開発を継承し日本でもすでに第Ⅲ相試験が行われている.その血糖降下作用や体重減少効果は注射薬に劣らないことが第CIb相試験から明らかにされている7).CIVGIP/GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬の開発とともに,もうひとつの(%)ベースラインからの平均変化量0.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0-3.5-4.00412244052(週)全体集団ベースライン時の平均HbA1c:8.18%*********************************-2.37*********-2.82主要評価項目-1.29***-2.55期間チルゼパチド5mg群(n=158)チルゼパチド10mg群(n=156)チルゼパチド15mg群(n=159)デュラグルチド0.75mg群(n=159)図2HbA1cのベースラインから投与52週間の変化量の推移[副次評価項目]インクレチンであるCGIPとCGLP-1両方の受容体に作用する薬剤の開発も進んだ.それが今回の特別講演の依頼があったCGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドである.チルゼパチドはCGIP受容体への作用を主としながらもGLP-1受容体にも作用するCdualagonistである.その臨床成績は以下に述べるように,まるでCGLP-1受容体作動薬であるかのようだが,主たる刺激はCGIP受容体とされているのでCGLP-1受容体作動薬とは異なる種類の薬剤と考える.生理的濃度では肥満やインスリン抵抗性を誘導されるとされていたCGIPだが,薬理学的濃度になると肥満やインスリン抵抗性を逆に軽減することがわかり,糖尿病治療薬および肥満治療薬として期待されるようになった.現在は糖尿病治療薬として承認されている.C1.チルゼパチドの用量・用法チルゼパチドの維持用量は週C1回C5Cmg皮下注だが,処方開始の際には週C1回C2.5Cmgから開始し,4週間投与したのち,週C1回C5Cmgに増量する.効果や副作用によって適宜増減するが,週C1回C5Cmgで効果不十分な場合は,4週間以上の間隔でC2.5Cmgずつ増量し,最大用量は週C1回C15Cmgまで増量することができる.注射デバイスはC1回使い切りで,針の付けはずしがなく簡便で(文献C8より改変引用)ある.C2.チルゼパチドの国内臨床試験SURPASSJ-mono試験は,日本人成人C2型糖尿病患者へのチルゼパチド単独療法の有効性と安全性を評価する試験である8).被験者C636例を対象に,チルゼパチド5Cmg,10Cmg,またはC15Cmgを週C1回投与したときの対照薬デュラグルチドC0.75Cmg投与に対する優越性を評価した国内第Ⅲ相試験である.主要評価項目は,HbA1cのベースラインから投与C52週時までの平均変化量で,このほかに副次評価項目として,体重および空腹時血糖値などを評価している.主要評価項目であるCHbA1cのベースラインからの変化量はチルゼパチドC5Cmg/週では平均C2.4%,10Cmg/週ではC2.6%,15Cmg/週ではC2.8%と,いずれもデュラグルチドの平均C1.3%よりも有意に低下した(図2).これは,他のインクレチン関連薬であるCDPP-4阻害薬やCGLP-1受容体作動薬の臨床試験成績を上回る血糖降下作用であった.また,副次的評価項目のCHbA1c7%未満の達成率は対照薬のデュラグルチドでC67%だったのに対し,5Cmg/週ではC94%,10Cmg/週でC97%,15Cmg/週ではC99%とすべての群で達成率が9割以上となった.この成績から,実施には維持用量の5Cmgでほとんどの人の血糖マネージメントができるのベースラインからの平均変化量(kg)20-2-4-6-8-10-12チルゼパチド5mg群(n=158)チルゼパチド10mg群(n=156)チルゼパチド15mg群(n=159)デュラグルチド0.75mg群(n=159)図3体重のベースラインから投与52週間の変化量の推移[副次評価項目]ではないかと思われる.同じく副次的評価項目の体重のベースラインからの変化量はC5mg/週ではC5.8kg,10mg/週でC8.5kg,15mg/週ではC10.7kg減少し(図3),用量依存的に体重が変化している.しかし,現時点ではこの薬剤はC2型糖尿病の治療薬であって,肥満症の治療薬ではないことを忘れてはならない(補足:2026年現在はチルゼパチドも肥満症治療薬として承認されている).チルゼパチドをはじめとするインクレチン受容体作動薬は,処方を開始する際,漸増することが大切である.それでもC1.2割に悪心,便秘,食欲減退や下痢などの消化器症状が出る.はじめてインクレチン関連薬を処方する際には,チルゼパチドに限らずCGLP-1受容体作動薬も含め,患者に作用と副作用の両方を説明することが大事である.C3.チルゼパチドの適用外使用の問題チルゼパチドは大きな期待のもと日本でも発売が開始されたが,発売直後から出荷調整されるという異例の事態となった.自費診療で痩身などを目的に糖尿病ではない人が使っているといわれている.また,最少用量の2.5Cmgから順次増量していくはずであるのに最大用量のC15Cmgが発売直後に市場からなくなるという想定外の異常事態となった.糖尿病治療薬が本来の糖尿病患者に処方できない事態は非常に残念であった.救急外来に(文献C8より改変引用)悪心・嘔吐を理由に受診した患者が痩身目的で最初から高用量のCGLP-1受容体作動薬やチルゼパチドを処方されていた,といった話も聞く.適用外使用により適応疾患の患者の治療ができないだけでなく,新たな病人を生み出しているというのは問題である.おわりに糖尿病内科は糖尿病患者の合併症の早期発見早期治療のために,眼科(糖尿病網膜症)をはじめとして腎臓内科(糖尿病腎症),循環器内科(冠動脈疾患),神経内科(糖尿病神経障害,認知症),消化器内科(脂肪肝,膵.胞)との連携がとても大切である.また,看護師,栄養士,運動療法士,薬剤師,検査技師などコメディカルとともにチームで診療をしている.これからも患者を中心とする医療チームが一丸となって,糖尿病があってもなくても皆が元気に長生きできるように診療していきたいと考えている.文献1)中村二郎,神谷英紀,羽田勝計ほか:糖尿病の死因に関する委員会報告─アンケート調査による日本人糖尿病の死因─C2001.2010年のC10年間,45,708名での検討.糖尿病C59:667-684,C20162)TurinTC,MurakamiY,MiuraKetal:DiabetesandlifeexpectancyCamongCJapaneseC-NIPPONCDATA80.CDiabe-tesResClinPractC96:e18-e22,C20123)GotoCA,CTakaoCT,CYoshidaCYCetal:CausesCofCdeathCandCestimatedClifeCexpectancyCamongCpeopleCwithCdiabetes:CaCretrospectiveCcohortCstudyCinCaCdiabetesCclinic.CJCDiabetesCInvestigC11:52-54,C20204)中村二郎,吉岡吉成,片桐秀樹ほか:アンケート調査による日本人糖尿病の死因─C2011.2020年のC10年間,68,555名での検討.糖尿病C67:106-128,C20245)HamanoS,OnishiY,YoshidaYetal:Associationofself-stigmaCwithCglycatedChemoglobin:CaCsingle-center,Ccross-sectionalCstudyCofCadultsCwithCtypeC1CdiabetesCinCJapan.CJDiabetesInvestigC14:479-485,C20236)KatoCA,CFujimakiCY,CFujimoriCSCetal:HowCself-stigmaCa.ectsCpatientCactivationCinCpersonsCwithCtypeC2Cdiabetes:Cacross-sectionalstudy.BMJOpenC10:e034757,C20207)PrattE,MaX,LiuRetal:Orforglipron(LY3502970)C,anovel,CoralCnon-peptideCglucagon-likeCpeptide-1CreceptorCagonist:CaCphaseC1a,Cblinded,Cplacebo-controlled,Crandom-ized,single-andmultiple-ascending-dosestudyinhealthyCparticipants.DiabetesObesMetabC25:2634-2641,C20238)InagakiN,TakeuchiM,OuraTetal:E.cacyandsafetyofCtirzepatideCmonotherapyCcomparedCwithCdulaglutideCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2diabetes(SURPASSJ-mono):adouble-blind,multicentre,randomised,phase3trial.LancetDiabetesEndocrinolC10:623-633,C2022

国内未承認老視矯正眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

国内未承認老視矯正眼内レンズTheEvolutionofPresbyopia-CorrectingIntraocularLensesinJapan:ClinicalRationaleandSelectionStrategiesforUnapprovedAdvancedIOLs秦誠一郎*はじめに白内障手術は,眼科領域でもっとも頻繁に行われる手術の一つであり,その術後視機能の質は,挿入される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の性能に大きく左右される.IOLの進化はめざましく,単焦点から多焦点,焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF),高度な乱視矯正機能をもつモデルまで,多様な患者ニーズに応える製品が世界中で開発されている.しかし日本では,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)に基づく承認を受けたIOLに限定して使用が許されているため,臨床現場では,患者の視機能に対する高い要求や,承認レンズでは対応できない特殊な症例に直面した際に,医師の裁量と責任において,個人輸入による未承認IOLを選択せざるを得ないケースが一定数存在する.本稿では,日本における未承認IOLの使用実態について,医学的な必要性,制度的な制約,具体的なレンズの種類と特徴,そして医療機関が直面する倫理的・法的課題に焦点をあて考察する.I未承認IOLが用いられる制度的・医学的背景1.薬事承認制度と医療保険制度未承認IOLに関する問題は,日本の薬事承認制度と医療保険制度が複合的に関与する構造に起因する.薬機法に基づく承認は安全性・有効性を担保するため厳格であり,一定の時間とコストを要するが,これは米国の米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)や欧州医療機器規則(medicaldeviceregula-tion:MDR)においても同様であり,日本のみが特異的に遅いわけではない.一方で,日本市場の規模や経済的インセンティブの問題から,海外メーカーが一部製品の申請を見送る傾向があり,とくに多焦点IOLやトーリックIOLなどの高付加価値製品で顕著である.さらに,日本の白内障手術はレンズ代が手術費用に含まれるため,企業側の新規デバイス導入インセンティブは相対的に低い.2020年に導入された選定療養制度は,多焦点IOLにおいて患者負担と保険診療の両立をはかるものであるが,対象は承認レンズに限定されており,未承認IOLの課題を解決するものではない.このように,日本の制度は安全性と公平性を重視する一方で,治療選択肢の多様性や新規デバイス導入の迅速性に制約を有する.一方で,医学的観点から未承認IOLが必要となる患者も存在する.すなわち,極端な眼軸長や強度乱視により承認レンズの度数範囲を超える患者,角膜不正乱視や外傷眼など通常の光学設計では対応困難な患者,さらに既存IOLの屈折誤差補正や機能追加を目的としたAdd-onIOLの適応患者である.これらの場合,承認レンズのみでは十分な視機能を達成できず,未承認IOLが合理的な選択肢となりうる.*SeiichiroHata:スカイビル眼科〔別刷請求先〕秦誠一郎:〒220-0011神奈川県横浜市西区高島2-19-12スカイビル9Fスカイビル眼科(1)(51)6450910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1多焦点IPCLによるAdd-on前眼部OCT画像表1各レンズの製造範囲の比較レンズ名球面(S)乱視(C)おもな特徴RayOneGalaxy+6.+30+0.75.+4.5spiralAI設計IC-8+10.+30―1.5Dまで乱視耐性IntensitySL+5.+34+1.+4.5trifocal+二つのintensifer焦点Opti.exXtense+7.+30(6.5,30.5.40カスタム対応で製造可能)+1.+6(6.75.15.0カスタム対応で製造可能)屈折型EDOFEVOLVE.5.+30+1.0D.+15.0D広い度数レンジ+高シリンダー対応ATLISAtri.5.+35+1.+12高乱視特注可能ATELANA0.+34―疎水性trifocal/smoothmicrophase(SMP)MiniWELL/MiniWELLPROXA+10.+30+1.0.+10.0Daberration-modulatedopticaldesign図2RayOneGalaxy中央にスパイラル構造を認める.図3IC8老視矯正用リングをCIOL光学部中央に入れたレンズである.ピンホール効果で遠方の見え方を損なうことなく,連続視域を実現している.図4IntensitySL4loop,Plate,CloopのC3種類のハプティックスをもつ.Cloop以外はセミプリセット型のインジェクターを使用しており,レンズに触れずに眼内への挿入が可能である.また最近,疎水性アクリル素材を採用したプリセット型のCIntensityHPの供給も開始された.図5Opti.exXtenseComfortPlus疎水性アクリル素材のCC-loopplatformを採用している.abFARvisionzoneEDOFzone図7ATELANA&ATLISAtriATCELANA841(Ca)は疎水性アクリル素材でCC-loopplatform,CATCLISAtri(Cb)は親水性アクリル素材の表面に疎水性加工がさ図6EVOLVEれたCplateplatformを採用している.素材は親水性アクリル素材C4loopデザイン,5°のハプティクスアングルを採用している.長径はC11.2.11.8Cmmまで度数により異なる.中央約C1.7Cmmに特殊光学ゾーンをもち,周辺部は遠方単焦点設計となっている.C-図8MiniWELLとMiniWELLPROXAMiniWELLはC3ゾーン,MiniWELLPROXAはC5ゾーンが組み込まれており,2レンズを組み合わせることで広い焦点距離を実現している.´C

トーリック眼内レンズによる乱視矯正の臨床的意義と実際

2026年6月30日 火曜日

トーリック眼内レンズによる乱視矯正の臨床的意義と実際AstigmatismCorrectionwithToricIntraocularLenses:ClinicalSignificanceandPracticalConsiderations中野伸一郎*はじめに白内障手術は近年,単に混濁した水晶体を摘出する手術から,術後の屈折状態を最適化する屈折矯正手術としての側面を強くもつようになっている.術後裸眼視力を最大化するためには,球面度数だけでなく乱視成分の適切な補正が重要である.実際に白内障手術患者の多くは術前から角膜乱視を有しており,術後に乱視が残存した場合には裸眼視力や視機能に影響を及ぼす可能性がある.トーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は,白内障手術と同時に角膜乱視を矯正することができる方法として広く普及している.角膜切開による乱視矯正や術後の眼鏡矯正とは異なり,眼内で乱視を補正できる点が特徴であり,術後裸眼視機能の向上に寄与する.本稿では,トーリックIOLの臨床的意義,矯正戦略,さらに使用時の注意点について文献的考察を交えて概説する.I角膜乱視と白内障手術白内障手術患者の多くは角膜乱視を有している.過去の報告では,白内障手術症例の約40%が1.0D以上の角膜乱視を有するとされており.1),乱視矯正は術後視機能を左右する重要な要素である.残余乱視がわずかであっても視機能に影響を及ぼす可能性が指摘されている.Schallhornらは,0.25~0.50Dの残余乱視が存在する場合,術後裸眼視力が1.0未満となる確率が約1.7~1.9倍に増加することを報告している.2).また,多焦点IOLでは残余乱視が0.25D以上存在する場合,あるいはレンズ軸ずれが5°以上生じた場合に視機能が有意に低下することが示されている.3).このような知見から,近年では白内障手術において乱視を可能な限り矯正することが重要と考えられるようになっている.IIトーリックIOLの原理トーリックIOLはレンズの直交する二つの主経線に異なる屈折力をもたせることで乱視を補正する構造を有する.すなわち,角膜乱視と反対方向の円柱成分をIOLにもたせることで角膜乱視を中和する.これは眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL),エキシマレーザーによる乱視矯正とは原理が異なる.眼鏡やレーザーでは強主経線(屈折力が強い軸)の同軸方向に負の円柱レンズを付加して乱視を補正する(+に対して―で打ち消す)のに対し,トーリックIOLではレンズ自体の円柱レンズにより,弱主経線(屈折力が弱い軸)に正の円柱レンズを付加する(―に対して+で打ち消す)よって乱視を補正する(図1).この方法の利点は,角膜組織を切開したり形状を変化させたりすることなく乱視を補正できる点である.角膜切開による乱視矯正(limbalrelaxingincisionなど)は術後効果の予測性や長期安定性に課題があることが知られているが,トーリックIOLではレンズ度数そのもの.*ShinichiroNakano:龍ケ崎済生会病院眼科〔別刷請求先〕中野伸一郎:〒301-0854茨城県龍ケ崎市中里1-1龍ケ崎済生会病院眼科(1)(43)6370910-1810/26/\100/頁/JCOPYab図1乱視矯正法の違いa:トーリック眼内レンズ.b:眼鏡,CL,エキシマレーザー.トーリック眼内レンズが直交する軸に正の度数を付加する(a)のに対して眼鏡,CL,エキシマレーザーは同軸に負のレンズを付加する(b).凹凸のある土地を平坦にするとき,トーリック眼内レンズは周囲を嵩上げして,眼鏡,CL,エキシマレーザーは盛り上がりを削って平らにするのと同じである.(D)男性女性残余乱視1.251.000.750.7560708090(歳)完全矯正1モデル弱矯正2モデル弱矯正図2完全矯正か低矯正か倒乱視化は50歳以降で0.025D4).完全矯正でも問題が起こる前に平均寿命を迎える.術前測定術中・角膜形状の評価・惹起乱視の把握・マーキング/軸あわせ・回旋予防>術後成績向上の鍵図3トーリックIOL術後精度に影響する要因トーリックIOL術後エラーはおもに術前角膜乱視計測,つぎに軸ずれ,最後に傾斜である5).%ofEyesab(%)AS-OCTrealpower98%100%(%)SimulatedBarrett100%10097%10086%86%86%79%8078%86%72%72%8069%71%60%606045%404020200%0%00.0.25D.0.50D.0.75D.1.00D.1.50D.2.00D.0.25D.0.50D.0.75D.1.00D.1.50D.2.00DPreoperativeCornealAstigmatismPostoperativeRefracticeAstigmatism図4角膜後面実測は不要かa:角膜後面実測値あり.Cb:角膜後面実測値なし.CASIAリアルパワー実測とCBarrettカリキュレーターは同程度に術後乱視を軽減する(p<C.0001C0.01MannCWhitneyCUtest).新しい計算式を用いればオートレフケラトメータのみでもよい成績は得られる(中野,ESCRS2019)C.C~表1各社単焦点トーリック眼内レンズの比較(2026年6月現在)アルコンCClareonCToricCCNWTCAMOCTECNISCOptiblueCtoricCIICZCWCDIWCHOYACVivinexCToricCXY1ATCXY1EMTコーワCAvanseeCToricCYP-TニデックCNex-LoadCNPCToricCNP-T参天製薬CLentisCcomfortCtoricCLS-313MF15T光学部材質疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型親水性アクリル,疎水表面加工,プレート型サイズ光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部C6Cmm全長C11Cmm円柱加入度数(眼内レンズ面)+1.50~+6.00D+1.5~+3.75D+1.50~+4.50D+1.50~+6.00D+1.50~+4.50D+1.50~+4.50Dトーリックマーカーの位置円柱軸上,3点円柱軸上,3点円柱軸上,3点円柱軸上,楕円状C2点円柱軸上,2点円柱軸上,線状球面度数範囲(D)+6~+30(0C.5D)+6~+30(0C.5D)+10~+30(0C.5D)+6~+30(0C.5D)+1(T3)+2(T4~T6)+3(T7)~+30(0C.5/1.0D)+10~+30(0C.5D)特徴・円柱度数バリエーションが多い・プリセット型/ワゴンホイール型両方・プリセット型・支持部粗面加工による軸ずれ耐性大・高次非球面型もあり・プリセット型・支持部粗面加工あり・強化型単焦点もあり・プリセット型・円柱軸が支持部とC60°ずれて設定・プリセット型・支持部粗面加工あり・球面度数にClowC-powerの設定あり・プレート型・クリアレンズ・低加入度数CEDOF様(D)1.5遠方裸眼視力1D-3M-0.210.5-0.10.10.20.301D1W1M3M術前1D1W1M3MN.S.Steel=DwasstestN.S.Steel=Dwasstest自験例:unpublisheddata自験例:unpublisheddata軸ずれ3M)°(6*5.034*3.001.441.581.7221.080.800BVIJ&JAlconNIDEKKOWASANTENLENTISpodeyeEyhanceClareonNP-TYP-TLENTIS(大回旋なし)*p<0.01Steel=Dwasstest自験例:unpublisheddata図5筆者施設における最近の各社単焦点トーリックIOLの術後成績+デジタルガイダンス,波面解析装置+角膜形状解析装置レフケラトのみ・正乱視≧1D・散瞳良好,重篤な網膜疾患なし・正乱視≧0.75D,3D≧・不正乱視混在・円錐角膜・多焦点トーリック図6適応拡大のステップいきなり難症例にチャレンジせず,機材の充実度,技能の習熟度に応じ適応範囲を広げていく.ab図7角膜乱視量の大小によるcornealmapの違い角膜乱視量の大きいマップCA(Ca)はCbowtie型の典型的な倒乱視の所見を示しているのに対し,角膜乱視量の小さいマップCB(Cb)は乱視軸がわかりづらいことに注目.–

単焦点眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

単焦点眼内レンズMonofocalIntraocularLens根岸一乃*はじめに近年,老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が広く臨床に導入されている.これらは,白内障手術後の遠方・中間・近方の視機能を改善し,術後の眼鏡依存を軽減することを目的として開発されてきた.現時点で若年者の水晶体を完全に再現する視機能は実現できないものの,近年は光学設計の改良が著しく,現在使用されている老視矯正CIOLは良好かつ安定した臨床成績を示している.1).しかし,そのような進歩にもかかわらず,「自分の眼にCIOLを挿入するなら単焦点CIOLを選択する」と考える眼科医は少なくないと推察される.筆者自身もその一人である.本稿では,代表的な老視矯正CIOLの光学的特性および臨床的課題を整理し,自分の眼に単焦点CIOLを選択する理由について,光学原理,neuroadaptation(神経適応,後述),満足度,そして長期的視機能という観点から考察する.なお近年,ヨーロッパ(とくにCISO・ESCRSなど)を中心にCpresbyopia-correctingCIOLの用語を整理する動きがあり,2024年のCISO規格改訂(ISO11979-7)で老視矯正CIOLの上位概念としてCsimultaneousCvisionIOLというカテゴリーが定義され,その下位のカテゴリーとして,multifocalIOL,extendedCdepthCofCfocusIOL,fullCvisualCrangeIOLが位置づけられている.国内では普及していないため,本稿では「多焦点IOL」という従来的な用語で記述する.CI多焦点IOLの光学原理と視覚的トレードオフ白内障手術で挿入されるCIOLは,理想的には遠方から近方まであらゆる距離において良好な裸眼視機能を提供することが望ましい.しかし,この目標を実現しようとすると,光学および物理学の原理により,視覚の質には一定のトレードオフが生じる.1).多焦点CIOLは,遠方・中間・近方といった複数距離の視機能を得るため,レンズ表面に回折あるいは屈折構造を設けて複数の焦点を形成する設計となっている.1).しかし,このような光学構造は不可避的に光学的副作用・視機能低下を生じさせる.そのもっとも代表的なものが,コントラスト感度低下とグレア・ハロー・スターバーストなどの不快な光視症である.多焦点CIOLは,網膜上に複数の像が同時に形成される同時視(simultaneousvision)であり.1),それが上記の原因である.すなわち,多焦点CIOLでは入射光が複数の焦点を形成するため,遠方像と近方像が同時に網膜上に存在する.そのため遠方像にピントがあっている場合でも,同時に近方物体のぼやけた像が存在する.この像の分離の程度は主にレンズの加入度数によって決定される.1).単焦点CIOLでは入射光エネルギーの大部分が単一の焦点に集中するため,高いコントラストをもつ像が形成される.これに対し,多焦点CIOLでは光エネルギーが.*KazunoNegishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕根岸一乃:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室(1)(39)C6330910-1810/26/\100/頁/JCOPY複数の焦点に分散されるため,それぞれの焦点に集まるエネルギーは減少し,像の鮮明さが低下する可能性がある.1).また,多焦点CIOLの設計によっては光エネルギーの一部が中心焦点に集中し,残りが周囲に分散する場合がある.この場合,中心の像は比較的鮮明である一方,周囲に分散した光が像の周囲に輪状の光を生じさせ,ハローとして知覚されることがある.1).このように,多焦点CIOLは広い視距離を提供する一方で,光学原理に由来する視覚的トレードオフを伴う.視覚の鮮明さやコントラスト,夜間視といった視覚品質を重視する立場からは,この点はCIOL選択を考えるうえで重要な要素となる.CIINeuroadaptation多焦点CIOLでは,コントラスト感度低下やハローなどの光学現象が生じることがあるが,脳が新しい視覚入力に順応し,焦点外の光によるぼやけを抑制し,日常生活で支障なく視覚を利用できるようになる過程はCneu-roadaptationとよばれる.1).多くの患者では時間とともに新しい視覚入力に適応するが,満足できる視覚に到達するまでの期間には大きな個人差がある.1).Neuroadaptationは神経系の可塑性だけでなく,網膜像の質にも影響される.高次収差が存在すると視覚の質が低下し,neuroadaptationに要する時間が長くなる可能性がある.1).高齢者に多いドライアイも高次収差増加の原因となりうる.さらに,neuroadaptationは術前の視覚状態にも影響される.進行した白内障症例では術後に光透過が改善するためCIOL由来の光学現象は相対的に目立ちにくく,比較的容易に適応が起こる.一方,屈折矯正目的の水晶体摘出術(refractiveClensexchange:RLE)では術後に新たな光学現象が顕著に知覚されるため,neuroadapta-tionがより困難になる可能性がある.1).このように多焦点CIOL挿入眼の視機能にはCneuroad-aptationが大きく関与しており,術後視機能は個人差が大きく予測がむずかしい.術後視機能の予測性と安定性を重視する場合,この点はCIOL選択を考えるうえで重要な要素である.III術後の眼鏡依存と患者満足度多焦点CIOLを選択するおもな目的の一つは術後の眼鏡依存を減らすことである.しかし,眼鏡を使用すること自体が必ずしも患者満足度の低下につながるとは限らない.実際,白内障手術後の患者報告アウトカムを検討した研究では,術後の視覚満足度は必ずしも眼鏡装用の有無だけで決まるものではなく,視覚の鮮明さや光学的副作用などの要因が大きく関与することが示されている.2).すなわち,術後に眼鏡が必要であったとしても,視覚の質が良好であれば患者満足度は高く維持される可能性がある.眼鏡使用に関する患者の認容性が高い場合は,多焦点CIOLは必ずしも第一選択とはいえない.なお,単焦点CIOLに分類されるCenhancedCmonofocalCIOLは,視覚の質を落とさずに焦点深度を延長させて中間視力を向上させるとの報告もあるが.3),その効果は年齢によって異なる可能性がある.4)ことや,近用眼鏡の必要性において通常の単焦点CIOLとの差別化が明確にできないことから,筆者自身は積極的には使用していないし,現状においては自身の眼に使用する予定はない.CIV術後変化への対応長寿社会においては,白内障手術後の視機能を長期的な視点で考えることが重要である.白内障手術後の長期屈折変化では球面度数は安定しているが,角膜の加齢変化により切開位置に関係なく,倒乱視が徐々に起こる5,6).多焦点CIOLは単焦点CIOLと比較するとわずかな屈折変化でも視機能が低下し,長期的には再び眼鏡が必要となる場合もある.また,加齢とともに緑内障,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などの眼疾患の罹患率は増加する.これらの疾患によって網膜機能が低下した場合,多焦点IOLでは視機能低下がより顕著になる可能性がある1).一方で,単焦点CIOLは光を単一焦点に集める単純な光学設計であるため,網膜機能が低下した状況でも比較的良好な視機能を維持しやすいと考えられる.また,将来的に硝子体手術が必要となる可能性も考慮する必要がある.多焦点CIOLでは回折構造などの影響により術中の634あたらしい眼科Vol.C43,No.6,2026(40)表1単焦点IOLと多焦点IOLの臨床的特徴の比較項目単焦点CIOL多焦点CIOL光学設計単一焦点複数焦点網膜像単一像同時視(simultaneousvision)コントラスト感度高い低下する可能性あり光視症(グレア・ハロー)少ない単焦点と同様.多いCneuroadaptationほぼ不要個人差が大きい術後眼鏡依存必要な場合が多い低減可能屈折変化への耐性比較的高い低い場合がある網膜疾患の影響比較的少ない視機能低下が顕在化しやすい硝子体手術時の視認性良好低下する可能性あり