加齢黄斑変性の予防PreventionofAge-RelatedMadcularDegeneration安川力*はじめに21世紀に入って光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場し,2008年以降には抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射(抗VEGF治療)が国内で承認され,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の視力予後は大きく改善した.その後,OCTの解像度が改善され,広角眼底カメラや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)も登場して画像診断の精度が向上した.そしてパキコロイド疾患という概念が登場し,病態理解も進んでいる.抗VEGF薬の種類も増え,最適な薬剤の使い分けや維持期の治療方法に関するエビデンスも蓄積してきた.そのような背景で2008年の「加齢黄斑変性の分類と診断基準」1)と2012年の「加齢黄斑変性の治療指針」2)を刷新して2024年9月の日眼会誌に「新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン」が報告された3).おもな改訂点として,①滲出型AMDを新生血管型AMDとよぶこととするなど用語体系の変更,②パキコロイド疾患の追加,③パキコロイド疾患なども考慮して診断基準の「50歳以上」の文言を削除,④前駆病変,滲出型,萎縮型としていたが時系列的な変化を意識できるよう早期,中期,後期,末期という病期分類を導入,などである.2012年のガイドラインでは,前駆病変や治療法のない萎縮型には「ライフスタイルと生活の改善やAge-ReratedEyeDiseaseStudy(AREDS)に基づくサプリメント摂取」が推奨される一方,滲出型AMDを発症した眼の僚眼の発症予防についての記載がなかったため2),医師が患者への予防の重要性の説明を怠ってしまう問題があった.そこで,新ガイドラインにおいては,病期分類を設定して,初期から末期に至るなかで僚眼の発症予防を徹底することの重要性が示されている2).企業主催の講演会や学会でさえ,治療眼に関する治療方針や治療後数年の治療効果に関する発表がほとんどであるが,依然としてAMDは視覚障害の原因疾患の第4位にあり4),超高齢社会においてAMDによる視覚障害から高齢者を守るために,予防医学にもっと目を向ける必要がある.I抗VEGF治療の限界現在では抗VEGF治療により,新生血管型AMDの多くの患者において,長期間の視力改善・維持が可能となった.一方で,抗VEGF治療の課題も浮き彫りとなってきている.まず,漿液性,出血性,線維血管性の網膜色素上皮.離(pigmentepithelialdetachment:PED)を随伴する症例など治療に抵抗する患者が存在する.また,約半数の患者は易再発性で治療が長期におよぶ.このような患者では,黄斑萎縮か線維性瘢痕の形成により徐々に視力低下に至ることも多い5).その他,実臨床において高齢者疾患であるために,脳梗塞の既往で抗VEGF治療を控えたい患者,全身疾患の治療や入院により眼科への通院・加療の継続が困難な症例,抗VEGF治療の高額医療費に関連して治療を拒む患者な*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(71)71図2RPEの生理機能とAMDの病態仮説RPEは光線曝露環境下で視細胞外節が変性していくため,①古い外節先端部を定常的に貪食し,外節は内節側から新生する.②貪食した外節が含有するレチノイド(ビタミンCA)はリサイクルされる.③細胞膜由来の脂質はリポタンパク質として脈絡膜側へ放出される.④同時にCVEGFが分泌され,脈絡膜毛細血管を構築・保持する.しかし加齢変化として,生直後よりCRPE内に変性した物質がリポフスチンとして蓄積し,30代からCRPE下にリポ蛋白質や老廃物が沈着する.Bruch膜のCVEGFの透過率低下でCVEGFの発現が亢進し,沈着脂質は過酸化脂質となりフリーラジカルを生じる.沈着物排除のための補体活性化やマクロファージの影響によりCRPEの傷害とCVEGFの動態変化が関与して,その組み合わせでCAMDの病型が決定すると考えられる.(文献C10から改変引用)化)10).リポフスチンが生後まもなく頭頂部側から蓄積しはじめ,基底部側まで細胞質を占拠するC30歳頃から前述のリポ蛋白質の放出機構に支障が生じ,RPE直下と裏打ちするCBruch膜の間に沈着しはじめる(第二の加齢変化)(図2)10).沈着した脂質が疎水性の壁となって水溶性のCVEGFのCBruch膜の透過率を低下させ,脈絡膜毛細血管の脱落が生じてくる10).おそらく,代償性にRPEからのCVEGFの発現が亢進し,パキコロイドや黄斑新生血管誘導に関与していると考えられる.また,RPEは内部のリポフスチンおよび直下の過酸化脂質由来の酸化ストレスにさらされることとなる.また,RPE直下の脂質を主とする老廃物の排除やCBruch膜のメンテナンスのための慢性炎症として,補体の活性化やマクロファージや肥満細胞が関与していると考えられるが,諸刃の剣としてCRPE障害の要因となる.このように光線曝露を起点とする眼内の加齢変化により,酸化ストレス下でCRPEが障害を受ける要素と,発現亢進したVEGFの血管透過性亢進や血管新生を誘導する要素のバランスでCAMDのフェノタイプ(病型)が決まってくると考えられる(図2)10).CIVAMDの予防前項のようにCAMDの病態を考えた場合,「光線曝露」「酸化ストレス」がキーワードである.疫学研究から,「加齢」に続くCAMDの危険因子として「喫煙」が重要である11.13).喫煙はニコチンなどによる酸化産物の産生が関与していると考えられる.これらから導き出せる予防手段として,「遮光」「禁煙」「抗酸化サプリメント」などが考えられる.C1.禁煙喫煙は国内外の疫学研究で,AMDの危険因子であることがわかっている(国内のオッズ比:3.4)11.14).喫煙指数(1日の喫煙本数C×喫煙年数)が大きいほどリスクが高く,既喫煙者より現喫煙者のリスクが高く,禁煙後期間が長いほどリスクが低いことから,若年発症者などはできるだけ早期の禁煙が望まれる11,15).わが国のAMDが男性に多いことは,喫煙歴の男女差が交絡因子となっていることが疫学調査でわかっている14).また,喫煙とドルーゼンの有無に関連はなかったが,RPEの色素異常と関連を認めた.中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)も喫煙歴が関連している14).このように,喫煙は酸化ストレスを助長し,RPE障害を誘導することでCAMDの病態に関与していそうである.C2.抗酸化サプリメント米国で実施された前向き多施設無作為化比較試験であるCAREDSとCAREDS2で,抗酸化サプリメントの配合の最適な組み合わせや摂取量について調査された8,16).AREDSの結果,カテゴリーC2ではC1,063人中C5年以上の観察でCAMDを発症したのはC15人(1.3%)のみで,サプリメントを推奨するエビデンスは得られなかった.しかし,カテゴリーC3とC4を合わせたCAMDのC5年発症率はプラセボ群C28%,抗酸化物質(ビタミンCC・E/Cb-カロテン)摂取群C23%,亜鉛摂取群C22%,抗酸化物質+亜鉛摂取群C20%となり,プラセボ群と比べて抗酸化物質+亜鉛摂取群がもっともCAMD発症予防効果が高かった8).サプリメントの有害事象として,本試験で用いられた高容量の亜鉛(80Cmg)摂取による地図状萎縮の発生,男性の泌尿器系異常と貧血との関連が示唆された.また,b-カロテンは黄斑色素(ルテイン・ゼアキサンチン)と同類の脂溶性カロテノイドであり,脂質ミセルとともに小腸上皮のCSR-B1レセプターを介して体内に取り込まれると考えられ,Cb-カロテン摂取はルテイン・ゼアキサンチンの取り込みを競合阻害すると考えられた17).さらに,喫煙者のCb-カロテン摂取と肺癌のリスクの関連を示唆する報告があり問題提起されていた18,19).そこで,亜鉛を減量することが可能か,Cb-カロテンをルテイン・ゼアキサンチンに置き換えるとさらに有効かの検証が必要とされ,AREDS2が実施された.AREDS2ではカテゴリーC3とC4を対象に調査された16).本研究では,AREDSの配合内容に関して,亜鉛の減量とCb-カロテンの削除の影響を調査することと,ルテイン・ゼアキサンチンの追加効果のほかに,魚などに多く含まれるC~-3多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の追加74あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(74)効果についても調査された.AMDのC5年発症率は,ルテイン・ゼアキサンチンの追加摂取やCDHA・EPA追加摂取の有効性は示されなかった.ただし,サブ解析において,Cb-カロテン摂取あり群とCb-カロテン削除+ルテイン・ゼアキサンチン追加摂取群の比較ではハザード比C0.82となり,Cb-カロテンをルテイン・ゼアキサンチンに置き換えることの有効性が示された16).また,亜鉛のC25Cmgへの減量もCAMD発症率に影響しなかった.わが国ではサプリメントに含有できる亜鉛の上限の規制が厳しいので朗報である.結果として,現時点においてビタミンCC・E,ルテイン・ゼアキサンチン,亜鉛(低容量)の組み合わせのサプリメントが推奨される.一方でCDHA・EPAの追加意義が示されていない.AREDS2の結果に準じた国内販売のサプリメントとしては,オプティエイドCMLCMACU-LAR(わかもと製薬),サンテルタックスC20V(参天製薬),オキュバイトプリザービジョンC2(ボシュロム・ジャパン)などがあげられる.C3.わが国におけるサプリメント摂取の有用性2012年発表のわが国の治療指針では,サプリメント摂取は前駆病変と萎縮型CAMDに対してのみの記載であったため,多くの医師がカテゴリーC4に相当する後期AMDが発症した患者に対するサプリメント摂取や禁煙の推奨を怠る事態が問題であった2).2024年C9月に改訂された新ガイドラインにおいて,この問題は是正され,後期CAMDにおいても僚眼の予防のために禁煙とサプリメント摂取の推奨が明示された3).片眼が後期CAMD発症している患者においては,なおさら予防を徹底して生涯において僚眼発症を予防することは,QOL保持の観点では発症眼の治療と同等以上に大切である.アジアではアジア型CAMDともいえるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)を含むパキコロイド疾患が多く,ドルーゼンを特徴とする欧米型CAMDとは疾患背景が異なることから,AREDS,AREDS2の結果をそのまま日本人に適応することはできないというのが予防指導を怠っていた医師の言い分である.しかし,病態を考えた場合,やはり疫学上,わが国においても喫煙がリスクであることはわかっているし12.14),CSCの患者でも喫煙歴のプロファイルはAMDと類似している20).また,前述のようにCJFAMstudyにおいて片眼が後期CAMDの僚眼に異常眼底自発蛍光を認める症例のC5年後期CAMD発症率がC30.4%であったが,発症リスク因子に関する多変量解析の結果,「サプリメント非摂取」がリスク(オッズ比C9.5)であることがわかった9).また,JFAMstudyグループで,半年以上網膜下液が遷延する慢性型CCSCに対してAREDS2に準じたサプリメントの摂取の有効性を調査した前向き無作為化多施設比較試験を実施したところ,サプリメント摂取群で摂取後C3カ月,6カ月の自然治癒率はそれぞれC20.0%,32.4%で,非摂取群のC9.5%,28.6%より良好であったが有意差は得られなかった.しかし,中心窩網膜厚と矯正視力はサプリメント摂取群で有意に改善した20).沢らは,片眼後期CAMD患者C39人にCAREDS2に準じたサプリメント(ルテインはC20Cmg配合)を半年摂取させて血漿中ルテイン濃度と黄斑色素量の経時変化を測定したところ,いずれかが交絡因子の可能性があるが,男性,現喫煙者,緑黄色野菜摂取が週1回以下の患者ほど血漿中ルテイン濃度は低い傾向にあり,サプリメント摂取で血漿中ルテイン濃度,黄斑色素量ともに上昇したと報告している21).このように,国内においてもサプリメントの有用性を示すエビデンスが存在する.疫学情報も加味して,新ガイドラインに沿って禁煙とサプリメント摂取はぜひ推奨してもらいたい.たとえエビデンスが不十分だと考えるとしても,有効であった場合には将来の発症率に影響を及ぼす,いわば「予防は未来に向けた治療である」ので,少なくとも,リスク・ベネフィットを考えて患者に情報提供を行うべきである.おわりにサプリメントは健康補助食品であり,「機能性表示食品」であっても消費者庁への届け出のみで販売可能である.販売者が示す安全性と有効性のエビデンスレベルは必ずしも高いものではないので注意が必要である.一方で,AMDで推奨されるサプリメントは治験に匹敵する大規模CstudyのCAREDS,AREDS2に基づくもので,診療ガイドラインにも盛り込まれているので,医師は医(75)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025C75–