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角膜形状異常をきたした眼瞼腫瘍の1例

2024年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(11):1357.1360,2024c角膜形状異常をきたした眼瞼腫瘍の1例鈴木俊也小林顕横川英明高比良雅之杉山和久金沢大学附属病院眼科EyelidTumor-InducedCornealShapeAbnormality:ACaseReportToshiyaSuzuki,AkiraKobayashi,HideakiYokogawa,MasayukiTakahiraandKazuhisaSugiyamaCDepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospitalC角膜形状異常がきっかけとなり発見された眼瞼腫瘍のC1例を報告する.患者はC52歳の男性で左眼の遠視化と矯正視力C1.2からC0.9への低下を主訴として金沢大学附属病院を紹介受診した.角膜形状解析にて左眼にのみ角膜不正乱視を認めた.細隙灯顕微鏡にて上眼瞼結膜に腫瘍を認め,それを原因とする角膜形状異常と推察した.手術にて眼瞼腫瘍を切除したところ,左眼の視力は術後C1週間にてC0.4(矯正C0.9)からC0.9(矯正不能)となり,1カ月後にはC1.2(矯正不能)と裸眼視力の向上が得られた.原因不明の視力低下や角膜形状変化がみられた場合には,眼瞼腫瘍も鑑別診断の一つとして念頭におく必要性を再確認した.CPurpose:Toreportthecaseofaneyelidtumorthatwasdiscoveredasaresultofcornealshapeabnormali-ties.CCase:AC52-year-oldCmaleCpresentedCwithCtheCprimaryCcomplaintCofChyperopiaCandCdecreasedCvisualCacuity(VA)inChisCleftCeye.CCornealCtopographyCexaminationCrevealedCcornealCirregularCastigmatismCinCtheCleftCeye,CandCslit-lampCmicroscopyCexaminationCrevealedCaCtumorConCtheCupperCeyelidCconjunctivaCinCthatCeye,CwhichCwasCsus-pectedtobethecauseofthecornealshapeabnormality.Theeyelidtumorwassurgicallyremoved,andVAinthateyeCimprovedCfrom0.4(correctedCto0.9)atC1-weekCpostoperativeCto0.9(uncorrected)and1.2(uncorrected)1Cmonthlater.Conclusions:The.ndingsinthisstudyemphasizetheimportanceofconsideringeyelidtumorsasadi.erentialdiagnosisincasesofunexplainedVAlossandcornealshapechange.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(11):1357.1360,C2024〕Keywords:角膜形状異常,眼瞼腫瘍.cornealshapeabnormalities,eyelidtumor.Cはじめに角膜形状の変化は,視機能に影響を与える重要な要素の一つである1).角膜形状異常の原因は先天的な疾患や後天的な疾患に分類され,後者の代表的な疾患として円錐角膜があげられる.近年の角膜形状解析装置(角膜トポグラフィ)の発達により,より詳細に,より早期に角膜形状異常の発見が可能となってきた2).今回,角膜形状異常がきっかけとなり発見された眼瞼腫瘍のC1例を報告する.CI症例患者:52歳,男性.主訴:左眼視力低下現病歴:左眼の視力低下を自覚し近医眼科を受診した.同眼科のC10年前の診療録と比較すると,原因不明の遠視化と矯正視力の低下を認めたため,精査加療目的で金沢大学附属病院眼科を紹介受診した.既往歴:高血圧.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.9(1.2C×sph+0.25D(cyl-1.00DAx125°),左眼C0.4(0.9C×sph+2.25D)であった.オートケラトメトリーによる角膜曲率は右眼CKf45.25D,Ks44.00D(角膜曲率平均C44.63D),左眼CKf44.00D,Ks42.75(角膜曲率平均C43.38D)と左右差を認めた.前医眼科でのC10年前の角膜曲率は右眼CKf45.50D,Ks44.00D(角膜曲率平均44.75D),左眼CKf45.75D,Ks44.50(角膜曲率平均C45.13D)であった.眼圧は右眼C15.0CmmHg,左眼C12.0CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では両眼ともに結膜充血を認めず,角膜表面および後面に明らかな異常は認めず,前房は深く,細〔別刷請求先〕鈴木俊也:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:ToshiyaSuzuki,MD,DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospital13-1Takara-machi,Kanazawacity,Ishikawa920-8641,JAPANC図1初診時の前眼部所見a:初診時の左眼.一見すると結膜,角膜,前房に大きな異常を認めず,軽度白内障を認めるのみだった.Cb:初診時の左上眼瞼結膜.表面平滑の腫瘤性病変を認め,長径約C3Cmmだった.Cc:術後C8日目の左眼.術前認めていた腫瘤の内容物が外科的に除去されている.胞浮遊を認めず,水晶体は軽度白内障を認めるのみであり,虹彩にも明らかな異常は認めなかった(図1a).検眼鏡では後眼部に特記する異常は認めなかった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)(CASIA2,トーメーコーポレーション)検査では右眼に異常パラメータを認めなかったが,左眼の角膜全高次収差(higherCorderCaberra-tions:HOAs)はC0.63Cμm[0.00.0.39]に増大していた(図2).また,角膜前面の屈折力マップでは左眼の角膜鼻上側の屈折力が高く,耳下側方向へ向かい屈折力の低下を認めた(図2b).改めて細隙灯顕微鏡検査を施行したところ,左上眼瞼結膜に表面平滑な長径約C3Cmmの腫瘤性病変を認めた(図1b).これら所見から,上眼瞼結膜腫瘤による角膜の物理的圧迫を原因とする左角膜不正乱視と診断した.治療および経過:眼瞼結膜腫瘤に対する治療として眼瞼結膜面から切開,内容物を除去し外科的加療を施行した.内容物は黄白色の泥状物のみ,病理組織学的検査に提出し終了とした.病理結果は層状角化物や横紋筋組織,線維結合組織を認め,悪性像はみられず,表皮.腫の内容物と矛盾しない結果だった(図3).術後C8日で創部は陥凹しており(図1c),左眼視力C0.9(n.c.)と改善した.さらに術後C27日目には左眼視力C1.2(n.c.)と著明な改善を認め,CASIA2によるCHOAsはC0.26Cμmまで減少し,平均角膜中心屈折力(averagecen-tralCcornealpower:ACCP)は術前C44.2DからC45.0Dと屈折力は増加した(図4).CII考按近年登場した第二世代の前眼部COCTであるCCASIA2は,Fourierドメインと波長掃引光源技術を用いて走査速度・深度・密度,画像分解能をさらに最適化したもので,角膜の評価や前房深度,前房隅角の評価ができる2.4).また,前眼部の構成組織の計測により,緑内障診療への活用や眼内レンズのサイズ決定や術後乱視の追跡にも用いることが可能である.そして角膜の評価機能として,前述したCHOAsなどの検査や,角膜の前面・後面屈折力や角膜厚のカラーマップを表示し直感的にわかりやすくしている.そのため異常値を検出した場合は,一般的なオートレフケラトメーターでは検出できない非対称な角膜乱視をとらえることが可能である.今回の症例では,CAISA2による角膜形状解析が診断や病態理解に有用であった.角膜には正乱視と不正乱視があり,このうち不正乱視は球面レンズおよび円柱レンズでの補正ができない乱視をさす.角膜不正乱視の診断には,前眼部COCTなどの角膜形状解析が必要である.角膜不正乱視の原因として,円錐角膜やペルーシド辺縁角膜変性,翼状片などの角膜疾患をはじめ,眼科手術歴や加齢性変化,そして霰粒腫や麦粒腫といった眼瞼腫瘍が考えられる5.9).これら角膜疾患や眼瞼腫瘍は治療に専門性を有する疾患であることが多く,日常診療において角膜不正乱視を認めた場合は,その原因の追求と治療に難渋することはありえると思われる.眼瞼腫瘍が原因である場合は診ab図2前眼部OCT(CASIA2)の角膜形状解析a:右眼.異常パラメータを認めない.Cb:左眼.HOAsの異常値を認める.左上の角膜前面屈折力の形状マップ(axialpower)において,不正乱視を認め,鼻上側の屈折力が高く,耳下側方向へ向かい屈折力の低下を認めた.図3病理所見a:実体顕微鏡写真.b:ヘマトキシリン・エオジン染色.察室で発見可能であるため早期の発見や治療が可能と考えられる.本症例では,眼瞼結膜の腫瘍性病変による角膜不正乱視が惹起され,視力低下を認めた.既報によると,上眼瞼の霰粒腫の大きさと角膜収差間には関連性を認めており,腫瘤が大きいほど角膜周辺部の乱視とCHOAsを増加させ,視力低下の原因となると報告されている10).腫瘤と角膜乱視の関連の報告は多くが霰粒腫による報告であり,そのほか良性腫瘍の報告は数が少ない.術中所見および病理所見,年齢,病歴から考察すると表皮.腫の可能性がもっとも高いと思われた.比較的小さな腫瘤であったため,自覚症状がないことから診断に難渋した症例であったが,小さいにもかかわらず角膜乱視の増加に寄与し,視力低下を引き起こしていた.既報では眼瞼腫瘤の径C5Cmm以上となると角膜乱視やCHOAsの有意な増悪をきたすが10),本症例は腫瘤径C3Cmmと小さかった.これは本症例の腫瘤が剛性のある眼瞼結膜面に局在しており,かつびまん性ではなく限局的に隆起していたため,より強く角膜のひずみを生じた.また,上眼瞼の中央ともっとも角膜乱視を誘発する部位に位置していたことが原因と考えられる.今回,角膜形状異常がきっかけとなり発見された良性眼瞼腫瘍のC1例を経験した.本症例では前眼部COCTによる角膜ab図4CASIA2のトレンド解析a:術前.HOAsのトレンド解析.Cb:術後C27日.ACCPのトレンド解析.形状解析が診断に有用であった.手術加療で視力改善を得られたものの,今後再発の可能性も考え注意深く経過観察をしていく必要がある.眼瞼腫瘍と角膜乱視が関連した報告は少なく,日常診療において本症例のような経過であると見逃されることもありえると思われる.そのため,原因不明の視力低下や角膜形状変化がみられた場合には,上眼瞼反転を含めた診察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SabermoghaddamAA,Zarei-GhanavatiS,AbrishamiM:CE.ectsofchalazionexcisiononocularaberrations.CorneaC32:757-760,C20132)森秀樹:前眼部COCTによる角膜形状解析の特徴と今後.視覚の科学37:122-129,C20163)LuM,WangX,LeiLetal:Quantitativeanalysisofante-riorCchamberCin.ammationCusingCtheCnovelCCASIA2Copti-calcoherencetomography.AmJOphthalmolC216:59-68,C2020C4)SaitoCA,CKamiyaCK,CFujimuraCFCetal:ComparisonCofCangle-to-angleCdistanceCusingCthreeCdevicesCinCnormaleyes.Eye(Lond)C34:1116-1120,C20205)TomidokoroCA,COshikaCT,CAmanoCSCetal:QuantitativeCanalysisCofCregularCandCirregularCastigmatismCinducedCbyCpterygium.CorneaC18:412-415,C19996)OshikaT,TanabeT,TomidokoroAetal:ProgressionofkeratoconusCassessedCbyCfourierCanalysisCofCvideokeratog-raphydata.OphthalmologyC109:339-342,C20027)YoshiharaCM,CMaedaCN,CSomaCTCetal:CornealCtopo-graphicCanalysisCofCpatientsCwithCMoorenCulcerCusingC3-dimensionalCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomog-raphy.CorneaC34:54-59,C20158)KohS,MaedaN,OgawaMetal:Fourieranalysisofcor-nealCirregularCastigmatismCdueCtoCtheCanteriorCcornealCsurfaceindryeye.EyeContactLensC45:188-194,C20199)ChenJ,JingQ,TangYetal:Cornealcurvature,astigma-tism,CandCaberrationsCinCMarfanCsyndromeCwithClensCsub-luxation:evaluationbyPentacamHRsystem.SciRepC8:C4079,C201810)ParkCYM,CLeeJS:TheCe.ectsCofCchalazionCexcisionConCcornealCsurfaceCaberrations.CContCLensCAnteriorCEyeC37:C342-345,C2014C***

基礎研究コラム:90.TNFRSF10Aと網膜色素上皮細胞

2024年11月30日 土曜日

TNFRSF10Aと網膜色素上皮細胞森賢一郎九州大学大学院医学研究院眼科学分野Cmentepithelium:RPE)細胞に局在していました.そして未知の病態解明とGWASrs13278062のリスクアレルをもつヒト培養CRPE細胞では加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:ノンリスクアレルと比較してCTNFRSF10Aの転写活性が低AMD)と中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCcho-下していたことから,RPEにおけるCTNFRSF10Aの発現低rioretinopathy:CSC)発症の正確なメカニズムは不明で,下が網膜疾患に関与することが示唆されました.実際にヒト治療法も限られています.ゲノムワイド関連解析培養RPE細胞のTNFRSF10A発現抑制を行うとprotein(genome-wideCassociationstudy:GWAS)により複数CkinaseC(PKC)経路不活性化によるアポトーシスを認め,の一塩基多型(singleCnucleotidepolymorphism:SNP)Tnfrsf10ノックアウトマウスでもCPKC経路不活性化とが報告され,様々な遺伝子の関与が考えられました.そRPE障害を認めました(図1).さらに,このヒト培養CRPEして,GWASによって初めてAMDへの関与が明らかと細胞のアポトーシスはPKC活性化薬であるphorbolなった補体をターゲットとした萎縮型CAMDの治療薬とCmyristateacetate(PMA)により抑制されました3)(図2).してCpegcetacoplan(SYFOVRE)がC2023年に米国で製品化に至りました.GWASで得られる情報を基盤にした今後の展望治療薬開発には大きな可能性があると考えられます.TNFRSF10A/PKC経路は初期CAMDやCCSCで認められCTNFRSF10Aと網膜色素上皮細胞るCRPE障害に関与することが示唆されました.現在治療法のない初期CAMDや新規のCAMDおよびCCSCに対して,こGWASによりCrs13278062というCSNPのCTアレルが,の経路を治療標的とした治療薬開発を継続していきます.AMDとCCSCに共通するリスクアレルとして初めて報告さ近年,多くの疾患に対してゲノム解析が行われていますれました1.2).このCSNPはCTNFRSF10Aの転写活性を変化が,臨床につなげるためには,基礎実験による機能解析からさせることでこれらの疾患の病態を制御している可能性が考考えられる病態解明や治療薬検討が必要であると考えます.えられることから,筆者らはCTNFRSF10Aに着目しました.TNFRSF10AはCTRAILと結合することでアポトーシス文献を誘導する細胞死受容体であることが知られています.1)ArakawaCS,CTakahashiCA,CAshikawaCKCetal:Genome-TRAILは腫瘍細胞に選択的にアポトーシスを誘導する可能Cwideassociationstudyidenti.estwosusceptibilitylocifor性があるため,抗癌剤として注目されています.TRAILシCexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCtheCJapa-グナルは,細胞の発生や増殖を促進することにより非アポCnesepopulation.NatGenetC43:1001-1005,C20112)HosodaCY,CMiyakeCM,CSchellevisCRCetal:Genome-wideトーシス経路を誘導することも報告されています.CassociationCanalysesCidentifyCtwoCsusceptibilityClociCfor眼の領域ではどうでしょうか.TNFRSF10AはヒトとマCpachychoroidCdiseaseCcentralCserousCchorioretinopathy.ウスの網膜を用いた免疫染色では網膜色素上皮(retinalpig-CommunBiolC2:1-9,C20193)MoriK,IshikawaK,FukudaYetal:TNFRSF10Adown-regulationCinducesCretinalCpigmentCepitheliumCdegenera-tionCduringCtheCpathogenesisCofCage-relatedCmacularCdegenerationCandCcentralCserousCchorioretinopathy.CHumCMolGenet31:2194-2206,C2022CTNFRSF10APMA図1Tnfrsf10ノックアウトマウスPKC活性低下RPE細胞死AMD・CSC発症(Tnfrsf10-/-)の網膜形態変化12カ月齢のCTnfrsf10-/-マウスは,同齢の野生型(WT)マウスと比較して図2TNFRSF10Aと網膜色素上皮(RPE)RPEの有意な菲薄化を認め,さらにrs13278062というCSNPのリスクアレルをもつCRPE細胞では,TNFRSF10Aの発現が減少しCTnfrsf10-/-マウスはCRPEの途絶も認PKC活性が低下することでCRPE細胞死が誘導され,AMD,CSCを発症することが考えられ,めた(..).ONL:外顆粒層PKC活性化薬であるCPMAにより,PKCを活性化することでCRPE細胞死が抑制された.(75)あたらしい眼科Vol.41,No.11,202413450910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:258.糖尿病網膜症と肥満細胞(研究編)

2024年11月30日 土曜日

258糖尿病網膜症と肥満細胞(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●Bursapremacularisと肥満細胞本シリーズの第C197回「黄斑疾患の発症における肥満細胞の関与(研究編)」でも触れたが,bursapremac-ularis(BPM)はCWorstらが提唱した黄斑前に存在する袋状の特異な形態を有する硝子体の一部である1).筆者らは,硝子体手術時にCBPMを選択的に採取し,トルイジンブルー染色,および肥満細胞が産生するキマーゼやトリプターゼなどセリンプロテアーゼの抗体を用いた免疫染色を行い,BPMに肥満細胞が存在すること,キマーゼやトリプターゼが黄斑円孔や黄斑上膜の発症に関与していることなどを報告した2).C●糖尿病網膜症と肥満細胞筆者らは過去に糖尿病網膜症のCBPMは細胞成分が少なく,トルイジンブルー染色で肥満細胞に特徴的なメタクロマジーがみられないこと,抗キマーゼ抗体(図1)や抗トリプターゼ抗体を用いた免疫染色においてもBPMの染色性が低いことを報告した3).筆者らはその原因としてセマフォリンC3Aによる影響の可能性を考えた.セマフォリンC3Aは,神経組織や他の器官に広く分布する分泌型セマフォリンの一つであり,組織内への肥満細胞の浸潤を抑制することが知られている4).高血糖がCmTORシグナルを活性化することでセマフォリンC3Aの発現を亢進させたり5),低酸素性状態の神経細胞からセマフォリンC3Aが分泌されるなどの報告があり6),高血糖・低酸素状態に陥った網膜神経細胞がセマフォリンC3Aを産生している可能性が考えられる.増殖糖尿病網膜症患者の硝子体ではセマフォリン3A濃度が上昇しているとする報告もある7).しかし一方で,糖尿病腎症では病変の進行に伴い腎内での肥満細胞の密度が増加するといった報告8)もあり,同じ糖尿病細小血管障害でも肥満細胞の挙動には差がみられるのは(73)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY黄斑円孔糖尿病網膜症図1黄斑円孔と糖尿病網膜症のBPMにおける抗キマーゼ抗体による免疫染色a:コア硝子体,b:BPM.黄斑円孔に比べ糖尿病網膜症では染色性が低かった.抗トリプターゼ抗体でも同様の所見を呈した.(文献C3より引用改変)興味深い.文献1)WorstCJG,CLosLI:ComparativeCanatomyCofCtheCvitreousCbodyCinCrhesusCmonkeysCandCman.CDocCOphthalmolC82:C169-178,C19922)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLoSOneC14:e0211438,C20193)IkedaT,NakamuraK,MorishitaSetal:Decreasedpres-enceCofCmastCcellsCinCtheCbursaCpremacularisCofCprolifera-tivediabeticretinopathy.COphthalmicRes64:1002-1012,C20214)YamaguchiCJ,CNakamuraCF,CAiharaCMCetal:SemaphorinC3AalleviatesskinlesionsandscratchingbehaviorinNC/CNgaCmice,CanCatopicCdermatitisCmodel.CJCInvestCDermatolC128:2842-2849,C20085)WuCLY,CLiCM,CQuCMLCetal:HighCglucoseCup-regulatesCSemaphorinC3ACexpressionCviaCtheCmTORCsignalingCpath-wayCinkeratinocytes:ACpotentialCmechanismCandCthera-peutictargetfordiabeticsmall.berneuropathy.MolCellEndocrinolC472:107-116,C20186)JoyalCJS,CSitarasCN,CBinetCFCetal:IschemicCneuronsCpre-ventCvascularCregenerationCofCneuralCtissueCbyCsecretingCsemaphorin3A.BloodC117:6024-6035,C20117)DejdaA,MawamboG,CeraniAetal:Neuropilin-1medi-atesCmyeloidCcellCchemoattractionCandCin.uencesCretinalCneuroimmuneCcrosstalk.CJCClinCInvestC124:4807-4822,C20148)ZhengCJM,CYaoCGH,CChengCZCetal:PathogenicCroleCofCmastcellsinthedevelopmentofdiabeticnephropathy:astudyofpatientsatdi.erentstagesofthedisease.Diabe-tologiaC55:801-811,C2012あたらしい眼科Vol.41,No.11,20241343

考える手術:35.毛様体剝離を伴う網膜剝離手術のコツ

2024年11月30日 土曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅毛様体.離を伴う網膜.離手術のコツ中島浩士大阪ろうさい病院眼科網膜.離症例では眼圧の低下に伴って毛様体.離が発症することが知られている.高度な毛様体.離は手術を複雑なものとし,ときに合併症を引き起こす原因ともなるため,病態生理を正しく理解し,適切に対策する必要がある.毛様体.離は血管から漏出した滲出液が毛様体上腔に過剰に貯留することで生じる.毛様体扁平部に滲出液が貯まると,硝子体手術時にトロカールカニューラを硝子体腔に貫通させることがむずかしくなる.カニューラ先端が毛様体上腔に留まっていることに術者が気づかず不用意に手術器具出し入れを行うと毛様体組織及的に排液しておくことで貫通が得られやすくなる.また,硝子体腔内の操作を始める前にカニューラ先端が硝子体腔内に十分に露出していることを確認しておくことで,その後の手技を安全に行うことできる.網膜.離症例における毛様体.離は,病態が進行すると脈絡膜.離を伴って後極に向けて進展する.脈絡膜.離は眼底診察やBモード超音波検査で容易に確認できることが多いが,毛様体のみが限局して.離している場合は,臨床的にその存在は見逃されがちである.毛様体.離を検出するには超音波生体顕微鏡(UBM)や前眼部OCTによる毛様体の評価が有用ではあるが,すべての患者に対して行うのは現実的ではなく,また,どの程度の毛様体.離がカニューラ貫通不全を引き起こしうるのかが明らかでないため,毛様体.離が検出されても対策を必要とするのかどうか判断に苦慮することもある.本稿では当院(大阪ろうさい病院)の研究データを提示しながら,カニューラの貫通不全が起こりうる毛様体.離の臨床的特徴とその対策について解説する.聞き手:毛様体.離はなぜ起こるのですか?で発症します.中島:毛様体.離は,毛様体上腔に血管内から漏出した血液成分が貯留することによって引き起こされます.緑聞き手:毛様体.離はどのような網膜.離に起こりやす内障術後の低眼圧に伴って発症することがよく知られていですか?います.そのほかにも炎症性疾患,感染症,外傷,悪性中島:網膜.離における毛様体脈絡膜.離の発症のリス新生物,薬物副作用,静脈うっ血など,さまざまな病態クファクターとして低眼圧,高齢,強度近視,.離範囲(71)あたらしい眼科Vol.41,No.11,202413410910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術が広範,黄斑円孔網膜.離などが報告されています.網膜が.離すると眼圧低下が進行することが知られており,これら危険因子の中でもとくに低眼圧が毛様体.離の発症に深く関与していると考えられています.低眼圧と毛様体.離の関係は,血管内と間質の体液の移動を静水圧と膠質浸透圧を用いて説明したStarlingの方程式Q=Kf(Pcap-Pint).v(rcap-rint)から理解できます.この式の前半の項は静水圧,後半は膠質浸透圧に関して規定しています.前半の項のKfは濾過係数,PcapとPintは,それぞれ毛細血管と間質内の静水圧を示しており,濾過量(Q)は血管と間質内との間の静水圧較差によって変化することがわかります.これらを眼内環境にあてはめて解釈すると,網膜.離に伴って眼圧(Pint)が低下すると静水圧較差(Pcap-Pint)は増加し,その結果,滲出液の量(Q)が増加することを意味します.聞き手:眼圧と毛様体.離の程度は相関しますか?中島:Starlingの方程式から両者には相関関係があることが予想されますが,両者の関係を定量的に解析した報告はありません.そこで当院で手術加療を行った網膜.離142症例に対し,前眼部光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)を用いて術前の毛様体.離の程度を定量化し,眼圧との相関を検討しました.毛様体.離の評価は,トロカールカニューラ穿刺部位(強膜岬の後方3mm)における毛様体を4象限で撮影し,毛様体.離の丈の高さにより,Grade0(毛様体.離なし),Grade1(強膜の厚さ>毛様体.離の丈),Grade2(強膜の厚さ≦毛様体.離の丈)の三つのGradeに分類しました(図1).全象限におけるGradeの平均値を毛様体.離の程度とし,眼圧との相関を統計解析したところ,強い相関関係がみられました(図2).聞き手:どの程度の毛様体.離があるとカニューラ貫通の妨げとなりますか?また,そのような患者の眼圧はどの程度低下していますか?中島:本研究ではカニューラの貫通不全が142例中9例で確認され,それらの毛様体.離の丈は全象限で強膜の厚みを超えていました.このことから,毛様体.離が顕著な患者ではカニューラ貫通不全に対し注意が必要となりますが,強膜厚を超えない軽微な毛様体.離はとくに警戒する必要はないと考えられます.カニューラの貫通不全が確認された9例の平均眼圧は,4.3mmHg(3.7mmHg)でした.よって,眼圧が著明に低下している患者に対しては,可能であれば画像検査で術前に毛様体.離の程度を確認しておくことが合併症の予防につながると考えます.聞き手:カニューラの貫通不全が起こる可能性の高い毛様体.離患者に対して,どのような対策を行っていますか?中島:まず,白内障硝子体手術装置の灌流ラインに鋭針を接続し,灌流液を硝子体腔内に注入しながら眼圧を上げます.シリンジに鋭針をつけて用手的に注入してもかまいません.眼圧が上昇したことを確認したのち,強膜切開を加えるか,鋭針またはカニューラの先端を毛様体上腔に留置して排液を行います.黄色い浸出液の排出が終わると毛様体.離もかなり軽減されているため,カニューラが貫通しやすくなります.患眼の眼圧2520151050r=0.668,p<0.00100.511.52毛様体.離のGrade図2毛様体.離の程度と眼圧の関係1342あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(72)

抗VEGF治療セミナー:糖尿病網膜症治療:実臨床と私のこだわり

2024年11月30日 土曜日

●連載◯149監修=安川力五味文129糖尿病網膜症治療:実臨床と私のこだわり杦本昌彦山形大学医学部眼科学講座糖尿病網膜症は「糖尿病に起因した特徴的眼底所見を呈する病態」と定義され,「網膜細小血管障害に起因した出血・白斑などの変化」が代表的な所見である.しかし多くの疾患において類似した眼底変化が生じることから鑑別診断は重要で,眼底所見のみならず画像所見・疾患背景の把握などが有用である.はじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は糖尿病合併症の代表的な疾患であることは広く知られている.『糖尿病診療ガイドライン』1)においてもCDRの有無が確定診断の根拠とされており,糖尿病の管理においてもDRの有無は重要である.2020年に発行された『糖尿病網膜症診療ガイドライン』2)では,DRを「糖尿病に起因した特徴的眼底所見を呈する病態」と定義している.代表的な所見は,網膜における細小血管障害に起因した出血・白斑に代表される種々の変化である.しかし,多くの網膜疾患において類似した眼底変化が生じることを考えると,鑑別診断が重要である.『糖尿病網膜症診療ガイドライン』においても「診断は眼底所見に加えて種々の検査を組み合わせ,総合的に行う必要がある」としており,眼底所見のみならず,問診聴取に始まる疾患背景の把握や,近年急速に発展した画像診断機器による情報を踏まえて診断することが求められている.逆に画像診断技術の進歩は過剰な情報でわれわれを混乱させることもある.本稿では症例を提示して鑑別診断の重要性を述べる.問診・バイタルチェックの重要性症例はC42歳,女性(図1).1カ月前に健診にて糖尿病を指摘され内科にて加療開始となり,同時に眼科を受診した.網膜出血と硬性白斑とともに黄斑浮腫を認め,糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)疑いで当院(山形大学医学部附属病院)を紹介受診した.しかし,病歴聴取から血圧コントロール不良が疑われ血圧測定をしたところ,血圧はC204/112CmmHgであった.本症例は高血圧網膜症が主病態であり,降圧とともに網膜所見の改善と黄斑浮腫の軽減を認めた.(69)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1高血圧眼底初診時眼底写真(a)では網膜出血と白斑を認める.黒線部位のCOCT画像では網膜下液と網膜浮腫を認める(b).バイタルチェックは外来で可能な,かつ簡便な検査であり,糖尿病患者ではしばしば高血圧や腎障害が合併するため,少しでもそれらを疑った際には検査が推奨される.診断技術がまだまだ未熟であった筆者の学生時代や研修医時代,当時,それでもきちんとできることをやろう,と考え,詳細な問診聴取を行っていた.さまざまな機器が進歩しても根幹をなす問診聴取は非常に重要である.画像検査の重要性症例はC77歳,男性(図2).糖尿病罹患歴C20年以上と長いが,血糖コントロールは良好である.周辺網膜にDRを示唆する所見は認めないが.胞様黄斑浮腫を認め,DME加療目的に当院紹介初診となった.眼底に活動性の高いCDRは認めないが,黄斑近傍に小さな点状出血と硬性白斑を認めた.光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)では異常血管が描出され,1型黄斑部毛細血管拡張症(maculartelangiectasia)と診断した.本疾患では拡張した毛細血管と.胞様黄斑浮腫,硬性白斑が特徴的な所見であり,直接光凝固や薬剤の硝子体あたらしい眼科Vol.41,No.11,20241339内注射(抗CVEGF薬は適用外)が行われることが多い.フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinCangiogra-phy:FA)が診断に必須であったが,安全性に優れたOCTAによって非侵襲的に網膜血管構築が評価可能になった.このような検査機器の進歩はわれわれの診断に非常に役立っている.画像検査のピットホール症例はC70歳,男性(図3).25年の糖尿病罹患歴があり,経過中に汎網膜光凝固(pan-retinalCphotocoagula-tion:PRP)を受けている.検眼鏡による観察では,眼底は長らく落ちついていた.病勢判断目的にCOCTAを施行したところ,広範な網膜無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)が描出されたが,PRPは十分でこれ以上の追加はCatrophiccreepなどの不可逆的な障害に結びつく可能性があると判断し,PRPの追加は行なわなかった.RussellらはCPRP前後のCNPAをCFAとCOCTAで比較している3).従来の概念どおりCFAではCNPAの退縮を認めたが,OCTAでは異常血管の劇的な退縮を認めるもののCNPAに変化はなかった.本症例のように画像C1340あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024図2毛細血管拡張症眼底写真(Ca)では広範な出血や白斑など,活動性のあるCDRを示唆する所見は認めない.しかし,中心窩下方に硬性白斑と微細な出血(○)を認める.黄斑部を含むC3×3Cmmの範囲のCOCTA(Cb)では耳側に異常血管を認める.図3PRP後の眼底眼底写真では活動性のない鎮静化したCDRを認める(Ca).同眼のOCTA像では広範なCNPAを認める(b).検査に引きずられることで病勢を過剰に評価してしまうこともあり,注意が必要である.単一の検査だけではなく,検眼鏡検査などから総合的に病勢を判断する必要がある.おわりにDRは比較的わかりやすく,すべての施設で診察することの多い疾患である.しかし,糖尿病という全身疾患の合併症であるため,他の疾患を併発していることがままある.適切な問診などの基本的な手技,逆に機器による最新の検査手技が有用であるが,機器にふりまわされることなく,診断を行なってゆくことは案外むずかしいのかもしれない.文献1)日本糖尿病学会編:糖尿病診療ガイドラインC2024.南江堂,C20242)日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌124:955-981,C20203)RussellCJF,CAl-khersanCH,CShiCYCetal:RetinalCnonperfu-sionCinCproliferativeCdiabeticCretinopathyCbeforeCandCafterCpanretinalCphotocoagulationCassessedCbyCwide.eldCOCTCangiography.AmJOphthalmol213:177-185,C2020(70)

緑内障セミナー:「緑内障サマリーページ」

2024年11月30日 土曜日

●連載◯293監修=福地健郎中野匡293.「緑内障サマリーページ」三木篤也愛知医科大学眼科学講座「緑内障サマリーページ」は,緑内障の診療支援のための電子診療録のツールとして山梨大学の柏木賢治先生が作成されたものである.その目的は,毎回の診療においてその患者のもっとも重要なデータを一読で理解できるページを作ることであるが,最近ではビッグデータ収集への応用も視野に入れて整備が進んでいる.●はじめに緑内障のような慢性かつ不可逆性の疾患では,患者によっては経過が大変長くなり,毎回の診療に必要な投薬や手術の既往,ベースラインのデータ,家族歴,禁忌薬剤などのデータが診療録の各所に分散してしまい,毎回確認することがむずかしい場合がある.こうした患者ごとの基礎的データをいつでも一読で確認できるツールとして,山梨大学の柏木賢治先生が開発されたのが「緑内障サマリーページ」である.●「緑内障サマリーページ」とは「緑内障サマリーページ」は現在ファインデックスの眼科部門システムに実装されているが,そのイメージは図1の通りである.同社のカルテは左側が閲覧用,右側が記載用の2ページ見開き構成となっているが,左側の上部にある「緑内障」のタブをクリックすると,いつでも作成したサマリーページが閲覧できるようになっている.「緑内障サマリーページ」は2ページでできており,1ページ目は文字で記載する情報(図2),2ページ目は眼底写真,OCT,視野などの画像情報となっている(図3).文字情報は,視力,直近および無治療時の眼圧,手術やレーザーの既往,現在の治療薬,中心角膜厚,合併症,禁忌薬などが記載できる.検査データは自動取得できるほうが入力が効率化されるが,「緑内障サマリーページ」では今のところ直近の視力,眼圧など一部のデータのみが自動入力に対応している.画像情報は,眼底写真,視野検査,OCTなどの結果を選択して貼り付けることができる.サマリーページは1患者にひとつ(2ページ)となっており,更新しないかぎり同じデータを保持する.こうすることで,非常に経過が長い患者でも,ワンクリックでベーシックな情報を一読することができる.●ビッグデータへの応用このようなサマリーページは,緑内障に限らず眼科すべての領域の慢性疾患診療に有用であると考えられる.そこで日本眼科学会では,日本医療機器協会と連携して緑内障以外にも網膜,眼炎症,角膜それぞれの領域のサマリーページおよび全分野に共通するサマリーページを開発している.また,ファインデックスだけでなく,日本の主要な眼科部門システムベンダーでも使用できるように,それぞれのベンダー版を開発中である.サマリーページを用いることで,上記のように一読でデータが閲覧できるメリットだけでなく,各分野の診療に不可欠な情報をとり漏らすことがなくなるという効果も期待できる.とくに必ずしもその分野のエキスパートとはいえない医師が診療に当たる際にも,サマリーページを用いることで必須の検査が抜け落ちたり,必須の情報の問診を忘れたりすることを避けることができるので,診療レベルの向上,あるいは均てん化に貢献すると考えられる.また,最近では人工知能(AI)解析などの目的でビッグデータの収集が臨床研究に重要となっているが,サマリーページには各分野のベーシックな情報と画像が凝縮されているので,ビッグデータ収集にも適したツールとしてその方面でも開発が進んでいる.緑内障および共通,各分野のサマリーページは,近いうちに日本の多くの電子診療録で使用できるようになるはずである.今後の展開を注目して見守っていただきたい.(67)あたらしい眼科Vol.41,No.11,202413370910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1「緑内障サマリーページ」の電子診療録上での表示イメージ左側の「緑内障」タブ()を押すと左側の閲覧ページにサマリーページが表示される.右側の記載ページには,緑内障サマリーページの入力画面が表示されている.図2「緑内障サマリーページ」の文字所見ページ図3「緑内障サマリーページ」の画像入力ページ1338あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(68)

屈折矯正手術セミナー:LASIK フラップ偏位への対処法

2024年11月30日 土曜日

●連載◯294監修=稗田牧神谷和孝294.LASIKフラップ偏位への対処法南幸佑京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学LASIKはフラップを作製するため,フラップ作製に伴う合併症が報告されている.なかでも外傷によるフラップ偏位は術後いつでも生じる可能性がある.フラップ偏位を放置するとさまざまな合併症をきたし,視力低下につながるため,早期に整復術を施行することが望ましい.●はじめに角膜屈折矯正手術のなかでも,とくにClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)はその安全性と有効性が広く認められている.わが国ではC2000年にエキシマレーザーが近視矯正手術用に承認され,レーザー屈折矯正角膜切除術Cphotorefractivekeratectomy(PRK)が医療に導入された.2006年にはCLASIKが承認され,2023年にCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)が薬事承認されている.このようにさまざまな屈折矯正手術が台頭している現在でも,LASIKは矯正可能範囲が広いことや,術後屈折度の安定や裸眼視力の回復が早いこと,PRKと異なり上皮.離をしないため角膜創傷治癒が穏やかで疼痛が少ないことなどの利点により,今も世界的に主流となっている.しかし,フラップを作製することでさまざまな合併症(フラップ偏位,フラップの皺,角膜層間の炎症,フラップ下角膜上皮迷入,角膜上皮下混濁など)が報告されている1).なかでも外傷によるフラップ偏位は,術直後から長期間経過後までいつでも生じる可能性があり,これまでにもいくつもの報告がある2).ただし,外傷によるフラップ偏位はほとんどの報告において軽微であり,整復術の治療成績は良好であることが多い.筆者は,今までに同様の報告がない,瞳孔領で多層に折り畳まれたフラップ偏位を認めた症例を経験したので,その経過を報告する.C●症例患者はC43歳,男性.12年前に他院にて両眼のLASIKを受けている.読書中に本の角で右眼を受傷し,近医を受診.改善を認めなかったため,他大学病院眼科を紹介受診した.フラップの偏位と角膜上皮の層間迷入(epithelialingrowth)を認めたため,フラップ整復目的に当院(京都府立医科大学附属病院)へ紹介となった.視力は右眼C0.1(矯正(65)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY不能),左眼C1.2(矯正C1.2)で,眼圧は右眼C23.3CmmHg,左眼C13.7mmHg,右眼角膜ケラト値は測定不能であった.細隙灯顕微鏡検査では角膜のC4時からC11時方向のフラップが偏位しており,角膜中央付近でフラップが複雑に折り畳まれている状態であり(図1),同部位にCepi-thelialingrowthを認めた(図2).局所麻酔下にてフラップ整復術と異物除去術,フラップ縫合(10-0ナイロン糸)を行ったうえで治療用ソフトコンタクトレンズを載せて終了した.術中に角膜中央部にてフラップがC3層以上折り畳まれていることが確認できた(図3).術翌日からC1日C4回のレボフロキサシン点眼とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼を開始した.手術翌日の診察では角膜上皮欠損を認めたが,治療用ソフトコンタクトレンズ装用を継続し,術後C5日目には角膜上皮欠損の改善を認めた.術後C2週間目にベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼をフルオロメトロン点眼(4回/日)に変更を行った.術後C1カ月後に治療用ソフトコンタクトレンズの装用を終了し,縫合糸を除去した(図4).点眼はC1日C2回を継続した.術後C6カ月の時点で視力はC1.0(1.2×.0.5D(cyl.0.5DCAx75°),眼圧は13.7CmmHg,角膜ケラト値はCD141.0D,D242.0Dであり,epithelialingrowthの再発を認めなかった.C●対処法外傷によるCLASIKフラップ偏位は,LASIKを受けた数日後からC10年以上経過した場合でも生じる可能性がある3).受傷直後に整復術を施行できた場合はソフトコンタクトレンズ装用のみで治癒する.一方で皺の程度が強い場合や,epithelialingrowthを伴う場合にはソフトコンタクトレンズ装用のみでは皺の伸展が不十分である可能性があり,フラップ縫合を追加することが推奨されている4).また,epithelialCingrowthは軽度であれば自然消退することもあるが,やや胞状の白い細胞塊が周囲に透明帯と白色境界線を伴う場合は増殖力が旺盛であり,不正乱視やフラップ融解の原因になることもあり,あたらしい眼科Vol.41,No.11,20241335図1初診時の前眼部写真角膜のC4時からC10時方向にかけて角膜フラップが偏位しており,中央部分で何層にも折り畳まれている(→).図3術中前眼部写真眼科用吸水スポンジで角膜中央にて折り畳まれた角膜フラップを愛護的に伸展した.フラップ裏面と実質ベッドの迷入上皮を完全に除去し,洗浄することが必要となる5).再整復術中に.離したフラップを安定させるためにも,縫合するほうが良いとされている6).C●おわりにLASIK後のフラップの外傷による偏位は,術後どのタイミングでも起こりうる術後合併症である.偏位直後であれば比較的簡単に復位を得ることができるが,偏位した状態を長期間放置するとCepithelialCingrowthの発生やフラップが偏位したまま角膜上皮が再生することで整復操作がより複雑になるため,できるだけ早期の外科的介入が望ましい.適切な整復術を施行できれば,良好な視力を得ることができる.昨今,国内でのCLASIK件数は減少傾向にあり,眼科医のCLASIK認知度が下がってきており,術後の合併症に対応しづらくなっている.そのため,LASIKに携わる機会がなかった眼科医に対して,起こりうる合併症のC1336あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024図2初診時の前眼部写真の拡大折り畳まれた角膜フラップの層間にCepithelialingrowthを認める.図4術1カ月後の前眼部写真フラップを伸展し,角膜縫合でフラップ固定を行った.Epithelialingrowthの再発は認めない.周知が必要である.また,合併症に対応できない場合には,すみやかに専門施設へ紹介することが望ましい.文献1)伊藤光登志,木下茂:LaserCinCsituCKeratomileusis(LASIK)の問題点について教えてください.あたらしい眼科14(臨増):29-32,C19972)福本光樹:LaserCinCsitukeratomileusis後,鈍的外傷によりフラップの偏位を起こしたC1例.臨眼C55:526-528,C20013)HoltCDG,CSikderCS,CMi.inMD:SurgicalCmanagementCofCtraumaticCLASIKC.apCdislocationCwithCmacrostriaeCandCepithelialCingrowthC14CyearsCpostoperatively.CJCCataractCRefractSurgC38:357-361,C20124)堀好子:エキシマレーザー手術の合併症.臨眼C66:276-279,C20125)堀好子:LaserCinCsitukeratomileusis術後の外傷によりフラップずれを生じた症例の治療.日眼会誌C112:465-471,C20086)SchmackI,DawsonDG,McCareyBEetal:Cohesiveten-sileCstrengthCofChumanCLASIKCwoundsCwithChistologic,Cultrastructural,CandCclinicalCcorrelations.CJCRefractCSurgC21:433-445,C2005(66)

眼内レンズセミナー:プレート型眼内レンズの破損

2024年11月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋眞鍋洋一450.プレート型眼内レンズの破損大多喜眼科白内障手術中の眼内レンズの破損が非常にまれに発生する合併症である.ループのみの破損やクラックが少し入っただけの場合はそのまま挿入することもあるが,破損部位が大きいと摘出して再挿入する必要がある.今回,プレート型眼内レンズ挿入時にレンズ破損を経験したので,その原因および対処法について考察する.●はじめに白内障手術の合併症の一つに,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)の挿入時の破損がある.多くの白内障術者が,軽度のクラックの場合はそのまま留置したり,摘出して交換したりといった対応をした経験があると思われる.しかし,学会報告まで至らないことが多いためか,実際の頻度など,文献にはなっていないことが判明した.今回はプレート型CIOLの破損を経験したので報告およびCIOL破損について考案する.C●症例と結果通常の白内障において,角膜切開C2.4mmで超音波乳化吸引術後にレンティスコンフォート(参天製薬)を挿入した.インジェクターは同社のエタニティーアクセスイーズを使用した.このインジェクターは,プランジャーを押してCIOLを挿入するタイプである.カートリッジを眼内に挿入し,プランジャーを押すときに少し抵抗を感じたが,IOL先端は通常通りに出ていた(図1).そのまま挿入したところ,先端C1/4程度の部分で横に断裂したレンズが眼内に挿入された(図2).断裂した残りの部分はインジェクターの中にとどまっていた.破損したレンズは,切開創を広げることなく有鉤鑷子にて除去した(図3).その後,再び同じ度数のレンズを挿入し手術を終了した.術後経過はとくに問題はなかった.C●考按小切開から挿入可能なフォールダブルCIOLは,当初シリコーン製のものであった.その後C1994年にアクリル素材のCIOLが登場し,現在の主流になっている.最初の頃は,まだインジェクターとCIOLは一体化しておらず,術者がインジェクターにレンズを装.してから挿入していた.その後インジェクターとの一体型(プリロード)が販売されて,挿入方法が簡便になり,レンズ破損の頻度もより低くなったと思われる.(63)IOLメーカーに問い合わせたところ,2023年のレンズや支持部の破損に関する報告では,発生率は約C0.006%(14/250,000)とあり,原因としては製造時の組付けなどの問題やセッティング時の操作(ミス)などであった.また,厚生労働省のホームページに国内不具合報告があり,その中の分類C7に眼科用機器についての記載がある2).それによると,IOLの光学部または支持部の損傷はC39件報告があった.令和C1年の手術数がC1,659,699件なので,約C0.002%となる.筆者も術中にCIOLの入れ替えが必要になったことが今まで数件あるが,厚生労働省に不具合報告を提出したことは一度もない.このように発生頻度が非常に低く,入替することにより術後合併症もないことから,ほとんど報告されていないものと思われる.筆者は以前,IOLのループが欠損したまま挿入したという報告をした1).これは欠損したまま挿入しても問題なかったという報告だったが,現在では倫理的に問題があり,摘出交換が適切であったと考える.IOLの取り出しには切開創を広げて取り出したり3,4),眼内で切断して取り出したり5),カートリッジに再び挿入して取り出したりする方法6)がある.切開創を広げて取り出す方法は乱視量が増える可能性があるが,ポリメチルメタクリレート(PMMA)製のCIOLの場合はそれしか方法はなかった.その後,シリコーンやアクリル製のCIOLになり,眼内で切断して取り出すことができるようになったが,切断時の眼内操作がややむずかしいため,角膜内皮細胞の減少などの合併症も考慮する必要があった.これらの合併症を回避するためにカートリッジに挿入して取り出す方法が考えられた.これらの摘出方法はCIOL挿入直後のみでなく,術後時間が経過してからのCIOL脱臼や偏位にも用いることができる.現在日本で認可されているプレート型CIOLはレンティスコンフォートだけである.以前はシリコーン製のプレート型CIOLが発売されていたが,当時は毛様溝に挿入していたため,シリコーンは後.との癒着が起きあたらしい眼科Vol.41,No.11,2024C13330910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1眼内レンズ挿入時の顕微鏡写真先端は普通に挿入されているように見える.あとからビデオを確認すると,眼内レンズが水平方向に断裂していることが判明した.図3摘出持の顕微鏡写真有鉤鑷子にてそのまま摘出した.摘出時に角膜に抵抗があったものの,すんなり摘出できた.ず,また虹彩との摩擦による炎症が長く続く傾向があった.そのうえ後発白内障切開術を大きく行うと,後.が裂けて硝子体中にCIOLが落下するという問題があった.レンティスコンフォートはアクリル製であるため,そのような問題はない.レンティスコンフォートのような親水性CIOLは保存液の中に保管されて販売されている.そのためプリセット化するのがむずかしいためか,親水性CIOLのプリセット型はまだ販売されていない.図2挿入直後の顕微鏡写真水平方向に断裂した眼内レンズが.内に挿入されている.今回の症例ではレンズ装.時に問題があったものと考えられるのだが,垂直方向に破損せず,水平方向に破損した原因はわからなかった.ただ,このレンズが柔らかいため,有鉤鑷子を用いて切開創を広げることなく取り出せたことは運がよかったのかもしれない.このような合併症は珍しいこととはいえ,その対処方法を知っておくことは重要であろう.文献1)眞鍋洋一:支持部欠損のまま.内固定したシングルピースアクリル眼内レンズ挿入例の経過.IOL&RSC21:236-238,C20072)令和C5年度第C2回薬事・食品衛生審議会医療機器・再生医療等製品安全対策部会議事次第.厚生労働省,2024-3-73)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000190382_00016.Chtml3)YuCAKF,CNg,ASY:ComplicationsCandCclinicalCoutcomesCofCintraocularClensCexchangeCinCpatientsCwithCcalci.edChydrogelClenses.CJCCataractCRefractCSurgC28:1217-1222,C20024)江口俊一郎:眼内レンズ交換.IOL&RSC25:183-189,C20115)郡司久人:小切開から摘出可能な新しい眼内レンズ切断法.眼科手術23:603-607,C20106)福岡佐知子,木下太賀,森田真一ほか:カートリッジと鑷子による低侵襲CIOL摘出法(C“CartridgeCpull-throughCtech-nique”).IOL&RSC34:467-474,C2020

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 強膜レンズ(1)

2024年11月30日 土曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く11.強膜レンズ(1)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C7章は強膜レンズについてである1).今回はその前編として,強膜レンズの基本的な事項から処方について紹介する.はじめに1世紀以上にわたって強膜レンズはさまざまな眼疾患の屈折矯正や治療に使用されてきた.ガス透過性素材などの製造技術や前眼部画像診断技術の進歩により,近年,強膜レンズの処方が復活している.強膜レンズの適応現在,ガス透過性強膜レンズのおもな対象疾患は,円錐角膜を含む原発性角膜拡張症(53%),眼表面疾患(18%),角膜移植後(17%)である.これらに加えて,老眼を含む単純な屈折異常を矯正するためにも使用されている.強膜レンズの用語以前はレンズ径に基づいて,大口径のハードコンタクトレンズ(HCL)を強膜レンズとしていたが,現在は「輪部を含む角膜全体を覆い,強膜上にある結膜に着地するように装着されたレンズ」と定義されている.また,メーカーにより呼称が異なるが,強膜レンズの部位は,光学部であるCopticzoneと強膜に接する周辺部のlandingzone,それらをつなぐCtransitionzoneのC3ゾーンに分類されており,本稿ではこの用語を使用する.COpticzone:屈折矯正を行い,通常のCHCLと同様にカスタマイズすることができる.また,opticzoneの後面形状を変化させてフィッティングを最適化したり,レンズの中心を偏心させて,光学系と瞳孔の位置を合わせることもできる.CTransitionzone:レンズ頂点からレンズエッジまでの高さ(lenssagittalCdepth,以下,レンズCsag)を変化させ,涙液クリアランス(lensvault)の深さを調整することができる.CLandingzone:強膜上の結膜組織と接触しており,強膜形状に応じてカスタマイズすることができる.(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYLandingzoneの形状は,レンズの吸着やセンタリング,強結膜への圧迫に影響を与える.近年では,結膜の異常を避けるための切り込みや局所的なアーチ構造(vault),吸引を減らしてレンズをはずしやすくするための開窓(fenestration),涙液クリアランスの交換を促進するための通気口(ventingchannel)などのカスタマイズが可能となってきている.眼表面の形状近年は,光干渉断層計(opticalCcoretenceCtomogra-phy:OCT)や角膜輪部形状測定法などの前眼部画像診断が進歩しており,眼表面の形状をより正確に把握できるようになっている.強膜の形状:角膜輪部後方の前部強膜は,鼻側が比較的平坦で耳側が急勾配となっているため,球状ではなく非対称またはトーリックである.角膜輪部から離れるにつれ,強膜の非対称性はさらに増大するため,大口径の強膜レンズでは,トーリックを選択するなどのカスタマイズが必要である.角膜と強膜のトーリック性は,軽度の乱視の場合には相関しないことが多く,高度の乱視や角膜の不整があった場合に強膜はより大きな不規則性を示す.角膜強膜接合部:角膜強膜接合部の非対称性は,レンズの動きやセンタリングに影響を及ぼし,とくに進行した円錐角膜ではより顕著になる.非対称性により強膜レンズが耳側に偏心することがあり,涙液クリアランスの厚みの変化や装用感悪化の原因となる.アジア人は,角膜の直径がより小さく,垂直方向の角膜形状が細長い傾向があり,角膜強膜接合部が目立ちにくい.強膜レンズ処方1.フィッティング強膜レンズはトライアルレンズを装用させて評価するあたらしい眼科Vol.41,No.11,2024C1331レンズsag眼球sag図1レンズのsagittaldepthレンズの頂点からレンズ支持部が眼表面に接触する機能的レンズ直径部分までの垂直の深さをさす.本文中ではレンズCsagと表記.一方,眼球Csagは角膜頂点から同部分までの高さをさす.が,強角膜輪部形状解析や前眼部COCTなど,レンズ選択に必要なデータを数値化する技術の進歩により,そのデータを用いた強膜レンズの設計やフィッティングが可能となっている.しかし,角膜や強膜の形状がきわめて不規則な場合には,従来通りのレンズフィッティングが必要である.C2.レンズフィッティングの評価レンズ直径:レンズ直径の選択は,角膜の直径と眼球sag,眼や眼瞼の状態,結膜異常の有無などに影響を受ける.眼表面疾患の治療を目的とした場合には,ややレンズ直径の大きなものを選択する.一般的には,レンズ後面が角膜輪部に接触しないようするために,レンズ直径は角膜径または水平方向の虹彩径よりもC1.5.2Cmm大きいものを選択する.レンズsag(図1):レンズが最初に結膜と接触する部位のレンズ直径を機能的レンズ直径といい,角膜前面に涙液クリアランスを形成するには,機能的レンズ直径における眼球CsagよりもレンズCsagを大きくする必要がある.レンズ後面プロファイル:レンズ後面は,角膜とのアライメントを改善し,より薄く均一な涙液クリアランスとなるようにカスタマイズすることができる.後面がprolate型は,opticzone後面の曲率がより急峻な,標準的なレンズ設計である.一方Coblate型は,opticzone後面の曲率が比較的平坦な設計であるため,角膜移植後や屈折矯正術後などの角膜中央部が周辺部よりも平坦な場合に適応となる.涙液クリアランスの厚み:推奨される中央部涙液クリアランスの厚みは,レンズメーカーによって異なるが,装用直後は約C300.500Cμmの厚みが必要である.結膜および強膜組織の特性,レンズ直径,デザインなど,さまざまな要因の影響を受けるが,レンズが結膜に落ち着くと,約C8時間で中央の涙液クリアランスは約C100.200Cμm減少する.そのため,装用中にレンズ後面と角膜が接触しないようにレンズCsagを設定する必要がある.おわりに今回はCCLEARの第C7章の前半を要約し解説した.現在,強膜レンズはわが国では未承認であるため,レンズを処方している施設は少ないが,世界では強膜レンズの処方割合は増えている.今後,わが国でも強膜レンズの処方は増える可能性が高く,多くの患者に恩恵を与えるのではないかと考える.文献1)BarnettM,GoureyG,FadelDetal:CLEAR.Sclerallens-es.ContLensAnteriorEyeC44:270-288,C2021

写真セミナー:眼瞼脂腺癌

2024年11月30日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史486.眼瞼脂腺癌奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①翻転した上眼瞼結膜②黄色の隆起病変図1翻転時の前眼部写真上眼瞼翻転時に眼瞼結膜に黄色の隆起病変を認める.図3翻転していない前眼部写真図4術後前眼部写真上眼瞼の腫瘍切除を施行.後葉は遊離瞼板移植術,前葉は皮膚をCadvanceして再建した.上眼瞼翻転を行わずに観察すると,瞼縁に霰粒腫様の腫瘤を認め,霰粒腫と誤診してしまう.(59)あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024C13290910-1810/24/\100/頁/JCOPY3カ月前より右眼霰粒腫疑いにて経過観察をされていた44歳の男性症例を提示する.腫瘍の増大は認めないが,改善を認めないため切除目的で当院(京都府立医科大学病院)に紹介となった.当院受診時,上眼瞼瞼縁に腫瘤を認めた.眼瞼を翻転すると瞼縁の腫瘤と連続するように,結膜から突出する黄色の腫瘤性病変を認めた(図1~3).肉眼的所見より脂腺癌を疑い,safe-tymargin:5Cmmを含めた腫瘍切除を行い,後葉は遊離瞼板移植,前葉は皮膚をCadvanceして再建を行った(図4).病理学的診断は脂腺癌であり,切除断端は陰性であった.PET-CTでは全身の腫瘍転移を認めず,術後の局所再発,転移の検索を継続して行った.術後C5年経過した現在も局所再発,転移を認めず経過している.眼瞼悪性腫瘍は脂腺癌,基底細胞癌,扁平上皮癌が多くを占める.脂腺癌はアジアにとくに多い腫瘍であり1),わが国の報告では眼瞼悪性腫瘍のC44%を占めるとされている2).基底細胞癌は皮膚に発症する腫瘍であるのに対し,脂腺癌はマイボーム腺またはCZeiss腺より発症する悪性腫瘍である.発症部位はマイボーム腺の多い上眼瞼に好発する.高齢者に多いが,中年での発症もしばしばみられる.肉眼的所見はCnodularタイプとCdi.useタイプに大別される.Nodularタイプは結節性の表面凹凸不整形の硬結腫瘤を示し,黄色.黄白色を呈することが多い.潰瘍,びらん,出血,睫毛の脱落なども同時に認める場合もある.一方,di.useタイプはびまん性に眼瞼肥厚を示し,眼瞼結膜炎・眼瞼炎様の所見を呈する.眼瞼脂腺癌は他疾患と鑑別が困難な場合がある.とくにCnodularタイプは霰粒腫,di.useタイプは眼瞼炎と誤診されることが多い.治らない腫瘍を認めた場合は常に悪性腫瘍を鑑別に入れ,積極的に生検を行い,病理学的診断を行う.脂腺癌の予後は眼瞼腫瘍の中でもとくに悪いとされている.わが国の成績では切除後の局所再発率はC6.9%程度,転移率はC7.9.9%程度とされている3,4).そのため,局所再発の有無,遠隔転移の精査を半年にC1回程度で施行する必要がある.脂腺癌の治療は,現時点では有効な化学療法は存在せず,外科的切除が第一選択である.通常CsafetymarginをC3.5Cmmに設定し,広範囲に,断端陰性になるまで切除する.欠損部した眼瞼にはさまざまな再建方法(単純縫縮,遊離瞼板移植,Hughes.apなど)を駆使する必要がある.腫瘍が眼窩内に浸潤する場合は眼窩内容除去を選択する.一方,放射線治療の治療効果は報告されているが,単独では根治可能であるとのエビデンスはなく,手術不可能な場合や緩和療法時に選択される.そのためなるべく早期に発見し,転移する前に完全切除をめざす必要がある.本症例は,霰粒腫様に見えるが,眼瞼を翻転することで脂腺癌を疑うことができた症例である.脂腺癌はマイボーム腺内に発症する腫瘍のため,表皮に突出する前に眼瞼結膜内に腫瘍が露出することも多い.脂腺癌は眼瞼悪性腫瘍の中では予後が悪い腫瘍であり,早期発見,早期手術が望ましい.日常診療において霰粒腫を疑った場合は,眼瞼を翻転し,眼瞼結膜に腫瘍性病変がないことを確認することが見逃しを減らすために重要である.文献1)SatoCY,CTakahashiCS,CToshiyasuCTCetal:SquamousCcellCcarcinomaoftheeyelid.JpnJClinOncol54:4-12,C20242)GotoCH,CYamakawaCN,CKomatsuCHCetal:EpidemiologicalCcharacteristicsCofCmalignantCeyelidCtumorsCatCaCreferralChospitalinJapan.JpnJOphthalmolC66:343-349,C20223)WatanabeCA,CSunCMT,CPirbhaiCACetal:SebaceousCcarci-nomaCinCJapanesepatients:clinicalCpresentation,CstagingCandoutcomes.CBrJOphthalmolC97:1459-1463,C20134)GotoH,TsubotaK,NemotoRetal:ClinicalfeaturesandprognosisCofCsebaceousCcarcinomaCarisingCinCtheCeyelidCorCconjunctiva.JpnJOphthalmolC64:549-554,C2020