Sjogren症候群のドライアイの管理TheManagementofDryEyeinSjogren’sSyndrome高村悦子*はじめに筆者は『ドライアイ診療ガイドライン』(2019)でCQ17「Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?」を担当した.Sjogren症候群(Sjogren’ssyndrome:SS)のドライアイについては,すでに,『シェーグレン症候群診療ガイドライン2017』(自己免疫調査研究班編集)が発刊されており,そこでもドライアイの治療の推奨作成を行っており,これも参考にクリニカルクエスチョン(CQ)を考えた.ここでは,SSのドライアイに対し,日常診療で行っている治療法について,ガイドラインで推奨する治療とあわせ紹介する.IガイドラインのサマリーSS患者のドライアイの自覚症状,涙液安定性,上皮障害の改善と有害事象をアウトカムとして,Minds診療ガイドライ作成マニュアルの方法に従い,論文のエビデンスの強さを考慮した方法でシステマティックレビューを行った.治療法としては現在,日本でドライアイの治療法として行われているレバミピド点眼,ジクアホソルナトリウム点眼,ヒアルロン酸点眼,ステロイド点眼,涙点プラグ,またドライマウスの治療薬として保険適用であるセビメリン内服,ピロカルピン内服とした.推奨の強さは,表1に示すとおりである.SSに伴うドライアイの治療として「実施することを推奨する」としたのはジクアホソルナトリウム点眼と涙点プラグであり,レバミピド点眼,ヒアルロン酸点眼,ステロイド点眼,セビメリン内服,ピロカルピン内服は「実施することを提案する」となった.ジクアホソルナトリウム点眼,涙点プラグはSSのドライアイに対し,有効性の指標となる涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状のいずれにも有意な改善がみられた.有害事象として,涙点プラグには,自然脱落,涙点の肉芽形成があげられるが,これはSS以外のドライアイと同程度であり,重大な報告はみられていないと判断し,治療の選択肢として推奨することとした.しかし涙点プラグは外科的治療であり,設備やある程度の習熟を伴うため,施行できない施設があるといった問題が残る.一方,レバミピド点眼,ヒアレイン点眼は,検討された項目については改善を認めてはいるが,SSのドライアイに対する治療の有効性について,目的とするアウトカムに合致した検討が十分されておらず,エビデンスが乏しかったため,提案に留めた.ステロイド点眼は短期間での症状の改善を経験する一方,眼圧上昇,感染症といったドライアイ以外の副作用のモニターが必要であり,通院回数などの患者の負担を考え提案とした.セビメリン内服,ピロカルピン内服は唾液分泌同様,涙液分泌の可能性もあるものの,ドライアイに対しては,保険適用とはなっていない.適応,禁忌の見きわめ,全身的な副作用を生じる可能性があることを考え,提案とした.*EtsukoTakamura:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕高村悦子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(41)685表1Sjogren症候群に伴うドライアイの治療として有効なものは何か?(ガイドラインのサマリー)推奨提示(1)レバミピド点眼は,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(2)ジクアホソル点眼は,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として推奨する.(3)ヒアルロン酸点眼は角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(4)ステロイド点眼は,角結膜上皮障害,涙液安定性,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.(5)涙点プラグは,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として推奨する.(6)セビメリン内服,ピロカルピン内服は,涙液安定性,角結膜上皮障害,自覚症状を改善し,治療の選択肢として提案する.表2Sjogren症候群診断基準(厚生省改訂診断基準,1999年)1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)口唇腺組織でC4CmmC2あたりC1Cfocus(導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤)以上B)涙腺組織でC4CmmC2あたりC1Cfocus(導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤)以上2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)唾液腺造影でCStageI(直径C1Cmm未満の小点状陰影)以上の異常所見B)唾液分泌量低下(ガム試験にてC10分間でC10Cml以下またはCSaxonテストにてC2分間でC2Cg以下)があり,かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)Schirmer試験でC5分間にC5Cmm以下で,かつローズベンガル試験(vanBijsterveldscore)でC3以上B)Schirmer試験でC5分間にC5Cmm以下で,かつ蛍光色素試験で陽性4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)抗CRo/SS-A抗体陽性B)抗CLa/SS-B抗体陽性<診断基準>上のC4項目のうち,いずれかC2項目以上を満たせばCSjogren症候群と診断する眼科検査の項目は,Schirmer試験と染色試験の組み合わせで判定する.(文献C1より引用)表3ACR分類基準(2012年)1.血清抗CSS-A抗体Cand/or抗CSS-B抗体あるいはリウマチ因子陽性かつ抗核抗体C320倍以上2.口唇唾液腺生検でCfocusscore1以上3.眼染色スコア(OSS12点満点中)≧3陽性:3項目中C2項目以上を満たせばCSSと分類除外基準:頭頸部の放射線治療,C型肝炎,免疫不全症候群,サルコイドーシス,アミロイドーシス,宿主対移植片病,IgG4関連疾患ドライアイの評価にCSchirmer試験は含まれていない.結膜染色にはフルオレセイン,結膜染色にはリサミングリーンを用いる.評価は眼染色スコア(ocularstainingscore:OSS)で行う.(文献C3より引用)表5眼染色の評価項目の比較厚生省基準vanBijsterveldscore≧3(ローズベンガル)or蛍光色素試験陽性(角膜)AECG基準vanBijsterveldscore≧4(ローズベンガル)ACR基準ocularstainingscore≧3ACR/EULAR基準vanBijsterveldscore≧4orocularstainingscore≧5各診断基準におけるドライアイの評価の違い.表4ACR.EULARの一次性SS分類基準(2016年)Weight/Score・口唇唾液腺の巣状リンパ球性唾液腺炎でCfocusscore≧1C3・抗CSS-A(Ro)抗体陽性C3・少なくとも一方の目でCOSS≧5(あるいはCvanBijsterveldscore≧4)C1・少なくとも一方の目でCSchirmerテスト5Cmm/5分以下C1・無刺激唾液分泌量C0.1Cml/5分以下C1合計C4点以上で一次性CSSと分類適用基準:眼あるいは口腔乾燥症状のある患者,あるいはESSDAIでCSS疑いの患者除外基準:頭頸部の放射線治療,C型肝炎,免疫不全症候群,サルコイドーシス,アミロイドーシス,宿主対移植片病,IgG4関連疾患染色法は,ACR基準と同様.眼染色の評価には,ocularstain-ingscore(OSS)またはCvanBijsterveldscoreで行う.(文献C4より引用)図1TFOTから考えるSjogren症候群のドライアイの治療Sjogren症候群のドライアイでは,まず液層,とくに水分の強化が必要().液層のムチン,粘膜上皮の改善も症状改善に役立つ().(ドライアイ研究会ホームページChttp://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlより)-善が報告されている9).角膜上皮障害の程度が強い場合には点眼時の刺激感の訴えがあるが,点眼を継続し,涙液安定性が改善してくると,この刺激感も緩和され継続可能となることを経験する.ムチンの分泌の程度によっては,透明な分泌物を自覚することはあるが,これは分泌型ムチンの増加,つまり効果と考えられ,そのために使用を中断することはあまりない.2010年にジクアホソルナトリウム点眼が処方可能となったあとも,点眼後のつけ心地の点でヒアルロン酸点眼を好むCSSのドライアイ患者は少なくなかった.最近では,つけ心地がよいことが点眼薬本来の効果ではないことや,点眼継続により刺激感が軽減する可能性について処方時に説明しておけば,点眼中止に至ることは避けられる.いずれのドライアイの治療も,涙点プラグ以外は即効性は期待できないが,継続していくうちに症状の改善が得られる.ヒアルロン酸点眼の継続で症状の改善がみられないドライアイ患者に対しては,まず,ジクアホソルナトリウム点眼を併用してみる.その後症状の改善傾向がみられ,点眼の刺激感がなくなってくれば,ジクアホソルナトリウム点眼のみに変更し継続することで,患者もジクアホソルナトリウム点眼の効果を実感しやすい.C2.涙点プラグ重症なCSSであっても涙腺がすべて破壊されているわけではない.ごく少量の涙液分泌は行われていることが多い.涙点プラグで上下の涙点を塞ぐことで,涙液の貯留が期待できる.現在点眼薬として処方できるもので,成分として涙液に勝るものではない.今回のシステマティックレビューの結果,SSのドライアイに対する涙点プラグ挿入により,Schirmer試験CI法,BUTは有意な改善を認め,角結膜上皮障害の改善も示され,また涙点プラグ群が人工涙液群に比べより改善したことが示されていた10).一方,有害事象として,肉芽形成,感染症が生じる可能性があるが,SSのドライアイの場合に頻度が高いということではなかった.涙点プラグ施行後は定期的な経過観察により,肉芽形成や感染症の悪化は防ぐことが可能と思われる.3.ヒアルロン酸点眼ヒアルロン酸点眼は,高分子であり涙液を眼表面に保持する働きが期待できる.今回の検討では,SSのドライアイに対し角結膜上皮障害,自覚症状を改善させる可能性があるものの,涙液安定性の改善は不明であった11).BUTパターン12)がCareabreakを示す重症な涙液減少型ドライアイでは,眼表面の残り少ない涙液をヒアルロン酸が取り込んでしまうことで,むしろ涙液の安定性を悪化させる可能性が考えられる.したがって,SSの典型的なドライアイに対しては,患者の要望がよほど強い場合を除き,ヒアルロン酸点眼の選択は行っていない.ジクアホソルナトリウム点眼はヒアルロン酸点眼に比べ,ドライアイの角膜所見の改善に有効性が認められており13),重症ドライアイに対しては,まずジクアホソルナトリウム点眼を選択している.C4.レバミピド点眼レバミピド点眼は膜型ムチンの発現増加,分泌型ムチンの分泌亢進,杯細胞の増加に働く.その結果,涙液安定性を高める.とくに摩擦による角結膜上皮障害の改善が早期に得られ,自覚症状の改善が期待できる14).SSのドライアイに対し,角結膜上皮障害,自覚症状を改善させる可能性はあるが,レバミピド点眼単独ではSchirmer試験,BUTなどの涙液安定性を短期間に改善させる可能性は少ない15).ただし,涙点プラグやジクアホソルナトリウム点眼を開始しても,とくに眼瞼との摩擦を生じる部位に角結膜上皮障害が継続し,自覚症状の改善が得られない場合には,レバミピド点眼を追加,または切り替えることで症状が改善することを経験する.C5.ステロイド点眼SSの角膜障害は涙液の量的,質的変化を反映していると考えている.一方,結膜上皮障害は,それに加え,SSや重症ドライアイの病態に関連した結膜上皮自体の炎症を反映しているのかもしれない.1995年にヒアルロン酸点眼薬が処方可能となる以前には,SSのドライアイに対し,防腐剤無添加人工涙液の継続とステロイド点眼の併用による治療を行っていた.結膜局所の炎症は,涙液安定性の低下の悪循環を形成することが考えら(45)あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020C689れる.ステロイド点眼はこの悪循環を改善する可能性がある.0.1%フルオロメトロン点眼は,シクロスポリン点眼との比較16),プラセボとの比較17)で,自覚症状,角結膜上皮障害の改善とともに,BUTの有意な延長が認められることが報告されている.しかし,日常診療においては,ステロイド点眼による眼圧上昇や眼感染症の悪化に注意を払う必要がある.C6.セビメリン内服,ピロカルピン内服涙腺は,唾液腺と同様,副交感神経から分泌されるアセチルコリンが涙腺のCM3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体と結合することで,涙液分泌が起こる.セビメリン,ピロカルピンはこの受容体に対しアゴニストとして働き,涙液の分泌を促すことが確認されている.SSのドライアイに対しセビメリン内服は自覚症状,涙液安定性,角結膜上皮障害の改善効果が示されている18).ピロカルピン内服もほぼ同様な効果が期待できる19).副交感神経作動薬の全身投与であるため,嘔気などの消化器症状,発汗,頻尿などを生じることがある.虹彩炎患者では縮瞳が症状を悪化させることがあるため,添付文章では禁忌と記載されている.日本では,いずれの内服もドライアイに対しては保険適用にはなっていない.CVガイドラインで触れられていないCQとその答え「ステロイド,免疫抑制薬,生物学的製剤はCSSのドライアイに有用か?」SSは全身の自己免疫機序による疾患であり,その発症にかかわるサイトカインや免疫細胞,免疫分子を標的とした生物学的製剤などの治療戦略も展開されはじめている.これらの全身治療薬は,SSの腺病変における免疫学的異常に作用し,涙液分泌を改善することが期待されている.しかし,ステロイド,免疫抑制薬(シクロスポリン20),アザチオプリン),ヒドロキシクロロキン21),生物学的製剤(リツキシマブ22),アバタセプト)による涙液分泌量,乾燥症状の有意な改善はいずれも認められていない.今後,病態に即した,根本的な治療法の開発が待たれるところである.おわりにSSのドライアイの管理としては,現在保険適用となっている治療薬,涙点プラグを組み合わせ,経過観察を続けることで,ドライアイ症状の改善は得られるようになってきた.一方,SSは全国指定難病にも認定されているように,腺外症状を含めた全身の管理が重要である.膠原病を専門とする内科医,ドライマウスの管理ができる歯科,耳鼻咽喉科医との連携により,SS患者にとって満足が得られる管理ができるのではないだろうか.文献1)FujibayashiCT,CSugaiCS,CMiyasakaCNCetal:RevisedCJapa-neseCcriteriaCforCSjogren’ssyndrome(1999):availabilityCandvalidity.ModRheumatolC14:425-434,C20042)VitaliC,BombardieriSJonssonRetal:Classi.cationcri-teriaCforCSjogren’ssyndrome:aCrevisedCversionCofCtheCEuropeanCcriteriaCproposedCbyCtheCAmerican-EuropeanCconsensusgroup.AnnRheumDisC61:554-558,C20023)ShiboskiCSC,CShiboskiCCH,CCriswellCLACetal:AmericanCcollegeofrheumatologyclassi.cationcriteriaforSjogren’ssyndrome:aCdata-driven,CexpertCconsensusCapproachCinCtheCSjogren’sCinternationalCcollaborativeCclinicalCallianceCcohort.ArthritisCareResC64:475-487,C20124)ShiboskiCCH,CShiboskiCSC,CSerorCRCetal:2016CAmericanCcollegeCofCrheumatologyC/EuropeanCleagueCagainstCrheu-matismCclassi.cationCcriteriaCforCprimaryCSjogren’sCsyn-drome.AnnCRheumDis76:9-16,C20175)WhitcherJP,ShiboskiCH,ShiboskiSCetal:Asimpli.edquantitativeCmethodCforCassessingCkeratoconjunctivitisCsiccaCfromCtheCSjogren’sCsyndromeCinternationalCregistry.CAmJOphthalmolC149:405-415,C20106)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20177)YokoiN,SonomuraY,KatoHetal:Threepercentdiqua-fosolophthalmicsolutionasanadditionaltherapytoexist-ingarti.cialtearswithsteroidsfordry-eyepatientswithSjogren’ssyndrome.EyeC29:204-212,C20158)HyunCSJ,CJoonYH:TheCe.cacyCofCdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCnon-SjogrenCandCSjogrenCsyndromeCdryCeyeCpatientsunresponsivetoarti.cialtears.JOculPharmacolTher32:463-468,C20169)KohCS,CMaedaCN,CIkedaCCCetal:E.ectCofCdiquafosolCoph-690あたらしい眼科Vol.37,No.6,2020(46)’C’C-’C’C’C