考える手術.監修松井良諭・奥村直毅穿孔性眼外傷の手術橋田正継町田病院穿孔性眼外傷は保護眼鏡が普及して減少している感があるが,程度や対応によっては予後不良となる可能性がある.穿孔創が角膜にあれば発見が容易であるが,結膜の刺入部が不明なケースでは発見が遅れることがあるので,疑えば超音波検査かCTなどの画像診断を行う.磁性異物の可能性があればMRIは行わない.角膜裂傷は房水漏出がわずかであればソフトコンタクトレンズの装用で治癒する可能性があるが,前房が消失していたり虹彩が嵌頓している場合は光学部への影響が最小限になるように縫合する.早期に縫合を要することが明白であれとがある.外傷性白内障に対して超音波乳化吸引術(PEA)を行う際には,前.切開が不連続になったり後.損傷していることもあるので,灌流圧と吸引設定を下げて角膜創部からの灌流液の漏出を抑えて対処する.核落下に対しては25ゲージ(G)システムのカッターであればグレード2.5程度までの核処理はできるが,それ以上硬い核にはフラグマトームを用いるか液体パーフルオロカーボンなどで瞳孔付近に水晶体を持ち上げてPEAを行う.受傷直後には眼内炎は発症していないが,穿孔時に微生物が入った可能性を念頭に抗菌薬を予防的に投与する.眼内レンズは度数決定が困難なことが多く,眼内炎の可能性もあるので二期的に挿入する戦略も考える.眼内異物は成分と形状によっては摘出が困難な場合がある.磁性異物ならマグネットを用いれば容易だが,20Gのマグネットに比して25Gは磁力が弱いので,扁平部ポートを20G以上に拡大して大きな創から摘出したほうが確実である.扁平部からの摘出が困難であれば,径瞳孔的に前房に出して輪部から取り出すこともある.聞き手:穿孔性外傷患者の診察の流れを教えてくださ視力の有無を記載し,眼圧測定は最小限の侵襲で試みい.て,測定が不能であればその事実を記録するようにしま橋田:外傷がどういう経緯で発生したかを診療録に残すす.小児や高齢者では正確な情報が得られにくいことも必要があります.訴訟になった際には,第三者行為であありますが,受傷時に周囲にいた人から情報を集めて眼ったかや初診時の視力や眼圧が争点になる可能性があり内異物の有無も予想しながら画像診断を行います.超音ますので,測定が困難な場合でも手動弁や光覚弁以上の波検査は角膜裂傷がない場合に用いますが,眼球破裂が(65)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C11070910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術疑われる際には眼瞼上から侵襲を最小限に短時間で行うようにします.工事現場などでの爆発では多量の飛散物に暴露されて眼窩内や眼内に異物が残っている可能性があります.CTは眼内異物が疑われる場合に用いますが,ガラスやプラスチック,木片の検出能はやや劣り,小児であれば被曝線量のリスクも勘案して撮影を検討します.MRIはCCTで写らない異物の検出や軟部組織の描写に優れているので,磁性異物がなければ眼内のみならず眼窩内の状態を評価するためにとても有用です.また,角膜障害で隅角付近の異物が検出困難な場合に前眼部COCTが役立つこともあります.聞き手:非磁性眼内異物の摘出で気をつけることはありますか.橋田:磁性異物ではマグネットが有効ですが,大きな非磁性異物の場合には硝子体鑷子での把持や,フィネッセフレックスループ(アルコン社)を用いての摘出は困難で難渋することがあります.他科の器具を応用する場合には,20ゲージより大きな創口が必要になります.液体パーフルオロカーボンは,より比重が大きなガラス片でも,表面張力の作用を応用して黄斑から移動させることで,安全な摘出に寄与するという報告1)があります.聞き手:二重穿孔をきたした患者にはどのように対応するのでしょうか.橋田:異物が小さいケースが多く,創口が自然閉鎖する可能性があります.眼内や眼窩内の炎症が明らかでなければ緊急対応が必要でないこともありますが,異物の性状によって予後が異なります.木片などは積極的に除去する必要があります.聞き手:感染対策はどのようにしていますか.橋田:眼内異物を認めた症例ではC6.9~16.5%に眼内炎が発症したという報告2)があります.受傷時に環境菌が眼内に持ち込まれた可能性がありますので,眼内灌流液に抗菌薬を添加します.術後眼内炎の方法に準じてセフタジジムはC0.4Cmg/ml,バンコマイシンはC0.2Cmg/mlの最終濃度になるように灌流液に溶解します.手術終了時にC0.1Cmlのワンショット投与する方法を推奨する報告もありますが,眼内容積が異なる可能性があることや前房水も同等の条件になるようにと考えると,最初から上記の濃度で手術を開始するようにしたほうがよいでしょう.溶解方法は抗菌薬(モダシンはC0.5CgとC1CgがありますがC1gのバイアルであれば)1バイアルをC5mlのBSSで溶解して,そのC1CmlをC500CmlのCBSSに溶解すると上記の濃度になります.また,ヨードを用いた硝子体手術も報告されていて,有効な可能性が考えられます.聞き手:外傷で網膜.離を合併した患者について,タンポナーデの際の注意点はありますか.橋田:拡張性ガスであるCSFC6やC3F8には抗菌作用が報告されていますが,黄斑円孔にCSFC6を用いた治療後に眼内炎を生じたケースを私自身が複数例経験していますので,ガスや空気を用いた場合は術後眼内炎の発症に注意が必要です.シリコーンオイルは抗菌作用がより高いと思われ3),上記の濃度で抗菌薬を添加した硝子体手術のあとにシリコーンオイルタンポナーデを併用すると,安全で術後の眼底観察にも有用と考えます.文献1)UngC,LainsI,PapakostasTDetal:Per.uorocarbonliq-uid-assistedCintraocularCforeignCbodyCremoval.CClinCOph-thalmolC12:1099-1104,C20182)AhmedCY,CSchimelCAM,CPathengayCACetal:Endophthal-mitisfollowingCopen-globeCinjuries.CEye(Lond)C26:212-217,C20123)OzdamarA,ArasC,OzturkRetal:Invitroantimicrobi-alCactivityCofCsiliconeCoilCagainstCendophthalmitis-causingCagents.RetinaC19:122-126,C1999☆☆☆1108あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024(66)