●連載◯295監修=福地健郎中野匡295.緑内障,近視に伴う篩状板変化齋藤瞳東京大学医学系研究科眼科学教室篩状板は視神経の支持組織であり,篩状板を通る神経線維を圧負荷から守る組織である.眼圧上昇や眼軸延長は篩状板形状にさまざまな影響を与え,それらが視機能障害につながると考えられている.篩状板の構造の詳細な理解は,緑内障や近視の与える緑内障脆弱性の解明のうえで非常に重要である.●はじめに篩状板とは視神経が強膜を貫く部分であり,視神経の支持組織としての役割を果たす.篩状板は多数の孔(laminapore)を伴う網目状のコラーゲン組織であり,その孔を神経線維が通る.眼球には眼圧による内圧だけでなく,脳脊髄圧に代表される外圧も常にかかっているが,篩状板が両者の圧のバランスを取り,耐荷重性を発揮する.この篩状板に過剰な圧がかかったり,篩状板が変形・変性したりすることによって耐荷重性が下がると,視神経に障害が生じるため,篩状板は緑内障の主たる障害部位であると考えられている.C●緑内障に伴う篩状板変化著しい眼圧上昇が起きると,内圧の高まりにより篩状板が後方偏位を起こすことはよく知られている1).この現象は,濾過手術などによる眼圧下降によって回復することから2),篩状板の物理的な圧排が原因と考えられている.しかし,正常眼圧緑内障でも篩状板深度(網膜面から篩状板前面までの距離)は深化することが知られており(図1),緑内障の病期とともに深化するといわれている.これは圧排が原因ではなく,慢性的な篩状板への圧負荷や血流・栄養障害などにより篩状板厚が薄くなることと関係しているのではないかと考えられている.また,篩状板は常に眼内圧と脳脊髄圧にさらされており,そのバランスが崩れると篩状板変形が起きる可能性が指摘されている.動物実験では,眼内圧よりも脳脊髄圧のほうがより顕著に篩状板偏位に関係していたとの報告もあり3),正常眼圧緑内障などの病因の一つと考えられているが,生体内で脳脊髄圧の検査をすることは侵襲を伴うため,その詳細は未だ明らかにされていない.そのほか,人種によって篩状板の位置や眼圧上昇に対する圧耐性が異なることが報告されている.篩状板コラーゲン組織の性質の違いが,人種間の緑内障感受性に影響を与えている可能性がある.C●近視に伴う篩状板変化近視は眼軸延長と非常に強く相関しており,眼球組織が伸展する際に多岐にわたる組織変形を伴うことが知られている.非病的近視正常眼において,眼軸延長とともにCBruch膜と強膜の相対的位置ずれの拡大(臨床的には乳頭周囲網脈絡膜萎縮の拡大として観察される),乳頭周囲の脈絡膜の菲薄化,強膜管の拡大および乳頭周囲強膜の後弯が生じることが近年の光干渉断層計を用いた研究で報告されている4).篩状板は強膜で眼球に固定されているため,強膜の偏位,後弯,開口部の拡大は直接篩図1正常眼と緑内障眼の篩状板深度a:30歳代,女性.眼軸長C25.28Cmmの正常眼.b:40歳代,男性.眼軸長C25.02mm.静的視野検査のCmeandeviation.10.43CdBの緑内障眼.篩状板深度(..)をCBMO断端を結んだ線(ピンク線)から篩状板前面(青線)まで測っている.Bの緑内障眼のほうが深い.(85)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025850910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2正視眼と近視眼の篩状板形状の違いa:30歳代,女性.眼軸長C22.67Cmmの正常眼.Cb:50歳代,男性.眼軸長C26.50Cmmの強度近視正常眼.近視眼のほうが篩状板前面(青線)が平たく,浅くなっている.図3変形した強度近視眼の篩状板70歳,女性.眼軸長C27.81mm.Ca:眼底写真.全周を傍乳頭網脈絡膜萎縮に取り囲まれている.b:光干渉断層計像.乳頭周囲強膜が著しく後弯しており,下耳側には強膜の突出が認められる(..).篩状板前面(青線)は大きく歪んでいる.状板の変形につながる.典型的な近視眼では篩状板が耳側に引き延ばされて,皿型の,広く,浅い篩状板形状をとる(図2).病的近視眼のように眼軸延長がさらに著しくなると,組織の伸展が眼軸延長に追いつけなくなり,強膜の強い変形による篩状板の歪みが顕著になる(図3).C●近視性変化が緑内障感受性に与える影響近視は緑内障の最大のリスクファクターとされているが,その要因の一つとして近視による篩状板変形が関係していると推測されている.篩状板が変形することにより,低眼圧でも圧負荷を受けやすくなり,緑内障性障害を生じる可能性が指摘されている.これはわが国において近視を伴う正常眼圧緑内障の割合が非常に高いこととも関連していると思われる.また,病的近視眼の組織断裂などは眼圧上昇とは機序の異なる視機能障害を起こしているのではないかと考えられるが,これらの組織断裂が眼圧感受性を高めている可能性もあり,間接的に眼圧依存性の緑内障性変化につながっているとも考えられる.C●おわりにこのように篩状板は視神経線維を守るうえで非常に重C86あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025要な組織であるが,高眼圧により変形してしまったり,逆に近視により変形した篩状板が視機能障害につながったりするなど,篩状板が緑内障と深いつながりがあることを述べた.近年の画像化技術の進歩により篩状板関連の新規報告は多数行われており,緑内障の病態や近視が緑内障に与える影響が解明される日も少しずつ近づいているものと期待している.文献1)YanDB,ColomaFM,MetheetrairutAetal:DeformationofCtheClaminaCcribrosaCbyCelevatedCintraocularCpressure.CBrJOphthalmolC78:643-648,C19942)LeeEJ,KimTW,WeinrebRN:Reversaloflaminacribro-saCdisplacementCandCthicknessCafterCtrabeculectomyCinCglaucoma.OphthalmologyC119:1359-1366,C20123)MorganWH,ChauhanBC,YuDYetal:Opticdiscmove-mentwithvariationsinintraocularandcerebrospinal.uidpressure.InvestOphthalmolVisSciC43:3236-3242,C20024)SaitoH,KambayashiM,AraieMetal:Deepopticnerveheadstructuresassociatedwithincreasingaxiallengthinhealthymyopiceyesofmoderateaxiallength.AmJOph-thalmolC249:156-166,C2023(86)