■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く10.オルソケラトロジー(3)土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C6章はオルソケラトロジーについてである.今回はその第C3回目で,近視コントロール関連が中心である.近視の定義,進行のメカニズム,管理,および治療の有効性に関する研究結果などがとりあげられている.近視と近視進行本章1)ではオルソケラトロジー(orthokeratology)はortho-kと略されており,本稿でも踏襲する.C1.近視の程度と評価法近視の定義は,一般的にも国際的にもC.0.50D以下としている報告が多い.近視の進行は,近視の程度や年齢,家族歴,民族的背景などの要因によって影響を受ける.とくにアジア系の子どもにおいては,若年層での近視進行が早く,6.8歳の中国系の子どもでは,年間C1D以上の進行が一般的とされる.①近視進行の評価法:近視進行の程度は,屈折値(D)や眼軸長(mm)で評価される.ortho-K装用による近視の真の進行を評価するためには,装用を中断し角膜が治療前の状態に戻るのを待つ必要がある.②近視抑制効果の定量化:近視抑制の効果は,治療群と対照群の平均変化量の差として報告されることが多いが,眼軸伸長や近視度数の絶対値も重要である.とくにortho-K治療の初期段階では進行の抑制が顕著にみられることが多いが,治療が長期化するとその効果が減少する傾向がある.C2.近視抑制の管理近年,近視の子どもをどのように管理し,治療を選択するかが重要視されている.ortho-Kは適切なガイドラインに基づいて実施されるべきであり,標準的な治療アプローチから個別化された治療へと移行することが推奨される.具体的には,年齢,屈折状態,近視の進行歴,親の近視の家族歴,個々のニーズやライフスタイルなどを考慮して,治療を個別化することが重要とされる.C①ortho-Kの開始:近視の進行を抑制するための段階的な戦略として,まずはC10歳未満の子どもには環境要因をコントロールとして,屋外活動を増やすことが推奨されている.ハイリスクの子ども,とくに病的な近視(.5.00D以上または眼軸長C26Cmm以上)の場合は,臨(73)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY床的介入が推奨されている.C②ortho-Kの中止:治療中に近視進行抑制効果が不十分な場合や,眼科的な問題が発生した場合には,他の治療法への切り替えを検討する必要がある.とくにortho-Kの治療中止後にも近視の進行が再発する可能性があるため,治療終了後も継続的な監視が推奨される.C3.近視進行抑制効果の有効性の評価ortho-Kによる近視進行抑制効果はC2005年にCLongi-tudinalCOrthokeratologyCResearchCinCChildren(LORIC)2)で初めて報告された.その後,RetardationCofCMyopiaCinOrthokeratology(ROMIO)スタディ3)や他の臨床試験でも同様の結果が報告されている.ortho-Kを装用した子どもは,単視眼鏡を使用した対照群と比較して眼軸の伸長が有意に抑制されたとされる.トーリックCortho-Kは,角膜乱視が中程度から高度の子どもにおいて近視進行抑制効果が報告されている.それによれば,単視眼鏡を使用した対照群と比較して,眼軸の伸長がC52%抑制されたとある.C4.近視抑制に関連する要因①開始年齢:ortho-Kによる効果は,治療を開始する年齢と強く関連している.とくに若いうちに治療開始することで,眼軸の伸長がより抑制されることが示されている.②屈折値:もともと近視の程度が強い子どもでは,ortho-K治療中の眼軸伸長が少ないことが報告されている.しかし一部の研究では,基礎屈折度と眼軸伸長の間に統計的に有意な関連がないとする報告もある.③角膜の屈折力とその変化:ortho-Kによる角膜形状の変化は,近視進行抑制の有効性に影響を与える可能性がある.とくに角膜の中間周辺部の屈折力変化が大きい場合は,眼軸の伸長が遅くなることが報告されている.あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C1221オルソケラトロジーによる近視進行抑制のメカニズムortho-kによる近視抑制効果の正確なメカニズムは完全には解明されていないが,本章では考えられる光学的な影響を説明している.①周辺部デフォーカス:視覚体験は眼の成長に影響を与えることが知られており,ortho-Kが引き起こす相対的な周辺部遠視性デフォーカスが,近視進行抑制効果に寄与していると考えられている.複数の研究において,中心部からC35°の範囲で相対的な周辺部遠視デフォーカスが報告されている.②高次収差:ortho-K治療後,角膜形状が変化することで,高次収差が増加する.とくに,主要な球面収差やコマ収差の増加が観察され,これが近視進行の抑制に関連している可能性がある.③調節:近業作業と調節が近視の発症と関連しているため,ortho-Kが調節機能に与える影響も調査されている.ortho-K装用により調節の遅延が減少し,これが近視抑制効果に寄与している可能性があるとする報告がある.④瞳孔径:瞳孔径は周辺部屈折,高次収差,調節反応に影響を与える可能性があるが,暗所での瞳孔径拡大がortho-K治療中の眼軸伸長の抑制に関連していることが示唆されている.⑤治療ゾーンサイズ:ortho-Kレンズの治療ゾーンサイズは治療効果に影響を与える可能性がある.たとえば治療ゾーンサイズがより小さい場合は,相対的な周辺部角膜急峻化と正の球面収差を引き起こし,近視進行の抑制に寄与する可能性がある.⑥ジェッセンファクター:ジェッセンファクター4)または圧縮係数とは,望ましい視力を維持するために目標矯正度数に追加される屈折バッファーで,C.0.75Dであることが多い.ジェッセンファクターの増加がCortho-K治療中の眼軸伸長を抑制する効果に関連していることが報告されている.⑦脈絡膜:脈絡膜は,眼球の成長に関与する信号の伝達に重要な役割を果たしている.ortho-K治療後に脈絡膜の厚みが増加することが観察されており,この変化が眼軸伸長の抑制と関連している可能性がある.オルソケラトロジーの未来ortho-kの技術は近年大きく進化し,将来的にはさらに発展が期待されており,その展望と課題について議論されている.C1.未来のortho-KレンズデザインOrtho-Kレンズデザインの目標は近視進行抑制効果を高めることであり,とくに軽度近視や角膜乱視をもつ患者への治療効果を向上させることが求められる.また,各患者の瞳孔径や角膜プロファイルに基づいたカスタマイズされたレンズデザインが,より一般的になることが予想されている.C2.組み合わせ治療最近の研究では,ortho-KとC0.01%アトロピンとを組み合わせた治療が近視進行抑制に有効であることが示されている.組み合わせ治療により,単独治療よりも効果的に眼軸伸長が抑制されることが報告されているが,費用やリスクを考慮する必要がある.まとめortho-kは近視の一時的な矯正や進行抑制に効果的な方法であるが,その効果を最大限に引き出すためには適切な管理と個別化が必要である.今後の技術の進歩と研究により,ortho-Kはさらに多くの患者に恩恵をもたらす可能性がある.文献1)VincentCSJ,CChoCP,CChanCKYCetal:CLEARC-Orthokera-tology.ContLensAnteriorEye44:240-269,C20212)ChoCP,CCheungCSW,CEdwardsMH:TheClongitudinalCorthokeratologyCresearchCinchildren(LORIC)inCHongKong:aCpilotCstudyConCrefractiveCchangesCandCmyopicCcontrol.CurrEyeResC30:71-80,C20053)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.CInvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,C20124)ChanCB,CChoCP,CMountfordJ:TheCvalidityCofCtheCJessenCformulaCinovernightCorthokeratology:aCretrospectiveCstudy.OphthalmicPhysiolOptC28:265-268,C2008