監修=木下茂●連載227大橋裕一坪田一男227.EDOF眼内レンズ(TechnisSymfony)三木恵美子南青山アイクリニックEDOF眼内レンズのひとつであるCTechnisSymfony(テクニスシンフォニーオプティブルーとテクニスシンフォニートーリックオプティブルー)について,見え方と使い方を紹介する.従来の多焦点眼内レンズに比べて見え方の質は改善されているが,術後に得られる見え方と可能性のある不具合を理解し,それぞれの目的に合ったレンズを選ぶことが重要である.C●はじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類が増え,それぞれに見え方の質の改善にいろいろな工夫がなされており,白内障術後に眼鏡使用を減らし,より快適な生活が期待できるようになった.しかし,にじみ,グレア,ハローなどは避けることができず,それらを軽減しCQOVの向上がさらに望まれるところである.テクニスシンフォニーオプティブルーとテクニスシンフォニートーリックオプティブルー(いずれもジョンソン・エンド・ジョンソン,以下,Symfony)はCextend-eddepthoffocus(EDOF)IOLのひとつで,焦点深度を拡張することにより,遠方から中間まで連続して見ることができる.単焦点CIOLの遠方視力の質を落とすことなく,多焦点CIOLのように広範囲が見えるCIOLである.C●レンズの設計Symfonyは独自のエシェレット回折デザインにより,すべての透過光が相互に干渉し,焦点深度を拡張(約1.5D相当)するように設計されている.Achromatictechnologyにより色収差を低減しコントラスト感度をlogMAR視力(少数視力)(2.00)-0.3(1.60)-0.2(1.25)-0.1(1.00)0.0(0.80)0.1(0.63)0.2(0.50)0.3(0.40)0.4(0.32)0.5(0.25)0.6■TECNISSymfony.IOL2.01.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0付加度数図1焦点深度曲線単焦点CIOLに比べて中間(1.5D)まで良好な視力が続き,その後の落ち込みも少ない.(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)向上させ,回折溝のない中心部も広く設定されており,光の損失率は8%と他の多焦点CIOLに比べ少なくなっている1).Symfonytoricの乱視矯正量はC4段階(角膜面で1.03/1.54/2.06/2.57D)である.C●見え方の改善焦点深度拡張に伴い,遠方から中間まで落ち込みがない自然な見え方が得られ(図1)グレア,ハローなどのdysphotopsiaが軽減される(図2).また,光の損失率が抑えられることによって,従来の加入度数が多い多焦点CIOLで問題になる夜間視も比較的良好に保たれると考えられる.色収差の低減によってコントラスト感度低下は少ないとされる2).しかし,近距離視力は不十分なので,近見時の眼鏡使用が前提となる.図2IOLの違いによる光学特性a:Symfonyでは焦点深度が延長される.Cb:単焦点ではC1カ所に焦点が結ばれる.Cc:2焦点ではC2カ所に焦点を結ぶが,周辺にCdysphotopsiaの原因になる焦点を結ばない光がみられる.(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)(85)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5070910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3Symfony挿入例回折溝のない中心部が広く設計されている.●Symfonyの適応2重,3重焦点の多焦点CIOLにより眼鏡使用頻度は少なくできるが,グレア,ハローが避けられず,場合によっては夜間運転に影響する可能性がある.不満例では摘出も報告されている3).SymfonyでもCdysphotopsiaは起こるが軽度であり,多焦点CIOLによる見え方の質の低下が心配な人にはいい適応である.また,従来の多焦点CIOLより収差は許容でき,LASIKやレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)後の眼にも使用可能である.ただし,強い収差や角膜の不正乱視などは慎重に検討するべきである.緑内障や黄斑変性症などがある場合は視力が出にくいと考えられるので,術前のCOCTなどで十分に評価を行う.読書には老眼鏡が必要(1~1.25D加入)だが,海外ではタブレットなどの端末は裸眼で問題ないとしている.また,片眼を軽い近視にして焦点深度を読書距離まで広げ,近方視力の改善も得られるとされる.Cochenerら4)はマルチセンタースタディーでCSymfonyを用いたモノビジョン(片眼を遠方,他眼を-0.5D程度に合わせる.DiscussionでCmini-monovisionとよんでいる)を報告している.両眼を遠方に合わせた症例と比べてモノビジョン群のほうが裸眼での中間と近方視力はよく,老眼鏡使用はC14%であった.満足度は両群で高かった.90%以上の症例でグレア,ハロー,スターバーストの自覚は「なし」から「軽度」であるが,モノビジョンではCdys-photopsiaのリスクが増えることとCneuroadaptできない症例もあることには注意が必要である.当院の症例で両眼遠方狙いのC13例C21眼(男性C6例,女性C7例,平均年齢C60.4歳)をみてみると(図3),術後平均視力は遠方裸眼視力C1.04(矯正C1.26,平均等価球面度数-0.20±0.22D,球面+0.07±0.29D,乱視-0.53C508あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019±0.59D),中間裸眼視力(60Ccm)0.96,近方裸眼視力(30Ccm)0.56であった.近見時の眼鏡装用については「使わない」がC30%,「ときどき使う」がC45%,「いつも使う」がC25%であった.グレアはC65%,ハローはC75%で「感じない」から「軽度」であり,気にならないようである.おおむね良好な結果であるが,1例,ハローがかなり気になるという症例がある.59歳,男性で裸眼視力は遠方右眼C1.2/左眼C1.5,中間右眼C1.2/左眼1.2,近方右眼C0.6/左眼C0.7,眼軸長は右眼C23.17/左眼22.97Cmmであった.検査結果だけをみていると問題がないように思われるが,近方がかなり見づらいと訴える.しかし眼鏡は使用していない.このように検査結果と自覚症状の乖離が起こることもあり,多焦点CIOL使用のむずかしさを感じる症例である.C●おわりにSymfonyは多焦点CIOLの選択肢として有用である.白内障治療と同時に屈折矯正も考える時代である.患者のライフスタイルと希望を伺い,十分なインフォームド・コンセントを行い,単焦点,モノビジョンを含めてふさわしいCIOLを選択してほしい.文献1)平岡孝浩:Symfony.CIOL&RSC32:120-127,C20182)Esteve-TaboadaJJ:E.ectoflargeaperturesontheopti-calCqualityCofCthreeCmultifocalClenses.CJRefCSurgeryC31:C666-672,C20153)DaviesEC:Intraocularlensexchangesurgeryatatertia-ryCreferralcenter:Indications,Ccomplications,CandCvisualCoutcomes.JCataractCRefractSurgC42:1262-1267,C20164)CochenerB:ClinicalCoutcomesCofCaCnewCextendedCrangeCofCvisionCintraocularlens:InternationalCmulticenterCCon-certostudy.JCataractRefractSurgC42:1268-1275,C2016(86)