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コンタクトレンズ:コンタクトレンズの汚れ

2018年9月30日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一47.コンタクトレンズの汚れ●はじめにコンタクトレンズ(CL)の汚れは日常臨床でよく経験する.CLの扱い方やケア方法が間違っている,あるいは手を抜いているという使用者側の問題であることも多いが,一生懸命真面目にケアをしているのに汚れが生じてしまうこともある.診察時には,汚れの原因を分析して適切な対応をとらなければならない.まずは,アレルギー性結膜炎のようなCLが汚れやすくなる疾患がないかを確認する必要がある.また,汚れの種類に応じた洗浄液の選択と,使い方の指導も必要である.ケア方法の間違いによる汚れでは,どこが問題なのかをよく聴かなければならない.レンズ素材やデザインによっても汚れ方が異なるので,素材や種類変更が必要なこともある1).●ハードコンタクトレンズの汚れハードCL(HCL)に多い,水をはじくような汚れがある(図1).フルオレセインで染色して瞬きを繰り返してもらうと,そのたびに水があるところと,ないところができてしまう.これは,表面の水濡れ性が悪いときに起こりやすい.HCLに限らず,CL表面は水濡れ性がと月山純子社会医療法人博寿会山本病院眼科,近畿大学眼科学教室ても大切である.水濡れ性が悪いと,見え方が悪いだけでなく,乾燥感や異物感が強くなってしまう.表面加工や素材そのものの工夫で水濡れ性を高めるようにされているが,方法はメーカーによってさまざまである.水濡れ性が悪くなる原因としてまず考えられるのが油性成分の付着である.化粧品などの油性成分がレンズ表面に付いてしまうと,その部分だけ水濡れ性が悪くなる.意外に落とし穴なのがハンドクリームである.レンズを扱うスタッフの手にハンドクリームの成分が残っていることもあるので,注意が必要である.水濡れ性の悪い部分ができてしまった場合は,洗浄液を用いてしっかり洗わなければいけない.油性汚れにはイソプロピルアルコールが入った洗浄液がよい.HCL用には「ジェルクリンW」(SEED社)があり,ソフトCL(SCL)にも使える.また,研磨剤+界面活性剤が入った洗浄液が有効なこともある.図1の症例は,研磨剤+界面活性剤が入った洗浄液「クリーン&ウェット」(サンコンタクトレンズ社)で洗浄することによって改善した(図2).ただし,メニコンのレンズ全般とシードの「S1」というレンズは表面に特殊加工が施されており,研磨剤により表面加工にダメージを与え,かえって図1レンズ表面の水濡れ性が低下した状態図2研磨剤+界面活性剤による洗浄液で洗浄後(85)あたらしい眼科Vol.35,No.9,201812410910-1810/18/\100/頁/JCOPY水濡れ性を低下させてしまうので注意が必要である.患者から預かったHCLの種類がわからないときには,研磨剤入り洗浄液の使用は避けるようにする.研磨剤入りのHCL用洗浄液には,ほかに「スーパークリーナー」(ボシュロム社)などがある.●ソフトコンタクトレンズの汚れSCLの汚れも,基本的にはHCLと同じであるが,フルオレセイン染色ができないため水濡れ性の低下がわかりにくい.従来素材のハイドロゲルレンズは親水性素材でできているため油性汚れは起こりにくいが,近年,処方が増えているシリコーンハイドロゲルレンズでは,シリコーンがもともと親油性なので,油性汚れが付きやすい.各メーカーはさまざまな工夫をすることで表面を親水化させて水濡れ性を高めているが,ひとたび化粧汚れなどの油性汚れが付くと落としにくくなる.SCLのケアは,1種類の液で洗浄もすすぎも保存もできるマルチパーパスソリューションというカテゴリーのものが用いられることが多い.しかし,これだけでは洗浄力が不十分なことが多いので,洗浄液を併用することを勧めたい.油性汚れにはHCLと同様にイソプロピルアルコール入りの洗浄液が有効である.前述のHCL,SCL両用の「ジェルクリンW」,SCL用では「レンズクリア」(ロート製薬)がある.●汚れを付きにくくする基本指導汚れた手でCLを扱わないように,CLを触る前には必ず石鹸で手をしっかり洗う指導をすることが大切である.また,化粧をする人には,CLを装用したまま化粧落とし(クレンジング)をしないよう,必ず先にCLをはずすこと,また化粧で汚れた手でCLを扱わないよう,先にCLを装用してから化粧をするように指導する.どちらもCLが最初なので「CLファースト」と覚えるとよい2).●おわりにインターネットでのCL購入が増えている.眼科受診をしておらず,ケアが間違っているためにCLが汚れている人も多い.眼科受診時に汚れの原因を的確に解決できると,眼科受診の重要性を理解してもらいやすい.汚れ対策に精通して,安全で快適なCL装用をめざしたい.文献1)月山純子:CLケア汚れ対策を中心に.日コレ誌54:202-207,20122)月山純子:CLケア教室第43回化粧とCL.日コレ誌55:46-48,2013PAS109

写真:涙液減少型ドライアイに合併したサルコイドーシス

2018年9月30日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦412.涙液減少型ドライアイに合併した青木崇倫永田健児横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科サルコイドーシス視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①多数の角膜糸状物C②CSPKC図1初診時フルオレセイン染色像角膜下方から中央にかけての密な上皮障害,結膜上皮障害,および多数の角膜糸状物を認める.図3治療後フルオレセイン染色像上・下涙点プラグの挿入後,著明な角膜上皮障害の改善がみられる.図4鼻側部皮疹写真鼻側部にC5~8Cmm程度の淡紅の浸潤性紅斑が集積し,紅斑はやや隆起と圧痛を呈していた.(83)あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018C12390910-1810/18/\100/頁/JCOPYサルコイドーシスは壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫を全身性に発症する疾患である.肺,リンパ節,眼,皮膚,肝臓,心臓,唾液腺など全身の臓器に病変が生じ,肺病変についで眼病変は2番目に多いとされる.全身性サルコイドーシスの初期病変として,しばしばぶどう膜炎が認められ(20~50%),ぶどう膜炎の所見も多様性に富む.また,心サルコイドーシスの頻度は多くない(5%)が,致死的になりうるために留意が必要である1).眼科領域では肉芽腫性ぶどう膜炎が有名であり,国内のぶどう膜炎の原疾患でもっとも多い.そのほかに涙腺,結膜,眼窩腫瘤など眼外病変を引き起こすことも知られている2,3).症例はC67歳,女性で,前医にて虹彩炎,続発性緑内障,角膜上皮障害に対して治療していた.眼痛がレバミピド点眼で改善しないために当院に紹介となった.初診時所見として涙液メニスカス高が低く,フルオレセイン染色にて開瞼後のフルオレセインの上方移動が強く制限されており,角膜中央から下方にかけて密に点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratitis:SPK)が分布し,角結膜上皮障害,および角膜糸状物がみられることから,重症涙液減少型ドライアイを呈する所見と考えられた.また,ぶどう膜炎の所見として,角膜後面沈着物,前房内細胞,隅角結節,硝子体混濁も認めた.さらに,全身検査所見として両側肺門リンパ節腫脹,ACE上昇,顔面に結節性紅斑を認めた.鼻側部の紅斑部に対して皮膚科で行われた生検組織の病理組織学的異常所見から,サルコイドーシスと確定診断された.涙液減少型ドライアイに対する治療として,本症例では,上下涙点プラグ挿入と防腐剤フリーのベタメタゾン点眼,人工涙液点眼から開始したが,角膜上皮障害,角膜糸状物,自覚症状に著明な改善がみられた.わずかな硝子体混濁は残存したが,ぶどう膜炎も改善した.サルコイドーシスとドライアイの関連は以前から指摘されており4),これは類上皮細胞肉芽腫が主涙腺に生じることで涙腺肥大を呈し(42~63%),ドライアイに関与すると考えられている.反射性涙液分泌に関与する主涙腺において造影や生検での異常の報告5)があるが,涙液基礎分泌の大部分は副涙腺によるものと考えられており,本症例のような重症の涙液減少型ドライアイにおいては,主涙腺と副涙腺の両方が障害を受けている可能性があると考えられる.サルコイドーシスに伴うドライアイは,ぶどう膜炎や続発性緑内障が背景にあるためにステロイド点眼や緑内障点眼を併用していることが多い.そのために,それらの点眼治療そのものがドライアイの悪化因子となるために,少なくとも塩化ベンザルコニウムフリーの点眼液の選択が望ましいと思われる.また,サルコイドーシスを伴うドライアイでは涙液減少型ドライアイのサブタイプを呈するため,軽症例では水分分泌/ムチン分泌・産生点眼液,重症例においては涙点プラグを考慮する必要がある.文献1)澤幡美千瑠,杉山幸比古:疫学的視点からみたサルコイドーシスの病態と病因.日サ会誌35:17-25,C20152)中嶋花子,大原國俊,陳軍ほか:眼サルコイドーシスにおける結膜生検.日サ会誌21:47,C20013)大原國俊:眼サルコイドーシス.日本臨躰C60:1807-1812,C20024)StapletonCF,CAlvesCM,CBunyaCVYCetCal:TFOSCDEWSCIICEpidemiologyreport.OculSurf15:334-365,C20175)PasadhikaCS,CRosenbaumCJT:OcularCsarcoidosis.CClinCChestCMedC36:669-683,C2015

時の人 吉田 茂生 先生

2018年9月30日 日曜日

久留米大学医学部眼科学講座主任教授よしだしげお吉田茂生先生本年4月に久留米大学医学部眼科学講座の教授に就任した吉田茂生先生は,久留米大学附設中学・高等学校から九州大学医学部に進学した,根っからの久留米人である.約30年ぶりに地元に戻った吉田先生に,これまでの歩みと,教授としての抱負を伺った.***吉田先生は現在50歳.1993年に九州大学医学部を卒業し,2年間の臨床研修を経て,平成7年に九州大学大学院医学系研究科に進み,生化学第一講座の桑野信彦教授のもとで血管新生の分子生物学的研究に取り組んだ.1999年に医学博士の学位を取得後,米国ミシガン大学ケロッグアイセンターに留学.客員研究員として分子生物学・ゲノム医科学的研究に従事し,網膜の発生・加齢や血管新生の分子メカニズムの解明に没頭した.帰国後は,2002年から九州大学で遺伝子診療を推進すると同時に,広く一般眼科を経験し,また,2007年からは福岡大学筑紫病院で向野利寛教授(現病院長)の指導のもと,重症増殖糖尿病網膜症など網膜硝子体疾患を中心に手術の修練を積んだ.2010年に九州大学に戻ったあとは,石橋達朗教授のもとで主として網膜硝子体疾患の診療に従事してきた.これらの臨床と並行して,吉田先生は研究分野でも着実に成果を上げてきた.難治性眼疾患の病因解明と新治療開発の取り組みでは,眼内細胞増殖の責任分子としてペリオスチンを同定し,産学官連携による日本発の新規ペリオスチン標的薬の開発を進めている.また,九大で指導した大学院生のうち6名が日本学術振興会特別研究員に合格している.***久留米大学医学部の基本理念は「国手の理想は常に仁なり」であり,時代や社会の多様なニーズに対応できる実践的でヒューマニズムに富む医師を育成するとともに,高水準の医療や最先端の研究を推進する人材を育成(81)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYすることを目標にしている.90年の歴史を誇る眼科学教室も伝統的に臨床を重視しており,山川良治・前教授をはじめとする多くの名医が積み重ねてきた「手術治療の久留米大学眼科」の看板に恥じない,力のある専門医集団が多様な疾患に対応し,高度医療を提供している.一方で,難治性眼感染症網羅的PCR検査システムなどの最先端の研究基盤も整っている.また,福岡県南部地区の地域医療連携体制の中核的役割を果たしている.この久留米大学眼科を率いるにあたって,吉田先生は「人を大事にすること」を基本理念にあげる.学部にあっては近未来の社会を担う学生に,病院にあっては疾患に苦しむ患者さんに,「為他」の精神で向き合っていくこと.これは,激変する医療環境の中でも,過去も現在も未来も変わらない理念であり続けると先生は確信している.***吉田先生は高校時代,バンドを組んでボーカルを担当していた,らしい(未確認情報).文化祭などでは黒サングラスに白の上下でバシッときめて熱唱していた,らしい(同上).現在の趣味も音楽鑑賞で,カラオケも楽しむとのことである.スポーツは高校・大学を通じてラグビー部に所属し,“OneforAll,AllforOne”(「為他」に通じる言葉である)を合言葉にチームプレーの精神を学んだという.「共に汗した仲間とのつながりは,今でも大切な財産です」とも.こう書くと,いかにも男くさいスポーツマンタイプを想像されるかもしれないが,実際の吉田先生は話し方も外見もスマートで優しい.ただし,「夢を持つのは誰でもできるが,夢を実現するには強い意志,すなわち志を持つことが大切」ときっぱりと言い切る一本筋の通った優しさである.教授就任からまだ半年であるが,10年後の久留米大学眼科創立100周年も射程に入れ,患者さんに「光をあたえる眼科」を目標に,吉田先生は邁進している.あたらしい眼科Vol.35,No.9,20181237

未熟児網膜症に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

未熟児網膜症に対する抗VEGF療法Anti-VEGFAgentsinRetinopathyofPrematurity福嶋葉子*はじめに本稿は今回の特集における唯一の小児疾患に対する抗VEGF(vascularCendothelialCgrowthfactor)療法についての内容である.未熟児網膜症(retinopathyCofCpremaC-turity:ROP)に対する抗CVEGF薬使用で成人と大きく異なるのは,網膜血管だけでなく未熟な臓器において正常血管発達に影響を与えずに十分な機能を獲得できるかという長期的な視点で経過を捉える必要性である.現在,抗CVEGF薬は網膜血管閉塞疾患に起因する黄斑浮腫の治療薬として第一選択となり,眼科医にとってその使用は非常に身近なものになった.こうした状況から,ROPの治療として使用する施設は今後増えていくことは想像にかたくない.しかし,未熟児網膜症に対する適応時期・薬物の種類と投与量などが確立していない状況にある.さらに長期経過が明らかになるにつれて新たな課題も生じている.そこで本稿では,まずCROP診療の現状を示し,光凝固と抗CVEGF療法の違い,抗VEGF薬の適応と治療後の経過を解説する.CIわが国における未熟児網膜症の現状わが国を含む先進国では,ROPは小児の主要失明疾患である.国内の視覚特別支援学校における視覚障害原因調査では,ROPがC30年にわたり原因疾患のC1位にとどまっている.失明原因疾患のうちCROPが占める割合はC1970年ではC1.1%,1985年にはC13.1%と急激に増加し,2000年にはC14.7%,2015年にはC18.4%となっている.出生数は少なくなっている一方で,不妊治療や母体年齢の高齢化を背景として全出生に占める未熟児の割合は約C10%に上り,世界的にみても高い比率となっている.また,新生児医療の進歩とともに早産児・低出生体重児の死亡率は減少し,ユニセフの統計によればわが国は世界でもっとも新生児死亡が少ない国と報告されている.このようにCROPが小児の失明原因の大きな割合を占めるのは,在胎週数の短い早産,超低出生体重児の増加を反映していると考えられる.では,新生児医療の進歩は死亡率の減少と同様にROPの発症率・治療率を減少させたであろうか.2003年~2014年までに在胎C32週未満および出生体重C1,500.g以下の新生児を対象とした周産期母子医療センターネットワークデータベースによれば,眼底検査を受けた症例のうちCstageC3まで進行した症例はC2003年でC41.3%,2014年C17.5%となり,進行例が減少している.一方で治療を受けたCROPはC2003年C10.8%,2014年C10.2%とほぼ横ばいであった.東京都多施設研究の結果では,2002年と比較してC2011年の出生体重C1,000Cg未満の症例におけるCROPの発症率・治療率はともに減少したと報告されている1).2000年以降,ROPによる新たな失明例は減少しており,新生児医療の進歩に加えて,適切なスクリーニング時期と診察間隔に関する知識が浸透したこと,以前より治療が積極的に行われていること,光凝固治療の早期適応,硝子体手術の進歩など複数の要素が関連している.さらに近年では抗CVEGF薬の使用開*YokoFukushima:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕福嶋葉子:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(73)C1229始も貢献していると考えられる.CII未熟児網膜症の病態ROPは早産児にのみ生じる網膜血管疾患であり,満期産の新生児には発症しない.その理由は網膜血管の発生時期が関係している.ヒト網膜は胎内でC36週~40週かけて視神経乳頭から周辺に向けて血管が伸展するが,それ以前に出生すれば周辺網膜に血管が到達していない.出生による胎内から胎外への劇的な環境変化が,網膜固有の血管伸展プロセスを破綻させ,既存の網膜血管から連続性に硝子体に向かう異常血管が形成されると考えられている.形成された異常血管は多くの場合,自然退縮もしくは硝子体に立ち上がった異常血管が網膜内の血管伸展が再開される.しかし,重症例では,異常血管が線維成分を多く含む膜状組織を伴う増殖膜となり,その収縮によって失明につながる牽引性網膜.離に至る2).異常血管の形成においてもっとも重要な役割を果たすのがCVEGFであることが動物モデルを用いた解析により示されてきた.正常発生では,周辺網膜の無血管領域に位置する神経細胞およびグリア細胞から産生されるVEGFが組織低酸素に比例する方向に濃度勾配を形成する.この濃度勾配を血管伸長の先端が感知して,周辺側に血管伸長が促進される.一方で,環境変化によるVEGF濃度勾配の破綻を契機に,既存の網膜血管は連続性に異常血管へと転換することがC2000年代初めに示された.未熟児網膜症に類似する低酸素に起因する異常血管新生をきたす動物モデルでは,網膜.離に至ることなく自然軽快する3).CIII未熟児網膜症の治療前述したように未熟児網膜症は発症しても自然軽快が見込める疾患であるが,とくに未熟性の高い児では軽快せずに重症化して網膜.離に起因する失明に至る.重症例に対してはC1980年代の冷凍凝固治療に対する臨床試験(CryotherapyCforCRetinopathyCofCPrematurity:CRYO-ROP)以降,およそC40年もの長期にわたり網膜凝固が標準治療である.無血管領域の網膜を凝固することで神経細胞,グリア細胞を破壊し,VEGF産生を減少させて異常血管新生を抑制する.凝固方法が冷凍凝固から光凝固に変遷し,治療による組織障害は減少したとはいえ,基本的には組織破壊を代償に失明を回避する治療であり,予防的に行う治療方法ではない.一方で,重症例における治療時期の遅れは,病勢の悪化により光凝固の効果が得られなくなるため,失明リスクを急激に上昇させることが明らかになっている.そこで,現在では国際分類に基づく病期判定(InternationalCClassi.cationofCROP)4)と米国の光凝固治療の時期に関する臨床研究(EarlyCTreatmentCforCRetinopathyCofCPrematurity:ETROP)5)にしたがって,一定の重症度に達した症例に対して治療が実施されている(図1).病期は,血管の広がりを示すCzoneと血管伸長の先端部にみられる変化をCstage,後極血管の拡張・蛇行の変化をCplusとして評価する.さらに,急激に進行するきわめて血管伸展の未熟な症例をCaggressiveCposteriorROP(AP-ROP)とする(図2).血管の伸展が悪く,硝子体側に増殖組織ができた症例を治療の対象としており,type1CROPではC72時間以内,AP-ROPでは直ちに光凝固を行うことが望ましいとされる.光凝固治療が奏効せず,網膜.離に至った症例に対しては強膜バックリング手術もしくは硝子体手術が適応される.CIV抗VEGF薬の投与方法と適応異常血管新生を抑制する目的で,およそC10年前から未熟児網膜症に対して抗CVEGF薬が使用されるようになった.現時点では,市販されている抗CVEGF薬のいずれも未熟児網膜症の治療においては適用外使用となり,各施設における倫理委員会の承認が必要である.おもな投与方法として,初回治療として抗CVEGF薬を用いるCmonotherapy,光凝固と同時に行うCcombinedtherapy,そして光凝固後の再燃に対して抗CVEGF薬を用いるCsalvageCtherapyがあげられる6).抗CVEGF薬を投与する時期の明確な基準は確立されていないが,monotherapyやCcombinedCtherapyのように初回治療として用いる場合は,ETROPの治療時期に準ずる報告が多い.光凝固治療では,凝固に伴う炎症により一時的に血管拡張の悪化が数日後にみられるが,1週間ほどで異常血管の退縮が観察され,plusCdiseaseも改善していく.一方,抗CVEGF薬投与では翌日から数1230あたらしい眼科Vol.C35,No.9,2018(74)a.光凝固前b.光凝固後5週在胎C24週,662.gで出生した男児.Ca:修正C33週にCzoneC1CstageC3CwithCplusCdiseaseとなり光凝固を施行した.b:治療後C1カ月程度で増殖膜は線維化し(→),血管拡張や蛇行も消失した.4歳時の視力はCRV=(0.9)であった.Ca.初診時(修正31週)b.初診から5日後(修正32週)在胎C23週,500.gで出生した女児.Ca:修正C31週の初診時には血管の発育が悪い(→)が,それ以外のCROPを示す所見はみられない.Cb:5日後には後極血管の著明な拡張と蛇行が認められCAP-ROPと診断された.鼻上側にはC.atCneovascularizationとよばれる平坦な新生血管を含む増殖組織がみられる.a.投与前(修正32週)b.投与後5日在胎C24週,562.gで出生した女児.Ca:動脈,静脈ともに血管の拡張と蛇行が顕著で,明瞭な境界線はみられないが耳側にC.atCneovascularizationがあり,AP-ROPと判断される.Cb:ベバシズマブ投与C5日で増殖は退縮し,血管拡張も改善した.Ca.投与前(修正37週)b.投与後2週在胎C23週,500.gで出生.Ca:AP-ROPに対する光凝固後C5週で増殖膜の形成と後極血管の拡張・蛇行がみられ,再燃と診断された.b:ベバシズマブ投与C1カ月.増殖は退縮し,血管拡張もみられない.図5抗VEGF薬投与後の血管発達遅延投与後C17週(修正C2カ月)の眼底写真.在胎C23週,558Cgで出生.修正C31週でCAP-ROPと診断しアバスチン0.25.mgを投与した.17週経過しても黄斑部までの血管伸展が得られないままであった.矢印は黄斑を示す.図6抗VEGF薬投与後の再燃投与後C1カ月の眼底写真.初回治療時の境界線(白矢印)から血管は伸展し,新たにCridgeが形成されている(黒矢印).この症例ではCridgeは自然軽快し,再治療は不要であった.に正常血管発育の遅延がみられるのに加えて,長期的にも血管異常が継続するとの報告が相次いでいる.継続する血管形態および機能異常がどういった意義をもつのかは今後検証が必要である16).また,マウスモデルを用いた基礎研究においては,網膜神経組織にCVEGF受容体の発現が確認されており,VEGF抑制による神経細胞への影響も検証が必要であろう.抗CVEGF薬が視機能に与える効果として優れているのは,冷凍凝固や光凝固に比較して,近視化が有意に少ない点である6).視野や視力発達についての効果はまだ不明な点が多いが,抗CVEGF薬は非常に未熟な児の重症CROPに選択されることから,治療を受けた患児の知的発達障害の頻度は高くなり,年齢相応の視覚評価がむずかしくなる可能性がある.また,抗CVEGF薬が全身に与える影響は使用当初から懸念されている.ベバシズマブ投与による血清VEGFタンパク濃度の抑制は,少なくてもC2カ月継続することが確認されている17).薬剤の全身移行による組織発達への影響や精神運動発達への影響が懸念されているが,いまのところ一貫した結論は得られていない.極小低出生体重児では,ROP治療の有無にかかわらず正期産児に比して発達障害が多いとされており,抗VEGF薬投与の有無のみで神経学的発達の比較は困難かもしれない.ROPに対する抗CVEGF薬が使用されC10年経過したが,未だ国内外のCReviewにおいて「神経学的発達への影響が懸念される」と記載されるのが常であり,発達に対する影響の検証は大きな課題として残されている.おわりにROPに対する抗CVEGF療法は,さまざまなレジメンが試みられており,統一された方法は確立されていない.こうした治療法の過渡期にある現在,「この治療法の有効性は疑いがないが,まだ十分な長期臨床データが蓄積されていない」という事実を正しく患者保護者に伝え,その不確実性についても十分な理解を得たうえで同意をとる慎重な姿勢が医療者に求められる.抗CVEGF薬適用の追加承認に向けた取り組みとして,ラニビズマブと光凝固術との比較試験(RAINBOW試験:NCT02375971)が行われており,近い将来には光凝固・抗CVEGF薬の二つの選択肢を生かした標準治療が確立されることが期待される.文献1)太刀川貴子,武井正人,清田眞理子ほか:超低出生体重児における未熟児網膜症.東京都多施設研究.日眼会誌C122:103-113,C20182)HartnettCME,CPennCJS:MechanismsCandCmanagementCofCretinopathyCofCprematurity.CNCEnglCJCMedC368:1162-1163,C20133)SelvamCS,CKumarCT,CFruttigerCM:RetinalCvasculatureCdevelopmentCinChealthCandCdisease.CProgCRetinCEyeCResC63:1-19,C20184)InternationalCCommitteeCforCtheCClassi.cationCofCRetinopa-thyCofCPrematurity:TheCInternationalCClassi.cationCofCRetinopathyCofCPrematurityCrevisited.CArchCOphthalmolC123:991-999,C20055)JonesCJG,CMacKinnonCB,CGoodCWVCetal:TheCearlyCtreat-mentCforCROP(ETROP)randomizedCtrial:studyCresultsCandCnursingCcareCadaptations.CInsightC30:7-13,C20056)VanderVeenCDK,CMeliaCM,CYangCMBCetal:Anti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCprimaryCtreatmentofCtypeC1CretinopathyCofCprematurity:aCreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC124:619-633,C20177)MuellerCB,CSalchowCDJ,CWa.enschmidtCECetCal:Treat-mentCofCtypeCICROPCwithCintravitrealCbevacizumabCorClaserCphotocoagulationCaccordingCtoCretinalCzone.CBrJOph-thalmol101:365-370,C20178)Mintz-HittnerCHA,CKennedyCKA,CChuangCAZ;GroupB-RC:E.cacyCofCintravitrealCbevacizumabCforCstageC3+retinopathyCofCprematurity.CNEnglCJCMedC364:603-615,C20119)ToyCBC,CSchacharCIH,CTanCGSCetCal:ChronicCvascularCarrestCasCaCpredictorCofCbevacizumabCtreatmentCfailureCinCretinopathyCofCprematurity.COphthalmologyC123:2166-2175,C201610)Mintz-HittnerCHA,CGeloneckCMM,CChuangCAZ:ClinicalCmanagementCofCrecurrentCretinopathyCofCprematurityCafterCintravitrealCbevacizumabCmonotherapy.COphthalmologyC123:1845-1855,C201611)YoonCJM,CShinCDH,CKimCSJCetCal:OutcomesCafterClaserCversusCcombinedClaserCandCbevacizumabCtreatmentCforCtypeC1CretinopathyCofCprematurityCinCzoneCI.CRetinaC37:C88-96,C201712)Gotz-WieckowskaCA,CChmielarz-CzarnocinskaCA,CPawlakMCetal:RanibizumabCafterClaserCphotocoagulationCfailureinCretinopathyCofCprematurity(ROP)treatment.CSciCRepC7:11894,C201713)FukushimaCY,CFujinoCT,CKusakaCSCetCal:FavorableCoutC-(79)あたらしい眼科Vol.C35,No.9,2018C1235

ぶどう膜炎に対する生物製剤による治療

2018年9月30日 日曜日

ぶどう膜炎に対する生物製剤による治療AntibodyTreatmentforUveitis毛塚剛司*,**はじめにぶどう膜炎の治療には,きちんとしたぶどう膜炎の診断が重要である.ぶどう膜炎の診断には詳細な問診が必要であり,とくにぶどう膜炎でよくみられる眼外症状について聞く必要がある.また,ぶどう膜炎の治療ではステロイドを用いることが多く,このため,ぶどう膜炎の原因が非感染性か感染性かをきちんと見きわめなければならない.非感染性ぶどう膜炎と確実に診断でき,なおかつ既存の治療に抵抗性であることを踏まえて抗体製剤,いわゆる生物製剤を使用する素地ができあがる.Iぶどう膜炎治療の目標ぶどう膜炎治療の目標は,大きく分けて眼炎症の緩和・コントロール,視機能の悪化防止,合併症の予防・悪化防止の三つである.非感染性ぶどう膜炎では,第一選択として点眼,Tenon.下などの経路でステロイド投与を行い,経過がよくなければ,ステロイド全身投与(内服,点滴療法)を追加する.ステロイド治療で効果が不十分であったり,ぶどう膜炎が再発するようなら,第二選択薬として,シクロスポリンなど免疫抑制薬やメトトレキサート(methotrexate:MTX)(保険適用外)などの代謝拮抗薬を用いる.それらの治療でも治療効果が安定しないようなら,第三の選択肢として,生物製剤(TNF剤阻害薬)を用いる(図1).これらの治療の補助療法として,網膜光凝固術や内眼手術(水晶体再建術,緑内障手術,硝子体手術)を行う.・補助療法・光凝固術・水晶体再建術・緑内障手術・硝子体手術図1非感染性ぶどう膜炎に対する治療戦略IIぶどう膜炎に対する新しい抗体医療:抗TNF阻害薬腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)は急性期炎症にかかわるサイトカインの一種で,ぶどう膜炎の活動性に強く関与している.TNFの主たる役割は免疫細胞の調節制御である1,2).ぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎を用いた実験では,抗原特異的T細胞が抗原提示細胞の存在の下に,網膜色素上皮細胞や網膜細胞から産生されるTNF上で刺激され,接着分子の過剰発現が行われ,さらに活性化が起こる3,4).TakeshiKezuka:毛塚眼科医院,東京医科大学臨床医学系眼科学分野**,*〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒131-0003東京都墨田区向島1-5-7毛塚眼科医院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(65)1221表1ぶどう膜炎に対するおもな抗体治療薬2.01.51.0表2インフリキシマブ治療によるBehcet病眼外症状の改善0.5投与C2年後では,42/66眼(63%)でC2段階以上の視力改善口腔内アフタ38例2例0.0皮膚症状25例1例0.00.51.01.5関節炎11例6例小数視力投与前視力陰部潰瘍副睾丸炎7例1例1例0例図2インフリキシマブ治療による視力の変化(文献C12より改変)がみられた.投与後視力・症状の強い眼で判定FAG判定条件・混濁が強い場合は判定可能眼で判定各所見の基準視神経乳頭所見0~2点(新生血管があれば2点)後極所見0~2点(新生血管があれば2点)周辺部網膜所見0~8点(各象限の血管炎所見の程度で0~2点)図3蛍光眼底造影の活動性評価蛍光眼底造影スコア(FAスコア)満点がC12点であり,図の症例ではCFAスコアC10点相当となる.(文献C12より改変)表3Behcet病に対するインフリキシマブ治療後の副反応(文献C12より改変)表4アダリムマブを用いた最近のぶどう膜炎治療(文献的まとめ)Ja.eetal非感染性ぶどう膜炎C217効果ありプロスペクティブC2016C14CNguyenetal非感染性ぶどう膜炎C229効果ありプロスペクティブC2016C15CSuhleretal非感染性ぶどう膜炎C371効果ありプロスペクティブC2018C17CVitaleetalBehcet病C100効果ありレトロスペクティブC2017C22CMartin-VarillasetalBehcet病C74効果ありプロスペクティブC2018C18CRamananetalJIA関連ぶどう膜炎*C90効果ありプロスペクティブC2017C19CQuartiereralJIA関連ぶどう膜炎*C31効果ありプロスペクティブC2018C21CBreitbachetalJIA関連ぶどう膜炎*C59効果ありレトロスペクティブC2017C20CCoutoetal原田病C14効果ありレトロスペクティブC2018C23*JIA関連ぶどう膜炎:juvenileidiopathicarthritis-associatedanterioruveitis.表5ぶどう膜炎に対するその他の抗体治療(文献的まとめ)Carvo-Rioetalゴリムマブ強直性脊髄炎関連ぶどう膜炎C15効果ありレトロスペクティブC2016C26CCarvo-RioetalトシリズマブJIA関連ぶどう膜炎*C25効果ありレトロスペクティブC2017C24CAtienza-MateoetalトシリズマブBehcet病C11効果ありレトロスペクティブC2018C25*JIA関連ぶどう膜炎:juvenileidiopathicarthritis-associatedanterioruveitis.炎抗体治療に関する文献的なまとめを表5に示す.CIV難治性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針TNF阻害薬は,上述のごとく新しい難治性ぶどう膜炎に対する切り札のような役割を担えると思われるが,製剤の導入に際して副作用チェックなど厳しい管理が課されている.とくに感染性ぶどう膜炎の可能性を確実に除外するために,結核やCB型肝炎,梅毒,真菌感染のスクリーニングを必ず行うことを強く勧めている27).さらに,TNF製剤の導入の際に必要となる施設基準や医師個人に眼科専門医取得や日本眼炎症学会の入会,e-learningの講習受講などが強く推奨されている27).おわりに現在までのぶどう膜炎治療の現状と将来への取り組みについて述べた.とくに非感染性ぶどう膜炎に関しては,ステロイド治療と免疫抑制薬のみだった現状から生物製剤が複数認可され,治療の幅が拡大しつつある.今後,新しい治療である生物製剤の中止基準をどのように設定するか,むずかしい選択を迫られるかもしれない.文献1)CaritoCV,CCiafreCS,CTaraniCLCetCal:TNF-aandCIL-10CmodulationCinducedCbyCpolyphenolsCextractedCbyColiveCpomaceCinCaCmouseCmodelCofCpawCin.ammation.CAnnCIstCSuperSanitaC51:382-386,C20152)KallioliasCGD,CIvashkivCLB:TNFCbiology,CpathogenicCmechanismsandemergingtherapeuticstrategies.NatRevReumatolC12:49-62,C20163)LeeCRW,CNicholsonCLB,CSenCHNCetCal:AutoimmuneCandCautoin.ammatoryCmechanismsCinCuveitis.CSeminImmnuno-patholC36:581-594,C20144)DickCAD,CForresterCJV,CLiversidgeCJCetCal:TheCroleCoftumournecrosisfactor(TNF-alpha)inexperimentalauto-immuneCuveoretinitis(EAU)C.CProgCRetinCEyeCResC23:C617-637,C20045)NakamuraCS,CYamakawaCT,CSugitaCMCetCal:TheCroleCofCtumornecrosisfactor-alphaintheinductionofexperimen-talCautoimmuneCuveoretinitisCinCmice.CInvestCOphthalmolCVisSciC35:3884-3889,C19946)OkadaCAA,CGotoCH,COhnoCSCetCal:MulticenterCstudyCofCin.iximabCforCrefractoryCuveoretinitisCinCBehcetCdisease.CArchOphthalmolC130:592-598,C20127)TakeuchiCM,CKezukaCT,CSugitaCSCetCal:EvaluationCofCtheClong-termCe.cacyCandCsafetyCofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcet’sCdisease.CACmulticenterCstudy.COphthal-mologyC121:1877-1884,C20148)SakaiCT,CWatanabeCH,CKuroyanagiCKCetCal:Health-andCvision-relatedCqualityCofClifeCinCpatientsCreceivingCin.iximabCtherapyCforCBehcetCuveitis.CBrCJCOphthalmolC97:338-342,C20139)KruhCJN,CYangCP,CSuelvesCAMCetCal:In.iximabCforCtheCtreatmentCofCrefractoryCnoninfectiousCuveitis.CACstudyCofC88CpatientsCwithClong-termCfollow-up.COphthalmologyC121:358-364,C201410)KaburakiT,NambaK,SonodaKHetal:Behcet’sdiseaseocularattackscore24:evaluationofoculardiseaseactiviC-tyCbeforeCandCafterCinitiationCofCin.iximab.CJpnCJCOphtahl-molC58:120-130,C201411)KeinoCH,COkadaCAA,CWatanabeCTCetCal:E.cacyCofCin.iximabforearlyremissioninductioninrefractoryuveo-retinitisCassociatedCwithCBehcetCdisease.COculCImmunolCIn.ammC25:46-51,C201712)UmazumeCA,CKezukaCT,CUsuiCYCetCal:EvaluationCofCe.cacyofin.iximabforretinalvasculitisandextraocularsymptomsCinCBehcetCdisease.CJanCJCOphthalmolC62:390-397,C201813)KawaguchiT,KawazoeY,KamoiKetal:ClinicalcourseofCpatientsCwithCBehcet’sCuveitisCfollowingCdiscontinuationCofin.iximabtherapy.JpnJOphtahlmolC58:75-80,C201414)Ja.eCGJ,CDickCAD,CBrezinCAPCetCal:AdalimumabCinCpatientsCwithCactiveCnoninfectiousCuveitis.CNEnglCJCMedC375:932-943,C201615)NguyenCQD,CMerrillCPT,CJa.eCGJCetCal:AdalimumabCforCpreventionCofCuveiticC.areCinCpatientsCwithCinactiveCnon-infectiousCuveitisCcontrolledCbyCcorticosteroids(VISUALII):aCmulticenter,Cdouble-masked,Crandomized,Cplacebo-controlledphase3trial.LancetC388:1183-1192,C201616)SheppardJ,JoshiA,BettsKAetal:E.ectofadalimumabonCvisualCfunctioningCinCpatientsCwithCnoninfectiousCinter-mediateCuveitis,CposteriorCuveitis,CandCpanuveitisCinCtheCVISUAL-1CandCVISUAL-2CTrials.CJAMACOphthalmolC135:511-518,C201717)SuhlerEB,AdanA,BrezinAPetal:Safetyande.cacyofadalimumabinpatientswithnoninfectiousuveitisinanongoingCopen-labelCsuudy:VISUALCIII.COphthalmologyC125:1075-1087,C201818)Martin-VarillasJL,Calvo-RioV,BeltranEetal:Success-fuloptimizationofadalimumabtherapyinrefractoryuve-itisduetoBehcet’sdisease.OphthalmologyC2018,inpress19)RamananCAV,CDickCAD,CJonesCAPCetCal:AdalimumabCplusmethotrexateforuveitisinjuvenileidiopathicarthri-tis.NEnglJMedC376:1637-1646,C201720)BreitbachM,TappeinerC,BohmMRRetal:Discontinua-tionCofClong-termCadalimumabCtreatmentCinCpatientsCwithCjuvenileCidiopathicCarthritis-associatedCuveitis.CGraefes1226あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(70)’’-

増殖糖尿病網膜症に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

増殖糖尿病網膜症に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyforProliferativeDiabeticRetinopathy鈴間潔*I増殖糖尿病網膜症とVEGF糖尿病網膜症が進行すると毛細血管が閉塞し,網膜に無灌流領域が形成される.無灌流領域に残された視細胞やグリア細胞は酸素不足という一種のストレス下に置かれ,平常時とは異なる遺伝子発現をはじめる.その中の一つとして血管内皮増殖因子(vascularCendothelialgrowthfactor:VEGF)の過剰生成がある.平常時であれば網膜血管の生存維持に働くはずのCVEGFが大量に生成され硝子体中に放出される結果,硝子体中への血管新生や血管透過性の亢進による黄斑浮腫が起こると考えられている(図1).また,網膜虚血がそれほど強くなくても,高血糖や後期糖化産物(advancedglycationend-product:AGE),酸化ストレスによりCVEGFの発現が亢進することが知られている.実際の増殖網膜症の硝子体中のCVEGF濃度を調べてみたところ,光凝固や硝子体手術により鎮静化した増殖網膜症や他の眼科疾患と比較して,活動性の高い増殖網膜症において有意にVEGF濃度が上昇していることが明らかとなった1).また,同様に黄斑浮腫においてもCVEGF濃度の上昇が報告されている2).このことは増殖糖尿病網膜症,糖尿病黄斑症の活動性とCVEGFには深い関連があることを示唆しているといえる.図1増殖糖尿病網膜症の広角蛍光眼底造影無灌流領域からCVEGFが産生され,新生血管が生じると考えられる.II従来の増殖糖尿病網膜症に対する治療(汎網膜光凝固)抗CVEGF療法が登場する前は,増殖糖尿病網膜症に対する治療は汎網膜光凝固がゴールドスタンダードだった(図2).増殖糖尿病網膜症のメカニズムが不明だった頃は汎網膜光凝固の奏効機序は不明であったが,分子生物学の進歩により,網膜無灌流領域を熱レーザーで破壊することでCVEGFなどの血管新生因子の産生を抑制すると考えられるようになった.最近はパターンスキャンC*KiyoshiSuzuma:香川大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕鈴間潔:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸C1750-1香川大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(61)C1217図2増殖糖尿病網膜症に対するパターンスキャン方式による汎網膜光凝固従来のレーザーよりも痛みが少なく短時間で施行できる.表2汎網膜光凝固の短所,副作用,合併症表1汎網膜光凝固の利点図3汎網膜光凝固後15年を経て凝固斑が黄斑に及んだ症例視力C0.1以下である.~図4増殖糖尿病網膜症の術前の抗VEGF療法図5増殖糖尿病網膜症の術前の抗VEGF療法投与前のパノラマ眼底写真.投与前のパノラマ蛍光眼底写真.図6増殖糖尿病網膜症の術前の抗VEGF療法図7増殖糖尿病網膜症の術前の抗VEGF療法投与後のパノラマ蛍光眼底写真.新生血管の退縮を認める.投与後,硝子体手術後のパノラマ眼底写真.術後再出血もなく眼底観察も明瞭である.-

糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニド

2018年9月30日 日曜日

糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドLocalAdministrationofTriamcinoloneAcetonideforDiabeticMacularEdema志村雅彦*はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)という病態が広く知られるようになって久しい.20世紀にはDMEは「糖尿病網膜症の中で黄斑部に漿液漏出が認められ視力が低下するもの」という程度の認識であったが,1990年代に光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が登場し,非侵襲的に浮腫の形態が簡便に把握できるようになってDMEの診断が確立され,この疾患に対する興味が急速に広がることになった.治療についても20世紀には光凝固と硝子体手術という,治療機序も明らかでないうえに一部の症例にしか効果がみられなかった侵襲的な外科的治療が主体であったものが,今世紀に入ると,DMEの病態に炎症とVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)発現が関与することが明らかとなって,抗炎症ステロイドと抗VEGF薬の局所投与という作用機序の明確な治療法が導入,臨床的な改善効果も認められたこともあり,DMEの診断と治療は今や長足の進歩を遂げたといえる.DMEに対する抗VEGF療法は,大規模研究によってその有効性と安全性が確認され,従来の治療に比較しても良好な視力予後が証明されたこともあり,現在はDMEに対する治療の第一選択となっていることは間違いない1).しかし,実臨床においては抗VEGF薬に抵抗する症例も少なからず存在しており,光凝固や硝子体手術,抗炎症ステロイドが未だに治療の大きな部分を占めているのも事実である.本稿ではDMEに対する治療のなかで,抗炎症ステロイドであるトリアムシノロンアセトニドの役割はどう変わっていったのか,およびその意義を考えてみる.IDMEの病態から治療を考えるDMEの病態は組織浮腫であるから,組織間質に漿液成分が貯留する条件を考えると理解しやすい(図1).漿液成分は網膜の異常血管からの漏出によってもたらされると考えられるので,その機序としては,高血糖による血管壁の機能的損傷からもたらされる血管透過性の亢進,新生血管からの漿液漏出,網膜毛細血管瘤からの漿液漏出などが考えられる.網膜は網膜内に存在する網膜血管と脈絡膜血管の二つから栄養供給を受けているので,いずれの血管のバリア機能の破綻によってもDMEが発症することになる.これに対し,血管透過性の亢進や新生血管の活動性は抗VEGF薬という特効薬があり,網膜毛細血管瘤はピンポイントの光凝固によって漏出を止めることが可能である.つまり,DMEの原因が異常血管からの漏出によるもののみであれば,抗VEGF薬とピンポイント光凝固によって治療ができることになるが,残念ながら現実はそうではない.漏出した血漿蛋白質の組織間質への貯留は,膠質浸透圧の上昇をきたたすことで漿液成分を滞留させるし,糖尿病そのものに起因する組織炎症に伴う漏出や,細胞膜での物質交換への機能的障害は細胞の膨化を引き起こす*MasahikoShimura:東京医科大学八王子医療センター眼科〔別刷請求先〕志村雅彦:〒193-0998東京都八王子市館町1163東京医科大学八王子医療センター眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(43)11991.黄斑部への水分供給過剰3.黄斑部での牽引網膜内新生血管硝子体牽引網膜毛細血管瘤血管内皮バリア機能破綻RPEバリア機能破綻2.黄斑部からの水分排出障害4.黄斑部での慢性炎症細胞膜機能異常血漿蛋白漏出図1糖尿病黄斑浮腫の原因可能性もある.また,炎症が継続すれば,黄斑部表面に器質変化が起こって網膜硝子体牽引が引き起こされ,牽引性の浮腫が惹起される可能性もある.このようにDMEは多因子疾患であり,それゆえ治療の適応選択についてさまざまな試みが行われているのである.IIDMEの治療は“抗VEGF薬ファースト”でよいのか前述したように,DMEの主たる原因は高血糖による網膜血管の損傷によって引き起こされる網膜組織への漏出であり,いわゆる血管透過性の亢進である.これに対する根本的な治療は網膜血管の損傷を修復することであるが,残念ながら現在有効な手立てはない.次善の策として血管透過性亢進を抑制しうる抗VEGF薬の投与が適応となる.抗VEGF薬は新生血管の活動性も抑制するので,新生血管からの漏出も抑制することになり,血管からの漏出のみがDMEの原因であれば抗VEGF薬だけで対応できるはずである.では,DMEの抗VEGF薬への反応性はどの程度であろうか?筆者らは68例68眼のDME患者に対し,浮腫が改善するまで連続的に抗VEGF薬を最長6カ月投与したところ,実に24眼(35.8%)が初回の投与で浮腫が消退する一方,6回投与しても浮腫が改善しなかった症例が12眼(17.9%)あった2).これはDMEの病態が血管透過性の亢進だけではないことを裏づけるものである.この研究では抗VEGF薬に対する反応が良好な症例は抵抗症例に比べて,治療前の前房水のVEGFや炎症性サイトカイン濃度が有意に高値であったことが判明したが,視力や浮腫といった臨床パラメータからは有意差を見いだせなかった.このように抗VEGF薬に対する反応性がさまざまであるということは,逆にいえば「抗VEGF薬に抵抗する症例に対する治療」というアンメットニーズが存在するという証明でもある.このアンメットニーズに対する回答の一つとして抗炎症ステロイド治療があると考えてよい.IIIDMEの治療に抗炎症ステロイド?DMEの病態の一つに全身への慢性炎症による組織浮腫があることは述べた.炎症抑制といえば抗炎症ステロイドということになるが,糖尿病患者に抗炎症ステロイドを投与する場合は,常に血糖上昇を引き起こす可能性を考慮しなくてはならない.もちろん,全身投与は基本的には禁忌であることはいうまでもない.眼科領域で使われる抗炎症ステロイドは顆粒状のトリアムシノロンア1200あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(44)a.DME全症例b.偽水晶体眼のDME平均視力改善(letterscore)11004812162024283236404448525660646872768084889296100104048121620242832364044485256606468727680848892961001040診療経過(week)診療経過(week)平均視力改善(letterscore)111098765432■:ranibizumab+deferredlaser:ranibizumab+promptlaser◆:triamcinolone+promptlaser●:sham+promptlaser図2糖尿病黄斑浮腫への治療別視力改善(文献C1より改変引用)硝子体注射角膜輪部3.5mmより刺入し,薬液投与投与翌日投与1週間後投与1カ月後図3トリアムシノロンアセトニドの硝子体内投与図4トリアムシノロンアセトニドのTenon.下投与a:スプリング剪刀を用いて結膜に切開を入れ,b:Tenon.を捌いて強膜を露出させ,Cc:21GのCTenon.下投与針を,強膜表面に沿わせるように刺入する.浮腫軽減率a.スポンジ状浮腫b..胞様浮腫c.漿液性.離(%)31.0±15.9%(n=56)(%)40.7±14.2%(n=39)(%)24.3±14.8%(n=31)6040200051015200510152005101520糖尿病歴(年)糖尿病歴(年)糖尿病歴(年)図5糖尿病黄斑浮腫への抗炎症ステロイド治療糖尿病黄斑浮腫のタイプ別に,抗炎症ステロイド硝子体内投与の有効性を検討した.と激増しているのに対して,常に一定の割合で選択されていることがわかる.つまり,DMEの治療において,抗CVEGF薬の普及は,抗炎症ステロイドの選択にはあまり影響を及ぼしていないのである.これは抗炎症ステロイドが抗CVEGF薬と併用されていることを意味するものであり,今後も抗CVEGF薬と抗炎症ステロイドの併用治療が選択されている可能性がある.さて,抗CVEGF薬と抗炎症ステロイドの併用治療については,いくつかの報告があるが,ともに硝子体投与を行った場合には,抗CVEGF薬の単独投与と比較して,有意な予後をもたらすものではないことが示されている10).これは抗炎症ステロイドの硝子体内投与の合併症である眼圧上昇や白内障進行などが影響している可能性を否定できない.そこで筆者らは抗炎症ステロイドのTenon.下投与を定期的に投与することで,DMEの活動性を抑制し,その結果,抗CVEGF療法の有効性を高める可能性について検証してみた.20名の両眼性のDME40眼を対象とし,抗CVEGF薬による治療を行う際に,対象眼にのみC3カ月ごとにトリアムシノロンアセトニドのCTenon.下投与をC4回施行し,非対象眼(対側眼)とのC1年間の視力と浮腫の予後を比較検討したものである.なお,抗CVEGF薬の投与基準は浮腫の高さ(OCTによるCETDRSmapで中心C1Cmm円内がC300Cμm以上)によって決定した.この結果,併用療法を施行した眼では視力,浮腫ともに変動が少なく,6カ月以降で有意に改善がみられている.また,眼圧については,観察期間が長くなるにつれて上昇傾向にあることも確認された11).おわりにDMEに対する抗炎症ステロイド局所投与は,浮腫軽減効果や視力改善効果は証明されているものの,現時点では抗CVEGF薬の代替療法,補足療法であることは否めない.一方で抗炎症ステロイドにしか反応しないDMEも存在することから,DMEに対する診断をもう少し詳細に行う必要があるだろう.また,糖尿病という全身疾患が慢性炎症であることから,局所での抗炎症ステロイド治療の重要性は今後も失われることはないと思われる.もっとも抗炎症ステロイドは「抗炎症効果」だ(49)けではなく,代謝亢進や活性酸素誘導など他の効果を有しており,これらがCDMEに与える影響についても検討しなければならないだろう.文献1)TheCDiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchCNetwork:CRandomizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredClaserCorCtriamcinoloneCplusCpromptClaserCforCdia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,C20102)ShimuraM,YasudaK,MotohashiRetal:Aqueouscyto-kineCandCgrowthCfactorClevelsCindicateCresponseCtoCranibi-zumabCforCdiabeticCmacularCoedema.CBrCJCOphthalmolC101:1518-1523,C20173)TaoCY,CJonasCJB:IntravitrealCtriamcinolone.COphthalmo-logicaC225:1-20,C20114)ByunCYS,CParkCYH:ComplicationsCandCsafetyCpro.lesCofCposteriorCsubtenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide.CJOculPhrmacolTher25:159-162,C20095)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:Panretinalpho-tocoagulationCinducesCpro-in.ammatoryCcytokinesCandCmacularthickeninginhigh-riskproliferativediabeticreti-nopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC247:1617-1624,C20096)QiPH,ShengB,WeiSQetal:Intravitrealversusposteri-orCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCinjectionCforCdiabeticmacularCedema:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CCurrEyeResC37:1136-1147,C20127)ShimuraM,YasudaK,NakazawaTetal:VisualoutcomeafterintravitrealtriamcinoloneacetonidedependsonopticcoherenceCtomographicCpatternsCinCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC31:748-754,C20118)ShuklaD,BeheraUC,ChakrabortyUDetal:Serousmac-ularCdetachmentCasCaCpredictorCofCresolutionCofCmacularCedemaCwithCintravitrealCtriamcinoloneCinjection.COphthal-micSurgCLasersImagingC40:115-119,C20099)ShimuraCM,CYasudaCK,CYasudaCMCetCal:VisualCoutcomeCafterCintravitrealCbevacizumabCdependsConCtheCopticalCcoherenceCtomographicCpatternsCofCpatientsCwithCdi.useCdiabeticmacularedema.RetinaC33:740-747,C201310)Riazi-EsfahaniCM,CRiazi-EsfahaniCH,CAhmadrajiCA:Intra-vitrealCbevacizumabCaloneCorCcombinedCwithC1CmgCtriam-cinoloneindiabeticmacularedema:arandomizedclinicaltrial.IntOphthalmolC38:585-598,C201811)ShimuraM,YasudaK,MinezakiTetal:ReductionofthefrequencyCofCintravitrealCbevacizumabCbyCposteriorCsub-tenoninjectionoftriamcinoloneacetonideinpatientswithdi.useCdiabeticCmacularCedema.CJpnCJCOphthalmorlC60:C401-407,C2016あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018C1205

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyforDiabeticMacularEdema春田雅俊*吉田茂生*はじめに糖尿病黄斑浮腫は,就労年齢層での社会的失明の原因として大きな問題となっている.全世界には約9,300万人の糖尿病網膜症の患者がいて,そのうち約2,100万人は糖尿病黄斑浮腫を合併していると推定されている.糖尿病黄斑浮腫は重篤な視力低下をきたし,遷延すると不可逆的な機能障害を生じるため,早急に適切な治療を行う必要がある.血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)には,血管新生や血管透過性亢進の作用があり,糖尿病網膜症の病態に深くかかわっている.近年の多数の大規模臨床試験により糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法の有効性が示され,治療の第一選択となりつつある.本稿では,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法について,大規模臨床試験で得られた知見,実臨床での投与方法について解説する.I抗VEGF薬についてVEGFは虚血により発現が誘導される二量体の糖蛋白質で,おもな作用として血管新生と血管透過性亢進がある.糖尿病網膜症の患者では硝子体中にVEGFが検出され,病状の進展とともにVEGF濃度が増加する.また,実験的にサル眼にVEGFを硝子体内投与すると,糖尿病網膜症と同様の網膜虚血や微小血管障害を引き起こす.このようにVEGFは糖尿病網膜症の病態に深くかかわっていると考えられ,糖尿病黄斑浮腫の治療標的として注目されている.わが国では2014年にラニビズマブ(ルセンティスR)とアフリベルセプト(アイリーアR)が糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬として適応拡大された.ラニビズマブはVEGFに対するヒト化モノクローナル抗体のFab断片で,VEGFファミリーのうちVEGF-Aを阻害する.アフリベルセプトはヒトVEGF受容体1と2の細胞外ドメインを結合した融合糖蛋白質で,VEGF-Aだけでなく,VEGF-Bや胎盤増殖因子も阻害する.II大規模臨床試験1.プロトコールIDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net)によるプロトコールIでは,糖尿病黄斑浮腫患者をラニビズマブ0.5mg+遅延局所光凝固群,ラニビズマブ0.5mg+即時局所光凝固群,トリアムシノロン4mg+即時局所光凝固群,即時局所光凝固群の4群にランダムに割り付け,治療効果を比較している(図1)1).ラニビズマブは毎月連続3回の導入投与後に必要時投与,トリアムシノロンは4カ月ごとに硝子体内投与している.1年の経過観察では,レーザーの仕方にかかわらずラニビズマブ群ではETDRS視力で9文字,トリアムシノロン群では4文字,局所光凝固群では3文字の改善が得られた.これらの結果から,ラニビズマブ+局所光凝固は,局所光凝固と比べて有意な視力改善が得られることが示された.*MasatoshiHaruta&*ShigeoYoshida:久留米大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕春田雅俊:〒830-0011福岡県久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(35)11912.RESTORE試験RESTORE試験は第III相ランダム化比較試験で,糖尿病黄斑浮腫患者をラニビズマブ0.5mg群,ラニビズマブ0.5mg+局所光凝固群,局所光凝固群の3群に割り付け,ラニビズマブは毎月連続3回の導入投与後に必要時投与を行っている(図2)2).なお2年目からは局所光凝固群にもラニビズマブの必要時投与を認めている.3年の経過観察においては,ラニビズマブ群ではETDRS視力で8.0文字,ラニビズマブ+局所光凝固群では6.7文字,局所光凝固群では6.0文字の改善が得られた.これらの結果から,ラニビズマブの単独投与でも,ラニビズマブ+局所光凝固と同等かそれ以上の視力改善が得られることが示された.3.RISE.RIDE試験a.糖尿病黄斑浮腫に対する効果RISE/RIDE試験は第III相ランダム化比較試験で,糖尿病黄斑浮腫患者をラニビズマブ0.5mg群,ラニビズマブ0.3mg群,偽注射群の3群に割り付け,毎月投与による治療効果を比較している(図3)3).なお3年目からは偽注射群にもラニビズマブ0.5mgを毎月投与している.3年の経過観察では,ラニビズマブ群ではETDRS視力で11.2.12.4文字の改善が得られたのに対し,偽注射群(3年目からラニビズマブ0.5mgを毎月投与)では4.5文字の改善しか得られなかった.これらの結果から,ラニビズマブの毎月投与により糖尿病黄斑浮腫の視力改善が維持できること,また投与開始が遅れると視力改善が限定的になることが示された.b.糖尿病網膜症の改善効果2年の経過観察では,糖尿病網膜症の重症度が2段階以上改善した割合は,ラニビズマブ群では35.9.37.2%であったのに対し,偽注射群では5.4%であった4).また,後極部に網膜無灌流領域のある患者の割合は,ラニビズマブ群ではほとんど変わらなかったのに対し,偽注射群では徐々に増加した5).さらに硬性白斑を認めない患者の割合は,ラニビズマブ群では61.3.62.0%(投与前は22.1.23.6%)だったのに対し,偽注射群では36.3%(投与前は20.9%)であった6).これらの結果から,ラニビズマブの毎月投与には糖尿病網膜症の重症度を改善し,後極部の網膜無灌流領域の新たな形成を抑制し,硬性白斑を消退する効果もあることが確認された.4.VISTA.VIVID試験a.糖尿病黄斑浮腫に対する効果VISTA/VIVID試験は第III相ランダム化比較試験で,糖尿病黄斑浮腫患者をアフリベルセプト2mg毎月投与群,アフリベルセプト2mg隔月投与群(ただし初回5回は毎月投与),局所光凝固群の3群に割り付け,治療効果を比較している(図4)7).なお3年目からは局所光凝固群にもアフリベルセプト2mgの必要時投与を認めている.3年の経過観察では,アフリベルセプト群ではETDRS視力で10.3.11.7文字の改善が得られたのに対し,局所光凝固群(3年目からアフリベルセプト2mgを必要時投与)では1.4.1.6文字の改善しか得られなかった.これらの結果からアフリベルセプト投与では,隔月投与でも毎月投与と同等の視力改善が維持できること,また投与開始が遅れると視力改善はほとんど得られないことが示された.b.糖尿病網膜症の改善効果2年の経過観察では,糖尿病網膜症の重症度が2段階以上改善した割合は,アフリベルセプト群では29.3.37.1%であったのに対し,局所光凝固群では8.2.15.6%であった8).これらの結果から,アフリベルセプトの毎月または隔月投与には糖尿病網膜症の重症度を改善する効果も確認された.5.プロトコールTDRCR.netによるプロトコールTでは,糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬の3剤の治療効果を比較している.糖尿病黄斑浮腫患者をアフリベルセプト2mg群,ラニビズマブ0.3mg群,ベバシズマブ1.25mg群の3群にランダムに割り付け,初回投与後は毎月診察して,必要時に投与を行っている(図5)9).2年の経過観察では,3剤すべてで治療効果が得られたが,治療開始前の視力によって差が出る結果となった.治療開始前の視力が20/40.20/32と良好な症例では,ETDRS視力での改善度は,アフリベルセプト群が7.8文字,ラニビズマブ群が8.6文字,ベバシズマブ群が6.8文字で,3剤間1192あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(36)視力の平均変化量(文字数)視力の平均変化量(文字数)1086420週数ラニビズマブ+遅延局所光凝固ラニビズマブ+即時局所光凝固トリアムシノロン+即時局所光凝固即時局所光凝固図1DRCR.netによるプロトコールIラニビズマブ+局所光凝固は,局所光凝固単独と比べて有意な視力改善が得られている.トリアムシノロン+局所光凝固は,ラニビズマブ+局所光凝固と比べて,投与直後の視力改善効果はほぼ同等であったが,その後に視力低下が進行している.この視力低下はステロイドによる白内障の進行と考えられ,眼内レンズ挿入眼のみでのサブ解析では,このような視力低下は認めていない.(文献C1より許諾を得て引用)048121620242832364044485268841086+8.0文字+6.7文字+6.0文字420024681012ラニビズマブ14161820222426月数ラニビズマブ+局所光凝固図2RESTORE試験28303234局所光凝固36ラニビズマブ単独でも,ラニビズマブ+局所光凝固と同等かそれ以上の視力改善効果が得られている.なおC2年目からは局所光凝固群にもラニビズマブの必要時投与を認めている.(文献C2より許諾を得て引用)C視力の平均変化量(文字数)視力の平均変化量(文字数)12+12.4文字+11.2文字1086+4.5文字420月数ラニビズマブ0.5mgラニビズマブ0.3mg偽注射図3RISE.RIDE試験ラニビズマブの毎月投与により糖尿病黄斑浮腫の視力改善が維持されている.3年目からは偽注射群にもラニビズマブの毎月投与を開始しているが,視力改善効果は限定的である.(文献C3より許諾を得て引用)0246810121416182022242628303234361412+10.5文字+10.4文字108642+1.4文字0週数アフリベルセプト毎月アフリベルセプト隔月局所光凝固図4VISTA試験アフリベルセプトの隔月投与は,毎月投与と同等の視力改善が維持されている.なおC3年目からは局所光凝固群にも,アフリベルセプトを必要時投与しているが,視力改善効果はほとんど得られていない.(文献C7より許諾を得て引用)081624324048566472808896104112120128136144視力の平均変化量(文字数)20+18.1文字+16.1文字15+13.1文字10+8.6文字+7.8文字+6.8文字5004812162024283236404448526884104週数アフリベルセプト(視力不良群)ラニビズマブ(視力不良群)ベバシズマブ(視力不良群)アフリベルセプト(視力良好群)ラニビズマブ(視力良好群)ベバシズマブ(視力良好群)図5DRCR.netによるプロトコールT治療開始前の視力が良好な症例では,3剤間で視力改善度に有意差を認めていない.一方,治療開始前の視力が不良な症例では,アフリベルセプトはベバシズマブに対して有意な視力改善を認めている.(文献C9より許諾を得て引用)らせるかについては意見が分かれている.RESTORE試験では,ラニビズマブに局所光凝固を併用しても抗VEGF薬の投与回数を減らすことはできなかった2).一方,ナビラスCRに蛍光眼底造影検査の結果を取り込み,イメージガイド下に正確な局所光凝固を行うと,1年でラニビズマブの平均投与回数をC6.9回からC3.9回まで減らすことができた11).蛍光眼底造影検査をこまめに施行し,正確な局所光凝固を実践できれば,抗CVEGF薬の投与回数の減少につながるのかもしれない.筆者らは,蛍光眼底造影検査にて周辺部に網膜無灌流領域を認める場合は,積極的に選択的網膜光凝固または汎網膜光凝固を施行している.ベバシズマブ単独投与群と選択的網膜光凝固の併用群を比較した研究では,周辺部の虚血網膜の程度と黄斑浮腫の再燃には有意な相関があり,虚血網膜への選択的網膜光凝固を併用することで抗CVEGF薬の投与回数を減らすことができたとしている12).たしかに大規模臨床試験のように抗CVEGF療法を毎月継続することができれば,糖尿病網膜症の重症度を改善し,増殖糖尿病網膜症への増悪を防止できるかもしれない.しかし,実臨床では永続的な抗CVEGF療法は現実的ではなく,今後も周辺部の網膜無灌流領域に対する網膜光凝固は重要な役割を担うと考える.糖尿病黄斑浮腫は,光干渉断層計の所見に基づいて,漿液性網膜.離,.胞様黄斑浮腫,スポンジ状膨化に分類されている.それぞれ中心窩の周囲からの漏出,中心窩付近の毛細血管瘤,黄斑上膜と関連しているといわれている.このうち漿液性網膜.離を伴う糖尿病黄斑浮腫では,.胞様黄斑浮腫やスポンジ状膨化を伴う糖尿病黄斑浮腫と比べて,抗CVEGF療法に対する反応性が低い.このような漿液性網膜.離を伴う症例では,VEGFだけでなく,炎症性サイトカインも上昇しており,抗VEGF療法とステロイド眼局所投与の併用が奏効しやすいとされている.また,硝子体黄斑牽引症候群,黄斑上膜など黄斑部への機械的な牽引が糖尿病黄斑浮腫の病態に関与する場合は,小切開硝子体手術のよい適応となる.DRCR.netのプトロコールCIでは,トリアムシノロン投与群は,ラニビズマブ投与群と比べて投与直後の視力改善効果はほぼ同等であったが,その後に視力低下が進行した(図1)1).この視力低下はステロイドによる白内障の進行と考えられ,眼内レンズ挿入眼のみでのサブ解析ではこのような視力低下は認めていない.そのため,眼内レンズ挿入眼で,ステロイド投与により眼圧が上昇するレスポンダーでなければ,糖尿病黄斑浮腫の治療として,安価で,効果持続期間の長いステロイド眼局所投与を選択してもよいと思われる.黄斑部への硬性白斑の沈着は,糖尿病黄斑浮腫の視力予後不良因子である.黄斑部の近傍に硬性白斑の集積を認める糖尿病黄斑浮腫の症例は,抗CVEGF療法のよい適応と思われる.ただし抗CVEGF療法による硬性白斑の消退効果はきわめて緩徐であり6),根気強く抗CVEGF療法を継続しなければならない.筆者らは,糖尿病黄斑浮腫の患者に対しては,かかりつけの内科医との連携を密にとり,糖尿病のコントロール状態だけでなく,全身合併症の情報も共有したうえで抗CVEGF療法の適応を判断している.抗CVEGF療法の全身的な副作用として動脈血栓塞栓症があり,たとえ硝子体投与であっても慎重に考えるべきである.最近のメタアナリシスでは,眼科疾患に対する抗CVEGF療法では全身の重篤な合併症の頻度は増加しないとされている13).ただし多くの臨床試験では,全身リスクの高い症例はもともと除外されており,結果の解釈には注意が必要と思われる.おわりに糖尿病黄斑浮腫の治療は,抗CVEGF薬の登場により大きく変化してきている.抗CVEGF薬の劇的な治療効果を目の当たりにする一方で,高価な抗CVEGF薬を頻回に投与する必要があるなど,実臨床ではまだ解決できていない問題も多い.糖尿病黄斑浮腫では,抗CVEGF療法だけでなく,局所光凝固,ステロイド眼局所投与,硝子体手術など治療の選択肢も多い.一人一人の病態,全身状態,社会的背景にあわせて適切な治療法を選択して組み合わせ,最善の視機能が得られるよう治療戦略をたてることが求められている.1196あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(40)-

網膜静脈分枝閉塞症の病態と抗VEGF薬以外の治療法

2018年9月30日 日曜日

網膜静脈分枝閉塞症の病態と抗VEGF薬以外の治療法PathologyofBRVOandTreatmentotherthanAnti-VEGFTherapy飯田悠人*はじめに本稿では,網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)の発症機序と静脈閉塞に続発する病態について述べ,それぞれの病態に対する治療法,とくに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬以外の治療法の使い所について私見を交えて述べる.BRVOは,網膜静脈の第一または第二分枝レベルで閉塞を生じる疾患である.網膜循環障害では糖尿病網膜症についで2番目に多く,40歳以上の有病率は1~2%である.BRVOの静脈閉塞は網膜動静脈の交叉部で生じる.高血圧や動脈硬化などの加齢性変化が背景となり,静脈血栓が生じると考えられているが,その発症メカニズム,病態についてはいまだ解明されていない点も多い.図1に想定されるBRVOの病態と対応する眼底所見について図示する.I発症にかかわる病態1856年にドイツの病理学者Virchowは,一般的な血栓形成の成因として,「血流動態の変化」「血管内皮機能障害」「凝固機能の亢進」の三つの要因をあげた.この概念はVirchowの血栓形成の三大因子といわれ,現在でも血栓症の病態を理解するうえで重要な考え方として受け入れられており,網膜血管閉塞症においてもこれらの病態が発症にかかわっているものと考えられる.古典的には,動静脈交叉部で動脈硬化の進んだ動脈により動脈の下を通る静脈が圧排され,内腔が狭窄し静脈閉塞から血栓が形成されることで生じると考えられてきた.しかしながら,近年,網膜光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)による交叉部の観察から,BRVOの原因動静脈交叉部においては,かならずしも静脈内腔の狭窄を伴わないことが明らかとなってきている1).また,正常眼の動静脈交叉部では,2~3割で動脈が静脈よりも網膜表層を走行するarterialovercrossingであるが,BRVO眼では9割以上がarterialovercrossingであり,その逆の静脈が動脈よりも網膜表層を走行するvenousovercrossingはきわめてまれであると報告されてきた.しかしながら,最近,筆者らが行ったOCTangiography(OCTA)を用いた交叉部血管の三次元的な観察では,venousovercrossingが全体の約4割を占め,正常眼と同程度,あるいは高頻度であることが明らかとなった2).このことは,venousovercrossingの交叉パターンが,むしろBRVO発症のリスク因子である可能性を示唆すると考えられる.さらに興味深いことに,OCTAにて描出された原因交叉部の静脈血管は,venousovercrossingの症例では静脈内腔の狭細化が顕著である一方で,arterialovercrossingの症例では狭細化があまりみられなかった.これはvenousovercross-ingの症例では,網膜静脈が内境界膜と網膜動脈に挟まれるためにその内腔が狭細化するが,arterialover-crossingの症例では,網膜静脈が狭細化せずに網膜深層方向へ大きく屈曲して走行するためと考えられる(図*YutoIida:大阪赤十字病院眼科〔別刷請求先〕飯田悠人:〒543-8555大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30大阪赤十字病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(29)1185糖尿病発症前因子急性期慢性期図1BRVOの病態と網膜所見の概念図内境界膜網膜表層網膜色素上皮層網膜深層内境界膜網膜表層網膜色素上皮層網膜深層動脈が静脈よりも表層を走行→Arterialovercrossing特徴:静脈は内腔を保ち大きく蛇行静脈が動脈よりも表層を走行→Venousovercrossing特徴:内境界膜と動脈の間で静脈は狭細化図2BRVOの原因動静脈交叉部の特徴図3Venousovercrossingの症例(文献C2より改変引用)図4急性期BRVOの臨床所見図5網膜下出血による視細胞障害(文献C3より改変引用)発症前因子急性期慢性期図6BRVOの治療ターゲットと治療法

網膜静脈分枝閉塞症に対する抗VEGF療法

2018年9月30日 日曜日

網膜静脈分枝閉塞症に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyinBRVO坪井孝太郎*はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,わが国において40歳以上の約2.0%が罹患していると推測される網膜循環疾患である.網膜の動静脈交差部での静脈閉塞が原因で発症することが知られている.網膜動静脈交差部では,動脈の圧迫により静脈が狭窄・屈曲し,血管内皮細胞が傷害されることで,血栓を生じ閉塞をきたすと考えられている.急性期には,閉塞部位より上流側の静脈領域において,出血,浮腫や網膜下液などの滲出性変化,そして網膜虚血を生じる(図1).慢性期には網膜虚血に続発する新生血管や遷延する黄斑浮腫が臨床上問題となってくる.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の登場,そして2013年よりわが国におけるBRVOへの適応拡大を経て,現在BRVO治療において抗VEGF薬が治療の第一選択であることは疑う余地がない.実臨床において,抗VEGF薬を使用すれば,視力改善,浮腫消失が得られやすいという点で,BRVOは抗VEGF療法を継続的に行いさえすれば十分な治療効果が得られる症例が多いという印象をもつと思う.しかし,治療抵抗性を示す症例や,逆に無治療でも軽快する症例が存在することから,症例ごとに最適な治療を行うことができれば,医師,患者ともに大きなメリットがあると思われる.本稿ではBRVOに対する抗VEGF療法のこれまでの知見をまとめ,BRVOに対する抗VEGF療法のこれからについて考える.IBRVOに伴う黄斑浮腫の病態BRVOに対する抗VEGF療法について述べる前に,BRVOに伴う黄斑浮腫の病態について解説する.BRVOは動静脈交差により生じる静脈内の血栓が血流障害をきたし,その結果として血管内腔の圧上昇,血管内皮細胞障害をきたす.血管内圧が高ければ,血管内から網膜内に血液成分の滲出をきたし,網膜浮腫や蛋白漏出の変化が生じる.網膜組織内への蛋白漏出は膠質浸透圧上昇をもたらし,組織浮腫をきたし,結果として毛細血管の閉塞や網膜虚血が生じる.また,これまでの研究から眼内VEGF,IL-6,IL-8,MCP-1などの上昇が示されており,血管閉塞に伴う滲出性変化に加え,虚血,炎症によって発現が誘導されたVEGFや各種サイトカインも黄斑浮腫を促進する因子として働くと考えられている.また,近年OCTangiography(OCTA)を用いて網膜血管を層別に観察することが可能となり,網膜浅層と網膜深層の血流変化について報告されてきている.Spaideら1)は網膜深層血流の低下が浮腫の遷延に関与している可能性を報告した.筆者ら2)はBRVOに伴う遷延する黄斑浮腫を認める症例では,深層血流は認めないが,浅層血流は認めるという領域(isolatedves-sel:孤立血管)が多いということを発見し,遷延性黄斑浮腫の予測因子として使える可能性があると考えている(図2).以上より,BRVOに伴う黄斑浮腫は閉塞に伴う*KotaroTsuboi:愛知医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕坪井孝太郎:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(21)1177図1網脈静脈分子閉塞症(BRVO)症例の一例a:急性期CBRVOの眼底写真.Cb:動静脈交差部(黄色四角)を撮影したCOCTangiography(OCTA)画像(浅層).c:後極全体のパノラマCOCTA画像(浅層).動静脈交差部(黄色四角)の上流(末梢)側の静脈周囲に無灌流領域や毛細血管拡張を認めている.C図2遷延するBRVOにおけるOCTangiography(OCTA)の一例a:浅層のCOCTA画像.Cb:深層のCOCTA画像.Cc:浅層を青,深層を赤に色付けした合成COCTA画像.右上部分(黄色線領域)は浅層の血流は残っているが,深層の血流が脱落しており,合成COCTA画像にて浅層の血流()のみが残っていることがわかる.Cd:浅層血流と深層血流に差がある症例のシェーマ.浅層のみに血流が残っているため,網膜深層へ滲出性変化が貯留するが,排出されない可能性がある.(文献C2より引用改変)MeanChangefromBaselineBCVALetterScore(ETDRSLetters)20ラニビズマブ0.5mg群(n=131)16ラニビズマブ0.3mg群(n=134)12シャム群(n=132)840治療期間観察機関(毎月投与)(必要時投与)図3BRAVO試験のベースライン視力からの平均変化量ラニビズマブC0.5Cmg群は速やかな視力改善を得た後,観察期間において視力維持が可能であった.シャム群は観察期間から急速な視力改善を得ているがラニビズマブ群には及んでいない.シャム群と比較して*p<0.0001,**p<0.01.(文献C3より引用改変)0724681012(月)MeanChangefromBaselineレーザー単独群レーザー/アフリベルセプト群(n=99)アフリベルセプト群(n=91)20BCVA(ETDRSletters)1816141210864200481216202428323640444852Time(weeks)図4VIBRANT試験のベースライン視力からの平均変化量アフリベルセプト群は速やかな視力改善を得た後,視力維持が可能であった.レーザー単独群はC24週の視力改善は有意に低く,アフリベルセプト開始後もアフリベルセプト群に追いついていない.レーザー単独群,レーザー/アフリベルセプト群と比較して*p<0.0001,**Cp=0.0035.(文献C4より引用改変)CMeanChangefromBaseline(Letters)2520151050ラニビズマブ0.5mg群ラニビズマブ0.3/0.5mg群シャム群/0.5mg群BaselineM1236912Month図5HORIZON試験のベースライン視力からの平均変化量ラニビズマブ群とシャム群ではC12カ月目時点では視力改善量に優位な差を認めていたが,24カ月目時点では差は縮小している.(文献C5より引用改変)Mean(±SE)BCVAchangefrombaselineovertime(ETDRSletters)ラニビズマブ群(n=180)ラニビズマブ+レーザー群(n=178)レーザー単独群(n=26)レーザー/ラニビズマブ群(n=66)VAGainInj.No.19+17.311.316+15.511.413+12.18.110+10.0─741-2図6BRIGHTER試験のベースライン視力からの平均変化量ラニビズマブ群とレーザー単独群もしくはレーザー/ラニビズマブ群ではC24カ月目時点では視力改善量に有意な差を認めている.(文献C6より引用改変)5.観察期間BRAVO試験では毎月受診であったのに対して,HORIZON試験ではC2年目以降,3カ月ごとの経過観察となった.その結果,1年目時点で維持できていた視力が,2年目時点で若干の低下を示した.そのためCHORI-ZON試験では,維持期においても観察期間はC2カ月ごとが好ましいと結論づけられている.Winegarnerら9)はCOCTAを用いて血流の状態を経過観察した結果,血流が減少した症例では黄斑浮腫の再発回数が多かったと報告している.BRVOの観察期間は,安定期においても浮腫が再発,増悪する前に診察し,加療することが重要であると思われる.C6.網膜出血と抗VEGF療法閉塞の強いCBRVOにおいて,網膜内出血のみならず,網膜下出血を伴う症例を認める.Muraokaら10)は網膜下出血を認めるCBRVO症例では,黄斑浮腫改善後もellipsoidCzoneや外境界膜欠損などの網膜外層障害を認めることを報告している.また,抗CVEGF薬投与の有無で網膜下出血の吸収速度が促進されることを示している.このことから網膜下出血を認める症例においては,早期からの抗CVEGF療法を行うことで,網膜外層障害を防ぐ必要があると思われる.C7.網膜光凝固術併用の効果BRIGHTER試験は,抗CVEGF療法に網膜光凝固術を併施することで,抗CVEGF療法の視力改善,また注射回数の減少が得られるのではないかという仮説のもと行われた.観察期間はC24カ月,ラニビズマブ群とラニビズマブ+レーザー群,およびレーザー群に分けられ,ラニビズマブの投与基準はC3カ月以上の視力安定が得られるまで投与を行い,その後はCPRN投与となっている.レーザー群はC6カ月以降にラニビズマブ投与を開始した群とレーザー単独治療のみの群に分けられた.24カ月の結果は,ラニビズマブ単独群とラニビズマブ+レーザー群では,視力改善量(+15.5文字Cvs+17.3文字),注射回数(11.4回CvsC11.3回)に有意な差は認められなかった.一方で,遷延性黄斑浮腫を認める症例には,毛細血管の拡張や毛細血管瘤を伴う症例があり,直接光凝固術の有効性が報告されている.Sakimotoら11)は平均C20カ月以上経過した黄斑浮腫を伴うCBRVO16症例に対して,直接光凝固術を施行した.その結果,術後にCCFTの有意な減少と,視力の有意な改善を得られた.また,Tomiyasuら12)はC1年以上経過しても浮腫が再燃する浮腫遷延群に対して直接光凝固術を施行し,浮腫の改善が得られたと報告している.従来のレーザー治療である黄斑グリッドとは異なり,毛細血管瘤を直接凝固することは,遷延する症例に対して有効な手段となる可能性がある.まとめBRVOに対する抗CVEGF療法は有効な治療法であり,第一選択であることは間違いない.しかし,遷延する症例,自然軽快する症例,早期治療が重要な症例など,症例ごとの予後を予測することはむずかしい.BRVOは抗CVEGF療法が奏効するため,積極的な抗CVEGF療法により視力改善,浮腫改善は得られるが,一方で注射回数の増加が問題となる.これまでの研究から,一般的な症例はC1+PRN投与で十分な結果が得られる.多くの症例では経過観察期間をおいても,その後の治療で視力改善が得られるが,一部の症例(網膜下出血を伴う場合など)では経過観察により視力改善が得にくくなるため,早期からの積極的な加療が重要である.また,浮腫が軽快する症例と遷延する症例では,1年後以降で注射回数に差を認めることから,2年目以降も定期的な抗VEGF薬投与が必要な症例では,抗CVEGF療法以外の選択肢も考慮する必要がある.今後の研究により,正確な予後予測が行われ,症例ごとの治療最適化が行われることを期待したい.文献1)SpaideRF:Retinalvascularcystoidmacularedema.Reti-naC36:1823-1842,C20162)TsuboiK,IshidaY,YuichiroIetal:Gapincapillaryper-fusiononopticalcoherencetomographyangiographyasso-ciatedCwithCpersistentCmacularCedemaCinCbranchCretinalCveinCocclusion.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:2038-2043,C20173)BrownCDM,CCampochiaroCPA,CBhisitkulCRBCetCal:Sus-tainedCbene.tsCfromCranibizumabCforCmacularCedemaCfol-1182あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(26)-