薬剤副作用と医薬品被害救済制度AdverseDrugReactionandReliefServicesforAdverseHealthE.ects三重野洋喜*外園千恵*はじめに薬剤副作用は予期せずに生じるものであり,患者にとっても,主治医にとっても,製薬会社にとっても避けたい被害である.その被害を救済するための制度として,「医薬品副作用被害救済制度」がある.わが国が誇るべき制度ともいえるが,詳しく知っている眼科医は少ないので,本稿で解説する.I医薬品副作用被害救済制度の概要医薬品および再生医療などの製品(医薬品など)は,医療上必要不可欠なものとして国民の生命,健康の保持増進に大きく貢献している.一方,医薬品などは有効性と安全性のバランスの上に成り立っているものであり,その使用に当たって万全の注意を払っても,副作用を完全に防止することは非常に困難とされている.医薬品の副作用による健康被害は防止しえない性格のものがあり,このような副作用による被害は,現行の過失責任主義のもとでは民事責任が発生しない.また,被害と医薬品使用との因果関係を証明するには,きわめて専門的な知識と膨大な時間と費用が必要であり,製薬企業に過失があったとしても,過失の存在の証明は容易ではない.訴訟による解決には長時間を要すること,製薬企業には安全かつ有効な医薬品の適切な供給を図るべき社会的責任があることから,そのような健康被害に対して医療費などの給付を行い,被害者の救済を図る制度が「医薬品副作用被害救済制度」である.医薬品副作用被害救済制度は,医薬品などを適正に使用したにもかかわらず発生した副作用によって健康被害が生じた場合に,迅速な救済を図ることを目的として1980年に創設された,医薬品医療機器総合機構法に基づく公的な制度である(再生医療等製品については,2014年11月25日以降より適用).副作用としては,入院治療が必要な程度の重篤な疾病や障害などの健康被害を想定している.救済給付の必要費用は,医薬品の製造販売業者がその社会的責任に基づいて納付する拠出金が原資となっている(図1).ここでいう「医薬品」とは,厚生労働大臣による医薬品の製造販売業の許可を受けて製造販売された医療用医薬品および一般用医薬品などであり,病院・診療所で処方された医療用医薬品,薬局・ドラッグストアで購入した要指導医薬品,一般用医薬品のいずれをも含む.ただし,別途対象除外医薬品が定められている.医薬品副作用被害救済制度についての詳細は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下,PMDA)のホームページで確認できる(http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai_camp/index.html).II給付の対象と対象除外医薬品1980年5月1日以降(再生医療等製品については2014年11月25日以降)に医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による疾病(入院治療を必要とする程度のもの),障害(日常生活が著しく制限さ*HirokiMieno&*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(63)1375図1医薬品副作用被害救済制度の仕組み(独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページより転載)表1副作用救済給付(障害年金,障害児養育年金)の対象となる障害の程度等級障害の状態1級1.両眼の視力の和が0.04以下のもの2.両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの3.両上肢の機能に著しい障害を有するもの4.両下肢の機能に著しい障害を有するもの5.体幹の機能に座っていることができない程度または立ち上がることのできない程度の障害を有するもの6.前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの7.精神の障害であって,前各号と同程度以上と認められる程度のもの8.身体の機能の障害もしくは病状または精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの2級1.両眼の視力の和が0.08以下のもの2.両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの3.平衡機能に著しい障害を有するもの4.咀嚼の機能を欠くもの5.音声または言語機能に著しい障害を有するもの6.一上肢の機能に著しい障害を有するもの7.一下肢の機能に著しい障害を有するもの8.体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの9.前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの10.精神の障害であって,前各号と同程度以上と認められる程度のもの11.身体の機能の障害もしくは病状または精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの【備考】視力の測定は,万国式試視力表によるものとし,屈折異常があるものについては,矯正視力によって測定する.表2給付額(2018年4月1日現在)給付の種類区分給付額①医療費健康保険などによる給付の額を除いた自己負担分通院のみの場合(入院相当程度の通院治療を受けた場合)1カ月のうち3日以上月額36,400円1カ月のうち3日未満月額34,400円②医療手当入院の場合1カ月のうち8日以上月額36,400円1カ月のうち8日未満月額34,400円入院と通院がある場合月額36,400円③障害年金1級の場合年額2,767,200円(月額230,600円)2級の場合年額2,214,000円(月額184,500円)④障害児1級の場合年額865,200円(月額72,100円)養育年金2級の場合年額692,400円(月額57,700円)⑤遺族年金年金の支払は10年間(ただし,死亡した本人が障害年金を受けたことがある場合,その期間が7年に満たないときは10年からその期間を控除した期間,その期間が7年以上のときは3年間)年額2,420,400円(月額201,700円)⑥遺族一時金7,261,200円⑦葬祭料206,000円表3請求の期限給付の種類請求の期限①医療費医療費の支給の対象となる費用の支払いが行われたときから5年以内②医療手当請求に係る医療が行われた日の属する月の翌月の初日から5年以内③障害年金請求期限は定められていない④障害児養育年金請求期限は定められていない⑤遺族年金死亡のときから5年以内注ただし,死亡前に医療費,医療手当,障害年金または障害児養育年金の支給決定があった場合には,死亡のときから2年以内注:遺族年金を受けることができる先順位者が死亡した場合にはその死亡のときから2年以内⑥遺族一時金遺族年金と同じ⑦葬祭料遺族年金と同じ表4請求に必要な書類給付の種類添付書類①医療費②医療手当1.医療費・医療手当請求書2.医療費・医療手当診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書4.受診証明書など③障害年金④障害児養育年金1.障害年金請求書または障害児養育年金請求書2.障害年金/障害児養育年金診断書.視覚障害用.聴力・平衡機能障害用.運動・感覚障害用.肝臓・腎臓・血液・造血器障害用.遷延性脳障害用/精神障害用.呼吸器疾患障害用.その他の障害用3.投薬・使用証明書または販売証明書など⑤遺族年金⑥遺族一時金1.遺族年金請求書または遺族一時金請求書2.遺族年金/遺族一時金/葬祭料診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書など⑦葬祭料1.葬祭料請求書2.遺族年金/遺族一時金/葬祭料診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書など未支給の救済給付1.未支給の救済給付請求書2.請求しようとする種別の請求書類など【備考】1.投薬・使用証明書は,診断書を作成した医師が投薬した場合(処方せんの交付を含む)は不要.2.医療費・医療手当の請求に係る受診証明書は,副作用の治療を受けた病院等での証明が必要.3.副作用の治療を受けた病院が2カ所以上の場合は,それぞれの病院などから診断書などの作成が必要.4.複数の給付請求を同時に行う場合,同じ医師による診断書は,副作用のより重篤な症状の様式を使用し,同一の書類の添付は省略可能.表5Stevens.Johnson症候群の診断基準赤字の部分が追加されたことにより,2018年4月1日から慢性期においても問診および臨床所見からStevens-Johnson症候群と診断し,難病申請ができるようになった.<診断基準>(1)概念発熱と眼粘膜,口唇,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹を伴い,皮膚の紅斑と表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらんを特徴とする.医薬品のほかに,マイコプラズマやウイルスなどの感染症が原因となることもある.(2)主要所見(必須)1.皮膚粘膜移行部(眼,口唇,外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらんなど)がみられる.2.皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱を認め,軽快後には痂皮,膜様落屑がみられる.その面積は体表面積の10%未満である.ただし,外力を加えると表皮が容易に.離すると思われる部位はこの面積に含まれる.3.発熱がある.4.病理組織学的に表皮の壊死性変化を認める.5.多形紅斑重症型(erythemamultiforme[EM]major)およびブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を除外できる.(3)副所見1.紅斑は顔面,頸部,体幹優位に全身性に分布する.紅斑は隆起せず,中央が暗紅色の.atatypicaltargetsを示し,融合傾向を認める.2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う.眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性角結膜炎がみられる.3.全身症状として他覚的に重症感,自覚的には倦怠感を伴う.口腔内の疼痛や咽頭痛のため,種々の程度に摂食障害を伴う.4.自己免疫性水疱症を除外できる.診断のカテゴリー副所見を十分考慮のうえ,主要所見5項目をすべて満たす場合,SJSと診断する.初期のみの評価ではなく全経過の評価により診断する.*慢性期(発症後1年以上経過)では眼瞼および角結膜の瘢痕化がみられる.慢性期で粘膜病変が眼瞼および角結膜の瘢痕化の場合,主要所見4は必須ではない.ただし,医薬品副作用被害救済制度において,副作用によるものとされた場合は医療費助成の対象から除く.