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点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1675.1678,2018c点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CImprovementinTechniquesofTopicalDropAdministrationafterRepeatedPatientEducationMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障薬物治療に関する指導を繰り返すことの効果について検討した.島根大学医学部附属病院の緑内障外来を受診し,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)について外来看護師が指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った.指導内容に関する記録を後ろ向きに調査した.70歳以上の患者では,知識よりも手技に関して問題がある頻度が高かった.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能であった.CE.cacyCofCrepeatedCpatientCeducationCinCtopicalCdropCadministrationCtherapyCinCglaucomaCpatientsCwasCassessed.CTheC168glaucomaCpatients(88male,C80female)C,judgedCtoChaveCpoorCdrugCadherence,CunderwentCaCpatientCeducationCprogramCprovidedCbyCnurses.CTheCprogramCconsistedCofC3steps:1.CCheckupCofCknowledgeCandCskillregardingglaucomatherapy,2.Pointingoutproblems,and3.Educationregardingknowledgeandskill.The3stepswererepeateduntilsu.cientimprovementwasobserved.Thepatienteducationrecordswerereviewedret-rospectively.Attheinitialcheckup,problemswerefoundmorefrequentlyregardingskill,ratherthanknowledge,inolderpatients(C≧70years).Problemsregardingskilldecreasedasthenumberofeducationsessionsincreased.With3repetitionsofpatienteducation,mostpatientstendedtoacquireappropriateskillsintopicaldropadminis-tration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1675.1678,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,点眼指導,点眼手技.topicaldropadherence,glaucomamed-icaltherapy,patienteducationoftopicaldropadministration,topicaldropadministrationtechnique.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,もっとも一般的に行われる緑内障治療である.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は緑内障による失明の危険因子であり1),その改善・維持は臨床上重要な課題である.アドヒアランスを維持・改善するための方法として,疾患に対する理解や実際の点眼手技について患者指導を行うことの有効性が報告されている2).当院では,外来診療時に点眼に関するアドヒアランスが良好ではないと医師が判断した患者について,外来看護師による指導を行い,十分なアドヒアランスが得られるまで指導を繰り返している.今回,指導を繰り返すことによる点眼アドヒアランスの改善効果について,点眼指導記録を確認することで調査したので報告する.CI対象および方法対象は,2008年C12月.2011年C10月に,島根大学医学部附属病院の眼科で筆者の外来を受診した842名(男性439名,女性C403名)の緑内障患者のうち,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)で〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1675図1島根大学医学部附属病院における点眼指導の手順まず,①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握する.そのうえで,③問題のある知識と手技について指導を行う.以上を,問題がなくなるまで受診ごとに繰り返す.a:70歳未満b:70歳以上知識手技知識手技図31回目点眼指導前の確認で点眼の知識と手技について問題あり・なしと判定された患者の割合a:70歳未満の患者では,知識に関する問題ありの頻度(27人/35人,77%)と手技に関する問題ありの頻度(31人/35人,89%)に統計学的な有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法).Cb:70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの頻度(95人/133人,71%)と手技に関する問題ありの頻度(121人/133人,91%)に統計学的な有意差を認めた(p<0.0001,CFisherの直接確率法).ある.看護師が,島根大学医学部附属病院で通常行っている方法により,点眼治療に関する指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った(図1).知識については,医師が説明した病気に関する理解度(病名,眼圧下降治療の必要性,など),点眼薬名・効能・用法403530252015105020代30代40代50代60代70代80代90代■男性1名0名1名8名12名36名32名6名人数(名)■女性0名0名1名5名7名34名21名4名図2点眼指導を受けた患者の年齢分布(点眼回数,時間,左右,点眼間の間隔,1滴滴下で十分なこと,プロスタグランジン製剤後の洗顔の必要性,など)を確認し,指導を行った.手技については,練習用の点眼液を用いて患者が実際に行っている点眼方法を実施してもらい,“的中”しているか,姿勢や点眼瓶保持が安定しているか,点眼の滴数は適切か,点眼瓶の高さが保たれているか,点眼瓶の先が眼球や眼瞼に触れていないか,などを確認した後に,問題があれば,個々の症例に応じて指導を行った.手技に関する指導は,まずは自己流の点眼方法の継続を優先し,ついで,げんこつ法(仰臥位で,げんこつを作った手で下眼瞼を開瞼,げんこつの上に点眼瓶を保持した手を添えることで点眼時の高さと位置を安定化させる方法),点眼補助具,家人への点眼依頼,の順番で指導を行うことを基本方針とした.確認・指導内容について,指導ごとにノート(点眼指導ノート)に記載した.点眼指導ノートから年齢,性,点眼の知識・手技に関して問題が確認された頻度を後ろ向きに調査し,集計した.本研究は,島根大学医学部附属病院の倫理委員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果点眼指導を受けた患者の平均年齢はC76歳(男性C74歳,女性C78歳)で,男女ともC70代が最多であり,ついでC80代であった(図2).医師が点眼指導を必要と判断した主たる理由は,緑内障についての知識・理解不足(例:自分の病名・病態を知らない,など),点眼薬の作用・副作用・必要性が理解されていない(例:点眼薬がすぐなくなる,たくさん余る,点眼回数を増やせば効果があると思っている,眼に違和感を感じるたびに緑内障点眼薬を使用している,など),点眼治療の効果が予想されたほど得られない,自己点眼が困難な病100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%1676あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(100)補助具2%げんこつ法9%人数(名)図41回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法10090807060504030201001回目確認時2回目確認時3回目確認時4回目確認時■適切89名49名29名10名■不適切79名23名8名2名図5手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化点眼指導回数が増えるほど,手技について不適切な患者の割合が減少する(図C3では,プロスタグランジン薬点眼後の洗顔方法などの不適切については知識と手技の両者について問題ありにカウントされ,本図では具体的な四つの手技の成功・不成功のみをカウントしたため,図C3の手技の問題ありと図C5の手技不適切の総数は合致しない).態・状態がある(高齢,脳梗塞後遺症,認知症,四肢振戦,関節リウマチ,Parkinson病,など)であった.1回目の点眼指導時の確認で問題ありと判定された割合は,70歳未満の患者では知識に関する問題(77%)と手技に関する問題(89%)の割合に有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法)が,70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの割合(71%)よりも手技に関する問題ありの割合(91%)が有意に高値であった(p<0.0001)(図3).1回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法は,自己流がC82%で大多数を占めた(図4).そのうち点眼手技が不適切と判定された患者(79名)については,個々の症例について実行可能性を考慮したうえで,看護(101)手技適切患者手技不適切患者ab補助具家人3%1%補助具2%1回目確認時家人cd4%2回目確認時ef3回目確認時補助具7%gh4回目確認時げんこつ法10%図6手技について適切(a,c,e,g)・不適切(b,d,f,h)と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化師の判断で自己流点眼方法の改善,げんこつ法,点眼補助具の使用,家人への点眼依頼を選択して指導を行い,次回受診時の再確認を予定した.手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化を図5に示す.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.手あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1677技について適切・不適切と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化を図6に示す.1回目確認時(点眼指導C1回後),点眼手技適切(図6a)・不適切(図6b)と判定された両者で自己流の点眼を行っている者が大多数であったが,適切と判定された患者ではやや家人による点眼の割合が高かった(適切でC11%,不適切でC1%).2回目確認時(点眼指導C2回後),適切と判定された患者(図6c)では自己流(45%)が減り,げんこつ法(25%),点眼補助具(8%),家人(22%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6d)では,自己流(78%)が多数を占めていた.3回目確認時(点眼指導C3回後),適切と判定された患者(図6e)ではさらに自己流(21%)が減り,げんこつ法(38%)と家人(34%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6f)では,自己流(75%)が多数を占めていた.4回目確認時(点眼指導C4回後),適切と判定された患者(図6g)では家人(50%)による点眼が半数を占めた.4回目の確認で手技不適切(図6h)であったのは自己流点眼のみであった.CIII考察当院で点眼アドヒアランスに関する問題が疑われ,看護師による点眼指導を受けた患者はC70.80代の高齢者が中心で,明らかな性差は認めなかった(図2).点眼治療に関する知識と手技の両者について問題を指摘された患者が大部分であったが,とくにC70歳以上の高齢者では手技に関する問題が多い傾向を認めた(図3b).高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており3,4),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際には,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置き,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くべきと思われる.点眼手技について,点眼指導回数が増えるごとに不適切と判定される患者が数・割合とも減少した(図5).適切と判定された患者では,指導を重ねるごとに自己流の点眼が減少し,げんこつ法・点眼補助具・家人への点眼を行っている割合が増加した一方で,繰り返し不適切と判定された患者では自己流の点眼方法が主流を占めていた(図6)ことから,点眼指導時に勧められた点眼方法を遵守可能であった患者ほど適切な点眼手技の獲得ができるようになったと推測される.複数回の指導を行っても点眼手技に関する問題が完全に解消されない患者がみられること,点眼指導回数が増えるに従い家人への点眼依頼の割合が高くなっていることから,自身による点眼が困難な患者が一定数存在することが示唆される.このような患者では,独居や身体的特徴(認知症,四肢麻痺,など)がその背景にあると推測されるため,メディカルソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの介入による社会的サポートについても併せて行う必要があると思われる.また,薬物治療が複数回の指導後も手技的に困難な患者は,手術治療についても考慮すべきと思われる.本研究では,一度獲得した手技の持続性については検討していないが,定期的な確認・指導体制がなければ,適切な手技の継続が困難な患者が存在すると思われる.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能と考えられた.看護師を中心とする外来スタッフによる点眼指導は緑内障点眼アドヒアランスの改善・維持に効果的と考えられた.謝辞:本研究にご協力いただきました島根大学医学部附属病院眼科外来の佐藤千鶴子看護師,川上芳子看護師,石原順子看護師,山本知美看護師,仲舎妃登美看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenCPP.CBlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)TseAP,ShahM,JamalNetal:Glaucomatreatmentadher-enceCataUnitedKingdomgeneralpractice.EyeC30:1118-1122,C20164)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmol2018;e-pubaheadofprintC***1678あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(102)

基礎研究コラム 19.視神経はどこまで再生するのか-外的因子と内的因子

2018年12月31日 月曜日

視神経はどこまで再生するのか―外的因子と内的因子栗本拓治軸索再生を阻害する外的因子と内的因子視神経は,網膜神経節細胞(retinalganglioncells:RGCs)の軸索の集合体であり,中枢神経であるため,いったん損傷を受けると再生しません.しかしながら,Aguyaoのグループの一連の視神経断端への末梢神経移植を用いた先駆的研究により,損傷軸索は再生可能であることが明らかにされました.また,Schwabのグループは脊髄損傷モデルを用いて,ミエリン蛋白に対する中和抗体により損傷軸索が再生することを明らかにし,以降,軸索周囲のオリゴデンドロサイトに発現する突起伸展抑制因子として,NogoA,MAG(myelinassociatedglycoprotein),OMpg(oligodendrocyteassociatedglycoprotein)が同定されています.他にSema-phorin5A,4DやEphrins,グリア瘢痕に発現するCSPGs(chondroitinsulfateproteoglycans)やKSPGs(keratansul-fateproteoglycans)なども突起伸展抑制因子として明らかにされ,現在,これらの抑制因子が,軸索再生を阻害する外的因子として考えられています.多くの外的因子は下流の細胞内シグナルとしてRhoファミリーG蛋白の一つであるRhoAを介していることが明らかになっており,C3ribosyl-transferaseによるRhoA阻害による視神経再生効果も明らかにされています.一方,軸索がいったん損傷を受けると,神経栄養因子に対する反応性低下や細胞内cAMP発現レベルの低下,アポトー図1軸索再生を阻害する外神経細胞的因子と内的因子外的因子として,オリゴデンドロサイトのミエリンに発現するNogoA,MAG,OMgpは成長円錐に発現するPirBやNgRを介して,また,グリア瘢痕に発現するCSPGs,KSPGsはPTPSを,そして,EphrinsはEphRを介して,低分子量GTP結合蛋白のRhoAが活性化され細胞骨格蛋白に作用し,成長円錐を虚脱させる.内的因子,外的内的因子神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野シス関連因子の活性化などが起こり,軸索再生を困難にしています.これらの細胞体,軸索内の変化が内的因子として考えられています.神経細胞に対し,PTEN遺伝子欠損によるmTOR経路活性化,SOCS3遺伝子欠損によるJAK-STAT経路活性化,cAMPアナログ投与,Toll-like受容体刺激,KLF(Kruppel-likefamily)転写因子欠損などにより,良好な再生効果が得られています(図1).視神経疾患ではどうか?残念ながら,上記の基礎研究データをもとにしたヒト視神経疾患への臨床応用は行われていません.しかしながら,外的因子,内的因子に対する複合的なアプローチにより,マウスの損傷視神経線維を強力に再生させ,視中枢の上丘まで到達させ,わずかではありますが電気生理学的,行動学的に視機能が回復することが明らかにされています.今後の展望近年では,RGCsをiPS細胞から誘導することが可能となり,iPS誘導RGCsの軸索伸長や眼内移植の研究が精力的に行われ,RGCs補充療法への発展が期待されています.しかしながら,動物モデルでは,損傷視神経線維を視中枢まで到達させることは可能になりましたが,良好な視機能回復には至っていません.今後,機能的なシナプス形成促進,網膜部位再現の再構築など,大きな課題が残されています.OMpgMAGNogoAEphrins外的因子・神経栄養因子に対する反応性低下突起伸展抑制因子因子に対しさまざまな試みが・細胞内cAMP低下・ミエリン:NogoA,MAG.OMpgなされ,軸索再生効果が明ら・アポトーシスetc・グリア瘢痕:CSPG,KSPGかにされている(太矢印).・Semaphorin5A,EphrinsetcPTPS:proteintyrosine・mTOR経路/JAK-STAT経路活性化phosphataseS,PirB:・cAMPアナログ・C3ribosyltransferaseによるpairedimmunoglobulin-like・Toll-like受容体アゴニストRhoAの不活化・KLF転写因子抑制・NgR遺伝子欠損receptorB.・ChondroitinaseABC(89)あたらしい眼科Vol.35,No.12,201816650910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 187.高圧放水による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)

2018年12月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載187187高圧放水による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに高圧放水とは非常に高い圧力で水を噴出することで,日常では自動車やビルの窓ガラスの洗浄,建物の解体などに使用されている.高圧放水による眼外傷は鈍的眼外傷の所見を呈することが多く,角膜上皮傷害,角膜裂傷,角膜内皮傷害,前房出血,虹彩離断,外傷性白内障,水晶体脱臼,硝子体出血,外傷性網膜.離などの報告がある1~4).筆者らは以前に高圧放水により眼球破裂をきたしたC1例を報告したことがある5).C●症例49歳,男性.ビルの解体作業中に至近距離から高圧放水を浴び,右眼を受傷した.右眼に多量の前房出血,硝子体出血を認め,眼底は透見不能であったため,受傷13日後に硝子体手術を施行した.前房洗浄後に水晶体亜脱臼と虹彩根部離断が確認された.出血で混濁した硝子体を切除し,眼底の状態を確認したところ,下鼻側に網膜巨大裂孔およびその周囲に出血性脈絡膜.離と網膜.離を認めた(図1).また,内直筋付着部近傍の強膜が一部裂けて,網膜が嵌頓していた(図2).同部位を縫合した後,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,シリコーンオイルタンポナーデを施行したが,術後の矯正視力は0.02にとどまった.C●高圧放水と眼外傷高圧放水を行なう高圧放水器の水圧には非常に幅があり,自動車の洗車などは約C30Cl/分(水道水のC40倍の圧)であるが,ビルの解体などに使用される機器ではその10倍のC300Cl/分にも及ぶ.本症例は,ビルの解体に用いられる非常に圧の高い機器による放水を,作業中に誤って眼球局所に受けたものと考えられる.高圧放水による眼外傷は受傷時の状況にもよるが,1カ所に圧が集中すると過度に眼球の変形をきたし,眼球破裂に至るこ(87)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)下鼻側に網膜巨大裂孔およびその周囲に出血性脈絡膜.離と網膜.離を認めた.(文献C5より引用)図2術中所見(2)内直筋付着部下端近傍の強膜が裂けて網膜が嵌頓していた.(文献C5より引用)ともある.今回は幸いにして受傷は右眼のみであったが,高圧放水自体に幅があることから両眼性の報告も多い4).本症例のような外傷を予防するためには,作業中にゴーグルなどを着用することが重要と考えられる.文献1)Tejero-TrujequeR:High-pressureCwaterCjetinjuries:aCsurgicalemergency.JWoundCCareC9:175-179,C20002)KwongCTQ,CKhandwalaM:CornealCDescemet’sCmem-braneruptureinapatientsustaininghigh-pressurewaterjetinjury.CanJOphthalmolC50:e35-e36,C20153)GeorgalasI,LadasI,TaliantzisSetal:Severeintraoculartraumaina.remancausedbyahigh-pressurewaterjet.ClinExpOphthalmol39:370-371,C20114)LandauCD,CBersonD:High-pressureCdirectedCwaterCjetsCasCaCcauseCofCsevereCbilateralCintraocularCinjuries.CAmJOphthalmolC120:542-543,C19955)OosukaCS,CSatoCT,CTajiriCKCetal:ACcaseCofCaCrupturedCeyeballCcausedCbyChigh-pressureCwaterCjets.COphthalmicCSurgLasersImagingRetinaC49:451-455,C2018あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1663

眼瞼・結膜:ドライアイと粘膜皮膚移行部

2018年12月31日 月曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人山田昌和45.ドライアイと粘膜皮膚移行部杏林大学医学部眼科学教室粘膜皮膚移行部(Marxline)の変化は見逃しやすいドライアイの増悪因子の一つである.Marxlineの変化はマイボーム腺機能不全の存在を示唆するだけでなく,メニスカス形成不全から直接的に涙液層の不安定化を招く.結膜弛緩症や下眼瞼外反,兎眼とともに,メニスカス形成不全の原因として眼瞼縁の粘膜皮膚移行部の変化を意識しておきたい.●はじめにドライアイは涙液層の不安定性を示す疾患であり,臨床的には涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)の短縮で表現される.BUTが短縮する最大のリスク因子は涙液量の減少であるが,涙液量が十分あっても涙液メニスカスが十分に形成されず,涙液層の形成に支障をきたすことがある.結膜弛緩などのメニスカス占拠病変や下眼瞼外反,兎眼によるものが代表的であるが,もう一つ見逃しがちな要因がある.それは眼瞼縁の粘膜皮膚移行部の変化である.ここでは,粘膜皮膚移行部の変化とドライアイとの関係について概説する.C●粘膜皮膚移行部とMarxline眼瞼縁は眼瞼結膜と皮膚が接する部分であり,フルオレセインなどで生体染色を施すと,正常者では眼瞼皮膚移行部がC1本の線として描出される(図1).結膜と皮膚のバリア機能,親水性の差によって瞼縁の結膜側が染色されるもので,Marxlineとよばれる1).正常ではマイボーム腺開口部はCMarxlineの前方,皮膚側に開口しており,睫毛根部はさらにその前方に位置する(図2).CMarxlineを境界として涙液メニスカスが形成され図1正常者の粘膜皮膚移行部フルオレセイン染色を施すと,直線状のCMarxlineが観察される.(85)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYる.眼瞼皮膚は疎水性であり,涙液が外にこぼれ出るのを阻止している.マイボーム腺分泌物は涙液に直接流入するのではなく,いったん瞼縁の皮膚側に分泌され,瞬目によって少しずつ涙液に溶け込んでいくことになる.波打ち際に盛られた砂の塊が,波によって徐々に海に持ち去られていくようなイメージである.瞼縁に存在する脂質量はおよそC300Cμgであるのに対し,涙液中の脂質総量はC9Cμg程度であり,マイボーム腺分泌物のうち涙液に移行するのは全体のC3%にすぎない2).涙液にマイボーム腺分泌物や皮脂を加えると涙液の安定性が著しく損なわれることが知られており,無制限な脂質の混入は望ましくない.精密な分泌制御機構をもたないマイボーム腺にとって,腺開口部の位置とCMarxlineの存在は,脂質の過剰な涙液への混入を防止するための重要な生理的役割を担っていると解釈される.C●粘膜皮膚移行部の変化生体染色を施した状態でCMarxlineを観察すると,ドライアイ患者や高齢者では直線性が失われ,波打ったように描出されることがある(図3).結膜が前方移動する形が多いが,後方移動する場合もある.こうした粘膜皮膚移行部の変化が生じやすい要因は,マイボーム腺機能図2正常者のマイボーム腺開口部マイボーム腺開口部はMarxlineの皮膚側にある.あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1661図3マイボーム腺機能不全患者の粘膜皮膚移行部Marxlineの乱れと前方移動があり,マイボーム腺の一部は結膜上に開口している.不全(meibomianglandCdysfunction:MGD)と加齢であり,最初の変化は耳側C1/3に生じる.MGDも加齢と関係しており,無症候性のものを含めるとその有病率は50歳代でC35%,60歳代でC51%に達するという報告もある3).Marxlineの変化はCMGDの程度と相関すると報告されており,両者には密接な関係がある1).MGDはドライアイとの関連も深く,厳しい基準で評価した場合でもドライアイ患者のC20%以上がCMGDを合併している4).なぜCMarxlineの不整が生じるのか詳細はわかっていない.MGDと関係が深く,Stevens-Johnson症候群では粘膜皮膚移行部の異常が顕著であることなどから,眼瞼・結膜の炎症が成因として示唆されるが,ほかにも加齢や眼瞼の細菌叢など複数の要因の関与が推測されている(図4).因果関係には不明の点も多いが,ドライアイとCMGD,Marxline変化のC3者の関係は知っておきたい.C1662あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018図4Stevens.Johnson症候群慢性期であるが,粘膜皮膚移行部の異常が顕著である.C●不整なMarxlineがもたらすもの前述したようにCMarxlineは涙液メニスカスの足場となる部分であり,その不整は結膜と眼瞼の境界を不鮮明にし,メニスカスの形成を妨げる.Marxlineの不整があると涙液が皮膚側に溢れやすくなってしまい,涙液のロスが観察されることがある(図5a).メニスカスの形成不全は涙液層の安定性を損なう因子であり,ドライアイを生じやすくなる.また,Marxlineの前方移動によってマイボーム腺開口部が結膜上に開口するようになる.分泌されたマイボーム腺分泌脂(meibum)が涙液中で過剰になる場合には,瞼縁の泡形成(foaming)を生じやすくなる(図5b).脂質の鹸化反応によるもので,涙液の質の低下により涙液層の不安定化と細胞毒性による角膜上皮障害をきたすので,ドライアイの病態を増悪する因子となる.C●おわりに見逃しやすいドライアイの増悪因子として,粘膜皮膚移行部(Marxline)の変化について述べた.MGDの存在を示唆する所見としてだけではなく,メニスカス形成不全や涙液の質の低下を招いて直接的に涙液層の安定性を損ねる要因となることに注意したい.文献1)YamaguchiCM,CKutsunaCM,CUnoCTCetal:Marxline:C.uoresceinCstainingClineConCtheCinnerClidCasCindicatorCofCmeibomianCglandCfunction.CAmJCOphthalmolC141:669-675,C20062)山田昌和:涙液油層の成分とその評価.マイボーム腺機能不全の診断と治療(坪田一男編),p93-99,金原出版,20163)HomCMM,CMartinsonCJR,CKnappCLLCetal:PrevalenceCofCmeibomianCglandCdysfunction.COptomCVisCSciC67:710-712,C19904)VuCCHV,CKawashimaCM,CYamadaCMCetal:In.uenceCofCmeibomianCglandCdysfunctionCandCfriction-relatedCdiseaseConCtheCseverityCofCdryCeye.COphthalmologyC125:1181-1188,C2018(86)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫の多様性

2018年12月31日 月曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二59.糖尿病黄斑浮腫の多様性村松大弐東京医科大学眼科学分野武蔵境眼科医院糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する治療は,抗CVEGF療法が第一選択にあげられるが,治療にすぐ反応する例と,遅れて反応する例があり,多様性があることが報告されている.本稿では,DMEに対する抗CVEGF療法の治療効果につき,大規模研究と自験例について概説する.大規模研究の結果米国眼科学会が主となって行ったアンケート調査C“PAT-surveyCglobaltrend”によると,糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)に対する治療は,全世界において抗CVEGF療法が第一選択となっている.また,投与方法についても,2015年の集計では,2~3回注射して反応しない場合には代替治療を行うというのが主流であったが,2017年には,まずC4~5回注射を行ってから反応を確認するというように治療法の変化がみられる.(https://www.asrs.org/sections/international/global-trends-in-retina)わが国においてCDMEに対して使用可能な抗CVEGF薬は,ラニビズマブとアフリベルセプトのC2種類である.ラニビズマブは,24カ月毎月注射を行う大規模研究であるCRISE&RIDE研究により,12.0文字の視力改善が得られ,2.5文字改善の偽注射に対する優位性が証明され1),その後,RESTORE研究により,かつてゴールデンスタンダード治療であった光凝固に比する優位性も証明された2).この研究では最初のC3カ月は毎月注射を行い,以降はC1カ月ごとの観察を通じて,必要に応じた必要時投与(proCrenata:PRN投与)を行い,12カ月でC6.1文字改善と,0.9文字の改善に留まった光凝固と比べて優位性が報告された.一方,アフリベルセプトは,DaVinci研究により3),6カ月間毎月注射を行う群,最初のC3回を毎月注射した後C2カ月ごとの固定投与,3回投与後はCPRN投与というレジメンで行い,6カ月で,それぞれC11.4文字,8.5文字,10.3文字と,2.5文字のみ改善に留まった光凝固と比較し有意な視力改善が得られた.その後に行われた第Ⅲ相試験のCVIVID/VISTA研究でも,毎月投与群と,5回連続注射の後にC2カ月ごと固定投与群,光凝固群に割りつけ,1年後の時点で,毎月投与群でC10.5~12.5文字,2カ月ごと固定投与群でも同等と,0.2~1.2文字改善の光凝固群と比較し,有意な視力改善が得られた4).これらの研究報告以降は,抗VEGF療法が広がっている.実臨床における多様な反応しかし,実臨床においてCDMEは,浮腫の範囲(びまん性か局所性か),程度,罹病期間(急性期か慢性期か),さらには腎機能などの全身状態や血圧,血糖コントロール状態などにより病態が多彩である.同様な網膜血管病変である網膜静脈閉塞に伴う黄斑浮腫の場合では,急性期であれば抗CVEGF療法でほぼ全例で黄斑浮腫軽減がみられるが5),DMEの場合は抗CVEGF薬への反応性もさまざまなので注意が必要である.大規模研究のサブ解析では6),注射後にすぐ浮腫が軽減・消失するCearlyCresponder(図1)と,何度か治療を行うことにより,はじめて反応するCdelayedresponderが存在することが報告され(図2),約C10%の症例はCdelayedresponderであった.このため,1回注射して浮腫が軽減しなくとも,それが無反応なのかCdelayedresponderであるのか判定がむずかしいことを念頭におかねばならず,実臨床における,近年の導入期での注射回数の増加にも影響を与えている.もう一つの特徴として,DMEの場合は,抗CVEGF療法を継続するうちに病態が安定化してくることが報告されている.PRN投与の場合には,必要注射回数は年々減少し,抗CVEGF薬から離脱可能な症例が存在することや,網膜症所見自体も軽快していくことが報告されていることから,網膜症の病態そのものが鎮静化していくことも考えられ,生涯にわたって注射が必要となることも多い加齢黄斑変性への抗CVEGF治療とは異なる一面があることにも留意すべきである.(83)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16590910-1810/18/\100/頁/JCOPYabc図1症例1(earlyresponder)ラニビズマブ投与後C1週間で浮腫が軽減するCearlyresponderではあるが,2~3カ月すると再発を繰り返し,継続治療が必要である.Ca:治療前,Cb:投与後C1週,Cc:再発時.Cabc図2症例2(delayedresponder)アフリベルセプト投与後C1カ月では浮腫はあまり変化していないが,導入期を設け,複数回注射を行うと浮腫は消失する.Ca:治療前,Cb:投与後C1カ月,Cc:初回治療C7カ月(4回投与の後).文献Eyeinpatientswithdiabeticmacularedema.Ophthalmol-ogy118:1819-1826,C20111)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal;RIDECand4)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-RISECResearchGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-realCa.iberceptCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmolo-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:RISECandCgyC121:2247-2254,C2014CRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)村松大弐,三浦雅博,川上摂子ほか:網膜中心静脈閉塞に伴う黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体注射の治療2)MitchellCP,CBandelloCF,CSchmidt-ErfurthCUCetal;成績.臨眼70:527-533,C2016CRESTORECstudygroup:TheCRESTOREstudy:ranibiC-6)PieramiciCDJ,CWangCPW,CDingCBCetal:VisualCandCana-zumabCmonotherapyCorCcombinedCwithClaserCversusClaserCtomicCoutcomesCinCpatientsCwithCdiabeticCmacularCedemaCmonotherapyCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmologyCwithClimitedCinitialCanatomicCresponseCtoCranibizumabCinC118:615-625,C2011CRIDEandRISE.OphthalmologyC123:1345-1350,C20163)DoCDV,CSchmidt-ErfurthCU,CGonzalezCVHCetal:TheCDACVINCIStudy:phaseC2CprimaryCresultsCofCVEGFCTrap-☆☆☆1660あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(84)

緑内障:RGC displacementを考慮した緑内障の構造と機能の関係

2018年12月31日 月曜日

●連載222監修=岩田和雄山本哲也222.RGCdisplacementを考慮した大久保真司*,**宇田川さち子***おおくぼ眼科クリニック**金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学緑内障の構造と機能の関係緑内障の診断において構造と機能の関係を確認することは重要である.眼底所見ならびに黄斑部の光干渉断層計所見と感度との関係を考える際,中心窩近くでは解剖学的に視細胞と網膜神経節細胞が位置ずれ(retinalgan-glioncelldisplacement)をきたしていることに注意が必要である.●緑内障における構造と機能の関係の重要性緑内障ガイドライン1)においても,緑内障の定義は「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」とされており,緑内障の診断において構造と機能を確認することは非常に重要である.緑内障性視神経症の本態は,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)とその軸索である網膜神経線維の障害とされているので,緑内障においては,その障害部位に対応する特徴的な視野障害を呈することになる.視野障害のみられる症例において,その視野に対応する構造異常を確認することは緑内障診療の基本と思われる.近年,緑内障性の構造変化がみられても,通常の視野検査では異常がみられない「前視野緑内障」が注目されてきているが,いわゆる「前視野緑内障」の中には,検査点配置の変更や検査点密度を上げることによって視野障害が検出される症例も含まれ,「前視野緑内障」においても構造と機能を考えながら診察にあたる必要がある.C●光干渉断層計と静的視野計を用いた構造と機能の関係Harwerthら2)は,サル実験緑内障モデルのデータを再解析して,RGCの喪失率と視野の変化率を,両者ともに%の線形に表示した場合と,両者とも対数(dB)で表示した場合とで検討し,%表示でもCdB表示でも両者の単位をそろえれば,RGCの喪失率と視野の変化率は直線回帰するとしている.光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)の普及に伴い,OCTを利用して構造的変化と静的視野による機能的変化の関係が検討されるようになった.Hoodら3)は,Garway-Heath(81)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY耳側鼻側3.48°3.19°2.6°2.6°2.6°2.6°3.19°3.48°図1Retinalganglioncelldisplacementの2モデルグレーの四角はC2°間隔の中心C10-2の中心のC8点.水色の点は,中心C4点のCSjostrandモデルの座標.オレンジの点はCDrasdoモデルの座標.Drasdoモデルのほうが中心の偏位量が大きく,鼻側の偏位量が耳側より大きい.らによるCHumphrey視野の検査点と乳頭の位置関係に基づき4),視野の弓状領域とCOCTによって測定されるそれに対応する部位の網膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)厚との関係を検討し,両者の単位を統一すれば,Harwerthらの報告2)同様にCRNFL厚の減少と網膜感度の減少の関係は線形対応していると報告している.Wangら5)は,手動でCRGC層+網膜内網状層のセグメンテーションを行い,局所のCRGC層+網膜内網状層厚は,定性的に感度低下部位と一致すると報告している.C●RGCdisplacement黄斑部における局所の構造と機能の関係を評価するにあたって,中心窩近くでは解剖学的に視細胞とCRGCがあたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1657図2症例:51歳,女性,左前視野緑内障眼a:眼底写真.耳下側に細い網膜神経線維層欠損がみられる(→).Cb:Humphrey24-2SITAstandardの結果.明らかな異常はみられない.Cc,d:コーワCAP-7700(興和)を用いたCOCT対応視野計の結果.測定結果はCRGCdisplacemantなし(Cc)とCRGCdisplacemantあり(Cd)の状態で,結果を表示することが可能である.有意に感度低下がみられる点は,黒い点で表示される.RGCdisplacementありの状態では,ganglioncellcomplexマップの菲薄化部位と感度低下の部位が一致している.位置ずれをきたしている(retinalganglioncelldisplace-2)HarwerthRS,CarteDawsonL,SmithEL3rdetal:ScalingtheCstructure-functionCrelationshipCforCclinicalCperimetry.ment:RGCdisplacement)ことが報告6,7)されている.CActaScandOphthalmol83:448-455,C2005とくに視細胞とCRGCの位置ずれは中心窩近くがもっと3)HoodDC,KardonRH:Aframeworkforcomparingstruc-turalCandCfunctionalCmeasuresCofCglaucomatousCdamage.も大きいとされている6,7)(図1).すなわちCRGCを中心CProgRetinEyeResC26:688-710,C2007とした網膜内層の菲薄化をきたす緑内障においては,中4)Garway-HeathCDF,CPoinoosawmyCD,CFitzkeCFWCetal:心窩近くでは感度の低下部位とその感度と対応する網膜CMappingCtheCvisualC.eldCtoCopticCdiscCinCnormalCtension内層の菲薄化部位にギャップが生じる.中心C10-2の各Cglaucomaeyes.OphthalmologyC107:1809-1815,C20005)WangCM,CHoodCDC,CChoCJSCetal:MeasurementCofClocal検査点の感度と対応するCOCTで測定したCRGC関連層Cretinalganglioncelllayerthicknessinpatientswithglau-厚の相関を検討した研究でも,とくにC10-2の中心C4点Ccomausingfrequency-domainopticalcoherencetomogra-phy.ArchOphthalmolC127:875-881,C2009では,RGCdisplacementを補正すれば両者の相関係数6)SjostrandCJ,CPopovicCZ,CConradiCNCetal:Morphometricが改善することが報告されており,RGCdisplacementCstudyCofCtheCdisplacementCofCretinalCganglionCcellsCsub-servingconeswithinthehumanfovea.GraefesArchClinの重要性が確認されている8,9).CExpOphthalmolC237:1014-1023,C1999網膜視細胞が障害される疾患においては,OCTの障7)DrasdoCN,CMillicanCCL,CKatholiCCRCetal:TheClengthCof害部位と感度の低下部位は一致するが,RGC関連層がCHenle.bersinthehumanretinaandamodelofganglion障害される緑内障においては,中心窩近くでの構造と機Creceptive.elddensityinthevisual.eld.VisionRes47:C2901-2911,C2007能の関係を検討する際にはCRGCdisplacementを考慮す8)RazaAS,ChoJ,deMoraesCGetal:Retinalganglioncellる必要がある(図2).Clayerthicknessandlocalvisual.eldsensitivityinglauco-ma.CArchOphthalmol129:1529-1536,C20119)OhkuboCS,CHigashideCT,CUdagawaCSCetal:FocalCrelation-文献shipbetweenstructureandfunctionwithinthecentral101)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内Cdegreesinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci55:5269-障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C2018C5277,C2014C1658あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(82)

屈折矯正手術:LASIK後の眼内レンズ計算Barrett True-K

2018年12月31日 月曜日

●連載223223.LASIK後の眼内レンズ計算BarrettTrue.K監修=木下茂大橋裕一坪田一男脇舛耕一バプテスト眼科クリニックBarrettTrue-K式は,LASIK後眼における新たな眼内レンズ度数計算法である.本式ではCLASIK前後データを用いることなく,現在のデータのみで計算することができ,他のCnohistory法に比べ,より良好な術後精度が得られることが期待される.C●はじめにLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)後眼における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算では,角膜形状変化により角膜前面および後面中央屈折力,前房深度,e.ectivelenspositionなどの換算値と実際値の乖離が生じることから,通常の計算法では白内障手術後屈折誤差が大きくなる.その補正法として,LASIK術前ケラト値と屈折矯正量から算出する方法や,屈折矯正量と現在のケラト値から算出する方法,現在のデータのみから算出する方法(no-history法)がある.近年,新たな計算式として,BarrettTrue-K式が登場した.本稿では,BarrettTrue-K式の概要や精度について述べる.C●BarrettTrue.K式についてBarrett式はC1983年に第一世代が登場しC1987年にuniversaltheoretical式が発表され1),1993年に第三世代の改良版が発表された2).Barrett式では,他の計算式と異なり厚肉レンズの概念を用いていることが特徴であり,IOL定数はClensfactorというCA定数とは異なる数値が用いられている.その後,2014年に第四世代となるCUniversalII式が開発,使用可能となった(論文は未発表).BarrettTrue-K式はこのCUniversalII式を使用した屈折矯正術後のCIOL計算式である.現在,BarrettTrue-K式が搭載されている光学式眼軸長測定機器は,IOLマスターC700(CariZeissMeditec社),レンズスターCLS900(Haag-Streit社),ARGOS(Santec社)である.また,AmericanCSocietyCofCCata-ractCandCRefractiveSurgery(ASCRS)やCAsia-Paci.cCAssociationCofCCataractCandCRefractiveCSurgeons(APACRS)のウェブサイトからも利用できる(図1,2).ASCRS,APACRSのサイトでは,LASIK施行時図1ASCRSウェブサイトカリキュレータ入力画面全項目を入力しなくとも,入力された項目のみで可能な範囲の結果を計算してくれる.図2APACRSウェブサイトカリキュレータ入力画面LensFactorおよびCA定数は,右側のCPersonalConstantのところでポップアップ式で表示されるCIOLを選択すれば自動で入力される.計算に最低限必要なパラメータは背景色の部分の4項目だけであり,それ以外は任意である.(79)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16550910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3ASCRSカリキュレータ結果入力されたパラメータの内容から,計算可能な式の結果がすべて表示される.の屈折矯正量と現在のデータを使用する方法(C“UsingC⊿MR”)と,no-history法(C“UsingCnoCpriorCdata”)の両方が使用可能である.no-history法の場合,眼軸長,強主経線および弱主経線方向の角膜屈折力,前房深度が計算に最低限必須のパラメータであり,水晶体厚や角膜横径(whiteCtowhite:WTW)は任意である.ASCRSのウェブサイトでは入力した項目に応じて,BarrettTrue-K式以外にも計算可能な他の計算式の結果が同時に表示される(図3).APACRSではCBarrettCTrue-K式のみの結果表示となる.C●BarrettTrue.K式の精度BarrettTrue-K式の精度について他のCnohistory法と比較した報告があり,いずれも近視LASIK,レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefracitveCkeratectomy:PRK)後眼でのCBarrettTrue-K式の精度が他式より有意に高かったとされている3~5).当院でも近視CLASIK,PRK,あるいはCepipolisLASIK(epi-LASIK)後のC44例C63眼を対象として,BarrettTrue-K式のほか,Hai-gis-L式,Camellin-Calossi式,また光線追跡法によるOKULIXと比較検討を行った.その結果,屈折誤差の直接値および絶対値ともに,BarrettTrue-K式での中央値および四分位範囲がC4方法のなかでもっとも小さく(図4),また屈折誤差の絶対値がC±0.5diopter(D)以内であった症例数の割合はCBarrettTrue-K式でC77.8%と,他の式に比べ高い値であった.屈折誤差(直接値)(D)屈折誤差(絶対値)(D)1.81.61.41.210.80.60.40.221.510.50-0.5-1-1.5-2HaigisLCamellinOKULIXBarrettTrue-KHaigisLCamellinOKULIXBarrettTrue-KHaigisLCamellinOKULIXBarrett中央値-0.50-0.070.300.03四分位範囲-0.89~-0.18-0.33~0.26-0.03~0.66-0.26~0.32HaigisLCamellinOKULIXBarrett0.550.310.380.300.30~0.12~0.16~0.17~0.890.590.700.42図4Barretttrue.K式および他のnohistory法の屈折誤差左が直接値,右が絶対値である.いずれもC4式で有意差を認めた(いずれもp<0.01,Friedman検定).C●おわりにLASIKを他施設で施行され,白内障手術時にCLASIK術前,術時,術後のデータの入手が困難となる場合があり,現在のデータだけで計算できるCnohistory法の重要性が増してきている.そのなかで,BarrettCTrue-K式は精度の高さだけでなく,計算に必要なパラメータが少なく,搭載機器がなくともウェブサイトでの利用が容易であり,LASIK後眼での白内障術後CrefractiveCsur-priseを軽減させるうえで非常に有用な方法であるといえる.文献1)BarrettGD:IntraocularlenscalculationformulasfornewintraocularClensCimplants.CJCCataractCRefractCSurgC13:C389-396,C19872)BarrettGD:AnCimprovedCuniversalCtheoreticalCformulaCforCintraocularClensCpowerCprediction.CJCCataractCRefractCSurgC19:713-720,C19933)WangCL,CTangCM,CHuangCDCetal:ComparisonCofCnewerCintraocularClensCpowerCcalculationCmethodsCforCeyesCafterCcornealCrefractiveCsurgery.COphthalmologyC122:2443-2449,C20154)Abula.aCA,CHillCWE,CKochCDDCetal:AccuracyCofCtheCBarrettTrue-Kformulaforintraocularlenspowerpredic-tionCafterClaserCinCsituCkeratomileusisCorCphotorefractiveCkeratectomyformyopia.CJCataractRefractSurgC42:363-369,C20165)KangCBS,CHanCJM,COhCJYCetal:IntraocularClensCpowercalculationafterrefractivesurgery:AcomparativeanalyC-sisCofCaccuracyCandCpredictability.CKoreanCJCOphthalmolC31:479-488,C20171656あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(80)

眼内レンズ:眼内レンズ逢着術の糸露出を防ぐ縫合糸埋没法-強膜トンネル埋没法

2018年12月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋385.眼内レンズ縫着術の糸露出を防ぐ縫合糸浅野泰彦昭和大学江東豊洲病院眼科埋没法―強膜トンネル埋没法眼内レンズ縫着術後の縫合糸露出を防ぐため,強膜トンネル内に縫合糸断端を埋没する方法を考案した.バネ穴付き縫合針を使用することにより容易に強膜トンネル内に断端を埋没することが可能であり,露出を予防することが期待できる簡便かつ有用な方法であると考える.●はじめに縫合糸露出は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着術後合併症として重要であり,眼内炎の原因にもなりえるため,露出を防ぐための工夫が必要である.強膜フラップなどで結び目と断端を被覆する方法が一般的であるが,それでも結膜上に露出している症例に遭遇することがある.これらの症例を観察すると,短く切った縫合糸断端が露出していることが多く(図1),収縮・菲薄化したフラップを突き破って露出したことが疑われる.そこで,断端を長めに残して埋没するコンセプトにて考案した方法が今回紹介する強膜トンネル埋没法である.●方法結膜を切開し,幅1~2mmの強膜半層切開を作製する.長針付きループ糸を眼内から半層切開内に通糸して片糸を切り(図2a),半層切開内に結び目が位置するように2本の糸を埋没縫合する(図2b).ここで断端を短く切断してしまうと,強膜菲薄化に伴う断端露出のリスクがある.そこで,長針が付いた一方の糸を半層切開内から再度2mm程度通糸して切除する(図2c,d).次に,網膜.離手術に用いるバネ穴付き縫合針(図2e)を準備し,そのバネ穴にもう一方の糸を通して同様に強膜内に通糸し,切除する(図2f).この方法により,結び目は図1縫合糸露出例短く切った断端が結膜上に露出している.強膜半層切開内に埋没され,約2mmの断端は強膜トンネル内に埋没されたことになり(図2g,h),露出を防ぐことが期待できる(図3).●コツと注意点本術式におけるポイントは,縫合針のバネ穴に糸を通して強膜に通糸する点であるが,9-0や10-0の細い糸をフリーな状態の縫合針の小さなバネ穴に支えなしで通すのはむずかしい.そこで,強膜にあらかじめ縫合針を通針しておき,針を強膜で固定した状態で,カウンターをかける要領でバネ穴に糸を入れる(図4a).この方法で糸と縫合針の連結は容易となり,そのまま強膜内に針を進めれば強膜トンネル内に通糸された状態となる(図4b).使用する縫合針は長さ5~7mm程度のものがちょうどよく,低コストで入手可能である.もう1点のポイントはループ糸の強膜半層切開内への通糸法であり,誘導針を眼外から半層切開内より眼内へ刺入し,abexterno法にて通糸する方法が確実である.筆者は2組の9-0ポリプロピレンループ糸が小ループで連結した構造の連結型ループ針(はんだや)を開発して使用している.これによりabexterno法による強膜半層切開間の一度の対面通糸で2組のループ糸を通糸することが可能となり,通糸手技が容易となる1).(77)あたらしい眼科Vol.35,No.12,201816530910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2強膜トンネル埋没法の術式強膜トンネル埋没法により,結び目は強膜半層切開内に,断端は強膜トンネル内に埋没される.●おわりに本法の利点は,結膜切開とわずかな強膜半層切開創作製だけの簡便かつ低侵襲な方法で施行でき,強膜フラップ作製が困難な結膜瘢痕が強い例や狭瞼裂例においても確実に露出を防ぐことが期待できる点である.長期予後についての検討はこれからであるが,有用な方法であると考えられる.文献1)浅野泰彦,西村栄一,早田光孝ほか:連結型ループ針を使用した眼内レンズ縫着術の手術成績.IOL&RS32:269-276,2018図3強膜トンネル埋没法術後術後,断端の露出は認めない.図4バネ穴付き縫合針への糸の連結と通糸法強膜に縫合針を通針しておき,針を強膜で固定した状態で,カウンターをかける要領でバネ穴に糸を入れ(a),そのまま強膜に通糸する(b).

コンタクトレンズ:アレルギー患者のコンタクトレンズ装用における理想と現実

2018年12月31日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一50.アレルギー患者のコンタクトレンズ装用高村悦子東京女子医科大学眼科学講座における理想と現実●はじめにアレルギー患者のコンタクトレンズ(CL)装用を考える場合,問題となるのは,アレルギー性結膜炎を発症している患者のCCL装用と,CL装用がアレルギー性結膜炎を引き起こす場合である.前者は,おもにスギ花粉症患者のCCL装用であり,後者は,CL装用が起因するCCL関連乳頭性結膜炎(contactClensCrelatedCpapillaryCcon-junctivitis:CLPC)が考えられる.ここでは,どのようにすればアレルギー性結膜炎患者がCCL装用を継続できるかを,結膜炎悪化の要因とその対策をもとに,理想と現実を紐解いてみたい.C●花粉症患者のCL装用の要望いまやスギ花粉症は国民病と称されるほど有病率が高いことから,スギ花粉によるアレルギー性結膜炎患者がCL装用者である確率は高い.アレルギー性結膜炎の既往があり,花粉飛散時期に眼科を受診したアレルギー性結膜炎患者へのCQOLに関するアンケート調査1)によれば,日常生活にもっとも影響したこととして「CLを入れにくくなる」ことがあげられている.ここからもわかるように,花粉飛散期でもCCL装用を継続したいという要望は強い.C●花粉症患者へのCL処方と指導基本方針は,アレルギー性結膜炎の治療を優先しつつ,CLが引き続き安全に装用できるようにすることであると考えている(表1).症状が改善している時期には1日交換タイプのCCLを装用する.原則としてCCL装用前後に抗アレルギー点眼薬を点眼し,CL装用時にはレンズに付着した汚れや花粉の洗浄を目的として,人工涙液で洗眼することを薦めている.C●抗アレルギー点眼薬とCLの相性を考えるCL装用時に抗アレルギー点眼薬の使用を推奨しない理由は,点眼薬に防腐剤として含有されるベンザルコニ(75)表1CL装用アレルギー性結膜炎(花粉症)患者に対する治療方針ウム塩化物(BAK)のCCLへの吸着の問題や,CL素材と点眼薬のCpH,浸透圧などの液性(表2)との相性によっては,まれにCCLの変形などが起こる場合があるためである.とくに,点眼薬に汎用されているCBAKは,高濃度,頻回に眼表面に接触すると角膜上皮障害を起こす可能性がある.したがって,CLにCBAKが吸着し,頻回に角膜に接触することで角膜障害を起こす危険性が潜んでいる.最近では抗アレルギー点眼薬のジェネリック製剤も多数処方されており,これらの液性について把握することはむずかしいため,CLとの相性を考えることさえ難しくなっている.BAKフリーの抗アレルギー点眼薬は多くはないが,結膜炎が軽症の時期に使用する点眼薬としては,選択肢の一つと思われる2).C●アレルギー性結膜炎患者がCLを使い続けるための工夫花粉によるアレルギー性結膜炎は,涙液中で花粉の殻が破け,アレルゲンが流出すること(ハッチアウト)で始まるが,人工涙液は涙液に比べ花粉のハッチアウト率が低い.したがって,BAKフリーの人工涙液で洗眼すれば,花粉を安全に効率よく洗浄することができる.あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16510910-1810/18/\100/頁/JCOPY表2抗アレルギー点眼薬の特徴薬剤名商品名点眼回数BAK含有CpHメディエーター遊離抑制薬クロモグリク酸ナトリウムインタール1日4回+(UD:C.)4.0~C7.0アンレキサノクスエリックス1日4回+6.8~C7.8ペミロラストカリウムアレギサール1日2回+7.5~C8.5ペミラストントラニラストリザベン1日4回1日4回+7.0~C8.0トラメラスイブジラストケタス1日4回+5.5~C7.0アシタザノラスト水和物ゼペリン1日4回C.4.5~C6.0ケトチフェンフマル酸塩ザジテン1日4回+4.8~C5.8ヒスタミンCH1レボカバスチン塩酸塩リボスチン1日4回+6.0~C8.0拮抗薬オロパタジン塩酸塩パタノール1日4回+約C7.0エピナスチン塩酸塩アレジオン1日4回C.6.7~C7.3UD:ユニットドーズまた,レンズ表面の滑らかさ,コーティングの違いなど,CLの種類によってスギ花粉抗原のCCryj1の付着の程度が異なる3).眼表面に飛入した花粉がハッチアウトせずに眼表面から流れ去るような環境をCCL装用時にも作ることができれば,CL装用者の花粉飛散期の結膜炎の軽減につながる.一方,CLPCに対するCCLの選択としては,汚れがつきにくく,柔らかいCCLが好ましい.非イオン性で高含水のCCLが選択肢の一つである.シリコーンハイドロゲルレンズは,蛋白が付着しにくい反面,その硬さのために瞼縁付近にCCLPCの発症がみられる4).汚れにくさと柔らかさの両方のバランスが,アレルギー性結膜炎患者の使用するCCLには必要と思われる.C●おわりにアレルギー炎症を軽減するためのCCL装用にはまだ工夫が必要だが,点眼を忘れる人でもCCL装用は忘れない,(各薬剤の添付文書より引用)という臨床経験を活かし,花粉症の症状がない時期になんらかの工夫をCCLに施すことで,CL中断の低減が図れるのではないだろうか.アレルギー性結膜炎患者がより快適に過ごせる理想的なCCLの開発が待たれる.文献1)中川やよい:アレルギー性結膜炎患者からみた治療の実態とニーズインターネット・アンケートによる定量調査2007年度報告.新薬と臨床57:150-168,C20082)亀澤比呂志,中園由巳,杉尾嘉宏:コンタクトレンズ装用者におけるアレルギー性結膜炎に対するCBAK非含有エピナスチン塩酸塩点眼液の臨床効果.アレルギー・免疫C23:C64-71,C20163)植田喜一,佐橋紀男,高橋雄一ほか:スギ花粉とスギ花粉抗原のソフトコンタクトレンズへの付着.日コレ誌C52:C127-130,C20104)SkotniskyCCC,CNaduvilathCTJ,CSweeneyCDFCetal:TwoCpresentationsCofCcontactClens-inducedCpapillaryCconjuncti-vitis(CLPC)inChydrogelClenswear:LocalCandCgeneral.COptomVisSciC83:27-36,C2006PAS112

写真:涙点プラグ挿入術が奏功した兎眼性角膜炎

2018年12月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦415.涙点プラグ挿入術が奏効した小池保志*,**横井則彦***京都山城総合医療センター眼科兎眼性角膜炎**京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①角膜中央から下方にかけての点状表層角膜症②角膜中央部やや下方の線状の角膜上皮障害図1聴神経腫瘍摘出後に発症した顔面神経麻痺に伴う兎眼性角膜炎角膜中央やや下方の線状の角膜上皮障害と広範囲の点状表層角膜症がみられる.図3上下涙点に挿入された涙点プラグ図4涙点プラグ挿入1カ月後貯留水分量の増加を認め,角膜上皮障害は大幅に軽減した.(73)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C16490910-1810/18/\100/頁/JCOPY兎眼とは,顔面神経麻痺(脳腫瘍や脳梗塞,Bell麻痺など),外傷などの眼瞼疾患,甲状腺眼症などの眼窩疾患といったさまざまな要因により,完全な閉瞼ができない状態のことで,なかでも顔面神経麻痺による兎眼はよくみられる.眼科的には閉瞼不全による角膜障害,すなわち兎眼性角膜炎が問題となる.兎眼性角膜炎のもっとも重要な病態は,就寝中の兎眼に伴う涙液の水分の蒸発亢進であり,加えて,瞬目不全に伴う涙液クリアランスの低下やマイボーム腺機能不全などが複雑に関与していると考えられる.したがって,兎眼性角膜炎に対する治療のポイントは,就寝中の閉瞼障害に対する治療であり,一般に眠前の眼軟膏点入が行われる.また,活動時の不完全瞬目に対して,塩化ベンザルコニウムを含まない人工涙液点眼に加えて,抗菌点眼液や低力価ステロイド点眼がドライアイ治療として行われることが多い.しかし,兎眼性角膜炎に対するドライアイ治療はあくまで眼表面の乾燥,感染,炎症を防ぐ対症療法にすぎない.そのため閉瞼障害が高度で,重症の角膜上皮障害を伴う例では,治療用コンタクトレンズの装用や,アイパッチを用いた強制閉瞼,瞼板縫合やCgoldplateの上眼瞼への埋め込みなどの手術治療が行われることがある.しかし,それでも治療に難渋する例も多い.涙点プラグ挿入術は,涙点の閉鎖により涙液や点眼液の水分を滞留させることで,各種の眼表面疾患に対して治療効果が期待できる1).その一般的な適応疾患は涙液減少型ドライアイであるが,神経麻痺性角膜炎や角膜移植後の角膜上皮障害に対する有効性も報告されている2).兎眼性角膜炎に対する涙点プラグ挿入術は,眼表面の貯留水分量の増加による涙液層の安定性の向上ならびに上皮の乾燥防止に効果が期待できる有効な治療法と考えられる3).しかし,その一方で,瞬目不全や原疾患に伴う涙液クリアランスの低下がさらに増強するため,流涙症の発症の有無,眼表面の炎症や感染所見の出現に対して慎重な経過観察が必要である.症例はC34歳,女性.2002年に聴神経腫瘍に対する手術を受けた.術直後から左の顔面神経麻痺とそれに伴う兎眼を発症したため,近医で経過観察していた.2014年C7月頃から左眼の充血と眼痛が悪化し,ヒアルロン酸ナトリウム点眼,ジクアホソルナトリウム点眼,オフロキサシン眼軟膏点入が行われたが,改善傾向がみられないため当科紹介受診となった.自己閉瞼はかろうじて可能であったが,初診時,角膜中央やや下方の線状の遷延性の角膜上皮障害と広範囲の点状表層角膜症を認めたため,就寝中の閉瞼障害に対する対策が必要と考えられた.そこで,活動時も瞬目不全により涙液メニスカスは高かったが,さらなる眼表面の貯留水分量の増加目的に,上下に涙点プラグを挿入し,加えてレボフロキサシン点眼とC0.1%フルオロメトロン点眼をC2回/日から開始し,その後C1回/日とし,オフロキサシン眼軟膏点入も行った.涙点プラグ挿入によりさらなる涙液メニスカスの増加が得られ,約C1カ月後には,角膜上皮障害は大幅に改善した.本症例は,眼軟膏点入や点眼治療のみでは管理不能の高度の閉瞼不全に伴う兎眼性角膜炎であり,涙点プラグ挿入術と眼軟膏,点眼を用いた眼局所治療で,角膜上皮障害の改善が得られ,懸念された流涙症状はなかった.本症例のように高度な角膜上皮障害を伴う兎眼性角膜炎に対しては,涙点プラグ挿入術は試みる価値のある治療法と考えられる.文献1)FreemanJM:ThepunctumCplug:evaluationCofCaCnewCtreatmentCforCtheCdryCeye.CTransCSectCOphthalmolCAmCAcadOphthalmolOtolaryngolC79:874-879,C19752)TaiMC,CosarCB,CohenEJetal:Theclinicale.cacyofsiliconepunctalplugtherapy.CorneaC21:135-139,C20023)BendavidCI,CAvisarCI,CSerovCVolachCICetal:Preven-tion.of.exposure.keratopathy.incriticallyⅢpatients:Asingle-center,Crandomized,CpilotCtrialCcomparingCocularClubricationwithbandagecontactlensesandpunctalplugs.CritCareMedC11:1880-1886,C2017