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コンタクトレンズ:乱視用コンタクトレンズの処方例

2017年11月30日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一37.乱視用コンタクトレンズの処方例塩谷浩しおや眼科●はじめに球面コンタクトレンズ(CL)では矯正しきれない乱視を乱視用CLで矯正することには,視力を改善すること以外にもさまざまな意義がある.本稿では乱視用ソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用により,視力の改善ばかりでなく,見え方の質が向上することで乱視による患者の自覚症状(表1)が改善した典型的な処方例を供覧する(便宜上,片眼でのデータを提示した).●眼精疲労への処方例(症例1)患者:35歳,男性,銀行員.CL装用歴:球面SCLを15年.1年前から1日交換SCLを使用している.最近,疲れやすくなった.検査所見:使用CLは1日交換SCL(Powsph.6.00),)1.50DAx10°.cyl(1.00+5×sph.CL(1×CL視力は1.0,自覚的屈折はVA=0.06(1.5×sph.6.25(cyl.1.75DAx10°),角膜乱視cyl.1.75DAx180°.乱視用SCL適応の考え方:職業的に近業が多く,近視におけるCL装用での近業は疲れやすい.乱視の未矯正のため等価球面度数の設定で球面SCLが処方されていると思われるが,近視の過矯正になっている可能性がある.調節力が低下しはじめる30歳代半ばの年齢となり,乱視の見え方への対応がむずかしくなっていると思われる.使用している球面SCLでの視力が1.0と良好であっても,乱視を矯正すれば眼精疲労に対処できると考えられる.全乱視と角膜乱視が同程度であり,乱視軸が一致しているため,理論的には球面ハードコンタクトレンズ(HCL)で乱視をほぼ完全に矯正することができるが,SCLの長期経験者であり乱視用SCLでの対応が適当である.乱視用SCLの処方:1日交換乱視用SCL(8.5/sph.5.00(cyl.1.25DAx180°/14.5)を処方し,CL視力は1.5(n.c.)となった.視力は球面SCLの1.0より数値的に上がっていると同時に,見え方の質が改善している.処方後に「乱視用SCLを使用するようになり,近くが見やすく感じ,一日仕事をしても,あまり疲れなくなった」という患者の使用感が得られた.(89)表1乱視の自覚症状●疲労感と羞明への処方例(症例2)患者:37歳,女性,主婦.CL装用歴:球面SCLを15年.6年前から視力が低下してきたため1日交換SCLを使用している.これまで5種類の1日交換SCLを使用してきたが,目が疲れ,まぶしくなるため,どのレンズも合わない感じがしていた.検査所見:使用CLは1日交換SCL(Powsph.5.00),CL視力は1.0×CL(n.c.),自覚的屈折はVA=0.03(1.2×sph.5.00(cyl.1.25DAx160°)角膜乱視cyl.1.50DAx180°,角膜全体に軽度の点状表層角,膜症(super.cialpunctatekeratopathy:SPK)が認められた(図1).乱視用SCL適応の考え方:6年前から視力が低下してきた原因には,SPKの発症による角膜表面の不整化の見え方への影響と,加齢による調節力の低下で乱視の見え方への対応がむずかしくなってきたことが考えられる.疲労感と羞明の原因にもSPKと乱視の未矯正が考えられる.そこで,使用している球面SCLでの視力が1.0と良好であっても,乱視を矯正し,SPKへの対応として耐乾燥性素材のレンズに変更することで対処する必要がある.全乱視と角膜乱視が同程度であり,乱視軸が一致しているため,理論的には球面HCLで乱視をほぼ完全に矯正することができるが,SCLの長期経験者であり,乱視用SCLでの対応が適当である.乱視用SCLの処方:耐乾燥性素材であることと患者の全乱視と全乱視軸160°に対応できる円柱レンズ軸が設定されている条件から,頻回交換乱視用シリコーンハあたらしい眼科Vol.34,No.11,201715730910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1症例2の角膜のフルオレセイン染色所見角膜全体にびまん性に軽度の点状角膜上皮症(SPK)を認め,とくに角膜中央から下方にかけてSPKが著明に認められた.イドロゲルCL(8.6/sph.4.00(cyl.0.75DAx160°/14.5)を処方し,CL視力は1.0(n.c.)と球面SCLの視力と数値的には同じであるが,見え方の質は改善している.処方後に「乱視用SCLを使用して一日生活をしても疲れが少なくなり,まぶしさがなくなった」という患者の使用感が得られた.●頭痛への処方例(症例3)患者:33歳,女性,病院事務.CL装用歴:球面SCLを12年.2年前から頭痛と吐き気があったが,脳外科では異常がなかった.3カ月前から頭痛,肩こり,目の疲れと痛みが出現し,脳外科で鎮痛薬と精神安定薬を処方され,眼科ではドライアイに対しヒアルロン酸ナトリウム点眼液を処方されていた.検査所見:使用CLは頻回交換SCL(Powsph.3.25),CL視力は0.6×CL(1.2×cyl.0.75DAx180°),自覚的屈折はVA=0.05(1.2×sph.2.50(cyl.1.00DAx180°),角膜乱視cyl.1.50DAx180°,角膜下方に軽度のSPKが認められた(図2).図2症例3の角膜のフルオレセインで染色所見角膜下方に軽度の点状角膜上皮症(SPK)が認められた.乱視用SCL適応の考え方:脳外科的異常が否定的であることから,頭痛などの諸症状の原因には近業の多い仕事への従事が考えられるが,内服薬や点眼薬の治療効果が出ていないことを考慮すると,加齢による調節力の低下で乱視の見え方への対応がむずかしくなってきたことと,乱視未矯正による近視の過矯正の状態になっていることも考える必要がある.疲労感と羞明の原因にもSPKと乱視の未矯正が考えられる.遠近両用眼鏡での対応も考慮に値するが,SCLの長期経験者であり,眼鏡を使用する生活を望んでいないため乱視用SCLでの対応が適当である.乱視用SCLの処方:耐乾燥性素材の頻回交換乱視用シリコーンハイドロゲルCL(8.6/sph.2.00(cyl.0.75DAx180°/14.5)を処方し,使用CLの過矯正であった球面度数sph.3.25をsph.2.00と適正度数に変更した.CL視力は1.2×CL(1.5×sph.0.75)で,処方後に頭痛などの症状がなくなったため,内服薬と点眼薬の治療を中止することができた.ZS987

写真:タルセバによる睫毛の長毛化

2017年11月30日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦402.タルセバによる睫毛の長毛化北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学バプテスト眼科クリニック図2図1のシェーマ①CDSAEKgraft②睫毛の長毛化および乱生化C図1抗癌剤治療中の患者の左眼(白内障手術後の水疱性角膜症)睫毛の長毛化や乱生化を認める.プロスタグランジン系点眼薬による長毛化と異なり,睫毛は細くなっている.図3同一眼のフルオレセイン染色像角膜上皮障害はほとんど認めない.図4同一患者の右眼左眼と同様に睫毛が伸長し,細くなっている.(87)あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017C15710910-1810/17/\100/頁/JCOPY癌は日本人の死因の1/3を占めており,死亡率第一位の疾患である.また2人に1人が癌に罹患する.一方で,抗癌剤治療の進歩により通院で抗癌剤治療を行うことが増えてきており,眼科外来に通院している患者の中にも,一見健康そうにみえて抗癌剤治療を受けているケースによく遭遇する.以前より,S-1(TS-1)による角膜上皮障害や涙道閉塞が報告されている1,2).また,そのほかにゲタフィニブ(イレッサ),セツキシマブ(アービタックス)による睫毛の長毛化や乱生化,パクリタキセル(タキソール)やタモキシフェンによる網膜障害や視神経障害,5-フルオロウラシル(5-FU)による視神経障害などが報告されている3).本症例はC75歳,女性.白内障手術後の水疱性角膜症に対し加療目的で紹介され,バプテスト眼科クリニックで角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedendothelialCkeratoplasty:DSAEK)を施行した.非小細胞肺癌に対して治療中で,エルロチニブ(タルセバ)を内服していた.初診時より両眼とも睫毛は長毛化していたが,プロスタグランジン系点眼による長毛化と異なり,睫毛は細く乱生化していた(図1,2,4).また,角眼表面は平滑で,角膜上皮障害はほとんど認めなかった(図3).エルロチニブはC2007年C12月から国内販売が開始された分子標的薬で,非小細胞肺癌に対して適応がある.とくに切除不能な再発・進行性で,癌化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌,またはCEGFR(epidermalgrowthCfactorCreceptor)遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で,癌化学療法未治療の非小細胞肺癌に対して使用される.上皮成長因子(epidermalgrowthfacC-tor:EGF)は癌細胞の分裂や増殖を促進する成長因子で,癌細胞の表面に発現しているCEGFに対する受容体と結合し,その働きを阻害することで癌細胞の増殖を抑える.重大な副作用の一つとして間質性肺炎や肝機能障害が報告されている.眼の副作用については,添付文書でC1%以上C5%未満に結膜炎,1%未満に眼乾燥,角膜炎,眼瞼炎,睫毛/眉毛の異常,眼そう痒症,角膜びらん,眼脂,霧視,流涙増加,ぶどう膜炎と記載されている.また,イヌを用いた反復経口投与毒性試験において,高用量のC50mg/kg/日群で角膜の異常(浮腫,混濁,潰瘍,穿孔)が認められている.EGFおよびCEGFRは角膜上皮においても創傷治癒過程で重要な働きをもっており,過去の抗癌剤と同様に角膜上皮障害においては慎重な経過観察が必要と思われる.本症例のように睫毛異常をきたしているが角膜上皮障害はみられない症例もあるが,睫毛異常を認めれば,抗癌剤内服の有無について問診し,角膜潰瘍および角膜穿孔といった重篤な角膜障害を予防することが重要である.また,早期に内科主治医と連携をとり,眼科での積極的な介入の必要性についても検討するべきである.文献1)SasakiCT,CMiyashitaCH,CMiyanagaCTCetCal:Dacryoendo-scopicCobservationCandCincidenceCofCcanalicularCobstruc-tion/stenosisassociatedwithS-1,anoralanticancerdrug.JpnJOphthalmol56:214-218,C20122)YamadaR,SotozonoC,NakamuraTetal:Predictivefac-torsCforCocularCcomplicationsCcausedCbyCanticancerCdrugCS-1.JpnJOphthalmol60:63-71,C20163)柏木広哉:抗がん剤による眼障害─眼部副作用.癌と化学療法37:1639-1644,C2010

医薬品医療機器総合機構

2017年11月30日 木曜日

医薬品医療機器総合機構CommentaryonPharmaceuticalsandMedicalDevicesAgency:PMDA菅原岳史*I何をするところ?筆者は2012年1月から2年半,眼科医としては日本で初めて医薬品医療機器総合機構(PharmaceuticalsandMedicalDevicesAgency:PMDA)(用語解説参照)に勤務した経験から,眼科の患者に対する医療環境向上のため,本稿でPMDAについて紹介する(個人見解).PMDAが扱うのは主として治験データなので,フェーズIIとかフェーズIIIという試験の相が大事だが,本稿ではあえてそれにはまったく触れずに,PMDAについてコメントする.患者を治したいという湧き上がる情熱から生まれた医師や研究者の研究成果を,より大勢の患者に届けることを「一般化」とよぶ.一般化には,最終的に必ず企業の協力が必要になる.一般化されれば全国津々浦々の医療施設で使用される.これが「流通」である.流通させるためには国の「承認」が必要である.承認に向けた審査を実施するのが厚生労働省管轄であるPMDAである.PMDAで審査された医薬品,医療機器,再生医療等製品などは,最終的には厚生労働省で承認される.流通すれば独り歩きし,不用意に使用されかねないので,慎重に審査される.いわば,成果物に◯か×をつけて,流通を許可する関所(図1)であり,△はない.これがPMDA三大業務「救済」「安全」「審査」の一つである「審査」業務(図2).PMDAには三大業務に該当しないレギュラトリーサイエンス部や国際部などもある.本稿では救済と安全の業務も割愛し,審査業務について内容で紹介する.なお,審査業務には相談業務や信頼性業務もある.審査部には,新薬審査部(第1.第5),医療機器審査部(第1.第3),再生医療製品等審査部やワクチン等審査部などがある.審査関連部署としては相談業務の窓口であるレギュラトリーサイエンス相談室,モノ自体や治験体制のクオリティを調査する品質管理部や信頼性保証部などがある.審査業務の中心は治験の申請資料を読むことと審査報告書を書くこと(図3).それらが添付文書に反映される.わが国で唯一の組織なので,PMDAで承認されないと開発してもゴールにたどり着かない.海外の似た組織として,米国のFDA(用語解説参照)や欧州のEMA(用語解説参照)がある.一方で,誤解されがちだが,PMDAは医療技術を審査する先進医療や保険収載業務とは無関係である.II大学とのかかわり方は?PMDAは企業の方々には馴染み深い組織で,「パンダ」とか「機構」とよばれているが,大学とのかかわりはきわめてまれであった.筆者もPMDAに行くまでは,PMDAという名も知らなかった.企業が新薬を開発するには何十億円を費やし,PMDAとの交渉は経営に直結するので,PMDAの名前を知ら*TakeshiSugawara:千葉大学医学部付属病院臨床試験部・眼科〔別刷請求先〕菅原岳史:〒260-8677千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学医学部付属病院臨床試験部・眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(79)1563PMDAは流通の関所図3審査業務の読み書き治験など開発に関する総括報告書を読み,審査報告書を作る.図2PMDAの三大業務表1大学がPMDAと頻繁にかかわるようになってきた背景治験は研究のトップ治験山小屋PMDA研究者一定のルールに基づいた結果しか行政の目に留めない!PMDA相談登山計画・登頂目的・登山経験・登山体制・登山装備登頂ルート外観(霞が関ビル側から)図4開発をめざし治験の山を登るにはPMDA相談が不可欠図5PMDAの外観内観ロビー(2F)図6PMDAの内観各医療機関における臨床研究の中核的人材として活躍臨床審査員(2年~4年)図7キャリアパスにおけるPMDA国内留学留学や基礎系に所属する感覚でPMDAに所属されてはいかが?(PMDAホームページ掲載資料より改変)表2筆者が担当したおもな診療科領域図8行政に関係した眼科医の懇親会レギュラトリーサイエンス(レギサイ)懇親会許可を得て掲載(2017年6月初旬,都内にて),友人である東邦大学の堀裕一教授も参加(後列左から2番目が筆者).さまざまな情報交換が炸裂する.本特集の執筆者らが多数参加.■用語解説■PMDA:PharmaceuticalsandMedicalDevicesAgen-cy.独立行政法人・医薬品医療機器総合機構.通称パンダ.日本における開発の規制当局.FDA:FoodandDrugAdministration.米国の規制当局.EMA:EuropeanMedicalAgency.欧州の規制当局.ARO:AcademicResearchOrganization.大学における,臨床研究センターや臨床試験支援部等の総称.AMED:JapanAgencyforMedicalResearchandDevelopment.国立研究開発法人日本医療研究開発機構.特集の別項目参照.知的財産:特許のこと.レギュラトリーサイエンス:社会に調和させるように成果を届けるための科学.ポンチ絵:一枚のパワーポイントのスライドや配布資料図9PMDAレギュラトリーサイエンス相談の流れにイラスト,図表やコメントを満載にした行政特有のプレゼン資料のこと.眼科的にはビジーと思われるが,PMDA,AMED,厚生労働省ともに愛用.マイルストーン:どの時期にはどこまで実施しているべきという目安.架空の話とは思われないために,机上でシミュレーションしておく必要がある.ガントチャート:進捗管理表.横軸が時間で,縦軸が業務項目の表.開発は自動車製造と同じなので,事前に細かい業務分担管理がないと実施は困難.ロードマップ:臨床研究や治験はプロジェクトの一つに過ぎないので,数年のロードマップ上のどこの話であるか説明するのに必要.一足飛びに成功はしない.申請パッケージ:モノそのものの品質,非臨床(動物実験や基礎研究)ならびに複数の臨床試験の組み合わせを申請パッケージとよぶ.治験は基礎研究や臨床研究や関連情報(既報の論文)を含めた詰め合わせセットの一部である.すなわち,治験のデータそのものと同時に,詰め合わせ全体のバランスも,PMDA的には大事である.QOL:qualityoflife.生活の質.

日本医療研究開発機構

2017年11月30日 木曜日

日本医療研究開発機構OverviewofJapanAgencyforMedicalResearchandDevelopment:AMED三宅正裕*I日本医療研究開発機構とは日本医療研究開発機構(JapanAgencyforMedicalResearchandDevelopment:AMED)は2015年4月に発足した国立研究開発法人で,わが国の医療研究開発に関する研究費をとりまとめ,研究者・研究機関に配分する組織である.配分にあたっては医療研究開発に関する動向を見定め,国としてどの分野に投資すべきかを内閣府や各省庁と調整するほか,それらの研究費が適切に執行され開発が進捗しているかをマネジメントして必要に応じて介入するなど,医療研究開発の司令塔としての役目をもつ.AMEDの歴史はそもそも,わが国の基礎研究の成果を質の高い臨床研究・治験へと橋渡しすることで革新的な医療技術をいち早く実用化し,国際展開をめざす,そのための司令塔となる組織を創設することが,2013年6月14日に閣議決定された日本再興戦略に明記されたことから始まる.その後,2014年5月23日に健康医療戦略推進法および独立行政法人日本医療研究開発機構法という二つの法律が参議院本会議を通過し,その構想が実現することが決まった.当初は米国国立衛生研究所(NationalInstituteofHealth:NIH)にちなんで「日本版NIH構想」とよばれていたが,実際にはNIHのように研究施設を傘下にもたず,ファンディングする研究も研究開発目的のものに限られているなど,NIHの機能の一部を担っているに過ぎない.2015年4月にAMEDが設立されるまでは各省庁が縦割りにファンディングを行っており,それらに横串を刺して調整することが困難であったため,相乗効果が得にくいばかりか重複を十分に排除することができず,効率の悪い運用となっていた.AMED設立後も,各省庁の政策と直接的に関連するような研究費は引き続き各省庁が所管することとなっているが,その他の研究開発費については,内閣総理大臣を本部長とする健康・医療戦略推進本部が決定する予算配分の方針に基づいて各省庁が予算を要求し,認められたものについては補助金としてAMEDに交付される.AMEDは文部科学省,厚生労働省,経済産業省,総務省から交付される補助金を一元化し,メリハリをつけて配分する.AMEDの所管は内閣府であり,大きな方針は健康・医療戦略推進本部が開催する健康・医療戦略推進会議の事務局を務める内閣官房健康・医療戦略室と調整を行う.一方で,実務レベルでの配分については,AMEDの各事業課室と各省庁の担当部署ならびにプログラムディレクター(PD),プログラムスーパーバイザー(PS)およびプログラムオフィサー(PO)との調整が中心となる.以上がAMEDの概要である.一般的な認識としては,「医療研究開発に対する公的ファンディングを一手に担う組織」という認識でよい.*MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54第2臨床研究棟8階京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(73)1557図1日本医療研究開発機構(AMED)の組織図(AMEDホームページより)研究開発・研究基盤整備、生物資源等の整備、国際展開他)図2各省連携プロジェクト(AMEDホームページより)算が決定する時期がおおむね決まっていることから,スケジュールを押さえておくことで心の準備ができる.また,毎年継続的に募集される課題もあるので,そのような課題については事前準備も可能である.各年度の一次公募は原則として4月から契約して研究を開始できるよう,前年度のうちに公募・採択を終える.わかりやすいように2018年度の研究費で考えると,公募開始の時期は2017年12月末になるのが基本であるが,多くの課題は11月.12月に公募開始となる.この理由は,2017年12月末に2018年度予算案が閣議決定され,概算要求していた予算がどの程度まで削減されるかがほぼ確定するからである(※実際に確定するのは国会通過後).逆にいうと,それ以前に開始された公募は予算額の根拠が不完全であるため,実際には1課題あたりの研究費や採択課題数が公募要領よりも圧縮されることがある.また,上記の予算に加えて,医療分野の研究開発について,研究の進捗状況や新規に募集する研究の内容などを踏まえた予算配分を各省間をまたいで機動的かつ効率的に行うため,内閣府「科学技術イノベーション創造推進費」(500億円)のうち35%にあたる175億円が調整費として充当される.これまでこの175億円は春と秋の2回に分けて配分されており,おおむね春に150億円,秋に25億円が配分されてきた.2017年度は6月14日に春の調整費が確定して7月.9月頃に二次公募が開始されており,2016年度は11月21日に秋の調整費が確定して12月.1月頃に二次または三次公募が開始されている(※すべての事業に調整費が配分されるわけではないため,必ずしも二次・三次公募があるわけではない).このほか,予期しない時期に公募が行われることもあるため,タイムリーに公募情報を入手するためにはAMEDが配信するメールマガジンに登録しておくことが勧められる.IVAMEDが重視するポイントAMEDは基礎研究から実用化への橋渡しを強くめざす組織(図3)であり,したがって実用化をしっかりと意識した申請書が評価される.AMEDは基礎研究にもファンディングしているが,priorityは原理の解明や学問の探究ではなく,いかに患者に還元できるかという点にある.この「患者への還元」という観点は,単に医学的に役に立つかどうかという点だけでなく,きちんと製薬会社などが製造販売承認を取得してくれるのかという点も含まれるもので,「いくらよいものであっても企業が製品化しない限りは社会に届かない」という実質的な視点である.企業が製品化してくれるかどうかという点をもう少し掘り下げると,いくつかのチェックポイントも浮かび上がってくる.たとえば,知財がしっかりと押さえられるものかどうか,作用機序の新規性が高いかどうか,マーケットは広いか,医薬品医療機器総合機構(PMDA)と適切に協議しているか,薬価がどの程度と想定されるか,その薬価で採算が取れるものか,これらを含めたロードマップが適切に立てられているかなどである.とくにターゲットとなる患者(マーケット)についてはよく考える必要があり,単に〇〇病ということではなく,そのなかでも標準治療が効かなかった患者に使用するものなのか,標準治療に代替しうるものなのかによってマーケットは大きく変わってくる.もちろん,必ずしも研究者がここまで完全に作り上げる必要はないが,パートナーたり得る企業を探す時点でこのような視点は求められるだろう.また,研究開発が主眼となる以上,プロジェクトマネジメントは重要である.しっかりと上記のような観点を把握して研究全体をタイムキープし,必要に応じてプロジェクト自体を諦めるという判断が求められることもある.研究開発とは,かくも厳しいものである.V混同しやすい組織・研究費1.PMDAとの違い同じ4文字の政府系機関ということでAMEDとPMDAを混同してしまう方が多いが,ここまでお読みいただいた方はおわかりのようにその役割はまったく違う.詳細は本稿およびPMADの稿をご覧いただければと思うが,PMDAは製造販売承認(いわゆる薬事承認)の審査を行う専門の独立行政法人で,所管省庁は厚生労働省の医薬食品・生活衛生局である.1560あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(76)医療分野研究開発推進計画に基づくトップダウンの研究医療に関する研究開発の実施■プログラムディレクター(PD)、プログラムオフィサー(PO)等を活用したマネジメント機能●医療分野研究開発推進計画に沿った研究の実施、研究動向の把握・調査●優れた基礎研究の成果を臨床研究・産業化につなげる一貫したマネジメント(個別の研究課題の選定、研究の進捗管理・助言)■PDCAの徹底■ファンディング機能の集約化■適正な研究実施のための監視・管理機能●研究不正(研究費の不正使用、研究における不正行為)防止、倫理・法令・指針遵守のための環境整備、監査機能◆知的財産権取得に向けた研究機関への支援機能●知的財産管理・相談窓口、知的財産権取得戦略の立案支援◆実用化に向けた企業連携・連携支援機能●医薬品医療機器総合機構(PMDA)と連携した有望シーズの出口戦略の策定・助言●企業への情報提供・マッチング臨床研究等の基盤整備■臨床研究中核病院、早期・探索的臨床試験拠点、橋渡し研究支援拠点の強化・体制整備●専門人材(臨床研究コーディネーター(CRC)、データマネージャー(DM)、生物統計家、プロジェクトマネージャー等)の配置支援●EBM※(エビデンス)に基づいた予防医療・サービス手法を開発するためのバイオバンク等の整備(※EBM:evidence-basedmedicine)(AMEDホームページより)図3基礎研究から実用化への橋渡しをする組織

厚生労働省

2017年11月30日 木曜日

厚生労働省MinistryofHealthLabourandWelfare:MHLW許斐健二*はじめに厚生労働省と聞いて,その名称を知らない眼科医はおそらくいないと思うが,どこにあって,どんな業務を行っていて,どんな人が働いているのか,聞かれてすらすら答えることのできる眼科医はとても少ないのではないだろうか.また,医師国家試験の結果を講堂まで見に行ったことのある眼科医はいるかもしれないが,その後の医師としての日常のなかで,厚生労働省まで行って何かの作業に加わった経験のある眼科医はそれほど多くないと思われる.そこで多くの眼科医が知らない厚生労働省について紹介するとともに,眼科医としての業務を行っていく際に知っておくと少し役に立つかもしれないことについて記載する.Iどこにある?所在地:東京都千代田区霞が関1-2-2地図ソフトで調べるとすぐにわかるが,目の前には日比谷公園があり,最寄りの駅は「霞が関」である.合同庁舎5号館(テレビによく映っている)の中に厚生労働省があり,各階でエレベーターを降りると国会議事堂側(西側)と日比谷公園側(東側)に分かれている.日比谷公園と反対側の国会議事堂側には農林水産省(MinistryofAgriculture,ForestryandFisheries:MAFF)が,道を挟んで南側には経済産業省(MinistryofEconomy,TradeandIndustry:METI)がある.IIいつから?平成13年の中央省庁再編時に厚生省と労働省が統合されて現在の厚生労働省になった.同様に,文部省と科学技術庁が統合されて現在の文部科学省(MinistryofEducation,Culture,Sports,ScienceandTechnology:MEXT)になっている.IIIどんな任務があるの?厚生労働省の任務については厚生労働省設置法に以下のように記載されている.「厚生労働省は,国民生活の保障及び向上を図り,並びに経済の発展に寄与するため,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進並びに労働条件その他の労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務とする」またこの他に,「引揚援護,戦傷病者,戦没者遺族,未帰還者留守家族等の援護及び旧陸海軍の残務の整理を行うことを任務とする.」と戦後の整理についても任務になっており,その業務は多岐にわたっている.後者を除き,おもな業務についてわかりやすく記載すると図1のようなイメージとなる.IVどんな人が働いている?総合職,技官,一般職の三つの職種がある(図2).以前のいわゆる国家公務員試験第一種に合格し採用された者が就くのが総合職である.医師は技官に属する.これ*KenjiKonomi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕許斐健二:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(65)1549図1厚生労働省のおもな業務図2厚生労働省の職種図3組織図(厚生労働省の組織再編について,平成29年7月4日)図4医系技官の本省以外のおもな勤務先・施策に関する知識・高い志・調整力・構想力・広い視野・公平・公正性・豊かな人間性など・コミュニケーション能力など図5医系技官に必要なもの①穏やかな一日の例9時半登庁午前中メールの処理など12時銀座までランチ(地下鉄1駅)13~15時省内で会議15~18時資料作成など18時国会開会中のため待機21時厳重居所となり帰宅②多忙な一日の例8時与党の部会9時半登庁10時他省で会議12時半昼食13~15時省内で会議15時議員からの質問通告18時問取り→答弁書き25時セット版(最終版)確定→タクシーで帰宅翌7時大臣に説明(レク)10時国会随行図6医系技官の一日(例)予算法律専門委員会事業図71年間の流れ〇健康課生活習慣病や,たばこやアルコール対策に関すること.〇がん・疾病対策課がんその他の悪性新生物に関する政策の企画・立案,調整等に関すること.〇結核感染症課エイズ,結核やその他の感染症などに関すること.〇難病対策課治療方法が確立していない疾病の予防や治療法などに関すること.〇移植医療対策推進室角膜移植を含む臓器移植や造血幹細胞移植などに関すること.4.医薬生活衛生局医薬品,医療機器,再生医療等製品や化粧品,医薬部外品などの有効性や安全性に関することや,血液事業,麻薬覚せい剤対策などを行う.〇医薬品審査管理課医薬品,医薬部外品や化粧品の製造や製造販売に関すること.〇医療機器審査管理課医療機器,対外診断用医薬品や再生医療等製品の製造や製造販売に関すること.〇医薬安全対策課医薬品などの安全性の確保に関すること.〇監視指導・麻薬対策課不良な医薬品や不正な表示のされた医薬品などの取り締まりに関することや,麻薬,覚醒剤などに関する取締りなどに関すること.5.保険局医療保険制度や後期高齢者医療制度に関すること.〇医療課診療報酬に関連すること.眼科の診療報酬もこちらが担当課である.これまでは2年ごとに診療報酬が改訂されてきたが,今後変わることがあるかもしれない.XI法令・指針など医学部で習うおもな法律は,医師法と医療法が中心であったと思う.しかし,これらに加えて,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が平成26年に施行され,さらに平成30年からは臨床研究法が施行予定であるので,今まで以上に法律を理解して臨床業務を行う必要が出てきた.法律以外にも種々の臨床研究を実施しようとする場合には,「〇〇に関する指針」を遵守する必要があるが,指針と法律は異なるものである.法律が世に出てくるためには,種々の作業・過程を経た法案が国会に提出され,提出された法案が国会で審議され,可決されれば成立し,公布に至る.その後施行されて初めて法律の効力が作用することになる.法律が公布された途端,その日から急に法律通りにやりなさい,ということには通常はならない.たとえば,「再生医療等の安全性等に関する法律」では,平成25年11月27日に公布されたが,公布日から突然,同法律に従って再生医療などを実施しないと法律違反になるということはなく,施行日は平成26年11月25日とほぼ1年経ってからであった.法律にはその法律を施行するにあたって,施行令(政令),施行規則(省令)やこれらの扱いについての通知(政令や省令等で規定された事項を遵守し,適正に業務が実施されるようにさらに取りまとめた留意事項)といったより細かい規定が法律の下に置かれる.法律の公布後,施行日までにこれらの準備が整うことになる.一方,指針は法律のように国会で審議されることはなく,罰則規定もない.たとえば「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」は,厚生労働省と文部科学省が共管しているが,二つの省が開催した専門委員会で議論されたものが指針案となり,パブリックコメントを経た後,審議会で審議され,最終的に指針として告示されている.指針には罰則規定がないとはいえ,指針違反をすれば社会的にペナルティが課されることになる.法律も指針も人が作成するものであるから,必ずしも完璧なものとは限らない.また,その時代時代に即した(71)あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171555

ゲノム医療

2017年11月30日 木曜日

ゲノム医療GenomicMedicine虎島泰洋*はじめに近年の科学技術の発展のなかでも,ゲノム科学はとりわけ著しく進展し,その成果を医療に実装しようとする動きは世界,そして日本でも急速に進みつつある.ゲノム科学においては,遺伝情報の総体であるゲノムだけでなく,細胞中に存在するすべてのRNA情報であるトランスクリプトーム,生体内に存在するタンパク質の総体であるプロテオーム,代謝物質であるメタボローム,そしてまたメチル化・アセチル化といったゲノムに修飾される情報であるエピゲノム変化といったオミクス全体を扱うようになってきている(図1).本稿では,個人のゲノム情報などをもとにして,その個人の体質や病状に適した医療を行う「ゲノム医療」について,それにかかわる環境や制度を解説する.なお,患者の細胞に遺伝子を導入するなどで病気を治療する遺伝子治療や,標的遺伝子を直接改変するゲノム編集についてはここでは触れない.Iゲノム医療の歴史ヒトゲノムの全塩基配列30億塩基対を解析すべく1990年に国際的なプロジェクトとして開始されたヒトゲノム計画は,1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックがDNAの二重らせん構造を発見して50年となる2003年に完成版が公開された.そして2000年半ばに登場した次世代シークエンサー(nextgenerationsequencer:NGS)によってこの分野は一段と加速することとなった.従来のシークエンサーはサンガー法を用い一つ一つDNA配列を読み取るものであったが,NGSは多数のDNA配列を同時に解析することで時間とコストを飛躍的に改善させた.その後も技術革新は続き,毎年2倍以上というムーアの法則を超えるスピードでNGSデータ出力量が増加し,併せてコストも低下している(図2).ヒトゲノム計画では全塩基配列解読に13年という期間と30億USドルもの費用がかかったが,現在では,高い信頼性を保ちながらも数日内に1,000USドルで解読できるまでになった.2015年に当時米国大統領であったバラク・オバマ氏が「PrecisionMedicineInitiative」を発表した.平均的な患者のためにデザインされた従来型医療から脱却し,遺伝子,環境,ライフスタイルに関する個人ごとの違いを考慮した予防や治療法を確立するため,100万人以上の全米研究コホートを創設し,2億USドル以上の予算をかけ新しい癌の治療法開発などを推進するというものであり,これによって世界がゲノム医療実用化へ大きく舵を切ることとなった.また,2013年に米国の女優,アンジェリーナ・ジョリーが遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の関連遺伝子,BRCA1/2遺伝子変異に基づき,予防的な乳房切除を行ったことが話題となり,ゲノム医療そして遺伝子検査が一般的にも認知されることとなった.*YasuhiroTorashima:長崎大学大学院移植・消化器外科〔別刷請求先〕虎島泰洋:〒852-8501長崎市坂本1-7-1長崎大学大学院移植・消化器外科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(53)1537メチル化アセチル化フェノタイプDNARNAProteinMetabolites図1オミクスゲノムと遺伝子について研究するゲノミクスを始め,転写物-ランスクリプトミクス,タンパク質-プロテオミクス,代謝物-メタボロミクスなどの生体内に存在する分子全体を網羅的に研究するオミクスが進展している.$100M$10M$1M$100K$10K200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015図2ヒトゲノム解析コストの推移ヒトサイズのゲノムを解析するコストは2007年を境に急激に低下し,ついに1,000ドル時代を迎えている.(NHGRIGenomeSequencingProgram資料より抜粋)ジストロフィンDNAMLPAや網膜芽細胞腫のRB1遺伝子など,単一遺伝子などの異常が原因となる疾患に関する遺伝学的検査がある.欧米における遺伝学的検査は4,600項目以上にのぼるのに対し,日本では144項目(保険収載は36疾患)にとどまっていたことで対応の遅れを指摘されてきたが,2016年度の診療報酬改定において遺伝学的検査が診断に必須とされる指定難病が追加された.しかし,いまだその多くの疾患が検査項目や検査方法が明確化されていないものも多く,また疾患が希少であるため衛生検査所で実施していない項目も多い(表1).遺伝子関連検査を行う場合,医療機関自らが保険適用されていない試薬を用いて行う自家調整検査法(labora-torydevelopedtest:LDT)や,医療機関内でブランチラボに業務委託される検体検査,衛生検査所に業務委託するものが行われているが,オミクス検査や遺伝子関連検査に特化した基準がないままに広く流通してきたことを踏まえ,2017年には医療法が改正され,LDTの品質・精度管理にかかる基準を定める根拠規定が新設された.今後具体的な基準などが定められる省令などを注意深く確認する必要がある.また近年,日本でも消費書直販型(direct-to-consum-er:DTC)遺伝子検査という医療機関を介さない検査サービスに大手IT事業者が参入し話題をよんでいる.インターネットで申し込み,送られてきた検査キットで唾液などの検体を採取して送り返すと,体質や疾患リスクを多項目にわたり分析した結果が直接返される.医行為ではないため診断は行えないが,環境要因が疾患の発症にかかわる多因子疾患を対象としており,利用者に気づきを与え,自らの行動変容を促すサービスとされている.しかし,十分な内容説明を提供されずに検査を受けること,検査の品質が担保されていないこと,科学的な根拠が乏しい場合があることなどの問題が指摘され,さらに個人情報保護の規定を加えた経済産業省のガイドラインが発出されたことを受け,業界団体(NPO法人個人遺伝情報取扱協議会)の自主基準が策定された.また,羊水ではなく,母体血を用いて胎児の染色体数的異常が判定できるとして,無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasiveprenatalgenetictest:NIPT)も話題となり,2013年に日本産婦人科学会により指針が策定された.現在,限定した施設,限定した条件下に臨床研究として行われている.いずれの遺伝子関連検査においても,留意すべき重要なものの一つに遺伝カウンセリングがある.遺伝学的検査では診断が生涯変化せず,血縁者にも影響を与えうる遺伝情報を扱うこととなる.検査結果が示す意味を正確に理解することが困難であったり,疾病の将来予測性に対してどのように対処すればよいか本人や家族が不安をもったり,ということが考えられる.2011年に日本医学会により策定された「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」においては,各診療科の医師自身が遺伝に関する十分な理解と知識および経験をもつことが重要であること,検査の意義や目的の説明とともに,結果が得られた後の状況や検査結果が血縁者に影響を与える可能性があることなどについて十分に説明し,患者・被験者の自律的選択が可能となるような心理的社会的支援ができるように,習熟した者が協力し,チーム医療としてカウンセリングを実施する体制を整えることとしている.III日本におけるゲノム研究の推進2014年の健康・医療戦略において,「環境や遺伝的背景といったエビデンスに基づく医療を実現するため,その基盤整備や情報技術の発展に向けた検討を進める」「ゲノム医療の実現に向けた取組を推進する」とし,2016年に閣議決定された「日本再興戦略」では,ゲノム解析などの技術革新を最大限に活用し,医療・介護の質や生産性の向上,国民の生活の質の向上,革新的な医薬品・医療機器などの開発・事業化につなげ,世界最先端の健康立国の実現をめざすとともに,グローバル市場の獲得をめざすことが掲げられた.2015年には健康医療戦略推進会議の下に「ゲノム医療実現推進協議会」が設置され,ゲノム医療の実現に向けオールジャパン体制での強化を図るとし,中間とりまとめが発表された.同年には,厚生労働省事務局による「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」が設置され,改正個人情報保護法,医療制度における課題,社会環境整備について意見がとりまとめられて(55)あたらしい眼科Vol.34,No.11,20171539D006-4遺伝学的検査3,880点表1D006.4遺伝学的検査検査検査項目検査方法アデュシェンヌ型筋ジストロフィジストロフィンDNAMLPAMLPAベッカー型筋ジストロフィジストロフィンDNAMLPAMLPA福山型先天性筋ジストロフィ福山型筋ジストロフィDNA挿入PCR栄養障害型表皮水疱症──家族性アミロイドーシスTTR遺伝子変異解析(トランスサイレチン遺伝子変異解析)ダイレクトシークエンス法先天性QT延長症候群──脊髄性筋萎縮症──イハンチントン病HTT遺伝子CAG反復配列解析PCR球脊髄性筋萎縮症AR遺伝子CAG反復配列解析PCR法網膜芽細胞腫──甲状腺髄様癌RET遺伝子検査多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)遺伝子診断ダイレクトシークエンス法ウフェニルケトン尿症──メープルシロップ尿症──ホモシスチン尿症──シトルリン血症(1型)──アルギノコハク酸血症──メチルマロン酸血症──プロピオン酸血症──イソ吉草酸血症──メチルクロトニルグリシン尿症──HMG血症──複合カルボキシラーゼ欠損症──グルタル酸血症1型──MCAD欠損症──VLCAD欠損症──MTP(LCHAD)欠損症──CPT1欠損症──筋強直性ジストロフィDMキナーゼDNACTG反復配列解析サザンハイブリダイゼーション法隆起性皮膚線維肉腫──先天性銅代謝異常症──色素性乾皮症──先天性難聴先天性難聴の遺伝子解析NSG法+Invader法ロイスディーツ症候群──家族性大動脈瘤・解離──検査検査項目検査方法エ神経有棘赤血球症──先天性筋無力症候群──ライソゾーム病──プリオン病──原発性免疫不全症候群──クリオピリン関連周期熱症候群──神経フェリチン症──ペリー症候群──先天性大脳白質形成不全症──環状20番染色体症候群──PCDH19関連症候群──低ホスファターゼ症──ウィリアムズ症候群ウィリアムズ症候群(7番染色体)FISH法クルーゾン症候群──アペール症候群──ファイファー症候群──アントレー・ビクスラー症候群──ロスムンド・トムソン症候群──プラダー・ウィリ症候群プラダー・ウィリ症候群(15番染色体)FISH法Prader-willi/Angelman症候群遺伝子解析メチレーションPCR1p36欠失症候群特定染色体サブテロメア領域解析FISH法4p欠失症候群4染色体Wolf-Hirschhorn症候群FISH法5p欠失症候群特定染色体サブテロメア領域解析FISH法第14番染色体父親性ダイソミー症候群──第14番染色体父親性ダイソミー症候群──アンジェルマン症候群アンジェルマン症候群(15番染色体)FISH法Prader-willi/Angelman症候群遺伝子解析メチレーションPCRスミス・マギニス症候群──22q11.2欠失症候群22番染色体22q11.2欠失解析FISH法エマヌエル症候群──脆弱X症候群関連疾患脆弱X症候群脆弱X症候群脆弱X症候群の遺伝子解析サザンハイブリダイゼーション法ウォルフラム症候群──タンジール病──高IgD症候群──化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群──先天性赤血球形成異常性貧血──若年発症型両側性感音難聴先天性難聴の遺伝子解析(対象遺伝子:TMPRSS3,KCNQ4,WFS1,TECTA,COCH,CDH23,ACTG1)NSG法+Invader法尿素サイクル異常症OTC遺伝子塩基配列決定全翻訳領域PCR-RFLP法ダイレクトシークエンス法Nested-PCR法マルファン症候群──エーラスダンロス症候群(血管型)──2016年度の診療報酬改定にてエの項目が追加された.しかし,検査項目や検査方法が明確化されていないものも多く,また疾患が希少であるため衛生検査所で実施していない項目も多い.(厚生科学審議会疾病対策部会第46回難病対策委員会資料より抜粋改変)図3ゲノム医療実現への出口を見据えた研究開発フェーズ医療への実利用が近い単一遺伝子疾患などの第1グループ,多くの国民が罹患する一般的な疾患である第2グループをさらにStageごとに分類し,進捗管理が行われる.(ゲノム医療実現推進協議会,平成28年度報告より抜粋)図4疾病克服に向けた医療実現プロジェクト省庁連携プロジェクトとして,多くの事業が研究基盤の整備や試行的・実証的な研究を一体的に推進するとして176億円の予算が要求されている.(平成30年度医療分野の研究開発関連予算の概算要求のポイントより抜粋)図5臨床ゲノム情報統合データベース事業がん,希少疾患・難病,感染症,認知症,その他の個々の症例から得られた臨床情報とゲノム情報を集積・統合する臨床ゲノム情報統合データベースを構築している.図6未診断疾患イニシアチブ(IRUD)診断体制希少・未診断疾患患者をIRUD拠点病院において体系的に診断し,患者情報を収集蓄積,開示するシステムを構築している.(「未診断疾患イニシアチブのご案内」改訂第2版より抜粋)図7がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書の概要がんゲノム医療実現のための新たな体制として,がんゲノム中核拠点病院やがんゲノム情報管理センター,がんゲノム医療推進コンソーシアムの設立が示された.(がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会資料より抜粋)て行い,そこで明らかとなった新しい変異を組み込むことで遺伝子パネル検査の充実をめざす,とした.そのため,ゲノム医療を受けた患者のゲノム情報と,治療後の転帰情報を含めたリッチな臨床情報を併せて集約し,研究での利活用をうながす仕組みを提案している.質の高いがんゲノム医療を提供するため,がんゲノム医療中核拠点病院に限定した医療提供が適切であるとし,そこから産出されるデータは,がんゲノム情報レポジトリーと人工知能を利用した知識データベースを備えた情報管理センターに集約される(図7).これらを受け,がん診療体制のあり方検討会において,がんゲノム中核病院の指定要件が議論された.施設・体制,人員,実績,診療連携・人材育成の観点で要件が示され,全国に10程度の施設が指名される見込といわれている.がん遺伝子パネルが保険収載されるまでは,パネルを用いた医療を先進医療として行うことが決定している.がんゲノム情報管理センターが稼働するまでは,AMED研究である臨床ゲノム情報統合データベース事業のなかでシステムを整備し,プロトタイプとして運用していくこととなった.さらに,がん患者のゲノム解析の結果,未承認・適応外薬が治療の選択肢となった場合に備え,治験・臨床試験の情報を一元管理したうえで必要な医師主導治験を促すような適切な治療薬の選択肢をタイムリーに提供できる体制の整備も併せて行うこととなっている.VI国際的な動向前述のPrecisionMedicineInitiativeの下,アメリカ国立衛生研究所(NationalHumanGenomicResearchInstitute:NIH)は,一般的な疾患から希少疾患までゲノム医療を多角的に推進し,世界をリードしている.全米に存在する既存のゲノムコホートを有機的に連携し,100万人以上の研究コホートを構築することによって,健康に影響を与える遺伝要因と環境要因の関係性を明らかにすることを目標としている.遺伝子変異・多型にかかる知識・データを集約・整理し,共有するための公的な基盤として,「ClinVar」が運用されており,すでに全世界で単一遺伝病の検査に欠かせないものとなっている.英国では,GenomicsEnglandを英国保健省が10万人のゲノムプロジェクトのために設立し,NGSの世界トップ企業であるイルミナ社と共同でシーケンス解析を実施している.さらに英国は欧州最大規模のUKBio-bankを有し,2006.2010年の5年間で全国から健常人50万人の血液,尿,唾液などの生体試料と病歴などの情報を収集保存し,多くの研究に利用され世界のバイオバンクのモデルとなっている.アジアにおいても,中国ではChinaKadoorieBio-bankが2008年に50万人の試料収集を達成し,台湾ではTaiwanBiobankに20万人,韓国ではKoreaBio-bankNetworkが健常人30万人,患者20万人の収集をめざしており,世界中で競い合うようにコホート研究が進んでいる.多因子疾患の解明のためには,より大規模なコホートが必要とされており,人種間などの差異を考慮しつつ,国際連携を進めることも重要であろう.また2017年,米食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)は抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(キイトルーダR)について,マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-H),またはミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)の固形癌を対象に迅速承認を行った.これは細胞内のDNA修復系が不十分となるため遺伝子変異数が多くなるものであるが,腫瘍の原発部位によらずバイオマーカーで薬剤を承認した初めての事例であり,今後の薬剤開発の方向性として大きな一歩となると思われる.さらにFDAは,DTCのサービス最大手である23andMe社に対し,2013年には検査サービスの停止命令を出していたが,2017年になって10の疾患や症状を対象に発症するリスクが高いかどうかを提示することを許可した.がんゲノムにおいては,300以上のがん関連遺伝子を一度に診断できる遺伝子パネルFoundation-OneRがFDAにより迅速審査プログラムに指定されたが,すでにそれをカバーする民間健康保険も販売されており,ゲノム医療の普及が本格化している.おわりにゲノム医療は,今回触れなかったゲノム情報を利用した創薬研究であるファーマコゲノミクスも含め,世界中で激しい競争が繰り広げられている.研究のための研究1546あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(62)

再生医療法

2017年11月30日 木曜日

再生医療法ActionsfortheActontheSafetyofRegenerativeMedicine今井浩二郎*はじめに「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」(以後,再生医療法)が施行されて3年が経過した.再生医療法が成立する前は「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以後,ヒト幹指針)のもと,臨床研究にのみ枠組みが整備されていたが,再生医療法により臨床研究のみならず,医療として提供される再生医療・細胞治療にも法の対象が広がった.現在,届出がなされている再生医療等提供計画はC3,000件を超え(2017年8月31日付1)),その多くのカテゴリーは「治療」である.再生医療法として当初の目的は達成したかに考えられるが,再生医療法を遵守していない案件も未だに存在する.本稿では,再生医療法の成立時の状況を振り返るとともに,再生医療法で定められている手続きおよび再生医療法下における再生医療などの実施状況などを概説する.その他,改正薬事法や臨床研究法との関係,眼科における再生医療法の役割などにも触れる.CI再生医療法の成立日本において,治験に関する枠組みが示されたのは,1997年のCGCP制定時と考えられる(図1).また,研究に関する枠組みは,2003年に臨床研究に関する倫理指針が施行され,徐々に体制が整い始めた.研究における再生医療については,2006年にヒト幹指針が制定され,2014年までにC100例を超す臨床研究が,厚生科学審議会科学技術部会にて了承された.当初は,安全性の確認を主とした研究が多かったが,徐々に有効性の検討を行う研究も増え始めた.また一貫して,投与される細胞加工物の品質に関するレビューを行った.わが国における再生医療の立ち上がりをヒト幹指針は支えたといっても過言ではないだろう.しかしながら,メディカル・ツーリズムで来日し,京都で幹細胞治療をC2010年に受けた韓国人が,肺動脈塞栓症で死亡したという事例が発生した.この治療の安全性を担保する枠組みが当時の日本には存在しなかった.この事態を重視した再生医療学会は,2011年に声明文2)を発出している.未認可の幹細胞治療には学会員は関与しないこと,患者側は冷静に判断すること,行政は適切な新しい医療提供体制の構築を進めることをそれぞれ求めた.厚生労働省では,2012年C9月より新たな枠組みに関する検討会を設置し,2013年C11月に再生医療法を公布,2014年C11月には施行に至り,異例のスピードで整備が進められた.2012年に山中伸弥教授がノーベル賞を受賞し,iPS細胞を含む再生医療を後押しするにあたり,法律による再生医療などの安全性の確保が急務となったことも大きく影響したと考えられる.CII再生医療法とは再生医療法は,54条に雑則C4条を加えたC58条から構成されている(表1).第二章は,再生医療等の提供に関して,第三章は認定再生医療等委員会に関して,第四章*KojiroImai:京都府立医科大学大学院医学研究科医療フロンティア展開学〔別刷請求先〕今井浩二郎:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科医療フロンティア展開学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(47)C15311997/42003/72006/92013/52014/11「GCP省令」施行表1再生医療法「臨床研究に関する倫理指針」施行「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」施行「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」施行「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」廃止「再生医療法」施行「薬事法改正法」施行図1再生医療法にかかわる年表第一種再生医療等第二種再生医療等第三種再生医療等提供計画の作成厚生科学審議会提供開始※:第三種再生医療等の審査は特定認定再生医療等委員会でも可能図2リスクに応じた手続き表2特定認定再生医療等委員会のカテゴリーによる構成要件・成立要件3)1.分子生物学,細胞生物学,遺伝学,臨床薬理学または病理学の専門家2.再生医療などについて十分な科学的知見および医療上の識見を有する者3.臨床医4.細胞培養加工に関する識見を有する者5.法律に関する専門家6.生命倫理に関する識見を有する者7.生物統計その他の臨床研究に関する識見を有する者8.一般の立場の者(技術専門委員)1名1名1名1名1名※3※1:構成要件として男女両性各C2名以上,同一医療機関半数未満など別要件あり.C※2:成立要件として委員の過半数出席,男女両性各C2名以上出席,対象の医療機関と利害関係を有しない委員が過半数含まれることなど別要件あり.※3:構成要件C2またはC3が専門的知識を有する場合は技術専門委員にあてることができる.①承認申請②承認申請治験:安全性確認,有効性推定.フェーズ2まで.①承認申請:条件・期限付き承認を与える.①市販後:市販後調査を定められた年限,計画で実施する.②承認申請:市販後調査の結果により承認を与える.(文献4を一部改変)図3条件・期限付き承認制度再生医療ではヒトに由来する細胞を用いることによる不均一性により,治験で有効性に関するデータを得るためには長期の時間を要し,患者へ治療が届かない恐れがある.患者へのアクセスを早めるための制度.表3臨床研究法図4わが国の再生医療

臨床研究法の法制化

2017年11月30日 木曜日

臨床研究法の法制化LesislationforClinicalResearchAct加藤浩晃*はじめに「臨床研究法」1)は平成29年4月7日に参議院本会議において全会一致で可決・成立し,平成29年4月14日に公布となり,今後公布から1年以内に施行が予定されている.筆者は当時,京都府立医科大学から厚生労働省に出向しており,この「臨床研究法」を所管(担当)する医政局研究開発振興課の一員として,法律の作成段階から国会審議,そして成立,公布にかかわった.本稿ではこの「臨床研究法」の法制化の背景から内容,そして今後の展開に関して説明をする.I臨床研究法検討の背景・経緯平成25.平成26年にかけて,ディオバン事案,タシグナ事案,CASE-J事案といった臨床研究に関する不適正な事案が生じ,臨床研究にかかる法制化の必要性が話題となるきっかけとなった(図1).ディオバン事案は,ノバルティス社の高血圧症治療薬ディオバンに関する臨床研究においてデータ操作があり,試験結果の信頼性,研究者の利益相反との観点から社会問題化したものである.東京慈恵会医科大学や京都府立医科大学など複数の大学が関連していたものであったため,マスコミでも非常に大きく取り上げられた.平成26年1月には,ノバルティス社を薬事法の誇大広告禁止規定違反の疑いで刑事告発し,裁判にも発展した.この事案については今年の3月に東京地裁でノバルティス社に無罪判決が出たが,その後,すぐに原告側が控訴したため,今現在も係争中である.タシグナ事案もノバルティス社の白血病治療薬のタシグナにかかる臨床研究において,患者のデータがノバルティス社に渡っていたということが大きく取りあげられた.CASE-J事案は,武田薬品工業の高血圧治療薬ブロプレスについて,既存の高血圧治療薬との比較で心血管系疾患の発生に統計学的に有意差がないのに,有意差があるような誤解を招きかねない広告があったということで,これもマスコミで大きく取りあげられた事例である.これらの臨床研究に関する不正事案が背景となって,まず,ディオバン事案について高血圧治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会が,平成25年8月.平成26年3月にかけて開かれた.目的としては,このディオバン事案についての状況把握と再発防止策の具体策の検討であり,平成26年4月に報告書2)の概要が提出された.この報告書には,臨床研究に関する倫理指針を見直して必要な対応を図ることと,臨床研究の信頼性回復のための法制度の必要性について検討を進めるべきという大きく二つの内容が書かれていた(図2).前者の臨床研究に関する倫理指針の見直しという点において,平成26年12月に,それまでの「臨床研究に関する倫理指針」と「疫学研究に関する倫理指針」が統合され,「人を対象とした医学研究に関する倫理指針」となり,倫理審査委員会の機能強化と審査の透明性確保のための規定の充実や,研究責任者の責務の明確化,教育・研修の規定の充実などが図られ,またデータ改ざん*HiroakiKato:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕加藤浩晃:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(39)1523図1臨床研究法―臨床研究に関するおもな不適正事案―図2臨床研究の不正事案に関する検討の経緯について図3臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会図4臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会報告書(概要)制度の必要性についてであり,この委員会において9回にわたり議論してまとめられている.「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」の報告書の概要としては.法規制の必要性ということでは,不適正な事案が判明した場合の調査,再発防止策定,関係者の処分などの迅速な対応に現状の制度では限界,いわゆる倫理指針という告示の状態では限界があるということで,倫理指針の遵守だけでは十分とはいえないということが述べられた(図4).しかし,過度な規制導入は研究の萎縮をもたらすので,バランスが重要であろうとされており,欧米における臨床研究(海外では臨床研究と治験とが分かれていないので人を対象とする医学系研究と考えてほしい)の規制を参考に,一定の範囲の臨床研究に法規制が必要という報告書が出された.この報告書では法規制の範囲ということで二つが示されている.一つは未承認または適応外の医薬品・医療機器などを用いた臨床研究,もう一つは,医薬品・医療機器などの広告に用いられることが想定される臨床研究,この二つの類型について法規制の範囲とすることが妥当であろうとされた.ただし,この規制,対策の内容として,行政による研究計画の事前審査などを受けることをさらに求めることについては慎重であるべきということも記載された.これらの検討会や報告書を受け,そこでの論点を盛り込みながら今回「臨床研究法」が作成され,国会での審議のうえ,成立となった4).II「臨床研究法」の概要「臨床研究法」は,「臨床研究の実施の手続,認定臨床研究審査委員会による審査意見業務の適切な実施のための措置,臨床研究に関する資金の提供に関する情報の公表の制度等を定めることにより,臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し,もって保健衛生の向上に寄与することを目的とする」法律である(図5).この法律の内容は大きく二つに分かれている.一つは特定臨床研究の実施に関する手続,二つ目は製薬企業などの講ずべき措置である.本法律においてはまず「特定臨床研究」が定義されている.この「特定臨床研究」というのは「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」の報告書で述べられた二つの類型に関する臨床研究に対応するものであり,「医薬品医療機器等法」における未承認・適応外の医薬品などの臨床研究,ならびに製薬企業から資金の提供を受けて実施される,当該製薬企業などの医薬品などの臨床研究である.特定臨床研究に関して,モニタリング・監査の実施や利益相反の管理の実施基準の遵守,インフォームド・コンセントの取得,個人情報の保護,記録の保存などを義務づけるという内容である.研究者は,特定臨床研究を行う際は実施計画を認定臨床研究審査委員会に提出し,その審査委員会が実施計画を審査し,その意見も付けて研究実施者は厚生労働大臣に実施計画を届け出たうえで,実施基準を守って臨床研究を実施するというプロセスを経て臨床研究を行わなくてはならない(図6).これはあくまでも「届け出」であり,前述の「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」の報告書を受けて,「審査」ではないということに注目してほしい.臨床研究の審査に関しては認定臨床研究審査委員会において行われる.特定臨床研究以外の臨床研究を実施する者に対しては,実施基準の遵守や認定臨床研究審査委員会の意見の聴取に努めることが努力義務として課されている.手続きに違反した場合については,立入検査・報告徴収,また改善命令を出して,その改善命令を聞かない場合,研究の一部または全部の停止命令を出すことができ,これに違反した場合には罰則が適用される.特定臨床研究において重篤な疾病などが発生した際は,報告が義務づけられており,まず,特定臨床研究に起因することが疑われる疾病・死亡・障害・感染症が発生した場合には,認定臨床研究審査委員会への報告を義務づけ,そのうち予期しない重篤なものについては厚生労働大臣への報告を義務づけ,PMDAへの報告という形になっている.厚生労働大臣は,毎年度,報告を受けた特定臨床研究における疾病などの発生状況について,厚生科学審議会に報告をし,その意見を聴いて,必要な措置を取ることとされている(図7).次に製薬企業などの講ずべき措置に関しては,臨床研究法においては,製薬企業などが研究の資金援助をして当該企業の製品の臨床研究を行う場合は,臨床研究を実1526あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(42)図5臨床研究法の概要図6特定臨床研究の実施の手続き図7重篤な疾病などの報告の義務づけ図8法律に基づく資金提供の公表範囲図9法制度による見直しの考え方(ポイント)図10医療における規制の区分について

NDBを用いた眼科研究の可能性

2017年11月30日 木曜日

NDBを用いた眼科研究の可能性PossibilityofOphthalmologyResearchUsingNDB吉村健佑*はじめに昨今,国よりいわゆる「医療ビッグデータ」に基づく医学研究推進の重要性が示されている.そのなかで,「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NationalDatabaseofHealthInsuranceClaimsandSpeci.cHealthCheckupsofJapan:NDB)」など,厚生労働省保有のデータベースの利活用の方策が示されつつある.NDBは厚生労働省により構築・運用され,研究者などに対するデータの提供を含め活用の実績を有している.本稿ではNDBの制度を紹介し,さらには2016年より一般に公開され,誰でも利用可能な「NDBオープンデータ」の活用方策について実例を交えて述べる.INDBの整備と利用目的の拡大2006年の医療制度改革において,国および都道府県にて医療費適正化計画を立てる枠組みが導入された.その際,医療費適正化計画の作成,実施および評価に資するため,厚生労働省が行う調査および分析に用いるデータベースとして整備されたのが,「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」である.NDBは「高齢者の医療の確保に関する法律」第16条を根拠として厚生労働大臣が保有し,レセプト情報ならびに特定健診および特定保健指導の情報(特定健診等情報)を厚生労働省保険局において管理・運用するデータベースである.格納されているレセプト情報と特定健診等情報の両者で,データの性質やデータ件数が異なっている(図1).2008年の「医療サービスの質の向上等のためのレセプト情報等の活用に関する検討会」において,NDBは医療費適正化計画策定に資する本来の目的以外にも,医療および保健サービスの質の向上などをめざした正確なエビデンスに基づく施策の推進や,これらの施策に有益な分析・研究,また学術研究の発展に資する目的で行う分析・研究への利活用を一定の審査のうえで認めるべきとの提言がなされた.こうした背景のもと,2010年に「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」(以下「有識者会議」とする)が設置され,2011年度より本来目的以外の目的に対しても,有識者会議の審査を経たうえでレセプト情報などの利用が認められている1).IINDBに格納されているレセプト情報の特徴厚生労働省は2006年以降レセプトについてオンラインでの請求を推進しており,2009年度診療分よりオンライン・電子媒体での請求を原則義務化した.それを受け,電子化されたレセプトがNDBに格納されている.2015年4月診療分では,電子レセプト請求の普及状況は件数ベースで98.6%となり,高い悉皆性を達成しており,NDBに格納された総レセプト件数は2016年1月診療分までで約128億件以上である(図1).レセプト情報をデータベースに格納する際には,患者氏名や生年月日の「日」,保険医療機関の所在地および名称,被保険者証などの記号・番号など,個人を特定する情報はあらかじめ削除される.*KensukeYoshimura:国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部〔別刷請求先〕吉村健佑:〒351-0197埼玉県和光市南2-3-6国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)1515図1NBDの概要(厚生労働省保険局公表資料より作成)図2レセプトデータの内容(厚生労働省保険局公表資料より作成)図3特定健診データの内容(厚生労働省保険局公表資料より作成)以下の特徴をもつ「ハッシュ関数」を用いることで,個人の特定につながる情報を削除(「匿名化」)したうえで,同一人物の情報であることを識別できるようにし,データベースへ保管している.【ハッシュ関数の特徴】①与えられたデータから固定長の疑似乱数(ハッシュ値)を生成する.②異なるデータから同じハッシュ値を生成することはきわめて困難.③生成された値(ハッシュ値)からは,元データを再現することはできない.※個人情報(氏名,生年月日等)を基にしてハッシュ値を生成し,それをIDとして用いることで個人情報を削除したレセプト情報などについて,同一人物の情報として特定することが可能.【イメージ】過去のレセプトデータ新規レセプトデータ新規レセプトデータ新規レセプトデータ354hja9sa0s809特定健診データ④ハッシュ値を基に突合.①個人情報をもとに②個人情報を削除.ハッシュ値のみ残し,③一次ハッシュ値と独自キーにハッシュ値を生成.運用管理業者が独自キーを発生.基づき2次ハッシュ値を作成.(厚生労働省保険局公表資料より作成)図4同一人として特定する方策:ハッシュ関数の採用2011年11月よりデータ提供を開始(厚生労働省保険局公表資料より作成)図5NBDの利用フロー:大学などへの第三者提供表1データ提供実績(2017年3月時点)特別抽出サンプリングデータセット基本データセット集計表情報基本的なイメージ申出者の要望に応じ,データベースにある全データのなかから,該当する個票の情報を抽出し,提供する探索的研究へのニーズに対応し,抽出,匿名化などを施して安全性に十分配慮した,単月分のデータセット入院,外来,疾患別など目的に合わせて年度ごとに紐付けが可能で,簡易に分析することが可能なデータセット申出者の要望に応じ,データを加工して作成した集計表を提供する提供データ個票一部匿名化等を行った個票大幅に加工した個票集計表含まれているデータ項目例レセプト情報,特定健診等情報に含まれている,ほぼすべての項目希少な情報があらかじめ匿名化・削除されたレセプトデータ患者の基本属性情報以外は,主傷病名,診療識別情報,要望に応じたコードなど集計表データ提供承諾件数(計125件)71件20件2件32件研究目的でのデータ提供承諾件数(計89件)44件18件2件25件(厚生労働省:第36回レセプト情報・有識者会議資料,2017年3月)義について,厚生労働省保険局は次のように説明している.「NDBに蓄積されたデータは国民の共有財産であり,こうした貴重なデータの利活用を進めるべく,わが国における医療の実態や特定健診の結果等を,国民に解りやすく示した統計資料がNDBオープンデータである」(第1回NDBオープンデータ解説編,第1章p45)).NDBに格納されている情報を国民に広く提供し,活用を進めようという意図がよくわかる.NDBオープンデータはこれまで,2016年10月に第1回NDBオープンデータ(2014年度分レセプト情報および2013年度分特定健診情報5))が,2017年9月に第2回NDBオープンデータ(2015年度分レセプト情報および2014年度分特定健診情報6))がそれぞれ公開されている.第1回よりも第2回のほうが公開されている情報項目が拡大されている.第2回NDBオープンデータでは,大きく分けて「医科診療行為」「歯科診療行為」「歯科(傷病)」「薬剤」「特定健診(検査値)」「特定健診(標準的な質問票)」の6項目の集計結果について公表を行っている.「医科診療行為」では,医科入院/入院外レセプトおよびDPCレセプトの情報を基に,厚生労働省告示の点数表で区分された各診療行為について,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計を行っている.また,第1回NDBオープンデータでは公表していなかった「投薬」および「注射」の区分に分類される各診療行為,各診療区分の加算項目の集計結果についても追加公表された.さらに入院基本料および入院基本料等加算についても公表された.ただしこれら入院基本料および入院基本料等加算にかかる公表項目は,でき高評価で算定される診療行為回数のみしか集計されていないことに留意を要する(DPCレセプトの包括評価項目となる入院基本料および入院基本料加算は集計されていない).第2回NDBオープンデータでは「歯科診療行為」についても「初・再診料」「医学管理等」「在宅医療」に分類される各診療行為について集計を行い,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計結果を新たに公表し,「歯科(傷病)」については,歯科レセプトの傷病名情報に基づき,「う蝕」「歯周病」「喪失歯」の集計結果を「都道府県別」および「性・年齢別」に公表した.「薬剤」については,医科入院/入院外レセプト,DPCレセプト,調剤レセプトの情報を基に「内服」「外用」「注射」の剤形別に,「都道府県別」および「性・年齢別」の集計が行われた.薬効分類3桁ごとに処方数量の多い薬剤が公表され,第2回NDBオープンデータでは表示薬剤数を薬効分類3桁上位30品目から薬効分類3桁上位100品目まで拡大された.それぞれの薬剤の医薬品コードには,薬価基準収載コードや薬価や後発品区分も付与されている.「特定健診(検査値)」については,特定健診データの情報を基に,主たる検査項目であるBMI,腹囲,空腹時血糖,HbA1c,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,HDLコレステロール,LDLコレステロール,AST(GOT),ALT(GPT),g-GT(g-GTP),ヘモグロビン,眼底検査の検査値階層別件数を「都道府県別/性・年齢別」のクロス集計として公表している.「特定健診(標準的な質問票)」は,第2回NDBオープンデータで新たに追加公表となった集計表である.特定健診データの情報を基に,22の質問項目の回答件数を「都道府県別/性・年齢別」のクロス集計として公表している.ただし未回答の場合は集計対象外となっている.VII眼科領域におけるNDBオープンデータの分析と診療行為の可視化では第2回NDBオープンデータ6)を活用して,実際に提供された診療行為の可視化を試みてみよう.眼科(外来および入院)で実施された眼科手術(分類コード:K199-K284)のうち,比較的算定回数が多く,NDBオープンデータ公表基準より年齢別の内訳が公開されているの二つの診療行為に注目した.「K282水晶体再建術【眼内レンズを挿入する場合:その他】」は2015年度の年間算定回数118,4600回であり,一方「K276網膜光凝固術【通常+その他特殊】」は2015年度の年間算定回数249,258回であり,ともによく行われる診療行為である.これらの性・年齢階級別(5歳刻み)のグラフを作成した(図6,7).これらをみると,それぞれの診療行為の提供されている性・年齢別の特徴がわかる.「K2821520あたらしい眼科Vol.34,No.11,2017(36)1800001600001400001200001000008000060000400002000000~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990overmalefemaleageallages0~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990overmale5110312110149629565044869015562346967531511208511677790621379987681female6735697376571493306773251700544757978491458491524001264216041915590total118460028472153444981111601532567794531731642579342691772170429841723271図6眼科診療行為の可視化の例(2015年度性年齢階級別)(外来+入院)K282水晶体再建術【眼内レンズを挿入する場合:その他】300002500020000150001000050000malefemaleageallages0~45~910~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~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遠隔診療に関する制度

2017年11月30日 木曜日

遠隔診療に関する制度Japan’sHealthCareSystemforTelemedicine加藤浩晃*はじめに2017年10月現在,日本でビデオ電話による医師対患者の遠隔医療(遠隔診療)を行うことは可能である.ただし,遠隔診療に関する制度として,医師法や医療法といった法律や療養担当規則,それらの解釈としての通知や事務連絡が厚生労働省から発出されており,それらを十分に理解したうえで遠隔診療を行う必要がある.筆者は日本遠隔医療学会の運営委員ならびに遠隔診療に関する分科会の会長に任命され,遠隔診療の適切な推進に尽力している.本稿では遠隔診療における制度をゼロから整理し,さらに政府が考える遠隔診療の今後の展開まで言及する.I遠隔医療と遠隔診療遠隔医療は大きく三つに分類される(図1).一つは医師がインターネットを通じてビデオ電話として患者を診察する医師対患者の遠隔医療であり,DtoP(DoctortoPatient)遠隔医療である.二つ目は医師と患者の間を医師以外の医療従事者が仲介する遠隔医療であるDtoN-toP(DoctortoNursetoPatient)であり,三つ目として専門医が他の専門医の支援をする医師対医師の遠隔医療であるDtoD(DoctortoDoctor)遠隔医療がある.DtoD遠隔医療としては医療現場ですでに行われているオンラインでの放射線科専門医による読影や病理医による病理診断などが該当する.遠隔診療は一般的には医師対患者の遠隔医療であるDtoP遠隔医療をさし,医療制度が複雑である遠隔診療について説明をする.II遠隔診療と遠隔医療相談遠隔診療に関する記事はインターネット上に多く公開されているが,内容として正確でないものも多い.その原因としては遠隔診療と遠隔医療相談という用語を正しく使い分けていないためある.そもそも診療と医療相談というのは医師法で規定されており,診察や治療などの医療行為が「診療」であり,「医療相談」は医療行為を行ってはいけない.医療行為である診療は,健康保険法で規定された「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(以下,療養担当規則)を遵守する保険診療と,療養担当規則の範囲でない自費診療(自由診療)に分類される.これら診療や医療相談がインターネットを介して行われるのが遠隔診療や遠隔医療相談であり,「保険診療による遠隔診療」「自費診療による遠隔診療」「遠隔医療相談」の三つに分類される(図2).III遠隔診療に関連した法整備とその経緯遠隔診療に関連した法整備としては1948年7月に成立している医師法にさかのぼる.20条において医師の無診察治療などの禁止が明記されているが,インターネットの発展によって,患者と直接対面しなくてもビデオ電話ができる技術革新が起こったため,1997年12月に厚生省の健康政策局長(当時)は遠隔診療は「あくま*HiroakiKato:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕加藤浩晃:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(25)1509図1遠隔医療図2DtoP遠隔診療図3遠隔診療に関連した法整備図4厚生労働省医政局長事務連絡(p.43より引用)図5規制改革推進会議第1次答申図6遠隔医療で算定できる保険点数(平成28年)図7未来投資戦略2017(平成29年6月9日)安倍政権による成長戦略がまとめられたもの