《原著》あたらしい眼科35(12):1675.1678,2018c点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座CImprovementinTechniquesofTopicalDropAdministrationafterRepeatedPatientEducationMasakiTanitoCDepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicineC緑内障薬物治療に関する指導を繰り返すことの効果について検討した.島根大学医学部附属病院の緑内障外来を受診し,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)について外来看護師が指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った.指導内容に関する記録を後ろ向きに調査した.70歳以上の患者では,知識よりも手技に関して問題がある頻度が高かった.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能であった.CE.cacyCofCrepeatedCpatientCeducationCinCtopicalCdropCadministrationCtherapyCinCglaucomaCpatientsCwasCassessed.CTheC168glaucomaCpatients(88male,C80female)C,judgedCtoChaveCpoorCdrugCadherence,CunderwentCaCpatientCeducationCprogramCprovidedCbyCnurses.CTheCprogramCconsistedCofC3steps:1.CCheckupCofCknowledgeCandCskillregardingglaucomatherapy,2.Pointingoutproblems,and3.Educationregardingknowledgeandskill.The3stepswererepeateduntilsu.cientimprovementwasobserved.Thepatienteducationrecordswerereviewedret-rospectively.Attheinitialcheckup,problemswerefoundmorefrequentlyregardingskill,ratherthanknowledge,inolderpatients(C≧70years).Problemsregardingskilldecreasedasthenumberofeducationsessionsincreased.With3repetitionsofpatienteducation,mostpatientstendedtoacquireappropriateskillsintopicaldropadminis-tration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1675.1678,C2018〕Keywords:点眼アドヒアランス,緑内障薬物治療,点眼指導,点眼手技.topicaldropadherence,glaucomamed-icaltherapy,patienteducationoftopicaldropadministration,topicaldropadministrationtechnique.Cはじめに点眼薬による眼圧下降治療は,もっとも一般的に行われる緑内障治療である.点眼アドヒアランス(点眼薬を適切に使用すること・できること)の不良は緑内障による失明の危険因子であり1),その改善・維持は臨床上重要な課題である.アドヒアランスを維持・改善するための方法として,疾患に対する理解や実際の点眼手技について患者指導を行うことの有効性が報告されている2).当院では,外来診療時に点眼に関するアドヒアランスが良好ではないと医師が判断した患者について,外来看護師による指導を行い,十分なアドヒアランスが得られるまで指導を繰り返している.今回,指導を繰り返すことによる点眼アドヒアランスの改善効果について,点眼指導記録を確認することで調査したので報告する.CI対象および方法対象は,2008年C12月.2011年C10月に,島根大学医学部附属病院の眼科で筆者の外来を受診した842名(男性439名,女性C403名)の緑内障患者のうち,緑内障点眼治療に関する指導が必要と判断されたC168名(男性C88名,女性C80名)で〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MasakiTanito,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversityFacultyofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1675図1島根大学医学部附属病院における点眼指導の手順まず,①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握する.そのうえで,③問題のある知識と手技について指導を行う.以上を,問題がなくなるまで受診ごとに繰り返す.a:70歳未満b:70歳以上知識手技知識手技図31回目点眼指導前の確認で点眼の知識と手技について問題あり・なしと判定された患者の割合a:70歳未満の患者では,知識に関する問題ありの頻度(27人/35人,77%)と手技に関する問題ありの頻度(31人/35人,89%)に統計学的な有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法).Cb:70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの頻度(95人/133人,71%)と手技に関する問題ありの頻度(121人/133人,91%)に統計学的な有意差を認めた(p<0.0001,CFisherの直接確率法).ある.看護師が,島根大学医学部附属病院で通常行っている方法により,点眼治療に関する指導を行った.指導は,個々の患者について①点眼の知識と手技について現状を確認し,②問題点を指摘・把握したうえで,③問題のある知識と手技について指導を行い,問題が解決されるまで受診ごとに①.③を繰り返す方法で行った(図1).知識については,医師が説明した病気に関する理解度(病名,眼圧下降治療の必要性,など),点眼薬名・効能・用法403530252015105020代30代40代50代60代70代80代90代■男性1名0名1名8名12名36名32名6名人数(名)■女性0名0名1名5名7名34名21名4名図2点眼指導を受けた患者の年齢分布(点眼回数,時間,左右,点眼間の間隔,1滴滴下で十分なこと,プロスタグランジン製剤後の洗顔の必要性,など)を確認し,指導を行った.手技については,練習用の点眼液を用いて患者が実際に行っている点眼方法を実施してもらい,“的中”しているか,姿勢や点眼瓶保持が安定しているか,点眼の滴数は適切か,点眼瓶の高さが保たれているか,点眼瓶の先が眼球や眼瞼に触れていないか,などを確認した後に,問題があれば,個々の症例に応じて指導を行った.手技に関する指導は,まずは自己流の点眼方法の継続を優先し,ついで,げんこつ法(仰臥位で,げんこつを作った手で下眼瞼を開瞼,げんこつの上に点眼瓶を保持した手を添えることで点眼時の高さと位置を安定化させる方法),点眼補助具,家人への点眼依頼,の順番で指導を行うことを基本方針とした.確認・指導内容について,指導ごとにノート(点眼指導ノート)に記載した.点眼指導ノートから年齢,性,点眼の知識・手技に関して問題が確認された頻度を後ろ向きに調査し,集計した.本研究は,島根大学医学部附属病院の倫理委員会で審査のうえ,承認された後に行った.個別にインフォームド・コンセントを得る代わりに,眼科外来への研究内容の掲示により本研究課題の情報を公開した.CII結果点眼指導を受けた患者の平均年齢はC76歳(男性C74歳,女性C78歳)で,男女ともC70代が最多であり,ついでC80代であった(図2).医師が点眼指導を必要と判断した主たる理由は,緑内障についての知識・理解不足(例:自分の病名・病態を知らない,など),点眼薬の作用・副作用・必要性が理解されていない(例:点眼薬がすぐなくなる,たくさん余る,点眼回数を増やせば効果があると思っている,眼に違和感を感じるたびに緑内障点眼薬を使用している,など),点眼治療の効果が予想されたほど得られない,自己点眼が困難な病100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%1676あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(100)補助具2%げんこつ法9%人数(名)図41回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法10090807060504030201001回目確認時2回目確認時3回目確認時4回目確認時■適切89名49名29名10名■不適切79名23名8名2名図5手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化点眼指導回数が増えるほど,手技について不適切な患者の割合が減少する(図C3では,プロスタグランジン薬点眼後の洗顔方法などの不適切については知識と手技の両者について問題ありにカウントされ,本図では具体的な四つの手技の成功・不成功のみをカウントしたため,図C3の手技の問題ありと図C5の手技不適切の総数は合致しない).態・状態がある(高齢,脳梗塞後遺症,認知症,四肢振戦,関節リウマチ,Parkinson病,など)であった.1回目の点眼指導時の確認で問題ありと判定された割合は,70歳未満の患者では知識に関する問題(77%)と手技に関する問題(89%)の割合に有意差を認めなかった(p=0.3420,Fisherの直接確率法)が,70歳以上の患者では,知識に関する問題ありの割合(71%)よりも手技に関する問題ありの割合(91%)が有意に高値であった(p<0.0001)(図3).1回目点眼指導時の確認で患者(168名)が行っていた点眼方法は,自己流がC82%で大多数を占めた(図4).そのうち点眼手技が不適切と判定された患者(79名)については,個々の症例について実行可能性を考慮したうえで,看護(101)手技適切患者手技不適切患者ab補助具家人3%1%補助具2%1回目確認時家人cd4%2回目確認時ef3回目確認時補助具7%gh4回目確認時げんこつ法10%図6手技について適切(a,c,e,g)・不適切(b,d,f,h)と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化師の判断で自己流点眼方法の改善,げんこつ法,点眼補助具の使用,家人への点眼依頼を選択して指導を行い,次回受診時の再確認を予定した.手技について適切・不適切と判定された患者数の点眼指導回数ごとの変化を図5に示す.手技について不適切な患者の数および割合は,点眼指導回数の増加とともに減少した.手あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1677技について適切・不適切と判定された患者が行っていた点眼方法の点眼指導回数ごとの変化を図6に示す.1回目確認時(点眼指導C1回後),点眼手技適切(図6a)・不適切(図6b)と判定された両者で自己流の点眼を行っている者が大多数であったが,適切と判定された患者ではやや家人による点眼の割合が高かった(適切でC11%,不適切でC1%).2回目確認時(点眼指導C2回後),適切と判定された患者(図6c)では自己流(45%)が減り,げんこつ法(25%),点眼補助具(8%),家人(22%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6d)では,自己流(78%)が多数を占めていた.3回目確認時(点眼指導C3回後),適切と判定された患者(図6e)ではさらに自己流(21%)が減り,げんこつ法(38%)と家人(34%)による点眼を行っている割合が増えたが,不適切と判定された患者(図6f)では,自己流(75%)が多数を占めていた.4回目確認時(点眼指導C4回後),適切と判定された患者(図6g)では家人(50%)による点眼が半数を占めた.4回目の確認で手技不適切(図6h)であったのは自己流点眼のみであった.CIII考察当院で点眼アドヒアランスに関する問題が疑われ,看護師による点眼指導を受けた患者はC70.80代の高齢者が中心で,明らかな性差は認めなかった(図2).点眼治療に関する知識と手技の両者について問題を指摘された患者が大部分であったが,とくにC70歳以上の高齢者では手技に関する問題が多い傾向を認めた(図3b).高齢者ほど点眼遵守の気持ちが良好であることが報告されており3,4),今回の検討と一致する傾向を認めた.点眼アドヒアランスに関する患者教育を行う際には,若年者や多忙な患者では疾患説明や点眼治療の必要性など治療の動機づけや知識に関する指導に重点を置き,高齢者では具体的な点眼の用法や点眼手技に関する指導に重点を置くべきと思われる.点眼手技について,点眼指導回数が増えるごとに不適切と判定される患者が数・割合とも減少した(図5).適切と判定された患者では,指導を重ねるごとに自己流の点眼が減少し,げんこつ法・点眼補助具・家人への点眼を行っている割合が増加した一方で,繰り返し不適切と判定された患者では自己流の点眼方法が主流を占めていた(図6)ことから,点眼指導時に勧められた点眼方法を遵守可能であった患者ほど適切な点眼手技の獲得ができるようになったと推測される.複数回の指導を行っても点眼手技に関する問題が完全に解消されない患者がみられること,点眼指導回数が増えるに従い家人への点眼依頼の割合が高くなっていることから,自身による点眼が困難な患者が一定数存在することが示唆される.このような患者では,独居や身体的特徴(認知症,四肢麻痺,など)がその背景にあると推測されるため,メディカルソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの介入による社会的サポートについても併せて行う必要があると思われる.また,薬物治療が複数回の指導後も手技的に困難な患者は,手術治療についても考慮すべきと思われる.本研究では,一度獲得した手技の持続性については検討していないが,定期的な確認・指導体制がなければ,適切な手技の継続が困難な患者が存在すると思われる.点眼に関する指導をC4回程度繰り返すことで,大多数の緑内障患者では,個々の症例にあった適切な点眼手技の獲得が可能と考えられた.看護師を中心とする外来スタッフによる点眼指導は緑内障点眼アドヒアランスの改善・維持に効果的と考えられた.謝辞:本研究にご協力いただきました島根大学医学部附属病院眼科外来の佐藤千鶴子看護師,川上芳子看護師,石原順子看護師,山本知美看護師,仲舎妃登美看護師に深く感謝いたします.文献1)ChenCPP.CBlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)植田俊彦,笹元威宏,平松類ほか:改版C-創造性開発のために.あたらしい眼科C28:1491-1494,C20113)TseAP,ShahM,JamalNetal:Glaucomatreatmentadher-enceCataUnitedKingdomgeneralpractice.EyeC30:1118-1122,C20164)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmol2018;e-pubaheadofprintC***1678あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(102)