●連載234監修=山本哲也福地健郎234.酸化ストレスと緑内障:治療への谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座応用は可能か種々の基礎・臨床研究から,緑内障でみられる眼圧上昇や網膜神経節細胞死に酸化ストレスが関与する可能性が指摘されている.現時点で抗酸化ストレス治療(フラボノイド,テルペノイド,抗酸化ビタミンなど)が緑内障の治療となるかどうかについて,エビデンスは十分でない.一方で抗酸化ストレス治療が緑内障の病態を修飾できることの理論的背景はそろっており,臨床研究の進展が望まれる.●緑内障と酸化ストレス酸化ストレスは「生体内の高分子(脂質,蛋白質,核酸)が,酸化還元反応(電子引き抜き)により修飾を受け,その機能が変化すること」1)ととらえることができる.緑内障(とくに開放隅角緑内障)でみられる眼圧上昇に,加齢やその他の要因による前房水の酸化・抗酸化のバランス変化と線維柱帯・Schlemm管の酸化ストレスが関与する可能性がある(図1)2).また,網膜内や篩状板部における酸化ストレスが網膜神経節細胞死に関係する可能性もある(図2).全身的な酸化反応の亢進や抗酸化能の低下が緑内障に関与する可能性が指摘されている3,4).また,緑内障リスク遺伝子のスコア上昇とともに全身抗酸化能が低下することも報告されている5).C●緑内障に対する抗酸化ストレス成分の摂取抗酸化ストレスが期待される成分として,ポリフェノールに分類されるフラボノイド(カテキン,アントシアニン,プロアントシアニジンなど),テルペノイドに分類されるカロテノイド(ルテインなど),抗酸化ビタミン類(ビタミンCA,C,Eなど),抗酸化酵素の補因子として働くミネラル類(銅,亜鉛,マンガンなど)がある.横断的研究で,とくに女性ではビタミンCAあるいはCCを含むフルーツや野菜の摂取が多いほど緑内障の有病率が低いことや,前向きコホート研究で緑黄色野菜の摂取が多いほど緑内障の発症は少ないことなどが報告されている6).抗酸化ビタミンやカロテノイドを含むフルーツや野菜のバランスのよい摂取には,必ずしも抗酸化ストレス効果によるとは限らないが,緑内障の発症・進行を予防する効果があるのかもしれない.表1に,これまで緑内障あるいは高眼圧症に対して効果が検討された抗酸化成分をまとめる.緑内障患者で,種々のフラボノイドとテルペノイドを含むイチョウ葉エキス,抗酸化ビタミン,カテキンなどの内服(~12カ(91)月)により,視野感度の上昇,組織血流の増加,網膜電図の振幅変化などの効果が報告されている.また,高眼圧症患者で,プロアントシアニジンを含む松樹皮エキスとアントシアニンを含むビルベリーエキスの内服(~6カ月)により,組織血流の増加,眼圧下降効果,血中酸化物の低下といった効果が報告されている.ラタノプロストやドルゾラミド・チモロール合剤の眼圧下降効果が松樹皮エキス・ビルベリーエキス内服併用で増強される可能性も報告されている.しかし,薬剤の使用で眼圧下降が得られている原発開放隅角緑内障に対して,ビタミンCC・E,銅,亜鉛,マンガン,ルテイン,n-3系脂肪酸の内服をC2年間行った研究では,内服の有無で視野感度や乳頭周囲網膜神経線維層厚・黄斑内層厚に有為な差を認めなかった.現時点で,抗酸化ストレス治療が緑内障の治療となるかどうかについて十分に説得力のあるエビデンスはないのが現状である.眼圧下降治療という強力なエビデンスのある治療をしない状況で,抗酸化ストレス治療の効果を検討することは倫理的に困難であり,そのことも抗酸化ストレス治療のエビデンスを創出するむずかしさの一因となっている.抗酸化治療により緑内障の病態を修飾できることの理論的背景は十分あるため,今後の臨床研究の進展が望まれる.文献1)谷戸正樹:眼と酸化ストレス;光ストレスを中心に.Phar-maMedicaC26:19-23,C20082)IzzottiCA,CLongobardiCM,CCartigliaCCCetal:MitochondrialCdamageinthetrabecularmeshworkoccursonlyinprima-ryCopen-angleCglaucomaCandCinCpseudoexfoliativeCglauco-ma.PLoSOneC6:e14567,C20113)TanitoCM,CKaidzuCS,CTakaiCYCetal:CorrelationCbetweenCsystemicCoxidativeCstressCandCintraocularCpressureClevel.CPLoSOneC10:e0133582,C20154)UmenoA,TanitoM,KaidzuSetal:Comprehensivemea-surementsCofChydroxylinoleateCandChydroxyarachidonateあたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C15670910-1810/19/\100/頁/JCOPY加齢・遺伝要因全身酸化ストレス抗酸化能↓酸化物↑図2酸化ストレスによる視神経・網膜障害の機構篩状板部,網膜における酸化ストレスが,緑内障にみられる神経障害の成因にかかわる.(文献C7より改変引用)表1緑内障,高眼圧症に対する抗酸化サプリメントの臨床試験病型試験薬効果文献正常眼圧緑内障イチョウ葉エキス内服C120mg/日,4週視野感度の上昇CQuarantaLetal2003緑内障ビタミンCE内服C300またはC600mg/日,12カ月眼動脈血流の上昇,後毛様動脈血流の上昇,視野感度低下の抑制CEnginKNetal2007高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,6カ月眼圧下降,眼動脈血流の上昇,網膜中心動脈血流の上昇,短後毛様動脈血流の上昇CSteigerwaltRDetal2008高眼圧症,開放隅角緑内障epigallocatechin-gallate(EGCG)内服200mg/日,3カ月OAGで,パターン網膜電図による網膜内層機能の上昇CFalsiniBetal2009高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,1C6週単独で眼圧下降,併用でラタノプロストの眼圧下降の増強CSteigerwaltRDetal2010正常眼圧緑内障イチョウ葉エキス内服C160mg/日,4週乳頭周囲血流の増加CParkJWetal2011高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,1C2週併用でラタノプロスト,ドルゾラミド+チモロールの眼圧下降の増強,血中酸化物の低下CGizziCetal2017眼圧下降良好な原発開放隅角緑内障ビタミンC・E,銅,亜鉛,マンガン,ルテイン,n-3系脂肪酸内服,2年間視野感度・乳頭周囲網膜神経線維層厚・黄斑内層厚に対照群と差なしCGarcia-MedinaJJetal2015開放隅角緑内障抗酸化サプリメント(ビタミン・イチョウ葉エキス・フルーツエキス他),4週球後・眼底血流の増加CHarrisAetal2018isomersCinCbloodCsamplesCfromCprimaryCopen-angleCglau-comapatientsandcontrols.SciRepC9:2171,C20195)Zanon-MorenoV,Ortega-AzorinC,Asensio-MarquezEMetal:Amulti-locusgeneticriskscoreforprimaryopen-angleglaucoma(POAG)variantsisassociatedwithPOAGriskCinCaCMediterraneanpopulation:InverseCcorrelationsCwithplasmavitaminCandEconcentrations.IntJMolSciC1568あたらしい眼科Vol.36,No.12,201918:E2302,C20176)AlOwaifeerAM,AlTaisanAA:Theroleofdietinglau-coma:ACreviewCofCtheCcurrentCevidence.COphthalmolCTherC7:19-31,C20187)谷戸正樹:III開放隅角緑内障のリスクファクターE酸化ストレス.AllAbout開放隅角緑内障(山本哲也,谷原秀信編),医学書院,p121-131,C2013(92)