●連載231監修=山本哲也福地健郎231.Prostaglandin-associatedperiorbitopathy内藤知子グレース眼科クリニック(PAP)の濾過手術への影響プロスタグランジン(PG)製剤は緑内障治療における第一選択薬であるが,上眼瞼溝深化(DUES)などの眼瞼の形質変化が整容的に問題となる場合がある.一方,上眼瞼と眼球に挟まれる結膜下に房水流出路を作製する濾過手術にDUESが与える影響については,これまで明らかにされていない.今回,DUESが濾過手術に与える影響を調査したので報告する.●はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)製剤は,眼圧下降効果に優れ,全身副作用がなく,さらに点眼回数も少ないことから,緑内障点眼加療において第一選択薬とされており,わが国では現在,ビマトプロスト,ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストの4種類のPG製剤が臨床使用されている.PG製剤に特有の副作用としては,眼瞼や虹彩の色素沈着,睫毛伸長がよく知られているが,それ以外にも,上眼瞼溝深化(deepen-ingoftheuppereyelidsulcus:DUES),上眼瞼下垂(upperlidptosis),皮膚の退縮(involutionofdermato-chalasis),下方強膜の露出(inferiorscleralshow),眼瞼硬化(tighteyelids)などがあり,それらを総称してprostaglandin-associatedperiorbitopathy(PAP)として報告されている1)(図1).一方,緑内障に対しもっとも広く行われている手術治療は,濾過手術である線維柱帯切除術である.線維柱帯切除術は,強膜弁下に輪部組織の切除を行い,上眼瞼と眼球に挟まれる結膜下に房水流出路を作製することが一般的であるが,これまでDUESが濾過手術の術後成績に与える影響については明らかにされていなかった.最近筆者らは,DUESと線維柱帯切除術の成績との関連を調べるため,術前にDUESが認められた患者〔DUES(+)群〕と,認められなかった患者〔DUES(-)群〕の2群で,術後成績をKaplan-Meier法にて比較した.●試験の概要対象は,初回線維柱帯切除術を施行した原発開放隅角緑内障患者とし,上方強角膜切開白内障手術や硝子体手術などによる結膜瘢痕がある症例は解析対象から除外した.両眼に線維柱帯切除術を施行した患者では,先に施行した眼を解析対象とし,1患者につき1眼を組み入れ(61)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1左眼のみPG製剤点眼中著しいDUESがみられるだけでなく,眼瞼も非常に硬くなっている.(本人の同意を得て掲載)た.DUESの判定方法については,上眼瞼の写真を3人の眼科医が評価し,その判定結果が一致し,さらに患者自身が,PG製剤使用前より上眼瞼がくぼんだ,などの自覚があった場合に「DUESあり」と判定した.眼圧再上昇(死亡)の定義は,術後1カ月以降に,①2回以上連続して眼圧が15mmHg以上,②緑内障点眼薬を追加,③緑内障手術(ニードリングを除く)を施行した,のいずれか一つに該当した時点を「眼圧再上昇」とした.●結果選択されたのは74例74眼で,DUES(+)群が18例18眼,DUES(-)群が56例56眼であり,年齢・性別・術前眼圧・meandeviation(MD)で有意差を認めなかった.点眼薬別のDUES発現率は,ビマトプロスト群(69.2%),トラボプロスト群(31.3%),タフルプロスト群(9.1%),ラタノプロスト群(8.8%)であり,ビマトプロスト群では他の3剤に比較し,DUESをきたしている症例が大幅に多かった(図2).一方,Kaplan-Meier法による術後24カ月時点での生存率は,DUES(+)群で34.7%,DUES(-)群で74.3%であり,DUES(+)群は眼圧再上昇を認めた患者割合が有意に高かった(p<0.0001,log-ranktest)(図3).濾過手術後の眼圧再上昇にいずれの因子が影響あたらしい眼科Vol.36,No.9,20191163■:DUES(+)群■:DUES(-)群1.0ビマトプロスト69.230.88.891.29.190.931.368.80.80.6ラタノプロスト0.4タフルプロスト0.2トラボプロスト0.0図2PG種類別DUES発現率(%)種類によりばらつきがあり,ビマトプロストではとくに高い.図3DUES(-)群とDUES(+)群における線維柱帯切除術の成績DUES(+)群では生存率が有意に低い.下方視直後30秒後図4DUESの著しい症例の線維柱帯切除術後下方視直後に比較し,30秒後の濾過胞は,硬い上眼瞼の圧迫からはずれただけで,マッサージしなくとも大きくなっている.しているのかを調べるため,多変量ロジスティック回帰分析にて,ビマトプロスト・ラタノプロスト・トラボプロスト・タフルプロスト・b遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬・ブリモニジン・年齢・性別・術前眼圧・MD・PG製剤点眼歴・術前点眼スコアを説明変数に組み入れて,ステップワイズ法による変数選択を実施したところ,ビマトプロストのみが有意に関連する因子となった(p=0.0368).●PAPでなぜ濾過手術の成績が不良になるのか今回,DUES(+)群では,とくに術後成績が不良となることが判明した.その要因として推測されるのは,結膜の慢性的な炎症のほかには,PAPによる眼瞼硬化があげられる.あくまで仮説であるが,硬くなった上眼瞼自体が「自己圧迫眼帯」として作用し,濾過胞を圧迫,その結果,濾過胞の形成・維持が不良となるのではないだろうか.実際,DUESの著しい症例に線維柱帯切除術を行ったとき,術後に下方視させるだけで,眼瞼1164あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(愛媛大学・溝上志朗先生のご厚意による)上から眼球マッサージをしなくとも,硬い上眼瞼の圧迫からはずれた瞬間に濾過胞が膨らんでくる所見に遭遇することがある(図4).そして,このような症例では,レーザー切糸をしながら型通りに術後管理していても結膜の癒着が術後早期から進み,濾過胞の形成不全に至ることが多い.近い将来に線維柱帯切除術を視野に入れている患者では,DUESを含めたPAPの発現をできるだけ回避しながら緑内障点眼治療を進めることが望ましいことが示唆された.文献1)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Incidenceofdeepen-ingoftheuppereyelidsulcusinprostaglandin-associatedperiorbitopathywithalatanoprostophthalmicsolution.Eye(Lond)28:1446-1451,20142)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:E.ectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSONE12:e0181550,2017(62)