加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法Anti-VEGFTherapyforAge-RelatedMacularDegeneration塩瀬聡美*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対して抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬を用いる画期的な治療法が認可されて10年が経過した.当時から視力を維持するだけでなく,視力を改善する唯一の治療法として期待されており,現在も滲出型AMDに対するスタンダードな治療法として認識されている.しかも,抗VEGF薬の数回の投与で滲出性変化が消失(ドライマクラ)して視力が改善する症例もあれば,何回投与しても滲出性変化が改善しなかったり,再発したりする症例がある.この難治症例に対して,治療を中止するタイミングの判断はむずかしい.抗VEGF薬の投与回数が増えれば患者側や医療機関側の負担が大きくなっていく.近年クローズアップされてきたこの問題について整理し,筆者らの施設でどのようにアプローチしているかについて述べる.I治療の実態抗VEGF薬を1回/月,3回投与する「導入期」だけで,滲出を抑制できれば経過観察となるが,ほとんどの症例が導入期で回復した視力を維持させるための「維持期」が必要になる.「維持期」投与プランは,以下の三つの方法がある.①受診時に滲出性変化があれば投与し,なければ投与しないprorenata(PRN),②受診時に必ず投与するが,再発がなければ投与間隔を延長し,再発があれば投与間隔を短縮するtreatandextend(TAE)法,③受診時に必ず投与(2カ月ごとなど)し続ける固定投与法である.施設によってどのプランで投与していくかは異なるが,PRN法では「滲出性変化を認めてから再投与」という形をとるため,再発を繰り返すことによる黄斑の障害を招きやすく,視力を長期維持できないことがわかってきた.最近はTAE法で行う眼科医,施設が増えている(米国網膜専門医の70.9%,日本で50%以上.2017年米国の網膜硝子体学会のアンケート調査より).筆者らの施設ではおもに図1のようなTAE法による治療を行っている.TAE法は,①来院間隔を伸ばせる.②再燃をへらせる.③個々の病態に合わせて計画的に治療を行える,というメリットがある.また,来院時に必ず投与を行うということで,患者は注射を受けるという気持ちの整理をつけて受診するし,医療者側もあらかじめ投与の準備ができる.一方,TAE法のデメリットとして,本来なら3回導入期投与だけでまったく再発を起こさず落ち着いている患者がいるにもかかわらず,TAE法を画一的に行うことで過剰投与になっている可能性があげられる.このような患者を初診の段階で見分けるのは困難で,より安全なTAE法を選択し,結果として投与回数が増えてしまう.筆者らの施設で滲出型AMD87例に対するアフリベルセプト硝子体投与3年の治療成績を検討した.3年後,AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidal*SatomiShiose:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕塩瀬聡美:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)1165①当施設でのTreat&Extend(TAE)法経過観察DryDryDryDry(モニタリング)へ判定4週4週4週FA4週10週12週14週16週16週間隔で投与を維持(最大投与間隔)ICGAWetDryDryDryDryDryDry4週6週8週10週12週14週16週16週間隔でWetDryDryWetDryDryDry投与を維持4週6週8週6週6週8週Dryが維持できれば2週間隔で投与を延長WetDryDryWetDryWet4週間隔を維持4週6週8週6週6週(最短投与間隔)投与なし②実臨床でのTAE法を用いたAMDの視力変化と治療回数(自験例)BCVA変化(logMAR)視力変化n=87n=60-0.4tAMDPCV*-0.3-0.21logMAR-0.2*-0.1-0.11logMAR00.10369121518212427303336Time(month)(*p<0.05pairedt-test)1086420治療回数7.543.831stYear2ndYear2.33rdYear図1当施設でのTAE法とそれを用いたAMDの治療結果①:導入期3回の投与後,滲出が消失していれば投与間隔を2週間延長し,滲出が再燃すれば2週間短縮している.最大延長を16週までにし,16週を3回達成できれば経過観察(モニタリング)とする.②:AMDに対しアフリベルセプト投与(IVA)を①のTAE法を用いて行ったところ,導入期3回投与で改善した視力を3年間維持できた.このTAE法で順調に治療が進めば,1年目に6回,2年目に2回,3年目に1回の投与ですむはずだが,実際には1年目に平均7.5回,2年目に3.8回,3年目に2.3回の投与を必要とした.II頻回投与をしている場合頻回の投与になっているのはどのような場合があるのか.下記に解説する.1.何度投与しても反応がない場合(ノンレスポンダー)Iaconoらは,治療開始6カ月後にfunctionalなノンレスポンダー(自覚の改善がみられない)は3%,ana-tomicalなノンレスポンダー(OCT上で滲出の改善がみられない)は20%存在すると報告している2).筆者の施設では導入期3回投与でノンレスポンダーの患者は3%程度で,わずかでもfunctionalもしくはana-tomicalな反応がある患者がほとんどであり,また6カ月程度まで徐々に効果が表れることがあるので,導入期後にすぐに他の治療への変更を行うことはさけている.しかし,図2は1カ月ごとの投与を4回続けたにもかかわらず初診時よりむしろ滲出が増悪してしまったノンレスポンダーの患者については,症例は複数回の投与でも滲出の改善は期待できないと考えられ,投与中止や他剤に変更を試みる.図3のような大きな網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)や.胞様黄斑浮腫も治療抵抗性であることが多い.永井らによると,ノンレスポンダーは1年で治療群の13.17%を占め,ラニビズマブ投与群では線維血管性PEDと網膜色素上皮下の脈絡膜新生血管(occultcho-roidalneovascularization:occultCNV)が,アフリベルセプト投与群では漿液性PEDがノンレスポンダーの予測因子であると述べている3).2.治療経過とともに効果が減弱する場合(タキフィラキシー)導入期の3回投与後にドライマクラを得られ,TAE法に移行することができたのに,その後再発した場合が多い.ノンレスポンダー同様,網膜下液のあるoccultCNVとPEDがタキフィラキシー(耐性獲得)を起こしやすいといわれている.タキフィラキシーに至った場合は,その薬剤に耐性ができているので,いったん投与を中止してみるか他剤に変更する.Eghojらは,タキフィラキシーはラニビズマブ投与群で2%程度みられると報告している4)が,筆者らはもう少し多いと考えており,5年間でラニビズマブ投与患者中タキフィラキシーによってアフリベルセプトへ変更した患者は36%を占めていた.タキフィラキシーでもラニビズマブからアフリベルセプトに変更してドライマクラが得られる場合と,図4のように「変更後の薬剤」にもすぐ抵抗性を生じてしまう場合がある.3.TAE法の終了後しばらくして滲出が再発してしまう場合筆者らの施設では,前述した(図1)ように,TAE法は最大延長を16週(4カ月)までにし,4カ月間隔で連続3回のドライマクラを得られた場合はモニタリング(経過観察)に移行している.しかし,モニタリングになってから20%で再発がみられ,再発までの期間は平均で11カ月であった.Munkらも同様のTAE法で17%がモニタリングへ移行できたが,15%が再発したと報告している5).どのような症例が再発するか,いまだはっきりした見解が得られていない.モニタリングに移行する段階で本当に投与を中止してよいのかは悩ましい問題である.モニタリングに移行する際,OCTangiography(OCTA)で残存新生血管を確認しているが,通常のOCTでは滲出性変化がないようにみえても,OCTAでは血管構造を残していることが多い(図5).この残存したCNVの一部は活動性がなく,網膜外層の機能を保つために存在し,必ずしも視機能の悪化につながるものではないことがわかってきている.今後さらにOCTAのデータが蓄積すれば,OCTAの残存する血管構造の違いで再発を予見できるようになるかもしれない.IIIこれらの患者にどうアプローチすべきか1.抗VEGF薬を中止する近年,頻回になりがちな投与に対して,「治療により改善した病状が安定している」場合はいったん「治療を中止しよう」という試みがなされている.いたずらに投与を続け,タキフィラキシーに陥ることを防ぐ意味がある.(11)あたらしい眼科Vol.35,No.9,20181167症例1治療前(0.5)ラニビズマブ毎月投与5回アフリベルセプトにスイッチ後1カ月スイッチ後4カ月図2ノンレスポンダーの症例(症例1)脈絡膜新生血管(occultCNV,)に対し,ラニビズマブを月1回,5回投与したが,滲出の改善がみられず,むしろ増悪したため,ノンレスポンダーと判断し,アフリベルセプトに変更(スイッチ)したところ,1カ月で滲出の改善がみられた.症例2症例325回投与後症例4(0.7)治療前ラニビズマブ投与開始1回目18カ月再発(0.5)15回目1カ月(0.7)2回目19カ月16回目2カ月3回目21カ月再発(0.5)17回目4カ月再発(0.7)5回目22カ月18回目6カ月(0.6)6回目24カ月アフリベルセプトに変更19回目7カ月(0.8)7回目26カ月(0.5)21回目9カ月9回目30カ月再発(0.5)23回目図4タキフィラキシーでスイッチした症例(症例4)ポリープ状病変とネットワーク血管,網膜下,網膜色素上皮下の出血を認める.ラニビズマブ投与(IVR)を開始し,導入期3回投与で網膜.離は消退したが4カ月目に再発.投与を続けたところ,滲出は消退したのでTAE法に変更して投与を続けていたところ,18カ月で再発.そのままドライマクラにならなかった.頻回投与によるタキフィラキシーと考え,24カ月でアフリベルセプトにスイッチしたが,やはり6カ月で再発してしまった.症例5①②アフリベルセプト14回終了モニタリングへ③モニタリング2年再発なし図5モニタリングに移行し,その後も再発がない症例のOCTAの所見①occultCNVを認める().②IVAのTAE法で順調にドライマクラが得られ,モニタリングに移行した.その際のOCTAで血管構造がみられる.③モニタリング2年の間,OCTAで血管構造は残ったままであるが,再発は一度もない.非活動性の血管と考えられる.(0.5)OCTangiographyが困難であったり,金銭的に困難な場合である.C2.抗VEGF薬のスイッチ(ノンレスポンダーやタキフィラキシーに対し)ノンレスポンダーや,長期経過に伴い治療効果の減弱がみられるタキフィラキシーの場合は薬剤の種類を変える(スイッチ)のが一つの対策である.筆者らの施設では,5年間で他剤へスイッチした患者はC36%であった.ラニビズマブをアフリベルセプトに変更する場合が多い.変更後の投与法は患者にもよるが,再度導入期C3回投与を行ってからCTAE法に移行するようにしている.再発後の治療の場合,初期治療に比べ網膜色素上皮や視細胞の変性がより進行していることを考えると,早期の改善が望ましいからである.高齢者や脳心血管合併症のある患者ではアフリベルセプトにスイッチすることはためらわれるが,抗凝固薬をすでに内服中の患者であれば全身合併症のリスクもやや低くなると考え,積極的にスイッチするようにしている.また,アフリベルセプトは効果持続期間がラニビズマブ(1カ月)に比べ長く,投与回数を減らせると考えられるからである.逆にアフリベルセプト抵抗性の患者に対してはラニビズマブにスイッチすることもある.すでにアフリベルセプトに薬剤抵抗性を獲得している患者には他剤に変更するということ自体に意義があるからである.C3.TAE法の途中でPDTを導入(ノンレスポンダーやタキフィラキシーに対し)2004年にCAMD治療に対して認可された光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)は,選択的に脈絡膜新生血管を閉塞させる治療として当時は唯一の画期的な治療であった.しかし,照射部位の脈絡膜循環障害を起こす,治療後視力が改善しない,などの問題があり,次第に抗CVEGF治療にとってかわられた.ところが抗VEGF治療に抵抗性の患者,再発する患者が増えてくると,再度CPDTが見直されるようになってきている.筆者らの施設でも,TAE法の途中で再発した場合,まず投与期間を短縮(treat&adjust)する.それでも①投与期間を短縮していっているにもかかわらず滲出の改善がみられない場合,②C1カ月ごとの投与では滲出改善がみられるが,期間を延長しようとするとすぐ再発してしまう患者にはCPDTを治療の間で入れることを勧めている.この場合,通常の抗CVEGF薬投与のために再来した際にCPDTについて説明し,1週間後にCPDTを施行することにしている.PDTを単独で行うと,レーザー照射により脈絡膜毛細血管板が閉塞し,炎症性サイトカインが産生され,それに伴う出血や血管外漏出,視力低下などが起こるが,抗CVEGF薬を事前に投与しておくと,PDT後のこれらの変化を予防することができる.実際にタキフィラキシーの患者にCTAE法の途中でPDTを併用した例を示す(図6).ただし頻回の抗VEGF薬の投与によって脈絡膜厚がすでに薄くなっている患者にCPDTを行うと,さらに脈絡膜にダメージを与える可能性があるため,PDTを半量で行ったりしている.C4.TAE法の終了後しばらくして滲出が再発してしまう患者への対応いったんモニタリングに移行していたにもかかわらず,再発をしてしまうと,その時点からどのような形で治療を再開していくかが問題となる.再発を発見した当日はもちろん抗CVEGF薬投与をするが,そこから導入期C3回を再び開始するか,投与間隔をC4カ月まで伸ばしたことで再発をしたのだから,3カ月半やC3カ月にやや短縮(adjust)してCTAE法とするかである.患者はせっかくC4カ月ごとの再来ですんでいたものが導入期のC1カ月ごと投与に戻ることに抵抗を示す場合が多いが,病変の重症度でどちらかを選択している(図7).C5.初診の段階で病型を診断し早期の治療開始(病型分類の重要性)近年,黄斑疾患の診断機器はめざましい発展をしており,sweptsourceOCT,OCTangiography,蛍光眼底造影,を用いれば,新生血管がCPCVなのか,網膜色素上皮下のCoccultCNVなのか,網膜下の新生血管(clas-sicCNV)なのか,網膜内血管腫状増殖(retinalangio-matousproliferation:RAP)なのか,細かい診断ができ1172あたらしい眼科Vol.35,No.9,2018(16)症例6治療前(0.4)アフリベルセプト4回投与時TAEへ(0.9)(0.6)2カ月半→3カ月に延長して再発(0.9)PDT施行後1カ月2カ月半→3カ月に延長して再発(0.7)(0.7)2カ月半投与間隔でも再発半年間投与なし(0.4)(0.8)図6Treat&extend(TAE)法施行中の再発に対しPDTを施行した(症例6)治療前,出血性CPEDの中にポリープ状病変を認める().IVAを開始し,導入期C4回投与後CTAE法へ移行.2.5カ月間隔で投与していると滲出は改善するがC3カ月にのばすと悪化する.間隔を延長したり短縮したりしているうちに,2.5カ月間隔でも再発するようになり視力も低下したため,PDT併用CIVAを施行した.投与後,滲出は改善し,その後CIVAを行っていないが再発もみられない.症例7症例8治療前(アフリベルセプト投与開始)治療前(アフリベルセプト投与開始)TAE終了→モニタリング(経過観察)となるTAE終了→モニタリング(経過観察)となるモニタリングになって6カ月で再発モニタリングになって7カ月で再発3カ月から再度滲出性変化が強いので投与間隔を延長した導入期3回投与から再開3カ月,3カ月半,4カ月と投与を延長滲出性変化は再度モニタリングに改善してきている移行することができた図7モニタリングに移行したにもかかわらず再発した症例(症例7,8)IVAのCTAE法で順調に間隔をのばし,モニタリングに移行したものの,症例C7はC6カ月,症例C8はC7カ月で再発した.症例C7は小さな黄斑浮腫であったので,導入期C3回に戻さず,3カ月間隔で投与し再度CTAE法とした.症例C8は再発病変が大きかったので導入期C3回から治療を再開した.症例9アフリベルセプト+PDT施行図8初回からPDTを併用した症例(症例9)治療前,ポリープ状病変と網膜下出血,網膜色素上皮下出血,を認める().病変が大きく,抗CVEGF薬投与が複数回になると思われたため,初回からCPDT併用CIVAとした.IVAはC3回の導入期投与のみで経過観察しているが,滲出性変化は著明に改善し,黄斑の形態は保たれている.IVAの回数は明らかに少なくてすんでいる.OCT/OCTA/蛍光眼底造影PDT併用抗VEGF療法抗VEGF療法(TAE法)抗VEGF療法(TAE法)図9当施設での治療方針初診時病型を診断した後,PCVであればできるだけCPDT併用抗CVEGF療法とする.AMDや網膜内血管腫状増殖(RAP)は抗CVEGF薬の治療を開始するが,導入期でドライマクラが得られないノンレスポンダーであれば,早めに治療を中止したり,薬剤をスイッチしたりする.タキフィラキシーでは薬剤のスイッチやCPDT併用抗CVEGF療法を間で試みる.TAE法終了後の再発では,treat&adjustを試みる.-