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序説:全身薬と眼の副作用の最新知見

2018年10月31日 水曜日

全身薬と眼の副作用の最新知見UpdateofSystemicDrugsandTheirOcularAdverseE.ects柏木賢治*谷戸正樹**外園千恵***薬物による副作用はときに重篤な合併症を引き起こすため,日常診療においてもっとも注意すべき点の一つである.眼科の場合,薬物治療は多くは点眼薬による局所投与であるので,眼科医は点眼薬による副作用については,知識や経験が豊富で,対策についても熟知している.しかしながら,さまざまな全身投与薬により眼局所副作用が発症することも決して少なくなく,眼科医には,全身薬による眼局所副作用についての十分な知識の習得と注意深い対応が求められている.とくに最近は従来とは異なる作用機序をもった全身薬が抗腫瘍,免疫阻害などさまざまな治療目的で多数臨床応用されている.とくに分子標的薬や生物学製剤をはじめとする新薬は,これまで難治とされてきた疾患の治療成績を劇的に向上させている一方で,これまで認められていなかった眼局所副作用を発生させることも明らかになってきている.眼科医がこのような症例に遭遇することは決して珍しくはないが,眼科医にとってなじみの少ない全身投与薬による眼局所副作用の把握は容易ではない.そこで本特集では,全身薬による眼の副作用の特徴について,各専門領域のスペシャリストに以下の項目について詳細な記述をいただいた.近年では狭義の抗癌薬(腫瘍細胞増殖抑制薬)に加えて,ホルモン療法,免疫療法など実に多彩な作用機序による抗腫瘍薬が多く臨床で用いられるようになっている.その結果,従来の抗癌薬では認められなかったさまざまな眼局所副作用が認められるようになった(柏木広哉先生の項).抗癌薬による眼副作用についてはTS-1による涙道通過障害が知られており,特徴的な所見を示すため適切な対応を行う必要がある(末岡健太郎先生,近間泰一郎先生の項).近年リポジショニングによって臨床の場に登場する薬物の代表がヒドロキシクロロキンである.本薬は有効性も高いが,その管理法は非常にナイーブなため,副作用の防止には眼科と処方医の緊密な連携を要する(榎本寛子先生,近藤峰生先生の項).管理全身薬は涙液へ移行しやすいことなどから眼表面への副作用を示すことが多い.眼表面の観察は眼科医にとってもっとも日常的なものであり,眼表面に副作用をきたす全身薬とその所見について,十分な理解を深めることが重要である(山田昌和先生の項).豊富な血流を有する網脈絡膜にも全身薬による副作用はしばしば出現する.網脈絡膜に発生する全身薬による副作用は薬剤によって異なるが,その確認には近年広く臨床で用いられるようになった光干渉*KenjiKashiwagi:山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座**MasakiTanito:島根大学医学部眼科学教室***ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)1313

医薬品副作用データベースを用いた全身投与薬による眼障害の調査解析

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1299.1306,2018c医薬品副作用データベースを用いた全身投与薬による眼障害の調査解析有山智博田中博之石井敏浩東邦大学薬学部実践医療薬学研究室CAnalysisofEyeDisordersInducedbySystemicDrugs,UsingtheJapaneseAdverseDrugEventReportDatabaseTomohiroAriyama,HiroyukiTanakaandToshihiroIshiiCDepartmentofPracticalPharmacy,FacultyofPharmaceuticalScience,TohoUniversityわが国の全身投与薬による眼障害の発症状況を明らかにする目的で,日本の医薬品副作用データベース(JADER)を用いて調査・解析を行った.JADERに登録された症例のうち,「眼障害」が報告された症例を対象とし,患者背景,使用薬剤,および転帰を解析した.全身投与薬を被疑薬として報告された眼障害の総件数はC7,678件であり,その被疑薬はC1,001品目であった.報告件数が多い眼障害は,「眼部感染,刺激症状および炎症」や「視覚障害」であった.報告された被疑薬はリバビリンがもっとも多く,ついでペグインターフェロンCa-2b,プレガバリンであった.性別や年齢の分布は,疾患や使用薬剤により大きく影響を受けていた.眼障害の多くは,被疑薬の中止により回復または軽快するが,一部の症例においては未回復・後遺症などが確認された.本調査より,全身投与薬による眼障害の発症状況を明らかにすることができた.CToclarifythecurrentsituationofeyedisorderscausedbysystemicdruguseinJapan,theJapaneseAdverseDrugCEventCReportCdatabaseCwasCsurveyedCtoCidentifyCsuchCcases.CSpeci.cally,CtheCterm“eyeCdisorders”wasCsearched,andinformationonpatientbackground,drugsused,andoutcomewasextracted.Intotal,7,678reportedcasesand1,001suspectdrugswereidenti.ed.Ocularinfections,irritationsandin.ammations,aswellasvisiondis-orders,CwereCtheCmostCcommonCocularCadverseCe.ects.CTheCmostCfrequentlyCreportedCsuspectCdrugCwasCribavirin,Cfollowedbypeginterferonalfa-2bandpregabalin.Patientgenderandagedistributionswerea.ectedbytheunder-lyingCdiseasesCandCtheCmedicationsCused.CMostCocularCadverseCeventsCwereCrelievedCbyCdiscontinuingCtheCsuspectCdrug,CexceptingCinConeCcaseCinCwhichCtheCdamageCwasCirreversible.CInCsummary,CourCsurveyCrevealedCaCclearCpic-tureofthecurrentsituationofadverseoculareventscausedbysystemicdrugsinJapanesepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1299.1306,C2018〕Keywords:眼障害,全身投与薬,副作用データベース,被疑薬,有害事象.eyedisorder,systemicdrug,Japa-neseAdverseDrugEventReportdatabase,suspectdrug,adversee.ects.Cはじめに薬剤投与による眼障害は,眼科用剤の局所投与に起因する副作用と眼科用剤以外の全身投与に起因する副作用がある.全身投与薬による眼障害は,古くはエタンブトール1),インターフェロン2)で報告され,最近ではテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)をはじめとする抗がん薬において報告がなされているが3,4),その多くが施設単位の報告に限られており,わが国での発症状況の全体像については明らかにされていない.全身投与薬による眼障害は,その主とする薬理作用からは予想がつきにくく,発生機序も不明なことが多い.したがって,投与する医師がこれら眼障害を的確に診断・治療することは困難な場合がある.また,眼科医にとっても専門外の薬剤での副作用については認識が遅れる可能性がある.そのため,全身投与薬による眼障害の実態を〔別刷請求先〕有山智博:〒274-8510千葉県船橋市三山C2-2-1東邦大学薬学部実践医療薬学研究室Reprintrequests:TomohiroAriyama,DepartmentofPracticalPharmacy,FacultyofPharmaceuticalScience,TohoUniversity,2-2-1Miyama,Funabashi,Chiba274-8510,JAPAN表1対象のHLGTとPT,報告件数HLGTCPT報告件数眼前方部構造変化,沈着および変性白内障,後天性涙道狭窄,角膜びらんなどC40語C562眼部障害角膜障害,眼痛,Sjogren症候群などC26語C353緑内障および高眼圧症緑内障,閉塞隅角緑内障,高眼圧症などC6語C317眼部感染,刺激症状および炎症皮膚粘膜眼症候群,眼瞼浮腫,眼充血などC81語C2,511眼球新生物視神経膠腫,結膜.胞,結膜新生物などC10語C14眼神経筋障害眼瞼下垂,注視麻痺,眼振などC34語C577眼球感覚神経障害羞明,眼の異常感,眼精疲労などC5語C107眼部構造変化,沈着および変性CNEC網膜.離,網膜色素上皮裂孔,Basedow病などC32語C452網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害網膜出血,網膜症,硝子体出血などC27語C1,107眼部出血および血管障害CNEC結膜出血,眼出血,虚血性視神経症などC16語C215視覚障害視力低下,視力障害,霧視などC40語C1,463NEC:notelsewhereclassi.ed「他に分類されない」.明らかにし,早期発見および治療の一助につなげることを目的に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuti-calsandMedicalDevicesAgency:PMDA)がC2004年C4月より収集・公開している医薬品副作用データベース(Japa-neseAdverseDrugEventReportdatabase:JADER)を用いて調査・解析を行った.CI対象および方法PMDAのCwebサイト(http://www.info.pmda.go.jp/fukusayoudb/CsvDownload.jsp,2016年C10月C7日)より入手したJADERの2004年4月.2016年3月のデータを用いた.対象とする副作用名は,医薬規制用語集CMedicalDictionaryforCRegulatoryCActivities(MedDRA)ver.20.0の基本語(PreferredCTerm:PT)を使用し,MedDRA階層レベルで器官別大分類(SystemOrganClass:SOC)「眼障害」のうち高位グループ語(HighCLevelCGroupCTerm:HLGT)でまとめて集計した.HLGTのうち「先天性眼部障害」「眼球外傷」は除外した.JADERに登録されている全症例のなかから報告年度,性別,年齢および転帰について解析した.薬剤は「被疑薬」の報告のみとし,投与経路が「眼」「眼内」「眼球後」「結膜下」と報告されているもの,および投与経路が明確でない「非経口」「その他」「不明」で報告されているものはすべて除外した.さらに眼科用光線力学的療法用レーザーによる光照射と併用するベルテポルフィンおよび眼瞼痙攣に用いるCA型ボツリヌス毒素は,直接眼部に作用する薬剤であるため眼科用剤として除外した.本研究では,データの欠損は「不明」として集計した.年齢区分を「新生児.20歳代」「30.40歳代」「50.60歳代」「70歳代.」として解析を行い,報告データに「青少年」「成人」といったこれらの年齢区分に分類できない年齢群のものは「不明」として扱った.また,各種薬剤の添付文書における眼部副作用に関する記載状況(2017年C9月時点)を併せて調査した.CII結果対象期間の副作用報告総数は,627,062件(重複を除く)であった.眼障害の報告は,10,961件あり,そこからHLGT「先天性眼部障害(19件)」「眼球外傷(51件)」を除外し,眼科用剤に起因する眼障害(3,213件)を除くと,対象薬剤における眼障害の報告件数はC7,678件,症例数は7,135人であった.各CHLGTとそれに含まれるCPTおよび件数を表1に示す.各CHLGTのなかでもっとも報告件数が多かったものは,「眼部感染,刺激症状および炎症」がC2,511件であり,「視覚障害」1,463件,「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」1,107件の順であった.被疑薬は,10,270件(1,001品目)の報告があり,各CHLGTの報告件数の多い薬剤を表2に示した.2004年度.2015年度の報告年度別の副作用件数を図1に示した.「眼部感染,刺激症状および炎症」「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」「視覚障害」の報告が多く,いずれもC2012年度をピークに増加したが,その後は減少傾向であった.2004年度.2015年度の報告年度別の薬剤の推移を図2に示した.2011年にラモトリギンがピークとなり,2012年はリバビリン,ペグインターフェロンCa-2b,テラプレビル,プレガバリンがピークとなり,その後減少した.各CHLGTで発症の性差を比較すると「眼部障害」「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」「視覚障害」が女性に多くみられた(図3).年代でみると「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」は若い年代に多く「眼部出血および血管障害CNEC(nonelsewhereclassi.ed)」はC70歳代以上に多い傾向であった(図4).副作用の転帰は,「回復・軽快」がC3,736件,「未回復・後遺症あり」がC1,331件,「死亡」がC51件,「不明」がC2,560件であった.「眼前方部構造変化,沈着および変性」「眼部障害」「眼部感染,刺激症状および炎症」「眼球新生物」「眼神経(件)350300250200150100500200420052006200720082009201020112012201320142015(年度)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪図1年度別の副作用報告件数①眼前方部構造変化,沈着および変性,②眼部障害,③緑内障および高眼圧症,④眼部感染,刺激症状および炎症,⑤眼球新生物,⑥眼神経筋障害,⑦眼球感覚神経障害,⑧眼部構造変化,沈着および変性CNEC,⑨網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害,⑩眼部出血および血管障害CNEC,⑪視覚障害.C(件)160140120100806040200200420052006200720082009201020112012201320142015J(年度)ABCDEFGHI図2副作用報告上位10薬剤の年度別報告件数A:リバビリン(447件),B:ペグインターフェロンCa-2b(341件),C:プレガバリン(235件),CD:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(223件),E:ラモトリギン(222件),F:プレドニゾロン(217件),G:エタンブトール塩酸塩(170件),H:テラプレビル(158件),I:アセトアミノフェン(139件),J:カルバマゼピン(136件).C表2各HLGTと被疑薬リスト(上位15品目)合計リバビリンC447眼神経筋障害組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子(1,001品目)ペグインターフェロンCa-2bC341(314品目)ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C26プレガバリンC235CリスペリドンC23S-1C223カルバマゼピンC22ラモトリギンC222エチゾラムC20プレドニゾロンC217プレガバリンC16エタンブトール塩酸塩C170ブロチゾラムC16テラプレビルC158パロキセチン塩酸塩水和物C14アセトアミノフェンC139ラモトリギンC13カルバマゼピンC136インフルエンザCHAワクチンC13バゼドキシフェン酢酸塩C135クエチアピンフマル酸塩C12ペグインターフェロンCa-2aC128パリペリドンC11組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ドネペジル塩酸塩C11ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C106アルプラゾラムC10ロキソプロフェンナトリウム水和物C96ジスチグミン臭化物C10アロプリノールC96トリアゾラムC10眼前方部構造変化,沈着および変性(222品目)CS-1Cプレドニゾロンラモトリギンタムスロシン塩酸塩フルチカゾンプロピオン酸エステルプレガバリンカルバマゼピンエタネルセプトタクロリムス水和物アロプリノールシクロスポリンエルロチニブ塩酸塩ドセタキセル水和物デキサメタゾンアミオダロン塩酸塩C145眼球感覚神経障害45(69品目)26141313121010998877組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C27組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子9ワクチン(酵母由来)CボリコナゾールC9パロキセチン塩酸塩水和物C5ラモトリギンC5バルサルタンC4プレドニゾロンC2ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルC2イオベルソールC2ロサルタンカリウムC2エピルビシン塩酸塩C2プレガバリンC2アリピプラゾールC2(146)眼部障害S-1C53眼部構造変化,沈着およびリバビリンC57(200品目)CラモトリギンC21変性CNECペグインターフェロンCa-2bC38リバビリンC13(242品目)プレドニゾロンC32ペグインターフェロンCa-2bC10ペグインターフェロンCa-2aC25パロキセチン塩酸塩水和物C10プレガバリンC13組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子9ベバシズマブC13ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)Cヨウ化ナトリウム(C131I)C11プレガバリンC9エポエチンベータC9組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子シクロスポリンC8ワクチン(酵母由来)C8エタネルセプトC7バゼドキシフェン酢酸塩C8インターフェロンCa-2bC7アマンタジン塩酸塩C7アミオダロン塩酸塩C7アロプリノールC6タクロリムス水和物C7カルバマゼピンC6エポプロステノールナトリウムC6ドセタキセル水和物C6バルサルタンC6ジクロフェナクナトリウムC5イマチニブメシル酸塩C6CカペシタビンC5バラシクロビル塩酸塩C5プレドニゾロンC5緑内障および高眼圧症プレドニゾロンC25網膜,脈絡膜および硝子体リバビリンC311および血管障害プレガバリンC16の出血ペグインターフェロンCa-2bC245(208品目)フルチカゾンプロピオン酸エステルC12(272品目)テラプレビルC146パロキセチン塩酸塩水和物C11ペグインターフェロンCa-2aC81ブロチゾラムC11クロピドグレル硫酸塩C53メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムC8シメプレビルナトリウムC41コハク酸ソリフェナシンC8アスピリンC40チオトロピウム臭化物水和物C8ラロキシフェン塩酸塩C38サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオインターフェロンCa-2bC30ン酸エステルC7リバーロキサバンC25エチゾラムC7プレガバリンC18アモキサピンC6インターフェロンCb18シベンゾリンコハク酸塩C6ワルファリンカリウムC17アトロピン硫酸塩水和物C6ベバシズマブC15ゾルピデム酒石酸塩C6プレドニゾロンC13ジフルプレドナートC6眼部感染,刺激症状および炎症(635品目)ラモトリギンアセトアミノフェンロキソプロフェンナトリウム水和物カルボシステインアロプリノールカルバマゼピンクラリスロマイシンプレドニゾロンリバビリンメシル酸ガレノキサシン水和物ジクロフェナクナトリウムシクロスポリンS-1Cアモキシシリン水和物リファブチンC180眼部出血および血管障害127NEC79(115品目)777665555147464240393836リバーロキサバンC40クロピドグレル硫酸塩C18ワルファリンカリウムC17アスピリンC13プレガバリンC12イマチニブメシル酸塩C12アピキサバンC9リバビリンC7シルデナフィルクエン酸塩C5ペグインターフェロンCa-2bC4スニチニブリンゴ酸塩C3イコサペント酸エチルC3ソラフェニブトシル酸塩C3セレコキシブC3エタネルセプトC3インターフェロンCa-2bC3アムロジピンベシル酸塩C3レトロゾールC3プラバスタチンナトリウムC3眼球新生物ソマトロピンC3視覚障害プレガバリンC149(16品目)エタネルセプトC2(449品目)エタンブトール塩酸塩C142プレドニゾロンC2バゼドキシフェン酢酸塩C120非ピリン系感冒剤(4)C2組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチ38ン(イラクサギンウワバ細胞由来)CボリコナゾールC26リファンピシンC25ザナミビル水和物C22カルバマゼピンC22パクリタキセルC18リネゾリドC17ラロキシフェン塩酸塩C17パロキセチン塩酸塩水和物C17イソニアジドC16組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)C15シクロスポリンC15ペグインターフェロンCa-2bC15リバビリンC15C眼前方部構造変化,2.8沈着および変性眼部障害2.6緑内障および高眼圧症眼部感染,0.9刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害0.9眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体2.3の出血および血管障害眼部出血および血管障害NEC視覚障害1.80%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■男性■女性■不明図3各性別の報告割合眼前方部構造変化,41.614.60.243.615.351.333.428.120.851.154.69.61.434.414.357.128.659.813.21.425.643.932.723.422.30.445.631.648.226.50.225.157.730.211.60.540.924.30.134.7沈着および変性眼部障害緑内障および高眼圧症眼部感染,刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害眼部出血および血管障害NEC視覚障害0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■回復・軽快■未回復・後遺症あり■死亡■不明図5各副作用の転帰筋障害」「眼部出血および血管障害CNEC」の「未回復・後遺症あり」の割合はC1割程度であったが,それ以外ではC2.3割を占めた.とくに「眼球感覚神経障害」の「未回復・後遺症あり」の割合はもっとも高く,32.7%であった(図5).被疑薬として報告されている薬剤のうち,各CHLGTの報告件数がC5件以上の薬剤はC405品目であった.このうち現在販売中止になっている薬剤C4剤(セラペプターゼ,リゾチーム塩酸塩,テリスロマイシン,ガチフロキサシン水和物)と一般薬C5品目を除いたC396品目の添付文書について,眼障害に関する副作用の記載状況を調べたところ,記載がある薬剤はC327品目(82.6%)であった.そのなかで,重大な副作用の項目にあるものがC164品目(「皮膚粘膜眼症候群」156品目,それ以外の眼障害はC80品目),その他の副作用に記眼前方部構造変化,7.814.235.630.711.715.014.734.424.711.27.614.627.330.819.717.822.934.321.23.742.97.114.328.67.128.215.223.822.510.329.916.819.616.816.816.721.737.715.58.43.311.551.426.17.811.432.943.810.511.513.129.534.611.3沈着および変性眼部障害緑内障および高眼圧症眼部感染,刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害眼部出血および1.4血管障害NEC視覚障害0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■新生児~20歳代■30~40歳代■50~60歳代■70歳代~不明図4各年代の報告割合載があるものがC267品目であった.その他の副作用に記載されている項目の内訳は,「眼」107品目,「眼障害」24品目,「精神神経系」23品目,「感覚器」29品目,「過敏症」9品目,「抗コリン作用」3品目,「頭蓋内圧上昇」1品目,「中枢神経系」1品目,「出血傾向」1品目,「自律神経系」1品目,「その他」68品目と薬剤によって異なる記載がなされていた.48品目は,眼部に関連する副作用の記載が「皮膚粘膜眼症候群」のみであった.CIII考按JADERの解析より,全身投与薬による眼障害の実態を明らかにすることを試みた.これまでに眼障害の報告件数は7,678件,症例数はC7,135人あり,報告件数が多いCHLGTは「眼部感染,刺激症状および炎症」であることがわかった.一つの症例で複数の眼障害が報告されることがあり,報告件数と症例数に差がみられた.被疑薬として報告されている薬剤は,1,001品目と多岐にわたっていた.リバビリン,インターフェロン製剤,エタンブトール塩酸塩,S-1が上位を占めることがわかった.インターフェロン製剤やエタンブトール塩酸塩は古くから報告があるが,S-1については近年報告が集積しており,関心が高まっている.S-1による眼障害の発生頻度は,約C10%5)や約18%6)と報告されている.涙道障害や角膜障害の報告が多く,その発生機序は,涙液中のC5-フルオロウラシルによるものと考えられている7.9).一方で,プレガバリン,ラモトリギン,バゼドキシフェン酢酸塩など,販売されてC10年以内の比較的新しい薬剤も上位を占めていた.本解析から,プレガバリンは多くのCHLGTの上位にあがっていることが確認されたが,臨床上の報告は限られており,投与中に発症した視覚異常の症例報告が散見される程度である10).プレガバリンの添付文書では,「重大な副作用」の項に「皮膚粘膜眼症候群(頻度不明)」「その他の副作用」の項のうち「眼障害」の欄に,「霧視・複視・視力低下(1%以上)」「視覚障害・網膜出血(0.3%以上,1%未満)」の記載があるのみであった.ラモトリギンの添付文書には,「重大な副作用」の項に「皮膚粘膜眼症候群(0.5%)」と「その他の副作用」の項のうち「眼」の欄に「複視(1.5%未満)」「霧視・結膜炎(1%未満)」の記載のみであったが,本解析からは,皮膚粘膜眼症候群を含むCHLGTである「眼部感染,刺激症状および炎症」にラモトリギンの報告が多いことがわかったほか,「眼前方部構造変化,沈着および変性」「眼部障害」「眼球感覚神経障害」の上位にも含まれ眼に多様な影響を及ぼす可能性が示唆された.また,バゼドキシフェン酢酸塩は,「重大な副作用」の項に「網膜静脈血栓症(頻度不明)」「その他の副作用」の項のうち「眼」の欄に,「霧視・視力低下等の視力障害(頻度不明)」が記載されている程度であったが,本解析からは「視覚障害」の上位を占めるなど注意の必要な薬剤であることが明らかとなった.年度別の副作用報告件数と薬剤報告件数の推移より,2008年C12月のラモトリギン販売後に「眼部感染,刺激症状および炎症」は増加がみられ,「視覚障害」はC2010年C6月のプレガバリン発売後に増加がみられた.さらにC2011年C11月のテラプレビル販売開始によるペグインターフェロンCa-2b,リバビリン,テラプレビルのC3剤併用療法の登場後に「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」は増加がみられた.それぞれ発売時期と一致して報告の増加が確認されたが,ラモトリギンやプレガバリンは販売開始から約2年後に副作用報告のピークがあったことに対して,テラプレビルは販売開始の翌年に報告のピークがみられた.この期間の差については,テラプレビルはCC型慢性肝炎の治療としてペグインターフェロンCa-2b,リバビリンとのC3剤併用でC12週間のみ服用する薬剤であるために,販売開始後の使用量の増加とともに副作用の報告も急増したと考えられる.一方で,ラモトリギンやプレガバリンはテラプレビルのように一定期間のみの服用ではなく,継続的に服用する薬剤であるため,販売開始からC1年後の長期処方が可能となった後に使用量が増加し,副作用報告の増加につながったと考えられる.各CHLGTで発症の性差や年代別の報告割合をみると,「眼部障害」「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」「視覚障害」は女性に高い傾向がみられた.そのなかでも,「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」は若い世代の女性が多く,その被疑薬の上位は組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)などであることがわかった.「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」は,「50.60歳代」にC51.4%と多くを占め,被疑薬は,リバビリン,インターフェロン製剤,テラプレビル,クロピドグレル硫酸塩が多いことが確認された.「眼部出血および血管障害CNEC」は「70歳代.」の高齢者にC43.8%と多く,被疑薬はリバーロキサバン,ワルファリンカリウム,クロピドグレル硫酸塩が上位を占めていた.疾患の特性により使用薬剤が異なり,性別や年齢の分布に反映されていた.転帰については,「未回復・後遺症あり」がいずれの副作用でもC1.3割程度を占め,「眼球感覚神経障害」「視覚障害」「眼部構造変化,沈着および変性CNEC」の順に多いことがわかった.エタンブトール塩酸塩のように発見が遅れ高度に進行すると非可逆的になることがわかっている薬剤もあり注意が必要である.「未回復・後遺症あり」がC32.7%ともっとも高い割合で確認された「眼球感覚神経障害」の被疑薬は,組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来),組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)が上位を占めた.これらの薬剤は,若い世代の女性に使用されることから,とくに注意が必要と考える.眼障害の報告があった薬剤のうち,添付文書に記載があった薬剤はC82.6%であり,17.4%では記載がないことがわかった.添付文書の記載項目については,「重大な副作用」の項に,「皮膚粘膜眼症候群」や「網膜症」「網膜静脈血栓症」といった病名で記載がされているほか,「視力障害」「視覚障害」などの記載がみられた.「視力障害」「眼底出血」など同じ副作用名であっても「重大な副作用」の項に記載があるものと「その他の副作用」の項に記載があるものが存在し,薬剤により異なることが確認された.さらに「その他の副作用」に記載される区分で「眼」や「眼障害」の項目を設けて記載されているものもあれば,「精神神経系」や「感覚器」「その他」などの項目に記載されるなど統一されておらず,とくに多数の副作用の記載がある薬剤では見落とす可能性も考えられた.添付文書の副作用の項目に眼障害に関する記載がされていても,これに対する医療者の認識は低く,注意深く管理される抗がん薬投与時でさえ軽視されている現状が報告されている11).このような背景もあり,日本角膜学会は抗腫瘍薬全身投与による角膜障害について実態調査を行っており12),本研究からさらなる認知が広がることが期待される.研究の限界として,JADERは自発報告による副作用のデータベースであるため,このように医療従事者の認識の乏しさから発見されていない,または重篤でない副作用であるため報告がなされていない症例が存在すると考えられる.さらに,副作用として発症した眼障害が片眼性か両眼性かの情報はなく,原疾患や加齢による影響など詳細な追及はできない.しかしながら,今回の調査解析からわかるように眼障害には不可逆的なものもあり,軽視できる副作用ではない.とくに高齢者では,その視覚の変化に気づきにくく,視力異常による転倒などにより,QOLのさらなる低下につながる恐れがあり,より注意が必要である.全身投与薬による眼障害は,発症機序が明確ではないものが多く,その主作用からは予測困難なものがある.さらに,眼科医の下で使用される薬剤以外での報告も多い.すなわち,医療従事者が意識して情報提供することがなければ,患者自身が薬剤の影響と思わず過ごすことや,たとえ訴えがあったとしても処方医が眼科医でなければ,対応を逃す可能性もある.一方で,眼科医であっても眼科領域以外の薬剤である場合,使用薬の副作用として疑わず対応が遅れる可能性が考えられる.添付文書に記載のない薬剤による眼障害の報告もあるため医療従事者は,どのような薬剤でも眼障害が起こる可能性を念頭におき,患者の訴えや症状を注意深く観察するとともに,早期発見および確実な対応が求められる.本研究によって,わが国における全身投与薬による眼障害は多数報告があることがわかった.これらの知見は,薬剤起因性の眼障害の早期発見および早期治療の一助になると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)原田勲:新抗結核剤CEthambutolによる視神経炎のC2症例.眼紀C14:278-284,C19632)池辺徹,中塚和夫,後藤正雄:インターフェロン投与中に視力障害をきたしたC1例.眼紀C41:2291-2296,C19903)柏木広哉:抗がん剤による眼障害―眼部副作用―.JpnJCancerChemotherC37:1639-1644,C20104)細谷友雅:全身用剤による角膜障害.あたらしい眼科C25:C449-453,C20085)MoriyaCK,CShimizuCH,CHandaCSCetCal:IncidenceCofCoph-thalmicdisordersinpatientstreatedwiththeantineoplas-ticagentS-1.JpnJCancerChemotherC44:501-506,C20176)KimN,ParkC,ParkDJetal:Lacrimaldrainageobstruc-tionCinCgastricCcancerCpatientsCreceivingCS-1Cchemothera-py.AnnOncolC23:2065-2071,C20127)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnaso-lacrimalCductCblockage:anCocularCsideCe.ectCassociatedCwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmolC140:C325-327,C20058)坂井譲,井上康,柏木広哉ほか:TS-1による涙道障害の多施設研究.臨眼C66:271-274,C20129)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤CS-1による角膜障害の3例.日眼会誌C110:919-923,C200610)仙田正博,仁熊敬枝,安積さやかほか:プレガバリンが原因と疑われる眼症状が出現したC2症例.日本ペインクリニック会誌C20:518,C201311)NakajimaCH,CMikiCA,CSatohCHCetCal:HealthcareCprofes-sionals’CawarenessCofCAdverseCe.ectsConCeyesCcausedCbyCanticancerCdrugs.CJpnCJCPharmCHealthCCareCSciC40:360-368,C201412)井上幸次,白石敦,杉岡孝二ほか:抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害についての日本角膜学会による実態調査.日眼会誌C121:23-33,C2017***

立体視応答速度における軽度乱視の影響

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1295.1298,2018c立体視応答速度における軽度乱視の影響結城岳志*1半田知也*1,2岩田遥*2飯田嘉彦*3庄司信行*3*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学病院眼科CE.ectsofMildAstigmatismonResponseSpeedsofStereopsisTakashiYuuki1),TomoyaHanda1,2)C,YoIwata2),YoshihikoIida3)andNobuyukiShoji3)1)Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity軽度乱視が視機能の質に与える影響について立体視応答速度に着目して検討した.対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年C30名とした.立体視応答速度はC3DVisualFunctionTrainer-ORTe(JFC社)を用いて両眼視差C800,400,200,100,60秒の立体視標を提示し,立体視知覚した視標方向に十字キーを押下するまでの時間を立体視応答速度として評価した.完全屈折矯正下,および両眼に+0.50から+2.00Dの円柱レンズを人工的に負荷した乱視モデル(直乱視,倒乱視)を作成し比較検討した.立体視応答速度は乱視負荷量の増加に伴い徐々に低下し,0.75D以上の乱視にて有意差を認めた(p<0.05).0.75D以下の軽度乱視においても立体視応答速度の低下などの視機能の質の低下が生じる可能性が示唆された.CWeCexaminedCtheCin.uenceCofCmildCastigmatismConCqualityCofCvisualCfunction,CwithCtheCmainCfocusConCstereo-scopicresponsespeed.Atotalof30healthyadolescentswithnoophthalmologicdiseaseotherthanmildrefractiveerrorwererecruited.Theirstereoscopicresponsespeedwasmeasuredusing3DVisualFunctionTrainer-ORTeR(JFC).Stereoscopicvisualtargetswithbinoculardisparitiesof800,400,200,100and60secondsofarcwerepre-sented.Thetimeelapsedbeforethecrosskeywaspressedinthedirectionofthestereoscopicallyperceivedvisualtargetwasrecordedasthestereoscopicresponsespeed.Wemadeastigmatismmodels(astigmatismwiththerule,astigmatismCagainstCtheCrule)inCwhichCcylindricalClensesCof+0.50Cto+2.00DCwereCmanuallyCloadedCunderCfullCrefractionCcorrection,CbothCeyesCwereCexaminedCandCcompared.CTheCstereoscopicCresponseCspeedCgraduallydecreasedCwithCincreaseCinCastigmaticCload;signi.cantCdi.erenceCwasCobservedCatCanCastigmatismCofC0.75DCorhigher(p<0.05)C.Ourresultssuggestthatthequalityofvisualfunction,asre.ectedbydecreaseinthestereoscop-icresponsespeed,maydeteriorateevenatamildastigmatismof0.75Dorless.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1295.1298,C2018〕Keywords:立体視,応答速度,軽度乱視,屈折矯正,3DVisualFunctionTrainer-ORTe.stereopsis,mildastig-matism,refractivecorrection,3DVisualFunctionTrainer-ORTe.Cはじめに眼内レンズやコンタクトレンズの進歩・普及により,患者は見え方の質を選ぶ時代となり,白内障手術およびコンタクトレンズ矯正において乱視矯正の重要性が高まっている.しかしながら軽度乱視においては,球面レンズの矯正のみで視力が良好ということが多く,日常生活において視覚の質(qualityofvision:QOV)の低下を自覚しがたい1).しかしながら,自覚しがたい軽度乱視であっても未矯正による像のボケが生じており,軽度乱視によるCQOVの低下を鋭敏に評価できる視機能検査法が必要と考える.臨床的な視機能検査の多くは,視力,コントラスト感度に代表される空間分解能評価が中心である.実際の日常生活では,スポーツ,自動車運転など,対象物をいかに早く認識できるかといった時間分解能の能力も求められるが,臨床的検査に用いられることは少ない.そこで今回筆者らは,高次視機能検査である立体視検査に時間分解能評価を加えた立体視〔別刷請求先〕結城岳志:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:TakashiYuuki,CO,Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN図13DVisualFunctionTrainer(ORTe)右図:実験風景,左図:立体視検査用視標.応答速度評価(立体視標をいかに早く認識できるか)を用い*0.00て,軽度乱視がCQOVに与える影響について検討した.C0.50応答速度(秒)I対象対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年30名(男性C5名,女性C25名),平均年齢C21.4C±1.8歳である.1.001.502.00視力は完全屈折矯正下においてC1.2以上かつ近見,遠見立体視がC60秒未満(近見立体視はCTitmusCstereoCtest,TNOstereoCtest,遠見立体視はC3DCVisualCFunctionCTrainer-ORTeにて)であることを確認した.対象C30名の自覚屈折値(等価球面値)はC.2.14±2.40Dであり,遠見眼位(平均)はC2.3C±2.5Δであった.なお,本検討では人工的に乱視を作成するため,自覚的屈折値でC.0.50D以上の乱視を有する者は除外した.CII方法立体視応答速度評価にはCJFC社のC3DCVisualCFunctionTrainer-ORTe(以下,ORTe)2)に独自開発したプログラムを用いて,検査距離C5Cm(遠見立体視)にて行った.立体視検査視標はC4個の円形視標(図1)のC1個に交差性視差(ディスプレイ面より手前に飛び出して見える)をランダムに提示し,両眼視差C800,400,200,100,60秒(secofarc)にて立体視応答速度を測定した.被検者には,4個の指標のうちの一つに飛び出しを知覚できたら,その視標の位置に相当するコントローラーの十字キーを素早く押下するように指示した.立体視標を提示してから被検者が立体視知覚して十字キーを押下するまでの時間を測定し,立体視応答速度として評価した.測定は提示される両眼視差につきC5回実施し,5回中C3回以上の正答でCPassとし,正答した回数の応答速度の平均値を用いて評価した.立体視応答速度は,完全屈折矯正下,両眼に円柱レンズ(凸の円柱レンズ)を+0.50,+0.75,+1.00,+1.25,+1.50,+2.00Dを人工的に負荷して測定し,各条件下にて立両眼視差(secofarc)図2完全屈折矯正下における立体視応答速度立体視応答速度は両眼視差の減少に伴い低下した.*:p<0.05.C体視応答速度変化を検討した.円柱レンズの軸は90°とC180°(直乱視,倒乱視)のC2条件とした.自覚的屈折値には雲霧法を用いて,最良視力が得られるもっともプラスよりの球面,乱視の屈折値を完全屈折矯正として採用した.統計解析として,両眼視差量と立体視応答速度の関係については一元配置分散分析(ANOVA,Turkytest),完全屈折矯正下と各乱視負荷量の立体視応答速度および直乱視と倒乱視の比較にはCMann-WhitneyUtestを用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.なお,本研究は北里大学病院倫理委員会の承認(B16-85)を受けて実施された.CIII結果完全屈折矯正下において,全例,両眼視差C60秒の立体視応答速度が知覚された.図2に完全屈折矯正下における各両眼視差量(800.60秒)の立体視応答速度を示す.立体視応答速度は両眼視差量の減少に伴って有意に延長した.両眼視差C800秒の応答速度はC0.96C±0.24,400秒にてC1.11C±0.42,200秒にてC1.30C±0.60,100秒にてC1.21C±0.49,60秒にてC1.46±0.75秒であり,両眼視差C800秒での立体視応答速度表1完全屈折矯正下および直乱視負荷に伴う立体視応答速度の変化乱視負荷量(D)視差(secofarc)C800C400C200C100C60応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値C0C+0.50C+0.75C+1.00C+1.25C+1.50C+2.00C0.96±0.24C─C1.04±0.34C0.424C1.09±0.49C0.679C1.04±0.30C0.304C1.23±0.52C0.009C1.22±0.71C0.115C1.18±0.34C0.002C1.11±0.42C─C1.19±0.45C0.311C1.16±0.45C0.717C1.24±0.46C0.113C1.40±0.58C0.004C1.35±0.60C0.030C1.42±0.45C0.002C1.30±0.60C─C1.36±0.49C0.311C1.45±0.61C0.139C1.75±0.77C0.001C1.67±0.72C0.010C1.64±0.72C0.013C1.94±1.19C0.001C1.21±0.49C─C1.37±0.66C0.162C1.49±0.62C0.017C1.67±0.72<C0.001C1.87±0.88<C0.001C1.99±1.03<C0.001C2.27±1.22<C0.001C1.46±0.75C─1.60±0.62C0.1301.80±0.94C0.0302.03±1.23C0.0071.98±0.79<C0.0012.25±1.14<C0.0012.58±1.10<C0.001表2完全屈折矯正下および倒乱視負荷に伴う立体視応答速度の変化乱視負荷量視差(secofarc)C(D)800C400C200C100C60応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値応答速度(秒)p値C0C+0.50C+0.75C+1.00C+1.25C+1.50C+2.00C0.96±0.24C─C1.01±0.28C0.473C1.04±0.34C0.478C1.06±0.41C0.496C1.11±0.45C0.245C1.25±0.77C0.064C1.20±0.55C0.098C1.11±0.42C─C1.11±0.33C0.529C1.16±0.59C0.999C1.29±0.78C0.129C1.46±0.67C0.015C1.55±0.81C0.008C1.79±0.84<C0.001C1.30±0.60C─C1.44±0.59C0.234C1.41±0.46C0.065C1.73±0.81<C0.001C1.71±0.70C0.006C1.87±1.01C0.005C2.07±0.82<C0.001C1.21±0.49C─C1.41±0.55C0.048C1.55±0.66C0.003C1.86±0.87<C0.001C1.93±0.84<C0.001C2.36±1.20<C0.001C2.54±0.90<C0.001C1.46±0.75C─1.71±0.74C0.0331.97±1.24C0.0242.11±1.14<C0.0012.36±1.05<C0.0012.62±1.09<C0.0012.77±0.86<C0.001に対し,両眼視差C60秒の立体視応答速度は有意に延長した(ANOVA,Turkytest,p<0.05).表1に完全屈折矯正下と+0.50D.+2.00Dの直乱視負荷に伴う立体視応答速度を示す.両眼視差C800秒では+2.00D負荷,両眼視差C400秒では+1.25D負荷以上,両眼視差C200秒では+1.00D以上,両眼視差C100秒では+0.75D以上,両眼視差C60秒では+0.75D以上にて,完全屈折矯正下に比較して有意な立体視応答速度に低下が認められた(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).表2に完全屈折矯正下と+0.50D.+2.00Dの倒乱視負荷に伴う立体視応答速度を示す.両眼視差C800秒においては直乱視量負荷に伴う立体視応答速度の有意な低下は認められなかった.両眼視差C400秒以下では直乱視負荷に伴う立体視応答速度が認められ,両眼視差C400秒では+1.25D以上,両眼視差C200秒では+1.00D以上,両眼視差C100秒では+0.75D以上,両眼視差C60秒では+0.50D以上にて,完全屈折矯正下に比較して有意な立体視応答速度に低下が認められた(Mann-WhitneyUtest,p<0.05).CIV考按乱視が視機能低下を及ぼすという報告はこれまでにも多数報告されている3.9).乱視量が0DからC2Dに増加すると視力値(logMAR)はC.0.2からC0.2に低下4)し,乱視量C3D(倒乱視)を負荷するとC1.5からC0.3にまで低下し,コントラスト感度への影響は高周波数領域で大きく低下する5,6)と報告されている.本検討では,乱視(直乱視,倒乱視)が立体視応答速度に及ぼす影響について時間分解能の尺度を用いて検討し,乱視負荷量の増加に伴う立体視応答速度の低下が認められた.直乱視における円柱レンズ+0.75D負荷の立体視応答速度は両眼視差100secCofCarcにて1.49C±0.62秒,両眼視差60secCofCarcにてC1.80C±0.94秒であり,倒乱視における円柱レンズ+0.50D負荷の立体視応答速度は両眼視差C100secofCarcにてC1.41C±0.55秒,両眼視差C60CsecCofCarcにてC1.71C±0.74秒であり,立体視応答速度が有意に延長した.日常生活において自覚しがたいC0.50DやC0.75Dの軽度乱視においても立体視応答速度の低下,すなわち両眼視機能の質の低下が認められた.スポーツや自動車運転など注視物が高速で移動し良好な両眼視機能が求められる場合には,0.50.0.75Dの軽度乱視においても乱視矯正することで両眼視機能の質が向上する可能性が示唆された.本検討において両眼視差C60秒において,直乱視では0.75D,倒乱視ではC0.50Dで有意差が認められた.立体視(左右に両眼視差提示)は倒乱視が影響を受けやすく,直乱視は影響を受けにくいとされている7,8).これは立体視標は左右に両眼視差を提示して作成されているため,水平方向に像のボケが生じる倒乱視は垂直方向にボケが生じる直乱視に比較して,立体視応答速度の低下が生じやすいためと考えられる.今回筆者らは,軽度乱視によるCQOVの低下を時間分解能の尺度を用いて評価した.日常臨床における視力,コントラスト感度などの自覚視機能検査は空間分解能の評価が中心である.一方,他覚的視機能検査は網膜電図(erectroretino-gram:ERG)や眼球電図(erectrooculogram:EOG),視覚誘発電位(visualCevokedCcorticalCpotential:VECP)といった電気生理学的検査では反応量とともに時間分解能評価が行われる.とくにCEOGのサッケードでは,潜時,持続時間,最大速度,振幅の評価を行い,速度の低下(slowCsaccade)や衝動運動の緩徐化(glissade),潜時の延長といった時間分解能尺度を加えることで,視診や画像では発見できない病態を評価している9).本検討において,0.50,0.75D程度の軽度乱視においても有意な立体視応答速度の延長が認められた.今後,立体視だけでなく,視力,コントラスト,視野などの自覚的検査において時間分解能評価の尺度を加えることで,従来評価できなかった視機能低下やCQOV評価につながる可能性が推察される.文献1)塩谷浩:乱視矯正の適応と限界ソフトコンタクトレンズ.日コレ誌46:170-175,C20052)半田知也:日本発の次世代両眼視機能検査・訓練装置C3DVisualFunctionTrainer-ORTe.眼臨紀8:332-337,C20153)KobashiH,KamiyaK,ShimizuKetal:E.ectofaxisori-entationonvisualperformanceinastigmaticeyes.JCata-ractRefractSurg38:1352-1359,C20124)TrindateCF,COliveiraCA,CFrassonCM:Bene.tCofCagainst-the-ruleCastigmatismCtoCuncorrectedCnearCtheCacuity.CJCataractSurgC23:82-85,C19975)BradleyA,ThomasT,KalaherMetal:E.ectsofspheri-calandastigmaticdefocusonacuityandcontrastsensitiv-ity:aCcomparisonCofCthreeCclinicalCcharts.COptomCVisCSciC68:418-426,C19916)Wol.sohnCJS,CBhoqalCG,CShahCS:E.ectsCofCuncorrectedCastigmaticonvision.JCataractRefractSurgC37:454-460,C20117)ChenCSI,CHoveCM,CMcCloskeyCCLCetCal:TheCE.ectCofCmonocularlyCandCbinocularlyCinducedCastigmaticCblurConCdepthCdiscriminationCisCorientationCdependent.COptomCVisCSciC19:101-113,C20118)SavageCH,CRothsteinCM,CDavuluriCGCetCal:MyopicCastig-matismCandCpresbyopiaCtrial.CAmCJCOpthalmolC135:628-632,C20039)浅川賢,石川均:眼球電図(EOG)の利用と読み方.臨眼67:178-182,C2013***

SpotTM Vision Screener による間欠性外斜視の検出精度向上の試み

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1291.1294,2018cSpotTMVisionScreenerによる間欠性外斜視の検出精度向上の試み掛上謙中川拓也追分俊彦林顕代奥村詠里香林由美子三原美晴富山大学附属病院眼科IncreasingtheDetectionRateofIntermittentExotropiabySpotTMVisionScreenerKenKakeue,TakuyaNakagawa,ToshihikoOiwake,AkiyoHayashi,ErikaOkumura,YumikoHayashiandMiharuMiharaDepartmentofOphthalmology,ToyamaUniversityHospital目的:SpotTMVisionScreener(VS100,Welchallyn,以下,SVS)に赤外線透過フィルター(以下,IRフィルター)を使用し間欠性外斜視の検出精度を上げる.対象:矯正視力1.0以上,近見立体視60秒以下の弱視の既往がない間欠性外斜視20例.平均年齢は9.0±4.1歳.遠見時の斜視角は24.2±10.6(10.45)Δ,近見時の斜視角は29.1±13.6(8.66)Δであった.方法:富士フイルム光学フィルターRIR82を遮眼子として使用し,外斜視検出率は両眼開放時およびIRフィルターで片眼遮閉時に検出された外斜視症例の割合とした.結果:両眼開放時の眼位はすべての症例が斜位で,外斜視検出率は0%であった.IRフィルターによる片眼遮閉時の外斜視検出率は優位眼遮閉が80.0%,非優位眼遮閉は85.0%であり,両眼開放時と比べ有意に高かった(p<0.01).結論:SVSにIRフィルターを併用することで間欠性外斜視の検出率を上げることができた.Purpose:Toincreaseintermittentexotropiadetectionrateusinginfrared.lter(IR.lter)withSpotTMVisionScreener(Welchallyn,SVS).Participants:Subjectswere20individualswithintermittentexotropiawhohadnohistoryofamblyopia,withcorrectedvisualacuityof1.0ormoreandnearstereopisof60secondsorless.Meanagewas9.0±4.1,meanexodeviation24.2±10.6(10.45)distant,29.1±13.6(8.66)near.Methods:FujiFilmOpticalFilterRIR82wasusedforocclusion.ExotropiadetectionratewaspercentageofexotropiadetectedatocclusionbyIR82withbotheyesopen.Results:Eyepositionwasphoriaofallsubjectswithbotheyesopenatwhichexotropiadetectionratewas0%.Exotropiadetectionratewas80.0%withdominanteyeoccluded,85.0%withnondominanteyeoccluded,ratessigni.cantlydi.erentfromthatwithbotheyesopen(p<0.01).Conclusion:WewereabletoincreaseintermittentexotropiadetectionrateusingIR.ltertogetherwithSVS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1291.1294,2018〕Keywords:スポットビジョンスクリーナー,赤外線透過フィルター,間欠性外斜視.SpotTMVisionScreener,in-frared.lter,intermittentexotropia.はじめにSpotTMVisionScreener(VS100,Welchallyn)(以下,SVS)は,弱視のリスク因子を検出するスクリーニング用機器として開発された.短時間で屈折と斜視の検査ができるため,三歳児健康診査(以下,健診)や小児科でも使用されている.SVSは弱視のリスク因子を高い感度で検出することができるとの報告がある1.3).しかし,間欠性外斜視は正常とされることがある.間欠性外斜視は一般的には両眼視機能が良好といわれているが,恒常性外斜視に移行するものがあり4,5),両眼視機能の発達に影響をきたすことがあるため,見逃すことはできない疾患である.そこで今回,SVSによる間欠性外斜視の検出精度を上げるために,赤外線透過フィルター(以下,IRフィルター)で片眼を遮閉して測定し,外斜視の検出率と斜位の維持能力の関係を調べた.また,IRフィルターによるSVSの屈折検査への影響を調べた.〔別刷請求先〕掛上謙:〒930-0194富山県富山市杉谷2630富山大学附属病院眼科Reprintrequests:KenKakeue,DepartmentofOphthalmology,ToyamaUniversityHospital,2630Sugitani,Toyama930-0194,JAPANI対象矯正視力は両眼ともに1.0以上とし,不同視は除外した.近見立体視はTitmusStereoTest(TST)にて60秒以下で,弱視の既往がない間欠性外斜視20例を対象とした.平均年齢は9.0±4.1歳,屈折異常は自覚的屈折値の等価球面値で,右眼は.0.15±1.43(+1.50..4.50)D,左眼は.0.14±1.40(+3.25..3.38)Dであった.斜視角は交代プリズム遮閉試験で,遠見時は24.2±10.6(10.45)Δ,近見時は29.1±13.6(8.66)Δであった.基礎型18例,輻湊不全型2例,交代性上斜位が合併しているものは2例であった.IRフィルターを装用した状態でのSVSの他覚的屈折検査波長(nm)図1IRフィルターの透過率曲線波長600.1,100nmにおける各IRフィルターの透過率曲線.縦軸は透過率,横軸は波長.図中の丸はIR82を示し,波線は850nmを示す.IR82における850nmの透過率は約65%であることがわかる.注)http://fuji.lm.jp/support/.lmandcamera/download/pack/pdf/._optical.lter_001.pdfより引用し作成した.富士フイルム株式会社より掲載の許可を得た.の精度への影響を,健常者10名20眼を対象に調べた.健常者の平均年齢は21.1±1.92歳,屈折異常は自覚的屈折値の等価球面値で.1.57±2.12(+0.25..6.75)Dであった.II方法片眼遮閉には富士フイルム光学フィルターRIR82を使用した.IRフィルターは,透過限界波長によってIR76,78,80,82,84,86,88,90,92,94,96の号数が市販されている.今回使用したIR82は,おもに820nmより短い波長を吸収し,赤外線は透過するフィルターである(図1)6).SVSの測定には850nmの近赤外線のLEDが使用されており,視標は600nm未満の波長のLEDを使用している.IR82は可視光線を遮断するため,遮閉した眼は完全遮閉に近い状態になるが,SVSは測定することができる(図2).SVSのソフトウェアはバージョン3.0.02.32を使用した.眼位は斜位と外斜視に分け,SVSの結果において正常あるいは両眼が同一方向へ偏位した場合を斜位とし,一眼の角膜反射が鼻側5°,非対称性は固視眼に対し鼻上側,鼻下側のどちらかに8°以上偏位した場合を外斜視とした3,7).外斜視検出率は,対象者のうち両眼開放時およびIRフィルターで片眼遮閉時に検出された外斜視症例の割合とした.斜位の維持能力はYAMA-MOTOレッドフィルタラダー(ナイツ)を使用し測定した.視距離1mで固視眼にレッドフィルタラダーをかざし,No.1から順に暗くし,斜位が維持できなくなった手前の番号を斜位の維持能力とした.優位眼負荷と非優位眼負荷を行い,既報8,9)にならい,斜位の維持能力がNo.14以上の症例を良好群,No.13以下の症例を不良群とした.優位眼は,1mの距離でholeincardtestにより判定した.検定はFischerの正確確率検定を行い,有意水準は5%とした.III結果両眼開放時の眼位は,SVSで外斜視検出率が0%であった.IRフィルターによる片眼遮閉時の外斜視検出率は,優図2IR82とIR82を装用したときのSVSの測定画面IR82は可視光線を遮断するため,蛍光灯はIR82をかざすと見えない(a).検眼枠(左眼)にIR82を装用したときのSVSの測定画面(b)では,フィルター越しにある左眼の瞳孔は認識されている.表1眼位異常検出率表2斜位の維持能力と眼位異常検出率眼位眼位検査条件斜位(%)斜視(%)p*両眼開放20(100.0)0(0.0)優位眼遮閉4(20.0)16(80.0)<0.0001非優位眼遮閉3(15.0)17(85.0)<0.0001*Fischerの正確確率検定斜位(%)斜視(%)*p優位眼負荷良好群(n=1)0(0.0)1(100.0)不良群(n=19)4(21.1)15(78.9)0.79非優位眼負荷良好群(n=0)0(0.0)0(0.0)不良群(n=20)3(15.0)17(85.0)1.00*Fischerの正確確率検定表3SVSで斜位であった4症例の年齢,矯正視力と屈折度数,眼位,TST,斜位の維持能力年齢矯正視力眼位(c.c.)TST(秒)斜位の維持能力(FilterNo.)atfaratnear優位眼非優位眼71158RV=(1.5×+0.50D)LV=(1.5×+0.50D)RV=(1.2×.0.50D)LV=(1.5×.0.75D)RV=(1.2×.0.50D)LV=(1.2×.0.75D)RV=(1.5×+0.25Dc.0.50DAx80°)LV=(1.5×.0.25Dc.2.00DAx10°)34ΔXT30ΔXP(T)18ΔXP(T)12ΔXP(T)42ΔXP’40ΔXP’14ΔXP’14ΔXP’6060404011111012991013c.c.:cumcorrection,XP:exophoria,XT:exotropia,XP(T):exoheterohoria.位眼遮閉が80.0%,非優位眼遮閉が85.0%であり,遮閉眼にかかわらず両眼開放時と比べ有意に高かった(p<0.01)(表1).レッドフィルタラダーのフィルタ番号の平均値は,優位眼負荷が8.2±4.4,非優位眼負荷が7.3±4.0であった.レッドフィルタラダーでの斜位の維持能力は,優位眼負荷では良好群が1例,不良群は19例で,このうちIRフィルターによる片眼遮閉時にSVSで外斜視が検出できたのは,良好群で1/1例(100%),不良群で15/19例(78.9%)であった.レッドフィルタラダーでの斜位の維持能力は,非優位眼負荷では良好群は0例,不良群は20例で,IRフィルターによる片眼遮閉時にSVSで外斜視が検出できたのは良好群0/0例(0%),不良群17/20例(85.0%)であった(表2).不良群のうち,IRフィルター遮閉でSVSが斜位であった4症例の年齢,矯正視力と屈折度数,TST,斜位の維持能力を表すレッドフィルタラダーの結果を表3に示す.レッドフィルタラダーの結果は,4症例とも平均値を超えていた.SVSによる健常者の屈折異常は,IRフィルターでの遮閉時は.1.46±1.41(.0.13..5.13)Dで,非遮閉時は.1.49±1.94(0..6.38)Dであった.IRフィルターでの遮閉時と非遮閉時の屈折異常は,対応のあるt検定では有意な差はなかった(p=0.40)が,屈折誤差が最大で1.75Dの症例が存(D)2.001.501.000.500.00図3IRフィルター遮閉時と非遮閉時のSVSの屈折誤差IRフィルター遮閉時と非遮閉時のSVSの屈折誤差を絶対値で表す.在した.IRフィルターでの遮閉時と非遮閉時の屈折誤差の結果を図3に示す.IV考察両眼開放時の眼位は全例が斜位であったが,IRフィルターで片眼遮閉をすることで,外斜視は80%以上の症例が検出できた.屈折検査は,両眼開放時とIRフィルターで遮閉屈折誤差1001010.10.010.001フィルタ番号(No.)図4レッドフィルタラダーの可視光線透過率曲線縦軸は可視光線透過率を対数で表し,横軸はレッドフィルタラダーのフィルタ番号を表す.注)山本光学株式会社より可視光線透過率の数値の提供を受け作成し,掲載許可を得た.した眼では,1.75Dの誤差が生じる症例があった.SVSの他覚的屈折検査はフォトレフラクション法で,眼底からの反帰光を解析し測定している.IR82の透過率曲線をみると,850nmは透過率が約65%であることがわかる(図1).屈折検査では,IRフィルターを介すことで測定光が減弱し,影響したと思われた.IRフィルターで遮閉した眼は,優位眼と非優位眼の間に外斜視の検出率に差はなかったが,屈折検査に誤差が生じることから,IRフィルターの遮閉は左右各眼に行い,屈折検査は開放眼の屈折度数を採用するほうがよいと考えられる.斜位の維持能力と眼位異常検出率は,斜位の維持能力は良好群が少ないため,不良群のうち斜位であった4症例を検討した.4症例の,斜位の維持能力を表す数値は,平均値より高いため不良群のなかでは比較的良好と思われる.レッドフィルタラダーの可視光線透過率は,No.13は1.28%,No.14は0.152%である(図4).IRフィルターの可視光線透過率は不明で,透過率以外にもSVSのLED視標とレッドフィルタラダーの検査時の光源の違いなどがあるため,レッドフィルタラダーとIRフィルターの比較はできないが,SVSの測定ではIRフィルター遮閉で,斜位の維持能力が,とくに不良な症例を検出できる可能性が示唆された.間欠性外斜視は近見時には融像刺激が強く,斜位にもちこみやすい10).両眼開放時の外斜視検出率が0%であったのは,既報10)に加え,SVSの検査距離は1mの中間距離であるため,斜位にもちこみやすい条件なのかもしれない.健診は,視力検査だけでなく他覚的屈折検査や眼位検査が推奨されており,眼科医や視能訓練士の介入が望まれる.しかし,手間やコストなど運用上の問題があり,実際は看護師可視光線透過率(%)1234567891011121314151617や保健師など眼科専門外の職種が行うことが多い11,12).SVSはフォトレフラクション法で測定するため眼科専門職でなくとも簡便に検査ができる.健診や小児科での活躍が期待されるものの,今回の検討では間欠性外斜視は検出されないことがわかった.SVSは,本来は弱視のスクリーニング機器だが,間欠性外斜視を見逃さずに検出するためには,「眼位検査」という負担が増える.スクリーニング検査は簡便性,安全性,正確性が求められる.SVSにIRフィルターを併用した方法であれば,市販されている安価なフィルターを眼前にかざすだけで間欠性外斜視をスクリーニングすることができる.眼科専門職でなくともこの方法で容易に眼位検査精度は上がると考えられる.SVSにIRフィルターを併用することで間欠性外斜視の検出率を上げることができた.この方法は健診などで間欠性外斜視のスクリーニングに活用できる可能性がある.文献1)SilbertDI,MattaNS:PerformanceoftheSpotvisionscreenerforthedetectionofamblyopiariskfactorsinchildren.JAAPOS18:169-172,20142)GarryGA,DonahueSP:ValidationofSpotscreeningdeviceforamblyopiariskfactors.JAAPOS18:476-480,20143)PeterseimMMW,DavidsonJD,TrivediRetal:DetectionofstrabismusbytheSpotVisionScreener.JAAPOS19:512-514:20154)中川順一,吉川洋:外斜視の構造,恒常性外斜視との関係.臨眼14:473-482,19605)岩重博康:間歇性外斜視の病態と分類.眼科27:433-438,19856)富士フイルム株式会社,FUJIFILMPHOTOHANDBOOK11ページhttp://fuji.lm.jp/support/.lmandcamera/download/pack/pdf/._optical.lter_001.pdf(最終検索日:2017年11月28日)7)DonahueSP,ArthurB,NeelyDEetal:Guidelinesforautomatedpreschoolvisionscreening:a10-year,evi-dence-basedupdate.JAAPOS17:4-8:20138)細畠淳,葵由喜,杉本早紀ほか:外斜視患者の融像力のRedFilterBarによる評価.眼臨98:1206-1209,19979)谷本旬代,松本富美子,大牟禮和代ほか:間歇性外斜視における斜位の維持能力の検討.眼紀52:795-799,200110)大川忠,福士直子:間歇性外斜視の研究第2報両眼視機能について.眼紀28:1271-1279,197711)中村桂子,丹治弘子,恒川幹子ほか:三歳児眼科検診の現状.日本視能訓練士協会によるアンケート調査結果.眼臨101:85-90,200712)日本眼科医会公衆衛生部(福田敏雅):三歳児眼科健康診査調査報告(V)─平成24年度.日本の眼科85:296-300.2014***

黄斑偏位を生じた後天性眼トキソプラズマ症の2例

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1286.1290,2018c黄斑偏位を生じた後天性眼トキソプラズマ症の2例山本美紗平森由佳古川真二郎渡邊浩一郎寺田佳子原和之地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立広島市民病院眼科CTwoCaseofAcquiredToxoplasmosiswithDraggedMaculaMisaYamamoto,YukaHiramori,ShinjiroFurukawa,KoichiroWatanabe,YoshikoTeradaandKazuyukiHaraCDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHiroshimaCitizensHospital目的:後天性眼トキソプラズマ症の経過中に黄斑偏位を生じた症例の報告.症例:症例C1:73歳,男性.右眼眼トキソプラズマ症を疑われ,精査加療目的で当院受診.初診時,右眼網膜上方血管アーケードに白色病巣が認められた.血液検査でトキソプラズマCIgM抗体価の上昇を認め,後天性眼トキソプラズマ症と診断した.初診時より約C2カ月後,黄斑および病巣周囲に網膜上膜が認められ,黄斑の上方偏位を生じた.症例2:64歳,男性.右眼ぶどう膜炎を疑われ,精査加療目的で当院受診.初診時,右眼網膜血管アーケード下方に白色病巣が認められた.血液検査でトキソプラズマCIgGおよびCIgM抗体価の上昇を認め,後天性眼トキソプラズマ症と診断した.初診時より約C1カ月半後,右眼網膜全.離を発症した.硝子体手術後,網膜は復位したが黄斑下方偏位を認め,複視を自覚した.結論:眼トキソプラズマ症の合併症により黄斑偏位を生じた症例を経験した.CPurpose:Toreporttwocasesofdraggedmaculawithacquiredtoxoplasmosis.Case:Case1:A76-year-oldmalewithsuspectedtoxoplasmosisinhisrighteye.Fundusexaminationrevealedanexudativewhitelesionclosetothesuperotemporalarcadeoftherighteye.Inaddition,anti-toxoplasmaIgMlevelwaselevated.Acquiredtoxo-plasmosiswasdiagnosed.After2months,epiretinalmembraneoverthewhitelesionandsuperiorlydraggedmacu-lawereobserved.Case2:A64-year-oldmalewithsuspecteduveitisinhisrighteye.Fundusexaminationshowedanexudativewhitelesionclosetotheinferotemporalarcade.Inaddition,anti-toxoplasmaIgMandIgGlevelswereelevated.CAfterC1Cmonth,CretinalCdetachmentCoccurredCinCtheCrightCeye.CParsCplanaCvitrectomyCforCretinalCdetach-mentCwasCperformed.CAfterCsurgery,CtheCpatientCperceivedCverticalCdiplopia.CInferiorlyCdraggedCmaculaCwasCobserved.Conclusion:Weexperienced2casesofdraggedmaculawithacquiredtoxoplasmosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1286.1290,C2018〕Keywords:後天性眼トキソプラズマ症,黄斑偏位,網膜上膜,網膜.離,複視.acquiredtoxoplasmosis,draggedmacular,epiretinalmembrane,retinaldetachment,diplopia.Cはじめに眼トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫が網脈絡膜内の細胞に寄生することによって発症するぶどう膜炎である1,2).感染様式には先天性と後天性があり,後天性は通常片眼性で,炎症の活動期に黄斑部または網膜周辺部に白色の滲出性病巣が出現する.消炎後,病巣は色素沈着を伴う瘢痕病巣となる1.3).治療に抵抗した場合,病巣や黄斑部の網膜,硝子体には炎症の波及によると考えられる続発症状を伴い,増殖性変化,牽引性網膜.離,新生血管などの合併症が報告されている2,4,5).今回筆者らは,経過中に黄斑偏位を生じた後天性眼トキソプラズマ症を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕73歳,男性.2週間前からの右眼の霧視に対して近医を受診したところ,右眼の眼圧はC28CmmHg,前房細胞,硝子体混濁および網膜に白色病巣が認められ,0.5%マレイン酸チモロール点眼,ベタメタゾン点眼およびベタメタゾンC1.5Cmg内服/日で治療が開始された.6日後,眼底所見は悪化し,採血結果から眼トキソプラズマ症を疑われ,精査加療目的で当院を紹介〔別刷請求先〕山本美紗:〒730-8518広島市中区基町C7-33地方独立行政法人広島市立病院機構広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:MisaYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHiroshimaCitizensHospital,7-33Motomachi,Naka-ku,Hiroshima730-8518,JAPAN1286(130)ab受診した.既往歴に胃癌,食道癌,咽頭癌にそれぞれ手術歴があった.初診時所見,矯正視力は右眼C0.8,左眼C1.0.眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C12CmmHgであった.右眼は角膜後面沈着物を認め,眼底に硝子体混濁および網膜血管アーケード上方の白色病巣が認められた(図1a).前房細胞は認められなかった.左眼に特記すべき異常はなかった.血液検査では,トキソプラズマCIgM抗体価がC3.0CIU/mlと高値であり後天性眼トキソプラズマ症と診断した.ベタメタゾン点眼を継続し同日アセチルスピラマイシンC800Cmg/日の内服を開始した.ベタメタゾン内服は眼所見が悪化傾向であることより中止した.5日後,症状に改善が認められず,クリンダマイシンC600Cmg/日に変更した.グリンダマイシン内服C23日後より,自覚症状の改善が認められ角膜後面沈着物,硝子体混濁ともに改善し,白色病巣の縮小が認められた.その後,図1症例1の眼底写真およびOCT像a:初診時,網膜上方血管アーケードに白色病巣が認められる(.).Cb:初診時から約C2カ月半後,網膜上膜を認め,病巣側の網膜の層構造が不整である(.).Cc:病巣部位では感覚網膜と色素上皮層の層構造が破壊され,後部硝子体膜と瘢痕病巣の癒着が認められる(.).C眼所見は改善傾向であったが初診時よりC76日後,視力は(0.4)に低下した.光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)では黄斑部の網膜上膜,分層円孔が認められた(図1b).また,病巣周囲の網膜に皺襞と黄斑部の上方偏位が認められた.病巣部位のCOCT像では,感覚網膜の層構造が破壊されており,後部硝子体膜の肥厚および瘢痕病巣との癒着が認められた(図1c).〔症例2〕64歳,男性.約C1カ月前から右眼霧視を自覚.近医で右眼の眼圧がC30mmHgであり,ぶどう膜炎および続発緑内障としてC2%カルテオロール塩酸塩およびベタメタゾンン点眼により治療されていた.ぶどう膜炎の改善が認められず精査加療目的で当院を紹介受診した.既往歴に糖尿病があった.初診時所見,矯正視力は右眼C0.6,左眼C1.0.眼圧は右眼C16.5CmmHg,左acbd眼C15CmmHgであった.右眼は前房細胞を認め,眼底に,硝子体混濁および網膜血管アーケード下方の白色病巣が認められた(図2a).左眼に特記すべき異常はなかった.血液検査で,トキソプラズマCIgG抗体価C240CIU/ml,トキソプラズマIgM抗体価C6.8CIU/mlであり,後天性眼トキソプラズマ症と診断した.点眼は継続し同日アセチルスピラマイシン800Cmg/日の内服を開始した.13日後,症状に改善が認められず,内服薬をクリンダマイシンC600Cmg/日に変更した.さらにC11日後の再診時には,前房細胞,硝子体混濁ともに消失し,白色病巣の縮小が認められた.また,OCTでは病巣周囲に網膜上膜が認められた(図2b).クリンダマイシン図2症例2の眼底写真およびOCT像a:初診時,硝子体混濁および網膜血管アーケード下方に白色病巣が認められる(.).Cb:初診から約C1カ月後,白色病巣の縮小が認められ,黄斑部下方に網膜上膜が認められる(.).Cc:術中,後極網膜に病巣を中心とした網膜皺襞が観察される.Cd:術後,網膜は復位し,網膜上膜が認められる.内服の継続により眼所見の改善が認められていたが,初診時よりC42日後,右眼の急激な視力低下を自覚した.矯正視力はC0.05であった.右眼は網膜全.離を生じており,耳側硝子体基底部近傍に弁状の網膜裂孔を認めた.超音波CBモード検査では後部硝子体.離が生じていると思われた.網膜.離に対して硝子体手術が施行された.硝子体切除を行い,意図的裂孔を上方アーケードに作製し網膜下液を排出した.術中,病巣部網膜は色素上皮と癒着しており可動性を認めなかった(図2c).また,明らかな増殖膜,硝子体の癒着は認められなかった.耳側網膜の弁状裂孔は後部硝子体.離による牽引に伴うものと思われた.液-空気置換後,裂孔周囲に網C膜光凝固術を行い,合併症なく網膜は復位した.術後C3週間で矯正視力は(0.8)に改善したが,上下複視を自覚した.眼位は右眼固視,左眼固視ともにC6CΔ右眼上斜視,3°外方回旋斜視であった.眼球運動は正常であり,むき眼位による複像間距離の変化は認められなかった.右眼のCOCTでは黄斑部を含む病巣周囲に網膜上膜が認められた(図2d).また,右眼の眼底に下方網膜の瘢痕病巣を中心とした皺襞と黄斑の下方偏位が認められた(図3).網膜.離前の眼底写真と比較して,画像上,黄斑の下方偏位量は約C3.6°であった.右眼C4CΔ基底下方の眼鏡装用で複視は消失し,自覚症状の改善が得られた.CII考按後天性眼トキソプラズマ症の視力予後は病巣が黄斑部に及ぶ場合を除いて良好であるとされているが,黄斑上膜や裂孔原性網膜.離などの合併症が報告されている2,5.7).合併症の原因については炎症の波及と考えられており,ステロイドの投与が推奨されている8).しかし,抗菌薬投与前のステロイドの投与は原虫の増殖を促進するとされており,ステロイドの使用は抗菌薬の投与後に併用して行う必要がある.本症例においては,症例C1では眼トキソプラズマ症の診断以前にステロイドの使用が行われており病態が悪化していた.抗菌薬内服後,眼所見に改善が認められなければステロイド内服の再開を予定していたが,改善が認められたため内服は行わなかった.症例C2では糖尿病を罹患しており,ステロイド内服は行わなかった.2例ともに抗菌薬投与後のステロイド内服は行っておらず,炎症が黄斑上膜や,網膜裂孔形成に関与した可能性はある.しかし,網膜裂孔については,術中所見より後部硝子体.離による牽引が原因であると考えた.眼トキソプラズマ症に特徴的な眼底所見である白色の滲出性病巣は,感染初期から認められる.炎症により病巣の網膜全層が破壊され,消炎とともに色素沈着を伴う瘢痕病巣となる3).病巣におけるCOCT像は,急性期には網膜表層から深層が高輝度に描出される.消炎後の瘢痕病巣でも高輝度所見は持続し,感覚網膜の組織破壊による層構造の乱れや,外境界膜とCelipsoidCzoneの消失,色素上皮の萎縮が観察される9.11).後部硝子体.離は病巣周囲では認められるが,病巣部では網膜との癒着が生じるとされている11).症例C1の病巣部を撮影したCOCT像においても,網膜と硝子体に既報と同様の変化が認められた.今回筆者らが経験したC2症例はいずれも病巣側への黄斑偏位が認められた.症例C1の黄斑部を撮影したCOCT像では,網膜内層の皺や.胞様変化の程度が中心窩から病巣側にかけて強く認められた(図1b).また,病巣周囲の網膜に皺襞が認められており,上方への黄斑偏位は病巣を中心とした網膜上膜によるものと考えられた(図1c).症例C2では,網膜全図3症例2の術後眼底写真右眼下方網膜の瘢痕病巣を中心とした皺襞と黄斑の下方偏位が認められる..離の術後に黄斑偏位を生じた.過去にも,眼トキソプラズマ症の経過中に網膜.離を合併した報告はある6,7).しかし,それらの報告では術後の黄斑偏位は生じておらず,網膜.離が黄斑偏位の直接の原因であるとは考えにくい.術前画像と比較すると,中心窩と病巣の距離は術後に近くなっている.術中所見から,病巣部網膜の感覚網膜と色素上皮の癒着が認められており,病巣の位置は.離前後で変化せず,黄斑部が病巣に向かって偏位したと考えられる.また,画像上,病巣周囲の網膜に病巣を中心とした網膜偏位が認められる.病巣周囲には皺襞が認められており,症例C1と同様に網膜上膜の収縮が生じていると考えられた.網膜偏位の原因は.離した網膜の可動性が増し,復位する際に網膜上膜の収縮による影響を受けたためであると考えた.症例C2は,手術後に複視を生じた.臨床的に後天性の両眼性の複視ではおもに,眼筋麻痺によるものが疑われる.しかし,眼球運動は正常であり,むき眼位による複像間距離の変化がなかったことから,麻痺性斜視は否定的であると考えた.網膜.離の手術後に複視が出現した症例の多くは強膜内陥術によるものであり,今回は術中に外眼筋の操作は行っておらず手術による侵襲も否定的であると考えられた.眼底写真を用いた計測では,網膜.離後の黄斑の下方偏位量は約3.6°であった.斜視角と眼底写真上の偏位量はおおむね一致しており黄斑偏位が複視の原因であると考えられた.今回,筆者らは眼トキソプラズマ症の経過中に黄斑偏位を生じたC2例を経験した.黄斑偏位の発症には瘢痕病巣における網膜上膜の関与が考えられた.眼トキソプラズマ症ではさまざまな合併症を伴う.合併症により黄斑偏位を生じ,複視を自覚する場合もあるため,慎重な経過観察が必要である.文献1)蕪城俊克:眼トキソプラズマ症.臨眼70:248-253,C20162)Ore.ceCF,CVasconcelos-SantosCDV,CCordeiroCACCetCal:Toxoplasmosis.In:Diagnosis&treatmentofuveitis(editC-edCbyCFosterCCS,CVitaleCAT)C,C2ndCed,Cp543-568,CJaypee-Highlights,USA,20133)AgarwalCA:ToxoplasmosisCRetinitis.CIn:GassC’CatlasCofmacularCdiseases(editedCbyCAgawalCA)C,C5thCed,Cvol.2,Cp848-857,Elsevier,London20124)春田恭照:トキソプラズマ網脈絡膜炎.眼科C41:1427-1433,C19995)BelfortRJr,SilveriaC,MuccioliC:Oculartoxoplasmosis.In:Retina(editedbyRyanSJ,SchachatAP,SaddaSVR)C,vol.2,p1494-1499,Elsevier,London,20136)葉多野孝,根路銘恵二,松村哲ほか:眼トキソプラズマ症に続発した網膜.離治療のC1例.眼紀C49:964-966,C19987)佐藤修司,沖波聡,吉貴弘佳ほか:裂孔原性網膜.離を伴ったトキソプラズマ網脈絡膜炎のC1例.眼紀C57:605-608,C20068)丸山和一:眼トキソプラズマ症.所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編),p209-213,医学書院,20139)蕪城俊克:画像検査.あたらしい眼科28:477-482,C201110)ChoDY,NamW:Acaseofoculartoxoplasmosisimagedwithspectraldomainopticalcoherencetomography.Kore-anJOphthalmolC26:58-60,C201211)GoldenbergD,GoldsteinM,LoewensteinAetal:Vitreal,retinal,CandCchoroidalC.ndingsCinCactiveCandCscarredCtoxo-plasmosisClesions:aCprospectiveCstudyCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:2037-2045,C2013***

多焦点眼内レンズの挿入を検討している患者に対する多施設アンケート調査

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1281.1285,2018c多焦点眼内レンズの挿入を検討している患者に対する多施設アンケート調査ビッセン宮島弘子*1南慶一郎*1神前太郎*2吉田伸利*2*1東京歯科大学水道橋病院眼科*2日本アルコン株式会社CMulti-siteQuestionnaireSurveyofJapaneseCandidatePatientsforMultifocalIntraocularLensImplantationHirokoBissen-Miyajima1),KeiichiroMinami1),TaroKanzaki2)andNobutoshiYoshida2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2)AlconJapanLtd.多焦点眼内レンズ(IOL)を検討している患者C238名に対して,11施設にてアンケート調査を行い,眼鏡使用状況,白内障により困っている動作と改善したい動作,簡単な説明提示前後における多焦点CIOLに関する理解度,手術費用の提示前後における関心度を調査した.眼鏡装用はC87.4%,遠方ないしは近方視力が必要な動作で不便という回答が45.67%,中間距離でC29.31%,改善したい割合も同程度であった.多焦点CIOLにより眼鏡依存度が減ることに対する理解度は高かった.ハロー,グレア,コントラスト感度低下などの多焦点CIOLの不具合を理解していたのは半数以下と低かったが,調査用紙にて簡単な説明を提示後,不具合への理解度は改善していた.関心度は,費用提示前がC75%であったが,提示後はC54%に減っていた.本調査から,多焦点CIOLの特徴を十分理解してもらうためには,1回の説明ではなく,繰り返しの説明が有効であると考えられた.SurveyCofC238CcandidatesCforCmultifocalCintraocularClens(MF-IOL)implantationCwasCperformedCatC11Csites.Questionnaireincludedspectacledependency,di.cultyofdailyactivitiesandactivitiespatientshopedtoimprove;CunderstandingCofCbene.tsCandCriskCofCMF-IOLCandCitsCimprovementCafterCbriefCexplanation,CandCe.ectCofCsurgerycostonMF-IOLpreference.Ofthepatients,87.4%werespectacledependent;two-thirdsexperienceddi.cultiesandCwantedCtoCimproveCnearCandCdistanceCvision-relatedCactivities.CThisCdecreasedCtoCone-thirdCwhenCitCcameCtoCactivitiesCregardingCintermediateCvision.CBene.tsCofCMF-IOLCwereCwellCunderstood,CwhileCcomplicationsCsuchCasChalo,glareanddecreasedcontrastsensitivitywereunderstoodbylessthanhalf,whichratioimprovedwithaddi-tionalCexplanation.CMF-IOLCwereCacceptedCbyC75%,CthisCrateCdroppingCtoC54%CafterCshowingCsurgeryCcost.CForCimprovingpatientsatisfaction,repeatedexplanationofMF-IOL’sdrawbacks,aswellasbene.ts,ise.ective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1281.1285,C2018〕Keywords:多焦点眼内レンズ,アンケート調査,患者理解度.multifocalintraocularlens,questionnairesurvey,patientunderstanding.Cはじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を用いた水晶体再建術は,遠方に加え近方においても,良好な裸眼視力を得ることが期待できる1,2).わが国では,2008年に先進医療として承認され,実施施設は年々増加し,2017年C8月時点でC580施設以上が登録され,先進医療として使用されている多焦点CIOL挿入例は,厚生労働省先進医療会議資料の2016年度実績報告(2015年C7月.2016年C6月)でC11,478例と報告されている.一方,厚生労働省レセプト情報・特定健診等情報データベースによれば,単焦点CIOLを.内に挿入する水晶体再建術例はC2015年度でC1,453,747例であり,多焦点CIOLの普及率はわずかC0.7%程度である.先進医療の対象とならない国内未承認の多焦点CIOLも使用されているが,それを含めても1%未満と推察される.〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Kanda-misaki-cho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPAN普及率が低い要因として,白内障患者の理解度の低さ,遠近とも良好な裸眼視力の必要性の低さ,保険適用外のため自費負担が大きいこと,グレア,ハロー,コントラスト感度の低下など多焦点CIOL特有の術後不具合などがあげられる.しかし,挿入後の不満例3,4),摘出例5)については検討されているが,多焦点CIOLを検討している患者に対して,IOLに関する理解度,関心度,および選択する要因などについての調査はなされていない.そこで,多焦点CIOLを検討している患者に対して,アンケート調査を多施設で行った.CI対象および方法アンケートの調査対象は,白内障により水晶体再建術が予定され,多焦点CIOLを検討し,これに関する説明を受けた患者とした.2016年C11.12月にC11施設(稲村眼科クリニック,大内眼科,岡眼科クリニック,クイーンズアイクリニック,高槻病院眼科,多根記念眼科病院,ツカザキ病院眼科,トメモリ眼科・形成外科,東京歯科大学水道橋病院眼科,藤田眼科,フジモト眼科)にて,説明後に調査票C240部を配布した.調査票は,患者背景(年齢,性別など)に加えて,表1に示す項目を順に質問,提示した.Q1は患者の眼鏡使用状況,Q2は白内障により困っている動作と,手術によって改善したい動作と,患者の背景に関する質問とした.Q3では,多焦点CIOLの利点と懸念点の理解度を調べた.次に,多焦点CIOLの特徴と費用の簡単な説明を提示した後,多焦点CIOLの期待と懸念に関して質問した(Q5).また,患者が支払う手術費用を提示する前後において多焦点CIOLへの関心度を聞き,費用による影響も調べた(Q4,6,7).調査票の記入は患者自身が行い,第三者機関の調査会社に直接郵送し,そこで開封され集計された.CII結果回収された調査票は配布したC240部中C238部(238名)であった.患者の性別は,男性C93名(39%),女性C140名(59%),未回答C5名,年齢は,40歳未満C6名,40歳代C10名,50歳代32名,60歳代84名,70歳以上99名,未回答7名と,60歳以上がC77%を占めた.眼鏡装用状況(Q1)は,全距離で不使用はC30名(12.6%),1カ所の距離のみで使用は68名(28.6%),2カ所以上の距離で使用はC140名(58.8%)であった.遠方,中間,近方の各距離における眼鏡装用を図1に示す.不使用の回答は近方視でもっとも少なかった.図2は,白内障により困っている動作と,手術によって改善したい動作(Q2)の回答結果である.遠くを見る,信号を見るといった遠方視と,本を読む,パソコンを使うといった近方視における動作が不便と感じている回答がC45.67%,手術により,これらの改善を望む割合もC49.63%と同様であった.一方,身だしなみ,カーナビ,足元といった中間距離での動作に対して不便を感じるのがC29.31%,これらの改善を望む割合はC35.37%であった.多焦点CIOLを挿入する白内障手術に関して(Q3,図3),多焦点CIOLの効果を得るために費用が増加することについてはC82%の患者が理解していたのに対して,グレア,ハロー,ぼやける,かすむといった多焦点CIOLに特有の不具合があることに関しては,よく理解していると回答したのが50%以下と理解度は低かった.アンケート設問途中に,白内障手術における単焦点CIOLと多焦点CIOLの特徴を図と文章で記載した簡単な説明文を入れ(表1),この追加説明後における多焦点CIOLへの期待と懸念(Q5)の回答結果を図4に示す.眼鏡使用頻度が減るという多焦点CIOLの効果への期待がC90%近くであった.多焦点CIOLの懸念点であるグレア,ハロー,コントラスト感度低下に対しても,8.9割の患者が気になると回答したが,各質問に対して,気になる,気にならないのC2択の回答が96%以上から得られ,未回答が減り,追加説明により不具合に関する理解度は改善した.図5は単焦点,多焦点CIOLへの関心度(Q4,6)の結果である.手術費用を提示する前は,多焦点CIOLへの関心度(できれば選びたい,あるいは,どちらかと言えば選びたい)は,単焦点CIOLに関心があるC45%と比べて,75%と高かった.両CIOLに必要な手術費用を提示した後では,多焦点CIOLへの関心度はC54%と低下し,単焦点CIOLを選択する患者はC58%に増加した.多焦点CIOLに対して許容できる費用(Q7)は,29万円以下がC60%,30万円以上がC23%,費用にかかわらず多焦点IOLを選択しないがC12%であった.CIII考按多焦点CIOLについて,臨床成績や満足度が検討されているが,興味がある患者の背景や理解度などに関する検討は,筆者らの知る限りない.白内障手術において,多焦点CIOLの普及が低い要因として,白内障患者の多焦点CIOLへの理解度が低いこと,裸眼において良好な遠方および近方視力の必要性が低いこと,保険適用でなく先進医療あるいは自費のため費用負担が大きいこと,グレア,ハロー,コントラスト感度の低下など多焦点CIOL特有の術後不具合がありうることなどが考えられる.本調査は各施設におけるCIOL説明後に行ったにもかかわらず,多焦点CIOLの効果に対する理解度は高いが,術後不具合について,あまり理解されていないことが回答結果からわかった.また,費用負担が大きくなることによって,多焦点CIOLへの関心度が低下することが確認された.多焦点CIOLを検討している患者の術前眼鏡使用率はC87.4表1アンケート調査票の質問内容Q1.術前の眼鏡装用(常に使用;必要時;使用しないのC3択)①本を読む,新聞を読むなど(30.40Ccm程度の近見視時)②パソコン画面の文字を見るなど(50.100Ccm程度の中間視時)③運転時の道路標識を見るなど(遠見視)Q2.白内障により困っている動作と,手術によって改善したい動作①本や新聞,雑誌などを読む②パソコン(iPadやタブレットを含む)を使う③身だしなみを整える(ひげ剃り,化粧,など)④運転中にカーナビを見る⑤足元を確認する(例えば,段差のある場所がみづらい,など)⑥信号や道路標識等の看板を見る⑦遠くを見る(ゴルフ時など)⑧とくにないQ3.白内障手術に関する理解度(よく理解している;あまり理解していない;聞いたことがないのC3択)①眼内レンズには単焦点と多焦点のC2種類がある②単焦点CIOLに比べ,多焦点CIOLを選択すると手術費用の負担が高くなる③単焦点CIOLでは,読書時などに眼鏡を使う必要が生じる④多焦点CIOLでは,日常生活で眼鏡を使う頻度が減る⑤多焦点CIOLでは,グレア(強い光をまぶしく感じる),ハロー(光の周辺に輪がかかって見える)が生じることがある⑥多焦点CIOLでは,「ぼやける」,「かすむ」といった見えづらい症状が起こることがある白内障手術と,単焦点と多焦点CIOLの簡単な説明の提示Q4.両CIOLの特徴のみ(費用を考慮しない)における関心度(できれば選びたい;どちらかと言えば選びたい;どちらかと言えば選びたくない;できれば選びたくないのC4択)①単焦点CIOL②多焦点CIOLQ5.多焦点CIOLに対する期待と懸念①日常生活で眼鏡を使用する頻度が減る(期待している;期待していないのC2択)②グレア,ハローが生じることがある(気にならない;気になるのC2択)③見えづらい症状が起こることがある(気にならない;気になるのC2択)Q6.費用を提示後の患者の関心度(できれば選びたい;どちらかと言えば選びたい;どちらかと言えば選びたくない;できれば選びたくないのC4択)①単焦点CIOL②多焦点CIOLQ7.多焦点CIOLに対して許容できる費用①C29万円以下②C30万円以上③費用に関わらず多焦点CIOLを選択しない常用■必要時■不使用■未回答期待あり■期待なし■未回答眼鏡を使用する頻度が減る近見視中間視遠方視0%20%40%60%80%100%グレア,ハローが生じることがある0%20%40%60%80%100%見えづらい症状が起こる図1術前の眼鏡装用ことがある0%20%40%60%80%100%0%20%40%60%80%100%図4簡単な説明後の多焦点IOLに対する期待と懸念本や新聞,雑誌などを読むパソコンを使う身だしなみを整える運転中にカーナビを見る足元を確認する信号や道路標識などの看板を見る遠くを見るとくにない67%63%48%49%29%困っている動作37%■改善した動作31%35%29%36%50%51%45%51%9%5%■どちらかといえば選びたくない■できれば選びたくない■未回答多焦点IOL単焦点IOL費用提示前費用提示前0%20%40%60%80%100%費用提示前費用提示前58%17%14%8%33%21%25%18%眼内レンズには単焦点と6%多焦点の2種類がある調査結果より,多焦点CIOLの効果に対する理解度は高い多焦点IOLでは,手術費用7%ことがわかり,各施設で行っている説明会などが有効と考えの負担が高くなるられた.一方,グレア,ハロー,コントラスト感度の低下な単焦点IOLでは,読書など6%に眼鏡を使う必要が生じるどが理解されていないことがわかり,この点は改善されるべ多焦点IOLでは,日常生活で6%きと考える.術後不満例の主因は,コントラスト感度低下に起因する視機能低下で3,4,7,8),多焦点IOL摘出例の原因でハローが生じることがあるwaxyvisionがもっとも多かったことからも明らかである5).多焦点IOLでは,「ぼやける」,「かすむ」といった見えづらい術後に不満を訴える,あるいは摘出に至る例を少なくするために,患者が術前に多焦点CIOL特有の不具合を理解するこ図3白内障手術に関する理解度%と高かった.LaserinCsituCkeratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術を受けた患者では,白内障術後も眼鏡に依存しない良好な遠方および近方裸眼視力を望むため,多焦点IOLの希望が多い傾向にある6).一方,本対象の高い術前眼鏡使用率は,屈折矯正手術歴が少なかったことを示している.そのことは,屈折矯正手術を受けていなくても,術後もとが重要である.本調査で,回答の間に簡単な説明を追加し(図1),その後の調査で理解度が上がっていることが確認できた.このことから,多焦点CIOLの特徴を十分理解してもらうためには,1回の説明ではなく,簡単な特徴をまとめた文章を使ってでもいいので,繰り返しの説明が有効であることが示唆された.今回は,多焦点CIOLを検討している患者に対する調査であったため,費用提示前の関心度がC75%と高かった.保険適用の単焦点CIOLを用いた手術との費用差を提示すると,多焦点CIOL希望者は約C3割減少した.多焦点CIOLの希望は,患者が期待する術後視力,先進医療特約が使える医療保険に加入しているかによって回答は異なるが,多焦点CIOLに興味があっても,費用面により単焦点CIOLを選択する例が多いことがわかった.白内障患者の多焦点CIOL挿入後の裸眼遠方および近方視力の改善に対しては多くの報告があるが1,2),費用対効果の分析は,米国や台湾で眼鏡不要の点から検討されているのみである9,10).わが国では,単焦点CIOLを挿入する白内障手術の費用対効果が分析されているのみである11).患者に多焦点IOLの効果に見合った費用負担であることを理解してもらうためには,術後の遠方および近方視力と満足度の評価を含め,わが国における費用対効果の評価が望まれる.本アンケート調査は,AlconLaboratories,Inc.の補助金のもとに実施された.文献1)AlioCJL,CPlaza-PucheCAB,CFernandez-BuenagaCRCetCal:Multifocalintraocularlenses:Anoverview.SurvOphthal-molC62:611-634,C20172)deCSilvaCSR,CEvansCJR,CKirthiCVCetCal:MultifocalCversusCmonofocalCintraocularClensesCafterCcataractCextraction.CCochraneDatabaseSystRevC12:CD003169,C20163)deVriesNE,WebersCA,TouwslagerWRetal:Dissatis-factionafterimplantationofmultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurgC37:859-865,C20114)ビッセン宮島弘子,吉野真未,大木伸一ほか:回折型多焦点眼内レンズ挿入後不満例の検討.あたらしい眼科C30:C1629-1632,C20135)KamiyaCK,CHayashiCK,CShimizuCKCetCal:MultifocalCintra-ocularClensCexplantation:aCcaseCseriesCofC50Ceyes.CAmJOphthalmolC158:215-220,C20146)吉野真未,南慶一郎,平沢学ほか:LaserCinCsituCker-atomileusis(LASIK)術後多焦点眼内レンズ挿入眼の術後成績.日眼会誌119:613-618,C20157)WoodwardCMA,CRandlemanCJB,CStultingCRD:Dissatisfac-tionCafterCmultifocalCintraocularClensCimplantation.CJCCata-ractRefractSurgC35:992-997,C20098)GalorCA,CGonzalezCM,CGoldmanCDCetCal:IntraocularClensCexchangeCsurgeryCinCdissatis.edCpatientsCwithCrefractiveCintraocularlenses.JCataractRefractSurgC35:1706-1710,C20099)MaxwellWA,WaycasterCR,D’SouzaAOetal:AUnitedStatescost-bene.tcomparisonofanapodized,di.ractive,presbyopia-correcting,CmultifocalCintraocularClensCandCaCconventionalmonofocallens.JCataractRefractSurgC34:C1855-1861,C200810)LinJC,YangMC:Cost-e.ectivenesscomparisonbetweenmonofocalandmultifocalintraocularlensimplantationforcataractCpatientsCinCTaiwan.CClinCTherC36:1422-1430,C201411)HiratsukaCY,CYamadaCM,CMurakamiCACetCal:Cost-e.ec-tivenessCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CJpnCJCOphthalmolC55:333-342,C2011***

増大する虹彩囊腫に対し初回治療として囊腫壁切除と白内障の同時手術を行った1例

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1276.1280,2018c増大する虹彩.腫に対し初回治療として.腫壁切除と白内障の同時手術を行った1例芝原勇磨田邊樹郎藤野雄次郎譚雪間山千尋JCHO東京新宿メディカルセンター眼科CACaseReportofaPatientwithaGrowingIrisCystReceivingSurgicalCystectomyandSimultaneousCataractSurgeryasInitialTreatmentYumaShibahara,TatsuroTanabe,YujiroFujino,SetsuTanandChihiroMayamaCDepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthcareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter目的:原発性虹彩.腫の治療法には穿刺吸引やレーザー治療,外科的切除などがあるが,穿刺吸引やレーザーでは術後再発や続発緑内障の報告も多い.今回,初回治療として.腫壁切除と白内障の同時手術を行い良好な結果を得たC1例を経験したので報告する.症例:45歳,男性.右眼羞明を主訴に受診した.右眼は下方の虹彩根部に.腫があり,瞳孔は上方へ偏位していた.初診からC4カ月間で腫瘤が増大して角膜内皮に接触し,併発白内障により視力も低下したため治療適応と判断した.剪刀と硝子体カッターを用いた.腫壁切除と白内障の同時手術を行い,病理組織から原発性虹彩実質内.腫と診断した.術後視力は良好で,術後C8カ月の時点まで炎症や高眼圧,.腫の再発などの合併症は認めていない.考按:外科的切除は.腫の再発や眼圧上昇といった合併症のリスクが少なく,白内障併発症例においては.腫壁切除と白内障の同時手術は根治的治療法として有用であると考えられた.CPurpose:Iriscystscanbetreatedbyneedleaspirationorlasertreatment,butpostoperativerecurrenceand/CorCsecondaryCglaucomaCareCoccasionalCcomplications.CWeCreportCaCcaseCofCirisCcystCreceivingCsurgicalCcystectomyCandsimultaneouscataractsurgeryasinitialtreatment.Casereport:A45-year-oldmalewithacystinthelowersectionCofCtheCperipheralCirisCofChisCrightCeyeCpresentedCtoCtheCclinic.CTheCcystCenlargedCwithinCfourCmonthsCaftercontactingthecornealendothelium;visualacuitywasalsoimpairedbycomplicatedcataract.Surgicalcystectomyusingscissorsandavitreouscutter,andsimultaneouscataractsurgerywereperformed;thepathologicaldiagnosiswasprimaryirisstromalcyst.Visualacuityimprovedwithoutrecurrence,in.ammationorsecondaryglaucoma,foreightmonthsafterthesurgery.Conclusion:Surgicalresectionandcataractsurgeryisane.ectiveoptionincasesofiriscystwithcomplicatedcataract.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1276.1280,C2018〕Keywords:虹彩.腫,白内障,前眼部光干渉断層計,切除手術.iriscyst,cataract,anteriorsegmentalopticalcoherencetomography,surgicalresection.Cはじめに虹彩.腫はその原因により先天性,寄生虫性,外傷性,滲出性,縮瞳薬による薬剤性,特発性に分類される1).手術・外傷後に発生する外傷性虹彩.腫が比較的多く,特発性のものはまれである.虹彩.腫は,その大きさの増大に伴い,角膜内皮障害,虹彩毛様体炎,続発緑内障,併発白内障などの合併症を生じうるため2.9),外科的切除,レーザー光凝固,穿刺吸引などの治療が選択される2.9).しかし,レーザー光凝固や穿刺吸引では治療後の再発や続発緑内障などの合併症が比較的高率に生じ2,7,9),外科的切除ではそれらの合併症の可能性がより低いと考えられる.白内障を伴う症例に対して外科的切除と同時に白内障手術を行った報告7)があるが,当初レーザー治療がC2回行われた後に再発を繰り返したため,最終的な治療法として.腫壁切除と白内障の同時手術が施行〔別刷請求先〕芝原勇磨:〒162-8543東京都新宿区津久戸町C5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:YumaShibahara,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthcareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudocho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN1276(120)されている7).今回筆者らは.腫が増大傾向を示し,内容物が粘稠と考えられたため,初回治療として.腫壁切除と白内障の同時手術を行い有効であった原発性虹彩実質内.腫の症例を経験したので報告する.CI症例患者:45歳,男性.主訴:右眼羞明.現病歴:2016年C7月,右眼羞明を自覚し近医を受診した.右眼虹彩に腫瘤性病変を認めたことからC2016年C8月,当科を紹介受診となった.既往歴:10年前に両眼角膜屈折矯正手術(laserCassistedinsitukeratomileusis:LASIK)施行.家族歴,全身合併症:特記事項なし.初診時眼所見:右眼視力C0.4(1.2C×.1.5D),左眼視力C0.7(1.2C×.0.75D(.0.25DCAx180°).右眼眼圧6mmHg,左眼眼圧C7CmmHg.両眼CLASIK後だが角膜は透明.右眼下方の虹彩根部に腫瘤性病変を認め,瞳孔は上方へ軽度偏位していた(図1a).病変はC5.8時方向の虹彩に広がり,細隙灯顕微鏡検査でやや白色の内容物が透見され,.腫と考えられた.この時点では.腫前壁は角膜内皮には接しておらず(図1b).中間透光体,眼底に明らかな異常はなかった.経過:初診時においては.腫による合併症を認めないことから,外来定期通院にて経過観察を行った.2017年C1月の時点で.腫の増大を認め,角膜内皮に.腫前壁が接しており(図2a),角膜内皮障害の進行が危惧された.前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentalCopticalCcoherenceCtomogra-phy:AS-OCT)によって角膜内皮と比較的厚い.腫壁の接触が確認でき,.腫内部の輝度は前房と同等で.胞性病変が示唆され(図2b),細隙灯顕微鏡所見およびCAS-OCT所見から悪性病変は否定的であった.接触による角膜内皮障害がさらに進行する可能性が高く,この時点で後.下白内障の進C図4病理組織学的所見重層扁平上皮に被覆された.胞性病変を呈しており,実質内.腫が示唆された.行により右眼矯正視力はC0.8まで低下していたため,2017年C2月に右眼虹彩.腫壁切除と白内障手術を同時に行い,摘出組織の病理検査を行った.手術所見:虹彩.腫の切除を先に行うため散瞳せずに手術を開始した.上方結膜切開の後,2.4Cmm強角膜層をC11時の位置に作製した.3時とC9時の位置の角膜輪部にサイドポートを作製し前房内を低分子粘弾性物質に置換した.虹彩剪刀を用いて虹彩.腫前壁に切開を加えると(図3a),粘性の高い白色混濁した内容物が流出したため(図3b),25ゲージ硝子体カッターを用いてこれを吸引除去した(図3c).その後.腫壁を硝子体カッターにて切除しようと試みたが,組織が固くカッターの吸引口に入らなかったため,池田式マイクロカプスロレキシス鑷子で把持しながら虹彩剪刀で可能なかぎり広範囲に切除し,摘出した組織は病理検査に提出した.次にトロピカミド,フェニレフリンの点眼で散瞳し,瞳孔縁にアイリスリトラクターを設置してから通常どおりに水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行い手術を終了した.病理組織学的所見は重層扁平上皮に被覆された.胞性病変を呈しており,実質内.腫が示唆された(図4).術後経過:術翌日には前房内にフィブリンの軽度析出を認めたが術後C2日目にはほぼ消失し,右眼視力は裸眼視力C1.2に改善した.通常の白内障手術と同様に抗菌薬,ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬の点眼をそれぞれ術後C1.3カ月間行った.術後の瞳孔は正円で羞明の自覚はなく,現在術後C8カ月の時点まで炎症や眼圧上昇,虹彩.腫の再発はなく経過良好である(図5).CII考按Shieldsは虹彩.腫を原発性と続発性に分類し,原発性虹彩.腫を色素上皮内.腫と実質内.腫に分類した10).色素上皮内.腫は成人に発症し,7割が瞳孔縁に発生10.12),原始眼胞壁の遺残により色素上皮が解離することにより生じる13).C実質内.腫は若年者に発症することが多く,発生異常が原因と考えられている10,11,13).重層扁平上皮からなる.胞壁の脱落と杯細胞の粘液産生のため増大傾向を示すことが知られており,10歳以下では急激な経過をとり視力予後不良となることも多いとされている14).原発性虹彩.腫C62例をまとめた報告によると,実質内.腫はそのうちC3例C4.8%であり,色素上皮内.腫が多数を占めた10).本症例は外傷や薬剤使用歴などはなく,半透明の単房性であること,病理組織学的所見で.胞壁が重層扁平上皮で構成されていたことから,原発性虹彩実質内.腫と考えられた.虹彩.腫は自然経過で縮小する場合もあるが10),増大に伴い視力低下,角膜障害,白内障,続発緑内障などが発症した場合には治療適応となる.本症例では初診からC4カ月間の経過中に虹彩.腫が増大し,.腫前壁と角膜内皮の接触を認めた.増大した虹彩.腫が長期間角膜内皮に接触した症例では角膜混濁や角膜内皮障害が生じることが報告されており9),本症例でもこの時点で早期に治療を行う必要があると判断した.虹彩.腫を治療するうえで悪性腫瘍を鑑別することは重要である.悪性黒色腫や転移性悪性腫瘍では透光性に乏しく充実性の病変となるが,確定診断には病理学的検査が必要である.超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicroscope:UBM)が診断に有用で,腫瘤内部が低輝度であれば.腫を,高輝度であれば充実性の悪性腫瘍を示唆すると考えられている5,7,9,12).本症例では術前のCAS-OCTの所見上,腫瘤内部が前房内と同等の低輝度を示したことから,悪性腫瘍の可能性は低いと考えた.虹彩.腫の治療はこれまで穿刺吸引,アルゴンおよびYAGレーザーによる.胞穿孔,外科的切除が報告されている2.6).レーザー治療は低侵襲で繰り返し行えるという利点があり,わが国では初回治療としてレーザー治療を選択した報告が多いが2.6),.腫の再発や穿孔後の前房内への内容物流出に伴う虹彩炎や続発緑内障などから後に外科的治療が必要となることも少なくない2,7,9).外科的切除は侵襲的ではあるが再発や続発緑内障などの合併症のリスクが少なく,摘出組織の病理検査が可能で根治的治癒が期待できる2,7,9).本症例はCAS-OCT所見から.腫壁が厚くレーザーで穿破するのは困難であることが予想された.また,細隙灯顕微鏡によって透見できる.腫内部が白色混濁していたことから内容物が粘稠であることが示唆され,.腫内容物の性状が漿液性であった場合はレーザー治療後の眼圧上昇が軽度だが2,3),粘稠であった場合はその程度が著しく,手術加療が必要となった過去の報告があることから2,7.9),本症例でレーザー治療を行った場合には炎症や眼圧上昇をきたして再度外科的治療が必要となる可能性が高いと考えられた.さらに併発白内障による視力低下も生じていたため,本症例では初回治療として外科的切除と白内障との同時手術を選択し,.胞壁の切開と同時に内容物を吸引除去した.虹彩.腫の手術において硝子体カッターを用いて.腫壁の切除を行った報告が散見されるが7.9),本症例では.腫壁が厚く,25ゲージ硝子体カッターの吸引口には入らなかったため,虹彩剪刀を用いて切除を行った.術後瞳孔不整を認めず炎症も軽度であり,切除組織の病理検査も容易に実施できたことから,硝子体カッターが使えない場合には本法も選択肢になりうると考えられた.本症例では.腫の増大とともに比較的急速に後.下白内障の進行も認められ,羞明や視力低下はこの影響と考えられた.また,.腫の性状や角膜との接触の評価にはCAS-OCTが有用であった..腫壁切除と白内障の同時手術を行った既報ではレーザー治療で再発したのちに同時手術が行われており7),今回のように初回治療として.腫壁切除と白内障手術を同時に施行した報告はこれまでにない.本症例のように白内障も併発している症例においては,.腫壁切除と内容物の吸引除去,白内障との同時手術は有効な治療法であると考えられた.C文献1)Duke-ElderS:Diseaseoftheuvealtract.SystemofOph-thalmology,CHenryCKimpton,CIX.Cp754-775,CUniversityCofCLondon,London,19662)塚本秀利,中野賢輔,三島弘ほか:虹彩.胞のC6例.眼紀41:1195-1201,C19903)小西正浩,楠田美保子,竹村准ほか:レーザー治療により沈静化した特発性虹彩.腫のC1例.眼紀C46:272-275,C19954)大原國俊:光凝固を行った特発性虹彩.腫のC1例.臨眼C30:99-102,C19765)佐藤敦子,中静裕之,山崎芳夫ほか:原発性虹彩.腫に対するアルゴンレーザー二段階照射療法.眼科C39:301-304,C19976)岸茂,上野脩幸,玉井嗣彦ほか:Nd-YAGレーザー照射により消失をみた外傷性虹彩.腫のC1例.臨眼C83:227-230,C19897)野村真美,中島基宏,花崎浩継ほか:レーザー治療で再発し.腫壁切除白内障同時手術で治療した原発性虹彩.腫.眼科58:489-493,C20168)小池智明,岸章治:粘液分泌性の虹彩.腫による続発緑内障のC1例.臨眼61:1317-1319,C20079)戸田利絵,杉本洋輔,原田陽介ほか:急速に拡大する虹彩.腫に対し.腫全幅切除術を行ったC1例.臨眼C64:1855-1858,C201010)ShieldsJA:Primarycystsoftheiris.TransAmOphthalC-molSocC79:771-809,C198111)ShieldsCJA,CKlineCMW,CAugsburgerCJJ:PrimaryCiriscysts:aCreviewCofCtheCliteratureCandCreportCofC62Ccases.CBrJOphthalmolC68:152-166,C198412)ShieldsCL,ShieldsPW,ManalacJetal:Reviewofcysticandsolidtumorsoftheiris.OmanJOphthalmolC6:159-164,C201313)ShieldsCCL,CKancherlaCS,CPatelCJCetCal:ClinicalCsurveyCofC3680CirisCtumorsCbasedConCpatientCageCatCpresentation.COphthalmologyC119:407-414,C201214)LoisN,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Primaryirisstromalcysts:ACreportCofC17Ccases.COphthalmologyC105:1317-1322,C1998***

緑内障術後早期に発症したLeaking Blebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1268.1275,2018c緑内障術後早期に発症したLeakingBlebに対する羊膜移植併用濾過胞再建術の有用性立花学*1,2小林顕*2新田耕治*1,2東出朋巳*2横川英明*2大久保真司*3杉山和久*2*1福井県済生会病院眼科*2金沢大学附属病院眼科*3おおくぼ眼科クリニックCTheUsefulnessofBlebRevisionwithAmnioticMembraneTransplantationforEarly-onsetLeakingBlebDevelopedafterGlaucomaSurgeryGakuTachibana1,2),AkiraKobayashi2),KojiNitta1,2),TomomiHigashide2),HideakiYokogawa2),ShinjiOkubo3)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,3)OhkuboEyeClinic線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)あるいは濾過胞再建術(blebrevision,以下revision)の術後早期(early-onset)に発症した濾過胞からの房水漏出(leakingCbleb)に対する羊膜移植(amnioticCmembraneCtransplantation:AMT)併用Crevisionの有用性を検討した.対象は,初回ないしは別部位からの追加手術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし,結膜縫合あるいは自己結膜移植にてCleakingblebの消失を認めなかったC8例C8眼である.これらの症例に対してCAMT併用Crevisionを施行した.その結果,8眼全例で一過性のCleakingbleb再発を認めたものの,そのうちC4眼は無処置で治癒,3眼で結膜縫合,1眼で羊膜再移植を施行し,最終的にCleakingblebは全例で消失した.眼圧は漏出原因となった手術または処置後のCleakingbleb確認時が平均C12.6±8.8CmmHg,leakingblebの最終消失時が平均C18.9C±5.4CmmHgであった.眼圧コントロール不良例に対しては追加手術を施行した.これらの結果により,TLEあるいはCrevision後のCearly-onsetに発症したCleakingblebに対してCAMT併用のCrevisionは有用であることが示唆された.CThepurposeofthisstudywastoinvestigatetheusefulnessofblebrevisionwithAMTforearly-onsetleakingblebthatdevelopedafterglaucomasurgery.Enrolledwere8eyesof8patientswithearly-onsetleakingblebwith-inC1CmonthCafterCTLECorCblebCrevisionCwhoCshowedCnoCimprovementCwithCconjunctivalCsutureCorCautologousCcon-junctivalCtransplantation.CAlthoughCtransientCaqueousChumorCleakageCwasCobservedCafterCAMTCinCallCeyes,C4CeyesCwerecuredthroughobservationonly,withnotreatment,3eyesrequiredconjunctivalsutureand1eyerequiredre-AMT.CAsCaCresult,CaqueousChumorCleakageCwasC.nallyCimprovedCinCallCeyes.CIntraocularCpressureCwasC12.6±8.8CmmHgCwhenCleakingCblebCwasCcon.rmedCafterCtheCtreatmentCthatChadCcausedCit,CandC18.9±5.4CmmHgCatCtheCtimeofleakingbleb.nalimprovement.WeperformedadditionalglaucomasurgeryincaseswithpoorIOPcontrol.Inconclusion,AMTisquiteusefulforearly-onsetleakingblebafterTLEor.lteringblebrevisionsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1268.1275,C2018〕Keywords:緑内障,線維柱帯切除術,濾過胞再建術,房水漏出,羊膜移植.glaucoma,trabeculectomy,blebrevi-sion,leakingbleb,amnioticmembranetransplantation.Cはじめに効性は確立している.しかし,術後の合併症の一つとして濾マイトマイシンCC併用の線維柱帯切除術(trabeculecto-過胞からの房水漏出(leakingCbleb)がしばしば問題視されmy:TLE)は,緑内障において点眼による薬物療法によっる.leakingblebの治療法として保存的加療あるいは縫合・ても眼圧コントロール不良の症例に対して施行され,その有自己結膜移植(autologousCconjunctivalCtransplantation:〔別刷請求先〕立花学:〒920-8641石川県金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院眼科Reprintrequests:GakuTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takaramachi,Kanazawa,Ishikawa920-8641,JAPAN1268(112)表1患者背景症例年齢性別病型直近の手術漏出部位漏出パターンAMT前処置回数(回)結膜移植結膜縫合C1C45CMCSOAGCTLE(EX-PRESS)角膜輪部CEC0C7C2C69CFCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C2C3C68CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC1C0C4C64CFCPOAGCneedling結膜縫合部CAC0C2C5C70CMCSOAGCTLEbleb上のCholeCCC0C5C6C40CMCtraumaticCglaucomaCneedling結膜縫合部CAC0C4C7C58CMCPOAGCTLEbleb上のCholeCBC0C1C8C53CMCtraumaticCglaucomaCneedlingbleb上のCholeCBC0C2M:男性,F:女性,SOAG:続発開放隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,TLE:線維柱帯切除術,AMT:羊膜移植.ACT)などの観血的処置が第一選択であるが,奏効しない症例もしばしば認められる.そのような状況下で注目されているのが羊膜の利用である.羊膜は子宮内の胎児と羊水を直接に包む半透明の膜で,その抗炎症・瘢痕化作用や拒絶反応の起こりにくい良質な器質となりうる性質から,外科手術の際の癒着防止や皮膚熱傷の覆膜などに利用されてきた1.3).とくにCKimらによる家兎眼を用いた眼表面再建における羊膜利用の有用性に関する報告により眼科領域でも羊膜移植(amnioticmembranetransplantation:AMT)が注目されるようになった4).日本ではCTsubotaらにより眼類天庖瘡,Stevens-Johnson症候群といった高度の瞼球癒着を有する難治性角結膜疾患に対して,眼表面再建を目的に初めて羊膜が用いられた5).それ以後,角膜上皮の再生あるいは結膜の再建における治療材料としての有効性も確認され,AMT症例数は増加しつつある.緑内障領域でも,TLEあるいは濾過胞再建術(blebCrevi-sion,以下Crevision)におけるCAMT併用の報告が散見されるようになった.ShehaらおよびCSarnicolaらはCTLEにおけるCAMTの安全性を確認し,術後の眼圧コントロールも良好であると報告している6,7).Fujishimaらは眼圧コントロール不良な症例に対しCAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告している8,9).JiらはCAMTを併用したCTLEは眼圧の降下と術後合併症の頻度軽減に有効で成功率が高い術式であると報告している10).樋野らは,抗緑内障点眼により薬剤性偽眼類天庖瘡を生じた患者に対しAMT併用CTLEを施行し,良好な眼圧コントロールを得たことを報告した11).また,leakingCbleb症例に対するCAMTの適用例も僅少ながら報告されているが,それらは術後C1カ月以上経過した後にCleakingblebを合併した晩期発症(late-onset)の報告が大半であり,早期発症(early-onset)の報告はない.そこで筆者らは術後C1カ月以内にCleakingblebをきたし観血的処置でも消失しなかったCearly-onsetの難治症例に対するCAMT併用Crevisionの成績を検討した.CI対象および方法対象はC2004年C8月.2014年C7月に金沢大学附属病院(以下,当院)でCTLEを施行したC1,664眼のうち,TLEあるいはCrevision(needlingを含む)の術後C1カ月以内にCSeidel試験にてCleakingblebを確認し,結膜縫合やCACTにて消失を認めなかった難治CleakingblebのC8例C8眼(平均C58.4C±10.8歳)である.これらの症例についてCAMT併用Crevisionを施行した.年齢・性別・病型・直近の手術・漏出部位・濾過胞からの房水漏出の類型(以下,漏出型)・AMT前処置回数などの患者背景を表1に示す.また,対象C8眼で認めた漏出型は,a)縫合部から漏出,b)bleb上のCholeから漏出,c)lasersuturelysis(LSL)の際に照射レーザー光によるCbleb上Choleから漏出,d)術前のCTLEで結膜が薄くなった部分からの漏出,e)輪部結膜の薄い部位からの漏出であり,この概略を図1に示す.AMT併用CrevisionはC3名の術者によって次のような方針abcde図1Leakingblebのパターンa:縫合部からの漏出.Cb:blebの上のCholeからの漏出.Cc:laserCsutureClysisの際の照射レーザー光によるCbleb上のholeからの漏出.Cd:以前のCTLEで結膜薄くなった部分からの漏出.Ce:輪部の結膜が薄い部位からの漏出.Cで施行された.羊膜を羊膜上皮側が強膜側を向くように,症例によっては上皮側が外側になるようにC2重翻転した状態で強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い,結膜創に羊膜を挟みこんで結膜縫合を施行した.結膜欠損の大きさに応じて,縫合を以下のC3通りの方法で行った.すなわち,①創が小さい場合は結膜同士を縫合,②創が大きい場合はCACTを併用,③創が大きいがCACTを併用せず羊膜を露出,であり,そのシェーマを図2に示す.CII結果AMT併用Crevision後のC8症例の個別の病歴,経過,経過日数,眼圧の経過,追加処置などについて以下および図3に示す.〔症例1〕45歳,男性,漏出型:E(図3a).続発開放隅角緑内障(secondaryCopen-angleCglaucoma:SOAG)に対しC2013年C1月に線維柱帯切開術(trabeculoto-my:TLO),6月CTLE(EX-PRESSCR)施行.術後C5日目のLSL後に角膜輪部よりCleakingCbleb(+),縫合をいくどか試みたがたびたび再漏出するため,漏出確認後C27日目にAMT併用Crevision+ACTを施行.術後CleakingCbleb再発,結膜縫合を追加し消失した.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C511日目にトラベクトーム手術を施行したが,術後眼内炎をきたしたためC528日目にCvitrectomyを施行.2016年C3月時点で術後の経過観察中である.〔症例2〕69歳,女性,漏出型:B(図3b).abc羊膜自己結膜露出した羊膜図2AMTを用いたrevisiona:結膜縫合のみ.Cb:ACTの併用.Cc:羊膜を露出させた状態.原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)に対しC2011年C7月CTLO,8月CTLE施行.TLE術後4日目で濾過胞が輪部で一部引きちぎれleakingbleb(+),結膜縫合やCneedling+結膜縫合などで対処したが別部位でのCholeとCleakingCbleb(+),holeが徐々に拡大したため漏出確認後C12日目にCAMT併用Crevision+ACTを施行.術後leakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例3〕68歳,女性,漏出型:A(図3c).POAGに対しC2012年C5月CTLE,2013年C6月Cneedling施行.術後C13日目に結膜縫合部位よりCleakingblebと創口離開(+),ACT+needlingを施行したが消失せず,漏出確認後C24日目にCAMT併用Crevision+needling+ACTを施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例4〕64歳,女性,漏出型:A(図3d).POAGに対しC2011年C2月CTLE,2013年C6月Cneedlingを2回施行.術後C6日目より創口からCleakingbleb(+),nee-dling+結膜縫合を行ったが別部位からのCleakingbleb(+),結膜縫合を追加したが消失せず,漏出確認後C8日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.術後Cleakingblebが再発したが,結膜縫合を追加し消失.のちに眼圧コントロール不良となりCAMT術後C126日目にTLO,719日目にCTLEを追加.以後の眼圧は良好で,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例5〕70歳,男性,漏出型:C(図3e).SOAGに対し前医でC2010年C11月TLE,当院でC2011年C3月別部位からCTLEを施行.術後C3日目にCLSLでレーザーが出血部に吸収されCleakingCbleb(+),結膜縫合を追加し消失.その後眼圧上昇したためCneedlingを追加,術翌日からleakingCblebが再発し,結膜縫合を追加したが,前医CTLEでの菲薄化した結膜縫合部からのCleakingbleb(+),漏出確認後C21日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合を施行.翌日C図3各症例の日数と眼圧経過a:症例①:45歳,男性,漏出型:ECb:症例②:69歳,女性,漏出型:BCc:症例③:68歳,女性,漏出型:ACd:症例④:64歳,女性,漏出型:ACe:症例⑤:70歳,男性,漏出型:CCf:症例⑥:40歳,男性,漏出型:ACg:症例⑦:58歳,男性,漏出型:BCh:症例⑧:53歳,男性,漏出型:Bleak期間羊膜移植線維柱帯切除術needlingblebrevision結膜縫合結膜移植入院退院a.症例1(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100b.症例2(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100c.症例3(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100d.症例4(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100e.症例5(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100f.症例6(mmHg)302010-60-50-40-30-20-100102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)102030405060708090(日)g.症例7h.症例8から消失したが,羊膜が結膜に嵌頓していたため術後C10日目に嵌頓部を縫合したところ,同部位からCleakingbleb再発を認めたが,保存的加療で消失.2014年頃より眼圧コントロール不良となり,AMT術後C1,133日目にCTLOを追加し,その後眼圧は安定.2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例6〕40歳,男性,漏出型:A(図3f).眼球破裂に対してC2008年C5月Cvitrectomy(硝子体切除術)+強角膜縫合術を施行.その後眼圧上昇しC6月CTLO,10月TLE施行.2009年C3月末にCneedling施行したところ低眼圧と術後C3日目からCleakingCbleb(+),2度の結膜縫合後にCneedling+結膜縫合,その後結膜縫合も追加したが消失せず,漏出確認後C9日目にCAMT併用Crevision+結膜縫合+保存強膜移植を施行.術後Cleakingblebが再発したが,無処置で経過観察し消失.後に眼圧コントロール不良となり,AMT術後C2,048日目にバルベルト緑内障インプラント術を施行した.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例7〕58歳,男性,漏出型:B(図3g).POAGに対してC2007年C12月CTLEを施行.術翌日よりleakingCbleb(+)のため結膜縫合を施行,2008年C1月にleakingCbleb増悪を認めたため漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行した.しかし術後も消失せず,結膜縫合をC2回追加したがCleakingCbleb(+)持続したため,漏出確認後C32日目に再度のCAMT併用Crevisionを施行.術後Cleak-ingbleb再発に無処置で経過観察し消失.その後眼圧は安定し,2016年C3月時点で経過観察中である.〔症例8〕53歳,男性,漏出型:B(図3h).1990年に針金が左目に刺さり,白内障手術+角膜縫合術施行.その後眼圧コントロール不良となりC1992年C10月末にCTLE施行.2002年頃から眼圧が再上昇し,2004年C2月に別部位にてCTLE施行.術後CleakingCbleb(+)に結膜縫合で消失したが,眼圧が上昇したためC4月にCneedling,5月にrevision,7月にCneedlingを施行.needling後C8日目にleakingCbleb(+)を認めCneedling+結膜縫合を施行したが,leakingCbleb再発しCrevision+結膜縫合を施行.しかし高眼圧とCleakingCbleb(+)持続し,漏出確認後C25日目にCAMT併用Crevisionを施行.術後CleakingCblebが再発したが,無処置で消失.以後の眼圧は不安定であったため術後C3,733日目にCTLOを追加.その後眼圧は安定し,2014年C4月に転院のため終診となった.表2には,8症例のCAMT直近のCTLE,AMT直近のCnee-dling,緑内障手術後のCleakingbleb,AMTの術後,についてまとめる.また,表3に,8症例の経過および術後処置についてまとめる.CIII考察羊膜の抗瘢痕化・炎症作用に関する先行研究を以下に示す.Bauerらは,ネズミの単純ヘルペス角膜炎モデルにおいて,移植した羊膜間質に付着したリンパ球,マクロファージが急速にアポトーシスを起こすことを報告した12).Heらは,羊膜から分離した水溶性物質CHC・HA(inter-a-inhibitorheavyCchain・hyaluronan)はCCD80,CCD86,主要なCClassCII抗原複合体の発現を減少させ,増殖を抑制し,アポトーシスを増強させると報告した13).さらにCHeらは,眼組織線維芽細胞において,TGF-bのシグナル伝達を転写の段階で抑制すると報告した14).Espanaらは,培養液中で角膜細胞の樹枝状形態を維持し,生理学的に角膜細胞形態を維持する作用を認めるとともに,TGF-bのシグナル伝達阻害以外の抗瘢痕化作用も関与していると考察している15).以上のような基礎検討に基づいて,羊膜の有する抗炎症・抗瘢痕化作用,結膜上皮の分化促進,線維組織増生の抑制効果などから,結膜瘢痕化症例や角膜不全症例などに対するCTLEあるいはCrevi-sionにおいて起こりうる晩期発症のCleakingCblebや濾過胞感染,濾過胞瘢痕形成などによる濾過胞不全に対して,AMTを併用することは有用であると考えられてきた.しかしながら,AMT併用のCTLE・revisionの手術成績については,濾過胞形成不全に陥るリスクの高い患者の眼圧下降維持に有用であるとした報告6)がある一方で,AMTと結膜前方移動術とのランダム化臨床試験では,最終的な眼圧や点眼数,Kaplan-Meier法による術後成績のいずれにも有意差は認めなかったとする報告16)もあり,統一的な見解は得られていないのが現状である.以上の報告は術後Clate-onsetのleakingCblebに対してであり,術後Cearly-onsetのCleakingblebにおいては,治療用コンタクトレンズ装用や自己血清眼など非観血的処置,あるいは縫合追加やCACTなどの観血的処置を施すことが通例である.そのため,early-onsetのleakingCblebに対してCAMT併用のCrevisionを施行した報告はなく,その臨床的な有用性については検討すべき課題である.当院ではCearly-onsetのCleakingCblebに対する治療方針として,下記の枠組みに沿って対応している.この概略を図4に示す.(1)Seidel試験でCleakingblebの有無を確認し,結膜に明らかな裂隙があり漏出が著明で低眼圧や浅前房が改善しない場合には,その時点で観血的処置を施す.(2)患者が流涙を自覚しない程度のわずかな漏出であれば非観血的処置を施し,改善を認めない場合に観血的処置を施す.(3)観血的処置ではCdirectCsutureやCcompressionCsutureなどの縫合,あるいは結膜前転,保存強膜移植,ACTを漏表2眼圧の経過症例AMT直近のCTLEAMT直近のCneedling緑内障手術後のCleakingblebAMTの術後術前術後術前術後確認時初回消失時最終消失時3カ月6カ月1年最終C1C22C5C–8C7C18C22C16C17C27C2C18C6C–9C11C19C20C20C17C19C3C18C6C26C8C10C4C20C8C11C9C8C4C22C4C23C10C6C13C13C20C17C19C10C5C48C4C–27C12C12C14C12C11C14C6C37<1C0C17C3C3C26C30C22C23C16C8C7C19C4C–25C11C16C14C-14C12C8C40不明不明C17不明C21C23C25C16C14C18AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.表3経過日数と追加処置経過日数(日)術後処置症例緑内障手術後のCleakingbleb確認時漏出確認.AMT最終的な漏出消失確認AMT後leakingblebに対する処置直近CTLE直近CneedlingC1C5C-27C57結膜縫合C2C4C-12C32C-3C-13C24C36C-4C-6C8C9結膜縫合C5C3C-21C68C-6C-3C9C15結膜縫合C7C1C-25C29結膜縫合×2再CAMTC8C-8C25C22C-AMT:羊膜移植,TLE:線維柱帯切除術.CACT=自己結膜移植図4Early.onsetのleakingblebに対する当院での治療方針出の状態に応じて施し,それでも消失を認めない場合にはフラップ縫合で漏出を止めて別の位置で濾過手術を施すか,AMT併用のCrevisionを施す.本研究の対象となったCTLE施行のC1,664眼のうちのCear-ly-onsetのCleakingblebに対する最終手段としてCAMT併用のCrevisionを施行したC8眼の結果は,全症例でCAMT併用のCrevision後に一時的にCleakingCbleb再発を認め,1眼で羊膜再移植,3眼で観血的処置,4眼で経過観察の後,最終的には全例で消失を認めた.術後の一時的なCleakingbleb再発の理由としては,各症例において羊膜の機械的な裏打ちのみでは結膜が脆弱であったためと考えられる.しかしながら,最終的に全例でCleakingblebが消失したのは,羊膜のもつ抗炎症・抗瘢痕化作用や結膜上皮の分化促進作用が奏効したものと推定される.術後の眼圧についてはCleakingbleb消失の確認時,術後C3カ月後,術後半年後,術後C1年後の段階でそれぞれの平均値がC18.9CmmHg,18.1CmmHg,16.4CmmHg,14.7CmmHgと比較的良好であったと評価できる.しかしながら,後に眼圧コントロールが不良となったため追加の緑内障手術を要した症例が半数のC4例であった.その内訳は,TLE:2眼,バルベルト緑内障インプラント術:1眼,トラベクトーム手術:1眼であった.結膜瘢痕化症例に対するCAMT併用のCTLEによって長期の眼圧経過でも最終的にコントロールが得られた例が多かったとする報告17)がある一方で,化学熱傷や外傷,薬剤障害,感染症などを原因とする難治で重篤な角膜不全(後に水疱性角膜症を発症したため全層角膜移植術を施行した症例などを含む)を合併した緑内障に対するCAMT併用のCTLEの成績に関しては,術後長期の経過で眼圧のコントロールが悪化したケースが認められたとの報告18)もあり,より難治な症例ほどCAMT併用のCTLEやCrevisionのみでは長期経過での眼圧コントロールが不十分となり,追加の処置や手術などが必要となる可能性が示唆されている.最近,当院ではハイリスク症例に初回手術の際に結膜の裏打ちとしてCTenon.を前転し,より広範な濾過胞が形成されるように工夫している.今回の羊膜の設置方法は,全例で羊膜上皮が強膜側を向くように強膜フラップを含む範囲で結膜の裏打ちを行い結膜創に羊膜を挟みこんだが,結膜縫合においては全C9回のCAMT(1眼の再移植を含む)のうち,単純に結膜同士を縫合して閉創可能であった症例がC4眼,結膜創が大きく別部位から結膜を採取してパッチとして使用した症例がC4眼,結膜創が大きいものの別部位を含め結膜の状態が非常に悪く,次善の策として結膜-羊膜を縫合し,羊膜が一部露出した状態となった症例がC1眼であった.最終的には羊膜が露出した状態となった1例も含め,全例で最終的なCleakingblebの消失を認めたことからどの術式も有効性が認められるが,結膜の状態に応じて三つの術式を使い分けることがより妥当であると考えられる.また本研究ではCAMT前に4.7回の結膜縫合を行ったが,leakingblebの改善を認めなかった症例がC3例あり,術後C3回目までの結膜縫合やCACTでCleakingblebの改善を認めない場合は,早期に積極的なCAMTを検討すべきであると考えられる.本研究の問題点,限界は,同一術者による統一された手術方法ではなかったこと,症例数がC8例C8眼と母数が小さいこと,難治となった原因としての患者背景が症例ごとに異なること,などがあげられる.CIVまとめTLE後Cearly-onsetにCleakingblebを発症した難治のC8例8眼に対してCAMT併用のCrevisionを施行し,一過性のleakingCbleb再発を認めたものの最終的に全例で消失した.今後,より多くの症例に対して詳細な検討が必要であり,AMTを併用しないCrevisionとの比較検討が重要な課題であると思われる.文献1)Troensegaard-HansenE:Amnioticgraftsinchronicskinulceration.LancetC255:859-860,C19502)BennettJP,MatthewsR,FaulkWP:Treatmentofchron-iculcerationofthelegswithhumanamnion.LancetC315:C1153-1156,C19803)DuaCHS,CGomesCJA,CKingCAJCetCal:TheCamnioticCmem-braneCinCophthalmology.CSurvCOphthalmolC49:51-77,C20044)KimCJC,CTsengCSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.CorneaC14:473-484,C19955)TsubotaCK,CSatakeCY,COhyamaCMCetCal:SurgicalCrecon-structionoftheocularsurfaceinadvancedocularcicatri-cialCpemphigoidCandCStevens-JohnsonCsyndrome.CAmJOphthalmolC122:38-52,C19966)ShehaCH,CKheirkhahCA,CTahaCH:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCCforCrefractoryglaucoma.JGlaucomaC17:303-307,C20087)SarnicolaCV,CMillacciCC,CToroCIbanezCPCetCal:AmnioticCmembraneCtransplantationCinCfailedCtrabeculectomy.CJGlaucomaC24:154-160,C20158)FujishimaH,ShimazakiJ,ShinozakiNetal:Trabeculec-tomywiththeuseofamnioticmembraneforuncontrolla-bleglaucoma.OphthalmicSurgLasersC29:428-431,C19989)森川恵輔:先進医療として実施された羊膜移植の適応と有効性.日眼会誌120:291-295,C201610)JiCQS,CQiCB,CLiuCLCetCal:ComparisonCofCtrabeculectomyCandtrabeculectomywithamnioticmembranetransplanta-tionCinCtheCsameCpatientCwithCbilateralCglaucoma.CIntJOphthalmolC6:448-451,C201311)樋野景子,森和彦,外園千恵ほか:羊膜移植併用線維柱帯切除術を施行した薬剤性偽眼類天庖瘡のC1例.日眼会誌C110:12-317,C200612)BauerCD,CWasmuthCS,CHennigCMCetCal:AmnioticCmem-branetransplantationinducesapoptosisinTlymphocytesinCmurineCcorneasCwithCexperimentalCherpeticCstromalCkeratitis.InvestOphthalmolVisSciC50:3188-3198,C200913)HeH,LiW,ChenSYetal:SuppressionofactivationandinductionCofCapoptosisCinCRAW264.7CcellsCbyCamnioticCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:4468-4475,C200814)HeCH,CLiCW,CTsengCDYCetCal:BiochemicalCcharacteriza-tionandfunctionofcomplexesformedbyhyaluronanandtheCheavyCchainsCofCinter-a-inhibitor(HC・HA)puri.edCfromextractsofhumanamnioticmembrane.JBiolChem284:20136-20146,C200915)EspanaEM,HeH,KawakitaTetal:Humankeratocytesculturedonamnioticmembranestromapreservemorphol-ogyCandCexpressCkeratocan.CInvestCOphthalmolCVisCSciC44:5136-5141,C200316)KiuchiCY,CYanagiCM,CNakamuraCT:E.cacyCofCamnioticCmembrane-assistedCblebCrevisionCforCelevatedCintraocularCpressureafter.lteringsurgery.ClinOphthalmolC4:839-843,C201017)山田裕子:羊膜移植併用緑内障手術.あたらしい眼科C28:C827-828,C201118)MoriCK,CIkedaCY,CMaruyamaCYCetCal:AmnioticCmem-brane-assistedCtrabeculectomyCforCrefractoryCglaucomaCwithcornealdisorders.IntMedCaseRepJC9:9-14,C2016***

アマンタジン塩酸塩内服により片眼性の角膜浮腫を生じた一症例

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1263.1267,2018cアマンタジン塩酸塩内服により片眼性の角膜浮腫を生じた一症例井村泰輔鈴木智地方独立行政法人京都市立病院機構眼科CACaseofAmantadine-associatedUnilateralCornealEdemaTaisukeImuraandTomoSuzukiCDepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospitalOrganization目的:片眼性に生じた角膜浮腫を経験し,アマンタジン塩酸塩(以下,アマンタジン)の休薬とCROCK(Rhokinase)阻害薬の点眼により,短期間で軽快した症例を経験したので報告する.症例:69歳,男性.初診時,右眼の角膜中央から下方にかけて限局性の実質.上皮浮腫を認め,矯正視力は(0.15)と低下し,角膜中央部の内皮細胞密度(ECD)は測定不能であった.左眼は角膜所見に異常なく,視力は(1.2),ECDはC2,239/mmC2であった.アマンタジンを休薬し,フルオロメトロンC0.1%点眼液およびリパスジル塩酸塩水和物点眼液にて加療したところ,休薬C4週後に角膜浮腫は消失し,6週後にCECDはC1,334/mmC2まで回復し,8週後には視力(1.2)まで改善した.結論:アマンタジンによる角膜内皮障害は片眼性に生じることもあり,休薬とともにCROCK阻害薬点眼が早期回復に有用な可能性があると考えられた.CPurpose:ToCreportCaCunilateralCcaseCofCamantadine-associatedCcornealCedemaCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCwithROCKinhibitoraftercessationofamantadinetreatment.Case:A69-year-oldmalewasreferredtoourhos-pitalforrightcornealedemawithDescemetfoldsof2months’duration.HisBCVAwas0.15ODand1.2OS.Intra-ocularpressurewas10CmmHgOU.Slit-lampexaminationrevealedfocalstromaledemafromcentraltoinferiorcor-neaCofCtheCrightCeye,CbutCnoCobviousCin.ammationCinCtheCanteriorCchamber.CEndothelialCcellCdensity(ECD)wasCunmeasurableCinCtheCcentralCcornea,CbutC2,547/mm2CinCtheCsuperiorCcornea.CAfterCconsultationCwithCtheCpatient’sneurologist,amantadinehydrochlorideadministrationwasceased.Additionaltreatmentinvolvedtopical0.1%.uo-rometholoneandripasudilhydrochloridehydrate.Thecornealedemaresolvedin4weeksaftercessationofaman-tadineChydrochloride.CInC6Cweeks,CECDCbecameC1,334/mm2.CBCVACimprovedCtoC1.2CODCinC8Cweeks.CConclusion:CTheCcornealCendothelialCdysfunctionCcausedCbyCamantadineCmayCoccurCunilaterally,CandCtogetherCwithCtheCwith-drawal,theROCKinhibitorinstillationmaybeusefulforearlyrecovery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1263.1267,C2018〕Keywords:抗CParkinson病薬,アマンタジン塩酸塩,角膜浮腫,角膜内皮障害,ROCK阻害薬.anti-Parkinsonagent,Amantadinehydrochloride,cornealedema,cornealendotheliumdamage,ROCKinhibitor.Cはじめにアマンタジン塩酸塩(amantadineChydrochloride:以下,アマンタジン)は,当初インフルエンザCA型の予防と治療のために開発されたが,その後ドパミン作動性作用が解明され,現在は抗CParkinson病薬としても使用されている1).眼局所への副作用はC1%以下とされているが,角膜浮腫,斑状上皮下混濁による視覚障害,注視発作,角膜炎や瞳孔散大などが報告されている1).とくにアマンタジンによる角膜浮腫は「両眼性の双子様浮腫」が特徴とされ,角膜内皮細胞密度(endothelialCcellCdensity:ECD)の減少をきたす2.9).一般的に,アマンタジンの休薬と低濃度ステロイド点眼治療により,角膜浮腫は数カ月で軽快するが,ECDの低下は残存する1.10).角膜内皮細胞は再生能をもたず,外傷などで細胞が脱落し〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashitakada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPANた部分は,周囲の正常内皮細胞が徐々に伸展し細胞面積を拡大することで修復し,角膜の透明性を維持している11,12).ECDがC500/mmC2以下になると代償機能が破綻し,水疱性角膜症を生じるが,治療はこれまで角膜移植しか選択肢がなかった.近年,動物実験において,ROCK(RhoCkinase)阻害薬点眼による角膜内皮細胞障害に対する創傷治癒促進作用が報告されており,またヒトに対しても同様の効果が得られる可能性が示唆されている11,12).今回,アマンタジン内服中の患者に片眼性に進行性の角膜浮腫を生じ,アマンタジンの休薬とCROCK阻害薬点眼により,短期間で視力が回復し,ECDも改善した症例を経験したので報告する.CI症例症例はC69歳,男性.近医神経内科で抗うつ薬,抗てんかん薬,抗CParkinson病薬などを内服中であった.2016年C5月に右眼のしみるような痛みと視力低下を主訴に近医眼科を受診した.右眼の角膜下方にCDescemet膜皺襞を伴う上皮びらんを認め,点眼治療が開始された.10日程度で上皮びらんは治癒するも角膜浮腫の改善を認めないため,7月C16日当院へ紹介受診となった.初診時,右眼の矯正視力はC0.15で,前房内炎症は明らかではなく,角膜中央から下方にCDescemet膜皺襞を伴う角膜実質.上皮の浮腫を認めた(図1).ECDは,右眼は角膜中央部では測定不能であったが,上方ではC2,547/mmC2であった.左眼矯正視力はC1.2,ECDは角膜中央でC2,239/mmC2であった.眼圧は両眼ともにC10CmmHgであった.右眼病変部のCECDを計測できなかったことから,片眼性の局所的な内皮細胞の脱落が考えられ,ウイルス性角膜内皮炎の可能性を疑い,前房水を採取しポリメラーゼ連鎖反応法(polymerasechainreaction:PCR法)に供した.内皮細胞障害の進行抑制を目的として,適応外使用ではあるが医師の裁量のもとに0.4%リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックCR)点眼液C1日2回,角膜上皮浮腫による自覚軽減を目的にC2%レバミピド(ムコスタCR)点眼液をC1日C4回で開始した.1週間後の再診時にはCDescemet膜皺襞,角膜浮腫はやや軽快し,矯正視力はC0.3となった.前房水CPCR法では単純ヘルペスウイルス,帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルス,すべて陰性であった.念のため,ヘルペスウイルスの関与を除外する目的でバラシクロビル塩酸塩(バルトレックスCR)錠C1,000Cmg/日で5日間内服を行ったが,効果はみられなかった.その後,0.1%フルオロメトロン(フルオメソロンCR)点眼液1日2回を開始した.非炎症性,非感染性の角膜内皮細胞障害を積極的に疑い,全身疾患に対して処方されている内服薬を詳細に確認したところ,抗CParkinson病薬として投与されているアマンタジン(シンメトレルCR)が原因薬である可能性が考えられた.かかりつけ神経内科へ内服調整を依頼し,アマンタジンを休薬したところ,1週間後の再診時には右眼のCDes-cemet膜皺襞,角膜浮腫ともに著明な改善を認め(図2),矯正視力もC0.8と改善し,薬剤性角膜内皮障害との診断に至った.その後は,症状の増悪なく良好な経過をたどり,休薬C4週後には角膜浮腫は完全に消失し(図3),休薬C6週後に,右眼のCECDも中央部で測定可能となり(1,334/mmC2),休薬C8週後には右眼の矯正視力はC1.2まで改善した.CII考按本症例は,Parkinson病治療薬であるアマンタジンによる片眼性の角膜浮腫と考えられた.アマンタジンによる角膜浮腫は販売当初から報告されており,両眼性であること,内服期間の長短にかかわらず発症すること,1日当たりの内服量が多いほど発症しやすいこと,などが特徴としてあげられている9).そこで,2004.2015年に報告されたアマンタジンによる角膜浮腫の症例報告(9論文,計C11症例)1.8,10)の系統的レビューを行い,1)発症年齢,2)アマンタジンのC1日投与量,3)角膜浮腫が現れるまでの投与期間,4)角膜浮腫が現れてからアマンタジンの休薬までに要した期間,5)休薬後から眼所見の軽快傾向が認められるまでに要した期間,6)眼所見が完全に軽快した段階でのCECD,の臨床的特徴について検討し,本症例と比較した(表1,2).11症例はすべて両眼性で,発症年齢はC1例のみC14歳と若年であったが平均はC55歳,アマンタジンC1日投与量は245Cmg,角膜浮腫が出現までの投与期間はC736日,角膜浮腫出現からアマンタジンの休薬までに要した期間はC73日であり,休薬後角膜浮腫の軽快傾向が認められるまでに要した期間はC49日であった.すべての症例でアマンタジンの休薬によって角膜浮腫は軽快したが,ECDは低下したままであった.右眼C643C±139/mm2,左眼C679C±208/mm2と左右差は認めなかった(表1).本症例は片眼性であったが,発症年齢,1日投与量,発症までの内服期間とアマンタジン休薬までに要した期間は既存の報告との間に差はなかった.軽快傾向がみられるまでに要した期間はC7日と短く,最終的に測定可能となったCECDはC1,334/mm2にまで回復していた.僚眼のCECDは観察期間中に明らかな変化を認めなかった(表2).アマンタジンによる角膜浮腫の発症機序に関してはいまだ不明である.薬剤性角膜障害であり,休薬すれば経時的に角膜浮腫は軽快するため,病理組織学的評価が行われにくいことや,内服中の前房内アマンタジン濃度などの状態を評価するのが困難なことが要因と考えられる.アマンタジン内服中に,原因不明の角膜浮腫として全層角膜移植が行われた症例では,摘出角膜の内皮細胞に何らかの損傷は確認できるものの,特異的な変化は認めなかったと報告されている6).図1右眼前眼部写真(初診時)a:角膜中央.下方にCDescemet膜皺襞を伴う角膜実質.上皮浮腫を認める.Cb:フルオレセイン染色所見.局所的な上皮浮腫が認められる.C図2右眼前眼部写真(アマンタジン休薬1週間後)a:Descemet膜皺襞がやや軽快し,角膜浮腫の範囲も縮小傾向を認める.Cb:フルオレセイン染色所見.上皮浮腫の軽快傾向が認められる.C図3右眼前眼部写真(アマンタジン休薬4週間後)a:Descemet膜皺襞は消失し,角膜浮腫も認めない.Cb:フルオレセイン染色所見.上皮の不整も認めない.表1アマンタジンによる角膜浮腫をきたした過去の報告著者年齢性別主病名内服畳(内服期間)休薬までの期間予後(軽快までの期間)ECD(/mmC2)CYang1)46歳男性うつ病200mg/日(3年間)4カ月軽快(4カ月)右眼:7C02左眼:7C07CAvendano2)64歳女性Parkinson病300mg/日(2年間)4日軽快(4C0日)右眼:7C98左眼:8C53CHotehama3)77歳女性振戦150mg/日(1C5日)3カ月軽快(1C4日)右眼:9C01左眼:C1,134CGha.arlyoh4)68歳女性Parkinson病200mg/日(2年間)6カ月軽快(6カ月)不明CChang5)52歳女性Parkinson病250mg/日(6C5年間)2カ月軽快(1C4日)右眼:5C74左眼:4C60C55歳女性多発性硬化症200mg/日(6年間)17カ月全層角膜移植施行その後,休薬右眼:4C95左眼:5C64Jeng6)57歳男性多発性硬化症200mg/日(2カ月)2カ月軽快(1C4日)右眼:6C01左眼:6C1644歳女性双極性障害200mg/日(3カ月)2カ月軽快(5週間)右眼:4C70左眼:4C80CKubo7)64歳男性Parkinson病300mg/日(8カ月)不明軽快(8日)不明CHughes8)14歳男性不明300mg/日(1年間)数カ月軽快(1カ月)不明CKim10)63歳女性Parkinson病400mg/日(7カ月)1週間軽快(1カ月)右眼:6C08左眼:6C21表2本症例と過去の報告との比較過去の報告C11例平均±標準偏差(範囲)本症例年齢(歳)C54.9±15.9(C14.C77)C69内服量(mg/日)C245±68.9(C150.C400)C200内服期間(日)C736±796(C15.C2,370)C730休薬までの期間(日)C72.6±54.2(C4.C180)C78軽快傾向までの期間(日)C角膜内皮細胞密度右眼(/mm2)左眼C48.5±53.4(C8.C180)C643±139(C470.C901)C679±208(C460.C1,134)C71,334(C2,388)本症例は,片眼性に角膜浮腫が出現し,患眼のみでCECDの低下が認められた.本来,両眼性に発症するとされている角膜浮腫が片眼のみに出現した原因として,アマンタジンの内服前から,何らかの理由で患眼のみCECDの低下が生じていた可能性,あるいは前房内微小環境に左右差があり,患眼のみに角膜浮腫が先に出現し,片眼性となった可能性が考えられる.ECDの低下の原因としては,角膜ヘルペスや虹彩毛様体炎の既往,続発緑内障や偽落屑の存在,内眼手術歴やレーザー虹彩切開術などが考えられるが,本症例ではいずれも認められなかった.ROCK阻害薬の一つであるC0.4%リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックCR)点眼液は線維柱帯細胞の形状を変化させ,前房水の流出量を増加することから緑内障治療薬として使用されている12).一方,ROCK阻害薬は角膜内皮細胞同士の接着を高め,増殖を促進し,細胞死を抑制する可能性も報告されている11,12).本症例は,既存の報告と比較して,アマンタジンによる角膜浮腫が出現後休薬に至るまでの経過に明らかな差を認めなかったが,休薬直後から短期間で角膜浮腫は軽快し,休薬C6週間後にはCECD>1,000/mmC2に改善が認められた.その要因として,0.4%リパスジル塩酸塩水和物(グラナテックR)点眼液による角膜内皮細胞への創傷治癒促進作用が関連している可能性が推測される.すでに,リパスジル塩酸塩水和物を用いた家兎実験では,角膜内皮細胞の保護作用,創傷治癒の促進作用が認められており12),今後角膜内皮障害治療薬としての開発が期待される.アマンタジンによる薬剤性角膜内皮障害は片眼性に生じることもある.非感染性角膜内皮障害を認めた場合には,併用薬の確認を詳細に行い,原因薬の休薬とともに,現在はまだ適応外使用ではあるがCROCK阻害薬の点眼を行うことで角膜浮腫の早期の消退とCECDの改善が期待できる可能性があり,今後さらなる検討が望まれる.文献1)YangY,TejaS,BaigK:Bilateralcornealedemaassociat-edwithamantadine.CMAJC187:1155-1158,C20152)AvendanoCC,CCelisCS,CMesaCVCetCal:CornealCtoxicityCdueCtoamantadine.ArchSocEspOftalmolC87:290-293,C20123)HotehamaCA,CMimuraCT,CUsuiCTCetCal:SuddenConsetCofCamantadine-inducedCreversibleCbilateralCcornealCedemaCinanelderlypatient:casereportandliteraturereview.JpnJOphthalmolC55:71-74,C20114)Gha.arlyohCA,CHonarpishehCN:Amantadine-associatedCcornealedema.ParkinsonismRelatDisordC16:427,C20105)ChangCKC,CKimCMK,CWeeCWRCetCal:CornealCendothelialCdysfunctionCassociatedCwithCamantadineCtoxicity.CCorneaC27:1182-1185,C20086)JengCBH,CGalorCA,CLeeCMSCetCal:Amantadine-associatedCcornealedemapotentiallyirreversibleevenaftercessationofthemedication.OphthalmologyC115:1540-1544,C20087)KuboCS,CIwatakeCA,CEbiharaCNCetCal:VisualCimpairmentCinCParkinson’sCdiseaseCtreatedCwithCamantadine:caseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CParkinsonismCRelatCDisordC14:166-169,C20088)HughesCB,CFeizCV,CStebenCBCetCal:ReversibleCamanta-dine-inducedcornealedemainanadolescent.CorneaC23:C823-824,C20049)LeeCPY,CTuCHP,CLinCCPCetCal:AmantadineCuseCasCaCriskfactorCforCcornealCedema:ACnationwideCcohortCstudyCinCTaiwan.AmJOphthalmolC171:122-129,C201610)KimCYE,CYunCJY,CYangCHJCetCal:AmantadineCinducedCcornealedemainapatientwithprimaryprogressivefreez-ingCofgait.JMovDisordC6:34-36,C201311)OkumuraN,KoizumiN,KayEPetal:TheROCKinhibi-toreyedropacceleratescornealendotheliumwoundheal-ing.InvestOphthalmolVisSciC54:2493-2502,C201312)OkumuraN,OkazakiY,InoueRetal:E.ectoftheRho-associatedkinaseinhibitoreyedrop(Ripasudil)oncornealendothelialwoundhealing.InvestOphthalmolVisSciC57:C1284-1292,C2016***

基礎研究コラム 16.制御性T細胞(Treg)について

2018年9月30日 日曜日

制御性T細胞(Treg)について制御性T細胞とは制御性T細胞(regulatoryTcell:Treg)は坂口志文らによって1995年に同定された比較的新規のT細胞のサブセットで,免疫応答に抑制的に働きます.Tregは自己免疫疾患,炎症性疾患,アレルギー反応,臓器移植における拒絶反応などで免疫抑制的に働く一方で,Tregが過剰に働くと癌細胞に対する免疫応答を抑制して,癌の成長を助けてしまいます(図1).このことから,Tregの機能を人為的に操作する方法の開発は,免疫疾患,臓器移植,癌に対する新しい治療法につながると期待されています.T細胞やTregは,CTLA-4(cytotoxicT-lymphocyteassociatedantigen-4)やPD-1(programmedcelldeath1)などの免疫チェックポイント受容体を介して,その免疫能を制御しています.癌細胞は免疫系からの攻撃を回避するために,この免疫チェックポイント分子による免疫抑制機能を積極的に活用し,免疫逃避しています(図1).抗PD-1抗体のニボルマブ(商品名:オプジーボ)や抗CTLA-4抗体のイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)はこの免疫チェックポイント受容体をブロックしてT細胞を活性化し,癌細胞を攻撃する目的で使用されています.眼の領域ではどうでしょうか眼の領域では,角膜移植免疫,ドライアイ炎症,ぶどう膜炎などで多くの研究が行われています.角膜移植における拒絶反応は,角膜移植によって新生した血管由来のレシピエントの免疫系細胞が,移植したドナー角膜を異物として認識し,エフェクターT細胞は標的である猪俣武範順天堂大学医学部眼科学教室角膜移植片を破壊します(図1).Tregは,エフェクターT細胞に対して抗原特異的働き,拒絶反応を抑制します.このTregを人為的に生体外で増幅し,抗原特異的にドナー角膜に誘導させることができれば,副作用なく角膜移植片に免疫寛容を成立させることができると期待されています.筆者らはこれまでに,血管新生を誘導した角膜に対する角膜移植(ハイリスク角膜移植)において,角膜移植片におけるTregの減少と,Tregの分化・維持に必須の遺伝子であるFoxp3の発現の低下が,拒絶反応の主座を担うエフェクターT細胞の抑制能の低下を引き起こしていることを明らかにしました.また,同研究から,抑制性サイトカイン(IL-10やTGF-b)の減少や免疫抑制性分子であるCTLA-4の発現の低下が,炎症性サイトカイン(IFN-g)を増加し,拒絶反応を誘導していることが明らかになりました.しかし,最近の研究結果からTregの分化状態はこれまで考えられてきたほど安定ではなく,ドライアイや炎症などの環境の変動に対し,Foxp3の発現および免疫抑制機能を失うことが明らかになってきました.ヒト生体内でのTregの増幅はむずかしく,Tregを用いた新規免疫抑制療法の臨床応用には,Tregの有効な体外増幅方法の開発やTregを安定的に誘導する免疫抑制経路を解明し,移植臓器に効率的に誘導することが重要です.今後の展望Tregは免疫抑制的に働き,副作用なく角膜移植片に免疫寛容を成立させることができると期待されていますが,ヒト生体内でのTregの増幅はむずかしく,有効な体外増幅法の開発が必要です.図1制御性T細胞(Treg)を介した新規免疫療法Treg:制御性T細胞,APC:抗原提示細胞,CTLA-4:cytotoxicT-lymphocyteassociatedanti-gen-4,PD-1:programmedcelldeath1,PDL-1,-2:pro-grammedcelldeath-ligand1,2.角膜移植では,CTLA.4やPD.1/PDL.1・PDL.2経路を介してTregを活性化させるこTregを介した新規免疫療法とでT細胞を抑制し,角膜移植片への免疫抑制を誘導する.癌細胞はCTLA.4やPD.1/PDL.1・PDL.2とTregの経路を活性化させることでT細胞からの免疫応答から逃避している.→抗CTLA.4抗体や抗PD.1抗体を使用して癌細胞によるT細胞の抑制を阻害する.(99)あたらしい眼科Vol.35,No.9,201812550910-1810/18/\100/頁/JCOPY