あたらしい眼科36(6):753.756,2019c第23回日本糖尿病眼学会総会特別講演Ⅰ(内科)糖尿病診療におけるチーム医療TeamMedicalApproachinDiabetesCare寺内康夫*はじめに糖尿病の分野では,新たな治療薬の開発や臨床応用が日々進み,同時に,透析予防に代表される合併症予防や大血管障害への対策が重要視されている.そのために,関連各科医師とメディカルスタッフ間での診療科や職種を超えた連携,地域の実情に応じた適切な医療連携など,チーム医療をオーダーメイドに作りあげていく必要がある.2000年に,日本糖尿病学会,日本糖尿病教育・看護学会,日本病態栄養学会が母体となり,「日本糖尿病療養指導士認定機構」を設立し,「日本糖尿病療養指導士(certi.eddiabeteseducatorofJapan:CDEJ)」の資格認定を開始した.この資格は,糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識をもち,医師の指示の下で患者に療養指導を行うことのできる熟練した経験を有し,試験に合格した看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士に与えられる.本機構設立から17年が経過した2017年6月時点で,CDEJの資格保有者は19,399人になった.CDEJ以外にもさまざまな立場や職種の人々が糖尿病チーム医療に参画している.今回の特別講演では,おもに糖尿病診療におけるチーム医療の変遷と今後の展望について述べる.I糖尿病治療の目標日常診療においては,血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロール状態の維持を心がけるが,これは当面の目標に過ぎない(図1).糖尿病細小血管合併症(網血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロール状態の維持図1糖尿病治療の目標(日本糖尿病学会編・著:2016-2017糖尿病治療ガイド.p26,2017)*YasuoTerauchi:横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学〔別刷請求先〕寺内康夫:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(49)753(年)■日本人の平均寿命■糖尿病患者の死亡年齢9080706050図2糖尿病患者の寿命「糖尿病死因に関する委員会」(中村二郎委員長)の報告より(文献1より引用)膜症,腎症,神経障害)および動脈硬化性疾患(虚血性心疾患,脳血管障害,閉塞性動脈硬化症)の発症,進展を阻止することがより上位の目標になる.さらに重要なことは,健康な人と変わらない生活の質(qualityoflife:QOL)の維持,健康な人と変わらない寿命の確保のために,糖尿病治療を実践するということである.II糖尿病患者の寿命糖尿病患者の死亡年齢と日本人の平均寿命との間には10.13歳の開きがあったが,最近の報告では,その差が少し縮小してきている(図2)1).今後一層縮小できるよう,糖尿病治療のあり方を検討する必要がある.III糖尿病療養指導士制度の始まり米国,カナダ,豪州などでは,1970年代の初頭より糖尿病療養指導従事者の専門性と認定について検討が行われ,1986年には資格としてcerti.eddiabeteseduca-tor(CDE)制度が発足した.日本においても2000年に日本糖尿病学会,日本糖尿病教育・看護学会,日本病態栄養学会が母体となり,「日本糖尿病療養指導士認定機構」を設立し,「日本糖尿病療養指導士(CDEJ)」の資格認定を開始した.この資格は,糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識をもち,医師の指示の下で患者に療養指導を行うことのできる熟練した経験を有し,試験に合格した看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士(2000年度より2004年度までは准看護師,栄養士も対象)に与えられ,2001年3月に第1回認定試験が行われた.本機構設立から17年が経過し,CDEJの資格保有者は19,399人になった.一方,日本の各地でcerti.eddiabeteseducatorlocal(CDEL)の教育・資格認定も進んできた.IV糖尿病チーム医療の意義と変遷日本人糖尿病患者の90%以上を占める2型糖尿病の発症・進展予防には,1次予防(発症予防),2次予防(合併症の発症予防),3次予防(重症化予防)があるが,いずれのステップにおいても高度良質な療養指導が求められ,そこにCDELの活躍が期待される.2型糖尿病治療の3本柱は食事療法,運動療法,薬物療法である.食事療法,運動療法においては,日常生活習慣の是正が求められるが,糖尿病専門医だけでは十分な指導がむずかしい.また,薬物療法においても,内服薬の正しい知識習得と服薬実行,注射製剤の知識習得と自己注射には糖尿病療養スタッフが不可欠である.従来は患者中心の院内チームによる医療が行われてきたが,患者の高齢化や孤立を考えると患者家族,地域の行政も巻き込んだ地域連携のチーム医療を構築していく必要がある.多職種・多施設によるチーム医療では,いかにして「情報の共有」を図ったらよいか,誰がプロデュースするのか,という視点がますます大切になってくる.また,糖尿病療養指導が施設完結型から地域包括型へ移行していく際に,CDEJとともにCDELが糖尿病チーム医療に果たす役割は大きい.CDEJ発足以前から地域に根付いた地道な活動をしてきたCDELも多く存在する.両者の協力体制の強化は医療機関連携および介護連携への貢献も期待される.V糖尿病療養指導士に求められる役割糖尿病患者の良好な代謝コントロールを維持し,合併症の発症および進展を抑制することによって,健常人と変わらぬ社会活動を可能にするためには,患者と医療側の生涯にわたる密接な連携による療養指導が必要である.糖尿病診療の基本となる食事・運動療法,および薬物療法は,患者の日常生活そのものである.個々の患者の生活を理解し評価したうえで,医師が指示する治療方針を正しく適切に患者に伝え,患者が自己管理できるように支援することがCDEJの大きな使命である2).患者の日常生活が治療行為でもある糖尿病診療では,治療や療養指導の場は医療施設内のみにとどまることなく,患者の自宅や職場にも及ぶ.また,超高齢社会となった現在の日本において,フレイル・要介護状態・認知754あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019(50)GOAL(目的変数)図3糖尿病治療継続には治療モチベーションの維持・向上が重要治療継続には,治療モチベーションの維持・向上が鍵モチベーションを高める8つの因子が存在する.(文献3より引用)症を伴った高齢糖尿病患者は増加しつつあり,治療や介護の場は地域全体へと広がっている.CDEJには,地域それぞれの特性に応じて,医療資源・人的資源を有効に活用して活動することも求められている.糖尿病療養指導は一人のCDEJで完結できるものではなく,多職種の協働や後進の育成を通して多角的で継続的な療養指導を可能とする必要がある.そのためにCDEJには,協働や育成が良好に行われる療養指導環境を作ることが求められる.VICDEJの未来CDEJの認定は5年ごとの更新制となっているが,その更新率は発足以来60%台に低迷している.それに加え新規受験者数が減少している.糖尿病学会の認定教育施設の中には,数十名のCDEJが在籍しているところもある一方,糖尿病患者が大勢いるにもかかわらず,CDEJが不在な施設が多く存在する.今のCDEJ認定制度では,常勤医師の基準をクリアできずに受験申請を断念している者が地方には多いとの声を聞く.厳しい環境下で患者に寄り添って「チーム医療」をしてきた者が,希望し努力すればCDEJになれる道筋を検討する時期に来ている.高齢社会への対応も含み,多様化する糖尿病診療体制やさまざまな患者に対応できる「チーム医療」の担い手としてのCDEJの今後は,誰が責任をもつべきであろうか.本機構と設立母体である学会3団体,CDELのネットワーク構築に取り組んでいる関係団体と,よりよいCDEの育成のあり方と資格取得後の生涯教育,日本の糖尿病診療体制を見直す時期が到来している.VII糖尿病患者が前向きに治療に取り組む因子糖尿病治療の現場では患者の治療意欲の低さがたびたび問題になる.本講演では,筆者が関与したT-CARESurvey3)について紹介した.“糖尿病治療における重要な患者の態度”を“患者自身が治療に向き合うこと”であると仮定し,それらを表す項目として「治療に必要なことはきっちりやっている」「前向きに治療に取り組んでいる」の2項目を設定し,これら2項目に影響を与える項目として,「治療・病気に関する知識の認識」「糖尿病治療の評価」「糖尿病の心配事」「医師との関係」「家族との関係」を仮定した.これらの5項目について,因子分析によって治療モチベーションに関与する因子を抽出した.抽出された因子の中で,どのような要因が「治療に必要なことはきっちりやっている」「前向きに治療に取り組んでいる」の2項目に表現される治療に取り組む態度につながるかを明らかにするため,抽出された因子を説明変数「きっちり・前向きに取り組む」(「治療に必要なことはきっちりやっている」と「前向きに治療に取り組んでいる」の2項目の平均値)を目的変数とする重回帰(51)あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019755表1「きっちり・前向きに取り組む」指標を目的変数とした重回帰分析結果(文献3より引用)分析を行った.「きっちり・前向きに取り組む」を目的変数として有意に説明力があった項目は「糖尿病治療の評価/治療効果の認識・理解」「治療・病気に関する知識の認識/自分の病状の理解」「家族との関係/精神的つながり」「糖尿病治療の評価/治療の精神的負担」「医師との関係/理解・支え」「治療・病気に関する知識の認識/糖尿病の薬や治療方法の知識」「医師との関係/うるさい」「家族との関係/行動的サポート」の8因子であった(図3).とくに説明力の高い上位2項目は「糖尿病治療の評価/治療効果の認識・理解」と「治療・病気に関する知識の認識/自分の病状の理解」であった(図3,表1).VIII糖尿病患者を前向きにするためにセルフケアが求められる糖尿病においては,患者自身が自らの疾患とその現在の状態を十分に理解することがなによりも重要である.自らを知ることで,その先どうすべきかを考えることができるようになる患者は多い.そこで,われわれ医療者は,患者自身が納得して自らの行動を選択できるように,治療方法や薬に対して十分な説明や教育といったサポートを継続的に行う.患者自らが意思決定することによって行動に責任感も生まれ,治療の効果へとつながることを実感することにより,治療に対してさらに前向きに向き合えるようになると考えられる.T-CARESurvey3)では,家族や医師との関係性や精神的ストレスが治療モチベーションへの阻害因子として抽出された.患者に一番身近な家族との関係性を良好に構築し,家族の精神的・行動的サポートを得ることは,日々の生活の改善を実践することに不可欠である.患者の精神的不安を解消し,治療モチベーション向上の大きな支えとなれるよう,精神的ケアを担うことがチーム医療スタッフにも期待されている.一方,医師との関係性が良好でない場合も,療養指導が患者にとって口うるさいものとしか感じられず,治療へのモチベーションを下げる結果につながることも肝に銘じるべきであろう.おわりに高齢社会への対応も含め,多様化する糖尿病診療体制やさまざまな患者に対応できる「チーム医療」の構築とその人材育成が急務である.設立母体である学会3団体,CDEL育成とCDEのネットワーク構築に取り組んでいる日本糖尿病協会などの関係団体と協議を重ね,よりよい療養指導士の育成のあり方と資格取得後の生涯教育,日本の糖尿病チーム医療を見直す必要がある.その際,患者の治療意欲を高めるために,患者自身が自らの疾患とその現在の状態,治療効果を十分に理解できるよう,糖尿病チーム医療にかかわるすべてのスタッフが意識することが重要である.文献1)中村二郎,神谷英紀,羽田勝計ほか:糖尿病の死因に関する委員会報告─アンケート調査による日本人糖尿病の死因─2001.2010年の10年間,45,708名での検討.糖尿病59:667-684,20162)日本糖尿病療養指導士認定機構編著:糖尿病療養指導ガイドブック2018.─糖尿病療養指導士の学習目標と課題─(寺内康夫編),メディカルレビュー社,20183)寺内康夫,久保理佳子,栗原崇泰:糖尿病患者の意識・実態に関するweb調査「T-CARESurvey」から分析した糖尿病患者のタイプ別治療モチベーションアップの方策.医学と薬学71:2075-2089,2014☆☆☆756あたらしい眼科Vol.36,No.6,2019(52)