眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人41.GVHDと結膜線維化小川葉子慶應義塾大学医学部眼科学教室GVHDによるドライアイは眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群に類似し,眼表面粘膜に特殊な免疫性線維化を併発する.おもな結膜所見に,線維性血管膜,瞼球癒着,結膜.短縮,上下眼瞼癒着,角膜の結膜化,血管新生がある.ドナーとレシピエント由来の特殊な線維芽細胞の活性化が病態の中心的役割を果たしている.●はじめに造血幹細胞移植は血液悪性疾患の根治療法として確立され,わが国では年間にC5千例以上,世界的にもC6万例以上の新規移植が行われている1).同種造血幹細胞移植後の主要な合併症として,慢性移植片対宿主病(graft-versus-hostCdisease:GVHD)があげられる.眼科領域でのもっとも頻度の多いCGVHDによる合併症がドライアイであり,同種造血細胞移植後の約C50%に発症することが知られている2~4).C●GVHDによる結膜線維化の臨床像GVHDによるドライアイは眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群によるドライアイに類似し,眼表面粘膜に特殊な免疫性線維化を併発する2).代表的な結膜所見には,結膜線維性血管膜,瞼球癒着,結膜.短縮,上下眼瞼癒着に加えて角膜輪部機能不全,角膜の結膜化,角膜への新生血管がある5,6).移植後半年ごろにドライアイが発症し,ドライアイ発症からわずかC3カ月以内に結膜の特殊な線維化が進行する場合が高頻度に認められる(図1).急速な線維化へと前駆症状としては,結膜粘膜偽膜が先行する場合がある.重症例では,涙腺の排出導管やマイボーム腺の導管閉塞の原因となり,ドライアイ発症後,急速なドライアイの進行,重症化を認め,反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌がともに極めて減少する7).C●GVHDの結膜線維化の病理GVHDによるドライアイ症例の生検診断時における結膜の病理像には,高度な線維化とリンパ球を主体とした免疫担当細胞浸潤を認める.結膜上皮基底細胞基底膜の屈曲蛇行と断裂,CD8陽性CT細胞の結膜基底細胞付近への浸潤を認める.診断時の残余検体で(承認番号20090277),上皮間接着分子のCEカドヘリンの減弱,(89)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1慢性GVHDによるドライアイに併発した結膜線維化像眼瞼結膜粘膜に白色に変化している結膜線維化部位を認める.上皮間葉転換の主要な転写因子であるCSnailの発現,基底膜の分解酵素としてのCMMP9の発現上昇を認め,結膜基底細胞が上皮間葉転換をきたし,線維芽細胞に変換することによる線維化を引き起こすことを報告した8).一方CGVHDによるドライアイ症例の結膜.付近には,ドナー由来線維芽細胞の集積を認める(図2).GVHDモデルマウスでも同様の部位にドナー由来線維芽細胞が浸潤している9).結膜線維化の病態にはドナーおよびレシピエント由来の線維芽細胞が協調して病態を増幅していると考えられる.C●GVHDの結膜線維化の治療現在,保険適用となっている抗線維化点眼薬はない.臨床では,アレルギー性結膜炎の治療薬として承認されているトラニラストが抗線維化効果をもち,有用である可能性がある.疼痛緩和や高度な癒着防止のために治療用コンタクトレンズが,高度な瞼球癒着,結膜.短縮に対して羊膜移植術が報告されている10).基礎研究レベルあたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1095図2慢性GVHDによるドライアイ症例の結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の局在a:結膜.におけるCCD34陽性の特殊な線維芽細胞の集積.緑色は紡錘形線維芽細胞(CD34).青色は核(TO-PRO3).Cb:aと同一切片同一部位におけるCY染色体CFISH陽性シグナル.ドナーは男性,レシピエントは女性.同一切片でCD34陽性細胞と同一細胞(.)にCY-FISHシグナルを検出した.で,炎症抑制とともに線維化抑制効果が認められた薬剤として,涙腺,結膜においてはCVascularCAdhesionProtein-1抑制薬,羊膜の抽出物であるCHeavyCChain-Hyaluronan/PentraxinC3,涙腺においてフェニル酪酸,レニンアンジオテンシン拮抗薬が報告されている11).C●おわりに今後,GVHDによるドライアイの病態に関与する結膜粘膜の免疫性線維化に対する有効な治療法がみいだされれば,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群をはじめとした難治性眼表面線維化疾患における瞼球癒着,結膜.短縮などの新規治療法の開発に役立つ可能性があると考えられる文献1)稲本賢弘:移植後長期フォローアップと慢性CGVHD.日本造血細胞移植学会雑誌6:84-97,C20172)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20173)JagasiaCMH,CGreinixCHT,CAroraCMCetCal:NationalCInstiC-tutesCofCHealthCConsensusCDevelopmentCProjectConCCrite-riaCforCClinicalCTrialsCinCChronicCGraft-versus-HostCDis-ease:I.CTheC2014CDiagnosisCandCStagingCWorkingCGroupCreport.BiolBloodMarrowTransplant21:389-401,Ce381,C20154)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaCR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20135)KusneY,TemkitM,KheraNetal:Conjunctivalsubepi-thelialC.brosisCandCmeibomianCglandCatrophyCinCocularCgraft-versus-hostdisease.OculSurfC15:784-788,C20176)RobinsonCMR,CLeeCSS,CRubinCBICetCal:TopicalCcorticoste-roidCtherapyCforCcicatricialCconjunctivitisCassociatedCwithCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBoneCMarrowCTrans-plantC33:1031-1035,C20047)OgawaY,OkamotoS,WakuiMetal:Dryeyeafterhae-matopoieticCstemCcellCtransplantation.CBrCJCOphthalmolC83:1125-1130,C19998)OgawaY,ShimmuraS,KawakitaTetal:Epithelialmes-enchymalCtransitionCinChumanCocularCchronicCgraft-ver-sus-hostdisease.AmJPatholC175:2372-2381,C20099)五十嵐秀人,小川葉子,山根みおほか:慢性移植片対宿主病マウスモデルの結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の集積.あたらしい眼科35:2018印刷中10)TungCCI:CurrentCapproachesCtoCtreatmentCofCocularCgraft-versus-hostdisease.IntOphthalmolClinC57:65-88,C201711)OgawaCY,CSpecialCIssue.CDryCEyeCResearchCUpdateCinCJapan.Inthe25thCAnniversaryofJapanDryEyeSociety.4.SubtypesofDryEyeB.Aqueoustearde.cientdryeyeSjogren’sCsyndrome(SS)C,CNon-Sjogren’sCsyndrome,CandCGraft-versus-hostCdisease.CInvestCOphthalmoloCVisCSci.inpressC1096あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(90)