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眼瞼・結膜:GVHDと結膜線維化

2018年8月31日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人41.GVHDと結膜線維化小川葉子慶應義塾大学医学部眼科学教室GVHDによるドライアイは眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群に類似し,眼表面粘膜に特殊な免疫性線維化を併発する.おもな結膜所見に,線維性血管膜,瞼球癒着,結膜.短縮,上下眼瞼癒着,角膜の結膜化,血管新生がある.ドナーとレシピエント由来の特殊な線維芽細胞の活性化が病態の中心的役割を果たしている.●はじめに造血幹細胞移植は血液悪性疾患の根治療法として確立され,わが国では年間にC5千例以上,世界的にもC6万例以上の新規移植が行われている1).同種造血幹細胞移植後の主要な合併症として,慢性移植片対宿主病(graft-versus-hostCdisease:GVHD)があげられる.眼科領域でのもっとも頻度の多いCGVHDによる合併症がドライアイであり,同種造血細胞移植後の約C50%に発症することが知られている2~4).C●GVHDによる結膜線維化の臨床像GVHDによるドライアイは眼類天疱瘡やCStevens-Johnson症候群によるドライアイに類似し,眼表面粘膜に特殊な免疫性線維化を併発する2).代表的な結膜所見には,結膜線維性血管膜,瞼球癒着,結膜.短縮,上下眼瞼癒着に加えて角膜輪部機能不全,角膜の結膜化,角膜への新生血管がある5,6).移植後半年ごろにドライアイが発症し,ドライアイ発症からわずかC3カ月以内に結膜の特殊な線維化が進行する場合が高頻度に認められる(図1).急速な線維化へと前駆症状としては,結膜粘膜偽膜が先行する場合がある.重症例では,涙腺の排出導管やマイボーム腺の導管閉塞の原因となり,ドライアイ発症後,急速なドライアイの進行,重症化を認め,反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌がともに極めて減少する7).C●GVHDの結膜線維化の病理GVHDによるドライアイ症例の生検診断時における結膜の病理像には,高度な線維化とリンパ球を主体とした免疫担当細胞浸潤を認める.結膜上皮基底細胞基底膜の屈曲蛇行と断裂,CD8陽性CT細胞の結膜基底細胞付近への浸潤を認める.診断時の残余検体で(承認番号20090277),上皮間接着分子のCEカドヘリンの減弱,(89)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1慢性GVHDによるドライアイに併発した結膜線維化像眼瞼結膜粘膜に白色に変化している結膜線維化部位を認める.上皮間葉転換の主要な転写因子であるCSnailの発現,基底膜の分解酵素としてのCMMP9の発現上昇を認め,結膜基底細胞が上皮間葉転換をきたし,線維芽細胞に変換することによる線維化を引き起こすことを報告した8).一方CGVHDによるドライアイ症例の結膜.付近には,ドナー由来線維芽細胞の集積を認める(図2).GVHDモデルマウスでも同様の部位にドナー由来線維芽細胞が浸潤している9).結膜線維化の病態にはドナーおよびレシピエント由来の線維芽細胞が協調して病態を増幅していると考えられる.C●GVHDの結膜線維化の治療現在,保険適用となっている抗線維化点眼薬はない.臨床では,アレルギー性結膜炎の治療薬として承認されているトラニラストが抗線維化効果をもち,有用である可能性がある.疼痛緩和や高度な癒着防止のために治療用コンタクトレンズが,高度な瞼球癒着,結膜.短縮に対して羊膜移植術が報告されている10).基礎研究レベルあたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1095図2慢性GVHDによるドライアイ症例の結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の局在a:結膜.におけるCCD34陽性の特殊な線維芽細胞の集積.緑色は紡錘形線維芽細胞(CD34).青色は核(TO-PRO3).Cb:aと同一切片同一部位におけるCY染色体CFISH陽性シグナル.ドナーは男性,レシピエントは女性.同一切片でCD34陽性細胞と同一細胞(.)にCY-FISHシグナルを検出した.で,炎症抑制とともに線維化抑制効果が認められた薬剤として,涙腺,結膜においてはCVascularCAdhesionProtein-1抑制薬,羊膜の抽出物であるCHeavyCChain-Hyaluronan/PentraxinC3,涙腺においてフェニル酪酸,レニンアンジオテンシン拮抗薬が報告されている11).C●おわりに今後,GVHDによるドライアイの病態に関与する結膜粘膜の免疫性線維化に対する有効な治療法がみいだされれば,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群をはじめとした難治性眼表面線維化疾患における瞼球癒着,結膜.短縮などの新規治療法の開発に役立つ可能性があると考えられる文献1)稲本賢弘:移植後長期フォローアップと慢性CGVHD.日本造血細胞移植学会雑誌6:84-97,C20172)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20173)JagasiaCMH,CGreinixCHT,CAroraCMCetCal:NationalCInstiC-tutesCofCHealthCConsensusCDevelopmentCProjectConCCrite-riaCforCClinicalCTrialsCinCChronicCGraft-versus-HostCDis-ease:I.CTheC2014CDiagnosisCandCStagingCWorkingCGroupCreport.BiolBloodMarrowTransplant21:389-401,Ce381,C20154)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaCR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C20135)KusneY,TemkitM,KheraNetal:Conjunctivalsubepi-thelialC.brosisCandCmeibomianCglandCatrophyCinCocularCgraft-versus-hostdisease.OculSurfC15:784-788,C20176)RobinsonCMR,CLeeCSS,CRubinCBICetCal:TopicalCcorticoste-roidCtherapyCforCcicatricialCconjunctivitisCassociatedCwithCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBoneCMarrowCTrans-plantC33:1031-1035,C20047)OgawaY,OkamotoS,WakuiMetal:Dryeyeafterhae-matopoieticCstemCcellCtransplantation.CBrCJCOphthalmolC83:1125-1130,C19998)OgawaY,ShimmuraS,KawakitaTetal:Epithelialmes-enchymalCtransitionCinChumanCocularCchronicCgraft-ver-sus-hostdisease.AmJPatholC175:2372-2381,C20099)五十嵐秀人,小川葉子,山根みおほか:慢性移植片対宿主病マウスモデルの結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の集積.あたらしい眼科35:2018印刷中10)TungCCI:CurrentCapproachesCtoCtreatmentCofCocularCgraft-versus-hostdisease.IntOphthalmolClinC57:65-88,C201711)OgawaCY,CSpecialCIssue.CDryCEyeCResearchCUpdateCinCJapan.Inthe25thCAnniversaryofJapanDryEyeSociety.4.SubtypesofDryEyeB.Aqueoustearde.cientdryeyeSjogren’sCsyndrome(SS)C,CNon-Sjogren’sCsyndrome,CandCGraft-versus-hostCdisease.CInvestCOphthalmoloCVisCSci.inpressC1096あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(90)

抗VEGF治療:抗VEGF療法とロービジョンケア

2018年8月31日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二55.抗VEGF療法とロービジョンケア斉之平真弓鹿児島大学眼科ロービジョン外来抗CVEGF療法は現在,滲出性加齢黄斑変性においてスタンダードな治療になっている.しかし,治療により脈絡膜新生血管の活動性が低下しても,網膜色素上皮や脈絡膜の萎縮,さらには黄斑部瘢痕化に至り,視力予後不良になる症例も少なくはない.そこで治療と同時に,病期に応じた適切なロービジョンケアが必要である.はじめに日本人の平均寿命は女性C87.1歳,男性C81.3歳に延び,2030年までにはC3人にC1人がC65歳以上という超高齢社会に到達する.高齢化に伴い,今後,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)のような慢性疾患が増加することが予測される.AMDに対する効果的治療が存在しなかった時代には失明も避けられなかったが,現在,抗CVEGF療法が広がり,AMDによる失明は大幅に減少した.しかしながら,治療により脈絡膜新生血管(choroidalCneovascularization:CNV)の活動性が低下しても,網膜色素上皮細胞や神経網膜が萎縮しロービジョンに至る症例も少なくはない.そこで,治療を継続しながら快適な生活を送るための視覚リハビリテーション,すなわちロービジョンケアが重要となる.抗VEGF療法導入期およびCNV活動期のロービジョンケアAMD発症と日光曝露の多寡には関連があると指摘されているが,AMD発症後の日光曝露と進行に関して否定的な意見もあり,結論は出ていない.それでも僚眼のことを考え,羞明がない場合でも長時間,屋外にいるときは遮光眼鏡(図1)つば付き帽子またはサンバイザー,日傘を勧めている.た,だし,遮光眼鏡に度数を入れる場合は維持期まで待ったほうがよい.必要に応じて福祉制度や環境整備について助言を行う.・福祉制度身体障害者手帳の取得により,税の優遇措置や交通機関運賃の割引,補装具(遮光眼鏡,矯正眼鏡,弱視眼鏡,白杖など)や日常生活用具の給付を受けることができる.身体障害手帳に該当しなくてもCAMDは障害者総合支援法の「難病」であるため,補装具や日常生活用具の給付,同行援護サービス(移動支援)が受けられる.「難病」による補装具申請の場合,患者が住民票のある市町(87)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY村の障害福祉課で医師意見書(書式は市町村で異なる)を取得し,医師(身体障害者福祉法第C15条指定医師または視覚障害者用補装具判定医師)が「AMDにて羞明が強く,遮光眼鏡を装用する必要がある」などと理由を記述する必要がある.また,65歳以上の移動支援は介護保険制度による支援が優先される(自治体により支援内容に差がある).・環境整備患者本人の見え方が変わらなくても,住環境の整備により生活がしやすくなる.AMDでは黄斑部の網膜感度低下により,コントラスト感度が低下し薄暗く見えるため,室内の照明の種類や照度を変え,羞明が出ない程度に明るくする1).物の色と背景色を対比させ,コントラストを高め見やすくする(例:黒色の茶碗・しゃもじ・まな板など).大きな文字,太い文字,ゴシック体を使用する.時計の文字盤を利用して配膳する(例:飲み物はC10時からC2時の位置に置くと倒しにくい).その他,生活用品を常に整理整頓し,定位置を決めておく.また,患者の見え方をシュミレーションメガネで家族に体験してもらい,環境整備に積極的に協力してもらうことも必要である2).抗VEGF療法維持期およびCNV活動停止期のロービジョンケア少なくともC3カ月以上視力が安定してから,眼鏡や視覚補助具の処方を実施する.補助具使用の場合,視距離に応じた矯正眼鏡が必要になる.最初に,所持眼鏡のチェックを実施し,必要であれば適切な眼鏡処方を行う.中心暗点や歪視を伴う症例では遠近両用(とくに累進屈折力)眼鏡のレンズ領域と網膜感度の良好領域が合わない場合があるため,遠近両用眼鏡よりも遠用および近用の単焦点眼鏡が勧められる.・「読み・書き」のロービジョンケアCInternationalCClassi.cationCofCDisease-10-ClinicalModi.cation(ICD-10-CM)によれば,両眼開放視力があたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1093図1遮光眼鏡(補装具)図2照明と書見台図3据置型拡大読書器(日常生活用具)短波長光をカットし,羞明を軽減する.書見台により楽な姿勢で読書が可能.照「読み・書き」だけでなく日常生活全般に活用できる.明は頭や手が影にならない位置にアームが自由に動くタイプを選択する.図4LEDライト付きの卓上型図5コロコロ号スタンドタイプ図6タイポスコープ拡大鏡キャスターのついた台にCiPadを載せ,台を前黒い囲みで読み書きしたい部分を強調する.さまざまな倍率の卓上型拡大鏡後にコロコロと動かしながら読むことができさまざまな書式に合わせて作成可能.があり,用途に合わせる.る.スタンドはC4段階の角度調節が可能.0.25以下で読書用補助具が必要になるロービジョンと定義されている.しかし,両眼性CAMDの場合,視力がよくても黄斑病変により中心暗点や歪視があるため「読み・書き」に困る症例が多く,ロービジョンケアが必要である.中心暗点がある場合,「読み・書き」したい対象物に近づいて見ることで,中心暗点が小さくなり見やすくなる.ただし,頭が陰にならないように,「読み・書き」をする時には照明(アームが自由に動くタイプ)と書見台を併用する(図2).また,対象物を拡大コピーしたり,ルーペ(拡大鏡)や拡大読書器で拡大する方法で,中心暗点があっても網膜像の拡大により「読み・書き」がしやすくなる.拡大読書器は視力C0.1以下でも有効で,「読み・書き」のほかに,爪切りや携帯電話の操作,野菜の汚れチェックなど,日常生活全般に活用できる優れた補助具である.高齢者には携帯型よりもモニターが大きい据置型拡大読書器が勧められる(図3).拡大鏡は高齢者の場合,LEDライト付きの卓上型拡大鏡が安定して使いやすい(図4).iPadはアクセシビリティ機能を備えており,付属カメラで携帯型拡大読書器のように利用できる.平らな場所で前後・左右に動かしながら読字できるCiPad用専用台も市販されている(図5).「読み・書き」したい場所を黒い囲みで強調し,行間違1094あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018いを防ぐ「タイポスコープ」も中心暗点や歪視のある症例に勧められる(図6).中心暗点がある場合,網膜感度の良好な領域で見る偏心視訓練も重要である.心のケアCNV再発の恐れや治療の経済的負担,見たい物が見えないストレスなど,AMD患者は抑うつ状態になりやすいことが報告されている.ロービジョンケア実施グループはロービジョンケアを実施していないグループと比較し,QOL向上だけでなく有意に抑うつ状態も低い結果であった3).眼科医が抗CVEGF療法とともに,ロービジョンケアの存在を伝えることが,患者のCQOL向上や心のケアにつながる.文献1)藤田京子:疾患別のロービジョンケア加齢黄斑変性.眼科クオリファイC26.ロービジョンケアの実際.p176-181,中山書店,20152)仲泊聡:眼科医療としてのロービジョンケアロービジョンケアとは?眼科クオリファイC26.ロービジョンケアの実際.p2-8,中山書店,20153)DeemerCAD,CMassofCRW,CRovnerCBWCetCal:FunctionalCoutcomesCofCtheClowCvisionCdepressionCpreventionCtrialCinCage-relatedCmacularCdegeneration.CIOVS58:1514-1520,C2017(88)

緑内障:緑内障診療からみる遠隔医療

2018年8月31日 金曜日

●連載218監修=岩田和雄山本哲也218.緑内障診療からみる木ノ内玲子旭川医科大学医学部医工連携総研講座,同大眼科学講座遠隔医療川井基史旭川医科大学眼科学講座ICT(informationandcommunicationtechnology)の進歩・普及はめざましく,また急速である.医療においてもICTをうまく利用することで,遠隔地の患者に専門医療を提供でき,通院回数を減らす効果が期待できる.緑内障診療から見る眼科遠隔医療の実際について紹介し,また,遠隔医療の現在の問題点についても言及する.●はじめに緑内障の診断には,陳旧性網膜静脈閉塞症や,他の視神経疾患の除外,病型分類のための隅角検査や前房炎症の有無の確認などが必要で,現在のところ遠隔診療のみでの診断はむずかしい.旭川医科大学では地域の眼科医をサポートする形で,緑内障診療に遠隔医療システムを利用している1).●リアルタイム遠隔診療仮想プライベートネットワーク(virtualprivatenet-work:VPN)を利用し,地方病院の眼科医から患者のリアルタイムの診察画像(細隙灯顕微鏡所見など)を送信してもらい,遠隔地の患者の診療を行うものである(図1).利点としては遠隔診療したうえで,患者と直接コミュニケーションが取れることである.事前に聞いていた情報ではつかめなかった印象がとらえられ,問診の追加や手術の決断が可能である.手術を決定した際は,“こちらで引き受けさせてもらいます”といった説明ができるので,患者との信頼関係構築に役立ち,また,遠隔地から外来受診してもらうことなく,直接入院が可能となる.このシステムを緑内障の術後管理に利用することもある2).リアルタイム診療では,診療報酬を相談側と折半できるという利点もある.リアルタイム診療の欠点としては,設備投資や通信費といった経費に加え,相談側と相談を受ける側との時間調整の手間があげられる.●遠隔相談システムインターネットの遠隔相談システムで,地方病院の眼科医からの相談を受けるものである.リアルタイムではないので,相談をする側も答える側も余裕をもって利用できる.地方に派遣している眼科医を支援する機能を果たしており,さまざまな専門分野の相談が寄せられる3).緑内障では,光干渉断層計や視野などの画像を添付して(85)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1リアルタイム遠隔診療カメラ画像やスリット画像を切り替えて利用できる.の診断や治療方針の相談があり,専門医の意見が求められたりする(図2).欠点としては,セキュリティの確保のため管理者(旭川医大遠隔医療センター)に負担がかかる点である.相談は個人情報を除いた情報でやり取りを行い,パスワードでログインする形態をとっているが,個人情報の厳格化で,個人の名前だけでなく,虹彩紋理も個人識別符号と定義されたため,一層の注意が必要となってきている.●インターネットを利用した眼底写真検診インターネット上の「ウェルネットリンク」を利用して,眼底写真の検診を行っている(図3).「ウェルネットリンク」は旭川医大の遠隔医療センターが運営するネット上の健康医療情報管理システムで,バイタルデータの管理や健康診断結果の管理ができるようになっている.ウェルネットリンク上の画像を見て,診察が必要と判断された人には二次検査を受けるように案内を出している.現在,この検診は北海道留萌市の協力のもと,臨床研究として行っている.あたらしい眼科Vol.35,No.8,20181091図2遠隔相談システム画像や病歴などを載せ,相談したい医師や専門グループを指定する.図4モバイルを利用した医師間のコミュニケーション簡便で迅速な連絡が可能である.●医療関係者間コミュニケーションアプリを利用したモバイル端末での相談モバイル端末(スマートフォン)での情報のやり取りは,簡便かつ汎用性があり,医療での活用も進められてきている.救急の場面では,CTなどの画像を迅速に専門医のモバイル端末に送信することで,専門医がどこに居ようともコンサルトが可能で,迅速に指示をもらうことができる.1092あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018図3眼底写真検診眼底画像をクリックすると拡大した眼底画像がみられる.読影結果を入力し回答する.当院では医療コミュニケーションアプリ「Join」(アルム)を研究として導入しており,外科救急と眼科診療で活用している(図4).このアプリケーションはLINEのようなコミュニケーション様式となっており,診療相談や情報共有,業務連絡に使われている.アプリケーションで使用する患者画像情報はモバイル端末に残らず,クラウドに保存される.また,画像情報に個人情報は載せないようにして,運用している.●今後無散瞳眼底カメラによる写真を遠隔地でスクリーニングし,要精査の人には医療施設で光干渉断層計をはじめとした検査を受けてもらい,眼科医はどこにいてもデータから緑内障と診断することが,技術的には遠くない将来に可能となる.ソフト面で追いつかなければならない課題として,個人情報の取り扱いルールの明確化,ネットセキュリティの確保,責任の所在の明確化,診療報酬,対面診療の意義の明確化などがあげられる.患者も医療者側も遠隔医療の恩恵を受けられるよう,課題を解決していく必要がある.文献1)石子智士,木ノ内玲子,花田一臣ほか:【遠隔医療を推進する旭川医科大学の取り組み】眼科における遠隔医療の意義.日遠隔医療会誌10:4-7,20142)山口亨,石子智士,木ノ内玲子ほか:遠隔医療システムを活用した眼科術後管理の有用性.日遠隔医療会誌9:33-38,20133)花田一臣,石子智士,守屋潔ほか:遠隔医療支援システムを活用した眼科遠隔医療の運用実績.日遠隔医療会誌9:125-128,2013(86)

屈折矯正手術:Mini Well Ready

2018年8月31日 金曜日

監修=木下茂●連載219大橋裕一坪田一男219.MiniWellReady野口三太朗ツカザキ病院眼科ウェーブフロントエンジニアリングを基にデザインされた眼内レンズ(IOL)であるCMiniWellReadyが日本でも使用可能となった.IOLオプティカルゾーンはC3ゾーンに分割されており,中心に正の球面収差,その周辺に負の球面収差を付加することで焦点深度を拡張させている.レンズ面にステップがないため,多焦点CIOLで問題となる夜間のグレア,ハローが少ない可能性がある.●多焦点IOLからEDOFIOLへ近方視に対しても多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を用いることで,眼鏡の装用率を低下させることが可能になったが,その反面,多焦点CIOLには大きな欠点としてグレア,ハローの出現,コントラストの低下,単眼複視の出現が存在することもわかってきた.とくに瞳孔径の大きくなる夜間の症状は強く,夜間の運転は辛くなる.およそC40~50%の患者がハローを自覚,30%の患者がグレアを自覚,そしてC20%の患者が「とても不快」と感じているといわれている1).このような副症状を低減する目的で開発されたレンズがextendeddepthoffocus(EDOF)IOLである.C●MiniWellReady(SIFIMedTech社)IOLが多焦点性を得るには,①回折格子,②屈折加入,③小開口,④球面収差,⑤コマ収差の五つの手法があるが,そのうち⑤は像質が不良になることから,実際にはC4手法が考えられる.①,②はすでに多焦点CIOLに用いられている.MiniWellReadyは上記C4手法のうち,④の球面収差図1MiniWellReadyの構造レンズ長径はC10.75Cmmで,レンズ光学面の直径はC6Cmm,ウルトラバイオレットフィルターが施されている.ハプティクスはC4足になっており,傾斜などが起きにくい仕様である.レンズパワーのラインナップは0~+30Dと広く製造されている.(83)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYを用いている.世界初のプログレッシブ構造をもった非球面多焦点CIOLで,プリロードシステムにて販売されている.近方加入度数はC3.0Dである.IOLオプティカルゾーンはC3分割されており,中心に正の球面収差,その周辺に負の球面収差を付加し,最周辺ゾーンは単焦点となっている.理論を簡単にいうならば,正の球面収差は焦点から近方方向に焦点が伸びる.逆に負の球面収差は焦点から遠方方向に焦点が伸びる(図1).その両方を一つのレンズのなかに併せもつことで焦点深度を拡張するというコンセプトである.回折リング,ステップ,屈折ステップがないために,ゴースト,グレア,ハローが非常に出にくい構造となっており,狭義のCEDOFCIOLといえる(図1,2).Readyと命名されているように,レンズはプリロード式である.レンズセッティングの煩雑さがなく,カートリッジを保存液の中からとりだし,インジェクターに装着し,カバーをはずせばよいだけで,レンズに触るこ図2MiniWellReady移植眼の所見実際に手術をして眼内に移植するとわかるが,レンズ自体にステップがないため,単焦点CIOLと見まちがえる.眼球を傾けたりするとCPurkinje像の反射の乱れで,レンズ中央部にプログレッシブになっている部分がわかる.あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1089Vergence(m)Vergence(m)1.000-1.00-0.50-0.33-0.25-0.200.71.000-1.00-0.50-0.33-0.25-0.200.50.60.40.50.30.4MTFMTF0.20.1010-1-2-3-4-5Vergence(D)図3眼孔径3mmでのMTF赤線:MiniWellReady,青:3焦点CIOLその一,緑線:3焦点CIOLその二.明所においては,3焦点CIOLでは遠方,70Ccm,30CcmのC3カ所でCMTFが高値となっており,3点において焦点があることがわかる.しかし,MiniWellReadyは遠方とC80~35Ccmに連続的に焦点をもつことがわかる.従来型の多焦点CIOLとは異なることがわかる〔throughCfocusMTF(modulationCtransferCfunction)50Ccycles/mm,3Cmm瞳孔径〕.(文献C4より一部改変して引用)となく移植可能である.そのため,レンズのセッティングミスが起きにくいと思われる.推奨切開創は角膜2.2Cmmである.明所瞳孔では遠方から近方への焦点の伸びがあるが,夜間になると(瞳孔径C5Cmm以上)近方のパワー比率が減少し,遠方優位の単焦点のようなふるまいをする.これにより,ハローなど,今まで多焦点CIOLで一番問題とされ,宿命でもあった副症状を大部分取り除くことができた(図3,4).遠方から近方まで他の多焦点CIOL(3焦点CIOL,他のCEDOFCIOL,2.5D多焦点CIOL)と比較して質の高い映像が得られるとされている2~4).レンズ偏位や傾きに対して耐性があり,そのような場合でも像質は良好ともされている5).しかし,何もかもがすべてにおいて優れているわけではない.一つは,収差コントロールによる深度拡張であるために,角膜,水晶体.,硝子体の光路の乱れに対して他のレンズよりも敏感である可能性が考えられる.また,従来型多焦点CIOLと比較するとやや近方視力が弱い可能性がある.最後にレンズデザインからも推察されるが,3ゾーンの光量により焦点や焦点深度の深さが変わる可能性が高い.つまり.瞳孔の拡大,近見縮瞳反射によって焦点が変わってくる可能性が高い.筆者の経験としては,瞳孔運動,瞳孔径の大きな若年者には非常に像質の高い良好な遠中近視力を提供し,かつ,夜間のグ1090あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018暗所では,いずれのC3焦点CIOLも近方C30Ccmにピークがあり,0.30.20.1010-1-2-3Vergence(D)-4-5図4眼孔径4.5mmでのMTF暗所でもC30Ccmの近距離にもある程度の焦点をもつ.そのために暗所でのグレアやハローが感じやすくなる可能性が考えられる.MiniWellReadyでは遠方でのCMTF値が非常に高く,暗所での遠方視における像質が良好である可能性が考えられる.しかし,中,近には焦点をもたないため,暗所では近方が見えにくくなり,グレア,ハローが自覚されにくいと思われる(throughfocusMTF50cycles/mm,4.5Cmm瞳孔径).(文献C4より一部改変して引用)Cレア,ハローを感じさせにくいクリアビジョンを得ることができる可能性があると思われる.そのため,若い患者には現時点では第一選択にあがってもよいレンズであると思われる.今後,MiniWellReadyと瞳孔径,瞳孔位置などの関係について,さらなる研究結果が待たれる.文献1)WoodwardCMA,CRandlemanCJB,CStultingCRD:Dissatisfac-tionCafterCmultifocalCintraocularClensCimplantation.CJCCata-ractRefractSurgC28:992-997,C20092)SonCHS,CTandoganCT,CLiebingCSCetCal:InCvitroCopticalCqualityCmeasurementsCofCthreeCintraocularClensCmodelsChavingidenticalplatform.BMCOphthalmol17:108,C20173)Dominguez-VicentCA,CEsteve-TaboadaCJJ,CDelCAguila-CarrascoAJetal:Invitroopticalqualitycomparisonof2trifocalCintraocularClensesCandC1CprogressiveCmultifocalCintraocularClens.CJCCataractCRefractCSurgC42:138-147,C20164)SaviniCG,CSchiano-LomorielloCD,CBalducciCNCetCal:VisualCperformanceofanewCextendedCdepth-of-focusCintraocularClensCcomparedCtoCaCdistance-dominantCdi.ractiveCmultifo-calintraocularlens.JRefractSurgC39:228-235,C20185)BellucciR,CuratoloMC:AnewextendeddepthoffocusintraocularClensCbasedConCsphericalCaberration.CJCRefractCSurgC33:389-394,C2017(84)C

眼内レンズ:エタニティーアクセスイーズ

2018年8月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋鈴木久晴381.エタニティーアクセスイーズ善行すずき眼科,日本医科大学プッシュ式インジェクターは,ときとして眼内レンズ(IOL)の暴発をきたし,後.破損やZinn小帯断裂などの危険性がまれにある.今回紹介するエタニティーアクセスイーズは,プッシュ式でありながら構造的な工夫で暴発が最小限に抑えられ,セッティングも容易であり,灌流液の充.によって,安全に挿入できるインジェクターである.●製品仕様参天製薬のエタニティーアクセスイーズは,同社の6mmのシングルピース眼内レンズ(intraocularlens:IOL)であるエタニティーナチュラルユニアールW-60R用のモデルSWJ-60R(図1a)と,エタニティーX-70をはじめとした7mmの3ピースIOL用のモデルであるSXJ-70II(図1b)の2種類がある.どちらもカートリッジとインジェクターが一体化しているディスポーザブルインジェクターである.また,IOLの装.は,タッキングなどはせず,カートリッジの所定の位置に置き(図1c),キャップを閉じるだけとなっている.また,カートリッジ内の充.物は粘弾性物質(ophthal-micviscosurgicaldevice:OVD),灌流液のどちらでも可能である(図1d).そして,改良されたスプリング機構を採用しているため,プランジャーをゆっくりと押し進めることができ,ロケット発射を抑制できる.abcd図1エタニティーアクセスイーズの外観とセッティングa:SWJ-60R,6mmIOL用.b:SXJ-70II,7mmIOL用.c:IOLのセッティング.d:OVDもしくは灌流液の注入.●セッティングまずIOLを装.するために,バイアルから鑷子でループをもってインジェクターの所定の位置に置くが,この際には,後方ループがプランジャー先端の上にあることを確認する(図1c).次にキャップを閉じ,所定の注入口からOVDもしくは灌流液を注入する(図1d).●挿入のコツインジェクターの充.物質において,筆者は以前OVDを用いていたが,現在は灌流液を用いるようにしている.OVDを使わなくなった理由は,①OVDで充.しようとすると比較的多くの量を必要とする.②感染防御の点からなるべく眼内にOVDを残したくないため,IOL挿入に際してのOVDは最小限としたい.③挿入時に水晶体.内に充.しているOVDに加えて,インジェクターからOVDが眼内に追加注入されることにより,図2に示すように眼内の圧力が上がっている可能性があると考えたからである.図2IOL挿入時のサイドポートからのOVD漏出a:OVDの漏出を認める(.).b:OVDの漏出を認めない(.).(81)あたらしい眼科Vol.35,No.8,201810870910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3プランジャーの二度押しa:IOLのタッキングを確認したら,一度プランジャーを引く.b:再度プランジャーを押して,タッキングを深くする.●IOL開放のコツ(SWJ.60R)SWJ-60Rを用いてワンアクションで水晶体.内に固定するコツとしては,プランジャーを押し出した時点で,少し斜め方向にループの根元を押していくことよい.このほかに,プランジャーで後方ループを二度押しして光学部内部で深くタッキングさせることによって,後方ループが.内に入りやすくする方法がある(図3).いずれの方法であっても,プッシュ式の利点であるフリーになるほうの手を用い,鑷子をサイドポートに差し込んだ状態で眼球をコントロールすることにより,挿入がよりスムーズになる.●IOL開放のコツ(SXJ.70II)SXJ-70IIを用いる際の注意点は,レンズが3ピースであることから,支持部を常に水平になるように保ちながら光学部の開放を行うことである.先行ループの開放図4IOL挿入後のダイヤリング7mmIOLワンアクションでの.内挿入にこだわらず,フックで微調整する.に続き,光学部がチップ先端から出はじめた時点でインジェクター本体を反時計回りに約90°回旋させるとよい.後方ループの処理では,光学部径が大きいことからプランジャーを押し込んでのワンアクションは.への負荷となり得るため,フックを用いて後方ループを.内へ挿入する方法がよいと考える(図4).●おわりにエタニティーアクセスイーズは,より簡単に,より正確に,より安全にというコンセプトのもとに設計されており,このコンセプトは十分に達成されていると思われる.今後は,さらなる小切開からの挿入や感染防御のためのプリセット構造などの改良も期待したい.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの素材

2018年8月31日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一46.コンタクトレンズの素材●はじめに日本ではハードコンタクトレンズはC1951年に非含水素材であるポリメチルメタクリレート(polymethyl-methacrylate:PMMA)製が初めて処方された.PMMAは酸素を透過しない素材であり,角膜の酸素不足が起きるため,1970年代末に酸素を通すシリコーン系素材とフッ素系素材によるガス透過性レンズが開発され,1979年に日本でも発売された1).一方,ソフトコンタクトレンズ(SCL)はC1972年に含水性(ハイドロゲル)素材であるメタクリル酸C2-ヒドロキシエチル(2-hydroxyethylCmethacrylate:HEMA)製が発売された1,2).HEMAを用いたハイドロゲルレンズでは,素材中の水を介して酸素が透過するため,含水率を高める(酸素透過性を高める)ためにイオン性および非イオン性モノマー(単量体)と共重合したCSCLが開発された.その後,1998年に疎水性・高酸素透過性のシリコーン成分をハイドロゲル素材に合成したシリコーンハイドロゲルレンズ(siliconeChydrogelCcontactClens:SHCL)が発売された.本稿では,現在もっとも多く処方されているCSCLの素材について解説する.SCLはCFDA分類で表1のように分類される.グループCIIIのレンズは現在,製品として販売されていない.SHCLはグループCVに分類される.ハイドロゲルレンズとCSHCLの大きな違いは,酸素透過性を高めるために含水性素材であるイオン性あるいは非イオン性ポリマーを用いているか,疎水性素材である親油性のシリコーンを用いているかにある.それぞれ大口泰治福島県立医科大学医学部眼科学講座の素材の特性の違いによる特徴を利点と欠点としてまとめると表2のようになる.C●ハイドロゲルレンズとSHCLの臨床における使い分けハイドロゲルレンズとCSHCLの使い分けのイメージを図1に示す.酸素透過性を比較すると,ハイドロゲルレンズは終日装用に必要とされる酸素透過率CDk/t(酸素透過係数CDkをレンズの厚さCtで割った値)=24.1×10.9(cm/sec)・(mlOC2/(ml・mmHg))3)を超えるレンズは少ない.それに対してCSHCLは連続装用で角膜中央部の浮腫が4%未満となるCDk/t=87×10.9(cm/sec)・(mlOC/(ml・mmHg))を超えるレンズがほとんどで,酸素透2過性は表1SCLの分類グループ名含水材料定義CI低含水非イオン性含水率C50%未満イオン性モノマーC1mol%以下CII中~高含水非イオン性含水率C50%以上イオン性モノマーC1mol%以下CIII低含水イオン性含水率C50%未満イオン性モノマーC1mol%超CIV中~高含水イオン性含水率C50%以上イオン性モノマーC1mol%超CV高酸素透過性含水材料CDk=30×10.11(cm2/sec)・(mlOC/(ml・mmHg))以上2Dk:酸素透過係数.グループCVはさらにCV-A,V-B,V-C,V-Cm,V-Crに細分化される.表2ハイドロゲルレンズとSHCLの利点と欠点利点欠点ハイドロゲルレンズレンズの種類,デザインが多い.レンズが柔らかく,装用感がよい.脂質汚れがつきにくい.酸素透過性が劣る.酸素透過性を上げるために含水率を高めると乾燥感が強くなる.CSHCL酸素透過性が高い.乾燥感が少ない.蛋白汚れがつきにくい.レンズの種類,デザインが少ない.レンズが硬い.脂質汚れ,化粧品汚れがつきやすい.巨大乳頭結膜炎,SEALsの発症率がやや高い.SEALs:上部角膜上皮弓状病変.SHCLは角膜上での動きが小さくフィッティングがわかりづらい.(文献C2より改変)(79)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C10850910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1ハイドロゲルレンズとSHCLの使い分けのイメージ圧倒的に優位である.若年者で長期にわたる使用が想定される患者,長時間装用者,レンズが厚くなる強度屈折異常などにはCSHCLが勧められる.硬さ,装用感,乾きやすさについては,一般に高含水になるほど柔らかく,装用感がよくなるが乾きやすくなる.ハイドロゲルレンズは,酸素透過性を高めるために高含水にすると理論上は乾きやすくなる.そのため表面処理を工夫することで乾きにくいレンズが販売されている1)が,その処理でも対応がむずかしく,グループCIVで乾燥感がある際はグループCIへの変更を考える.SHCLは初期の製品は含水率がC24%と低く硬かったため,上部角膜上皮弓状病変(superiorCepithelialCarcuatelesions:SEALs)や異物感,巨大乳頭結膜炎の発症率がやや高めであったが,現在の製品は含水率が上がり,比較的柔らかくなり装用感も改善している.ドライアイに関してCSHCLはよい選択だが,SEALsや異物感の訴え,アレルギーを生じた際は,素材への不適応が考えられるため,ハイドロゲルレンズへの変更が勧められる.蛋白汚れ,脂質(化粧品)汚れについては,ハイドロゲルレンズの蛋白汚れはイオン性高含水であるグループIVのレンズにつきやすいため,問題になる場合は,グループCIか表面処理の工夫により以前より改善しているSHCLへの変更が勧められる.SHCLには洗浄剤(塩酸ポリヘキサニド系のCmultiCpurposeCsolution)と相性により不具合がある場合があるので注意が必要である.とくにCSHCLは脂質汚れがつきやすいので,化粧をする前に装用することが大切である.最近はCSCLのカラーコンタクトも発売されているが種類が少なく,医療用の虹彩付きコンタクトレンズはハイドロゲルレンズのみである.酸素透過性の面から医療用の虹彩付きコンタクトレンズにもCSHCLが待たれる.強度近視や強度遠視には,ハイドロゲルレンズであれば頻回交換型でも.24D~+10Dまで,従来型であればC.25D~+25Dまである.この厚みのあるレンズこそSHCLが有用であると思われるが,現時点では対応する製品がみられないのは残念である.その他,ハイドロゲルレンズは装着しづらく脱着しやすいが,SHCLは装着しやすく脱着しにくいため,変更時は注意を要する.文献1)佐野研二:コンタクトレンズ診療の進歩.コンタクトレンズ素材とその進歩.日コレ誌50:13-23,C20082)木下茂,大橋裕一,村上晶ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌118:557-557,C20143)HoldenCBA,CMertzCGW:CriticalCoxygenClevelsCtoCavoidCcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSciC25:1161-1167,C1984CPAS108

写真:難治性瞼裂斑炎

2018年8月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦411.難治性瞼裂斑炎松本佳保里横井則彦京都府立医科大学眼科図2図1のシェーマ①角膜輪部に隣接する瞼裂斑②瞼裂斑周囲の充血および血管侵入C図1前眼部写真9時方向の角膜輪部に隣接する球結膜に炎症所見を伴う隆起性病変がみられ,瞼裂斑炎の所見を呈している.瞼裂斑周囲の充血と血管侵入を認める.図3病理組織結果結膜上皮の肥厚および角化,炎症細胞の浸潤,ヒアリン化を伴う弾性線維変性を認める.図4術後経過術後C2カ月の前眼部写真.隆起性病変およびそれに伴う炎症所見は消失した.(77)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C10830910-1810/18/\100/頁/JCOPY瞼裂斑は,角膜輪部に隣接する3時,9時方向の結膜に好発する肥厚した黄白色の隆起性病変である(図1,2).40歳以上で発症率が高く,球結膜の加齢性変化や紫外線暴露,ハードコンタクトレンズ装用などがその発症要因とされる.角膜への侵入を伴わない点で翼状片と区別される.病変部に一致してリサミングリーン染色が陽性となることがある.自覚症状を伴わないこともあるが,異物感や局所的な涙液分布の乱れによるドライアイ症状を伴う場合は治療の対象となる1,2).3時,9時方向に生じやすいため,病変部周囲の角膜,輪部,結膜で涙液層の破壊が生じ,上皮障害を伴いうる.そのため,とくに涙液減少型ドライアイに瞼裂斑を合併すると,3時,9時方向で角膜上皮障害が増悪する原因となる.炎症を伴う瞼裂斑は瞼裂斑炎とよばれ,瞼裂斑部の局所のドライアイメカニズム,すなわち涙液層の破壊や瞬目摩擦の亢進が関係していると考えられる3).ドライアイの上皮障害を増悪させる瞼裂斑や瞼裂斑炎に対しては,保存的治療で効果がなければ外科的治療を行う.保存的治療としては,レバミピド点眼液で瞬目摩擦の軽減を図り,ジクアホソルナトリウム点眼液で涙液層の破壊を抑制し,フルオロメトロン点眼液で炎症を抑えるといった切り口がある.ハードコンタクトレンズ装用眼の場合は,ソフトコンタクトレンズへの変更が奏効する場合もある.外科的治療では,瞼裂斑を周囲の結膜とともに切除することを基本とするが,翼状片に対する外科治療に準じて,遊離結膜弁の移植を併用することも効果的である.病理組織学的には,ヒアリン化を伴う結膜固有層の弾性線維変性を主体とし,結膜上皮の肥厚,角化や杯細胞の消失がみられる(図3).また,瞼裂斑は加齢性変化であり,酸化ストレスの亢進や活性酸素の増大に伴い,蛋白糖化最終産物(advancedCglycationCendCproduct:AGE)が沈着するとの報告がある4,5).AGEは糖尿病合併症や全身の加齢性変化に関与することが知られており,分解されにくいため蓄積する.今回の症例はC72歳の女性で,以前から瞼裂斑を指摘されていたが自覚症状に乏しく経過観察されていた.充血が強くなり異物感が増強したため,近医を受診し,瞼裂斑炎の診断で,0.1%フルオロメトロンやレバミピドの点眼加療が行われたが,改善がみられず,炎症や異物感は遷延した.そのため,瞼裂斑の切除術および結膜遊離弁移植術を行った.具体的には,まず瞼裂斑および周辺結膜を剪刀で切除し,6時方向の弛緩結膜を瞼裂斑切除部分に移植し,術創はC9-0絹糸にて縫合した.術後は約C1週間で抜糸を行い,ベタメタゾン点眼は炎症の程度に合わせてC0.1%フルオロメトロン点眼に変更し徐々に漸減した.術後約C2カ月で充血は軽減し異物感は消失した(図4).文献1)横井則彦:瞼裂斑,瞼裂斑炎.日コレ誌53:39-40,C20112)ArchilaEA,ArenasMC:Etiopathologyofpingueculaandpterigium.CorneaC14:543-544,C19953)McDonaldJE,BrubakerS:Meniscus-inducedthinningoftear.lms.AmJOphthalmolC72:139-146,C19714)KajiY,OshikaT,OkamotoFetal:ImmunohistochemicallocalizationCofCD-b-asparticCacidCinCpinguecula.CBrJOpthalmolC93:974-976,C20095)KajiCY,CUsuiCT,COshikaCTCetCal:AdvancedCglycationCendCproductsCinCdiabeticCcorneas.CInvestCOphthalmolCVisCSciC41:362-368,C2000

続発緑内障の手術療法

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障の手術療法SurgicalTreatmentsofSecondaryGlaucoma谷戸正樹*はじめに続発緑内障(secondaryCglaucoma)は,他の眼疾患,全身疾患,あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる病態であり,眼圧上昇機序には開放隅角・閉塞隅角の両者がかかわる.続発緑内障の治療に際しては,原因となる疾患が治療可能な場合は,眼圧下降薬による治療と並行してまずは原因疾患の治療を優先する.保存的治療で十分な眼圧下降が得られない,あるいは得られないと予想される場合に手術による眼圧下降治療を考慮する.本稿では続発緑内障に対する手術療法について,術式ごとに要点を解説する.CIトラベクロトミーとその関連手術強膜弁下にCSchlemm管を同定し,挿入した金属プローブ(トラベクロトーム)を前房内に回転させることで90~120°の範囲でCSchlemm管内壁・線維柱帯を切開する術式(abCexternoトラベクロトミー)が基本となる術式である(表1).発達緑内障に加えて,落屑緑内障,ステロイド緑内障などの線維柱帯・傍CSchlemm管結合織に房水流出抵抗の首座がある病型が適応であり,原発開放隅角緑内障でも第一選択術式となりうるが,Sch-lemm管後方に眼圧上昇の原因がある緑内障(眼窩内圧上昇や房水静脈圧上昇に伴う高眼圧)では無効である.Schlemm管前方要因の眼圧上昇のうち,原発閉塞隅角緑内障では,白内障手術に併用することで眼圧下降が得られる場合があるが,その他の続発緑内障(血管新生緑表1トラベクロトミーの利点・欠点とおもな適応内障,前房内硝子体脱出など)では多くの場合,眼圧下降は期待できない.炎症のコントロールがついている場合は,ぶどう膜炎に続発する緑内障でも,ある程度の眼圧下降が期待できる1).白内障手術と併用することで眼圧下降効果が阻害されない,あるいは増強されるという特徴があり,白内障を有する緑内障では術式選択の理由となる.近年,角膜サイドポートからアプローチすることで,線維柱帯組織を切除(トラベクトーム,カフークデュアルブレード)/切開(マイクロフックトラベクロトミー(図1),360°スーチャートラベクロトミー)する方法(AbCinterno法)が複数報告され,急速に臨床に広が*MasakiTanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(71)C1077図1谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフックイナミホームページChttp://inami.co.jpから転載.表2トラベクレクトミーの利点・欠点とおもな適応表3エクスプレスシャントの利点・欠点とおもな適応利点(トラベクレクトミーとの比較で)周辺虹彩切除不要手術時間短縮術後濾過量の予測性が高い欠点(トラベクレクトミーの欠点に加えて)デバイス留置の空間がない緑内障(閉塞隅角緑内障)では使用できない活動性のぶどう膜炎は使用禁忌金属アレルギーは使用禁忌よい適応(続発緑内障では使用機会は限られる)トラベクロトミーで眼圧下降が十分でなかった緑内障周辺虹彩切除に伴う硝子体脱出が懸念される症例(Zinn小帯脆弱例)表4アーメド緑内障バルブの利点・欠点とおもな適応前房開放時間短縮が望まれる症例(無水晶体眼,無硝子体眼)易出血要因のある緑内障(抗凝固薬・抗血小板薬の使用)術後早期の社会復帰を望む症例(唯一眼,現役世代の症例)図2エクスプレスシャントの外観全長C2.6Cmmでチューブ外径C0.38Cmm(27G相当)のステンレス製のデバイスである.(日本アルコン提供)図3血管新生緑内障に対するエクスプレスシャント挿入術後出血塊による術後早期のエクスプレスシャント閉塞().C図4アーメド緑内障バルブの外観プレートサイズは面積C184CmmC2とC96CmmC2のC2種類がある.(NewWorldMedicalInc.提供)図6高齢者の無水晶体眼緑内障に対するアーメド緑内障バルブ挿入術後毛様溝に挿入されたチューブ先端()が確認できる.表5バルベルト緑内障インプラントの利点・欠点とおもな適応図5アーメド緑内障バルブのバルブ構造チューブに接続されたC2枚のシリコーン膜()が眼圧により開放する.(JFCセールスプラン提供)BG101-350BG102-350BG103-250図7バルベルト緑内障インプラントの外観(エイエムオージャパン提供)図8高齢者の血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント術後高度な脈絡膜.離を認める.C-

続発緑内障鑑別診断のための前房水検査

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障鑑別診断のための前房水検査ExaminationofAqueousHumorinDiagnosisofSecondaryGlaucoma杉田直*はじめにぶどう膜炎,眼内炎,および角膜炎などの眼感染症を含む眼炎症性疾患,眼外傷,白内障,腫瘍,非炎症性全身性疾患(糖尿病など),副腎皮質ホルモン薬(ステロイド点眼など)などの薬物によって眼圧が上昇することがあり,これを続発緑内障と総称する.続発緑内障も原発緑内障と同様に,開放隅角と閉塞隅角に大別され,眼圧を下げる治療も行うが,原疾患に対する治療も重要となる.つまり,原疾患の診断が続発緑内障の治療にも大きな影響を及ぼすので,続発緑内障の鑑別診断が重要となる.眼外傷,白内障,眼腫瘍,糖尿病網膜症に続発する症例は,鑑別診断が比較的容易であるが,眼感染症を含む眼炎症性疾患とステロイド緑内障の鑑別はむずかしい場合が多い.本稿では,眼感染症を含む眼炎症性疾患を中心に,前房水を用いた鑑別診断,検査について述べる.I続発緑内障の鑑別診断のためのぶどう膜炎の前房水検査ぶどう膜炎の場合,まずは感染性か非感染性かの鑑別が重要となる.検査に用いる検体材料はおもに前房水,硝子体液である.感染性ぶどう膜炎,感染性眼内炎に加えて眼内リンパ腫などの活動性眼内炎症を有する患者の診断を確定させるために行う.検査項目は多数あるが,おもに培養,鏡検(スメア),遺伝子増幅検査(poly-merasechainreaction:PCR),蛋白測定,特異抗体測定である.近年,眼内液を用いた網羅的PCR検査(マルチプレックスPCR)が出現し1~3),眼科領域のような微量検体でも多数の項目で検査が可能になった.また,非感染性ぶどう膜炎,網膜血管炎なども感染を否定する目的で前房水採取を行う場合がある.前房水採取のシェーマを図1に示す.インフォームド・コンセントのもと前房水検体を採取する.30G針付きの房水ピペット(図1b)を使用するが,房水ピペットがなければ30G針+1ccシリンジなどで代用する.房水ピペットは30G針の細い針が最初から固定されているので簡易的で便利である.ぶどう膜炎続発緑内障で多い疾患は,ヘルペス関連,サルコイドーシス,Posner-Schlossman症候群,Behcet病,Vogt・小柳・原田病などがあるが,基本的に前房内炎症があれば続発して眼圧上昇が起こると想定して検査する.ヘルペス関連のぶどう膜炎・虹彩炎では,高齢者の片眼性の高眼圧,豚脂様角膜後面沈着物のある虹彩炎であれば,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV),およびサイトメガロウイルス(cytomrgalovi-rus:CMV)感染を考慮する.ヘルペス虹彩毛様体炎を診断するうえでのポイントは,「片眼性,豚脂様角膜後面沈着物,高眼圧(続発緑内障),角膜浮腫,虹彩萎縮,ステロイド抵抗性の虹彩炎」で,検査目的で積極的な前房水検体採取を行えば,臨床の場での診断・治療に苦慮*SunaoSugita:神戸アイセンター病院,理化学研究所生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクト〔別刷請求先〕杉田直:〒650-0047神戸市中央区港島南町2-1-8神戸アイセンター病院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(65)1071図1前房水採取のシェーマ(a),前房水採取のための30G針および30G針付き房水ピペット写真(b)DirectstripPCR:感染性ぶどう膜炎の原因抗原を網羅ABCDEFGHGAPDHHSV1HSV2EBVHTLV1トキソプラズマTBPVZVHHV6CMV梅毒FAMROMPCR反応試薬図2眼感染症の網羅的PCR検査DirectCstripCPCRという最新の感染性ぶどう膜炎のCPCR診断キット.前房水検体のCDNA抽出が不要であり,図中のC9項目の外来性抗原CDNAと二つの内因性コントロール(TBP,GAPDH)が同時に検出できる.検査時間はC90分程度と迅速で,当院では外来の待ち時間に検査結果を得ることができ,早期の治療開始が可能になっている.図3HSV1角膜ぶどう膜炎の症例とPCR結果角膜ぶどう膜炎(kerato-uveitis)として診断され,経過中に樹枝状角膜炎と高眼圧(31CmmHg)がみられていた.患者前房水からCHSV1-DNAが検出された.図4VZV虹彩毛様体炎の症例とPCR結果高眼圧(25CmmHg),虹彩萎縮(→),麻痺性散瞳がみられた症例.前房水からCVZV-DNAが検出.図5CMV角膜内皮炎の症例とPCR結果右眼に軽微な虹彩炎,角膜浮腫と円形に配列する角膜後面沈着物(コインリージョン:白円),37.mmHgの高眼圧がみられた.図6急性網膜壊死の症例とPCR結果前房水からCCMV-DNAが検出.網膜周辺の壊死性病巣(→),続発緑内障(IOP=28.mmHg),および虹彩炎がみられていた.前房水からCHSV2-DNAが検出され,VZVやCHSV1は陰性であった.最終的にはCHSV2関連急性網膜壊死と診断された.図7サルコイドーシスぶどう膜炎の症例とPCR結果高眼圧(24CmmHg)を伴う豚脂様角膜後面沈着物と虹彩炎および網膜周辺の網膜炎(右上写真)がみられていた.前房水を用いた網羅的CPCR検査で調べた範囲の感染症はすべて陰性で,全身的な検査からサルコイドーシスの確定診断ができた.

続発緑内障を念頭とした隅角鏡検査のコツ

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障を念頭とした隅角鏡検査のコツGonioscopicSkillwithRegardtoSecondaryGlaucoma大鳥安正*はじめに隅角鏡検査は,接触式検査であること,正確な所見をとるためにはある程度の熟練を要することから,一般的に毛嫌いされやすい.しかしながら,隅角検査をして初めて診断がつく場合もあり,眼科医が必ず身につけておくべき検査の一つである.近年,緑内障手術で注目を浴びているminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)は隅角鏡を用いて隅角を常に観察していなければ,正確な手術はできないことから,隅角鏡検査の重要性がクローズアップされている.本稿では,続発緑内障を念頭に置き隅角鏡検査のコツについて解説する.I隅角鏡検査の意義とポイント前房内炎症がなく,前房深度が深ければ,すべて原発開放隅角緑内障というわけではない.とくに眼圧が高い症例では,房水流出抵抗が増大するような原因がないかを隅角検査で確かめることがきわめて重要である.開放隅角では,閉塞隅角と比べて,圧迫しなくても隅角検査が可能であるので,隅角の解剖を理解するには開放隅角の隅角検査に慣れておくとよい.隅角をみたときに最初に探さなければならないのが,線維柱帯の後方にある白い帯として観察できる強膜岬である1).強膜岬が見えていれば,線維柱帯は閉塞しておらず,開放隅角眼と考えてよく,逆に強膜岬が見えなければ,狭隅角であると大まかに判断できる.さらに,白い強膜岬付近に出現する隅角結節,隅角色素沈着,新生血管,周辺虹彩前癒着図1サルコイドーシスの隅角鏡所見(上下反転写真)白い米粒状の結節()とテント状周辺虹彩前癒着がある.線維柱帯の色素沈着は少ない.(peripheralanteriorsynechia:PAS)などがないかを注意深く観察することが重要である.PASと間違えやすい虹彩突起は通常,強膜岬を超えて線維柱帯に伸びるのこぎり状の突起をいい,鼻側に多い.II隅角結節米粒状の白い突起が線維柱帯付近に観察される(図1).隅角結節の近くにテント状PASを伴うことが多い.線維柱帯の炎症によって房水流出抵抗が増大し,眼圧が上昇する.炎症などに伴う続発緑内障では下方にPASを形成しやすい.前房内にはわずかに炎症細胞が観察できることが多いが,前房内炎症がないこともある.1)肉芽腫性ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節),2)隅角結節またはテント状PAS,3)塊状硝子体*YasumasaOtori:国立病院機構大阪医療センター眼科〔別刷請求先〕大鳥安正:〒540-0006大阪市中央区法円坂2-1-14国立病院機構大阪医療センター眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(61)1067図2落屑緑内障の隅角鏡所見(上下反転写真)落屑緑内障の隅角所見の特徴は,患眼(a,c)では僚眼(b,d)に比べて,線維柱帯の色素沈着が強く,下方ではSchwalbe線を越えて角膜寄りに色素の帯(c,Sampaolesi線とよぶ)が形成されていることである.図3Posner.Schlossman症候群の隅角鏡所見(上下反転写真)下方隅角では,僚眼(a)に比べて,患眼(b)では線維柱帯の色素沈着が薄い.図4血管新生緑内障の隅角鏡所見隅角に新生血管が発芽しているが,眼圧は上昇していない前緑内障期(a).眼圧が上昇し始めると隅角に周辺虹彩前癒着が形成され(b),やがて全周に虹彩前癒着が形成されると,ぶどう膜が外反し,毛様突起が観察できるようになる(c).図5外傷後の隅角鏡所見(a,c,e)と超音波生体顕微鏡所見(b,d,f)隅角離開(a,b)では,強膜岬()から後方の毛様帯が非常に広く,毛様体縦走筋が強膜に付着しているのがわかる.虹彩離断(c,d)では,虹彩切除術をしたように虹彩の一部が裂ける場合で,毛様突起()が観察される.さらに強い外傷が加わって毛様体解離(図e,f)になると,強膜の白い部分()が観察でき,超音波生体顕微鏡では脈絡膜上腔(☆)に房水が貯留していることが確認できる(f).