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続発小児緑内障

2018年8月31日 金曜日

続発小児緑内障SecondaryChildhoodGlaucoma山田裕子*はじめに小児期に発症した病態に起因する緑内障について,改訂された『緑内障診療ガイドライン』第4版では,定義と分類が変更され,新たに診断基準が加わり(表1,2),背景や病態をもとに整理された1,2).小児緑内障は原発と続発に分かれ,さらに続発小児緑内障は,①先天的な眼形成異常に関連したもの,②先天全身疾患に関連したもの,③後天要因によるもの,④白内障術後に大別される.①~④に分け,以下に概説し,要点は表2にまとめた.I先天眼形成異常に関連した緑内障全身所見との関連が明らかではない眼形成異常が出生時から存在する.この中には,Axenfeld-Rieger異常,Peters異常,ぶどう膜外反,虹彩形成不全,無虹彩症,硝子体血管系遺残(persistenceoffetalvascularture:PFV),旧名:第1次硝子体過形成遺残(persistenthyperplasticprimaryvitreous:PHPV),眼皮膚メラノーシス(太田母斑),後部多形性角膜ジストロフィ,小眼球症,小角膜症,水晶体偏位などが含まれる.Axen-feld-Rieger異常,Peters異常といった前眼部形成異常,無虹彩症は指定難病となっている.代表的な疾患の特徴や治療を述べる.1.Axenfeld.Rieger異常(図1a,b)神経堤由来の間葉系細胞の発生異常と考えられてお表1WorldGlaucomaAssociation(WGA)における小児緑内障の診断基準・眼圧が21mmHgより高い(全身麻酔下であればあらゆる眼圧測定方法で).・陥凹乳頭径比(cup-to-discratio,C/D比)増大の進行,C/D比の左右非対称の増大,リムの菲薄化)・角膜所見(Haab線または新生児では角膜径11mm以上,1歳未満では12mm以上,すべての年齢で13mm以上)・眼軸長の正常発達を超えた伸長による近視の進行,近視化・緑内障性視神経乳頭と再現性のある視野欠損を有し,視野欠損の原因となる他の異常がない・2回以上の眼圧測定で眼圧が21mmHgより大きい・C/D比増大などの緑内障を疑わせる視神経乳頭所見がある・緑内障による視野障害が疑われる・角膜径の拡大,眼軸長の延長があるり,後部胎生環(posteriorembryotoxon)に周辺虹彩が一部付着する.後部胎生環,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)に加えて,虹彩萎縮,瞳孔偏位,偽多瞳孔などさまざまな程度の虹彩異常を伴う場合がある.緑内障を発症する頻度は50%とされ,幼少期あるいは10~30歳で生じやすいが,あらゆる年齢で起こりうる.Axenfeld-Rieger症候群では,歯牙異常,顔面骨異常,臍異常,下垂体病変といった全身異常を伴うため,精査を小児科へ依頼する.常染色体優性遺伝が多く,FOXC1遺伝子あるいはPITX2遺伝子の異常が40%にみられる1).治療は原発小児緑内障に準じ,発症時*YukoYamada-Nakanishi:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕中西(山田)裕子:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(51)1057表2続発小児緑内障1)先天眼形成異常に関連した緑内障Axenfeld-Rieger異常,Peters異常,無虹彩症全身の合併症の有無につき小児科診察緑内障はほぼ半数に合併するため,長期に経過観察必要.羞明の軽減にCL,無虹彩症では,黄斑低形成の合併,経過中に角膜輪部疲弊も生じる.ぶどう膜外反,虹彩形成不全第1次硝子体過形成遺残,眼皮膚メラノーシス(太田母斑)後部多形性角膜ジストロフィ,小眼球症,小角膜症,水晶体偏位など2)先天全身疾患に関連した緑内障母斑症Sturge-Weber症候群濾過手術において合併症が生じやすくなるため,脈絡膜血管腫の存在に注意.NF1眼瞼や眼窩に神経線維腫あると緑内障頻度増す.虹彩外反合併することあり.視神経膠腫opticgliomaの発症にも注意.OCT活用.Klippel-Trenaunay-Weber症候群先天性風疹症候群先天白内障や緑内障では合併を疑う.最初症状なくても経過観察.小角膜,小眼球では高率に緑内障合併.Down症などの染色体異常Rubinstein-Taybi症候群結合組織異常(Marfan症候群,Weill-Marchesani症候群,Stickler症候群)代謝異常(ホモシスチン尿症,Lowe症候群,ムコ多糖症)水晶体偏位の合併に注意.水晶体の異常がなくても緑内障合併あり.結合組織異常では,年齢が高くなってからも眼球拡大する場合も.3)後天要因による続発緑内障ぶどう膜炎JIAの頻度が高い.十分な消炎必要.隅角切開術から行われる.低眼圧になりやすい.ステロイド成人より眼圧が上がりやすい.他科や保護者との連携が大切.ROP閉塞隅角緑内障が多い.前眼部の構造が正常と差あり.瘢痕期ROPでも起こる.外傷(前房出血,隅角離解,水晶体偏位)腫瘍(良性/悪性,眼内/眼窩)網膜芽細胞腫や若年性黄色肉芽腫など.4)白内障術後の緑内障合併頻度が高い.生涯にわたる経過観察が必要.開放隅角の頻度が高い.IOLでも無水晶体眼でも起こる.生後早期の手術,小角膜では発症リスクが高い.中心角膜が厚い.薬物治療から開始するが,手術に至ること多い.隅角手術が奏効せずチューブシャント手術に至ることも少なくない.図1先天眼形成異常に関連した緑内障の代表例Axenfeld-Rierger異常a:前眼部写真.後部胎生環(posteriorembryotoxon).角膜周辺部に白色の線が観察される().b:隅角.Schwalbe線の肥厚と前方偏位,周辺部虹彩の索状の癒着がみられる.Peters異常c:前眼部写真.角膜中央部から上方の混濁を認める.d:前眼部OCT.角膜中央部の菲薄化と角膜内皮の欠損部に向けて虹彩の癒着がみられる.無虹彩症e:前眼部写真.無虹彩症.白内障の合併例.f:Eの前眼部OCT.周辺に部分的に虹彩がみられる.g:眼底写真と黄斑部OCT,視神経乳頭の緑内障性変化に黄斑部の低形成を伴う(eとは別の症例).h:虹彩付きコンタクトレンズの装用.期が3歳以下で眼球の拡大を伴う場合は手術を先行し,若年以降では,薬物治療から開始するが,隅角形成異常や高眼圧が著しい場合は手術への速やかな移行を考慮に入れ治療にあたる.隅角が開放していて周辺虹彩付着による線維柱帯の被覆範囲が広くなければ,隅角手術を選択し,PASのため隅角切開術が行いにくい際には,線維柱帯切開術を行うが,成功率は原発小児緑内障より低く,線維柱帯切除術やプレートのあるチューブシャント手術が,隅角手術が無効と予測される場合,第一選択となることもある1,2).2.Peters異常(図1c,d)角膜混濁,角膜中央部の内皮の欠損,虹彩の前方癒着,白内障が特徴である.その混濁や虹彩,水晶体の異常の程度はさまざまで,角膜の混濁の程度は生後早期から経過に伴い徐々に軽減する場合があることが知られ,Yoshikawaらは9例15眼を平均7.9年経過観察し,4眼は徐々に混濁が減少したとしている3).角膜移植に関しては,角膜混濁以外の異常が合併する場合や6カ月未満の手術,緑内障を合併する場合は予後不良の因子とされ4),手術の際に,前眼部OCTを用いた工夫もなされてきているが,手術適応の基準は明確には確立されていない.緑内障発症の頻度は約50%で,生涯にわたって眼圧の管理を要する.Petersplus症候群では,口唇裂・口蓋裂,成長障害,発達遅滞,心奇形などを合併するため,小児科での精査も行う.治療はAxenfeld-Rieger異常同様であるが,良好な術後眼圧が得られるのは手術例の1/3程度にとどまり,角膜異常などを伴うため,実用的視力を得るのがむずかしいことが多い2,5).3.無虹彩(図1e~h)虹彩が完全または不完全な欠損が主徴で(図1e,f),PAX6遺伝子などの異常による.孤発性の無虹彩をみたらWilms腫瘍-無虹彩症-泌尿生殖器奇形-精神発達遅滞(Wilmstumor-aniridia-genitourinaryanomalies-mentalretardation:WAGR)症候群(11p13欠失症候群)の合併の有無につき,Wilms腫瘍のスクリ-ニングを行う.黄斑低形成,眼振,斜視や白内障,水晶体脱臼を合併する場合がある(図1e,g).角膜は幼少時には正常であるが,成長につれ角膜輪部機能不全から角膜上皮疲弊症により結膜組織が角膜に侵入して,視力をより低下させる.緑内障の頻度は,隅角の形成不全により50~75%と高く,生後早期よりは,小児期以降になってからの発症が多い(図1g).原発小児緑内障同様に治療を行うがその成績は原発性に比べて劣り,線維柱帯切除術では,角膜と水晶体が接触しやすい構造のため過剰ろ過に注意する.また,チューブシャント手術に至った際は,虹彩の形状からチューブの挿入部位,位置の選択など工夫がいる.視力は,黄斑低形成,白内障や角膜パンヌスによりしばしば不良であるが,羞明・眼精疲労の軽減のために,遮光眼鏡や軟膏の使用,整容的コンタクトレンズの処方(図1h)も行う.II先天全身疾患に関連した緑内障出生時から眼所見に関連する先天性全身疾患があるもので,先天全身疾患には,Down症などの染色体異常,母斑症や先天性風疹症候群,結合組織異常(Marfan症候群,Weill-Marchesani症候群,Stickler症候群),代謝異常などが含まれる(表2).指定難病に含まれる疾患も多い.代表的な疾患を以下にあげる.1.母斑症a.Sturge.Weber症候群Sturge-Weber症候群は,脳内の軟膜血管腫と,顔面のポートワイン斑,緑内障を有する神経皮膚症候群で(図2a),緑内障の頻度は30~70%で,発症は1歳までが60%ともっとも多い(図2b).三叉神経V1およびV2領域に血管腫がある場合は緑内障が生じやすい.眼圧上昇は,原発性隅角形成異常,Schlemm管萎縮,上強膜静脈圧上昇,PAS形成,脈絡膜血管腫関連の菲薄化血管壁の透過性亢進によって生じると考えられている.治療は,先天性や乳幼児期発症であれば線維柱帯切開術や隅角切開術を選択する.年長者では上強膜静脈圧が上昇しているので,薬物治療が第一選択となる1,2).薬物治療や流出路再建術が奏効しない場合,線維柱帯切除術やプレートのあるチューブシャント手術を考慮す1060あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(54)図2先天全身疾患に関連した緑内障の代表例Sturge-Weber症候群(a~dは別の症例)Ca:顔面の血管腫.b:顔面の血管腫と同側の緑内障による角膜径拡大.c:緑内障性視神経乳頭拡大および上方には脈絡膜血管腫を伴う.脈絡膜血管の透見の違いを観察する.d:濾過手術後に生じた旺盛な滲出性網膜.離.神経線維腫症C1型Ce~g:眼瞼(e)ならびに眼瞼結膜(f)に生じた叢状神経線維腫.同症例にみられた緑内障による角膜径の拡大(g).h:Lisch結節().e~gとは別の症例.先天風疹症候群(先天白内障術後の緑内障)Ci:小角膜,無水晶体眼,バルベルトチューブインプラント術後.水晶体偏位Cj:未散瞳の状態.k:散瞳した状態.~た,眼圧上昇がない場合でも眼軸長の延長,眼球拡大や虹彩外反がみられるとの報告がある.経過観察において眼圧のみならず,定期的にCOCTで乳頭周囲網膜神経線維層厚や黄斑部内層厚をモニターすることは視神経膠腫の発見にも有用である.治療は原発小児緑内障に準じ,線維柱帯切開術が奏効しない際には,線維柱帯切除術やチューブシャント手術あるいは毛様体破壊術などについて検討するが,眼瞼や眼窩の神経線維腫の進展,蝶形骨など眼窩を形成する骨の異常を伴う場合もあり7),チューブシャント手術時のプレート挿入や合併症への影響を評価するため,MRIやCCTで事前に評価しておく.片眼の生後早期からの緑内障では多くが眼瞼,眼窩に神経線維腫の進展と弱視を伴い,有効な視機能の獲得はしばしば困難である.C2.先天性風疹症候群(congenitalrubellasyndrome:CRS)妊婦が風疹ウイルスに感染し,その胎児が風疹ウイルスに感染した結果,眼,耳,心臓などに特有の障害をきたす.CRS患児の約C40%に眼合併症を生じる.眼合併症としては,白内障,緑内障,色素性網膜症,小眼球症などがあるが,緑内障はCCRS患児の約C10%にみられるとされる(図2i).乳児期の白内障,緑内障診療においては,常に本感染症の存在を念頭に検査を行う.眼合併症が認められない場合でも,先天性風疹感染の児の経過観察は,生後C1年まではC1~2カ月ごとに行う8).また,小眼球症は角膜径C10Cmm以下(乳児C9Cmm以下),眼軸長C21mm未満(1歳児C19mm未満)を目安とするが,白内障,緑内障,網膜・視神経の異常,強度遠視など,重篤な合併症を伴う.成人以降にも緑内障を発症する場合があり,生涯の管理が必要となる.C3.結合組織異常や代謝異常Marfan症候群やCWeill-Marchesani症候群,ホモシスチン尿症はしばしば水晶体偏位を生じ(図2j,k),これに伴う眼圧上昇が多いが,開放隅角緑内障,閉塞隅角緑内障のいずれも生じる.III後天要因による続発緑内障開放隅角緑内障が一般的で,代表的な後天要因としては,ぶどう膜炎,外傷(前房出血,隅角離解,水晶体偏位),ステロイド,腫瘍(良性C/悪性,眼内C/眼窩),未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)があげられる.仁科らは,続発緑内障C99例C143眼について検討し,発症年齢はC0~5歳がC67%と低年齢が多く,原因疾患の頻度については,ROP24%,先天白内障術後C23%,ステロイドC23%,PHPV,家族性滲出性硝子体網膜症(familialCexudativeCvitreoretinopathy:FEVR)など16%,腫瘍C8%と報告している9).外傷,腫瘍によるものについては症例が多彩かつ頻度が少なく,本稿では割愛する.C1.ぶどう膜炎続発緑内障(図3)小児のぶどう膜炎はまれであるが,そのなかでもっとも頻度が高いのは若年関節リウマチ(juvenileidiopathicarthritis:JIA)のC41~67%,特発性C29%,次いで,サルコイドーシスがC3~6%とされる.JIAに関連したぶどう膜炎における緑内障の頻度はC4~27%,緑内障および高眼圧症の頻度はC42%と高率な報告もみられる10).遷延する炎症は緑内障発症のリスクとなり,一般には開放隅角であるが,瞳孔ブロックや続発閉塞隅角緑内障を伴う場合もある.小児ぶどう膜炎続発緑内障の治療としては,まずは眼内の炎症コントロールを命題とし,並行して,眼圧コントロールが必要となる.点眼加療が第一選択であるが,点眼のみでコントロールできるのはわずかC17%にとどまる.術式選択の第一選択としては,隅角切開術とするもの,線維柱帯切除術とするものなど報告により違いがみられるが,WorldCGlaucomaCAssocia-tion(WGA)コンセンサスブックにおいては,眼圧が点眼で下降できない際には,隅角切開術などの流出路再建術が第一選択とされ,Freedmanのグループでは,36眼での術後成績につき,隅角切開術でC10年での生存率はおよそC70%で,2回の隅角切開術でも眼圧下降が得られない場合にはドレナージデバイスによる手術を選択すると述べている11).アーメドチューブ挿入に関しては,16眼でそのうちC75%は初回手術として行った際の1062あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(56)C図3後天要因による続発緑内障a:Down症児の慢性虹彩毛様体炎に生じたぶどう膜炎続発緑内障.虹彩後癒着を認める.Cb:視神経乳頭の下方に網膜神経線維層欠損を伴うノッチの形成がみられ,緑内障性変化が生じている.静的視野検査の施行は困難であった.Cc:ROPにレーザー治療既往のある眼に生じた続発閉塞隅角緑内障の前眼部COCT.Cd:白内障手術により眼圧は下降し,隅角は開大した.Ce:同一症例の眼底.瘢痕期未熟児網膜症による牽引乳頭により,緑内障性変化の評価はむずかしい.2.ステロイド緑内障ステロイド緑内障の詳細は別項で述べられている.小児では,ステロイドに対する眼圧上昇が成人よりも高頻度かつ短期間で重症化しやすく,白血病やネフローゼ症候群,気管支喘息などの全身疾患,アトピー性皮膚炎や乾癬といった皮膚疾患,眼科においても周術期やアレルギー性結膜炎,ぶどう膜炎など,ステロイドの使用方法によらず眼圧上昇に留意する.とくにC6歳以下の小児は短期間でより高眼圧になりやすい.力価の高い点眼の使用や,回数が多い場合は,より眼圧が上がりやすく,中止後に眼圧が正常化するまでの期間が長い.眼圧上昇までの期間にはばらつきがあり,慢性疾患で長期の投与となる場合や再発しやすい疾患では,一度の観察で正常範囲であっても,継続して眼圧のチェックが必要であることを小児科医や保護者らに伝え,連携を怠らないようにする13).C3.未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)ROPに続発する緑内障では,閉塞隅角緑内障がみられやすい.機序としては,活動期にレーザー治療に関連して治療の早期に生じるものと,ステージC4,5に進行し,水晶体後部の線維性増殖膜が収縮することで水晶体や虹彩が前方へ移動し,閉塞隅角緑内障を生じるもの,水晶体前後径の増大や位置異常による瞳孔ブロックや毛様体ブロックを生じるものがある1,14).閉塞隅角緑内障に対しては,レーザー虹彩切開,周辺部虹彩切除術,隅角癒着解離術もしくは水晶体切除術および前部硝子体切除術などが行われる.ETROPCstudyにおいて,Bremerらの報告では,6歳までにC718眼中C12眼(1.7%)が緑内障と診断されたとし,7眼は前房が浅く,そのうちC5眼は網膜.離を伴っていた.後極部の網膜が正常で,前房も深く,光凝固を受けていない例にもC1眼で緑内障を認めている14).進行した未熟児網膜症に対して水晶体温存硝子体切除術を行ったC401眼において,平均C3.06C±4.11年の経過観察で緑内障の頻度は,40眼C10%にみられ,ステージ4AでC6.9%,ステージC4BでC12.0%,ステージC5でC33.3%とステージが進むとより高頻度であった.水晶体温存硝子体切除術後C1.23C±2.19年でC21%に水晶体切除を要しており,緑内障発症に関連する因子として,ステージ5であること,水晶体切除施行眼であることが示されている15).前眼部の構造についてレーザー治療既往のあるCROP眼と正常眼が比較されており,ROP眼では,虹彩がより前弯し,前方に付着し,隅角は狭いこと,前房深度は浅く,角膜曲率半径が小さく,水晶体が厚く,屈折異常が強いこと,一方で眼軸長には差はないことが報告されている16).ROP治療既往のある眼においては瘢痕期であっても続発閉塞隅角緑内障を生じやすい前眼部構造であることに注意しながら長期に経過観察が必要である.CIV白内障術後の緑内障特発,併発などの原因によらず,小児期に白内障手術を必要とする症例では,房水流出路の発達異常を伴うことがあり,眼圧上昇につながり緑内障を生じることがある1).生後C1~6カ月時に先天白内障手術を受けた乳児を対象として,コンタクトレンズで補正した無水晶体と一次的なCIOL挿入とを比較した無作為臨床研究であるInfantAphakiaTreatmentStudy(IATS)では,5年間113名において,緑内障発症はC4.8年でC17%,緑内障疑いを含めるとC31%にのぼり,無水晶体かCIOL挿入かの間には有意差はみられなかった17).また,開放隅角が95%と大半を占め,40%で手術を要した.生後早期の手術であること(28~48日以内)は,それ以降に比べて3.2倍発症リスクを高め,白内障手術時に小角膜(<10mm)であることもリスクを高める.緑内障発症のリスクは生涯にわたり,無水晶体でも偽水晶体でも生じる.より低い年齢での手術を受けた症例や小角膜,小眼球を伴う症例ではさらに発症リスクが高い.小児白内障術後眼は中心角膜が厚いことが特徴で,見かけ上の高眼圧になっている場合もあることも知られている1,2).治療は原発小児緑内障に準じ,年齢が高い場合には点眼加療を先行して,効果が不十分であれば手術加療となる.隅角が開放していて周辺虹彩付着による線維柱帯の被覆範囲が広くなければ,隅角手術を選択するが,成功率は原発小児緑内障よりも低く,線維柱帯切除術やプレートのあるチューブシャント手術が隅角手術が1064あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C(58)–

水晶体起因性緑内障

2018年8月31日 金曜日

水晶体起因性緑内障Lens-InducedGlaucoma酒井寛*力石洋平*はじめに国内外のガイドラインにおける原発性の緑内障の診断においては,視野障害を伴う緑内障性視神経症の発症を要件としている.一方,続発緑内障においては,緑内障視神経症の発症の有無を問わない.眼圧上昇をもって続発緑内障の診断となる.したがって,水晶体起因性緑内障は,水晶体に関連して眼圧上昇をきたす疾患と定義される.眼圧は眼球の内圧であり,眼内の水分量を反映している.眼内の水分量が多ければ眼圧が高く,眼内の水分量が少なければ眼圧は低い.眼内の水分量は毛様体突起において血液から産生される眼房水の産生量と,隅角線維柱帯→CSchlemm管を経て静脈系へ還流する房水流出量とのバランスによって規定される.眼圧上昇は,房水産生過多ではなくて房水流出の障害が原因となると考えられている.眼圧上昇機序からは隅角の閉塞のない開放隅角と房水流出路である隅角の閉塞のある閉塞隅角に分けられ,水晶体に関連する続発緑内障も開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障がある.水晶体は個体発生において表層外胚葉が陥入して形成される上皮組織であり,増殖を続けるため加齢により水晶体厚は増加し,核白内障も発症する.加齢,白内障の進行による水晶体厚の増加は原発閉塞隅角緑内障の発症に根本的に関連していると考えられる.そのため,原発閉塞隅角緑内障は多くはC50歳以上で発症する.閉塞隅角緑内障がC40歳未満などの若年者に発症した場合は,原発性ではなく続発閉塞隅角緑内障を考慮する.水晶体厚の増加が関与するという発症機序の面だけを考えた場合,多くの原発閉塞隅角緑内障は水晶体に関連する続発緑内障といえなくもない.しかしながら,もちろん歴史的にも現状のガイドラインにおいても原発閉塞隅角緑内障は原発性の緑内障として分類される1).水晶体に関連する続発閉塞隅角緑内障と原発閉塞隅角緑内障は,病態に類似点があるために鑑別診断が困難なことがある.どちらの疾患群も手術療法が必要であり,水晶体の除去が治療に結びつくという点は同じである.しかし,水晶体起因性(続発閉塞隅角)緑内障と,原発閉塞隅角緑内障ではその治療法の細部において異なる点があり重要である.水晶体に関連した続発開放隅角緑内障としては,水晶体融解性緑内障がある.水晶体融解性緑内障は水晶体の膨化による水晶体起因性緑内障に合併することもあり,この場合,続発性の隅角閉塞と開放隅角メカニズムによる両方の眼圧上昇機序が働いていることになる.CI用語としてのlens.inducedglaucomaLens-inducedCglaucoma水晶体起因性緑内障は開放隅角と閉塞隅角の両方で起こる続発緑内障であり,すべての水晶体関連の緑内障を包括した用語である.このうち閉塞隅角の続発緑内障はCphacomorphicCglaucomaであり,訳語として水晶体形態性緑内障と日本眼科学会の眼科用語集(第C6版)に記載されている2).Lens-inducedangleclosureglaucomaは水晶体起因性閉塞隅角緑内障*HiroshiSakai&*YoheiChikaraishi:琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町上原C207琉球大学大学院医学研究科医科学専攻眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(45)C1051表1Lens.inducedglaucomaの分類(用語)閉塞隅角緑内障(angle-closureglaucoma)lens-inducedangleclosureglaucoma*Cphacomorphicglaucoma開放隅角緑内障(openangleglaucoma)Clens-inducedopenangleglaucoma*Cphacolyticglaucoma*Clens-particleglaucoma*CPhacoantigenicglaucomaまたはCphacoanaphylacticglaucoma表2水晶体起因性緑内障(閉塞隅角)の原因疾患の分類(水晶体起因性閉塞隅角緑内障)C*水晶体形態性緑内障(水晶体起因性開放隅角緑内障)*水晶体融解性緑内障*訳なし(直訳だと水晶体小片性緑内障)*訳なし(直訳だと水晶体抗原性緑内障または水晶体過敏性緑内障)図1瞳孔ブロックの関与しない水晶体形態性(閉塞隅角)緑内障a:細隙灯顕微鏡写真.b:超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)所見.前医にてレーザー虹彩切開術が施行されているが高眼圧が持続している.前房は浅く,虹彩は前方に弯曲しているがCUBM所見では後房スペースはほとんどない.水晶体の亜脱臼により虹彩-水晶体が一体(虹彩水晶体隔壁)となって前方移動し隅角を直接閉塞している.後房(+)水晶体赤道部図2瞳孔ブロックの関与する水晶体形態性(閉塞隅角)緑内障水晶体亜脱臼による片眼性の閉塞隅角緑内障.UBMでは,亜脱臼により水晶体の赤道部が描出されている.虹彩は前方に凸で,虹彩と水晶体の間には後房が描出されており瞳孔ブロックが存在する.表3原発閉塞隅角緑内障と水晶体形態性緑内障の治療の差異前房中水晶体物質図3水晶体融解性緑内障の細隙灯顕微鏡写真前房は深い.水晶体は成熟白内障である.過熟白内障が自然破.し流出したと考えられる.融解した水晶体皮質が前房内に存在し前房内混濁として観察される.

血管新生緑内障-診断と治療

2018年8月31日 金曜日

血管新生緑内障─診断と治療NeovascularGlaucoma─DiagnosisandTreatment植木麻理*はじめに血管新生緑内障は1963年にWeissが虹彩と隅角に新生血管を伴う緑内障をneovascularglaucoma(NVG)として報告したのが最初と考えられる1).眼内の虚血が進行すると,Muller細胞,周皮細胞,血管内皮細胞,網膜神経節細胞,網膜色素上皮細胞などからさまざまな血管新生因子が産生される.血管新生因子のうちとくに重要な因子が血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)であり,産生されたVEGFは血管内皮に作用し,血管透過性が亢進,新生血管が形成される.NVGの病態は産生されたVEGFが房水の流れに沿って前房に拡散することで,隅角に新生血管と線維血管膜が生じ,新生血管が線維柱帯を覆うことで房水流出抵抗が増大し,眼圧上昇することにある.いったん,高眼圧となるとさらに眼虚血が増悪し,VEGFがより大量に産生され血管新生が増悪する悪循環に陥る.緑内障のなかでも眼圧コントロール不良な難治な病型である.I血管新生緑内障の原因疾患NVGの原因疾患としては糖尿病網膜症(diabeticreti-nopathy:DR),網膜静脈閉塞症,眼虚血症候群が多く,この3疾患で8割を占めている2).その他の疾患として網膜中心動脈閉塞症,網膜.離,頸動脈海綿静脈洞瘻,Coats病,Earls病,Behcet病,原田病,放射線網膜症,眼内腫瘍などがある.海外ではDRと網膜中心静脈閉塞症(centralveinocclusion:CRVO)がほぼ同等で30%程度とされているが,わが国の報告ではDRが70%以上を占めるとする報告が多い3~5).1.糖尿病網膜症と血管新生緑内障糖尿病患者の約2%にNVGが発症するが,増殖糖尿病網膜症(proliferativeDR:PDR)では21%,虹彩新生血管が存在すれば65%と高率になるといわれている6~8).また,PDRの硝子体術後では5~20%にNVGが発症するため9~11),硝子体手術の増加により硝子体手術後のNVGが増加する可能性がある.2.網膜中心静脈閉塞症と血管新生緑内障虚血型では60%がNVGを発症するが非虚血性でNVGになるのは通常ない.しかし,CentralVeinOcclusionStudy(CVOS)では自然経過で非虚血型の15%が発症後4カ月で虚血型になるとされており,注意が必要である12,13).II血管新生緑内障の病期NVGは病態によって大きく三つの病期に分類される.①前緑内障期=血管新生期(第1期).虹彩や隅角に新生血管が出現するが,眼圧上昇は認めない.②開放隅角緑内障期(第2期).新生血管膜が線維柱帯を覆い,眼圧が上昇する.③閉塞隅角緑内障期(第3期).新生血管膜の収縮により隅角が閉塞し,眼圧は通常高度に上昇*MariUeki:高槻赤十字病院眼科〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-1096大阪府高槻市阿武野1-1-1高槻赤十字病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(37)1043第1期第2期第3期図1血管新生緑内障の病期第C1期:開放隅角,眼圧正常.新生血管が隅角と瞳孔縁に出現しているが,眼圧が正常域にある状態で十分な光凝固により眼圧上昇が抑制できることが多い.第C2期:開放隅角,高眼圧期.隅角の新生血管が増加し,増殖膜が形成され眼圧が上昇する.硝子体手術施行例ではCPASindexがC25%未満なら術後の眼圧コントロールは良好であるが,25%以上あればコントロール不良である.第C3期:閉塞隅角,高眼圧.隅角が閉塞しており,眼圧も高値となる.ぶどう膜外反を認めることもある.レーザー光凝固による網膜虚血の改善のみでは眼圧下降は得られず,初めから緑内障手術を想定した治療が必要である.図2瞳孔縁の新生血管虹彩新生血管はC9割が瞳孔縁に初発する.検出率を高めるには細隙灯顕微鏡を高倍率で観察することが重要である.図3眼底変化に乏しい血管新生緑内障近視眼や徐々に眼虚血が進行した症例では眼底変化が乏しくてもCNVGとなっていることがある.眼圧が経過観察中に変動する症例は要注意であり,フルオレセイン蛍光眼底造影検査で網膜無灌流域の有無を確認する必要がある.図4血管新生緑内障の治療方針IVB前抗VEGF治療なしIVB後抗VEGF治療あり図5ベバシズマブ硝子体注射(IVB)による隅角新生血管の変化ベバシズマブ硝子体注射により,隅角新生血管は著明に退縮している.図6抗VEGF薬前投与と線維柱帯切除術抗CVEGF薬の前投与なしでは虹彩切除後に多量の出血を認めるが,前投与例では虹彩切除後の出血は軽微である.一方,毛様体扁平部挿入型チューブシャント手術については,硝子体手術併用症例でも術後C1年の眼圧コントロ-ル率はC70~100%と良好である.長期成績の報告は多くないが,植田らのC16眼(うちCNVGC11眼)の報告では,10年後の眼圧コントロール率はC72.8%であった25).筆者らも経毛様体扁平部挿入型チューブシャント手術においてC3年間良好な眼圧コントロールが維持され,3年生存率がアーメド緑内障バルブC12眼(うちNVGC8眼)でC75%,バルベルト緑内障インプラントC16眼(うちCNVGC7眼)でC88.9%と良好であったと報告している26).毛様体扁平部挿入型チューブシャント手術はTLEで成績が不良である硝子体術後のCNVGにおいてもその効果が期待される.C6.毛様体破壊術毛様体破壊術は毛様体をレーザーや冷凍凝固などで破壊することにより房水産生を低下させ眼圧を下降させる術式であるが,術後,眼内炎症の増悪や眼球癆などの合併症も多いことから,他の術式で効果が得られない症例に限って適応とされていた21).わが国では認可されていないが,海外では眼内から内視鏡を用いて毛様体凝固を行うCendocyclophotocoagulationが行われており,アーメド緑内障バルブによるチューブシャント手術と比較して術後C1年での視力や眼球癆の発症率に差はなく,眼圧コントロールも良好であるとする報告もみられる27).おわりに従来予後不良とされてきたCNVGではあるが,抗VEGF薬や新しい緑内障手術の登場により,早期に診断し,適切な治療を行うことで視機能維持が可能な症例も増加している.チューブシャント手術については,長期成績の評価が今後の課題と考えられる.文献1)WeissDI,Sha.erRN,NehrenbergTR:Neovascularglua-comaCcomplicatingCcarotid-cavernousC.stula.CArchCOph-thalmolC69:304-307,C19632)VanceaPP,Abu-TalebA:CurrenttrendsinneovascularglaucomaCtreatment.CRevCMedCChirCSocCMedCNatCIasiC109:264-268,C20053)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognos-ticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:912-918,C20094)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Bene.ciale.ectsofpreoperativeCintravitrealCbevacizumabConCtrabeculectomyCoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmolC88:C96-102,C20105)KojimaS,InataniM,ShobayashiKetal:RiskfactorsforhyphemaaftertrabeculectomywithmitomycinC.JGlau-comaC23:307-311,C20146)HoskinsHDJr:Neovascularglaucoma:currentconcepts.TransCAMCAcadCOphthalmolCOtolaryngolC78:330-333,C19947)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetCal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19848)DiabetesCControlCandCComplicationsCTrialCResearchGroup:TheCe.ectCofCintensiveCtreatmentCofCdiabetesConCtheCdevelopmentCandCprogressionCofClong-termCcomplica-tionsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMedC329:977-986,C19939)WandCM,CMadiganCJC,CGaudioCARCetCal:NeovascularCglaucomaCfollowingCparsCplanaCvitrectomyCforCcomplica-tionsCofCdiabeticCretinopathy.COphthalmicCSurgC21:113-118,C199010)YamamotoCT,CHitaniCK,CTsukaharaCICetCal:EarlyCpostop-erativeCretinalCthicknessCchangesCandCcomplicationsCafterCvitrectomyfordiabeticmacularedema.AmJOphthalmolC135:14-19,C200311)YokotaR,InoueM,ItohYetal:Comparisonofmicroinci-sionvitrectomyandconventional20-gaugevitrectomyforsevereproliferativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol59:288-294,C201512)ZegarraH,GutmanFA,ConfortJ:ThenaturalcourseofcentralCretinalCveinCocclusion.COphthalmologyC6:1931-1942,C197913)CentralCVeinCOcclusionCStudyCGroup:BaselineCandCearlyCnaturalhistoryreport.TheCentralVeinOcclusionStudy.ArchOphthalmolC11:1087-1095,C199314)松村美代,西澤稚子,小椋祐一郎ほか:虹彩隅角新生血管を伴う増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.臨床眼科C47:653-656,C199315)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-alCbevacizumabCtoCtreatCirisCneovascularizationCandCneo-vascularCglaucomaCsecondaryCtoCischemicCretinalCdiseasesCinC41CconsecutiveCcases.COphthalmologyC115:1571-1580,C200816)SaitoCY,CHigashideCT,CTakedaCHCetCal:ClinicalCfactorsCrelatedCtoCrecurrenceCofCanteriorCsegmentCneovasculariza-tionCafterCtreatmentCincludingCintravitrealCbevacizumab.CAmJOphthalmolC149:964-972,C201017)WangJW,ZhouMW,ZhangXetal:Short-terme.ectof1048あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(42)—

落屑緑内障

2018年8月31日 金曜日

落屑緑内障ExfoliationGlaucoma尾﨑峯生*はじめに落屑緑内障(exfoliationglaucoma)は落屑症候群(exfoliationsyndrome)に続発する緑内障である.落屑症候群は異常な細胞外マトリクスの過剰産生と蓄積が主として眼内に認められる加齢性疾患(マイクロフィブリロパチー)である.落屑症候群ではエラスチンの生成と架橋結合に異常を生じるため,1)血管病変を伴って心血管系疾患を併発しやすい,2)女性骨盤臓器脱が有意に多い,という疫学研究や全身血管異常を病理学的に示した報告があることから,本症候群を全身性疾患であるとみなす専門家が多い.I落屑症候群1.用語について落屑症候群の呼称には落屑症候群と偽落屑症候群(pseudo-exfoliationsyndrome)という病名が混在しており,ともに同じ疾患をさすため多少の混乱を生じている(図1).これは歴史的にはガラス職人にみられる水晶体前面に薄膜のような変化を示す真性落屑症候群(図2)から,水晶体前面や虹彩に付着した落屑物質を示す病態を区別するために偽落屑症候群とよんだことに由来する.また,落屑が水晶体.から産生されるとして落屑緑内障を水晶体.緑内障(capsularglaucoma)と呼称した時期もある.現在,落屑物質は前眼部のさまざまな部位から産生され,いくつかの物質がいわば微細な毬藻のように集合体を形成しつつ蓄積することがわかってきてお落屑緑内障(Exfoliationglaucoma)=偽落屑緑内障(Pseudoexfoliationglaucoma)=水晶体.緑内障(Capsularglaucoma)図1落屑緑内障の用語り,おもな産生部位は虹彩および毛様体ではないかと考えられる.水晶体前.を切除した後に眼内レンズ表面に落屑が認められることもあるので,水晶体前.だけから落屑を生じるわけではない(図3).2.真性落屑症候群現在,真性落屑症候群は光干渉断層計検査および病理学的研究から,水晶体前.が層状に分離した病態(cap-sularlamellarseparation)であることが明らかとなっている.注意深く水晶体前.を観察すると,真性落屑症候群は非常にまれというわけではなく,ガラス職人ではない人の前.に分離をみることもある.また,白内障手術時に水晶体前.の連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を行ったのにまだ下に水晶体.が残っていて,さらにCCCを行ったという経験をしたことがある眼科医もいるのではないだろうか.これも真性落屑症候群であり,加齢,熱曝露および外傷がリスク要因である1).フケのような落屑状の形態をした物質の沈着を示す疾患は落屑症候群のみであり,外来でよく遭*MineoOzaki:尾﨑眼科〔別刷請求先〕尾﨑峯生:〒883-0066宮崎県日向市亀崎1-15尾﨑眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(29)1035図2真性落屑症候群図3眼内レンズ表面の落屑症候群物質水晶体前.が分離した薄いベール状の膜(C.).眼内レンズ表面に落屑物質のCperipheralbandが認められる.後発白内障を伴っている.害が強い,②薬物治療の変更が多い,③トラベクレクトミー手術を受けていたことが進行と関連していた.C2.治療落屑緑内障の治療は積極的に行う必要がある.薬物治療も眼圧の推移と視野の経過を注意深くみながら,早めに強化してゆくほうがよい.落屑緑内障は原発開放隅角緑内障に比べて薬物治療に抵抗する例が少なくないため,手術に踏み切る時期が遅くなりすぎないように注意が必要である.選択的レーザー線維柱帯形成術は長期効果を期待しにくいとしても,早期緑内障例やアドヒアランスが低い例には一定の適応があるとされている.Konstasらはトラベクレクトミー後の眼圧は原発開放隅角緑内障より下降する傾向があると報告しており,原発開放隅角緑内障よりもトラベクレクトミーの手術成績が劣ることはないというのが欧米の専門家の意見である.落屑緑内障に対してはCTaniharaらがトラベクロトミーのC5年生存率が比較的良好(73.5%)であると報告している.落屑緑内障では術後も落屑の沈着が進むため,また目標眼圧を低めに設定する必要がある例も少なくないため,トラベクロトミー適応を慎重に検討する.術後良好な眼圧を達成していても長期的に経過観察を行い,必要に応じて遅滞なく次の手術を検討するべきである.また,落屑症候群および落屑緑内障では白内障手術のみによって有意に眼圧が低下することが知られている.毛様小帯脆弱が白内障手術を困難にすることも少なくないので,早めに白内障手術単独または初期の落屑緑内障に対してはトラベクロトミー白内障同時手術を行うことは治療上理にかなっているかもしれない.さらにトラベクレクトミーと白内障の同時手術では,白内障手術による炎症がトラベクレクトミーの手術成績に悪影響を与えるとの報告もあるため,早めに白内障手術(角膜切開)を行っておくことが次に行われるトラベクレクトミーの長期効果を高めてくれる可能性がある.末期の落屑緑内障患者ではとくに急速に視機能を失うことがある.このため手術待機期間中に進行しないように注意を払う必要がある.また,落屑緑内障末期では高眼圧に加えて,角膜内皮代償不全による水疱性角膜症のために視機能が低下し,外科的治療がさらに複雑な問題をはらむことも少なくない.高齢化社会では余命が予想以上に長くなり,落ち着いていた落屑緑内障の患者が超高齢になった時期に再度眼圧コントロールが不良となることも多く,治療に苦慮する例がある.CIII落屑症候群の疫学落屑症候群は,通常C50歳代から出現してくる.40歳未満はきわめてまれである.片眼性の落屑症候群は,15年でC52%が両眼性に移行する8).Hammerらの電顕的研究では,片眼性の症例も基本的には両眼性に落屑症候群の病理学的変化を示しており,表現型に左右差,時間差があるとしている9).C1.多治見スタディ日本の多治見スタディにおいては,緑内障を除いた落屑症候群はC40歳以上の全体でC0.8%,年代別ではC40歳代0%,50歳代C0.2%,60歳代C1.0%,70歳代C1.9%,80歳以上C3.0%であった10).福岡県の久山町スタディではC50歳以上のC3.4%に落屑症候群が認められた11).C2.全国緑内障疫学調査わが国における落屑症候群に対する全国規模の疫学調査はC1988年から全国C7地点,北海道,岩手,山梨,愛知,岐阜,兵庫,熊本で実施されたC40歳以上のC8,126人を対象としたものがある.落屑症候群はC101人(1.24%)に認められた.落屑症候群の有病率は,とくに熊本県で高く(2.95%),日本国内でも落屑症候群の有病率の地域差がある可能性を示唆している12).C3.環境因子落屑症候群のリスクに関連する一塩基多型(singlenucleotideCpolymorphism:SNP)は,落屑症候群疾患群ではC99%に認められるが,落屑を生じていない対照群にもC85%程度に認められる.このため環境因子も関連すると推定されている.Kangらは落屑症候群のリスクを評価するため,40歳以上の医療従事者約C12万人を追跡調査し13),スカンジナビア系統であることはリスク要因ではなく,また米国中央部もしくは南部居住者は,米国北部居住者と比較す(31)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1037ると落屑症候群リスクが低いことが明らかとなった.青年期に屋外で長時間を過ごすことは落屑緑内障および落屑緑内障疑のリスクと関連していた.雪上や水の上での作業は落屑症候群と関連性が高い.Steinらは米国本土におけるマネジドケアC63万人を分析し,居住地の環境気温が低いこと,および日光曝露が落屑症候群の重要な環境的誘因になると報告した14).また,葉酸の多量摂取は落屑緑内障および落屑緑内障疑のリスク減少と関連しており,落屑緑内障および落屑緑内障疑におけるホモシステイン関与の可能性を示している.さらにコーヒーの多量摂取が落屑症候群のリスク要因と関連性があることが認められた.葉酸については,スカンジナビア地域では新鮮な野菜を取ることがむずかしいため,葉酸不足が指摘されている.また,同地域はコーヒーの摂取量では世界有数の地域であり,葉酸不足とコーヒーの多量摂取は高ホモシステイン血症を通じて落屑症候群発症リスクを高める可能性がある.CIV緑内障のメカニズム落屑症候群において落屑緑内障を発症するメカニズムは以下のように考えられる.1)落屑物質の隅角線維柱帯への沈着,隅角線維柱帯および隅角線維柱帯細胞の機能低下により房水流出機能が低下した結果,眼圧が上昇する.2)結合組織のエラストーシスによって視神経乳頭篩板(laminacribrosa:LC)の剛性低下を生じ,眼圧に対する脆弱性が生じる.このため緑内障性視神経障害が進行しやすくなる.3)毛様小帯脆弱による水晶体前方偏位によって隅角が閉塞し,眼圧が上昇する.4)網膜神経節細胞自体の機能障害の可能性がある15).C1.視神経乳頭篩板落屑緑内障の病態生理学におけるCLCの役割は十分に認識されている16).落屑緑内障患者のCLCに弾性線維症が認められ,落屑緑内障患者の視神経乳頭組織におけるエラスチン合成およびターンオーバーの調節不全を示唆している17).落屑症候群眼におけるCLCの構造的脆弱は,眼圧が正常範囲内であっても,緑内障性視神経症の発症および進行の原因となると考えられている17,18).落屑症候群のC37眼,落屑緑内障のC5眼,原発開放隅角緑内障のC5眼を含むヒトドナー眼における組織病理学的研究によれば,lysylCoxidase-likeC1(LOXL1)および弾性線維蛋白質の調節異常発現は,LCの構造的変化と関連しており,眼圧への耐性低下,したがって緑内障性視神経症の発症および進行に関与することが示されている19).増強深度イメージング法を用いたスペクトラルドメインOCTによって生体内でのCLCおよび視神経乳頭のより深部構造の視覚化が可能となっている20,21).正常眼圧緑内障患者において,高眼圧原発開放隅角緑内障患者よりもCLCが有意に薄いことが報告されている22).このイメージング技術を用いて,同等の病期を示す落屑緑内障患者C21例と原発開放隅角緑内障患者C35例を比較すると,落屑緑内障患者のCLCは原発開放隅角緑内障の患者よりも有意に薄いことが示された23).この結果は,原発開放隅角緑内障よりも落屑緑内障において視神経乳頭がより障害を受けやすいことを示唆している.C2.落屑症候群における閉塞隅角メカニズム開放隅角緑内障は,落屑症候群に関連するもっとも一般的な緑内障病型であるが,毛様小帯脆弱のために,水晶体が前方に移動し,閉塞隅角緑内障の発症につながる可能性がある.原発閉塞隅角の罹患率が高いアジア人においては,落屑症候群を伴う慢性閉塞隅角緑内障は原発閉塞隅角緑内障よりも速く進行する可能性があるため,注意が必要である.片眼落屑症候群患者の前眼部における形態学的変化の臨床的評価が,前眼部COCTを用いて行われて,落屑症候群眼の前房の深さは非落屑眼よりも浅い傾向を示した24).日本では,落屑症候群外来患者からのC305眼における隅角鏡を用いた報告では,3.6%の患者がCSha.erグレードC1,Sha.erグレードC2としてC13.1%であった25).落屑緑内障患者は,隅角閉塞が出てきていないかを確認するために,定期的に隅角検査を受ける必要がある.C3.網膜神経節細胞の機能不全OCTを用いて,従来の眼科検査で他の異常がない片1038あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(32)表1落屑症候群の疾患関連遺伝子とその役割エラスチンの生成と架橋結合C細胞の恒常性維持に関連するユビキチン-プロテアソーム複合体Cカルシウム輸送体C膜貫通型蛋白質/血管内皮における発現C膜貫通型蛋白質C炎症に関連C細胞増殖に関連LOXL1POMPCACNA1ATMEM136SEMA6AAGPAT1RBMS3’C-図4落屑症候群発症メカニズム–

アミロイド緑内障

2018年8月31日 金曜日

アミロイド緑内障AmyloidGlaucoma渡邉隆弘*井上俊洋*はじめに続発緑内障の一つの型としてあげられるアミロイド緑内障は,基本病態としてアミロイド物質が房水の流れに乗って房水流出路に沈着することで房水流出路の構造変化を生じ,房水流出抵抗が増加することで眼圧上昇をきたすことがおもなメカニズムと考えられている.アミロイド物質が沈着することで機能障害をきたすアミロイドーシスは,日本では30種類以上の病型が確認されており,免疫グロブリン性アミロイドーシス,アミロイドAアミロイドーシス,遺伝性トランスサイレチン(transthyretin:TTR)アミロイドーシス,野生型TTRアミロイドーシスなどがある.全身にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスは指定難病である.アミロイド沈着を眼内に生じる疾患として家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamyloidoticpolyneu-ropathy:FAP)がよく知られており,TTRに変異を起こしたタイプのほか,異型アポリポ蛋白AIや異型ゲルソリンが原因となるタイプがある.TTRによるものがもっとも多く,神経障害や臓器障害に加えて眼所見も伴うため,以下は異型TTRによるアミロイドーシスについて述べる.両親のいずれかがこの疾患の場合,1/2の確率で遺伝し,20歳代後半から30歳代に発症することが多い.無治療だと発症後10年あまりで多臓器不全などに至り,死亡する難病である.世界的にはポルトガル,スウェーデン,わが国では熊本,長野に患者の集積地があり,その地域特有の疾患ととらえられ通常遭遇することはあまりない疾患と思われていたが,近年集積地以外でも新発見の遺伝子変異によるTTRアミロイドーシスの型が次々に発見されており,その分布は全国的に広がっている.したがって,これまでは内科的に正しく診断されていなかった症例もあり,今後は従来知られていた集積地以外でも一般眼科臨床でアミロイド緑内障に遭遇する可能性は十分に考えられるため,その臨床的な特徴について知っておく必要がある.はっきりした遺伝的な背景をもたない弧発例で,TTR遺伝子に点変異を有することでアミロイドーシスをきたしている症例も日本各地で発見されている.高齢男性に多く,自律神経障害は軽微であることが特徴であり,正しく診断されるまで時間がかかることも少なくない.これらのTTRアミロイドーシスにおける眼所見の頻度や重症度については不明な点が多く,今後の臨床的な課題である.本稿ではアミロイド緑内障の病態から臨床像,治療方針について,熊本の症例から得られた知見を中心に述べる.I病態血漿蛋白質の一つであるTTRは血液中や脳脊髄液中に存在し,甲状腺ホルモンなど他の物質と結合しながらビタミンAを輸送する働きをもっている.本来4量体として機能するが,遺伝性TTRアミロイドーシスでは*TakahiroWatanabe&*ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕渡邉隆弘:〒860-8556熊本市中央区本荘1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)1029トランスサイレチン4量体として機能遺伝子変異により単量体化,ミスフォールディング重合,凝集し,アミロイド線維形成図1トランスサイレチンによるアミロイド線維形成の模式図トランスサイレチンは本来C4量体として機能するが,遺伝性CTTRアミロイドーシスではTTRが遺伝的に変異を起こすことで単量体に乖離しやすいことと,また分子レベルの折りたたみがうまくいかないこと(ミスフォールディング)から重合・凝集し,不溶性のアミロイド線維を形成する.図2遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスにおける図3遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスにおける瞳孔縁のアミロイド沈着と脱円した瞳孔水晶体.のアミロイド沈着図4遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスにおける硝子体混濁図5落屑症候群における瞳孔縁の落屑物質沈着図6落屑症候群における水晶体.の落屑物質沈着図7アミロイド緑内障に対する線維柱帯切除術後に形成された濾過胞濾過胞の丈を保ったまま,眼圧はしばしば高くなる.

ステロイド緑内障

2018年8月31日 金曜日

ステロイド緑内障Steroid-InducedGlaucoma有村尚悟*稲谷大*はじめに副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)は強力な消炎効果を有するが,眼科領域ではとくに白内障やステロイド緑内障といった副作用のリスクを考慮しなければならない.緑内障初期は自覚症状に乏しく,発見が遅れた場合,重篤な視機能障害をもたらす可能性がある.ステロイドを処方する場合には,眼圧上昇の可能性があることを患者本人またはその家族に伝え,継続的に経過観察していくことが必要である.本稿では,ステロイド緑内障の歴史,原因,発症機序,診断,治療について述べる.CIステロイド緑内障の歴史ステロイドによる眼圧上昇はステロイドの全身投与によって引き起こされることがC1950年代に報告され1),春季カタルに対するステロイド点眼治療でも同様に眼圧上昇をきたすことが同時期に報告されている.2000年代に入ってから,徐放性ステロイドのトリアムシノロンアセトニド(以下,トリアムシノロン)が硝子体手術における硝子体の可視化に用いられるようになった.その効果として手術時の合併症の減少に有効であることや,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞疾患に合併する黄斑浮腫の軽減,脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることがわかり,トリアムシノロンは臨床の場で広く用いられることとなった.その一方,トリアムシノロンによる合併症としてステロイド緑内障も増加した.IIステロイド緑内障の原因ステロイド緑内障を引き起こすステロイドのおもな投与形態には,ステロイド内服薬・注射薬の全身投与,ステロイドの点眼,トリアムシノロンなどの徐放性ステロイドの硝子体内注射やCTenon.下注射,喘息治療に用いられる吸入ステロイド,眼瞼へのステロイド眼軟膏の塗布などがあげられる.また,副腎皮質過形成やCCush-ing症候群など,内因性にステロイド産生が上昇する疾患によって眼圧上昇をきたす場合がある.投与方法と眼圧上昇の関連についてはステロイド点眼使用による眼圧上昇の報告が多いが,顔や眼瞼用クリームや外用水薬,あるいは眼周囲以外の皮膚への投与でも,眼圧を上昇させる十分量が吸収され,眼に作用すると考えられている.とくに球後,結膜下,Tenon.下の投与では眼圧が上昇しやすい.CIIIステロイドによる眼圧上昇の発症機序ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には細胞外マトリックスの異常蓄積がみられる.線維柱帯細胞が細胞外マトリックスを過剰産生し,貪食能が低下することによって堆積物が増加し,房水流出路が障害され,その流出抵抗が増大するためにステロイド緑内障が発症すると考えられている2).また,細胞外マトリックスの主成分はグリコサミノグリカンであるが,その水和物は線維柱帯に浮腫を生じさせ,房水流出路が閉塞する可能性があ*ShogoArimura&*MasaruInatani:福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学〔別刷請求先〕有村尚悟:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月C23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(19)C1025表1ステロイド負荷試験表2ステロイド点眼薬の種類と眼圧上昇作用との関係表3ステロイド内服による眼圧上昇の危険因子内服なしC1.00内服中1.41(1.22.1.63)内服C15.45日前1.18(0.87.1.62)内服C46.365日前0.92(0.78.1.08)ヒドロコルチゾン換算量(mg/day)1.391.26(1.01.1.56)40.791.37(1.06.1.76)C.801.88(1.40.2.53)連続投与連続投与なし0.98(0.86.1.12)1.2カ月1.29(0.93.1.80)3.5カ月1.63(1.16.2.30)6.11カ月1.87(1.34.2.60)C.12カ月1.52(1.13.2.05)(文献C9より引用)生存率(%)10090ステロイド緑内障8070原発開放隅角緑内障605040302010012345年経過期間(年)図1ステロイド緑内障と原発開放隅角緑内障に対するトラベクロトミー手術後の成績比較(文献C11,12より改変引用)C-

ぶどう膜炎性緑内障

2018年8月31日 金曜日

ぶどう膜炎性緑内障UveiticGlaucoma楠原仙太郎*はじめにぶどう膜炎患者における失明の主原因は慢性もしくは再発性の眼内炎症による眼組織障害であるが,非感染性ぶどう膜炎に対しては免疫抑制薬(シクロスポリン)および抗TNFa薬(アダリムマブ)が近年相ついで保険収載されたことにより,今後は炎症による失明は減少することが予想される.一方,わが国では,ぶどう膜炎眼の約1/4に高眼圧症もしくは緑内障を合併するとの報告がある1).また,米国における保険請求データベースを用いた後ろ向き研究においても,非感染性ぶどう膜炎では5年の経過で20%に緑内障が発症すると報告されている2).したがって,失明に至る眼炎症のコントロールが多くの症例で達成されつつある現状では,ぶどう膜炎診療における続発緑内障の適切な管理の有無がぶどう膜炎患者の視機能予後を大きく左右すると思われる.ぶどう膜炎は若年で発症することが多く,眼圧上昇のメカニズムには,眼炎症,眼組織障害,副腎皮質ステロイド(以下ステロイド)の使用が複雑に関与している.また,ぶどう膜炎性緑内障では視野障害の進行が速い症例をしばしば経験する.以上のことから,ぶどう膜炎性緑内障による重度の視機能障害を生涯にわたり予防するためには,他の緑内障とは異なる特徴をよく理解したうえで,綿密な治療戦略を組み立てる必要がある.Iぶどう膜炎性緑内障の病態ぶどう膜炎における眼圧上昇のメカニズムは複雑であ図1ぶどう膜炎性緑内障り,複数の病態の関与が考えられている(図1)3).以下に現在までに提唱されている病態につき解説する.なお,本稿では,緑内障性視神経症の有無にかかわらず,ぶどう膜炎に伴う高眼圧症を含めてぶどう膜炎性緑内障として紹介する.*SentaroKusuhara:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕楠原仙太郎:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)10171.炎症に伴う線維柱帯の機能障害前眼部に炎症が生じると,血液眼柵の破綻により炎症細胞やフィブリンを含む炎症関連物質が前房内に増加し,それらの物質が線維柱帯に付着することにより線維柱帯構成細胞の機能不全が惹起され,眼圧が上昇すると考えられる.ただし,前眼部炎症では炎症による毛様体機能低下が生じることから,房水産生の低下が同時に起こる.実際にラットを用いた実験では,炎症初期では房水産生の低下と房水流出抵抗の増大によって眼圧の上昇は認められないが,炎症が持続すると眼圧が上昇してくることが証明されている4).2.炎症による線維柱帯の構造障害炎症による不可逆的な線維柱帯の構造障害が眼圧上昇の原因となっていることがわかっている.培養実験では,TGF-b刺激で線維柱帯細胞でのアクチンストレスファイバーが増加するとの報告がある5).また,線維柱帯切除術で採取したヒト検体を用いた研究では,炎症によって形成されたと推測される均質な物質が線維柱帯組織およびSchlemm管を埋め尽くしている像も確認されている6).3.ステロイドレスポンス非感染性ぶどう膜炎治療の柱はステロイドであることから,ステロイドによる眼圧上昇(ステロイドレスポンス)がしばしば生じる.ステロイドレスポンダーの割合については報告により異なるが,ベタメタゾン0.1%点眼を4.6週間続けると約40%の症例で高眼圧が生じたとの報告もある.ステロイドに伴う眼圧上昇のメカニズムとしては,線維柱帯への細胞外マトリックスの沈着,線維柱帯細胞の機能不全,線維柱帯の細胞骨格の変化,細胞接着因子の増加が考えられている7).培養線維柱帯細胞を用いた実験では,デキサメサゾン添加で,細胞内アクチン重合が促進すること8),線維柱帯細胞および細胞外マトリックスの硬さが増加していること9),が報告されている.4.炎症に伴う隅角閉塞強い前眼部炎症や持続する炎症では,虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロックから膨隆虹彩(irisbombe)が生じ,急性閉塞隅角症が生じることがある.また,サルコイドーシスの隅角結節に代表されるように,炎症に伴って周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)が形成され,その範囲が拡大することによって眼圧が上昇するという機序もある.まれではあるが,炎症に伴う隅角新生血管が血管新生緑内障を引き起こすことがある.また,炎症に伴う毛様体の前方回旋によって虹彩水晶体隔膜が前方移動し,閉塞隅角をきたすこともある.IIぶどう膜炎性緑内障の特徴ぶどう膜炎性緑内障の診療に際しては,原発開放隅角緑内障とは異なる特徴があることを理解することが重要である.1.眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎の存在ぶどう膜炎を有する眼では長期的な眼圧上昇のリスクが高いが,そのなかでもとくに眼圧上昇のリスクが高いぶどう膜炎が知られている.a.Fucks虹彩異色性虹彩毛様体炎眼圧上昇,後.下白内障,虹彩異色を特徴とする片眼性の前部ぶどう膜炎として知られているが,しばしば硝子体混濁を伴う.前眼部炎症はステロイド治療にある程度反応するが,軽微な炎症は遷延する.炎症は無治療で経過観察できる程度であることが多く,高力価のステロイド点眼を長期間使用することはステロイドによる眼圧上昇の点からも避けるほうがよい(図2).b.ヘルペスウイルス性虹彩毛様体炎(角膜ぶどう膜炎)角膜実質炎を伴った片眼性の肉芽腫性前部ぶどう膜炎である.角膜浮腫と豚脂様角膜後面沈着物を伴った前眼部炎症があり,炎症が強いと前房蓄膿を伴って視力が著しく低下することがある(図3).30.40%で眼圧上昇を伴うと報告されている.炎症は抗ウイルス薬の全身投与によく反応し,速やかに消炎すれば眼圧は低下することが多い.前眼部炎症に伴う眼圧上昇は単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスのどちらでも生じうる.c.サイトメガロウイルス性虹彩毛様体炎軽度の前眼部炎症に比例して眼圧上昇をきたす.特徴的な角膜内皮のコインリージョン(coinlesion)が認め1018あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018(12)図2Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎細隙灯顕微鏡検査で虹彩紋理の異常を認める(Ca).赤外光観察で虹彩紋理がより明瞭に描出される(Cb).本症例では併発白内障に対する手術がすでに施行されている.C図3角膜ぶどう膜炎強い前眼部炎症を伴ったぶどう膜炎で,視力は指数弁,眼圧はC31CmmHgであった(Ca).抗ウイルス薬の点滴・内服とステロイドおよび散瞳薬の点眼でC3週間後には炎症所見が消失し,矯正視力はC1.0へと改善し眼圧も正常化した(Cb).1年3カ月後図4急速に視野が悪化したぶどう膜炎続発緑内障サルコイドーシスの症例.眼圧はC20.22CmmHgで経過していたが,1年C3カ月の間に急激に視野が悪化した.図5消炎によって眼圧が下降した強膜ぶどう膜炎前眼部炎症を伴い眼圧がC32CmmHgであったが(Ca),ベタメサゾン点眼開始C4日後に前眼部炎症の改善とともに眼圧もC10CmmHgへと低下した(Cb).c(mmHg)35302520眼圧151050BL6M12M18M24M経過図6リパスジル点眼で眼圧が下降した症例軽度の炎症を伴ったCHLA-A26陽性の非肉芽腫性ぶどう膜炎症例(Ca:カラー眼底写真,b:フルオレセイン蛍光眼底写真).眼圧C29CmmHgと高値であったがルパスジル点眼開始後に眼圧はC20CmmHg以下に下降し,その下降効果は長期にわたって維持された(Cc).表1ぶどう膜炎続発緑内障に対する濾過手術の成績術式症例数デザイン対象経過観察(年)成績文献線維柱帯切除術(マイトマイシン併用)53眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障に対する初回手術平均C5.4年術後C5年での眼圧C15CmmHg以下の割合がC57%CKaburakiT,etal(C2009)線維柱帯切除術(マイトマイシン併用)101眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障に対する初回手術平均C34.7カ月術後C3年での眼圧C21CmmHg未満の割合がC71%CIwaoK,etal(C2014)線維柱帯切除術(マイトマイシン併用)70眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障に対する初回手術平均C77.0カ月眼圧6.2C1CmmHgの割合が,術後C36カ月でC60%,術後60カ月でC36%CAlmobarakFA,etal(C2017)バルベルト緑内障インプラント47眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障(C28%で線維柱帯切除術の既往あり)平均C63.6カ月眼圧5.2C1CmmHgの割合が,術後1年で8C9%,術後5年でC75%経過中にC34%の症例で低眼圧に伴う視力低下ありCTanAN,etal(C2018)アーメド緑内障バルブ60眼後ろ向き研究ぶどう膜炎続発緑内障(C20%で緑内障手術の既往あり)平均C30カ月眼圧C5.C21CmmHgかつ術前からC25%以上の眼圧下降の割合が,術後C1年でC77%,術後C4年でC50%CPapadakiTG,etal(C2007)表2ぶどう膜炎続発緑内障に対する流出路再建術の成績術式症例数対象経過観察(年)成績文献線維柱帯切開術(Cabexterno)22眼ぶどう膜炎性緑内障3年以上眼圧C6.C21CmmHgの割合が,術後C1年で50%,術後C3年でC45%CVoykovB,etal(C2016)トラベクトーム24眼ぶどう膜炎性緑内障平均C394日眼圧C21CmmHg未満かつ術前かC20%以上の眼圧下降の割合が術後C1,000日で約C75%CAntonA,etal(C2015)ビスコカナロストミー11眼ぶどう膜炎性緑内障平均C45.9カ月眼圧C6.C21CmmHgの割合が,術後C48カ月でC91%CMiserocchiE,etal(C2004)深層強膜切除術†20眼ぶどう膜炎性緑内障平均C18.9カ月眼圧C21CmmHg未満の割合が,術後C12カ月でC88%CDupasB,etal(C2010)360°スーチャートラベクロトミー変法18眼続発開放隅角緑内障(ぶどう膜炎性緑内障14眼)平均C22.4カ月術前からC30%以上の眼圧下降かつ術後に緑内障点眼薬の増加がない割合が術後C12カ月でC89%CChinS,etal(C2012)*すべて後ろ向き研究,†マイトマイシン併用かつCT-.uxインプラント留置.—-

続発緑内障の分類と治療法の基本的な考え方

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障の分類と治療法の基本的な考え方Classi.cationandTreatmentofSecondaryGlaucoma横山悠*中澤徹*はじめに緑内障診療ガイドライン(第4版)によると,続発緑内障は,他の眼疾患,あるいは全身疾患,薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる病態と定義されている.原発緑内障と異なり,緑内障性視神経症ではなく「眼圧上昇が生じる病態」としているのは,他の疾患によって引き起こされる続発緑内障では,視神経症が緑内障によるものか原疾患によるものか判断がむずかしいためである.日本緑内障学会多治見疫学調査によると,40歳以上の日本人において続発緑内障の有病率は0.5%とされる.わが国での40歳以上の緑内障有病率がおよそ5.0%であることを考えると,緑内障患者の10人に1人が続発緑内障ということになる.つまり日常診療でしばしばみられる病型であるといえる.急激に極端な高眼圧をきたし緊急の処置を要することも多い.続発緑内障はその原因疾患に応じた治療戦略を必要とするため,疾患ごとの眼圧上昇の機序を理解しておくことが重要である.I続発緑内障の分類続発緑内障は,原発緑内障と同じく隅角の閉塞の有無により,続発開放隅角緑内障と続発閉塞隅角緑内障に分けられる1).さらに続発開放隅角緑内障は房水流出抵抗の存在部位により,1)線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座がある,2)線維柱帯に房水流出抵抗の主座がある,3)Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座がある,と三つの機序に分けられる.一方,続発閉塞隅角緑内障は,1)瞳孔ブロックによる,2)瞳孔ブロック以外の原因による虹彩-水晶体の前方移動による直接隅角閉塞,3)水晶体より後方に存在する組織の前方移動による,4)前房深度に無関係に生じる周辺前癒着による,という機序に分けられる(表1).1.続発開放隅角緑内障a.線維柱帯と前房の間に流出抵抗の主座があるもの血管新生緑内障は網膜虚血,眼虚血に伴い血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)などの血管新生因子が分泌されることで隅角に新生血管が増殖し,房水排出が阻害されて眼圧上昇をきたす続発緑内障である.その進行により,病期は眼圧上昇の伴わない前緑内障期,眼圧上昇のみられる開放隅角緑内障期,虹彩前癒着が生じる閉塞隅角緑内障期に分けられる.開放隅角緑内障期では隅角の新生血管の周囲に線維血管性増殖膜が生じることで,前房から線維柱帯への流出経路に抵抗が生じて眼圧が上昇する(図1).Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は軽度のぶどう膜炎とともに隅角に微細な新生血管を生じ,20%程度の症例で眼圧上昇をきたす.前房穿刺に伴い前房出血がみられることもある.b.線維柱帯に房水流出抵抗の主座があるもの前房内に散布された微少な組織片,さまざまな細胞,蛋白質などが線維柱帯を閉塞させることにより房水流出抵抗が上昇し,眼圧上昇をきたしうる.たとえば,落屑*YuYokoyama&*ToruNakazawa:東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野〔別刷請求先〕横山悠:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)1009表1眼圧上昇機序による続発緑内障の分類1)線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座がある血管新生(開放隅角期),異色性虹彩毛様体炎,前房内上皮増殖など2)線維柱帯に房水流出抵抗の主座がある副腎皮質ステロイド,落屑物質,アミロイド,ぶどう膜炎,水晶体物質,外傷,眼科手術(白内障手術・硝子体手術・角膜移植など),眼内異物,眼内腫瘍,Schwartz症候群,虹彩色素など3)Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座がある上強膜静脈・上眼静脈圧亢進など1)瞳孔ブロックによる膨隆水晶体,水晶体脱臼,小眼球症,虹彩後癒着による膨隆虹彩など2)瞳孔ブロック以外の原因による虹彩―水晶体の前方移動による直接隅角閉塞膨隆水晶体や水晶体脱臼など3)水晶体より後方に存在する組織の前方移動による小眼球症,汎網膜光凝固後,眼内腫瘍,後部強膜炎,ぶどう膜炎(Vogt-小柳-原田病など)による毛様体脈絡膜.離,悪性緑内障,眼内充.物質,大量の眼内出血,未熟児網膜症など4)前房深度に無関係に生じる周辺前癒着による血管新生(閉塞隅角期),虹彩角膜内皮(iridocornealendothelial:ICE)症候群,ぶどう膜炎,手術,外傷など(文献1より抜粋)表2ぶどう膜炎が眼圧に与える影響毛様体炎による房水産生低下プロスタグランジンによるぶどう膜強膜流出量の上昇開放隅角炎症細胞,色素性沈着物,炎症性産物などの隅角線維柱帯の閉塞線維柱帯炎蛋白濃度上昇による房水粘性の増加ステロイド緑内障閉塞隅角毛様体の前方回旋周辺虹彩前癒着虹彩後癒着による瞳孔ブロック図1血管新生緑内障における開放隅角期虹彩前癒着は認めないが新生血管を隅角に認める.表3眼外傷における眼圧上昇機序開放隅角閉塞隅角外傷性虹彩炎水晶体脱臼,膨隆による瞳孔ブロック前房出血線維柱帯の瘢痕化CPhacolyticglaucoma開放隅角閉塞隅角前房出血水晶体脱臼,膨隆による瞳孔ブロックCLensparticleglaucoma浅前房による虹彩前癒着CFibrousingrowthCEpithelialdowngrowth眼内異物開放隅角閉塞隅角線維柱帯の炎症,瘢痕化炎症による瞳孔ブロック虹彩前癒着表4上強膜静脈圧上昇の原因疾患甲状腺眼症眼窩内腫瘍血管炎(上強膜炎,眼窩部静脈)上大静脈症候群血栓症(海綿静脈洞,眼窩部静脈)内頸動脈海綿静脈洞瘻眼窩内静脈瘤静脈シャント図2膨隆虹彩irisbombeの前眼部OCT虹彩後癒着と強い虹彩の前方突出を認める.とで,房水が前房に流れることができずに硝子体側に回り込み,硝子体が前方に押し出されることと考えられている.その病態からCaqueousmisdirectionsyndromeや毛様体ブロック緑内障とよばれることもある.Cd.前房深度に無関係に生じる周辺前癒着ぶどう膜炎や外傷,眼内手術などの眼内炎症により,虹彩前癒着を生じ,器質的隅角閉塞をきたしうる.血管新生緑内障における閉塞隅角緑内障期でも線維柱帯前面を覆う線維血管増殖膜が収縮することで虹彩前癒着が生じ,難治性の続発閉塞隅角緑内障となる.他に,虹彩角膜内皮症候群(iridocornealendothelialsyndrome,ICE症候群)でも角膜内皮細胞の異常とCDescemet膜様組織の隅角への増殖が生じて虹彩角膜癒着をきたす.CII治療法の基本的な考え方続発緑内障の基本的な治療方針が眼圧下降であることは,他の緑内障病型と変わりない.しかし,眼圧上昇に緑内障以外の疾患が関与しているため,根本的な治療には眼圧上昇がなぜ起こっているか考える必要がある.ここではわれわれが臨床の現場で出会うことの多い続発緑内障の病態と,治療法の基本的な考えについて述べる.C1.ステロイド緑内障眼圧上昇の原因としてステロイド緑内障を疑ったら,まず,ステロイドを漸減・中止してみることが原則である.点眼投与でC0.1%ベタメタゾン点眼液など強いステロイドが投与されていた場合は,0.1%フルオロメトロンなど弱いステロイド点眼液に変更することで眼圧が下降する可能性がある.ステロイドが眼科ではなく他の診療科で投薬されていることも多く,その場合には投薬を行っている担当医と相談し,ステロイドの漸減を検討してもらう.薬物療法の眼圧下降の方法は開放隅角緑内障に準じる.点眼薬や内服による眼圧下降療法,ステロイド漸減,中止にもかかわらず十分な眼圧下降が得られない場合は外科的治療が選択される2).傍CSchlemm管結合組織に細胞外マトリックスが蓄積し房水流出抵抗が増すステロイド緑内障には線維柱帯切開術が選択されることが多い.わが国における研究では,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)と比べ,ステロイド緑内障に対する線維柱帯切開術の成績は良好であることが報告されている3,4).しかし,緑内障が末期となり視野障害が進行している場合は,濾過手術を検討する.濾過手術は,感染のリスクが高まり管理が大変であるため,よく患者背景をみて適応を考える必要がある.C2.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障ぶどう膜炎で眼圧が上昇する機序は,表2に示すように複雑である.治療は活動性のあるぶどう膜炎に対し消炎を図ることと,薬物による眼圧下降療法を平行して行うことが基本となる.プロスタグランジン関連点眼薬の使用は,血液房水柵を壊し炎症を増悪させる可能性があることから注意する.活動性のあるぶどう膜炎にみられる眼圧上昇はステロイドで消炎するだけでも下降が期待できるが,長期的ステロイドの使用や難水溶性のステロイドのCTenon.下投与による眼圧上昇がしばしば臨床上問題となることに留意しておく必要がある.眼圧上昇がぶどう膜炎かステロイドによるものかわからない場合,ステロイド投与を中止もしくは作用の弱いものに変更することで眼圧が下降するか検証してみる.しかし,眼圧上昇にぶどう膜炎,ステロイド双方が複雑に関与していたりすると,眼圧上昇機序を明確に判断することはむずかしい.慢性炎症により虹彩後癒着が進行するとCirisCbombeをきたすため,瞳孔管理も必要となる.虹彩後癒着の予防,解除には散瞳薬を用いる.IrisCbombeに至った場合には,レーザー虹彩切開術か周辺虹彩切開術を行う.慢性的炎症の持続,ステロイドの長期使用,虹彩前癒着の進行などにより不可逆的に房水流出抵抗が上昇してしまうと点眼薬だけでは眼圧コントロールがむずかしく,濾過手術を要する.ぶどう膜炎に伴う続発緑内障は術後も炎症管理が重要となる.C3.血管新生緑内障血管新生緑内障発症には眼内の虚血により産生される血管新生因子が関与している.治療方針は,眼圧下降を図るとともに,眼内の酸素需要と供給のバランスを是正して虚血状態を改善させ,血管新生を抑制することであ(7)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C1013図3瞳孔縁および水晶体表面の落屑物質落屑物質が少ないと散瞳してよく観察しないと見落とすことがある.

序説:続発緑内障

2018年8月31日 金曜日

続発緑内障SecondaryGlaucoma山本哲也*中村誠**本特集では続発緑内障を取り上げ,その基本的な治療の考え方を示すとともに,代表的な続発緑内障の診断と治療に関する解説を行うこととした.続発緑内障は日常よく遭遇する疾患であるが,原発緑内障とは異なり,一筋縄では行かないところがある.そこが眼科医の悩みでもあるが,また興味を引かれるところでもある.原発緑内障に対してはとくに問題なく診療のできる眼科医であっても,続発緑内障となると診断や管理に一抹の不安を覚えることは多いようである.具体的に,続発緑内障の管理上問題となることとして次のような事項があげられる.①眼圧の変動が激しいこと原発開放隅角緑内障と比較して眼圧の変動の大きな症例が多い.眼圧様態はむしろ慢性原発閉塞隅角緑内障に近く,正常下限あたりから40mmHg程度まで変動することがある.これは,隅角に起こる各種病変の推移や原疾患の活動性などいくつかの要因が個々の症例ごとに違う形で現れるからである.②眼圧上昇原因の特定がしにくい続発緑内障の眼圧上昇機序には開放隅角メカニズムと閉塞隅角メカニズムがあるが,その中がまた細分化されていることがその大きな理由である.また,1症例で複数のメカニズムが併存すること(例:ぶどう膜炎性緑内障)や疾患の進展によって眼圧上昇メカニズムが変化すること(例:血管新生緑内障)も珍しくない.③原疾患に対する対応が必要である血管新生緑内障,ステロイド緑内障,アミロイド緑内障など,原因となる疾患や状態に対して対応の必要な病型がある.たとえば,ステロイド緑内障であってもステロイドを中止すればよいといった単純なものではなく,ステロイドを要する原疾患の主治医とも連絡を取りながら個別に慎重に対処する必要がある.④眼圧管理法が大きく異なる続発緑内障の病型によっては使用できない緑内障薬(例:悪性緑内障に対するピロカルピン)があり,基礎知識は必要である.また,手術も純粋な緑内障手術だけでなく白内障手術や硝子体手術が適応となることがある(例:水晶体融解性緑内障)など,特別の配慮を要する病型である.⑤隅角検査が診断の根拠となることが多い隅角検査が診断を確定するのに役立つことが多いこと(例:続発小児緑内障,外傷緑内障)も特徴である.したがって,日頃から診療の場で多数の隅角検査を行って検査に慣れておくことは,続発緑内障の診療にとても有用である.なお,続発小児緑内障は原発小児緑内障に対する用語で,先天眼形成異常*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学**MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)1007

低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例

2018年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科35(7):999.1001,2018c低体温患者にみられたLandolt環型角膜上皮症の1例西田功一岡本紀夫高田園子杉岡孝二髙橋(児玉)彩福田昌彦下村嘉一近畿大学医学部眼科学教室CACaseofRing-ShapedEpithelialKeratopathyAccompaniedbyHypothermiaKoichiNishida,NorioOkamoto,SonokoTakada,KojiSugioka,AyaKodama-Takahashi,MasahikoFukudaandYoshikazuShimomuraCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineLandolt環型角膜上皮症は,特異な形態を呈する角膜上皮病変であり,原因や病態について不明である.今回,筆者らは緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.症例はC58歳,男性.2008年より緑内障にて経過観察をしていた.2012年C2月の定期受診時に細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁状の特異な病変を数カ所認めた.自覚症状はなかった.角膜ヘルペスが疑われたためアシクロビル眼軟膏などで治療した.病変はC3カ月後には,消失した.本症例は,脳神経外科手術による視床下部障害のための低体温があり,それが誘因の一つと推察された.CLandoltring-shapedepithelialkeratopathy,acornealepitheliallesionexhibitingasingularform,isunclearastoitscauseandcondition.WereportacaseofLandoltring-shapedepithelialkeratopathyaccompaniedbyprimaryopenangleglaucomaandhypothermiaduetohypothalamusdisorder.A58-year-oldmalesu.eringfromprimaryopenangleglaucomahadbeenfollowedupsince2008.InFebruary2012petalineepitheliopathywasobservedinbothcorneas,withnosubjectivesymptoms.Wesuspectedherpetickeratitisandprescribedaciclovireyeointment.TheCpetalineClesionsCdisappearedCafterCthreeCmonths.CWeCdiagnosedCthisCcaseCasCLandoltCring-shapedCepithelialCkeratopathybecauseofitstypicalappearance.Itissuggestedthathypothermiaduetohypothalamusdisorderwasrelatedtothisepitheliopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):999.1001,C2018〕Keywords:ランドルト環型角膜上皮症,低体温,視床下部障害,緑内障.Landoltring-shapedepithelialkeratop-athyhypothermia,hypothalamusdisorder,glaucoma.CはじめにLandolt環型角膜上皮症はC1992年に大橋らが報告した特異な形態を呈する角膜上皮病変である1).特徴としては,小さいCLandolt環状の上皮病変が花弁状に集まったような特異な上皮病変である.両眼性が多く,再発性で冬期に再発することが多いのも特徴である.わが国では現在まで計C16例の報告がある1.6)が,いまだにその原因については解明されていない.今回,緑内障経過観察中にCLandolt環型角膜上皮症を発症したC1例を経験したので報告する.CI症例58歳,男性.主訴はとくになし.既往歴としては未破裂脳動脈瘤の手術により視床下部が障害され低体温であった.両眼の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),眼内レンズ挿入眼にて,東京の眼科医院にて経過観察されていた.転勤のため,2008年より近畿大学医学部附属病院眼科を定期受診中であった.2012年C2月C15日の緑内障の定期受診のときに,細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜上皮に,花弁のような特異な形態を数カ所認めた.フルオレセイン染色では花弁状の部分は上皮の盛り上がった小さいLandolt環が丸い形に集まっている所見であった(図1).前房に炎症所見などを認めなかった.異物感などの自覚症状はなく,視力は右眼C1.2C×IOL×sph.2.0D,左眼C1.0C×IOL×sph.1.25D(cyl.0.75DCAx70°.眼圧は右眼14mmHg,左〔別刷請求先〕西田功一:589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KoichiNishida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine377-2Ohnohigasi,OsakasayamaCity,Osaka589-8511,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(149)C999図12012年2月15日の前眼部写真上段はディヒューザーによる観察で左が右眼,右が左眼.下段はフルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.フルオレセイン染色でCLandolt環状の角膜上皮病変が円形に配列し,花弁状となった病変が両眼に認められた.図22012年2月21日の前眼部写真フルオレセイン染色で左が右眼,右が左眼.角膜病変は退縮傾向を認めた.眼C13CmmHgであった.眼底所見は両眼ともに視神経乳頭陥凹拡大を認めた(右眼CC/D=0.8,左眼CC/D=0.9).そのときの緑内障点眼はカルテオロール塩酸塩点眼液(両眼C×1),ラタノプロスト点眼液(両眼C×1),ブリンゾラミド点眼液(左眼C×2)であった.2012年C2月C21日の再診時には花弁状の角膜病変は退縮傾向であった(図2).非典型的であるが,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方した.同時に,涙液ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreaction:PCR)で単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)を調べたが陰性であった.3カ月後の再診時には再発を認めなかった.現在のところ再発を認めていない.CII考按Landolt環型角膜上皮症は,角膜上皮病変の形態が視力検査に用いられる「Landolt環」に類似していることから命名された病気である.小さいCLandolt環状の病変は輪状に配列することが特徴である.本症例も既報とほぼ同じ上皮病変であった.過去の症例を表1にまとめる.主訴としては異物感の訴えが多く,性別は女性が多く,両眼性が多く,冬季に発症が多いことがわかる.本症例では,自覚症状はなかった.また,1000あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(150)表1Landolt環型角膜上皮症の過去の報告のまとめ症例年齢(歳)性別側性主訴発症月眼疾患CCL全身疾患再発C13)C52女性両眼異物感疼痛12月C..甲状腺疾患C.23)C47女性両眼異物感霧視12月ドライアイC..+33)C48女性両眼異物感羞明11月ドライアイC..+43)C48女性両眼異物感霧視3月C..胃癌C.53)C73女性両眼異物感霧視2月白内障C.肺癌+63)C41女性両眼霧視疼痛3月C..肝炎,高血圧C.73)C17男性両眼疼痛3月アレルギー性結膜炎CHCLC..83)C17女性両眼疼痛12月C.HCLC..93)C71女性両眼視力低下12月緑内障,白内障C…103)C42女性片眼異物感疼痛3月C.SCLC..113)C49女性両眼異物感霧視12月C….126)C18男性両眼疼痛3月C.SCLC..132)C57女性両眼異物感11月高度近視CSCLC.+142)C87女性片眼異物感12月緑内障C…155)C41女性片眼異物感2月C.SCLC..164)C67女性両眼異物感12月C..肺癌C.17C58男性両眼C.2月C..脳動脈瘤C.症例C1.11はCInoueら3),症例C12は阪谷ら6),症例C13.14は小池ら2),症例C15は大久保ら5),症例C16は細谷4),症例C17は本症例である(症例C9はその後に再発が確認できたので改変している).両眼性で冬季に発症しているが再発はみられなかった.本症例は視床下部が障害のため低体温があり,このことが誘因の一つと考えられた.鑑別疾患として,角膜ヘルペス,Thy-geson点状表層角膜炎が考えられるが,単純ヘルペス角膜炎は今回両眼性で,real-timeCPCRでCHSV(-)であり,病変の形状からも否定的と考える.Thygeson点状表層角膜炎は病変の形状から否定的と考える.今回,角膜ヘルペスの可能性を疑い,アシクロビル眼軟膏(両眼C×3)を追加処方したが,実際にはアシクロビルにより消失したとは考えにくく,自然消失したと考えられる.共著者の症例(症例9)も再度問診したところ低体温であった.症例数が少ないため低体温についての影響についてははっきりとしたことはいえない.発症時期は本症例も冬季に発症しており既報と同じであった.Landolt環型角膜上皮症の発症機序についてはいまだに不明な点が多く,ウイルスが原因ではないかとも考えられている2).CLの既往や眼疾患についても検討中である.今後症例数の増加に伴い発症機序が明らかになることが期待される.Landolt環型角膜上皮症は重症例はないが両眼性再発性であるので注意深く経過観察する必要があると考えられた.文献1)大橋裕一,前田直之,山本修士ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.臨眼46:596-595,C19922)小池美香子,杤久保哲男,飯野直樹ほか:ランドルト環型角膜上皮炎のC2例.眼紀49:31-34,C19983)InoueCT,CMaedaCN,CZhengCXCetCal:LandltCring-shapedCepithelialCkeratopathy.CACnovelCclinicalCentityCofCtheCcor-nea.JAMAOphthalmolC133:89-92,C20154)細谷比左志:ランドルト環型角膜上皮炎.あたらしい眼科C31:1631-1632,C20145)大久保裕史:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.長野県医学会雑誌44:84-85,C20146)阪谷洋士:ランドルト環型角膜上皮炎のC1例.眼臨C89:C424-425,C1995***(151)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C1001