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2種類の1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクト レンズの臨床評価

2018年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科35(7):992.998,2018cC2種類の1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの臨床評価糸井素純*1樋口裕彦*2伏見典子*3二宮さゆり*4東原尚代*5小野純治*6内田薫*7*1道玄坂糸井眼科医院*2ひぐち眼科*3フシミ眼科クリニック*4伊丹中央眼科*5ひがしはら内科眼科クリニック*6小野眼科クリニック*7日本アルコン株式会社CClinicalEvaluationofTwoTypesofDailyDisposableSiliconeHydrogelContactLensesMotozumiItoi1),HirohikoHiguchi2),NorikoFushimi3),SayuriNinomiya4),HisayoHigashihara5),JunjiOno6)CKaoruUchida7)and1)DogenzakaItoiEyeClinic,2)HiguchiEyeClinic,3)FushimiEyeClinic,4)ItamiChuoEyeClinic,5)CMedicineandEyeClinic,6)OnoEyeClinic,7)AlconJapanLtd.HigashiharaInternal目的:2種類のC1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのレンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見,レンズ表面性状,被験者の満足度を比較した.対象および方法:常用していたC1日使い捨てソフトコンタクトレンズ装用時に不快な自覚症状を有するC99例を対象とした.試験レンズとして,DAILIESTOTAL1R(DT1),1-DAYACU-VUERCTruEyeR(ATE)を用いた.各担当医師が適正なベースカーブ(BC)を選択した.両試験レンズは両眼にC10±3日間ずつ装用させた.結果:DT1のBC8.8mmがC86眼,BC8.5mmが10眼,ATEのBC9.0mmが85眼,BC8.5mmがC13眼で両試験レンズともにフラットCBCがスティープCBCに比べて有意に多かった(p<0.0001).レンズセンタリングの「良好」の割合はCDT1がC89.5%,ATEがC47.4%でCDT1のほうが有意に多かった(p<0.0001).1例のみCATE装用C7日目に左眼麦粒腫のために装用中止になった.結論:レンズセンタリングはCDT1がCATEよりも有意に良好であった.CObjective:ThisCstudyCcomparedClensCcentration,Cslit-lampCexamination,ClensCsurfaceCcharacteristicsCandCsub-jectivesatisfactionwithtwotypesofdailydisposablesiliconehydrogelcontactlenses.CasesandMethods:Nine-ty-nineJapanesesubjectswithsubjectivesymptomsofdiscomfortwhenwearingdailydisposablesoftcontactlens-esCwereCassignedCtoCwearCDAILIESCTOTALC1R(DT1)orC1-DAYCACUVUERCTruEyeR(ATE).CAfterCtheClensC.ttingCwasCcheckedCbyCanCophthalmologist,CeachCstudyClensCwasCwornCinCtheCrespectiveCeyeCforC10±3Cdays.CResults:TheCDT1CprescriptionsCwereCBCC8.8CmmCinC86CeyesCandCBCC8.5CmmCinC10Ceyes.CTheCATECprescriptionsCwereBC9.0Cmmin85eyesandBC8.5Cmmin13eyes.FatterBCswerestatisticallysigni.cantlymoreprescribedthansteeperBCsinbothstudylenses(p<0.0001).Lenscentrationwas“optimal”with89.5%ofDT1and47.4%ofATE,astatisticallysigni.cantdi.erence(p<0.0001).IntheATEgroup,only1subjectwasremovedfromthestudyduetohordeolumofthelefteyeafter7daysofwear.Conclusion:Lenscentrationwassigni.cantlybetterwithDT1thanwithATE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):992.998,C2018〕Keywords:1日使い捨てシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,ベースカーブ,レンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見,被験者の満足度.dailydisposablesiliconehydrogelcontactlens,basecurve,lenscentration,slit-lampexamination,subjectivesatisfaction.C〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂C1-10-19-1F道玄坂糸井眼科医院Reprintrequests:MotozumiItoi,M.D.,Ph.D.,DogenzakaItoiEyeClinic,1-10-19Dogenzaka,Shibuya-ku,Tokyo150-0043,CJAPANはじめに1972年に厚生省(現:厚生労働省)はハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を日本で最初に認可1)し,その後,広く普及していったが,長期の装用により,角膜は慢性酸素不足2)を生じ,角膜血管新生3),角膜内皮障害4),pigmentedCslide(epithelialCsplitting)5),角膜菲薄化6)などのコンタクトレンズトラブルが生じることが知られている.この酸素不足の問題を解消するために,レンズデザインを薄くして,素材の含水性をあげて,短期間で交換するC1日使い捨てCSCL7),2週間交換CSCL8),1カ月交換SCLなどが開発9)されたが,レンズ厚が厚くなるハイマイナスレンズ,トーリックレンズ,およびプラスレンズなどでは角膜への十分な酸素供給ができているとはいえなかった10).そこで登場したのが,シリコーンを素材に含むシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(siliconeChydrogelCcontactlens:SHCL)11)である.この素材の酸素透過性は非常に高く11),酸素透過係数はC60以上で,100を超えるものも多い12).蛋白質の汚れも付着しにくいとの特性13)を有していることから,2004年にはじめてCOC2オプティクス(当時:チバビジョン株式会社)が日本で発売が開始されて以来,数多くのCSHCLが登場12)し,ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethylCmethacrylate:HEMA)製のコンタクトレンズに代わる素材として広く利用されるようになった14).一方,疎水性であるシリコーン素材にとって涙液との親和性は低く13),脂質も付着しやすいことが知られている13).これらを解消するために,表面処理など各社独自の方法でレンズ表面の親水性15)を高めている.2004年の発売当初,SHCLはSuperiorCEpithelialCArcuateCLesions(SEALC’s)16),巨大乳頭結膜炎17)などCSCLとは異なるトラブルが多いことが報告されている.これらのコンタクトレンズトラブルはCSHCLがSCLよりもレンズ硬(モジュラス)が硬いための機械的ストレスが要因と考えられており16),2007年以降に発売されたSHCLはレンズ硬(モジュラス)が柔らかくなっているものが多い18).これらCSHCLの登場により,レンズの酸素透過性は高まり12),酸素不足に起因するコンタクトレンズトラブルは減少19)したが,レンズ装用時の不快感,とくにC1日の終わりの装用感の悪化の問題は解決されていなかった20).SCL装用眼の乾燥感は,レンズ表面の涙液層が菲薄化して不安定となり21),水分蒸発が亢進するメカニズムが報告されている21).その結果として,レンズ表面と眼瞼結膜との摩擦22)が亢進し,結膜上皮障害が起こってくる23).近年,このレンズ表面における摩擦がレンズ装用時の快適性を左右する因子として注目され,レンズ表面の潤滑性が向上した製品が開発されるようになった24).1991年以降,数々の使い捨てや頻回交換のCSCLおよびSHCLが日本市場に登場した25).そのなかには複数のベースカーブ(basecurve:BC)が選択できるものがあるが,海外ではスティープなCBCのほうが好まれ,スティープなCBCがスタンダードとして選択されることが多い26).一方,個々の眼科医によって,BC選択の考え方は異なるが,これまで日本市場全体では使い捨てや頻回交換のCSCLではフラットなBCのほうが好まれている27).筆者はCTMS1を用いて,米国人と日本人の角膜形状を比較し,米国人よりも日本人の角膜曲率半径のほうがフラットで,その傾向は若年層ほど顕著であることを報告している28).このような日本市場のCBCに対する考え方が背景にあり,DAILIESTOTAL1CR(DT1)は,海外ではCBC8.5Cmmのみ販売されている29.36)が,日本ではBC8.5CmmとCBC8.8Cmmの二つのCBCが販売されるようになった37).1日使い捨てCSHCLであるCDT1は,含水率がレンズコアのC33%からレンズ表面のC80%以上と独特な表面特性を有することから,表面の潤滑性に優れている24).DT1のこの独特な表面特性により,レンズ装用時の快適性が良好で結膜上皮障害が起こりにくいと報告されている29,30).しかしながら,その報告29.36)は海外で発売されているCDT1のCBC8.5Cmmのみのデータであり,わが国で発売されているCDT1のCBC8.8Cmm37)を含む報告はない.そこで今回筆者らは,DT1のC2種類のCBCでの臨床評価を目的として,同様にC2種類のCBCが販売されているC1日使い捨てCSHCLであるC1-DAYACU-VUERCTruEyeR(ATE)とのレンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血),レンズ表面性状(水濡れ性,付着物),被験者の満足度(1日を通しての快適性および見え方,1日の終わりでの快適性および見え方)を比較することとした.CI対象および方法20歳以上で常用していたC1日使い捨て型のCSCL装用時に不快な自覚症状を有するC99例(男性C27例,女性C72例)を対象とした.平均年齢はC39.9C±9.7歳(21.62歳)であった.試験実施期間はC2016年C4.9月であった.不快な自覚症状のスクリーニングは,初回来院時に被験者に自覚症状に関する三つの質問をし,「コンタクトレンズは一日中,快適である」の回答が「違う」または「まったく違う」であり,かつ「日中,目が乾燥するため,望んでいる時間よりも早くコンタクトレンズを取りはずす」または「遅めの時間になると眼が乾燥するが,コンタクトを装用し続ける」のいずれかの回答が「その通り」または「まったくその通り」と回答したものを対象とした.両試験レンズを常用しているもの,コンタクトレンズ装用に禁忌な疾患を有するものは対象から除外した.試験実施施設は道玄坂糸井眼科医院,ひぐち眼科,フシミ眼科クリニック,伊丹中央眼科,ひがしはら内科眼科クリ表1研究レンズの概要研究レンズCDAILIESTOTAL1RC1-DAYACUVUERCTruEyeR酸素透過係数*C140C100含水率[%]C33C46BC[mm]C8.5/8.8C8.5/9.0直径[mm]C14.1C14.2中心厚[mm](.3.00D)C0.09C0.085供給度数範囲[D]C.0.50.C.12.00C.0.50.C.12.00,+0.50.+5.00*(cm2/sec)×(mlOC2/ml×mmHg).ニック,小野眼科クリニックのC6施設である.本研究はヘルシンキ宣言,臨床研究に関する倫理指針及び医療機器の臨床試験の実施に関する省令(医療機器CGCP)に準拠し,プロスペクティブ,無作為化,クロスオーバー,被験者に対する製品名マスキングで実施した.試験レンズとして,2種類のC1日使い捨て型のCSHCL(DT1,ATE)を用いた(表1).試験レンズを装用する順序は無作為に割り付けた.オートレフラクトメータにより角膜曲率半径測定後,両試験レンズのトライアルレンズを用いたレンズフィッティングにより,各担当医師がそれぞれの試験レンズで適正なCBCを選択した.両試験レンズは両眼にC10C±3日間ずつ装用させ,試験日の装用C10.13時間後に検査を実施した.検査は初回来院時に常用していたC1日使い捨て型のSCL,1回目来院時に最初選択された試験レンズ,2回目来院時に他方の試験レンズについて実施した.両試験レンズの装用C10C±3日後におけるレンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血),レンズ表面性状(水濡れ性,付着物),被験者の満足度(1日を通しての快適性および見え方,1日の終わりでの快適性および見え方)を評価した.レンズセンタリングの評価基準はレンズの偏位がない場合を「良好」,わずかに偏位する場合を「わずかに偏位」,明らかに偏位しているがレンズのエッジの輪部への接触がない場合を「軽度の偏位」,エッジが輪部に接触するが角膜の露出がない場合を「中等度の偏位」,角膜が露出する場合を「重度の偏位」とした.細隙灯顕微鏡所見(フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血)はCEfron分類38)レンズ表面の水濡れ性と付着物はCMorganらの判定基準39),に従ったが,レンズ表面の涙液(水濡れ性)は非常に不安定で容易に蒸発しやすいと考えられるため40),開瞼直後に評価することとした.被験者の満足度は,1日を通しての快適性および見え方とC1日の終わりでの快適性および見え方に関する質問について,「強くそう思う」「そう思う」「どちらともいえない」「そうは思わない」「まったくそうは思わない」のC5段階で評価した.レンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見およびレンズ表面性状の解析は左右眼のうち無作為に選択されたいずれかの対象眼を用い,被験者アンケートの解析は症例単位で行った.統計学的検定は,試験レンズのCBCの処方割合は二項検定,レンズセンタリング(統計的にCATEに劣らないことを示してから有意差検定を実施)および被験者の満足度はCMcNemar検定,フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,輪部充血,結膜充血およびレンズ表面の性状は対応のあるCt検定で行った.眼所見は発現割合を算出した.p値がC0.05未満を有意としたが,主要な解析(レンズセンタリング)以外の検定の多重性は調整しなかった.目標症例数は,樋口らが過去に実施した試験成績41)に基づきC90例に設定した.CII結果無作為に選択された対象眼の試験レンズのCBC処方割合は,DT1のCBC8.8CmmがC86眼(89.6%),BC8.5CmmがC10眼(10.4%),ATEのCBC9.0CmmがC85眼(86.7%),BC8.5mmがC13眼(13.3%)で両試験レンズともにフラットCBCが有意に多かった(DT1およびCATE:p<0.0001,二項検定,表2).なお,対象眼の角膜曲率半径は,強主経線値(K1)がC7.68C±0.27Cmm,弱主経線値(K2)がC7.86C±0.24Cmm,中間値〔(K1平均値+K2平均値)/2〕がC7.77C±0.25mmであった.レンズセンタリング,細隙灯顕微鏡所見,レンズ表面性状は,対象眼のうち,検査時間の規定違反などの除外症例を除いたCDT1のC95眼およびCATEのC97眼を解析対象とした.被験者アンケートはCDT1のC95例,ATEのC97例を解析対象とした.眼所見に伴う中止症例はC1例C1眼でCATE装用C7日目での左眼麦粒腫であった.その他の中止症例はC3例あり,2例がCDT1処方時の装脱困難,1例がCATE装用期間中での急性腰痛症であった.C1.レンズセンタリングレンズセンタリングの「良好」の割合は,DT1がC89.5%でCATEがC47.4%でその差はC42.1%(95%信頼区間:31.8.52.5%)であり,両者の間に有意差がみられた(p<0.0001,表2両研究レンズの処方(対象眼):処方日表3レンズセンタリング(対象眼):装用10±3日後BC[mm]DT1〔N(%)〕:n=96ATE〔N(%)〕n=98C8.510(C10.4)13(C13.3)C8.886(C89.6)C9.085(C86.7)DT1のCBC8.5Cmm対CBC8.8Cmmp<0.0001,ATEのCBC8.5Cmm対CBC9.0mm:p<0.0001(二項検定).判定結果DT1〔CN(%)〕:Cn=95ATE〔N(%)〕:Cn=97良好85(C89.5%)46(C47.4%)わずかに偏位10(C10.5%)31(C32.0%)軽度の偏位0(0C.0%)18(C18.6%)中等度の偏位0(0C.0%)2(2C.1%)重度の偏位0(0C.0%)0(0C.0%)「良好」の割合に対してCMcNemar検定を実施(p<0.0001).表4BCの違いによるレンズセンタリング(対象眼):装用10±3日後*Fisherの正確検定.表5細隙灯顕微鏡検査所見(対象眼):装用10±3日後項目DT1:n=95ATE:n=95p値*フルオレセイン角膜染色C0.2±0.5C0.7±0.8<C0.0001フルオレセイン結膜染色C0.6±0.7C1.1±0.9<C0.0001輪部充血C0.1±0.3C0.0±0.1C0.1584結膜充血C0.4±0.7C0.4±0.7C0.6398*対応のあるCt検定.平均スコア±標準偏差,Efron分類(0:正常,1:ごく軽度,2:軽度,3:中等度,4:重度).McNemar検定,表3).試験レンズのCBC別のレンズセンタリングの「良好」の割合は,DT1のCBC8.8CmmがC89.4%でBC8.5CmmがC90.0%であり,ATEのCBC9.0CmmがC44.7%でBC8.5CmmがC66.7%で,両試験レンズともにレンズセンタリングの「良好」の割合はスティープCBCの割合は多かったが,二つのCBCの間で差はみられなかった(DT1:p=1.0000,ATE:p=0.2186,二項検定,表4).C2.細隙灯顕微鏡所見フルオレセイン角膜染色の平均スコアはCDT1がC0.2C±0.5,ATEがC0.7C±0.8,フルオレセイン結膜染色の平均スコアはDT1がC0.6C±0.7,ATEがC1.1C±0.9であった.両スコアともにCDT1のスコアのほうがCATEのスコアよりも有意に低かった(フルオレセイン角膜および結膜染色:p<0.0001,対応のあるCt検定,表5).輪部充血および結膜充血の平均スコアは両スコアともに両者の間に有意な差はみられなかった(輪部充血:DT1;0.1C±0.3,ATE;0.0C±0.1,p=0.1584,結膜充血:DT1;0.4C±0.7,ATE;0.4C±0.7,p=0.6398,対応のあるCt検定,表5).C3.レンズ表面性状(水濡れ性および付着物)レンズ表面の水濡れ性の平均スコアはCDT1がC0.0C±0.1,ATEのC0.3C±1.1,レンズ表面の付着物の平均スコアはCDT1がC0.1C±0.3,ATEのC0.3C±0.9であった.両スコアともにDT1のスコアのほうがCATEのスコアよりも有意に低かった(レンズ表面の水濡れ性:p=0.0030,レンズ表面の付着物:p=0.0026,対応のあるCt検定,表6).C4.被験者の満足度被験者の満足度の「強くそう思う」および「そう思う」と回答した被験者の割合は,「1日を通しての快適性」ではDT1がC90.5%,ATEがC80.4%,「1日の終わりでの快適性」ではCDT1がC79.0%,ATEがC63.9%,「1日を通しての見え方」ではCDT1がC93.7%,ATEがC81.4%,「1日の終わりでの見え方」ではCDT1がC91.6%,ATEがC76.2%であった.4つすべての質問において,「強くそう思う」および「そう思う」と回答した被験者の割合はCDT1のほうがCATEよりも表6レンズ表面性状(対象眼):装用10±3日後項目DT1:n=95ATE:n=97p値*レンズ表面の水濡れ性C0.0±0.1C0.3±1.1C0.0030レンズ表面の付着物C0.1±0.3C0.3±0.9C0.0026*対応のあるCt検定.平均スコア±標準偏差,レンズ表面の水濡れ性(0:完全にレンズ表面が濡れている,1:直径C0.1Cmm未満の濡れていないエリアがある,2:直径C0.1.0.5Cmmの濡れていないエリアがC1カ所ある,3:直径C0.1.0.5Cmmの濡れていないエリアがC2カ所以上ある,4:直径C0.5Cmm超の濡れていないエリアがC1カ所以上ある),レンズ表面の付着物(0:レンズ表面に付着物がない,1:直径C0.1Cmm未満の付着物がC5個以下,2:直径C0.1Cmm未満の付着物がC6個以上,あるいは直径C0.1.0.5Cmmの付着物がC1個,3:直径C0.1.0.5Cmmの付着物がC2個以上,あるいは直径C0.5Cmm超の付着物がC1個,4:直径C0.5Cmm超の付着物がC2個以上).表7被験者の満足度:装用10±3日後項目DT1:n=95ATE:n=95p値*1日を通しての快適性90.5%80.4%C0.01841日の終わりでの快適性79.0%63.9%C0.00601日を通しての見え方93.7%81.4%C0.01051日の終わりでの見え方91.6%76.2%C0.0043*「強くそう思う」および「そう思う」の割合に対してCMcNemar検定を実施.「強くそう思う」および「そう思う」と回答した被験者の割合,5段階評価(5:強くそう思う,4:そう思う,3:どちらともいえない,2:そうは思わない,1:まったくそうは思わない).有意に多かった(表7).C5.眼所見レンズの装用中止が必要となった眼所見は,ATE装用C7日目の左眼麦粒腫のC1例C1眼のみであった.試験開始後,レンズの装用継続が可能で,新たに認められた眼所見はCDT1装用時に乾性角結膜炎,あるいは,点状表層角膜症が計C7例7眼(7.3%)に観察され,ATE装用時に乾性角結膜炎,点状表層角膜症,麦粒腫,SEAL’sで計C25例C26眼(26.5%)に観察された.CIII考察SHCLのレンズ硬(モジュラス)はCHEMAを主成分とするCSCLに比べて硬い18)ことから,適切な処方が可能となるように一部のCSHCLはC2種類のCBCが発売されている42).DT1は海外ではCBC8.5Cmmのみが発売29.36)されていたが,日本ではC2014年にCBC8.8Cmm37)が世界で初めて発売された.本研究で処方されたレンズのCBCは,両試験レンズともにフラットCBCのほうがスティープCBCよりも有意に多かった.これは,日本人の角膜曲率半径が米国人に比べてフラットなためと考えられた28).しかしながら,角膜曲率半径の弱主経線値がC7.55Cmmであっても両研究レンズともにフラットCBCに処方された症例があり,8.07Cmmであっても両試験レンズともにスティープCBCに処方された症例もあった.宮本らは被験者ごとに角膜形状や眼瞼の形,眼瞼圧などに違いが生じるため,適切なコンタクトレンズの処方にはトライアルレンズ装用後にレンズフィッティング(レンズセンタリング,レンズの動き)を確認したうえで処方することが重要であると報告している43).DT1およびCATEの処方時にも適切かつ慎重なレンズフィッティングの評価が重要と考えられた.Wol.sohnらはCDT1およびCATEのレンズセンタリングに有意差はないと報告している36)が,本試験ではレンズセンタリングの「良好」の割合はCDT1がCATEに比べて有意に多かった.これはCDT1のCBC8.8Cmm37)が選択可能であったことと,両試験レンズの周辺部デザインの違い44)や表面特性の違い24,45)が影響している可能性が考えられた.細隙灯顕微鏡所見のフルオレセイン角膜染色およびフルオレセイン結膜染色の平均スコアは,DT1がCATEよりも有意に低かった.Varikootyらはレンズ装用C3日目における角膜上皮ステイニングの発現率についてCATEはCDT1よりも多かったことを報告29)しており,その原因はレンズ表面の脱水に起因しているものと考察している.本研究で認められたフルオレセイン角膜染色およびフルオレセイン結膜染色も10.13時間装用後でのCATEの表面の変化46)が影響した可能性がある.輪部充血および結膜充血の平均スコアはCDT1とCATEともに低い値を示し,両者の間に差がみられなかった.これは両試験レンズともにシリコーンを含有する高酸素透過性のCSHCLであったためと考えられた11).レンズ表面の水濡れ性とレンズ表面の付着物の平均スコアについて,両スコアともにCDT1がCATEよりも有意に低かった.月山ら47)の報告では,10種類のCSCLおよびCSHCLを用いて,人工的な油汚れの実験を行い,レンズの種類ごとに油汚れの吸着に違いがあることを報告している.そのなかでDT1はシリコーンがレンズ表面に存在しないことから油汚れを吸着しにくく,ATEは吸着しやすい結果となっている.これらの結果は,DT1の含水率がレンズコアのC33%とレンズ表面のC80%以上と高含水率(レンズ表面C6Cμm)となっているCDT1表面の潤滑性が優れる構造48)が影響したものと考えている.被験者の満足度は,「1日を通しての快適性および見え方」「1日の終わりの快適性および見え方」に関する質問を被験者が「強くそう思う」または「そう思う」と回答した割合をDT1とCATEで比較した.その結果,すべての質問においてCDT1がCATEよりも有意に多かった.この結果はCDT1表面の良好な潤滑性24)が寄与したものと考える.Varikootyらの報告29)でも,被験者評価による快適性についてCDT1はATEよりも良好であったと報告しており,筆者らの結果と同様であった.一方,若年層の健常者を対象としたCWol.sohnらの報告36)では,DT1とCATEとの被験者の快適性に関する評価に差がなかった.これは,Varikootyら29)および本試験では対象を不快な自覚症状があるものに限定したことから,涙液量が少ないことなどによる試験レンズのレンズ表面の角結膜への影響21)が関与したものと考えられた.今回の試験では対象を常用するC1日使い捨てCSCL装用時に不快な自覚症状を有するものとした.各担当医師がそれぞれの試験レンズのトライアルレンズでレンズフィッティングを確認した後に,それぞれの試験レンズで適正なCBCを選択した.その結果,フラットなCBC8.8Cmm(DT1)およびCBC9.0mm(ATE)が有意に多く選択された.レンズのセンタリングの「良好」の割合,フルオレセイン角膜染色,フルオレセイン結膜染色,レンズ表面の水濡れ性,レンズ表面の付着物の各平均スコア,被験者の満足度の「強くそう思う」および「そう思う」の割合において,DT1はCATEよりも有意に良好であった.装用中止となるような眼所見はCATE装用時の麦粒腫C1例のみであった.今回の試験結果は,2種類の試験レンズで二つのCBCを使用したが,それぞれの試験レンズの周辺部デザインの違いやレンズ表面の潤滑性の違いが影響しているものと考えられた.利益相反:本研究は日本アルコン株式会社による研究資金にて実施した.文献1)石川元子,石百合子,東野巌ほか:角膜疾患に対するsoftcontactlensのCMedicaluseについて.日コレ誌124:C124-130,C19752)谷島輝雄:SoftcontactlensのCmedicaluseについて.日コレ誌12:161-176,C19753)ChanCWK,CWeissmanCBA:CornealCpannusCassociatedCwithCcontactClensCwear.CAmCJCOphthalmolC121:540-546,C19964)HoldenCBA,CMertzCGW:CriticalCoxygenClevelsCtoCavoidCcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.CInvestOphthalmolVisSciC25:1161-1167,C19845)InoueCT,CMaedaCN,CYoungCLSCetCal:EpithelialCpigmentslideCinCcontactClensCwearers:aCpossibleCmarkerCforCconC-tactClens-associatedCstressConCcornealCepithelium.CAmJOphthalmolC131:431-437,C20016)荒地里江,津田倫子,吉尾彩ほか:ソフトコンタクトレンズ装用者に見られた顕著な角膜変形.日コレ誌C56:214-218,C20147)NasonRJ,BoshnickEL,CannonWMetal:Multisitecom-parisonCofCcontactClensCmodalities.CDailyCdisposableCwearCvs.CconventionalCdailyCwearCinCsuccessfulCcontactClensCwearers.JAmOptomAssocC65:774-780,C19948)Hickson-CurranCSB,CNasonCRJ,CBechererCPDCetCal:Clini-calevaluationofAcuvuecontactlenseswithUVblockingcharacteristics.OptomVisSciC74:632-638,C19979)JonesL,EvansK,SaririRetal:LipidandproteindeposiC-tionofN-vinylpyrrolidone-containinggroupIIandgroupIVfrequentreplacementcontactlenses.CLAOJC23:122-126,C199710)EghbaliF,HsuiEH,EghbaliKetal:OxygentransmissiC-bilityCatCvariousClocationsCinChydrogelCtoricCprism-ballast-edcontactlenses.OptomVisSciC73:164-168,C199611)AlvordL,CourtJ,DavisTetal:OxygenpermeabilityofaCnewCtypeCofChighCDkCsoftCcontactClensCmaterial.COptomCVisSciC75:30-36,C199812)EfronN,MorganPB,CameronIDetal:Oxygenpermea-bilityCandCwaterCcontentCofCsiliconeChydrogelCcontactClensCmaterials.OptomVisSciC84:328-337,C200713)JonesCL,CSenchynaCM,CGlasierCMACetCal:LysozymeCandClipiddepositiononsiliconehydrogelcontactlensmaterials.CEyeContactLensC15:S75-S79,C200314)MaletCF,CPagotCR,CPeyreCCCetCal:SubjectiveCexperienceCwithhigh-oxygenandlow-oxygenpermeablesoftcontactlensesinFrance.EyeContactLensC29:55-59,C200315)松澤康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの表面の性質について.日コレ誌50:S1-S6,C200816)DumblentonCK:Nonin.ammatoryCsiliconeChydrogelCcon-tactClensCcomplication.CEyeCContactCLensC29:S186-S189,C200317)ZhaoCZ,CFuCHan,CSkotnitskyCCCCetCal:IgECantibodyConwornChighlyCoxygen-permeableCsiliconeChydrogelCcontactClensCfromCpatientsCwithCcontactClens-inducedCpapillaryconjunctivitis(CLPC)C.CEyeCContactCLensC34:117-121,C200818)HorstCCR,CBrodlandCB,CJonesCLWCetCal:MeasuringCtheCmodulusCofCsiliconeChydrogelCcontactClenses.COptomCVisCSciC89:1468-1476,C201219)MaletF,PagotR,PeyreCetal:Clinicalresultscompar-ingChigh-oxygenCandClow-oxygenCpermeableCsoftCcontactClensesinFrance.EyeContactLensC29:50-54,C200320)JonesCL,CBrennanCNA,CGonzalez-MeijomeCJCetCal:TheCTFOSCinternationalCworkshopConCcontactClensCdiscom-fort:reportofthecontactlensmaterials,designandcaresubcommittee.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS37-TFOS70,C201321)宮本裕子,横井則彦,澤充:シリコーンハイドロゲルレンズと表面処理の重要性.日コレ誌56:S1-S6,C201322)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C200223)PultCH,CPurslowCC,CBerryCMCetCal:ClinicalCtestsCforCsuc-cessfulCcontactClensCwear:relationshipCandCpredictiveCpotential.OptomVisSciC85:924-929,C200824)PruittJ,QiuY,ThekveliSetal:Surfacecharacterizationofawatergradientsiliconehydrogelcontactlens(dele.l-conA)C.InvestCOphthalmolCVisCSciC53:E-AbstractC6107,C201225)糸井素純,稲葉昌丸,植田喜一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版)第C1章コンタクトレンズの歴史.日眼会誌118:559-561,C201426)Gonzalez-CavadaCJ,CCorralCO,CNinoCACetCal:BaseCcurveCin.uenceConCtheC.ttingCandCcomfortCofCtheCSeno.lconCACcontactlens.JOptomC2:90-93,C200927)樋口裕彦:II実践的コンタクトレンズ処方2.ハイドロゲルソフトコンタクトレンズの処方.あたらしい眼科C32(臨増):145-149,C201528)糸井素純,西巻健一,小淵輝明ほか:日本人と米国人の角膜形状の比較.日コレ誌38:9-13,C199629)VarikootyCJ,CSchulzeCMM,CDumbletonCKCetCal:ClinicalCperformanceCofCthreeCsiliconeChydrogelCdailyCdisposableClenses.OptomVisSciC92:301-311,C201530)VarikootyJ,KeirN,RichterDetal:ComfortresponseofthreeCsiliconeChydrogelCdailyCdisposableCcontactClenses.COptomVisSci90:945-953,C201331)Belda-SalmeronL,Ferrer-BlascoT,Albarran-DiegoCetal:Diurnalvariationsinvisualperformancefordisposablecontactlenses.OptomVisSciC90:682-690,C201332)Montes-MicoCR,CBelda-SalmeronCL,CFerrer-BlascoCTCetal:On-eyeopticalqualityofdailydisposablecontactlens-esCforCdi.erentCwearingCtimes.COphthalmicCPhysiolCOptC33:581-591,C201333)Szczesna-IskanderCDH:ComparisonCofCtearC.lmCsurfaceCqualityCmeasuredCinCvivoConCwaterCgradientCsiliconeChydrogelCandChydrogelCcontactClenses.CEyeCContactCLensC40:23-27,C201434)DelCAguila-CarrascoCAJ,CDominguez-VicentCA,CPerez-VivesCetal:Assessmentofcornealmorphologicalchang-esCinducedCbyCtheCuseCofCdailyCdisposableCcontactClenses.CContLensAnteriorEyeC38:28-33,C201535)DelCAguila-CarrascoCAJ,CFerrer-BlascoCT,CGarcia-LazaroSetal:Assessmentofcornealthicknessandtearmenis-cusCduringCcontact-lensCwear.CContCLensCAnteriorCEyeC38:185-193,C201536)Wol.sohnCJ,CHallCL,CMroczkowskaCSCetCal:TheCin.uenceCofCendCofCdailyCsiliconeChydrogelCdailyCdisposableCcontactClens.tonocularcomfort,physiologyandlenswettability.ContLensAnteriorEyeC38:339-344,C201537)河西伸朗:製品紹介コーナー第C35回ウォーターグラディエントコンタクトレンズ「デイリーズトータルワンCR」の紹介.日コレ誌57:72-75,C201538)EfronCN:EfronCGradingCScalesCforCContactCLensCCompli-cations.Butterworth-Heinemann,200039)MorganCPB,CEfronCN:ComparativeCclinicalCperformanceCofCtwoCsiliconeChydrogelCcontactClensesCforCcontinuousCwear.ClinExpOptomC85:183-192,C200240)横井則彦,丸山邦夫:コンタクトレンズと涙液.日コレ誌C48:42-48,C200641)樋口裕彦,糸井素純,梶田雅義ほか:2種類のC1日使い捨てシリコーンハイドロゲルレンズのレンズフィッティング.第C58回日本コンタクトレンズ学会総会CCL-7-1:116,201542)DumbletonCKA,CChalmersCRL,CMcNallyCJCetCal:E.ectCofClensCbaseCcurveConCsubjectiveCcomfortCandCassessmentCofC.tCwithCsiliconeChydrogelCcontinuousCwearCcontactClenses.COptomVisSci79:633-637,C200243)宮本裕子,梶田雅義,工藤昌之ほか:球技スポーツ時におけるC1日使い捨てソフトコンタクトレンズ装用(レンズセンタリング).眼科C57:293-302,C201544)Wol.sohnCJ,CDrewCT,CDhalluCSCetCal:ImpactCofCsoftCcon-tactlensedgedesignandmidperipherallensshapeontheepitheliumCandCitsCindentationCwithClensCmobility.CInvestCOphthalmolVisSciC54:6190-6196,C201345)DurschTJ,LiuDE,OhYetal:Fluorescentsolute-parti-tioningCcharacterizationCofClayeredCsoftCcontactClenses.CActaBiomaterC15:45-54,C201546)DiecCJ,CLazonCdeClaCJaraCP,CWillcoxCMCetCal:TheCclinicalCperformanceoflensesdisposedofdailycanvaryconsider-ably.EyeContactLensC38:313-318,C201247)TsukiyamaCJ,CMiyamotoCY,CKodamaCACetCal:CosmeticCcleansingoilabsorptionbysoftcontactlensesindryandwetconditions.EyeContactLensC43:318-323,C201748)DunnCAC,CUruenaCJM,CHuoCYCetCal:LubricityCofCsurfaceChydrogellayers.TribolLett49:371-378,C2013C***

エクスプレス®の結膜上への露出症例の検討

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):987.991,2018cエクスプレスRの結膜上への露出症例の検討高木星宇上野勇太大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科CReviewofCaseswithExposureofEX-PRESSRDeviceSeiuTakagi,YutaUenoandTetsuroOshikaCDepartmentofOphthalmology,TsukubaUniversity目的:エクスプレスR(アルコン)挿入術後の特有な合併症として,結膜上へのデバイス露出がある.今回,露出した症例の特徴について検討した.対象および方法:平成C24年C4月.平成C29年C4月にエクスプレスCR挿入術を施行したC151例C169眼を対象に,後ろ向き調査を行った.エクスプレスCRが結膜上へ露出した症例の露出時期,露出前の濾過胞の形状,治療経過,露出前後の眼圧について検討した.結果:エクスプレスRが結膜上へ露出した症例はC4例C4眼(2.4%)であり,露出時期は術後C29C±14カ月,露出前C3カ月間の平均眼圧はC18C±10CmmHgであった.全例で濾過胞形成不全に陥り,3眼では複数回のCneedlingCrevision,2眼では別象限よりバルベルトCR(AMO)挿入術を施行し,その後に露出した.露出後の眼圧はC20C±11CmmHgであり,露出前後で眼圧変化は認めなかった.結論:エクスプレスR挿入術後に濾過胞が平坦で追加治療を要する症例では,結膜上へのデバイス露出に注意が必要である.CPurpose:ToreportacaseseriesofEX-PRESSCR(Alcon)glaucoma.ltrationdeviceexposureontheconjuncti-va.Methods:Thisisaretrospectivechartreview,toidentifyallpatientswhoexperiencedEX-PRESSCRCexposurebetweenApril2012andApril2017.Datacollectedfrompatientchartsincludedtimetoexposure,shapeof.lteringbleb,CtreatmentCcourseCandCintraocularCpressure(IOP)C.CResults:4CeyesCofC4CpatientsCwereCcasesCinvolvingCEX-PRESSRCexposure.Averagetimetoexposurewas29±14months.Asthe.lteringblebswere.at,without.ltrationfunction,CallCeyesCrequiredCadditionalCtreatmentCpostoperatively,CsuchCasCanti-glaucomaCmedications,CneedlingCrevi-sionsorBaerveldtR(AMO)shuntsurgeries.AverageIOPbeforeandafterexposurewas18C±10CmmHgand20±11CmmHg,respectively.Conclusions:AfterEX-PRESSCRCinsertion,therewerecasesofdeviceexposureonthecon-junctiva.Forrefractorycases,carefulexaminationsarenecessarypostoperatively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):987.991,C2018〕Keywords:緑内障,濾過手術,エクスプレスCR,結膜上露出.glaucoma,.ltrationsurgery,EX-PRESSCR,expo-sureontheconjunctiva.Cはじめに緑内障に対する観血的手術として,長年にわたり線維柱帯切除術がスタンダードであったが,その合併症の多さゆえに近年ではさまざまなインプラントデバイスを用いたチューブシャント手術が行われるようになっている.2011年C12月にわが国において医療機器の承認を取得したエクスプレスCR(アルコン)を使用した緑内障濾過手術は,従来の線維柱帯切除術と比較して術中・術後の合併症が少なく術後成績は同等であることが知られており,安全性の高い手技として広く行われている1,2).しかし,エクスプレスCR特有の術後合併症もあり,その一つとして術後にデバイスの一部が結膜上へ露出することがあげられる.今回,筆者らはエクスプレスCR挿入術後にデバイスの一部が結膜上へ露出した症例の特徴について検討したので報告する.CI対象および方法筑波大学附属病院にて平成C24年C4月.平成C29年C4月にエクスプレスR挿入術を施行し,5カ月以上経過観察が可能であったC151例C169眼を対象として,後ろ向き調査を行った.手術はいずれの症例も強膜の半層の深さで強膜フラップ〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8576茨城県つくば市天久保C2-1-1筑波大学医学医療系眼科Reprintrequests:YutaUeno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TsukubaUniversity,2-1-1Amakubo,Tsukubacity,Ibaraki305-8576,JAPAN表1患者背景症例原疾患エクスプレスR挿入時追加処置露出時期濾過胞形状合併症*眼圧CmmHg**(点眼数)露出前露出後強膜フラップ(mm)MMC塗布時間(分)65FCSOAGC3×3C3Cneedlingrevision2年7カ月C.atなし22(5)22(5)C64MCSOAGC3.5×3.5C3Cneedlingrevision10カ月C.atなし15(4)18(4)Cneedlingrevision61MCNVGC3×3C3CエクスプレスR交換濾過胞再建3年7カ月C.atなし31(5)34(5)CバルベルトR挿入88FCXFGC3×3C3バルベルトR挿入2年11カ月C.atなし5(0)5(0)*露出時の合併症:前房虚脱,過剰濾過,濾過胞感染,の有無.**露出前C3カ月間平均と露出後.点眼数は緑内障点眼の種類(配合薬はC2つ)をカウントした.SOAG:続発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障,XFG:落屑緑内障.をC1層作製し,0.04%マイトマイシンCCの塗布処理をした後に,エクスプレスCRを強膜フラップ下から前房内へ穿刺し留置した.術後にエクスプレスCRが結膜上へ露出した症例について,治療経過,露出時期,露出前の濾過胞の形状,露出時の合併症,露出前後の眼圧および緑内障点眼数について検討した.CII結果エクスプレスRが結膜上へ露出した症例はC4例C4眼(2.4%)であった.いずれの症例もエクスプレスCR挿入術後に濾過胞の形成が悪く眼圧コントロールに難渋し,追加処置や他の緑内障手術を要していた.エクスプレスCR挿入術を施行された全C169眼のうち追加処置を要した症例はC46眼(27.2%)であり,そのうちの割合ではC8.7%に露出を認めた.露出したC4眼の患者背景を表1に示す.エクスプレスCR露出時期は挿入後C29C±14カ月であり,露出前C3カ月間の平均眼圧はC18C±10CmmHg,露出後の眼圧はC20C±11CmmHgと露出前後において眼圧変化はみられず,使用していた緑内障点眼も露出前後で同様であった.以下に各症例を呈示する.〔症例1〕65歳,女性.眼既往歴:網膜色素変性症,30歳前後で両眼水晶体摘出術を施行された.現病歴:平成C18年より近医で続発開放隅角緑内障と診断され点眼加療を開始された.平成C25年C7月,緑内障点眼C5剤,アセタゾラミド内服併用下でも左眼圧コントロール不良のため当院へ紹介となった.初診時左眼所見:視力C0.03(0.4×+13.0D(=cyl-1.50DAx90°),眼圧23mmHg,動的視野検査湖崎分類IV期.治療経過:平成C25年C8月,左眼の耳側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,平成C26年C9月に左眼Cneedlingrevisionを施行した.その後も眼圧コントロール不良のために追加処置を提案したが,動的視野検査では湖崎分類CV-b期に進行し残存視機能が乏しいために外科的治療に対する同意が得られず,点眼加療のみで経過観察としていた.平成C28年C3月(エクスプレスCR挿入後C2年C7カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図1)ため,同年C4月に左眼エクスプレスCR抜去術を施行した.エクスプレスR露出部の結膜欠損部から結膜切開し,メスでデバイス刺入部をわずかに拡大し抜去した.すでに残存視機能はわずかであったため,そのまま強膜創をナイロン糸で強固に縫合した後,結膜と周囲組織の癒着を解除し強膜創を被覆するように結膜縫合を行った.視力手動弁,眼圧C10CmmHg前後で推移し現在に至っている.〔症例2〕64歳,男性.眼既往歴:アトピー性皮膚炎に白内障を合併し,平成C3年に右眼水晶体再建術を施行された.現病歴:平成C21年C9月より右眼眼内レンズ偏位を指摘され,眼圧上昇を伴ったため当院へ紹介となった.初診時右眼所見:視力C0.1C×IOL(1.2C×.5.25D(cyl.2.00DCAx90°),眼圧21mmHg,静的視野検査CAulhorn分類stageIV.治療経過:右眼続発開放隅角緑内障に対して点眼加療を開始し,当初は眼圧下降が得られていたが,次第にスパイク状の眼圧上昇を呈するようになり,静的視野検査ではCAulhorn分類CstageVに進行した.平成C26年C2月,右眼の耳側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,同年C4月に右眼Cneedlingrevisionを施行するも奏効せず,以降は追加の外科的治療に対する同意が得られず,点眼加療のみで経過観察としていた.同年C12月(エクスプレスCR挿入後C10カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図2)ため,翌年C1月に右眼エクスプレスCR抜去術および濾過胞再建術(線維柱帯切除術)を施行した.症例C1と同様の手順で図1エクスプレスR露出直後の前眼部写真図2エクスプレスR露出直後の前眼部写真エクスプレスRの流出口を含む鍔の鼻側半分が露出した.エクスプレスRの流出口は含まず鍔の後方が露出した.ab図3エクスプレスR露出後2カ月(a)と4カ月(b)時点の前眼部写真a:エクスプレスRの流出口は含まず鍔の前方半分が露出した.b:エクスプレスRの鍔の部分はすべて露出した.CエクスプレスRを抜去し強膜創を縫合した後,その隣にC3C×3Cmm大の強膜フラップを新たに作製し,強角膜ブロック・線維柱帯・周辺部虹彩を切除した.房水の流出量を確認しながら強膜フラップをナイロン糸で縫合し,濾過胞を形成するように結膜縫合を行った.術後も眼圧下降が得られたのは短期間のみであり,徐々に視機能障害は進行し視機能消失,眼圧C25.30CmmHg程度で推移し現在に至っている.〔症例3〕61歳,男性.眼既往歴:特記事項なし.現病歴:平成C24年C10月,視力低下を主訴に前医受診,左眼増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障を指摘された.緑内障点眼C3剤による加療を開始され当院へ紹介となった.初診時左眼所見:視力C0.2(0.7×+0.50D(cyl.1.50DAx100°),眼圧C18mmHg,眼軸長C24.27mm.治療経過:平成C24年C11月,左眼水晶体再建術および硝子体手術を施行したが,隅角に虹彩前癒着を全周に認め術後の眼圧上昇が収束せず,同月に左眼の鼻側上方よりエクスプレスR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,同年C12月に左眼CneedlingCrevisionを,平成C25年C3月に左眼エクスプレスR抜去術および同部位にエクスプレスR再挿入術を,その後も複数回の左眼Cneedlingrevisionを施行するも奏効せず,動的視野検査では湖崎分類CV-a期に進行した.平成26年C1月,左眼の耳側下方よりバルベルトCR(AMO)挿入術を施行し眼圧下降は得られたものの,その後に動的視野検査では湖崎分類CVI期に至った.平成C28年C10月(エクスプレスR挿入後C3年C7カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図3)が,本人の全身状態不良で抜去手術が不可能のため経過観察となった.最終受診時,視機能が消失しており眼圧C31CmmHgであった.〔症例4〕88歳,女性.眼既往歴:両眼水晶体再建術を施行された(手術時期不明).図4エクスプレスR露出後2カ月(a)と4カ月(b)時点の前眼部写真エクスプレスRの流出口は含まず鍔の後方が限局的に露出した.2カ月(Ca)と4カ月(Cb)で露出範囲に変化はみられなかった.C現病歴:平成C17年より近医で落屑緑内障と診断され点眼加療を開始された.平成C21年C7月,点眼加療による眼圧コントロール不良で当院へ紹介となった.初診時右眼所見:視力C0.7C×IOL(1.0×+0.5D(cyl.0.75DCAx90°),眼圧22mmHg,静的視野検査CAulhorn分類stage0-1.治療経過:当初は緑内障点眼の調整にて眼圧下降が得られていたが,次第に眼圧コントロール不良となった.平成C25年C10月,右眼の鼻側上方よりエクスプレスCR挿入術を施行した.濾過胞形成不全となり,平成C27年C8月に右眼の耳側下方よりバルベルトR挿入術を施行した.術後は良好な眼圧下降が得られ,動的視野検査では湖崎分類CIV期で進行はみられず落ち着いていたが,平成C28年C10月(エクスプレスCR挿入後C2年C11カ月),エクスプレスCRが結膜上へ露出した(図4).本人の全身状態不良で抜去手術に対する同意が得られず,現在まで経過観察となっている.露出後は視力(0.3),眼圧C10CmmHg前後で推移し現在に至っている.CIII考按エクスプレスRは開発当初,結膜切開後に強膜上からそのまま前房内へ刺入し,結膜下から強膜を全層貫通させて固定していた.同術式が行われていた頃には,術後合併症として過剰濾過や眼内炎,結膜侵食,デバイス露出などが多数報告された3.5)ため,半層強膜フラップ下へ留置する術式へと改良され6.8),一般的な術式としてわが国においても広く施行されている.線維柱帯切除術と比較すると簡便な手技で行うことができ,術中の出血や前房虚脱などを生じにくく,デバイスによって濾過量の変動が抑えられるために,過剰濾過や脈絡膜.離といった術後の合併症も軽減できる.しかし,デバイスを留置することでの特有な合併症も生じており,その特徴や適切な対処法を検討する必要がある.エクスプレスR挿入術における特有な術後合併症の一つとして,結膜上へのデバイス露出があげられ,これまでにもいくつかの症例報告が散見される.Steinらは,エクスプレスR露出のC6例C8眼を報告した5).6眼は結膜下にデバイスを留置する改良前の術式であったが,2眼は強膜フラップ下にデバイスを留置する現行の術式であった.デバイス露出時期はエクスプレスCR挿入術から平均C8.5カ月(3.16カ月)であり,強膜フラップ下にデバイスを留置したC2眼はC6カ月と11カ月であった.また平野らは,強膜フラップ下に留置したエクスプレスRが術後C13カ月で結膜上に露出したC1例を報告した9).これらの報告によると,露出症例のエクスプレスR挿入術後の眼圧経過は正常範囲内もしくは高眼圧とコントロール不良であり,デバイス露出後にも房水漏出や低眼圧をきたすことはなかったとされている.今回,筆者らはC0.04%マイトマイシンCCを併用しエクスプレスRを強膜フラップ下へ留置するも,術後に結膜上へ露出したC4例を経験した.いずれの症例も眼手術の既往があったことから,Tenon.の菲薄化および円蓋部への後退をきたしており,閉創時に強膜フラップへのCTenon.の被覆が十分にできなかった可能性があり,エクスプレスCRの露出の一因と考えられた.また,既報と同様で,4例ともエクスプレスCR挿入術後の濾過胞形成不全により眼圧コントロール不良であり,needlingrevisionや追加の緑内障手術,緑内障点眼を要して治療に難渋した症例であった.症例C1はエクスプレスR挿入時の結膜がきわめて薄く,房水漏出のリスクもあり縫合糸の抜糸が不十分であったこと,また,症例C2は重度のアトピー性皮膚炎があったことなどで,慢性的な眼表面の炎症がエクスプレスCRの露出の一因になった可能性が考えられた.症例C3,4はエクスプレスCR挿入術が奏効せず,追加手術として別象限からの緑内障手術を施行するも,留置したままにしていたエクスプレスRが露出しており,過去に平野らが報告した症例と同様の経過をたどった9).全C4例において,エクスプレスCRが露出したにもかかわらず前房消失や房水漏出を認めなかったことや,露出前後で著明な眼圧下降がみられなかったことも既報と同様であり,デバイス内腔が閉塞していたか,房水流出口の表面に線維増殖膜が形成され,デバイスが濾過機能を有していなかった可能性が考えられた.今回,患者の都合により抜去せずに経過観察したC2例において,その後も眼内炎や低眼圧を合併していないこともデバイスの濾過機能が消失していたことを支持する所見であった.デバイスの濾過機能が消失すると,房水流出が滞るために眼圧が高くなり,エクスプレスCRの鍔を強膜フラップまたは結膜側に圧しつける力が強くなる.また,デバイスからの房水流出が乏しく濾過胞の平坦な症例では,デバイスと強膜フラップまたは結膜の間にクッションとなる水隙が形成されないために,眼圧や眼瞼圧などの機械的な圧力がより強くかかってしまう.これらの要因から,エクスプレスCR挿入術後の眼圧コントロール不良例において,強膜フラップおよび結膜が菲薄化しデバイス露出に至った可能性が考えられた.今回のC4例は露出期間が平均C29C±14カ月であり既報に比較して長いことから,エクスプレスCR挿入術は長期的にもデバイス露出に注意する必要があると思われた.今回筆者らは,エクスプレスCR挿入術後にデバイスが結膜上に露出したC4例を経験した.いずれの症例も眼圧コントロールに苦慮しており,別象限からの緑内障手術を追加された症例もあった.濾過胞が平坦で機能不全の症例においては,濾過胞再建術やその他の緑内障手術の際にデバイスそのものを抜去しておくなど,その後のデバイス露出のリスクを回避するような治療法を検討する必要があると考えられた.利益相反:大鹿哲郎(カテゴリーCF:参天製薬株式会社,トーメーコーポレーション)文献1)ChanCJE,CNetlandCPA:EX-PRESSCglaucomaCfiltrationDevice:e.cacy,Csafety,CandCpredictability.CMedCDevices(Auckl)8:381-388,C20152)MarisCPJ,CIshidaCK,CNetlandCPA:ComparisonCofCtrabecu-lectomyCwithCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCdeviceCimplantedunderscleral.ap.JGlaucomaC16:14-19,C20073)Gandol.CS,CTraversoCCF,CBronCACetCal:Short-termCresultsCofCaCminiatureCdrainingCimplantCforCglaucomaCinCcombinedsurgerywithphacoemulsi.cation.ActaOphthal-molScandSupplC66:236,C20024)StewartCRM,CDiamondCJG,CAshmoreCEDCetCal:Complica-tionfollowingEx-Pressglaucomashuntimplantation.AmJOphthalmolC140:340-341,C20055)SteinCJD,CHerndonCLW,CBrentCBJCetCal:ExposureCofCEx-PRESSminiatureglaucomadevices:caseseriesandtech-niqueCforCtubeCshuntCremoval.CJCGlaucomaC16:704-706,C20076)WamsleyS,MosterMR,RaiSetal:ResultsoftheuseoftheCEx-PRESSCminiatureCglaucomaCimplantCinCtechnicalychallenging,CadvancedCglaucomaCcases:aCclinicalCpilotCstudy.AmJOphthalmolC138:1049-1051,C20047)RivierD,RoyS,MermoudA:Ex-PRESSR-50miniatureglaucomaCimplantCinsertionCunderCtheCconjunctivaCcom-binedCwithCcataractCextraction.CJCCataractCRefractCSurgC33:1946-1952,C20078)DahanCE,CCarmichaelCTR:ImplantationCofCaCminiatureCglaucomaCdeviceCunderCaCscleraC.ap.CJCGlaucomaC14:C98-102,C20059)平野仁美,西條裕正,伊藤格ほか:Ex-PRESSが結膜上露出をきたしたC1例.眼科手術30:510-513,C2017***

濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologen® Collagen Matrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):981.986,2018c濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologenRCollagenMatrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例根元栄美佳*1,2植木麻理*2前田美智子*2河本良輔*2小嶌祥太*2杉山哲也*3池田恒彦*2*1)高槻赤十字病院眼科*2)大阪医科大学眼科学教室*3)京都医療生活協同組合・中野眼科医院CCaseReportofBlebRevisionwithologenRCollagenMatrixforProlongedBlebLeakageafterBleb-relatedInfectionEmikaNemoto1,2)C,MariUeki2),MichikoMaeda2),RyohsukeKohmoto2),ShotaKojima2),TetsuyaSugiyama3)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedcrossHospital,2)C3)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operationDepartmentofOpthalmology,OsakaMedicalCollege,目的:濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対しCologenCRCollagenCMatrix(以下,ologenCR)を用いた濾過胞再建術を施行し,治癒過程を前眼部COCTにて確認できた症例を報告する.症例:80歳,女性.10年前に両眼原発開放隅角緑内障にて両眼線維柱帯切除術を施行された.2016年C3月左眼濾過胞感染を発症し大阪医科大学眼科紹介.初診時,左眼に房水漏出を伴う無血管濾過胞とCStageIIの濾過胞感染を認めた.抗菌薬加療にて感染は軽快したが濾過胞漏出は遷延し,ologenCRを結膜下移植する濾過胞再建術を施行した.術後,濾過胞漏出は消失した.前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜がCologenCRに裏打ちされ,徐々に厚くなり,厚い濾過胞壁の形成に至った過程が確認できた.術後約C1年半で有血管濾過胞が維持されている.結論:無血管濾過胞の房水漏出にCologenCRを用いた濾過胞再建術は有効であった.CPurpose:ACcaseCreportCofCblebCrevisionCwithCologenCRCollagenCMatrix(ologenCR)forCprolongedCblebCleakageafterCbleb-relatedCinfection.CWeCobservedCtheCprocessCofCblebChealingCwithCopticalCcoherenceCtomography(OCT)C.CCase:An80-year-oldfemalewhohadundergonetrabeculectomyonbotheyesforopen-angleglaucoma10yearspreviouslyCwasCreferredCtoCusCbecauseCtheCpreviousCdoctorCsuspectedCaCbleb-relatedCinfection.CAtCtheC.rstCvisit,CStageIIbleb-relatedinfection,aswellasleakagefromavascularbleb,wasobservedinthelefteye.Theblebleak-agepersisted,althoughshewascuredofthebleb-relatedinfectionthroughantibiotictherapies.AfterblebrevisionwithologenRCwasperformed,blebleakagedisappeared.WeobservedwithOCTthatthethinnedconjunctivaoftheblebwaslinedwithologenRCandgraduallyrepaired.Theblebhasbeenmaintainedforabout18monthsaftersur-gery.Conclusion:BlebrevisionwithologenCRCwase.ectiveforleakagefromavascularbleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):981.986,C2018〕Keywords:ologenR,濾過胞再建術,濾過胞漏出,濾過胞感染,前眼部光干渉断層法.ologenR,blebrevision,blebleakage,bleb-relatedinfection,opticalcoherencetomography.Cはじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は,術後に低い眼圧の維持が可能な術式であり,現在はマイトマイシンCC(MMC)を併用したCTLEが標準となっている.しかし,MMC併用CTLEの晩期合併症として房水漏出,低眼圧黄斑症,無血管濾過胞からの漏出,濾過胞感染があり,とくに濾過胞感染は失明につながる重篤なものである.日本緑内障学会による濾過胞感染多施設共同研究(TheCCollaborativeBleb-relatedCInfectionCIncidenceC&CTreatmentCStudy:CBIITS)が実施され,手術C5年後での濾過胞感染の発生率〔別刷請求先〕根元栄美佳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EmikaNemoto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7,Daigaku-cho,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANはC2.2%であり,その危険因子として濾過胞漏出既往と若年者であることがあげられている1).一方,近年,MMCに代わる濾過手術後癒着防止剤を求め,さまざまな検討がなされている.これまで,Gel.rm2),CSepra.lm3),Gore-Tex4),ハニカムフィルム5)などを用いた報告があり,欧米で緑内障手術への使用認可を得ているものとしてCologenCRCollagenMatrix(以下,ologenCR)がある6,7).また,ologenCRは濾過胞漏出に対する濾過胞再建術にも用いられ,有効であったとの報告がある8,9).今回,濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対してCologenRを用いた濾過胞再建術が奏効し,結膜の修復過程が前眼部光干渉断層法(opticalCcoherenceCtomography:OCT)にて確認できたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:左眼の流涙,視力低下.現病歴:両眼原発開放隅角緑内障に対し,10年前に他院にて両眼CTLE+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術が施行されていた.術後は,両眼圧のコントロールは良好で,左眼には鼻上側に無血管濾過胞が形成されていた.2016年C3月中頃に左眼の流涙を自覚し,その翌日より左眼の視力低下,眼痛,眼脂が出現した.前医を受診したところ,左眼濾過胞感染が疑われ,大阪医科大学眼科(以下,当科)へ紹介初診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.07C×sph+1.25D(cyl─1.75DCAx105°),眼圧は右眼11mmHg,左眼6mmHgであった.左眼前眼部所見で,鼻上側に壁の薄い無血管濾過胞があり,濾過胞周囲の結膜は充血していた.濾過胞からの房水漏出を認め,前房内の炎症細胞はC2+であった.左眼眼底所見では,硝子体への炎症波及はなく,眼底は透見可能であった(図1).経過:左眼濾過胞感染CStageIIと診断し,同日入院のうえ,CBIITSのガイドラインに沿って治療を開始した1).塩酸バンコマイシンとセフタジジムの結膜下注射を行い,レボフロキサシンとセフメノキシムをC1時間ごとに頻回点眼することにより濾過胞感染は軽快した.一方,濾過胞漏出に対して自己血清点眼,抗菌薬眼軟膏塗布と眼帯を行ったが遷延した.そこで,大阪医科大学倫理委員会の承認(受付番号C2015-115)を得て,ologenCRを用いた濾過胞再建術を施行した(図2).使用したCologenRは,直径C12Cmm,厚さC1Cmmの円形シートである.まずCologenCR大のC12C×12Cmmを計測,濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.そして作製した濾過胞下のスペースへColo-genRの挿入を試みたが,出血でCologenCRがふやけたため困難であった.そこで,ologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入し,その後展開した.結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.前房洗浄時,濾過胞より漏出を認めたがそのまま手術は終了した.術翌日,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞内に出血がありColo-genRは確認できず,房水漏出は継続していた(図3a).術後C2日目,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した(図3b).術後C3週間,左眼視力(0.35),左眼眼圧C12CmmHg,無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.(図3c).前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜を裏打ちするCologenCRが確認できた(図4a).術後C2カ月,左眼視力(0.4),左眼眼圧C13mmHg(図4b).前眼部COCTにて,結膜組織修復過程において結膜下組織と置き換わりつつあるCologenRが濾過胞結膜内壁全体に付着していた(図4b).術後C10カ月,左眼矯正視力(0.4),左眼眼圧C12CmmHg,有血管濾過胞が形成されている(図3d).前眼部COCTにてColo-genRは消失しており,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して形成された厚い濾過胞壁が確認できた(図4c).術C1年C6カ月後の現在,眼圧コントロールは良好であり,視力・視野ともに維持できている.CII考按TLE後の濾過胞漏出に対するこれまでの濾過胞再建術としては,結膜前転術10),遊離結膜移植11),羊膜移植12)があげられ,それぞれに長所と短所がある.結膜前転術は小さな濾過胞が適応となり自己結膜にて施行できるが,大きな濾過胞には対応困難である.遊離結膜移植は自己結膜にて比較的大きな濾過胞にも対応は可能であるが,大きな結膜片を作製することはむずかしい.羊膜移植は大きな濾過胞にも対応が可能であり,羊膜そのものに抗炎症作用や結膜の修復作用があるため結膜前転術よりも良好な成績が報告されている12).当科でもこれまでは大きな濾過胞の再建術に羊膜を使用していたが,平成C26年C4月に羊膜取扱いガイドライン13)が作成され,濾過胞再建術に適応がないため使用が困難になった.そこで,大きな濾過胞の濾過胞漏出に対してCologenCRを濾過胞結膜下へ移植する濾過胞再建術に着目した.CologenRは,豚由来のコラーゲンを拒絶反応を起こさないようにCtelo側鎖をペプシンにて切断処理したCI型アテロコラーゲンとグリコサミノグリカンの架橋構造からなる,直径10.300Cμmの多孔構造をとる移植用細胞外基質類似素材である.ologenCRは眼上皮結合組織の組織修復をサポートする働きがあり,海外では緑内障,翼状片や斜視の手術が適応となっている.ologenCRを用いたCTLEに関する既報では,TLE時にCologenCRを結膜下に挿入することで結膜下組織の図1初診時の左眼細隙灯顕微鏡所見a:鼻上側の壁の薄い無血管濾過胞,濾過胞周囲の結膜は充血している.Cb:濾過胞からの房水の漏出を認める(.).C図2ologenRを用いた濾過胞再建術の術中写真a:濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.Cb:濾過胞下のスペースへCologenCRの挿入を試みたが,出血でふやけ困難であった.Cc:眼内レンズのようにCologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入,その後展開した.Cd:結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.図3術後経過(前眼部細隙灯顕微鏡所見)Ca:術翌日.濾過胞内に出血がありCologenCRは確認できず,房水漏出は継続していた.Cb:術後C2日.濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した.Cc:術後C3週間無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.Cd:10カ月後,扁平な有血管濾過胞を認める.癒着を防止し,MMCを用いたときと同様の効果があると報告されている6,7).一方で,MMCを用いたCTLEよりも,手術成功率や眼圧下降率が劣るとの報告もある14).手術効果について相反する報告があるが,形成される濾過胞についてはMMCよりCologenCRを用いたほうが無血管濾過胞となる割合が低いとされている15).また,TLE術後の過剰濾過や濾過胞漏出に対する報告では,低眼圧をきたしたC12例にColo-genRの結膜下移植は有効であった8)という報告や,日本人においても,TLE術後やCEX-PRESS術後の濾過胞漏出を含む低眼圧をきたしたC9眼においてCologenCRの結膜下移植は有効であったとの報告がある9).これまでに濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入することにより,多孔構造内まで結膜の線維芽細胞や筋線維芽細胞が集簇し,結合組織が形成されることで組織修復がなされると報告されており16,17),今回の症例でも同様の組織修復にて濾過胞が厚く形成されたと考える.そして,今回の症例では前眼部COCTにてその過程を観察できており,術後早期に菲薄化した濾過胞結膜をCologenCRが裏打ちし,徐々にCologenCRを足場にした組織修復がなされて結膜下組織が形成され,厚い濾過胞壁となったことが確認できた.また,今回の症例で特徴的なのは無血管濾過胞に結膜血管新生を認めたことである.動物実験においてであるが,無血管濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入すると,血管内皮細胞が結膜円蓋部方向から多孔構造内に集簇することにより無血管濾過胞への結膜血管新生を認めたと報告されている17).今回の症例でも同様の機序により徐々に血管を有する濾過胞が形成されたと考える.濾過胞感染後の遷延性濾過胞漏出に対してCologenCRの結膜下移植による濾過胞再建術が有効であった.無血管濾過胞壁を有する濾過胞漏出例において,ologenCRの結膜下移植は有効な術式となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なしC図4術後経過(前眼部OCT所見)Ca:術後C3週間.結膜を裏打ちするCologenCRが認められた(.).b:術後C2カ月.結膜組織修復過程で結膜下組織と置き換わりつつあるCologenCRが濾過胞内壁全体に付着している(.).c:術後C10カ月.olo-genRは消失し,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して濾過胞壁が厚く形成されている(.).文献1)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinCC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20142)LavalCJ:TheCuseCofCabsorbableCgelatinC.rm(gel.rm)inCglaucomaC.ltrationCsurgery.CAMACArchCOphthalmolC54:C677-682,C19553)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:セプラフィルムCR併用線維柱体切除術を施行したC1例.臨眼C64:1891-1895,C20104)CillinoS,ZeppaL,DiPaceFetal:E-PTFE(Gore-Tex)CimplantCwithCorCwithoutClowdosageCmitomycinCCCasCanadjuvantCinCpenetratingCglaucomaCsurgery:2CyearCran-domizedCclinicalCtrial.CActaCOphthalmolCScandC86:314-321,C20085)OkudaCT,CHigashideCT,CFukuhiraCYCetCal:ACthinChoney-comb-patterned.rmasanadhesionbarrierinananimalmodelCofCglaucomaC.ltrationCsurgery.CJCGlaucomaC18:C220-226,C20096)CillinoS,CasuccioA,PaceFDetal:Biodegradablecolla-genCmatrixCimplantCversusCmitomycin-CCinCtrabeculecto-my:.ve-yearCfollow-up.CBMCCOphthalmolC16:24,2016.doi:10.1186/s12886-016-0198-07)HeCM,CWangCW,CZhangCXCetCal:OlogenCimplantCversusmitomycinCCCforCtrabeculectomy:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis.PLoSOneC9:e85782,C20148)DietleinTS,LappasA,RosentreterA:Secondarysubcon-junctivalCimplantationCofCaCbiodegradableCcollagen-glycos-aminoglycanCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCfollowingCtrabeculectomyCwithCmitomycinCC.CBrCJCOphthalmolC97:C985-988,C20139)TanitoCM,COkadaCA,CMoriCYCetCal:SubconjunctivalCimplan-tationCofCologenCcollagenCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCafterC.ltrationCglaucomaCsurgery.CEyeC31:1475-1479,C201710)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200411)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:OutcomesofblebexcisionCwithCfreeCautologousCconjunctivalCpatchCgraftingCforCblebCleakCandChypotonyCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.JGlaucomaC20:392-397,C201112)RauscherFM,BartonK,FeuerWJetal:Long-termout-comesofamnioticmembranetransplantationforrepairofleakingCglaucomaC.lteringCblebs.CAmCJCOphthalmolC143:C1052-1054,C200713)西田幸二,天野史郎,木下茂ほか;羊膜移植に関する委員会:羊膜移植術ガイドライン.日本角膜学会ホームページ:2014http://cornea.gr.jp/amnion/14)RosentreterCA,CGakiCS,CCursiefenCCCetCal:TrabeclectomyCusingmitomycinCversusanatelocollagenimplant:clini-16)HsuCWC,CRitchCR,CKrupinCTCetCal:TissueCbioengineeringcalCresultsCofCaCrandomizedCtrialCandChistopathologicCforCsurgicalCblebCdefect:anCanimalCstudy.CGraefesCArchC.ndings.OphthalmologicaC231:133-140,C2014ClinExpOphthalmolC246:709-791,C200815)RosentreterA,SchildAM,JordanJFetal:Aprospective17)PengYJ,PanCY,HsiehYTetal:Theapplicationoftis-randomisedCtrialCofCtrabeclectomyCusingCmitomycinCCCvsCsueCengineeringCinCreversingCmitomycinCC-inducedCisch-anologenimplantinopenangleglaucoma.EyeC24:1449-emicconjunctiva.JBiomedMaterResAC100:1126-1135,C1457,C20102012***

緑内障患者のHumphrey自動視野検査計30-2,24-2プログラムの測定結果の検討

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):976.980,2018c緑内障患者のHumphrey自動視野検査計30-2,24-2プログラムの測定結果の検討柴田瞳澤田有松井孝子吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座CDi.erencebetween30-2and24-2VisualFieldProgramsinGlaucomaHitomiShibata,YuSawada,TakakoMatsuiandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:緑内障眼において,HFASITA-Standardで測定したC30-2およびC24-2プログラムの測定結果について検討する.対象および方法:30-2からC24-2へC1年以内に切り替えを行い,GPAが可能であった緑内障患者C67例C67眼において,30-2およびC24-2の単一視野解析とC30-2,24-2で共通の測定点C54点のCGPA解析結果について,さらに視野障害の部位により周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,MD,PSD,VFI,測定時間,信頼係数について比較検討した.結果と考察:プログラム変更による検査点の減少が測定時間の短縮につながった.周辺C22点を排除しても,MD,PSD,VFIにはいずれも強い相関がみられたが,視野障害の部位別にみると,周辺C22点障害型では切り替えでCPSDが低くなる傾向が,中心C54点障害型では切り替えでCVFIが低くなる傾向が示唆された.視野進行を評価する際,視野の感度低下の部位に注意しながら各パラメータについて検討する必要がある.CWeCcomparedC30-2CandC24-2CVFCprogramsCinCglaucoma,CenrollingC67CeyesCofC67CglaucomaCpatientsCwhoChadCundergoneCbothC30-2CandC24-2CVFsCwithinCtheCpreviousC12Cmonths,CandCinCwhomCGPACcouldCbeCperformed.CRegardingCresultsCofC30-2CandC24-2CsingleCvisualC.eldCanalysisCandCtheC54CpointsCusedCinCGPA,CweCdividedCthepatientsinto2groups:thosewithmoredamageatthe22peripheralpoints(22pointsgroup)andthosewithmoredamageCatCtheC54CcentralCpoints(54CpointsCgroup).CWeCthenCinvestigatedCMD,CPSD,CVFI,CmeasurementCtimeCandCcon.dencecoe.cientfrombothtests.Itwassuggestedthattestpointreductionduetoaprogramchangeledtoreductionofmeasurementtime.StrongcorrelationwasfoundbetweenMD,PSDandVFI,evenifthe22peripheralpointswereexcluded.However,PSDtendedtobelowerinthe22pointsgroup,andVFItendedtobelowerinthe54centralpointsgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):976.980,C2018〕Keywords:緑内障,自動視野検査,Humphrey自動視野計,緑内障視野進行解析,30-2,24-2.glaucoma,auto-matedvisual.eldexamination,Humphrey.eldanalyzer,guidedprogressionanalysis,30-2,24-2.Cはじめに緑内障症例に実施するCHumphrey自動視野検査計(Hum-phreyCFieldCAnalyzer:HFA.CarlCZeissCMeditec,Dub-lin,CA,USA)プログラムとして,30-2とC24-2SwedishlnteractiveCThresholdCAlgorithm(SITA)-Standardがよく用いられる1).視野の周辺感度は,検査時間や刺激偏心度の増加に伴い低くなるため2.4),24-2プログラムは,30-2プログラムの外側C22点のテストポイントを除外することによって,上眼瞼を含むアーチファクトや信頼性の低い点を排除し,さらに検査時間を短縮し,検査結果のばらつきを少なくする効果があるといわれている5).しかし,緑内障は長期の経過観察が必要な慢性疾患であり,転居などによって経過観察する施設が変化することがたびたびある.患者データの一貫性を保つことが,緑内障診療の質の向上,医療費の抑制,緑内障診療のさらなる改善に大きく貢献を果たすことが期待されており6.8),30-2とC24-2も施設によりどちらをおもに使用するかが異なるため,30-2とC24-2の結果について比較検討する必要があると思われる.〔別刷請求先〕柴田瞳:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:HitomiShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1,Hondo,Akita010-8543,JAPAN976(126)今回,同一症例で測定されたC30-2とC24-2プログラムの単一視野解析およびCGuidedProgressionAnalysis(GPA)の結果について,全症例,さらに視野障害の部位によりグループ分けし,MeanCDeviation(MD),PatternCStandardCDevi-ation(PSD),VisualFieldIndex(VFI),検査時間,信頼係数を用いて比較検討したので報告する.なお,GPAはC30-2とC24-2プログラムを混在させて解析可能であるが,30-2とC24-2が混在する場合には,30-2はC24-2としてC24-2の測定点のみが解析に使用される.CI対象および方法秋田大学医学部附属病院眼科において経過観察中の緑内障症例のうち,2015年C8月以降にC30-2からC24-2に切り替えを行い,30-2とC24-2の検査間隔がC1年以内の症例のうち,信頼性のあるCHFA検査をC5回以上施行し,GPAが可能であった症例C67例C67眼に対して,後ろ向きに調査を行った.症例の選択基準は,前眼部,中間透光体に異常がなく,視野に影響しうる緑内障以外の眼疾患がなく,経過観察中にレーザー治療を含む眼内手術の既往がなく,視神経に影響を及ぼす投薬歴がない,HFAの測定プログラムCSITA-Standard30-2で測定された後,1年以内にC24-2で測定されている,HFA検査における信頼係数(固視不良,偽陰性,偽陽性)のいずれもC20%未満の症例とした.視野欠損型の分類として,30-2からC24-2への切り替え直前のC30-2における中心C54点の各測定点のCTotalCDevia-tion(TD)の平均と周辺C22点の各測定点のCTDの平均を比較して,22点のCTDの平均がC54点のCTDの平均よりも低値の群,つまり周辺の感度が悪い群(以下,周辺C22点障害型)と,54点のCTDの平均がC22点のCTDの平均よりも低値の群,つまり中心の感度が悪い群(以下,中心C54点障害型)のC2群と設定し検討した.解析項目としては,全例を対象とした場合と,視野欠損のパターン別に,MD,PSD,VFI,信頼係数,測定時間より30-2とC24-2を比較した.全症例において,切り替え前後のC30-2とC24-2の単一視野解析結果について,それらのCMD,PSD,VFIの相関について,Spearman順位相関係数を用いて検討した.全症例において,切り替え前後のC30-2とC24-2の単一視野解析結果について,各パラメータを検討した.検査時間については,対応のあるCt検定を用いた.MD,PSD,VFI,固視不良,偽陰性,偽陽性については,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.次に,視野欠損型により周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,30-2とC24-2の各パラメータについて比較検討した.検査時間については,対応のあるCt検定を用いた.MD,PSD,VFI,固視不良,偽陰性,偽陽性については,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.すべての統計解析にはCEZRを使用した.CII結果解析対象は,67例C67眼であった.平均年齢はC63.2C±14.8歳,平均観察期間はC247.0C±74.2日であった.67眼中,周辺C22点障害型はC25眼(37.3%),中心C54点障害型はC42眼(62.7%)であった.30-2とC24-2の単一視野解析およびCGPAにおけるCMD,PSD,VFIの相関を表1に,相関図を図1に示す.MDおよびCPSDにおいて,30-2とC24-2,24-2とCGPA,30-2とGPAの間の相関係数はそれぞれ,MDはC0.963,0.961,0997,PSDはC0.970,0.967,0.995と,それぞれ有意な強い相関がみられた.VFIに関しても,30-2とC24-2の相関係数はC0.968と有意な強い相関がみられた.30-2とC24-2の平均パラメータを比較した結果を表2に示す.MDは,30-2でC.6.70±5.70dB,24-2でC.7.23±6.03dBとC24-2で有意に低くなった(p<0.05).PSDに関しても,30-2でC8.72C±5.50CdB,24-2でC7.85C±5.26CdBと有意に低くなった(p<0.05).VFIに関しても,30-2でC82.25C±16.35%,24-2でC80.70C±17.03%と有意に悪化がみられた(p<0.05).検査時間は,30-2でC7.57C±0.06分,24-2でC6.03C±0.05分と,24-2で有意に短くなった(p<0.05).信頼係数に関しては,30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかった.視野障害型別に,30-2とC24-2の平均パラメータを比較した結果を表3に示す.周辺C22点障害型において,MDとVFIはC30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかったが,PSDに関しては,30-2でC10.22C±5.51CdB,24-2でC9.34C±5.29CdBと有意に低くなった(p<0.05).検査時間は,30-2でC8.25C±0.06分,24-2でC6.24C±0.05分とC24-2で有意に短くなった(p<0.05).中心C54点障害型において,MDとCPSDはC30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかったが,VFIはC30-2でC86.67C±14.04%,24-2でC84.48C±15.45%と有意に低くなった(p<0.05).検査時間に関しては,30-2でC7.41C±0.05分,24-2でC5.50C±0.04分とC24-2で有意に短くなった(p<0.05).信頼係数に関しては,30-2とC24-2で統計学的に有意な差はなかった.CIII考察緑内障症例C67例C67眼について,30-2とC24-2の単一視野解析およびCGPAにおけるCMD,PSD,VFIの相関,全症例におけるC30-2とC24-2の各パラメータの比較,周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群におけるC30-2とC24-2の各パラメータの比較について検討した.全症例において,MD,PSD,VFI,検査時間,信頼係数表130-2と24-2の単一視野解析およびGPA解析におけるMD,PSD,VFIの相関30-224-2GPA(n=67)C(n=67)C(n=67)C30-2CvsC24-2C24-2vsGPAC30-2vsGPAMD(dB)C.6.70±5.70C.7.23±6.03C.7.09±6.04Crs=0.963(p<0.05*)Crs=0.961(p<0.05*)Crs=0.997(p<0.05*)PSD(dB)C8.72±5.50C7.85±5.26C7.56±5.23Crs=0.970(Cp<C0.05*)Crs=0.967(Cp<C0.05*)Crs=0.995(Cp<C0.05*)VFI(%)C82.25±16.35C80.70±17.03C82.25±16.35Crs=0.968(Cp<C0.05*)*Spearman順位相関係数Cabc10-10-20-20100-10-20-20100-10-20-20-10010-10010-1001024-2MD(dB)GPAMD(dB)GPAMD(dB)defg10090807060502015105201510520151050000400040506070809010024-2PSD(dB)GPAPSD(dB)GPAPSD(dB)24-2VFI(%)図130-2と24-2の単一視野解析およびGPAにおけるMD,PSD,VFIの相関a:全症例C67例C67眼のC30-2のCMDとC24-2のCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.963,p<0.05).Cb:全症例C67例C67眼のC24-2のCMDとCGPAのCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.961,p<0.05).Cc:全症例C67例C67眼のC30-2のCMDとCGPAのCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.997,p<0.05).Cd:全症例C67例C67眼のC30-2のCPSDとC24-2のCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.970,p<0.05).Ce:全症例C67例C67眼のC24-2のCPSDとCGPAのCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.960,p<0.05).Cf:全症例C67例C67眼のC30-2のCPSDとCGPAのCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.995,p<0.05).Cg:全症例C67例C67眼のC30-2のCVFIとC24-2のCVFIの相関.VFIは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.968,p<0.05).表230-2と24-2の平均パラメータの比較についてC30-2とC24-2を比較すると,24-2への切り替えで,30-224-2MD,PSD,VFIはいずれも有意に低くなった.今回は,す(n=67)C(n=67)Cpべての症例がC30-2からC24-2への切り替えで,平均検査間***隔がC247.03C±74.15日であり,その間の進行の可能性も考えMD(dB)C.6.70±5.70C.7.23±6.03<0.05***PSD(dB)C8.72±5.50C7.85±5.26<0.05られるが,今後の検討課題である.また,検査時間に関して***VFI(%)C82.25±16.35C80.70±17.03<0.05**は,24-2への切り替えで検査時間が有意に短縮され,24-2検査時間(分)C7.57±0.06C6.03±0.05<0.05固視不良(%)C6.12±5.63C7.14±5.98C0.304***の検査時間は30-2の76%に,24%短縮された.Khoury偽陰性(%)C0.03±0.05C0.03±0.04C0.586***ら5)は,健常人において,24-2の検査時間はC30-2と比較し偽陽性(%)C0.03±0.03C0.03±0.03C0.342***て約28%短縮されることを示し,またいくつかの文献で**対応のあるCt検定,***Wilcoxon符号付順位和検定.は9,10),試験時間の増加とともに検査閾値のばらつきは増加51015205101520510152030-2PSD(dB)30-2MD(dB)表3視野障害型別30-2および24-2の平均パラメータの比較周辺C22点障害型(n=25)中心C54点障害型(n=42)C30-2C24-2CpC30-2C24-2CpMD(dB)C.9.36±6.18C.9.51±6.72C0.542***C.5.12±7.80C.5.87±5.21C0.955***PSD(dB)C10.22±5.51C9.34±5.29<C0.05***C7.10±5.22C6.97±5.09C0.0542***VFI(%)C74.84±17.53C74.36±17.99C0.583***C86.67±14.04C84.48±15.45<C0.05***検査時間(分)C8.25±0.06C6.24±0.05<C0.05**C7.41±0.05C5.50±0.04<C0.05**固視不良C6.02±5.29C7.84±5.99C0.281***C6.18±5.88C6.72±6.00C0.629***偽陰性C0.03±0.05C0.03±0.05C0.752***C0.03±0.04C0.03±0.03C0.618***偽陽性C0.03±0.03C0.03±0.03C0.338***C0.03±0.03C0.03±0.03C0.64*****対応のあるCt検定,***Wilcoxon符号付順位和検定し,患者の疲労は試験の正確性と再現性を失うことを示しており,検査時間を短縮することにより被験者の快適性を高め,患者の注意力を改善し,結果として検査結果の変動性を低減することが予想される.本研究では,24-2への切り替えで検査時間がC24%短縮され,患者負担を軽減できたと考えられるが,それが検査信頼値の向上には繋がらなかった.検査信頼値の向上には患者の検査への理解力などの個人的因子に対する配慮の必要性も示唆される11).また,今回は30-2からC24-2への切り替え直後に,その切り替え前後の単一視野解析を用いて検討したが,今後は時間をかけて複数回の検査結果を用いた検査の正確性と再現性の検討が必要であると考えられる.周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,MD,PSD,VFI,検査時間,信頼係数についてC30-2とC24-2を比較すると,周辺C22点障害型においては,MDとCVFIは24-2へ切り替えても有意な変化はみられなかったが,PSDは有意に低くなった.24-2への切り替えで,全体的な感度として有意な低下はないものの,感度の低い最外側のテストポイントが除外されたことにより感度低下の分布の不均一が解消され,PSDが低くなったことが考えられる.中心C54点障害型においては,感度のよい最外側のテストポイントが除外されても,MDに有意な変化はみられなかったが,VFIは有意に低くなった.また,PSDが有意に変化するほどの感度低下の不均一性の変化はなかったものと考えられる.VFIは,BengtssonとCHeijl12)の示したCGlaucomaCProgressionIndex(GPI)で,PD確率プロットによる感度から残存視機能を算出したもので,MD値に比較して,大脳皮質拡大率や網膜神経節細胞の分布などを考慮して固視点に対して各C5°ずつ順にC3.29,1.28,0.79,0.57,0.45倍とより中心の測定点の比率配分を重く設定したものとなっており13,14),中心視野の重要度が加味されている15).周辺C22点障害型では,視野障害部位は感度の比率配分が小さいため,外側C22点のテストポイントを除外してもCVFIに有意な変化はみられなかったが,中心C54点障害型では,視野障害部位の感度の比率配分が大きいため,外側C22点のテストポイントを除外することにより,VFIは有意に低下した可能性が考えられる.また,検査時間に関しては,両群ともC24-2への切り替えで検査時間が有意に短縮され,患者負担を軽減できたと考えられる.Khouryら5)は,緑内障患者においては,30-2と24-2はほぼ同等に結果を評価することが可能だが,3%の症例で周辺部の初期のわずかな神経線維束欠損を評価できないことがあると示しており,やはり視野の評価をする際には,視野障害の部位により,各パラメータについて注意深く検討する必要があることが示唆される.本研究より,30-2からC24-2へのプログラム変更による検査点の減少が測定時間の短縮,そして患者負担の軽減につながったと考えられた.30-2とC24-2の単一視野解析,GPAの結果より,周辺C22点を排除しても,MD,PSDおよびCVFIにはいずれも強い相関がみられたが,視野障害の部位別にみると,周辺C22点障害型ではC24-2への切り替えでPSDが低くなる傾向があり,中心C54点障害型においては,24-2への切り替えで,VFIが低くなる傾向があることが示唆された.視野進行を評価する際には,視野の感度低下の範囲に注意しながら,各パラメータについて検討する必要があることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BengtssonB,OlssonJ,HeijlAetal:AnewgenerationofalgorithmsCforCcomputerizedCthresholdCperimetry,CSITA.CActaOphthalmolScandC75:368-375,C19972)SearleAET,WildJM,ShawDEetal:Time-relatedvari-ationinnormalautomatedstaticperimetry.Ophthalmolo-gyC98:701-707,C19913)HeijlCA,CDranceCSM:ChangesCinCdi.erentialCthresholdCinCpatientswithglaucomaduringprolongedperimetry.BrJOphthalmolC67:512-516,C19834)JohnsonCCA,CAdamsCCW,CLewisCRA:FatigueCe.ectsCinCautomatedperimetry.ApplOptC27:1030-1037,C19885)KhouryCJM,CDonahueCSP,CLavinCPJCetCal:ComparisonCof24-2and30-2perimetryinglaucomatousandnonglauco-matousCopticCneuropathies.CJCNeuroophthalmolC19:100-108,C19996)柏木賢治,相原一,稲谷大ほか:緑内障診療の現状とデータ共通化の取り組み.日眼会誌120:540-547,C20167)柏木賢治:WEBを用いた診療情報提供が緑内障患者の疾患理解度に与える影響マイ健康レコードの医療リテラシー改善効果.日遠隔医療会誌7:30-34,C20118)KashiwagiCK,CTsukaharaCS:ImpactCofCpatientCaccessCtoCinternetChealthCrecordsConCglaucomaCmedicationCrandom-izedcontrolledtrial.JMedInternetResC16:15,C20149)HeijlCA,CLindgrenCG,COlssonCJ:TheCe.ectCofCperimetricCexperienceCinCnormalCsubjects.CArchCOphthalmolC107:C81-86,C198910)HudsonCC,CWildCJM,COC’NeillCEC:FatigueCe.ectsCduringCaCsingleCsessionCofCautomatedCstaticCthresholdCperimetry.CInvestOphthalmolVisSciC35:268-280,C199411)園田泰祐,兵頭涼子,田坂嘉孝:静的視野検査プログラムの変更に伴う検査結果の推移.日本視機能看護学会誌C1:C113-116,C201612)BengtssonB,HeijlA:Avisual.eldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmolC1452:C343-353,C200813)LeviaCDM,CKleinaCSA,CAitsebaomoaCAP:VernierCacuity,Ccrowdingandcorticalmagni.cation.VisionResC25:963-977,C198514)松本行弘:GuidedCProgressionCAnalysisCGPA2.眼科手術C21:467-470,C200815)QuigleyCHA,CDunkelbergerCGR,CGreenCWR:RetinalCganC-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumanCeyesCwithCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC15:453-464,C1989***

多施設による緑内障患者の実態調査2016 年版 ─後発医薬品の使用─

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):971.975,2018c多施設による緑内障患者の実態調査2016年版─後発医薬品の使用─川島拓*1井上賢治*1塩川美菜子*1井上順治*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CCurrentStatusofTherapyforGlaucomaatMultipleOphthalmicInstitutionsin2016─UsageofGenericDrugsforGlaucomaPatients─TakuKawashima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:緑内障患者の治療実態を調査し,そのなかから後発医薬品の使用を検討する.対象および方法:57施設に外来受診した緑内障,高眼圧症C4,288例C4,288眼を対象とし,使用薬剤を調査した.単剤例,2剤例での後発医薬品の使用を調査し,2012年の前回調査と比較した.結果:単剤例ではプロスタグランジン(PG)関連薬のC12.3%,Cb遮断薬のC11.3%で後発医薬品を使用していた.2剤例ではCPG関連薬のC8.9%,Cb遮断薬のC1.6%で後発医薬品を使用していた.単剤例ではCPG関連薬,Cb遮断薬ともに前回調査(5.4%とC3.1%)より後発医薬品使用が有意に増加した.2剤例ではCPG関連薬は前回調査(4.6%)より後発医薬品使用が有意に増加し,Cb遮断後医薬発品は前回調査(3.3%)と同様だった.結論:後発医薬品は単剤例のC11.4%,2剤例のC7.5%で使用されていた.後発医薬品の使用は増加傾向にある.CPurpose:WeCinvestigatedCtheCuseCofCgenericCdrugsCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CMeth-ods:Atotalof4,288eyesof4,288patientsfrom57institutionswereincluded.Theparticipantswhowereadmin-isteredCgenericCdrugsCasCmonotherapyCorCconcomitantlyCwereCinvestigated;resultsCwereCcomparedCtoCaCpreviousCstudyin2012.Results:Genericprostaglandin(PG)analogs(12.3%)andgenericb-blockers(11.3%)wereusedasmonotherapyandconcomitantly(8.9%,1.6%)C.ThenumberofsubjectsusinggenericPGanalogsorb-blockersasmonotherapyincreasedincomparisontothepreviousstudy(5.4%,3.1%)C.ThenumberofsubjectsusinggenericPGCanalogsCconcomitantlyCsurpassedCthatCofCtheCpreviousCstudy(4.6%)C,CwhereasCtheCnumberCusingCgenericCb-blockersCdidCnotCdi.erCsigni.cantlyCfromCtheCpreviousCstudy(3.3%)C.CConclusions:GenericCdrugCuseCasCmono-therapy(11.4%)andconcomitantly(7.5%)indicatesthattheuseofgenericdrugsisincreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):971.975,C2018〕Keywords:緑内障,後発医薬品,単剤例,2剤例.glaucoma,genericdrugs,monotherapy,additionaldrugs.はじめに緑内障治療の最終目標は患者の視野障害進行抑制であり,唯一エビデンスが明確に示されている治療方法は眼圧下降で,その第一選択は薬物治療である1.5).緑内障診療ガイドライン1)では,緑内障の点眼薬治療は単剤投与から始めるが,目標眼圧に達しない症例では点眼薬の変更あるいは追加が推奨されている.点眼薬の追加を繰り返すと多剤併用となるが,多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となる6).実際に緑内障患者は緑内障点眼治療に対してさまざまな意見を有しており,そのことがアドヒアランス低下を引き起こしていると考えられる7,8).緑内障患者C182例の調査では点眼薬の使用感としてしみるC35例,かすむC34例,点眼手技としてうまく点眼できないC27例,点眼薬の価格が高いC26例などが報告された7).点眼薬がしみる,かすむは点眼薬の新たな開発,あるいは医師が点眼薬を選択する際に考慮することで,また点眼手技は点眼指導の徹底により改善できると考〔別刷請求先〕川島拓:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TakuKawashima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C971えられる.点眼薬の価格は後発医薬品の使用によりある程度は軽減できる.後発医薬品とは,先発医薬品と同一の有効成分を同一量含む同一投与経路の製剤で,効能・効果,用法・用量が原則的に同一で,先発医薬品と同等の臨床効果が得られる医薬品である.後発医薬品を製造販売するためには,先発医薬品と同様に薬事法に基づいて厚生労働大臣から承認を得ることとなっている.そのために品質,有効性,安全性が先発医薬品と同等であることを証明する必要があり,試験の一つとして生物学的同等性試験が行われる.この試験では血中濃度推移が先発医薬品と同等であれば,同等の臨床効果を発揮するという考えに基づいている.しかし,後発医薬品では先発医薬品と異なり患者に対する治験は行われておらず,臨床現場での眼圧下降効果と安全性が十分に検討されていない.そこで慢性進行性疾患である緑内障患者に長期間使用するのが妥当であるかは不明である.厚生労働省では医療保険財政の改善と患者負担の軽減に資するとして後発医薬品の使用促進を積極的に努めており,今後ますますさまざまな点眼薬の後発医薬品が使用可能になると思われる.今回,後発医薬品の定義として日本眼科学会のホームページの眼科用剤一覧表(先発品・後発品)を用いた.具体的には後発医薬品として区分されているものを後発医薬品とし,配合点眼薬は先発医薬品として解析した.一方,臨床現場で緑内障点眼薬の後発医薬品がどのように使用されているかを調査した報告はない.筆者らは緑内障薬物治療の実態に興味を持ち,2007年より多施設による緑内障患者実態調査を開始した9).2009年に第C2回10),2012年に第C3回11),そしてC2016年に第C4回緑内障患者実態調査を施行した12).今回,第C4回緑内障患者実態調査のなかで後発医薬品に着目して検討を行った.また,後発医薬品の使用について前回調査の結果11)と比較し,経年変化を合わせて検討した.CI対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同したC57施設において,2016年C3月C7日.13日に施行した.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数C4,288例C4,288眼,表1研究協力施設(57施設)北海道札幌市ふじた眼科クリニック板橋区江戸川区世田谷区荒川区世田谷区八王子市葛飾区さわだ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科社本眼科菅原眼科クリニックそが眼科クリニック多摩眼科クリニックとやま眼科宮城県仙台市鬼怒川眼科医院茨城県ひたちなか市日立市いずみ眼科クリニックサンアイ眼科さいたま市さいたま市石井眼科クリニックさいき眼科埼玉県吉川市幸手市たじま眼科・形成外科ふかさく眼科東京都文京区中央区中沢眼科医院中山眼科医院さいたま市やながわ眼科品川区小金井市荒川区江東区台東区新宿区千代田区江戸川区はしだ眼科クリニック東小金井駅前眼科町屋駅前眼科みやざき眼科もりちか眼科クリニック早稲田眼科診療所お茶の水・井上眼科クリニック西葛西・井上眼科病院千葉県千葉市山武郡船橋市松戸市千葉市船橋市習志野市あおやぎ眼科おおあみ眼科高根台眼科のだ眼科麻酔科医院本郷眼科みやけ眼科谷津駅前あじさい眼科千葉市吉田眼科横浜市鎌倉市眼科中井医院清川病院板橋区赤塚眼科はやし医院杉並区新宿区井荻菊池眼科いなげ眼科神奈川県横浜市大和市さいとう眼科セントルカ眼科・歯科クリニック荒川区うえだ眼科クリニック川崎市だんのうえ眼科クリニック調布市えぎ眼科仙川クリニック横浜市綱島駅前眼科東京都足立区足立区葛飾区国分寺市清瀬市えづれ眼科江本眼科おおはら眼科おがわ眼科清瀬えのき眼科静岡県伊東市ヒルサイド眼科クリニック福岡県遠賀郡福岡市いまこが眼科医院図師眼科医院熊本県宇土市むらかみ眼科クリニック国分寺市後藤眼科沖縄県沖縄市ガキヤ眼科医院文京区駒込みつい眼科(順不同・敬称略)男性C1,839例,女性C2,449例,年齢はC7.102歳,68.1C±13.0歳(平均C±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している患者では右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より使用薬剤のうち後発医薬品について解析を行った.さらにC2012年に行った前回調査の結果11)と比較した.具体的には単剤使用例,2剤使用例で,さらに各々でプロスタグランジン(PG)関連点眼薬,Cb遮断点眼薬の後発医薬品の使用を検討した.調査を行ったC2016年C3月に使用可能であった後発医薬品はCPG関連点眼薬ではイソプロピルウノプロストンC4製品,ラタノプロストC24製品,Cb遮断点眼薬ではチモロールマレイン酸塩C20製品,カルテオロール塩酸塩C6製品,ベタキソロール塩酸塩C2製品,ニプラジロールC5製品,レボブノロール塩酸塩C2製品,副交感神経刺激薬ではピロカルピン塩酸塩C2製品だった.配合点眼薬はC2剤として解析した.配合点眼薬はC2剤使用例では各々の成分に分けて検討した.その際に各成分は先発医薬品として解析した.なお,前回調査11)では配合点眼薬をC1剤として解析したので,今回調査と比較するにあたり,配合点眼薬をC2剤として再解析を行い使用した.比較にはCc2検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.CII結果1.使用薬剤数使用薬剤数は平均C1.7C±1.2剤で,その内訳は無投薬がC445例(10.4%),1剤がC1,914例(44.6%),2剤がC929例(21.7%),3剤がC598例(13.9%),4剤がC277例(6.5%),5剤が99例(2.3%),6剤がC24例(0.6%),7剤がC2例(0.05%)だった.点眼薬を使用している症例のうちC1剤でも後発医薬品を使用している症例はC348例(9.1%)だった.C2.後発医薬品の使用状況(単剤使用例)単剤使用例(1,914例)では,PG関連点眼薬がC1,414例(73.9%),b遮断点眼薬がC398例(20.8%),その他がC102例(5.3%)だった.先発医薬品がC1,695例(88.6%),後発医薬品がC219例(11.4%)だった.薬品別では,PG関連点眼薬では先発医薬品がC1,240例(87.7%),後発医薬品がC174例(12.3%),b遮断点眼薬では先発医薬品がC353例(88.7%),後発医薬品がC45例(11.3%)だった(図1).後発医薬品の使用はCPG関連点眼薬とCb遮断点眼薬で同等だった(p=0.6634).C表2調査票緑内障処方薬剤の一般名:<Cb遮断薬>1:水溶性チモロール,2:イオン応答ゲル化チモロール,3:熱応答ゲル化チモロール,4:カルテオロール,5:持続性カルテオロール,6:ベタキソロール,7:レボブノロール.<Cab遮断薬>9:ニプラジロール.<PG(プロスタグランジン)製剤>11:イソプロピルウノプロストン,12:ラタノプロスト,13:トラボプロスト,14:タフルプロスト,15:ビマトプロスト.<配合剤>17:ラタノプロスト/チモロール配合薬,18:トラボプロスト/チモロール配合薬,19:ドルゾラミド/チモロール配合薬,20:ブリンゾラミド/チモロール配合薬,21:タフルプロスト/チモロール配合薬.<点眼CCAI(炭酸脱水酵素阻害薬)>22:ドルゾラミド,23:ブリンゾラミド.<経口CCAI>24:アセタゾラミド.<Ca1遮断薬>25:ブナゾシン.<Ca2刺激薬>26:ブリモニジン.<ROCK阻害薬>27:リパスジル.<その他>28:ピロカルピン,29:ジピベフリン3.後発医薬品の使用状況(2剤使用例)2剤使用例(929例)では,PG/Cb配合点眼薬C267例(28.7%),PG関連点眼薬+b遮断点眼薬がC264例(28.4%),PG関連点眼薬+a2刺激点眼薬C101例(10.9%),炭酸脱水酵素阻害(CAI)/Cb配合点眼薬C93例(10.0%),PG関連点眼薬+CAI点眼薬C92例(9.9%)などだった.1剤でも後発医薬品を使用している症例がC70例(7.5%)先発医薬品のみ使用している症例がC859例(92.5%)だった.,PG関連点眼薬(1,414例)β遮断点眼薬(398例)PG関連点眼薬(768例)b遮断点眼薬(673例)図1後発医薬品の使用状況(単剤使用例)1剤でも後発医薬品を使用している症例のうち,2剤ともに後発医薬品を使用している症例がC12.8%(9例/70例)だった.薬剤別では,PG関連点眼薬(768例)では先発医薬品が700例(91.1%),後発医薬品がC68例(8.9%),b遮断点眼薬(673例)では先発医薬品がC662例(98.4%),後発医薬品が11例(1.6%)だった(図2).後発医薬品はCPG関連点眼薬がCb遮断点眼薬より多く使用されていた(p<0.0001).C4.後発医薬品の使用状況の前回調査との比較(単剤使用例)PG関連点眼薬は前回調査(5.4%)に比べて今回調査(12.3%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).b遮断点眼薬は前回調査(3.1%)に比べて今回調査(11.3%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).C5.後発医薬品の使用状況の前回調査との比較(2剤使用例)PG関連点眼薬は前回調査(4.6%)に比べて今回調査(8.9%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).b遮断点眼薬は前回調査(3.3%)と今回調査(1.6%)で後発医薬品使用は同等だった(p=0.0718).C6.後発医薬品使用量と導入施設の前回調査との比較点眼薬使用症例は前回調査C3,142例,今回調査C3,843例だった.1剤でも後発医薬品を使用している症例は前回調査C4.7%(149例/3,142例)に比べて今回調査C9.1%(348例/3,843例)で有意に増加した(p<0.0001).後発医薬品をC1症例でも使用している施設は前回調査C61.5%(24施設/39施設)と今回調査61.4%(35施設/57施設)で同等だった(p>0.999).前回調査,今回調査ともに参加したのはC37施設だった.37施設のうち点眼薬使用症例は前回調査C3,068例,今回調査C3,115例だった.1剤でも後発医薬品を使用している症例は前回調査C4.8%(148例/3,068例)に比べて今回調査C8.7%(272例/3,115例)で有意に増加した(p<0.0001).後発医薬品をC1症例でも使用している施設は前回調査C62.2%(23施設/37施設)と今回調査C64.9%(24施設/37施設)で同等だった(p>0.999).C図2後発医薬品の使用状況(2剤使用例)III考按後発医薬品は,再審査期間が終了し,特許が切れた先発医薬品に対して発売することができる.後発医薬品のメリットの一つは先発医薬品に比べて薬価が低いので,患者の負担は軽減することである13).そこで患者から後発医薬品を希望する場合や,健康保険組合より後発医薬品への切り替えを依頼してくる場合もある.それらの状況を踏まえて,現在の緑内障に対する後発医薬品の使用状況を調査することにした.薬剤処方に関しては,先発医薬品を必ず使用する場合には医師は処方箋の変更不可欄にチェックする必要がある.一方,チェックがない場合は調剤薬局で薬剤師が後発医薬品に変更することができる.そのため厳密には先発医薬品と後発医薬品のどちらが使用されているかはわからない場合もある.しかし,後発医薬品を使用する場合は,医師は薬剤を一般名で処方することが多いと考えられる.なぜならば一般名で処方することで一般名処方加算としてC2点加算できるからである.今回,単剤使用例とC2剤使用例における後発医薬品(PG関連点眼薬とCb遮断点眼薬)の使用を調査した.2剤使用例では後発医薬品の使用はCPG関連点眼薬がCb遮断点眼薬より有意に多かったが,これはCb遮断薬使用症例における配合点眼薬のC1成分としてのCb遮断点眼薬(先発医薬品として)の割合C53.5%(360例/673例)(内訳はCPG/Cb配合点眼薬39.7%(267例/673例),CAI/Cb配合点眼薬C13.8%(93例/673例))が,PG関連点眼薬使用症例における配合点眼薬のC1成分としてのCPG関連点眼薬(先発医薬品として)の割合C34.8%(267例/768例)(PG/Cb配合点眼薬のみ)より多いことが原因と考えられる(p<0.0001)(図2).つまり配合点眼薬の使用が多いため,配合点眼薬中のCb遮断薬が先発医薬品としてカウントされたことによる.前回調査との比較では単剤使用例ではCPG関連点眼薬,Cb遮断点眼薬ともに今回調査で後発医薬品使用が有意に増加した.経済性を考慮してC1剤目として後発医薬品を選択する症例や先発医薬品から後発医薬品へ変更する症例が増加したと考えられる.一方,2剤使用例では,後発医薬品の使用はPG関連点眼薬では今回調査で有意に増加したが,Cb遮断点眼薬では前回調査と同等だった.実際に今回調査ではCb遮断点眼薬やCPG関連薬が配合点眼薬のC1成分として入っている割合より有意に増加した.そして配合点眼薬のC1成分として入っている割合はCb遮断点眼薬(53.5%)がCPG関連点眼薬(34.8%)より多いことによると考えられる(p<0.0001).後発医薬品使用施設は前回調査と今回調査で同等だったが,使用量は前回調査より今回調査で有意に増加した.しかし,前回調査と今回調査では調査施設が異なるので前回調査,今回調査ともに参加したC37施設でも後発医薬品使用の検討を行った.その結果,後発医薬品を使用している施設数は有意に増加しておらず,増加数もC1施設と微増だった.しかし,後発医薬品の使用症例は増加しており,後発医薬品を使用する医師はその使用を増やしていると考えられる.一方,後発医薬品を使用していない医師が後発医薬品を使用するためには後発医薬品に先発医薬品以上のメリットがあることが重要である.後発医薬品の先発医薬品と比べて劣っている点として,①添加物の種類や添加量,製剤技術などは先発医薬品と後発医薬品,後発医薬品間で異なる.②医薬品卸会社の流通ルートへの整備がやや遅れている.③添付文書の記載内容を含め情報提供量は先発医薬品に比べて劣る.と報告されている14).後発医薬品の先発医薬品と比べて劣っていない点は,薬価が低く,調剤薬局窓口での支払額が減少することである.一方,後発医薬品のなかには,先発医薬品と異なり防腐剤フリーの製品もある.経済性だけでなく,角結膜への安全性を考えて防腐剤フリーの後発医薬品を使用する場合もある.過去に筆者らは防腐剤フリーのラタノプロスト点眼薬(後発医薬品)の良好な眼圧下降効果と安全性を報告した15,16).今後はこのように先発医薬品にはない特徴をもった後発医薬品を開発することで後発医薬品の使用が増加すると期待されている.今回,57施設に外来受診した緑内障,高眼圧症C4,288例の使用薬剤を調査し,そのなかから後発医薬品について検討した.後発医薬品は単剤例ではC11.4%,2剤例ではC7.5%で使用されていた.4年前に行われた前回調査と比較して後発医薬品の使用は増加しており,今後ますます増加が予想される.しかし,今後後発医薬品の眼圧下降効果と安全性を検討する必要がある.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の先生方に深く感謝いたします.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7.TherelationshipbetweencontrolofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal;fortheCIGTSStudyCGroup:InterimCclinicalCoutcomesCinCtheCCollabora-tiveCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudyCcomparingCinitialCtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mologyC108:1943-1953,C20014)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreat-edCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpressure.CAmJOphthalmolC126:487-497,C19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularCpressureCandCglaucomaCprogression:resultsCfromCtheCEarlyCManifestCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C20026)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetCal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20097)末武亜紀,福地健郎,田中隆之ほか:Patient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート.あたらしい眼科C29:969-974,C20128)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌C110:497-503,C20069)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査:薬物治療.あたらしい眼科C25:1581-1585,C200810)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版:薬物治療.あたらしい眼科C28:874-878,C201111)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査C2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科C30:C851-856,C201312)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C201713)冨田隆志,櫻下弘志,池田博昭ほか:緑内障治療用の配合点眼液のC1日薬剤費用評価.あたらしい眼科C29:1405-1409,C201214)池田博昭,塚本秀利:緑内障治療薬─後発品と先発品の比較.あたらしい眼科C25:57-58,C200815)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性.あたらしい眼科C28:1635-1639,C201116)井上賢治,岩佐真弓,増本美枝子ほか:正常眼圧緑内障に対する防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の長期投与による効果と安全性.眼臨紀C9:423-427,C2016利益相反:利益相反公表基準に該当なし

リパスジル点眼追加治療12カ月の成績

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):967.970,2018cリパスジル点眼追加治療12カ月の成績上原千晶新垣淑邦力石洋平與那原理子酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座CTwelve-monthResultofAdd-onTherapywithRipasudilOphthalmicSolutionChiakiUehara,YoshikuniArakaki,YouheiChikaraishi,MichikoYonaharaandHiroshiSakaiCDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus緑内障点眼加療中の患者で,リパスジル点眼追加治療を行ったC76例C105眼を後ろ向きに調査した.3カ月以上継続使用し経過を追えたC52例C79眼(原発開放隅角緑内障C40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼,平均点眼スコアはC3.7)の平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(下降率C10.6%)した.点眼スコアC3以下とC4以上では,それぞれC19.2CmmHgからC15.2CmmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,12カ月時点まで両群とも有意に眼圧下降した.リパスジル投与前眼圧C15CmmHg以上とC15CmmHg未満の比較ではC15CmmHg以上群では全時点で眼圧は下降(12カ月後下降率C14.5%)したが,15CmmHg未満群では全時点で有意な眼圧下降はなかった.3カ月以降継続群C79眼での点眼中止は眼圧下降不十分C14眼と副作用による中止C9眼の計C23眼(30.4%)であった.CInCaCretrospectiveCreviewCofC105CeyesCofC76CpatientsCwithCglaucomaCinsu.cientlyCcontrolledCunderCmultipleCmedicaltherapy,79eyesof52patientsweretreatedformorethan3monthswithtopicalRipasudiladd-onthera-py.CInCtheC79Ceyes,CintraocularCpressure(IOP)wasCreducedC10.6%Coverall.CIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCinCbothgroupsoflow(3orless)andhighscore(4ormore)ofanti-glaucomamedications.AmongeyeswithIOP15CmmHgorChigher,CIOPCreductionCwasCsigni.cantCatCallCtimeCpoints,CbutCthisCwasCnotCtheCcaseCinCeyesCwithCIOPClessCthan15CmmHg.23eyes(30.4%)discontinuedtheRipasudiladd-ontherapybecauseofinsu.cientIOPcontrolorocularsidee.ects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):967.970,C2018〕Keywords:緑内障,点眼,ROCK阻害薬,リパスジル,多剤併用.glaucoma,eyedrop,ROCKinhibitor,Ripa-sudil,multiplemedicaltherapy.CはじめにRhoキナーゼ阻害薬であるリパスジルは,線維柱帯細胞,Schlemm管内皮細胞の細胞骨格を修飾することにより,房水の主流出経路を促進し眼圧を下降させる1).既存の緑内障点眼薬と作用機序が異なるため,これまで眼圧下降が不十分であった症例に対しても効果が期待されているが,新しい薬剤であり,長期の効果と安全性の報告は少ない.今回,筆者らは既存の緑内障点眼薬で治療中であり眼圧下降が不十分でリパスジル点眼薬を追加投与した症例について,1年間の眼圧下降効果と安全性について後ろ向きに検討した.CI対象および方法当科にて緑内障治療中の患者のうち,眼圧下降が不十分と考えられ,2014年C12月.2016年C2月にリパスジル点眼薬1日C2回点眼を追加した症例はC106例C147眼である.3カ月以内の内眼手術既往のあるC9例C9眼,処方後C3カ月未満で転院,未来院となったC22例C33眼を除外したC76例C105眼を安全性解析対象とした.76例C105眼のうち,手術を前提として追加点眼しC2カ月以内に手術施行したのがC14例C14眼(レーザー線維柱帯形成術C2例C2眼,水晶体再建術C3例C3眼,濾過手術C9例C9眼),眼圧上昇による中止がC1眼,追加時または追加C2カ月以内に併用薬剤を変更したのがC10例C11眼であった.処方中止,または併用薬剤の変更となった上記の25例C26眼を除いたC55例C79眼を有効性解析対象とした(図1).追加前,追加後C1カ月,2カ月,3カ月,6カ月,12カ月の診察日時の眼圧を集計した.各時点で来院がなかったも〔別刷請求先〕上原千晶:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学部眼科学講座Reprintrequests:ChiakiUehara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(117)C967のはその月のみの欠損値とし,3カ月以降で点眼中止となった例はそれ以降の解析から除外した.全例で診察日朝の点眼は施行するよう指示されていた.統計には,リパスジル点眼薬の追加前と追加後それぞれの測定時期での眼圧は,対応のあるCt検定を,点眼スコア別,追加前眼圧別の眼圧下降値,下降率はCWilcoxonの符号付順位検定を用いた.CII結果眼圧解析対象のC55例C79眼は原発開放隅角緑内障(prima-ryopenangleglaucoma:POAG)40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼(落屑緑内障C6眼,ステロイド緑内障C5眼,ぶどう膜炎続発緑内障C3眼,血管新生緑内障C6眼)で,年齢C66.8C±14.0(30.86)歳,男性28例42眼,女性C24例C37眼,追加投与開始前眼圧C17.7C±4.7(12.38)mmHg,1点眼薬をC1点,アセタゾラミド内服をC2点としたときの点眼スコアC3.7C±1.0(1.5)点(1点:4眼,2点:4眼,3点:18眼,4点:44眼,5点:8眼,6点:1眼),Humphrey静的視野計CSITAスタンダードC24-2または30-2によるCMD値はC.14.0±7.1CdBであった.リパスジル点眼薬を追加後,眼圧はすべての期間で有意に下降した(図2).平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(C.2.1CmmHg,下降率C10.6%)した.点眼スコアがC3以下とC4以上の群の追加前と追加C12カ月後の平均眼圧は,それぞれC19.2mmHgからC15.2mmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,両群ともに有意に下降し10リパスジル(*p<0.05,対応のあるt検定)投与前1M2M3M6M12M(n=79)(n=77)(n=58)(n=77)(n=77)(n=52)下降値(mmHg)C2.0±4.0C1.4±3.0C1.6±4.3C2.3±3.7C2.1±3.9下降率(%)C9.1±16.1C7.2±17.1C6.3±17.8C11.1±16.5C10.6±21.0図2眼圧の推移(全体)C968あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(118)眼圧(mmHg)2422201816141210リパスジル1M2M3M6M12M追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)スコア3以下(n=26)(n=25)(n=14)(n=24)(n=26)(n=15)スコア4以上(n=53)(n=52)(n=44)(n=53)(n=51)(n=37)下降率(%)スコアC3以下C10.1±16.9C10.6±11.7C12.1±18.3C13.9±18.4C14.2±16.8スコアC4以上C8.6±16.1C6.1±18.6C3.7±17.2C9.7±15.6C9.2±22.7図3点眼スコア別眼圧の推移24眼圧(mmHg)22201816141210リパスジル追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)15mmHg以上(n=59)(n=58)(n=41)(n=58)(n=57)(n=35)15mmHg未満(n=20)(n=19)(n=17)(n=19)(n=20)(n=17)下降率(%)15CmmHg以上C11.6±15.7C8.0±18.2C8.9±18.2C12.4±15.7C14.5±20.815CmmHg未満C1.5±15.9C5.1±14.9C.1.8±14.3C7.4±18.8C2.3±20.0C図4リパスジル追加前眼圧別眼圧の推移はC9眼で,そのうちC4眼は眼瞼炎によるものであり,すべて投与後C6カ月以降に出現していた.掻痒感はC2眼がC3カ月に,3眼がC6カ月以降に出現していた.投与開始C3カ月後以降継続群C79眼のうちC12カ月までの点眼中止例はC23眼(30.4%;95%CCI,C20.2.40.5%)であり,内訳は眼圧下降不十分14眼(17.7%;95%CCI,C9.3.26.1%),前述した副作用による中止例C9眼であった.12カ月時点での未来院のC4眼は分母から除外した.眼圧下降不十分C14眼の内訳は点眼変更C4眼,併用薬変更C6眼,緑内障手術追加C2眼,レーザー治療追加C2眼であった.CIII考察Taniharaら2)はCPOAG,落屑緑内障,高眼圧症を対象としたリパスジル点眼追加治療C1年の前向き研究においては,プロスタグランジン製剤(PG)+b遮断薬に追加したときにおけるC12カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率C9.9%)であったと報告した.また,多剤併用例におけるC3カ月の下降効果は,塚原ら3)の報告では下降率C9.3%,Inazaki4)らは下降値C2.8mmHg(下降率C15.5%),またCSatoら5)の報告の6カ月では下降値C3.1CmmHg(下降率約C15%)であった.今回の結果は平均点眼スコア3.7,12カ月の眼圧下降値C2.1mmHg(下降率C10.6%)と過去の報告とほぼ同様であった.(119)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C969追加前眼圧がC15mmHg以上の群では,眼圧下降値は14CmmHg以下の群と比べて有意に大きかったと中谷ら6)の報告がある.今回は眼圧下降が不十分で投薬を中止された例を除いた検討であったが,追加前眼圧C15CmmHg以上の群ではC12カ月において有意な眼圧下降を認めたが,15CmmHg未満の群では有意な眼圧下降はなかった.一方,術前点眼数にかかわらず眼圧下降が観察されたが,これはリパスジルが房水の主流出経路に作用し,既処方薬とは異なる作用機序であるためと考えられた.リパスジルの副作用は,処方後C2.3カ月以上経過して発症する眼瞼炎7),アレルギー性結膜炎や眼瞼炎(中止例は14.4%)2)の報告がある.今回の検討でも同様の結果であった.病型ごとの検討は症例数が少なく行っておらず,眼圧測定時間にも幅があることは後ろ向き研究であるための限界である.今回の検討は多剤併用の多い緑内障専門外来での検討であったため,眼圧下降不十分や副作用などで約C3割の症例で処方を中止した.より少ない点眼数で検討した臨床研究と後ろ向きの症例検討との相違であると考えられた.したがって,今回の結果を軽症例のより多い一般臨床現場に当てはめることはできない.より少ない併用数の症例を対象とした検討が必要である.病型別の検討ができなかったことも課題であり,今後症例数を増やして検討する必要がある.CIV結論リパスジル点眼薬は多剤併用例に対しても併用薬の数にかかわらず眼圧下降効果があり,追加前眼圧C15CmmHg以上の症例において有効であった.長期使用では眼瞼炎などの副作用に注意が必要である.利益相反:酒井寛(カテゴリーCP:トーメーコーポレーション)文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20163)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬による眼圧下降効果の検討.臨眼71:611-616,C20174)InazakiCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCtheCadditionalCuseCofCripasudil,CaCrho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsCwithCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximummedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C20175)SatoCS,CHirookaCK,CNaritaCECetCal:AdditiveCintraocularCloweringCe.ectsCofCtheCrhoCkinaseCinhibitor,CripasudilCinCglaucomaCpatientsCnotCableCtoCobtainCadequateCcontrolCafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,C20166)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼薬の追加処方.あたらしい眼科C33:1063-1065,C20167)富重明子,齋藤雄太,高橋春男:開放隅角緑内障に対するリパスジル点眼薬の短期的な眼圧下降効果.臨眼C71:1105-1109,C2017***970あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(120)

緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):962.966,2018c緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響小竹修丸山勝彦禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectivenessofSurgicalTreatmentinReducingtheBurdenofEyedropInstillationPerceivedbyPatientswithGlaucomaOsamuKotake,KatsuhikoMaruyama,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity緑内障手術が施行された症例C53例(平均年齢:63.2±15.0歳)に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.術前後の点眼の煩わしさを記入方式で調査し,煩わしさの変化に影響する臨床因子を検討した.術前に使用していた点眼薬の本数はC3.1±1.0(レンジ:1.5)本,点眼回数はC5.9±3.0(1.13)回で,59%の症例は点眼行為を煩わしいと感じていた.術後,点眼本数はC1.7±0.7(0.4)本,点眼回数はC3.1±2.0(0.8)回と術前に比べ有意に減少し(p<0.0001),72%の症例は点眼の煩わしさが軽減したと回答した.その理由として,点眼本数が減ったことや副作用が減ったとする回答が多かった.手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が日頃感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減できる可能性がある.CWeinvestigatedthein.uenceofsurgicaltreatmentontheburdenofeyedroptreatmentperceivedbyglauco-mapatients.Toeachof53patientsstudied(meanage63.2±15.0years),aquestionnaireontheburdenofinstilla-tionwasadministeredbeforeandaftertheoperation.Aftersurgery,themeannumberofeyedropsuseddecreasedsigni.cantlyCfromC3.1CtoC1.7,CandCtheCmeanCnumberCofCinstillationsCdecreasedCfromC5.9CtoC3.1(p<0.0001),C59%Cofthepatientsfeelingthatinstillationwasburdensomebeforetheoperation.Aftertheoperation,however,72%ofthesubjectsrespondedthattheburdenwasreduced.Thereasonsgivenweredecreaseinnumberofeyedropsused,andreductionofadversee.ects.Eyedropnumberreductionbysurgerymaymitigatetheburdenofmedicalthera-pyperceivedbyglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):962.966,C2018〕Keywords:緑内障,手術療法,薬物療法,煩わしさ,アンケート.glaucoma,surgicaltreatment,medicaltreat-ment,burden,questionnaire.Cはじめに現在,緑内障に対する治療としては何らかの眼圧下降処置が行われ,その手段はおもに点眼薬を中心とした薬物療法と手術療法からなる.このなかで,多くの症例に行われている薬物療法は治療の成功に患者のアドヒアランスが影響し1,2),アドヒアランスが不良であるほど視機能が悪化しやすいことが報告されている3.5).また,多剤併用療法となった場合にはさらにアドヒアランスは低下することが知られている6.8).すなわち,緑内障が進行すると多剤併用療法が必要となり,結果としてアドヒアランスが低下し,さらに緑内障が進行するという悪循環を招くことになる.一方,手術療法にも合併症による視機能低下をきたす可能性があること,眼圧下降が確実とは言い難いこと,どこの施設でも行うことができる治療方法ではないことなど,いくつかの欠点がある.しかし,手術によって十分な眼圧下降が得られ,緑内障点眼薬を中止,あるいは減少させることができ〔別刷請求先〕小竹修:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:OsamuKotake,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN962(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C9620910-1810/18/\100/頁/JCOPYれば,点眼治療の煩わしさを軽減させアドヒアランス改善に貢献できる可能性がある.したがって,点眼治療に対するアドヒアランスに不安がある症例に対しては積極的に手術の適応を考慮してもよいと考えられるが,それを裏付ける検討は今のところ行われていない.本研究は,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケートを行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさが手術療法によってどの程度変化するかを調査して,結果に影響する因子を検討することを目的とした.CI対象および方法対象は過去にC6カ月以上点眼治療が行われていた緑内障患者で,緑内障手術が施行された後,6カ月以上が経過した53例(男性C31例,女性C22例)である.なお,緑内障病型や施行された緑内障手術の術式(白内障手術との同時手術か否かを含む),緑内障手術前後に行われた白内障手術の既往の有無は問わないものとした.また,緑内障手術を複数回施行されている症例や,緑内障術後に白内障以外の疾患に対して手術が施行された症例は対象から除外した.さらに,両眼に緑内障を有する症例の場合,片眼のみ手術を行い僚眼は点眼治療を継続している症例は点眼治療の煩わしさを患者単位で評価するのは困難と考え対象から除外し,両眼とも手術が施行されている症例のみを組み入れた.本研究は東京医科大学医学倫理委員会の承認を受け,患者に本研究の主旨を説明し,同意を得たうえで行った.対象の背景を表1に示す.年齢はC63.2C±15.0歳(25.82歳)で,病型は狭義原発開放隅角緑内障C27例,正常眼圧緑内障C9例,原発閉塞隅角緑内障C2例,落屑緑内障C6例,ぶどう膜炎続発緑内障C9例で,片眼のみが緑内障であったのがC9例,両眼とも緑内障であったのがC44例であった.また,施表1対象の背景年齢C63.2±15.0歳(C25.C82歳)病型狭義原発開放隅角緑内障27例正常眼圧緑内障9例原発閉塞隅角緑内障2例落屑緑内障6例ぶどう膜炎続発緑内障9例片眼/両眼9例C/44例術式線維柱帯切除術90眼線維柱帯切開術6眼アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術1眼眼圧術前C22.4±7.5CmmHg(12.5C4mmHg)アンケート調査時C10.7C±3.6CmmHg(3.2C6mmHg)平均±標準偏差(レンジ)(113)行された術式は線維柱帯切除術C90眼,線維柱帯切開術C6眼,アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術C1眼であった.なお,32眼は白内障との同時手術が行われ,4眼には緑内障手術前に,5眼には緑内障手術後に白内障手術が施行されていた.術前の眼圧はC22.4C±7.5CmmHg(12.54CmmHg),アンケート調査時の眼圧はC10.7C±3.6CmmHg(3.26CmmHg)であった(両眼手術例の場合,両眼を含めた延べ眼での値).アンケートの内容を表2に示す.術前に本人が自覚していた点眼の煩わしさと点眼アドヒアランスについて質問し,術後の点眼の煩わしさの改善度を問い,その理由を回答していただいた.なお,アンケートは自己記入方式で行った.手術からアンケート調査までの期間はC33.4C±31.1カ月(6.111カ月)であった.次に,診療録をもとにデータを収集し,緑内障点眼薬のみならず,すべての点眼薬の本数,点眼回数を手術前,手術後で比較した.なお,配合点眼薬はC1剤C1本と集計した.ま表2緑内障手術前後の点眼治療の煩わしさに関するアンケート調査<手術をお受けになる前のことをお尋ねします>1.目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?□思っていた□少し思っていた□あまり感じていなかった□まったく感じていなかった2.目薬は決められた通りに点眼していましたか?□欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)□ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)□だいたい決められた通りに点眼していた(忘れるのはC1カ月に2.3回)□忘れることが多かった(忘れるのはC1週間に1.2回)□決められた通りに点眼できなかった(忘れるのはC1週間にC3回以上)<手術をお受けになった後のことをお尋ねします>3.目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?□かなり軽減された□少し軽減された□変わらない□少し負担が増えた□かなり負担が増えた4.その理由は何ですか?患者さまによって目薬の本数や点眼する回数が減った方も増えた方もいらっしゃると思いますが,ご自分に当てはまる回答をしてください(複数回答可)□目薬の本数が減ったから/増えたから□点眼する回数が減ったから/増えたから□目薬の副作用が減ったから/増えたから□目薬の種類が変わったから□その他()あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C963表3術前後の点眼薬の本数と点眼回数術前術後p*全点眼薬本数C点眼回数C3.1±1.0本(1.5本)C5.9±3.0回(1.1C3回)C1.7±0.7本(0.4本)3.1±2.0回(0.8回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬本数C点眼回数C2.7±0.9本(1.4本)C4.4±1.9回(1.9回)C0.2±0.5本(0.2本)0.4±1.2回(0.5回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬以外本数C点眼回数C0.4±0.7本(0.3本)C1.5±2.4本(0.8本)C1.5±0.6本(0.3本)2.6±1.8本(0.8本)<C0.0001C0.0008た,点眼アドヒアランスと煩わしさはアンケートの結果を点数化して評価し,煩わしいと感じている理由をアンケート調査の結果から考察した.さらに,煩わしさの変化に影響する臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数)をCSpearman順位相関係数で検討した.統計解析は対応のあるCt-検定を用い,p<0.05を統計上有意とした.CII結果術前後の点眼薬の本数と点眼回数を表3に示す.術前に使用していたすべての点眼薬の本数,点眼回数は,術後有意に減少し,眼圧下降薬に限った検討でも同様であった.一方,眼圧下降薬以外の点眼薬は,本数,点眼回数とも術後有意に増加し,その内容は,術前はドライアイ治療薬や抗アレルギー薬が多く,術後は副腎皮質ステロイドや抗菌薬が主であった.なお,白内障手術との同時手術例,ならびに白内障手術追加例のなかで,アンケート調査時に非ステロイド性抗炎症薬を継続していた症例はなかった.また,ぶどう膜炎続発緑内障症例のなかで,術後ぶどう膜炎の炎症発作が原因で副腎皮質ステロイドが投与されているものはなかった.患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳を図1に示す.手術を受ける前に「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?」という問いに対し,59%の症例が「思っていた」「少し思っていた」と回答した.術前の点眼アドヒアランスの内訳を図2に示す.手術を受ける前に「目薬は決められた通りに点眼していましたか?」という問いに対し,多くの症例は「欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)」「ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)」と回答し,忘れると答えた方はほとんどいなかった.術後の点眼の煩わしさの内訳を図3に示す.手術を受けた後,「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」という問いに対して,72%の症例が「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答し,負担が増えたと答えた方はほとんどいなかった.質問C3で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答した症例(38例)の煩わしさが軽減した理由を図4に示す.「目薬の本数が減ったから」「目薬の副作用が減ったから」と回答したものが多かった.その他の理由として,「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼はまったく気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」という回答もみられた.質問C3によって得られた術後の点眼に関する煩わしさの変化と,臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数,術前後の点眼本数の差,術前後の点眼回数の差)との関係を表4に示す.今回検討した各項目のなかには,煩わしさの改善度に相関する臨床因子はなかった.CIII考按本研究では,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.その結果,まず,自己申告による術前の点眼アドヒアランスの評価では,8割以上の患者が欠かさず,あるいは,ほぼ欠かさず点眼をしていた.これまで緑内障患者の点眼アドヒアランスに関して,アドヒアランス良好な症例は自己申告では82.97%9.11)であるのに対して,モニター監視などの他覚的評価ではC51.59%10,11)と報告されており,自己申告では現実を上回る結果となることがわかっている12).本研究で点眼アドヒアランスが良好であったのは,対象が手術適応のある症例であり,点眼遵守による手術の回避を期待した結果である可能性や,診療に携わっている医師が直接アンケートを依頼した影響が考えられる.また,過去の点眼状況を手術後に振り返った調査であったため,過大評価につながった可能性も否定できない.本研究では約C7割の症例が術後の点眼の煩わしさが軽減したと回答したが,その理由として点眼薬の本数が減少したこ(114)まったく感じていなかった11%思っていた25%あまり感じていなかった30%少し思っていた34%図1患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか」少し負担が増えたかなり負担が増えた2%0%変わらない26%かなり軽減された57%少し軽減された15%図3術後の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」表4術後の点眼する煩わしさの変化と臨床因子との関係相関係数p値年齢C0.13C0.36性別C.0.08C0.58緑内障病型C0.25C0.07術式C.0.01C0.97術前本数C.0.01C0.95回数C.0.02C0.92術後本数C0.12C0.40回数C0.14C0.31術前後本数の差C.0.10C0.49回数の差C.0.04C0.76(Spearman順位相関係数)とがあげられた一方で,点眼回数が減ったことを理由としてあげた症例は少なかった.点眼薬の本数が減少すれば結果的に点眼回数も減少するにもかかわらず,回数の減少が点眼する煩わしさの改善の理由になっていない結果を考えると,多剤併用療法そのものが「多くの点眼薬を使用しなければならない」という患者の精神的負担になっている可能性がある.一方,副作用が減少したことが煩わしさの改善の理由となっ(115)忘れることが多かった決められた通りに点眼できなかった(忘れるのは1週間に1~2回)(忘れるのは1週間に3回以上)目薬の種類その他5%目薬の副作用が減ったから36%目薬の本数が減ったから45%点眼する回数が減ったから8%その他:「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼は全く気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」「特にない」図4術後,点眼する煩わしさが軽減した理由「目薬を点眼する煩わしさが軽減された理由は何ですか?」(複数回答可)(質問C3(図C3)で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答したC38例C72%の結果)ているのは,角膜上皮障害や点眼アレルギーなどの副作用からも解放されたためと考えられることから,点眼薬による副作用が生じ,かつ点眼が煩わしいと感じている症例に対しては,手術療法をより積極的に考慮してもよい可能性がある.今回,手術療法により点眼薬の本数,点眼回数は減少したが,点眼の煩わしさの改善度は術前後の点眼本数,点眼回数,そして術前後の差と,いずれも相関しない結果となった.本研究の対象は,緑内障手術によってある程度の眼圧下降が達成されている症例が多く,手術によって十分な眼圧下降が得られたことが患者に満足感や達成感を与え,ポジティブな心理状態につながったと考えられる.本研究にはいつくかの問題点があるが,その主たるものは選択バイアスである.まず,緑内障手術の術式によっては術あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C965後も何らかの点眼薬の併用が必要となるが,本研究の対象の多くは線維柱帯切除術が施行されており,点眼薬が中止できた症例が多く含まれている.また,術後の投薬内容は治療効果や合併症発生の有無でも変わってくるが,本研究ではこれらについての検討は行っていない.さらに今回は,両眼とも手術を施行された症例のみを対象に組み入れたが,片眼には手術を行って,もう片眼は薬物療法で経過観察しているような,臨床的には多くみられる症例が組み入れられていない可能性がある.その他にも本研究では,複数回手術例や白内障以外の眼疾患の手術既往例といった,いわゆる難治例も対象から除外していることや,術前の点眼状況を手術後に振り返った調査であるなどの問題点がある.以上より本研究の対象は実際の臨床像と異なっている点は否定できず,今回の結果が緑内障手術全般に当てはまるとは断言できない.以上のような問題点はあるが,手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減することができる可能性があることを明らかにすることができた.今後はまず術前にアンケート調査を行い,術後一定期間の後に再度アンケートを行って縦断的に評価し,また多数の術式を対象として手術成績を加味した検討を行っていく必要があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SchwartzCGF,CQuigleyCHA:AdherenceCandCpersistenceCwithCglaucomaCtherapy.CSurvCOphthalmolC53:S57-S68,C20082)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCE:PersistenceCandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOph-thalmolC140:598-606,C20053)ChenCPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20034)StewartCWC,CChorakCRP,CHuntCHHCetCal:FactorsCassoci-atedwithvisuallossinpatientswithadvancedglaucoma-tousCchangesCinCtheCopticCnerveChead.CAmCJCOphthalmolC116:176-181,C19935)DiMatteoCMR:VariationsCinCpatientsC’CadherenceCtoCmedi-calCrecommendations:aCquantitativeCreviewCofC50CyearsCofresearch.MedCareC42:200-209,C20046)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJ:DeterminantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientpopulation.JGlaucomaC18:238-243,C20097)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCD:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtechnique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20118)高橋真紀子,内藤知子,溝上志郎ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科C29:555-561,C20129)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行:緑内障点眼患者のアドビアランスに影響を及ぼす因子.あたらしい眼科C29:993-997,C201210)NorellSE,GranstromPA,WassenR:AmedicationmoniC-torCandC.uoresceinCtechniqueCdesignedCtoCstudyCmedica-tionbehaviour.ActaOphthalmologyC58:459-467,C198011)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼C40:731-734,C198612)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetCal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C2007***(116)

強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):957.961,2018c強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術藤尾有希*1中倉俊祐*1野口明日香*1松谷香奈恵*1小林由依*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)ScleralRotating:ASurgicalTechniqueforCoveringGlaucomaDrainageImplantTubesYukiFujio1),ShunsukeNakakura1),AsukaNoguchi1),KanaeMatsuya1),YuiKobayashi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity目的:緑内障インプラント手術後,結膜からのチューブ露出が問題となる.今回パッチ素材を用いず,自己強膜を反転する方法でチューブ被覆を行ったので報告する.対象および方法:初回緑内障インプラント手術を強膜反転法で施行した,難治性緑内障患者C14例C15眼を後ろ向きに調べた.全例術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2歳,平均観察期間はC12.0カ月であった.強膜反転法はチューブを眼内に挿入し固定後,チューブ横,左右どちらかに四角形の強膜半層切開を行い,それを反転させてチューブを覆う方法である.結果:眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHgから最終診察時C16.8C±11.5CmmHgへ有意に低下していた.強膜反転法ではプレート近くまでチューブを覆うことが可能であった.観察期間中結膜乖離やチューブの露出はC1例もなかった.結論:強膜反転法は簡便で大きさも任意に決定でき有用であった.CPurpose:Wereportontheshort-terme.ectsof“ScleralRotating,”asurgicaltechniqueforcoveringglauco-madrainageimplanttubes.Methods:Thiswasaretrospective,consecutivecaseseriesof15refractoryglaucomaeyesthatunderwentinitialglaucomatubeimplantationusingtheScleralRotatingtechnique.Meanpatientagewas61.2Cyrs;meanCobservationCperiodCwasC12.0Cmo.CTheCScleralCRotatingCtechniqueCwrapsCtheCimplantCtubeCwithCaCself-sclera,CformedCbesideCtheC.xedCtubeCbyCcuttingCaChalf-layerCofCscleraCtoCtheCpreferredClengthCandCsize.CResults:IntraocularCpressureCreducedCfromC39.4C±10.1CmmHgCtoC16.8±11.5CmmHgConCfollow-up.CUsingCthisCtech-nique,CweCcoveredCtheCtubeCnearCtheCplate,CwithCnoCtubeCexposureCinCallCpatients.CConclusion:ScleralCRotatingCisCaneasyandusefultechniquethatdoesnotrequirepatchgraftmaterial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):957.961,C2018〕Keywords:強膜,緑内障,インプラント手術,パッチグラフト,チューブ露出.sclera,glaucoma,implant,patchgraft,tubeexposure.Cはじめに緑内障インプラント手術後のチューブ露出は,術後いつでも起こりうる.臨床的特徴は,結膜充血,異物感,光視症,虹彩炎や低眼圧でありチューブ露出は眼内炎につながる1).パッチ材料としては,保存された強膜や角膜,自己または加工処理された強膜などさまざまな材料が使用されている.前向き研究ではチューブ露出はC5年間の経過観察でC1.5%と報告されている2.4).しかし,後向き研究ではC5.8.8.3%の高い発生率がパッチ素材にかかわらず報告されている5.7).明白なチューブ露出の原因は今のところ不明だが,機械的な刺激や8)異物に対する免疫反応など9)とされている.また,パッチ素材はその費用や感染症のリスク,ならびに外見上の問題点がつきまとう.その問題を克服するためにCAslanidesらはC1999年に最初に自己強膜の反転によるチューブ被覆術を報告した10).この方法は非自己パッチ素材を用いず,採取したフリーの自己強膜をパッチする方法よりも簡便で,チューブ露出の可能性が低いことが報告されている11).今回筆者らは日本でなじみのないこの方法を修正し,チューブの根元まで覆うように工夫した(図1)緑内障インプラント手術を施行したので,その結果を報告する.〔別刷請求先〕藤尾有希:〒671-1227兵庫県姫路市網干和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YukiFujio,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPAN図1強膜半転法のシェーマAslanidesらの方法(3C×3Cmm)を変法し,強膜を半層切開しできるだけプレート付近まで覆うようにした.I対象および方法この研究はツカザキ病院(以下,当院)倫理委員会の承認を得て行われ,UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)臨床試験登録され(登録番号;UMIN000025504),ヘルシンキ宣言に準じて行われた.強膜反転法を初回の緑内障インプラント手術で施行した連続患者C14例C15眼を後ろ向きに調査した.術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2C±19.7歳(範囲34.89歳),男性C12名,女性C2名,右眼C9眼,左眼C6眼であった.原疾患は血管新生緑内障C11眼,落屑緑内障C2眼,開放隅角緑内障C1眼,続発緑内障C1眼であった.インプラント手術前の内眼手術歴(施行合計数)は抗CVEGF硝子体注射(25),眼内レンズ挿入術(15),硝子体手術(15),トラベクレクトミー(3),トラベクロトミー(3),全層角膜移植(2)であった.バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCRCGlaucomaImplant)(エイエムオー・ジャパン社):BG101-350をC9眼,アーメド緑内障バルブ(AhmedCTMGlaucomaCValve)(New-WorldCMedical社):ModelCFP7をC6眼に用いた.インプラントの設置部位は耳上側がC14例,鼻下側がC1例であった.鼻下側に挿入したC1例は全層角膜移植術症例で,耳下側にトラベクロトミー手術痕,上方結膜の菲薄化があったために同部位に設置した.硝子体腔内チューブ挿入例はC12例,前房内チューブ挿入例はC3例であった.硝子体手術施行例は角膜内皮障害を考慮し12),基本的に硝子体腔内に挿入した.強膜反転法術式手術は全例CTenon.麻酔で行った.従来の方法どおり,イニシエーションを行い輪部からC9.10Cmmの外直筋間にBG101-350とCModelCFP7のプレートを固定した.BG101-350はC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC2.3カ所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.前房内固定の場合:輪部から約C2CmmのところでC23CGCVランスで穿刺後,前房内に長さC2.3Cmm挿入できる程度にカットしたチューブ先端を挿入し,先に固定する(図2a).次にチューブの長さや方向を考慮しながら,両側の空いている強膜に四角形の反転用強膜をデザインする.このときなるべくプレート近くのチューブまで覆えるようにデザインした.予定切開範囲が決まれば強膜を半層切開し(図2b),チューブぎりぎりまで切開し対側に折り返せるようにする(図2c).折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜に固定し終了する(図2d).その後,なるべくCTenon.を前転してチューブの部位を覆い隠すようにし,結膜を縫合して終了した.硝子体腔固定の場合:輪部から約C4CmmのところでC23CGVランスで穿刺後,硝子体腔に約C4Cmmでるように長さを調節したチューブ先端を挿入,先に固定する(図3a).バルベルトタイプの場合,本来,毛様体扁平部挿入タイプとされるBG102-350があるが,Ho.mannCelbowは大きく強膜反転法にはむかない.Ho.mannelbowは脱出する頻度が高いことが知られており13),当院では前房内挿入用であるCBG101-350の先端の長さを調節し挿入した.その後,方法は前房内固定の場合と同じである(図3b~d).手術はすべて単一の術者が行い,術中,術後代謝拮抗薬は使用しなかった.眼圧はすべてCGoldmann眼圧計にて測定した.術後点眼はベタメタゾンC0.1%とレボフロキサシンC1.5%をC1日C4回約1カ月間投与した.CII結果眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHg(22.59CmmHg)から最終診察時C16.8C±11.5CmmHg(2.51CmmHg)へと有意に低下していた(p<0.001,対応あるCt検定).緑内障点眼薬の本数は,配合剤をC2,アセタゾラミド内服をC1とすると,術前C3.2±1.4本(0.6本)から最終観察時C0.8C±1.3本(0.4本)と有意に減少していた(p<0.001,対応あるCt検定).平均観察期間はC12.0カ月(7.19カ月)で,その期間中チューブの露出はC1例もなかった.血管新生緑内障患者のうちC2例は術後硝子体出血を発症した,1例は硝子体手術を施行し最終眼圧はC15CmmHgと落ち着いた.もうC1例は硝子体手術が困難なほどの硝子体出血と前房出血を術後C6カ月目で発症し,眼圧は上昇し失明に至った.最終診察時眼圧はC51mmHgであった.術後早期の脈絡膜.離や,感染症などは図2前房内固定の場合a:チューブ先端を輪部からC2Cmmのところで前房内にチューブを固定後(.),チューブの両サイドの強膜で,できれば厚いほうを選んで切開デザインを作成する.Cb:強膜を半層切開しチューブぎりぎりまで切開を進める.Cc:強膜を反転しチューブを覆えるか確認する.できれば少しチューブと強膜の間にスペースがあるほうがいい.Cd:折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜固定する.C認めなかった.最終観察時の前房内固定タイプと硝子体内固定タイプの前眼部写真と前眼部三次元画像解析(SS-1000(TomeyCorp,Nagoya,Japan)を提示する(図4,5).図4はC68歳,男性,落屑緑内障(左眼)でバルベルト(BG101-350)を前房内挿入した.術後C8カ月目の前眼部写真と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真を提示する.反転した強膜に覆われたチューブは白い隆起として観察され(図4a),前眼部三次元画像解析では反転した強膜と結膜の境目を高反射として観察された(図4b).図5はC79歳,男性,血管新生緑内障(右眼)で隅角はC360°完全閉塞していた.硝子体手術の既往があったため,バルベルト(BG101-350)を輪部からC4Cmmで硝子体腔に挿入した.術後C4カ月目の前眼部写真(図5a)と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真(図5b)を提示する.反転した強膜に覆われたチューブを観察できる.前眼部三次元画像解析では硝子体腔に滑らかに挿入されていることが確認できた.CIII考察今回筆者らは,Aslanidesらが報告した強膜反転法を用いた緑内障チューブインプラント手術を施行し,短期間ではあるが経過観察期間において良好な成績を得られた.原法ではC1/3層の強膜切開で3C×3mmの長さであり,チューブ全体を覆うことができない.一般的に前房内固定の場合では挿入部位からプレート根部までの距離は約C7.8mm,硝子体腔固定の場合,約C5.6Cmmもある.そのためこの方法を修正し,パッチした強膜が薄くならないように半層切開して,なるべくプレート近くまで長方形に反転強膜をデザインしチューブを覆った(図1~3).Wolfらは,自己強膜を使うメリットは免疫反応がない(異物でない)ことと,パッチ素材の色が本人の強膜と同じ色であるため外見上よいこととしている11).さらに自己遊離強膜パッチ法と比べた強図3硝子体腔固定の場合a:チューブ先端を輪部からC4Cmmで硝子体腔に固定する.Cb~d:以後前房型と同じ手技だが,硝子体固定のほうが前方に強膜が広範囲にありデザインしやすい.C図4前房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C8カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブは明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.内腔もよく視認できる.C膜反転法のメリットとして,強膜への血流が保たれるため,ーブの形に沿って隆起した強膜反転フラップが観察され,美より強膜が溶けにくくチューブの露出の可能性が低いとして容上の問題は良好であった(図4,5).大きなパッチ素材でいる.術後筆者らの症例でチューブ露出を生じた症例はC1例覆うとチューブの走行が不明で,術後に硝子体手術が必要なもないが,Wolfらはチューブ露出が術後C55カ月で,強膜反場合はポートの作製部位に注意が必要であるが,強膜反転法転法ではC2.1%(推定),自己遊離強膜パッチ法でC8.9%であではその必要はないと思われる.ったと報告している11).最終観察時での前眼部写真ではチュチューブ露出の危険因子はさまざま報告されており,たば図5後房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C4カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブ内腔は明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.こ7),ドライアイ7),落屑緑内障7),マイトマイシンCCの利用13),同時手術7,14),白人6),女性6)などがある.一方で糖尿病や高血圧など全身の合併症は危険因子でないとされている6,7,13,14).今回筆者らの症例は血管新生緑内障が多かった.血管新生緑内障を危険因子とする報告もある15)ため,今後の注意は必要である.移植したパッチ素材の違い(強膜,硬膜,心膜)はチューブ露出に関係ないとされている9).強膜反転法以外に自己強膜を利用する方法としては,長い強膜トンネルを作製し,その中にチューブを通す方法や16,17)C6×6Cmmの半層強膜下に設置する方法がある.筆者らの方法では全層の強膜を通してチューブを挿入するので,チューブの変位が生じにくいと予想されるのもメリットである.また,筆者らが用いたように,手術中にできるだけCTenon.を前転しておくことは結膜と強膜もしくはパッチ素材が直接触れ合うことを避けチューブ露出の防止に有効である17).今後長期的な経過観察が必要であるが,強膜反転法はパッチ素材を用いずに施行でき,簡便で大きさも任意に決定でき有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmol28:194-198,C20172)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetCal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmol163:75-82,C2016(111)4)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetCal:TheCAhmedversusCBaerveldtCstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetCal:GlaucomadrainageCdevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20156)MuirKW,LimA,StinnettSetal:Riskfactorsforexpo-sureofglaucomadrainagedevices:aretrospectiveobser-vationalstudy.BMJOpenC4:e00456,C20147)TrubnikCV,CZangalliCC,CMosterCMRCetCal:EvaluationCofCriskCfactorsCforCglaucomaCdrainageCdevice-relatedCero-sions:ACretrospectiveCcase-controlCstudy.CJCGlaucomaC24:498-502,C20158)HeuerCDK,CBudenzCD,CColemanCA:AqueousCshuntCtubeCerosion.JGlaucomaC10:493-496,C20019)SmithCMF,CDoyleCJW,CTicrneyCJWCJr:ACcomparisonCofCglaucomaCdrainageCimplantCtubeCcoverage.CJCGlaucomaC11:143-147,C200210)AslanidesCIM,CSpaethCGL,CSchmidtCCMCetCal:AutologousCpatchCgraftCinCtubeCshuntCsurgery.CJCGlaucomaC8:306-309,C199911)WolfA,HodY,BuckmanGetal:Useofautologousscleralgraftinahmedglaucomavalvesurgery.JGlaucomaC25:C365-370,C201612)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:Preservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheahmedglaucomavalve.JpnCJOphthalmolC56:119-127,C201213)ZaltaCAH:Long-termCexperienceCofCpatchCgraftCfailureCafterCAhmedCGlaucomaCValveRCsurgeryCusingCdonorCduraCandCscleraCallografts.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:408-415,C201214)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetCal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C201615)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetCal:RiskCfactorsCfortubeCshuntCexposure:aCmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201316)OllilaCM,CFalckCA,CAiraksinenCPJ:PlacingCtheCMoltenoCimplantCinCaClongCscleralCtunnelCtoCpreventCpostoperativeCtubeexposure.ActaOphthalmolScandC83:302-305,C2005Cあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C961

基礎研究コラム 14.体性幹細胞

2018年7月31日 火曜日

体性幹細胞幹細胞の分類幹細胞は自己複製能を有し,さまざまな細胞種に分化する能力をもつ細胞です.幹細胞は胚性幹細胞(embryonicstemcell:ES細胞)と体性幹細胞に分類されます(図1).ES細胞は発生初期の胚盤胞から得られる多能性幹細胞で,3胚葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)すべてに分化することができます.一方,体性幹細胞は別名,組織特異的幹細胞ともいい,成体の各組織でみられる希少な未分化の細胞集団です.通常,体性幹細胞は静止状態にありますが,刺激を受けて活性化し,前駆細胞,さらには終末分化細胞を生みます.これにより組織のターンオーバーや損傷によって生じた欠損を穴埋めすることが可能で,組織の恒常性が維持されています.間葉系幹細胞のようにさまざまな組織(骨,軟骨,脂肪細胞,筋細胞など)を形成できるものから,あとで述べる輪部幹細胞のように単一組織(この場合は角膜上皮)のみを形成するものがあります.これまで体性幹細胞は,頻回にターンオーバーの生じる血液,皮膚,小腸,筋肉などでよく研究されてきました.しかし,網膜のように再生能力の非常に低い組織における体性幹細胞の存在は未だ議論の余地のあるところです.輪部幹細胞(角膜上皮幹細胞)眼科領域でもっとも研究されている体性幹細胞のひとつが,角膜輪部の上皮の基底部に存在する輪部幹細胞で,角膜上皮の恒常性維持を担います.すなわち,角膜上皮は常に最表層部の細胞が.離していきますが,それを補うべく輪部幹細胞から分化細胞が送り込まれていきます.輪部幹細胞が失佐々本弦DepartmentofMedicine,BrighamandWomen’sHospitalわれると,角膜上皮を維持できなくなり,結膜の侵入を許してしまうことになります(角膜上皮幹細胞疲弊症).重症例では,対側眼もしくはドナー角膜の健常な輪部幹細胞を含む組織や細胞シートを移植することで,角膜上皮の再生を図ります.今後の展望大阪大学のグループでは,人工多能性幹細胞(inducedpluripotentstemcell:iPS細胞)から幹細胞を含む角膜上皮細胞を誘導することに成功しました1).この手法を用いれば,両眼性の輪部幹細胞疲弊症に対しても,自身のiPS細胞もしくはHLA型の一致するiPS細胞から誘導した角膜上皮の移植が可能になってきます.一方,筆者のグループでは,輪部幹細胞のマーカーであるABCB5を同定しました2).ABCB5は細胞表面に発現しているため,抗ABCB5抗体を用いて輪部幹細胞を生きたまま集めることが可能です.この純粋な輪部幹細胞を移植することで,現在用いられている移植片に含まれる他の細胞種に起因する拒絶のリスクを下げ,臨床成績を向上させることが可能ではないかと考えています.文献1)HayashiR,IshikawaY,SasamotoYetal:Co-ordinatedoculardevelopmentfromhumaniPScellsandrecoveryofcornealfunction.Nature531:376-380,20162)KsanderBR,KolovouPE,WilsonBJetal:ABCB5isalimbalstemcellgenerequiredforcornealdevelopmentandrepair.Nature511:353-357,2014自己複製自己複製図1幹細胞の分類発生初期の胚盤胞から得られる多能性幹細胞をES細胞とよぶ.ES細胞は刺激により3杯葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)すべてに分化することが可能である.成体でみられる幹細胞を体性幹細胞とよぶ.体性幹細胞には,刺激によりさまざまな組織を形成できるもの(間葉系幹細胞など)と,単一組織のみを形成するもの(輪部幹細胞など)がある.(93)あたらしい眼科Vol.35,No.7,20189430910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 182.硝子体のプロテオーム解析(研究編)

2018年7月31日 火曜日

a(kDa)97.466.33.0(pI)10.042.430.020.314.4b(kDa)97.466.33.0(pI)10.42.430.020.314.4硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載182182硝子体のプロテオーム解析(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●プロテオームとはプロテオーム解析(Proteomicanalysis),またはプロテオミクス(Proteomics)とは,組織や細胞内に発現しているすべての蛋白質を網羅的,系統的に解析する手法である.「プロテオミクス」という言葉は,遺伝子を網羅的に研究する「ゲノミクス」と,蛋白質を意味する「プロテイン」とを合わせて作られた造語である.プロテオーム解析を用いることで,少量のサンプルから多くの蛋白質を検出することが可能となり,眼球のような小さな臓器に生じる種々の疾患の病態を解明するのに有用な手段となりうる.C●硝子体のプロテオーム解析筆者らは,大阪医科大学臨床検査医学教室との共同研究で,硝子体のプロテオーム解析を行ってきた1~3).特発性黄斑円孔(macularChole:MH)と増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticCretinopathy:PDR)の硝子体および血漿を用いてプロテオーム解析を行ったところ,Ca1-アンチトリプシン,Ca2-HS糖蛋白,トランスフェリン,ハプトグロビンCa1,a2鎖,補体CC4,Gcグロブリン,アポリポプロテインCA-I,免疫グロブリンCH,L鎖,トランスサイレチンは血漿中に比べ硝子体中でアルブミンに対する相対濃度が高かった.抗炎症蛋白質であるCa1-アンチトリプシン,Ca2-HS糖蛋白,補体CC4,免疫グロブリンCH,L鎖のC2D-PAGE-銀染色ゲルスポットはCMHよりもCPDRの硝子体において明瞭に認められた.これはCPDRにおける組織障害を反映していると考えられる(図1).また,PDR群,MH群でウエスタンブロット法を用い色素上皮由来因子(pigmentepitheli-um-derivedCfactor:PEDF)の発現を比較したが,両群間に有意差は認められなかった.PDRでは新生血管が増殖しており,新生血管抑制因子であるCPEDFは減少していると予想していたが,結果は対照としたCMHと差がなかった.このようにプロテオーム解析を用いることで硝子体中の種々の蛋白質を検出でき,疾患による発現の違いを調(91)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1硝子体のプロテオーム解析黄斑円孔(Ca)と増殖糖尿病網膜症(Cb)の解析結果.2疾患でスポットの分布に差がみられる.(文献C1より引用)Cべることで網膜硝子体疾患の病態解明にもつながると考えられる.文献1)NakanishiT,KoyamaR,IkedaTetal:Catalogueofsolu-bleCproteinsCinCtheChumanCvitreousChumor:comparisonCbetweenCdiabeticCretinopathyCandCmacularChole.CJCChro-matogrCBCAnalytCTechnolCBiomedCLifeCSciC776:89-100,C20022)KoyamaR,NakanishiT,Ikedaetal:CatalogueofsolubleproteinsCinChumanCvitreousChumorCbyCone-dimensionalCsodiumdodecylsulfate-polyacrylamidegelelectrophoresisandCelectrosprayCionizationCmassCspectrometryCincludingCsevenCangiogenesis-regulatingCfactors.CJCChromatogrCBCAnalytTechnolBiomedLifeSci792:5-21,C20033)MukaiCN,CNakanishiCT,CShimizuCACetCal:Identi.cationCofCphosphotyrosylCproteinsCinCvitreousChumoursCofCpatientsCwithCvitreoretinalCdiseasesCbyCsodiumCdodecylCsulphate-polyacrylamideCgelCelectrophoresis/WesternCblotting/Cmatrix-assistedlaserdesorptiontime-of-.ightmassspec-trometry.AnnClinBiochem45:307-312,C2008あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C941