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眼瞼・結膜:コンタクトレンズと眼瞼下垂

2018年7月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人40.コンタクトレンズと眼瞼下垂石川恵里柿﨑裕彦愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科コンタクトレンズを長期間装用することによって眼瞼下垂を生じることが知られており,その病態は初期と晩期で異なる.コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と類似する臨床像であり,他の眼瞼下垂の原因を除外して診断する.手術では挙筋前転術が広く行われている.●はじめにコンタクトレンズを長期間装用することによって,眼瞼下垂を生じることが知られている1).ハードコンタクトレンズ装用者でより頻繁に起こるが,ソフトコンタクトレンズ装用者にも生じうる2).コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と同じく,腱膜性眼瞼下垂に分類される1).このタイプの眼瞼下垂では,CMuller筋周囲に慢性炎症の結果による線維化も認める3).本稿では,コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂の病態,臨床像,鑑別診断,治療について述べる.C●コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂の病態病態は,症状が可逆的である初期と,不可逆的となる晩期で異なる(表1).初期では,コンタクトレンズによる眼瞼結膜への機械的な刺激が炎症を惹起し,その結果,上眼瞼が浮腫状となり,その重力的影響によって機械的に眼瞼下垂が生じる.コンタクトレンズに付着する汚れによって引き起こされるコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎も炎症であるため,同様の機序により眼瞼下垂の原因となりうる4).この時期の眼瞼下垂は可逆的であり,コンタクトレンズの装用を中止することによって炎症を鎮静化させれば,大部分の患者で2~4週間後には症状が改善してくる2).コンタクトレンズ着脱の際には,上眼瞼を上方あるいは耳側に牽引するため,挙筋腱膜にストレスがかかるが,これが経年的に繰り返されると,晩期症状としての不可逆的な眼瞼下垂が生じる1).コンタクトレンズ装用者が眼瞼下垂を発症するリスクのオッズ比は,ハードコンタクトレンズ装用者で17.38,ソフトコンタクトレンズ装用者でC8.12と,ハードコンタクトレンズでより大きい2).この差は,ハードコンタクトレンズの素材がソフトコンタクトレンズよりも硬いことが原因と考えられている2).従来のソフトコンタクトレンズは,素材の柔らかいハイドロゲルレンズがおもに流通していたが,近年は酸素透過性の追求とともに,素材が硬めであるシリコーンハ表1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂と退行性眼瞼下垂コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂退行性眼瞼下垂病理所見初期●レンズの機械的刺激や汚染C↓瞼結膜の炎症・浮腫●CMuller筋:正常●退行性変化による挙筋腱膜の菲薄化,付着の裂離晩期●レンズ着脱時の瞼の牽引の繰り返しC↓挙筋腱膜の付着の裂離●炎症の慢性化C↓Muller筋周囲の線維化臨床像挙筋機能:正常(1C0Cmm以上)挙筋機能:正常(重度では低下)(89)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9390910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂48歳,女性.20歳からハードコンタクトレンズの装用を継続.両側の重瞼線の上昇と右側優位の眉挙上を認める.挙筋機能は両側ともに正常であった.イドロゲルレンズが主流となってきている.このため今後,ソフトコンタクトレンズ装用者においても眼瞼下垂の発症が増加してくる可能性がある.C●臨床像コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂は,比較的若年者で発症する1).通常,挙筋機能は正常であり,退行性眼瞼下垂と同様,重瞼線の上昇を認める(図1).片眼性あるいは,左右差を伴って発症することが多い.多くの患者はフェニレフリンテストで敏感に反応するが,晩期には反応する場合としない場合がある.この原因はCMuller筋の変性や周囲の線維化のため,交感神経刺激に反応できなくなったためと考えられている1).C●鑑別診断コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は除外診断によって診断する.以下のC3項目が満たされる必要がある1).①C50歳以下である,②コンタクトレンズを最低C3年間装用している,③他の種類の眼瞼下垂が除外される.C●治療コンタクトレンズ装用中の患者については,フィッティング不良やコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎を繰り返していないかなどを確認し,なんらかのトラブルがあ940あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018図2コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂の挙筋腱膜WhiteCline()は通常瞼板上縁より約C3Cmm上方に位置するが,この部分を瞼板上に固定すると,良好な挙上が得られることが多い.れば,手術に先立ち対処する.このタイプの眼瞼下垂は,大まかな分類では腱膜性眼瞼下垂に分類されるため,手術では腱膜前転術が広く行われている(図2).しかし,Muller筋の機能不全も原因の一つと考えられているため,Muller筋を標的とした手術でも相応の効果が得られる1).C●おわりにコンタクトレンズ装用に伴う眼瞼下垂ついて概要を述べた.コンタクトレンズ装用者では,レンズの種類にかかわらず,その装用がきっかけとなって眼瞼下垂を生じうることを周知する必要がある.文献1)柿﨑裕彦:眼瞼下垂がよくわかる本.p19-30,ブイツーソリューション,20182)HwangCK,CKimCJH:TheCriskCofCblepharoptosisCinCcontactClenswearers.JCraniofacSurg26:373-374,C20153)WatanabeCA,CArakiCB,CNosoCKCetCal:HistopathplogyCofCblapharoptosisCinducedCbyCprolongedChardCcontactClensCwear.AmJOphthalmol141:1092-1096,C20064)BleyenCI,CHiemstraCCA,CDevogelaereCTCetCal:NotConlyChardCcontactClensCwearCbutCalsoCsoftCcontactClensCwearCmaybeassociatedwithblepharoptosis.CanJOphyhalmolC46:333-336,C2011(90)

抗VEGF治療:ポリープ状脈絡膜血管症への光線力学的療法を見直す

2018年7月31日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二54.ポリープ状脈絡膜血管症への光線力学的療法を見直す大石明生京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学現在,ポリープ状脈絡膜血管症に対してもCVEGF阻害薬の単独治療が一般的になっているが,初回治療として光線力学的療法(PDT)とCVEGF阻害薬の併用療法を行うことで,硝子体内注射の必要回数を減らし,同等かそれ以上の視力改善効果が得られるとの無作為比較試験の報告があり,PDTの役割が見直されつつある.はじめにポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)に対して,初めに明確な治療効果が確立された治療は光線力学的療法(photodynamicCthera-py:PDT)である.PDTはC2004~2008年に盛んに用いられたが,網膜下/網膜色素上皮下出血や網膜色素上皮裂孔などの重篤な合併症の懸念や,平均としてみると視力改善効果もC2年目以降は失われるといった問題があった.その後,大規模な無作為試験の結果を受けて,加齢黄斑変性に対しては血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬の使用が一般的になり,PCVについてもラニビズマブ単独療法のほうがCPDTより視力改善効果が勝ること1),PDTのメリットである高いポリープ状病巣閉塞率についてもアフリベルセプトを用いればこれに近い結果が得られることなどがわかるにつれ,現在ではCVEGF阻害薬単独での治療が一般的となっている.一方,VEGF阻害薬とCPDTを併用することで,PDT単独治療と比較して合併症を減らし,VEGF阻害薬単独治療と比較して良好な視力改善が得られる,または少ない治療回数でのコントロールが可能になるのではということが以前からいわれていた(図1).これまでの報告は後ろ向き,単施設,無作為化がされていないといった限界があったが,最近,無作為比較試験でこの仮説に答える研究が複数発表されており,PCVに対するCPDTの役割を見直すよい機会であると思われる.なお,近年CPCVについてはCpachychoroidCneovascu-図1ラニビズマブ併用PDTを施行した症例3カ月後の造影検査でポリープ状病巣の閉塞が確認され,その後無治療でC2年半再発しなかった.PDT単独またはラニビズマブ併用CPDTでこのような良好な経過をたどる症例が一定の確率で存在するのは確かである.(87)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9370910-1810/18/\100/頁/JCOPYlopathy2)との異同が議論になっており,また初めにこの名前を提唱したCYannuzziを含むグループからCaneu-rysmalCtypeC1Cneovascularizationという用語が提唱されるなど3),疾患概念が変遷しつつあるが,本項では日本で一般的に用いられる,加齢黄斑変性の一亜型という意味でCPCVという用語を用いる.無作為比較試験の結果EVERESTCIICstudyはCPDT併用ラニビズマブとラニビズマブ単独治療を比較する研究であり,無作為に割り付けたCPDT併用群C168人とラニビズマブ単独群C154人について,最終C2年間の経過をみるというデザインである.最近発表されたC1年目の成績では,視力改善が併用群でC8.3文字,ラニビズマブ単独群でC5.1文字と併用群が良好,治療回数も併用群ではCPDTC1.5回+硝子体内注射C5.2回,ラニビズマブ単独群では硝子体内注射C7.3回と,注射の回数を減らせることが示された4).2年間の経過観察も終了しているが,まだこの結果は報告されていない.このトピックに関しては日本からもCFujisanstudyとして,初回からCPDTとラニビズマブの併用療法を行う群と,ラニビズマブ単独で治療を開始し,ポリープ状病巣の残存がみられた場合にCPDTを追加する群に無作為割り付けを行い,1年後の成績をみるという研究が報告されている5).これによると,視力改善は初回併用治療群C8.1文字,必要時にCPDT追加とした群は8.8文字と同等.合計治療回数は初回併用治療群でラニビズマブC4.5回+PDTC1.1回,必要時CPDT追加群でラニビズマブC6.8回+PDT0.5回と,初回併用群で有意に硝子体注射の回数が少なかった.これらの独立したstudyが同じ傾向の結果を示していることから,PCVに対しては,初回に併用療法を行うことで追加のラニビズマブ投与回数を減らせるということは,かなり蓋然性が高いと思われる.一方,同時期に行われたCPLANETstudyは,アフリベルセプトを用いて滲出性変化およびポリープの残存が確認されたときにCPDTまたはCsham治療を行うというデザインで,PDT併用群にC161人,sham群にC157人が割り付けられている.まだ結果はCpublishされていないが,APVRS2017での学会発表によると(注:校正後出版された),視力はC1年目でCPDT併用群がC10.7文字,sham群がC10.8文字改善と,ラニビズマブを用いたEVERESTIIおよびCFujisanstudyの結果より若干大きい改善幅が報告されている.2年目終了時点ではそれぞれC9.1文字,10.7文字の改善であった.また,追加のPDTを要したのはC1年目でC13.2%,2年目でC17.0%であったとされている.なおアイリーアは導入療法後C2カ938あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C月ごとの固定投与(2年目は一部CtreatCandCextend)であり,治療回数には両群間で差はなかった.結果の解釈と今後の方向これらのCstudyはCinclusion/exclusionCcriteriaが同じではなく,使用薬剤が異なり,PDTのタイミング,VEGF阻害薬の投与方針も違うため,直接比較することはできないが,初回治療としてのCVEGF阻害薬併用PDTには,その後必要となる硝子体内注射数の回数を減らす効果はあると思われる.残念ながら初回治療としてのアフリベルセプト併用CPDTの効果を検証したデータはないが,薬剤の性質から同様の効果を期待してよいだろう.患者の治療に対するアドヒアランスを考えるうえでも,経過が長くなるほど厳格な追加治療はむずかしくなるので,初回治療で併用療法を行うことによりその後の治療回数を減らすことにはメリットがあるだろう.ただしベルテポルフィンも高価な薬剤であり,光凝固のコストが発生することから,少なくともC1年間では治療費用の負担はあまり変わらないものと予想され,この点では検討が必要である.また,PDTを施行するには現時点では造影検査が必要となるが,滲出性変化の再発があるたびにこれを行うというのは現実的ではない.OCT,OCTangiographyのみによる追加治療の判断が可能か,もしCVEGF阻害薬単独治療との使い分けをするのであれば,どのような症例が併用療法に適しているのか,導入治療としてのCVEGF阻害薬C3回投与は必要なのか,2年目以降の長期経過はどうかなど,今後もさらなる研究が望まれる.文献1)OishiCA,CKojimaCH,CMandaiCMCetCal:ComparisonCofCtheCe.ectofranibizumabandvertepor.nforpolypoidalcoroi-dalCvasculopathy:12-monthCLAPTOPCstudyCresults.CAmJOphthalmolC156:644-651,C20132)PangCCE,CFreundCKB:PachychoroidCneovasculopathy.CRetinaC35:1-9,C20153)DansinganiKK,Gal-OrO,SaddaSRetal:Understandinganeurysmaltype1neovascularisation(polypoidalchoroidalvasculopathy):aClessonCinCtheCtaxonomyCof“expandedCspectra”.ClinExpophthalmolC46:189-200,C20184)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetCal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedclinicaltrial.JAMAOphthalmolC135:206-1213,C20175)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetCal:InitialCversusCdelayedCphotodybanucCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabforCtreatmentCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy:TheCFujisanStudy.RetinaC35:1569-1576,C2015(88)

緑内障:レーザースペックルフローグラフィ:最近の知見

2018年7月31日 火曜日

●連載217監修=岩田和雄山本哲也217.レーザースペックルフローグラフィ:杉山哲也京都医療生活協同組合・中野眼科医院最近の知見レーザースペックルフローグラフィ(LSFG.ソフトケア製)がわが国で認証されて約C10年が経ち,これを用いた研究が推進されている.ここではCLSFGによって得られた最近の知見を紹介する.一つはCOCTCangiogra-phyとの相関,もう一つは術中測定による眼血流自己調節能の検証に関するものである.C●LSFGを用いた最近の研究成果レーザースペックルフローグラフィCLSFG-NAVICTM(ソフトケア製)がわが国の医療用機器として認証されて約C10年が経った.最近のCLSFGを用いた研究の動向として,①海外でも臨床研究に使用されつつあり,白色人種でもわれわれ日本人の場合と同様,再現性のよい測定結果が得られていること1),②COCTCangiography(OCTA)との相関が研究されていること2),③前視野緑内障ですでに視神経乳頭の組織血流が低下しており,病態に関与していることが判明したこと3),④術中高眼圧に対する視神経乳頭血流・自己調節能が糖尿病や高血網膜外層AIP、ILM+109μmtoPRE/BM+0μm圧・高脂血症の症例で障害されていることが明らかにされたこと4~6)などがある.ここでは紙幅の関係で,②と④につき,筆者らの成果を含めて紹介する.C●LSFGとOCTAの相関通常の光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)に血流情報を付加したCdopplerCOCTを応用し,網脈絡膜血管の三次元画像としたものがCOCTAである.近年,OCTAを用いてさまざまな眼疾患の毛細血管密度が研究されており,緑内障においても視神経乳頭やその周囲の血管密度と視野障害の相関について報告されている7~9).一方,緑内障眼におけるCLSFGとOCTAの相関についても報告されつつあり,LSFGのMT(meanCofCtissueCarea,組織血流)やCMV(meanCofvasculararea,血管血流)とCOCTAによる乳頭周囲血管密度指数との相関を検討した結果,網膜表層ではMV,MTともに,脈絡膜表層ではCMTがとくに相関していたとされている2).筆者らも正常者と広義原発開放隅角緑内障C39眼を対象に,LSFGとCOCTA(RS-3000ab**MT4540353025201510516c5014網膜外層・血管密度指数y=1.3368x+16.29612108642046810121416正常初期中期後期0正常初期中期後期(7)(16)(16)(7)(16)(16)MTp=0.001,r=0.50p<0.001,One-wayANOVAp=0.02,One-wayANOVA図1初期緑内障症例のLSFG(a),OCTA(b)による所見図2LSFGのMT(a),OCTAの網膜外層血管密度指数(b)とLSFGのMT値とOCTAの網膜外層・血管密度と緑内障病期との関係指数の相関(c)平均+標準偏差,*p<0.01,Dunnett’stest.C(85)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9350910-1810/18/\100/頁/JCOPYab図3眼圧上昇時の視神経乳頭血流の推移a:全身疾患のない症例,b:糖尿病を有する症例,c:糖尿病群(13眼)と対照群(30眼)の比較(左:血管血流,右:組織血流,*p<0.01,ANOVA).(文献C5より転載)advance,ニデック製)の相関を検討した(河本,杉山ら,未発表データ).その結果,MTのみが網膜外層,網膜表層の視神経乳頭部(直径C2Cmm以内)の血管密度指数と有意に相関していたが,とくに網膜外層との相関が強かった(図1).既報2)とはCOCTAの測定部位がやや異なる(既報:乳頭周囲のみ,筆者ら:それも含む乳頭部全体)が,MTが網膜外層あるいは脈絡膜表層の血管密度と強く相関していた点は類似していた.さらに,対象が家兎眼と異なるが,篩状板近傍の組織血流(水素クリアランス法による)とCMTが相関していたという既報10)ともほぼ合致している.さらに緑内障の病期とともにCMTは低下,網膜外層血管密度指数は中期・後期で低下していた(図2).C●術中高眼圧に対する視神経乳頭血流の自己調節能視神経乳頭血流には自己調節能の存在が知られており,緑内障などでその障害が報告されているが,硝子体手術中の高眼圧に対する自己調節能を経時的に調べた報告はこれまでほとんどなかった.Hashimotoらは全身疾患のない症例,2型糖尿病あるいは高血圧・高脂血症を有する症例の硝子体手術中に,眼圧を約C30CmmHgまで上昇させた前後にCLSFGを用いて視神経乳頭血流の推移を測定した4~6).全身疾患のない症例(対照群)ではいったん血流低下した後,5~10分後に回復しはじめた4).一方,2型糖尿病(糖尿病網膜症なし,または軽度の非増殖性糖尿病網膜症)では視神経乳頭血流(MV,MTとも)の回復が低下しており(図3),MVの回復率はヘモグロビンCAC1Cや空腹時血糖値と負の相関を認めた5).また,高血圧・高脂血症を有する症例ではCMVの回復が低下していたが,その回復率に有意に関連していたのは高血圧ではなく高脂血症であった6).文献1)LuftCN,CWozniakCPA,CAschingerCGCCetCal:OcularCbloodC.owCmeasurementsCinChealthyCwhiteCsubjectsCusingClaserCspeckle.owgraphy.PLoSOne11:e0168190,C20162)KiyotaCN,CKunikataCH,CShigaCYCetCal:RelationshipCbetweenClaserCspeckleC.owgraphyCandCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCmeasurementsCofCocularCmicro-circulation.GraefesArchClinExpOphthalmolC255:1633-1642,C20173)ShigaCY,CKunikataCH,CAizawaCNCetCal:OpticCnerveCheadCbloodC.ow,CasCmeasuredCbyClaserCspeckleC.owgraphy,CisCsigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeResC41:1447-1453,C20164)HashimotoCR,CSugiyamaCT,CUbukaCMCetCal:Autoregula-tionCofCopticCnerveCheadCbloodC.owCinducedCbyCelevatedCintraocularCpressureCduringCvitreousCsurgery.CCurrCEyeCResC42:625-628,C20175)HashimotoCR,CSugiyamaCT,CMasaharaCHCetCal:ImpairedCautoregulationCofCbloodC.owCatCtheCopticCnerveCheadCdur-ingCvitrectomyCinCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CAmJOphthalmolC181:125-133,C20176)HashimotoR,SugiyamaT,UbukaMetal:Impairmentofautoregulationofopticnerveheadblood.owduringvitre-oussurgeryinpatientswithhypertensionandhyperlipid-emia.CGraefesArchClinExpOphthalmolC255:2227-2235,C20177)BojikianKD,ChenCL,WenJCetal:Opticdiscperfusioninprimaryopenangleandnormaltensionglaucomaeyesusingopticalcoherencetomography-basedmicroangiogra-phy.PLoSOne11:e0154691,C20168)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:Microvasculardensityinglaucomatouseyeswithhemi.eldvisual.elddefects:CanCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CAmJOphthalmolC168:237-249,C20169)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:Regionalcompar-isonsofopticalcoherencetomographyangiographyvesseldensityCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthal-molC171:75-83,C201610)TakahashiCH,CSugiyamaCT,CTokushigeCHCetCal:Compari-sonCofCCCD-equippedClaserCspeckleC.owgraphyCwithChydrogenCgasCclearanceCmethodCinCtheCmeasurementCofCopticnerveheadmicrocirculationinrabbits.ExpEyeResC108:10-15,C2013C936あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(86)

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ挿入術後の再近視化

2018年7月31日 火曜日

監修=木下茂●連載218大橋裕一坪田一男218.後房型有水晶体眼内レンズ挿入術後の山村陽バプテスト眼科クリニック再近視化現在,HoleICLが後房型有水晶体眼内レンズ挿入術(ICL挿入術)の際に使用されるようになり,虹彩切開が不要になった.LASIKやCICL挿入術などの屈折矯正手術は手術施行時における屈折異常を矯正するものであり,術後長期においては眼軸長の延長などにより再近視化が生じる.C図2ICL挿入眼a:眼内に挿入されたCHoleICL.Cb:前眼部COCTでのCvault(ICL裏面と水晶体前面との距離).Vaultは適切である.図1HoleICL光学部中央に直径約C0.36Cmmの貫通孔がついたCHoleICL.●はじめにわが国ではC2010年にCSTAARCSurgical社のCimplant-ableCcollamerClens(ICL)が,翌年には乱視矯正用のICLが,それぞれ後房型有水晶体眼内レンズとして承認された.さらにC2014年に光学部中央に直径約C0.36Cmmの貫通孔がついたCHoleCICL「アイシーエルCKS-Aqua-PORT」が登場し1),虹彩切開が不要となった(図1).2016年には,夜間の視機能改善効果を期待して光学部径を大きくしたCEVO+が登場した.EVOはCevolution(進化)を,+は光学部が拡大したことを表す.日本白内障屈折矯正手術学会のワーキンググループによると,2015年に国内で施行された屈折矯正手術のうち,約C80%がClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK),約C10%が後房型有水晶体眼内レンズ挿入術(ICL挿入術)であった2).図2に眼内に挿入されたCHoleICLと前眼部COCTでのCvault(ICL裏面と水晶体前面との距離)を示す.C●ICL挿入術後の再近視化ICL挿入術は,LASIKなどの角膜屈折矯正手術が適応外の強度近視眼や,眼鏡矯正視力が良好な軽度・中等度の円錐角膜や円錐角膜疑いの症例に対して行われる.ただしガイドラインでは円錐角膜の症例は禁忌,疑い症例は慎重を要すると記されているので,注意が必要である3).当院におけるCICL挿入術後C7年間の屈折度数変化について紹介する.年齢C34.4C±7.1歳,屈折度数-11.03C±2.03DのC18例C36眼を対象に術後屈折度数変化を検討した.その結果,術後C7年における安全係数(術後平均矯正視力/術前平均矯正視力)はC1.16,有効係数(術後平均裸眼視力/術前平均矯正視力)はC0.87であった.屈折度数は術後C1カ月で-0.12±0.25D,術後C1年で-0.20±0.29D,術後C2年で-0.26±0.32D,術後C3年で-0.36±0.36D,術後C4年で-0.34±0.39D,術後C5年で-0.31±0.36D,術後C6年で-0.30±0.33D,術後C7年で-0.43±0.47Dであった(図3).屈折誤差C±1.0D以内およびC±0.5D以内の割合はそれぞれC88.9%,77.8ab(83)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9330910-1810/18/\100/頁/JCOPY屈折度数(D)10-1-2-3-4-5-6図3術後7年間の屈折度数変化-7-8-9-10-11-127年間で再近視化が-0.31±0.49D生じていた.C-13pre1M1Y2Y3Y4Y5Y6Y7Y屈折度数-11.03-0.12-0.2-0.26-0.36-0.34-0.31-0.3-0.4330眼軸長(mm)2826図4術後7年間の眼軸長変化7年間で眼軸長が0.23C±0.32Cmm延長していた.2422pre1Y2Y3Y4Y5Y6Y7YAL27.527.5527.5927.6327.6727.6827.727.72%であった.術後C1カ月とC7年では再近視化が全体で-0.31±0.49D生じ,そのうち-0.5D以上の再近視化が33.3%,さらに-1.0D以上の再近視化がC13.9%認められた.神谷らの報告(対象:年齢C38.4C±9.3歳,屈折度数-10.64±2.61D,35例C60眼)では,術後C1カ月とC6年では-0.33±0.71Dの再近視化が生じていた4)とされ,それとほぼ同様の結果と考えられる.屈折矯正手術後の再近視化が生じる要因として,角膜や水晶体の変化のほか,眼軸長の変化などがあげられる.すなわち,角膜屈折力が増加したり,水晶体の核硬化が進行したり,眼軸長が延長したりするなどの変化が関与すると考えられる.角膜屈折力が増加する理由として,角膜の前方移動,角膜上皮の肥厚,角膜厚の増加などがあるが,ICL挿入術ではCLASIKのような角膜切除による近視矯正を行わないため,角膜屈折力の影響はほとんどないと思われる.水晶体の核硬化については,強度近視眼ではもともと核白内障を生じやすいとされるため,ある程度影響するものと思われる.では,ICL挿入術後において眼軸長はどのように変化しているのであろうか.C●ICL挿入術後の眼軸長変化同じ対象において,眼軸長をCIOLMaster(CarlZeissMeditec社)で測定し,術前と術後C7年間の眼軸長変化を検討した.その結果,術前眼軸長はC27.50C±0.82Cmm,術後C1年でC27.55C±0.70mm,術後C2年でC27.59C±0.73mm,術後C3年でC27.63C±0.78Cmm,術後C4年でC27.67C±0.84mm,術後C5年でC27.68C±0.82mm,術後C6年でC934あたらしい眼科Vol.35,No.7,201827.70±0.86Cmm,術後C7年でC27.70C±0.90Cmmであった.術後C7年間で眼軸長はC0.23C±0.32Cmm延長していた(図4).先に述べた神谷らの報告4)では,術前眼軸長C27.60C±1.18mmが術後C6年間でC0.29C±0.43mm延長し,再近視化と相関があったとしている(r=-0.523,p=0.003).C●おわりにLASIKやCICL挿入術などの屈折矯正手術は手術施行時における屈折異常を矯正するものであり,矯正効果は永続的なものではない.加齢によっても眼球の構造変化(角膜や水晶体や眼軸長など)が生じるため,再近視化が避けられないことをあらかじめ患者に説明しておく必要がある.文献1)ShimizuCK,CKamiyaCK,CIgarashiCACetCal:IntraindividualCcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicCintraocularClensCwithCandCwithoutCaCcentralCholeCimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthal-molC154:486-494,C20122)KamiyaCK,CIgarashiCA,CHayashiCKCetCal:ACmulticenterCprospectiveCcohortCstudyConCrefractiveCsurgeryCinC15011Ceyes.AmJOphthalmolC175:159-168,C20173)大橋裕一,木下茂,澤充ほか:屈折矯正手術のガイドライン.日眼会誌114:692-694,C20104)KamiyaCK,CShimizuCK,CIgarashiCACetCal:FactorsCin.uen-cinglong-termregressionafterposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmolC158:179-184,C2014(84)

眼内レンズ:眼内レンズ表面に観察される霧状混濁(steam-like clouding)

2018年7月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋380.眼内レンズ表面に観察される霧状混濁太田一郎眼科三宅病院(steam-likeclouding)参天製薬の眼内レンズ「エタニティー」の挿入後早期に,光学部の房水と接する前房側表面に霧状の混濁(steam-likeclouding)が観察された.発症時点で視力障害を認める.混濁は吸引除去が容易であるが,数週で自然吸収例もある.原因は不明であるが,エタニティーがアクリルレンズのなかでは含水率の高い素材であることが影響している可能性がある.C●眼内レンズの霧状混濁“steam.likeclouding”とは白内障眼内レンズ(intraocularlens:IOL)手術の翌日から数日の間の術後早期に,IOL光学部前面に“steam-likeclouding”と表現される霧状の混濁が発生することがある1).その特徴は,窓ガラスが湯気で曇ったような混濁現象である.程度はさまざまであるが光学部の房水と接触する部分に限局して発生し,多くの症例で視力低下を訴える.他に前房中に炎症増加などの異常は認めない.本症が発生したCIOLは参天製薬製の「エタニティー」に多い.当院でエタニティーを挿入した3,271眼のうちC3眼でこの混濁が発生し,頻度はC0.09%1)となる.C●霧状混濁“steam.likeclouding”の経過筆者らが報告したC3症例の“steam-likeCclouding”は,いずれも視力低下を伴っていた1)(図1).症例1,2では発症後C2日目およびC34日目にCirrigationCandCaspi-ration(IA)にて混濁を除去した.混濁は容易に吸引除去できた.症例C3では経過観察したが,徐々に混濁は吸収傾向を示し,発症後C14日でほぼ消失した.混濁を吸図1症例の前眼部写真a:症例C3の広範照明像.C“Steam-likeclouding”は光学部前面全体に観察されるが,前.と接する周辺には生じていない.Cb:症例C2の徹照像.光学部前面C2/3に“steam-likeclouding”を認める.この症例ではC1カ月以上混濁が存在し,視力障害を訴えたのでCIAにて吸引除去を行った.引除去後,あるいは自然吸収した時点で視力は改善し,以後再発を認めない.これらC3症例を表1にまとめる.C●他のIOL混濁現象との違い眼内に挿入されたCIOLの光学部になんらかの混濁が生じ透明性が失われる現象は,いくつか知られている.光学部の表面に発生する混濁現象には,ボシュロム製「ハイドロヴュー眼内レンズ」に認められた石灰化2),また疎水性アクリルCIOLであるアルコン製「AcrySof」に発生した“ホワイトニング”または“sub-surfacenanoglistening(SSNG)C”3)が知られている.これらの混濁は術後数年経って発生するのに対して,C“steam-likeclouding”は術後数日以内の早期に発生しており,発生時期がまったく異なる.ハイドロヴュー眼内レンズなどに認められる石灰化は,光学部表面全体に一定の濃さで細かい粒子状の混濁を認めることが特徴である.石灰化の発生原因は,ハイドロヴュー眼内レンズの包装容器であったシリコーンガスケットに問題があり,IOL表面に疎水性シリコーンが接着し,それに対して前房内でリン酸カルシウムが析出し混濁となったと説明されている2).石灰化では混濁の進行が進むと視力障害が生じるため,多くの症例でCIOL(81)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9310910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1“Steam.likeclouding”症例のまとめ年齢性別CIOL混濁矯正視力経過発生時期(術後)範囲混濁前混濁発症時混濁消失時症例C170歳男CX-6014日目前面全体C1.0C0.5C1.2IA吸引除去症例C267歳女CX-607日目前面C2/3C1.0C0.7C1.2IA吸引除去症例C367歳男CX-704日目前面全体C0.7C0.4C1.0自然吸収の入れ替え手術がなされた.AcrySofに発生した“ホワイトニング”では,光学部表面全体が一定の濃さで散乱光の増加による混濁現象として観察され,進行することが特徴である.100Cnm単位の非常に小さい水の相分離がCIOL表面に限局して無数に発生した状態である.一般的に視力低下は認められない3).その他,過去に報告された疎水性アクリルCIOLのC“glistening”4),シリコーンCIOLなどに発生した“color-ation”,またCPMMACIOLの“snow.ake”,crystalline混濁5)などはCIOL光学部の内部が混濁場所であり,“steam-likeCclouding”はCIOL光学部前面のみの混濁である.“Steam-likeCclouding”はCIAにて容易に吸引除去されること,また自然消失もあることが特徴的である.C●霧状混濁“steam.likeclouding”の成因IAにて“steam-likeCclouding”を吸引除去中に得られた混濁物質の解析では,細胞成分を認めず,元素分析では塩化ナトリウムに由来するナトリウムと塩素が検出され,前房水灌流液由来と考えられた1).エタニティーは現在市場にある他の疎水性アクリルIOLと比べ,光学部の含水率がC4.0%とやや高く,pre-hydrateの状況でC0.9%生理食塩水中に保存,出荷されている.これらの点が“steam-likeclouding”に関連する可能性がある.C●おわりに現在までに報告のない術後に生じるCIOL光学部の霧状混濁“steam-likeclouding”の特徴をまとめた.この霧状混濁は自然吸収もあり予後も良好なものではあるが,視力障害を生じるために吸引除去が必要な症例もある.エタニティーのみに今回発生しているが,硝子体手術とのトリプル手術では,より発生頻度は高いと考えられる6).また,“steam-likeCclouding”の軽症例も最近見出されている7).文献1)OtaCI,CMiyakeCG,CAsamiCTCetCal:Steam-likeCcloudingCobservedConCearlyCpostoperativeCintraocularClensCsurface.CAmJOphthalmolCasereport,inpress2)KnoxCCartwrightCNE,CMayerCEJ,CMcDonaldCBMCetCal:CUltrastructuralCevaluationCofCexplantedCopaci.edHydroview(H60M)intraocularClenses.CBrJCOphthalmolC91:243-247,C20073)NishiharaH,YaguchiS,OnishiTetal:SurfacescatteringinCimplantedChydrophobicCintraocularClenses.CJCCataractRefractSurgC29:1385-1388,C20034)OmarO,PirayeshA,MamalisNetal:InvitroanalysisofAcrySofCintraocularClensCglisteningsCinCAcryPakCandCWagonWheelpackaging.JCataractRefractSurgC24:107-113,C19985)PengCQ,CAppleCDJ,CArthurCSNCetCal:Snow.akeCopaci.ca-tionCofCpoly(methylmethacrylate)intraocularClensCopticbiomaterial:anewlydescribedsyndrome.IntOphthalmolClinC41:91-107,C20016)太田一郎,三宅豪一郎,浅見哲ほか:術後早期眼内レンズ表面に観察された霧状混濁(Steam-likeCclouding)のC6症例.第C71回日本臨床眼科学会,20177)太田一郎,三宅豪一郎,加地秀ほか:眼内レンズ霧状混濁(Steam-likeclouding)の前駆状態としての点状混濁の検討.第C122回日本眼科学会総会,2018

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの摩擦

2018年7月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一45.コンタクトレンズの摩擦●はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折矯正手術に比べて比較的侵襲性が低い視力矯正法であり,近年,十代から高齢者までの患者に広く普及している.ソフトCCL(SCL)はハードCCLに比べると素材自体が柔らかく,装用感に優れるが,眼表面に対して少なからず機械的な影響を及ぼすことがある.本稿ではCSCLと眼表面との間で生じる摩擦について概説する.C●球結膜とレンズエッジとの摩擦(球結膜染色)SCL装用眼の球結膜で観察される球結膜染色1)(図1a)とは,SCLのエッジと球結膜で生じると考えられる結膜上皮障害による染色像であり,SCL装用者の半数以上で発症すると報告2)されている.球結膜染色は,SCLをはずした状態で,フルオレセイン染色下でコバルトブルーフィルターとイエローフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)の組み合わせ3),もしくはリサミングリーン染色4)で容易に観察できる.この球結膜染色は,レンズエッジのこすれで生じると考えられ,フィッティング5),レンズエッジ形状6),素材の柔らかさ7)などの影響を受けると考えられる.C●上眼瞼縁とレンズ表面との摩擦(LWE)SCL装用眼の上眼瞼縁で観察できるCLidCwiperCepi-theliopathy(LWE)8)(図1b)は,SCLの表面と上眼瞼縁で生じると考えられる上眼瞼縁結膜の上皮障害であり,約C3割のCSCL装用者で発症することをCKorbらが報告している9).また,SCL装用者のCLWE発症とドライアイ症状には関連があることも報告している9).このLWEは,SCL表面と上眼瞼縁結膜とで瞬目時に生じる摩擦が原因と考えられる.SCL上には角膜上皮のような膜型ムチンが存在しないため,SCLのレンズ表面は涙液が安定しにくく,上眼瞼縁結膜との摩擦が生じやすくなると考えられる.後述するように,SCLの摩擦を測定する方法が近年開発され,いくつかの知見も得られ(79)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY丸山邦夫ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニーLidwiperepitheliopathy(LWE)図1球結膜染色とlidwiperepitheliopathy(LWE)ている.C●SCL表面の摩擦の測定方法SCLのレンズ表面の摩擦を測定するために,Robaら10)は,眼表面にCSCLが装用されている状態を模倣した測定方法を考案した.測定手順は次の通りである.①試験レンズを半球状の樹脂製の治具に固定して,それを人工涙液で満たす.②表面をムチン(牛顎下腺ムチン)で被覆したプレートを,試験レンズ上で一定の荷重で横方向に往復スライドさせる.③プレートにかかる応力をマイクロトライボメーターで検出する(図2).各種SCLの摩擦係数の測定結果10)を図3に示すが,SCLの違いで摩擦係数が異なることがわかる.SCLの材質や表面処理方法は製品ごとに異なり,Hofmannら11)により測定されたヒト角膜の摩擦係数の測定値C0.015C±0.009と同程度のCSCLも存在する.また,Colesら12)は,摩擦係数と一日の終わりの快適性が逆相関することを報告している.これは,摩擦係数が大きいと自覚症状も強くなることを示している.C●おわりにSCLが眼表面に与える機械的な影響として,レンズあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9290.5000.4500.4000.3500.3000.2500.2000.1500.1000.0500.000摩擦係数Somo.lconAEta.lconANara.lconAEta.lconANal.lconAOma.lconAOcu.lconBNel.lconA図2摩擦係数の測定方法エッジと球結膜との関係,レンズ表面と上眼瞼縁との関係について着目してそれらの摩擦について概説した.また,レンズ表面の摩擦の測定法とその測定結果を紹介した.日常診療において球結膜染色やCLWEのような眼表面への機械的な影響が原因と考えられるCCLの眼障害に遭遇した場合,摩擦という視点をもち,治療やCSCL選択をすることが望ましいと考える.文献1)丸山邦夫,横井則彦:写真セミナーソフトコンタクトレンズ装用により生じる球結膜染色.あたらしい眼科C25:C325-326,C20082)LakkisCC,CBrennanCNA:BulbarCconjunctivalC.uoresceinCstainingCinChydrogelCcontactClensCwearers.CCLAOJC22:C189-194,C19963)大野建治,野田徹:蛍光濾過フィルターを用いた細隙灯顕微鏡による角結膜フルオレセイン染色所見の観察・撮影法.眼紀58:202-204,C20024)NornCMS:LissamineCgreenCvitalCstainingCofCcorneaCandCconjunctiva.ActaOphthalmolC51:483-491,C19735)RobboyMW,CoxIG:Patientfactorsin.uencingconjunc-tivalCstainingCwithCsoftCcontactClensCwearers.COptomCVisC図3各種SCLの摩擦係数の測定結果(文献C10を改変引用)CSciC68:163,C19916)LofstromT,KruseA:AconjunctivalresponsetosiliconehydrogelClensCwear.CContactCLensCSpectrumCSeptember:C42-44,C20057)CoveyM,SweeneyDF,TerryRetal:Hypoxice.ectsontheanterioreyeofhigh-Dksoftcontactlenswearersarenegligible.OptomVisSciC78:95-99,C20018)丸山邦夫,横井則彦:知っておきたいCCL合併症第C27回.日コレ誌50:127-128,C20079)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepitheC-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOCJ28:211-216,C200210)RobaCM,CDuncanCEG,CHillCGACetCal:FrictionCmeasure-mentsConCcontactClensesCinCtheirCoperatingCenvironment.CTribologyLettersC44:387,C201111)HofmannCG,CJubinCP,CGerligandCPCetCal:In-vitroCmethodCfordeterminingcornealtissuefrictionanddamageduetocontactlenssliding.BiotribologyC5:23,C201612)ColesCC,CBrennanCN:Coe.cientCofCfrictionCandCsoftCcon-tactClensCcomfort.COptomCVisCSciC89:E-abstractC125603,C2012CPAS107

写真:角膜染血症と前眼部光干渉断層像

2018年7月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦410.角膜染血症と前眼部光干渉断層像福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①円形の角膜内皮面の混濁②毛様充血C図1角膜染血症の前眼部写真角膜輪部に沿った茶色の円形混濁を角膜深部に認める.最周辺部は透明で,虹彩が確認できる.60CmmHgを超える高眼圧による強い毛様充血を認める.C図3前眼部光干渉断層像a:隅角部.周辺虹彩前癒着を認める.沈着領域は角膜後面約C100Cμm程度が黒く抜け落ち,後方も影となっている(.).Cb:gonioscopicview.角膜最周辺部は混濁がなく,混濁に一致して円形に虹彩が影になっていることがわかる(*).(77)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9270910-1810/18/\100/頁/JCOPY角膜染血症は,長期間残存する前房出血と眼圧上昇が生じた際の合併症の一つである.外傷性前房内出血の2~11%1,2)に認める.初期には鉄サビのような赤い色調を呈しているが,時間経過により徐々に灰色がかった色調に変化する.角膜混濁は,角膜周辺部から中央部に向かって透明化していくことが多い.経過観察による完全消失もあるが,2~3年という長期間を要することが多く,永続的な角膜混濁を残すこともある.疾患としては,出血性緑内障,中心性網膜静脈閉塞症,眼内腫瘍と関連があるとの報告がある.角膜染血症に至る危険因子としては,大量の前房出血,再出血,角膜内皮機能不全があると報告されている.家兎を用いた角膜染血症動物モデルによると,発症初期に赤色調を呈している角膜染血症は時間経過(晩期)とともに茶色調に変化する.組織学的には,発症初期には角膜後部の細胞外ヘモグロビン粒子の沈着を認め,晩期にはケラトサイト細胞内のヘモジデリンの沈着と細胞内外のヘモグロビン粒子の沈着を認める.ヘモグロビンは初期にはオキシヘモグロビンという形で存在し,晩期にはメトヘモグロビンに変化している.両時期にポルフィリンも沈着している.角膜染血症では均一に角膜内皮細胞変性が起こり,ケラトサイトがヘモグロビン分解に積極的に関与しているようである3).角膜染血症の予防としては,まず前房出血を遅滞なく,十分に洗浄することである.眼圧がC26CmmHg以上でC6日続く前房出血が角膜染血症と関連があるため,6日経過しても前房出血が半分以下まで吸収分解されない際は,積極的な洗浄が必要と提唱されている4).すでに形成された角膜染血症は自然軽快するのを待つしかない.近年,低分子量で鉄のキレート剤であるサラセミアの治療薬デフェリプロンの点眼治療で改善が認められたとの報告があり,今後の治療薬として期待される5).今回,角膜染血症の前眼部写真(図1,2)と前眼部光干渉断層計CCASIA(SS-1000,トーメーコーポレーション)の像を提示した(図3).進達度の高い長波長である1,310Cnmを光源として用いているが,角膜後面付近約100Cμmは黒く抜けていた.おそらく沈着物の何かが光を吸収もしくは散乱したと推察され,角膜より深い部分に関しても影となり,観察が困難であった.これらのメカニズムは未だに不明であるが,ポルフィリン,オキシヘモグロビン,メトヘモグロビンのいずれかが原因であると考えられる.文献1)BrodrickJD:Cornealbloodstainingafterhyphaema.BrJOphthalmolC56:589-593,C19722)ShammasHF,MattaCS:Outcomeoftraumatichyphema.AnnOphthalmolC7:701-706,C19753)GottschJD,MessmerEP,McNairDSetal:Cornealbloodstaining:AnCanimalCmodel.COphthalmologyC93:797-802,C19864)ReadCJ:TraumaticChyphema:surgicalCvsCmedicalCman-agement.AnnOphthalmolC7:659-662,C664-666,C668-670,C19755)ChanT,WhiteA,MeadesKetal:Noveltopicaltherapyforcornealbloodstaining.ClinCExpOphthalmolC45:416-418,C2017C

時の人

2018年7月31日 火曜日

島根大学医学部眼科学教室教授たにとまさき谷戸正樹島根大学医学部は2003年(平成15年)に旧・島根医科大学と旧・島根大学が統合して生まれた新しい学部である.しかし,前身である旧・島根医科大学時代にさかのぼってみてみると,医学部創設は1975年(昭和50年),眼科学講座開講はやや遅れて1979年(昭和54年)であり,すでに40年近い歴史がある.眼科学講座初代教授・瀬戸川朝一先生の時代は,教授以下,医局スタッフ全員が鳥取大学から着任した先生で構成されていた.1998年(平成10年)に第二代教授となった大平明弘先生は長崎大学から着任.そして,本年4月,ついに教室生え抜きの教授が誕生した.第三代教授,谷戸正樹先生である.*谷戸先生は1971年生まれの47歳.1990年に島根県立三刀屋高校を卒業,旧・島根医科大学に入学した.そして,6年次の臨床実習で瀬戸川教授に誘われたことが決め手となって眼科を志望することに.なんでも,教授と差し向かいでお酒を飲みながら,じっくり口説かれたらしい.1996年の卒業後は同大眼科に入局し,臨床の腕を磨くと同時に研究にも打ち込んだ.2003年には島根医科大学にて医学博士の学位を授与されている.また,この間に京都大学大学院の特別研究学生としても研鑽を積んだ.京都時代の生活の面倒を見てくれたのは,宇治にある千原眼科医院の千原悦夫先生で,その影響で緑内障診療を手掛けるようになったという.これがライフワークである眼圧ストレスの研究の出発点となった.2003年には日本学術振興会特別研究員(PD)にも選ばれ,将来を嘱望される研究者として研究に邁進する.大平教授の差配で京都大学ウイルス研究所・淀井淳司教授の研究室に国内留学して取り組んだのは,レドックス制御因子チオレドキシンと光酸化ストレスによる網膜障害の研究である.光ストレスによる網膜変性は,谷戸先生のもう一つの大きな研究テーマである.*谷戸先生のモットーは「理論に裏付けられた実践(臨床)と,実践を行うための理論(研究)の両者を大切にすること」である.臨床医,術者としての谷戸先生の力量は,本年3月まで眼科部長として在職していた松江赤十字病院でも大いに発揮されてきた.日常診療はもとより,低侵襲の術式の考案,専用器具の発明・改良,画像・映像を利用した診断や手術手技の普及,後進の指導など,その活躍は多方面に及ぶ.4月の教授就任以降は,臨床,研究,教育に加え,島根県全体の眼科医療の向上も常に考えていかなければならない立場である.谷戸先生は「島根型眼科総合医」育成構想を練っている.極度に細分化した専門分野の弊害と県内の医師偏在・地域間格差の拡大を克服すべき課題と明確に位置づけ,その解決をはかるために,「少なくとも二つのサブスペシャリティーを有した眼科医の育成」と「医師の適正配置と,医師の多様性を重視した人材育成」を大きな柱とする構想である.鍵となるのは,「多様性の重視」であろう.各人各様の考え方,働き方を生かし,男女,勤務医・開業医に関係なくワーク・ライフ・バランスをとれるようにすることが,これからの眼科医育成には不可欠であるという.医師だけではない.教室員やその他のスタッフ(看護師,視能訓練士,事務員)それぞれが,自分で考え自律的に行動できる組織を作りたい,そのうえで適切な権限の委譲を進めて,自分自身は組織の方向性を示す役割を担いたいと谷戸先生は考えている.谷戸先生は,飲み会・宴会は声がかかれば可能な限り参加することにしているとか.学生時代の瀬戸川教授とのエピソードからもうかがえるように,お酒はけっしてお嫌いではなさそうである.「飲みニケーション」も活用しながら(?),多くの人々を巻き込んで,谷戸構想がいま,動き出した.(75)あたらしい眼科Vol.35,No.7,20189250910-1810/18/\100/頁/JCOPY

マイボーム腺機能不全とドライアイ

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの背景因子マイボーム腺機能不全とドライアイMeibomianGlandDysfunctionandDryEye福岡詩麻*有田玲子**Iマイボーム腺とはマイボーム腺は皮脂腺の一種で,眼瞼の瞼板の中に垂直に走る長い導管と多数の腺房からなる.導管の数は,上C25~30本,下C15~20本程である.マイボーム腺開口部は,正常眼では眼瞼縁の睫毛より結膜側に並んでいる.マイボーム腺が分泌する脂(meibum)は,涙液の油層を形成し,涙液の過剰な蒸発の抑制,涙液安定性の促進,涙液の眼表面への伸展の促進などの働きをしている1).CIIマイボーム腺機能不全とはマイボーム腺の機能に異常をきたした状態が,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)である.MGDワーキンググループによる定義を表1に示す1).マイボーム腺に発生する疾患としては,霰粒腫,内麦粒腫などがあるが,これらは局所的な疾患であるのに対し,MGDはマイボーム腺がびまん性に障害されている.MGDは眼不快感,眼乾燥感などの自覚症状を伴う.マイボーム腺の機能が低下するタイプ(分泌減少型)と亢進するタイプ(分泌増加型)に大きく分類される.分泌減少型CMGDのほうが,分泌増加型よりも症例数が多い.分泌減少型CMGDでは,マイボーム腺からのCmeibumの分泌が低下し,涙の蒸発が亢進し,涙の安定性が低下する.MGDワーキンググループによる分泌減少型表1MGDワーキンググループによるマイボーム腺機能不全の定義1)(文献C1より引用)表2MGDワーキンググループによる分泌減少型マイボーム腺機能不全の診断基準1)(文献C1より引用)MGDの診断基準を表2に示す1).分泌減少型CMGDの診断に必要な項目は,1)自覚症状,2)マイボーム腺開口部周囲異常所見,3)マイボーム腺開口部閉塞所見である.これらC3項目をすべて満たす場合,分泌減少型MGDと診断される.C*ShimaFukuoka:大宮はまだ眼科西口分院,東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学**ReikoArita:伊藤医院〔別刷請求先〕福岡詩麻:〒330-0854埼玉県さいたま市大宮区桜木町C1-169-1大宮はまだ眼科西口分院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(69)C919図1MGD眼の眼瞼縁所見64歳,女性.右眼の上眼瞼縁所見.マイボーム腺開口部の閉塞所見(plugging)と血管拡張(vascularity)が観察される.図2正常眼のマイボグラフィー47歳,男性.左眼.正常眼のマイボグラフィー画像.下眼瞼(Ca),上眼瞼(Cb)には垂直に走る導管と複数の腺房からなるマイボーム腺(写真の白い部分)が観察できる.図3MGD眼のマイボフラフィー74歳,男性.左眼.MGD眼のマイボグラフィー画像.下眼瞼(Ca)のマイボーム腺には脱落(dropout)(写真の黒くぬけた部分)が観察され,上眼瞼(Cb)には短縮したマイボーム腺が観察できる.正常眼に比べて白黒のコントラストが悪い.Cab図4正常眼のインターフェロメトリー法LipiViewRとDR.1a45歳,正常男性.左眼のCLipiViewCR画像(Ca)とCDR-1Caによる涙液光干渉像(Cb).LipiViewCRは上から,前眼部写真,涙液を分離した画像,涙液油層厚のグラフと測定値(AvgICU)が示されている.LipiViewCRで測定した涙液油層厚はC76Cnm,DR-1Caの涙液光干渉像ではきれいな単色干渉縞が観察され,NIBUT8秒と涙液が安定しており,涙液の水と油のバランスが保たれていた.ab図5MGD眼のインターフェロメトリー法LipiViewRとDR.1a29歳,MGDの男性.左眼のCLipiViewCR画像(Ca)とCDR-1Caによる涙液光干渉像(Cb).LipiViewCRで測定した涙液油層厚はC26Cnmと薄く,DR-1Caの涙液光干渉像では干渉縞がみられず(蒸発亢進型ドライアイパターン),NIBUT3秒と短縮しており,涙液安定性が低下していた.–

ドライアイの背景因子 緑内障とドライアイ

2018年7月31日 火曜日

ドライアイの背景因子緑内障とドライアイGlaucomaandDryEye井上賢治*はじめに緑内障とドライアイの関係については不明である.緑内障患者にドライアイの合併が多いか,あるいはドライアイ患者に緑内障の合併が多いかは判明していない.緑内障の治療は眼圧を下げることで,眼圧下降の第一選択は点眼薬治療である1).点眼薬使用中の緑内障患者の眼表面にドライアイの所見をみることが多く,緑内障点眼薬が眼表面に与える影響が懸念される.CI緑内障点眼薬とドライアイの関係日本のドライアイの定義はC2016年に改訂された2).改訂にあたり涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-uptime:BUT)短縮型ドライアイの概念と涙液層の安全性が考慮された.その結果,ドライアイの定義は,眼不快感,視機能異常などの自覚症状とCBUTがC5秒以下の両者を有するとなった.従来のドライアイの確定診断にはフルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンのいずれかを用いた染色試験で陽性(9点満点でC3点以上)であることが必要だったが,角結膜障害は診断基準に含まれなくなった.緑内障点眼薬使用患者にドライアイの合併が多いのかについて以下に述べる.まず緑内障点眼薬の使用によりさまざまな眼不快感が出現することが報告されている3).緑内障点眼薬で治療中の患者C182名に点眼治療の問題点について聞き取りアンケートを実施した.使用感は,しみるC35名,かすむC34名,充血するC17名,ゴロゴロするC10名,かゆいC2名などだった.対象は一般病院の眼科受診患者で,点眼薬数はC1剤がC60%,2剤が36%,1日の総点眼回数はC1回がC49%,2回がC25%,3回がC18%と相対的に点眼薬数・点眼回数が少ない患者だった.この報告ではCBUT測定は行われていないのでドライアイの合併は不明である.緑内障点眼薬によりさまざまな症状が出現しているが,ドライアイを合併している患者では,さらに顕著に症状が出現すると考えられる.つぎに,1年間以上プロスタグランジン関連点眼薬の単剤投与を行っている正常眼圧緑内障患者と緑内障を有さない対照患者のドライアイ関連因子を比較した報告がある4).ドライアイ関連因子としてCOcularSurfaceDis-easeCIndex(以下COSDIスコア),BUT,Schirmerテスト,角膜上皮障害スコア(Area-Density法)を用いた.OSDIスコアとは眼表面疾患の指標で,0~100の尺度で評価され,高いスコアはより大きな障害を表す(表1).OSDIスコアは正常眼圧緑内障患者(11.39C±5.52)で対照患者(8.96C±5.35)に比べて有意に高値だった.BUTは正常眼圧緑内障患者(4.36C±1.58秒)で対照患者(7.54C±2.98秒)に比べて有意に短縮していた.Schirm-erテストは正常眼圧緑内障患者(6.44C±1.77秒)で対照患者(10.45C±5.51秒)に比べて有意に短縮していた.角膜上皮障害スコアは正常眼圧緑内障患者(0.93C±1.23点)で対照患者(0.40C±0.59点)に比べて有意に高値だった.つまり,これらのすべてのドライアイ関連因子は,*KenjiInoue:井上眼科病院〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(63)C913表1OSDIc(眼表面疾患指標)A.次のいずれかを経験しましたか?先週:常に:4,ほとんど:3,半分2.時々:1,まったくない:01.光を見るとまぶしい2.目がゴロゴロする3.目が痛い4.かすんで見える5.見えにくい回答の小計スコアB.あなたの目の状態は,次のいずれかをしにくかったことがありますか?先週:常に:4,ほとんど:3,半分2,時々:1,まったくない:06.読書(本や新聞など)7.夜間の車の運転8.パソコンや銀行ATMの使用9.テレビを見ること回答の小計スコアC.次のいずれかの状況では,あなたの目に不快感を感じましたか?先週:常に:4,ほとんど:3,半分2,時々:1,まったくない:010.風のあたる場所11.乾燥している場所12.エアコンが効いている場所回答の小計スコアD.A,B,Cの小計を加算(回答したすべての質問のスコアの合計)E.回答総数:回答済み(回答なしの回答は含まない)OSDIスコアの評価OSDIは0~100の尺度で評価され,高いスコアはより大きな障害を表します.指数は,正常な患者とドライアイの患者を区別する際の感度および特異性を示します.OSDIcは,ドライアイ疾患の重症度(正常,軽度~中等度,および重度)および視覚関連機能への影響を測定するための有効かつ信頼性の高いツールです.(Schi.manCRM,CChristiansonCMD,CHaconsenCGCetCal:ReliabilityCandCvalidityCofCtheCOcularCSurfaceDiseaseIndex.ArchOphthalmolC118:615621,2000.Copyrightc1995,Allerganより引用)ドライアイ薬剤性角膜上皮障害図1ドライアイと薬剤性角膜上皮障害の違いフルオレセイン染色はドライアイでは結膜上皮障害が,薬剤性角膜上皮障害では角膜上皮障害が強い.角膜上皮障害はドライアイでは角膜下方から中央部にかけて,薬剤性角膜上皮障害では角膜全体に出現する.防腐剤塩化ベンザルコニウム緑内障点眼薬(先発品)ラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト,イソプロピルウノプロストンチモロール,熱応答ゲル化チモロール,カルテオロール,持続性カルテオロール,ベタキソロールニプラジロール,レボブノロールブナゾシンドルゾラミド,ブリンゾラミドリパスジルラタノプロスト/チモロールタフルプロスト/チモロールドルゾラミド/チモロールブリンゾラミド/チモロール臭化ベンゼトニウムイオン応答ゲル化チモロール塩化ベンザルコニウム+クロロブタノールピバレフリンパラベン+クロロブタノールピロカルピンなし(ホウ酸)トラボプロストブリモニジントラボプロスト/チモロールカルテオロール/ラタノプロスト表3緑内障点眼薬による角膜上皮障害が出現しやすい症例症例対策緑内障点眼薬多剤併用BAC濃度高い点眼薬1日2回Cb遮断点眼薬チモロール配合点眼薬へBAC濃度低い点眼薬,BAC以外の防腐剤使用点眼薬,防腐剤フリー点眼薬へ1日1回Cb遮断点眼薬カルテオロール眼疾患などドライアイコンタクトレンズLASIK既往全身性疾患など糖尿病膠原病BAC:塩化ベンザルコニウム.–