眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人40.コンタクトレンズと眼瞼下垂石川恵里柿﨑裕彦愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科コンタクトレンズを長期間装用することによって眼瞼下垂を生じることが知られており,その病態は初期と晩期で異なる.コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と類似する臨床像であり,他の眼瞼下垂の原因を除外して診断する.手術では挙筋前転術が広く行われている.●はじめにコンタクトレンズを長期間装用することによって,眼瞼下垂を生じることが知られている1).ハードコンタクトレンズ装用者でより頻繁に起こるが,ソフトコンタクトレンズ装用者にも生じうる2).コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と同じく,腱膜性眼瞼下垂に分類される1).このタイプの眼瞼下垂では,CMuller筋周囲に慢性炎症の結果による線維化も認める3).本稿では,コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂の病態,臨床像,鑑別診断,治療について述べる.C●コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂の病態病態は,症状が可逆的である初期と,不可逆的となる晩期で異なる(表1).初期では,コンタクトレンズによる眼瞼結膜への機械的な刺激が炎症を惹起し,その結果,上眼瞼が浮腫状となり,その重力的影響によって機械的に眼瞼下垂が生じる.コンタクトレンズに付着する汚れによって引き起こされるコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎も炎症であるため,同様の機序により眼瞼下垂の原因となりうる4).この時期の眼瞼下垂は可逆的であり,コンタクトレンズの装用を中止することによって炎症を鎮静化させれば,大部分の患者で2~4週間後には症状が改善してくる2).コンタクトレンズ着脱の際には,上眼瞼を上方あるいは耳側に牽引するため,挙筋腱膜にストレスがかかるが,これが経年的に繰り返されると,晩期症状としての不可逆的な眼瞼下垂が生じる1).コンタクトレンズ装用者が眼瞼下垂を発症するリスクのオッズ比は,ハードコンタクトレンズ装用者で17.38,ソフトコンタクトレンズ装用者でC8.12と,ハードコンタクトレンズでより大きい2).この差は,ハードコンタクトレンズの素材がソフトコンタクトレンズよりも硬いことが原因と考えられている2).従来のソフトコンタクトレンズは,素材の柔らかいハイドロゲルレンズがおもに流通していたが,近年は酸素透過性の追求とともに,素材が硬めであるシリコーンハ表1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂と退行性眼瞼下垂コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂退行性眼瞼下垂病理所見初期●レンズの機械的刺激や汚染C↓瞼結膜の炎症・浮腫●CMuller筋:正常●退行性変化による挙筋腱膜の菲薄化,付着の裂離晩期●レンズ着脱時の瞼の牽引の繰り返しC↓挙筋腱膜の付着の裂離●炎症の慢性化C↓Muller筋周囲の線維化臨床像挙筋機能:正常(1C0Cmm以上)挙筋機能:正常(重度では低下)(89)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9390910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂48歳,女性.20歳からハードコンタクトレンズの装用を継続.両側の重瞼線の上昇と右側優位の眉挙上を認める.挙筋機能は両側ともに正常であった.イドロゲルレンズが主流となってきている.このため今後,ソフトコンタクトレンズ装用者においても眼瞼下垂の発症が増加してくる可能性がある.C●臨床像コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂は,比較的若年者で発症する1).通常,挙筋機能は正常であり,退行性眼瞼下垂と同様,重瞼線の上昇を認める(図1).片眼性あるいは,左右差を伴って発症することが多い.多くの患者はフェニレフリンテストで敏感に反応するが,晩期には反応する場合としない場合がある.この原因はCMuller筋の変性や周囲の線維化のため,交感神経刺激に反応できなくなったためと考えられている1).C●鑑別診断コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は除外診断によって診断する.以下のC3項目が満たされる必要がある1).①C50歳以下である,②コンタクトレンズを最低C3年間装用している,③他の種類の眼瞼下垂が除外される.C●治療コンタクトレンズ装用中の患者については,フィッティング不良やコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎を繰り返していないかなどを確認し,なんらかのトラブルがあ940あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018図2コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂の挙筋腱膜WhiteCline()は通常瞼板上縁より約C3Cmm上方に位置するが,この部分を瞼板上に固定すると,良好な挙上が得られることが多い.れば,手術に先立ち対処する.このタイプの眼瞼下垂は,大まかな分類では腱膜性眼瞼下垂に分類されるため,手術では腱膜前転術が広く行われている(図2).しかし,Muller筋の機能不全も原因の一つと考えられているため,Muller筋を標的とした手術でも相応の効果が得られる1).C●おわりにコンタクトレンズ装用に伴う眼瞼下垂ついて概要を述べた.コンタクトレンズ装用者では,レンズの種類にかかわらず,その装用がきっかけとなって眼瞼下垂を生じうることを周知する必要がある.文献1)柿﨑裕彦:眼瞼下垂がよくわかる本.p19-30,ブイツーソリューション,20182)HwangCK,CKimCJH:TheCriskCofCblepharoptosisCinCcontactClenswearers.JCraniofacSurg26:373-374,C20153)WatanabeCA,CArakiCB,CNosoCKCetCal:HistopathplogyCofCblapharoptosisCinducedCbyCprolongedChardCcontactClensCwear.AmJOphthalmol141:1092-1096,C20064)BleyenCI,CHiemstraCCA,CDevogelaereCTCetCal:NotConlyChardCcontactClensCwearCbutCalsoCsoftCcontactClensCwearCmaybeassociatedwithblepharoptosis.CanJOphyhalmolC46:333-336,C2011(90)