●連載監修=安川力髙橋寛二57.網膜中心静脈閉塞症に挑む!鈴間潔香川大学医学部眼科学講座レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用い,網膜中心静脈閉塞症の網膜血流を評価したところ,抗VEGF治療により黄斑浮腫と血流の両方が改善する症例が視力予後良好であった.LSFGを用いて血流を評価することは,病状把握および治療を行ううえで有用である.網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は虚血型に移行すると失明につながる疾患であり,黄斑浮腫は視力予後を不良にする.格子状光凝固,高圧酸素療法,炭酸脱水酵素阻害薬内服,硝子体切除,視神経乳頭放射状切開,ステロイド局所投与,全身または局所の線溶療法など,さまざまな治療が試みられてきたが,決定的な治療法は確立されていない.最近,抗VEGF薬の硝子体内注射がCCRVOの黄斑浮腫を著明に改善することが明らかとなり,治療の主流となりつつある.CRVOは非虚血型がC75~80%を占め,30%の黄斑浮腫は自然治癒するといわれているが,3年でC34%が虚血型に移行するともいわれている.虚血型になると著しい視力低下が生じ,3カ月以内にC60%以上が虹彩血管新生や血管新生緑内障に進行するといわれている.CRVOに対する抗CVEGF治療の大規模臨床試験の報告では,平均C17文字以上という非常に大きな視力改善が得られている.黄斑浮腫に対しても抗CVEGF治療は非常に有効であり,筆者らのデータでも多くの症例で黄斑浮腫が著明に改善していた1).すなわちCCRVOにおけるCVEGFの役割は非常に大きいということがいえる.眼内CVEGFの発現を亢進させるのは網膜血流の低下とそれによる網膜虚血であると考えられるため,CRVOで網膜血流の評価を試みた.網膜血流評価の基本は蛍光眼底造影であるが,定量的な評価は非常に手間がかかり,侵襲的な検査なので受診ごとに施行することができない.そこで日本発の眼底血流解析装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laserCspeckle.owgraphy:LSFG)を採用した.LSFGは眼底に存在する散乱粒子の移動速度分布,すなわち眼底血流分布を画像化して表示することができる.視神経乳頭の大血管の平均血流速度を自動解析するプログラムを開発し,網膜全体の血流を反映する指標として用いた.まずCCRVOの前房CVEGF濃度と血流(meanCblurrate:MBR)の相関を調べたところ,負の相関を認めた2).このことは中心静脈閉塞が高度であるほど眼内(79)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYVEGF濃度が高くなるということを意味しており,重症例ほど頻繁な抗CVEGF治療が必要であることを説明できる.その後,LSFGにより網膜血流を評価しながらCRVOの診療をしていると,抗CVEGF治療により網膜血流が改善する症例があることに気づいた(図1).非可逆的変化になってしまっている例もあるが,抗CVEGF治療をすると網膜血流が改善する例があるということから,VEGFと血流の間に悪循環があると考えられた(図2)3).その後症例を重ね,最終視力を目的変数として多変量解析を行なったところ,最終血流がよいほど最終視力がよいということが明らかとなった4).すなわち,抗VEGF治療を行う場合でも,血流をモニターしながら血流がよくなるような管理をするべきであるといえる.抗CVEGF治療を行って浮腫が改善しても,虚血により網膜細胞死から視機能障害が起こる(図2)ため,CRVOの本質である中心静脈閉塞や虚血そのものの治療法を開発する必要がある5).文献1)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimag-ingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralCretinalCveinCocclusion.CAmCJCOphthalmol156:543-547,C20132)YamadaY,SuzumaK,MatsumotoMetal:Retinalblood.owCcorrelatesCtoCaqueousCvascularCendothelialCgrowthCfactorCinCcentralCretinalCveinCocclusion.CRetinaC35:2037-2042,C20153)MatsumotoCM,CSuzumaCK,CFukazawaCYCetal:RetinalCblood.owlevelsmeasuredbylaserspeckle.owgraphyinpatientsCwhoCreceivedCintravitrealCbevacizumabCinjectionCformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclu-sion.RetinalCases&BriefReportsC8:60-66,C20144)MatsumotoM,SuzumaK,YamadaYetal:Retinalblood.owCafterCintravitrealCbevacizumabCisCaCpredictiveCfactorCforCoutcomesCofCmacularCedemaCassociatedCwithCcentralCretinalveinocclusion.RetinaC38:283-291,C20185)鈴間潔,北岡隆,隈上武志ほか:眼疾患メカニズムの新しい理解.網膜血管障害の新しい理解.日眼会誌C119:C216-227,C2015あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1391IVR前VEGF=116pg/ml視力RV=0.15(0.3),CRT=641μmMV-MT=28.34回目IVR4週後視力RV=0.7(1.2),CRT=282μmMV-MT=38.34回目IVR9週後,5回目IVR施行視力RV=0.8(0.9),CRT=303μmMV-MT=39.45回目IVR5週後視力RV=0.7(0.9),CRT=278μmMV-MT=39.85回目IVR9週後,6回目IVR施行視力RV=0.6(0.8),CRT=355μmMV-MT=45.4図1非虚血型網膜中心静脈閉塞症の治療経過左:OCT,右:視神経レーザースペックルフローグラフィー.抗CVEGF治療により最終的に黄斑浮腫と血流の両方の改善が得られ,視力も改善した.IVR:intravitrealranibizumab,CRT(centralretinalthickness):平均中心窩網膜厚,MV(meanblurrateatvasculature):大血管血流,MT(meanblurrateattissue):組織血流網膜中心静脈閉塞症網膜血流低下網膜虚血悪循環図2網膜中心静脈閉塞症では血流改善の有無が予後を左右する眼内CVEGF濃度の上昇がさらに網膜血流を低下させるという悪循環が存在するが,抗CVEGF治療を行って悪循環を断ち切り,浮腫が改善しても,虚血そのものにより網膜細胞死から視機能障害が起こる.網膜細胞死視機能障害1392あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(80)