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アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー点眼液のヒスタミン受容体発現に及ぼす影響

2019年2月28日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(2):273.281,2019cアレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー点眼液のヒスタミン受容体発現に及ぼす影響針谷威寬*1丸山和一*1,2横倉俊二*1中澤徹*3*1東北大学病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科・視覚先端医学寄附講座*3東北大学大学院医学研究科神経・感覚器病態学講座眼科学分野CE.ectsofAnti-allergicEyeDropsonHistamineReceptorsinPatientswithSeasonalAllergicConjunctivitisTakehiroHariya1),KazuichiMaruyama1,2)C,ShunjiYokokura1)andToruNakazawa3)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityHospital,2)DepartmentofInnovativeVisualScience,OsakaUniversityMedicalSchool,3)DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:アレルギー性結膜炎の治療として,近年初期療法が提唱され,インバースアゴニストが重症化を防ぐうえでより適する可能性があると報告されている.インバースアゴニスト作用を有するエピナスチン塩酸塩点眼液の使用前後,ヒト結膜組織におけるヒスタミンCHC1受容体,涙液中サイトカイン濃度の推移を,オロパタジン塩酸塩点眼液と比較検討した.方法:アレルギー性結膜炎患者C29名をC3群(エピナスチン初期療法群,オロパタジン初期療法群,対照群)に無作為に割付けた.スギ花粉の飛散前より点眼を開始し,点眼後C4週時(本格飛散時)とC12週時に自覚症状と他覚所見を確認した.同時に涙液および結膜上皮細胞を採取して涙液中ヒスタミン濃度とヒスタミンCHC1受容体のCmRNA発現量を確認した.結果:エピナスチン群においてC4週時の充血,流涙,眼脂症状で対照群と比較して有意に抑制され,合計スコアの経時推移より自覚症状全般の悪化が抑制される傾向を示した.涙液ヒスタミン濃度はC0週時とC4週時において,対照群に比べてエピナスチン群とオロパタジン群の両群において抑制傾向を示したが有意差はなかった.ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量のC0週時とC4週時の比較では,いずれの群においても有意な変動を認めなかったが,エピナスチン群はわずかに減少する傾向を示した.結論:アレルギー性結膜炎治療において,インバースアゴニスト作用を有する抗アレルギー点眼薬を用いた初期療法は,結膜のヒスタミンCHC1受容体の発現を抑制し,症状の重症化を防ぐ可能性がある.CTheprimarytreatmentforallergicconjunctivitisisantihistamineeyedrops.However,whenseveresymptomshaveCalreadyCappeared,CantihistamineCtreatmentCisCnotCalwaysCe.ective.CItChasCbeenCreportedCthatCpreventative,Cpre-seasonalCtreatmentsCthatCuseCanCinverseCagonistCmechanismCcanCsuppressCsuchCsevereCallergicCsymptoms.CInCthepresentstudy,wedeterminedwhetherpre-seasonaltreatmentwithepinastinewase.ectiveinreducingclini-calsymptomsinhumansubjects(n=29)C.Wefoundthattheepinastinetreatmentgrouphadasigni.cantlylowerclinicalCscoreCforCallergicCsymptoms,CespeciallyCatCtheCfourthCweekCafterCadministration.CMoreover,CmRNACexpres-sionofthehistamineH1Creceptorshowedatendencytowardslightsuppression.Thus,anti-allergiceyedropsthatuseaninverseagonistmechanismcouldbesuitableforpre-seasonaltreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):273.281,C2019〕Keywords:初期療法,インバースアゴニスト,ヒスタミン,ヒスタミンCHC1受容体.pre-seasonaltreatment,in-versagonist,histamine,histamineH1Creceptor.C〔別刷請求先〕針谷威寬:〒980-8574宮城県仙台市青葉区星陵町C1-1東北大学病院眼科Reprintrequests:TakehiroHariya,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TohokuUniversityHospital,1-1Seiryo-cho,Aobaward,Sendai,Miyagi980-8574,JAPANCはじめに花粉症の病態の一つである季節性アレルギー性結膜炎は,目のかゆみをはじめとするアレルギー症状により,花粉飛散期の日常生活における患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる.そのため国はアレルギー疾患が国民生活に多大な影響を及ぼしている現状に鑑み,2014年にアレルギー疾患対策基本法を制定し,アレルギー疾患対策を総合的に推進する取り組みを進めることとなった.しかしながら,現在でも症状を完全に抑えることはむずかしく,より有効な治療法の検討が続けられている.耳鼻咽喉科領域においては季節性アレルギー性鼻炎の治療は,経口の抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイドなどの薬剤をスギ花粉の飛散予測日のC1週間前から投与する初期療法が鼻アレルギー診療ガイドラインで推奨されている1).とくに花粉症に対しては,花粉の飛散がピークとなるC2.3週間前から治療を開始し,花粉の飛散が終わる頃までの長期的な治療を行う.これはアレルゲン曝露によるヒスタミンCHC1受容体の活性化を減弱させる効果が期待される.抗アレルギー薬の作用機序は,症状の原因となるヒスタミンやプロスタグランジンなどのケミカルメディエーターが肥満細胞から分泌されることを抑制する,またはヒスタミンCHC1受容体に拮抗的に結合し,受容体からのシグナルを減弱させ症状を軽減させることである2).近年はヒスタミンCHC1受容体拮抗作用に加え,インバースアゴニスト作用をもつ薬剤が臨床で用いられている.抗アレルギー点眼薬を用いた初期療法が,季節性アレルギー性結膜炎に有効であることを報告した先行研究は複数存在する.深川らは,エピナスチン塩酸塩点眼液を用いて初期療法の有効性について検討した.その結果,初期療法を行った群では,花粉飛散時期の眼のかゆみなどの自覚症状や他覚所見,QOL項目の症状悪化と症状のピークが有意に抑制されることを報告した3).また,海老原らもオロパタジン塩酸塩点眼液の初期療法における有効性を報告している4).しかし,患者における認知度は低く,実際に医療機関を早めに受診して初期療法を行う患者は,全体のC1割に満たない5).エピナスチン塩酸塩の特徴として知られるインバースアゴニスト作用は,ヒスタミンCHC1受容体の活性型と不活性型の平衡を不活性型優位にシフトさせることで構成的活性を抑制し,結果的に受容体の数を減少させる働きがある.しかし,このような作用については,理論的な検討および非臨床での検証が行われている段階であり,実臨床においてインバースアゴニスト作用の効果について,分子生物学的な手法を用いて検討を行った報告はこれまでに存在しない.今回筆者らは,深川らが施行したエピナスチン塩酸塩点眼治療における初期療法の臨床的評価の有効性に加え,涙液や結膜上皮組織などの生体サンプルを採取することにより,分子生物学的な方法を用いて検討を行った.具体的にはヒスタミンCHC1受容体アンタゴニストであるオロパタジン塩酸塩点眼液と,インバースアゴニスト作用をもつエピナスチン塩酸塩点眼液を用いて,涙液中ヒスタミン濃度やヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量の点眼前後の推移について比較した.CI対象および方法1.対象患者および試験デザイン対象患者はC20歳以上の男女で,例年春季のスギ花粉飛散期に症状が出現し,両眼とも季節性アレルギー性結膜炎と診断された患者で,血清中抗原特異的CIgE抗体検査陽性患者(過去C3年以内の検査結果は採用可能)を対象とし,本人の自由意思による文書同意が得られた患者を登録した.季節性アレルギー性結膜炎の診断は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)6)で定められた準確定診断を基準とした.アンケート形式による自覚症状の確認と細隙灯顕微鏡検査を施行して他覚所見を確認後,血清中抗原特異的CIgE抗体検査(イムノキャップラピッド;サーモフィッシャーダイアグノスティックス)によるスギ抗原陽性を確認した.また,汎用検査用免疫グロブリンCE検査(アレルウォッチ涙液IgE;わかもと製薬)による涙液中総CIgE値を確認した.試験デザインは単施設無作為化オープンラベル並行群間比較試験とした.無作為化は置換ブロック法を用いて行い,症例登録された被験者をつぎのC3つの群にそれぞれ1:1:1で割付けた.本研究はインバースアゴニスト作用を有する抗ヒスタミン点眼液の初期療法における有用性について,探索的な位置付けで検討するため,目標症例数は合計C30例(各群10例)とした.①花粉飛散C4週間前よりオロパタジン塩酸塩点眼液の点眼治療を開始する群(オロパタジン初期療法群)②花粉飛散C4週間前よりエピナスチン塩酸塩点眼液の点眼治療を開始する群(エピナスチン初期療法群)③花粉飛散C4週間前より対照薬として人工涙液をC4週間点眼し,本格飛散開始後にエピナスチン塩酸塩点眼液で点眼治療を行う群(対照群)C2.試.験.方.法研究を開始するまでに当該臨床研究の概要を大学病院医療情報ネットワーク:UMINに登録し公開した.症例登録に先立ち,東北大学病院臨床研究倫理委員会で承認の得られた同意説明文書を用いて患者本人に十分に説明し,本研究への参加について自由意思による同意を文書により得た.被験者は株式会社ヘルスクリックの募集パネルから抽出し,平成28年のC2月からC5月にかけて東北大学病院で実施した.被験者の観察は試験期間中にC3回行った.研究開始時の「来院C1(0週)」では同意取得と患者背景,適格性の確認および症例登録を行い,割り付けられた治療群に応じた点眼液図1試験デザイン目標症例数は合計C30例(各群C10例)とした.オロパタジン初期療法群およびエピナスチン初期療法群は,初期療法として花粉本格飛散前から抗アレルギー点眼治療を行った.対照群ではこの時期に人工涙液を点眼し,初期療法を行っていない.を処方した.「来院C2(4週)」は来院C1(点眼開始)からおおむねC4週後とし,スギ花粉の本格飛散時期となるように設定した.「来院C3(12週)」は来院C2のC8週後に設定した(図1).各群の点眼治療は以下のように設定した.①オロパタジン初期療法群オロパタジン塩酸塩点眼液(パタノールCR点眼液C0.1%;アルコンファーマ)をC1回C1滴,1日C4回,両眼,原則C12週間点眼した.②エピナスチン初期療法群エピナスチン塩酸塩点眼液(アレジオンCR点眼液C0.05%;参天製薬)をC1回C1滴,1日C4回,両眼,原則C12週間点眼した.③対照群来院C1(0週)より人工涙液(ソフトサンティアCR点眼液;参天製薬)を1回2.3滴,1日5.6回,両眼,原則4週間点眼後,来院C2(4週)以降はエピナスチン塩酸塩点眼液をC1回C1滴,1日C4回,両眼,8週間点眼した.被験者背景として,年齢・性別・生年月日,合併症,前治療薬,併用薬(療法)を確認し同意取得日を記録した.また,来院ごとに自覚症状および他覚所見の評価を行い,試験期間を通じて有害事象と点眼遵守状況の確認を行った.自覚症状は目のかゆみ(眼掻痒感),目の充血,目の異物感,涙目,眼脂,目が乾く(眼乾燥感),目が痛い(眼痛),目が疲れる(眼疲労感),まぶたが重いのC9項目ついてC5段階スコア(0:症状なし,1:軽い,2:やや重い,3:重い,4:非常に重い)で評価した.他覚所見は眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,乳頭,巨大乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(トランタス斑,腫脹),角膜上皮障害のC10項目についてアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版)6)に準じてC4段階スコア(C.:症状なし,+:軽度,++:中等度,+++:高度)で評価した.研究対象者の安全性確保および有効性/安全性評価を困難にする薬剤(一般用医薬品を含む)および治療の併用は,研究期間を通じて禁止した.ただし,副腎皮質ステロイド点眼液・点鼻薬は,研究対象者のCQOLの観点から,アレルギー性結膜炎・鼻炎の症状が強いときのみ頓用に限り使用可能とし,使用した場合には日付,回数などを確認し記録した.研究責任医師などが併用禁止治療の実施を必要と判断する場合は,研究対象者の安全性および倫理面を考慮し,本研究を原則中止した.C3.涙液採取,眼瞼結膜の細胞診,ELISA,real.timePCR解析患者の同意取得後に試験参加の適格性を満たす患者に対して涙液採取と眼瞼結膜上皮細胞採取(PCR用)を施行した.Schirmer試験紙を用いて両眼の涙液を採取し,シリコーンコーティングしたエッペンドルフチューブ(EppendorfCR,Germany)に保存し,急速冷凍した.涙液採取後,インプレッションサイトロジー法にてメンブレン(MilliporeCR,GSWP02500,Merck)を用いて下眼瞼の結膜上皮採取を施行した.採取眼は来院C1(0週)の眼掻痒感スコアの高いほうの眼とし,左右眼が同値の場合は右眼とした.結膜組織の採取量はC1回の来院当たりC7CmmC×10Cmmを限度とした.採取後150CμlのCRNAClaterR(ThermoCFisherSCIENTIFIC)に入れ,急速冷凍しC.70oCで保存した.涙液ヒスタミン濃度解析は,冷凍下で保管していたCSchirmer試験紙の入ったエッペンドルフチューブにC100Cμlのリン酸緩衝液(PBS)を入れて攪拌し,市販のヒスタミンCELISAキット「イムノテック」(BeckmanCoulter)を使用して測定した.また,眼瞼結膜の上皮細胞検体中のヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量解析は,RNA抽出後にプライマー(Hs00911670_s1,AppliedBiosystems)を用いてCcDNAを合成し,real-timePCR法(TaqManCRCGeneExpressionCAssays,CAppliedCBiosystems)を用いて定量した.C4.データ管理および統計解析試験薬が投与されたすべての研究対象者について,規定された検査・観察終了後,速やかに症例報告書(caseCreportform:CRF)を作成した.作成したCCRFを株式会社バイオスタティスティカルリサーチに提出し,研究実施機関から独立した第三者が解析した.解析ソフトウェアはCSASversion9.4を用いた.自覚症状スコア,他覚所見スコアの解析対象眼は,来院C1(0週)の眼掻痒感スコアの高いほうの眼とし,左右眼が同値の場合は右眼とした.有効性の解析において,平均値の推定や比較検定に際して分布が正規分布から逸脱しているものに関しては,変数変換を行い正規分布に近づけた後に統計解析を行い,表示は原尺度に逆変換して表示した.平均値の推移の検討においては混合効果モデルを用いて投与群別,時点別の平均値推定値と95%信頼区間を算出した.また,対比統計量については投与群ごとの投与前からの変化の推定値ならびにC95%信頼区間,p値を算出して投与前からの変化を検討するとともに,4週およびC12週それぞれについて投与群間の平均値の差と95%信頼区間,p値を算出して群間差の検討を行った.p<0.05を有意差ありとした.CII結果1.被験者背景本研究における被験者の内訳を図2に示す.文書による同意が得られ,割り付けられた試験薬を投与したC29例の内訳は,オロパタジン初期療法群がC9例,エピナスチン初期療法群がC10例,対照群がC10例であった(図2a).点眼遵守状況の確認において,「点眼をほとんど行っていない」と申告した被験者C2例(エピナスチン初期療法群,対照群それぞれC1例)と,ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量比が著しく高く,統計学的解析結果から臨床的妥当性を有さないと判断されたC1例(オロパタジン初期療法群)の計C3例を解析対象から除外した(図2b).解析対象としたC26例(オロパタジン初期療法群がC8例,エピナスチン初期療法群がC9例,対照群がC9例)の性別,年齢,アレルウォッチ涙液CIgE検査の陽性率において群間に有意な偏りは認めなかった.また,血清中抗原特異的CIgE抗体検査では,すべての被験者においてスギ抗原が陽性であった.2.自覚症状スコアと他覚所見スコアの経時推移と群間比較自覚症状スコアおよび他覚所見スコアについて混合効果モデルを用いて算出した最小二乗平均値の推定値(95%信頼区間)のC0週時,4週時,12週時における経時推移を図3に示す.9項目の自覚症状において,日本アレルギー性結膜疾患標準CQOL調査票7)(JACQLQ調査票)ver.1で眼症状として設定されている眼掻痒感,充血,目の異物感,涙目,眼脂およびこれらの自覚症状合計スコアについて結果を記載する.眼掻痒感について各群の経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC1.2(0.8.1.6),1.7(1.0.2.5),0.4(C.0.4.1.1),エピナスチン初期療法群ではC1.2(0.8.1.6),1.5(0.7.2.2),0.5(C.0.3.1.2),対照群ではC1.2(0.8.1.6),2.0(1.3.2.7),0.5(C.0.2.1.2)であった.0週時との比較では,スギ花粉の本格飛散時期のC4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図3a).充血についての経時推移は,オロパタジン初期療法群では0.9(0.5.1.3),1.3(0.6.1.9),0.3(C.0.4.0.9),エピナスチン初期療法群ではC0.9(0.5.1.3),0.8(0.2.1.4),0.6(C.0.1.1.2),対照群ではC0.9(0.5.1.3),1.7(1.1.2.3),0.4(C.0.1.1.0)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.また,4週時においてエピナスチン初期療法群では充血の悪化が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図3b).目の異物感についての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0.7(0.3.1.1),1.2(0.6.1.8),0.5(C.0.1.1.1),エピナスチン初期療法群ではC0.7(0.3.1.1),1.0(0.3.1.6),0.7(0.1.1.3),対照群ではC0.7(0.3.1.1),1.3(0.7.1.9),0.3(C.0.3.0.9)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図3c).涙目についての経時推移は,オロパタジン初期療法群では0.7(0.3.1.1),1.2(0.6.1.8),0.4(C.0.2.1.0),エピナスチン初期療法群ではC0.7(0.3.1.1),0.5(C.0.1.1.1),0.3(C.0.3.0.8),対照群ではC0.7(0.3.1.1),1.3(0.8.1.9),0.3(C.0.2.0.9)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.また,4週時においてエピナスチン初期療法群では涙目の悪化が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図3d).眼脂についての経時推移は,オロパタジン初期療法群では0.7(0.3.1.0),1.2(0.7.1.8),0.6(0.1.2),エピナスチン初期療法群ではC0.7(0.3.1.0),0.5(0.1.1),0(C.0.5.0.6),対照群ではC0.7(0.3.1.0),1.3(0.8.1.8),0.4(C.0.1.0.9)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な悪化を認めた.また,4週時においてエピナスチン初期療a投与前中止例0例オロパタジン群0例エピナスチン群0例人工涙液群0例試験薬投与例29例オロパタジン群9例エピナスチン群10例人工涙液群10例4週後評価例28例オロパタジン群9例エピナスチン群9例人工涙液群10例完了例27例オロパタジン群9例エピナスチン群9例人工涙液群9例投与後中止例1例オロパタジン群0例エピナスチン群1例人工涙液群0例4週後中止例1例オロパタジン群0例エピナスチン群0例人工涙液群1*例b*12週時自覚症状評価シート記入後に中止図2被験者内訳試験薬投与症例の内訳(Ca)と,解析対象症例(Cb).abc2.522*1.5*NS1.5目の異物感眼掻痒感1*充血10.50.500週4週12週00週4週12週-0.5-0.5-0.5def215**1.5自覚症状合計スコア121*9涙目眼脂0.5600週4週12週3-0.5-100週4週12週ghi1.56**4*200週4週12週他覚所見合計スコア10.5眼球結膜充血眼瞼結膜充血*00週4週12週-0.5-2オロパタジン初期療法群エピナスチン初期療法群対照群図3自覚症状および他覚所見の時系列変化と各群の比較掻痒感(Ca),充血(Cb),目の異物感(Cc),涙目(Cd),眼脂(Ce),自覚症状の合計スコア(Cf),眼瞼結膜充血(Cg),眼球結膜充血(Ch),他覚所見の合計スコア(Ci).グラフ中の誤差範囲はC95%信頼区間を示す.*p<0.05.法群では眼脂の悪化が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図3e).9項目の自覚症状合計スコアについての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC7.1(4.7.9.5),10.6(7.0.14.2),4.5(0.8.8.1),エピナスチン初期療法群ではC7.1(4.7.9.5),6.3(2.7.10.0),3.7(0.1.7.3),対照群ではC7.1(4.7.9.5),9.6(6.2.13.1),2.9(C.0.6.6.3)であった.0週時との比較では,4週時にオロパタジン初期療法群でのみ有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかったが,エピナスチン初期療法群では自覚症状の悪化が全般的に抑制されたことを反映した結果であった(図3f).10項目の他覚所見において,1以上のスコアリングを認めたおもな項目は,眼瞼結膜の充血,腫脹,濾胞,乳頭および眼球結膜充血であった.眼瞼結膜充血についての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0.3(0.1.0.5),0.8(0.4.1.1),0.7(0.3.1.0),エピナスチン初期療法群ではC0.3(0.1.0.5),1.0(0.6.1.3),0.6(0.2.0.9),対照群ではC0.3(0.1.0.5),0.9(0.6.1.3),0.5(0.1.0.8)であった.0週時との比較では,いずれの群もC4週時に有意な悪化を認めた.4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図3g).眼球結膜充血についての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0(C.0.1.0.2),0.5(0.2.0.8),0.6(0.3.1.0),エピナスチン初期療法群ではC0(C.0.1.0.2),0.5(0.2.0.8),0.7(0.4.1.1),対照群ではC0(C.0.1.0.2),1.0(0.7.1.3),0.5(0.2.0.8)であった.0週時との比較では,いずれの群もC4週時に有意な悪化を認めた.4週時においてオロパタジン初期療法群およびエピナスチン初期療法群と対照群との間ab涙液ヒスタミン濃度(nM)mRNA発現量オロパタジン初期療法群エピナスチン初期療法群対照群図4分子生物学検査における時系列変化と各群の比較涙液中ヒスタミン濃度(Ca),ヒスタミンCHC1囲はC95%信頼区間を示す.*p<0.05.で有意差を認めた(図3h).10項目の他覚所見合計スコアについての経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC0.8(0.1.1.4),2.1(1.0.3.2),1.3(0.2.2.4),エピナスチン初期療法群ではC0.8(0.1.1.4),2.8(1.7.3.9),2.1(1.0.3.2),対照群ではC0.8(0.1.1.4),3.7(2.7.4.7),1.0(C.0.1.2.1)であった.0週時との比較では,いずれの群もC4週時に有意な悪化を認めた.4週時においてオロパタジン初期療法群と対照群との間で有意差を認めた(図3i).C3.涙液ヒスタミン濃度とヒスタミンH1受容体mRNA発現量の経時推移と群間比較涙液ヒスタミン濃度(対数の逆変換値)とヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量(2C.ΔΔCt変換値)について混合効果モデルを用いて算出した最小二乗平均値の推定値(95%信頼区間)のC0週時,4週時,12週時における経時推移を図4に示す.涙液中ヒスタミンの蛋白濃度(単位CnM)をCELISAキットで測定して得られた最小二乗平均値の推定値について各群の経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC2.29(1.52.3.47),1.71(0.86.3.40),4.06(2.04.8.07),エピナスチン初期療法群ではC2.29(1.52.3.47),1.84(0.92.3.65),2.99(1.50.5.95),対照群ではC2.29(1.52.3.47),5.63(2.94.10.80),3.31(1.60.6.82)であった.0週時との比較では,4週時に対照群でのみ有意な上昇を認めた.また,4週時においてオロパタジン初期療法群およびエピナスチン初期療法群では涙液ヒスタミン濃度の上昇が抑制され,対照群との間で有意差を認めた(図4a).ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量をCreal-timePCR法で定量して得られた最小二乗平均値の推定値について各群の経時推移は,オロパタジン初期療法群ではC1.00,0.92(0.57.1.50),1.12(0.69.1.82),エピナスチン初期療法群では1.00,0.82(0.51.1.34),0.98(0.60.1.59),対照群では受容体CmRNAの発現量(Cb).グラフ中の誤差範1.00,1.23(0.78.1.95),0.91(0.56.1.48)であった.0週時とC4週時の比較では,いずれの群においても有意な変動を認めなかったが,対照群はわずかに上昇し,オロパタジン初期療法群はほぼ不変,エピナスチン初期療法群はわずかに減少する傾向を示した.また,4週時の各群間に有意な差は認めなかった(図4b).CIII考察今回得られた自覚症状スコアの結果から,スギ花粉の本格飛散時期となるよう設定したC4週時において,眼掻痒感について統計学的に有意な群間差を認めなかった.しかし,0週時との比較では人工涙液点眼を行った対照群のみ有意な悪化を認め,オロパタジン初期療法群,エピナスチン初期療法群では,症状の悪化が抑制される傾向を認めた.同じくC4週時において自覚した充血,涙目および眼脂において,エピナスチン初期療法群では花粉飛散ピーク時の症状増悪が抑制(軽減)され,対照群との間で有意差を認めた.自覚症状合計スコアの推移と合わせると,エピナスチン塩酸塩で初期療法を行うことで,眼アレルギー症状全般に対して,花粉飛散ピーク時の症状増悪が抑制(軽減)されうることが示唆されており,使用患者の高い満足度を報告した既報の結果と整合すると考えられた8).オロパタジン塩酸塩においても,初期療法を行うことでエピナスチン塩酸塩と同様に,花粉飛散ピーク時の症状増悪を抑制(軽減)する効果を報告した先行研究が存在する4).今回,同条件で比較した際に両群で自覚症状スコアの推移に違いがみられた結果の解釈については,オロパタジン塩酸塩が,インバースアゴニストではなくニュートラルアンタゴニストである可能性が考えられる.ニュートラルアンタゴニストとは,ヒスタミンCHC1受容体の活性型と不活性型の平衡状態に作用せず,受容体の数に影響を与えない特徴をもつ.一方,インバースアゴニストであるエピナスチン塩酸塩で初期療法を行う場合,ヒスタミンCHC1受容体拮抗作用とケミカルメディエーター遊離抑制作用に加え,花粉の本格飛散までにヒスタミンCHC1受容体の平衡を不活性型優位にシフトさせることで構成的活性を抑制する.その結果,受容体の数を一定程度減少させておくことの効果を,ヒトCinvivoである実際の臨床においても発揮する可能性が示唆された.この結果は,ニュートラルアンタゴニストであるオロパタジン塩酸塩と比べて,インバースアゴニストであるエピナスチン塩酸塩は飛散ピーク時の症状増悪の抑制の程度をより強いものとし,患者自身が感じる自覚症状を軽減し,初期療法の有用性を高めることを示唆する.他覚所見スコアについてはC4週時において,眼瞼結膜充血および眼球結膜充血の両方で,0週時との比較ではいずれの群も有意な悪化を認めたが,とくに眼球結膜充血においてエピナスチン初期療法群とオロパタジン初期療法群では対照群に比べ有意に抑制されており,エピナスチン塩酸塩とオロパタジン塩酸塩は同様の効果があったと考えられる.一方で他覚所見の合計スコアについてはC4週時において,対照群に比べてオロパタジン初期療法群では有意に抑制されていたが,エピナスチン初期療法群では有意差はなかった.他覚所見にはC10項目あり,そのなかには乳頭所見のような慢性的な変化を示すものも含まれている.短期間の観察では変化しない評価項目を指標とすることの是非については,今後検討が必要であると思われる.本研究において重要な点は,被験者より涙液や結膜上皮組織の生体サンプルを採取して,分子生物学的な検討を行ったことである.Shimuraらが報告したように,被験者より得られた生体サンプルは,抗アレルギー点眼薬の有効性を評価し,そのメカニズムを検討するうえで大変重要な知見を提供する9).スギ花粉の本格飛散時期となるよう設定したC4週時において,オロパタジン初期療法群とエピナスチン初期療法群では,涙液中ヒスタミンの蛋白濃度はC0週時の水準から上昇しておらず,対照群でのみ有意な上昇を認めた.この結果は,オロパタジン塩酸塩とエピナスチン塩酸塩に共通する薬理作用であるケミカルメディエーター遊離抑制作用により,肥満細胞からヒスタミンの放出が抑制された可能性を示唆する.また,初期療法の効用として知られるアレルギー性結膜炎の「症状の発症を遅らせる効果」により,対照群と比較して両群では発症が一定程度遅延し,その結果C4週時点では涙液中へのヒスタミンの漏出が抑制された可能性が考えられる.しかし,4週時以降C12週時までに継続的に花粉曝露されたため,涙液中ヒスタミン濃度が上昇に転じたと解釈している.対照群はC4週時に人工涙液からエピナスチン塩酸塩点眼液に切替えることで,抗ヒスタミン作用のため,12週時点ではエピナスチン初期療法群と同程度にまで症状が抑制され,その結果,涙液中ヒスタミン濃度は低下した可能性がある.小木曽らが報告したように,掻痒感はヒスタミンが三叉神経終末のヒスタミンCHC1受容体に結合することで生じる細胞内シグナル伝達を介した経路により惹起すると考えられている.そのためヒスタミンCHC1受容体への結合を阻害し,さらに受容体の平衡を不活性型優位にシフトさせることで構成的活性レベルを低下させ,その結果として受容体の数を減少させることが可能な薬剤は,花粉飛散予測日よりも以前から初期療法として使用開始することにより,花粉飛散ピーク時の眼掻痒感をはじめとする眼アレルギー症状の増悪を抑制(軽減)させうる可能性がある10).ヒスタミンCHC1受容体CmRNA発現量の経時推移をCreal-timePCR法で定量した結果,0週時とC4週時の比較において,オロパタジン初期療法群はほぼ不変,エピナスチン初期療法群はわずかに減少する傾向を示した.また,4週時以降12週時までに継続的に花粉曝露された結果,涙液中ヒスタミン濃度が上昇に転じたことに一致して,オロパタジン初期療法群やエピナスチン初期療法群のCmRNA発現量が上昇している.対照群はC4週時に人工涙液からエピナスチン塩酸塩点眼液に切り替えることで,12週時点では涙液中ヒスタミン濃度とCmRNA発現量がエピナスチン初期療法群と同程度にまで低下した.これらの結果は,涙液中に存在するヒスタミン量に呼応してヒスタミンCHC1受容体の発現量が影響を受けることを示唆する.さらにエピナスチン塩酸塩がCinCvitro試験と同様に,臨床下におけるヒトCinvivoにおいても結膜上皮組織においてヒスタミンCHC1受容体の発現を抑制する可能性を示唆している11).本研究で得られたヒスタミンCHC1受容体のCmRNA発現量の推移データは,初期療法における抗アレルギー点眼薬の効果の違いを,ヒトCinvivoにおいて分子生物学的に確認した初めての報告である.季節性アレルギー性結膜炎に対する初期療法では,インバースアゴニスト作用を有する薬剤が適しており,その分子生物学的なメカニズムの一端が示された.エビデンスのある治療として,エピナスチン塩酸塩を用いた初期療法が推奨される可能性がある.本研究は参天製薬株式会社との共同研究である.文献1)大久保公裕:診療ガイドラインニュース(Vol.121)鼻アレルギー診療ガイドライン通年性鼻炎と花粉症2016年版(改訂第C8版).メディカル朝日45:57-59,C20162)福井裕行:薬理作用からみた抗ヒスタミン薬治療の意義インバース・アゴニストとしての抗ヒスタミン薬.新薬と臨牀C61:1553-1558,C20123)深川和己,藤島浩,高村悦子ほか:季節性アレルギー性結膜炎に対するエピナスチン塩酸塩点眼薬による初期療法の効果.アレルギー・免疫C22:1270-1280,C20154)海老原伸行:塩酸オロパタジン点眼液による季節性アレルギー性結膜炎の初期療法.あたらしい眼科C24:1523-1525,C20075)参天製薬株式会社:スギ花粉症の患者さんにおける初期療法の認識とニーズ実態調査.マクロミルパネルを使用したインターネット調査(自社調べ),20176)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20107)深川和己:アレルギー性結膜疾患CQOL調査票(JACQLQ)の使い方.アレルギーC63:764-766,C20148)加山智子,大嵜浩孝,甲斐靖彦:エピナスチン塩酸塩(アレジオンR)点眼液C0.05%使用成績調査中間報告(第C2報)副作用・効果・患者満足度等.アレルギー・免疫C22:1786-1798,C20159)ShimuraCM,CYasudaCK,CMiyazawaCACetal:Pre-seasonalCtreatmentCwithCtopicalColopatadineCsuppressesCtheCclinicalCsymptomsCofCseasonalCallergicCconjunctivitis.CAmCJCOph-thalmolC151:697-702.Ce2,C201110)小木曽光洋,高野洋之,川島晋一ほか:アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果併用療法との比較.あたらしい眼科C25:1553-1556,C200811)BakkerRA,WielandK,TimmermanHetal:ConstitutiveactivityofthehistamineH1receptorrevealsinverseago-nismofhistamineH1receptorantagonists.EurJPharma-colC387:R5-R7,C2000***

僚眼に視神経乳頭炎と周辺部網膜血管炎を伴った急性網膜壊死の1例

2019年2月28日 木曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(2):269.272,2019c僚眼に視神経乳頭炎と周辺部網膜血管炎を伴った急性網膜壊死の1例下川翔太郎石川桂二郎長谷川英一向野利一郎白根茉莉子園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CACaseofAcuteRetinalNecrosiswithOpticPapillitisintheFellowEyeShotaroShimokawa,KeijiroIshikawa,EiichiHasegawa,Ri-ichiroKohno,MarikoShiraneandKoh-HeiSonodaCDepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedeicalSciencesC僚眼に視神経乳頭炎をきたした急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)のC1例を報告する.症例はC24歳,女性,左眼視力低下を自覚後,徐々に右眼視力低下も自覚し,九州大学病院眼科を紹介受診となった.初診時,右眼矯正視力C0.1,左眼矯正視力C0.3で,左眼には硝子体混濁,視神経乳頭の腫脹,網膜動脈閉塞,周辺部網膜壊死を認め,右眼には視神経乳頭炎,網膜血管炎を認めた.両眼の前房水から水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)DNAが検出されたため,左眼CARN,右眼視神経乳頭炎・網膜血管炎と診断し,アシクロビル点滴とステロイド内服を開始した.左眼はCARNに対して速やかに硝子体手術を行った.右眼は視神経乳頭周囲の出血と網膜出血の増悪を認め,ステロイドパルス療法を行い徐々に消退したが,視神経乳頭の萎縮を残した.ARNの僚眼に認められた視神経乳頭炎は,視神経を介した患眼から僚眼へのウイルス浸潤が病因として考えられ,視機能障害の原因となるとともに,網膜壊死の前駆病変の可能性があり注意を要する.CWereportacaseofacuteretinalnecrosis(ARN)withopticpapillitisinthefelloweye.A24-year-oldfemalepresentedwithdecreasedvisualacuityinherlefteyeandsubsequentdecreaseinherrighteye.UponreferraltoKyushuCUniversityCHospital,CherCbestCvisualCacuitiesCwereC0.1rightCeyeCandC0.3leftCeye.CFundusCexaminationCrevealedvitreousopacity,swollenopticdisc,retinalarteryocclusionandperipheralretinalnecrosisinthelefteyeandopticpapillitisintherighteye.Varicellazostervirus(VZV)DNAwasdetectedbypolymerasechainreactioninaqueoushumorofbotheyes.Afterdiagnosing,weperformedvitrectomyinthelefteyeandinitiatedsystemicadministrationofacyclovirandmethylprednisolone.Theretinitisinthelefteyeregressedwithinonemonth,leav-ingCatrophicCgranularCpigmentedCscars.CTheCpapillitisCinCtheCrightCeyeCregressedCwithinCtwoCmonths,CleavingCopticCatrophy.CTheCbestCvisualCacuitiesCatC.nalCvisitCwereC0.15inCbothCeyes.CItCisCsuggestedCthatCARNCcausedCbyCVZVCmaydevelopsight-threateningopticpapillitisinthefelloweye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):269.272,C2019〕Keywords:急性網膜壊死,視神経乳頭炎,水痘帯状疱疹ウイルス.acuteretinalnecrosis,opticpapillitis,varicellazostervirus.Cはじめに急性網膜壊死(acuteCretinalnecrosis:ARN)は水痘帯状疱疹ウイルス(varicelazostervirus:VZV)または単純へルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)の眼内感染によって引き起こされる網膜ぶどう膜炎であり視力予後不良な疾患である1,2).過去の報告ではCARNは未治療で約C70%の症例で僚眼に発症し,アシクロビルの全身投与で僚眼への発症は約C13%に減少するとされている3).しかしCARNの僚眼に網膜壊死を伴わず視神経症を発症した報告は少ない4).今回,僚眼に視神経乳頭炎と周辺部網膜血管炎をきたした急性網膜壊死のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:24歳,女性.〔別刷請求先〕下川翔太郎:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:ShotaroShimokawa,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedeicalSciences,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC主訴:両眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2017年C5月より左眼霧視を自覚し,近医を受診したところ,左眼虹彩炎を認めステロイド点眼を開始された.4日後の前医再診時,左眼前房内炎症所見の増悪を認めステロイド内服加療を開始された.そのC4日後より,右眼視力低下を自覚し,前医を再度受診したところ,両眼ぶどう膜炎を認め,精査加療目的に九州大学病院眼科へ紹介受診となった.右眼左眼図1初診時眼底所見右眼に視神経乳頭の発赤・腫脹,黄斑部を含む網膜内出血を認める.左眼に硝子体混濁,白色化した網膜,網膜出血,視神経乳頭の腫脹,網膜動脈の白線化を認める.初診時眼所見と経過:視力は右眼0.03(0.1C×sph.3.25D),左眼C0.1(0.3C×sph.3.0D)で,眼圧は右眼C17mmHg,左眼25CmmHgであった.両眼球結膜の充血と左眼豚脂様角膜後面沈着物を認めた.前房内に右眼(1+),左眼(2+)の炎症細胞,前部硝子体内に右眼(1+),左眼(2+)の炎症細胞を認めた.右眼は視神経乳頭の発赤・腫脹,黄斑部を含む網膜出血,周辺部網膜に血管炎を認めた(図1).左眼は硝子体混濁,白色化した網膜,網膜出血,視神経乳頭の腫脹,網膜動脈の白線化を認めた.蛍光眼底造影検査では右眼は視神経乳頭と周辺部血管からの蛍光漏出,左眼は網膜血管からの蛍光漏出と周辺部網膜血管の閉塞を認めた.前房水を用いたCpolymerasechainreaction(PCR)stripによる定性検査では,両眼でCVZVDNAが検出され,定量検査では右眼は検出感度未満,左眼はC6C×106copies/mlのVZVDNAが検出された.以上から左眼はCARNと診断した.同日入院のうえ,アシクロビルC1,800Cmg/日の点滴静注とプレドニゾロンC40Cmg/日の内服を開始した.また,左眼には入院日に水晶体乳化吸引術,硝子体切除術,輪状締結術,シリコーンオイル充.術を施行した.術後,左眼の網膜出血は消退し,シリコーンオイル下で網膜.離は認めなかった.その後も抗ウイルス薬全身投与,ステロイド内服を継続したが,右眼の視神経乳頭周囲の網膜出血と漿液性網膜.離の増悪を認めたため,治療開始後C12日目よりステロイドパルス療法を行った(図2).その後,網膜出血・漿液性網膜.離は徐々に消退した.この間,右眼視力・視野ともに初診時から著変なく経過したが,右眼視神経乳頭は萎縮を残した(図3).本症例では経過中に頭部CMRIを撮像しているが中枢神アシクロビル点滴バラシクロビル内服プレドニゾロン内服メチルプレドニゾロン点滴136912151821入院後日数図2治療経過アシクロビル点滴,プレドニゾロン内服を開始した.その後,右眼の視神経乳頭炎・網膜出血増悪に伴い,ステロイドパルス療法を行った.以後,抗ウイルス薬・ステロイドともに内服とし漸減した.視力(0.1)(0.15)(0.15)(0.15)1カ月4カ月1日目12日目図3経過中の右眼眼底所見と視野障害の変化視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜出血,漿液性網膜.離は徐々に消退したが,視神経乳頭の萎縮を残した.視野検査では中心と鼻下側の視野欠損を認め,経過中,視力・視野ともに大きな変化なく経過した.経系に脳炎を含め,異常所見は認めなかった.その後左眼は増殖硝子体網膜症を発症し,初回手術C11カ月後に再度硝子体手術,シリコーンオイル入れ替えを行い,そのC5カ月後に眼内レンズ縫着と再度シリコーンオイル入れ替えを行った.現在,初診時よりC16カ月経過し視力は右眼(0.3),左眼指数弁となっている.CII考察本症例では,ARNの僚眼に網膜壊死を伴わない視神経乳頭炎と周辺部網膜血管炎を認めた.ARNに関連する視神経症の病態として,1)神経内の血管炎,2)視神経鞘内の滲出物による圧迫性の虚血性視神経症,3)視神経へのウイルスの直接浸潤,4)視神経内炎症による滲出物が硬膜下腔に貯留することによる視神経圧排(および圧排により続発する網膜血管閉塞)の関与が報告されている5).本症例では,初診時に視神経乳頭の上方から鼻側が蒼白化しており,視野検査では中心および鼻下側に弓状の視野欠損を認めたことや,網膜内出血,網膜下出血を併発していたことより,視神経鞘内や硬膜下腔における炎症産物の貯留による虚血性視神経症や網脈絡膜血管のうっ血をきたした可能性が推測される.ARNの僚眼に視神経乳頭炎を併発した症例のわが国における報告は,筆者らが探すかぎり,藤井らによる報告のみであった4).その報告における視神経乳頭炎では,視野検査で中心暗点を呈し,網膜出血を認めなかったことより,視神経内の血管炎やウイルスの直接浸潤が主病態として考えられる.ARNの僚眼における視神経病変は,局所の病態の違いにより多様な臨床所見を呈する可能性がある.ARNの僚眼における視神経病変の発症機序については,過去に動物実験により検討されている.マウス硝子体腔内にHSV株を注入して作製したマウスCARNモデルにおいて,HSVが罹患眼の視神経から視交叉を経由して僚眼の視神経に達し,注射後C3日目に僚眼の網膜内層に浸潤したという報告や,前房内に注入したCHSVが毛様神経節や視神経から中脳に浸潤したという報告がある6,7).また,同モデルでは,視神経を介して僚眼網膜に浸潤したウイルスは,初期は網膜内層に認められ,その後網膜外層へ浸潤すると全層網膜壊死に至るとされている8).以上の報告から本症例では患眼のVZVが視神経から視交叉を経由して,僚眼の視神経に浸潤して乳頭炎をきたしたと推察される.僚眼に視神経乳頭炎・網膜出血と周辺部網膜血管炎を認め,網膜壊死は認めなかったが進行すると全層網膜壊死に至ることが予想されるため,ARNの前駆病変であった可能性が考えられた.CIII結語ARNの僚眼に認められる視神経乳頭炎は,視神経を介した患眼から僚眼へのウイルス浸潤が病因として考えられ,その後の視神経萎縮の原因となる.ARNに対する初期治療として行われる抗ウイルス薬の全身投与は,僚眼への発症進展予防に対しても有用であるため9),早期診断,早期治療が患者の視機能維持に重要であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)奥貫陽子,後藤浩:急性網膜壊死,あたらしい眼科C30:C307-312,C20132)Iwahasi-ShimaCC,CAzumiCA,COhguroCNCetal:AcuteCreti-nalnecrosis:factorsCassociatedCwithCanatomicCandCvisualCoutcomes.JpnJOphthalmolC57:98-103,C20133)PalayCDA,CSterbergCJrCP,CDavisCJCetal:DecreseCinCtheCriskCofCvilateralCacuteCretinalCnecrosisCbyCacyclovirCthera-py.AmJOphthalmolC112:250-255,C19914)藤井敬子,毛塚剛司,臼井嘉彦ほか:僚眼に視神経乳頭炎を併発した急性網膜壊死のC1例.あたらしい眼科C34:722-725,C20175)WitmerMT,PavanPR,FourakerBDetal:AcuteretinalnecrosisCassociatedCopticCneuropathy.CActaCOphthalmolC89:599-607,C20116)LabetoulleCM,CKuceraCP,CUgoliniCGCetal:NeuronalCpath-waysCforCtheCpropagationCofCherpesCsimplexCvirusCtypeC1fromConeCretinaCtoCtheCotherCinCaCmurineCmodel.CJGenVirolC81:1201-1210,C20007)WhittumCJA,CMcCulleyCJP,CNiederkornCJYCetal:OcularCdiseaseCinducedCinCmiceCbyCanteriorCchamberCinoculationCofCherpesCsimplexCvirus.CInvestCOphthalmolCVisCSciC25:C1065-1073,C19848)VannVR,AthertonSS:NeuralspreadofherpessimplexvirusCafterCanteriorCchamberCinoculation.CInvestCOphthal-molVisSciC32:2462-2472,C19919)SchoenbergerSD,KimSJ,ThorneJEetal:DiagnosisandtreatmentCofCacuteCretinalCnecrosis.COphthalmologyC124:C382-392,C2017C***

発症翌日に強角膜融解穿孔に至ったBacillusによる眼窩蜂巣炎の1例

2019年2月28日 木曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(2):262.268,2019c発症翌日に強角膜融解穿孔に至ったBacillusによる眼窩蜂巣炎の1例川上秀昭*1高橋伸通*1望月清文*2三鴨廣繁*3*1岐阜市民病院眼科*2岐阜大学医学部附属病院眼科*3愛知医科大学病院感染症科CACaseShowingSclerocornealPerforationtheDayafterDevelopmentofBacillusOrbitalCellulitisHideakiKawakami1),NobumichiTakahashi1),KiyofumiMochizuki2)andHiroshigeMikamo3)1)DepartmentofOphthalmology,GifuMunicipalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofClinicalInfectiousDiseases,AichiMedicalUniversityC目的:Bacillus眼感染症は多くは眼外傷にて発症し,受傷後数時間で眼内炎や全眼球炎に至る予後不良な疾患である.今回,眼外傷歴がなく眼窩蜂巣炎にて発症したCBacillus眼感染症を報告する.症例:83歳,女性.ステロイド点滴治療中に突然の左眼の眼痛および視野異常を自覚した.初診時,左眼は上眼瞼の紫紅色と高度腫脹,角膜浮腫,結膜の高度浮腫と充血,眼圧はC80CmmHgを認めた.細菌性眼窩蜂巣炎と診断してセファゾリンにて治療開始したが,翌日(受診C26時間後)に強角膜が融解穿孔した.初診時採血よりCBacilluscereusが検出され,薬剤感受性をみて抗菌薬はクリンダマイシン,メロペネムに変更した.ステロイドおよび手術を併施することで病態の鎮静化は得たが,最終的に眼球癆となった.結論:Bacillus属も眼窩蜂巣炎の起炎菌になる場合があるため,眼症状の急性増悪を念頭において診療にあたるべきである.CPurpose:Mostbacillusocularinfectionsoccurfollowingoculartraumaandsubsequentlydevelopendophthal-mitisorpanophthalmitiswithinafewtimes.Wereportacasethatdevelopedbacillusocularinfectionwithoutocu-lartraumaandinitiallypresentedwithorbitalcellulitis,anextremelyrareC.rstsymptomofbacillusocularinfection.CCase:AnC83-year-oldCfemaleCunderCsystemicCsteroidCtherapyCsuddenlyChadCpainCandCvisualC.eldCabnormalityCinCherlefteye.Theeyeshowedperiorbitalswelling,cornealandconjunctivaledema,andhyperemia.Intraocularpres-surewas80CmmHginthelefteye.Withdiagnosisofpresumedbacterialocularcellulitis,cefazolinwasintravenous-lyadministered.However,thesclerocorneainthelefteyemeltedandruptured26hoursafterstartingthetherapy.CBacilluscereusCwasidenti.edfromabloodsample.Despiteadministrationofclindamycin,meropenemandsteroid,andsurgery,herlefteyebecamephthisic.Conclusion:Weshouldkeepinmindthatbacilluscancauseorbitalcel-lulitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):262.268,C2019〕Keywords:Bacillus,Bacilluscereus,眼窩蜂巣炎,強角膜穿孔.Bacillus,Bacilluscereus,orbitalcellulitis,sclero-cornealCperforation.Cはじめに眼窩蜂巣炎はかつては死亡に至ることもあった急性感染症である1).現在でもまれに重篤例に遭遇するが,今日の薬剤の進歩により死亡に至る症例は減少し,治療形態においても入院ではなく外来通院にて治療することも多くなり,適切な抗菌薬を用いれば治療開始後は比較的速やかに軽快する疾患である.一方,Bacillus眼感染症は多くは外傷を契機に発症する急性感染症で,特徴としては受傷後数時間以内に急激に悪化して眼内炎あるいは全眼球炎を呈し,予後は眼球癆あるいは眼球摘出に至るなどきわめて不良な疾患である2).今回,眼外傷歴のない症例において,眼瞼の高度腫脹および紫紅色に変〔別刷請求先〕川上秀昭:〒500-8513岐阜市鹿島町C7-1岐阜市民病院眼科Reprintrequests:HideakiKawakami,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GifuMunicipalHospital,7-1Kashima-choGifu-shi500-8513,JAPANC262(132)化した所見より眼窩蜂巣炎と診断して治療開始C26時間後に強角膜融解穿孔に至ったCBacillusが原因と思われるC1例を経験したので報告する.CI症例患者:83歳,女性.主訴:左眼の眼痛および視野異常.既往歴:両眼白内障術後(1年前),冠動脈術後,肥満(156cm,71kg),頻尿.現病歴:6日前に体幹に蕁麻疹を発症し近医内科での点滴および内服による治療にていったん軽快するも,4日前には顔面を含めて蕁麻疹の再発と深夜にC39.4℃の高熱もみられたため,3日前より内科病院に入院していた.内科入院時の体温はC37℃で,白血球C3,800,CRP5.7であった.ソルメドロールC125CmgによるC3日間の点滴治療にて蕁麻疹は寛解し,全身状態は変わりなく良好で食欲も旺盛であった.しかし,退院予定日の深夜C2時に突然の左眼眼痛と視野異常を自覚したため,午前C8時に当院へ救急搬送された.現症:受診時のバイタルサインは,血圧C216/107CmmHg,心拍数C100回/分,呼吸数C15回/分,SpOC2:87%,体温C36.4℃であった.激しい頭痛,眼痛および吐気と嘔吐を繰り返していた.初診時眼科学的所見:全身状態不良にて座位になることはb図1初診時の前眼部写真a:左眼は自己開瞼不能で,上眼瞼の高度発赤腫脹とその皮膚中央にびらん様の赤い部位を一つ認める.Cb:左眼の角膜上皮浮腫,球結膜の著明な浮腫と充血を認める.図2頭部および眼窩部CTa:左眼の上眼瞼腫脹と下方眼球周囲の脂肪織混濁を認める.Cb:左眼上眼瞼の高度腫脹を認める.Cc:左眼の球後脂肪織の混濁を認めるが,眼内,眼球壁および外眼筋には異常を認めない.Cd:左の篩骨洞粘膜肥厚と鼻粘膜腫脹を認めるが,液貯留はなく,眼窩骨異常もみられない.図3超音波Bモード像脈絡膜.離を認めるが,硝子体内に異常陰影はみられない.できず,眼科一般検査は手持ちスリットで行った.視力検査は対応不能であり眼圧はアイケアにて右眼C20CmmHg,左眼80CmmHgであった.左眼は自己開瞼不能で,上眼瞼は紫紅色および高度腫脹を呈し,その皮膚中央にびらん様の赤い部位を一つ認めた(図1a).強制開瞼したところ,角膜上皮浮腫,球結膜の著明な浮腫と充血を認めたが,角膜混濁や眼脂はみられなかった(図1b).角膜上皮浮腫のため前房内の詳細は不明であったが深度はやや浅く,虹彩紋理が少しわかる状況であった.眼底は透見不能であった.右眼には異常所見を認めなかった.なお,前医の留置カテーテル部位には発赤,腫脹および疼痛はなかったが同カテーテルは抜去して,新たに輸液ルートを確保した.血液培養のためC2カ所(左上肢と鼠径部)より検体を採取した.頭部および眼窩部CCT所見:左眼は著明な上眼瞼腫脹,下方眼球周囲および球後の脂肪織に濃度上昇がみられた(図2a~c).一方,左眼の眼内,眼球壁,外眼筋には異常はみられなかった(図2c).左の篩骨洞粘膜肥厚と鼻粘膜腫脹を認めたが液貯留はなく眼窩骨異常もみられなかった(図2d).血液所見:白血球高値以外は異常なかったが,翌日にCRPは急上昇した.経過:蕁麻疹の既往,ステロイド点滴治療中,外眼部病態の急性の発症・増悪および前眼部所見より細菌に起因した眼窩蜂巣炎および続発緑内障と診断し,セファゾリンナトリウム(CEZ)1CgC×2回/日,レボフロキサシン点眼液およびトブラマイシン点眼液(各C6回/日),マンニトール点滴,アセタゾラミド内服,抗緑内障点眼C4剤にて治療を開始した.翌朝C8時には,眼痛は軽減するなど大幅に自覚症状の改善がみられ,左眼眼圧はC37CmmHgに下降し,眼瞼腫脹は軽減し他図4治療4日後の前眼部写真a:左眼の上眼瞼皮膚の色調および腫脹は軽快している.Cb:左眼角膜は全体に混濁および変性し,周辺部には菲薄化を認める.力開瞼しやすくなった.しかし,結膜浮腫は閉瞼時に露出するほど高度のままであり,また虹彩紋理および眼底は角膜浮腫にて透見不可であった.診察C2時間後に「目から血が出た」とのことで診察したところ,1年前に手術したC11時方向の強角膜白内障手術創の融解穿孔と角膜下方C1/4程度の淡白色様混濁および前房消失を認めた.眼底は透見不能のままであったため,超音波CBモード検査を施行したところ,硝子体内に異常陰影は認めなかったが高度の脈絡膜.離を認めた(図3).そのC1時間後,検査部より前日採取の検体の鏡検からグラム陽性桿菌がみられ,またCBacillus属が疑われた.しかし,コンタミネーションの可能性も否定できないと報告された.治療は,強角膜は融解穿孔したものの眼痛および眼瞼病態が改善傾向を得ており,CEZを継続することとした.融解穿孔の機序としては極度の高眼圧および何らかの自己免疫応答発動に高齢および白内障術後創による組織脆弱化などを推測し,ステロイドの眼局所ならびに全身投与を開始した.その後,眼痛は消失し,左眼瞼皮膚の色調および腫脹はさらに改善した(図4a).一方,強角膜創の融解穿孔後,急激な角膜全体の混濁・変性および周辺部角膜の菲薄化がみられ,触診では粘性のあるゼラチン様の弾性を呈していた(図4b).交感性眼炎および頭蓋内への病巣波及の予防として眼球摘出を提案したが,本人および家族ともにかたくなに拒否され承諾を得ることができなかったので,融解穿孔部の被覆目的で結膜被覆術を施行した(図5a).しかし,角膜が脆弱なため5日後には縫合糸がはずれ,また鼻側角膜輪部の融解菲薄化のさらなる進行も認めたため,そのC2日後に全身麻酔下にてGundersen法による結膜被覆術と眼内レンズ摘出を行った(図5b).抗菌薬全身投与は,初診C4日後に得られた感受性試験結果を考慮して,CEZからクリンダマイシン,メロペネムおよびエリスロマイシンに段階的に変更した(表1).2度目の結膜被覆術以降は炎症再燃や創露出はなく病態の鎮静化を得ることができたが最終的に眼球癆となった(図5c).発症からC1年が経過する現在まで左眼の再発ならびに右眼および全身の異常は認めていない.検出菌:初診時に採血したC2カ所の検体からともにCBacil-luscereusが検出された.術中摘出した眼内レンズを用いた培養検査は陰性であった.薬剤感受性試験:カルバペネム系,エリスロマイシン,クリンダマイシン,キノロン系に感受性がみられた.一方,ペニシリン系,セフェム系に耐性を示したほか,アミノグリコシド系やバンコマイシンにも低感受性であった(表1).CII考按Bacillus属は芽胞形成するグラム陽性桿菌で,おもに土壌や水中に生息するとされており,家庭内あるいは医療施設のあらゆるところに棲む環境汚染菌である3).病原性を示すおもな菌種はCB.anthracis,B.cereusである.今回検出されたCB.cereusは食中毒菌として知られているほかに,全身感染症としては感染性心内膜炎,呼吸器疾患,髄膜炎および敗血症などがみられ,その原因として汚染されたリネン,滅菌のたりない透析機器,血液ルートなどがあげられている.眼科領域においては外傷による眼内炎あるいは全眼球炎の報告が多くみられている2).Bacillus属は感染後2.4時間で強い組織融解性を示す複数の外毒素を放出開始するため進行が早く,とくに眼科疾患ではきわめて予後不良とされている2)(表2).わが国におけるCBacillus眼感染症の報告は筆者らが調べた限りC13報(14例C16眼)みられた(表2).内訳は男性C11例,女性C3例で男性に多く,発症年齢はC2.80歳で中央値56歳であった.病態の内訳は眼内炎症タイプがC11眼,角膜炎タイプがC4眼(1眼は眼内炎に移行)および眼瞼腫瘤がC1眼であった.発症原因別では眼外傷がC7例C7眼,転移性はC3例C5眼であり,外傷によるものがやや多かった.外傷の内訳は鉄片による穿孔性眼外傷がC5眼,庭木作業中がC1眼,竹による受傷がC1眼であり,その病態は眼内炎あるいは全眼球炎がC5眼,角膜炎がC1眼,角膜潰瘍から眼内炎に移行したものがC1眼であった.転移性C3例C5眼では,病態はぶどう膜炎が2例C4眼,眼内炎がC1例C1眼であり,既往歴は胃癌と糖尿病,腸間膜リンパ節炎および直腸癌とCIVHがみられた.海外のBacillusによる眼内炎の報告では,発生原因は穿孔性眼外傷がC87.2%ともっとも多く,ついで内眼手術後がC9.3%,転移図5術中および術後の前眼部写真a:初回手術時.1年前の白内障手術創の融解を認める.Cb:2回目の手術C2日後.Gundersen法による結膜による角膜被覆.Cc:術後C8カ月.性がC3.5%であった2).男女比はC4:1で男性に多く,年齢は0.5.80歳で平均年齢はC25歳で比較的若年者に多かった.本例の年齢はC83歳で,わが国のCBacillus眼感染症のなかでは最高齢であり,おそらく海外を含めても同様と思われた.本例の病態は,初診時に左眼上眼瞼が高度腫脹していたこと,CTおよび超音波CBモードにて外眼筋および眼球壁の肥厚,眼内異常陰影がみられなかったことより,左眼眼窩蜂表1薬剤感受性PCG>4CMEPMC≦0.12CCAZ16>CEM=0.12CLVFXC≦0.5CMPIPC>2CDRPMC≦1CCFPN>1C6CCLDM=0.25CCPFXC≦0.5CABPC>8CCEZ>1C6CAMKC≦8CMINO=1CFOMC≦32CPIPCC≦2CCTM>8CGM=2CVCM=1CST>8C0CIPM/CSC≦0.12CCFPN-PI>8CTOBC≦2CLZDC≦2CC/EC≦0.5PCG:ペニシリンCG,MPIPC:5-methyl-3-phenyl-4-isoxazolylpenicillin(オキサシシン),ABPC:アミノベンジルペニシリン(アンピシリン),PIPC:ピペラシリン,IPM/CS:イミペネム/シラスタチン,MEPM:メロペネム,DRPM:ドリペネム,CEZ:セファゾリン,CTM:セフォチアム,CFPN-PI:セフカペンピボキシル,CAZ:セフタジジム,CFPN:セフカペン,AMK:アミカシン,GM:ゲンタマイシン,TOB:トブラマイシン,EM:エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,VCM:バンコマイシン,LZD:リネゾリド,LVFX:レボフロキサシン,CPFX:シプロフロキサシン,FOM:ホスホマイシン,ST:スルファメトキサゾール/トリメトプリム.(MIC:μg/ml)巣炎にて発症してから急速に強角膜炎ならびに高度結膜浮腫を呈したと考えた.初診時から経過中に一度も眼底検査ができていないため断定はできないが,眼内炎に関してはCCT,超音波CBモード像および摘出した眼内レンズを用いた培養結果より否定的と考えた17).Bacillus眼感染症の病態として,わが国のC15眼では経過中に眼窩蜂巣炎を呈した症例はみられたが,海外の報告も含めて本例のように眼窩蜂巣炎で発症した症例は調べえた限りではなかった2).眼窩蜂巣炎の原因病巣として,副鼻腔由来はC60.70%,小児ではC90%,眼瞼由来はC14%程度を占める,そのほかには頻度は少ないが涙.炎,歯科疾患あるいは敗血症などが知られている18).本例における感染源としては,当初より左上眼瞼皮膚からの感染を疑った.その理由として,初診時に左上眼瞼がもっとも強く腫脹・紫紅色を呈し,蕁麻疹発症後で皮膚バリア機能が低下していた可能性があり,しかも眼瞼皮膚中央に発赤点がみられたこと,また高容量ステロイド治療下であったことがあげられる.一方,初診時眼窩CCTにて眼球赤道部付近の眼窩組織に異常がみられないにもかかわらず,眼球後方脂肪織に炎症波及を疑う混濁がみられた点がこの感染経路の確定を困難にしている.つぎに,左眼と同側に篩骨洞粘膜肥厚と鼻粘膜腫脹がみられており,副鼻腔からの炎症波及を考えた.しかし,その程度はごく軽度であり液貯留,骨壁異常あるいは治療歴がないことから,耳鼻咽喉科と放射線科の医師は副鼻腔の関与について否定的であった.そして発症からC1年経過したが鼻部の治療歴および症状は発生していない.他方,汚染されたリネンおよび不十分な留置カテーテル管理によるCBacillus集団感染報告がある19).今回,前医でのリネン汚染に関する調査はしてないが,本例以外にはCBacillus感染症例はみられず,また本例では前医でのカテーテル留置期間はC3日と短いこと,そのカテーテル留置部位に発赤・腫脹・疼痛がなかったこと,および発症前に発熱や悪寒など全身症状がなかったことより留置カテーテル経由の感染は否定的と考えた.眼部以外の全身感染病巣からの血行性転移については,本例はC83歳と高齢ではあるが日々活動的で健康的な生活を送っていたこと,泌尿器,歯牙・歯肉,消化器などの既往歴および現在に至るまで新たな発病がないこと,発症時に発熱,悪寒,悪心および食欲不振などはみられなかったことより否定的と判断した.以上,感染源について検討したが最終的な確定には至らなかった.ただ,過去にも健常者における転移性眼内炎の報告例があること17),本例では初診時CCTにて眼瞼だけでなく球後脂肪織に炎症波及を示唆する混濁がみられたこと,そして血液よりCBacillusが検出された経緯より他の感染部位から血行性にCBacillusが眼部に転移した可能性を完全に否定できない.Bacillus属はCb-ラクタマーゼ産生菌のため,一般にはペニシリン系およびセフェム系には耐性を示し,バンコマイシン,クリンダマイシン,アミノグリコシド系に薬剤感受性を示すとされている.今回検出されたCB.cereusも薬剤感受性試験にてペニシリン系およびセフェム系には耐性を示した(表1).一方,本例は,感受性試験では耐性を示したCCEZ点滴治療にて,臨床的に眼痛の軽快および眼瞼の腫脹および色調の改善を得た.この乖離については,臨床治療効果とCinvitroでの薬剤感受性試験結果は必ずしも一致するとは限らないこと20),Bacillus属の臨床株のうちCCEZに感受性を示すものがC4割強ほどあること2),およびCBacillus属の菌種間で薬剤感受性が異なる可能性があることなどが指摘されている10,12).本例と同様に臨床的にペニシリン系あるいはセフェム系の薬剤にて効果を認めたとする報告もみられる12).本例ではCCEZ点滴開始後に眼瞼は腫脹軽減および色調回復したのに対して,強角膜は融解穿孔および角膜全面の黄白色変性という相反する治療結果を示した.この現象については,眼瞼は血流が豊富なため抗菌薬投与による治療効果が現れやすいのに対して,角膜には血流がないという解剖学的構造の相違によると推察した.今回の治療経験を踏まえ,治療の際には薬剤感受性結果は参考にしつつも,臨床面での治療効果を慎重に把握して診療にあたるべきと改めて考えさせら表2わが国におけるBacillus眼感染症眼症状発症か診断後治療報告年年齢性別病態原因菌種既往歴ら診断までの予後期間(日)抗菌薬ステロイド19834)穿孔性外傷C1C33男L)全眼球炎(鉄片飛入)CB.cereusC―C3CEM,GMC―眼球癆C2C19845)C62男B)ぶどう膜炎転移性CB.cereus胃癌・DM150日ほどCAKM,EMC―R)1.5,CL)0.05C3C19866)C39男L)全眼球炎穿孔性外傷CB.cereusC―C4CFOM,GM,MINOC―眼球癆(鉄片飛入)C19887)穿孔性外傷C4C48女R)眼内炎(鉄片飛入)CB.cereusCNA3日強CNACNA眼球内容除去C5C19918)C10男B)ぶどう膜炎転移性CB.cereus腸間膜C─1CEMプレドニゾロンR)1.0,CL)MHでC0.2リンパ節炎C30Cmg+点眼C6C19979)C2女L)眼瞼腫瘤不明CB.subtilisC―3週ほどCNACNA腫瘤摘出角膜移植・切開後0.1%フルオロメトロC7C200310)C56男R)角膜炎ステロイド点眼CBacillus.sp.C―CNACTOB,CLDM,IPMン治療的角膜移植C80男R)角膜炎庭木作業CB.sphaericusC―CNACCAZ,LVFX,TOBC―C0.8C200311)穿孔性外傷CAMK,IPM,LVFX,8C65男L)眼内炎(鉄片飛入)CB.cereusDM・HTC6CVCM,CLDM0.1%ベタメタゾン角膜混濁でCRD手術不可C9C200712)C56女L)角膜炎瘢痕性角結膜CBacillus.sp.DM・黄斑ジC11CLVFX,SBPC,0.1%フルオロメトロ角膜混濁,角膜血管侵入ストロフィCOFLX,CPRンC10C200713)C74男R)眼内炎転移性CB.cereus直腸癌・IVHC7CNACNA眼球摘出C200814)穿孔性外傷C11C30男L)全眼球炎(鉄片飛入)CB.cereusC―CNACVCM,IPMC―眼球摘出C12C201315)C67男L)眼内炎濾過胞感染CBacillus.sp.C―C3CVCM,CAZ,CPFX,―C1.0CABK,MFLXC201716)L)角膜潰瘍C13C71男→眼内炎竹でつくCB.cereus大腸癌C4CVCM,IPM0.1%ベタメタゾンC0.05CL:lefteye,B:bilateraleye,R:righteye,DM:diabetesmellitus,NA:notavailable,HT:hypertension,IVH:intravenoushyperalimentation,EM:erythromycin,GM:genta-micin,AKM:bekanamycin,FOM:fosfomycin,MINO:minocycline,TOB:tobramycin,CLDM:clindamycin,IPM:imipenem,CAZ:ceftazidime,LVFX:levo.oxacin,AMK:amikacin,VCM:vancomycin,SBPC:sulbenicillin,OFLX:o.oxacin,CPR:cefpirome,CPFX:cipro.oxacin,ABK:arbekacin,MFLX:moxi.oxacin,MH:macularhole,RD:reti-naldetachment.Cれた.Bacillus眼感染症は,感染後C2.4時間で外毒素を放出しはじめて数時間で眼内炎あるいは全眼球炎に至りやすい11).このため土壌汚染がからむ眼外傷例ではCBacillusを考慮して予防的治療を開始すべきという21,22).しかし,本例のように発症直前に明らかな眼外傷歴および発熱を含めた全身状態の異変がない眼窩蜂巣炎では,まして起炎菌が判明してない状況下では,発症後数時間から翌日にかけて急速に訪れる重篤な病態への進行を予測して対策を講じることはむずかしい11).ただ,本例においては初診時に非常に激しい眼痛の訴えと眼圧がC80CmmHgであった点が一般的な眼窩蜂巣炎の病像とは異なっていた.この点を考慮して,初期治療としてセファメジンナトリウム全身投与のみではなく,同時にアミノグリコシド系あるいはカルバペネム系など他の抗菌薬の全身投与および結膜下注射を許容最大投与量にて施行すべきであったと考えている18).最後に,眼窩蜂巣炎では多くはブドウ球菌,レンサ球菌あるいはインフルエンザ菌などが原因となり,ときに重症例がみられるが,現代では一般的には抗菌薬投与にて比較的速やかに軽快する疾患である1).しかし,眼窩蜂巣炎の起炎菌としてCBacillus属も原因となりうる場合があるので,眼症状の急性増悪を念頭において経時的な病状変化の把握を心がけて診療にあたるべきと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)松生寛子,山本香織,川原陽子ほか:涙腺に睫毛が迷入したことが原因と思われる眼窩蜂窩織炎のC1例.あたらしい眼科25:413-416,C20082)DaveVP,PathengayA,BudhirajaIetal:ClinicalpresenC-tation,CmicrobiologicCpro.leCandCfactorsCpredictingCout-comesinBacillusCendophthalmitis.RetinaC38:1019-1023,C20183)鈴木崇,白石敦,宇野敏彦ほか:洗面所における微生物汚染調査.あたらしい眼科26:1387-1391,C20094)大石正夫,永井重夫:Bacilluscereus全眼球炎.臨眼37:C1175-1178,C19835)平野洋子,高橋堅一,山木邦比古:Bacilluscereusによると考えられる転移性ぶどう膜炎のC1例.臨眼38:407-412,C19846)松本雄二郎,中野秀樹,能勢晴美ほか:BacillusCereusによる全眼球炎のC1例.眼紀37:584-588,C19867)山本明美,布田竜佑:鉄片外傷後の化膿性眼内炎熊本大学眼科過去C22年間の統計.眼紀39:887-893,C19888)野崎奈都子,小暮美津子,若月福美ほか:BacillusCCereusによると思われる腸間膜リンパ節炎とぶどう膜炎.眼紀42:246-251,C19919)高村浩,山口克宏,高橋茂樹:Bacillussubtilisによる眼瞼感染症と考えられたC1例.臨眼51:1061-1063,C199710)鈴木崇,宇野敏彦,三好知子ほか:Bacillus属による角膜炎のC2例.眼紀54:811-814,C200311)高橋知里,杉本昌彦,脇谷佳克ほか:短期間での増悪が観察されたCBacilluscereus眼内炎のC1例.臨眼57:503-506,C200312)山本由紀美,石倉涼子,宮崎大ほか:瘢痕性角結膜上皮疾患患者に発症したCBacillus角膜炎のC1例.あたらしい眼科24:505-508,C200713)飛田秀明,早野悦子:急激な経過をたどったグラム陽性桿菌による内因性眼内炎のC1例.臨眼C61:985-989,C200714)ZhengX,KodamaT,OhashiY:EyeballluxationinBacilC-lusCcereus-inducedCpanophthalmitisCfollowingCaCdouble-penetratingocularinjury.JpnJOphthalmolC52:419-421,C200815)田中宏樹,重安千花,谷井啓一ほか:Bacillus属による遅発性濾過胞感染に伴う眼内炎のC1例.あたらしい眼科C30:C385-389,C201316)添田めぐみ,渡辺芽里,小幡博人:Bacilluscereus菌による重篤な外傷性眼内炎のC1例.臨眼71:1377-1382,C201717)日榮良介,平岡美紀,青木悠ほか:健常成人にみられた眼窩蜂窩織炎と眼内炎の同時発症例.臨眼C71:1873-1879,C201718)加島陽二:【眼科薬物療法】眼窩・涙道眼窩蜂巣炎.眼科54:1470-1475,C201219)笹原鉄平,林俊治,森澤雄司:【いまおさえておきたい注目の微生物C10】セレウス菌(Bacilluscereus)見逃していませんかC?その発熱の原因.InfectionCControlC17:1076-1080,C200820)松永直久:【抗菌薬ブレイクポイントを再考する】感染症診療におけるブレイクポイントの活用法と注意点.臨床と微生物39:9-14,C201221)松本光希:【眼感染症の傾向と対策-完全マニュアル】疾患別診断・治療の進め方と処方例眼内炎外傷性眼内炎.臨眼70:280-285,C201622)上甲武士:外傷性眼内炎の対処法について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):72-74,C2001C***

アカントアメーバ角膜炎の治療における低濃度ステロイド点眼の併用経験

2019年2月28日 木曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(2):253.261,2019cアカントアメーバ角膜炎の治療における低濃度ステロイド点眼の併用経験佐々木香る*1嶋千絵子*2大中恵里*1髙橋寛二*2冨田信一*3*1JCHO星ヶ丘医療センター眼科*2関西医科大学眼科*3玉川大学農学部CLow-dosageApplicationofSteroidEyeDropsintheTreatmentofAcanthamoebaKeratitisKaoruAraki-Sasaki1),ChiekoShima2),EriOhnaka1),KanjiTakahashi2)andShinichiTomita3)1)DepartmentofOphthalmology,JCHOHoshigaokaMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,3)FacultyofAgriculture,TamagawaUniversityC緒言:アカントアメーバは自己の生存に不利な環境となった場合,栄養体がシスト化し治療に抵抗する.さらに,栄養体とシストのC2形態間の変化や掻爬による侵襲は,炎症所見を修飾し治療効果判定を困難とする.一方,ステロイドは炎症抑制作用のほかに,シスト化抑制作用をもつ.これらを根拠として今回,低濃度ステロイドを併用したアカントアメーバ角膜炎(AK)の治療経過を報告する.症例:症例C1はC17歳,男性.発症後C1カ月の完成期CAK.症例2は30歳,男性.発症後C3週間の移行期CAK.症例C3はC45歳,男性.発症後C1カ月の移行期CAK.いずれも,抗アメーバ療法として,ピマリシン眼軟膏,クロルヘキシジン点眼,抗菌薬点眼,角膜掻爬を施行し,治療開始とともに,0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C4回使用した.AKの確定診断は臨床所見と培養,塗抹検査で行い,角膜掻爬の回数はそれぞれ,4回,4回,2回であった.0.1%フルオロメトロン点眼の平均投与期間はC40日間であった.3症例とも掻爬後の一過性炎症悪化や,治療途中の炎症再燃を認めず,疼痛も軽度に抑えられ,経時的に順調に治癒した.また,0.1%フルオロメトロン点眼中止後もCAKの再燃を認めなかった.考按:適切な比較検討は困難であるが,ステロイド非使用で治療した経験に比して,0.1%フルオロメトロン点眼併用は,炎症の再燃なく,治療経過の推移が順調であり,途中悪化を認めなかった.結論:診断が確定しているCAKにおいて,抗アメーバ療法に加え,低濃度ステロイドを一貫した濃度,回数で併用することは,シスト化や掻爬による一過性悪化を抑制することで,良好な経過を得た.さらなる症例の蓄積が必要である.CPurpose:Basedontheanti-in.ammatorye.ectsandanti-encystmente.ectsofsteroid,wehaveappliedtopi-calCsteroidCinClowCdosageCforCtheCtreatmentCofCacanthamoebakeratitis(AK)C.Cases:AC17-year-oldCmale,CaC30-year-oldmaleanda45-year-oldmale.Allhadde.nitivediagnosisofAKinmiddlestage.Thetopicalsteroid(0.1%C.uorometholoneCfourCtimesCaday)hadCbeenCappliedCatCtheCsameCtimeCasCtheCanti-amoebicCtreatmentCwithCtopicalnatamycin,chlorhexidineandantibiotics.Thecorneawasscrapedseveraltimesforremovalofamoeba.ThedurationCofCsteroidCapplicationCwasC40daysConCaverage.CNoneCofCtheseCcasesCsu.eredCtemporaryCworseningCafterCscraping,CorCreboundCofCthein.ammation;allCrecoveredCsmoothlyCwithoutCpain.CConclusion:Low-dosageCapplica-tionCofCtopicalCsteroidCwithCanti-amoebicCtherapyCresultedCinCsmootherCrecoveryCbecauseCofCitsCanti-in.ammatoryCandanti-encystmente.ects.Moreexperiencesandcarefulobservationsareneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(2):253.261,C2019〕Keywords:シスト,栄養体,感染性角膜炎,角膜潰瘍,角膜混濁.cyst,trophozoite,infectiouskeratitis,cornealulcer,cornealopacity.C〔別刷請求先〕佐々木香る:〒573-8511大阪府枚方市星丘C4-8-1JCHO星ヶ丘医療センター眼科Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationHoshigaokaMedicalCenter,4-8-1Hoshigaoka,Hirakata,Osaka573-8511,JAPANCはじめにアカントアメーバは自己の生存に不利な環境となった場合,栄養体からシストへと形態を変化させ,治療に抵抗性となる.シストは栄養体に比して,種々の薬剤に対する感受性が低いことが報告されており1,2),これが難治の一因である.一般的にアカントアメーバの治療には角膜掻爬,つまり外科的除去という手技が必要となり,侵襲を加えつつ治療を行うことになる.もともとアカントアメーバそのものは,神経炎や強い毛様充血といった強い炎症所見を惹起することが知られており,これらが複雑に影響して,治療の経過途中,寛解,増悪を繰り返すため,治療効果の判定に悩むことが多い.一方,炎症を制御する手段として,ステロイドの投与が一般的であるが,アカントアメーバ治療に対するステロイドの併用については,そのCrisk-bene.tに関して種々の見解がある.免疫系統を抑制することで,病原体の活動を活発化させることも懸念され,ステロイド投与による予後不良が報告されていたが3.5),アカントアメーバに対する治療薬の変遷もあり,再検討が必要とされるところである.2016年になり,196例という多数例のアカントアメーバ角膜炎の治療に関する多施設Cstudyが報告され,抗アメーバ療法(ピグアナイド系+withCorwithoutブロレン)を施行したのち,ステロイド点眼を投与することは,予後に影響なく,むしろ患者の自覚症状や痛みを改善し,治療に有効であるという報告がなされた6).そこで,今回,アカントアメーバ治療において,抗アメーバ療法にステロイド点眼を併用したC3例の臨床経過の推移を,ステロイド非併用のC1例と比較して報告する.CI方法角膜所見のグレーディングは,既報を参考に7,8),角膜浸潤の長径,濃さ,毛様充血の項目について表1のように分類した.+1と+2の間,また+2と+3の間と判定した所見はそれぞれ+1.5,+2.5と判定した.角膜所見の判定は角膜専門医C2人によって写真とカルテ記載を参考に別々に判定し,照らし合わせた.なお,抗アメーバ療法として,北川らと同じく9),ピマリシン眼軟膏C1日C2.4回,0.05%クロルヘキシジン点眼(自家調整剤)C×1時間ごと,キノロン点眼C1日C4回を基本とした.CII症例ステロイド非併用症例:34歳,男性.2週間頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(以下,2W-FRSCL)使用.1カ月前にC2W-FRSCL装用中,子供の手が右眼にあたり,充血と違和感が継続していた.2週間前に近医を受診し,角膜ヘルペスの診断の元にアシクロビル眼軟膏,抗菌薬を処方されるも改善なく,当科を紹介された.初診時所見(図1)では,放射状神経炎を認め,塗抹鏡検にて好中球よりやや大きい球形のファンギフローラCY染色陽性所見を認めたため,アカントアメーバ角膜炎と判断した.初診時,角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+2,浸潤の濃さ+2,毛様充血+2,合計+6と判断した.角膜掻爬は合計C4回施行した.1回目の掻爬後,つまり治療開始C12日目には浸潤も毛様充血も悪化し,合計+9と判定した.治療開始C15日目には改善したものの,治療開始C22日目には再び炎症が増強した.また,掻爬のたびに炎症の増強のため,強い疼痛を訴えた.その後,角膜所見のグレーディングは横ばいとなり,改善の傾向は認めにくく,治療開始C49日目には再び混濁が増強した.経過とともに,次第に消炎傾向となり,最終的には治療開始C120日目に治癒と判断し,すべての薬剤を中止した.その後,再燃は認めていない(表2).ステロイド併用症例1:17歳,男性.2W-FRSCLを使用していた.1カ月前から右眼の充血が表1角膜所見のグレーディングGrade角膜浸潤・長径角膜浸潤・濃さ毛様充血(血管拡張)C0所見なし所見なし所見なし+12Cmm未満わずかな混濁数本+22.4Cmm1と3の間多数+34Cmm以上瞳孔透見困難多数びまん性表2ステロイド非併用症例の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数0日(初診)12日15日22日37日49日92日120日掻爬〇〇〇〇充血+2+3+3+3+2+2.5+10浸潤大きさ+2+3+1.5+2+2+2+2+1浸潤濃さ+2+3+2+2.5+3+3+2+1合計+6+9+6.5+7.5+7+7.5+5+2C図1ステロイド非使用症例の細隙灯顕微鏡写真a:初診日(抗アメーバ療法開始C0日目),Cb:治療開始6日目,Cc:治療開始C15日目,Cd:治療開始C22日目,Ce:治療開始C37日目,Cf:治療開始C49日目,Cg:治療開始C120日目.出現し,抗菌薬およびステロイド点眼を処方されていた.3日前から痛みと霞視が増強し,近医にてアシクロビル眼軟膏を追加された.初診時所見(図2)では,上皮障害はなく,大きな円形の免疫輪を認めた.初診時の角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+3,浸潤の濃さ+3,毛様充血+3,合計+9と判断した.学業の都合があり,掻爬をC1カ月後に延期を希望されたため,抗ヘルペス加療を継続した.角膜混濁は改善するも,毛様充血は継続し,途中放射状神経炎を認めたため,アカントアメーバ角膜炎を強く疑った.初診C1カ月後に,本人の同意を得て角膜掻爬を施行し,ファンギフローラCY染色を用いた塗抹鏡検において,蛍光顕微鏡下で球形の陽性染色を認めたため,アカントアメーバ角膜炎と診断した.この時点での角膜所見は+5であった.抗アメーバ療法を開始し,掻爬翌日からC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で併用した.角膜掻爬は合計C4回施行し,抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングは,12日後に+4,38日後に+3,75日後に+2と経時的に改善し,その後,軽度角膜混濁を残して治癒した.なお,掻爬後には,とくに疼痛が増強することはなかった.治療終了後も再燃は認めない(表3).ステロイド併用症例2:30歳,男性.2W-FRSCLを使用していた.3週間前から右眼の充血,視力低下が出現し,近医で抗菌薬,ステロイド点眼,アシクロビル眼軟膏を処方されていたが治癒しないため,当科を紹介された.初診時所見(図3)では,毛様充血を伴う円板状の角膜浮腫,混濁を認め,フルオレセイン染色では偽樹枝状病変を疑う不整な線状陽性所見を認めた.角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+3,浸潤の濃さ+3,毛様充血+2,合計+8と判断した.同日,角膜掻爬し,後日培養にてアカントアメーバ陽性の結果を得た.抗アメーバ療法を開始し,掻爬翌日からC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で併用した.角膜掻爬は合計C4回施行し,抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングは,2日後に+9,6日後に+7,10日後に+5,14日後に+3,16日後は+2,24日後は+1.5,そしてC43日後には+1と軽度混濁を残して経時的に改善し,途中,疼痛の悪化は認めなかった.その後,治療終了後も再燃は認めない(表4).ステロイド併用症例3:45歳,男性.2W-FRSCLを使用していた.1カ月前から左眼の充血,視力低下が出現し,近医で抗菌薬,ステロイド点眼を処方されていたが症状が悪化したため,当科を紹介された.初診時所見(図4)では,毛様充血を伴う免疫輪を呈した角膜浮腫,混濁を認め,フルオレセイン染色では,偽樹枝状病変は認めないものの上皮浮腫を認めた.角膜所見のグレーディングとして,浸潤の大きさ+3,浸潤の濃さ+3,毛様充血+2,合計+8と判断した.同日,角膜掻爬し,後日培養にてアカントアメーバ陽性の結果を得た.抗アメーバ療法を開始し,掻爬翌日からC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で併用した.角膜掻爬は合計C2回施行し,抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングは,2日後に+7.5,11日後に+6,10日後に+5,14日後に+3.5,24日後は+1.5,46日後は+1.5,そしてC81日後には+1と経時的に改善し,軽度混濁を残して治癒をした.掻爬後の疼痛は自制内であり,強い痛みは訴えなかった(表5).ステロイド非併用C1例および併用C3例の抗アメーバ療法開始後の角膜所見グレーディングの推移を図5に示す.非併用例では,寛解,増悪を繰り返しながら長期に炎症所見が継続する傾向にあるのに対して,併用例では速やかな消炎傾向を示した.CIII考按今回,アカントアメーバ治療初期から抗アメーバ療法にステロイド点眼を併用したところ,臨床経過の途中増悪なくスムーズで,最終的にも再燃を認めず,疼痛の悪化もなく,速やかな治癒過程を示した.今回は少数例の経験であり,CReal-timePCRや塗抹鏡検で経時的なアメーバ数の推移を確認したわけではなく,また実際に使用したステロイドの力価によって脱シストが生じるかどうかが不明であることなどから,このC3例の臨床経過をもってステロイド使用の是非を結論づけるには不十分であると考える.しかしながら,少なくとも今回の経験において,ステロイド併用による再燃や悪化,副作用など不利な点は認めなかった.むしろ,角膜所見推移の印象として,臨床経過のグラフに示されるように再燃なく経時的に順調な改善を示し,従来のステロイド非使用の治療例と比較すると,治療経過において臨床所見の変化が把握しやすく,患者自身も疼痛が制御され,安定して治療を受けることができた.あくまでも推測の域を出ないが,ステロイドの効果として,鎮痛・消炎以外に,その脱シスト作用を通じて,アカントアメーバを均一な栄養体に保ったまま治療できた可能性もありうると考える.2001年に,McClellanら10)は,ステロイドのアカントアメーバに対する作用として,脱シスト作用,栄養体増殖作用があることを報告している.従来,ステロイドはアカントアメーバ角膜炎を重症化させる可能性があるとして,Sternら4)は,アカントアメーバ角膜炎の治療にはステロイドは禁忌と述べている.しかし,当時に比してアカントアメーバシストに対する薬剤の感受性の報告が明らかとなり,ピマリシンあるいはクロルヘキシジンなどシストにも有効な薬剤が判明してきた11).さらに,2016年にはC196例のアカントアメーバ多施設Cstudyにおいて,抗アメーバ療法を開始したのちのステロイド併用は,決して予後を悪化させないことが報告されている6).実際には,現在の米国で図2ステロイド併用症例1の細隙灯顕微鏡写真a:初診日,Cb:初診後C26日目(抗アメーバ療法開始0日目),Cc:治療開始C12日目,Cd:治療開始C38日目,Ce:治療開始C75日目.表3ステロイド併用症例1の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数(初診)0日12日38日75日82日掻爬〇〇〇〇0.1%CFLM点眼C×4Cこの間抗ヘルペス療法×2C→C→C→中止充血+3(アシクロビル眼軟膏+2+1+1C0C0浸潤大きさ+3+ステロイド点眼)+2+2+1+1+1浸潤濃さ+3+1+1+1+1+1合計+9+5+4+3+2+2C図3ステロイド併用症例2の細隙灯顕微鏡写真a:初診日(抗アメーバ療法開始C0日目),Cb:治療開始C6日目,Cc:治療開始C10日目,Cd:治療開始C16日目,Ce:治療開始C24日目,Cf:治療開始C43日目.表4ステロイド併用症例2の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数0日(初診)2日6日10日14日16日24日43日掻爬〇〇〇〇0.1%CFLM点眼C×2C→C→C→C→C→C×1→中止充血+3+3+2+2+1+0.5C0+0浸潤大きさ+3+3+2.5+1.5+1+1+1+0.5浸潤濃さ+2+3+2.5+1.5+1+1+0.5+0.5合計+8+9+7+5+3+2.5+1.5+1C図4ステロイド併用症例3の細隙灯顕微鏡写真a:初診日(抗アメーバ療法開始C0日目),Cb:治療開始C11日目,Cc:治療開始C14日目,Cd:治療開始24日目,Ce:治療開始C43日目.表5ステロイド併用症例3の角膜所見のグレーディング推移抗アメーバ療法開始後日数0日(初診)2日11日14日24日43日81日掻爬〇〇0.1%CFLM点眼C×2C→C→C→C→中止充血+3+2.5+1.5+1+0.5+0.5C0浸潤大きさ+3+2+2+1+0.5+0.5+0.5浸潤濃さ+2+3+2.5+1.5+0.5+0.5+0.5合計+8+7.5+6+3.5+1.5+1.5+1CAステロイド非併用109症例87Bステロイド併用6症例154Cステロイド併用3症例221D0ステロイド併用0日目20日目40日目60日目80日目100日目症例3抗アメーバ療法開始後日数図5角膜所見グレーディングの変化縦軸はグレーディングの合計点,横軸は抗アメーバ療法開始日数を示す.症例C1は,初診C1カ月後から抗アメーバ療法を開始した.その他の症例は,初診日が抗アメーバ療法開始である.アカントアメーバ角膜炎の治療にステロイドを使用することは全体のC37.8%にとどまっているが,適切に使用することは,決して予後不良ではないことが同論文で強調されている6).抗アメーバ療法の開始とともに,通常アメーバはシスト化する10,12,13)が,ステロイドを投与することによってシスト化が抑制される,つまりシストと栄養体という不均一な集団の微生物を,できるだけ薬剤に対する反応性のよい栄養体という均一な集団として治療することは有効な手段と考える.ただし,McClellanら10)はデキサメサゾンを用いて実証しているが,今回使用したフルオロメトロンで,どの程度が脱シスト化したかは不明であり,単なる消炎効果であった可能性も否定できないため,今回の結果がステロイドの脱シスト作用によるものとは結論づけることはできない.ステロイドの力価による脱シスト作用,実際の臨床経過におけるアメーバの量と形態の推移,アメーバ角膜炎の病期による反応性の差など,さらなるCinvivoおよびCinvitroの研究が必要とされる.ステロイドの併用については,いくつかの注意点もある.まずは,栄養体に有効な抗微生物薬を十分量,投与することが前提である.今までの報告に基づいて,抗アメーバ療法として,クロルヘキシジン点眼およびピマリシン軟膏を使用した9,11).また,共生する細菌がアジュバントの役割をしてアメーバの活動を活発化するという報告14.17)に基づいて,抗菌薬の併用も行った.フルオロメトロンといえども,ステロイドの抗炎症所見は大きなものである.不必要に見かけ上の臨床所見を改善することがないように,低濃度のステロイドを用い,終始一定した回数を心がけた.また,アメーバがシスト化し,上皮からBowman膜へ侵入すると遷延化をきたすとされ18),アメーバ確定前にステロイドを使用してしまうと,臨床所見をマスクして確定診断の妨げとなるため,必ず臨床所見,塗抹鏡検,PCR,あるいは迅速性には欠けるが,培養などでアカントアメーバ角膜炎であることが確定し,さらに抗アメーバ療法が開始されたのち,ステロイド点眼を使用すべきと思われる.今回,3例とも移行期から完成期の症例であったが,速やかな臨床経過で改善を得ることができた.症例数が少ないこと,前向きの検討ではないため,観察間隔が症例ごとに不均一であること,また写真の撮影方法が一定でないことなど不確実な点が多いが,診療録記載と写真を照らし合わせ,複数の眼科医により角膜グレーディングを判断した.今後は,種々の施設でのさらなる症例の蓄積と,実際のアメーバDNAコピー数の推移,ステロイドの適正な濃度と回数などを検討する必要があると考える.従来,アカントアメーバ角膜炎の治療において禁忌とされているステロイドについて,適正な使用法を再検討する余地はあると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LloydD:EncystmentCinCAcanthamoebacastellanii:aCreview.ExpParasitolC145(Suppl):S20-S27,20142)KilvingtonS,LamA:Developmentofstandardizedmeth-odsCforCassessingCbiocidalCe.cacyCofCcontactClensCcareCsolutionsCagainstCAcanthamoebaCtrophozoitesCandCcysts.CInvestOphthalmolVisSciC54:4527-4537,C20133)森谷充雄,子島良平,森洋斉ほか:アカントアメーバ角膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬投与の影響.臨眼C65:C1827-1831,C20114)SternGA,ButtrossM:Useofcorticosteroidsincombina-tionCwithCantimicrobialCdrugsCinCtheCtreatmentCofCinfec-tiouscornealdisease.OphthalmologyC98:847-853,C19915)RabinovitchT,WeissmanSS,OstlerHBetal:Acantham-oebakeratitis:clinicalsignsandanalysisofoutcome.RevInfectDis13(Suppl5):S427,19916)CarntN,RobaeiD,WatsonSLetal:Theimpactoftopi-calCcorticosteroidsCusedCinCconjunctionCwithCantiamoebicCtherapyConCtheCoutcomeCofCAcanthamoebaCkeratitis.COph-thalmologyC123:984-990,C20167)大橋裕一,秦野寛:細菌性結膜炎に対するガチフロキサシン点眼液の臨床第CIII相試験(多施設無作為化二重盲検比較試験).あたらしい眼科22:123-131,C20058)大橋裕一,秦野寛:0.3%ガチフロキサシン点眼液の多施設一般臨床試験.あたらしい眼科22:1155-1161,C20059)KitagawaCK,CNakamuraCT,CTakahashiCNCetal:ACnovelCcombinationCtreatmentCofCchlorhexidineCgluconate,Cnata-mycin(pimaricin)andCdebridementCforCaCAcanthamoebaCkeratitis.JpnJOphthalmolC47:616-617,C200310)McClellanCK,CHowardCK,CNiederkornCJYCetal:E.ectCofCsteroidsConCAcanthamoebaCcystsCandCtrophozoites.CInvestCOphthalmolVisSciC42:2885-2893,C200111)SunadaA,KimuraK,NishiIetal:InvitroCevaluationsoftopicalCagentsCtoCtreatCAcanthamoebaCkeratitis.COphthal-mologyC121:2059-2065,C201412)HollandEJ,AlulIH,MeislerDMetal:Subepithelialin.l-tratesinAcanthamoebakeratitis.AmJOphthalmolC112:C414-418,C199113)TomitaCS,CSuzukiCC,CWadaCHCetal:E.ectsCofClactoferrinContheviabilityandtheencystmentofAcanthamoebatro-phozoites.BiochemCellBiolC95:48-52,C201714)NakagawaH,HattoriT,KoikeNetal:Numberofbacte-riaCandCtimeCofCcoincubationCwithCbacteriaCrequiredCforCtheCdevelopmentCofCAcanthamoebaCkeratitis.CCorneaC36:353-357,C201715)NakagawaCH,CHattoriCT,CKoikeCNCetal:InvestigationCofCtheroleofbacteriainthedevelopmentofAcanthamoebakeratitis.CorneaC34:1308-1315,C201516)IovienoA,LedeeDR,MillerDetal:Detectionofbacteri-alCendosymbiontsCinCclinicalCacanthamoebaCisolates.COph-thalmologyC117:445-452,C201017)TuCEY,CJoslinCCE,CNijmCLMCetal:PolymicrobialCkerati-tis:Acanthamoebaandinfectiouscrystallinekeratopathy.AmJOphthalmol148:13-19,C200918)YokogawaH,KobayashiA,YamazakiNetal:Bowman’slayerCencystmentCinCcasesCofCpersistentCAcanthamoebaCkeratitis.ClinOphthalmolC6:1245-1251,C2012***

ブックレビュー:ビッセン宮島弘子,谷口紗織,南慶一郎著 『これでわかる! 高機能眼内レンズ』

2019年2月28日 木曜日

ブックレビュー■ビッセン宮島弘子,谷口紗織,南慶一郎著『これでわかる!高機能眼内レンズ』(B5変形判本文200頁,定価11,000円+税,ISBN978-4-7583-1636-1/C3047,メジカルビュー社,2018年9月)トーリック眼内レンズ,多焦点眼内レンズ,これらの高機能眼内レンズの有効性が術者にも患者にも広く認識されている.患者のニーズとこれらのレンズがはまった時の患者の喜びようは,われわれ術者にもその効果を素直に認識させてくれる.まだこれらのレンズの挿入経験のない白内障術者もきっと高機能眼内レンズを自分でも挿入してみたいと思っているにちがいない.ただ,効果が高い反面,不満を訴える患者さんもいて,その格差が大きい.的確に患者のニーズを把握し,これらのレンズの特性を理解することが大切なのだといわれ,そのことはわかるのだが,実際の具体的なポイントはわかりにくいし,万一を考えるとその落差ゆえに不安になる.そのうえ多焦点眼内レンズは,さらなる高機能,不満例の軽減をめざし,日々進歩し変化し,新しいモデルが登場する.最近のEDOFの登場と普及などよい例であろう.3焦点眼内レンズも登場する.選択肢が増えた分,患者のニーズにマッチしやすくなったともいえるが,逆にいえば,それぞれの眼内レンズの特性の的確な把握がより重要になった.眼内レンズばかりでない.たとえば,トーリックレンズでは,角膜前面に加え後面の影響も考える必要があるし,それを角膜形状で配慮するか,考慮した計算式を用いることで配慮するかなど,どう考えていくか迷う点も多い.などなど考えてくると,意外と高機能眼内レンズのハードルは高いのかもしれない.本書は,術者に,そのさまざまなポイントを提示してくれている.今後5年間役立つことをめざしたとうたうだけあって,最新の情報までが的確に紹介されている.さらに本書が秀悦なのは,そのポイントの提示の仕方である.高機能眼内レンズのメッカである東京歯科大学水道橋病院眼科外来をあたかも見学し,症例検討会に参加しているがごとく記述されている.実に実践的で臨場感にあふれ,たとえば「眼内レンズ決定までの手順」などそのまま明日から実践できる.視能訓練士,ナースにも参考になると思う.入門書としても,さらにはベテランの先生方も自分の診療レベルをチェックするためにも,ぜひご一読いただきたい.東京歯科大学水道橋病院眼科外来の見学は,きっと新しい発見をもたらしてくれる.(岩手医科大学医学部眼科学講座教授黒坂大次郎)☆☆☆(119)あたらしい眼科Vol.36,No.2,20192490910-1810/19/\100/頁/JCOPY

基礎研究コラム 21.前房水中の生理活性物質と眼圧

2019年2月28日 木曜日

前房水中の生理活性物質と眼圧緑内障と眼圧緑内障は進行性の視神経症で,以前は眼圧上昇が病態の主体と考えられていましたが,現在では眼圧上昇,血管障害,細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)リモデリング・線維化,神経栄養因子の途絶など,さまざまな病態が複合した症候群としてとらえられています.眼圧上昇は開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)のもっとも重要なリスクファクターとされ,おもに房水流出抵抗の増大によるものと考えられています.房水流出路には線維柱帯(trabecularmeshwork:TM)流出路とぶどう膜強膜流出路の二つがありますが,POAGの眼圧上昇はCTM収縮やECMリモデリングによる抵抗増大によるとされています.CPOAG前房水中の生理活性物質と眼圧緑内障眼の前房水中ではさまざまな生理活性物質が発現上昇していることが報告されています.なかでも増殖・分化,ECMリモデリング,アポトーシスなど多様な生体反応を制御するCTGF-bはCPOAGの前房水中で上昇しており,Rho/ROCKやCBMPs/SMADs,PKC,MAPKなどの下流シグナルがCTM収縮,ECMリモデリング,細胞接着,透過性制御などによって房水動態を制御していると考えられています1).とくにCRho/ROCKはアクチン細胞骨格の再編成を介したTM収縮,ECMリモデリングへの関与が報告されており,緑内障病態に深くかかわっていると考えられます2).わが国では世界に先駆けてCROCK阻害薬が臨床応用されました.線維柱帯流出路の流出促進による眼圧下降という,新規作用機序による緑内障治療薬であることが大きな特徴ですが,緑内障病態に拮抗するかたちで作用しうる薬剤であること,細***本庄恵東京大学眼科胞増殖やアポトーシスの制御など,眼圧下降以外の作用も注目されています.続発緑内障前房水中の生理活性物質と眼圧TGF-bはCPOAG眼前房水中では有意に上昇していますが,より高い眼圧を示すことが多い続発緑内障(ぶどう膜炎続発緑内障,ステロイド緑内障,落屑緑内障など)では低値であることが報告されています.そこで筆者らはCRhoを活性化する情報伝達物質の一つ,生理活性脂質リゾフォスファチジン酸(lysophosphatidicacid:LPA)に注目し,前房水中のCLPA産生酵素オートタキシン(autotaxin:ATX)-LPAと眼圧の関連を検討しました.するとCATXは正常眼と比較して緑内障眼で有意な高値,またCPOAGとぶどう膜炎続発緑内障間でも有意な差を認めました.LPAは正常眼と比較してCPOAGで高く,さらにぶどう膜炎続発緑内障,落屑緑内障ではCPOAGと比較して有意な高値がみられました3).今後さらなる緑内障病態の解明が進むことで,病態に拮抗するかたちで有効な治療が可能になる日も遠くないかもしれません.文献1)FuchshoferCR,CTammER:TheCroleCofCTGF-binCtheCpathogenesisofprimaryopen-angleglaucoma.CellTissueResC347:279-290,C20122)HonjoM,TaniharaH:ImpactoftheclinicaluseofROCKinhibitorConCtheCpathogenesisCandCtreatmentCofCglaucoma.CJpnJOphthalmolC62:109-126,C20183)HonjoCM,CIgarashiCN,CKuranoCMCetal:Autotaxin-lyso-phosphatidicacidpathwayinintraocularpressureregula-tionCandCglaucomaCsubtypes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:693-701,C2018*********図1緑内障眼前房水中のATX.LPA*********正常眼(control.白内障手術眼),正常C2.5**眼圧緑内障(NTG),開放隅角緑内障CNS200(POAG),ぶどう膜炎続発緑内障(SG),C2.0p=0.07Autotaxin(mg/l)落屑緑内障(XFG)前房水中のCATX-LPA濃度.ATXは正常眼と比較して緑内障眼で有意な高値,またCPOAGとCSG間でも有意な差を認めた.LPAは正常TotalLPA(nM)1501001.51.0眼と比較してCPOAGで高く,さらに50SG,XFGではPOAGと比較して有意C0.5な高値がみられた.C0(文献C3より改変引用)C0controlNTGPOAGSGXFGcontrolNTGPOAGSGXFG(115)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C2450910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 189.黄斑上膜に対する硝子体手術後に生じる嚢胞様黄斑浮腫(初級編)

2019年2月28日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載189189黄斑上膜に対する硝子体手術後に生じる.胞様黄斑浮腫(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに特発性黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)に対する硝子体手術(parsplanaCvitrectomy:PPV)後に.胞様黄斑浮腫(cystoidmaculaedema:CME)が生じたとする報告が近年散見され,その原因については種々の考察がなされている1~4).筆者らはCERMに対するCPPV後にCCMEが生じたC4例を経験し報告したことがある3).C●症例症例C1はC74歳,男性.右眼CERMに対するCPPV後,術後点眼中止C2カ月後よりCCMEが生じた.NSAIDs点歳,C86は2).症例C1図眼の再開にてCMEは改善した(男性.右眼CERMに対するCPPV後,3カ月後よりCCMEが生じた.トリアムシノロンのCTenon.下注射(sub-Tenon’sCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)にてCCMEは改善したが,問診にて術後点眼をしていな歳,男性.C06はC3).症例C2図かったことが判明した(右眼CERMに対するCPPV後,1週間後よりCCMEが生じた.点眼を先発品に変更し,さらにCSTTAを施行したところCCMEは改善した.症例C4はC58歳,女性.左眼ERMに対するCPPV後,1年C2カ月後に緑内障を生じ,プロスタグランジン誘導体眼圧下降薬を点眼したところ,そのC3カ月後にCCMEを生じた.点眼をCb受容体遮断薬に変更し,STTA施行したところCCMEは改善した.C●CMEの原因CMEの原因としては,ERMの網膜接線方向牽引による血液網膜関門破綻がCPPVにより助長される機序が考えられる.また,内境界膜.離併用は術後CERMの再発率を低下させるが,網膜感度の低下,網膜電図の回復遅延,網膜内顆粒層の.胞様変化などを惹起することが報告されており4,5),CMEの発症と因果関係があるのかもしれない.それ以外にも術後の炎症遷延,防腐剤の起炎性など,複数の因子が関与している可能性があり,点眼の継続・変更など含めた注意深い経過観察が必要である.治療としてはCSTTA,抗CVEGF療法,炭酸脱水酵(113)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1症例1の硝子体手術前後のOCT(a:術前,b:術後)黄斑部に.胞様変化は認めていない.(文献C5より引用)図2症例1のCME発症時(a)および改善後(b)のOCT術後点眼中止C2カ月後にCCMEが生じ,NSAIDs点眼のみで改善した.(文献C5より引用)素阻害薬やCb1受容体遮断薬の点眼などの報告がある.文献1)FrisinaR,PinackattSJ,SartoreMetal:Cystoidmacularedemaafterparsplanavitrectomyforidiopathicepiretinalmembrane.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC253:C47-56,C20152)ChenCCH,CWuCPC,CLiuYC:IntravitrealCbevacizumabCinjectionCtherapyCforCpersistentCmacularCedemaCafterCidio-pathicmacularepiretinalmembranesurgery.JOculPhar-macolTherC27:287-292,C20113)森下清太,河本良輔,福本雅格ほか:特発性黄斑上膜術後に生じた.胞様黄斑浮腫のC4例.眼臨紀C11:829-832,C20184)LimCJW,CChoCJH,CKimHK:AssessmentCofCmacularCfunc-tionCbyCmultifocalCelectroretinographyCfollowingCepiretinalCmembranesurgerywithinternallimitingmembranepeel-ing.ClinOphthalmol4:689-694,C20105)SiglerCEJ,CRandolphCJC,CCharlesS:DelayedConsetCinnerCnuclearClayerCcysticCchangesCfollowingCinternalClimitingCmembraneCremovalCforCepimacularCmembrane.CGraefesCArchClinExpOphthalmol251:1679-1685,C2013あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C243

眼瞼・結膜:甲状腺眼症における上眼瞼異常(lid retraction, lid lag)の病態

2019年2月28日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人47.甲状腺眼症における上眼瞼異常角谷聡柿﨑裕彦愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科(lidretraction,lidlag)の病態甲状腺眼症の上眼瞼異常として,上眼瞼後退(lidretraction)や上眼瞼おくれ(lidlag)があげられる.これらは甲状腺眼症の診断に重要な指標となる.その病態は交感神経の過緊張と眼窩内炎症によるものに分けられる.治療は,まず始めに消炎治療を行い,炎症が消退した回復期に手術を行うことを基本とする.●はじめに甲状腺眼症は,上下眼瞼後退(lidretraction)や上眼瞼おくれ(lidlag)などの眼瞼症状があり,CTやCMRIによる画像検査で,主として筋腹が腫脹するという特徴的な外眼筋の肥厚が認められた場合に診断される1).したがって,眼瞼の異常は甲状腺眼症を診断するうえで非常に重要な所見となる.本稿では,甲状腺眼症の上眼瞼異常の病態について述べ,その病態に応じた治療についても言及する.C●甲状腺眼症における上眼瞼異常の定義上眼瞼後退は,上眼瞼が過度に上方に牽引された状態である(図1a).上眼瞼の正常の位置は,角膜の上部C1~2Cmmが覆われた状態である.これよりも上眼瞼が後退した状態,すなわち角膜上縁の上方に結膜が見えている状態を上眼瞼後退と定義する.角膜上縁からの距離が1~2Cmmを軽度,3Cmmを中等度,4Cmm以上を重度と分類する2).上眼瞼おくれは,上方から下方に眼球を動かしたとき,上眼瞼が眼球の動きについてゆくことができない状態である(図1b).甲状腺眼症の古典的徴候の一つであるCvonGrofe徴候としても知られている.英語の文献では,lidlagは「下方視時の上眼瞼の位置異常」という静的な徴候,vonGrofe徴候は「上眼瞼と眼球の垂直方向の協調運動の消失」という動的な徴候として区別されることがあるが3,4),同義として扱われることが多い.C●甲状腺眼症における上眼瞼異常の病態甲状腺眼症の上眼瞼異常の病態は,交感神経の過緊張によるものと,眼窩内の炎症に伴うものに大別される(表1).(111)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYa.交感神経の過緊張による上眼瞼異常甲状腺眼症では,甲状腺ホルモンの状態によっては(高値の場合),交感神経が過度に緊張した状態となる.上眼瞼挙筋が随意筋である一方,Muller筋は交感神経支配の平滑筋であり,甲状腺ホルモンの刺激によって交感神経が興奮した場合,Muller筋が収縮し上眼瞼が挙上する1).Cb.眼窩内の炎症に伴う上眼瞼異常甲状腺眼症において眼窩内に炎症が生じると,上眼瞼挙筋に肥大や拘縮,および周囲組織との癒着を生じる.この結果,上眼瞼後退が生じることになる1).炎症により眼窩内の筋肉や脂肪などの軟組織が増加すると眼球突出を生じるが,眼球突出も上眼瞼後退の原因の一つとなる.図1甲状腺眼症における上眼瞼異常(46歳,男性)a:正面視で右上眼瞼後退を認める.Cb:下方視で右上眼瞼おくれを認める.あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C241表1甲状腺眼症における上眼瞼異常(lidretraction,lidlag)の病態交感神経の過緊張Muller筋の過緊張上眼瞼挙筋の肥大,拘縮および周囲組織との癒着眼窩内の炎症眼窩内の筋肉や脂肪などの軟組織が増加↓眼球突出●治療a.内科的治療甲状腺眼症の上眼瞼異常は,前述のとおり交感神経の過緊張と眼窩内の炎症を基盤としている.したがって治療は原則として,これらの病態に対する内科的治療を主眼に行う.交感神経の過緊張は,甲状腺機能の正常化を図ることにより改善する.炎症に対しては,その重症度に応じてステロイドパルス療法や放射線治療が行われる.Cb.外科的治療内科的治療により炎症が消退したあとも上眼瞼後退が持続し,角膜障害を生じている場合に眼科的な手術適応となる.また,過度の上眼瞼後退になった,いわゆる「三白眼」は美容外科的な手術適応となる5).上眼瞼後退に対する眼瞼手術は,上眼瞼延長術である.上眼瞼挙筋はその牽引力のベクトルの関係上,鼻側が耳側よりも弱いので6),瞼板の耳側から上眼瞼挙筋腱膜・Muller筋複合体を.離してゆく方法が広く行われている7).この場合,.離した上眼瞼挙筋腱膜・Muller筋複合体はそのままにしておく.このほか,この.離した複合体を上部,下部で横方向に段違いの切開を入れて,瞼板の鼻側に固定し,術後の鼻側下垂を予防する方法や,ゴアテックスなどのスペーサーを用いて延長する方法がある.上眼瞼延長術のあとに,上眼瞼の高い位置に予定外重瞼線ができることがあるが,術中に腱膜前脂肪を引き出して瞼板に固定することにより,予定外重瞼線の予防が可能である5).一方,眼球突出に対して眼窩減圧術を行うことにより上眼瞼後退が改善することがある.この理由から,上眼瞼後退に対する眼瞼手術は眼窩減圧術を行ったあと,または行う予定がない場合に行う5).C●おわりに甲状腺眼症における上眼瞼異常の病態とその治療について概要を述べた.上眼瞼異常は甲状腺眼症の診断に重要な指標となる.また,適切な治療を行うことによって,機能面だけでなく整容面においても,甲状腺眼症に苦しむ患者のCQOLを向上させることができる.文献1)柿崎裕彦:甲状腺眼症がよくわかる本.改訂第C2版,p11-52,ブイツーソリューション,20112)VanCDykHJ:OrbitalCGraves’Cdisease.CACmodi.cationCofCthe“NOCSPECS”classi.cation.COphthalmologyC88:479-483,C19813)HarveyCJT,CAndersonRL:LidClagCandlagophthalmos:aCclari.cationofterminology.OphthalmicSurg12:338-340,C19814)GaddipatiCRV,CMeyerDR:EyelidCretraction,ClidClag,Clag-ophthalmos,CandCvonCGraefe’sCsignCquantifyingCtheCeyelidCfeaturesofGraves’ophthalmopathy.Ophthalmology115:C1083-1088,C20085)柿崎裕彦:甲状腺眼症の治療「眼瞼の位置異常はやっぱり手術?」の巻!臨眼67:1952-1957,C20136)KakizakiH,ZakoM,IdeAetal:Causesofundercorrec-tionofmedialpalpebral.ssuresinblepharoptosissurgery.OphthalPlastReconstrSurgC20:198-201,C20047)OlderJJ:Surgicaltreatmentofeyelidretractionassociat-edCwithCthyroidCeyeCdisease.COphthalmicCsurgC22:318-322,C1991C☆☆☆242あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(112)

抗VEGF治療:VEGFと網膜色素上皮

2019年2月28日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二61.VEGFと網膜色素上皮園田祥三鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚病学眼科学網膜色素上皮(RPE)は網膜の恒常性を維持するうえで重要な役割をもつが,これはCRPEが極性をもつことによって成り立っている.たとえば血管内皮増殖因子(VEGF)の感覚網膜側,脈絡膜側への分泌量の制御もCRPEの極性に依拠する.抗CVEGF療法時代においては,疾患ごとの効果的な抗CVEGF薬投与法を知ることに加え,障害を受けたCRPEの極性変化による薬物動態の変化を意識して治療にあたることが重要である.網膜色素上皮細胞と細胞極性網膜色素上皮細胞(retinalpigmentCepithelium:RPE)は,感覚網膜側と脈絡膜側とで異なる性質・機能を有するいわゆる細胞極性をもっており,これが眼内,とくに網膜の恒常性を保つために重要な役割を果たす.細胞極性とは,細胞内器官が偏りをもって存在していることによって生まれ,極性をもつことで細胞固有の機能をもつことができる.これをCRPEで具体的に説明すると,視機能を担う感覚網膜側と血流に富む脈絡膜側とでは大きく環境が異なるが,RPEが細胞極性をもつことでその環境の違いを緩衝するとともに,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)分泌をはじめ,外血液網膜関門の形成,物質の透過の制御,視細胞への酸素や栄養の供給などCRPE固有の機能を発揮することに細胞極性が大きく関与している.これまで筆者らは,生体内CRPEがもつ細胞極性を,トランスウェルを用いた培養系を用いてCinvitroで再現を試みてきた(図1).それらの実験系を用いて得られたデータをもとに解説する1,2).極性RPEとVEGF分泌RPEは眼内のCVEGFを産生する代表的な細胞である.Cab12wellcultureTranswellinsertchamberVEGF分泌においても細胞極性が関与し,感覚網膜側と脈絡膜側とではCVEGFの分泌量が大きく異なる極性分泌という現象が存在する.正常CRPEでは,脈絡膜側のCVEGF分泌量が感覚網膜側よりも約C3倍多く,これによって脈絡膜毛細血管板の血管のCfenestration(窓構造)維持・形成を行い,RPEや視細胞への十分な酸素や栄養の供給に寄与している.一方,感覚網膜側ではVEGF分泌量がそもそも少なく,VEGFのもつ血管新生作用は,RPEから分泌されるその他の増殖因子である色素上皮由来因子(pigmentCepitheliumCderivedCfac-tor:PEDF)の抗血管新生作用により相殺され,VEGFがもつ神経保護作用のみが感覚網膜側では発揮されている(図2).VEGF以外の種々の増殖因子も細胞極性によって分泌がコントロールされ,網脈絡膜の機能維持に貢献している3).CRPEがもつVEGF分泌以外の作用そのほか,RPEでは感覚網膜側に偏って存在するCtightjunctionやCadherencejunctionなどの細胞間接着装置が強固なバリア機構を構築することによって,外血液網膜関門を形成すると同時に,感覚網膜側と脈絡膜側の物質の透過を制御している.さらに感覚網膜側にmicrovilliが発達することで,隣接する視細胞との物質Cc図1極性RPE培養システムa:極性CRPE培養システム.トランスウェルとよばれる培養系を用いて長期間CRPEを培養する.Cb:microvilli感覚網膜側を走査型電子顕微鏡で示す.Cc:透過Apical側型電子顕微鏡では細胞内器官の偏りを認め,細胞間接着装置は感覚網膜側に脈絡膜側Basolateral側集まっている.CRPEcell(109)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C2390910-1810/19/\100/頁/JCOPYab表1抗VEGF抗体の極性網膜色素上皮への影響RanibizumabCBevacizumabCA.ibercept分子量C48,000C149,000C115,000細胞毒性(TUNEL・MTTassay)なしなしなしバリア機能への影響なしなしなし透過率(BevacizumabをC1と換算)C2C1C0.7VEGF抑制効果(感覚網膜側l)C◎C◎C◎VEGF抑制効果(脈絡膜側)C○C△C◎図2a:トランスウェル上でC2週間以上培養し,図C1で示した極性を示すようになると,VEGFの分泌量も感覚網膜側と脈絡膜側では異なってくる.3日目では極性を獲得しておらず,VEGF分泌量に違いを認めない.Cb:VEGF以外にも色素上皮由来因子(PEDF)では逆に感覚網膜側に分泌が多く,脈絡膜膜側には少ない.PEDFには血管新生抑制作用があることが知られる.交換を円滑に行っている.このように,RPEの細胞極性がCRPE固有の機能の発現に寄与し,網脈絡膜の環境維持につながっているといえる1,2).細胞極性とは,細胞内器官が偏りをもって存在していることによって生まれ,細胞の空間的な制御において重要な役割をもつ1,4).網膜色素上皮細胞から考える抗VEGF療法抗CVEGF療法が眼内の新生血管を伴う病態に対する第一選択の座を占めるようになり,作用機序,疾患への効果,投与方法などの議論が盛んに行われている.その際にも,RPEの感覚網膜側および脈絡膜側での極性VEGF分泌に対して,抗CVEGF薬がどのように作用するかを考慮に入れて議論を進める必要がある.さらに,抗CVEGF療法の適応となる疾患では,RPEの極性がどれくらいの範囲で,どの程度失われてCRPEの機能低下・障害が起こっているのかを考えることが重要である.RPE障害部位では,VEGFの極性分泌が失われた結果,感覚網膜側・脈絡膜側に同等のCVEGF分泌がなされ(VEGF分泌量自体は減少),RPEのバリア機構が破綻することで,抗CVEGF薬をはじめとする物質の透過性が亢進していることを意識すべきである5)(表1).具体例をあげると,一般的にCRPEの障害が少ないと考えられる軽度の網膜静脈閉塞症や初期糖尿病網膜症やCtype1脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)では,硝子体に投与された抗CVEGF薬のCRPE透過性がコントロールされていると考えられる一方,type240あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019感覚網膜側のCVEGFの抑制効果,細胞毒性や感覚網膜側に局在する細胞間接着装置などへの影響は各薬剤とも差は認めないが,薬剤のCRPEの透過率や脈絡膜側の薬剤によるCVEGFの抑制効果には薬剤ごとに差を認めた.Figureは極性を獲得したCRPEでの結果,疾患によりCRPEが障害を受けると,必然的に極性RPEがもつ種々の機能も低下してゆく.C2CNVやCmyopicCNV,汎網膜光凝固後などCRPEの破壊が著しい疾患においては,抗CVEGF薬のCRPE透過性が亢進し,通常とは異なる薬物動態を呈している可能性がある.近年,抗CVEGF療法後の黄斑萎縮の報告もあり,本稿で述べたCRPEと極性ということを意識してOCTの読影や治療選択を検討することも今後大切になると考える.文献1)SonodaCS,CRyanCSJ,CHintonCDRCetal:ACprotocolCforCtheCcultureanddi.erentiationofhighlypolarizedhumanreti-nalpigmentepithelialcells.CNatProtocC4:662-673,C20092)SonodaCS,CKaseCS,CRyanCSJCetal:AttainmentCofCpolarityCpromotesCgrowthCfactorCsecretionCbyCretinalCpigmentCepi-thelialcells:relevanceCtoCage-relatedCmacularCdegenera-tion.AgingC2:28-42,C20093)KuriharaCT,CWestenskowCPD,CBravoCSCetal:TargetedCdeletionofVegfainadultmiceinducesvisionloss.CJClinInvest122:4213-4217,C20124)ShirasawaCM,CSonodaCS,CTerasakiCHCetal:TNF-adis-ruptsCmorphologicCandCfunctionalCbarrierCpropertiesCofCpolarizedCretinalCpigmentCepithelium.CExpCEyeCResC110:C59-69,C20135)YoshiharaCN,CTerasakiCH,CSonodaCSCetal:PermeabilityCandanti-vascularendothelialgrowthfactore.ectsofbev-acizumab,Cranibizumab,Canda.iberceptinCpolarizedCreti-nalCpigmentCepithelialClayerCinCvitro.CRetinaC37:179-190,C2017C(110)

緑内障:Machine learningと緑内障

2019年2月28日 木曜日

●連載224監修=山本哲也224.Machinelearningと緑内障朝岡亮東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学昨今とくにディープラーニング(深層学習)の発展に伴い,machinelearningが注目されている.緑内障診療ではこれまでにもCBayes法,サポートベクターマシン,ランダムフォレストをはじめとするCmachinelearningが臨床応用されてきた歴史がある.そのほかにも視野進行予測,緑内障診断等々,さまざまな場面でのCmachinelearningの応用が模索されている.最近では,ディープラーニングを利用した眼底写真による緑内障自動診断はhottopicの一つである.本稿ではこれらの現況ならびに限界について考察する.●Machinelearningとは何かMachinelearningとは一言でいえば人工知能である.CMachinelearningの最大の特徴は,サンプルデータを元にプログラムがルールや知識を自律的に学習し,データに合わせた柔軟なアルゴリズムが構築されることにある.代表的なものにはCBayes法,ランダムフォレスト,サポートベクターマシン,ニューラルネットワークなどがある.Bayes法は与えられた情報を用いて事前確率を更新することで正しい診断・予測を行うもの,ランダムフォレストは無数の樹木構造を用いた診断器(決定木)を組み合わせることで正しい診断・予測を行う方法,サポートベクターマシンはカーネル空間へデータの射像を行ってから解析することで正しく診断・予測を行う方法,ニューラルネットワークは神経回路に似た情報ネットワークを数理的に人工的に構築して診断・予測を行う方法である.筆者らはこれまでにCmachinelearningの緑内障診療への応用の可能性を探ってきた.たとえば,緑内障性視野進行を正確に予測することは,とくに視野の数が少ない(各測定点予測でC10回程度,グローバルインデックスでも最低C5回程度)と視野の測定ノイズの影響を強く受けるため非常に困難であるが1),Bayes法を応用した変分近似CBayes線形回帰法(variationalCBayesClinearregression:VBLR)を用いて視野測定点同士の関連を勘案しつつ,視野障害の時系列的・空間的パターンを利用して予測することで,予測精度は飛躍的に向上した.VBLRは筆者らの自施設内での検討のみならず,病院・人種を問わずに精度よく予測ができる汎用性の高い方法であった(図1)1).VBLRによる視野予測は,Beeline社の視野解析ソフト内に「Glapre」ソフトとしてすでに搭載されており,臨床使用が可能である.このほかにも,ランダムフォレストを用いることが,光干渉断層計データによる正確な緑内障診断,ハイデルベルグレチナトモグラフ(HRT)データによる近視眼・非近視眼いずれにおいても正確な緑内障診断を行うこと,視野・視力などから患者のCQOLを正確に推測すること,前視野期緑内障で視野データを用いて正常眼と判別するのに有用なことなどをこれまでに報告し,またサポートベクターマシンは視野・視力・運転態度を用いて交通事故確率を予測することに有用であることなどを報告している.また,正則化を利用したCSparse推定もCmachinelearningのなかで最近発展が著しい分野である.LeastCabsoluteCshrinkageCandCselectionoperator(LASSO)回帰はSparse推定の一手法であるが,筆者らは通常のCordi-naryCleastCsquaredClinearregression(OLSLR)ではなくCLASSO回帰を使用して視野をトレンド解析することで視野の進行を圧倒的に正しく予測できるようになることを示した.このように考えると,machinelearningの緑内障診療応用は近未来のものと考えがちであるが,実はまったくそうではない.たとえばCHumphrey視野計(CarlZeiss社)のCSwedishCinteractiveCthresholdingCalgorithm(SITA)プログラムではCBayes法が用いられているし,そもそも単回帰や多変量回帰もCmachinelearningの一種と考えることが可能で,したがってたとえば視野のCmeandeviation(MD)を時間に対して回帰する従来通りのトレンド解析もCmachinelearningの一種といえる.C●ディープラーニング(深層学習)ディープラーニングは最近注目を集めているCmachinelearningの一手法で,典型的には隠れ層の数を飛躍的に増やしたニューラルネットワークで,旧来のニューラスネットワークとの違いは,一言でいえば,隠れ層の多寡,特徴抽出プロセスの有無,さらには診断・予測能力である.(107)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C2370910-1810/19/\100/頁/JCOPY(dB)(dB)図1Bayes法視野予測による予測誤差235左:日本人後ろ向き多施設緑内障データC30ベース(JAMDIG)177例C271眼,右:1.015DiagnosticCInnovationsCinCGlaucomaC感度absoluteerror10Study(DIGS)データC173例C248眼による感度RMSE予測精度検証結果.通常の線形回帰(黒)に比べ,Bayes法を使用したCVBLR法5(赤)で飛躍的に改善した.10回目の視野を先行する視野で予測した場合の予測誤5差を示す.通常の線形回帰(黒)に比べ,C00Bayes法を使用したCVBLR法(赤)で飛躍CVF2-2VF2-2VF2-4VF2-5VF2-6VF2-7VF2-8VF2-9VF2-10VF2-2VF2-2VF2-4VF2-5VF2-6VF2-7VF2-8VF2-9VF2-10的に改善した.RMSE:rootCmeanCsquarederror,VBLR:variationalCBayesClinearCregres-sion,OLSLR:ordinaryCleastCsquaredlinearregression.(文献C1より転載)C0.8図2Residualnetworkによる緑内障眼0.6底診断結果左:非高度近視における受信者動作特性曲線,右:高度近視における受信者動作特性0.40.20.01.00.8自験例では,このディープラーニングを用いることが,前視野期緑内障の視野と正常眼の視野を区別することに有用であった.また,筆者らは最近,眼底写真を用いた緑内障自動スクリーニングアルゴリズムの開発を行った.この研究では,最新の畳み込みニューラルネットワークを基としたディープラーニングを構築し,この自動判別器に大量の眼底写真を読み込ませて訓練を行った.この結果,95%超の受信者動作特性(receiverCoperatingcharacteristic:ROC)曲線下面積(areaCunderCROCcurve:AUC)を得ることに成功し(特願2017-196870)2),この診断精度は高度近視のある眼でも変わらなかった(図2).これらの診断能力は眼科専修医の能力を超えるものであった.この他にも複数の類似の報告がある3.5).C●Machinelearningと緑内障診療の未来Machinelearningと緑内障データの親和性は高く,緑内障診療の質の向上に寄与する可能性を秘めている.今後は比較的単純な作業は,眼科医の知識で訓練(模倣)させたCmachinelearningが,ある程度のところまでは肩代わりしていくことになるのではないかと予測されC238あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019曲線.受信者動作特性曲線下面積(AUC)CResidualはいずれにおいてもC95%を超え,眼科専修Network:96.4[92.0-100.0]%専修医A:66.6[53.4-79.7]%,p<0.001医と同等か有意にそれよりも優れていた.専修医B:91.2[83.9-98.3]%,p=0.10専修医C:88.8[80.3-97.3]%,p=0.0720.60.40.20.0特異度る.ただし,最終的な診断はまだまだ臨床医がこれまで通り行う必要があるのは近未来にわたって変わらないものと思われ,われわれ眼科医がこれまで通り臨床スキルを身につけていく重要性はいささかも変わらないものと思われる.文献1)MurataH,ZangwillLM,FujinoYetal:Validatingvaria-tionalCBayesClinearCregressionCmethodCwithCmulti-centralCdatasets.InvestOphthalmolVisSciC59:1897-1904,C20182)ShibataN,TanitoM,MitsuhashiKetal:Developmentofadeepresiduallearningalgorithmtoscreenforglaucomafromfundusphotography.SciRepinpress3)TingCDSW,CCheungCCY,CLimCGCetal:DevelopmentCandCvalidationofadeeplearningsystemfordiabeticretinopa-thyCandCrelatedCeyeCdiseasesCusingCretinalCimagesCfromCmultiethnicCpopulationsCwithCdiabetes.CJAMAC318:2211-2223,C20174)LiZ,HeY,KeelSetal:E.cacyofadeeplearningsys-temCforCdetectingCglaucomatousCopticCneuropathyCbasedConCcolorCfundusCphotographs.COphthalmologyC125:1199-1206,C20185)LiuS,GrahamSL,SchulzAetal:Adeeplearning-basedalgorithmCidenti.esCglaucomatousCdiscsCusingCmonoscopicCfundusphotographs.OphthalmolGlaC1:15-22,C2018(108)