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二次元から三次元を作り出す脳と眼 22.視覚はよみがえる

2018年3月31日 土曜日

連載.二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科図1大型弱視鏡の構造二つの鏡筒は水平・垂直・回旋方向に独立して動くので,眼位に合わせて視覚刺激を別々に呈示できる.ここでは水平方向の目盛のみ示す.両眼の対応点に個別に刺激を与えることにより,両眼視の検査や訓練が可能である.(83)あたらしい眼科Vol.35,No.3,20183650910-1810/18/\100/頁/JCOPY膜に映る範囲により4段階に分かれる.最小の中心窩スライド(d)で融像可能ならば正常両眼視をもつと考えてよい.訓練の対象は片眼抑制や網膜異常対応である(図2の説明文参照)2).訓練は1990年頃まで精力的に行われたが,片眼抑制がとれ,逆に複視に悩む例も出たため,症例を選んで行うよう注意喚起された.現在は斜視手術や屈折矯正が主体で,訓練は補助的なものとされる.乳児内斜視には手術,調節性内斜視には眼鏡装用でまず斜視角を減少させる.眼位が正位や斜位になれば両眼視はおのずから段階的に改善していく.しかし,わずかな内斜視が残り,微小角斜視になったり交代視したり,両眼視の困難な例が早期発症のものに多い.感覚性融像はあっても運動性融像が弱く,正しい位置に眼を動かせない例もあり,改善に限界がある.著者が受けた訓練は運動面のものが多く,その点で従来の訓練と異なる.48歳からの訓練著者は1954年生まれ.生後3カ月で内斜視を発症し,乳児内斜視の診断のもと,2,3,7歳と3回の斜視手術を受け,わずかに内上斜視を残す状態となった.矯正視力は両眼とも1.0,潜伏眼振を伴い,立体視はなく素早い交代視で対処していた.48歳を前に眼の疲れや遠くが見えにくく運転に困難を覚えたため(絶え間ない交代視のため世界が小刻みに震えて見えるとの記載)眼科医を訪れたが,両眼視なしと確認されただけ.やむなく検眼医を受診した.数年にわたる訓練を受けてrandomdotstereogram(RDS.単眼の手がかりが少ない立体視検査.連載⑤参照)で立体視を得るまでに改善する.米国では眼科医ophthalmologistが斜視手術を,検眼医optometristが眼鏡処方を担当する.発達検眼医は検眼学による視能矯正を行い,日本の視能訓練士の業務に似る.著者の受けた運動面の訓練を紹介する.内上斜視をプリズム眼鏡で矯正し毎日自宅でも訓練を行った.①衝動性眼球運動(saccade)の訓練.部屋の四隅に異なる数字のカードを1枚ずつ張り,人が読みあげた数字に瞬時に眼を向け数秒固視する.内斜視患者では眼と頭の動きが独立せず,眼を動かすときに頭も同時に動く.眼のみ動かせるよう練習する.②滑動性追従運動(persuit)の訓練.ロープで天井からつるしたボールやコインの振子様の動きを,片眼ずつ,頭を動かさないよう注意して追視する.③不安定なボードの上に乗って字を読む訓練.たとえば平均台に乗るなど体のバランスをとる必要に迫られると前庭器官が活発に働き,視線の安定につながる.前章で紹介した宇宙から帰還後に動揺視を自覚した宇宙飛行士とは著者の夫であり,彼の訴えに彼女は斜視の自分と366あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018の共通点を見出して考察を加えた.④周辺視野を使う.1m四方のボードの中心より放射状に広がる線分があり,線上に多数の光る点が同心円状に配置されている.一つの点が光る→見つけて点を手で押す→別の点が光る→手で押す,これを繰り返す.これまで別々に使っていた中心視野と周辺視野を連携して使えるようになった.運動視差(連載⑥参照.自分が動くとき,固視点より近くは反対方向へ,遠くは同側へ動いて見える現象)やオプティカルフロー(連載⑫参照.運動時の網膜上の像の流れ)は本来単眼の手がかりとされているが,それらを認知する力も高まった.訓練後に固視が安定し,眼の方向をコントロールできるようになったと記している.P系細胞は中心窩に,M系細胞は傍中心から周辺部に多い(連載⑨⑩参照).一連の訓練は眼球運動や周辺視野などM系の能力,上丘を含む膝状体外系や前庭の機能を鍛えることでP系と連携しやすくなったと考える.1+1=無限大そしてある日,運転席でハンドルが宙に浮いて見えるのに気づき,ハンドルの周囲になにもない空間が広がっているのに驚く.単に立体的に見えただけでなく,物を取り巻く空間の広がりを実感したり,物の輪郭がくっきり見えるようになったり,さまざまな描写はユニークで興味深い.RDSで立体視可能になるのはそれから随分あとである.ただしRDSの視角や視差について言及はなく,眼科で行う視差1°以内の検査より立体視しやすかった可能性がある.彼女は自身で考察する.「潜在的に能力のあった両眼視細胞が,両眼から同時に均等に刺激を受けることで神経回路に変化が起こり両眼視細胞として機能しはじめたのではないか.この変化には,大脳皮質だけではなく,前脳基底部*への刺激も必要ではないか.」(*前頭葉底面にある発生学的に古い部分.脳全体の活動を調整することで脳の可塑性,学習,記憶,睡眠など基本的行動に影響を与える)M系の感受性期間は生直後から10カ月頃までで,それ以後の訓練は効果がないと考えられてきた(連載⑱参照).著書には長期訓練により立体視を獲得した成人が多数登場する.上記の訓練でM系が鍛えられ,運動性融像や周辺視野の機能がよくなれば,日常でもっと両眼を使いやすくなると考える.文献1)スーザン・ハリー(宇丹貴代美訳):視覚はよみがえる─三次元のクオリア.筑摩書房,20102)久保田伸枝:斜視視能矯正.視能学(丸尾敏夫,久保田伸枝,深井小久子編),第2版,p407-409,文光堂,2011(84)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 178.内因性細菌性眼内炎鎮静後晩期に発症する網膜剥離(中級編)

2018年3月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載178178内因性細菌性眼内炎鎮静後晩期に発症する網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに内因性細菌性眼内炎は他臓器の感染巣を由来とする菌血症から発症し,眼内炎全体のC2~8%を占めるに過ぎないまれな疾患であるが,その視機能予後は概して不良である.内因性細菌性眼内炎に起因する網膜.離の多くは,急性期に生じる網膜下膿瘍を伴う滲出性網膜.離である.筆者らは以前に内因性細菌性眼内炎に対する抗菌薬硝子体注射後にいったん炎症が鎮静化していたにもかかわらず,晩期に裂孔原性網膜全.離をきたしたC1例を経験し,報告したことがある1).C●症例62歳,男性.近医内科で播種性血管内凝固症候群(disseminatedCintravascularCcoagulation:DIC)と診断され,救命センターに搬送となった.同センターにて肝膿瘍による敗血症と診断され,血液・肝膿瘍培養よりKlebsiellaCpneumoniaeが検出された.その後,髄膜炎,化膿性脊椎炎,右腸腰筋膿瘍を併発した.また,両眼球結膜の充血が改善しなかったため眼科往診依頼となった.視力は意識レベルが低下していたため測定不能.両眼に虹彩炎と高度の硝子体混濁を認め,超音波CBモード検査で網膜下膿瘍と滲出性網膜.離を疑わせる所見を認め,内因性細菌性眼内炎と診断した.硝子体手術の適応と考えられたが,全身状態不良で手術施行困難であったため,両眼にセファゾリンC0.1Cmlの硝子体注射を施行した.また,抗菌薬の点滴治療も並行して行った.その後,右眼は眼内炎症および滲出性網膜.離が改善せず,光覚なしとなったが,左眼は徐々に滲出性網膜.離は軽快し,矯正視力は(0.02)に改善した.しかし,硝子体注射約C10カ月後に網膜全.離を発症したため硝子体手術を施行した.手術は水晶体切除術を施行した後,硝子体を切除した.後部硝子体は未.離で,後極から周辺に向って人工的後部硝子体.離を作製した.網膜.離発症前に認めていた黄斑部付近の瘢痕病巣の耳側に増殖膜が認められ,その牽引によって瘢痕病巣の耳側縁に裂図1硝子体手術時の所見黄斑部付近の瘢痕病巣の耳側に増殖膜が認められ,その牽引によって瘢痕病巣の耳側縁に裂孔が形成されていた.(文献C1より引用)図2術後の眼底写真術後シリコーンオイル下で網膜は復位し,矯正視力は(0.02)に改善した.(文献C1より引用)孔が形成されていた(図1).同部位の増殖膜を除去し,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,シリコーンオイルタンポナ.デを行った.術後網膜は復位し,左眼矯正視力は(0.02)に改善した(図2).C●内因性細菌性眼内炎に続発する網膜.離内因性細菌性眼内炎に続発する網膜.離には,網膜下膿瘍を伴う滲出性網膜.離,硝子体腔内のフィブリン索状物や網膜前膜などによって生じる牽引性網膜.離,壊死性裂孔から生じる裂孔原性網膜.離のC3タイプがある.これらはいずれも炎症が高度な急性期に生じるが,後C2者は眼内炎自体が鎮静化した後,晩期にも生じうる病態と考えられる.細菌性,真菌性を問わず,内因性眼内炎では炎症が遷延化して増殖性変化が生じることを念頭においたうえで,慎重に経過観察する必要がある.また,眼内炎に対して硝子体手術を施行し,いったん炎症が軽減した症例でも,その後に裂孔原性網膜.離をきたす頻度は意外に高いので,その点も十分に留意する必要がある.文献1)KimuraD,SatoT,SuzukiHetal:Acaseofrhegmatoge-nousCretinalCdetachmentCatClateCstageCfollowingCendoge-nousCbacterialCendophthalmitis.CCaseCRepCOphthalmolC8:C334-340,C2017(81)Cあたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3630910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:眼表面の痛みのメカニズム

2018年3月31日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人田川義晃36.眼表面の痛みのメカニズム北海道大学大学院医学研究院眼科学教室眼表面における角結膜は,身体のなかでもっとも知覚の鋭敏な組織であり,痛みに対する感受性が高い.近年,通常の痛みだけでなく,慢性の持続する痛みの神経機序が解明されてきた.今後,眼表面の痛みに対する疾患概念の確立と,新しい治療法の開発が必要である.●はじめに眼が痛い,ゴロゴロする,乾くなどの訴えで受診する患者は多い.全身の他の部位と比較して,眼は乾く,ゴロゴロする,重たい,しみるなどの多様な訴えがある.このような眼の自覚症状には,角結膜に分布する三叉神経が関与している.しかし,その詳細は近年になってようやく解明されてきたのが現状である.本稿では,角結膜においてどのようにさまざまな感覚が受容されるか,さらに病的状態ではそれがどう変化するかについて概説する.C●痛みとはそもそも痛みとは何か?国際疼痛学会は,痛みを「実際に何らかの組織損傷が起こった時,あるいは組織損傷が起こりそうな時,あるいはそのような損傷の際に表現されるような,不快な感覚体験および情動体験」と定義している1).この定義に従うと,狭義の眼の痛み以外にも,眼に生じるさまざまな不快感は痛みに含まれる.そこで,本稿では狭義の痛みのみではなく,眼表面における不快な感覚について取りあげる.C●痛みを伝達する神経線維痛みを伝達する神経線維は知覚神経であり,その太さ(伝導速度)によりCACb,Ad,C線維に分類される(表1)2).Ab線維はおもに触圧覚を伝達し,痛みの伝達にはあまり関与していない.ACd線維はおもに局在が比較的明瞭な痛みを伝達する.C線維は局在が不明瞭な痛みを伝達し,内臓痛などはこのCC線維がおもに伝達している.C●痛みを受容するTRPチャネル痛みを伝達する神経はおもにCACd線維とCC線維であ(79)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1知覚神経線維の種類と特徴2)線維直径伝導速度機能CAb5~1C2Cμm30~7C0Cm/s触覚・圧覚CAd2~5Cμm12~3C0Cm/s痛覚・温度覚・触覚CC0.4~C1.2Cμm0.5~2Cm/s痛覚・温度覚表2眼表面に発現するTRPチャネル3)るが,その線維の神経終末では痛みはどう受容されるのだろうか?全身の末梢知覚神経にはCtransientCrecep-torpotentialcation(TRP)channelとよばれる侵害受容器が存在する2).侵害受容器とは,組織損傷を起こしうるような侵害刺激を電気信号に変える変換器である.ヒトではC27種類あることが知られているが,眼表面では次のC3種類が重要な役割を果たしている(表2)3).まず,熱や酸刺激に対して反応するCTRPV1は代表的な痛みのレセプターである.乾燥感はCTRPM8とよばれる低温や浸透圧変化に対して反応するレセプターが受容する.TRPA1は多様な化学的刺激に反応し,痛みやしびれを伝達するといわれている.角結膜における知覚神経にも,全身の末梢知覚神経と同様に,これらのCTRPチャネルが発現していることが知られており,眼での多様な感覚を受容している.C●通常の痛みと病的な痛み乾燥した部屋では涙液の蒸発が亢進し,眼表面の気化熱が奪われることで眼表面温度が低下する.その温度低下をCTRPM8が受容し,乾燥感を生じる.あるいは,眼に酸性の液体が入るとCTRPV1が酸刺激を受容し,痛あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C361図1角膜神経(生体共焦点顕微鏡による写真)a:正常者.b:ドライアイ患者.神経密度の低下がみられ,神経が障害されている.みが生じる.これらは通常の生体反応であり,生体における警告信号を正しく伝えているという点で生理的な痛みである.一方で,炎症や神経障害が生じているときにはCTRPチャネルの感作が生じるといわれている.たとえば,プロスタグランジンCE2は,TRPV1が反応する閾値を下げて,通常では反応しない刺激に対してもCTRPV1が反応するようにできる.生体内で炎症が生じると炎症性メディエーターが放出され,TRPチャネルの閾値が下がることで痛みを感じやすくなる.また,帯状疱疹などで神経が障害されると,急性期が過ぎても痛みの閾値が下がったままの状態が持続してしまう.このように神経が障害されることで生じる痛みを,とくに神経障害性疼痛とよぶ2).この神経障害性疼痛では,急性期が過ぎても痛みが持続してしまう.これは,本来の生体における警告信号としての役割を果たすわけではなく,病的な痛みが生じていると考えられる.C●眼表面における病的な痛み眼表面においても病的な痛みは存在するのだろうか?日常臨床ではしばしば病的な痛みを訴えていると思われる患者に遭遇する.LASIK後の症例や三叉神経第C1枝の帯状疱疹後の症例では末梢知覚神経が障害されるため,神経障害性疼痛が引き起こされていると想定される(図1).ドライアイと診断されている患者のなかにも,病的な痛みを抱えていると思われる患者は多い.角結膜上皮障害が少なく,涙液層破壊時間の短縮もないか軽度で,強い自覚症状を訴える症例では,眼表面の末梢神経の興奮が持続する神経障害性疼痛が生じていると考えられる.C●おわりに眼表面の病的な痛みを背景に外来受診される患者は思いのほか多いように感じるが,まだ疾患概念が十分に確立されているとはいいがたい.眼の痛みを訴える患者の神経病態の解明とその治療法の開発は,眼科領域においても今後の大きな課題と考えられる.文献1)日本ペインクリニック学会用語委員会(訳):国際疼痛学会痛み用語C2011年版リスト.20122)丸山一男:痛みの考え方─しくみ・何を・どう効かす─.p22,93,南江堂,20143)BelmonteCC,CNicholsCJJ,CCoxCSMCetCal:TFOSCDEWSCIICpainandsensationreport.OculSurfC15:404-437,C2017C362あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(80)

抗VEGF治療:OCTアンギオフラフィー所見と抗VEGF療法

2018年3月31日 土曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二50.OCTアンギオグラフィー所見と片岡恵子名古屋大学大学院医学系研究科眼科学感覚器障害制御学教室抗VEGF療法光干渉断層計(OCT)の技術を発展させたCOCTアンギオグラフィーの登場により,造影剤を使用することなく非侵襲的に脈絡膜新生血管(CNV)をとらえることが可能となってきた.本稿ではCOCTアンギオグラフィーを用いた加齢黄斑変性におけるCCNVの描出方法と,抗CVEGF療法に対するCCNVの反応について紹介する.OCTアンギオグラフィーとは光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)アンギオグフフィーは,血球の動きにより生じるOCT画像の微細な変化をとらえることで血管像を描出する.OCTの技術を用いているため,血管の三次元的な情報を含有しており,網膜および一部脈絡膜の任意の層の血管像を解析することが可能である.現在使用されているCOCTアンギオグラフィーの多くは自動層別解析機能が搭載されており,網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithelium:RPE)などの高反射な構造物を指標に自動で各層を認識している2).しかし,RPEの断裂や出血・滲出物などによるCRPEラインの不明瞭化,RPE下病変による隆起などがほぼ必発である加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)のような黄斑疾患においては,自動層別解析では病変をとらえきれない可能性があり,注意が必要である.脈絡膜新生血管(choroidalCneovascularization:CNV)を確実に描出するためには,手動で層別解析の境界線を設定し,病変を含むように網膜外層からCBruch膜までの解析を行う方法がある.この方法を用いたCNV検出率は高い特異度(約C91%)を示すが,感度は約C50%に停まるとの報告がある3).しかし,ここ数年におけるCOCTアンギオグフィー技術の進歩はめざましく,機種によってはこの報告より感度が高くなってきている可能性はある.COCTアンギオグラフィーでみるAMDAMDの一例を図1に示す.従来の造影検査で描出されたCCNVがCOCTアンギオグラフィーでも同程度に描出されている.血管内皮増殖因子(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF)阻害薬投与後C1カ月では,OCT(77)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYaFAICGAbcde図1VEGF阻害薬にて脈絡膜新生血管(CNV)が著減し,著明に縮小した一例a:初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)の早期像.Cb~e:初診時(Cb,d)およびCVEGF阻害薬投与C1カ月(Cc,e)の光干渉断層計(OCT)およびCOCTアンギオグラフィー画像.で示すCCNVがCVEGF阻害薬投与後,著明に減少縮小している.C上の明らかな滲出物の減少とCOCTアンギオフラフィー上でのCCNVの縮小がみられる.一方,OCTアンギオグラフィーの最大の欠点として,血管漏出をとらえることができないことがあげられる4).そのため,OCTアンギオグラフィーのみでCCNVあたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C359aFAICGAabbcde図2VEGF阻害薬投与前後でCNVに大きな変化を生じなかった一例a:初診時のCFAおよびCICGAの早期像.Cb~e:初診時(Cb,d)およびCVEGF阻害薬投与C1カ月(Cc,e)のCOCTおよびOCTアンギオグラフィー画像.Cの活動性を評価することは困難である.図2の症例では,VEGF阻害薬投与後C1カ月でCOCT上にて網膜浮腫が消失したことが確認できるが,OCTアンギオグラフィーのCCNV像は治療前後でごくわずかに減少したものの,CNVは依然残存しており,OCTアンギオグラフィーの画像だけでは疾患の活動性は判断できないことがわかる.また,図3の症例はCOCTアンギオグラフィーにて異常血管網とポリープ状病巣が描出されたものの,1年以上にわたり滲出性変化の増強がなく,活動性がないと判断し,抗CVEGF療法を行わなかったポリープ状脈絡膜血管症の一例である.この症例においても,OCTアンギオグラフィーによるポリープ状病巣の描出と疾患活動性は相関していないと考えられる.したがって,CNVの活動性の評価は,従来の画像検査や疾患の経過等と合わせて多角的に判断する必要がある.360あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018cFAICGAd図3活動性変化を示さなかったポリープ状脈絡膜血管症の一例a:カラー眼底写真にて橙赤色病変()がみられる.Cb:OCTアンギオグラフィー画像.Cc:FAおよびCICGAの早期像.Cd:OCT像.中心窩下にわずかに漿液性網膜.離がみられる.Ca~cのは同一のポリープ状病巣を示す.おわりにOCTアンギオグラフィーの画像システムは日々進歩しており,今後の技術の発展に期待したい.文献1)KimDY,FinglerJ,ZawadzkiRJetal:OpticalimagingoftheCchorioretinalCvasculatureCinCtheClivingChumanCeye.CProcNatlAcadSciU.S.A.C110:14354-14359,C20132)GaoSS,JiaY,ZhangMetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiography.InvestOphthalmolVisSciC57:20163)DeCarloTE,FilhoMA,ChinATetal:Spectral-domainopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCofCchoroidalCneovascularization.OphthalmologyC122:1228-1238,C20154)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedCNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC35:C2163-2180,C2015(78)C

緑内障:緑内障と腫瘍壊死因子(TNF)

2018年3月31日 土曜日

●連載213監修=岩田和雄山本哲也213.緑内障と腫瘍壊死因子(TNF)北岡康史聖マリアンナ医科大学眼科学緑内障の原因は多因子であり,眼圧以外では老化,グルタミン酸,血流障害,酸化ストレス,サイトカインなどが報告されている.サイトカインのなかでも腫瘍壊死因子(TNF)はある種の緑内障と関係があると考えられており,ここでは現在までに知られている知見を紹介する.C●前房水のTNF手術時の前房水サンプルから腫瘍壊死因子(tumornecrosisCfactor:TNF)測定キットCELISAでCTNF濃度を測定した研究によると,84例の緑内障患者のサンプルのなかでCTNF陽性はC15例(17.8%)であり,コントロール群白内障患者C79例ではCTNF陽性がC4例(5.0%)であったのに比して,有意に高かったと報告されている1).この研究では緑内障をサブタイプでも比較しており,TNF陽性は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)でC4例(13.7%),正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)でC3例(10.7%),落屑緑内障でC8例(29.6%)となっており,落屑緑内障は明らかに陽性率が高い.また,別のグループの報告では,POAGC32例と白内障C32例を比較し,TNF濃度が緑内障でC3.35Cpg/ml,白内障でC1.09Cpg/mlと有意差をもってやはり緑内障で高値となっている2).しかし,multiplexCbeadCimmunoassayを用いてさまざまなサイトカインを比較した研究では,TNF濃度が白内障C21例でC1.5C±0.7Cpg/ml,POAG20例でC1.6C±1.2Cpg/mlとまったく上昇していない3).この研究では,落屑緑内障C23例でC2.3C±1.7Cpg/mlと有意ではないが(p=0.0800)上昇傾向を示していた3).やはりさまざまなサイトカイン,ケモカインを測定した研究では,TNF濃度が白内障C23例でC9.58Cpg/ml,緑内障C38例(POAG26例,原発閉塞隅角緑内障C12例)でC12.65Cpg/mlと上昇傾向だが有意差を示していなかった(p=0.086)4).この研究では陽性率で有意差を認めたと報告されている(白内障で16/23,緑内障でC35/38)4).これらの所見は,TNFが原因か何かの結果かは不明だが,緑内障ではCTNFが上昇していることを示唆している.C●TNFの遺伝子多型TNF遺伝子のC308位のCGC→CA多型の存在は,転写をC6~7倍増加させることが報告されており,産生されるCTNFレベルがさまざまな臓器で増加することにつながる.この遺伝子多型が緑内障に関与しているとの報告と,関係ないとの報告がある.AsianではCPOAGと関係しているとの報告5),落屑緑内障と関係しているとの報告6)がある一方,CaucasianではCPOAGと有意な関係はないとの報告,落屑緑内障と有意な関係はないとの報告がある7).その後のメタアナリシスの研究では,TNF遺伝子のC308位のCGC→CA多型の存在が高眼圧タイプのPOAGのリスクと有意に相関したと報告されている8).これらのことからも緑内障にCTNFの発現が関与していることが示唆されている.C●TNFの眼組織での発現ヒト緑内障眼でCTNFとその受容体であるCTNF-R1がコントロール眼に比して,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)や視神経乳頭で発現が上昇していたとの報告がある.TNFの産生はアストロサイトやマイクログリアが行っている.Tezelによると,緑内障ストレスがグリアを活性化し,グリアからCTNFが産生され,RGCを直接攻撃,もしくは一酸化炭素,エンドセリン,アミロイドCbなどを介して間接的にCRGC障害を起こす9).同グループからの発表で,ヒト緑内障の網膜サンプルと年齢を一致させたコントロール網膜サンプルをプロテオミクスで比較検討した研究では,緑内障眼からのサンプルにおいて,TNF/TNF-R1Csignalingに結びつく多くの蛋白発現が亢進していたことも報告されている.(75)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3570910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1視神経軸索1本の模式図と電子顕微鏡所見●TNFと軸索障害Nakazawaらによると,高眼圧マウスモデルで網膜のTNFが上昇し,TNFノックダウンで軸索障害が抑制できることを示している.TNFによりマイクログリアやアストロサイトが活性化し,軸索障害に寄与することもわかっている.軸索障害には軸索輸送も関与しており,多くの軸索輸送はレールの役割をするCmicrotubulesによって運ばれている.これは電子顕微鏡では観察することができる(図1).この写真では正常なCneuro.lamentも観察できるが,軸索障害ではこれらは束になって集まり蓄積される.また,ミトコンドリアも行き来しており,ほかにも大きいものではオートファゴソームも輸送されている.C●おわりに他科で臨床応用されているCTNF阻害薬であるCetan-erceptの緑内障への効果は動物モデルでのみ報告があり,ヒトへの応用にはCTNFの関与が高いタイプの緑内障の細分化が必要であると考えられる.文献1)SawadaCH,CFukuchiCT,CTanakaCTCetCal:TumorCnecrosisfactor-alphaCconcentrationsCinCtheCaqueousChumorCofCpatientsCwithCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:C903-906,C20102)BalaiyaCS,CEdwardsCJ,CTillisCTCetCal:TumorCnecrosisCfac-tor-alpha(TNF-a)levelsCinCaqueousChumorCofCprimaryCopenangleglaucoma.ClinOphthalmolC5:553-556,C20113)TakaiCY,CTanitoCM,COhiraCA:MultiplexCcytokineCanalysisCofCaqueousChumorCinCeyesCwithCprimaryCopen-angleCglau-coma,CexfoliationCglaucoma,CandCcataract.CInvestCOphthal-molVisSciC53:241-247,C20124)ChuaJ,VaniaM,CheungCMetal:Expressionpro.leofin.ammatoryCcytokinesCinCaqueousCfromCglaucomatousCeyes.MolVisC18:431-438,C20125)LinCHJ,CTsaiCFJ,CChenCWCCetCal:AssociationCofCtumourCnecrosisCfactorCalphaC-308CgeneCpolymorphismCwithCpri-maryCopen-angleCglaucomaCinCChinese.CEye(Lond)C17:C31-34,C20036)KhanCMI,CMichealCS,CRanaCNCetCal:AssociationCofCtumorCnecrosisCfactorCalphaCgeneCpolymorphismCG-308ACwithCpseudoexfoliativeCglaucomaCinCtheCPakistaniCpopulation.CMolVisC15:2861-2867,C20097)MossbockG,RennerW,El-ShabrawiYetal:TNF-alpha.308G>Aand.238CG>ACpolymorphismsCareCnotCmajorCriskCfactorsCinCCaucasianCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma.MolVisC15:518-522,C20098)XinX,GaoL,WuTetal:RolesoftumornecrosisfactoralphaCgeneCpolymorphisms,CtumorCnecrosisCfactorCalphaClevelinaqueoushumor,andtherisksofopenangleglau-coma:ameta-analysis.MolVisC19:526-535,C20139)TezelCG:TNF-alphaCsignalingCinCglaucomatousCneurode-generation.ProgBrainResC173:409-421,C2008358あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C(76)C

屈折矯正手術:SMILEのレンティクル確認テクニック

2018年3月31日 土曜日

監修=木下茂●連載214大橋裕一坪田一男214.SMILEのレンティクル確認テクニック小島隆司慶應義塾大学医学部眼科学教室,名古屋アイクリニックSmallincisionlenticuleextraction(SMILE)手術ではレンティクルを.離する操作が重要である.レンティクルの表側か裏側のどちらを.離しているか判断するのにCwhiteringsignが有効で,この所見が陽性であればレンティクルの後面を.離していることがわかる.●はじめにSmallCincisionClenticuleCextraction(SMILE)手術は,角膜屈折矯正手術の一種であるが,その代表格ClaserCinsituCkeratomileusis(LASIK)とは大きく異なる.SMILEは角膜をフェムトセカンドレーザーのみで切開し,角膜内にレンティクルとよばれる切片を作製し,それを抜き取ることで目標の屈折矯正を達成する.一般的に,SMILEは手術手技がCLASIKに比較してむずかしいといわれる.とくに慣れない術者は手術を開始する際にストレスに感じることが予想されるが,このレンティクル確認テクニックを身につければ,手術がスムーズに施行できると思われる.C●SMILEの標準術式SMILEでは,まずフェムトセカンドレーザーで図1に示すような四つの切開が行われる.最初にClenticulecutとよばれるレンティクルの後面切開,続いてClenti-culesidecutとよばれるレンティクルの側面切開,そしてCcapcutとよばれるレンティクル前面部分の切開,最後にCcapopeningincisionとよばれるレンティクルを抜き出すための切開が行われる.次に,角膜内に作製されたレンティクルを.離し,抜き取る手技に入る.標準術式としては,まずレンティクル前面を.離し,レンティクルを後ろ側に残した状態でレンティクル後面を.離する.SMILEではCcapCopeningCincisionはC2~3Cmmであり,レンティクルを直接確認できない.このため断面ではわかりやすいレンティクルも,手術顕微鏡で角膜正面から見た場合,現在自分がどの層を.離しているのかわからなくなることがある.このため,レンティクル前面を.離しているつもりで,実際はレンティクル後面を.離してしまうと,次に後面を.離しようとさらに後面をスパチュラで探っても,すでに後面は.離しているのでみつからない.この際,最初にレンティクル後面を.離したことに気づけばいいが,そうでないと執拗にスパ(73)③④①②④各切開面の呼称①lenticulecut(レンティクルの後面)②lenticulesidecut(レンティクルの側面切開)③capcut(レンティクルの全面)④capopeningincision標準術式:④→③→①(②)の順番に切開面を.離する.図1SMILE手術における角膜内切開面および標準術式チュラでレンティクル後面を探した結果,角膜実質層にダメージを与えたり,間違った層を自ら作り出してしまう可能性もある.C●レンティクル確認テクニックJacobらは,SMILE手術においてレンティクルを.離する際に,最初にレンティクルの後面を.離し,レンティクルが角膜上皮側に残ってしまった場合は,.離範囲よりも内側に白いリングが観察されることを発見し,これをCwhiteringsignと名づけた.筆者らの自験例でも,レンティルが上側に残った場合は,論文での報告と同様にCwhiteCringCsignが確認された(図2).これを複数例経験することによって注意すべき点がわかってきた.このCwhiteCringCsignを確認する際,角膜内のポケットがウェットであると,このサインがわからないことがある.角膜にかけた水が切開創からポケット内に入りこんだ場合は,手術用スポンジなどでポケット内をドライにして確認するとよい.これがどうして見えるかであたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3550910-1810/18/\100/頁/JCOPYA.レンティクル表面が最初に.離された場合(推奨)B.レンティクル後面が最初に.離された場合レンティクル.離範囲は観察されるが,その内側にはリングは観察されない.レンティクル.離範囲の内側に白色のリングが観察される(whiteringsign陽性).図2レンティクルのどちら側を.離しているか確認する方法A.中村氏のレンティクルセパレーターB.中村氏レンティクルスパチュラAの角をレンティクルレンティクルの端が.離の端に当てて.離するされた状態図3レンティクルが上に残った場合の対処方法あるが,図1をよく見るとわかるが,最初に誤ってレンティクル後面を.離した場合,lenticulesidecutおよびlenticuleCcutの一部を.離することになる.その際,lenticulesidecutの部分が角膜内で露出され,その部分からの散乱光でリング状に見えると思われる(図2).C●レンティクルが上側に残った場合の対処方法上記の方法にてレンティクルの位置を確認し,もしレンティクルが上側に残っている場合は以下の方法で.離すれば問題なく手術は可能である.まず,capopeningincisionから中村氏レンティクルセパレーター(GeuderCG-S03832)を挿入し,器具の角をレンティクルの側面に当てるイメージでレンティクル356あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018の一部をCcap部分から.離する.次にレンティクルスパチュラ(ASICOCSP-121079)を.離された部分から挿入しレンティクル全体を.離する(図3).上記の確認方法および対象方法をマスターすれば,レンティクルが上側に残っても下側に残っても,まったく問題なく手術は短時間で終了可能である.文献1)JacobCS,CNarianiCA,CFigusCMCetCal:WhiteCringCsignCforCuneventfulClenticuleCseparationCinCsmall-incisionClenticuleCextraction.JCataractRefractSurgC42:1251-1254,C2016(74)

眼内レンズ:角膜内皮減少例に対するDouble Circular Capsulotomy & Endophaco Technique

2018年3月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋376.角膜内皮減少例に対するDoubleCircular飯田嘉彦北里大学医学部眼科Capsulotomy&EndophacoTechnique角膜内皮細胞減少症例に対する白内障手術において,小さな前.切開を作製し,水晶体.内で超音波乳化吸引を行い,手術に伴う角膜内皮への侵襲を防ぐ術式が清水により報告された.今回はその手術手技と術後成績について紹介する.●はじめに白内障手術は手技や手術機器の発展により,より安全な手術となったが,レーザー虹彩切開術後や急性閉塞隅角症後,長期コンタクトレンズ使用例,ぶどう膜炎併発例などでときに遭遇するC1,000/mmC2を切るような角膜内皮減少例は,超音波や術中操作による角膜内皮細胞への侵襲による水疱性角膜症の発症が懸念される難症例の一つである.白内障手術中の角膜内皮細胞障害を防ぐ方法として,凝集型と分散型の性質の異なる粘弾性物質を使用したソフトシェルテクニックが知られているが,粘弾性物質の残存による術後の眼圧上昇も角膜内皮細胞への侵襲となるため注意が必要となる1).1989年に清水が報告したCdoubleCcircularCcapsulotomyC&CendocapsularCphaco-emulsi.cation(DCCC&Cendophaco)は,小さな連続円形切.(continuousCcircularCcapsulorhexis:CCC)を作製し,水晶体.内で超音波乳化吸引(endophaco)を行うことで,超音波の角膜内皮への直接的な侵襲や核片の飛散による侵襲を防ぐことを目的とした術式であり,角膜内皮細胞減少例への有用性が報告されている2,3).●手術方法①角膜耳側切開(2.8Cmm)で前.鑷子を用いて直径約3Cmm程度の前.切開を施行する(図1).②ハイドロダイセクション後に水晶体.内で超音波乳化吸引術(一手法)および皮質吸引を施行する(図2).③粘弾性物質で前房内・.内を満たした後に前.剪刀を用いて前.に切れ込みを入れ,再度,前.鑷子にて通常の白内障手術時と同程度のサイズに前.切開を拡大し,眼内レンズを.内に挿入する(図3).図1①smallcapsulotomy図2②endocapsularphacoemulsi.cation(endophaco)図3③largecapsulotomy(71)Cあたらしい眼科Vol.35,No.3,2C018C3530910-1810/18/\100/頁/JCOPY図4術後1週目の前眼部写真角膜浮腫はほとんどみられず,角膜の透明性は保たれ,術後早期から良好な視力を獲得できている.●術後成績2016年C4月以降,北里大学病院でCDCC&endophacoによる白内障手術を施行したC9例C15眼(平均年齢C79.6C±5.2歳,平均術前角膜内皮細胞密度C890.7C±274.2/Cmm2)において,術後早期から角膜浮腫は軽度であり(図4),術後C3カ月以降の最終受診時における平均角膜内皮細胞密度はC818.8C±234.2/mm2,術後眼圧上昇や水疱性角膜症の発症はなく,視力は全例(1.0)以上を獲得しており,経過観察中である.C●おわりに小さなCCCCを損傷せずに水晶体.内という閉鎖性の高い空間で核分割,核処理を行うのは二手法ではむずかしく,一手法ならではの方法といえる.角膜内皮細胞密度がC500/mmC2前後の症例や,操作がむずかしくなり角膜内皮への侵襲が大きくなる可能性がある核が硬い症例や浅前房症例ではソフトシェルテクニックも併用するのも効果的と考えるが,術終了前の粘弾性物質の除去を十分に行うことと,術後の眼圧上昇に注意することが重要である.文献1)Arshino.CSA:Dispersive-cohesiveCviscoelasticCsoftCshellCtechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,C19992)清水公也:DoubleCcircularCcapsulotomyとCendocapsularphacoemulsi.cation.眼科手術2:431-435,C19893)神山とよみ,清水公也,嶺井利沙子ほか:角膜内皮細胞減少症例に対するCDoubleCCircularCCapsulotomyC&CEndocap-sularPhacoemulsi.cation.眼科手術17:241-244,C2004C

コンタクトレンズ:調節・明視域

2018年3月31日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一41.調節・明視域●調節力と明視域眼には網膜に焦点を結ぶためのピント調節機構があり,眼の調節という.人の調節の大部分は水晶体前面の曲率増加,厚さの増加など水晶体の変化であり,輻湊,瞳孔反応と連動して行われている1).無調節下において明視できる点を遠点,最大調節時に明視できる点を近点,遠点と近点の距離を調節域といい,その距離をdiopter[D,網膜に結像する対象物の距離(m)の逆数]で表したものを調節力という..2Dで完全矯正される近視の未矯正下での遠点は眼前50cm,調節力1Dの場合の近点は眼前33cmであり,屈折矯正下における遠点は無限遠方(∞),近点は眼前1mに移動する.屈折矯正の状態により遠点と近点は変化する(図1).近視の場合は,調節域と明視域はともに眼前有限距離にあるため一致する.一方,遠視眼の場合は調節域と明視域は一致しない.+1Dで完全矯正される遠視の未矯正での遠点は眼後(無限遠方を明視するために調節が必要な状態)1m,調節力3Dの場合の近点は眼前50mである.調節域は眼後1mから眼前50cmであるが,明視域は無限遠方から眼前50cmとなる.遠視の場合は無限遠方を明視するためにも調節力が必要であるため,近方視に対してより負担が生じ,眼精疲労を生じさせる原因となる.遠視において遠見裸眼視力は良好な場合が多いが,明視域の眼後半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学拡大,眼の負担軽減を考慮し,遠視の屈折矯正は重要である.加齢とともに調節機能が低下して(水晶体の弾性低下,毛様体の変化),近点が遠方へ移動(近方の明視が困難になる)した状態が老視である2).仮に正視眼で調節力が0(D)の場合は,遠点は無限遠方,調節力0Dのため近点も無限遠方となり,明視域は無限遠方のみ(手前が見えにくい)となる.屈折矯正(とくに老視矯正)における屈折矯正度数の測定では,完全屈折矯正度数,調節力,日常生活において明視が必要な視作業距離の把握が必要となる.明視域が日常生活における視覚の質を維持できる範囲となるため,コンタクトレンズ(CL)矯正前・後の明視域の変化について十分に理解し,患者に対して説明することが必要である.●調節検査(自覚的・他覚的)調節検査は自覚的検査と他覚的検査があるが,いずれの場合も視標の明視状態や検査に対する注意力により結果が変動し,測定値も変動することに注意する必要がある.自覚的調節検査は石原式近点計や両眼開放式定屈折近点計D’ACOMO(ワック)を用いて近点および遠点を測定し,測定結果から調節力を算出する.実視標を物理的眼前+1.0D+0.5D0D-0.5D-1.0D-2.0D-3.0D(矯正レンズ)図1屈折矯正による明視域の変化.2Dの近視,調節力1D,未矯正の場合の遠点は眼前50cm,近点は33cmであり(オレンジ色で示す),屈折矯正下の遠点は無限遠方(∞),近点は眼前1mである(緑で示す).明視域(遠点と近点の間)は屈折矯正により変化する.1m2m∞2m1m50cm33cm(69)あたらしい眼科Vol.35,No.3,20183510910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2測定画面および測定結果(ARK.1s,ニデック)固視目標の移動位置(調節負荷)に応じた調節反応と瞳孔反応(縮瞳)の経時的計測結果がグラフ表示される.AMP:調節力,T1REF:雲霧状態の前後5秒を除いた屈折値,L1LAG:調節負荷量と調節量のラグに近方に移動させ,明視できる限界点に対する被検者の自覚応答をもとに測定されるため,複数の測定値の平均値をもとに算出することが望ましい.他覚的調節検査は他覚的屈折検査装置にて計測した屈折値をもとに,屈折検査装置の内部固視標位置を光学的に制御することにより調節応答を経時的に計測し,調節力を測定する.現在市販されている臨床的な他覚的調節検査装置としては,ARK1/AR1(ニデック)がある3).検査は通常のオートレフラクトメータと同じように被検者に検査装置内部の固視目標を見てもらい,検者はジョイスティックを操作しながら患者の瞳孔中心を正確に合わせ,必要に応じて微調整する.検査結果は内部固視目標の移動位置(調節負荷)に応じた調節と瞳孔反応(縮瞳)の経時的計測結果とともに,調節力,雲霧時(測定前に固視目標をデフォーカス)の他覚的屈折値,調節負荷量と調節量のラグなどが表示される.調節検査結果は測定条件によって大きく変化する.日常視に近い調節応答を評価するためには両眼開放下での測定が理想であり,将来,両眼開放下で両眼同時に他覚的調節が可能な検査装置の開発が望まれる.●おわりに屈折矯正においては,できるだけ調節の関与を少なくすることが,眼精疲労を防ぐために重要である.遠方視に比べて近方視では調節負荷が強くかかる.正視で近方視作業距離40cmを明視するために必要な調節力は2.5Dであり,調節力1Dの場合は不足分の1.5Dを近用眼鏡などで補正する必要がある.余力をもって近方を明視するためには,不足分の加入だけでなく,さらに+a(残余調節力の半分が一つの目安)の近方加入を追加が必要である.とくに近年はスマートフォンなどでより近方視が必要となる場合があり,+aの近方加入が眼精疲労の予防の観点からも必要であると考える.患者の調節・明視域を把握することが患者満足度の高いCL処方およびマルチフォーカルCLの見え方に対する患者への説明において重要であると考える.文献1)所敬:調節.屈折異常とその矯正,第4版,p193-210,金原出版,20042)鵜飼一彦:調節.視覚情報処理ハンドブック(日本視覚学会編),p33-34,朝倉書店,20003)森本壮:調節検査.眼科検査ガイド(根本昭監修),第2版,p139-141,文光堂,2016PAS103

写真:急性角膜水腫に伴う角膜穿孔

2018年3月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦406.急性角膜水腫に伴う角膜穿孔細谷友雅兵庫医科大学眼科学講座図1角膜穿孔時の左眼前眼部写真角膜中央部に角膜浮腫と不均一な実質混濁を認める.Descemet瘤はなく,穿孔部位は明らかでない.炎症細胞浸潤は目立たず,眼脂,前房蓄膿などの感染徴候はないが,結膜充血を認める.図4前眼部OCT写真(SS.1000CASIA)角膜実質に複数の空隙を認めるが,穿孔部位は不明であった.図3前眼部フルオレセイン染色写真角膜中央部から房水流出を認め,周辺上皮は浮腫状である.上皮欠損は認めない.(67)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3490910-1810/18/\100/頁/JCOPY急性角膜水腫(acutehydrops)は,円錐角膜の重症例でしばしば認められる角膜浮腫である1).Des-cemet膜破裂を生じた部位で前房水に対するバリアがなくなり,角膜実質浮腫と上皮浮腫を生じたものであり,まれに角膜穿孔や感染をきたすことが報告されている2,3).急性角膜水腫に角膜穿孔を伴った症例を紹介する.症例:49歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:以前から円錐角膜を指摘されており,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)を装用して加療中であった.視力は右眼(0.3C×HCL),左眼(0.3C×HCL)であった.夜間に眼のかゆみを感じて擦った後,起床時に左眼の急激な視力低下に気づいたが,急性角膜水腫と自己判断し,圧迫眼帯を行いC2日後に受診した.既往歴:急性角膜水腫右眼C2回,左眼C1回,アトピー性皮膚炎.受診時所見:左眼視力はC20Ccm指数弁(矯正不能)で,角膜中央部に実質浮腫と不均一な混濁を認めた(図1,2).前房深度は深く,前房蓄膿などの感染徴候はなかったが,結膜充血を認めた.Descemet瘤はなく,穿孔部位は明らかでなかったが,角膜中央部から房水流出を認め,周辺上皮は浮腫状であった(図3).上皮欠損は認めなかった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,角膜実質に複数の空隙を認め,Descemet膜の.離も観察されたが,穿孔部位は不明であった.経過:レボフロキサシン点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服,治療用ソフトコンタクトレンズ装用で保存的に加療したところ,2日後には房水漏出はなくなり,3カ月後には瘢痕治癒したが,実質混濁が残存し,左眼視力は0.01(矯正不能)であった.Fuentesらは,平均C30カ月間の観察期間中にC5.8%の症例が急性角膜水腫を生じたと述べている4).目を擦ること,男性,アレルギー性結膜疾患,喘息,アトピー性皮膚炎,急性角膜水腫の既往,視力不良眼,ダウン症候群,前眼部COCT所見での急性角膜水腫発症前からの実質の菲薄化,大きな上皮/実質厚比,高輝度なCBowman層の描出などが急性角膜水腫発症のリスクファクターであるといわれている2,4,5).本症例も上記のリスクファクターを多数もっており,ハイリスク症例であったと考えられる.リスクファクターをもつ円錐角膜患者には日頃から目を擦らないように指導することがとくに必要であり,アトピー性眼瞼皮膚炎,アレルギー性結膜疾患をもつ患者にはかゆみのコントロールが急性角膜水腫の発症リスク減少に重要と考えられる.本症例では明らかな穿孔部位が細隙灯顕微鏡や前眼部OCTでは確認できなかったが,複数の実質内空隙を認め,Descemet膜の.離も観察されたことから,前房水がこの間隙を伝って上皮の脆弱な部位から漏出したものと考えられた.自己判断での圧迫眼帯が房水漏出を助長した可能性もあり,急性角膜水腫の治療として圧迫眼帯を励行するのは再考したほうがよいと考えさせられる症例であった.急性水腫を生じると角膜は膨化し,角膜厚は増加するが組織は疎であり,外傷や感染などの障害が加わると容易に穿孔しうるため,厳重に経過観察する必要がある.文献1)木下茂,下村嘉一:角膜浮腫,角膜クリニック(井上幸次,渡辺仁,前田直之ほか編),第C2版,p111,医学書院,20032)GrewalCS,CLaibsonCPR,CCohenCEJCetCal:AcuteChydropsCinthecornealectasias:Cassociatedfactorsandoutcomes.TrAmCOphthalmolSocC97:187-198,C19993)MeyerJJ,McGheeCN:Acutecornealhydropscomplicat-edbymicrobialkeratitis:CCaseseriesrevealspoorimme-diateCandClong-termCprognosis.CCorneaC35:1019-1022,C20164)FuentesCE,CSandaliCO,CElCSanharawiCMCetCal:AnatomicCpredictiveCfactorsCofCacuteCcornealChydropsCinCkeratoco-nus:CAnOpticalCoherenceTomographyStudy.Ophthal-mologyC122:1653-1659,C20155)BarsamCA,CBrennanCN,CPetrushkinCHCetCal:Case-controlCstudyCofCriskCfactorsCforCacuteCcornealChydropsCinCkerato-conus.BrJOphthalmolC101:499-502,C2017

麻痺性斜視の手術治療

2018年3月31日 土曜日

麻痺性斜視の手術治療SurgeryforParalyticStrabismus根岸貴志*はじめに麻痺性斜視は脳神経麻痺による眼球運動障害から生じ,とくに後天性では眼球運動制限による複視と斜視が主訴となる.治療に関しては,古くからさまざまな方法が提唱されてきた.しかし,どのような手術を行っても麻痺に陥った筋の収縮運動を取り戻すことは不可能で,ここに麻痺性斜視治療の困難と限界がある.したがって,手術の目標は,両眼単一視野の移動と拡大による複視の軽減,および整容的治癒となる.手術治療を行う際の注意点について,脳神経ごとに解説する.I総論麻痺性斜視は,自然軽快することも多く,発症から半年間は手術を行わない.急性期には薬物治療などで経過観察する.半年間の症状安定化がみられるまで経過観察を続け,手術のタイミングを計ることが重要である.II外転神経麻痺外転神経麻痺の手術治療としては,古来Hum-melsheim法やJensen法(図1)をはじめとする上下直筋手術とその亜型変法が多数存在する1).大きく分けて上下直筋を付着部から切離するかどうか,また筋を分割するかどうかという違いがあるが,どの方法も上下直筋を用いて内転ベクトルに拮抗する力を生じさせるという共通点がある.しかしながら,どれも決定打となる治療法ではない.理由は明らかで,上下直筋は本来内転作用をもつ筋であるため,内直筋に拮抗するベクトルを生むことは無理であるからである.そのため,これらの筋移動術には内直筋減弱術を併用することが望ましく,A型ボツリヌス毒素による内直筋の作用減弱も有意義であるとの報告がある.近年では2005年に発表された切腱・筋分割を行わない上下直筋移動術,いわゆる西田法が評価されている2).これは上下直筋の筋付着部より8~10mm後方で筋外側縁を結紮し,角膜輪部より外上方・外下方に10~12mm後方の強膜に縫合する方法である(図2).Jensen法のように筋分割を行わず,Hummelsheim法のように切腱も行わないため,前眼部虚血のリスクや,瘢痕癒着などを避けることができると期待されている.西田法の原法では結膜を大きく切開しているが,筆者は放射状切開で切開を行っている(図3).角膜輪部の結膜を温存でき,術野の視認性も十分確保できる.とくに緑内障の進行が疑われるような症例に有用である.結膜の薄い高齢者にも応用できる.上直筋と上斜筋腱は直交しているため,上直筋に通糸するためには上斜筋とのあいだの筋間膜をよく分離する必要がある(図4).これは予期せぬ術後上下斜視や回旋複視を防ぐためにも必要である.直筋のみを単離して結紮する(図5).強膜にはしっかり通糸し(図6),隙間なく結紮を行う(図7).外転神経麻痺に対する筋移動術の問題点としては,効*TakashiNegishi:順天堂大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕根岸貴志:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(61)343図1Hummelsheim法とJensen法Hummelsheim法は上下直筋の切腱と分割を伴う筋移動術.Jensen法は上下直筋と外直筋の分割を伴う方法である.(文献C1より改変)図2西田法上下直筋を付着部から8~10.mmにて結紮し,角膜輪部からC10~12.mmの位置に胸膜縫合する.(文献C2より改変)図3西田法①放射状切開外直筋に対してC45°の角度で,外上方,外下方に向けて切開をする.図4西田法②放射状切開.上直筋と上斜筋の分離斜視鈎がかかっているのが上直筋であり,その強膜側に上斜筋が横走しているのがみえる.上直筋と上斜筋をよく分離して,上直筋の縫合時に上斜筋を巻き込まないように留意する.図5西田法③放射状切開.上直筋の結紮図6西田法④放射状切開.強膜通糸上直筋付着部から10.mm後方に非吸収糸を通糸し,結紮する.外直筋に対して45°の角度で角膜輪部から12mm後方に強膜通糸を行う.図7西田法⑤放射状切開.強膜縫合ClassI(27%)ClassII(31%)ClassIII(21%)ClassVI(11%)両眼性ClassVII(0.5%)外傷性Brownを伴う図8上斜筋麻痺のKnapp分類9方向眼位にて下斜筋過動・上斜筋遅動などによる上下斜視の出現部位をもとに上斜筋麻痺を分類した.括弧内は頻度.ClassIV(3%)ClassV(6%)図9下斜筋後転術①制御糸図10下斜筋後転術②制御糸.下斜筋の同定外直筋をかけた制御糸をドレープにとめて,眼球を内上転さ円蓋部切開から奥をみると下斜筋が視認できる.下斜筋の後方せる.側の筋縁を確認する.渦静脈が近くにあるため注意する.図11下斜筋後転術③制御糸.下斜筋の確認下斜筋を持ち上げるときには,迷走神経反射による徐脈に留意する.全幅をすくいあげたことを確認する.図12下斜筋後転術④制御糸.下斜筋への通糸と切腱吸収糸で縫合して,ペアン鉗子で筋を把持し,切断時の出血を抑える.図13下斜筋後転術⑤制御糸.下斜筋の切断付着部で下斜筋を切腱し,断端をバイポーラで焼灼する.図14下斜筋後転術⑥制御糸.強膜縫合下直筋の付着部を目安にして下斜筋を強膜に縫合する.外直筋上方1/2上直筋上斜筋内直筋外直筋図15外直筋Y.split鼻側移動外直筋を赤道部後方まで分割し,上方C1/2を上直筋・上斜筋の下を通して鼻側に移動する.下方C1/2は下直筋・下斜筋の眼球側を通して鼻側に移動する.(文献C6より改変)