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麻痺性斜視の薬物治療

2018年3月31日 土曜日

麻痺性斜視の薬物治療ConservativeMedicalTreatmentforParalyticStrabismus木村亜紀子*はじめに斜視に対するボツリヌスA型毒素(BotulinumtoxicA:BTX-A)療法は「12歳以上のすべての斜視」に適応があり,2015年に承認が下りた.1977年から始まった米国から1)相当の遅れをとって,わが国でも斜視に対する新たな薬物療法として治療が開始されている.しかし,現在,わが国では斜視に対するBTX-A治療は限られた施設でしか行われていない.広く普及するためには,どのような疾患に対して手術治療より有効で,どのタイミングで用いるべきかなどが明白となる必要がある.兵庫医科大学眼科斜視チームは三村治特任教授を中心として,100例を超える症例にBTX-A治療を試み,成果や合併症について検討してきた2~5).自験例から得られた知見を中心に文献的考察も含めて述べる.I斜視に対するBTX.A治療を行うための医師側の条件まず,眼科専門医であること.それに加え,斜視に対するBTX-A注射の講習会(施注資格取得のためのセミナー)を受けたという修了証が必要である.眼瞼痙攣・顔面痙攣に対するBTX-A療法の修了証とは異なる.II麻痺性斜視に対するBTX.A治療複視で発症する麻痺性斜視は,循環障害が原因で発症する場合がもっとも多く,高血圧や糖尿病を基礎疾患に有する者に多い.原因により自然回復率は異なり,循環図1複視を避けるための自作の布パッチ障害の場合は約8割と高く,外傷後は約5割と低い6).しかし,自然回復が期待できる約半年間は経過観察期間として観血的な積極的治療は行われない.専門施設では複視の軽減のためにフレネル膜プリズムやBangerter.lterが用いられる7,8)が,その提供がなければ患者自ら眼帯などを工夫しているのが現状である(図1).BTX-A治療は,その経過観察期間にフレネル膜プリズムなどと同様に用いられると有効である.BTX-Aは麻痺筋の拮抗筋(外転神経麻痺なら内直筋)に投与する.ただし,20PD以下では初回1.25~2.5単位,20PD以上では2.5~5.0単位から開始するため,効果が弱いケースでは最低4週間の間隔をあけて再投与の必要がある.また,過矯正となった場合は効果が減弱するまで,これまでと異なる不自由が生じる可能性(内斜視が内転制限を伴う外斜視など)もある.*AkikoKimura:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕木村亜紀子:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(55)337abc図2右外転神経麻痺(87歳,男性)a:正面視で遠見C30PD内斜視を認め,右外転は正中を超える外転制限を認める.Cb:BTX-A注射C2週間後,右眼に内転制限を認める.c:4カ月後には眼球運動制限を認めない.d図3Hess赤緑試験a:当科初診時,右外転制限を認めるが上下偏位はない.Cb:BTX-A注射C2週間後,右眼に内転制限に加え,約C4°の上下偏位を認める.Cc:2カ月後には眼球運動全体と上下偏位の改善を認める.d:眼球運動に左右差を認めない.abc図4右外転神経麻痺(68歳,女性)a:右外転制限は,正中を超えない高度な外転制限を認めた.b:BTX-A注射C4カ月後には水平方向に眼球運動制限を認めない.Cc:注射C2週間後のCHess赤緑試験では,高度な内転制限に加え,5°を超える上下偏位の合併を認めた.ab図5BTX.Aの実際a:筋電図と皮膚電極,ディスポ皮下注入電極R.b:皮膚電極を前額部を拭いた後に貼る.点眼麻酔後,開瞼器を装着しスコピゾルRを角膜にたらし角膜保護用ライトシールドRを置く.Cc:内直筋へ刺入するが,筋腹に入っていると内直筋の収縮に伴い振幅が大きくなり,内直筋への的確な刺入が確認できる.確認後に全量(BTX-A2.5単位)を注射する.

Sagging Eye Syndromeとは?

2018年3月31日 土曜日

SaggingEyeSyndromeとは?Whatis“SaggingEyeSyndrome”?後関利明*はじめにSaggingEyeSyndromeという専門用語をはじめてみる読者もいると思う.この疾患概念はC2013年にCChaud-huriとCDemerが報告1)したのが最初であり,わが国ではまだ浸透していない疾患であるが,高齢者の複視の原因の一部はこのCsaggingCeyeCsyndromeであると考えられている.北里大学病院での自験例では,60歳以上の複視の原因のC20%以上はCsaggingCeyeCsyndromeであった.今まで,開散不全や上斜筋麻痺と診断をされていた症例や確定診断がつかず原因不明とされていた疾患の中に,saggingeyesyndromeが紛れていることがわってきた.さて“sagging”とはなんなのか?“sagging”とは重みで下がる,たわむ,たるむ,を意味する“sag”の現在分詞である.それではなにが“sag”するのだろうか?CI眼窩プーリーなにが“sag”するかを説明する前に,眼窩プーリーという眼窩結合織について説明しておく.プーリー(pulley)とは滑車のことで,力の方向が途中で変わる部分のことをさす.生体内には眼球のみならず,指の関節にもプーリーは存在し,指関節のプーリーの異常では腱鞘炎やばね指となる.スリーブ状の組織である眼窩プーリーは眼球後部の赤道部周囲をリング状にとりかこんでいる2)(図1).眼窩プーリーは外眼筋の位置ずれを防ぎ,外眼筋の機能的起始部として働いている.眼球運動の際には,眼窩プーリーから前方の外眼筋が収縮伸展し,後方の外眼筋は位置を変えない2).眼窩プーリーはコラーゲン,エラスチン,平滑筋からなる.とくに,外直筋プーリーとCLR-SRバンド(外直筋プーリーと上直筋プーリーを結合する帯状の組織)はコラーゲンを多く含む3)ため,加齢性変化を受けやすい.*ToshiakiGoseki:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕後関利明:〒252-0374:神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(51)C333図3症例2(85歳)開散不全型内斜視眼窩CMRI.外直筋の下垂・上部耳側傾斜,LR-SRバンド(.)の断裂・消失を認める.術前APCT:1/3Cm25CΔ内斜視,5Cm35CΔ内斜視APCT:交代プリズム交代遮閉試験両)内直筋後転C7Cmm(35CΔの倍量C70CΔ矯正予定で手術を計画)術後APCT:1/3Cm6CΔ内斜位,5Cm18CΔ内斜視手術は低矯正に終わったが,近見の複視は消失,遠見はプリズム眼鏡で対応し,追加手術の予定はなし.~図4症例3(77歳)右上斜視+外方回旋偏位眼窩CMRI.左眼外直筋の下垂・上部耳側傾斜,左眼CLR-SRバンド(.)の一部断裂を認める.APCT:1/3Cm16CΔ外斜視C8CΔ右上斜視,5Cm8CΔ右上斜視マドックスダブルロットテスト:左外方回旋C5°完全矯正眼鏡に,組み込みプリズム眼鏡で治療.回旋偏位はあるが融像可能で複視消失を認めた.図5症例3の顔写真Baggylid(だぼついた眼瞼),superiorsulcusdeformity(上眼瞼のくぼみ変形),腱膜性眼瞼下垂を伴う.図6右眼:代償不全型上斜筋麻痺MRI冠状断で右眼上斜筋の低形成を認める.図7両眼:甲状腺眼症両眼の外眼筋が腫大している.とくに下直筋と内直筋の腫大が著しい.図8両眼:固定内斜視筋円錐内から上直筋と外直筋の間への眼球の脱臼,上直筋の鼻側偏位,外直筋の下方偏位を認める.上直筋.外直筋のなす角がC180°以上ある.

IgG4関連疾患の眼球運動障害

2018年3月31日 土曜日

IgG4関連疾患の眼球運動障害OcularMovementDisturbanceinIgG4-RelatedDisease曽我部由香*はじめにIgG4関連疾患とは,血清IgG4高値と病理組織学的にIgG4陽性形質細胞浸潤と線維化を特徴とするリンパ増殖性疾患の一種である.この疾患概念についての最初の報告(膵臓)1)は2001年であり,比較的新しい疾患といえよう.前述した二つの特徴とともに,臓器によって多少異なるものの,「臨床的に一つ,または二つ以上の臓器に特徴的な腫大がある」(IgG4関連疾患包括診断基準20112)より)ことが何よりの特徴であり,鑑別診断として考慮する際にはこの特徴を踏まえておくことが大前提である.眼球運動障害の原因として上位にあがる疾患ではないが,眼球運動障害の原因としてよく知られた疾患にしては非典型的な経過や画像所見であるときには,本疾患を鑑別診断の一つにあげたい.IIgG4関連疾患の眼病変眼科領域での病変が報告され始めた当初は,IgG4関連Mikulictz病3)(用語解説参照),IgG4関連慢性硬化性涙腺炎4)などの複数の病名が使用されていた.もっとも頻度が高い涙腺病変を中心に研究が始まったのだが,その後外眼筋や眼窩内三叉神経の枝,眼窩内脂肪,眼瞼などに病変が形成されることもわかってきた5).また,最近では涙道や強膜の病変も報告されている.IgG4関連疾患では眼付属器,眼窩内のみならず眼窩に接する頭蓋内にも病変が生じることから,病名は「IgG4関連眼疾患」に統一されるに至り,2016年には診断基準が確立表1IgG4関連眼疾患の診断基準(文献6より引用)された6)(表1).IgG4関連眼疾患の臨床症状は病変の種類,部位によって決まってくるもので,疾患に特異的な症状があるわけではない.もっとも多いのは腫大した涙腺による眼瞼腫脹や眼球突出であり,病変の部位によっては圧迫性視神経障害をきたすことに注意が必要ではあるものの,眼球運動障害は比較的頻度が少ない臨床症状である.II眼球運動障害の実際IgG4関連眼疾患に合併する眼球運動障害の頻度を調査した研究はない.現在厚生労働科学研究費補助金(難*YukaSogabe:三豊総合病院眼科〔別刷請求先〕曽我部由香:〒769-1695香川県観音寺市豊浜町姫浜708三豊総合病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(45)327図1代表的なIgG4関連眼疾患の病理組織像(症例1)a:生検涙腺.HematoxylinEosin染色C4倍.胚中心(☆)を有し,いわゆる濾胞を形成しながらリンパ球,形質細胞が浸潤している.で囲まれた部分は涙腺組織,は線維化.Cb:生検涙腺.IgG4染色C4倍.濾胞の周辺部,濾胞と濾胞の間に浸潤しているリンパ球や形質細胞のうち,形質細胞の多くがCIgG4染色で褐色に染まるCIgG4陽性細胞である.実際にはCIgG染色と比較してCIgG4/IgG比を決める.~図2症例1:画像所見a:MRICT2強調冠状断.下斜筋()が腫大していた.腫大した涙腺()と眼窩上神経腫大()もみられた.Cb:MRICT2強調冠状断.眼球の後方.腫大した四直筋()に加え,左上斜筋()の腫大もあった.c:単純CCT軸位断.両側とも内直筋()は付着部腫大型であったが,外直筋()の腫大は筋腹腫大型であった.d:治療後のCT2強調冠状断.外眼筋腫大は図C2aに比べ著明に改善した.Cb図3症例2a:T2強調右矢状断.眼窩下半分を占める大きな腫瘤(☆)のために上転制限が生じた.は眼窩下神経腫大.ちなみにこの症例は左側にも同様の大きな病変があった.b:Hesschart.複視の自覚はなかったが,右眼に軽度の上転制限がみられた.b図4症例3a:T1強調軸位断.両側の著明な腫大涙腺(☆)のために眼球が鼻側へ圧排されていた.Cb:Hesschart.強い内斜偏位および上下偏位をきたしていた.(金沢医科大学北川和子先生のご厚意による)Cc図5症例4a:T2強調軸位断.左眼窩深部に視神経の上方に病変が存在した(にはさまれた部位).b:眼窩先端部付近のガドリニウム造影CT1強調脂肪抑制冠状断.左の上眼窩裂付近に造影効果のある病変を認めた().c:HessCchart.左眼の全眼球運動障害を示した.(鷹の子病院平野澄江先生のご厚意による)表2緊急の治療を要するIgG4関連疾患(文献C8より転載)C■用語解説■Mikulicz病:涙腺と唾液腺(耳下腺,顎下腺など)が両側対称性,無痛性に腫脹する疾患で,Mikuliczによって最初に報告された.欧米では長くCSjogren症候群の一亜型とされてしまった時期があったが,現在ではまったく別の疾患概念であり,IgG4関連疾患の代表的病態と考えられている.-

自己抗体と関連した眼球運動障害

2018年3月31日 土曜日

自己抗体と関連した眼球運動障害EyeMovementDisordersAssociatedwithAuto-Antibodies鈴木利根*はじめに医学の進歩に伴って眼球運動障害をきたす疾患のうちのいくつかで,自己抗体が原因となっていることが解明されている.その筆頭は古くから知られ,複視や眼瞼下垂をきたす重症筋無力症(myastheniagravis:MG)である.1976年に抗アセチルコリン受容体(antiacetyl-cholinereceptor:AChR)抗体がみつかり,のちに同抗体が病因であることが動物実験でも十分に裏付けされた自己免疫疾患である.その後,MG患者でCAChR以外に対する自己抗体もみつかっている.MGと同様に疾患特異的な自己抗体が病因とされる疾患にCLambert-Eaton症候群がある.また,Guillain-Barre症候群の亜型として知られるCFisher症候群でも,抗CGQ1bガングリオシド抗体がみつかった.上気道炎や下痢のような先行感染症状をきたすことが多く,その後に急性に発症する.癌に関連した自己抗体が眼症状をきたすことも知られている.傍腫瘍性症候群とよばれ,眼科でよく知られるのはリカバリンなどの抗網膜抗体が網膜を傷害して視力や視野障害をきたす癌関連網膜症である.前述したLambert-Eaton症候群では(図1),肺癌などに関連して眼球運動障害などを示し,電位依存性カルシウムチャネル抗体がみつかっている1).ほかにも癌と関連して抗Hu抗体や抗CYo抗体などの自己抗体が知られ,眼振などを含めた小脳症状をきたす.甲状腺眼症においてもCTSAbをはじめとする各種の関連抗体が知られているが,これは前項に譲り,本項では以下に重症筋無力症とCFisher症候群についておもに述べる.CI重症筋無力症複視を訴える患者が眼科外来を受診すると,患者も診察医も真っ先に頭蓋内疾患を心配し,それを鑑別するためCCTやCMRIを依頼することが多い.しかし,もっとも多くみられる高齢者の虚血性神経麻痺や初期の小病巣では,画像では異常がないことが多いので悩まされる.MGも眼瞼下垂や複視の眼症状のみがみられる眼筋型で初発することが多いため,眼科初診が多くなる.当然のことながらCMGでも頭部や眼窩部の画像には異常が出ない.したがって,詳しい病歴聴取や診察でCMGをまず疑うことが診断に重要である.近年の統計で高齢患者の増加が一因か,MG患者数が約C20年間でC2倍以上に増加しているといわれ,小児患者も多い(図2).C1.MGと自己抗体1976年に発見された自己抗体の抗CAChR抗体が,骨格筋の運動終板にあるCAChRに作用し,神経筋接合部の刺激伝達が障害されて発症する.しかし,血液中の抗AChR抗体が陰性でもCMGと臨床診断できる患者が約25%みられ,seronegativeCMG患者とよばれる.このような抗CAChR抗体をもたないCMG患者のなかで約C50%(全体の約C10%)に,新しい自己抗体としてC2001年*ToneSuzuki:獨協医科大学埼玉医療センター眼科〔別刷請求先〕鈴木利根:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷C2-1-50獨協医科大学埼玉医療センター眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(39)C321図1Lambert.Eaton症候群の眼球運動写真眼症状で発症し当科を初診して,電位依存性カルシウムチャネル抗体がみつかったC68歳,男性患者.両側眼瞼下垂と全方向の眼球運動制限,とくに内転障害が著しく,重症筋無力症と類似した所見であった.本患者では身体症状が眼症状よりも後からみられ,悪性腫瘍の合併はみつからなかった.図2小児および高齢者の重症筋無力症左はC11カ月の小児,右はC77歳の患者.いずれも眼瞼下垂を主訴に受診したが,小児では先天性,高齢者では加齢性が多く,現病歴などから注意深く鑑別を行う必要がある.図4抗Lrp4抗体陽性重症筋無力症40歳,男性.右眼瞼下垂を主訴に受診した.明らかな複視はなし.抗CAChR抗体および抗CMuSK抗体は陰性であったが,テンシロン試験陽性で四肢の易疲労性や呼吸困難の既往もみられたため神経内科を受診し,抗CLrp4抗体陽性となり免疫治療が行われた.表1重症筋無力症の診断と検査図3重症筋無力症の自己抗体抗CAChR抗体が陽性でないCMG患者の約C50%に,抗CMuSK抗体が発見された.さらに両抗体どちらも陰性のCMG患者の一部に,第三の自己抗体である抗低密度リポ蛋白質4(Lrp4)抗体が発見された.血清抗CAChR抗体は全身型CMGではC80%の陽性率で,眼筋型ではC50%程度に下がるが,陽性ならば重症筋無力症と診断できる有用な検査である.保冷剤などを下垂部にC2分間あて,2Cmm以上改善すればアイステスト陽性とする.図5胸腺腫合併重症筋無力症眼筋型のC73歳,女性.C.のごとく前縦隔に異常陰影(左CCT)と異常集積(右CPET)がみられた.眼筋型の軽症な重症筋無力症患者でも胸腺腫の合併には注意する.(文献C2より許諾を得て引用)図6テンシロン試験テンシロン試験では短時間作用性コリンエステラーゼ阻害薬であるアンチレクスRを,血管を確保して静脈注射する.写真は左から注射前,0.5Ccc(5mg)注射C2分後(左眼瞼下垂が改善),3分後(再び左眼瞼下垂の戻り).①右眼左眼②④③図7Fisher症候群の眼球運動障害両眼性で左右に対称に障害がみられる.②両側外転障害,③さらに両側内転障害が加わり,④両側上下転障害も加わって全方向制限の順に進行する(回復は逆の経過をたどることが多い).したがって,初診時は両側外転障害のため内斜視となるが,進行とともに内転障害も加わって眼位は逆に正位に戻る.②の両側外転障害までで進行しない患者もみられる.C表2Fisher症候群の診断と検査上気道,下痢外眼筋麻痺(両眼対称の外転障害.全外眼筋麻痺)運動失調(歩行障害,小脳失調様)深部腱反射の低下.消失瞳孔散大,眼瞼下垂血液中の抗CGQ1bガングリオシドCIgG抗体髄液の蛋白細胞解離(細胞は増えず,蛋白のみが増加)画像検査は通常陰性

甲状腺眼症の眼球運動障害

2018年3月31日 土曜日

甲状腺眼症の眼球運動障害OcularMotilityDisordersinDysthyroidOphthalmopathy舟木智佳*神前あい*はじめに甲状腺眼症は,眼球突出,瞼裂開大,充血,眼球運動障害,圧迫性視神経症など多彩な所見を呈する眼窩の自己免疫性炎症性疾患である.甲状腺眼症患者の80~90%は甲状腺機能亢進症,Basedow病(Graves病)を呈すが,残りの10~20%は甲状腺機能亢進症の既往はなく,甲状腺機能が正常のeuthyroidGraves病や甲状腺機能が低下するhypothyroidGraves病とよばれる病態を呈し,甲状腺機能の状態にかかわらず甲状腺眼症が発症するといわれている.また,甲状腺機能亢進例では,全身症状発症後に眼症状が出現することが多いが,眼症状が全身症状に先行することもあるため,眼科が初診の甲状腺眼症も少なくない.眼科で眼瞼異常や眼球運動障害をみたら,甲状腺機能異常の既往がなくても甲状腺眼症を疑って診察することが,早期発見,早期治療につながる.甲状腺眼症の病因には,遺伝的因子とたばこなどの環境因子が関与するといわれ,またTSH受容体抗体など自己抗体の関与も明らかになってきている.とくに甲状腺眼症の悪化にはTSH受容体抗体(TSHreceptoranti-body:TRAb)よりも甲状腺刺激抗体(thyroidstimu-lateantibody:TSAb)の相関が強いといわれている.2008年,EuropeanGroupOnGraves’Orbitopathy(EUGOGO)より,治療方針を決めるにあたりClinicalActivityScore(CAS)(表1)で甲状腺眼症の活動性を評価することが提唱された(2016年改定)1).CASは3表1ClinicalActivityScore(CAS)・後眼窩の自発痛や違和感・眼球運動時(上方視,下方視,側方視)の痛み・眼瞼の発赤・眼瞼の腫脹・結膜の充血・結膜の浮腫・涙丘の腫脹・1~3カ月間に2mm以上の眼球突出の進行・1~3カ月間に視力の低下・1~3カ月間に8度以上の眼球運動障害炎症の古典的な特色に基づく活動性評価であり,CASが前半7項目中3項目以上,または10項目中4項目以上は活動性眼症を示唆する.点以上(7点満点)で活動性ありとみなされ,第一選択としてステロイド全身治療,その他,球後リニアック照射など追加治療が適宜施行される.また,近年はリツキシマブなどの免疫抑制薬による治療報告もみられる.日本甲状腺学会からも甲状腺眼症治療指針2)が示されている(図1).日本人では,欧米人に比して外見上は眼症状が軽く,CASでの活動性評価が困難な症例も多いため,MRIによる炎症の判定が勧められている3).また,球後の消炎治療としてステロイド全身投与だけでなく,炎症が局在する症例においてはステロイド局所注射も推奨される.消炎後には,残存した複視・眼瞼異常・眼球突出などに対して,生活の妨げにならないことを目標に外科的処置を行う.今回は甲状腺眼症の眼球運動障害につき画像を含め提示する.*ChikaFunaki&*AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕舟木智佳:〒150-0001東京都渋谷区神宮前2-18-12オリンピア眼科病院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(31)313自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病,橋本病)患者図1甲状腺眼症の管理チャート〔日本甲状腺学会HP,甲状腺眼症の診断基準と治療指針(第1次案,2011.9)より転載〕図2症例1.甲状腺眼症典型例両眼とも高度(30mm)の眼球突出,瞼裂開大,充血,眼球運動障害(上転障害,右>左)を認める.a.甲状腺眼症の特徴が少ない眼症(正面視)c.MRI,T1強調像:右下直筋肥大b.右眼上転障害(上方視)d.MRI,脂肪抑制T2強調像:右下直筋の炎症図3症例2.甲状腺眼症の特徴が少ない眼症a:眼球突出や瞼裂開大など眼症特徴が目立たない.b:上方視で右眼上転障害を認める.c,d:MRIで右下直筋の肥大と炎症を認める.右下直筋の伸展障害による右上転障害である.MRI:右上直筋肥大と炎症,左下直筋肥大と炎症図4症例3.複数筋障害の甲状腺眼症右眼の下転障害,左眼の上転障害がみられる.MRIでは右上直筋と左下直筋の炎症性肥大がみられる.ズレ幅が大きくなり,複視を自覚しやすい.発症時改善時右外直筋も右内直筋も肥大はない右外直筋も右内直筋も炎症はない第一眼位で右眼外斜,左方視で右眼内転しない第一眼位正位,左方視での右眼内転障害が改善している図5症例4.甲状腺眼症と重症筋無力症の合併例眼球突出を呈する甲状腺眼症で右眼内転障害を認める.甲状腺眼症の伸展障害からくる右眼内転障害であれば,右外直筋の炎症性肥大を認めるはずだが,MRIでは認めない.右内直筋の炎症も認めないため他の眼窩筋炎による麻痺性障害でもない.血液検査にて抗アセチルコリン受容体抗体陽性であった.斜視手術前斜視手術後図6症例5.斜視手術症例上方視での右上転障害を認める().右下直筋の伸展障害であるため,右下直筋後転術を施行した.術後は右眼球運動障害が改善している().甲状腺眼症の特徴所見がほとんどない,炎症鎮炎後ボツリヌス毒素治療後活動期の眼症.両眼内転位だが,ボツリヌス毒素治療前左固視のため右内転位に見える.両内直筋肥大が高度である.両眼,とくに右内転位両内転位が改善している.図7症例6.消炎後に残存した眼球運動障害に対しボツリヌス毒素注射治療施行した甲状腺眼症83歳,癌加療後で体力的に斜視手術の希望なし.生活スタイル上,プリズム眼鏡が不便とのことで,ボツリヌス毒素注射を施行.内転が強めの右眼へ,内転を麻痺させるために右内直筋に注射した.’’C

注視麻痺の臨床

2018年3月31日 土曜日

注視麻痺の臨床GazePalsy工藤洋祐*城倉健*はじめに眼球運動には,衝動性眼球運動(saccade),追従眼球運動(smoothpursuit),前庭眼反射(vestibulo-ocularre.ex:VOR),視運動性反射(optokineticre.ex:OKR),輻湊開散運動(convergence/divergence),固視(.xation)などの複数のシステムが関与する.注視麻痺は,通常いずれかの方向のsaccadeが障害された状態をさす.SaccadeとともにsmoothpursuitやVORなどの他の眼球運動システムが同時に障害されている場合もある.ISaccadeの神経機構視標により誘導される通常のsaccadeでは,前頭眼野や頭頂眼野からの信号が,網膜から視標の方向や距離に関する情報を受け取る上丘を介して脳幹のburstneuronを駆動し,最終的に動眼神経核などに存在する外眼筋へのmotoneuronを興奮させて眼球を動かす.Burstneuronはsaccadeのgeneratorであり,眼球の急速な動きの基になる高頻度発射(パルス)を発生させる.水平性saccadeのburstneuronは橋の外転神経核近傍の傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)に,垂直性(+回旋性)saccadeのburstneuronは中脳の動眼神経核吻側の内側縦束吻側間質核(rostralinterstitialnucleusofmediallongitudi-nalfasciculus:riMLF)にそれぞれ存在する.さらにsaccadeには,小脳虫部VI,VII葉といったoculomotorvermisや,室頂核(fastigialnucleus)も,側副経路として深くかかわる.Saccadeには,視標に向かって急速に移動した眼球をその位置に留めておく機構も含まれている.眼球を移動した位置に留めておくためには,移動した距離に応じて,つまりパルス発射に応じてmotoneuronが持続的発射(ステップ)を継続する必要がある.これに用いられるのが,パルス発射を積分して位置信号に変換する神経積分器である.水平運動の神経積分器は舌下神経前位核(nucleusprepositushypoglossi:NPH),内側前庭神経核(medialvestibularnucleus:MVN),小脳片葉(.occulus)などが担っており,垂直運動の神経積分器は中脳のCajal間質核(interstitialnucleusofCajal:INC)などが担っていると考えられている.注視麻痺はこうしたsaccadeの神経機構の一部が障害されると生じる1,2).II水平性注視麻痺の臨床的特徴水平性注視麻痺は,前述したsaccadeの神経機構がテント上で障害される場合もテント下で障害される場合もある.テント上病変による注視麻痺は急性期血管障害で出現することが多く,通常は病変と反対側(健側)向きの注視が障害される(図1).実際には中大脳動脈閉塞や視床ないし被殻の出血が多いが,前頭眼野やその下降路が経由する内包膝部などに生じた小さな梗塞で出現した例も*YosukeKudo&*KenJohkura:横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科〔別刷請求先〕工藤洋祐:〒235-0012神奈川県横浜市磯子区滝頭1-2-1横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)305図1テント上病変による注視麻痺FEF=前頭眼野,III=動眼神経核,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核.abPPRFsignalsVestibularsignals図2PPRF障害による注視麻痺と外転神経核障害による注視麻痺III=動眼神経核,MLF=内側縦束,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核,VN=前庭神経核.■MLF障害:核間眼筋麻痺■MLF+PPRF/Ⅵ核障害:one-and-a-halfsyndrome(OHS)健側眼の外転のみ可能図3核間眼筋麻痺とone.and.a.half症候群III=動眼神経核,MLF=内側縦束,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核.ParalyticpontineexotropiaNon-paralyticpontineexotropia図4麻痺性橋性外斜視から非麻痺性橋性外斜視に移行した左橋被蓋傍正中部の微小梗塞の75歳女性例の眼球運動写真とMRI拡散強調画像PPRFsignalsVestibularsignals図5麻痺性橋性外斜視の機序IIII=動眼神経核,MLF=内側縦束,PPRF=傍正中橋網様体,VI=外転神経核,VN=前庭神経核.WEMINO症候群(41歳,男性,橋被蓋部梗塞)(MLF障害がきわめて強く,PPRF障害がまったくない)WEBINO症候群(75歳,男性,橋被蓋部梗塞)(両側性のMLF障害)図6WEMINO症候群とWEBINO症候群IRcSO図7riMLFからの興奮性の線維連絡赤矢印は上転方向の線維連絡を示し,青矢印は下転方向の線維連絡を示す.また,下段の薄い矢印は各外眼筋が眼球に作用する力の向きを示す.CriMLF=内側縦束吻側間質核,IR=下直筋,cSR=反対側の上直筋,IO=下斜筋,IV=滑車神経核,CcSO=反対側の上斜筋.図8a視床中脳の悪性リンパ腫(69歳,男性)の眼球運動障害の経過治療前は両側眼瞼下垂とCVORを用いても下転しない下方注視麻痺を認める(動眼神経核を含む障害)(a).ステロイド治療C5日後には眼瞼下垂が消失し,VORを用いると下転が可能な下方注視麻痺となり(Cb),8日後には下方注視麻痺も消失した(Cc).riMLFPAGSTTRNN3MLSNN4CCNPPRFIRSRIOMR治療後図8b視床中脳の悪性リンパ腫(69歳,男性)の障害範囲のシェーマriMLF=内側縦束吻側間質核,N3=動眼神経核,CCN=centralcaudalnucleus,N4=滑車神経核,PPRF=傍正中橋網様体,N6=外転神経核,PAG=中脳水道周囲灰白質,STT=脊髄視床路,RN=赤核,ML=内側毛帯,SN=黒質,IR=下直筋亜核,CSR=上直筋亜核,IO=下斜筋亜核,MR=内直筋亜核.C–

神経原性眼球運動障害-末梢脳神経障害と核間眼筋麻痺-

2018年3月31日 土曜日

神経原性眼球運動障害─末梢脳神経障害と核間眼筋麻痺─OcularMotorNervePalsyandInternuclearOphthalmoplegia植木智志*はじめに本稿では,核下性障害としての末梢脳神経のうち眼球運動にかかわる動眼神経,滑車神経,外転神経のそれぞれ単独の障害,およびそれらの複合障害,さらに,核間眼筋麻痺について,とくにこれらの症例を最初に診察する医師に有用であると考えられる知識を,できるかぎりわかりやすく述べる.CI末梢脳神経障害動眼神経・滑車神経・外転神経の末梢脳神経障害(眼運動神経麻痺)の診断で重要な知識は,診察方法・解剖・原因疾患に関する知識であるが,本稿ではこれらについて一律に述べるのではなく,とくに重要な知識を強調して述べる.単眼の眼球運動制限のうち,動眼神経・滑車神経・外転神経の支配筋に従った眼球運動制限では,これらの末梢脳神経障害を強く疑う.CII動眼神経麻痺動眼神経の支配筋は上直筋,下直筋,内直筋,下斜筋,上眼瞼挙筋,瞳孔括約筋であり,動眼神経麻痺ではこれらの支配筋の障害に伴い,上転制限,下転制限,内転制限,眼瞼下垂,瞳孔散大がみられるが,これらのうち,瞳孔散大の有無の確認がきわめて重要である.動眼神経の脳幹内神経線維束での配置では,瞳孔線維が上内側を通ることがわかっている1).動眼神経麻痺を引き起こす脳動脈瘤の好発部位は内頸動脈後交通動脈分岐部であり,この部位の動脈瘤は動眼神経の上内側を圧迫する(図1).したがって,瞳孔散大を呈する動眼神経麻痺では脳動脈瘤を強く疑い,緊急に頭部画像検査のオーダーなどを行わなければならない.例外もあるが,脳動脈瘤を疑って対応することが重要である.初診時に瞳孔散大がみられない動眼神経麻痺症例でも,脳動脈瘤が原因である場合は,数日以内に瞳孔散大を呈することが多いとする報告がある2).上記のごとく例外もあるため注意しなければならないが,瞳孔散大のみられない動眼神経麻痺は,末梢循環不全が原因であることが多い.末梢循環不全は動眼神経麻痺のみならず,滑車神経麻痺および外転神経麻痺の原因にもなりうる.微小血管障害とよばれることもあり,糖尿病の既往のある症例にみられることが多い.末梢循環不全が原因の動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺の特徴は,およそC3カ月で症状・所見の改善がみられることが多いことである.改善がみられたことで,レトロスペクティブに原因が末梢循環不全であったと診断できることもある.動眼神経の解剖学的特徴として,海綿静脈洞前部で動眼神経は上枝と下枝に分かれるため,上枝単独の障害では上転制限と眼瞼下垂のみ,下枝単独の障害では内転制限,下転制限,瞳孔散大のみがみられる可能性がある.*SatoshiUeki:新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8585新潟市旭町通C1-757新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(19)C301上小脳動脈図2左滑車神経麻痺のBHTT陽性例患側に頭部傾斜を行わせると患側眼の上転がみられる.図1内頸動脈後交通動脈分岐部と動眼神経の解剖学的位置関係脳幹を下から見上げたようなアングルとなっており,視交叉の腹側面を見ている.内頸動脈後交通動脈分岐部に動脈瘤ができれば,動眼神経の上内側,すなわち瞳孔線維の走行部を圧迫しやすいことがわかる.a右方視左方視輻湊外転神経動眼神経左内直筋へIIIIII右VI外転神経左MLF障害右外直筋へPPRFPPRFVIVI図4左核間眼筋麻痺症例a:右方視時に左眼内転制限がみられる.輻湊は保持されることが多い.Cb:左核間眼筋麻痺の模式図.核上性中枢で計画された水平性眼球運動の信号(この場合は右方視)は右側外転神経核から右側外転神経を伝わる一方で,左側のCMLFを上向し左側動眼神経核に至り左側動眼神経に伝わるが,左CMLF障害のために左側動眼神経核に信号が伝わらない.動眼神経核は中脳に,外転神経核は橋に存在する.b図3外転神経の走行(矢状断)外転神経は解剖学的に橋を出た後に斜台を上向しCDollero管を経由し海綿静脈洞に入る.斜台を上行する部分はクモ膜下腔内にあり,すなわち頭蓋内圧亢進の影響を受けやすい.

眼球運動障害疾患の画像解析

2018年3月31日 土曜日

眼球運動障害疾患の画像解析DiagnosticImagingofOcularMotilityDisorders橋本雅人*はじめに眼球運動障害は大きく分けて外眼筋の異常,脳神経の異常,神経筋接合部の異常で起こるが,その鑑別にCT,MRIによる画像検査は欠かせない.外眼筋の異常を疑う場合は眼窩内を,脳神経異常を疑う場合は頭蓋内精査を画像で行う必要がある.さらに頭部の場合,スクリーニング的なおおまかな撮影法では病変を見逃してしまう可能性もあるため,注意深い撮り方と読影が求められる.本稿では眼球運動障害を呈する疾患におけるCT,MRIの画像所見について紹介する.I眼窩内における眼球運動障害疾患の画像解析1.甲状腺眼症無痛性の眼球運動障害で,外眼筋の伸展障害が特徴である.画像では外眼筋の筋腹が肥大し,腱は比較的保たれるという特徴を有する(図1a).頻度としては下直筋,内直筋,上直筋の順に高く,外直筋,上斜筋,下斜筋は稀である.甲状腺眼症の活動性が高い時期に撮影すると,MRIにおけるT2強調画像またはSTIR(shortTIinversionrecovery)で外眼筋が高信号を示す.また,図1甲状腺眼症のCT所見a:水平断.左内直筋の筋腹の肥大()を認める.b:冠状断:両側の上下直筋,内直筋の肥大がみられ,両下直筋周囲脂肪のdensityが上昇している().*MasatoHashimoto:中村記念病院眼科〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570札幌市中央区南1条西14丁目中村記念病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)293図2眼窩筋炎のCT所見a:左内直筋の肥大がみられ,筋付着部周囲()まで腫れている.b:右上斜筋腱および鼻側強膜の肥厚()が認められる.図3IgG4関連眼疾患のCT所見a:左上直筋および涙腺の肥大がみられる.b:ステロイドの全身投与後,肥大は著明に減少した.図4眼窩三叉神経鞘腫のMRI所見,矢状断a:T1強調画像.b:T2強調画像.c:造影T1脂肪抑制併用.上直筋の直上にT1で低信号,T2で高信号,造影効果のある楕円形の腫瘍がみられ,上転制限をきたしていた.図5骨膜下膿瘍のCT所見右眼窩外上方に腫瘤陰影があり,眼窩脂肪との間に骨膜で仕切られた境界線がみられ(),鍋蓋用陰影を呈している.図6慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)のCT所見両側の外眼筋が萎縮のため菲薄化している.図7動眼神経麻痺の頭蓋内MRI所見a:内頸動脈・後交通動脈分岐部脳動脈瘤のMRA.Cb:aの症例における反転CHeavy2強調画像,冠状断.くも膜下腔を走行する正常な右動眼神経()が描出されているが,左動眼神経は脳動脈瘤に巻き込まれ描出されていない.Cc:海綿静脈洞内髄膜腫.造影CT1強調画像,冠状断において造影効果を有する腫瘍性病変が左海綿静脈洞に認められる.Cd:左動眼神経鞘腫.高速グラジエントエコー法であるCCISS冠状断において海綿静脈洞硬膜内の左動眼神経の腫大()を認める.右動眼神経()は正常である.Ce:乳癌の右海綿静脈洞内転移.造影CT1冠状断では,海綿静脈洞後部の右動眼神経()が左動眼神経()に比べて腫大し造影されている.図8上斜筋ミオキミアのMRI所見a:反転CHeavyT2強調画像.左滑車神経()が,中脳背側で血管()と接している.Cb:MRAと反転HeavyT2強調画像との融合三次元画像.黄色が滑車神経,赤色が上小脳動脈.図9外転神経麻痺のMRI所見a:脳底動脈瘤.T2強調画像では低信号を示す巨大脳底動脈瘤がみられ,右外転神経麻痺の原因であった.Cb:斜台部髄膜腫.CISS水平断において左椎体骨斜台部に腫瘤がみられ(),進行性左外転神経麻痺の原因であった.は健常な右外転神経である.c:Duane症候群.CISS傾斜水平断において,右外転神経は描出されているが(),左側の外転神経は描出されない.C図10頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)のMR所見a:MRAの元画像であるCSPGRでは,右上眼静脈()の拡張した異常高信号(動脈血が高信号を示すので異常所見とみなす)および海綿静脈洞から下錐体静脈洞への異常高信号()がみられ,前方および後方流出型のCCCFと診断した.術前のMRA(Cb)でみられた右海綿静脈洞部の動脈血漏れが術後のCMRA(Cc)では消失している.図11左側方注視麻痺のMRI所見図12上方注視麻痺と輻湊後退眼振を認めた症例のMRI所見拡散強調画像において橋背側部やや左側にピンポイントで高信拡散強調画像において,左視床に高信号を示す梗塞所見()号を示す所見を認め,急性期微小脳梗塞と診断した().左を認め,左CriMLF障害と考えた.PPRFの障害と考えた.図13進行性核上性麻痺(PSP)のMRI所見T1強調画像,矢状断ではハミングバード徴候()を示している.’

眼球運動障害の検査と診断

2018年3月31日 土曜日

眼球運動障害の検査と診断ExaminationandDiagnosisofOcularMotilityDisorders清澤源弘*小町祐子*はじめに後天的に発症する眼球運動障害の原因・病巣は,本特集の各項に示されるように多岐にわたる.検査を通じて正しい所見をとらえることが,的確な診断および迅速な治療につながる.以下にその概要を述べる.I受診から診断までのながれ1.3)1.問診や病歴による推定眼球運動障害をきたすと多くの場合,患者は両眼性の複視を自覚し外来を受診する.とくに,末梢神経障害による複視は,むき眼位や視距離によって性状が変化することが多く,複視を軽減するための代償頭位異常を示していることもある.発症時期の確認や発症から受診までの症状の変化の有無に加え,複視の性状を確認することが重要である(表1).一方,外傷後や脳血管障害後,全身疾患などを抱えた患者が神経内科,脳神経外科,内分泌内科など他科からの依頼で受診することもある.中枢性や自己免疫疾患による眼球運動障害では,不随意な異常眼球運動や両眼性の注視麻痺などの所見がみられ,複視を訴えないこともある.いずれにしろ,眼球運動障害をきたす責任病巣と病巣部位による特徴を知り,適切な問診と,それに基づいた検査によって的確に所見をとらえることで診断への道筋を立てやすくなる.2.眼球運動障害の所見をとる眼球運動障害ではさまざまな眼位の異常をきたす.問診で得られた情報をもとに,まずは視診で定性的な眼位・眼球運動検査を行う.必要に応じて機器を用いることにより,水平・垂直・回旋偏位といった眼位異常の性状をとらえ,障害筋,障害部位の同定と,障害の程度を把握する.3.原因(病巣)検索のための検査(血液学的検査と画像診断)視診や機器で得られた所見により推定された病因を鑑別・確定するために,血液学的検査や頭部の画像をオーダーする.II眼位・眼球運動の基本的検査神経眼科における眼球運動の評価は,一般眼科における眼球運動評価とも神経内科における眼球運動の評価とも少し異なった,特徴的な評価法や記載方法が用いられてきた.ここでは,肉眼的な評価方法と簡単な機材を用いた評価方法の概要を述べる.1.眼位の観察眼球運動障害により眼位の異常をきたす.正面眼位が正位で複視がなくても各方向へのむき眼位で眼位異常がみられ,複視を訴えることがある.光視標や調節視標を用いて正面を固視させたときの眼位を確認する.光視標*MotohiroKiyosawa&*YukoKomachi:清澤眼科医院〔別刷請求先〕清澤源弘:〒136-0075東京都江東区新砂3-3-53アルカナール南砂2階清澤眼科医院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)285表1問診および観察すべき症状の内容発症からの期間発症の状況突然血管性(神経麻痺など),外傷徐々腫瘍,筋の肥厚・拘縮,炎症複視の性状(視距離)近方/近方輻湊・開散の異常,水平筋の異常(視方向)各むき眼位末梢神経障害,機械的運動障害など全方向全外眼筋麻痺など(虚像の位置)水平/上下/回旋末梢神経障害,機械的運動障害,斜偏視など(変動)日内変動などMG,甲状腺眼症など頭位異常まわし/傾斜/顎の上下末梢神経障害,MG,機械的運動障害など眼瞼下垂/開大(後退)動眼神経麻痺,全外眼筋麻痺,甲状腺眼症など眼球突出度突出甲状腺眼症など障害眼両眼性/片眼性核上性/核・核下性神経障害疼痛あり眼窩筋炎,海綿静脈洞瘻など既往歴脳血管障害・全身疾患・神経障害(核上/核・核下),MG,筋の肥厚/拘縮,外傷など機械的運動障害などその他内服薬,遺伝など進行性外眼筋麻痺などその他:解剖学的な眼球運動経路における病巣部位により鑑別すべき診断は多岐にわたる.EOM右眼左眼(SR)(IO)(IO)(SR)0000000(LR)0(MR)(MR)(LR)00(IR)(SO)(SO)(IR)00図1眼球運動記載法患者と対面したままの位置で表記する.0..4の5段階で制限の程度を表記する.上直筋・下斜筋上斜筋・下直筋上直筋上斜筋図2Parks3steptest左眼上斜筋単独麻痺の例.Step1(正面視)左上斜視(右下斜視):右上転筋または左下転筋の障害Step2(側方視)右方視で左上斜視(右下斜視):右上直筋(外転位で上転が主作用)または左上斜筋(内転位で上転が主作用)Step3(頭部傾斜:回旋作用)左傾斜で左上転:内方回旋できず拮抗筋である下斜筋の過動により上転――=図3人形の目現象の検査前庭動眼反射を利用した検査.固視をさせたまま他動的に頭部を動かす.陽性なら末梢神経障害は否定される.図49方向むき眼位図6ヘスチャート検査の様子暗室または半暗室で行う.図59方向むき眼位撮影の様子左眼右眼耳側鼻側鼻側耳側左眼緑レンズ右眼緑レンズ図7aヘスチャート左滑車神経麻痺左眼の内下方むき運動に制限がみられる.左眼右眼耳側耳側左眼緑レンズ右眼緑レンズ図7bヘスチャート右外転神経麻痺右の外転に制限がみられる.右眼(SR)(IO)-4-4左眼(IO)(SR)000-300(LR)(MR)(MR)(LR)-3-100(IR)(SO)(SO)(IR)a:正常をグレード0,まったく動かないものを.4として記載する.左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側左眼緑レンズ右眼緑レンズb:右眼の上転・内転・下転の制限が明らかで,麻痺側(右)の中央の四角が小さい.視診の記録とヘスチャートは左右眼の表記が逆になることに留意する.図8右動眼神経麻痺の眼球運動表2外眼筋麻痺血液検査項目図9万能計による眼球突出度計測眼窩外縁に万能計を押し当てて両眼の値を記載する.

序説:眼球運動障害の診断・治療

2018年3月31日 土曜日

眼球運動障害の診断・治療DiagnosisandTreatmentofOcularMotilityDisorders吉冨健志*園田康平**眼球運動障害患者は,両眼性の複視を自覚して最初に眼科を受診します.しかし,他の眼科疾患とは異なり,その原因が眼球周辺以外の場所に起因することが多く,さまざまな全身的な原因疾患の診断を適切に行う必要があります.時には命にかかわる疾患が見つかることもあり,注意が必要です.さらに診断にはCT,MRIによる画像検査が必要となってくるなど,他の眼科疾患とは異なる視点での診断が必要になってきます.一般的に,初診の患者さんには最初に眼球運動障害の基本的な検査を行っていると思います.受診時に診察室で患者さんに行う基本的な検査の流れは,臨床家にとって非常に重要なものです.眼球運動の異常や対光反応の異常を確認することが基本になります.そして,水平・垂直・回旋偏位といった眼位異常の性状を正確にとらえ,眼球運動異常を正確に把握することによって障害筋,障害部位を同定して次の検査に進むわけです.その際に重要な検査として診断に欠かせないCT,MRIなどによる画像検査については,どのような病変があるかを予想して,どのような場所にどのような条件でCT,MRI検査を行うべきかを決定することが非常に重要です.病変が眼窩内か頭蓋内か,MRIの撮影条件についても検査を予約するときに決めておかなければいけない重要な要素です.眼球運動障害の原因には,さまざまなものがあります.基本的な病変はいわゆる「麻痺性」といわれる末梢脳神経障害で,動眼神経,滑車神経,外転神経障害は眼球運動障害の基本ですが,それぞれの障害でさまざまな疾患を考慮しなければなりません.頭蓋内でも血管障害や腫瘍をはじめ,さまざまな疾患を考える必要があります.さらに眼球運動障害には中枢性の疾患もあり,それを理解するには衝動性や追従眼球運動,輻湊開散運動などが関与する中枢のシステムを理解することが必要です.注視麻痺はいずれかの方向の衝動性眼球運動が障害された状態ですが,傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)や内側縦束(mediallongitudinalfasciculus:MLF)吻側間質核が重要な役割を果たしています.この眼球運動のメカニズムを理解しないと,中枢のどこに障害があるのか理解できません.最終的には神経内科や脳神経外科に紹介することになりますが,眼球運動障害のみが症状の場合は最初に眼科受診される患者さんが多いので,早期発見のためには眼科医の役割は重要です.眼科で内頸動脈・後交通動脈分岐部動脈瘤のような頭蓋内の致死的疾患の発見に至ることも多々あります.*TakeshiYoshitomi:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座**KoheiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)283