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緑内障患者のHumphrey自動視野検査計30-2,24-2プログラムの測定結果の検討

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):976.980,2018c緑内障患者のHumphrey自動視野検査計30-2,24-2プログラムの測定結果の検討柴田瞳澤田有松井孝子吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座CDi.erencebetween30-2and24-2VisualFieldProgramsinGlaucomaHitomiShibata,YuSawada,TakakoMatsuiandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:緑内障眼において,HFASITA-Standardで測定したC30-2およびC24-2プログラムの測定結果について検討する.対象および方法:30-2からC24-2へC1年以内に切り替えを行い,GPAが可能であった緑内障患者C67例C67眼において,30-2およびC24-2の単一視野解析とC30-2,24-2で共通の測定点C54点のCGPA解析結果について,さらに視野障害の部位により周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,MD,PSD,VFI,測定時間,信頼係数について比較検討した.結果と考察:プログラム変更による検査点の減少が測定時間の短縮につながった.周辺C22点を排除しても,MD,PSD,VFIにはいずれも強い相関がみられたが,視野障害の部位別にみると,周辺C22点障害型では切り替えでCPSDが低くなる傾向が,中心C54点障害型では切り替えでCVFIが低くなる傾向が示唆された.視野進行を評価する際,視野の感度低下の部位に注意しながら各パラメータについて検討する必要がある.CWeCcomparedC30-2CandC24-2CVFCprogramsCinCglaucoma,CenrollingC67CeyesCofC67CglaucomaCpatientsCwhoChadCundergoneCbothC30-2CandC24-2CVFsCwithinCtheCpreviousC12Cmonths,CandCinCwhomCGPACcouldCbeCperformed.CRegardingCresultsCofC30-2CandC24-2CsingleCvisualC.eldCanalysisCandCtheC54CpointsCusedCinCGPA,CweCdividedCthepatientsinto2groups:thosewithmoredamageatthe22peripheralpoints(22pointsgroup)andthosewithmoredamageCatCtheC54CcentralCpoints(54CpointsCgroup).CWeCthenCinvestigatedCMD,CPSD,CVFI,CmeasurementCtimeCandCcon.dencecoe.cientfrombothtests.Itwassuggestedthattestpointreductionduetoaprogramchangeledtoreductionofmeasurementtime.StrongcorrelationwasfoundbetweenMD,PSDandVFI,evenifthe22peripheralpointswereexcluded.However,PSDtendedtobelowerinthe22pointsgroup,andVFItendedtobelowerinthe54centralpointsgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):976.980,C2018〕Keywords:緑内障,自動視野検査,Humphrey自動視野計,緑内障視野進行解析,30-2,24-2.glaucoma,auto-matedvisual.eldexamination,Humphrey.eldanalyzer,guidedprogressionanalysis,30-2,24-2.Cはじめに緑内障症例に実施するCHumphrey自動視野検査計(Hum-phreyCFieldCAnalyzer:HFA.CarlCZeissCMeditec,Dub-lin,CA,USA)プログラムとして,30-2とC24-2SwedishlnteractiveCThresholdCAlgorithm(SITA)-Standardがよく用いられる1).視野の周辺感度は,検査時間や刺激偏心度の増加に伴い低くなるため2.4),24-2プログラムは,30-2プログラムの外側C22点のテストポイントを除外することによって,上眼瞼を含むアーチファクトや信頼性の低い点を排除し,さらに検査時間を短縮し,検査結果のばらつきを少なくする効果があるといわれている5).しかし,緑内障は長期の経過観察が必要な慢性疾患であり,転居などによって経過観察する施設が変化することがたびたびある.患者データの一貫性を保つことが,緑内障診療の質の向上,医療費の抑制,緑内障診療のさらなる改善に大きく貢献を果たすことが期待されており6.8),30-2とC24-2も施設によりどちらをおもに使用するかが異なるため,30-2とC24-2の結果について比較検討する必要があると思われる.〔別刷請求先〕柴田瞳:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:HitomiShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1,Hondo,Akita010-8543,JAPAN976(126)今回,同一症例で測定されたC30-2とC24-2プログラムの単一視野解析およびCGuidedProgressionAnalysis(GPA)の結果について,全症例,さらに視野障害の部位によりグループ分けし,MeanCDeviation(MD),PatternCStandardCDevi-ation(PSD),VisualFieldIndex(VFI),検査時間,信頼係数を用いて比較検討したので報告する.なお,GPAはC30-2とC24-2プログラムを混在させて解析可能であるが,30-2とC24-2が混在する場合には,30-2はC24-2としてC24-2の測定点のみが解析に使用される.CI対象および方法秋田大学医学部附属病院眼科において経過観察中の緑内障症例のうち,2015年C8月以降にC30-2からC24-2に切り替えを行い,30-2とC24-2の検査間隔がC1年以内の症例のうち,信頼性のあるCHFA検査をC5回以上施行し,GPAが可能であった症例C67例C67眼に対して,後ろ向きに調査を行った.症例の選択基準は,前眼部,中間透光体に異常がなく,視野に影響しうる緑内障以外の眼疾患がなく,経過観察中にレーザー治療を含む眼内手術の既往がなく,視神経に影響を及ぼす投薬歴がない,HFAの測定プログラムCSITA-Standard30-2で測定された後,1年以内にC24-2で測定されている,HFA検査における信頼係数(固視不良,偽陰性,偽陽性)のいずれもC20%未満の症例とした.視野欠損型の分類として,30-2からC24-2への切り替え直前のC30-2における中心C54点の各測定点のCTotalCDevia-tion(TD)の平均と周辺C22点の各測定点のCTDの平均を比較して,22点のCTDの平均がC54点のCTDの平均よりも低値の群,つまり周辺の感度が悪い群(以下,周辺C22点障害型)と,54点のCTDの平均がC22点のCTDの平均よりも低値の群,つまり中心の感度が悪い群(以下,中心C54点障害型)のC2群と設定し検討した.解析項目としては,全例を対象とした場合と,視野欠損のパターン別に,MD,PSD,VFI,信頼係数,測定時間より30-2とC24-2を比較した.全症例において,切り替え前後のC30-2とC24-2の単一視野解析結果について,それらのCMD,PSD,VFIの相関について,Spearman順位相関係数を用いて検討した.全症例において,切り替え前後のC30-2とC24-2の単一視野解析結果について,各パラメータを検討した.検査時間については,対応のあるCt検定を用いた.MD,PSD,VFI,固視不良,偽陰性,偽陽性については,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.次に,視野欠損型により周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,30-2とC24-2の各パラメータについて比較検討した.検査時間については,対応のあるCt検定を用いた.MD,PSD,VFI,固視不良,偽陰性,偽陽性については,Wilcoxon符号付順位和検定を用いた.すべての統計解析にはCEZRを使用した.CII結果解析対象は,67例C67眼であった.平均年齢はC63.2C±14.8歳,平均観察期間はC247.0C±74.2日であった.67眼中,周辺C22点障害型はC25眼(37.3%),中心C54点障害型はC42眼(62.7%)であった.30-2とC24-2の単一視野解析およびCGPAにおけるCMD,PSD,VFIの相関を表1に,相関図を図1に示す.MDおよびCPSDにおいて,30-2とC24-2,24-2とCGPA,30-2とGPAの間の相関係数はそれぞれ,MDはC0.963,0.961,0997,PSDはC0.970,0.967,0.995と,それぞれ有意な強い相関がみられた.VFIに関しても,30-2とC24-2の相関係数はC0.968と有意な強い相関がみられた.30-2とC24-2の平均パラメータを比較した結果を表2に示す.MDは,30-2でC.6.70±5.70dB,24-2でC.7.23±6.03dBとC24-2で有意に低くなった(p<0.05).PSDに関しても,30-2でC8.72C±5.50CdB,24-2でC7.85C±5.26CdBと有意に低くなった(p<0.05).VFIに関しても,30-2でC82.25C±16.35%,24-2でC80.70C±17.03%と有意に悪化がみられた(p<0.05).検査時間は,30-2でC7.57C±0.06分,24-2でC6.03C±0.05分と,24-2で有意に短くなった(p<0.05).信頼係数に関しては,30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかった.視野障害型別に,30-2とC24-2の平均パラメータを比較した結果を表3に示す.周辺C22点障害型において,MDとVFIはC30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかったが,PSDに関しては,30-2でC10.22C±5.51CdB,24-2でC9.34C±5.29CdBと有意に低くなった(p<0.05).検査時間は,30-2でC8.25C±0.06分,24-2でC6.24C±0.05分とC24-2で有意に短くなった(p<0.05).中心C54点障害型において,MDとCPSDはC30-2とC24-2で統計学的に有意な差は認めなかったが,VFIはC30-2でC86.67C±14.04%,24-2でC84.48C±15.45%と有意に低くなった(p<0.05).検査時間に関しては,30-2でC7.41C±0.05分,24-2でC5.50C±0.04分とC24-2で有意に短くなった(p<0.05).信頼係数に関しては,30-2とC24-2で統計学的に有意な差はなかった.CIII考察緑内障症例C67例C67眼について,30-2とC24-2の単一視野解析およびCGPAにおけるCMD,PSD,VFIの相関,全症例におけるC30-2とC24-2の各パラメータの比較,周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群におけるC30-2とC24-2の各パラメータの比較について検討した.全症例において,MD,PSD,VFI,検査時間,信頼係数表130-2と24-2の単一視野解析およびGPA解析におけるMD,PSD,VFIの相関30-224-2GPA(n=67)C(n=67)C(n=67)C30-2CvsC24-2C24-2vsGPAC30-2vsGPAMD(dB)C.6.70±5.70C.7.23±6.03C.7.09±6.04Crs=0.963(p<0.05*)Crs=0.961(p<0.05*)Crs=0.997(p<0.05*)PSD(dB)C8.72±5.50C7.85±5.26C7.56±5.23Crs=0.970(Cp<C0.05*)Crs=0.967(Cp<C0.05*)Crs=0.995(Cp<C0.05*)VFI(%)C82.25±16.35C80.70±17.03C82.25±16.35Crs=0.968(Cp<C0.05*)*Spearman順位相関係数Cabc10-10-20-20100-10-20-20100-10-20-20-10010-10010-1001024-2MD(dB)GPAMD(dB)GPAMD(dB)defg10090807060502015105201510520151050000400040506070809010024-2PSD(dB)GPAPSD(dB)GPAPSD(dB)24-2VFI(%)図130-2と24-2の単一視野解析およびGPAにおけるMD,PSD,VFIの相関a:全症例C67例C67眼のC30-2のCMDとC24-2のCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.963,p<0.05).Cb:全症例C67例C67眼のC24-2のCMDとCGPAのCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.961,p<0.05).Cc:全症例C67例C67眼のC30-2のCMDとCGPAのCMDの相関.MDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.997,p<0.05).Cd:全症例C67例C67眼のC30-2のCPSDとC24-2のCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.970,p<0.05).Ce:全症例C67例C67眼のC24-2のCPSDとCGPAのCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.960,p<0.05).Cf:全症例C67例C67眼のC30-2のCPSDとCGPAのCPSDの相関.PSDは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.995,p<0.05).Cg:全症例C67例C67眼のC30-2のCVFIとC24-2のCVFIの相関.VFIは有意な高い相関があった(Spearman順位相関係数,Crs=0.968,p<0.05).表230-2と24-2の平均パラメータの比較についてC30-2とC24-2を比較すると,24-2への切り替えで,30-224-2MD,PSD,VFIはいずれも有意に低くなった.今回は,す(n=67)C(n=67)Cpべての症例がC30-2からC24-2への切り替えで,平均検査間***隔がC247.03C±74.15日であり,その間の進行の可能性も考えMD(dB)C.6.70±5.70C.7.23±6.03<0.05***PSD(dB)C8.72±5.50C7.85±5.26<0.05られるが,今後の検討課題である.また,検査時間に関して***VFI(%)C82.25±16.35C80.70±17.03<0.05**は,24-2への切り替えで検査時間が有意に短縮され,24-2検査時間(分)C7.57±0.06C6.03±0.05<0.05固視不良(%)C6.12±5.63C7.14±5.98C0.304***の検査時間は30-2の76%に,24%短縮された.Khoury偽陰性(%)C0.03±0.05C0.03±0.04C0.586***ら5)は,健常人において,24-2の検査時間はC30-2と比較し偽陽性(%)C0.03±0.03C0.03±0.03C0.342***て約28%短縮されることを示し,またいくつかの文献で**対応のあるCt検定,***Wilcoxon符号付順位和検定.は9,10),試験時間の増加とともに検査閾値のばらつきは増加51015205101520510152030-2PSD(dB)30-2MD(dB)表3視野障害型別30-2および24-2の平均パラメータの比較周辺C22点障害型(n=25)中心C54点障害型(n=42)C30-2C24-2CpC30-2C24-2CpMD(dB)C.9.36±6.18C.9.51±6.72C0.542***C.5.12±7.80C.5.87±5.21C0.955***PSD(dB)C10.22±5.51C9.34±5.29<C0.05***C7.10±5.22C6.97±5.09C0.0542***VFI(%)C74.84±17.53C74.36±17.99C0.583***C86.67±14.04C84.48±15.45<C0.05***検査時間(分)C8.25±0.06C6.24±0.05<C0.05**C7.41±0.05C5.50±0.04<C0.05**固視不良C6.02±5.29C7.84±5.99C0.281***C6.18±5.88C6.72±6.00C0.629***偽陰性C0.03±0.05C0.03±0.05C0.752***C0.03±0.04C0.03±0.03C0.618***偽陽性C0.03±0.03C0.03±0.03C0.338***C0.03±0.03C0.03±0.03C0.64*****対応のあるCt検定,***Wilcoxon符号付順位和検定し,患者の疲労は試験の正確性と再現性を失うことを示しており,検査時間を短縮することにより被験者の快適性を高め,患者の注意力を改善し,結果として検査結果の変動性を低減することが予想される.本研究では,24-2への切り替えで検査時間がC24%短縮され,患者負担を軽減できたと考えられるが,それが検査信頼値の向上には繋がらなかった.検査信頼値の向上には患者の検査への理解力などの個人的因子に対する配慮の必要性も示唆される11).また,今回は30-2からC24-2への切り替え直後に,その切り替え前後の単一視野解析を用いて検討したが,今後は時間をかけて複数回の検査結果を用いた検査の正確性と再現性の検討が必要であると考えられる.周辺C22点障害型と中心C54点障害型のC2群に分けて,MD,PSD,VFI,検査時間,信頼係数についてC30-2とC24-2を比較すると,周辺C22点障害型においては,MDとCVFIは24-2へ切り替えても有意な変化はみられなかったが,PSDは有意に低くなった.24-2への切り替えで,全体的な感度として有意な低下はないものの,感度の低い最外側のテストポイントが除外されたことにより感度低下の分布の不均一が解消され,PSDが低くなったことが考えられる.中心C54点障害型においては,感度のよい最外側のテストポイントが除外されても,MDに有意な変化はみられなかったが,VFIは有意に低くなった.また,PSDが有意に変化するほどの感度低下の不均一性の変化はなかったものと考えられる.VFIは,BengtssonとCHeijl12)の示したCGlaucomaCProgressionIndex(GPI)で,PD確率プロットによる感度から残存視機能を算出したもので,MD値に比較して,大脳皮質拡大率や網膜神経節細胞の分布などを考慮して固視点に対して各C5°ずつ順にC3.29,1.28,0.79,0.57,0.45倍とより中心の測定点の比率配分を重く設定したものとなっており13,14),中心視野の重要度が加味されている15).周辺C22点障害型では,視野障害部位は感度の比率配分が小さいため,外側C22点のテストポイントを除外してもCVFIに有意な変化はみられなかったが,中心C54点障害型では,視野障害部位の感度の比率配分が大きいため,外側C22点のテストポイントを除外することにより,VFIは有意に低下した可能性が考えられる.また,検査時間に関しては,両群ともC24-2への切り替えで検査時間が有意に短縮され,患者負担を軽減できたと考えられる.Khouryら5)は,緑内障患者においては,30-2と24-2はほぼ同等に結果を評価することが可能だが,3%の症例で周辺部の初期のわずかな神経線維束欠損を評価できないことがあると示しており,やはり視野の評価をする際には,視野障害の部位により,各パラメータについて注意深く検討する必要があることが示唆される.本研究より,30-2からC24-2へのプログラム変更による検査点の減少が測定時間の短縮,そして患者負担の軽減につながったと考えられた.30-2とC24-2の単一視野解析,GPAの結果より,周辺C22点を排除しても,MD,PSDおよびCVFIにはいずれも強い相関がみられたが,視野障害の部位別にみると,周辺C22点障害型ではC24-2への切り替えでPSDが低くなる傾向があり,中心C54点障害型においては,24-2への切り替えで,VFIが低くなる傾向があることが示唆された.視野進行を評価する際には,視野の感度低下の範囲に注意しながら,各パラメータについて検討する必要があることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BengtssonB,OlssonJ,HeijlAetal:AnewgenerationofalgorithmsCforCcomputerizedCthresholdCperimetry,CSITA.CActaOphthalmolScandC75:368-375,C19972)SearleAET,WildJM,ShawDEetal:Time-relatedvari-ationinnormalautomatedstaticperimetry.Ophthalmolo-gyC98:701-707,C19913)HeijlCA,CDranceCSM:ChangesCinCdi.erentialCthresholdCinCpatientswithglaucomaduringprolongedperimetry.BrJOphthalmolC67:512-516,C19834)JohnsonCCA,CAdamsCCW,CLewisCRA:FatigueCe.ectsCinCautomatedperimetry.ApplOptC27:1030-1037,C19885)KhouryCJM,CDonahueCSP,CLavinCPJCetCal:ComparisonCof24-2and30-2perimetryinglaucomatousandnonglauco-matousCopticCneuropathies.CJCNeuroophthalmolC19:100-108,C19996)柏木賢治,相原一,稲谷大ほか:緑内障診療の現状とデータ共通化の取り組み.日眼会誌120:540-547,C20167)柏木賢治:WEBを用いた診療情報提供が緑内障患者の疾患理解度に与える影響マイ健康レコードの医療リテラシー改善効果.日遠隔医療会誌7:30-34,C20118)KashiwagiCK,CTsukaharaCS:ImpactCofCpatientCaccessCtoCinternetChealthCrecordsConCglaucomaCmedicationCrandom-izedcontrolledtrial.JMedInternetResC16:15,C20149)HeijlCA,CLindgrenCG,COlssonCJ:TheCe.ectCofCperimetricCexperienceCinCnormalCsubjects.CArchCOphthalmolC107:C81-86,C198910)HudsonCC,CWildCJM,COC’NeillCEC:FatigueCe.ectsCduringCaCsingleCsessionCofCautomatedCstaticCthresholdCperimetry.CInvestOphthalmolVisSciC35:268-280,C199411)園田泰祐,兵頭涼子,田坂嘉孝:静的視野検査プログラムの変更に伴う検査結果の推移.日本視機能看護学会誌C1:C113-116,C201612)BengtssonB,HeijlA:Avisual.eldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmolC1452:C343-353,C200813)LeviaCDM,CKleinaCSA,CAitsebaomoaCAP:VernierCacuity,Ccrowdingandcorticalmagni.cation.VisionResC25:963-977,C198514)松本行弘:GuidedCProgressionCAnalysisCGPA2.眼科手術C21:467-470,C200815)QuigleyCHA,CDunkelbergerCGR,CGreenCWR:RetinalCganC-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumanCeyesCwithCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC15:453-464,C1989***

多施設による緑内障患者の実態調査2016 年版 ─後発医薬品の使用─

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):971.975,2018c多施設による緑内障患者の実態調査2016年版─後発医薬品の使用─川島拓*1井上賢治*1塩川美菜子*1井上順治*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CCurrentStatusofTherapyforGlaucomaatMultipleOphthalmicInstitutionsin2016─UsageofGenericDrugsforGlaucomaPatients─TakuKawashima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:緑内障患者の治療実態を調査し,そのなかから後発医薬品の使用を検討する.対象および方法:57施設に外来受診した緑内障,高眼圧症C4,288例C4,288眼を対象とし,使用薬剤を調査した.単剤例,2剤例での後発医薬品の使用を調査し,2012年の前回調査と比較した.結果:単剤例ではプロスタグランジン(PG)関連薬のC12.3%,Cb遮断薬のC11.3%で後発医薬品を使用していた.2剤例ではCPG関連薬のC8.9%,Cb遮断薬のC1.6%で後発医薬品を使用していた.単剤例ではCPG関連薬,Cb遮断薬ともに前回調査(5.4%とC3.1%)より後発医薬品使用が有意に増加した.2剤例ではCPG関連薬は前回調査(4.6%)より後発医薬品使用が有意に増加し,Cb遮断後医薬発品は前回調査(3.3%)と同様だった.結論:後発医薬品は単剤例のC11.4%,2剤例のC7.5%で使用されていた.後発医薬品の使用は増加傾向にある.CPurpose:WeCinvestigatedCtheCuseCofCgenericCdrugsCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CMeth-ods:Atotalof4,288eyesof4,288patientsfrom57institutionswereincluded.Theparticipantswhowereadmin-isteredCgenericCdrugsCasCmonotherapyCorCconcomitantlyCwereCinvestigated;resultsCwereCcomparedCtoCaCpreviousCstudyin2012.Results:Genericprostaglandin(PG)analogs(12.3%)andgenericb-blockers(11.3%)wereusedasmonotherapyandconcomitantly(8.9%,1.6%)C.ThenumberofsubjectsusinggenericPGanalogsorb-blockersasmonotherapyincreasedincomparisontothepreviousstudy(5.4%,3.1%)C.ThenumberofsubjectsusinggenericPGCanalogsCconcomitantlyCsurpassedCthatCofCtheCpreviousCstudy(4.6%)C,CwhereasCtheCnumberCusingCgenericCb-blockersCdidCnotCdi.erCsigni.cantlyCfromCtheCpreviousCstudy(3.3%)C.CConclusions:GenericCdrugCuseCasCmono-therapy(11.4%)andconcomitantly(7.5%)indicatesthattheuseofgenericdrugsisincreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):971.975,C2018〕Keywords:緑内障,後発医薬品,単剤例,2剤例.glaucoma,genericdrugs,monotherapy,additionaldrugs.はじめに緑内障治療の最終目標は患者の視野障害進行抑制であり,唯一エビデンスが明確に示されている治療方法は眼圧下降で,その第一選択は薬物治療である1.5).緑内障診療ガイドライン1)では,緑内障の点眼薬治療は単剤投与から始めるが,目標眼圧に達しない症例では点眼薬の変更あるいは追加が推奨されている.点眼薬の追加を繰り返すと多剤併用となるが,多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となる6).実際に緑内障患者は緑内障点眼治療に対してさまざまな意見を有しており,そのことがアドヒアランス低下を引き起こしていると考えられる7,8).緑内障患者C182例の調査では点眼薬の使用感としてしみるC35例,かすむC34例,点眼手技としてうまく点眼できないC27例,点眼薬の価格が高いC26例などが報告された7).点眼薬がしみる,かすむは点眼薬の新たな開発,あるいは医師が点眼薬を選択する際に考慮することで,また点眼手技は点眼指導の徹底により改善できると考〔別刷請求先〕川島拓:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TakuKawashima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(121)C971えられる.点眼薬の価格は後発医薬品の使用によりある程度は軽減できる.後発医薬品とは,先発医薬品と同一の有効成分を同一量含む同一投与経路の製剤で,効能・効果,用法・用量が原則的に同一で,先発医薬品と同等の臨床効果が得られる医薬品である.後発医薬品を製造販売するためには,先発医薬品と同様に薬事法に基づいて厚生労働大臣から承認を得ることとなっている.そのために品質,有効性,安全性が先発医薬品と同等であることを証明する必要があり,試験の一つとして生物学的同等性試験が行われる.この試験では血中濃度推移が先発医薬品と同等であれば,同等の臨床効果を発揮するという考えに基づいている.しかし,後発医薬品では先発医薬品と異なり患者に対する治験は行われておらず,臨床現場での眼圧下降効果と安全性が十分に検討されていない.そこで慢性進行性疾患である緑内障患者に長期間使用するのが妥当であるかは不明である.厚生労働省では医療保険財政の改善と患者負担の軽減に資するとして後発医薬品の使用促進を積極的に努めており,今後ますますさまざまな点眼薬の後発医薬品が使用可能になると思われる.今回,後発医薬品の定義として日本眼科学会のホームページの眼科用剤一覧表(先発品・後発品)を用いた.具体的には後発医薬品として区分されているものを後発医薬品とし,配合点眼薬は先発医薬品として解析した.一方,臨床現場で緑内障点眼薬の後発医薬品がどのように使用されているかを調査した報告はない.筆者らは緑内障薬物治療の実態に興味を持ち,2007年より多施設による緑内障患者実態調査を開始した9).2009年に第C2回10),2012年に第C3回11),そしてC2016年に第C4回緑内障患者実態調査を施行した12).今回,第C4回緑内障患者実態調査のなかで後発医薬品に着目して検討を行った.また,後発医薬品の使用について前回調査の結果11)と比較し,経年変化を合わせて検討した.CI対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同したC57施設において,2016年C3月C7日.13日に施行した.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数C4,288例C4,288眼,表1研究協力施設(57施設)北海道札幌市ふじた眼科クリニック板橋区江戸川区世田谷区荒川区世田谷区八王子市葛飾区さわだ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科社本眼科菅原眼科クリニックそが眼科クリニック多摩眼科クリニックとやま眼科宮城県仙台市鬼怒川眼科医院茨城県ひたちなか市日立市いずみ眼科クリニックサンアイ眼科さいたま市さいたま市石井眼科クリニックさいき眼科埼玉県吉川市幸手市たじま眼科・形成外科ふかさく眼科東京都文京区中央区中沢眼科医院中山眼科医院さいたま市やながわ眼科品川区小金井市荒川区江東区台東区新宿区千代田区江戸川区はしだ眼科クリニック東小金井駅前眼科町屋駅前眼科みやざき眼科もりちか眼科クリニック早稲田眼科診療所お茶の水・井上眼科クリニック西葛西・井上眼科病院千葉県千葉市山武郡船橋市松戸市千葉市船橋市習志野市あおやぎ眼科おおあみ眼科高根台眼科のだ眼科麻酔科医院本郷眼科みやけ眼科谷津駅前あじさい眼科千葉市吉田眼科横浜市鎌倉市眼科中井医院清川病院板橋区赤塚眼科はやし医院杉並区新宿区井荻菊池眼科いなげ眼科神奈川県横浜市大和市さいとう眼科セントルカ眼科・歯科クリニック荒川区うえだ眼科クリニック川崎市だんのうえ眼科クリニック調布市えぎ眼科仙川クリニック横浜市綱島駅前眼科東京都足立区足立区葛飾区国分寺市清瀬市えづれ眼科江本眼科おおはら眼科おがわ眼科清瀬えのき眼科静岡県伊東市ヒルサイド眼科クリニック福岡県遠賀郡福岡市いまこが眼科医院図師眼科医院熊本県宇土市むらかみ眼科クリニック国分寺市後藤眼科沖縄県沖縄市ガキヤ眼科医院文京区駒込みつい眼科(順不同・敬称略)男性C1,839例,女性C2,449例,年齢はC7.102歳,68.1C±13.0歳(平均C±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している患者では右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より使用薬剤のうち後発医薬品について解析を行った.さらにC2012年に行った前回調査の結果11)と比較した.具体的には単剤使用例,2剤使用例で,さらに各々でプロスタグランジン(PG)関連点眼薬,Cb遮断点眼薬の後発医薬品の使用を検討した.調査を行ったC2016年C3月に使用可能であった後発医薬品はCPG関連点眼薬ではイソプロピルウノプロストンC4製品,ラタノプロストC24製品,Cb遮断点眼薬ではチモロールマレイン酸塩C20製品,カルテオロール塩酸塩C6製品,ベタキソロール塩酸塩C2製品,ニプラジロールC5製品,レボブノロール塩酸塩C2製品,副交感神経刺激薬ではピロカルピン塩酸塩C2製品だった.配合点眼薬はC2剤として解析した.配合点眼薬はC2剤使用例では各々の成分に分けて検討した.その際に各成分は先発医薬品として解析した.なお,前回調査11)では配合点眼薬をC1剤として解析したので,今回調査と比較するにあたり,配合点眼薬をC2剤として再解析を行い使用した.比較にはCc2検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.CII結果1.使用薬剤数使用薬剤数は平均C1.7C±1.2剤で,その内訳は無投薬がC445例(10.4%),1剤がC1,914例(44.6%),2剤がC929例(21.7%),3剤がC598例(13.9%),4剤がC277例(6.5%),5剤が99例(2.3%),6剤がC24例(0.6%),7剤がC2例(0.05%)だった.点眼薬を使用している症例のうちC1剤でも後発医薬品を使用している症例はC348例(9.1%)だった.C2.後発医薬品の使用状況(単剤使用例)単剤使用例(1,914例)では,PG関連点眼薬がC1,414例(73.9%),b遮断点眼薬がC398例(20.8%),その他がC102例(5.3%)だった.先発医薬品がC1,695例(88.6%),後発医薬品がC219例(11.4%)だった.薬品別では,PG関連点眼薬では先発医薬品がC1,240例(87.7%),後発医薬品がC174例(12.3%),b遮断点眼薬では先発医薬品がC353例(88.7%),後発医薬品がC45例(11.3%)だった(図1).後発医薬品の使用はCPG関連点眼薬とCb遮断点眼薬で同等だった(p=0.6634).C表2調査票緑内障処方薬剤の一般名:<Cb遮断薬>1:水溶性チモロール,2:イオン応答ゲル化チモロール,3:熱応答ゲル化チモロール,4:カルテオロール,5:持続性カルテオロール,6:ベタキソロール,7:レボブノロール.<Cab遮断薬>9:ニプラジロール.<PG(プロスタグランジン)製剤>11:イソプロピルウノプロストン,12:ラタノプロスト,13:トラボプロスト,14:タフルプロスト,15:ビマトプロスト.<配合剤>17:ラタノプロスト/チモロール配合薬,18:トラボプロスト/チモロール配合薬,19:ドルゾラミド/チモロール配合薬,20:ブリンゾラミド/チモロール配合薬,21:タフルプロスト/チモロール配合薬.<点眼CCAI(炭酸脱水酵素阻害薬)>22:ドルゾラミド,23:ブリンゾラミド.<経口CCAI>24:アセタゾラミド.<Ca1遮断薬>25:ブナゾシン.<Ca2刺激薬>26:ブリモニジン.<ROCK阻害薬>27:リパスジル.<その他>28:ピロカルピン,29:ジピベフリン3.後発医薬品の使用状況(2剤使用例)2剤使用例(929例)では,PG/Cb配合点眼薬C267例(28.7%),PG関連点眼薬+b遮断点眼薬がC264例(28.4%),PG関連点眼薬+a2刺激点眼薬C101例(10.9%),炭酸脱水酵素阻害(CAI)/Cb配合点眼薬C93例(10.0%),PG関連点眼薬+CAI点眼薬C92例(9.9%)などだった.1剤でも後発医薬品を使用している症例がC70例(7.5%)先発医薬品のみ使用している症例がC859例(92.5%)だった.,PG関連点眼薬(1,414例)β遮断点眼薬(398例)PG関連点眼薬(768例)b遮断点眼薬(673例)図1後発医薬品の使用状況(単剤使用例)1剤でも後発医薬品を使用している症例のうち,2剤ともに後発医薬品を使用している症例がC12.8%(9例/70例)だった.薬剤別では,PG関連点眼薬(768例)では先発医薬品が700例(91.1%),後発医薬品がC68例(8.9%),b遮断点眼薬(673例)では先発医薬品がC662例(98.4%),後発医薬品が11例(1.6%)だった(図2).後発医薬品はCPG関連点眼薬がCb遮断点眼薬より多く使用されていた(p<0.0001).C4.後発医薬品の使用状況の前回調査との比較(単剤使用例)PG関連点眼薬は前回調査(5.4%)に比べて今回調査(12.3%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).b遮断点眼薬は前回調査(3.1%)に比べて今回調査(11.3%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).C5.後発医薬品の使用状況の前回調査との比較(2剤使用例)PG関連点眼薬は前回調査(4.6%)に比べて今回調査(8.9%)で後発医薬品使用が有意に増加した(p<0.0001).b遮断点眼薬は前回調査(3.3%)と今回調査(1.6%)で後発医薬品使用は同等だった(p=0.0718).C6.後発医薬品使用量と導入施設の前回調査との比較点眼薬使用症例は前回調査C3,142例,今回調査C3,843例だった.1剤でも後発医薬品を使用している症例は前回調査C4.7%(149例/3,142例)に比べて今回調査C9.1%(348例/3,843例)で有意に増加した(p<0.0001).後発医薬品をC1症例でも使用している施設は前回調査C61.5%(24施設/39施設)と今回調査61.4%(35施設/57施設)で同等だった(p>0.999).前回調査,今回調査ともに参加したのはC37施設だった.37施設のうち点眼薬使用症例は前回調査C3,068例,今回調査C3,115例だった.1剤でも後発医薬品を使用している症例は前回調査C4.8%(148例/3,068例)に比べて今回調査C8.7%(272例/3,115例)で有意に増加した(p<0.0001).後発医薬品をC1症例でも使用している施設は前回調査C62.2%(23施設/37施設)と今回調査C64.9%(24施設/37施設)で同等だった(p>0.999).C図2後発医薬品の使用状況(2剤使用例)III考按後発医薬品は,再審査期間が終了し,特許が切れた先発医薬品に対して発売することができる.後発医薬品のメリットの一つは先発医薬品に比べて薬価が低いので,患者の負担は軽減することである13).そこで患者から後発医薬品を希望する場合や,健康保険組合より後発医薬品への切り替えを依頼してくる場合もある.それらの状況を踏まえて,現在の緑内障に対する後発医薬品の使用状況を調査することにした.薬剤処方に関しては,先発医薬品を必ず使用する場合には医師は処方箋の変更不可欄にチェックする必要がある.一方,チェックがない場合は調剤薬局で薬剤師が後発医薬品に変更することができる.そのため厳密には先発医薬品と後発医薬品のどちらが使用されているかはわからない場合もある.しかし,後発医薬品を使用する場合は,医師は薬剤を一般名で処方することが多いと考えられる.なぜならば一般名で処方することで一般名処方加算としてC2点加算できるからである.今回,単剤使用例とC2剤使用例における後発医薬品(PG関連点眼薬とCb遮断点眼薬)の使用を調査した.2剤使用例では後発医薬品の使用はCPG関連点眼薬がCb遮断点眼薬より有意に多かったが,これはCb遮断薬使用症例における配合点眼薬のC1成分としてのCb遮断点眼薬(先発医薬品として)の割合C53.5%(360例/673例)(内訳はCPG/Cb配合点眼薬39.7%(267例/673例),CAI/Cb配合点眼薬C13.8%(93例/673例))が,PG関連点眼薬使用症例における配合点眼薬のC1成分としてのCPG関連点眼薬(先発医薬品として)の割合C34.8%(267例/768例)(PG/Cb配合点眼薬のみ)より多いことが原因と考えられる(p<0.0001)(図2).つまり配合点眼薬の使用が多いため,配合点眼薬中のCb遮断薬が先発医薬品としてカウントされたことによる.前回調査との比較では単剤使用例ではCPG関連点眼薬,Cb遮断点眼薬ともに今回調査で後発医薬品使用が有意に増加した.経済性を考慮してC1剤目として後発医薬品を選択する症例や先発医薬品から後発医薬品へ変更する症例が増加したと考えられる.一方,2剤使用例では,後発医薬品の使用はPG関連点眼薬では今回調査で有意に増加したが,Cb遮断点眼薬では前回調査と同等だった.実際に今回調査ではCb遮断点眼薬やCPG関連薬が配合点眼薬のC1成分として入っている割合より有意に増加した.そして配合点眼薬のC1成分として入っている割合はCb遮断点眼薬(53.5%)がCPG関連点眼薬(34.8%)より多いことによると考えられる(p<0.0001).後発医薬品使用施設は前回調査と今回調査で同等だったが,使用量は前回調査より今回調査で有意に増加した.しかし,前回調査と今回調査では調査施設が異なるので前回調査,今回調査ともに参加したC37施設でも後発医薬品使用の検討を行った.その結果,後発医薬品を使用している施設数は有意に増加しておらず,増加数もC1施設と微増だった.しかし,後発医薬品の使用症例は増加しており,後発医薬品を使用する医師はその使用を増やしていると考えられる.一方,後発医薬品を使用していない医師が後発医薬品を使用するためには後発医薬品に先発医薬品以上のメリットがあることが重要である.後発医薬品の先発医薬品と比べて劣っている点として,①添加物の種類や添加量,製剤技術などは先発医薬品と後発医薬品,後発医薬品間で異なる.②医薬品卸会社の流通ルートへの整備がやや遅れている.③添付文書の記載内容を含め情報提供量は先発医薬品に比べて劣る.と報告されている14).後発医薬品の先発医薬品と比べて劣っていない点は,薬価が低く,調剤薬局窓口での支払額が減少することである.一方,後発医薬品のなかには,先発医薬品と異なり防腐剤フリーの製品もある.経済性だけでなく,角結膜への安全性を考えて防腐剤フリーの後発医薬品を使用する場合もある.過去に筆者らは防腐剤フリーのラタノプロスト点眼薬(後発医薬品)の良好な眼圧下降効果と安全性を報告した15,16).今後はこのように先発医薬品にはない特徴をもった後発医薬品を開発することで後発医薬品の使用が増加すると期待されている.今回,57施設に外来受診した緑内障,高眼圧症C4,288例の使用薬剤を調査し,そのなかから後発医薬品について検討した.後発医薬品は単剤例ではC11.4%,2剤例ではC7.5%で使用されていた.4年前に行われた前回調査と比較して後発医薬品の使用は増加しており,今後ますます増加が予想される.しかし,今後後発医薬品の眼圧下降効果と安全性を検討する必要がある.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の先生方に深く感謝いたします.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7.TherelationshipbetweencontrolofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal;fortheCIGTSStudyCGroup:InterimCclinicalCoutcomesCinCtheCCollabora-tiveCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudyCcomparingCinitialCtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mologyC108:1943-1953,C20014)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreat-edCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpressure.CAmJOphthalmolC126:487-497,C19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularCpressureCandCglaucomaCprogression:resultsCfromCtheCEarlyCManifestCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C20026)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJCetCal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20097)末武亜紀,福地健郎,田中隆之ほか:Patient-CenteredCommunication(PCC)Toolとしての緑内障点眼治療アンケート.あたらしい眼科C29:969-974,C20128)生島徹,森和彦,石橋健ほか:アンケート調査による緑内障患者のコンプライアンスと背景因子との関連性の検討.日眼会誌C110:497-503,C20069)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査:薬物治療.あたらしい眼科C25:1581-1585,C200810)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版:薬物治療.あたらしい眼科C28:874-878,C201111)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査C2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科C30:C851-856,C201312)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C201713)冨田隆志,櫻下弘志,池田博昭ほか:緑内障治療用の配合点眼液のC1日薬剤費用評価.あたらしい眼科C29:1405-1409,C201214)池田博昭,塚本秀利:緑内障治療薬─後発品と先発品の比較.あたらしい眼科C25:57-58,C200815)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性.あたらしい眼科C28:1635-1639,C201116)井上賢治,岩佐真弓,増本美枝子ほか:正常眼圧緑内障に対する防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の長期投与による効果と安全性.眼臨紀C9:423-427,C2016利益相反:利益相反公表基準に該当なし

リパスジル点眼追加治療12カ月の成績

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):967.970,2018cリパスジル点眼追加治療12カ月の成績上原千晶新垣淑邦力石洋平與那原理子酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座CTwelve-monthResultofAdd-onTherapywithRipasudilOphthalmicSolutionChiakiUehara,YoshikuniArakaki,YouheiChikaraishi,MichikoYonaharaandHiroshiSakaiCDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus緑内障点眼加療中の患者で,リパスジル点眼追加治療を行ったC76例C105眼を後ろ向きに調査した.3カ月以上継続使用し経過を追えたC52例C79眼(原発開放隅角緑内障C40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼,平均点眼スコアはC3.7)の平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(下降率C10.6%)した.点眼スコアC3以下とC4以上では,それぞれC19.2CmmHgからC15.2CmmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,12カ月時点まで両群とも有意に眼圧下降した.リパスジル投与前眼圧C15CmmHg以上とC15CmmHg未満の比較ではC15CmmHg以上群では全時点で眼圧は下降(12カ月後下降率C14.5%)したが,15CmmHg未満群では全時点で有意な眼圧下降はなかった.3カ月以降継続群C79眼での点眼中止は眼圧下降不十分C14眼と副作用による中止C9眼の計C23眼(30.4%)であった.CInCaCretrospectiveCreviewCofC105CeyesCofC76CpatientsCwithCglaucomaCinsu.cientlyCcontrolledCunderCmultipleCmedicaltherapy,79eyesof52patientsweretreatedformorethan3monthswithtopicalRipasudiladd-onthera-py.CInCtheC79Ceyes,CintraocularCpressure(IOP)wasCreducedC10.6%Coverall.CIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCinCbothgroupsoflow(3orless)andhighscore(4ormore)ofanti-glaucomamedications.AmongeyeswithIOP15CmmHgorChigher,CIOPCreductionCwasCsigni.cantCatCallCtimeCpoints,CbutCthisCwasCnotCtheCcaseCinCeyesCwithCIOPClessCthan15CmmHg.23eyes(30.4%)discontinuedtheRipasudiladd-ontherapybecauseofinsu.cientIOPcontrolorocularsidee.ects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):967.970,C2018〕Keywords:緑内障,点眼,ROCK阻害薬,リパスジル,多剤併用.glaucoma,eyedrop,ROCKinhibitor,Ripa-sudil,multiplemedicaltherapy.CはじめにRhoキナーゼ阻害薬であるリパスジルは,線維柱帯細胞,Schlemm管内皮細胞の細胞骨格を修飾することにより,房水の主流出経路を促進し眼圧を下降させる1).既存の緑内障点眼薬と作用機序が異なるため,これまで眼圧下降が不十分であった症例に対しても効果が期待されているが,新しい薬剤であり,長期の効果と安全性の報告は少ない.今回,筆者らは既存の緑内障点眼薬で治療中であり眼圧下降が不十分でリパスジル点眼薬を追加投与した症例について,1年間の眼圧下降効果と安全性について後ろ向きに検討した.CI対象および方法当科にて緑内障治療中の患者のうち,眼圧下降が不十分と考えられ,2014年C12月.2016年C2月にリパスジル点眼薬1日C2回点眼を追加した症例はC106例C147眼である.3カ月以内の内眼手術既往のあるC9例C9眼,処方後C3カ月未満で転院,未来院となったC22例C33眼を除外したC76例C105眼を安全性解析対象とした.76例C105眼のうち,手術を前提として追加点眼しC2カ月以内に手術施行したのがC14例C14眼(レーザー線維柱帯形成術C2例C2眼,水晶体再建術C3例C3眼,濾過手術C9例C9眼),眼圧上昇による中止がC1眼,追加時または追加C2カ月以内に併用薬剤を変更したのがC10例C11眼であった.処方中止,または併用薬剤の変更となった上記の25例C26眼を除いたC55例C79眼を有効性解析対象とした(図1).追加前,追加後C1カ月,2カ月,3カ月,6カ月,12カ月の診察日時の眼圧を集計した.各時点で来院がなかったも〔別刷請求先〕上原千晶:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学部眼科学講座Reprintrequests:ChiakiUehara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(117)C967のはその月のみの欠損値とし,3カ月以降で点眼中止となった例はそれ以降の解析から除外した.全例で診察日朝の点眼は施行するよう指示されていた.統計には,リパスジル点眼薬の追加前と追加後それぞれの測定時期での眼圧は,対応のあるCt検定を,点眼スコア別,追加前眼圧別の眼圧下降値,下降率はCWilcoxonの符号付順位検定を用いた.CII結果眼圧解析対象のC55例C79眼は原発開放隅角緑内障(prima-ryopenangleglaucoma:POAG)40眼,原発閉塞隅角緑内障C19眼,続発緑内障C20眼(落屑緑内障C6眼,ステロイド緑内障C5眼,ぶどう膜炎続発緑内障C3眼,血管新生緑内障C6眼)で,年齢C66.8C±14.0(30.86)歳,男性28例42眼,女性C24例C37眼,追加投与開始前眼圧C17.7C±4.7(12.38)mmHg,1点眼薬をC1点,アセタゾラミド内服をC2点としたときの点眼スコアC3.7C±1.0(1.5)点(1点:4眼,2点:4眼,3点:18眼,4点:44眼,5点:8眼,6点:1眼),Humphrey静的視野計CSITAスタンダードC24-2または30-2によるCMD値はC.14.0±7.1CdBであった.リパスジル点眼薬を追加後,眼圧はすべての期間で有意に下降した(図2).平均眼圧は追加前C17.7CmmHgからC12カ月後ではC15.0CmmHgに下降(C.2.1CmmHg,下降率C10.6%)した.点眼スコアがC3以下とC4以上の群の追加前と追加C12カ月後の平均眼圧は,それぞれC19.2mmHgからC15.2mmHg,17.7CmmHgからC15.0CmmHgへと,両群ともに有意に下降し10リパスジル(*p<0.05,対応のあるt検定)投与前1M2M3M6M12M(n=79)(n=77)(n=58)(n=77)(n=77)(n=52)下降値(mmHg)C2.0±4.0C1.4±3.0C1.6±4.3C2.3±3.7C2.1±3.9下降率(%)C9.1±16.1C7.2±17.1C6.3±17.8C11.1±16.5C10.6±21.0図2眼圧の推移(全体)C968あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(118)眼圧(mmHg)2422201816141210リパスジル1M2M3M6M12M追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)スコア3以下(n=26)(n=25)(n=14)(n=24)(n=26)(n=15)スコア4以上(n=53)(n=52)(n=44)(n=53)(n=51)(n=37)下降率(%)スコアC3以下C10.1±16.9C10.6±11.7C12.1±18.3C13.9±18.4C14.2±16.8スコアC4以上C8.6±16.1C6.1±18.6C3.7±17.2C9.7±15.6C9.2±22.7図3点眼スコア別眼圧の推移24眼圧(mmHg)22201816141210リパスジル追加前(*p<0.05:Wilcoxonの符号付順位検定)15mmHg以上(n=59)(n=58)(n=41)(n=58)(n=57)(n=35)15mmHg未満(n=20)(n=19)(n=17)(n=19)(n=20)(n=17)下降率(%)15CmmHg以上C11.6±15.7C8.0±18.2C8.9±18.2C12.4±15.7C14.5±20.815CmmHg未満C1.5±15.9C5.1±14.9C.1.8±14.3C7.4±18.8C2.3±20.0C図4リパスジル追加前眼圧別眼圧の推移はC9眼で,そのうちC4眼は眼瞼炎によるものであり,すべて投与後C6カ月以降に出現していた.掻痒感はC2眼がC3カ月に,3眼がC6カ月以降に出現していた.投与開始C3カ月後以降継続群C79眼のうちC12カ月までの点眼中止例はC23眼(30.4%;95%CCI,C20.2.40.5%)であり,内訳は眼圧下降不十分14眼(17.7%;95%CCI,C9.3.26.1%),前述した副作用による中止例C9眼であった.12カ月時点での未来院のC4眼は分母から除外した.眼圧下降不十分C14眼の内訳は点眼変更C4眼,併用薬変更C6眼,緑内障手術追加C2眼,レーザー治療追加C2眼であった.CIII考察Taniharaら2)はCPOAG,落屑緑内障,高眼圧症を対象としたリパスジル点眼追加治療C1年の前向き研究においては,プロスタグランジン製剤(PG)+b遮断薬に追加したときにおけるC12カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率C9.9%)であったと報告した.また,多剤併用例におけるC3カ月の下降効果は,塚原ら3)の報告では下降率C9.3%,Inazaki4)らは下降値C2.8mmHg(下降率C15.5%),またCSatoら5)の報告の6カ月では下降値C3.1CmmHg(下降率約C15%)であった.今回の結果は平均点眼スコア3.7,12カ月の眼圧下降値C2.1mmHg(下降率C10.6%)と過去の報告とほぼ同様であった.(119)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C969追加前眼圧がC15mmHg以上の群では,眼圧下降値は14CmmHg以下の群と比べて有意に大きかったと中谷ら6)の報告がある.今回は眼圧下降が不十分で投薬を中止された例を除いた検討であったが,追加前眼圧C15CmmHg以上の群ではC12カ月において有意な眼圧下降を認めたが,15CmmHg未満の群では有意な眼圧下降はなかった.一方,術前点眼数にかかわらず眼圧下降が観察されたが,これはリパスジルが房水の主流出経路に作用し,既処方薬とは異なる作用機序であるためと考えられた.リパスジルの副作用は,処方後C2.3カ月以上経過して発症する眼瞼炎7),アレルギー性結膜炎や眼瞼炎(中止例は14.4%)2)の報告がある.今回の検討でも同様の結果であった.病型ごとの検討は症例数が少なく行っておらず,眼圧測定時間にも幅があることは後ろ向き研究であるための限界である.今回の検討は多剤併用の多い緑内障専門外来での検討であったため,眼圧下降不十分や副作用などで約C3割の症例で処方を中止した.より少ない点眼数で検討した臨床研究と後ろ向きの症例検討との相違であると考えられた.したがって,今回の結果を軽症例のより多い一般臨床現場に当てはめることはできない.より少ない併用数の症例を対象とした検討が必要である.病型別の検討ができなかったことも課題であり,今後症例数を増やして検討する必要がある.CIV結論リパスジル点眼薬は多剤併用例に対しても併用薬の数にかかわらず眼圧下降効果があり,追加前眼圧C15CmmHg以上の症例において有効であった.長期使用では眼瞼炎などの副作用に注意が必要である.利益相反:酒井寛(カテゴリーCP:トーメーコーポレーション)文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20163)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬による眼圧下降効果の検討.臨眼71:611-616,C20174)InazakiCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCtheCadditionalCuseCofCripasudil,CaCrho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsCwithCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximummedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C20175)SatoCS,CHirookaCK,CNaritaCECetCal:AdditiveCintraocularCloweringCe.ectsCofCtheCrhoCkinaseCinhibitor,CripasudilCinCglaucomaCpatientsCnotCableCtoCobtainCadequateCcontrolCafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,C20166)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼薬の追加処方.あたらしい眼科C33:1063-1065,C20167)富重明子,齋藤雄太,高橋春男:開放隅角緑内障に対するリパスジル点眼薬の短期的な眼圧下降効果.臨眼C71:1105-1109,C2017***970あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(120)

緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):962.966,2018c緑内障患者が意識している点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響小竹修丸山勝彦禰津直也後藤浩東京医科大学臨床医学系眼科学分野CE.ectivenessofSurgicalTreatmentinReducingtheBurdenofEyedropInstillationPerceivedbyPatientswithGlaucomaOsamuKotake,KatsuhikoMaruyama,NaoyaNezuandHiroshiGotoCDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity緑内障手術が施行された症例C53例(平均年齢:63.2±15.0歳)に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.術前後の点眼の煩わしさを記入方式で調査し,煩わしさの変化に影響する臨床因子を検討した.術前に使用していた点眼薬の本数はC3.1±1.0(レンジ:1.5)本,点眼回数はC5.9±3.0(1.13)回で,59%の症例は点眼行為を煩わしいと感じていた.術後,点眼本数はC1.7±0.7(0.4)本,点眼回数はC3.1±2.0(0.8)回と術前に比べ有意に減少し(p<0.0001),72%の症例は点眼の煩わしさが軽減したと回答した.その理由として,点眼本数が減ったことや副作用が減ったとする回答が多かった.手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が日頃感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減できる可能性がある.CWeinvestigatedthein.uenceofsurgicaltreatmentontheburdenofeyedroptreatmentperceivedbyglauco-mapatients.Toeachof53patientsstudied(meanage63.2±15.0years),aquestionnaireontheburdenofinstilla-tionwasadministeredbeforeandaftertheoperation.Aftersurgery,themeannumberofeyedropsuseddecreasedsigni.cantlyCfromC3.1CtoC1.7,CandCtheCmeanCnumberCofCinstillationsCdecreasedCfromC5.9CtoC3.1(p<0.0001),C59%Cofthepatientsfeelingthatinstillationwasburdensomebeforetheoperation.Aftertheoperation,however,72%ofthesubjectsrespondedthattheburdenwasreduced.Thereasonsgivenweredecreaseinnumberofeyedropsused,andreductionofadversee.ects.Eyedropnumberreductionbysurgerymaymitigatetheburdenofmedicalthera-pyperceivedbyglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(7):962.966,C2018〕Keywords:緑内障,手術療法,薬物療法,煩わしさ,アンケート.glaucoma,surgicaltreatment,medicaltreat-ment,burden,questionnaire.Cはじめに現在,緑内障に対する治療としては何らかの眼圧下降処置が行われ,その手段はおもに点眼薬を中心とした薬物療法と手術療法からなる.このなかで,多くの症例に行われている薬物療法は治療の成功に患者のアドヒアランスが影響し1,2),アドヒアランスが不良であるほど視機能が悪化しやすいことが報告されている3.5).また,多剤併用療法となった場合にはさらにアドヒアランスは低下することが知られている6.8).すなわち,緑内障が進行すると多剤併用療法が必要となり,結果としてアドヒアランスが低下し,さらに緑内障が進行するという悪循環を招くことになる.一方,手術療法にも合併症による視機能低下をきたす可能性があること,眼圧下降が確実とは言い難いこと,どこの施設でも行うことができる治療方法ではないことなど,いくつかの欠点がある.しかし,手術によって十分な眼圧下降が得られ,緑内障点眼薬を中止,あるいは減少させることができ〔別刷請求先〕小竹修:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野Reprintrequests:OsamuKotake,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1,Nishi-shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN962(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C9620910-1810/18/\100/頁/JCOPYれば,点眼治療の煩わしさを軽減させアドヒアランス改善に貢献できる可能性がある.したがって,点眼治療に対するアドヒアランスに不安がある症例に対しては積極的に手術の適応を考慮してもよいと考えられるが,それを裏付ける検討は今のところ行われていない.本研究は,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケートを行い,患者が感じている点眼治療の煩わしさが手術療法によってどの程度変化するかを調査して,結果に影響する因子を検討することを目的とした.CI対象および方法対象は過去にC6カ月以上点眼治療が行われていた緑内障患者で,緑内障手術が施行された後,6カ月以上が経過した53例(男性C31例,女性C22例)である.なお,緑内障病型や施行された緑内障手術の術式(白内障手術との同時手術か否かを含む),緑内障手術前後に行われた白内障手術の既往の有無は問わないものとした.また,緑内障手術を複数回施行されている症例や,緑内障術後に白内障以外の疾患に対して手術が施行された症例は対象から除外した.さらに,両眼に緑内障を有する症例の場合,片眼のみ手術を行い僚眼は点眼治療を継続している症例は点眼治療の煩わしさを患者単位で評価するのは困難と考え対象から除外し,両眼とも手術が施行されている症例のみを組み入れた.本研究は東京医科大学医学倫理委員会の承認を受け,患者に本研究の主旨を説明し,同意を得たうえで行った.対象の背景を表1に示す.年齢はC63.2C±15.0歳(25.82歳)で,病型は狭義原発開放隅角緑内障C27例,正常眼圧緑内障C9例,原発閉塞隅角緑内障C2例,落屑緑内障C6例,ぶどう膜炎続発緑内障C9例で,片眼のみが緑内障であったのがC9例,両眼とも緑内障であったのがC44例であった.また,施表1対象の背景年齢C63.2±15.0歳(C25.C82歳)病型狭義原発開放隅角緑内障27例正常眼圧緑内障9例原発閉塞隅角緑内障2例落屑緑内障6例ぶどう膜炎続発緑内障9例片眼/両眼9例C/44例術式線維柱帯切除術90眼線維柱帯切開術6眼アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術1眼眼圧術前C22.4±7.5CmmHg(12.5C4mmHg)アンケート調査時C10.7C±3.6CmmHg(3.2C6mmHg)平均±標準偏差(レンジ)(113)行された術式は線維柱帯切除術C90眼,線維柱帯切開術C6眼,アルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスを用いた緑内障チューブシャント手術C1眼であった.なお,32眼は白内障との同時手術が行われ,4眼には緑内障手術前に,5眼には緑内障手術後に白内障手術が施行されていた.術前の眼圧はC22.4C±7.5CmmHg(12.54CmmHg),アンケート調査時の眼圧はC10.7C±3.6CmmHg(3.26CmmHg)であった(両眼手術例の場合,両眼を含めた延べ眼での値).アンケートの内容を表2に示す.術前に本人が自覚していた点眼の煩わしさと点眼アドヒアランスについて質問し,術後の点眼の煩わしさの改善度を問い,その理由を回答していただいた.なお,アンケートは自己記入方式で行った.手術からアンケート調査までの期間はC33.4C±31.1カ月(6.111カ月)であった.次に,診療録をもとにデータを収集し,緑内障点眼薬のみならず,すべての点眼薬の本数,点眼回数を手術前,手術後で比較した.なお,配合点眼薬はC1剤C1本と集計した.ま表2緑内障手術前後の点眼治療の煩わしさに関するアンケート調査<手術をお受けになる前のことをお尋ねします>1.目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?□思っていた□少し思っていた□あまり感じていなかった□まったく感じていなかった2.目薬は決められた通りに点眼していましたか?□欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)□ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)□だいたい決められた通りに点眼していた(忘れるのはC1カ月に2.3回)□忘れることが多かった(忘れるのはC1週間に1.2回)□決められた通りに点眼できなかった(忘れるのはC1週間にC3回以上)<手術をお受けになった後のことをお尋ねします>3.目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?□かなり軽減された□少し軽減された□変わらない□少し負担が増えた□かなり負担が増えた4.その理由は何ですか?患者さまによって目薬の本数や点眼する回数が減った方も増えた方もいらっしゃると思いますが,ご自分に当てはまる回答をしてください(複数回答可)□目薬の本数が減ったから/増えたから□点眼する回数が減ったから/増えたから□目薬の副作用が減ったから/増えたから□目薬の種類が変わったから□その他()あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C963表3術前後の点眼薬の本数と点眼回数術前術後p*全点眼薬本数C点眼回数C3.1±1.0本(1.5本)C5.9±3.0回(1.1C3回)C1.7±0.7本(0.4本)3.1±2.0回(0.8回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬本数C点眼回数C2.7±0.9本(1.4本)C4.4±1.9回(1.9回)C0.2±0.5本(0.2本)0.4±1.2回(0.5回)<C0.0001<C0.0001眼圧下降薬以外本数C点眼回数C0.4±0.7本(0.3本)C1.5±2.4本(0.8本)C1.5±0.6本(0.3本)2.6±1.8本(0.8本)<C0.0001C0.0008た,点眼アドヒアランスと煩わしさはアンケートの結果を点数化して評価し,煩わしいと感じている理由をアンケート調査の結果から考察した.さらに,煩わしさの変化に影響する臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数)をCSpearman順位相関係数で検討した.統計解析は対応のあるCt-検定を用い,p<0.05を統計上有意とした.CII結果術前後の点眼薬の本数と点眼回数を表3に示す.術前に使用していたすべての点眼薬の本数,点眼回数は,術後有意に減少し,眼圧下降薬に限った検討でも同様であった.一方,眼圧下降薬以外の点眼薬は,本数,点眼回数とも術後有意に増加し,その内容は,術前はドライアイ治療薬や抗アレルギー薬が多く,術後は副腎皮質ステロイドや抗菌薬が主であった.なお,白内障手術との同時手術例,ならびに白内障手術追加例のなかで,アンケート調査時に非ステロイド性抗炎症薬を継続していた症例はなかった.また,ぶどう膜炎続発緑内障症例のなかで,術後ぶどう膜炎の炎症発作が原因で副腎皮質ステロイドが投与されているものはなかった.患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳を図1に示す.手術を受ける前に「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか?」という問いに対し,59%の症例が「思っていた」「少し思っていた」と回答した.術前の点眼アドヒアランスの内訳を図2に示す.手術を受ける前に「目薬は決められた通りに点眼していましたか?」という問いに対し,多くの症例は「欠かさず点眼していた(忘れることはなかった)」「ほぼ欠かさず点眼していた(忘れるのはC1カ月にC1回程度)」と回答し,忘れると答えた方はほとんどいなかった.術後の点眼の煩わしさの内訳を図3に示す.手術を受けた後,「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」という問いに対して,72%の症例が「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答し,負担が増えたと答えた方はほとんどいなかった.質問C3で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答した症例(38例)の煩わしさが軽減した理由を図4に示す.「目薬の本数が減ったから」「目薬の副作用が減ったから」と回答したものが多かった.その他の理由として,「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼はまったく気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」という回答もみられた.質問C3によって得られた術後の点眼に関する煩わしさの変化と,臨床因子(年齢,性別,緑内障病型,術式,術前後の点眼薬の本数,術前後の点眼薬の点眼回数,術前後の点眼本数の差,術前後の点眼回数の差)との関係を表4に示す.今回検討した各項目のなかには,煩わしさの改善度に相関する臨床因子はなかった.CIII考按本研究では,緑内障手術が施行された症例に対して手術前後の点眼治療に関するアンケート調査を行い,患者が感じている点眼の煩わしさに対する手術療法の影響を検討した.その結果,まず,自己申告による術前の点眼アドヒアランスの評価では,8割以上の患者が欠かさず,あるいは,ほぼ欠かさず点眼をしていた.これまで緑内障患者の点眼アドヒアランスに関して,アドヒアランス良好な症例は自己申告では82.97%9.11)であるのに対して,モニター監視などの他覚的評価ではC51.59%10,11)と報告されており,自己申告では現実を上回る結果となることがわかっている12).本研究で点眼アドヒアランスが良好であったのは,対象が手術適応のある症例であり,点眼遵守による手術の回避を期待した結果である可能性や,診療に携わっている医師が直接アンケートを依頼した影響が考えられる.また,過去の点眼状況を手術後に振り返った調査であったため,過大評価につながった可能性も否定できない.本研究では約C7割の症例が術後の点眼の煩わしさが軽減したと回答したが,その理由として点眼薬の本数が減少したこ(114)まったく感じていなかった11%思っていた25%あまり感じていなかった30%少し思っていた34%図1患者が感じていた術前の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼することを大変だ,煩わしいと思っていましたか」少し負担が増えたかなり負担が増えた2%0%変わらない26%かなり軽減された57%少し軽減された15%図3術後の点眼の煩わしさの内訳「目薬を点眼する煩わしさは軽減されましたか?」表4術後の点眼する煩わしさの変化と臨床因子との関係相関係数p値年齢C0.13C0.36性別C.0.08C0.58緑内障病型C0.25C0.07術式C.0.01C0.97術前本数C.0.01C0.95回数C.0.02C0.92術後本数C0.12C0.40回数C0.14C0.31術前後本数の差C.0.10C0.49回数の差C.0.04C0.76(Spearman順位相関係数)とがあげられた一方で,点眼回数が減ったことを理由としてあげた症例は少なかった.点眼薬の本数が減少すれば結果的に点眼回数も減少するにもかかわらず,回数の減少が点眼する煩わしさの改善の理由になっていない結果を考えると,多剤併用療法そのものが「多くの点眼薬を使用しなければならない」という患者の精神的負担になっている可能性がある.一方,副作用が減少したことが煩わしさの改善の理由となっ(115)忘れることが多かった決められた通りに点眼できなかった(忘れるのは1週間に1~2回)(忘れるのは1週間に3回以上)目薬の種類その他5%目薬の副作用が減ったから36%目薬の本数が減ったから45%点眼する回数が減ったから8%その他:「点眼にさほど煩わしさは感じない」「点眼は全く気にならない」「将来,点眼が減ると思う期待感があるため」「特にない」図4術後,点眼する煩わしさが軽減した理由「目薬を点眼する煩わしさが軽減された理由は何ですか?」(複数回答可)(質問C3(図C3)で術後,点眼する煩わしさが「かなり軽減された」「少し軽減された」と回答したC38例C72%の結果)ているのは,角膜上皮障害や点眼アレルギーなどの副作用からも解放されたためと考えられることから,点眼薬による副作用が生じ,かつ点眼が煩わしいと感じている症例に対しては,手術療法をより積極的に考慮してもよい可能性がある.今回,手術療法により点眼薬の本数,点眼回数は減少したが,点眼の煩わしさの改善度は術前後の点眼本数,点眼回数,そして術前後の差と,いずれも相関しない結果となった.本研究の対象は,緑内障手術によってある程度の眼圧下降が達成されている症例が多く,手術によって十分な眼圧下降が得られたことが患者に満足感や達成感を与え,ポジティブな心理状態につながったと考えられる.本研究にはいつくかの問題点があるが,その主たるものは選択バイアスである.まず,緑内障手術の術式によっては術あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C965後も何らかの点眼薬の併用が必要となるが,本研究の対象の多くは線維柱帯切除術が施行されており,点眼薬が中止できた症例が多く含まれている.また,術後の投薬内容は治療効果や合併症発生の有無でも変わってくるが,本研究ではこれらについての検討は行っていない.さらに今回は,両眼とも手術を施行された症例のみを対象に組み入れたが,片眼には手術を行って,もう片眼は薬物療法で経過観察しているような,臨床的には多くみられる症例が組み入れられていない可能性がある.その他にも本研究では,複数回手術例や白内障以外の眼疾患の手術既往例といった,いわゆる難治例も対象から除外していることや,術前の点眼状況を手術後に振り返った調査であるなどの問題点がある.以上より本研究の対象は実際の臨床像と異なっている点は否定できず,今回の結果が緑内障手術全般に当てはまるとは断言できない.以上のような問題点はあるが,手術によって使用薬剤を減少させることで,緑内障患者が感じている点眼治療に対する煩わしさを軽減することができる可能性があることを明らかにすることができた.今後はまず術前にアンケート調査を行い,術後一定期間の後に再度アンケートを行って縦断的に評価し,また多数の術式を対象として手術成績を加味した検討を行っていく必要があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SchwartzCGF,CQuigleyCHA:AdherenceCandCpersistenceCwithCglaucomaCtherapy.CSurvCOphthalmolC53:S57-S68,C20082)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCE:PersistenceCandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOph-thalmolC140:598-606,C20053)ChenCPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20034)StewartCWC,CChorakCRP,CHuntCHHCetCal:FactorsCassoci-atedwithvisuallossinpatientswithadvancedglaucoma-tousCchangesCinCtheCopticCnerveChead.CAmCJCOphthalmolC116:176-181,C19935)DiMatteoCMR:VariationsCinCpatientsC’CadherenceCtoCmedi-calCrecommendations:aCquantitativeCreviewCofC50CyearsCofresearch.MedCareC42:200-209,C20046)DjafariCF,CLeskCMR,CHarasymowyczCPJ:DeterminantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientpopulation.JGlaucomaC18:238-243,C20097)SleathCB,CBlalockCS,CCovertCD:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtechnique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C20118)高橋真紀子,内藤知子,溝上志郎ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科C29:555-561,C20129)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行:緑内障点眼患者のアドビアランスに影響を及ぼす因子.あたらしい眼科C29:993-997,C201210)NorellSE,GranstromPA,WassenR:AmedicationmoniC-torCandC.uoresceinCtechniqueCdesignedCtoCstudyCmedica-tionbehaviour.ActaOphthalmologyC58:459-467,C198011)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼C40:731-734,C198612)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetCal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C2007***(116)

強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):957.961,2018c強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術藤尾有希*1中倉俊祐*1野口明日香*1松谷香奈恵*1小林由依*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)ScleralRotating:ASurgicalTechniqueforCoveringGlaucomaDrainageImplantTubesYukiFujio1),ShunsukeNakakura1),AsukaNoguchi1),KanaeMatsuya1),YuiKobayashi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity目的:緑内障インプラント手術後,結膜からのチューブ露出が問題となる.今回パッチ素材を用いず,自己強膜を反転する方法でチューブ被覆を行ったので報告する.対象および方法:初回緑内障インプラント手術を強膜反転法で施行した,難治性緑内障患者C14例C15眼を後ろ向きに調べた.全例術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2歳,平均観察期間はC12.0カ月であった.強膜反転法はチューブを眼内に挿入し固定後,チューブ横,左右どちらかに四角形の強膜半層切開を行い,それを反転させてチューブを覆う方法である.結果:眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHgから最終診察時C16.8C±11.5CmmHgへ有意に低下していた.強膜反転法ではプレート近くまでチューブを覆うことが可能であった.観察期間中結膜乖離やチューブの露出はC1例もなかった.結論:強膜反転法は簡便で大きさも任意に決定でき有用であった.CPurpose:Wereportontheshort-terme.ectsof“ScleralRotating,”asurgicaltechniqueforcoveringglauco-madrainageimplanttubes.Methods:Thiswasaretrospective,consecutivecaseseriesof15refractoryglaucomaeyesthatunderwentinitialglaucomatubeimplantationusingtheScleralRotatingtechnique.Meanpatientagewas61.2Cyrs;meanCobservationCperiodCwasC12.0Cmo.CTheCScleralCRotatingCtechniqueCwrapsCtheCimplantCtubeCwithCaCself-sclera,CformedCbesideCtheC.xedCtubeCbyCcuttingCaChalf-layerCofCscleraCtoCtheCpreferredClengthCandCsize.CResults:IntraocularCpressureCreducedCfromC39.4C±10.1CmmHgCtoC16.8±11.5CmmHgConCfollow-up.CUsingCthisCtech-nique,CweCcoveredCtheCtubeCnearCtheCplate,CwithCnoCtubeCexposureCinCallCpatients.CConclusion:ScleralCRotatingCisCaneasyandusefultechniquethatdoesnotrequirepatchgraftmaterial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):957.961,C2018〕Keywords:強膜,緑内障,インプラント手術,パッチグラフト,チューブ露出.sclera,glaucoma,implant,patchgraft,tubeexposure.Cはじめに緑内障インプラント手術後のチューブ露出は,術後いつでも起こりうる.臨床的特徴は,結膜充血,異物感,光視症,虹彩炎や低眼圧でありチューブ露出は眼内炎につながる1).パッチ材料としては,保存された強膜や角膜,自己または加工処理された強膜などさまざまな材料が使用されている.前向き研究ではチューブ露出はC5年間の経過観察でC1.5%と報告されている2.4).しかし,後向き研究ではC5.8.8.3%の高い発生率がパッチ素材にかかわらず報告されている5.7).明白なチューブ露出の原因は今のところ不明だが,機械的な刺激や8)異物に対する免疫反応など9)とされている.また,パッチ素材はその費用や感染症のリスク,ならびに外見上の問題点がつきまとう.その問題を克服するためにCAslanidesらはC1999年に最初に自己強膜の反転によるチューブ被覆術を報告した10).この方法は非自己パッチ素材を用いず,採取したフリーの自己強膜をパッチする方法よりも簡便で,チューブ露出の可能性が低いことが報告されている11).今回筆者らは日本でなじみのないこの方法を修正し,チューブの根元まで覆うように工夫した(図1)緑内障インプラント手術を施行したので,その結果を報告する.〔別刷請求先〕藤尾有希:〒671-1227兵庫県姫路市網干和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YukiFujio,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPAN図1強膜半転法のシェーマAslanidesらの方法(3C×3Cmm)を変法し,強膜を半層切開しできるだけプレート付近まで覆うようにした.I対象および方法この研究はツカザキ病院(以下,当院)倫理委員会の承認を得て行われ,UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)臨床試験登録され(登録番号;UMIN000025504),ヘルシンキ宣言に準じて行われた.強膜反転法を初回の緑内障インプラント手術で施行した連続患者C14例C15眼を後ろ向きに調査した.術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2C±19.7歳(範囲34.89歳),男性C12名,女性C2名,右眼C9眼,左眼C6眼であった.原疾患は血管新生緑内障C11眼,落屑緑内障C2眼,開放隅角緑内障C1眼,続発緑内障C1眼であった.インプラント手術前の内眼手術歴(施行合計数)は抗CVEGF硝子体注射(25),眼内レンズ挿入術(15),硝子体手術(15),トラベクレクトミー(3),トラベクロトミー(3),全層角膜移植(2)であった.バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCRCGlaucomaImplant)(エイエムオー・ジャパン社):BG101-350をC9眼,アーメド緑内障バルブ(AhmedCTMGlaucomaCValve)(New-WorldCMedical社):ModelCFP7をC6眼に用いた.インプラントの設置部位は耳上側がC14例,鼻下側がC1例であった.鼻下側に挿入したC1例は全層角膜移植術症例で,耳下側にトラベクロトミー手術痕,上方結膜の菲薄化があったために同部位に設置した.硝子体腔内チューブ挿入例はC12例,前房内チューブ挿入例はC3例であった.硝子体手術施行例は角膜内皮障害を考慮し12),基本的に硝子体腔内に挿入した.強膜反転法術式手術は全例CTenon.麻酔で行った.従来の方法どおり,イニシエーションを行い輪部からC9.10Cmmの外直筋間にBG101-350とCModelCFP7のプレートを固定した.BG101-350はC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC2.3カ所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.前房内固定の場合:輪部から約C2CmmのところでC23CGCVランスで穿刺後,前房内に長さC2.3Cmm挿入できる程度にカットしたチューブ先端を挿入し,先に固定する(図2a).次にチューブの長さや方向を考慮しながら,両側の空いている強膜に四角形の反転用強膜をデザインする.このときなるべくプレート近くのチューブまで覆えるようにデザインした.予定切開範囲が決まれば強膜を半層切開し(図2b),チューブぎりぎりまで切開し対側に折り返せるようにする(図2c).折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜に固定し終了する(図2d).その後,なるべくCTenon.を前転してチューブの部位を覆い隠すようにし,結膜を縫合して終了した.硝子体腔固定の場合:輪部から約C4CmmのところでC23CGVランスで穿刺後,硝子体腔に約C4Cmmでるように長さを調節したチューブ先端を挿入,先に固定する(図3a).バルベルトタイプの場合,本来,毛様体扁平部挿入タイプとされるBG102-350があるが,Ho.mannCelbowは大きく強膜反転法にはむかない.Ho.mannelbowは脱出する頻度が高いことが知られており13),当院では前房内挿入用であるCBG101-350の先端の長さを調節し挿入した.その後,方法は前房内固定の場合と同じである(図3b~d).手術はすべて単一の術者が行い,術中,術後代謝拮抗薬は使用しなかった.眼圧はすべてCGoldmann眼圧計にて測定した.術後点眼はベタメタゾンC0.1%とレボフロキサシンC1.5%をC1日C4回約1カ月間投与した.CII結果眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHg(22.59CmmHg)から最終診察時C16.8C±11.5CmmHg(2.51CmmHg)へと有意に低下していた(p<0.001,対応あるCt検定).緑内障点眼薬の本数は,配合剤をC2,アセタゾラミド内服をC1とすると,術前C3.2±1.4本(0.6本)から最終観察時C0.8C±1.3本(0.4本)と有意に減少していた(p<0.001,対応あるCt検定).平均観察期間はC12.0カ月(7.19カ月)で,その期間中チューブの露出はC1例もなかった.血管新生緑内障患者のうちC2例は術後硝子体出血を発症した,1例は硝子体手術を施行し最終眼圧はC15CmmHgと落ち着いた.もうC1例は硝子体手術が困難なほどの硝子体出血と前房出血を術後C6カ月目で発症し,眼圧は上昇し失明に至った.最終診察時眼圧はC51mmHgであった.術後早期の脈絡膜.離や,感染症などは図2前房内固定の場合a:チューブ先端を輪部からC2Cmmのところで前房内にチューブを固定後(.),チューブの両サイドの強膜で,できれば厚いほうを選んで切開デザインを作成する.Cb:強膜を半層切開しチューブぎりぎりまで切開を進める.Cc:強膜を反転しチューブを覆えるか確認する.できれば少しチューブと強膜の間にスペースがあるほうがいい.Cd:折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜固定する.C認めなかった.最終観察時の前房内固定タイプと硝子体内固定タイプの前眼部写真と前眼部三次元画像解析(SS-1000(TomeyCorp,Nagoya,Japan)を提示する(図4,5).図4はC68歳,男性,落屑緑内障(左眼)でバルベルト(BG101-350)を前房内挿入した.術後C8カ月目の前眼部写真と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真を提示する.反転した強膜に覆われたチューブは白い隆起として観察され(図4a),前眼部三次元画像解析では反転した強膜と結膜の境目を高反射として観察された(図4b).図5はC79歳,男性,血管新生緑内障(右眼)で隅角はC360°完全閉塞していた.硝子体手術の既往があったため,バルベルト(BG101-350)を輪部からC4Cmmで硝子体腔に挿入した.術後C4カ月目の前眼部写真(図5a)と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真(図5b)を提示する.反転した強膜に覆われたチューブを観察できる.前眼部三次元画像解析では硝子体腔に滑らかに挿入されていることが確認できた.CIII考察今回筆者らは,Aslanidesらが報告した強膜反転法を用いた緑内障チューブインプラント手術を施行し,短期間ではあるが経過観察期間において良好な成績を得られた.原法ではC1/3層の強膜切開で3C×3mmの長さであり,チューブ全体を覆うことができない.一般的に前房内固定の場合では挿入部位からプレート根部までの距離は約C7.8mm,硝子体腔固定の場合,約C5.6Cmmもある.そのためこの方法を修正し,パッチした強膜が薄くならないように半層切開して,なるべくプレート近くまで長方形に反転強膜をデザインしチューブを覆った(図1~3).Wolfらは,自己強膜を使うメリットは免疫反応がない(異物でない)ことと,パッチ素材の色が本人の強膜と同じ色であるため外見上よいこととしている11).さらに自己遊離強膜パッチ法と比べた強図3硝子体腔固定の場合a:チューブ先端を輪部からC4Cmmで硝子体腔に固定する.Cb~d:以後前房型と同じ手技だが,硝子体固定のほうが前方に強膜が広範囲にありデザインしやすい.C図4前房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C8カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブは明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.内腔もよく視認できる.C膜反転法のメリットとして,強膜への血流が保たれるため,ーブの形に沿って隆起した強膜反転フラップが観察され,美より強膜が溶けにくくチューブの露出の可能性が低いとして容上の問題は良好であった(図4,5).大きなパッチ素材でいる.術後筆者らの症例でチューブ露出を生じた症例はC1例覆うとチューブの走行が不明で,術後に硝子体手術が必要なもないが,Wolfらはチューブ露出が術後C55カ月で,強膜反場合はポートの作製部位に注意が必要であるが,強膜反転法転法ではC2.1%(推定),自己遊離強膜パッチ法でC8.9%であではその必要はないと思われる.ったと報告している11).最終観察時での前眼部写真ではチュチューブ露出の危険因子はさまざま報告されており,たば図5後房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C4カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブ内腔は明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.こ7),ドライアイ7),落屑緑内障7),マイトマイシンCCの利用13),同時手術7,14),白人6),女性6)などがある.一方で糖尿病や高血圧など全身の合併症は危険因子でないとされている6,7,13,14).今回筆者らの症例は血管新生緑内障が多かった.血管新生緑内障を危険因子とする報告もある15)ため,今後の注意は必要である.移植したパッチ素材の違い(強膜,硬膜,心膜)はチューブ露出に関係ないとされている9).強膜反転法以外に自己強膜を利用する方法としては,長い強膜トンネルを作製し,その中にチューブを通す方法や16,17)C6×6Cmmの半層強膜下に設置する方法がある.筆者らの方法では全層の強膜を通してチューブを挿入するので,チューブの変位が生じにくいと予想されるのもメリットである.また,筆者らが用いたように,手術中にできるだけCTenon.を前転しておくことは結膜と強膜もしくはパッチ素材が直接触れ合うことを避けチューブ露出の防止に有効である17).今後長期的な経過観察が必要であるが,強膜反転法はパッチ素材を用いずに施行でき,簡便で大きさも任意に決定でき有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmol28:194-198,C20172)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetCal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmol163:75-82,C2016(111)4)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetCal:TheCAhmedversusCBaerveldtCstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetCal:GlaucomadrainageCdevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20156)MuirKW,LimA,StinnettSetal:Riskfactorsforexpo-sureofglaucomadrainagedevices:aretrospectiveobser-vationalstudy.BMJOpenC4:e00456,C20147)TrubnikCV,CZangalliCC,CMosterCMRCetCal:EvaluationCofCriskCfactorsCforCglaucomaCdrainageCdevice-relatedCero-sions:ACretrospectiveCcase-controlCstudy.CJCGlaucomaC24:498-502,C20158)HeuerCDK,CBudenzCD,CColemanCA:AqueousCshuntCtubeCerosion.JGlaucomaC10:493-496,C20019)SmithCMF,CDoyleCJW,CTicrneyCJWCJr:ACcomparisonCofCglaucomaCdrainageCimplantCtubeCcoverage.CJCGlaucomaC11:143-147,C200210)AslanidesCIM,CSpaethCGL,CSchmidtCCMCetCal:AutologousCpatchCgraftCinCtubeCshuntCsurgery.CJCGlaucomaC8:306-309,C199911)WolfA,HodY,BuckmanGetal:Useofautologousscleralgraftinahmedglaucomavalvesurgery.JGlaucomaC25:C365-370,C201612)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:Preservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheahmedglaucomavalve.JpnCJOphthalmolC56:119-127,C201213)ZaltaCAH:Long-termCexperienceCofCpatchCgraftCfailureCafterCAhmedCGlaucomaCValveRCsurgeryCusingCdonorCduraCandCscleraCallografts.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:408-415,C201214)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetCal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C201615)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetCal:RiskCfactorsCfortubeCshuntCexposure:aCmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201316)OllilaCM,CFalckCA,CAiraksinenCPJ:PlacingCtheCMoltenoCimplantCinCaClongCscleralCtunnelCtoCpreventCpostoperativeCtubeexposure.ActaOphthalmolScandC83:302-305,C2005Cあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C961

基礎研究コラム 14.体性幹細胞

2018年7月31日 火曜日

体性幹細胞幹細胞の分類幹細胞は自己複製能を有し,さまざまな細胞種に分化する能力をもつ細胞です.幹細胞は胚性幹細胞(embryonicstemcell:ES細胞)と体性幹細胞に分類されます(図1).ES細胞は発生初期の胚盤胞から得られる多能性幹細胞で,3胚葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)すべてに分化することができます.一方,体性幹細胞は別名,組織特異的幹細胞ともいい,成体の各組織でみられる希少な未分化の細胞集団です.通常,体性幹細胞は静止状態にありますが,刺激を受けて活性化し,前駆細胞,さらには終末分化細胞を生みます.これにより組織のターンオーバーや損傷によって生じた欠損を穴埋めすることが可能で,組織の恒常性が維持されています.間葉系幹細胞のようにさまざまな組織(骨,軟骨,脂肪細胞,筋細胞など)を形成できるものから,あとで述べる輪部幹細胞のように単一組織(この場合は角膜上皮)のみを形成するものがあります.これまで体性幹細胞は,頻回にターンオーバーの生じる血液,皮膚,小腸,筋肉などでよく研究されてきました.しかし,網膜のように再生能力の非常に低い組織における体性幹細胞の存在は未だ議論の余地のあるところです.輪部幹細胞(角膜上皮幹細胞)眼科領域でもっとも研究されている体性幹細胞のひとつが,角膜輪部の上皮の基底部に存在する輪部幹細胞で,角膜上皮の恒常性維持を担います.すなわち,角膜上皮は常に最表層部の細胞が.離していきますが,それを補うべく輪部幹細胞から分化細胞が送り込まれていきます.輪部幹細胞が失佐々本弦DepartmentofMedicine,BrighamandWomen’sHospitalわれると,角膜上皮を維持できなくなり,結膜の侵入を許してしまうことになります(角膜上皮幹細胞疲弊症).重症例では,対側眼もしくはドナー角膜の健常な輪部幹細胞を含む組織や細胞シートを移植することで,角膜上皮の再生を図ります.今後の展望大阪大学のグループでは,人工多能性幹細胞(inducedpluripotentstemcell:iPS細胞)から幹細胞を含む角膜上皮細胞を誘導することに成功しました1).この手法を用いれば,両眼性の輪部幹細胞疲弊症に対しても,自身のiPS細胞もしくはHLA型の一致するiPS細胞から誘導した角膜上皮の移植が可能になってきます.一方,筆者のグループでは,輪部幹細胞のマーカーであるABCB5を同定しました2).ABCB5は細胞表面に発現しているため,抗ABCB5抗体を用いて輪部幹細胞を生きたまま集めることが可能です.この純粋な輪部幹細胞を移植することで,現在用いられている移植片に含まれる他の細胞種に起因する拒絶のリスクを下げ,臨床成績を向上させることが可能ではないかと考えています.文献1)HayashiR,IshikawaY,SasamotoYetal:Co-ordinatedoculardevelopmentfromhumaniPScellsandrecoveryofcornealfunction.Nature531:376-380,20162)KsanderBR,KolovouPE,WilsonBJetal:ABCB5isalimbalstemcellgenerequiredforcornealdevelopmentandrepair.Nature511:353-357,2014自己複製自己複製図1幹細胞の分類発生初期の胚盤胞から得られる多能性幹細胞をES細胞とよぶ.ES細胞は刺激により3杯葉(内胚葉,中胚葉,外胚葉)すべてに分化することが可能である.成体でみられる幹細胞を体性幹細胞とよぶ.体性幹細胞には,刺激によりさまざまな組織を形成できるもの(間葉系幹細胞など)と,単一組織のみを形成するもの(輪部幹細胞など)がある.(93)あたらしい眼科Vol.35,No.7,20189430910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 182.硝子体のプロテオーム解析(研究編)

2018年7月31日 火曜日

a(kDa)97.466.33.0(pI)10.042.430.020.314.4b(kDa)97.466.33.0(pI)10.42.430.020.314.4硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載182182硝子体のプロテオーム解析(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●プロテオームとはプロテオーム解析(Proteomicanalysis),またはプロテオミクス(Proteomics)とは,組織や細胞内に発現しているすべての蛋白質を網羅的,系統的に解析する手法である.「プロテオミクス」という言葉は,遺伝子を網羅的に研究する「ゲノミクス」と,蛋白質を意味する「プロテイン」とを合わせて作られた造語である.プロテオーム解析を用いることで,少量のサンプルから多くの蛋白質を検出することが可能となり,眼球のような小さな臓器に生じる種々の疾患の病態を解明するのに有用な手段となりうる.C●硝子体のプロテオーム解析筆者らは,大阪医科大学臨床検査医学教室との共同研究で,硝子体のプロテオーム解析を行ってきた1~3).特発性黄斑円孔(macularChole:MH)と増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticCretinopathy:PDR)の硝子体および血漿を用いてプロテオーム解析を行ったところ,Ca1-アンチトリプシン,Ca2-HS糖蛋白,トランスフェリン,ハプトグロビンCa1,a2鎖,補体CC4,Gcグロブリン,アポリポプロテインCA-I,免疫グロブリンCH,L鎖,トランスサイレチンは血漿中に比べ硝子体中でアルブミンに対する相対濃度が高かった.抗炎症蛋白質であるCa1-アンチトリプシン,Ca2-HS糖蛋白,補体CC4,免疫グロブリンCH,L鎖のC2D-PAGE-銀染色ゲルスポットはCMHよりもCPDRの硝子体において明瞭に認められた.これはCPDRにおける組織障害を反映していると考えられる(図1).また,PDR群,MH群でウエスタンブロット法を用い色素上皮由来因子(pigmentepitheli-um-derivedCfactor:PEDF)の発現を比較したが,両群間に有意差は認められなかった.PDRでは新生血管が増殖しており,新生血管抑制因子であるCPEDFは減少していると予想していたが,結果は対照としたCMHと差がなかった.このようにプロテオーム解析を用いることで硝子体中の種々の蛋白質を検出でき,疾患による発現の違いを調(91)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1硝子体のプロテオーム解析黄斑円孔(Ca)と増殖糖尿病網膜症(Cb)の解析結果.2疾患でスポットの分布に差がみられる.(文献C1より引用)Cべることで網膜硝子体疾患の病態解明にもつながると考えられる.文献1)NakanishiT,KoyamaR,IkedaTetal:Catalogueofsolu-bleCproteinsCinCtheChumanCvitreousChumor:comparisonCbetweenCdiabeticCretinopathyCandCmacularChole.CJCChro-matogrCBCAnalytCTechnolCBiomedCLifeCSciC776:89-100,C20022)KoyamaR,NakanishiT,Ikedaetal:CatalogueofsolubleproteinsCinChumanCvitreousChumorCbyCone-dimensionalCsodiumdodecylsulfate-polyacrylamidegelelectrophoresisandCelectrosprayCionizationCmassCspectrometryCincludingCsevenCangiogenesis-regulatingCfactors.CJCChromatogrCBCAnalytTechnolBiomedLifeSci792:5-21,C20033)MukaiCN,CNakanishiCT,CShimizuCACetCal:Identi.cationCofCphosphotyrosylCproteinsCinCvitreousChumoursCofCpatientsCwithCvitreoretinalCdiseasesCbyCsodiumCdodecylCsulphate-polyacrylamideCgelCelectrophoresis/WesternCblotting/Cmatrix-assistedlaserdesorptiontime-of-.ightmassspec-trometry.AnnClinBiochem45:307-312,C2008あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C941

眼瞼・結膜:コンタクトレンズと眼瞼下垂

2018年7月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人40.コンタクトレンズと眼瞼下垂石川恵里柿﨑裕彦愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科コンタクトレンズを長期間装用することによって眼瞼下垂を生じることが知られており,その病態は初期と晩期で異なる.コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と類似する臨床像であり,他の眼瞼下垂の原因を除外して診断する.手術では挙筋前転術が広く行われている.●はじめにコンタクトレンズを長期間装用することによって,眼瞼下垂を生じることが知られている1).ハードコンタクトレンズ装用者でより頻繁に起こるが,ソフトコンタクトレンズ装用者にも生じうる2).コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は,退行性眼瞼下垂と同じく,腱膜性眼瞼下垂に分類される1).このタイプの眼瞼下垂では,CMuller筋周囲に慢性炎症の結果による線維化も認める3).本稿では,コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂の病態,臨床像,鑑別診断,治療について述べる.C●コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂の病態病態は,症状が可逆的である初期と,不可逆的となる晩期で異なる(表1).初期では,コンタクトレンズによる眼瞼結膜への機械的な刺激が炎症を惹起し,その結果,上眼瞼が浮腫状となり,その重力的影響によって機械的に眼瞼下垂が生じる.コンタクトレンズに付着する汚れによって引き起こされるコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎も炎症であるため,同様の機序により眼瞼下垂の原因となりうる4).この時期の眼瞼下垂は可逆的であり,コンタクトレンズの装用を中止することによって炎症を鎮静化させれば,大部分の患者で2~4週間後には症状が改善してくる2).コンタクトレンズ着脱の際には,上眼瞼を上方あるいは耳側に牽引するため,挙筋腱膜にストレスがかかるが,これが経年的に繰り返されると,晩期症状としての不可逆的な眼瞼下垂が生じる1).コンタクトレンズ装用者が眼瞼下垂を発症するリスクのオッズ比は,ハードコンタクトレンズ装用者で17.38,ソフトコンタクトレンズ装用者でC8.12と,ハードコンタクトレンズでより大きい2).この差は,ハードコンタクトレンズの素材がソフトコンタクトレンズよりも硬いことが原因と考えられている2).従来のソフトコンタクトレンズは,素材の柔らかいハイドロゲルレンズがおもに流通していたが,近年は酸素透過性の追求とともに,素材が硬めであるシリコーンハ表1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂と退行性眼瞼下垂コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂退行性眼瞼下垂病理所見初期●レンズの機械的刺激や汚染C↓瞼結膜の炎症・浮腫●CMuller筋:正常●退行性変化による挙筋腱膜の菲薄化,付着の裂離晩期●レンズ着脱時の瞼の牽引の繰り返しC↓挙筋腱膜の付着の裂離●炎症の慢性化C↓Muller筋周囲の線維化臨床像挙筋機能:正常(1C0Cmm以上)挙筋機能:正常(重度では低下)(89)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9390910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂48歳,女性.20歳からハードコンタクトレンズの装用を継続.両側の重瞼線の上昇と右側優位の眉挙上を認める.挙筋機能は両側ともに正常であった.イドロゲルレンズが主流となってきている.このため今後,ソフトコンタクトレンズ装用者においても眼瞼下垂の発症が増加してくる可能性がある.C●臨床像コンタクトレンズ装用による眼瞼下垂は,比較的若年者で発症する1).通常,挙筋機能は正常であり,退行性眼瞼下垂と同様,重瞼線の上昇を認める(図1).片眼性あるいは,左右差を伴って発症することが多い.多くの患者はフェニレフリンテストで敏感に反応するが,晩期には反応する場合としない場合がある.この原因はCMuller筋の変性や周囲の線維化のため,交感神経刺激に反応できなくなったためと考えられている1).C●鑑別診断コンタクトレンズ長期装用眼瞼下垂は除外診断によって診断する.以下のC3項目が満たされる必要がある1).①C50歳以下である,②コンタクトレンズを最低C3年間装用している,③他の種類の眼瞼下垂が除外される.C●治療コンタクトレンズ装用中の患者については,フィッティング不良やコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎を繰り返していないかなどを確認し,なんらかのトラブルがあ940あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018図2コンタクトレンズ長期装用による眼瞼下垂の挙筋腱膜WhiteCline()は通常瞼板上縁より約C3Cmm上方に位置するが,この部分を瞼板上に固定すると,良好な挙上が得られることが多い.れば,手術に先立ち対処する.このタイプの眼瞼下垂は,大まかな分類では腱膜性眼瞼下垂に分類されるため,手術では腱膜前転術が広く行われている(図2).しかし,Muller筋の機能不全も原因の一つと考えられているため,Muller筋を標的とした手術でも相応の効果が得られる1).C●おわりにコンタクトレンズ装用に伴う眼瞼下垂ついて概要を述べた.コンタクトレンズ装用者では,レンズの種類にかかわらず,その装用がきっかけとなって眼瞼下垂を生じうることを周知する必要がある.文献1)柿﨑裕彦:眼瞼下垂がよくわかる本.p19-30,ブイツーソリューション,20182)HwangCK,CKimCJH:TheCriskCofCblepharoptosisCinCcontactClenswearers.JCraniofacSurg26:373-374,C20153)WatanabeCA,CArakiCB,CNosoCKCetCal:HistopathplogyCofCblapharoptosisCinducedCbyCprolongedChardCcontactClensCwear.AmJOphthalmol141:1092-1096,C20064)BleyenCI,CHiemstraCCA,CDevogelaereCTCetCal:NotConlyChardCcontactClensCwearCbutCalsoCsoftCcontactClensCwearCmaybeassociatedwithblepharoptosis.CanJOphyhalmolC46:333-336,C2011(90)

抗VEGF治療:ポリープ状脈絡膜血管症への光線力学的療法を見直す

2018年7月31日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二54.ポリープ状脈絡膜血管症への光線力学的療法を見直す大石明生京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学現在,ポリープ状脈絡膜血管症に対してもCVEGF阻害薬の単独治療が一般的になっているが,初回治療として光線力学的療法(PDT)とCVEGF阻害薬の併用療法を行うことで,硝子体内注射の必要回数を減らし,同等かそれ以上の視力改善効果が得られるとの無作為比較試験の報告があり,PDTの役割が見直されつつある.はじめにポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)に対して,初めに明確な治療効果が確立された治療は光線力学的療法(photodynamicCthera-py:PDT)である.PDTはC2004~2008年に盛んに用いられたが,網膜下/網膜色素上皮下出血や網膜色素上皮裂孔などの重篤な合併症の懸念や,平均としてみると視力改善効果もC2年目以降は失われるといった問題があった.その後,大規模な無作為試験の結果を受けて,加齢黄斑変性に対しては血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬の使用が一般的になり,PCVについてもラニビズマブ単独療法のほうがCPDTより視力改善効果が勝ること1),PDTのメリットである高いポリープ状病巣閉塞率についてもアフリベルセプトを用いればこれに近い結果が得られることなどがわかるにつれ,現在ではCVEGF阻害薬単独での治療が一般的となっている.一方,VEGF阻害薬とCPDTを併用することで,PDT単独治療と比較して合併症を減らし,VEGF阻害薬単独治療と比較して良好な視力改善が得られる,または少ない治療回数でのコントロールが可能になるのではということが以前からいわれていた(図1).これまでの報告は後ろ向き,単施設,無作為化がされていないといった限界があったが,最近,無作為比較試験でこの仮説に答える研究が複数発表されており,PCVに対するCPDTの役割を見直すよい機会であると思われる.なお,近年CPCVについてはCpachychoroidCneovascu-図1ラニビズマブ併用PDTを施行した症例3カ月後の造影検査でポリープ状病巣の閉塞が確認され,その後無治療でC2年半再発しなかった.PDT単独またはラニビズマブ併用CPDTでこのような良好な経過をたどる症例が一定の確率で存在するのは確かである.(87)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9370910-1810/18/\100/頁/JCOPYlopathy2)との異同が議論になっており,また初めにこの名前を提唱したCYannuzziを含むグループからCaneu-rysmalCtypeC1Cneovascularizationという用語が提唱されるなど3),疾患概念が変遷しつつあるが,本項では日本で一般的に用いられる,加齢黄斑変性の一亜型という意味でCPCVという用語を用いる.無作為比較試験の結果EVERESTCIICstudyはCPDT併用ラニビズマブとラニビズマブ単独治療を比較する研究であり,無作為に割り付けたCPDT併用群C168人とラニビズマブ単独群C154人について,最終C2年間の経過をみるというデザインである.最近発表されたC1年目の成績では,視力改善が併用群でC8.3文字,ラニビズマブ単独群でC5.1文字と併用群が良好,治療回数も併用群ではCPDTC1.5回+硝子体内注射C5.2回,ラニビズマブ単独群では硝子体内注射C7.3回と,注射の回数を減らせることが示された4).2年間の経過観察も終了しているが,まだこの結果は報告されていない.このトピックに関しては日本からもCFujisanstudyとして,初回からCPDTとラニビズマブの併用療法を行う群と,ラニビズマブ単独で治療を開始し,ポリープ状病巣の残存がみられた場合にCPDTを追加する群に無作為割り付けを行い,1年後の成績をみるという研究が報告されている5).これによると,視力改善は初回併用治療群C8.1文字,必要時にCPDT追加とした群は8.8文字と同等.合計治療回数は初回併用治療群でラニビズマブC4.5回+PDTC1.1回,必要時CPDT追加群でラニビズマブC6.8回+PDT0.5回と,初回併用群で有意に硝子体注射の回数が少なかった.これらの独立したstudyが同じ傾向の結果を示していることから,PCVに対しては,初回に併用療法を行うことで追加のラニビズマブ投与回数を減らせるということは,かなり蓋然性が高いと思われる.一方,同時期に行われたCPLANETstudyは,アフリベルセプトを用いて滲出性変化およびポリープの残存が確認されたときにCPDTまたはCsham治療を行うというデザインで,PDT併用群にC161人,sham群にC157人が割り付けられている.まだ結果はCpublishされていないが,APVRS2017での学会発表によると(注:校正後出版された),視力はC1年目でCPDT併用群がC10.7文字,sham群がC10.8文字改善と,ラニビズマブを用いたEVERESTIIおよびCFujisanstudyの結果より若干大きい改善幅が報告されている.2年目終了時点ではそれぞれC9.1文字,10.7文字の改善であった.また,追加のPDTを要したのはC1年目でC13.2%,2年目でC17.0%であったとされている.なおアイリーアは導入療法後C2カ938あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C月ごとの固定投与(2年目は一部CtreatCandCextend)であり,治療回数には両群間で差はなかった.結果の解釈と今後の方向これらのCstudyはCinclusion/exclusionCcriteriaが同じではなく,使用薬剤が異なり,PDTのタイミング,VEGF阻害薬の投与方針も違うため,直接比較することはできないが,初回治療としてのCVEGF阻害薬併用PDTには,その後必要となる硝子体内注射数の回数を減らす効果はあると思われる.残念ながら初回治療としてのアフリベルセプト併用CPDTの効果を検証したデータはないが,薬剤の性質から同様の効果を期待してよいだろう.患者の治療に対するアドヒアランスを考えるうえでも,経過が長くなるほど厳格な追加治療はむずかしくなるので,初回治療で併用療法を行うことによりその後の治療回数を減らすことにはメリットがあるだろう.ただしベルテポルフィンも高価な薬剤であり,光凝固のコストが発生することから,少なくともC1年間では治療費用の負担はあまり変わらないものと予想され,この点では検討が必要である.また,PDTを施行するには現時点では造影検査が必要となるが,滲出性変化の再発があるたびにこれを行うというのは現実的ではない.OCT,OCTangiographyのみによる追加治療の判断が可能か,もしCVEGF阻害薬単独治療との使い分けをするのであれば,どのような症例が併用療法に適しているのか,導入治療としてのCVEGF阻害薬C3回投与は必要なのか,2年目以降の長期経過はどうかなど,今後もさらなる研究が望まれる.文献1)OishiCA,CKojimaCH,CMandaiCMCetCal:ComparisonCofCtheCe.ectofranibizumabandvertepor.nforpolypoidalcoroi-dalCvasculopathy:12-monthCLAPTOPCstudyCresults.CAmJOphthalmolC156:644-651,C20132)PangCCE,CFreundCKB:PachychoroidCneovasculopathy.CRetinaC35:1-9,C20153)DansinganiKK,Gal-OrO,SaddaSRetal:Understandinganeurysmaltype1neovascularisation(polypoidalchoroidalvasculopathy):aClessonCinCtheCtaxonomyCof“expandedCspectra”.ClinExpophthalmolC46:189-200,C20184)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetCal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedclinicaltrial.JAMAOphthalmolC135:206-1213,C20175)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetCal:InitialCversusCdelayedCphotodybanucCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabforCtreatmentCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy:TheCFujisanStudy.RetinaC35:1569-1576,C2015(88)

緑内障:レーザースペックルフローグラフィ:最近の知見

2018年7月31日 火曜日

●連載217監修=岩田和雄山本哲也217.レーザースペックルフローグラフィ:杉山哲也京都医療生活協同組合・中野眼科医院最近の知見レーザースペックルフローグラフィ(LSFG.ソフトケア製)がわが国で認証されて約C10年が経ち,これを用いた研究が推進されている.ここではCLSFGによって得られた最近の知見を紹介する.一つはCOCTCangiogra-phyとの相関,もう一つは術中測定による眼血流自己調節能の検証に関するものである.C●LSFGを用いた最近の研究成果レーザースペックルフローグラフィCLSFG-NAVICTM(ソフトケア製)がわが国の医療用機器として認証されて約C10年が経った.最近のCLSFGを用いた研究の動向として,①海外でも臨床研究に使用されつつあり,白色人種でもわれわれ日本人の場合と同様,再現性のよい測定結果が得られていること1),②COCTCangiography(OCTA)との相関が研究されていること2),③前視野緑内障ですでに視神経乳頭の組織血流が低下しており,病態に関与していることが判明したこと3),④術中高眼圧に対する視神経乳頭血流・自己調節能が糖尿病や高血網膜外層AIP、ILM+109μmtoPRE/BM+0μm圧・高脂血症の症例で障害されていることが明らかにされたこと4~6)などがある.ここでは紙幅の関係で,②と④につき,筆者らの成果を含めて紹介する.C●LSFGとOCTAの相関通常の光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)に血流情報を付加したCdopplerCOCTを応用し,網脈絡膜血管の三次元画像としたものがCOCTAである.近年,OCTAを用いてさまざまな眼疾患の毛細血管密度が研究されており,緑内障においても視神経乳頭やその周囲の血管密度と視野障害の相関について報告されている7~9).一方,緑内障眼におけるCLSFGとOCTAの相関についても報告されつつあり,LSFGのMT(meanCofCtissueCarea,組織血流)やCMV(meanCofvasculararea,血管血流)とCOCTAによる乳頭周囲血管密度指数との相関を検討した結果,網膜表層ではMV,MTともに,脈絡膜表層ではCMTがとくに相関していたとされている2).筆者らも正常者と広義原発開放隅角緑内障C39眼を対象に,LSFGとCOCTA(RS-3000ab**MT4540353025201510516c5014網膜外層・血管密度指数y=1.3368x+16.29612108642046810121416正常初期中期後期0正常初期中期後期(7)(16)(16)(7)(16)(16)MTp=0.001,r=0.50p<0.001,One-wayANOVAp=0.02,One-wayANOVA図1初期緑内障症例のLSFG(a),OCTA(b)による所見図2LSFGのMT(a),OCTAの網膜外層血管密度指数(b)とLSFGのMT値とOCTAの網膜外層・血管密度と緑内障病期との関係指数の相関(c)平均+標準偏差,*p<0.01,Dunnett’stest.C(85)あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C9350910-1810/18/\100/頁/JCOPYab図3眼圧上昇時の視神経乳頭血流の推移a:全身疾患のない症例,b:糖尿病を有する症例,c:糖尿病群(13眼)と対照群(30眼)の比較(左:血管血流,右:組織血流,*p<0.01,ANOVA).(文献C5より転載)advance,ニデック製)の相関を検討した(河本,杉山ら,未発表データ).その結果,MTのみが網膜外層,網膜表層の視神経乳頭部(直径C2Cmm以内)の血管密度指数と有意に相関していたが,とくに網膜外層との相関が強かった(図1).既報2)とはCOCTAの測定部位がやや異なる(既報:乳頭周囲のみ,筆者ら:それも含む乳頭部全体)が,MTが網膜外層あるいは脈絡膜表層の血管密度と強く相関していた点は類似していた.さらに,対象が家兎眼と異なるが,篩状板近傍の組織血流(水素クリアランス法による)とCMTが相関していたという既報10)ともほぼ合致している.さらに緑内障の病期とともにCMTは低下,網膜外層血管密度指数は中期・後期で低下していた(図2).C●術中高眼圧に対する視神経乳頭血流の自己調節能視神経乳頭血流には自己調節能の存在が知られており,緑内障などでその障害が報告されているが,硝子体手術中の高眼圧に対する自己調節能を経時的に調べた報告はこれまでほとんどなかった.Hashimotoらは全身疾患のない症例,2型糖尿病あるいは高血圧・高脂血症を有する症例の硝子体手術中に,眼圧を約C30CmmHgまで上昇させた前後にCLSFGを用いて視神経乳頭血流の推移を測定した4~6).全身疾患のない症例(対照群)ではいったん血流低下した後,5~10分後に回復しはじめた4).一方,2型糖尿病(糖尿病網膜症なし,または軽度の非増殖性糖尿病網膜症)では視神経乳頭血流(MV,MTとも)の回復が低下しており(図3),MVの回復率はヘモグロビンCAC1Cや空腹時血糖値と負の相関を認めた5).また,高血圧・高脂血症を有する症例ではCMVの回復が低下していたが,その回復率に有意に関連していたのは高血圧ではなく高脂血症であった6).文献1)LuftCN,CWozniakCPA,CAschingerCGCCetCal:OcularCbloodC.owCmeasurementsCinChealthyCwhiteCsubjectsCusingClaserCspeckle.owgraphy.PLoSOne11:e0168190,C20162)KiyotaCN,CKunikataCH,CShigaCYCetCal:RelationshipCbetweenClaserCspeckleC.owgraphyCandCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCmeasurementsCofCocularCmicro-circulation.GraefesArchClinExpOphthalmolC255:1633-1642,C20173)ShigaCY,CKunikataCH,CAizawaCNCetCal:OpticCnerveCheadCbloodC.ow,CasCmeasuredCbyClaserCspeckleC.owgraphy,CisCsigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeResC41:1447-1453,C20164)HashimotoCR,CSugiyamaCT,CUbukaCMCetCal:Autoregula-tionCofCopticCnerveCheadCbloodC.owCinducedCbyCelevatedCintraocularCpressureCduringCvitreousCsurgery.CCurrCEyeCResC42:625-628,C20175)HashimotoCR,CSugiyamaCT,CMasaharaCHCetCal:ImpairedCautoregulationCofCbloodC.owCatCtheCopticCnerveCheadCdur-ingCvitrectomyCinCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CAmJOphthalmolC181:125-133,C20176)HashimotoR,SugiyamaT,UbukaMetal:Impairmentofautoregulationofopticnerveheadblood.owduringvitre-oussurgeryinpatientswithhypertensionandhyperlipid-emia.CGraefesArchClinExpOphthalmolC255:2227-2235,C20177)BojikianKD,ChenCL,WenJCetal:Opticdiscperfusioninprimaryopenangleandnormaltensionglaucomaeyesusingopticalcoherencetomography-basedmicroangiogra-phy.PLoSOne11:e0154691,C20168)AkagiT,IidaY,NakanishiHetal:Microvasculardensityinglaucomatouseyeswithhemi.eldvisual.elddefects:CanCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CAmJOphthalmolC168:237-249,C20169)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:Regionalcompar-isonsofopticalcoherencetomographyangiographyvesseldensityCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthal-molC171:75-83,C201610)TakahashiCH,CSugiyamaCT,CTokushigeCHCetCal:Compari-sonCofCCCD-equippedClaserCspeckleC.owgraphyCwithChydrogenCgasCclearanceCmethodCinCtheCmeasurementCofCopticnerveheadmicrocirculationinrabbits.ExpEyeResC108:10-15,C2013C936あたらしい眼科Vol.35,No.7,2018(86)