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ルテイン

2018年6月30日 土曜日

ルテインLutein尾花明*はじめにルテインに関しては,本誌2010年1月号特集「眼に良い食べ物」1)および2012年8月号特集「臨床において必要なサプリメントの知識」2)で詳述した.2013年のAge-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup(AREDS2)の報告3)以降,ルテイン・ゼアキサンチン含有サプリメントが眼科臨床の場で広く使用されるようになり,ルテインに関する知識は広まっていると思う.そこで,本稿では冒頭に再確認の意味で基本事項を記載し,続いて各項目に沿って歴史的経緯から最新情報を含む詳しい内容を記載した.基本事項1.ルテインは緑色葉物野菜に多く含まれるカロテノイドである.2.ルテインは体内で合成されず,経口摂取により蓄積する.3.黄斑色素の成分はルテイン,ゼアキサンチン,メソゼアキサンチンである.4.黄斑色素はHenle線維層に多く存在する.5.黄斑色素はブルーライトハザードから網膜を保護する.6.黄斑色素はコントラスト感度の向上,グレア障害の低減など視機能に有用である.7.ルテイン含有サプリメントが加齢黄斑変性の予防に有効である.8.ルテイン含有サプリメントの効果には個人差がある.9.ルテイン含有サプリメントは製品による違いがある.I詳しい解説1.ルテインは緑色葉物野菜に多く含まれるカロテノイドであるルテイン(lutein)はラテン語の黄色“luteus”から派生した言葉で,濃緑食野菜に豊富に存在する.自然界のカロテノイドは約750種類で,食品中には約650種類,ヒトの体内には約30種類がある.カロテノイドはC40H56を基本構造とする長鎖ポリイソプレノイド分子である.炭素と水素のみのものがカロテンで,両端のシクロヘキセン環に水酸基をもつルテインはキサントフィルに属する.ゼアキサンチンはルテインの異性体で,シクロヘキセン環の二重結合の位置が異なり,共役二重結合数はルテインが10個,ゼアキサンチンは11個である(図1).ゼアキサンチンには三つの立体異性体があるが,そのうちの二つ(3R,3’R)ゼアキサンチンと(3R,3’S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)が眼に存在する.ルテインはマリーゴールドなどの花やホウレンソウなどの緑色野菜に豊富に含まれるが,花や実では脂肪酸と結合したエステル体,野菜ではフリー体の形で存在する.*AkiraObana:聖隷浜松病院眼科〔別刷請求先〕尾花明:〒430-0906静岡県浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)719図1眼に存在するカロテノイドルテイン,(3R,3’R)ゼアキサンチン,(3R,3’S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)の3種類が網膜に存在し,黄斑色素の成分となる.内網状層Tublin特異的結合蛋白外網状層(Henle線維層)視細胞のレチノイド錐体外節受容体:IRBP網膜色素上皮RPEのHDL受容体:SR-BI脈絡膜毛細血管図2ルテインの網膜内取り込み経路脈絡膜毛細血管のルテインはCscavengerreceptorclassBtype1(SR-B1)を介して網膜色素上皮細胞に取り込まれた後,レチノイド受容体を介して視細胞外節から視細胞内に入り,ルテインおよびゼアキサンチンのそれぞれの特異的結合蛋白と結合し,軸索突起に集積する.(組織図は文献C5より引用)ab図3黄斑色素の存在部位a:サル眼の組織切片で黄色色素が黄斑色素である.b:サル眼のトルイジンブルー染色網膜切片標本で,中心窩では視細胞層の内側には神経突起はなく,グリア細胞(赤線で示されたC3角形の部位)がみられる.aと見比べるとこの部位に黄色色素が多いことがわかる.Cc:ヒト眼の錐体・杆体分布図である.種が異なり直接比較はできないが,bの赤四角の範囲がおよそCcの点線の範囲に相当し,ほぼ錐体細胞の存在部位に一致する.すなわち,中心窩の錐体細胞の存在部位に一致して,Mullercellconeがあり,そこに黄斑色素が多く存在する.また,bの黄色点線はCHenle線維層を示すが,aと見比べるとCHenle線維層に色素が多いことがわかる.C(aは文献5,b,cは文献C12より引用)光障害=酸化ストレス図4黄斑色素のフィルター効果黄斑色素は青色可視光を一部吸収することで光障害から錐体を守る.いわば網膜内のサングラスといえる.(組織図は文献C5より引用)内のリポフスチンは青色光励起で一重項酸素を発生し,それにより視細胞の高級不飽和脂肪酸〔ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA),エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)〕が酸化されるが(この青色光による障害をブルーライトハザードという),視細胞外節の細胞膜内ルテインが,この一重項酸素を消去すると考えられる.C6.黄斑色素はコントラスト感度の向上,グレア障害の低減など視機能に有用である網膜内での青色光の散乱はコントラストの低減とグレアの原因になるが,青色光が吸収されることでコントラストの向上(とくに青の背景で黄色から赤のものを見るときなど)とグレアの低減につながる.Hammondらの研究16)では,ルテイン・ゼアキサンチン血清濃度が高い個体で黄斑色素密度が高く,色コントラスト向上,グレア障害軽減,光刺激回復時間短縮が認められている.C7.ルテイン含有サプリメントが加齢黄斑変性の予防に有効であるa.ルテインと加齢黄斑変性の関係1994年,Seddonらは,食事によるルテイン・ゼアキサンチン高摂取が加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)発症リスク低下につながることを初めて報告し17),その後も類似の報告が相次いだ.このころ,米国国立眼研究所が抗酸化ビタミンとミネラルによるCAMDと白内障の発症予防に関する研究を開始し,その結果はC2001年に報告された(本号特集AREDSサプリメント参照)18).この試験開始時点ではルテインサプリメントの市販品がなかったためルテインは含まれなかったが,登録時の食事アンケートをもとに,ルテイン・ゼアキサンチン摂取量をC4群に分けると,最低摂取群(摂取量中央値C0.7mg/日)に対して最大摂取群(3.5mg/日)の滲出型CAMDオッズ比はC0.65,萎縮型C0.45であったことから19),ルテインの重要性が認識されCAREDS2試験が計画された.ルテインサプリメントを用いた最初の介入試験結果はC2004年にCRitch-erらにより報告された20).AREDSのCstage2,3,4に相当するCAMD前駆病変をもつ患者C90人にルテインC10mg/日を投与したところ,黄斑色素密度の増加とコントラスト感度,グレア障害の改善を認めた.2013年にAREDS2の結果3)が報告され,ルテインC10mg・ゼアキサンチンC2mg投与の有効性が示された(本号特集AREDSサプリメント参照).加齢黄斑変性を対照としたルテイン・ゼアキサンチンの効果に関する研究は,欧州その他の国々から多数の報告がある.Cb.ルテインと白内障ルテインは水晶体にも存在し,抗酸化作用により白内障進行抑制効果をもつ.ルテイン・ゼアキサンチン血清濃度と核白内障の危険率は逆相関することが,疫学データのメタ解析で示された21).C8.ルテイン含有サプリメントの効果には個人差があるルテイン・ゼアキサンチンは小腸で吸収されて網膜に蓄積するまでに,種々の結合蛋白とレセプターを介するが,それらの働きによって吸収,蓄積のされ方が異なる.小腸や網膜でのコレステロール輸送蛋白,血中HDL量,カロテノイド分子の解離,オメガC3脂肪酸代謝,遺伝性黄斑症などに関連する遺伝子において,血清ルテイン濃度と黄斑色素密度に関与する一塩基多型が報告されている22).一般的には,ルテインサプリメント摂取を開始すると,2,3カ月間は黄斑色素密度が直線的に上昇し,その後定常状態になる.しかし,上昇の仕方には個人差がある.サプリメントを摂取しても血清濃度も黄斑色素密度も上昇しない例や,血清濃度は上昇するが黄斑色素密度は増加しない例もある23).これには,上記の遺伝的要因と投与開始前の状態が関係すると思われる.投与前からすでに血清濃度,黄斑色素密度が十分に高い例は,サプリメントを投与してももはや増加はしない.このことは過去のCAREDS2やその他の介入試験でも示されており,食事での摂取量の少ない例,血清濃度の低い例,黄斑色素密度の低い例に,サプリメントはとくに有用であることを意味する.C9.ルテイン含有サプリメントは製品による違いがあるルテインはブルーベリーなどのアントシアニンとともに,眼関連サプリメントとして非常に販売量が多く,国(15)あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C723ルテイン・ゼアキサンチンのみAREDS処方に類似(医家向け限定販売)(一般販売)アントシアニンと組み合わせ図5市販されているルテインサプリメント含有成分で分類すると,おもにルテイン・ゼアキサンチン含有のもの,AREDS2に類似しビタミン・ミネラルも含有するもの,アントシアニンと組み合わせたものに分けられる.その他,ドコサヘキサエン酸(DHA)や他の成分と組み合わせたものなど,この図以外に多数の商品が販売されている.摂取量はC0.5.4.0mg/日と報告されているが,日本人未婚者ではC0.35mg/日に過ぎないとの報告24)もある.ルテイン・ゼアキサンチンはCAMD,白内障の予防以外にも,乳幼児の網膜の発達や脳機能の発達に関係するとされ,さらに最近では高齢者の認知機能の維持にも有用であるとの報告がある.したがって,食事から十分な摂取のできていない人は,健常人であってもルテイン・ゼアキサンチンサプリメントを上手に生活に取り入れるのがよいと考える.文献1)尾花明:ホウレンソウ,ケール(ルテイン,ゼアキサンチン).あたらしい眼科C27:9-15,2010C2)尾花明:医科向けのサプリメント:ルテイン.あたらしい眼科C29:1057-1062,2012C3)Age-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edmaculardegeneration:theAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)randomizedclinicaltrial.JAMAC309:C2005-2015,2013C4)BernsteinPS,KhachikF,CarvalhoLSetal:Identi.cationCandquanti.cationofcarotenoidsandtheirmetabolitesinCthetissuesofthehumaneye.ExpCEyeCRes72:215-223,C2001C5)SnodderlyDM,BrownPK,DeloriFCetal:ThemacularCpigment.IAbsorbancespectra,localization,anddiscrimi-nationfromotheryellowpigmentsinprimateretinas.CInvestOphthalmolVisSci25:660-673,1984C6)BernsteinPS,LiB,VachaliPPetal:Lutein,zeaxanthin,andmeso-zeaxanthin:ThebasicandclinicalscienceCunderlyingcarotenoid-basednutritionalinterventionsCagainstoculardisease.ProRetEyeRes50:34-66,2016C7)BoneRA,LandrumJT,TarsisSL:PreliminaryCidenti.cationofthehumanmacularpigment.VisionCResC25:1531-1535,1985C8)ObanaA,HiramitsuT,GohtoYetal:MacularcarotenoidClevelsofnormalsubjectsandage-relatedmaculopathyCpatientsinaJapanesepopulation.Ophthalmology115:C147-157,2008C9)BernsteinPS,SchrifzadehM,LiuAetal:Blue-lightCre.ectanceimagingofmacularpigmentininfantsandCchildren.InvestOphthalmolVisSci54:4034-4040,2013C10)SasanoH,ObanaA,SharifzadehMetal:Opticaldetec-tionofmacularpigmentformationinprematureinfants.TVST2018(印刷中)C11)SherryCL,OliverJS,RenziLMetal:Luteinsupplemen-tationincreasesbreastmilkandplasmaluteinconcentra-tionsinlactatingwomenandinfantplasmaconcentrationsCbutdoesnota.ectothercarotenoids.JCNutri144:1256-(17)1263,2014C12)BernsteinPS:Maculargeology.Age-relatedMacularDegeneration(BergerJW,FineSL,MaguireMG)C,p1-16,CMosby,StLouis,1999C13)GassJDM:Mullercellcone,anoverlookedpartoftheCanatomyofthefoveacentralis.ArchCOphthalmol117:C821-823,1999C14)ObanaA,SasanoH,OkazakiSetal:Evidenceofcarot-enoidinsurgicallyremovedlamellarhole-associatedCepiretinalproliferation.InvestCOphthalmolCVisCSci58:C5157-5163,2017C15)ReichenbachA,BringmannA:NewfunctionsofMullerCcells.Glia61:651-678,2013C16)HammondBR,FletcherLM,ElliottJG:Glaredisability,photostressrecovery,andchromaticcontrast:relationtoCmacularpigmentandserumluteinandzeaxanthin.InvestOphthalmolVisSci54:476-481,2013C17)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:DietarycarotC-enoids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedCmaculardegeneration.JAMA272:1413-1420,1994C18)Age-relatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Aran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andCZinkforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.CAREDSReportNo.8.ArchCOphthalmol119:1417-1436,C2001C19)Age-relatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TheCrelationshipofdietarycarotenoidandvitaminA,E,andCCintakewithage-relatedmaculardegenerationinacase-controlstudy.AREDSReport22.ArchOphthalmol125:C1225-1232,2007C20)RitcherS,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,plaC-cebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantCsupplementationintheinterventionofatrophicage-relat-edmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial)C.OptometryC75:216-230,2004C21)LiuXH,YuRB,HaoZXetal:Associationbetweenluteinandzeaxanthinstatusandtheriskofcataract:ameta-analysis.Nutirients22:452-465,2014C22)MeyersKJ,MaresJA,IgoRPJretal:GeneticevidenceCforroleofcarotenoidsinage-relatedmaculardegenera-tionintheCarotenoidsinAge-RelatedEyeDiseaseStudy(CAREDS).InvestCOphthalmolVisSci55:587-599,2014C23)ObanaA,TanitoM,GohtoYetal:ChangesinmacularCpigmentopticaldensityandserumluteinconcentrationinCJapanesesubjectstakingtwodi.erentluteinsupplements.CPLosCOne10:e013927,2015C24)HosotaniK,KitagawaM:MeasurementofindividualCdi.erencesinintakeofgreenandyellowvegetablesandCcarotenoidsinyoungunmarriedsubjects.JNutrSciVita-minol53:207-212,2007あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C725

眼科におけるサプリメント(総説)

2018年6月30日 土曜日

眼科におけるサプリメント(総説)DietarySupplementsinJapan─aNarrativeReview─川崎良*Iサプリメントとは?サプリメントという言葉は広く用いられているが,その明確な定義はない.米国におけるdietarysupple-mentおよび欧州連合におけるfoodsupplement,あるいはオーストラリア,ニュージーランドにおけるnutri-tionalsupplementの共通部分を集約すると「サプリメントは通常の食事からは期待しえない,機能性を有する成分の摂取によって人体の健康な機能を維持,増進,改善することを目的としており,一つ以上の栄養成分を含み,錠剤,カプセル状など一定少量ごとに摂取可能であって,飲食などの通常の食品の形態をとらないもの」と集約される1).一般的にはより広い概念として健康食品があり,「健康の保持増進に資する食品全般」と考えられるが,そのなかでも「特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」がそれに該当すると考えられている2).IIわが国におけるサプリメントの利用状況国立健康・栄養研究所の調査では約3割の人が健康食品やサプリメントを毎日利用し,利用経験者は約8割にも上っていたという.小児においても健康食品やサプリメントの利用は拡大している.日本通信販売協会の報告3)によれば,すでに2013年の段階で健康食品・サプリメントの市場の規模は約1兆5,000億円で,5,000万人以上の利用者人口であると推計されている.とくに,男性より女性で利用者が多く,女性では60歳代,男性では40歳代の利用人数が多いと報告された.健康食品・サプリメントの利用で期待するヘルスベネフィット別では「健康維持・増進」「美肌・肌ケア」の市場規模が大きく,次いで「関節の健康」「疲労回復」「栄養バランス」,さらに「目の健康(ドライアイ対策を除く)」となっており,眼の健康に対する一定の期待があり,実際にサプリメントが利用されている実態がある.III食品の機能を表示できる「保健機能食品制度」サプリメントは健康食品としては自由に流通しているが,健康に関連してその機能を表示するうえでは食品表示法に従う必要がある.また,健康増進法に定める特定保健用食品として扱われるためにはより明確にその効果を評価し,認定のための基準を満たす必要がある.わが国において特定の保健の目的が期待できる(健康の維持および増進に役立つ)食品について,機能を表示することができる制度として保健機能食品制度があり,現在大きく「特定保健用食品」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3種類が定められ消費者庁が管轄している(図1,表1).1.特定保健用食品特定保健用食品(いわゆる“トクホ”)は,健康増進法において特別の用途に適する食品としての表示が定めら*RyoKawasaki:大阪大学大学院医学系研究科・視覚情報制御学(トプコン)寄附講座教授〔別刷請求先〕川崎良:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科・視覚情報制御学(トプコン)寄附講座教授0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)711健康食品医薬品「保健機能食品」特定の保健の目的が期待できる(健康の維持および増進に役立つ)食品の場合にはその機能について,また国の定めた栄養成分については,一定の基準を満たす場合にその栄養成分の機能を表示することができる制度図1保健機能食品制度の概要表1現在,わが国で定められている3種類の保健機能食品機能性表示食品届出制事業者の責任において,科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品.販売前に安全性および機能性の根拠に関する情報などを消費者庁長官へ届出.特定保健用食品とは異なり,消費者庁長官の個別の許可を受けたものではない.栄養機能食品自己認証制1日に必要な栄養成分が不足しがちな場合,その補給・補完のために利用できる食品.すでに科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含む食品であれば,とくに届出などをしなくても,国が定めた表現によって機能性を表示することができる.特定保健用食品(トクホ)個別許可制健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ,「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品.表示されている効果や安全性については国が審査を行い,食品ごとに消費者庁長官が許可.出の必要のない自己認証制となっている.機能表示ができる栄養分はミネラルとしてカルシウム,亜鉛,銅,マグネシウム,鉄,カリウム,ビタミンとしてナイアシン,パントテン酸,ビオチン,ビタミンCA,ビタミンB1,ビタミンCB2,ビタミンCB6,ビタミンCB12,ビタミンCC,ビタミンCD,ビタミンCE,ビタミンCK,葉酸,そして脂質としてCn-3系脂肪酸があげられている.このなかで眼科領域での栄養機能表示が定められているのはビタミンCAである.栄養機能食品としてのビタミンCAについてはC1日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量の下限値がC231Cμg,上限値がC600Cμgと定められている.表示できる栄養機能は「ビタミンCAは,夜間の視力の維持を助ける栄養素です.ビタミンCAは,皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です」と定められている.ビタミンCAの欠乏は夜盲症,眼球乾燥症のほか,乳幼児期には感染症のリスクを高め死亡率を上昇させることが知られ,さらにはビタミンCAの補充により死亡率を低くすることも報告されている5).また,ビタミンCC,ビタミンCEは加齢黄斑変性の前駆病変からの進行の抑制を示したCAge-relatedCEyeCDiseaseCStudy(AREDS)およびCAREDS26)で用いられたサプリメントの組成に含まれていたことから,国内ではビタミンCCとビタミンCEに加えてルテインやCn-3系脂肪酸を配合しCAREDS/AREDS2組成に近づけたサプリメントが「ビタミンCCとビタミンCEについての栄養機能食品」として販売されている例もある.栄養機能食品における栄養素とその機能の基礎資料となっているのは「日本人の食事摂取基準」である.かつては栄養所要量とよばれていた厚生労働省から出される食事や栄養に関する包括的なガイドラインで,5年にC1回改訂され,最新版はC2015年版である7).表2に基準が示されている栄養素の抜粋を掲載した.栄養素の基準となる指標は,推定平均必要量(estimatedCaveragerequirement:EAR),推奨量(recommendedCdietaryallowance:RDA),目安量(adequateCintake:AI),耐容上限量(tolerableCupperCintakeClevel:UL),目標量(tentativedietarygoalforpreventinglife-stylerelateddiseases:DG)(単位:%エネルギー)で,それぞれ年齢,性別毎に示されている(図2,表3).サプリメントによる補充を考える際に耐容上限量はじめこれらの指標を目安にすることは,過剰摂取による健康被害を予防するうえで重要な指標であると考える.C3.機能性表示食品これまで上記C2種類の食品の枠に当てはまらない健康食品についてはさまざまな名称が用いられてきたが,平成C27年に事業者の責任において一定の科学的根拠があると判断される機能性を表示できる食品として機能性表示食品が定められた.これは,事業者が販売前に安全性および機能性の根拠に関する情報を基に消費者庁長官へ届け出る制度で,具体的には臨床試験またはシステマティックレビューの知見により一定の効果が期待できると判断されるものを申請する制度である.この際に,最終的な製品ではなく機能性をもつと考えられる関与成分に関する研究やシステマティックレビューであっても評価が認められる.特定保健用食品とは異なり,消費者庁長官の個別の許可を受けたものではない.制度が始まって以降,これまで健康食品として分類されていた食品などが多く届け出られており,そのなかには眼科領域に関連するものも多い.機能性表示食品の届け出情報検索サイトでは,一般向けの製品概要に加えて,事業者が申請に用いた科学的根拠についての資料も閲覧することができる8).最近では海外のサプリメントも販売されたり個人輸入して利用されたりしている.海外のサプリメントについては,第三者機関としてサプリメントを調査している機関のウェブサイトなど9.13)が参考になる.CIVエビデンスに基づいたサプリメント利用に向けて医療においてはエビデンスに基づいた予防,診断,治療の選択が浸透しているが,サプリメントについてもエビデンスに基づいて安全で有効な利用が望ましい.とくに機能性表示食品制度はこれまでのサプリメントを集約し,ある一定のエビデンスに基づく食品として位置づけるものとなっている.消費者庁は現在の機能性表示食品制度を始めるに先立って,その制度の基礎となる機能性の学術的評価の試みとして「食品の機能性評価モデル事業」を行い,その結果が報告されている14).そのなかで(5)あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C713表2基準を策定した栄養素と設定した指標栄養素推定平均必要量(EAR)推奨量(RDA)目安量(AI)耐容上限量(UL)目標量(DG)(%エネルギー)たんぱく質50/40(g/日)60/50(g/日)13.C20(C16.5)脂質脂質20.C30(25)飽和脂肪酸7以下n-6系脂肪酸8.1C1/7.8(g/日)n-3系脂肪酸2.0.C2.4/1.6.C2.0(g/日)炭水化物炭水化物50.C65(C57.5)食物繊維19.2C0以上C/17.1C8以上(g/日)ビタミン脂溶性ビタミンCA550.C650/450.C500(CμgRAE/日)800.C900/650.C700(CμgRAE/日)2,700/2,700(CμgRAE/日)ビタミンCD5.5(Cμg/日)100(Cμg/日)ビタミンCE6.5/6(mg/日)750.C900/650.C700(mg/日)ビタミンCK150(Cμg/日)水溶性ビタミンCB11.0.C1.2/0.8.C0.9(mg/日)1.2.C1.4/0.9.C1.1(mg/日)ビタミンCB21.1.C1.3/0.9.C1.0(mg/日)1.3.C1.6/1.1.C1.2(mg/日)ナイアシン11.C13/8.C10(mgNE/日)13.C15/10.C12(mgNE/日)300.C350(C75.C85)C/250(60.65)(ニコチンアミドmg量(ニコチン酸mg量))ビタミンCB61.2/1.0(Cmg/日)1.4/1.2(Cmg/日)50.6C0/40.4C5(mg/日)ビタミンCB122(Cμg/日)2.4(Cμg/日)葉酸200(Cμg/日)240(Cμg/日)C3900.C1,000(Cμg/日)パントテン酸5/4.5(mg/日)ビオチン50(Cμg/日)ビタミンCC85(mg/日)100(mg/日)ミネラル多量ナトリウム600(mg/日)(食塩相当量C1.5g/日)C8.0/7.0(食塩相当量g/日)カリウムC2,500/2,000(mg/日)3,000以上C/2,600以上(mg/日)カルシウム550.C650/500.C550(mg/日)650.C800/650(mg/日)2,500(mg/日)マグネシウム270.C310/220.C270(mg/日)320.C370/270.C310(mg/日)C3350(mg/日)(通常の食事以外からの摂取量)リン1,000/800(Cmg/日)3,000(mg/日)微量鉄6.0.C6.5/5.0.C5.5(月経あり)8.5.C9.0(月経なし)(mg/日)7.0.C7.5/10.5(月経あり)6.0.C6.5(月経なし)(mg/日)50.5C5/40(mg/日)亜鉛8/6(mg/日)9.1C0/7.8(mg/日)40.4C5/35(mg/日)銅0.7/0.6(Cmg/日)0.9.C1.0/0.7.C0.8(mg/日)10(mg/日)マンガン4.0/3.5(Cmg/日)11(mg/日)ヨウ素95(Cμg/日)130(Cμg/日)3,000(Cμg/日)セレン25/20(Cμg/日)30/25(Cμg/日)400.C460/330.C350(Cμg/日)クロム10(Cμg/日)モリブデン20.C25/20(Cμg/日)25.C30/20.C25(Cμg/日)550/450(Cμg/日)18歳.70歳以上の範囲を示す.性別によって異なる場合は男性/女性と示した.レチノール活性当量(μgRAE)=レチノール(μg)+b.カロテン(μg)C×1/12+a.カロテン(μg)C×1/24+b.クリプトキサンチン(μg)C×1/24+その他のプロビタミンCAカロテノイド(μg)C×1/24;NE=ナイアシン当量=ナイアシン+1/60トリプトファン(文献C7より抜粋)不足の健康障害リスク1.00.50.0250不確実性因子(UF)報告に基づく場合:NOAEL/UF(1-5)ヒトを対象として通常の食品を摂取したヒトを対象としてサプリメントを摂取した報告に基づく場合,または,動物実験やinvitroの実験に基づく場合:LOAEL/UF(10)健康障害非発現量最低健康障害発現量(NOAEL)(LOAEL)図2栄養素の基準となる指標(文献C7より改変引用)C過剰摂取の健康障害リスク表3栄養素の基準となる指標の定義基準となる指標定義推定平均必要量(estimatedaveragerequirement:EAR)ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき,母集団における必要量の平均値の推定値を示す.当該集団に属するC50%の人が必要量を満たす(同時に,50%の人が必要量を満たさない)と推定される摂取量.推奨量(recommendeddietaryallowance:RDA)ある対象集団において測定された必要量の分布に基づき,母集団に属するほとんどの人(C97.C98%)が充足している量.推奨量は,推定平均必要量が与えられる栄養素に対して設定され,推定平均必要量を用いて算出される.推奨量は,実験等において観察された必要量の個人間変動の標準偏差を,母集団における必要量の個人間変動の標準偏差の推定値として用いることにより,理論的には,(推定必要量の平均値+2×推定必要量の標準偏差)として算出される.しかし,実際には推定必要量の標準偏差が実験から正確に与えられることはまれである.そのため,多くの場合,推定値を用いざるを得ない.したがって,推奨量=推定平均必要量C×(C1+2C×変動係数)=推定平均必要量×推奨量算定係数として求めた.目安量(adequateintake:AI)特定の集団における,ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量.十分な科学的根拠が得られず「推定平均必要量」が算定できない場合に算定するものとする.実際には,特定の集団において不足状態を示す人がほとんど観察されない量として与えられる.基本的には,健康な多数の人を対象として,栄養素摂取量を観察した疫学的研究によって得られる.目安量は,次の三つの概念のいずれかに基づく値である.どの概念に基づくものであるかは,栄養素や性・年齢階級によって異なる.①特定の集団において,生体指標等を用いた健康状態の確認と当該栄養素摂取量の調査を同時に行い,その結果から不足状態を示す人がほとんど存在しない摂取量を推測し,その値を用いる場合:対象集団で不足状態を示す人がほとんど存在しない場合には栄養素摂取量の中央値を用いる.②生体指標などを用いた健康状態の確認ができないが,健康な日本人を中心として構成されている集団の代表的な栄養素摂取量の分布が得られる場合:栄養素摂取量の中央値を用いる.③母乳で保育されている健康な乳児の摂取量に基づく場合:母乳中の栄養素濃度と哺乳量との積を用いる.耐容上限量(tolerableupperintakelevel:UL)健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限を与える量.これを超えて摂取すると,過剰摂取によって生じる潜在的な健康障害のリスクが高まると考える.理論的には,「耐容上限量」は,「健康障害が発現しないことが知られている習慣的な摂取量」の最大値(健康障害非発現量,Cnoobservedadversee.ectlevel:NOAEL)と「健康障害が発現したことが知られている習慣的な摂取量」の最小値(最低健康障害発現量,lCowestobservedadversee.ectlevel:LCOAEL)との間に存在する.しかし,これらの報告は少なく,特殊な集団を対象としたものに限られること,さらには,動物実験やinCvitroなど人工的に構成された条件下で行われた実験で得られた結果に基づかねばならない場合もあることから,得られた数値の不確実性と安全の確保に配慮して,CNOAEL又はCLOAELを「不確実性因子」(uncertainfactor:UF)で除した値を耐容上限量とした.具体的には,基本的に次のようにして耐容上限量を算定.・ヒトを対象として通常の食品を摂取した報告に基づく場合:UCL=NOAEL÷UF(UCFにはC1からC5の範囲で適当な値を用いた)・ヒトを対象としてサプリメントを摂取した報告に基づく場合,または,動物実験やCinCvitroの実験に基づく場合:UL=LOAEL÷UF(UFにはC10を用いた)(文献C7より抜粋,一部改変)表4研究を読み解くキーワードとサプリメントに関する研究を吟味するポイントの例研究を読み解くキーワードサプリメントに関する研究吟味のポイント例P:Patients誰を対象とするのか・サンプリングに偏りはないか?・研究対象は想定されるサプリメントユーザーを代表しているか?E:Exposureどんな要因を取り上げるのかもしくはもしくはI:Interventionどんな介入を取り上げるのか・成分量はサプリメントとして摂取できる投与量,投与方法に近いか?・介入は無作為化割り付けされているか?介入が盲検化されているか?・観察期間は十分か?・不自然な脱落や中断の有無がないか?C:Comparison何と比較するのか・無投与に対する比較か?・プラセボに対する比較か?・低用量や投与法の比較か?O:Outcomes何をアウトカムとするのか・客観的な指標を用いているか?・再現性の高い指標を用いているか?・臨床的に意義のあるアウトカムか?表5健康食品と医薬品のおもな違い医薬品健康食品製品の品質同じ品質のものが製造・流通品質の異なるものが存在科学的根拠の質と量病者を対象とした安全性・有効性試験が実施試験管内実験や動物実験が主体病者を対象とした試験はほとんど実施されておらず,安全性試験があったとしても対象は健常者利用環境医師,薬剤師により,安全な利用環境が整備あくまで食品の一つ製品の選択・利用は消費者の判断であり自己責任(文献C2より抜粋)の食事由来摂取量が少ない群で,とくにルテイン摂取の加齢黄斑変性進行抑制が大きいことなどが報告されている6).このような点を食事調査や該当成分の血中濃度測定などで医療に取り込んでいくことができれば,個別化医療のシナリオの一つとなる可能性もあり興味深い.わが国では医療費抑制効果を期待してセルフメディケーションが推進されている.これはスイッチCOCT医薬品(要指導医薬品および一般用医薬品のうち,医療用から転用された医薬品)の自主服薬を推進するもので,今年度からはセルフメディケーション税制の導入などが創設された.対象となるスイッチCOCT医薬品にはビタミンCB12(メコバラミン)やCn-3系脂肪酸(イコサペント酸エチル)などサプリメントとの重複領域にあるものも含まれ,さらに利用される機会は増える可能性がある.その一方で,サプリメント利用の“inversecarelaw”の危惧もあると考えている.“InverseCcareClaw”とは1971年,英国の医師CJulianCTudorCHartが『Lancet』誌で提唱したもので,本来もっとも健康を損なうリスクの高い集団がいざ医療を受ける段になるともっとも医療を受けにくい状況を風刺的に表した言葉である19).実際に医療だけでなく,健康診査や人間ドックなど予防医学の分野ではこの“inversecarelaw”に類した現象がしばしば認められる.サプリメント利用においても同様の状況にある可能性はないだろうか.すなわち,本来食事などで栄養素が不足しサプリメントの利用による健康増進がもっとも期待されるはずの集団はサプリメントを利用せず,その一方ですでに十分な栄養素を摂取し本来サプリメントが必要ではない集団がサプリメントを積極的に利用しているという印象がある.サプリメント利用が真に健康の増進につながることを切に望む.文献1)大濱宏文:欧米におけるサプリメントに対する取り組み.薬学雑誌128:839-850,C20082)厚生労働省・日本医師会・国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所:「健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて」(www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/pamph_healthfood.pdf2018年C2月C22日最終アクセス)3)公益社団法人日本通信販売協会サプリメント部会:サプリメント登録制調査資料(www.jadma.org/pdf/2013/supple-718あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018ment_chousa_shiryou_201303.pdfC2018年C2月C22日最終アクセス)4)消費者庁:特定保健用食品許可(承認)品目一覧.(www.Ccaa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180216_0001.xlsC2018年C2月C22日最終アクセス)5)SommerA,TarwotjoI,DjunaediEetal:Impactofvita-minAsupplementationonchildhoodmortality.Arandom-izedCcontrolledCcommunityCtrial.CLancetC1:1169-1173,C19866)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchCGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmacularCdegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseStudyC2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C20137)厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書.(http://www.mhlw.go.jp/.le/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000114399.pdfC2018年C2月C22日最終アクセス)8)消費者庁:機能性表示食品の届け出情報検索.(一般向けwww..d.caa.go.jp/caaks/cssc01;届出資料など詳細情報www.caa.go.jp/foods/todoke_1-25.htmlC2018年C2月C22日最終アクセス)9)UL社(ja.ul.com/consumer-retail-services/en/industries/dietary-supplements2018年C2月C22日最終アクセス)10)NSFCInternational社(www.nsf.org/services/by-industry/dietary-supplements2018年C2月C22日最終アクセス)11)ConsumerCLab社(www.consumerlab.comC2018年C2月C22日最終アクセス)12)NaturalCMedicinesCComprehensiveCDatabase.(naturaldataC-base.therapeuticresearch.comC2018年C2月C22日最終アクセス)13)NationalCInstitutesCofCHealthCDietaryCSupplementCLabelDatabase.(www.dsld.nlm.nih.gov/dsldC2018年C2月C22日最終アクセス)14)消費者庁:「食品の機能性評価モデル事業」の結果報告.(www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin915.pdf2018年C2月C22日最終アクセス)15)高地圭子,八十島邦昭,新居隆ほか:妊娠中にCStevens-Johnson症候群を発症したC1早産例.臨床婦人科産科C64:C104-107,C201016)久保田由美子:サプリメントが原因と考えられたCStevens-Johnson症候群のC1例.アレルギーの臨床C29:902-905,C200917)KarliCSZ,CLiaoCSD,CCareyCARCetCal:OpticCneuropathyCassociatedCwithCtheCuseCofCover-the-counterCsexualCenhancementCsupplements.CClinCOphthalmolC8:2171-2175,C201418)日本医師会:健康食品による被害が発生した場合の連絡・連絡先(www.med.or.jp/doctor/report/003854.htmlC2018年C2月C22日最終アクセス)19)HartJT:Theinversecarelaw.LancetC1:405-412,C1971(10)

序説:眼科に役立つサプリメント

2018年6月30日 土曜日

眼科に役立つサプリメントSupplementsforOphthalmology坪田一男*石田晋**日本の医療において,従来の健康保険がカバーする疾病医学に加え,予防医学が大きくクローズアップされてきている.超高齢社会を迎えた今日,医療コストは伸び続けており,このままでは保険のシステムも財政も破綻してしまう.病気になってから治療するだけでなく,病気になる前のアプローチで疾患の発症リスクを下げることが,国民全体の課題といえるだろう.すでに厚生労働省ではメタボリックシンドローム撲滅や,糖尿病,癌,心筋梗塞などの発症予防のため真剣に取り組みを始めている.予防医学の中心,柱といえるのが,食である.「医食同源」といわれるように,食が健康の要であることは間違いない.しかしながら,特定の有効成分の必要量を食事のみから摂取することは簡単ではない.この意味で,サプリメントという「有効な(と思われる)食品成分を詰め込んだ剤型」の重要性がある.眼のサプリメントに関して言えば,従来から眼によいと思われてきた食品の成分が次々とサプリメント化され,販売されている.なかでも加齢黄斑変性のサプリメントは,発症予防に関する臨床試験の結果が公表されたことから,実際に医師の指導のもとで疾患予備軍への積極的な摂取が推奨されている.すなわち,サプリメントの診療現場への導入という点では,われわれ眼科領域は医学界のトップランナーとも言える.しかしながら,世に出回っているサプリメントはこのようにサイエンスのバックグランドのある正当なものだけではなく,言い伝え的なものや,健康食品会社が宣伝しているものなど,その情報はいまだ玉石混淆の感を否めない.とはいえ,まだまだエビデンスの弱い部分はあるものの,少しずつ基礎研究や臨床データが出始めて,「眼科に役立つサプリメント」を目標にさまざまな食品成分の研究がサイエンスとして盛んになってきた.そこで今回の特集テーマとして「眼科に役立つサプリメント」を組んでみた.患者さんから「どんなサプリメントが眼にいいのですか?」と質問を受けることはしばしばあるため,日常診療に生かすべく外来でよく聞かれる質問に的確に答えられるように工夫して項目を設定した.サプリメントに関する総論的な知識に関しては,川崎良先生と川崎佳巳先生にご執筆いただいた.また,健康に関心が高い人々によく知られている食品成分としてルテイン,オメガ3脂肪酸(EPA/DHA),アントシアニン,アスタキサンチンなどがあるが,それらと眼の関係については,それぞれ尾花明先生,柳井亮二先生,小沢洋子先生,北市伸義先生にお願いした.さらに,疾患別に加齢黄斑変性,緑内障,ドライアイのサプリメント(の可能性)については,それぞれ*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室**SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)709

Vogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):698.702,2018cVogt-小柳-原田病の再発と治療内容に関する検討白鳥宙国重智之由井智子堀純子日本医科大学眼科学教室CClinicalRecurrenceandTreatmentsinPatientswithVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseNakaShiratori,TomoyukiKunishige,SatokoYuiandJunkoHoriCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolVogt-小柳-原田病(VKH)の再発率,再発部位,再発時の治療内容について観察した.2008年C1月.2016年C8月に日本医科大学付属病院眼科を受診したCVKH患者(n=33)を対象に,診療録より後ろ向きに検討した.初診時の状態は,初発例がC24例,再発例がC1例,遷延例がC4例,他院で加療後の経過観察がC4例であった.治療経過中の再発は初発例のC24例中C6例(25.0%),再発・遷延例のC5例中C4例(80%)に認め,再発・遷延例では再発を繰り返す症例が高頻度であった.再発部位は前眼部型C6例,後眼部型C4例であった.前眼部型に対してはC2例を除いてステロイドの眼局所療法が有効であった.後眼部型に対してはステロイドとシクロシポリンの併用や,アダリムマブが有効であった.CThisretrospectivestudyinvolved33patientswithVogt-Koyanagi-HaradadiseasewhovisitedNipponMedicalSchoolHospitalfromJanuary2008toAugust2016.Subjectsincluded24freshcases,1recurrentcase,4prolongedcasesCandC4Cfollow-upCcasesCafterCtreatmentCatCotherChospitalsCatCtheCtimeCofCinitialCvisit.COfCtheC24CfreshCcases,C6experiencedrecurrentocularin.ammationduringfollow-up;theirrecurrenceratewas25.0%.Ofthe5recurrentorCprolongedCcases,C4CrecurredCagain;theirCrecurrenceCrateCwasC80%.CTheCsiteCofCrecurrenceCwasCclassi.edCintotwogroups:anteriorchambertype(6cases)andfundustype(4cases).Mostoftheanteriorchambertyperecur-rences,excepting2cases,werecuredbytopicalocularcorticosteroidtherapy;thefundustyperecurrenceswerecuredbyacombinationofsystemiccorticosteroidandcyclosporinetherapyoradalimumabtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):698.702,C2018〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,再発率,治療,シクロスポリン,アダリムマブ.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,recurrencerate,treatments,cyclosporine,adalimumab.CはじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease:VKH)は,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患と考えられており1),従来より,初期段階にステロイドパルス療法あるいはステロイド大量漸減療法による治療が行われている.VKHは,前駆期を経て眼病期(急性期)となり,治療を開始すると回復基調となることが一般的である1).しかしながら,治療に抵抗して再発を繰り返し,遷延型に移行するような難治症例では,網脈絡膜変性や続発緑内障などを合併し,視力予後は悪くなると報告されている2).そのため,再発率,遷延率,晩期続発症の合併頻度などを知っておくことが,臨床において患者の視力予後を予測するうえで有用である.今回筆者らは,日本医科大学付属病院眼科(以下,当施設)におけるCVKH患者の治療後の再発率,ならびに遷延率,再発部位,再発前後の治療方法,晩期続発症の発生率に関して検討を行ったので報告する.CI方法1.対象2008年C1月.2016年C8月までに当施設の眼炎症外来を受診し,6カ月以上の経過観察ができたCVKH患者C33例を対象とした.VKHの診断は,2001年の改定国際診断基準1)に準じて,完全型もしくは不完全型を満たすものとした.性別は,男性C16例,女性C17例であった.初診時平均年齢は,〔別刷請求先〕白鳥宙:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:NakaShiratori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN698(134)男性C46.9C±18.1歳,女性C47.1C±13.4歳(平均値C±標準偏差)であった.平均観察期間は,44.0C±28.8カ月で,最短C6カ月,最長C109カ月であった.対象は,初診時の状態により,初発例C24例,初診時再発例C1例,初診時遷延例C4例,経過観察例C4例を含んだ.初診時再発例とは,他施設で加療後炎症が再燃したため,当施設初診となった症例とした.初診時遷延例とは,他院でC6カ月以上炎症が持続し,当施設初診となった症例とした.経過観察例とは,他施設で加療後炎症の再燃がなく,当施設初診となった症例とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に準じており,日本医科大学付属病院倫理委員会の承認を得た.C2.検.討.事.項再発・遷延例の頻度,再発部位,再発時の治療内容,再発後の治療方法,晩期続発症の種類と頻度についてレトロスペクティブに診療録の解析を行った.なお,再発例とは経過中に一度消炎が得られたにもかかわらず,再度炎症が出現した症例とし,遷延例とはステロイド投与後もC6カ月を超えて内眼炎症が持続した症例とした.寛解とは,検眼鏡的に前房内細胞,硝子体内細胞,漿液性網膜.離が消失した時点とした.再発部位については,前房内細胞などの前眼部炎症のみのものを前眼部型とし,漿液性網膜.離を伴うものを眼底型表1初診時初発例(24例)における治療後の再発・遷延率症例数(%)再発あり遷延なし2例(8C.3%)再発かつ遷延4例(1C6.7%)再発なし18例(C75.0%)とした.続発緑内障については,経過中に複数回にわたり眼圧がC21CmmHgを超えたものと定義した.CII結果初発例については,全例にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1CgをC3日間連続投与)を施行したのち,翌日よりプレドニゾロンC1Cmg/kg/日程度から内服し,炎症の程度を見きわめながらC2.4週ごとにC5.10Cmg/日を減量する漸減療法が施行されていた.初発例(全C24例)のうち,治療後の再発例はC6例(25.0%)で,再発した結果C6カ月以上消炎できなかった再発かつ遷延例がC4例(16.7%)であった.非再発・非遷延例はC18例(75.0%)であった(表1).一方で,初診時再発・遷延例における再発は,全C5例中C4例(80%)で,初発例と比べて,その後も再発を繰り返す確率が高かった(表2).全再発症例の再発時について,ステロイドパルス療法後の経過週数,ステロイド投与量(体重換算),再発部位,当施設初診時の状態を表3に示した.再発時期は,プレドニゾロン内服漸減中の再発がC7例で,プレドニゾロン内服終了後の再発がC3例であった.再発時のステロイドパルス療法後の経過週数はC3.128週まで幅広かった.再発時のプレドニゾロ表2初診時の状態による再発率再発率初診時初発例25.0%(C6/24例)初診時再発・遷延例80.0%(C4/5例)初発例と比べて,再発・遷延例ではその後も再発を繰り返す確率が高かった.表3全対象33例中の再発症例のまとめ症例CNo.初診時再発部位再発時のパルス後週数(週)再発時のPSL内服量(mg/日)再発時のPSL内服量体重換算(mg/kg/日)C1初発例眼底型C3C40C0.59C2初発例前眼部型C8C25C0.45C3初発例眼底型C13C10C0.13C4初発例眼底型C17C5C0.082C5初発例眼底型C17PSL終了後C1週C6初発例前眼部型C36C5C0.065C7遷延例前眼部型C50C8C0.059C8再発例前眼部型C128PSL終了後C96週C9遷延例前眼部型不詳PSL終了後C10遷延例前眼部型パルスなしC5C0.086PSL:prednisolone(プレドニゾロン).表4前眼部型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C2初発例C25+BSP点眼寛解C6初発例C5+DEX結膜下注射+PSL10mg/日へ増量寛解C7遷延例C8+BSP点眼寛解C8再発例PSL終了後+BSP点眼寛解C9遷延例C5+BSP点眼寛解C10遷延例PSL終了後PSL30mg/日+CyA150mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),BSP:betamethasoneCphosphate(リン酸ベタメタゾン),DEX:dexamethasone(デキサメタゾン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン).表5眼底型の再発時の治療症例CNo.(表C3と対応)初診時再発時のPSL投与量(mg/日)再発後の治療効果C1初発例C40ステロイドハーフパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C3初発例C10PSL20mg/日+CyA150mg/日C↓CyA25mg/日+ADA40mg/週再発寛解C4初発例C5ステロイドパルス療法+後療法CPSL40Cmg(CyA100mg/日併用)寛解C5初発例PSL終了後PSL30mg/日再開+CyA100mg/日寛解PSL:prednisolone(プレドニゾロン),CyA:cyclosporine(シクロスポリン),ADA:adalimumab(アダリムマブ).ン投与量の平均は,14.0mg/日(0.21mg/kg/日)であったが,その内服量は5.40mg/日と症例によりばらつきがあった.再発例における再発部位は,前眼部型がC6例で,眼底型が4例であった.眼底型の再発は,ステロイドパルス療法後の経過週数が比較的短い時点での再発症例に多く,前眼部型の再発はステロイドパルス療法後の経過週数が比較的長い時点での再発症例に多かった.前眼部型の再発をした症例での再発後の治療を表4に示した.前眼部型の再発に対する治療は,デキサメタゾン結膜下注射やベタメタゾン点眼の追加などの眼局所療法が中心であった.眼局所療法の追加がされたC5例のうち,1例では消炎せずプレドニゾロン内服の増量を必要としたが,その他のC4例では眼局所療法の追加のみで炎症は寛解していた.また,プレドニゾロン全身投与とシクロスポリン全身投与の併用療法がされたC1例では,治療が有効であった.眼底型の再発をした症例について再発後の治療を表5に示した.眼底型の再発に対する治療は,ステロイド全身投与に加えて,シクロスポリン全身投与の併用を行い,全例で炎症は寛解していた.シクロスポリン開始時の投与量はC100.150Cmg/日(約C2Cmg/kg/日)で,血中シクロスポリン濃度(トラフ値:最低血中薬物濃度)がC50.100Cng/mlとなるように維持されていた.一方で,眼底型の再発に対してシクロスポリンを導入した症例のうち,1例でシクロスポリンの副作用と考えられる肝機能障害を認めた.このC1例では,シクロスポリン投与量を6カ月かけてC2Cmg/kg/日からC1Cmg/kg/日に漸減したところで再度の眼底型の再燃があった.この再燃に対しては,生物学的製剤であるアダリムマブの投与を行い,炎症は寛解し,シクロスポリンはC0.5Cmg/kg/日まで減量することができていた(表5,症例CNo.3).晩期続発症についての検討では,夕焼け状眼底がC15例(45.5%)に,網脈絡膜萎縮病巣がC6例(18.2%)に,続発緑内障がC6例(18.2%)に,脈絡膜新生血管がC2例(6.1%)にみられた.このうち,11カ月で夕焼け状眼底を呈した症例表6晩期続発症の発生率夕焼け状眼底網脈絡膜萎縮病巣続発緑内障脈絡膜新生血管最終視力低下(1C.0未満)全症例15例6例6例2例4例(3C3例)(4C5.5%)(1C8.2%)(1C8.2%)(6C.1%)(1C2.1%)再発・遷延例9例4例4例1例2例(1C0例)(9C0.0%)(4C0.0%)(4C0.0%)(1C0.0%)(2C0.0%)再発なし症例6例2例2例1例2例(2C3例)(2C6.1%)(8C.7%)(8C.7%)(4C.3%)(8C.7%)がC1例あったが,他の晩期続発症はC1年以上の経過症例にみられた.視力C1.0未満への最終視力低下がC4例(12.1%)にみられ,視力低下の原因は,2例が脈絡膜新生血管,2例が白内障の進行であった.再発・遷延例では,夕焼け状眼底,続発緑内障,脈絡膜新生血管などの晩期続発症が多い傾向があり,視力低下をきたす症例も多かった(表6).CIII考按VKHの再発率に関する過去の報告には,島ら3)のステロイドパルス療法後の再発率(遷延率)がC23.8%(19.0%)であったとの報告や,井上ら4)のステロイドパルス療法またはステロイド大量漸減療法後の再発率(遷延率)がC28.2%(18.8%)であったなどの報告がある.筆者らの研究では,初発例に対してはステロイドパルス療法にて初期治療を行い,再発率(遷延率)がC25.0%(16.7%)であり,既報とほぼ同様であった.漿液性網膜.離がメインのタイプより視神経乳頭腫脹型のほうが遷延型に移行しやすいという報告5)があるが,本研究の対象C33例では,視神経乳頭腫脹型はC1例のみで,そのC1例は再発も遷延もなかった.晩期続発症についての過去報告には,島ら3)の夕焼け状眼底がC42.9%,続発緑内障がC20.7%,脈絡膜新生血管がC0%との報告や,海外ではCAbuCEl-Asrarら6)の夕焼け状眼底が48.3%,続発緑内障がC20.5%,脈絡膜新生血管がC6.9%との報告や,Readら2)の続発緑内障がC27%,脈絡膜新生血管が11%などの報告がある.本研究では,夕焼け状眼底がC45.5%,続発緑内障がC18.2%に,脈絡膜新生血管がC6.1%にみられ,既報とほぼ同様であった.VKHは,メラノサイトを標的とした自己免疫疾患であり,細胞障害性CT細胞が病態の中心に関与している7)と考えられている.シクロスポリンはCTリンパ球の活動性を抑制する薬剤であり,2013年より非感染性の難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となったこともあり,VKH治療に対する有効性が期待されている.実際にステロイド治療にて再発性・遷延性のCVKHに対して,シクロスポリンが有効であった報告が過去になされている8,9).ぶどう膜炎に対するシクロスポリンの投与量については,初期投与量C3Cmg/kg/日が適切とされており(ノバルティスファーマ:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルRの安全使用マニュアル,2013年度版),福富ら8)は,眼底型の再発を繰り返すCVKHのC2症例で,初期投与量C3Cmg/kg/日でのシクロスポリン投与が有効であったと報告している.本研究でのシクロスポリン導入は,ステロイド内服と併用投与であり,全例でC2Cmg/kg/日で開始してトラフ値C50.100Cng/mlとなるように維持していたが,眼底型の再発症例における炎症の寛解に有用であった.本研究と同様に,遷延性CVKHに対して低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与を行った春田らの報告9)では,前眼部型・眼底型炎症ともに効果を認めるものの,眼底型炎症のほうがやや効果が弱い印象であったと報告しているが,筆者らの研究ではシクロスポリン導入時に再度のステロイドパルス療法または全身性ステロイド投与量の増量を併用していたことで有効性が増した可能性が考えられた.このように,難治性のCVKHの治療において,シクロスポリン併用療法は治療の有効な選択肢となるが,シクロスポリン導入時の適切な投与量については,今後さらなる検討が必要と考える.また,それ以外にも,シクロスポリン治療の導入時期,ステロイド併用時の投与量,シクロスポリン導入後の減量方法など,多くの面でいまだ一定のプロトコールがなく,今後多くの症例を積み重ねていくことで,シクロスポリン投与法が確立されることが期待される.アダリムマブは,2016年C10月に難治性ぶどう膜炎に対して保険適用となった生物学的製剤で,TNF-a阻害作用により抗炎症に働く.VKHに対するアダリムマブ使用の報告は少ないが,Coutoら10)はアダリムマブの導入により他の免疫抑制薬を減量できたと報告している.本研究でも,肝機能障害のためにシクロスポリンを減量せざるをえず,その結果,再度の眼底型の再燃をしてしまったC1例において,アダリムマブの投与が,炎症の寛解とシクロスポリンの減量に有効であった.VKHに対するアダリムマブの有効性や副作用についてはさらなる検討が必要であるが,有効な治療の選択肢の一つであると考えられた.文献1)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetCal:RevisedCdiagnosticcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C20012)ReadCRW,CRechodouniCA,CButaniCNCetCal:ComplicationsCandCprognosticCfactorsCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CAmJOphthalmolC131:599-606,C20013)島千春,春田亘史,西信良嗣ほか:ステロイドパルス療法を行った原田病患者の治療成績の検討.あたらしい眼科C25:851-854,C20084)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のCVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,C20115)OkunukiCY,CTsubotaCK,CKezukaCTCetCal:Di.erencesCinCtheclinicalfeaturesoftwotypesofVogt-Koyanagi-Hara-daCdisease:serousCretinalCdetachmentCandCopticCdiscCswelling.JpnJOphthalmolC59:103-108,C20156)AbuEl-AsrarAM,TamimiMA,HemachandranSetal:CPrognosticCfactorsCforCclinicalCoutcomeCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCtreatedCwithChigh-doseCcorticosteroids.ActaOphthalmolC91:e486-e493,C20137)SugitaCS,CTakaseCH,CTaguchiCCCetCal:OcularCin.ltratingCCD4+CTCcellsCfromCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCdiseaserecognizehumanmelanocyteantigens.InvestOph-thalmolVisSciC47:2547-2554,C20068)福富啓,眞下永,吉岡茉衣子ほか:シクロスポリン併用が有効であった副腎皮質ステロイド抵抗性のCVogt-小柳-原田病のC2症例.日眼会誌121:480-486,C20179)春田真実,吉岡茉衣子,福富啓ほか:遷延性CVogt-小柳-原田病に対する低用量シクロスポリン(100Cmg・1日C1回)投与の効果.日眼会誌121:474-479,C201710)CoutoCCA,CFrickCM,CJallazaCECetCal:AdalimumabCtreat-mentCinCpatientsCwithCVogt-Koyanagi-HaradaCSyndrome.CInvestOphthalmolVisSciC55:5798,C2014***

慢性移植片対宿主病モデルマウスの結膜囊におけるドナー由来線維芽細胞の集積

2018年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科35(5):693.697,2018c慢性移植片対宿主病モデルマウスの結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の集積五十嵐秀人小川葉子山根みお清水映輔福井正樹榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CAccumulationofDonor-derivedFibroblastsinChronicGVHDConjunctivalFornixinaMouseModelHidetoIkarashi,YokoOgawa,MioYamane,EisukeShimizu,MasakiFukui,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine慢性移植片対宿主病(cGVHD)によるドライアイは移植後の主要な合併症であり,眼表面に難治性線維化をきたす.筆者らは,cGVHDモデルマウスを用いて,結膜.に集積するドナー由来線維芽細胞の集積を検出したので報告する.ドナーにC8週齢雄CB10.D2マウス,レシピエントに週齢をあわせた雌CBALB/cマウスを用いて,線維化を高度にきたすCcGVHDモデルマウスを作製した.BALB/cマウスによる同種同系移植を対照とした.移植後C3週時のレシピエント結膜の解析では,線維芽細胞のマーカーCHSP47陽性の小型線維芽細胞の集積部位を認めた.同一切片によるCY染色体CFISHを施行し,同一部位の細胞群に多数のCY染色体陽性像を見いだした.結膜.と涙腺排出導管付近に多数のドナー由来線維芽細胞が集積していた.ドナー由来線維芽細胞は結膜.の線維化の細胞源として排出導管を閉塞し,難治性線維化による重症ドライアイに関与することが示唆された.ChronicCgraft-versus-hostCdisease(cGVHD)isCaCmajorCcomplicationCafterCallogeneicChematopoieticCstemCcelltransplantation(HSCT)C,CwhichCcanCleadCtoCsevereC.brosisCofCtheCocularCsurface.CHere,CweCreportCaccumulationCofCdonor-derived.broblastsaroundthefornixoftheconjunctivainananimalmodelofcGVHD.Eight-week-oldmaleB10.D2mouseandage-matchedfemaleBALB/cmicewereusedasdonorsandrecipients,respectively,tocreatesclerodermatouscGVHD.BALB/cintoBALB/ctransplantrecipientswereusedascontrols.Usingconjunctivaltis-suesectionsat3weeksafterHSCT,wefoundaccumulationofsmall.broblasts,markedbytheirmarkerHSP47,withintheconjunctivalfornixandsurroundingtheori.ce’soflacrimalglandmainducts.AfterHSP47staining,weperformedCY-chromosomeC.uoresceinCin-situChybridization(Y-FISH)onCaCsingleCsection.CWeCfoundCHSP47+CY-FISH+C.broblastsConCtheCidenticalCsectionCofCtheCsameCarea.CTheseCresultsCsuggestedCthatCactivatedCdonor-derivedC.broblastsCsurroundingCconjunctivalCfornixCandClacrimalCglandCexocrineCmainCductsCareCrelatedCtoCrapidlyCprogressivedryeyerelatedtocGVHD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):693.697,C2018〕Keywords:慢性移植片対宿主病,モデルマウス,線維化,ドナー由来線維芽細胞,Y-染色体CFISH,結膜.chron-icgraft-versus-hostdisease,mousemodel,.brosis,donor-derived.broblast,Y-chromosomeFISH,conjunctiva.Cはじめに造血幹細胞移植は年々増加傾向にあり,眼科領域の合併症対策も重要性が増している1).造血幹細胞移植の晩期合併症の一つである慢性移植片対宿主病(chronicCgraft-versus-hostdisease:cGVHD)によるドライアイは,移植後眼科領域の合併症のなかでもっとも多く,移植例の約C50.60%に生じるとされている2).cGVHDによるドライアイは難治例に進行する場合も多く,治療に苦慮するのが現状であり,病態の発症と進展に至る進行過程の解明と,よりよい治療法の確立が課題である3).筆者らはこれまでにCcGVHDにより障害を受けた症例の涙腺に過剰な細胞外器質の蓄積による病的線維化と活性化ドナ〔別刷請求先〕小川葉子:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YokoOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANー由来線維芽細胞の集積を認め,これらが涙腺の機能不全の原因となり,cGVHDによるドライアイの病態形成にかかわることを報告した4).さらにモデルマウスを用いた病態の検討で,涙腺,皮膚,消化管にドナー由来間葉系幹細胞が生着し集積していることを報告した5).臨床ではCcGVHDによる結膜病変の特徴として瞼球癒着,結膜.短縮,眼瞼線維性血管膜形成などとともに,ドライアイの発症後急速に眼表面の線維化が進行する6,7).今回筆者らは,確立されたモデルマウスを用いて,cGVHDモデルマウスの結膜.に集積するドナー由来線維芽細胞を見いだしたので報告する.CI方法8週齢のCB10.D2雄(H-2d)マウスの骨髄細胞(1C×106)と脾臓細胞(2C×106)を,放射線照射後(7.0Cgray)の週齢が一致した雌CBALB/c(H-2d)レシピエントマウスに移植し,cGVHDモデルマウスを作製した8).cGVHDが発症することが確認されている骨髄移植後C3週時に,レシピエントの標的組織である結膜粘膜の組織所見を解析した.病理切片にて結膜.の線維芽細胞の局在を確かめるために,ホルマリン固定パラフィン切片を用いて,線維芽細胞のマーカーとしてコラーゲン特異的分子シャペロンでありコラーゲン産生細胞の指標であるCheatCshockCproteinC47(HSP47)(CatalogCnum-ber;ADI-SPA-470-F,CClone名;M16.10A1,アイソタイプCIgG2b,ENZO,NewYork,USA)の発現を検討した.パラフィン切片を用いオートクレーブを用いた抗原賦活化法によりCHSP47の発現が良好に認められることを確認した.本抗体はマウスに交叉性がありマウス切片で紡錘形線維芽細胞を検出できることを確認した.Y染色体の検出にはCstarCFISHCkit(1200-YMCY3-02,Cambio,CCambridge,CU.K.)を用いてこれまでに報告されている方法に従って行った9).活性化線維芽細胞がドナー由来かを検討するために,雄ドナーマウスから雌レシピエントマウスに移植したマウス結膜切片で蛍光免疫染色によりHSP47の発現の検討し,HSP47陽性線維芽細胞像を蛍光画像を共焦点顕微鏡(ZEN900LSMconfocalmicroscope,Zeiss,Germany)で取得したのち,カバーグラスをはずして同一切片で雌レシピエント切片でのCY-染色体の検出を試みた.HSP47蛍光染色を施行した組織切片と同一切片でCY-染色体.uoresceinCin-situChybridization(Y-FISH)施行後,共焦点顕微鏡下でCHSP47を発現する細胞と同一部位を探しCY-染色体陽性シグナルを探し検討した.HSP47蛍光染色とCY-FISH方法を以下にまとめて記載する.ホルマリン固定パラフィン切片を用いてキシレンにて脱パラフィン後,エタノール系列C95%,80%,60%,30%の順に各C5分間ずつ浸漬し親水化を行った.抗原賦活化液に切片を浸漬し,オートクレーブを用いてC120℃C20分の抗原賦活化を行ったのち,正常ヤギ血清をC30分反応,抗ヒトHSP47抗体(マウスに交叉性有り)をオーバーナイトC4℃で反応後,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄,AlexaC488標識ヤギ抗マウス二次抗体を核染色物質CTO-PRO-3(T3605;サーモフィッシャー)と混合してC45分反応させた.PBSで洗浄後,退色防止剤入りマウント剤で封入した.共焦点顕微鏡で画像を取得後,カバーグラスをはずし,Y-FISHの行程に移行した.Y-FISHはC0.2N塩酸でC20分間反応させ,次にC80℃に予備加熱したチオシアン酸ナトリウム溶液(32002-32,ナカライテスク)にC10分間浸漬し,PBS洗浄を行った.37℃に予備加熱したペプシン溶液に切片をC10分間浸漬した後,グリシン溶液(161-18713,和光)にC1分間位浸漬した.PBSで洗浄後,4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液を添加,2分間で組織を固定した.PBSで洗浄後,エタノール系列(30%,60%,80%,95%,100%)の順に各C1分間浸漬し脱水を行い風乾したのち,組織上にCY-染色体CFISHプローブ溶液を添加した.カバーガラスを用いて空気が入らないように被覆し,四隅をシールで封入した.75℃C10分間ディネイチャー後,プローブを載せた組織片スライドガラスを湿潤箱に入れアルミ遮光し,37℃でオーバーナイトでハイブリダイゼーションを行った.16時間後,カバーガラスのシールを取り除きC37℃に予備加熱した脱イオン化溶液で洗浄後,2C×塩化ナトリウム,クエン酸ナトリウム溶液(standardCsalineCcitrate:SSC)溶液で洗浄,37℃に予備加温したC10%CTween20+4×SSC溶液でC10分間洗浄,PBS洗浄,TOPRO-3を用いて核染色を行った.洗浄後,同様に退色防止剤入り蛍光用マウント剤で封入しコンフォーカル共焦点顕微鏡で再度同一部位を探し撮影した.CII結果雄マウスパラフィン切片を用いた陽性コントロール切片ではCY染色体CFISHのみの検討では,結膜(図1a),網膜(図1b),脾臓細胞(図1c)ともにC95%以上の細胞にCY染色体の陽性像が観察され,Y-FISH単独での手技でCY-染色体を検出できることを確認した(図1).同種同系骨髄移植後のコントロールマウス結膜.においては結膜上皮,間質ともに炎症および線維化所見に乏しく正常結膜に類似していた(図2a).次に,同種異系骨髄移植後のCcGVHDモデルマウス結膜.を観察すると,コントロールに比して結膜上皮,間質に炎症細胞浸潤と(図2b)と線維化(図2c)を認めた.次に雄の野生型CBALB/cマウス涙腺のフォルマリン固定パラフィン組織切片を用いて,同一切片上でCHSP47の発現(図2d,上)とCY染色体CFISH(図2d,下)を検討し,蛍光結膜Y-FISH陽性コントロール網膜Y-FISH陽性コントロール脾臓細胞Y-FISH陽性コントロールabc図1雄BALB/cマウス結膜,網膜,脾臓細胞における陽性コントロールとしてのY.FISHシグナル像a:組織切片結膜.b:組織切片網膜.c:サイトスピンによる脾臓細胞.スケールバーa,c=25μm,b=50Cμm.染色とCY-FISHを同一切片で行う陽性コントロールとした.その結果,Y-FISHシグナルの検出率は単独でCY-FISHを行う場合より低下したが,約C80%以上の細胞にCY-FISHシグナルを検出した(図2d,下).野生型マウス陽性コントロール切片においては正常組織であるため,HSP47陽性細胞はわずかであった.次に雌野生型マウス陰性コントロール組織切片を検討すると,野生型の正常組織であるためCHSP47陽性細胞はわずかで,活性化に乏しかった(図2e,上).同一切片の陰性コントロール組織切片では,雌マウス由来の組織のため偽陽性と思われるC1個のシグナルを除いて,Y-FISHシグナルは認められなかった(図2e,下).これらの結果より,同一切片上での免疫染色との複合方法によるCY-FISHを行ってもY-FISHシグナルは検出できることを確認した(図2d,下).次にCcGVHDモデルマウス結膜.の同一切片では,HSP47染色所見では(図2f,上)結膜.周囲に集積する多数の小型のCHSP7陽性活性化線維芽細胞を認めた.同一切片上のCY染色体CFISHシグナルを線維芽細胞とほぼ同一部位に認め,多数のCHSP47+線維芽細胞が集積する部位に一致して,Y-FISH+細胞を検出した(図2f,下).これらの結果はCcGVHDモデルマウスにおいて結膜線維化が高度で,結膜.および涙腺排出導管付近に多数のドナー由来の活性化線維芽細胞が集積していることを示唆していた.CIII考按慢性移植片対宿主病によるドライアイは瞼球癒着,結膜.短縮などの結膜線維化により重症化する例が多く認められる.骨髄移植では,移植前に大量化学療法,放射線療法などで炎症の前段階が生じている.骨髄移植後早期に生じる急性GVHDや感染などにより骨髄移植の標的臓器には骨髄細胞を動員するホーミングシグナルが存在すると考えられる10).これまでの筆者らの研究で,ヒト涙腺に集積するドナー由来線維芽細胞の存在を見いだし報告した4).病変部に集積する線維芽細胞の約半数がドナー由来であり,その割合はCcGVHDモデルマウスにおいても一致していた5).今回の検討では,cGVHDモデルマウスを用いて,マウス結膜.の線維化部位に多数の小型のドナー由来線維芽細胞を見いだした.これらの活性化線維芽細胞の集積は結膜.の瞼球癒着や,結膜.短縮が生じる過程の主要な役割を果たすと考えられた.実験過程の改善点としては,活性化線維芽細胞のマーカーとして使用しているCHSP47の発現をパラフィン切片上で調べるために,抗原賦活化としてオートクレーブを用いてC120℃20Cminという強い熱処理が必要である.HSP47の蛍光染色の過程と同一切片でCYFISHを行う過程で,カバーグラスをはずすときに組織が若干移動する可能性があり,完全に一致した部位での細胞の検出がむずかしかった.その他,実験過程での温度の設定の変化,組織切片ではCY染色体の検出部位が組織の薄切により短縮されている染色体もある可能性があるため,検出率がC100%に至らない原因の一つと考えられた.免疫染色とCFISHの複合手技はC3.4日を要し,熱処理などの工夫に苦慮するためドナーにCGFPマウスを使用してホルマリンで短時間弱く固定後の凍結切片を用いてドナー細胞を検出するアプローチが現実的である.しかし,免疫染色でパラフィン切片にのみ染色される分子と複合法で検出する必要がある場合は本方法によるアプローチが必要である.GFPマウスを入手できない場合などにおいては,ドナーが雄,レシピエントが雌の切片を用いてCY-FISH法によるドナー細胞の多角的なアプローチによる検出方法も有用であると考えられた.臨床的に,結膜.には多数の涙腺の排出導管が開口する部位であり,この部位の過剰な線維化は排出導管の閉塞の原因の一つとなりうる.そのため,結膜.への活性化線維芽細胞の集積は,造血幹細胞移植後のドライアイの発症や進展過程に関与する可能性があると考えられた.また,これらのドナControlcGVHDcGVHD陽性control陰性controlcGVHDY.FISH/TOPRO.3HSP47/TOPRO.3図2cGVHDモデルマウス結膜.におけるドナー由来線維芽細胞の検出a:同種同系骨髄移植後のコントロールマウス結膜..ヘマトキシリン・エオジン染色.結膜上皮,間質ともに炎症および線維化所見は乏しい.結膜.(*).b,c:同種異系骨髄移植後のCcGVHDモデルマウス結膜..b:ヘマトキシリン・エオジン染色.c:マロリー染色.コントロールCaに比して結膜上皮,間質に炎症細胞と線維化を認める.結膜.(*).スケールバーCa,Cb,Cc=50Cμm.Cd:雌マウス涙腺同一切片のCHSP47(緑)の発現(d,上)とCY染色体FISH(赤)(d,下)陰性コントロール.核(青).e:雄マウス涙腺同一切片のCHSP47(緑)の発現(e,上)とCY染色体CFISH(赤)(e,下)陽性コントロール.核(青).f:cGVHDモデルマウス結膜.の同一切片のCHSP47(緑)の発現(f,上)とCY染色体CFISH(赤)(f,下).核(青).結膜.周囲に集積する多数の小型のCHSP7陽性活性化線維芽細胞とY-染色体陽性シグナル.結膜.(*).スケールバーCd,e,f=50Cμm.Cー由来線維芽細胞を制御することにより,難治性の眼表面線文献維化を抑制することが可能になるのではないかと考えられ1)JagasiaCMH,CGreinixCHT,CAroraCMCetCal;NationalCInsti-た.今後,ドナー由来線維芽細胞がCcGVHDによる難治性眼tutesCofCHealthCConsensusCDevelopmentCProjectConCCrite-表面線維化の発症と進展の過程に時間的,空間的にどのようriaCforCClinicalCTrialsCinCChronicCGraft-versus-HostCDis-ease:I.CTheC2014CDiagnosisCandCStagingCWorkingCGroupCに関与するか,さらに多様な薬剤投与によりその動態がどのreport.BiolBloodMarrowTransplantC21:389-401Ce381,Cように変化するかを詳細に調べることが必要と考えられた.20152)ShikariCH,CAntinCJH,CDanaCR:OcularCgraft-versus-hostdisease:areview.SurvOphthalmolC58:233-251,C2013利益相反:利益相反公表基準に該当なし3)TungCI:Currentapproachestotreatmentofoculargraft-versus-hostdisease.IntOphthalmolClinC57:65-88,C20174)OgawaCY,CKodamaCH,CKameyamaCKCetCal:DonorC.bro-blastchimerisminthepathogenic.broticlesionofhumanchronicCgraft-versus-hostCdisease.CInvestCOphthalmolCVisCSciC46:4519-4527,C20055)OgawaCY,CMorikawaCS,COkanoCHCetCal:MHC-compatibleCboneCmarrowCstromal/stemCcellsCtriggerC.brosisCbyCacti-vatingChostCTCcellsCinCaCsclerodermaCmouseCmodel.CElifeC5:e09394,C20166)RobinsonMR,LeeSS,RubinBIetal:Topicalcorticoste-roidCtherapyCforCcicatricialCconjunctivitisCassociatedCwithCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBoneCMarrowCTrans-plantC33:1031-1035,C20047)JabsCDA,CWingardCJ,CGreenCWRCetCal:TheCeyeCinCboneCmarrowCtransplantation.CIII.CConjunctivalCgraft-vs-hostCdisease.ArchOphthalmolC107:1343-1348,C19898)ZhangCY,CMcCormickCLL,CDesaiCSRCetCal:MurineCsclero-dermatousCgraft-versus-hostCdisease,CaCmodelCforChumanscleroderma:cutaneousCcytokines,Cchemokines,CandCimmunecellactivation.JImmunolC168:3088-3098,C20029)SugimotoCH,CMundelCTM,CSundCMCetCal:Bone-marrow-derivedCstemCcellsCrepairCbasementCmembraneCcollagenCdefectsCandCreverseCgeneticCkidneyCdisease.CProcCNatlCAcadSciUSAC103:7321-7326,C200610)SharmaCM,CAfrinCF,CSatijaCNCetCal:Stromal-derivedCfac-tor-1/CXCR4signaling:indispensableroleinhomingandengraftmentCofChematopoieticCstemCcellsCinCboneCmarrow.CStemCellsDevC20:933-946,C2011***

生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙囊鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価

2018年5月31日 木曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(5):689.692,2018c生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測による涙.鼻腔吻合術鼻内法の客観的術後評価谷吉オリエ鶴丸修士公立八女総合病院眼科CObjectiveEvaluationofSurgicalOutcomeofEndonasalDacryocystorhinostomyUsingTearMeniscusHeightMeasurementafterSalineInstillationOrieTaniyoshiandNaoshiTsurumaruCDepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital目的:生理食塩水点眼後の涙液メニスカス高計測により涙.鼻腔吻合術の治療効果を評価する.対象および方法:対象は涙.鼻腔吻合術鼻内法を施行した涙道閉塞C24例C24側(平均C71.8歳).術前,手術C1.2カ月後,3.5カ月後,6.11カ月後,12カ月以降に前眼部光干渉断層計を用いて,自然瞬目下で,生理食塩水点眼前と点眼後C20秒ごとC2分間の下眼瞼涙液メニスカス高を記録した.結果:術前の涙液メニスカス高(中央値)は,点眼試験前C471Cμm,点眼試験2分後761Cμmであった.術後C1.2カ月では点眼試験前C218Cμm,点眼試験C2分後C447Cμmで,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下し,術後C3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も同様に術前より低値を示した.結論:本法は侵襲が少なく,涙道治療効果の客観的評価法として有用と考えられた.Toevaluatethesurgicaloutcomeofendonasaldacryocystorhinostomy(En-DCR)bymeasuringthelowertearmeniscusheight(TMH)aftersalineinstillation.Thisstudyincluded24eyesof24patients(meanage,71.8years)CwithCnasolacrimalCductCobstructionCwhoCunderwentCEn-DCR.CTheClowerCTMHCwasCmeasuredCwithCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCbeforeCsurgeryCandCatC1CtoC2Cmonths,C3CtoC5Cmonths,C6CtoC11CmonthsCandC12Cmonthsorlateraftersurgery.Eachmeasurementwasperformedbeforesalineinstillationandevery20secondsfor2CminutesCafterCinstillationCinCnaturalCblinkingCconditions.CPreoperativeCTMHCwasC471CμmCbeforeCsalineCinstillationCand761Cμm2minutesafterinstillation.TMHduringpostoperative1to2monthswas218Cμmbeforesalineinstilla-tionand447Cμm2minutesafterinstillation,asigni.cantdecreasecomparedwithpreoperativeTMH.PostoperativeTMHsat3to5months,6to11monthsand12monthsorlateraftersurgerywerealsolowerthanpreoperativeTMH.TMHmeasurementwithsalineinstillationisminimallyinvasiveandusefulinobjectivelyevaluatingtheout-comeofEn-DCR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):689.692,C2018〕Keywords:涙.鼻腔吻合術鼻内法,涙液メニスカス高,点眼試験,前眼部光干渉断層計.endonasalCdacryocysto-rhinostomy(En-DCR),tearmeniscusheight(TMH),instillationtest,anteriorsegmentopticalcoherencetomog-raphy.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の手術治療として基本的な術式であり,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasalCdacryocystorhinostomy:En-DCR)は涙.のCmarsupialization(涙.内腔を満開の花弁のように展開すること)の概念1)が広められ飛躍的に成功率が向上した2).その治療効果は,自覚症状や吻合孔形成状態,通水検査により判断されることが一般的だが,近年では光干渉断層計を用い低侵襲で涙液貯留量を評価する方法が報告されている3.6,9).今回,En-DCRの治療効果を客観的に評価することを目的として,生理食塩水を用いた点眼試験により涙液動態評価を試みたので報告する.〔別刷請求先〕谷吉オリエ:〒834-0034福岡県八女市高塚C540-2公立八女総合病院眼科Reprintrequests:OrieTaniyoshi,DepartmentofOphthalmology,YameGeneralHospital,540-2Takatsuka,Yame,Fukuoka834-0034,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(125)C689I対象および方法2014年C11月.2016年C2月までに当科でCEn-DCRを施行した24例24側(女性23側,男性1側),年齢は42.83歳(71.8C±8.7歳)を対象とした.涙道内視鏡所見による涙道の閉塞部位の内訳を図1に示す.En-DCRは全例全身麻酔下にて施行した.鼻粘膜を中鼻甲介起始部から弧状に切開したのち,鼻粘膜をC.ap状に形成し上顎骨を露出させた.上顎骨をケリソンパンチ(回転式および通常型),上方の厚い部分は骨ノミを用いて内総涙点の高さまで切除し,涙.を露出させ,眼科用クレセントナイフにて涙.を切開,できるだけ大きく展開した.涙.前弁は鼻粘膜と,涙.後弁は温存した鼻粘膜と並置し,血漿分画製剤(ボルヒールCR,べリプラストRP)を塗布して接着させた.涙管チューブ(LACRIFASTCR)を挿入し,タンポナーデとしてベスキチンガーゼを挿入し手術終了した.術後C1カ月は1.5%レボフロキサシンとC0.1%フルオロメトロン点眼,およびモメタゾンフランカルボン酸エステル水和物点鼻薬を継続した.涙液メニスカスの撮影は自然開瞼,自然瞬目を指示し,他の眼科学的検査に先がけて行った.前眼部COCT(NIDEK製光干渉断層計CRS-3000Advance)を用いて涙液メニスカス高(tearCmeniscusCheight:TMH)を計測した後,5Cmlの点眼ボトルで常温の生理食塩水をC1滴点眼し,20秒ごとC2分間を経時的に撮影した(以下,点眼試験とする).OCT測定プログラムは,スキャンポイント数C1,024,スキャン長4.0Cmmの隅角ラインで,下眼瞼の角膜中央を通る垂直ラインで撮影した.TMHはCOCTで撮影できたメニスカス断面の上下の頂点から引いた垂線の長さを測定した.一人の検者が撮影および解析を行い,アーチファクトなどによりCOCT像が解析不能であった場合は除外した.点眼試験は,術前(n=24),En-DCRC1.2カ月後(n=20),3.5カ月後(n=24),6.11カ月後(n=21),12カ月以降(n=12)に施行し,統計学的解析はCWilcoxonCt-testwithCBonferroniCcorrectionを用いてCTMHの術後変化を検討した.CII結果術後に,18側(75%)は流涙が自覚的に改善し,骨窓形成や通水が良好で解剖学的交通があった.自覚症状は残存するが解剖学的交通があるのがC4側(17%),涙小管の狭小化や骨窓の膜状再閉塞により追加涙道治療が必要だったのはC2側(8%)であった.En-DCR術前のCTMHは,点眼試験前C479C±235Cμm(中央値471μm),点眼試験2分後C808C±312Cμm(761Cμm)であった.術後C1.2カ月では点眼試験前C222C±107Cμm(218広範型鼻涙管閉塞広範型鼻涙管閉塞+眼瞼下垂広範型鼻涙管閉塞+涙小管閉塞広範型鼻涙管閉塞+総涙小管閉塞限局型鼻涙管閉塞総涙小管閉塞急性涙.炎副鼻腔炎術後10430246810(側)図1閉塞部位ごとの症例数(n=24)μm),点眼試験C2分後C501C±376Cμm(447Cμm)となり,点眼試験前も点眼試験後も有意に低下していた(p<0.01).術後3.5カ月,6.11カ月,12カ月以降に実施した点眼試験も術前より低値を示した(図2).図3に急性涙.炎で術後再閉塞した症例の点眼試験結果を示す.術前CTMHは約C800Cμmであったが,En-DCR1カ月後は点眼試験前後ともCTMHが低下した(図3a).2カ月後は点眼試験後にCTMH上昇傾向があったものの,自覚も通水検査も良好だった(図3b).6カ月後には,眼脂症状の訴えがあり,TMHは術前とほぼ同程度の高値を示し,吻合孔の膜状再閉塞および涙小管高度狭窄がみられた(図3c).そのため,En-DCR9カ月後に,涙管チューブ挿入術〔LacrifastEX(カネカ)外径C1.5mm,全長C105mm〕を施行した.チューブ留置C1.5カ月(En-DCR11カ月後)で再びCTMHが低下し(図3d),チューブ留置C4カ月(En-DCR14カ月後)では点眼試験後CTMHの上昇がみられた(図3e)が,チューブ抜去(En-DCR16カ月後)すると点眼試験後CTMHも低値を示した(図3f).CIII考按前眼部OCTは低侵襲で涙液メニスカスを観察できるため,刺激などで容易に量的変化が生じる涙液を評価するには大変有用なツールであるが3.5),DCR後のCTMHを経過観察した研究は少ない.DCR鼻外法例を対象にCTMHを検討した研究6)では,中央値が術前C707Cμm,術後C2週目C334Cμm,術後2カ月C278μm,術後C6カ月C277μmで術直後から有意にTMHが低下したと報告しているが,これまでCEn-DCRに関しては細隙灯顕微鏡によるCTMH測定7)の他にはない.今回の点眼試験前CTMH中央値は,術前C471Cμm,手術1.2カ月後C218μm,3.5カ月後C262μm,6.11カ月後C269μm,12カ月以降C275Cμmで,点眼試験後CTMHも術後の全時期で低下したことから,En-DCRにおいても術後の涙液貯留690あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(126)C1,5001,0005000点眼試験前20.40.1’1’20.1’40.2’■術前■1~2M■3~5M■6~11M■12M~図2涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)術前後の点眼試験結果術後C1.2カ月から点眼試験前と点眼試験後すべての涙液メニスカス高(TMH)が低下し,術後C12カ月経過しても効果は継続していた.En-DCR前1M(a)量低下を評価できた.2M(b)本法を涙管チューブ挿入術施行例で行うと,術前,涙管チューブ留置中,涙管チューブ抜去後の順でCTMHが低下す6M(c)チューブ留置1.5M(d)チューブ留置4M(e)る4)が,CEn-DCRは術後C1.C2カ月には涙管チューブ抜去後抜去1M(f)と同等の低下を示した(図4).CDCRは術後早期から自覚症1,000状や通水が改善し,涙管チューブ挿入術よりも確実な治癒が800TMH(μm)期待できる8)とされている.通水検査は解剖学的交通を確認するために有用な検査ではあるが,通常時の涙液動態と異なり涙点への涙洗針の挿入や水圧が加わるため,軽微な膜状閉塞などは検出できない可能性があるが,通水検査以外の客観的方法においてもCDCRの早期治癒効果が実証できたと考え6004002000ている.点眼試験は健常者でも年齢によって結果が異なり,点眼C2分後平均CTMHは,60歳未満C247.1Cμm,60歳以上C452.0Cμmで,高齢群は点眼試験後CTMHが有意に高値になる3).また,涙管チューブ挿入術成功例を対象にした場合,点眼C2分後平均TMHは458Cμmであった4).点眼試験に関するこれまでの研究をまとめると,En-DCR術後(対象平均C71.8歳)は健常者の高齢群,涙管チューブ挿入術成功例とほぼ同等であるが,健常者の若年群ほどは低下しないということがわかった(図5).FujimotoらはCEn-DCR術後C2カ月時点で涙液クリアランスを評価したところ,術後メニスカスは低下するが,若い正常者に比べると涙液排出機構は不完全と報告している9).今回対象の平均年齢はCEn-DCRも涙管チューブ挿入術もC70歳前後であり,涙道閉塞以外にも結膜弛緩や眼瞼下垂などの加齢に伴う機能的導涙障害が含まれていると想定されるが,いずれの涙道治療を選択しても年齢相応の涙液排出力が期待できることが示唆された.涙液に量的負荷をかけた場合,点眼後C2分間は反射分泌および量的負荷状態における急速相があり,その後基礎分泌下(127)図3涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)後に再閉塞した症例(82歳,女性)の点眼試験経過の緩徐相が生じる3,10.12).点眼試験を用いた過去の研究で点眼C2分以降に有意なCTMH変化がなかったことから,今回は測定時間を点眼C2分間に設定した.そのため真の意味での涙あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6911,000NLDI前チューブ留置中En-DCR前1~2M3~6M1,500チューブ抜去後median1,5006~12M12M~median5001,00050000’.1’.240’.1’2’1.20’1.40’1.20’1NLDIEn-DCRTMH(μm)8006004002000図4涙管チューブ挿入術(NLDI)4)と涙.鼻腔吻合術鼻内法(En.DCR)の比較NLDIはチューブ抜去までの過程において涙液メニスカス高(TMH)が漸減するが,En-DCRは術後早期からCTMHの低下があり,効果も持続した.youngnormal3)oldnormal3)文献postNLDI4)En-DCR(post6~12M)1)CTsirbasCA,CWormaldCPJ:CMechanicalCendonasalCdacryo-cystorhinostomyCwithCmucosalC.aps.CBrCJCOphthalmolC87:C43-47,C20032)鈴木亨:目指せC!眼の形成外科エキスパート(第C30回)涙道編DCR鼻外法Cvs鼻内法.臨眼71:C226-230,C20173)谷吉オリエ,鶴丸修士:生理食塩水点眼による涙液メニスカス高の経時的測定.あたらしい眼科33:C1209-1212,C20164)谷吉オリエ,鶴丸修士:涙管チューブ挿入術後の点眼負荷による涙液メニスカス高の検討.あたらしい眼科C34:C1314-1317,C2017’.240’1.20’1’.15)鈴木亨:光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価.あたらしい眼科30:923-928,C20136)OhtomoCK,CUetaCT,CFukudaCRCetCal:TearCmeniscusCvol-umeCchangesCinCdacryocystorhinostomyCevaluatedCwithC図5点眼試験の対象別比較涙.鼻腔吻合術鼻内法(En-DCR)の点眼試験後涙液メニスカス高(TMH)は健常者の高齢群3),涙管チューブ挿入術(NLDI)成功例4)と同等であるが,健常者の若年群3)ほどは低下しない.液のターンオーバーは不明だが,TMHを指標とした残留涙液貯留量が評価できた.TMHは細隙灯顕微鏡で観察できるメニスカスの様子を直感的に表現でき,眼科スタッフによる検査が可能なため臨床上大きな利便性があるが,瞬目などによる測定誤差要因も多い5).本法は眼科で頻用される点眼ボトルを用いるため,負荷量の大半は結膜.から流出してしまい標準偏差が大きくなる.そのためCTMHの基準値を定めることはむずかしいが,固体内での治療評価や再閉塞などによる涙液動態の変化は検出できる可能性があり,涙道治療の客観的評価法として有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし692あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018quantitativeCmeasurementCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:C2057-2061,C20147)RohCJH,CChiCMJ:E.cacyCofCdyeCdisappearanceCtestCandCtearCmeniscusCheightCinCdiagnosisCandCpostoperativeCassessmentCofCnasolacrimalCductCobstruction.CActaCOph-thalmolC88:e73-e77,C20108)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適応と手術成績.眼臨紀4:650-652,C20119)FujimotoCM,COginoCK,CMiyazakiCCCetCal:EvaluationCofCdacryocystorhinostomyCusingCopticalCcoherenceCtomogra-phyandrebamipideophthalmicsuspension.ClinOphthal-molC8:1441-1445,C201410)ZhengX,KamaoT,YamaguchiMetal:NewmethodforevaluationCofCearlyCphaseCtearCclearanceCbyCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmolC92:105-111,C201411)井上康,越智進太郎,山口昌彦ほか:レバミピド懸濁点眼液をトレーサーとして用いた光干渉断層計涙液クリアランステスト.あたらしい眼科31:615-619,C201412)坂井譲,井上康,越智進太郎:前眼部光干渉断層計を用いたレバミピド懸濁粒子濃度測定.あたらしい眼科C31:C1867-1871,C2014(128)

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討

2018年5月31日 木曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(5):684.688,2018c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CE.cacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutionasAdjunctiveTherapyinGlaucomaPatientsMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinic目的:リパスジル点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.対象および方法:2016年C4.6月にリパスジル点眼液を追加投与した緑内障患者C55例C77眼を対象とした.診療録から後ろ向きに検討し,追加前眼圧と追加後C1,C3,6,9,12カ月の眼圧値,経過中の有害事象につき検討した.結果:12カ月以上点眼継続例はC39眼(51%)であり,眼圧はC18.0±5.4CmmHgからそれぞれC14.9±3.1,15.2±3.1,15.5±3.7,15.1±4.4,14.9±3.7CmmHgと有意に下降し(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,ANOVA),平均眼圧下降率はC13.6%であった.追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.途中中止例C28眼の原因は有害事象(眼瞼炎とアレルギー性結膜炎)がC12眼,手術施行がC10眼,効果不十分がC6眼であった.併用点眼変更例C4眼と内服追加例C6眼については継続例から除外した.結論:リパスジル点眼液追加投与により眼圧下降効果を認め継続点眼したものは全体のC51%であった.眼局所の有害事象による点眼中止をC16%に認めた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionasadjunctivetherapyinglauco-ma.SubjectsandMethods:Intraocularpressure(IOP)changeandadversee.ectafteradjunctiveuseofripasudilwereCretrospectivelyCstudiedCinC77CeyesCofC55CglaucomaCpatients.CResults:AnCaverageCofC2.8±0.7Canti-glaucomamedicationswereinuseatstartup;39eyesreceivedcontinuoustreatmentfor12months.IOPatbaselineandat1,3,6,9and12monthsafterripasudiladditionwas18.0±5.4,C14.9±3.1,C15.2±3.1,C15.5±3.7,C15.1±4.4CandC14.9±3.7CmmHg,respectively,withsigni.cantIOPreductionatalltimeperiods.Therewassigni.cantpositivecorrelationbetweenCIOPCchangeCandCbaseline.CRegimenCwasCdiscontinuedCinC28CeyesCbecauseCofCblepharitis(9Ceyes),Callergicconjunctivitis(3),CglaucomaCsurgery(10)andCnoCIOP-loweringCe.ect(6).CPatientsCwhoCreceivedCadditionalCoralmedications(6)orCchangedCtoCotherCglaucomaCeyedrops(4)wereCexcludedCfromCtheCcontinuousCtreatmentCgroup.CConclusion:In51%ofthetotal,instillationwascontinuedwithIOP-loweringe.ect.Adversee.ects(16%)wereblepharitisandallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):684.688,C2018〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与,眼圧,安全性.ripasudilophthalmicsolution,adjunctivetherapy,in-traocularpressure,safety.Cはじめにトリクスの産生抑制,傍CSchlemm管内皮細胞の透過性亢進リパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼液)により,主経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させるは,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬の緑内障点眼薬である.ものである1.3).緑内障治療において眼圧下降効果が唯一効その作用機序は,線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マ果の認められている緑内障進行阻止方法であることから,新〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPAN684(120)たな眼圧下降機序による緑内障点眼は治療の選択肢を増やし,追加点眼として選択薬の一つとなりうる.しかし,これまでの報告は緑内障病型と対象患者を限ったものであり,実際の臨床に基づく眼圧下降効果と安全性についての報告は少ない.今回,緑内障病型を問わずリパスジル点眼液の追加処方症例における眼圧下降効果と有害事象発生率について検討した.CI対象および方法永田眼科に通院中の緑内障患者で,緑内障病型は問わず,2016年C4月C1日.6月C30日までにリパスジル点眼液を追加処方した全症例を診療録から後ろ向きに検討した.なお,本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.リパスジル点眼液追加前の眼圧と,処方C1,3,6,9,12カ月後の眼圧と有害事象を調査し,点眼継続例と途中中止例に分類した.継続例については眼圧下降効果を検討し,中止例についてはその原因を検索した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で診療時間内に測定した.配合剤はC2剤として計算した.解析方法として,unpairedCt-test,CpairedCt-test,CKruskal-WallisCtest,chi-squareCtest,PearsonC’sCcorrelationCcoe.cientCtest,one-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで有意差がみられた場合はCDunnettの多重比較を行った.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例と継続例の患者背景を示した.全症例C61例86眼のうち,自己都合で点眼しなかったC2例C4眼と来院のなかったC4例C5眼を除き,55例C77眼を対象とした.内訳は男性C29例C41眼,女性C26例C36眼,平均年齢C68.7C±12.1歳,追加前平均眼圧C18.8C±4.9CmmHg,平均緑内障点眼数C2.8C±0.7剤(meanC±SD)であった.このうち,12カ月以上点眼継続可能例はC39/77眼(51%)であった.途中リパスジル点眼圧(mmHg)201918171615141312前1M3M6M9M12M投与期間(mean±SE)図1継続例の眼圧経過点眼追加前に比較して全観察期間で有意な眼圧下降を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01,one-wayANOVA+Dunnett’stestC眼液を継続しながら併用点眼の変更があったC4眼と,内服薬の追加処方があったC6眼の計C10眼(13%)は継続例の検討から除いた.図1に継続例C39眼における眼圧経過を示した.リパスジル点眼追加前の眼圧はC18.0C±5.4CmmHgであり,追加後C1,3,6,C9,C12カ月の眼圧は,それぞれC14.9C±3.1CmmHg,15.2C±3.1CmmHg,15.5C±3.7CmmHg,15.1C±4.4CmmHg,14.9C±3.7mmHgとすべての観察期間で有意に低下していた(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,one-wayANOVA+Dun-nett’sCtest).期間中の平均眼圧下降幅はC2.8C±0.3CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6C±1.0%であった.図2に継続例C39眼におけるC12カ月後の眼圧下降率の分布を示した.開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG),落屑緑内障(exfoliationCglaucoma:EXG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG),混合緑内障(combined)の病型別では,眼圧下降率がC30%以上であったのはC3眼(7%;POAG2眼,EXG1眼),20.30%未満C12眼(31%;表1患者背景全症例継続例症例数55例77眼28例39眼性別男性29例41眼11例15眼女性26例36眼17例24眼年齢C68.7±12.1歳C69.7±10.1歳追加前眼圧C18.8±4.9CmmHgC18.0±5.4CmmHg点眼剤数*C2.8±0.7(1.4剤)C2.8C±0.6(2.4剤)内眼手術既往なし35眼17眼あり**42眼22眼緑内障病期初期13眼7眼中期22眼10眼後期42眼22眼*配合剤はC2剤として計算.(mean±SD)**すべての症例で術後C3カ月以上が経過.図2継続例における12カ月後の眼圧下降率の分布12カ月後の眼圧下降率がC30%以上であったのは継続例39眼中3眼,20.30%未満12眼,10.20%未満12眼,10%未満C12眼であった.C6M12M-5051015-5051015眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)図3継続例における点眼追加前眼圧と眼圧下降幅リパスジル点眼追加C6カ月後,12カ月後とも点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.6カ月後p<0.001,r=0.735,12カ月後Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’sCcorrelationcoe.cienttest.CPOAG8眼,NTG1眼,SG3眼),10.20%未満C12眼(31%;POAG7眼,NTG3眼,EXG1眼,SG1眼),10%未満C12眼(31%;POAG6眼,NTG4眼,EXGC1眼,com-binedC1眼)であった.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかった(p=0.67,chi-squaretest).図3にリパスジル点眼液追加前眼圧と眼圧下降幅の相関を示した.点眼前眼圧と眼圧下降幅に正の相関を認めた(6カ月p<0.001,r=0.735,12カ月Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’scorrelationCcoe.cientCtest).さらに,年齢とC6カ月後の眼圧下降幅に正の相関を認めた(p<0.01,r=0.534,PearsonC’scorrelationcoe.cienttest).継続例を併用薬剤数別に分類すると,追加前平均眼圧はC2剤併用群C16.3C±4.1CmmHg,3剤C18.8C±5.1CmmHg,4剤C18.5C±10.3CmmHgと追加前眼圧に有意差なく(p=0.22,Krus-kal-WallisCtest),リパスジル点眼追加後の平均眼圧下降率はそれぞれC14.0C±3.8%,13.1C±3.4%,13.8C±4.1%であり,併用薬剤数別の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.87,Kruskal-Wallistest).途中点眼中止例はC28/77眼(36%)であった.有害事象による点眼中止はC12/77眼(16%)であり,内訳は眼瞼炎C9眼(追加1カ月後中止1眼,6カ月4眼,8カ月2眼,12カ月2眼),アレルギー性結膜炎C3眼(6カ月C3眼)であった.眼瞼炎とアレルギー性結膜炎に対する局所加療を継続しながらリパスジル点眼を継続したものはなかった.有害事象による中止例C12眼の平均緑内障点眼数はC2.4C±0.8剤であり,それ以外C55眼の平均緑内障点眼数C2.7C±0.6剤と有意差を認めなかった(p=0.24,unpairedt-test).手術施行による点眼中止がC10眼(POAG2眼,NTG1眼,EXGC5眼,SGC1眼,発達緑内障C1眼),無効と判断され点眼中止となったものがC6眼(POAGC3眼,NTGC1眼,EXG1眼,SGC1眼)であった.手術施行による点眼中止例C10眼の追加前眼圧はC21.1C±4.0mmHg,追加後C1,3,6,9カ月の眼圧はそれぞれC22.0C±7.6CmmHg(10眼),17.2C±2.3CmmHg(5眼),18.0C±3.4CmmHg(4眼),17.0C±5.7CmmHg(2眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.68,p=0.09,p=0.40,p=0.80,pairedCt-test).無効中止例C6眼の追加前眼圧はC17.3C±2.1CmmHg,追加後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC16.2C±2.3CmmHg(6眼),17.5C±2.0CmmHg(4眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.21,p=0.72,pairedt-test).副作用として眼瞼炎とアレルギー性結膜炎以外の結膜充血がC7/77眼(9%),表層角膜炎については点眼追加前から認めるものがC22/77眼(29%),そのうち点眼追加による悪化がC5/77眼(6%)あったが,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.CIII考按今回,緑内障点眼加療中の患者に対するリパスジル点眼液の追加投与により,有意な眼圧下降が得られることが示された.平均眼圧下降幅はC2.8CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6%であった.これらの結果は,従来の報告4.8)と矛盾しないものであり,多剤併用におけるリパスジル点眼液追加加療の眼圧下降効果が確認できたと考える.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかったことは,今回の研究にあるような病型においては追加点眼でさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられるが,今回の対象眼には手術既往眼を含むため,病型と眼圧下降効果の正確な評価には多数例での検討を要すると考える.今回の研究で,点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認め,追加前眼圧の高いほうがより大きな眼圧下降を得られることが示された.これは過去の報告5,6)と矛盾しないと考える.さらに,今回は年齢と眼圧下降幅に有意な正の相関がみられた.過去にも同様の報告9)がなされているが,これについてはCROCK阻害薬のターゲット細胞としての線維柱帯細胞が減少していない病期や罹患期間を考慮する必要があると考えられ,今後多数例での検討が必要であると考える.リパスジル点眼を追加薬として評価するために,併用薬剤数の影響を検討した.今回C2.4剤の併用薬剤があったが,併用薬剤数別の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.リパスジルの点眼追加効果は過去の報告10)同様,併用薬剤数の影響を受けにくいと考えられる.これはリパスジル点眼の新しい眼圧下降機序によるものと考えられ,多剤併用下における追加点眼として選択薬の一つとなりうることを示すと考える.今回の研究で点眼継続が中止となった有害事象は眼瞼炎とアレルギー性結膜炎であり,すべてリパスジル点眼の中止と眼局所加療によって軽快が得られた.その発現率はC16%であり,過去の報告4)と同様であった.発現時期はC1.12カ月とばらつきがあったが,点眼追加後C1カ月で眼瞼炎が発症した症例以外はC6カ月後以降の発症であった.過去の報告において,点眼追加後C3カ月の経過観察では眼瞼炎やアレルギー性結膜炎の発症による中止例は少なく5.8),点眼追加後C8週以降での発症が多いとする報告4)があることから,今回の研究のようにアレルギー性結膜炎や眼瞼炎は追加C6カ月後以降も発症し,眼瞼炎においてはC12カ月後も発症する傾向にあり,長期使用において念頭に置くべき副作用であると考えられる.また,これら有害事象による点眼中止症例の緑内障点眼数がそれ以外の症例と有意差を認めなかったことは,併用点眼数の多さが眼瞼炎とアレルギー性結膜炎の発症に関連しない可能性を示唆すると考えられた.有害事象の発現は診療時間内の他覚所見で判断したため,もっとも多いと考えられる一過性結膜充血に関しては評価できなかった.今回の充血症例は持続充血であると考えられ,過去の報告4,6)より少なく正確に評価できていない可能性があるが,充血による継続中止例は認めなかった.角膜上皮障害については,すでに多剤併用療法による角膜炎がみられたものの悪化症例については過去の報告5)と同様であり,角膜炎悪化による点眼中止症例はなく,多剤併用症例にも追加可能であると考えられた.今回点眼継続例と途中中止例に分類して検討したため,12カ月以上点眼が継続できたのは全体のC51%と約半数であったが,これは併用薬剤数が多く手術加療を検討しているような症例にリパスジル点眼液が追加されたことが要因の一つであると考えられる.つまり経過中の手術施行による点眼中止と炭酸脱水酵素阻害薬の内服追加による継続例からの除外をC16眼(21%)に認めた.手術施行以外に効果不十分・無効として中止となったものはC6眼(8%)であったが,手術介入の時期を含めこれらは主治医の判断によるものであり,点眼効果不十分の判断,点眼継続と中止の基準において評価判定が統一されていなかったため,無効例の検討については今後多数例での検証が必要であると考えられる.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.継続例と中止例の判断,有害事象発現率については上記のように正確に評価されていない可能性があるが,今回の検討では新たな眼圧下降機序をもつリパスジル点眼液の追加投与によって,多剤併用においてもさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられた.CIV結論リパスジル点眼液は多剤併用中でも追加投与によってさらなる眼圧下降を得る可能性のある薬剤であると考えられた.有害事象は眼局所であり重篤なものはなかったが,長期にわたりその発現に注意すべきと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalomolCVisCSciC42:137-144,C20012)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetCal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitor,CY-27632,CinducesCalterationCinCadhesion,CcontractionCandCmobilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertention.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20165)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,C20166)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,C20167)杉山哲也,清水恵美子,中村元ほか:リパスジル点眼液の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果.あたらしい眼科33:1191-1195,C20168)InataniCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCaddi-pilotstudy.ClinDrugInvestigC37:535-539,CDOIC10.1007CtionalCuseCofCripasudil,CaCRho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsC/s40261-017-0509-0,C2017withCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximumC10)InoueCK,COkayamaCR,CShiokawaCMCetCal:E.cacyCandCmedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C2017safetyofaddingripasudiltoexistingtreatmentregiments9)MatsumuraCR,CInoueCT,CMatsumuraCACetCal:E.cacyCofCforCreducingCintraocularCpressure.CIntCOphthalmol:DOIripasudilasasecond-linemedicationinadditiontoapros-10.1007/s10792-016-0427-9,C2017taglandinCanalogCinCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma:aC***

β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌による結膜下膿瘍の1例

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):679.683,2018cb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌による結膜下膿瘍の1例渡部美和子*1,2庄司純*1稲田紀子*1山上聡*1*1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*2東京女子医科大学糖尿病センター眼科CAdultCaseofSubconjunctivalAbscessCausedbyb-lactamaseNon-producingAmpicillin-resistantHaemophilusin.uenzaeCMiwakoWatanabe1,2)C,JunShoji1),NorikoInada1)andSatoruYamagami1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NihonUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity目的:b-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)による結膜下膿瘍の成人例の症例報告.症例:症例はC41歳,男性で,右眼の異物感および眼脂を主訴に,遷延化した難治性結膜炎として当院紹介受診となった.初診時,右外眼角部に排膿を伴う肉芽腫様隆起性病変を認め,膿と眼脂の細菌分離培養結果からそれぞれBLNARが検出された.頭部CMRI検査では,外眼筋付着部付近に膿瘍を認めたため,BLNARによる結膜下膿瘍と診断した.薬剤感受性試験結果を基にセフメノキシムまたはモキシフロキサシン点眼,オフロキサシン眼軟膏,およびセフポドキシムプロキセチル内服により治療を行ったところ,6カ月後に排膿は消失し,膿瘍も縮小した.結論:耐性インフルエンザ菌が原因で成人に発症したまれな結膜下膿瘍を経験した.本症例の診断には画像検査が有用であり,治療には薬剤感受性試験結果に基づく治療薬選択が重要であった.CPurpose:Wereportanadultcaseofsubconjunctivalabscesscausedbyb-lactamasenon-producingampicil-lin-resistantCHaemophilusCin.uenzae(BLNAR)C.CCase:AC41-year-oldCmaleCpresentedCtoCourCuniversityCwithCpro-longedCrefractoryCconjunctivitisChavingCforeignCbodyCsensationCandCdischargeCinChisCrightCeye.CAtCtheC.rstCvisit,Ctherewasaprotrudinggranulomatouslesionwithdrainageinrighteye’soutercanthus,andBLNARwasdetectedbybacterialculturetestofdischargeanddrainage,respectively.Inheadmagneticresonanceimaging,anabscesswasCfoundCnearCtheCholdfastCofCtheCextraocularCmuscle,CsoCweCdiagnosedCsubconjunctivalCabscessCcausedCbyCBLNAR.BasedConCdrugCsusceptibilityCtestCresults,CweCtreatedCwithCcefmenoximeCorCmoxi.oxacinCeyedrops,Co.oxacinCeyeCointmentandcefpodoximeproxetiloraladministration,leadingtodisappearanceofpusandreductionofabscessesafterC6Cmonths.CConclusion:HaemophilusCin.uenzaeCcanCdevelopCsubconjunctivalCabscessCinCadults.CInCourCcase,CimagingCexaminationCandCtreatmentCselectionCbasedConCdrugCsusceptibilityCtestingCcontributedCtoCbetterCdiagnosisCandtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):679.683,C2018〕Keywords:インフルエンザ菌,BLNAR(Cb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌),結膜下膿瘍,難治性結膜炎,涙腺排出管.Haemophilusin.uenzae,BLNAR(Cb-lactamasenon-producingampicillin-resistant)C,subconjunctivalabscess,refractoryconjunctivitis,excretoryductsoflacrimalgland.Cはじめにzae:NTHi)とに分類される.莢膜型は髄膜炎や肺炎などのインフルエンザ菌(HaemophilusCin.uenzae)はグラム陰全身感染症を引き起こしやすく,なかでもインフルエンザ菌性短桿菌であり,菌表面に莢膜多糖を有する莢膜型(a.f型)b型(H.Cin.uenzaeCtypeb:Hib)は侵襲性が高いため,感と型別不能の無莢膜型(nontypeableHaemophilusCin.uen-染予防の観点からCHibワクチンが用いられている.〔別刷請求先〕渡部美和子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学糖尿病センター眼科Reprintrequests:MiwakoWatanabe,DepartmentofDiabeticOphthalmology,DiabetesCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPANC眼科領域におけるインフルエンザ菌感染症の代表的疾患は,小児の急性結膜炎や眼窩蜂巣炎であり,その原因菌の大半をCNTHiが占めるといわれている1,2).NTHi感染症に対してCHibワクチンは予防効果をもたず,近年はCb-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(Cb-lactamasenon-producingCampicillin-resistant:BLNAR)をはじめとする耐性菌も増加したことから,眼科領域では治療に難渋するインフルエンザ菌感染症例に遭遇することがある3).今回筆者らは,治癒までに長期間を有し,涙腺排出管膿瘍が疑われたCBLNARによる結膜下膿瘍の成人例を経験したので報告する.C図1初診時の前眼部写真右眼に結膜充血を認める.外眼角部に肉芽腫様隆起性病巣を認め,同部位からの排膿もみられる.図2初診後1カ月の頭部単純MRI画像(FLAIR画像)右眼の外眼筋付着部付近に膿瘍形成を認める(.).I症例患者:41歳,男性.主訴:右眼の充血および眼脂.現病歴:バイク走行中に右眼の異物感を自覚し,同日に右眼の充血・眼脂が出現した.約C6カ月間近医C4施設で抗菌薬点眼を中心とした治療を受けた.前医で施行された眼脂の細菌分離培養検査は,初回検査では菌陰性であったが,1カ月後に再度施行された検査ではインフルエンザ菌が検出された.抗菌薬を中心とした点眼薬治療では症状改善がみられず当院紹介となった.既往歴・家族歴:特記事項なし.初診時所見:右眼の球結膜充血がみられ,結膜.内に眼脂の貯留がみられた.外眼角部には肉芽腫様の隆起病変が存在し,同部位からの排膿がみられた(図1).同日に原因菌を特定するために結膜擦過物および排膿を伴う病変部の膿の細菌分離培養検査を実施し,後日結膜擦過物からCBLNAR少数,膿からCBLNAR少数,黄色ブドウ球菌極小を認めた.表1は初診時の薬剤感受性試験結果である.アンピシリン(ABPC),アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの第一セフェム系抗菌薬やセファクロム(CCL)などの第二世代セフェム系抗菌薬に対し耐性を示した.一方でセフォタキシム(CTX)などの第三世代セフェム系抗菌薬やレボフロキサシン(LVFX)に対し感受性を示した.経過:治療としては,これまでに使用歴がないゲンタマイシン硫酸塩点眼液C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏C1日C1回を初診時に処方した.初診後C2週で症状に変化はなく,薬剤感受性試験結果を基に治療薬をセフメノキシム塩酸塩点眼液とセフポドキシムプロキセチル錠C1日C200Cmg内服へ変更した(内服薬はC5日間投与して中止した).1カ月後には,充血はほとんど変化がなかったが眼脂は減少し,再検した細菌分表1初診時薬剤感受性試験結果抗菌薬MIC(μg/ml)感受性判定CABPC4CRCABPC/SBTC4CRCCCL16CRCCTM32CRCCTXC0.5CSCCDTRPIC0.5CSCCTRXC≦0.25CSCLVFXC≦0.5CSR:耐性S:感受性ABPC:アンピシリン,ABPC/SBT:アンピシリン・スルバクタム,CCL:セファクロム,CTM:セフォチアム,CTX:セフォタキシム,CDTRPI:セフジトレンピボキシル,CTRX:セフトリアキソン,LVFX:レボフロキサシン.図3初診後6カ月の前眼部写真および頭部単純MRI画像(T1W画像)Ca:前眼部写真.外眼角部に肉芽腫様の変化が残存しているが,排膿はなく膿瘍は瘢痕治癒している.Cb:MRI画像では外眼筋付着部の膿瘍は消失している.C離培養検査ではCBLNARが陰性化していた.また,治療と同時進行で感染部位を特定するための画像診断が検討された.初診後C1カ月目に検診で撮影していた頭部単純CMRI画像(図2)を検討したところ,膿瘍は外眼筋付着部付近に限局し,眼窩内には所見を認めなかったため眼窩蜂巣炎や眼瞼膿瘍は否定的であった.初診後C3カ月目では,眼脂,結膜充血ともに軽快傾向であったが,病巣からの排膿は持続していた.膿の細菌分離培養検査ではCBLNARが検出された.また,鼻腔内の常在菌検索を目的とした鼻腔内の細菌分離培養検査を施行したが,BLNARは検出されず,鼻腔由来でないことが確認された.治療は,受診時に病巣マッサージによる排膿を繰り返すとともに,抗菌点眼薬および眼軟膏による治療を継続した.分離されたCBLNARの薬剤感受性試験結果はフルオロキノロン感受性株であったため,点眼薬をモキシフロキサシン塩酸塩点眼液C1日C4回に変更して薬物治療を継続した.眼軟膏は,初診時からのオフロキサシン眼軟膏C1日C1回(就寝前)を継続した.初診後C6カ月目で外眼角部に肉芽組織は残存したが,排膿は消失し,結膜充血は改善した(図3a).結膜.内細菌分離培養結果で菌は陰性化し,MRI画像では膿瘍が軽快していた(図3b)ため治療終了とした.CII考按今回,BLNARが原因菌と考えられる外眼角部の結膜下に膿瘍を形成した成人例を経験した.今回の細菌分離培養検査で,病巣部から排膿している膿および結膜擦過物の両者からBLNARが検出された点から,BLNARを原因菌とする結膜下膿瘍と診断した.BLNARは,Cb-ラクタマーゼを産生せず,ペニシリン結合蛋白(penicillinCbindingCprotein:PBP)そのものが遺伝子変異したインフルエンザ菌の耐性株である.臨床的には,ABPC,ABPC/SBTの他,第二世代セフェム系抗菌薬に耐性であり,CTXに代表される第三世代セフェム系抗菌薬が有効であるとされている.BLNARを原因菌とする外眼部感染症としては小児の急性結膜炎が代表であり,分離されたインフルエンザ菌のなかにCBLNARの占める割合が高いことが指摘されている4).今回のCBLNAR感染症症例は,健康な成人例であったこと,および結膜炎ではなく結膜下膿瘍を形成したことが既報との相違点であり,今回の感染症の特徴であったと考えられた.結膜下膿瘍に関しては,外傷または外眼部手術に続発して発症する例が報告されている5.7).今回の症例は外傷の既往が明確ではなく,手術歴も有しない健康成人であった.また,MRIによる画像診断により外眼筋付着部付近の結膜下に形成された膿瘍であることが明らかとなった.Brooksら8)は,外傷や手術歴のない成人女性に発症したインフルエンザ菌を原因菌とする結膜下膿瘍の症例を報告している.筆者らが経験した症例の臨床所見とCBrooksらの症例との類似点として,外眼角部の結膜下に病変が認められていること,画像診断により外眼筋付着部に膿瘍が形成されていることがあげられるが,両者ともに病変部の病理学的診断ができていないことから,感染部位を特定するには至っていない.また,眼窩隔膜前に膿瘍を形成する疾患としては涙腺膿瘍があり,本症例における鑑別診断として重要と考えられる.Ginatら9)表2本症例と既報との比較BrooksIII(Cornea,2010)Ginatら(JOII,20166:1)本症例症例診断所見画像所見原因菌治療内容経過27歳,女性結膜下膿瘍左)発赤,充血,白い分泌物,流涙左)外窩洞部に膿瘍インフルエンザ菌抗菌薬:点眼・内服(モキシフロキサシン)10日で症状改善60歳,女性涙腺膿瘍右)眼瞼腫脹,疼痛,排膿,上転・外転制限右)眼窩隔膜前蜂巣炎涙腺腫脹,液体貯留黄色ブドウ球菌外科的切開排膿抗菌薬:点眼・内服3週間で症状改善41歳,男性結膜下膿瘍(lacrimalductabscess)右)充血,眼脂,外眼角部肉芽腫様病巣から排膿右)外眼筋付着部レベルに膿瘍インフルエンザ菌本文参照6.7カ月で症状改善肉芽を残し,膿瘍消失は,ブドウ球菌が原因菌である涙腺膿瘍を報告している.本症例,Brooksらの症例およびCGinatらの症例の類似点と相違点を表2に示したが,涙腺膿瘍とするには膿瘍が形成された部位や上眼瞼の所見から否定的であった.一方,涙腺は上眼瞼挙筋の腱で隔てられ,眼窩部涙腺と眼瞼部涙腺とに分かれている.眼窩部涙腺からはC3.5本の排出管が出ており,上円蓋部外側に開口するとされている.また,眼瞼部涙腺の排出管は,上円蓋部から外眼角部にかけて,約C50個の開口部がみられるとされている10,11).本症例では,外眼部に形成された肉芽腫性病変の部位が涙腺排出管の開口部に相当していると考えられ,涙腺排出管の開口部から侵入したインフルエンザ菌により,眼瞼部涙腺の排出管に膿瘍が形成されて拡大することで結膜下膿瘍の所見を呈した可能性が考えられた.しかし,今回のCMRI画像からは,病巣部の明瞭な特定化は困難であり,また外科的処置も行わなかったため,病理学的な面からも病巣部を特定できなかったことから,本症例を結膜下膿瘍と診断した.結膜下または眼窩隔膜前に形成される膿瘍に対する抗菌薬投与は,点眼投与よりも全身投与が重要であると考えられる.既報では,結膜下膿瘍に対して全身投与をC10日間,涙腺膿瘍に対してはC3週間の投与が行われ,有効であったとされている.本症例ではセフポドキシムプロキセチル内服をC5日間投与後に培養結果で菌陰性化を示し,排膿も消失していたため抗菌薬の全身投与を短期間で終了している.しかし,後の細菌分離培養検査ではCBLNARが再検出されている.これらの経過から,セフポドキシムプロキセチル内服と抗菌薬点眼とにより結膜.内のCBLNARの菌量が一時的に減少したため培養陰性を示した可能性も考えられるが,抗菌薬内服を中止したことで残存したCBLNARが再び増加に転じたことを考えると,抗菌薬の全身投与期間が菌の完全消失するのには不十分であったことを示していると考えられた.また,自然排膿がみられていたこと,および経過期間中に結膜下膿瘍の拡大や充血,疼痛などの臨床症状の悪化は認めなかったため,抗菌薬の点滴や内服といったさらなる治療の追加を今回は行わなかった.さらに病変に対する外科的な膿瘍摘出についても当初から検討はしていたが,膿瘍部位が外眼筋付着部付近に位置していたため,医原性の外眼筋筋膜損傷を考慮し,まずは投薬による保存的治療を選択した.今回の症例では,治療にC6.7カ月の期間を要したが,膿瘍が遷延化した背景には,1)膿瘍形成部位,2)耐性菌および3)抗菌薬の種類と投与法の三つの要因があると考えられた.しかし,今回の症例の経過からは,どの要因が病状遷延化の原因であったかを特定することは困難であった.本症例のような結膜下に形成された膿瘍に対し,今回筆者らは眼窩蜂巣炎や眼瞼膿瘍との鑑別のために検討したCMRIなどの画像検査および薬剤感受性試験結果に基づく抗菌薬の局所および全身投与計画を施行した.遷延例に対しては,より病理学的な面からの感染病巣部位診断やドレナージ,膿瘍摘出などの外科的処置を積極的に考慮する必要があったのではないかと筆者らは考えている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)砂川慶介,竹内百合子,岩田敏:無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)の疫学.感染症誌85:227-237,C20112)石和田稔彦:インフルエンザ菌感染症.小児内科C40(増刊号):1008-1012,C20083)矢野寿一:ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR).小児科臨床12:2467-2471,C20114)SugitaCG,CHotomiCM,CSugitaCRCetCal:GeneticCcharacteris-ticsofHaemophilusin.uenzaeandStreptococcuspneumi-niaeisolatedfromchildrenwithconjunctivitis-otitismediasyndrome.JInfectChemotherC20:497-497,C20145)RionoWP,HidayatAA,RaoNA:Scleritis:aclinicopath-ologicCstudyCofC55Ccases.COphthalmologyC106:1328-1333,C19996)HsiaoCCH,CChenCJJY,CHuangCSCMCetCal:IntrascleralCdis-seminationofinfectiousscleritisfollowingpterygiumexci-sion.BrJOphthalmolC82:29-34,C19987)KivlinCJD,CWilsonCEMCJr:PeriocularCinfectionCafterCstra-bismussurgery.PeriocularInfectionStudyGroup.JPedi-atrOphthalmolStrabismusC32:42-49,C19958)BrooksCCW,CDeMartelaereCSL,CJohnsonCAJ:SpontaneousCsubconjunctivalCabscessCbecauseCofCHaemophilusCinfluen-zae.CorneaC29:833-835,C20109)GinatCDT,CGlassCLR,CYanogaCFCetCal:LacrimalCglandCabscessCpresentingCwithCpreseptalCcellulitisCdepictedConCCT.JOphthalmicIn.ammInfectC6:1,C201610)RauberAA,KopschF,小川鼎三(訳):人体解剖学Raub-er-KopschCLehrbuchCundCAtlasCderCAnatomieCdesCMen-schen.第CII巻,VI-III:p630-658,医学書院,195811)BronAJ:Lacrimalstreams:thedemonstrationofhumanlacrimalC.uidCsecretionCandCtheClacrimalCductules.CBrJOphthalmolC70:241-245,C1986***

間接的感染が考えられた成人の睫毛ケジラミ症

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):676.678,2018c間接的感染が考えられた成人の睫毛ケジラミ症高山真祐子戸所大輔廣江孝齋藤千真秋山英雄群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学CAdultCasesofPhthiriasisPalpebrarumCausedbyIndirectTransmissionMayukoTakayama,DaisukeTodokoro,TakashiHiroe,KazumaSaitoandHideoAkiyamaCDepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicineケジラミはおもに陰毛に寄生し性感染症(STD)の一つにあげられているが,まれに睫毛に寄生し睫毛ケジラミ症を発症することがある.国内での睫毛ケジラミ症は小児例が報告されているが,成人例の報告は少ない.今回,明らかな性交渉歴やCSTDを認めず間接的感染と考えられた成人の睫毛ケジラミ症を経験した.症例C1はC38歳の女性.主訴は両眼の異物感.両眼上眼瞼睫毛根部にケジラミの虫体,卵を認めた.同日中に摘出し,その後再発なく経過した.症例C2はC69歳の女性.主訴は両眼の掻痒感.両眼上下眼瞼睫毛根部にケジラミの虫体,卵を多数認め,摘出を行った.同日に皮膚科へ紹介し,頭髪に多数の虫卵を指摘された.3日後,少数の虫体,卵の再発を認め,再度摘出を行った.その後症状は改善し,再発なく経過した.両症例とも近日中の性交渉歴やCSTDの既往はなかった.Phthiriasispubisisoneofthesexuallytransmitteddiseases(STD)causedbyinfestationofPhthiruspubis(alsocalledcrablouse).However,itrarelyinfestseyelashesandcausesphthiriasispalpebrarum.Phthiriasispalpebrarumismainlyseeninchildren;adultcasesarerare.Here,wedescribenon-STDadultcasesofphthiriasispalpebrarumcausedbyindirecttransmission.A38-year-oldfemale(Case1)complainedofforeignbodysensationinbotheyes.Afewliceandeggswereobservedonheruppereyelashes.Afterremoval,hercomplaintimproved.A69-year-oldfemale(Case2)su.ereditchinginbotheyes.AnumberofliceandeggswerepresentonheruppereyelashesandinCfrontalChair.CAfterCtheirCrepeatedCremoval,CherCcomplaintCimproved.CThereCwereCnoCsexualCepisodesCinCeitherCcase.CWhenCadultCcasesCofCphthiriasisCpalpebrarumCareCdiagnosed,CnotConlyCSTD,CbutCalsoCindirectCtransmissionCshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):676.678,C2018〕Keywords:睫毛ケジラミ症,ケジラミ,性感染症.phthiriasispalpebrarum,Phthiruspubis,STD.Cはじめにケジラミ症は,吸血性昆虫であるケジラミが寄生することにより発症し,おもに性行為によって感染するため,性行為感染症(sexuallytransmitteddiseases:STD)の一つにあげられている1).おもな寄生部位は陰毛だが,まれに睫毛への寄生も報告されている2).睫毛ケジラミ症の好発年齢は小児であり,多くが母子間の感染である.睫毛ケジラミ症の成人例は少なく,中高齢者にはあまり認めないとされている3).今回,明らかな性交渉歴がなく,間接的感染と考えられた成人の睫毛ケジラミ症をC2例経験した.CI症例〔症例1〕38歳,女性.初診:2015年C8月.主訴:両眼の異物感.家族歴,既往歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の異物感を自覚し,翌日に近医を受診した.左の睫毛に卵のようなものがあり,精査のため群馬大学病院(以下,当院)へ紹介となった.生活歴:近日中の性交渉なし.海外渡航歴なし.症状出現前にマッサージに行っており,店のタオルを目の上に乗せて施術を受けた.〔別刷請求先〕高山真祐子:〒371-8511群馬県前橋市昭和町C3-39-15群馬大学眼科学教室Reprintrequests:MayukoTakayama,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-39-15Showa-machi,Maebashi,Gunma371-8511,JAPAN676(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C6760910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1症例1の左上眼瞼睫毛根に虫卵と虫体が観察される.図3症例2の左上眼瞼多数の虫体と虫卵が皮膚に張り付くように存在している.初診時所見および経過:初診時,両上眼瞼の睫毛根部に点状の皮膚出血,虫体の血糞の付着,睫毛に強固に付着する半透明の虫卵,睫毛根部に虫体を確認した(図1).矯正視力は両眼ともC1.2,眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C14CmmHgだった.前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.外来処置室で虫卵の付着した睫毛を切除後,数匹の虫体を摘出した(図2).受診からC7日後,違物感は改善しており,虫卵,虫体の再発はなかった.〔症例2〕69歳,女性.初診:2016年C10月.主訴:両眼の掻痒感.家族歴,既往歴:右眼は白内障手術後.他に特記すべきことなし.現病歴:2016年C10月上旬から両眼の掻痒感を自覚,改善しないためC2週間後に近医を受診した.両上眼瞼の睫毛に黄色い内容物を伴う虫卵および虫体を認め,精査のため当院へ図2症例1より摘出したケジラミの虫体大きさは約C1Cmmである.図4症例2より摘出したケジラミの虫体脚で睫毛にしがみついている場合は睫毛ごと切除する必要がある.紹介となった.生活歴:近日中の性交渉なし.海外渡航歴なし.症状出現前に一人暮らしの息子宅の掃除に行った.初診時所見および経過:両上下眼瞼に点状の皮膚出血,虫体の血糞の付着,上下睫毛根部に多数の半透明の虫卵の付着,睫毛根部に張りつく多数の虫体を確認した(図3).矯正視力は右眼C1.2,左眼C0.5,両眼とも前眼部に異常はなく,右眼は眼内レンズ挿入眼,左眼は後.下白内障を認めた.外来処置室で虫卵の付着した睫毛を切除後,縫合鑷子を用いて張りつく虫体を.ぐように摘出し,計C26匹の虫体を摘出した(図4).同日,皮膚科も受診し,前頭部を中心とする頭髪に多数の虫卵の付着を認めた.陰毛はほぼ欠落しておりケジラミの寄生は確認できず,頭部ケジラミ症の診断のもとスミスリンローションRを用いて治療を開始した.受診からC3日後,痒みの自覚症状は消失したものの,両上下睫毛に新たな皮膚出血,血糞の付着,虫卵および虫体の再発を認めた.外(113)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C677来処置室で再度摘出を行い,計C14匹摘出した.受診からC7日後とC10日後は虫卵,虫体の再発がなく経過した.CII考按人体に寄生するシラミ類は,ケジラミ,アタマジラミ,コロモジラミに分類される.ケジラミは約C1週間で孵化し,吸血を始める.雌はC1日C1.4個産卵し,一生の産卵総数はC30.40個,寿命は約C1カ月である.大きさはC1Cmm前後,幅が広く,蟹のような前脚と爪をもつためCcrabClouseとよばれている.寄生部位は陰毛,腋毛で,まれに脛毛,胸毛,頭髪(とくに小児),眉毛,睫毛につくことがある4,5).ケジラミが睫毛に寄生する理由としては,ケジラミは本来アポクリン腺の臭気を好み寄生するが,マイボーム腺がアポクリン腺と類似した構造をもつため眼瞼にも寄生するといわれている4).アタマジラミとコロモジラミは形態的に似ているため分類は不可能であり,髪の毛に寄生しているか,衣類に寄生しているかといった生態による区分が分類の限界とされている.色はやや褐色がかっており,大きさはC2.4Cmm前後,縦に細長い形をしている.アタマジラミはまれに眉毛に寄生するが,睫毛には寄生しない.コロモジラミは衣服や下着の縫い目に卵を産み,皮膚上を移動して吸血する6).したがって睫毛にシラミの寄生をみた場合は,ケジラミである可能性が高いと考えられる.シラミの治療については,陰毛や頭髪に寄生した場合は0.4%フェノトリン粉剤を隔日で塗布または洗髪することにより除虫する.しかし,フェニトリン粉剤は睫毛使用での安全性は確立されていない.添付文書には目に入らないよう注意との記載があり,薬剤の刺激が強く,角膜炎,眼瞼炎などを引き起こす可能性がある.よって,睫毛ケジラミ症の治療の基本は虫体・虫卵の摘出である.卵は粘着性の強い膠質で毛に付着しているため,睫毛から除去することは困難であり,睫毛ごと切除を行う.残存した虫卵が孵化し再発することがあるため,週C2回程度は再発が確認できなくなるまで繰り返し施行する必要がある.海外での報告では,1%水溶性マラチオンを塗布した症例も報告されている7).また,イベルメクチンの内服薬はダニやシラミに効果があることがわかってきており,海外では,睫毛ケジラミ症に対してイベルメクチン内服の治療効果が報告されている8).わが国において現在はイベルメクチンの保険適用は糞線虫症と疥癬症のみであるが,今後,局所療法での治療抵抗例などに対して適用拡大が期待される.国内での睫毛ケジラミ症の報告はC4歳以下の幼児に多い.理由としては,幼児は成人に比べ発汗,流涙によってある程度の睫毛部の湿度が保たれているため,ケジラミが寄生しやすい環境であることと,幼児は顔を枕やベッドに伏せて寝ていることが多く,その際に寝具に存在していたケジラミが睫毛に寄生する可能性があるからと考えられている9).接触の密な親子間,とくに母子間での感染も多いとの報告もある10).まれに成人の睫毛ケジラミ症を経験することがあり,その患者の多くがCSTDによる感染,または他のCSTDを合併している11).このことから,成人例を診た場合は,患者だけではなく配偶者やパートナー,生活背景についての問診を行うことが重要であり,これによりピンポン現象を防止するきっかけにもなると考えられる.しかし,今回のC2症例は,近日中の明らかな性交渉歴や他にCSTDは認めなかった.症例C1は発症時期からマッサージ店で使用したタオルが感染源として疑わしく,症例C2では発症前に行った掃除の際に寝具などから間接的にケジラミに感染した可能性が考えられる.ヒトから離れたケジラミはC9.44時間は生存可能であるため,生存期間内であれば間接的に感染することはありうる.成人の睫毛ケジラミ症に遭遇した場合,STDとしての感染経路(直接感染)以外ににも,タオルや寝具などを介した間接的感染経路の可能性もありうることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)清田浩,石地尚興,岸本寿男ほか:性感染症診断・治療ガイドラインC2016.日本性感染症学会誌27:4-170,C20162)雑賀可珠也,山中修,岡田由香ほか:眼瞼ケジラミ症の3例.臨眼55:1498-1499,C20013)中村聡,秦野寛:睫毛ケジラミ症.臨眼C46:913-914,C19924)小門正英:眼瞼ケジラミ症.眼科58:1077-1082,C20165)森下哲夫,加納六郎,田中寛:新寄生虫病学第C10版.p239-240,南山堂,19846)富田靖,橋本隆,岩月啓氏ほか:標準皮膚科学第C10版.p461-463,医学書院,20137)RundlePA,HughesDS:PhthiruspubisCinfestationoftheeyelids.BrJOphthalmolC77:815-816,C19938)BurkhartCCN,CBurkhartCCG:OralCivermectinCtherapyCforCphthiriasisCpalpebrum.CArchCOphthalmolC118:134-135,C20009)荻野哲男,竹田宗泰,今泉寛子ほか:幼児における睫毛ケジラミ摘出のC2例.眼科手術19:423-425,C200610)上敬宏,方倉聖基,向井聖ほか:睫毛切除が有効であった小児睫毛ケジラミ症のC4例.眼科48:1293-1296,C200611)井内足輔,白石久子,志和健吉:眼瞼毛じらみ症の青年例.眼臨紀1:752-754,C2008***(114)

眼症状を契機にヒト免疫不全ウイルス感染が判明したサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):671.675,2018c眼症状を契機にヒト免疫不全ウイルス感染が判明したサイトメガロウイルス網膜炎の1例古川達也*1岩見久司*1細谷友雅*1夏秋優*2日笠聡*3五味文*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2兵庫医科大学皮膚科学教室*3兵庫医科大学内科学講座血液内科CACaseofCytomegalovirusRetinitisCausedbyHumanImmunode.ciencyVirusInfection,withOcularSymptomsTatsuyaFurukawa1),HisashiIwami1),YukaHosotani1),MasaruNatsuaki2),SatoshiHigasa3)andFumiGomi1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofDermatology,HyogoCollegeofMedicine,3)DepartmentofHematologyandClinicalOncology,HyogoCollegeofMedicine緒言:原因不明のぶどう膜炎患者の経過観察中にCAIDSが判明したことで,サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎と診断されたC1例を経験したので報告する.症例:67歳,男性.3週前からの右眼充血と眼痛で紹介受診.矯正視力右眼(0.7),左眼(1.0).右眼に角膜後面沈着物,前房内細胞を認めたが,眼底は軽度の滲出性変化のみであった.一般採血で異常なく,ツベルクリン反応陰性.前額部に皮疹があり,皮膚生検と胸部CX線検査を行ったが,サルコイドーシスは否定された.その後網膜炎が増悪し,トリアムシノロンCTenon.下注射を行ったが眼底所見はさらに増悪.皮膚科で口腔カンジダ症から免疫不全を疑い,HIV抗原抗体陽性,CD4陽性リンパ球減少を認めCAIDSと診断された.血中Cantigenemia法と前房水CPCRからCCMV網膜炎と確定診断した.結論:原因不明のぶどう膜炎は,潜在する免疫不全の可能性も念頭に置いて,HIV感染を含めた精査を進める必要がある.CA67-year-oldmalewasreferredtoourhospitalwithchiefcomplaintofhyperemiaandmildpaininhisrighteyelastingmorethan3weeks.Best-correctedvisualacuityoftheeyewas0.7;cellsintheanteriorchamberwithkeraticprecipitates(KPs)wereobserved.FluoresceinangiographyshowedmildvasculitisintheperipheralretinainCtheCrightCeye,CbutCthereCwereCnoCapparentCchangesCinCtheCleftCeye.CGeneralCbloodCcollectionCwasCwithinCnormalCrangeCandCtuberculinCskinCtestCwasCnegative.CSubtenon’sCtriamcinoloneCacetonidCinjectionCwasCperformedCdueCtoCincreasingCretinalCvasculitis,CbutCtheCconditionCworsened.CDermatologistsCsuspectedCimmunode.ciencyConCtheCbasisofCoralCcandidiasis;HIVCantigenCantibody-positiveCandCCD4-positiveClymphocyteCreductionCwasCrevealed.CAIDS-associatedCcytomegalovirus(CMV)infectionCwasCcon.rmedCfromCCMVCantigenemiaCandCPCRCexaminationCofCtheCanteriorCchamberC.uid.CToCavoidCseriousCprogression,CtheCpossibilityCofCimmunode.ciencyCbackgroundCshouldCbeCexcludedinthetreatmentofuveitisofuncertainorigin.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):671.675,C2018〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,AIDS,HIV,ぶどう膜炎,サルコイドーシス.cytomegalovirusreti-nitis,acquiredimmunode.ciencysyndrome(AIDS),humanimmunode.ciencyvirus(HIV)C,uveitis,sarcoidosis.Cはじめにわが国のヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunodeficien-cyCvirus:HIV)感染者数および後天性免疫不全症候群(acquiredCimmunode.ciencyCsyndrome:AIDS)発症患者数は,2007年以降,合わせて年間C1,000件を超えている1).このうちCHIV感染に気づかずに,突然免疫不全症状を発症しCAIDSと診断される,いわゆる「いきなりCAIDS」患者の割合が高まっており,約C3割を占めている.他の先進国では新規CAIDS患者の割合は減少傾向にあるのに対し,わが国で増加している理由として,保健所や自治体,あるいは医療機関で自発的にCHIV検査を受ける割合が少ないことがあげられる.〔別刷請求先〕古川達也:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsuyaFurukawa,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8501,JAPAN図1初診時の前眼部細隙灯顕微鏡写真結膜毛様充血,少量のCsmallwhiteKPs,前房内細胞を認める.AIDSの診断基準を満たす指標疾患はC23疾患あるが,このうち日本国籍CAIDS患者にもっとも多くみられるのはニューモシスティス肺炎で,ついでカンジダ症,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症となっている1).なかでもCCMV網膜炎はCCMV感染症のなかでもっとも多くみられる代表的な疾患である.今回,原因不明のぶどう膜炎患者の経過観察中にCAIDSが判明したことで,CMV網膜炎と診断されたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:67歳,男性.主訴:右眼の充血と眼痛.既往歴:梅毒.現病歴:3週前から右眼の充血と眼痛を自覚し,近医を受診.ぶどう膜炎を疑われ,ベタメタゾン点眼が処方されたが改善を認めず,兵庫医科大学病院眼科を紹介受診.初診時所見:視力は右眼(0.7C×sph.3.00D(cyl.1.25D図2右眼眼底写真および眼底造影写真a:初診時眼底写真.アーケード血管外の網膜血管周囲にわずかに滲出性変化がみられる(▽).Cb:初診時CFA写真.同部位の血管透過性亢進を認める(▽).Cc:7週後眼底写真.下方網膜血管炎の増悪を認める(▽).Cd:9週後インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.脈絡膜循環障害と思われる低蛍光を認める(▽).CAx100°),左眼(1.0C×sph.3.00D(cyl.2.00DAx90°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C17CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,右眼に結膜毛様充血,少量のCsmallCwhitekeraticCprecipitates(KPs),前房内細胞を認めた(図1).右眼眼底の視神経乳頭下方,アーケード血管外の網膜血管周囲にわずかに滲出性変化(図2a)がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinCangiography:FA)では同部位の血管透過性亢進を認めた(図2b).左眼には異常を認めなかった.全身所見:前額部と四肢に紅斑を認めたが,全身症状はなかった.胸部CX線検査では特記すべき異常所見はなかった.血液検査結果は白血球数C4,400/μl,赤血球数C381C×104/μl,ヘモグロビンC11.4Cg/dl,ヘマトクリットC36.0%,血小板数C21.6×104/μl,CRPC0.27,総蛋白C8.3Cg/dl,アルブミンC3.6g/dl,総ビリルビンC0.4Cmg/dl,AST19CU/l,ALT13CU/l,LDHC256CU/l,アルカリホスファターゼC329CU/l,クレアチンキナーゼC54CU/l,尿素窒素C13Cmg/dl,クレアチニンC0.72mg/dl,ナトリウムC140Cmmol/l,カリウムC4.00Cmmol/l,赤沈(1Ch)102Cmm,梅毒トレポネーマ(TP)抗体陽性,梅毒脂質抗原(RPR)陰性,補体C60以上,抗核抗体C40倍,リウマチ因子陰性,IgGC2,264Cmg/dl,IgAC819Cmg/dl,IgM83mg/dl,アンギオテンシン変換酵素C6.7,HTLV-1抗原陰性,HBs抗原陰性,HBs抗体陰性,HCV陰性であり,血算,生a化学所見に有意な異常所見は認めなかった.ツベルクリン反応は陰性であった.経過:smallwhiteKPs,前房内炎症,眼底の網膜血管周囲の滲出斑などの眼科所見と,皮疹の存在,ツベルクリン反応陰転化からサルコイドーシスを疑った.皮膚科で皮疹の皮膚生検を施行したが,病理所見ではリンパ球浸潤のみであり特徴的な類上皮肉芽腫を認めず,紅斑は皮膚科で慢性湿疹ないしアレルギー性皮膚炎と診断され,この時点でサルコイドーシスは否定された.初診時からC7週後,ベタメタゾン点眼継続により前眼部炎症は改善傾向だったが,眼底下方の網膜滲出斑の拡大(図2c)と,右眼矯正視力(0.5)と低下を認めた.眼底所見からCMV網膜炎の可能性も考えられたが,全身状態良好であり基礎疾患もないことからこの時点では否定的と考え,原因不明のぶどう膜炎として,トリアムシノロンCTenon.下注射(40Cmg)を施行した.9週後(注射C2週後),右眼の視力低下はなかったが,網膜血管周囲の滲出性変化の拡大と網膜出血の出現を認めた.FAでは下方網膜を中心に網膜色素上皮および静脈からの色素漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanineCgreenCangiography:IA)でもCFAでの漏出に一致し,脈絡膜循環障害と思われる低蛍光を認めた(図2d).眼底所見の悪化と同時期に口腔内白苔の出現を皮膚科で指b図3眼底写真および光干渉断層計像a:抗ウイルス治療開始C3週後.網膜動静脈血管炎は改善したが網膜.離を認める.Cb:硝子体手術C8週後.シリコーンオイル下に網膜は復位し,血管炎も改善しているが,中心窩には網膜下液が残存している.CCD4リンパ球数121620242832343640初診より経過時間CMV網脈絡膜炎再発図4抗HIV療法開始後のCD4リンパ球数の推移抗CHIV療法開始後CCD4リンパ球の増加を認めるが,網脈絡膜炎の再発時に明らかな急増は認めない.C摘され,同部位の培養からCCandidaCalbicansが検出された.免疫不全状態が疑われ,免疫電気泳動検査にてCgグロブリンの上昇,HIV抗原・抗体陽性,かつCCD4リンパ球がC18.82/μlと著明な減少を認めたことよりCAIDSと診断された.免疫低下を鑑みて,改めてCCMV網膜炎を疑い,前房水を採取してウイルスCDNAをCpolymeraseCchainCreaction(PCR)法で測定した結果,CMVCDNAが検出され,採血にて血中CMVantigenemiaが陽性でありCCMV網膜炎と確定診断した.また,今回のCCMV網膜炎はCIAで脈絡膜の循環障害を顕著に認めたことから,脈絡膜炎も伴う網脈絡膜炎と診断した.診断後速やかにバルガンシクロビルC900Cmg/日内服とガンシクロビル硝子体注射をC4日ごとに計C8回施行(1回C2Cmgを週C2回)施行した.抗ウイルス治療開始C1週(初診時よりC12週)では眼底所見にほとんど変化は認めなかったが,徐々に滲出性変化の改善があり,抗ウイルス治療開始C8週(初診時より約C20週)には網脈絡膜炎の鎮静化を認めた.しかしながら,脈絡膜炎を伴う網膜全層の炎症をきたしていたことから,下方の網膜に強い萎縮とその病変内に裂孔が生じ,網膜.離が発生したことから(図3a),硝子体手術(phacoemulsi.cationCandCaspiration+parsCplanaCvitrectomy+siliconeCoil充.)を施行した(図3b).硝子体手術後C8週(初診時より約C30週)ではシリコーンオイル充.下で再.離を認めず,病態が安定していたため,血中CCMVantigenemiaが陰性になった時点で血液内科から処方されていたバルガンシクロビルの内服が中止となった.しかしながら,術後C12週(初診時より約C34週)で右眼視神経乳頭鼻側とアーケード血管耳上側に網脈絡膜炎の再発を認めた.HIV感染症に対しては血液内科にて診断後より抗CHIV療法を開始し,血中CCD4リンパ球の回復を認めており,このときの血中CCMVantigenemiaは陰性を維持していたが,網脈絡膜炎再発時にはCCD4リンパ球の急激な上昇は認めなかったことから(図4),免疫回復ぶどう膜炎(immuneCrecoveryCuveitis:IRU)の発症ではなく,CMV網膜炎の再燃と考え,再度バルガンシクロビルC1,800Cmg/日の内服を行い,網脈絡膜炎は消退した.CII考按HIV感染患者およびCAIDS患者では死を迎えるまで約C30%の確率でCCMV網膜炎が生じるとされており2),UnitedCStatesCPublicCHealthCServiceCandCInfectiousCDiseasesCSoci-etyCofCAmerica(USPHS/IDSA)によるガイドラインでは,CMV網膜炎はCAIDS患者のCCMV臓器感染症のなかで腸炎や脳炎と同様に頻度の高い臨床病状といわれている.現在ではCHIV感染者に対する多剤併用療法(highlyCactiveCanti-retroviralCtherapy:HAART)が治療として行われるようになったことにより,AIDSの発生頻度はC1980年代と比べ1/4.1/5程度に減っている3).しかしながら,HIV感染を知らない「いきなりCAIDS」患者の増加に伴い,CMV網膜炎も眼科医が初診で出会う機会が多くなっている可能性がある.わが国では成人の約C80.90%は幼少期にCCMVの不顕性感染を起こしているといわれており4),AIDS患者以外でも白血病,自己免疫疾患,臓器移植後の免疫低下時,糖尿病を基礎疾患にもつ免疫正常者や高齢者,内眼手術やステロイド局所注射などでもCCMV網膜炎を発症すると報告されている5.7).しかし,CMV網膜炎は,眼科初診で免疫不全を指摘されていない患者では診断がむずかしく,治療が遅れることがある.CMV網膜炎は網膜全層の滲出と壊死を主体とし,前眼部や硝子体の炎症所見に乏しいといわれている.本症例では初診時には,片眼性の前眼部炎症所見が主体で網膜病変は軽微であり,一般的なCCMV網膜炎とは臨床像が異なっていた.吉永らは免疫正常者に発症するCCMV網膜炎は,免疫能が正常であるため,IRU様の反応が起こり,虹彩炎,硝子体混濁などの炎症所見が多く認められ,通常のCCMV網膜炎と臨床症状が異なると述べている8).本症例は免疫不全患者であったが,初診時の眼所見は免疫正常者のCCMV網膜炎所見に類似しており,免疫能がまだ比較的保たれていた可能性がある.眼底所見の進行により,一度はCCMV網膜炎を疑ったが,一般採血では免疫異常を看破できず,前眼部所見,ツベルクリン反応陰転化と前額部の皮疹所見からサルコイドーシスを疑った.そこでトリアムシノロンのCTenon.下注射を施行したことで局所免疫能を急激に低下させ,典型的なCMV網膜炎としての進行を促進させたと考えられる.皮膚生検でサルコイドーシスが否定された時点で,片眼性であることと特徴的な眼底所見から,改めてCCMV網膜炎の可能性を再検討すべきであったであろう.CMV網膜炎の診断には,前房水内ウイルスCDNAの検索や採血項目の追加による全身再評価が必要である.CMV網膜炎の治療はCHIV陽性,陰性にかかわらず抗ウイルス薬の全身投与が推奨される.これは全身状態の改善につながるうえに,患者のC3/4近くが治療後に視力回復を認めるといわれているからである9).本症例の経験により,わが国での「いきなりCAIDS」患者増加の実態が垣間みえた.AIDS治療薬開発などのニュースによりCHIV感染への危機感が以前より少なくなり,それがHIV検査受検率の低さ10)につながっている可能性も考えられる.原因不明のぶどう膜炎,とくに網膜炎をみた場合には,それがCCMV網膜炎である可能性も念頭に置いて,HIV感染を含めた潜在する免疫不全の有無の精査を進める必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省エイズ動向委員会:平成C27年エイズ発生動向年報.(AvailableCat:http://api-net.jfap.or.jp/status/2015/15nenpo/15nenpo_menu.html)2)JabsCDA,CVanCNattaCML,CKempenCJHCetCal:Characteris-ticsofpatientswithcytomegalovirusretinitisintheeraofhighlyCactiveCantiretroviralCtherapy.CAmCJCOphthalmolC133:48-61,C20023)JabsCDA:AIDSCandCophthalmology.CArchCOphthalmolC126:1143-1146,C20084)八代成子:サイトメガロウイルス網膜炎.眼科C49:1189-1198,C20075)SaidelMA,BerreenJ,MargolisTP:Cytomegalovirusret-initisCafterCintravitreousCtriamcinoloneCinCanCimmunocom-petentpatient.AmJOphthalmolC140:1141-1143,C20156)KarkhanehCR,CLashayCA,CAhmadrajiCA:Cytomegalovirusretinitisinanimmunocompetentpatient:Acasereport.JCurrOphthalmolC28:93-95,C20167)DownesKM,TarasewiczD,WeisbergLJetal:Goodsyn-dromeCandCotherCcausesCofCcytomegalovirusCretinitisCinCHIV-negativeCpatients─caseCreportCandCcomprehensiveCreviewoftheliterature.JOphthalmicIn.ammInfectC6:3,doi:10.1186/s12348-016-0070-7.CEpubC20168)吉永和歌子,水島由香,棈松徳子ほか:免疫正常者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌C112:684-687,C20089)JabsCDA,CAhujaCA,CVanCNattaCMLCetCal:Long-termCout-comesCofCcytomegalovirusCretinitisCinCtheCeraCofCmodernantiretroviralCtherapy:ResultsCfromCaCUnitedCStatesCCohort.OphthalmologyC122:1452-1463,C201510)健山正男,比嘉太,藤田次郎:我が国におけるCAIDSの発症動向─「いきなりAIDS」の問題.日本医事新報C4676:C25-30,C2013***