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遺伝性網膜疾患の臨床診断

2018年4月30日 月曜日

遺伝性網膜疾患の臨床診断ClinicalDiagnosisofHereditaryRetinalDiseases角田和繁*はじめに近年,分子遺伝学の発展に伴い多くの遺伝性網膜疾患(網膜ジストロフィ)の病態が解明されるとともに,原因遺伝子に対する治療を中心とした多くの臨床治験が世界各国で行われている.網膜ジストロフィの発症に関与する原因遺伝子は現時点で300種類近くがあげられており,将来的な治療を考慮するためには個々の患者の遺伝学的背景を考慮しながら診断をすることが重要である.しかし,それ以前に,その患者の病態が遺伝学的要因によるものなのか,あるいは遺伝学的な関与の低い後天性疾患であるのかの鑑別は,治療方針の決定やカウンセリングのうえでもっとも重要であり,かつ一般の眼科医には困難であることも多い.また,同じ網膜ジストロフィのなかでも,将来的に失明に至る症例や就労に支障をきたす症例もあれば,日常生活にほとんど支障をきたさない症例もあり,そのバリエーションは非常に多い.本稿では,詳細な問診および検査を行うことによって網膜ジストロフィをそのほかの疾患から鑑別し,また患者の病態や予後を把握するために必要な眼科診療の手法について述べる.なお,一般的には脈絡膜変性を主体とする脈絡膜ジストロフィを含めて「網脈絡膜ジストロフィ」という用語を使用することも多いが,本稿では網膜,脈絡膜の疾患を合せて網膜ジストロフィとして呼称する.また,網膜ジストロフィを確実に診断するためには,①正確な問診,②自覚的検査とともに,③網膜イメージング(眼底写真,OCT,自発蛍光眼底など),④電気生理学的検査(ERG,EOGなど),⑤遺伝子検査などが必要不可欠であるが,⑤の遺伝子検査については別項(遺伝子診断)で解説する.I問診1.網膜ジストロフィか,非遺伝性網膜疾患か?網膜ジストロフィとは,機能的および構造的な障害を網膜に生じる進行性の変性疾患であり,通常は遺伝学的な病態を原因とするものをさす.網膜ジストロフィには特徴的な眼底所見を呈する疾患も多いが,網膜ジストロフィと眼底所見が似ているものの,後天的な要因によって発症する非遺伝性網膜疾患も数多く存在する.その代表例が陳旧性のぶどう膜炎,トキソプラズマなどの感染症,網脈絡膜の血流障害,急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)関連疾患,癌関連網膜症を含む自己免疫性網膜症などであり,鑑別が必要なのはいずれも急性期を過ぎた陳旧性の状態である.網膜ジストロフィの基本的な特徴は「両眼性に」「ゆっくりと」進行することであり,通常は年単位かそれ以上にゆっくりと進行していく.炎症性疾患や感染症でみられるような急性,亜急性の変化や,片眼のみの発症,光視症の出現などは通常はみられない.ただし,網膜ジストロフィのなかにも左右眼で発症時期や進行の程度に差がみられる症例もあり,判断に迷うケースも存在す*KazushigeTsunoda:東京医療センター・臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部〔別刷請求先〕角田和繁:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター・臨床研究センター(感覚器センター)視覚研究部0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)427図1家系図の例作成に当たってのルールを図中に赤枠で記入した.3.患者が何を求めているか現時点では,一般的に網膜ジストロフィ患者に対して有効な治療法を提供することはできない.このため問診のときには確定診断に必要な情報を聴取するばかりでなく,患者が医療機関に何を求めているのかをあらかじめ確認しておく必要がある.たとえば,正確な診断名が知りたいのか.視力や視野の将来的な予測が知りたいのか.自分の子供に発症する可能性について知りたいのか.最新の治験情報や研究成果について知りたいのか.遺伝カウンセリングを希望しているのか.読書や歩行を補助する器具や,サポートを提供してくれる機関について知りたいのか.あるいは現在の学校生活,および仕事を続けるにあたって受けられる支援や,患者団体を紹介してほしいなど,それぞれの立場や生活環境によって患者の求める内容はさまざまである.II自覚的検査裸眼視力,矯正視力,視野,色覚などの自覚的検査によって,患者の視機能を評価する.とくに錐体杆体ジストロフィ,黄斑ジストロフィなど羞明が強い患者では,通常の視力表による視力測定に比べて,照明を用いない「字ひとつ視力」が格段に上昇する場合が多い.また,中心視野異常を伴う患者では測定者による測定結果のばらつきも生じやすい.矯正視力測定の結果は身体障害者の等級判定に直結するため,同一の測定方法を用いて,時間的に余裕のある測定を心がけたい.視野検査は,Goldmann動的視野以外にも,Hum-phrey視野をはじめとする自動視野計,マイクロペリメトリーなど,患者の病態や検査の目的に応じて使い分けることができる.ただし,検眼鏡的所見と視野障害部位が必ずしも一致するとはかぎらないため,Goldmann動的視野による全視野検査を一度は確認しておくことが望ましい.III網膜イメージング通常の眼底撮影に加えて,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)および眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:AF)による網膜イメージングは,網膜ジストロフィの診断において欠くことのできない検査法となっている.また,最近では,adaptiveoptics(AO)の技術によって個々の視細胞を可視化するAOイメージングも初期の視細胞病変を評価するうえで有用と考えられている.なお,AFが一般化するまではフオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)を用いた網膜色素上皮の評価が行われていたが,FAはおもに血管病変の評価法であること,侵襲性があり繰り返しの検査が困難であること,AFに比べて進行度や遺伝学的病態に対する特異性が格段に低いことなどから,現在は網膜ジストロフィの診断にはほとんど用いられていない.ただし,Stargardt病におけるdarkchoroidの確認や,まれに黄斑ジストロフィが脈絡膜新生血管に進展したときの評価法として,FAは現在でも一定の役割を担っている.以下,網膜ジストロフィの診断でとくに重要なOCTおよびAFについて重要なポイントを述べる.1.光干渉断層計通常のOCTでは,後極部における幅9.0.12.0mmの網膜断層像をとらえることができる.遺伝学的病態によって細かい違いはあるものの,網膜ジストロフィの多くは視細胞の変性が主体であり,OCTの診断で重要なのは視細胞層の変化を観察することである.視細胞層の病態は,おもに外顆粒層(outernuclearlayer:ONL),elipsoidzone(EZ),interdigitationzone(IZ),および網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)層を観察して評価する(図2a).このうち,EZは視細胞内節膨大部を,IZは視細胞外節とRPEの接合部をさしており,ともに網膜ジストロフィの初期変化を観察するためにとくに重要である1.3).OCTにおいても,網膜ジストロフィの場合は両眼にほぼ左右対称な異常所見がみられるのが一般的である.また,進行が緩徐であるため,加齢黄斑変性やAZOOR関連疾患などと異なり,正常領域と障害領域の間に明瞭な境界は観察されないことが多い.一般的な視細胞変性ではまずIZが消失する.続いてEZの不明瞭化,分断,消失が生じ,視細胞外節長(EZからRPE上端までの距離)が短くなる(図2b~d).さ(11)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018429abcde図2光干渉断層計による網膜ジストロフィの診断a:正常網膜のOCT所見(CirrusHD-OCT,version6.5,CarlZeissMeditec,Dublin,CA).①神経線維層,②神経節細胞層,③内網状層,④内顆粒層,⑤外網状層,⑥外顆粒層,⑦外境界膜,⑧ellipsoidzone(EZ),⑨interdigitationzone(IZ),⑩網膜色素上皮層,⑪脈絡膜.正確な診断のためには,グレースケールでの表示,十分な光量,網膜面が水平(レーザー光軸に対して垂直)であることが重要である.網膜ジストロフィの異常所見は,とくに⑧⑨⑩(*マーク)に現れる.b:網膜色素変性症(41歳,男性).定型的網膜色素変性.本症例では中心視野が10°まで狭窄している.矯正視力は1.2.眼底所見はA-A’間でほぼ正常であるが,OCTで観察すると中心窩付近(B-B’間)を除いて視細胞層は消失している.c:Stargardt病(14歳,女性).常染色体劣性遺伝の黄斑ジストロフィ.網膜変性が後極全体に広がったStargardt病の重症型.視細胞層はA-A’間の広範囲で萎縮しており,ところどころ網膜色素上皮が萎縮し,Bruch膜の露出が観察される(*).d:オカルト黄斑ジストロフィ(43歳,女性).常染色体優性遺伝の黄斑ジストロフィ.本症例のようにRP1L1遺伝子変異によって発症した症例はとくに「三宅病」とよばれる.矢印間でEZが不明瞭化し,IZは消失している.RPEは正常に保たれている.e:コロイデレミア(45歳,男性).X染色体劣性遺伝の脈絡膜ジストロフィ.眼底写真では黄斑部において萎縮の回避された領域が星形に観察される.OCTでは網脈絡変性領域において著明な視細胞萎縮および脈絡膜萎縮が観察できる(*).ら視細胞変性が進行すると,ONLおよびRPEが菲薄化する.RPEが極端に菲薄化すると,通常は観察できないBruch膜が検出できる.また,コロイデレミアやクリスタリン網膜症などに代表される脈絡膜ジストロフィでは,とくに脈絡膜毛細血管板の萎縮が著明である(図2e).視細胞層の萎縮領域は患者の自覚的な視野異常に対応するため,OCTを用いて網膜ジストロフィの進行を経時的に把握することができる.とくに重要なのが,視力に直結する中心窩視細胞構造の観察である.中心小窩を含めたラインスキャンでEZやIZを観察することにより,患者の視力予後をある程度推定することができる.網膜ジストロフィをOCTを用いて診断するにあたり,いくつか注意すべき点がある.まず,網膜各層の構造を明瞭に区別するためにはボリュームスキャンではなく,各機種の最高解像度が得られるラインスキャンを用いる.その際,視力との関係を把握するため,スキャン領域に必ず中心小窩が含まれるように計測する.また,ラインスキャンの際には必ずグレースケール表示を用いる.疑似カラー表示は層別の診断が困難になるため使用しない.また,網膜外層の一部では,細胞の層構造が正常であってもOCTで描出されない「falsenegative」の所見が出やすいため注意が必要である.とくに問題となるのは,光量不足と網膜面の傾きである.白内障や網膜浮腫などによって網膜外層に到達する光量が十分でないと,IZのような微細な視細胞構造は描出されなくなる.また,OCTの干渉信号は入射角による影響を受けるため,光軸と網膜面が垂直でないと信号は減衰する.IZはとくにこの影響を受けやすく,レーザー光が網膜面に垂直に当たらず網膜面が水平から傾いている場合には,健常者でもIZが消失してみえることを知っておくべきである.2.眼底自発蛍光AF撮影では,おもに青色光を網膜に照射して網膜色素上皮を中心とした網膜機能を評価する.視物質の代謝過程で生じる脂質代謝産物であるリポフスチンの分布や量を,自発蛍光の輝度変化としてとらえるのがAFの原理である.造影剤を用いないため繰り返し計測が可能で,病期の進行を的確に判断することができる.また,症例によっては遺伝学的病態も推測できることから,網膜ジストロフィの診断においてはフルオレセイン蛍光眼底造影にとって代わられたといってよい.測定方法は,走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmo-scope:SLO)型,眼底カメラ型に大別される.SLO型のAFは,より高感度,高コントラストの画像が得られ,水晶体におけるキサントフィルの影響を受けにくいため,世界的に広く用いられている.本稿では488nm付近の励起光を用いたSLO型(HRA2,HeidelbergEngineering)のAF画像を紹介する.正常者では,眼底後極部全体にムラの少ない均一な発色がみられる(図3a).一方,リポフスチンの存在しない網膜血管および視神経乳頭は蛍光がないため黒く描出される.また,中心窩はキサントフィルによって青色光が吸収されるため,正常者でも円形に暗く描出される.自発蛍光の輝度は,加齢や病変によるリポフスチンの増減と,自発蛍光をブロックする物質や病変(網膜出血,硬性白斑など)の有無によって決定される.一般に,網膜色素上皮の障害によってリポフスチンが過剰に蓄積されると自発蛍光の輝度が上がるが,さらに病期が進行して網膜色素上皮の活動性が極端に低下すると,萎縮によって自発蛍光が減少し,最終的には消失する.すなわち,網膜色素上皮障害の初期には過蛍光を呈し,末期になると低蛍光を呈するという原則が成り立つ.網膜ジストロフィの場合は,眼底所見と同様にAFにおいても両眼にほぼ左右対称な異常所見がみられるのが一般的である.また,緩徐な進行に伴い,網膜障害部位と健常部位の境界に一致して輪状.弓状の過蛍光バンドがみられることが多い(図3b,d).左右で明らかに自発蛍光のパターンが異なっている場合や,網膜上に不均一,あるいは不規則な蛍光の分布がみられる場合は,自己免疫網膜症やAZOOR関連疾患などの後天性疾患も疑うべきである.網膜ジストロフィの診断においてAFを用いるおもな目的は,異常の有無の判別(スクリーニング),病巣の空間的広がりの把握,および進行程度の評価などである(図3b~d).なかにはStargardt病やBest病などのように,AFが確定診断に重要な働きをもつ疾患も存在す(13)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018431abcd(47歳時)(50歳時)図3眼底自発蛍光による網膜ジストロフィの診断a:健常者のCAF所見(25歳,女性).眼底後極部全体にムラの少ない均一な発色がみられるが,リポフスチンの存在しない網膜血管および視神経乳頭は黒く描出される.中心窩はキサントフィルによって青色光が吸収されるため,健常者でも円形に暗く描出される.Cb:錐体ジストロフィ(60歳,男性).標的黄斑症(Bull’seyemaculopathy)を呈する錐体ジストロフィで,黄斑部に輪状の萎縮変性病変がみられる.AFでは黄斑部の輪状変性部が輪状の低蛍光領域として観察され,さらに黄斑周囲には輪状の過蛍光所見がみられる.Cc:定型的網膜色素変性(28歳,女性).周辺網膜に強い変性,萎縮がみられ,変性は黄斑部にも及んでいる.AFでは,萎縮部位に一致した蛍光消失領域が周辺部に散在している.黄斑部は過蛍光を示し,その周囲を低蛍光領域が取り囲んでいる.Cd:黄斑ジストロフィ(50歳,女性).47歳時とC50歳時のCAF所見の比較.AFを用いると,中心窩に隣接したCRPEの萎縮部(蛍光消失領域,)が経過観察中に拡大していることが明瞭に観察される.abGUCY2DPRPH2PRGREYSCRB1RP2deUSH2AコロイデレミアCHM図4さまざまな網膜ジストロフィにおけるAF画像と原因遺伝子との対応関係a:黄斑ジストロフィ.b:錐体杆体ジストロフィ.c:網膜色素変性.d:Usher症候群.Ce:脈絡膜ジストロフィ.Stargardt病ABCA4Best病BEST1X染色体劣性網膜分離症RS1三宅病RP1L1クリスタリン網膜症CYP4V2杆体反応(DA0.01)杆体錐体混合反応(DA10.0)錐体反応(LA3.0)30Hzフリッカー反応(LA30Hz)abde100μV100μV50μV50μV20ms10ms10ms10ms図5全視野網膜電図(ERG)による多様な網膜疾患の診断・分類DA(dark-adapted)は暗順応下の計測を,LA(light-adapted)は明順応下の計測を示す.Ca:健常者.Cb:網膜色素変性症.杆体反応,錐体反応がともに消失している.初期には錐体反応の減弱は軽度である.c:錐体ジストロフィ.錐体反応が選択的に消失している.Cd:X染色体劣性網膜分離症.全体的に反応が低下し,DA10.0ではCb波がCa波より小さい陰性波形がみられる.Ce:オカルト黄斑ジストロフィ.網膜障害が黄斑部に限局するため,全視野CERGの所見は健常者のものと変わらない.a右眼の瞳孔を中心に合わせてくださいスキップ検査開始bDark-adapted0.01Dark-adapted3.0Dark-adapted10.0Light-adapted3.0Light-adapted3.0Flicker図6皮膚電極を用いた簡易型ERGa:測定の様子および測定中の画面表示.測定中に患者が閉瞼することがあり,常にモニター画面を確認する必要がある.b:健常者の波形.左上からCdark-adapted(DA)0.01(杆体反応).DA3.0(standard.ashによる杆体錐体混合反応).DA10.0(strong.ashによる杆体錐体混合反応).Light-adapted(LA)3.0(錐体反応).LA3.030CHz.icker(錐体フリッカー反応)を示す.角膜電極に比べて非接触という利点はあるが,ノイズの少ない安定した波形を得ることは通常の角膜電極に比べると困難である.

遺伝性網膜変性疾患をめぐる歴史

2018年4月30日 月曜日

遺伝性網膜変性疾患をめぐる歴史HistoryofResearchinHereditaryRetinalDegeneration中澤満*はじめに本稿では「遺伝性網膜変性疾患の歴史」をC170年前の過去からC2018年の現在に至るまでの流れで解説する.その中にいくつかの時代のターニングポイントがあることがわかるはずである.検眼鏡の発見,網膜色素変性の発見,ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainCreac-tion:PCR)法の発明,ロドプシン遺伝子変異の発見,細胞死の分子機構,ゲノム編集の発明などが遺伝性網膜変性の研究や臨床に大きくかかわっている.これらの中には必ずしも当初は網膜疾患への応用を企図したものではなかったものもあるが,それを巧みに応用して眼科学の進歩に結びつけた多くの研究者や臨床医の努力の成果をみてとることができる.さらに,これらの歴史をふまえたうえで将来の遺伝性網膜変性の医療が展望できるのではないかと筆者は考えている.CI黎明期遺伝性網膜変性にかぎらず,網膜疾患が次第に理解されるようになったのには,1851年にCHelmholtzが検眼鏡を発明したことが大きく貢献している.それはあたかもC21世紀の現代眼科学において光干渉断層計が利用されるようになったことで黄斑疾患の理解が飛躍的に深まったのと同じ程度のインパクトで,当時の主としてヨーロッパの眼科医に眼底検査が爆発的に普及したのではないかと想像される.それまで摘出眼球でしか見ることができなかったヒトの眼底所見が生体で観察できるようになったのは画期的な進歩であったろうと思われる.その後,遺伝性網膜変性疾患の代表である網膜色素変性という疾患が初めて文献上に登場するのはC1855年のオランダのCDonders(図1)の論文であるとされ,彼は「遺伝性先天性網膜麻痺(原文はフランス語で文献C1の表題となっている)」との記載を残している1).さらにC1857年には「網膜の慢性炎症(ドイツ語では“einerchronisch-enCEntundungCderCNetzhaut”)」との見解を述べている2).引き続き翌C1858年にはドイツのCVonCGraefe(図2)によって「網膜色素変性(ドイツ語では“Pigmenten-tartungderNetzhaut”)」という名称によりこの病気が記載されている3).これらの先人の記述により網膜色素変性が“retinitisCpigmentosa(RP)”というラテン語の名称でよばれるようになったことは想像にかたくない.疾患の存在が明らかになるとそれに連動してさまざまな臨床的観察が行われ,この病気が家族性に発症する傾向があることや,遺伝形式にもCMendelの常染色体優性,同劣性に加えてCX染色体遺伝などの各種の様式がみられることも徐々に明らかにされてきた.CII前遺伝子時代の病態研究病気の存在が知られると,医学の歩みはその病気の原因や病態を理解し,さらにそれらの知見をもとに治療法を考案しようする方向へと向かうことは歴史の必然といえる.現在に至るもまだ網膜色素変性やその他の遺伝性網膜変性疾患に対して有効な治療法はないと一般にいわ*MitsuruNakazawa:弘前大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕中澤満:〒036-8562青森県弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)C421図1FrancisusDonders(1818.1889)図2AlbrechtVonGraefe(1828.1870)図3小柳美三(1880.1954)オランダの眼科学者ドイツの眼科学者(Wikipediaより)東北帝国大学眼科初代教授(Wikipediaより)(東北大学眼科学教室ホームページより)をC1968年に東北大学眼科にて受けた患者の術後経過観察を現在も行っているが,その効果はまったく不明である.Duke-Elderの教科書によればこれらの治療法は少しでも効果的な治療法の開発を切望する患者らと,新規治療開発に熱心に取り組んだ眼科医らによって支持されてきたとのことである.また,治療後には一時的な網膜代謝の改善効果に加えて,恐らくいわゆるプラセーボ効果も加わった可能性があり,自覚的な症状改善がみられたこともあったといわれるが,科学的に厳密な検証は行われることなく現在に至っている.このようにここまで述べた種々の治療法の概要をみてみると,いずれもが網膜色素変性の病因ないし病態に網膜や脈絡膜の循環障害が少なからずかかわっているのではないかという種々の学説に基づくものであることが想像される.そして,その流れは現代眼科診療においても,網膜色素変性に対する循環改善薬の投与として一部に引き続き応用されている.一方で薬物療法において特異な位置を占めると考えられるのがヘレニエン(アダプチノールCR)である.この物質はマリーゴールドの花弁から抽出されたカロテノイドで,網膜内でキサントフィルに変換されて作用すると考えられる.抽出物であるので化学的にCD-体とCL-体の両者を含むラセミ体となっており,生体内で働くのはL-体である.この物質は化学的にルテインとよばれてサプリメントして広く一般に利用されている物質と同一である.日本ではC1950年代後半に盛んにその効果が研究され10),網膜色素変性には保険適用となっている.米国でもルテインの効果は網膜色素変性の進行を限定的にではあるがわずかに抑制するという報告もある11).CIII遺伝子時代の病態研究1.遺伝子レベルでの病因解明,遺伝子診断1980年代までは遺伝性網膜変性疾患のうち原因が判明したのは,オルニチンアミノトランスフェラーゼの欠損による脳回状脈絡網膜萎縮症のみであった12).それまでの生化学的手法に対して,1970年代から急速に分子生物学的手法が発展するとともに,遺伝子のレベルで生物現象を解析できるようになってきた.とくにC1985年に発明されたCPCR法13)がC1988年にイエローストーンの温泉中に生息する細菌から分離した耐熱性CDNAポリメラーゼ(taqCDNACpolymerase)を使用したプロトコールに発展するや,誰でも手軽に目的とする既知の遺伝子CDNA断片を増幅することができるようになった14).これにより,種々の遺伝性疾患の遺伝子解析が世界中で爆発的に行われようになり,次々と遺伝性疾患の原因遺伝子変異が明らかにされた.その功績により,PCR法の考案者CMullisはC1993年にノーベル化学賞を受賞している.眼科領域では,1980年代までに蓄積された網膜色素変性の大家系での連鎖解析による原因遺伝子座のマッピングデータを参考にして,1990年に常染色体優性網膜色素変性の一部の家系でロドプシン(RHO)遺伝子変異がCDryjaらのグループによって発見された15).これを発端として,1990年代にはそれまで知られていた網膜変性モデル動物でのデータなどを参考に原因遺伝子を恣意的にあらかじめ想定して遺伝子診断を行う候補遺伝子検索という解析法で,ペリフェリンC2(PRPH2)遺伝子変異(常染色体優性網膜変性),ホスホジエステラーゼCb-サブユニット(PDE6B)遺伝子変異(常染色体劣性網膜色素変性)などを筆頭としてさまざまな種類の原因遺伝子変異が報告され,網膜色素変性だけでC60種類以上の原因遺伝子が明らかになった.また,1990年代には網膜色素変性のみならず,コロイデレミア(CHM),錐体杆体ジストロフィ(PRPH2など多数),Stargardt病(ABCA4),小口病(SAG,注記:アレスチン遺伝子,アレスチンは以前,網膜CS抗原と称されたためこの略語となっている),白点状眼底(RDH5),若年網膜分離症(RS1),クリスタリン網膜症(CYP4V2)などさまざまな遺伝性網膜変性疾患の原因遺伝子変異が明らかにされた.これらはすべて候補遺伝子検索の成果である.しかし,候補遺伝子検索では既知の遺伝子やタンパク質を手がかりに原因遺伝子を探すことになるため,おのずと情報量に限界があった.しかし,2000年代後半以降は次世代シークエンサーが開発され,ゲノム解読の速度が飛躍的に速まり,遺伝子診断もエクソーム解析や全ゲノム解析が可能となったため,既知の遺伝子のみの情報に頼る必要がなくなり,虚心坦懐にしかも網羅的に未知の遺伝子をも含めた異常(5)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C423部位が少なくとも理論的には検索できるようになった.日本では京都大学のCOishiらによって日本人の網膜色素変性患者での原因遺伝子の網羅的な検索も行われ,常染色体劣性網膜色素変性ではCEYS遺伝子変異(28.9%)とRP1L1遺伝子変異(9.1%),常染色体優性網膜色素変性ではCRHO遺伝子変異(5.8%)とCPRPH2遺伝子変異(3.3%)がそれぞれのタイプにおける頻度別の上位C2位まであることが報告されている16).C2.分子病態と視細胞死網膜色素変性に限ってみると,原因遺伝子と考えられるものがすでにC60種類以上明らかにされており,その遺伝的異質性がかなり明確になってきている.それに伴って,網膜色素変性の主病変は杆体視細胞の原発性変性であることが明らかになっている.さらに錐体視細胞に関しては遺伝子変異によって原発性に変性をきたすものや,杆体の変性に伴って続発性に変性すると考えられるものがあることもわかってきた.杆体変性の分子機構も徐々に判明しつつあるが,基本的には遺伝子変異によって視細胞内にいくつかの機序で細胞内代謝異常が生じて,細胞がもはや耐えられなくなったときに細胞死の経路が活性化されて視細胞が死を迎えることになると考えられている.遺伝子変異の結果として,ある重要な機能を担うタンパク質の欠損が起きたり(ハプロ不全),また異常な変異タンパク質(ペプチド)が合成され,その異常ペプチドの細胞内蓄積による細胞へのストレス(小胞体ストレス)が細胞死の引き金を引くことがある(ドミナントネガティブ)ことも知られてきている.細胞死のメカニズムにもアポトーシス,ネクローシス,ネクロプトーシス,オートファジーなどの用語に代表される種々の代謝経路が判明しており,ひとたび細胞内に異常が起こり,細胞がもうそれ以上耐えられなくなって細胞死を発動しなければならない状況になれば,細胞にはさまざまな方法で死を迎えられるようにあらかじめ代謝経路が仕組まれているともいえる.どの遺伝子変異でどの細胞死経路が選択されやすくなるかについてもきわめて多彩であると考えられる17,18).したがって,視細胞保護療法を目的として単一の視細胞死反応経路を阻害しても,それに代わる別の反応経路が活性化されて結局細胞死が実行されてしまうことになるのではないかとも想像される.2000年以降,視細胞保護療法(薬物療法)の考え方が遺伝性網膜変性の治療法開発のひとつの柱となっているが,なかなか有効な治療法がみつからないのは,原因遺伝子異常の多様性に加えて,視細胞死分子機構の多様性が掛け合わされているからであるとも考えられる.分子機構からみた場合,網膜色素変性の患者集団を単一疾患のコホートとは考えられないという事実が治療研究をむずかしくしていることが判明してきた.個別化医療という概念が生まれてきた理由でもある.今後の薬物治療に関しても原因遺伝子別の薬物効果判定を行い,そのデータと患者の個別の遺伝子変異に基づいた薬物治療選択が行えるような方向性が望ましいのではないかと考えられる.CIV遺伝子時代の治療研究1.遺伝子治療(遺伝子補充療法)遺伝性疾患の原因が遺伝子レベルで解明されてくると,原因となる変異遺伝子に代わって健常遺伝子を薬物のように細胞内に導入することで根本的に疾患を治療する方法が少なくとも理論上は可能となった.目的とする遺伝子をアデノ随伴ウイルスなどのベクターとよばれる遺伝子の運び屋に組み込んで目的とする細胞へ,さらには遺伝子へ感染させるという方法である.この方法では遺伝子変異のために当該タンパク質の欠損(ハプロ不全)が起こり,そのために病気が発症する常染色体劣性遺伝病に効果があると考えられる.遺伝性網膜変性でもっとも早く遺伝子治療が実行されたのは,RPE65遺伝子変異による常染色体劣性網膜色素変性もしくはCLeber先天盲(若年発症網膜色素変性)である19.21).RPE65変異イヌを用いた研究では変性が始まる前の幼犬の時期にCRPE65遺伝子補充を行えば進行をある程度食い止められるが,変性進行期の成犬への治療では進行はもはや食い止められないとの報告22)や,ヒトでの治療後の臨床経過では,遺伝子導入後C1,2年は視機能の改善がみられたが,その後に視機能の低下をきたす23)など,その効果に関してはさらなる検討が必要であると思われる.RPE65遺伝子に引き続いて424あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018(6)Mertk遺伝子変異による網膜色素変性への遺伝子治療も2016年に開始されている24).また,原因遺伝子には関係なく視細胞保護療法の一環として,神経栄養因子であるCPEDF(網膜色素上皮由来因子)遺伝子を網膜色素上皮に導入して視細胞を保護することを目的とした遺伝子治療25)が九州大学で行われているほか,チャネルロドプシンやロドプシン遺伝子を網膜神経節細胞や双極細胞に導入してこれらの細胞を視細胞化させて治療する試み(オプトジェネティクス)も実現へ向けて進行している26).C2.ゲノム編集の新時代2012年にCDoudnaらのグループ27)が報告したCCRIS-PR/Cas9(ClusteredCregularlyCinterspacedCshortCpalin-dromicCrepeats/CRISPRCassociatedCproteinC9)システムによるゲノム編集技術は生物のゲノムCDNAの中のある任意の塩基配列を自在に削除できる方法であり,そして削除された部位には,細胞が本来もっている遺伝子修復機能(inCvivoCrecombination)を利用して目的とするDNAを挿入することを可能とした.これにより,異常な塩基配列部位を正常塩基配列に修復できるというきわめて理想的な遺伝子治療が実現する可能性が高まった.この方法を用いることで,遺伝子補充療法でも治療不可能であった常染色体優性遺伝病やCX染色体連鎖性遺伝病の根本的な治療が可能となるのではと期待されている.そして,網膜変性モデル動物においてはすでにその効果が報告されている28,29).本治療法は,遺伝子を目的とする部分で切断するCCRISPR/Cas9システムと切断された部分に新たに挿入したいCDNA断片とを視細胞や胚細胞に導入して細胞内で遺伝子の修復をさせる治療であるが,現在のところ遺伝子が目的通り修復される効率がたかだかC30%程度であることと,導入CDNA断片が予定外の部分に挿入されてしまう確率がまだ無視できないほど高いことが示されている28,29).この理由などにより,ヒト胚細胞での研究は禁止されてはいるものの,網膜下への遺伝子注入によって視細胞レベルでC30%程度の修復効率であれば,ロドプシンCS334terトランスジェニックラットにおいては視機能改善効果はある程度みられるようである28).おわりに1855年の網膜色素変性の発見から原因遺伝子のひとつであるロドプシン遺伝子変異の発見までC135年が経過し,さらにCPCR法を利用したC1990年のロドプシン遺伝子変異の発見から今年でC28年が経過している.このC28年の間にわれわれは遺伝性網膜変性の原因遺伝子変異の多様性について理解してきたが,ゲノム編集という新たな方法論をも知ることとなった.このことは原因遺伝子変異さえ個別に診断できれば,少なくとも理論的にはその遺伝子変異をゲノム編集によって体細胞レベルでも修復できる可能性をもてるようになったということでもある.これまでの歴史をふまえて,これに薬物治療の方向性を加味して将来を展望すると,個別化医療が進み,患者個人の原因遺伝子変異に基づいた適切な薬物治療の選択や,さらにはゲノム編集を利用した根本的な遺伝子治療などが臨床に応用されるような方向性がみえてくる.それに今回は触れなかったが,再生医療と人工網膜による視覚再建の手法も基礎研究から臨床応用へと着実な進展をみせており,これらの成果を結集することにより総合的に治療研究が発展することが期待される.文献1)DondersFC:Torpeurdelaretinecongenitaleehereditai-rie.AnnOcul(Paris)C34:270-273,C18552)DondersCFC:BeitrageCzurCpathologischenCAnatomieCdesCAuges.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC3:139-165,C18573)VonCGraefe:ExceptionellesCVerhaltenCdesCGesichtsfeldesCbeiCPigmententartungCderCNetzhaut.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmol4:250-254,C18584)FriedenwaldCJS,CChanCE:PathogenesisCofCretinitisCpig-mentosa:WithCaCnoteConCtheCphagocyticCactivityCofCMul-ler’s.bers.ArchOphthalmolC8:173-181,C19325)KoyanagiY:FragestellunguberdiePathogenesederPig-mentdegenerationCderCNetzhaut.CGraefe’sCArchCClinCExpCOphthalmol127:1-26,C19316)FolkCML:ParacentesisCandCatropineCinCtheCtreatmentCofCopticandretinalatropies.AmJOphthalmolC20:511-516,C19377)deTakatsG,Gi.ordSR:Cervicalsympathectomyinreti-nitispigmentosa.ArchOphthalmol14:441-452,C19358)CaeiroJA:Resultsofstellectomyinthetreatmentofpig-mentaryretinitis.ArchOphthalmolC19:378-393,C1938(7)あたらしい眼科Vol.35,No.4,2018C425–

序説:網膜変性診療の未来予想図

2018年4月30日 月曜日

網膜変性診療の未来予想図ScopeofPracticeinRetinalDegeneration近藤寛之*近藤峰生**網膜変性は視細胞に変性を起こし,視機能障害を生じる疾患の総称である.その原因はさまざまであるが,ぶどう膜炎や網膜.離に伴う続発性疾患を除くと,多くは遺伝性疾患である.網膜変性の代表的疾患である網膜色素変性を例にあげると,発症率は4,000人に1人程度で,杆体細胞優位の視細胞変性を起こし,夜盲や視野狭窄を主症状とする.典型的な眼底所見は,骨小体様色素沈着を伴う周辺網膜の萎縮である.このような典型的な網膜色素変性をはじめとするさまざまな網膜変性を起こす遺伝子は100種類以上存在すると想定されている.遺伝形式も常染色体優性遺伝や常染色体劣性遺伝,X染色体劣性遺伝などきわめて多様である.さらに網膜変性には錐体優位の障害により視力低下や羞明といった症状を示すタイプもあるが,網膜色素変性でも同様の症状を伴うこともあり,さまざまな網膜変性を正確に診断して,その原因を究明するのは決して容易なことではない.遺伝性の網膜変性疾患の歴史を振り返ってみると,眼底鏡による診断,網膜色素変性の発見といった臨床像の確立に加えて,ポリメラーゼ連鎖増幅(PCR)法の発明,ロドプシン遺伝子変異の発見など,エポックメーキングな発明・発見が遺伝性網膜変性の研究を大きく押し進めた背景がある(中澤満先生ご執筆「遺伝性網膜変性疾患をめぐる歴史」).今日,網膜変性の診断は臨床診断技術の向上や遺伝子診断で大きな変貌をとげている.光干渉断層像,眼底自発蛍光,網膜電図といった網膜の画像・機能解析装置は遺伝性の網膜変性疾患の診断に必須のものとなり,患者の病態や予後を把握するためにますます重要なものとなっている(角田和繁先生ご執筆「遺伝性網膜疾患の臨床診断」).さらに遺伝子診断は,原因の解明や適切な遺伝カウンセリングにとどまらず,遺伝子治療など原因に基づく新時代の治療のために重要な情報を提供する.遺伝子診断などの遺伝学的検査は,次世代シークエンサーの登場や全ゲノム規模でのDNA多型や疾患データベースの構築といったゲノム医学の進歩により,診断率も大いに向上している(宮道大督先生・堀田喜裕先生ご執筆「網膜変性の遺伝子診断」).しかし,遺伝情報は究極の個人情報であり,その取り扱いには倫理面での配慮が不可欠である.遺伝子診断には研究としての側面もあり,実施にあたっては遺伝カウンセリングといった患者への配慮だけでなく,遺伝子解析研究倫理や利益相反の開示など研究を推進するうえでのルールも厳格化されている(林孝彰先生ご執筆「研究倫理と遺伝カウンセリング,社会とのかかわり」).*HiroyukiKondo:産業医科大学医学部眼科学教室**MineoKondo:三重大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)419

美容用ヒアルロン酸注入剤を使用した兎眼矯正術

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):410.413,2018c美容用ヒアルロン酸注入剤を使用した兎眼矯正術河村真美*1鹿嶋友敬*1,2,3*1新前橋かしま眼科形成外科クリニック*2群馬大学医学部眼科学教室*3帝京大学医学部眼科学教室CTreatmentforLagophthalmosUsingHyaluronicAcidGelforDermalFillerMamiKawamura1)andTomoyukiKashima1,2,3)1)SinmaebashiKashimaOculoplasticClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,TeikyoUniversitySchoolofMedicine緒言:眼瞼の組織が拘縮すると,兎眼が発生する.組織拘縮の治療は,拘縮の方向を解除する,または体積を補うことである.体積の補充手術であれば,他の組織や人工物を挿入することとなるが,ヒアルロン酸注入剤を使用すると容易に体積を補うことができる.今回ヒアルロン酸注入剤を使用した兎眼矯正術を行ったので報告する.症例:ヒアルロン酸注入を行ったC3例C3眼瞼.症例C1はC76歳,男性,顔面熱傷後に下眼瞼外反症を認め,兎眼による眼痛の訴えがあった.下眼瞼皮下へヒアルロン酸注入を施行し,外反症および眼痛が改善した.症例C2,3はC64歳,女性とC83歳,女性,両者とも上眼瞼脂腺癌切除および再建後に上眼瞼後退と角膜上皮障害を認めた.眼瞼挙筋へヒアルロン酸注入を施行し,眼瞼後退,角膜障害および自覚症状の改善が得られた.考察:兎眼の矯正にヒアルロン酸を使用することで,短時間に眼表面の状態を改善することができた.CIntroduction:Contractureofeyelidtissuescauseslagophthalmos.Standardtreatmentforcontractureissurgi-calCintervention,CsuchCasCreleasingCcontractureCinConeCdirectionCorCexpandingCtheCvolumeCusingCautologousCtrans-plantationCorCimplantationCofCarti.cialCmaterial.CHowever,CinjectionsCofChyaluronicCacidCgelCcanCexpandCtheCvolumeCnonsurgically.CHerein,CweCreportConCtreatmentCofClagophthalmosCwithChyaluronicCacidCgel.CCasereport:Threepatients(3eyelids)withlagophthalmosweretreatedwithinjectionsofhyaluronicacidgel.Case1:A76-year-oldmalewithahistoryofthermalburnswithscarringoftheentirefacewasreferredforcicatriciallowereyelidectro-pionandocularpain.Afterhyaluronicacidgelinjectioninthelowereyelid,symptomswerereducedwithcorrec-tionCofCectropionCandClagophthalmos.CCasesC2CandC3:64-year-oldCandC83-year-oldCfemalesCwithChistoryCofCseba-ceousCcarcinomaCtreatedCwithCexcisionCandCreconstructiveCsurgeryCwereCreferredCforCupperCeyelidCretractionCandCexposureCkeratopathy.CAfterCgelCinjectionCinCtheCupperCeyelid,CthereCwereCimprovementsCinCeyelidCretractionCandCexposurekeratopathy.Conclusion:Treatmentoflagophthalmoswithhyaluronicacidgelcanbee.ective,andcanimproveocularcomfortnonsurgically.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(3):410.413,C2018〕Keywords:ヒアルロン酸注入剤,兎眼症,外反症,眼瞼後退,低侵襲.hyaluronicacidgel,lagophthalmos,cica-tricialectropion,eyelidretraction,nonsurgicaltreatment.Cはじめに外傷や手術により眼瞼組織が拘縮すると,形態や機能が損なわれ,兎眼が発生する.組織拘縮の治療は,拘縮の方向を解除する,または体積を補うことである1,2).体積を補う方法として,真皮脂肪3)などの自家組織を移植する,またはCgoldCplate4)などの人工物を挿入するといった手術が必要となるが,ヒアルロン酸注入剤を用いると容易に体積を補うことができるとされている5.9).今回,美容用ヒアルロン酸注入剤を使用した兎眼矯正術を行ったので報告する.CI症例同一術者(TK)によってヒアルロン酸注入を施行したC3例3眼瞼.麻酔は外用局所麻酔薬リドカイン・プロピトカイン配合剤クリーム(エムラクリームR)および,オキシブプロ〔別刷請求先〕河村真美:〒371-0844群馬県前橋市古市町C180-1新前橋かしま眼科形成外科クリニックReprintrequests:MamiKawamura,M.D.,SinmaebashiKashimaOculoplasticClinic,180-1Huruichimachi,Maebashi,Gunma371-0844,JAPAN410(128)図1顔面熱傷後,下眼瞼外反症(症例1)左上(術前):両下眼瞼外反症を認め,左眼は下方強膜が露出している.右上(術前):閉瞼時,兎眼を認める.左下(術直後):左下眼瞼外反症は改善されている.右下(術直後):閉瞼時,兎眼は消失している.図2左上眼瞼脂腺癌術後の眼瞼後退(症例2)上(術前):左上眼瞼後退を認める.中(術後C2カ月):左上眼瞼後退は改善している.上眼瞼皮膚のボリュームが増している.左下(術後C9カ月):治療効果は持続している.右下(術後C9カ月):閉瞼時,兎眼は消失している.カイン塩酸塩液(ベノキシール点眼液C0.4%CR)を使用した.ヒアルロン酸注入剤はレスチレンリドR(ガルデルマ社,日本)を使用した.29CG針を用い,逆行性に線状かつ扇状に注入した.これを繰り返し,ヒアルロン酸が格子状になるようにC1Cml注入した.〔症例1〕76歳,男性.生下直後に顔面に熱傷を受傷した.加齢とともに左のみ乾燥と眼痛を伴うようになり紹介受診となった.初診時に左優位の両下眼瞼外反症および左兎眼を認めた.左下眼瞼の眼輪筋前後面へヒアルロン酸注入剤C1Cmlを注入した.注入直後より外反症は改善し,閉瞼可能となった(図1).注入後C3カ月,再発は認めていない.〔症例2〕64歳,女性.59歳時に左上眼瞼脂腺癌切除および再建術を行った.手術後,左上眼瞼後退と兎眼に伴う角膜びらんを発症した.このため角膜びらんに対し治療用コンタクトレンズを装用していたが,突然重度のアレルギー性結膜炎を発症しコンタクト図3症例2の角膜所見点線:瞳孔領.上(術前):角膜全面に点状表層性角膜炎を認める.VS=(0.1)下(術後C2カ月):瞳孔領を中心に点状表層性角膜炎は改善している.VS=(0.8)レンズ装用困難となったため中止したところ,角膜障害により視力はCVS=(0.1)と低下した.ヒアルロン酸注入剤C1Cmlを経皮および経結膜で挙筋腱膜とCMuller筋周囲を拡張させるように充.したところ,左上眼瞼後退および角膜障害は改善し(図2,3),視力もCVS=(0.8)と改善した.術後C9カ月,再発は認めていない.〔症例3〕82歳,女性.79歳時に右上眼瞼脂腺癌切除および再建術を施行した.右上眼瞼後退と角膜上皮障害を認め,異物感を訴えた.症例2と同様の部位にヒアルロン酸注入剤C1Cmlを注入した.右上眼瞼後退は改善し,角膜上皮障害も消失し,自覚症状は改善した(図4).術後C7カ月,再発は認めていない.CII考按フィラーとは,美容医療では顔面の皮膚から骨までの軟部組織に充.する注入剤のことをさす.フィラーにはヒアルロン酸,コラーゲン,ハイドロキシアパタイトなどの各種製剤や脂肪や多血小板血漿,少血小板血漿といった自家組織が存在する.なかでもヒアルロン酸は非動物性由来の製剤であり,アレルギー発症率はC0.5%と非常に低く,事前の皮内アレルギー検査は不要である.また,ヒアルロニダーゼにより分解できるため注入後に元に戻すことが可能であるという利点があり,現在もっとも広く使用されている製剤である.フィラーとして用いられているヒアルロン酸は,天然ヒアルロン酸を架橋結合させた架橋ヒアルロン酸とよばれるものである.内眼手術時に使用するヒアルロン酸製剤と異なり,充.効果が長期間持続するように設計されている.ヒアルロン酸による注入療法は顔面のしわの改善や輪郭形成など,美容医療での使用が目立つが,眼科の臨床においても眼瞼の瘢痕や皮膚の拡張,体積の増大を目的に使用されている.甲状腺眼症や瘢痕拘縮による眼瞼後退5),瘢痕性外反症6)および麻痺性兎眼7),眼窩周囲の陥凹8)に対してヒアルロン酸注入剤を使用し,これらが改善したとの報告がある.また,成人だけでなく,小児への使用例もあり,Down症など先天疾患に伴う眼瞼後退や眼瞼外反症へ使用し,兎眼が改善した9)との報告もある.今回,拘縮性兎眼症C3例に対してヒアルロン酸注入剤による兎眼矯正術を行い,良好な経過が得られた.拘縮部位にヒアルロン酸を注入することで,ヒアルロン酸の保水作用による体積増大効果のみならず,同時に組織の伸展も得られている.ヒアルロン酸そのものにコラーゲンの産生促進作用はないが,注入によって組織が物理的に伸展されることにより線維芽細胞が活性化し,その産生が促進されることが知られている10).さらに,注入したヒアルロン酸は薄い線維性の被膜に覆われ,8カ月間は形態が維持されることが証明されてい図4右上眼瞼脂腺癌術後の眼瞼後退(症例3)左上(術前):上眼瞼後退を認め,角膜輪部が露出している.右上(術後C2週間):上眼瞼後退は改善している.左下(術後C4カ月):治療効果は持続している.右下(術後C4カ月):閉瞼時,兎眼は消失している.る11).上記から,拘縮部位へ注入したヒアルロン酸はCtissueexpanderとしての役割を果たしていると推測される.したがって,ヒアルロン酸が吸収され充.効果が消失しても組織は伸展しているため,再注入または外科的治療が必要になった場合でも,治療の侵襲度を軽減させることができるのではないかと考える.ヒアルロン酸注入による合併症も考慮せねばならない.もっとも留意すべきは血管閉塞であり,発症率はC0.05%とされている12).そのなかでももっとも重篤な眼動脈閉塞は,ヒアルロン酸製剤のほかにコラーゲン製剤,自家脂肪注入によるものを合わせると,世界中でC32例の報告がある13).わが国でも鼻背へヒアルロン酸注入後に眼動脈閉塞をきたしたC1例が報告されている14).眼動脈の流入経路としては,眼窩上動脈,滑車上動脈,鼻背動脈,前篩骨動脈,眼角動脈および顔面動脈内に逆行性に注入剤が進み,中枢側の眼動脈が閉塞すると考えられている.眼動脈径はC2Cmm程度であるのに対し,ヒアルロン酸分子の大きさがC400Cμmであるため,閉塞しやすいといわれている15).これらの血管閉塞を回避するために,血管の解剖を熟知することは当然のことであるが,施術の際に弱い圧でゆっくりと逆行性に少量ずつ注入することが重要である.一般的にはフローバックによる血流の逆行確認は望ましいとされるが,注入剤の粘度が高いために臨床上有用な手法とはいいがたい.32CG以下の細い針では,血管内腔に針先が留置された状態になる可能性が高まる16)ため,それ以上の太い針や鈍針を使用し,血管内刺入を予防することも大切である.治療効果の持続期間については検討の余地がある.ヒアルロン酸注入剤は吸収性製剤であり,永続的な効果は得られないからである.製剤の種類にもよるが,6カ月からC1年で吸収されるものが多いとされている.しかし,これは安全性において優れているととらえることができる.非吸収性製剤による異物肉芽腫17)などの重篤な合併症を省ると,吸収性製剤かつヒアルロニダーゼで分解可能であることは大きな利点である.本症例では現時点でC3.9カ月間は治療効果が持続しており,合併症はみられていない.美容用ヒアルロン酸注入剤は,厚生労働省より医療機器製造販売承認を取得している.有効性および安全性は確立され,入手は容易である.しかし,保険適用外の製剤である.本症例では製剤実費は医療機関側が負担し,治療を行った.ヒアルロン酸注入は外来で簡便に実施可能な治療法である.患者が手術を希望しない場合や,全身状態により手術が困難な場合など,さまざまなケースに対応できる.また,低侵襲であることに加えてダウンタイムが短く即効性があるため,患者の満足度も高い.したがって,ヒアルロン酸注入剤による兎眼矯正術は,今後の眼科における治療の選択肢の一つになりうると考える.文献1)田邊吉彦,浅野隆,柳田和夫ほか:外傷性眼瞼瘢痕拘縮の形成手術(1)眼瞼表層瘢痕拘縮の形成.眼科C25:1447-1452,C19832)田邊吉彦,浅野隆,柳田和夫ほか:外傷性眼瞼瘢痕拘縮の形成手術(2)眼瞼全層瘢痕拘縮の形成.眼科C25:1549-1554,C19833)酒井成身,高橋博和,佐々木由美子ほか:真皮脂肪による義眼床陥没の修正.眼科36:909-915,C19944)ChoiHY,HongSE,LewJMetal:Long-termcomparisonofCaCnewlyCdesignedCgoldCimplantCwithCtheCconventionalCimplantCinCfacialCnerveCparalysis.CPlastCReconstrCSurgC104:1624-1634,C19995)GoldbergCRA,CLeeCS,CJayasunderaCTCetCal:TreatmentCofClowerCeyelidCretractionCbyCexpansionCofCtheClowerCeyelidCwithChyaluronicCacidCgel.COphthalCPlastCReconstrCSurgC23:343-348,C20076)FezzaCJP:NonsurgicalCtreatmentCofCcicatricialCectropionCwithhyaluronicacid.ller.PlastReconstrSurgC121:1009-1014,C20087)ManciniR,TabanM,LowingerAetal:UseofhyaluronicacidCgelCinCtheCmanagementCofCparalyticClagophthalmos:CtheChyaluronicCacidCgel“goldCweight”.COphthalCPlastCReconstrSurgC25:23-26,C20098)LeyngoldCIM,CBerbosCZJ,CMcCannCJDCetCal:UseCofChyalC-uronicacidgelinthetreatmentoflagophthalmosinsunk-ensuperiorsulcussyndrome.OphthalPlastReconstrSurgC30:175-179,C20149)TabanM,ManciniR,NakraTetal:Nonsurgicalmanage-mentCofCcongenitalCeyelidCmalpositionsCusingChyalronicCacidgel.OphthalPlastReconstrSurgC25:259-263,C200910)WangCF,CGarzaCLA,CKangCSCetCal:InCvivoCstimulationCofCdenovocollagenproductioncausedbycross-linkedhyal-uronicCacidCdermalC.llerCinjectionsCinCphotodamagedChumanskin.ArchDermatolC143:155-163,C200711)Fernandez-CossioS,Castano-OrejaMT:BiocompatibilityofCtwoCnovelCdermalC.llers:histologicalCevaluationCofCimplantsCofCaChyaluronicCacidC.llerCandCaCpolyacrylamideC.ller.PlastReconstrSurgC117:1789-1796,C200612)BeleznayCK,CHumphreyCS,CCarruthersCJDCetCal:VascularcompromiseCfromCsoftCtissueCaugmentation:experienceCwith12casesandrecommendationsforoptimaloutcomes.ClinAesthetDermatolC7:37-43,C201413)LazzeriD,AgostiniT,FigusMetal:Blindnessfollowingcosmeticinjectionsoftheface.PlastReconstrSurgC129:C995-1012,C201214)野々村咲子,忍足俊幸,三浦玄ほか:美容整形目的で鼻背へヒアルロン酸注射後に眼動脈閉塞を来したC1例.日眼会誌C118:783-787,C201415)ParkCSW,CWooCSJ,CParkCKHCetCal:IatrogenicCretinalCarteryocclusioncausedbycosmeticfacial.llerinjections.AmJOphthalmolC154:653-662,C201216)辻晋作,当山拓也,根岸圭:顔面へのフィラー注入の合併症と治療.形成外科C56:1061-1069,C201317)SachdevM,AnantheswarY,AshokBetal:Facialgranu-lomassecondarytoinjectionofsemi-permanentcosmeticdermal.llercontainingacrylichydrogelparticles.JCutanAesthetSurgC3:162-166,C2010***

ビマトプロスト点眼液(ルミガン®点眼液0.03%)の使用成績調査

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):399.409,2018cビマトプロスト点眼液(ルミガンR点眼液0.03%)の使用成績調査石黒美香*1北尾尚子*1末信敏秀*1川瀬和秀*2山本哲也*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2岐阜大学大学院医学系研究科眼科学Post-marketingStudyofBimatoprostOphthalmicSolution(LUMIGANROphthalmicSolution0.03%)MikaIshikuro1),NaokoKitao1),ToshihideSuenobu1),KazuhideKawase2)andTetsuyaYamamoto2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%)の使用実態下における安全性,有効性の確認および問題点の検出などを目的として,ビマトプロスト点眼液が新たに投与された緑内障・高眼圧症患者を対象に,プロスペクティブな中央登録方式で使用成績調査を実施した.最長C24か月の観察において,副作用はC4,680例中C2,310例(49.36%)に認められ,おもな副作用は結膜充血C27.05%などの眼局所の事象であった.眼圧評価対象C4,396例における平均眼圧は投与開始時C18.8C±6.2CmmHgで,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点において有意(p<0.0001)な下降を示し,24か月目の平均眼圧下降率はC18.2C±19.1%であった.また,いずれの病型においても投与C1か月目以降,有意な眼圧下降を示した.ビマトプロスト点眼液は副作用が一定程度発現するが,持続的な眼圧下降効果が認められ,有用な薬剤であると考えられた.Thisprospectivestudyaimstoevaluatethesafetyande.cacyoftopicalbimatoprost(LUMIGANCRCophthalmicsolution0.03%)onpatientswithglaucomaorocularhypertension(OH)C.Weenrolledpatientswhoreceivedanini-tialdoseofbimatoprost.Adversedrugreactions(ADRs)wereobservedin2,310outof4,680patientsduringthestudyperiod(upto24months).Oculareventssuchasconjunctivalhyperemia(incidencerate27.05%)comprisedtheCmajority.CMeanCintraocularCpressure(IOP)inC4,396CpatientsCwasC18.8C±6.2CmmHgCatCbaseline,Cdecreasingsigni.cantlyCatCallCobservationCpointsCafterC1Cmonth(p<0.0001)C.CAverageCIOPCreductionCrateCatC24CmonthsCwasC18.2±19.1%.CSigni.cantCIOPCreductionCwithCbimatoprostCwasCnotCassociatedCwithCanyCglaucomaCtypeCorCOH.CAlthoughsomeADRswereobservedwithitsuse,bimatoprostshowedsigni.canthypotensivee.ectinpersistent-ly.TheseresultssuggestthattopicalbimatoprostisanalternativetreatmentforglaucomaandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):399.409,C2018〕Keywords:ビマトプロスト,ルミガンCR点眼液C0.03%,プロスタグランジン,安全性,有効性,眼圧.bimato-prost,LUMIGANRophthalmicsolution0.03%,prostaglandin,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障治療の目的は視機能の維持であり,眼圧下降がエビデンスに基づく唯一の確実な治療法である1).1CmmHgの眼圧下降により緑内障性視野障害の進行リスクは約C10%低減する2).眼圧下降には,薬物治療,レーザー治療,観血的手術治療の選択肢があるが,通常は点眼薬による治療が開始される.すでに多くの緑内障治療点眼薬が存在するなかで,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は優れた眼圧下降効果を有し,全身性の副作用が少ないことから,第一選択薬として使用されている.国内では,1994年にイソプロピルウノプロストン点眼液が発売されて以降,ラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液が〔別刷請求先〕石黒美香:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:MikaIshikuro,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9,Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPAN上市され汎用されており,PG関連薬による眼圧下降治療が視野障害進行の抑制に有効であったことがプラセボを対照としたランダム化比較試験により立証されている3).このように,眼圧下降を目的とした薬物治療は欠かせないものとなる一方で,薬剤の効果には個人差があり,PG関連薬を使用しても十分な眼圧下降が得られない,いわゆるノンレスポンダーが,いずれの薬剤においても一定の割合で存在することが知られている.2009年に発売されたビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%,以下,本剤)は,新規に合成されたプロスタマイド誘導体で,強力な眼圧下降作用をもつCPG関連薬であり,緑内障治療における第一選択薬に新たな選択肢として加わった.一方,医薬品開発段階の臨床試験(治験)では,厳格なクライテリアに基づき患者が選択され,併用薬などについても厳格に管理されるが,臨床現場においては,年齢,合併症,併用薬など,さまざまな点で治験の様相と異なることから,治験で得られた情報だけでは十分とはいえず,市販後においても安全性,有効性の情報を収集・評価し,医療関係者へ提供することにより,適正使用の確保を図ることが重要となる.そこで今回,製造販売後の使用実態下における安全性,有効性の確認および問題点の検出などを目的として,2009年10月.2015年C12月まで使用成績調査(以下,本調査)を実施し,本剤の安全性および有効性(眼圧下降効果)について検討したので報告する.CI対象および方法1.調.査.方.法本調査は,本剤の使用経験のない緑内障・高眼圧症患者を対象とし,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C171号)に則り,プロスペクティブな中央登録方式で実施した.2009年C10月.2012年C11月の症例登録期間に,契約医療機関において新たに本剤を投与開始した症例について,投与開始日からC14日以内に中央登録センターにCFAXすることで症例登録した.目標症例数は投与開始後C1年を超える経過観察症例として3,000例,観察期間は原則C12か月以上,最長C24か月とし,投与開始日からC3か月目,12か月目およびC24か月目までの3分冊の調査票を各観察期間終了後に回収した.調査項目は,性別,年齢,病型,合併症,本剤の投与状況,前治療薬(本剤投与前C1か月以内に使用した薬剤),併用薬,併用療法(薬物以外の療法),臨床経過(他覚所見,眼科検査),有害事象,有効性評価などとし,他覚所見および眼科検査には,結膜充血スコア,角膜フルオレセイン染色スコア,眼瞼色素沈着/虹彩色素沈着/睫毛異常の有無と推移,視力値,眼圧値,視野障害の進行有無を設定して,イベント発生を検出した.また,有害事象が発現し本剤投与を中止または終了した症例は,原則C6か月後に回復性(転帰)を確認した.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,治療歴,併用する薬剤および療法,眼科検査の測定機器や測定方法などに制限は設けなかった.本調査は,医薬品医療機器総合機構による調査計画書の審査を経て,実施されたものである.C2.評.価.方.法安全性の評価対象は,投与開始以降C3か月目までに再来院のあった症例とした.本剤投与中あるいは投与後に発現した医学的に好ましくない事象(疾患,自他覚症状,臨床検査値の異常変動)を有害事象として収集し,そのうち本剤との因果関係を否定できないと判断されたものを副作用として取り扱った.副作用は,ICH国際医薬用語集日本語版(MedicalDictionaryCforCRegulatoryCActivities/J:MedDRA/J)ver-sionC20.0に基づき下層語にて分類し,発現数および発現頻度を算出した.また,重篤な副作用を検討した.主要な副作用については,1か月目,2か月目,3か月目,6か月目,12か月目およびC24か月目時点における累積発現率ならびに発現症例における本剤中止率を検討した.さらに,PG関連薬の特徴的な副作用であるくぼんだ眼(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)について,発現ならびに本剤中止後の転帰に影響を及ぼす患者背景等因子を探索するため,Cox比例ハザードモデルによる多変量解析で検討し,ハザード比およびC95%信頼区間を求めた.転帰は,担当医師による,回復,軽快,未回復,回復したが後遺症あり,死亡および不明のC6区分での判定とした.眼圧下降効果の評価は,安全性評価対象症例のうち,投与開始時および投与後C24か月目までにC1時点以上の眼圧が測定された症例を対象に,眼圧の推移を検討した.評価眼はC1症例C1眼とし,両眼投与の場合は投与開始時の眼圧が高い眼,開始時眼圧が同値の場合は右眼とした.ただし,投与期間中に眼手術を施行した眼は除外し,休薬期間がある場合は休薬前まで,中止症例は中止時までの眼圧値を評価対象とした.眼圧の推移は,眼圧評価対象全例に加え,病型別,治療薬の使用状況別,開始時眼圧値別にも検討した.眼圧および眼圧下降率は平均±標準偏差を算出し,投与開始時と各経過観察時の眼圧を,Dunnett型の多重性調整を行った対応のあるCt検定で比較した.なお,眼圧下降率は,(開始時眼圧C.投与後眼圧)/開始時眼圧C×100(%)として算出した.統計解析は,本調査計画に則り株式会社CCACクロアで実施した.副作用の発現と転帰に影響を及ぼす因子の検討(Cox比例ハザードモデルによる多変量解析)については,解析計画策定以降に検討の必要があると判断し,千寿製薬にて追加解析を行った.統計解析ソフトはCSASC9.2およびSAS9.3(SASInstituteInc.)を用い,有意水準は両側5%とした.CII結果1.症.例.構.成528施設C1,288名の医師と契約締結し,504施設からC5,083例の調査票を収集した.このうち初診時以降に再来院がなかった症例などのC403例を除いたC4,680例を安全性評価対象症例,さらに,4,396例を眼圧評価対象症例とした(図1).C2.患.者.背.景安全性評価対象症例の患者背景を表1に示した.男性48.1%,女性C51.9%,平均年齢C67.9C±12.8歳,病型(担当医師に基づく診断名)は,狭義の原発開放隅角緑内障(primaryopenCangleCglaucoma:POAG)42.9%,正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)37.4%,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglaucoma:PACG)4.0%,続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG)6.5%,高眼圧症(ocu-larhypertension:OH)4.6%で,原発開放隅角緑内障(広義)がC80.3%を占めた.本剤投与前に緑内障治療点眼薬を使用していた症例は58.9%(2,758/4,680例)で,2,422例がCPG関連薬で前治療を行っており,そのうち,53.7%(1,301例)がラタノプロストからの切替え症例であった.一方,点眼治療をしていなかった症例はC39.1%であった.また,投与期間中にC43.4%の症例で他の緑内障治療点眼薬が併用された.平均投与期間はC491.7C±270.7日で,12か月(360日)以上投与された症例はC67.2%(3,143/4,680例)であった.1,859例において,24か月目までの観察期間中に投与中止または終了したことが報告され,中止理由の内訳は「転院または来院なし」45.6%(847例)「有害事象」31.8%(591例),「効果不十分」11.7%(217例),などであった(表2).C3.安全性安全性評価対象症例C4,680例のうち,49.36%(2,310例)に副作用が認められた(図1).発現率C0.1%以上の副作用は表3に示したとおりで,主要な副作用は,結膜充血C1,266件,眼瞼色素沈着C704件,睫毛の成長C655件,点状角膜炎および虹彩色素過剰が各C376件,DUES163件,睫毛剛毛化C158件,角膜びらんC157件,眼圧上昇C129件などの眼局所における事象であった.重篤な副作用としては,眼圧上昇C13件,視力低下C2件,角膜びらん,水疱性角膜症,白内障,白内障増悪,ぶどう膜炎,網膜静脈分枝閉塞,網膜中心静脈閉塞,ポスナー・シュロスマン症候群,前立腺癌,うつ病の増悪,脳梗塞およびてんかん各C1件が認められた.3.0%以上認められた副作用について,初発発現時期ならびに発現症例における本剤中止率を表4に示した.結膜充血のC59.4%が投与後C1か月目までに発現し,3か月目までには,眼瞼色素沈着,睫毛の成長,点状角膜炎,睫毛剛毛化,および角膜びらんの約C50%が発現した.投与を中止または終了した症例は,結膜充血の発現例でC44.6%(565/1,266例),眼瞼色素沈着の発現例でC39.2%(276/704例),睫毛の成長の発現例でC31.9%(209/655例),点状角膜炎の発現例で37.5%(141/376例),虹彩色素過剰の発現例でC30.3%(114/376例),DUES発現例でC74.8%(122/163例),睫毛剛毛化の発現例でC29.1%(46/158例),および角膜びらん発現例でC38.9%(61/157例)であった.DUES発現例で中止率が高く,このうち「有害事象」を理由として投与中止された割合はC70.6%(115/163例)であった.また,122例の投与中止例のうち,72.1%(88例)でCDUESの回復・軽快が確認され,最長C775日の追跡調査における未回復の割合は15.6%(19例)であった.DUESの発現ならびに本剤中止後の転帰(回復・軽快)に影響を及ぼす患者背景等因子について,Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析での検討結果を表5および表6に示した.発現への影響が想定される因子として,性別,年齢,全身性の主要合併症(高血圧,糖尿病および高脂血症)の有無,前治療CPG関連薬の有無を検討項目とし,一方,転帰に関しては,本剤投与期間も検討因子とした.DUES発現に関連する因子として,女性(ハザード比2.40,p<0.0001),糖尿病(ハザード比0.50,p=0.0298),および前治療CPG関連薬(ハザード比C0.50,p<0.0001)に有意差を認め,DUESの回復・軽快に関連する因子としては,本剤投与期間(ハザード比C0.81,p=0.0010)に有意差を認めた.C4.眼圧下降効果眼圧評価対象症例C4,396例の投与開始時の眼圧(平均C±標準偏差)は,18.8C±6.2CmmHgであった.開始時以降C24か月目までの眼圧推移は図2に示したとおりであり,投与開始C1か月目以降すべての経過観察時点において,投与開始時に比べ有意な眼圧下降を認め(p<0.0001),24か月目の眼圧は表1患者背景患者背景項目症例数(%)男性2,249(C48.1)性別女性2,430(C51.9)調査不能1(0C.0)年齢(投与開始時)病型(本剤投与眼)投与期間40歳未満40歳以上C65歳未満65歳以上C75歳未満75歳以上平均値±標準偏差C最小.最大緑内障POAG(狭義)NTGPACGSGその他の緑内障OHその他(複数の使用理由を含む)30日未満30日以上C60日未満60日以上C90日未満90日以上C180日未満180日以上C360日未満360日以上C540日未満540日以上C720日未満720日以上不明平均値±標準偏差C145(3.1)1,477(31.6)1,475(31.5)1,583(33.8)67.9±12.811.984,260(91.0)2,008(42.9)C1,752(37.4)C185(4.0)C306(6.5)9(0.2)C216(4.6)204(4.4)1,577(33.7)3,103(66.3)3,281(70.1)1,399(29.9)70(1.5)3,869(82.7)741(15.8)68(1.5)3,874(82.8)738(15.8)1,798(38.4)2,340(50.0)542(11.6)1,094(23.4)1,328(28.4)336(7.2)1,829(39.1)93(2.0)1,301(53.7)531(21.9)520(21.5)70(2.9)あり2,032(43.4)なし2,648(56.6)443(9.5)4,212(90.0)25(0.5)225(4.8)228(4.9)214(4.6)420(9.0)450(9.6)376(8.0)1,614(34.5)1,153(24.6)0(0.0)491.7±270.7眼手術歴(本剤投与眼)合併症(眼疾患)合併症(肝疾患)合併症(腎疾患)合併症(その他の疾患)本剤投与前の緑内障点眼治療本剤へ切替え前のPG関連薬(多剤併用を含む)緑内障治療の併用点眼薬(本剤投与眼)併用療法(非薬物療法)ありなしありなしありなし不明ありなし不明ありなし不明PG関連薬(配合剤を含む)PG関連薬+PG関連薬以外PG関連薬以外前治療なし不明他ラタノプロスト(配合剤を含む)トラボプロスト(配合剤を含む)タフルプロストイソプロピルウノプロストンありなし不明POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症,PG:プロスタグランジン.402あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(120)表2投与中止理由表3副作用発現状況(0.1%以上発現した副作用)中止理由症例数*構成比(%)転院または来院なしC847C45.6有害事象C591C31.8効果不十分C217C11.7その他C180C9.7複数の理由C24C1.3計C1,859C100.0*両眼投与例では,両眼ともに中止した症例.14.4±3.9CmmHg,眼圧下降率(平均C±標準偏差)はC18.2C±19.1%であった.病型別では,POAG,NTG,PACG,SG,OHのいずれにおいても,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点で有意に眼圧が下降し,24か月目の下降率はC15.7.24.7%であった(図3).緑内障治療点眼薬の使用状況別の眼圧推移は,図4に示したとおりであり,点眼前治療がなく観察期間中を通して本剤単剤が投与された新規単剤投与群,PG関連薬から本剤単剤への切替え群,Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)単剤から本剤単剤への切替え群,ならびにCb遮断薬への本剤単剤追加群において,各観察時点の眼圧は有意に下降した.24か月目の眼圧下降率は,新規単剤投与群およびCb遮断薬単剤から本剤単剤切替え群でC23.4%,Cb遮断薬への本剤単剤追加群でC22.5%,PG関連薬から本剤単剤切替え群で13.8%であった.さらに新規単剤投与症例を投与開始時の眼圧値別に検討したところ,開始時眼圧が20mmHg以上,15CmmHg以上C20CmmHg未満およびC15CmmHg未満のいずれの症例群でも,投与開始C1か月目以降すべての観察時点で有意な眼圧下降を示し,開始時眼圧が高い症例ほど眼圧下降率が高い傾向を認めた(図5).新規単剤投与症例において,投与開始後C1か月目の眼圧下降率がC10%未満であった症例はC181例(15.7%)存在した.病型別ではCNTGおよびCOH,開始時眼圧別では開始時眼圧の低い症例群ほど,眼圧下降率C10%未満の割合が高かった(表7).CIII考按本調査は,本剤の販売開始に伴いC2009年C10月.2015年12月に実施し,全国の医療機関より安全性評価対象症例としてC4,680例,眼圧評価対象症例としてC4,396例を集積した.24か月の観察において副作用は,安全性評価対象C4,680例中C2,310例C49.36%と高頻度に認められた.副作用発現件数はC4,635件であり,そのうちC4,586件C98.9%が眼局所の副作用であった.PG関連薬は全身性の副作用が少ない反面,眼局所に特徴的な副作用が発現する.PG関連薬の代表的な眼局所副作用として,結膜充血,眼瞼や虹彩の色素沈着,睫(121)C副作用の種類発現数(%)眼局所の副作用C4,586結膜充血1,266(27.05)眼瞼色素沈着704(15.04)睫毛の成長655(14.00)点状角膜炎376(8.03)虹彩色素過剰376(8.03)くぼんだ眼(DUES)163(3.48)睫毛剛毛化158(3.38)角膜びらん157(3.35)眼圧上昇129(2.76)睫毛乱生56(1.20)眼そう痒症49(1.05)眼乾燥40(0.85)眼刺激36(0.77)眼瞼炎28(0.60)眼痛28(0.60)結膜炎27(0.58)眼の異物感25(0.53)視力低下24(0.51)アレルギー性結膜炎18(0.38)眼の違和感18(0.38)眼瞼の多毛症17(0.36)眼の異常感13(0.28)白内障12(0.26)眼精疲労11(0.24)霧視11(0.24)眼瞼皮膚炎10(0.21)眼瞼紅斑10(0.21)黄斑浮腫10(0.21)眼瞼そう痒症10(0.21)眼瞼浮腫9(0.19)眼瞼縁炎9(0.19)眼乾燥感8(0.17)糸状角膜炎8(0.17)白内障増悪7(0.15)結膜下出血7(0.15)眼脂5(0.11)*麦粒腫5(0.11)虹彩炎5(0.11)乾性角結膜炎5(0.11)ぶどう膜炎5(0.11)その他(<0.10%)C76眼局所以外の副作用C49頭痛6(0.13)その他(<0.10%)C43*:添付文書の「使用上の注意」から予測できない副作用(2015年C7月改訂の添付文書に基づく)毛の伸長・増加,prostaglandinCassociatedCperiorbitopathy(PAP)などが報告されており4),本剤にも含有される防腐剤のベンザルコニウム塩化物の長期曝露により,角膜上皮障害が生じることも知られている.本調査で認められた主要な副表4副作用発現時期と中止率累積発現率*(%)有害事象を副作用の種類発現数中止率(%)理由とする1か月2か月3か月6か月12か月24か月中止率(%)結膜充血C1,266C59.4C72.3C81.2C91.4C96.3C100.0C44.6C24.5眼瞼色素沈着C704C17.8C34.2C52.0C74.3C88.1C100.0C39.2C25.3睫毛の成長C655C10.8C27.3C46.9C73.1C89.6C100.0C31.9C16.2点状角膜炎C376C24.0C37.6C49.9C65.9C84.8C100.0C37.5C17.6虹彩色素過剰C376C13.4C25.5C39.4C67.3C85.3C100.0C30.3C11.7CDUESC163C16.0C21.8C36.5C59.6C76.3C100.0C74.8C70.6睫毛剛毛化C158C17.9C35.9C51.3C73.7C93.6C100.0C29.1C14.6角膜びらんC157C26.8C40.1C52.9C71.3C89.8C100.0C38.9C21.0*:発現時期不明の症例を除外して算出.表5Cox比例ハザードモデル分析によるDUES発現に影響する因子の検討因子リファレンスハザード比95%信頼区間p値性別男性C2.401.64.3.50<0.0001年齢連続量(10歳あたり)C1.060.92.1.21C0.4389高血圧なしC1.130.75.1.69C0.5702糖尿病なしC0.500.27.0.94C0.0298高脂血症なしC1.140.61.2.16C0.6781前治療(PG関連薬)なしC0.500.35.0.70<0.0001表6Cox比例ハザードモデル分析によるDUESの回復・軽快に影響する因子の検討因子リファレンスハザード比95%信頼区間p値性別男性C0.670.38.C1.16C0.1484年齢連続量(1C0歳あたり)C1.010.81.C1.25C0.9481高血圧なしC1.240.64.C2.41C0.5180糖尿病なしC0.930.28.C3.07C0.8987高脂血症なしC0.970.36.C2.66C0.9591前治療(PG関連薬)なしC0.630.39.C1.04C0.0699本剤投与期間連続量(9C0日あたり)C0.810.71.C0.92C0.0010C作用は,結膜充血C27.05%,眼瞼色素沈着C15.04%,睫毛の成長C14.00%,点状角膜炎C8.03%,虹彩色素過剰8.03%,DUES3.48%,睫毛剛毛化C3.38%,角膜びらんC3.35%などであり,おおむね既報と同様であった.重篤な副作用がC27件あったが,そのうち眼圧上昇および視力低下については,半数において効果不十分によるものと判定されており,原疾患の進行によるものと推察された.また,その他の重篤事象も含め,投与後の発症あるいは判定不能などの理由により,因果関係を否定されなかったものが大部分であり,本剤との関連性が明確な事象は少なかった.投与開始からの初発時期は,結膜充血の約C60%がC1か月目まで,眼瞼色素沈着,睫毛の成長,点状角膜炎,睫毛剛毛化および角膜びらんの約C50%がC3か月目までに認められた.虹彩色素過剰およびCDUESを含めた主要な眼局所の副作用において,累積発現率はC6か月目までに約C60%以上を示し,以降C24か月目まで経時的に発現率が上昇していることから,投与期間中を通じた観察が重要であり,とくに投与早期は注意深く経過観察する必要があると考えられる.24か月目までにC1,859例と多数の症例で本剤の投与中止・終了が報告され,その中止理由の内訳は「転院または来院なし」(847例)がもっとも多く,ついで「有害事象」(591例)が多かった.「転院または来院なし」では,そのC41.0%(347例)がC3か月目までの投与開始早期に中止となっていた.また,847例中C444例が本剤投与前に緑内障の点眼治療を行っていない新規症例であり,新規症例で投与早期に来院が途絶えた割合が高かった.来院が途絶えた真の理由は定かではないが,自己判断で中止した症例の存在が推察され,患者自身が本剤による治療の必要性を理解し納得したうえで治療を継3025201510眼圧(mmHg)0開始時12369121518212424か月目経過観察期間(月)眼圧下降率n=(4,396)(3,412)(2,731)(3,420)(2,680)(2,799)(2,191)(2,130)(2,015)(1,812)18.2±19.1%(2,795)*:p<0.0001(vs開始時)図2眼圧評価対象全例の眼圧推移30252015100眼圧(mmHg)POAG(1,981)(1,542)(1,276)(1,278)(1,604)(1,278)(1,336)(1,048)(1,004)(964)(868)経過観察期間(月)24か月目眼圧下降率19.4±19.9%NTG(1,704)(1,310)(1,076)(1,008)(1,291)(1,000)(1,037)(828)(816)(757)(703)15.7±16.5%PACG(170)(139)(106)(109)(127)(97)(108)(85)(82)(78)(66)17.2±25.2%SG(303)(249)(205)(198)(227)(177)(173)(130)(127)(123)(86)24.7±23.2%OH(217)(156)(120)(125)(156)(119)(131)(91)(92)(83)(83)21.0±17.1%*:p<0.0001(vs開始時)図3病型別の眼圧推移30252015100眼圧(mmHg)新規単剤(1,443)(846)(1,020)(744)(760)(588)(563)(555)(494)(1,151)(797)PG関連薬/開始時12369121518212424か月目経過観察期間(月)眼圧下降率23.4±16.3%本剤切替えb遮断薬/本剤切替えb遮断薬に本剤追加(850)(624)(530)(545)(653)(522)(529)(422)(416)(363)(339)13.8±17.6%(100)(79)(59)(62)(67)(50)(55)(38)(37)(35)(33)23.4±13.5%(48)(33)(37)(26)(34)(32)(32)(23)(26)(22)(21)22.5±17.4%*:p<0.0001,††:p<0.001(vs開始時)図4緑内障治療点眼薬の使用状況別の眼圧推移3025開始時123691215182124眼圧(mmHg)201510020mmHg以上(549)(430)(296)(302)(388)(280)(296)(218)(212)(210)(182)15mmHg以上経過観察期間(月)24か月目眼圧下降率31.6±14.9%(565)(455)(346)(302)(412)(297)(303)(237)(232)(227)(203)20.6±13.9%20mmHg未満15mmHg未満(329)(266)(204)(193)(220)(167)(161)(133)(119)(118)(109)14.8±16.7%*:p<0.0001(vs開始時)図5開始時眼圧値別の眼圧推移(新規単剤投与症例)表7新規単剤投与症例の1か月目の眼圧下降率眼圧(mmHg)眼圧下降率眼圧下降率開始時1か月目(%)10%未満新規単剤投与全例C18.7±5.8C13.7±3.7C24.7±15.815.7%(C181/1,151)病型CPOAGC21.8±5.0C15.5±3.6C28.3±15.111.0%(C41/372)CNTGC15.5±2.8C12.1±2.5C21.2±14.418.8%(C120/638)CPACGC20.3±4.9C14.3±3.5C26.3±12.213.0%(C3/23)CSGC27.6±9.7C15.6±5.3C38.6±21.29.8%(C5/51)COHC24.6±4.3C17.6±4.4C28.1±19.118.8%(C12/64)開始時眼圧20CmmHg以上C24.4±5.0C16.3±3.8C32.1±15.47.2%(C31/430)15CmmHg以上C20CmmHg未満C16.8±1.4C13.0±2.4C22.6±13.415.4%(C70/455)15CmmHg未満C12.5±1.5C10.5±2.2C16.5±15.430.1%(C80/266)続し,経過観察のために定期的に受診すること,すなわちアドヒアランス改善の必要性が示唆された.「有害事象」を理由に中止した症例においては,1か月目までの中止がC171例(28.9%)と突出して多く,このうちC109例が結膜充血の発現症例であった.すなわち,投与開始早期に好発する結膜充血を理由に治療から脱落する症例が多いことが示唆された.一方,副作用発現例について述べると,結膜充血および眼瞼色素沈着を発現した症例では,約C25%が有害事象を理由に本剤を中止した.結膜充血は点眼開始時にとくに強く,投与継続により症状が軽減することが多い.Arcieriらは,ラタノプロスト,ビマトプロストおよびトラボプロストの投与群で,結膜充血スコアは投与C1週間後に有意に上昇し,15日後に最大となり,1か月後に低下しはじめたと報告している5).また,眼瞼色素沈着は洗顔前に点眼することで発現を抑制できる可能性がある.したがって,治療開始時に患者への副作用の説明や点眼指導を十分に行うことにより,有害事象による脱落を低減できる余地があると考える.日本人のCDUES発現頻度は,投与前後の写真を比較した結果によると,ビマトプロストのC1.6か月投与でC44.60%6),3か月以上投与でC60%7)と報告されているが,本調査ではC3.48%であり大きく乖離していた.その要因として,治験時の発現頻度がC2.17%(7/323例)であり,調査開始当時は現在と比較しCDUESの認知度が低かったこと,ならびに脱落症例が多かったことが考えられた.また,患者自身による自覚と写真による客観的判定とは一致率が低く7),自覚できないほど軽度の変化も写真では検出されることから,写真判定による緻密な評価を調査項目としなかったことが発現率の乖離にもっとも強く影響したと考えられた.Aiharaらは,ラタノプロストからビマトプロストへ変更した症例でCDUES発現群と非発現群の背景因子を比較した結果,高年齢および非近視眼でCDUESの発現頻度が高く,性別および眼圧下降値は関連がなかったと報告している6).今回,DUES発現に影響する因子の検討において,性別,糖尿病の有無,前治療CPG関連薬の有無に有意差があった.一方,DUESの回復・軽快に関連する有意な因子は,本剤投与期間のみであった.女性の発現リスクが男性のC2.4倍であった結果は既報と相違していたが,写真判定をしていないこと,およびCDUESが美容的な副作用であることを勘案すると,美容上の変化に敏感な女性における自覚症状の訴えが強く反映された可能性がある.また,糖尿病症例はCDUES発現のハザード比が低かった.糖尿病患者は概してCBMIが高いため,眼瞼の変化が不明瞭であった可能性や,糖尿病治療薬の使用による影響などが推察されるが,当該症例群に関する周辺情報の収集が不十分であり,詳細を検討することはできなかった.前治療CPG関連薬の使用例では発現リスクが低下し,回復・軽快のハザード比も,有意差はないが低い傾向にあった.前治療にCPG関連薬を使用していた症例のなかには,認識の有無にかかわらず,本剤開始時点ですでに眼瞼の変化が出現していた症例が存在し,本剤投与後の眼瞼の変化量が小さかったことにより,DUES検出率が低下した可能性が考えられた.ただし,いったんイベントと判断される変化が生じたときは,PG関連薬の非使用例よりも回復しづらいと推察される.本剤中止後にはCDUESのC72.1%が回復・軽快したが,本剤投与期間についての回復・軽快のハザード比はC0.81であり,投与の長期化に伴い回復しづらくなる傾向が示唆された.なお,中止後の使用薬剤は調査しておらず,その関連は不明であった.前治療CPG関連薬の有無別での副作用発現率は,結膜充血20.89%およびC34.32%,眼瞼色素沈着C12.72%およびC18.01%,虹彩色素過剰C6.36%およびC10.02%,睫毛の成長C11.81%およびC16.81%,睫毛剛毛化C2.81%およびC4.06%,睫毛乱生C0.70%およびC1.71%であり,いずれの事象も前治療にCPG関連薬を使用した症例,すなわち他のCPG関連薬からの切替え例で発現率が低かった.ラタノプロスト治療後にビマトプロストを投与した集団で,結膜充血の発現が有意に低かった報告8)があり,本調査でも結膜充血は同じ傾向であった.また,結膜充血を含めこれらの事象はCPG関連薬の代表的副作用であり,発現に対する前治療CPG関連薬の影響は,前述のDUESと同様であると思われた.ビマトプロストの長期投与時の眼圧下降効果は,これまでに複数報告されている.投与前眼圧C25.0CmmHgの患者で点眼C24か月の眼圧下降値がC7.8CmmHg9),新たにCPOAGと診断され,投与前眼圧C24.7CmmHgの患者でC2年後の眼圧下降率がC32.0%10),投与前眼圧C16.7CmmHgのCNTG患者でC24か月後の眼圧下降率がC18.6%11),ラタノプロストで効果不十分なためビマトプロストに変更した,投与前眼圧が右眼C23.1mmHg,左眼C22.3CmmHgの患者では6.24か月後の眼圧下降率が右眼C17.8.22.0%,左眼C15.0.24.0%12)であり,いずれの報告もC24か月以上の長期にわたり眼圧下降効果が認められたことを示しているが,200例未満を対象とした評価結果であった.今回,眼圧評価対象C4,396例における眼圧下降効果を検討したところ,開始時眼圧はC18.8CmmHgで,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点で有意に眼圧が下降し,24か月目の眼圧下降率はC18.2%であった.病型別,緑内障治療点眼薬の使用状況別,ならびに新規単剤投与症例の投与開始時の眼圧値別で眼圧推移を検討した結果,いずれも有意な眼圧下降を認め,緑内障病型や開始時眼圧を問わず,他の緑内障治療点眼薬からの切替えおよび併用でもC24か月目まで眼圧下降効果は継続した.なお,治療効果を判定するには無治療時の眼圧を把握することが重要であり,無治療時の眼圧が低いほど目標眼圧を低く設定1)し治療が進められる.すなわち,本調査において,とくに新規単剤投与で投与開始時C15CmmHg未満の症例においても,1か月後に有意な眼圧下降が認められたことの意義は大きい.本調査では,ウノプロストンもCPG関連薬として取り扱った.また,PG関連薬とCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤とを明確に区別することができなかった.よって,緑内障治療点眼薬の使用状況別の検討における「PG関連薬から本剤単剤への切替え」群の眼圧推移は,ウノプロストンからの切替え症例およびCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤からの切替え症例を含む結果である.また,Cb遮断薬から本剤へ切替えた群と本剤を追加した群とのC24か月目の眼圧下降率が同程度であったが,両群の患者背景などに相違があったためと推察された.新規単剤投与症例では,投与開始C1か月目において眼圧下降率C10%未満の症例がC15.7%あり,その割合は,病型別ではCNTGおよびCOH,開始時眼圧別では開始時眼圧が低い症例群で高い傾向が認められた.PG関連薬のノンレスポンダーを検討した報告では,眼圧下降率C10.0%未満をノンレスポンダーと定義した場合,ラタノプロストのC1.6か月投与でC14.3.20.9%13,14),タフルプロストのC12.48週投与で12.8.18.2%15)であったとされ,直接比較はできないが,本剤においてもノンレスポンダーは同程度存在することが推察された.しかしながら,ノンレスポンダーの定義は明確ではなく,1か月目の眼圧下降率のみで判定することは困難であり,アドヒアランス不良の可能性などもあることから,判定にはさらなる検討が必要である.緑内障は慢性に経過する進行性の疾患であり,視野障害の進行を抑制するためには,長期間にわたって眼圧を良好にコントロールする必要がある.今回の検討結果は,前治療の効果や反応性,薬剤変更によるアドヒアランスの向上,目標眼圧が達成された症例のみが評価された可能性など,さまざまなバイアスの存在が考えられるものの,本剤投与によりC24か月にわたって一定の持続的な眼圧下降が認められ,新規単剤投与例でのC24か月目の眼圧下降率がC23.4%であったことは,視野維持への寄与が十分に期待できる結果と考えられる.また,緑内障薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ること1)であり,単剤での治療をめざすため,ノンレスポンダーを含め効果が不十分な場合,薬剤耐性が生じた場合は,他の薬剤への変更が検討されることとなる.本調査でCPG関連薬からの切替え症例においても有意な付加的眼圧下降が認められたことから,他のCPG関連薬の投与症例で薬剤変更が必要となった場合にも,本剤は有用な選択肢となると考えられた.一方で,副作用が高頻度に発現することが改めて確認された.副作用の種類はおおむね従来の報告から推定される範囲にあると判断されるが,主要な副作用の発現例ではC29.1.74.8%が投与中止に至っており,投与に際しては引き続き注意深く経過観察を行い,眼圧下降と副作用のバランスを図りながら総合的に投与継続の可否を判断する必要があると考える.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:本稿は,千寿製薬株式会社により実施された使用成績調査結果に基づき報告された.石黒美香,北尾尚子,末信敏秀は千寿製薬株式会社の社員である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:3-46,C20122)LeskeCMC,CHeijlCA,CHusseinCMCetCal:FactorsCforCglauco-maCprogressionCandCtheCe.ectCofCtreatment:theCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.CArchCOphthalmolC121:48-56,C20033)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:LatanoprostforCopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,20154)地庵浩司,木内良明:プロスタグランジン関連薬の臨床.眼科C58:1435-1440,C20165)ArcieriCES,CSantanaCA,CRochaCFNCetCal:Blood-aqueousCbarrierCchangesCafterCtheCuseCofCprostaglandinCanaloguesinCpatientsCwithCpseudophakiaCandCaphakia:aC6-monthCrandomizedtrial.ArchOphthalmolC123:186-192,C20056)AiharaM,ShiratoS,SakataR:IncidenceofdeepeningoftheCupperCeyelidCsulcusCafterCswitchingCfromClatanoprostCtobimatoprost.JpnJOphthalmolC55:600-604,C20117)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetCal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JGlaucomaC22:626-631,C20138)KurtzCS,CMannCO:IncidenceCofChyperemiaCassociatedCwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsub-jectsCpreviouslyCtreatedCwithClatanoprost.CEurCJCOphthal-molC19:400-403,C20099)CohenCJS,CGrossCRL,CCheethamCJKCetCal:Two-yearCdou-ble-maskedCcomparisonCofCbimatoprostCwithCtimololCinCpatientswithglaucomaorocularhypertension.SurvOph-thalmolC49:S45-S52,C200410)KaraCC,C.enCEM,CElginCKUCetCal:DoesCtheCintraocularCpressure-loweringCe.ectCofCprostaglandinCanaloguesCcon-tinueCoverCtheClongCterm?CIntCOphthalmolC37:619-626,C201711)InoueCK,CShiokawaCM,CFujimotoCTCetCal:E.ectsCofCtreat-mentwithbimatoprost0.03%for3yearsinpatientswithnormal-tensionglaucoma.ClinOphthalmolC8:1179-1183,C201412)SontyCS,CDonthamsettiCV,CVangipuramCGCetCal:Long-termCIOPCloweringCwithCbimatoprostCinCopen-angleCglau-comaCpatientsCpoorlyCresponsiveCtoClatanoprost.CJCOculCPharmacolTherC24:517-520,C200813)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼C59:553-557,C200514)小松務,上野脩幸:広義の原発開放隅角緑内障に対するラタノプロスト点眼の眼圧下降効果.眼臨C100:492-495,C200615)中内正志,岡見豊一,山岸和矢:正常眼圧緑内障患者におけるタフルプロスト点眼液の長期眼圧下降効果.あたらしい眼科C28:1161-1165,C2011C***

原発性Sjögren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):395.398,2018c原発性Sjogren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例上月直之小川葉子山根みお内野美樹西條裕美子坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofPrimarySjogren’sSyndromewithOcularCicatricialPemphigoid-likeCicatrizingConjunctivitisNaoyukiKozuki,YokoOgawa,MioYamane,MikiUchino,YumikoSaijoandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineSjogren症候群(SS)は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である.筆者らは,長期加療をしているCSSに眼類天疱瘡(OCP)様の高度な結膜線維化を併発しているまれなC1例を経験したので報告する.症例はC81歳,女性.49歳時に原発性CSSの診断を受けた.診断時より甲状腺機能低下症を認めた.55歳当科受診時,SSに特徴的な角膜所見に加え,瞼球癒着,眼瞼結膜線維化,広範囲な睫毛乱生症を認め,繰り返し睫毛抜去術を必要とした.レーザー共焦点顕微鏡像は角膜上皮下神経の吻合,枝分かれの異常形態を認め,SSとCOCPに認められる所見を呈していた.SS症例に結膜線維化が合併することはまれであり,本症例は慢性甲状腺炎による異常な免疫応答を契機として,OCP様の高度な結膜線維化所見を併発した可能性が考えられた.Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbydryeyeanddrymouthwithlymphocyticin.ltrationintolacrimalglandsCandCsalivaryCglands.CCicatricialCchangesConCtheCocularCsurfaceCrarelyCoccurCinCSSCpatients.CWeCreportCtheCrarecaseofan81-year-oldfemaleSSpatientwithcicatricialchangesontheocularsurface.Shehadsu.eredfromchronicthyroiditisatthediagnosisofSSin1985.Clinical.ndingsoftheocularsurfaceandteardynamicsrevealeddryeyediseaseaccompaniedbysymblepharon,severetarsalconjunctival.brosisandextensivetrichiasisinbotheyes.InvivoCconfocalimagesrevealedabnormalanastomosisofnervevessels,tortuosity,branchesandanincreaseinthenumberofsubbasalin.ammatorycellsinthecornea,similartoocularcicatricialpemphigoidandSSimages.Conclusion:OurcasesuggestedthatpatientswithSSaccompaniedbyautoimmunethyroiditismaydevelopseveredryeyediseasewithcicatrizingconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):395.398,C2018〕Keywords:シェーグレン症候群,眼類天疱瘡,ドライアイ,慢性甲状腺炎,結膜線維化.Sjogren’ssyndrome,oc-ularcicatricialpemphigoid,dryeyedisease,chronicthyroiditis,cicatrizingconjunctivitis.CはじめにSjogren症候群(SjogrenC’sCsyndrome:SS)は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比はC1:17と女性に圧倒的に多い2).SSの病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因,Epstein-Barr(EB)ウイルスなどの微生物感染,環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている3).全身的に他の膠原病の合併症のない原発性CSSと,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性CSSに分類される.原発性CSSは涙腺唾液腺内に病変がとどまる腺症状と,それ以外の臓器に病変が認められる腺外症状がある.典型的なCSSでは通常,高度な結膜線維化はきたさない点で他の重症ドライアイの亜型である眼類天疱瘡(ocularcica-tricialCpemphigoid:OCP),Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病と臨床像の違いがある4).OCPは中高年に好発する粘膜上皮基底膜に対する自己抗体による慢性炎症性眼疾患である.眼表面の線維化が慢性的に進行することにより,瞼球癒着,結膜.短縮などをきたし〔別刷請求先〕上月直之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NaoyukiKozuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN重症ドライアイをきたす.角膜輪部疲弊により角膜への結膜侵入と結膜杯細胞の減少または消失を認める.手術や感染の際に急性増悪することもある5).今回,筆者らは,SSによる重症ドライアイ症例の眼表面にCOCP様の結膜線維化所見を呈したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC81歳,女性.1985年C49歳時に原発性CSSを発症した.既往歴として高血圧,骨粗鬆症,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症を認めた.当科初診よりC1年前には手,胸部,首周囲の皮膚に湿疹が出現したことがあるが内服はしていなかった.SSによるドライアイ,ドライマウスに対し当科と内科にて通院,加療を行うためC1989年に当科受診となった.初診時眼所見はCSchirmer値C5Cmm/5Cmin,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点,フルオレセイン染色スコアC9点中C3点,左眼に糸状角膜炎を認めた.SSによるドライアイにはまれな結膜線維化,瞼球癒着,広範囲な睫毛乱生症を認め,OCPに類似した所見を認めた(図1).口唇生検C1Cfocus/C4Cmm2であり,耳下腺腫脹を認めた.経過観察中の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中C7点からC9点,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点からC8点,涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:TFBUT)8秒からC2秒に悪化を認め,ドライアイに進行性の悪化を認めた.1991年C7月に反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌ともにC0Cmmとなり眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中8点,ローズベンガル染色スコアC9点中C9点,涙液動態の所見は,BUTC2秒,反射性涙液分泌C0Cmmとなり重症化を認めた.2017年C6月自覚症状のCocularCsurfaceCdiseaseCindex(OSDI)はC40.9ポイント,IgGは常にC1,500以上と高値を推移して現在に至っている.SS重症度について,ヨーロッパリウマチ学会の疾患活動性基準であるCEULARCSjogrenC’sSyndromeDiseaseActivitiyIndex(ESSDAI)はC5点以上で活動性が高いとする.本症例はリンパ節腫脹,腺症状,関節症状,生物学的所見よりCESSDAIはC9点であった.採血結果として補体CC3はC84Cmg/dl,補体CC4はC17Cmg/dlで正常範囲内,抗CANA抗体C640倍,リウマチ因子C23CIU/ml,抗SSA抗体C1,200CU/ml,抗CSSB抗体C100CU/mlと高値,IgGはC1,700Cmg/dlを超えることもあり高値を示した.IgGサブクラスのCIgG4はC41Cmg/dlと正常範囲内であった.抗セントロメア抗体はC13であった.甲状腺機能低下症に対し,レ図1結膜線維化を伴う原発性Sjogren症候群によるドライアイ症例の眼瞼所見a,b:眼瞼内反症による粘膜皮膚移行部の前方移動.結膜.短縮(Ca:★).マイボーム腺開口部の位置異常(b:△).Marxlineの著明な前方移動.Cc,d:上眼瞼結膜の線維化(Cc:.).下眼瞼の瞼球癒着(Cd).Cabc図2本症例のレーザー共焦点顕微鏡角膜所見(原発性Sjogren症候群と慢性甲状腺炎の罹病期間32年)Ca,b:側副路吻合形成(Ca:☆)角膜神経の異常走行,枝分かれ(Cb:△)を認める.Cc:ごく少数のリンパ球(Cc:.)および樹状細胞様細胞(Cc:▲)を認める.Cボチロキシンナトリウムを内服中であり,遊離CT3はC3.0Cpg/ml,遊離CT4はC1.5Cng/dl,甲状腺刺激ホルモンC2.61CμIU/mlと正常範囲内であった.これまでに報告されているCSSおよびCOCPの角膜所見と類似するか否かを確認するため,生体共焦点レーザー顕微鏡検査(inCvivoCconfocalCmicroscopyCassessment:IVCM)を行った(倫理委員会承認番号C20130013).両眼ともに,角膜神経の走行異常,神経分岐の異常,側副路の形成とごく少数の炎症細胞と樹状細胞の角膜内浸潤を認めた(図2).IVCM施行時,フルオレセイン染色スコアC2点,リサミングリーン染色スコアC0点,BUT2秒,マイボーム腺スコアC63点,軽度の充血を認め,Schirmer値C3Cmmであった.投与点眼薬はラタノプロスト点眼(1回/日両眼)およびC0.1%ヒアルロン酸点眼(5回/日両眼)であるが,視野に異常がなくラタノプロスト投与は中止となった.CII考按一般的にCOCP症例では抗CSSA抗体,抗CSSB抗体は陰性であるが,本症例は抗CSSA抗体陽性,抗CSSB抗体陽性,リウマチ因子陰性,抗CANA抗体C640倍であり,眼所見CSchirm-er値,フルオレセイン染色像とあわせて,1999年厚生省改訂CSSの診断基準によりCSSの確定診断に至っている2).OCPの結膜瘢痕化は手術や感染症を契機として急性憎悪することがあるとされる.本症例はCSSの診断後,当院へ受診するC1年前に,内服とは関係なく手,胸部,首の皮膚に湿疹が出現したことがある.本症例は慢性甲状腺炎が基礎疾患にあり,甲状腺機能低下症が存在した.結膜線維化の原因として,湿疹の原因となった何らかの感染症,または慢性甲状腺炎としての甲状腺機能低下による免疫応答異常の要因が重なり,OCP類似の結膜線維化に至った可能性がある.甲状腺機能低下と他の臓器の線維化に関する報告では,肝臓の線維化との関連が示唆されている7).また,甲状腺機能低下症を伴う場合,特発性肺線維症を合併する頻度が高いことが報告され,甲状腺機能低下が肺線維症の予後予測因子とされている8).甲状腺機能低下と臓器線維化に関連性が示唆され,本症例の結膜線維化,高度な瞼球癒着と広範囲な睫毛乱生症に至った可能性がある.本症例はC2016年より緑内障初期の疑いがあり,一時,ラタノプロスト点眼薬を使用していたが,諸検査後,緑内障は否定的で点眼を中止していること,結膜線維化は診断当時から存在していたことから,緑内障点眼薬による偽類天疱瘡は否定的である.肺癌に対する放射線治療に関しても,治療以前にCOCP様の所見が出現していたことから,放射線治療は原因として否定的である.近年,新しい疾患概念としてCIgG4関連疾患が報告されているが,その一亜型として甲状腺機能低下症が注目されている.甲状腺CIgG4関連疾患には高度の炎症と特徴的な線維化が生じることが報告されている9).本症例では最近の血清IgG値が高値であるが,IgG4値は正常であり,IgG4関連疾患は否定的と思われる.本症例の角膜,輪部のCIVCMについて検討した.SSでは発症初期より角膜の神経に変化を認め,SSの診断として有用であることが報告されている.OCPのCIVCMについては,Longらにより角膜実質細胞の活性化と樹状細胞の浸潤が報告されている10).また,小澤らは,OCP患者の角膜神経およびその周辺領域の所見についてC2症例の報告をし,IVCM角膜神経所見では走行異常と神経周囲への樹状様細胞浸潤を認め,慢性炎症により神経形態に変化をきたすこと,神経周囲にも炎症があることを報告している11).本症例においても角膜神経の走行異常と神経細胞数の増加,および異常な神経の吻合を多数認め,IVCM像からもCSSとCOCPに報告されている特徴的所見を併せもっていた.結膜瘢痕化の所見はCOCPに類似しているが,確定診断には結膜生検を行い,基底膜への免疫グロブリンの沈着を確認する必要がある.本症例においては,SSと慢性甲状腺炎の併発がCOCP様の高度な結膜線維化所見の原因の一つとして考えられる.本症例では,SSと慢性甲状腺炎が併発したことにより,背景にある自己免疫疾患としての異常な免疫応答の修復機構が働き,OCPに認められるような免疫性線維化をきたしたことが考えられた.SS症例の診療に際し,病像は長期にわたるため重症化に常に注意を払うこと,また他の疾患を併発することにより典型像と異なる所見を呈する場合があることを念頭におく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarauxA,PersJO,Devauchelle-PensecV:TreatmentofprimarySjogrensyndrome.NatRevRheumatolC12:456-471,C20162)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetCal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20173)FoxRI:Sjogren’ssyndrome.LancetC366:321-331,C20054)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20175)AhmedCM,CZeinCG,CKhawajaCFCetCal:OcularCcicatricialpemphigoid:pathogenesis,CdiagnosisCandCtreatment.CProgCRetinEyeResC23:579-592,C20046)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19987)KimD,KimW,JooSKetal:Subclinicalhypothyroidismandlow-normalthyroidfunctionareassociatedwithnon-alcoholicCsteatohepatitisCandC.brosis.CClinCGastroenterolCHepatolC16:123-131,C20188)OldhamCJM,CKumarCD,CLeeCCCetCal:ThyroidCdiseaseCisCprevalentandpredictssurvivalinpatientswithidiopathicpulmonary.brosis.ChestC148:692-700,C20159)RaessCPW,CHabashiCA,CElCRassiCetCal:OverlappingCMor-phologicandImmunohistochemicalFeaturesofHashimotoThyroiditisCandCIgG4-RelatedCThyroidCDisease.CEndocrCPatholC26:170-177,C201510)LongCQ,CZuoCYG,CYangCXCetCal:ClinicalCfeaturesCandCinvivoCconfocalCmicroscopyCassessmentCinC12CpatientsCwithCocularCcicatricialCpemphigoid.CIntCJCOphthalmolC9:730-737,C201611)小澤信博,小川葉子,西條裕美子ほか:眼類天疱瘡C2症例における角膜神経の病的変化生体レーザー共焦点顕微鏡による観察.あたらしい眼科C34:560-562,C2017***

高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症の臨床像

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):389.394,2018c高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症の臨床像鈴木智*1,2横井則彦*1木下茂*3*1京都府立医科大学眼科学教室*2独立行政法人京都市立病院機構眼科*3京都府立医科大学感覚器未来医療学講座CClinicalFeaturesofMeibomitis-relatedKeratoconjunctivitisinElderlyPatientsTomoSuzuki1,2)C,NorihikoYokoi1)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)KyotoCityHospitalOrganization,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedCkeratoconjunctivitis:MRKC)の病態について検討し,若年者のCMRKCと比較した.方法:マイボーム腺開口部が閉塞し,発赤・腫脹など明らかな炎症所見を有するマイボーム腺炎とともに,角結膜上皮障害を認めるC60歳以上のCMRKC症例C14例について性別,角膜所見(結節性細胞浸潤,点状表層角膜症〔super.cialpunctatekeratopathy:SPK〕,表層性血管侵入),meibumの細菌培養,抗菌薬内服治療の有効性を検討した.結果:平均年齢はC69.1歳,男性C6例,女性C8例,片眼性C4例,両眼性C10例であった.角膜上皮障害は全症例CSPK主体で結節性細胞浸潤は認めず,表層血管侵入を伴う症例はC4例であった.Meibumの細菌培養を施行できたC11例のうち,6例でCPropionibacteriumCacnes(P.Cacnes)が,5例でCStaphylococcusepidermidis(S.epidermidis)が,1例でCP.acnes+S.epidermidisが検出された(単一症例からの複数検出を含む).治療は,全症例で抗菌薬内服治療が奏効した.結論:高齢者のCMRKCは若年者で診られるCMRKC「非フリクテン型」に相当し,性差は少なく,両眼性であり,ブドウ球菌の検出率が増加していた.治療には抗菌薬内服治療が奏効した.CPurpose:ToCevaluateCtheCclinicalCfeaturesCofCmeibomitis-relatedCkeratoconjunctivitis(MRKC)inCelderlyCpatientsandtocomparethemwithMRKCinyoungpatients.Subjects:FourteenMRKCpatientsover60yearsofageCwereCenrolledCandCevaluatedCasCtoCtheirCcornealCfeatures,CsuchCasCin.ammatoryCcellularCin.ltration,CSPK,Csuper.cialneovascularization,bacterialcultureofmeibum,andthee.ectivenessofsystemicantimicrobialtherapy.Results:Theaverageageofpatientswas69.1years;8ofthe14patientswerefemale;10ofthe14werebilater-al.ThecorneainallcasesshowedSPKbutnocellularin.ltration;4patientsshowedsuper.cialneovascularization.BacterialcultureofmeibumwaspositiveforPropionibacteriumacnesCin6casesandStaphylococcusepidermidisCin5cases.Systemicantimicrobialagentsweree.ectiveforallcases.Conclusion:MRKCinelderlypatientswasbilat-eral,showedlessgenderdi.erenceandhadthesamecorneal.ndingsasnon-phlyctenulartypeMRKCinyoungpatients.Itwastreatedwellwithsystemicantimicrobialagents.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):389.394,C2018〕Keywords:マイボーム腺炎角結膜上皮症,マイボーム腺炎,点状表層角膜症,抗菌薬内服治療,高齢者.mei-bomitis-relatedkeratoconjunctivitis(MRKC),meibomitis,super.cialpunctatekeratopathy(SPK)C,systemicanti-mi-crobialtreatment,elderlypatients.Cはじめに筆者らは,角膜フリクテンではほとんどの症例でマイボーム腺炎を合併していることに着目し,マイボーム腺炎と角膜病変が関連しており,角膜病変の治療のためには全身的な抗菌薬治療によりマイボーム腺炎をコントロールすることが必須であることを報告し1,2),2000年にマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を「マイボーム腺炎角膜上皮症」として呼称することを提唱した3).実際,角膜フリクテンは抗菌薬内服を用いて治療することで寛解し,再発予防も可能であった4).当時は,重症な角膜上皮障害に注目して「角膜上皮症」としたが,その後,より正確にその病態を反映させるため,「マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedCkerato-〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2独立行政法人京都市立病院機構眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashitakada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPAN図1マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis.relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)a,b:若年者のCMRKCフリクテン型(19歳,女性).上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認め,その延長線上の角膜には上皮下細胞浸潤(一部結節状)とそこに向かう表層血管侵入を認める(Ca).フルオレセイン染色では,結節に一致した上皮びらんを認めるが,SPKは認めない(Cb).Cc,d:若年者のCMRKC非フリクテン型(16歳,女性).上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認め,その延長線上の角膜には結節性細胞浸潤は認めず(Cc),SPKを認める(Cd).上方輪部に,軽度表層血管侵入を伴っている.Cconjunctivitis:MRKC)」と呼称を改めた5,6).MRKCは,マイボーム腺炎に関連して,角膜の結節性細胞浸潤や表層性血管侵入,点状表層角膜症(super.cialpunctateCkeratopathy:SPK),結膜充血を生じる病態である.その病型は,角膜上の結節性細胞浸潤を特徴とするいわゆる「フリクテン型」(図1a,b)と結節病変は認めずCSPKが主体である「非フリクテン型」(図1c,d)に大別される3).いずれの病型も,マイボーム腺炎の重症度と角結膜上皮障害の重症度は相関し,マイボーム腺炎を治療することが眼表面炎症を消退させるために必須と考えられる5.7).1998年以降,筆者らは,フリクテン型の病態については症例数を追加しながら詳細な検討を続け,特徴的な角膜所見の他,1)若年女性に圧倒的に多いこと,2)霰粒腫の既往が多いこと,3)通常は両眼性であること,4)起炎菌はCPropi-onibacteriumCacnes(P.Cacnes)が多いこと,5)特徴的なヒト白血球抗原(humanCleukocyteCantigen:HLA)が認められること,などの臨床的特徴があることを報告してきた5.7).一方で,MRKC非フリクテン型の臨床像は,2000年の段階では,フリクテン型と同様に女性に多く,マイボーム腺炎の起因菌はCP.Cacnesであると推測されたが3),詳細な検討は行っていなかった.そこで,今回,高齢者におけるCMRKCの臨床像について検討し,若年者のCMRKCと比較検討したうえで,MRKCの臨床像の多様性を報告する.CI対象および方法マイボーム腺開口部が閉塞し,開口部周囲の発赤・腫脹など明らかな炎症所見を有するマイボーム腺炎とともに,角結膜上皮障害を認めるC60歳以上のCMRKC症例C14例について,背景因子(年齢,性別,罹患眼),角膜所見(結節性細胞浸潤,SPK,表層性血管侵入),結膜充血,meibumの細菌培養,抗菌薬内服治療について検討した.さらに,32歳以下の若年者のCMRKC非フリクテン型C12例,既報のC33歳以下の若年者のCMRKCフリクテン型C23例4),の検討結果と比較した.ぶどう球菌性眼瞼炎など明らかな前部眼瞼炎を合併している症例,カタル性角膜浸潤(潰瘍)の症例は除外した.Meibumの採取は,40℃,10分間の眼瞼温罨法(目もと表1MRKCの臨床像高齢者若年者非フリクテン型フリクテン型症例数C14C12C23平均年齢(歳)C69.1C15.1C17.9女性(%)C57.1C83.3C87.0両眼性(%)C71.4C83.3C71.1角膜上皮障害結節性細胞浸潤(%)C0C0C100SPK(%)C100C100C0NV(%)C28.6C16.7C100Meibum培養結果(%)CP.acnesC54.5C57.1C60.0CS.epidermidisC45.5C28.6C5.0CP.acnes+S.epiC7.1C14.3C5.0内服抗菌薬CMINO,CAMCCFPN-PICCFPN-PI,CAMSPK:super.cialpunctatekeratopathy,NV:neovascularization,S.epidermidis:Staphylococcusepidermidis,P.acnes:Propionibacteriumacnes,CAM:Clarithro-mycin(クラリスロマイシン),MINO:Minocycline(ミノサイクリン),CFPN-PI:Cefcapene-Pivoxil(セフカペンピボキシル)エステR,Panasonic)の後,手術用顕微鏡下にて眼瞼縁を10%ポビドンヨード液スワブCRで消毒し,さらに同部位を滅菌綿棒で清拭した後に,吉富式マイボーム腺圧迫鑷子で眼瞼縁を圧迫して,マイボーム腺開口部周囲の皮膚に接触しないように,涙液や皮脂の混在がないように細心の注意を払って,圧出したCmeibumをダビール匙で採取した.採取したmeibumは,ただちに滅菌綿棒(直径C2Cmm)にてCANAポート微研C2CR培地に接種し,C.20℃のフリーザーで凍結保存した.後日,大阪大学微生物病研究所にて好気性および嫌気性培養へ供した.CII結果若年者および高齢者のCMRKCの臨床的特徴を表1に示す.高齢者の患者の平均年齢はC69.1歳,男性C6例,女性C8例,両眼性C10例,片眼性C4例であった.角膜上皮障害は全症例でCSPK主体であり,結節性細胞浸潤は認めず,角膜表層血管侵入を認める症例はC4例であった.Meibumの細菌培養を施行できたのはC11例であり,6例でCP.Cacnesが,5例でCS.epidermidisが,1例でCP.acnes+S.epidermidisが検出された(単一症例からの複数検出を含む).治療は,抗菌点眼薬(ガチフロキサシン)に加え,ミノマイシンあるいはクラリスロマイシン内服を併用し,全症例で眼表面炎症は著明に改善した.しかしながら,14例中C8例では,抗菌薬内服治療によりマイボーム腺炎に伴うCSPKが軽快した後に,蒸発亢進型ドライアイに伴うCSPKが残存していると考えられたため,ドライアイ点眼薬(レバミピド)による治療に移行し,全症例で寛解した(表2).典型例を図2,3に示す.表2MRKC非フリクテン型の治療高齢者(n=14)若年者非フリクテン型(n=12)抗菌薬治療後SPK残存なし(%)C42.9C100SPK残存あり(%)C57.1C0+ドライアイ治療追加後SPK残存なし(%)C86.7SPK残存あり(%)C13.3高齢者では抗菌薬内服治療によりCSPKは軽快するが,後にドライアイ治療を追加しなければ寛解できない症例がある.若年者では抗菌薬内服治療のみでCSPKは消退し寛解導入できる.一方,若年者では,MRKC非フリクテン型では,患者の平均年齢はC15.1歳,男性2例,女性C10例,両眼性C10例,片眼性C2例であった.細菌培養を行えたC7例中,4例でCP.acnesが,2例でCS.epidermidisが,1例でCP.acnes+S.epi-dermidisが検出された.セフェム系抗菌薬(フロモックスCR)による内服治療が奏効し,全症例で抗菌薬治療のみで寛解し,SPKは消退した.追加のドライアイ治療は必要なかった.若年者のCMRKCフリクテン型は4),患者の平均年齢は17.9歳,男性C3例,女性C20例,両眼性C16例,片眼性C7例であった.細菌培養を行えたC20例中,12例でCP.Cacnesが検出された.重症例ではセフェム系抗菌薬内服のみならず点滴も用いることで,全症例で寛解した.図2高齢者のMRKC(62歳,男性)初診時(Ca,b,c),マイボーム腺開口部は閉塞し(plugging),その周囲に炎症を伴っている(Ca).角膜全体のびまん性の密なCSPKとともに(Cc),球結膜充血を認める(Cb).ミノマイシン内服C1カ月後(Cd,e,f),マイボーム腺開口部周囲の閉塞所見,炎症所見ともに軽快してきており(Cd,e),角膜のCSPKは著明に改善している(f).III考按マイボーム腺の異常と眼表面の異常には密接な関連がある.1977年CMcCulleyとCSchiallisは,両眼性にびまん性のマイボーム腺異常(開口部でCmeibumがうっ滞しCplugが形成される)とともに,角膜のCSPKと球結膜充血を認める病態を最初に報告し,“meibomianCkeratoconunctivitis”と名付けた8).この病態で認められるCSPKは,涙液の不安定さ(unstabletear.lm)によって生じるCSPKに類似していると考えられている.MeibomianCkeratoconjunctivitisでは,約3分のC2の症例が脂漏性皮膚炎や酒さ(acneCrosacea)などの皮脂腺の機能不全と関連していると報告されている.今回の検討で,高齢者のCMRKCは,SPKが主体で,角膜の結節性細胞浸潤を伴わない「非フリクテン型」であり,若年者の「非フリクテン型」と同様に両眼性が多いものの,女性の割合は若年者の「非フリクテン型」(83.3%)より少なくなっていた(57.1%).若年者のCMRKCは,幼少時より霰粒腫を繰り返すなど,もともとマイボーム腺機能が低下しやすい傾向にある人に発症しやすい4).また,月経周期とともに女性ホルモンの影響を受けてマイボーム腺機能が周期的に低下することは9),MRKCが思春期.若年女性に生じやすい理由の一つと考えられる.一方,高齢者になると性ホルモン濃度は低下し,男女ともに加齢に伴うマイボーム腺機能の低下がCMRKCの発症に影響している可能性が考えられる.「フリクテン型」の原因は,マイボーム腺内で増殖しているCP.acnesに対する遅延型過敏反応が関与している可能性があるC図3高齢者のMRKC(図C2と同一症例,2週後)クラリスロマイシン内服に変更しC2週間後,マイボーム腺炎はさらに軽快し(Ca),SPKはさらに減少し下方へとシフトしている(Cb).この時点でレバミピド点眼を追加すると,1カ月には涙液の安定性が改善しCSPKは消退した(Cc,d).が10),高齢者でいわゆる「フリクテン型」がほとんど認められなかったのは,加齢に伴い免疫反応の主体がCTh1からTh2へと変化するため,P.Cacnesに対する遅延型過敏反応を起こしにくくなっている可能性が推測される.一方で,高齢者のみならず若年者のCMRKC非フリクテン型でCmeibumから検出されたCP.CacnesやCS.Cepidermidisは,結膜.や眼瞼縁からもっともよく検出される細菌でもある.これらの細菌は,どちらもCmeibumに含まれる脂質を分解するリパーゼを有している11).とくに,S.Cepidermidisは,P.Cacnesにはないコレステロールエステルを分解するリパーゼを有しており,リパーゼによって生じる遊離脂肪酸(freeCfattyacid:FFA)そのものが細胞傷害性を有すること11),涙液中にある一定濃度以上CFFAが増加すると,濃度依存性に涙液油層が破綻すること12)などが知られており,「非フリクテン型」のCSPKの原因となっている可能性がある.そのため,ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬の内服を用いることで,細菌のリパーゼによるCmeibum脂質の分解を抑制することが眼表面炎症の治療に有効であることが報告されているが13),実際にはマクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンの内服も有効であった.これは,どちらの抗菌薬も細菌のCMICが低く,マイボーム腺内の細菌を減菌することが結果としてCmeibumのCFFAを減らし,眼表面上皮障害の改善につながると考えられる.高齢者に認められる閉塞性マイボーム腺機能不全(meibo-mianCglandCdysfunction:MGD)における炎症の有無についてはしばしば議論の的になるところである.「眼瞼縁の炎症を伴わないマイボーム腺の異常」については,1980年にKorbとCHenriquezにより初めて報告され14),その後の多くの病理組織学的な検討から,閉塞性CMGDには明らかな炎症所見が存在しないと考えられるようになってきた15,16).炎症がない閉塞性CMGDに伴うCSPKは,蒸発亢進型ドライアイによって生じていると考えられるため,ドライアイ点眼薬でSPKをコントロールすることは可能である.一般的に,日常臨床では,SPKを見かけるとドライアイと診断してドライアイ点眼薬が処方されているのが現状と思われる.そのため,ドライアイ点眼薬で改善しないCSPKは,難治例として涙点プラグまで挿入されることもある.MRKC非フリクテン型のように,マイボーム腺炎とCSPKが同時に認められるC症例では,先に抗菌薬内服治療を用いてマイボーム腺炎をコントロールしなければ,ドライアイ治療のみではCSPKは消退しない.逆に,今回の検討結果のように,高齢者では約半数で,マイボーム腺炎がほぼ軽快してもなかなかCSPKが消退しきらない.これは,長期にわたるマイボーム腺炎によりMGDが高度なため,閉塞性CMGDに伴う蒸発亢進型ドライアイによるCSPKが残存している状態と考えられる.マイボーム腺炎が軽快した段階でドライアイ点眼薬を用いた治療に切り替えると,SPKを消退させることができる.このように,とくに高齢者でCSPKを認める症例では,眼瞼縁,とくにマイボーム腺開口部周囲に炎症がないかを確認し,適切な治療を開始することが重要である.すなわち,若年者ではマイボーム腺炎の治療のみで眼表面上皮障害を消退させることは可能であるが,高齢者では,マイボーム腺炎の治療後に非炎症性閉塞性CMGDに伴うCSPKの治療を行う必要が生じる場合があると考えられる.抗菌薬の選択については,若年者のフリクテン型では,meibumの細菌培養の結果および動物実験の結果から10),マイボーム腺炎および角膜の結節性細胞浸潤の原因としてCP.acnesが関与している可能性が高いと考えられ1.7),P.Cacnesをターゲットとして初期の炎症が非常に強い場合には殺菌的なセフェム系抗菌薬の内服や点滴を,その後常在細菌のコントロールのために静菌的なクラリスロマイシンの内服を継続することが多い.若年者の非フリクテン型も,セフェム系抗菌薬内服が奏効した.ミノサイクリンは,他のテトラサイクリン系抗菌薬に比べ脂溶性が高いこと,細菌のリパーゼ産生を抑制すること13),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusCepidermidis:MRSE)などにも感受性がよいことなどの利点がある一方で,「めまい」などの体調不良を訴える患者にもしばしば遭遇する.そのような症例では,マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンに切り替えることも多いが,クラリスロマイシンには抗菌作用以外に抗炎症作用を有するという利点もある17).ミノサイクリンとクラリスロマイシンは,それぞれ作用機序,特性が異なる抗菌薬であるが,いずれもマイボーム腺炎に有効である.このことから,どちらの抗菌薬にも感受性がある細菌が腺内で増殖している可能性があると考えられる.以上,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとしてとらえるコンセプト(meibomianCglandsCandCocularCsurface:MOS)7)を念頭に,前眼部の観察を行うことがCMRKCの効果的な治療へとつながると考えられる.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:角膜フリクテンの起炎菌に関する検討.あたらしい眼科C15:1151-1153,C19982)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科C15:1143-1145,C19983)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,C20004)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisCassociatedCwithCmeibomitisCinCyoungCpatients.CAmJOphthalmolC140:77-82,C20055)SuzukiT,KinoshitaS:Meibomitis-relatedkeratoconjunc-tivitisCinCchildhoodCandCadolescence.CAmCJCOphthalmolC144:160-161,C20076)SuzukiT:Meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:Impli-cationsCandCclinicalCsigni.canceCofCmeibomianCglandCin.ammations.Cornea31(Suppl1):S41-S44,20127)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaCS:MeibomianCglandsCandCocularCsurfaceCin.ammation.COculCSurfC13:133-149,C20158)McCulleyCJP,CSchiallisCGF:MeibomianCkeratoconjunctivi-tis.AmJOphthalmolC84:85-103,C19779)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetCal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201710)SuzukiCT,CSanoCY,CSasakiCOCetCal:OcularCsurfaceCin.am-mationCinducedCbyCPropionibacteriumCacnes.CorneaC21:C812-817,C200211)DoughertyJM,McCulleyJP:Bacteriallipasesandchron-icCblepharitis.CInvestCOphthalmolCVisCSciC27:486-491,C198612)ArciniegaCJC,CNadjiCEJ,CButovichCIA:E.ectCofCfreeCfattyCacidsonmeibomianlipid.lms.ExpEyeResC93:452-459,C201113)ShineCWE,CMcCulleyCJP,CPandyaCAG:MinocyclineCe.ectConCmeibomianCglandClipidsCinCmeibomianitisCpatients.CExpCEyeResC76:417-420,C200314)KorbCDR,CHernriquezCAS:MeibomianCglandCdysfunctionCandcontactlensintorelance.JAmOptomAssocC51:243-351,C198015)GutgesellVJ,SternGA,HoodCL:Histopathologyofmei-bomianglanddysfunction.AmJOphthalmolC94:383-387,C198216)ObataCH:AnatomyCandChistopathologyCofChumanCmeibo-miangland.Cornea21(Suppl7):S70-S74,200217)UeharaH,DasSK,ChoYKetal:Comparisonoftheanti-angiogenicCandCanti-in.ammatoryCe.ectsCofCtwoCantibiot-ics:ClarithromycinCversusCMoxi.oxacin.CCurrCEyeCResC41:474-484,C2016***

不良な転帰をたどった非コンタクトレンズ性アカントアメーバ角膜炎の1例

2018年3月31日 土曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(3):384.388,2018c不良な転帰をたどった非コンタクトレンズ性アカントアメーバ角膜炎の1例宮本龍郎*1,2仁木昌徳*2三田村佳典*2*1社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院眼科*2徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野CACasewithNon-contact-lens-relatedPoor-prognosisAcanthamoebaKeratitisTatsuroMiyamoto1,2),MasanoriNiki2)andYoshinoriMitamura2)1)DepartmentofOphthalmology,KaiseiCentralHospital,2)DivisionofOphthalmology,InstituteofBiomedicalSciences,TokushimaUniversityGraduateSchool目的:非コンタクトレンズ(CL)性のアカントアメーバ角膜炎(AK)に対し,治療を行うも不良な転帰をたどった症例の報告.症例:65歳,男性.CL装用歴はない.所見と経過:第C7病日に初診となり,左眼の視力はC0.01で,眼圧はC37CmmHgだった.輪部腫脹を伴う強い毛様充血,角膜上皮と実質の浮腫を伴っており,前房蓄膿があった.輪部に平行な輪状上皮欠損があり,地図状を呈していた.上皮型角膜ヘルペスを疑い治療を開始するも,第C14病日に眼圧はC65CmmHgと上昇し,所見は悪化した.同日に角膜を掻爬し,擦過物の塗抹検鏡にてアカントアメーバのシストを認めた.入院のうえC3者併用療法を開始しいったん所見が改善したが,その後前房蓄膿が再発し,眼圧が再上昇した.前房蓄膿はC7Cmm高となり,リン酸ベタメタゾンの点眼を開始したところ前房蓄膿の改善を得たが,続発緑内障により視力は光覚弁となった.結論:非CCL性のCAKは進行が早く,早期の治療開始が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCnon-contact-lens-relatedCAcanthamoebaCkeratitis(AK).CCase:AC62-year-oldmalewithnohistoryofcontactlens(CL)wear.Findingsandclinicalcourse:Correctedvisualacuitywas0.01inthelefteye.Hehadciliaryinjectionwithlimbaledema,cornealedema,hypopyonandring-shapedcornealepitheli-aldefect.Westartedanti-herpestherapy,buttheconditionsworsened.WedetectedAcanthamoebaCcystsfromcor-nealscrapingsmearsandinitiatedthree-combinationtreatmentforAK.Afterthesetherapies,thecorneal.ndingsimprovedbuthypopyonrecurrenceandIOPelevationwerefound.Afteraddingbetamethasoneeyedropsthehypo-pyonimproved,butBCVAdecreasedtolightperceptionbecauseofsecondaryglaucoma.Conclusion:Thediseasemayprogressrapidlyincasesofnon-CL-relatedAK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(3):384.388,C2018〕Keywords:非コンタクトレンズ性アカントアメーバ角膜炎,輪状上皮欠損,続発緑内障.non-contact-lens-relat-edAcanthamoebaCkeratitis,ring-shapedcornealepithelialdefect,secondaryglaucoma.Cはじめにアカントアメーバは土壌や淡水,粉塵など自然界に生息する原生動物で,元来ヒトに対する病原性は強くないとされている.1974年にCNagingtonらによりアカントアメーバによる眼の感染が初めて報告されたが1),これは土壌関連の外傷に伴う角膜感染症だった.その後欧米ではコンタクトレンズ(contactlens:CL)の普及に伴い,アカントアメーバ角膜炎(AcanthamoebaCkeratitis:AK)の発症者が増加し,わが国ではC1988年に石橋らによりCCL装用者に生じたCAKの症例が初めて報告された2).非CL性AKは欧米で3.15%3),わが国でC1.7.10.7%と報告されていることからも4.6)AKの多くはCCL性であることは広く知られている.今回CCL装用歴のない農業従事者に生じたCAKのC1例を経験し,治療を行うも不良な転帰をたどったので報告する.〔別刷請求先〕宮本龍郎:〒762-0007香川県坂出市室町C3-5-28社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院眼科Reprintrequests:TatsuroMiyamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KaiseiCentralHospital,Muromachi3-5-28,CSakaidecity,Kagawa762-0007,JAPAN384(102)ab図1初診時所見(第7病日)Ca:輪部腫脹を伴う毛様充血と角膜浮腫,前房蓄膿を認める.Cb:上皮欠損は輪部に平行な輪状角膜上皮欠損を生じている.C図2第14病日初診時と比較し毛様充血が強くなり,輪状浸潤を生じている.I症例患者:65歳,男性.既往歴:特記すべきことなし.CL装用歴はない.現病歴:農作業中に左眼の異物感を訴えて近医眼科を受診し,左眼瞼結膜の異物と瞼裂斑炎を指摘された.結膜異物が除去されC1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.1%フルオロメトロン点眼液が処方された.しかし,眼痛と視力低下が進行したため,第C3病日に同院を受診したところ,感染性角膜炎が疑われフルオロメトロン点眼が中止され,レボフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼に変更された.その後も病状が悪化し,第C7病日に徳島大学病院眼科へ紹介された.視力は右眼C0.9(1.5C×sph+3.0D(cyl2.0DAx90°),左眼0.01(矯正不能)だった.眼圧は右眼C15CmmHgで,左眼は37CmmHgだった.左眼は輪部の腫脹を伴う毛様充血があり,角膜上皮と実質に浮腫もあり前房内の微塵は不明だった.前房蓄膿がC1Cmm高あり,角膜浸潤は中央部にわずかにあり(図1a),同部を含め輪部に平行に輪状上皮欠損があり,辺縁はジグザグで地図状上皮欠損様を呈していた(図1b).感染性角膜炎を想起し角膜掻爬を勧めたが疼痛のため同意が得られず,上皮型角膜ヘルペスを疑いアシクロビル眼軟膏C1日5回塗布させ,高眼圧に対しアセタゾラミドC500Cmgを内服させた.第C14病日に再来させたところ輪状浸潤が出現し(図2),上皮欠損が拡大していた.毛様充血と輪部腫脹も悪化し,眼圧はC65CmmHgに上昇していた.病状悪化について説明し同意のうえで角膜掻爬し,塗抹検鏡したところアカントアメーバのシストが同定され(図3),他の微生物は検出されず,培養においても何も検出されなかった.このことからアカントアメーバ角膜炎と診断し同日入院させたうえで,3者併用療法として定期的な角膜掻爬を行いつつ,ボリコナゾール点滴,0.05%クロルヘキシジンとC0.1%ボリコナゾールの1時間毎点眼,ピマリシン眼軟膏のC1日C4回点入にて治療をC眼圧(mmHg)図3角膜擦過物の塗抹像(×400)アカントアメーバのシストが認められる.a:ディフクイック染色.b:ファンギフローラCY染色.C角膜掻把6040200720406080100120150200250300400500(病日)ドルゾラミド/チモロール配合点眼液2×ラタノプロスト点眼液1×アセタゾラミド500mg内服図4治療経過開始した(図4).高眼圧に対してはアセタゾラミドをC750mgに増量し,ドルゾラミド/チモロール配合点眼液を開始した.これらの治療を開始後に前房蓄膿は消失し(図5a),上皮欠損は縮小した.ところが第C49病日に前房蓄膿が再発し,その後鼻下側に虹彩前癒着が出現した(図5b).虹彩ルベオーシスが急速に進行し,第C71病日にはルベオーシスからの前房出血が前房蓄膿に混在するようになり,眼圧もC40mmHgを超えるようになった.アカントアメーバ角膜炎の再発を考慮し,角膜掻爬するもシストは同定されなかった.しかし,その後も病状は悪化し,前房蓄膿はC7Cmm高となった(図5c).アカントアメーバ角膜炎の再発に注意しながら厳重な経過観察のもと,第C95病日にC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼液をC1日C4回から開始したところ,徐々に前房蓄膿は減少し虹彩ルベオーシスも改善した.眼圧は下降したが,第C170病日には虹彩前癒着が全周性となった(図5d).第226病日には上方の角膜の菲薄化が認められ,第C442病日にはその範囲が広がっているが角膜穿孔は認められず,視力は光覚弁となっている(図5e).CII考察AKの所見は,初期では輪部結膜の浮腫を伴う結膜充血,上皮下混濁,偽樹枝状の上皮病変や放射状角膜神経炎が出現し,時として上皮型角膜ヘルペスと誤診されることがある.初期に適切な治療がなされないと輪状の角膜浸潤が出現し,完成期として円板状の混濁2,7)となる.AKは緩徐に病変が進行するとされているが8),早期に病状が悪化する経過をたどる症例も報告されており5),AKも他の眼感染症と同様に早期診断と早期治療の開始が望ましいと思われる.本症例も発症C2週間で輪状浸潤が出現していたことから,急速進行性のCAKであると考えられた.そのため初診時に角膜を掻爬C図5臨床経過a:第C31病日.前房蓄膿は減少した.Cb:第C49病日.前房蓄膿の悪化と鼻下側に虹彩前癒着がある.Cc:第C95病日.前房蓄膿がC7Cmm高となっている.Cd:第C170病日.充血は改善し前房蓄膿は減少した.Ce:第C442病日.充血は改善したが,角膜の菲薄化が進行し視力は光覚弁となっている.し,塗抹検鏡したうえで治療を開始していれば,本症例のよ念頭におく必要があると考えられた.うに不良な転帰をたどらなかった可能性が高く,反省すべき昨今CCLとCAKとの関連について広く周知されるようにな点であった.り,以前と比較しCAKを早期に診断し,治療を開始できる本症例は初診時に高度な輪部炎を伴う輪状角膜上皮欠損をようになった.しかし,アカントアメーバは環境中に生息呈していた.上皮欠損の境界はジグザグであり一見地図状上し,農業従事者による外傷性CAKの症例がまれではあるが皮欠損のように見え,上皮型角膜ヘルペスを想起させた.し存在すると報告されている3).本症例では急速進行性のCAKかし,その上皮欠損は輪部に平行に生じており,地図状上皮だったが,外傷性CAKはCCL性CAKと比較し重症化しやすい欠損を呈する上皮型角膜ヘルペスの典型例とは異なっていのかもしれない.Sharmaらも非CCL性のCAKはその診断がた.高度の輪部炎を呈したCAKにおける輪状の周辺部角膜遅れがちになるため,CL性と比較し進行が速く,重症化し上皮欠損については過去に報告されており,進行すると輪状やすいのではないかと推論している3).今回筆者らは本症例混濁へと進行するとされる9,10).本症例ではその上皮欠損のにおいてアカントアメーバの分離培養ができなかったため,パターンおよび病状の進行が既報と酷似していた.加えて輪その生物学的特徴について精査することができなかったが,部に平行な輪状上皮欠損を呈する所見は他の角膜疾患でみらCL装用歴がなくとも外傷の有無について十分な問診を行っれることはまれで,これらの所見があった場合にはCAKをたうえで,外傷と関連する感染性角膜炎を診た場合はCAKCを考慮しつつ精査が必要であると思われた.本症例ではCAKに対する治療を開始し,その所見は改善したが,治療開始後C30日が経過した時点で前房蓄膿の悪化や虹彩ルベオーシスからの前房出血,眼圧の再上昇をきたした.AKの再燃を疑ったが,その後の角膜掻爬では明らかなアカントアメーバのシストを検出できなかった.AKに続発したぶどう膜炎を考慮し十分な経過観察を行いつつステロイド点眼を追加したところ,前房蓄膿が減少し眼圧も正常化し徐々に消炎した.治療開始C1カ月後で所見が悪化したのはAKによる続発性の炎症による可能性もあるが,AKに対する点眼治療による副作用の可能性も否定できない.本症例において使用した点眼は,0.05%クロルヘキシジン点眼とボリコナゾール点眼だった.感染性角膜炎診療ガイドラインでは,AKの治療についてC0.02.0.05%クロルヘキシジン点眼の使用を推奨している.30日間にわたって使用可能な最高濃度の点眼を使用しており,治療開始C30日後以降の炎症については薬剤性であった可能性も否定できない.もし薬剤による炎症を考慮するならば,ステロイド点眼を開始する前に,薬剤の中止を考慮すべきであった.今回筆者らは,非CCL性CAKを発症した農業従事者のC1例を経験した.急速進行性で治療を開始するも予後不良な転帰を辿った.AKは緩徐な経過をたどることが多いが,可能な限り早期に診断し治療を開始することが重要であると考えられた.謝辞:本稿を終えるにあたり御指導頂きました,塩田洋先生に深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfec-tionoftheeye.Lancet28:1537-1540,C19742)石橋康久,松本雄二郎,渡辺良子ほか:AcanthamoebakeratitisのC1例臨床像,病原体検査法,および治療についての検討.日眼会誌92:963-972,C19883)SharmaS,GargP,RaoGN:Patientcharaceristics,diagno-sisCandCtreatmentCofCnon-contactClensCrelatedCAcantham-oebakeratitis.BrJOphthalmolC84:1103-1108,C20004)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近経験したアカントアメーバ角膜炎C28例の臨床的検討.あたらしい眼科C27:680-686,C20105)平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌115:899-904,C20116)鳥山浩二,鈴木崇,大橋裕一:アカントアメーバ角膜炎発症者数全国調査.日眼会誌118:28-32,C20147)塩田洋,矢野雅彦,鎌田恭夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼48:1149-1154,C19948)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C117:467-509,C20149)椎橋美予,宮井尊史,子島良平ほか:角膜周辺部に輪状上皮欠損を呈したアカントアメーバ角膜炎のC1例.眼紀C58:C425-429,C200710)佐々木香る:アカントアメーバ角膜炎における臨床所見の亜型.あたらしい眼科27:47-48,C2010***

骨髄移植治療中に発症した流行性角結膜炎の1例

2018年3月31日 土曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(3):381.383,2018c骨髄移植治療中に発症した流行性角結膜炎の1例髙木理那髙野博子小林未奈田中克明豊田文彦榛村真智子木下望梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科EpidemicKeratoconjunctivitisafterBoneMarrowTransplantation:ACaseReportRinaTakagi,HirokoTakano,MinaKobayashi,YoshiakiTanaka,FumihikoToyoda,MachikoShimmura,NozomiKinoshitaandAkihiroKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter目的:骨髄移植治療中に無菌室で流行性角結膜炎を発症した症例を経験したので報告する.症例:45歳,男性.骨髄移植のため無菌室在室中,移植後C12日目に左眼球結膜充血と流涙,眼痛を自覚.アデノウイルス抗原迅速検査キットで流行性角結膜炎と診断し,ただちにC0.1%フルオロメトロン点眼C4回/日とC1.5%レボフロキサシン点眼C4回/日を開始した.しかし,高度免疫抑制状態であるため,症状改善やウイルス抗原消失にC4週間以上の長期間を要した.結論:無菌室であっても,完全にウイルスを排除することは困難である.アデノウイルス感染に対する予防薬や治療薬がないため,不用意なウイルスの持ち込みや,感染の拡大には細心の注意が必要であると考えた.CPurpose:Toreportapatientwhoreceivedabonemarrowtransplantanddevelopedepidemickeratoconjunc-tivitisduringhisstayinthecleanroom.Case:A45-year-oldmalewhowasaninpatientinthecleanroomhadcongestionCofCtheCbulbarCconjunctiva,Clacrimation,CandCophthalmalgiaCofCtheCleftCeyeC12CdaysCafterCboneCmarrowtransplantation.Hewasdiagnosedwithepidemickeratoconjunctivitis;0.1%.uorometholoneand1.5%levo.oxacinophthalmicCsolutionCwereCprescribedCfourCtimesCdaily.CTimeCtoCresolutionCofCtheCadenovirusCantigenCwasClengthyCbecauseofthesevereimmunosuppressivestatusafterbonemarrowtransplantation.Conclusion:Preventingexpo-suretoadenovirusisdi.culteveninthecleanroom.Becausethereisnoe.ectivetreatmentforkeratoconjunctivi-tis,utmostcautionisrequiredsoasnottointroduceandspreadadenovirusintothatenvironment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):381.383,C2018〕Keywords:流行性角結膜炎,無菌室,骨髄移植,院内感染.epidemickeratoconjunctivitis,cleanroom,bonemarrowtransplantation,nosocomialinfection.Cはじめに流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)はアデノウイルスによる,おもに接触感染で感染する非常に感染力の強い眼感染症である.学校感染症の一つでもあり,診断された場合は出席停止や出勤停止となる.多数の患者と接触する機会の多い医療従事者を有する医療機関では,その感染力の強さから院内感染も起きやすいとされている.院内感染が蔓延すると,感染を終息させるのはむずかしい.今回,骨髄移植治療中,無菌室在室でCEKCを発症した症例を経験したので報告する.CI症例症例はC45歳,男性.2014年骨髄異形成症候群と診断され,2016年C2月骨髄移植目的で当院血液内科に入院.同月中旬より前処置開始.抗がん剤としてブスルファン(ブスルフェクスR),シクロホスファミド(エンドキサンCR),免疫抑制としてシクロスポリン(サンディミュンCR)が投与された.前処置開始C1週間後に骨髄バンクドナーより移植施行され無菌室在室となった.その後,免疫抑制にシクロスポリン(サンディミュンR),メトトレキサート(メソトレキセートCR)投与,感染症予防にアシクロビル内服,フルコナゾール内〔別刷請求先〕髙木理那:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RinaTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyJichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847CAmanuma-chou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C381白血球数治療開始時治療開始1週間治療開始4週間治療開始5週間380服,メロペネム,ミカファンギンナトリウム(ファンガードCR),バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシンCR)が点滴投与された.3月上旬,左眼球結膜充血と流涙,眼痛を自覚.症状発現からC2日後,当科コンサルトとなった.無菌室在室であるため,往診での診察であるが,左眼瞼・眼球結膜充血,濾胞形成を認めた.耳前リンパ節腫脹や角膜上皮障害は明らかではなかったが,免疫クロマト法を用いた眼科専用アデノウイルス抗原迅速検査キットのキャピリアアデノアイR(CAE)でCEKCと診断.0.1%フルオロメトロン(フルメトロン点眼液C0.1%CR)4回/日,1.5%レボフロキサシン(クラビット点眼液C1.5%CR)点眼C4回/日での治療を開始した.治療開始C1週間後には右眼にも眼瞼・眼球結膜炎を認めた.治療開始C2週間後には両眼瞼に偽膜形成,角膜上皮障害を認め,偽膜除去を行った.症状は徐々に軽快し,治療開始C4週間後には左眼CCAEは陽性であったが,眼瞼・眼球結膜充血は改善し,偽膜も消退した.治療開始C5間後に左眼CCAE陰性を確認.角膜上皮障害も改善となった.本症例は初回の非血縁からの骨髄移植が生着不全となったため,再度血縁からの末梢血幹細胞移植が行われたため,無菌室を出るのに長期間を要した.受診が可能になったC6月下旬の所見では,角膜混濁や瞼球癒着などはなく,EKCは治癒していた.CII考按骨髄異形成症候群(myelodysplasticCsyndromes:MDS)は,異形成を伴う造血細胞の異常な増殖と細胞死を起こす造血器腫瘍である.無効造血のために,骨髄が正.過形成となり末梢血は汎血球減少をきたす1).また,好中球やマクロファージの貪食機能低下による質的異常を呈し,抗がん剤投与後には好中球やマクロファージの数的異常を呈する2).本症例はCMDSに対する骨髄移植であり,抗がん剤や免疫抑制薬のために高度免疫抑制状態であった.白血球数は前処置時にはC1,090/μl(うち,好中球数C76/μl),移植時にはC380/μlに減少,その後症状出現時,EKC診断時にC20/μlとなり,右眼の症状出現,偽膜形成やCEKC改善までC150/μl以下の低い値で推移した(図1).アデノウイルスが細胞内に感染すると,自然免疫で炎症性サイトカインが産生され症状が出現する.本症例は高度免疫抑制状態であったため,偽膜形成が図2症状と白血球球数治療開始からC2週間後と症状の出現も遅く,また,偽膜形成はあったが,充血は軽度から中程度で症状は顕著ではなかった.また,ウイルス感染ではおもに獲得免疫が働くが,自然免疫同様に獲得免疫の誘導が遅く,症状発現から眼瞼結膜のアデノウイルス抗原陰性化確認までC37日を要した(図2).本症例は無菌室内でのCEKC発症例という点も特徴的である.無菌室内での感染経路として,外部者からの感染が考えられる.当センターの無菌室は外扉の中にC4つの個室があり,徹底した陽圧管理をされている.入室の際は外扉内の手洗い場で手を洗い,マスクを装着し,送風機を強風にして入室することと規定されていた.外部者との面会もC12歳以上で体調に問題ない者に限定されており,生ものや粉塵を含むような荷物の室内への持ち込みは原則として禁止されていた.しかし,外部者からの荷物や洋服にアデノウイルスが付着している場合は,無菌室内へのウイルスの侵入は完全には防止できない.無菌室内での感染経路として,二つ目に院内感染が考えられる.本症例と同時期に同病棟でもう一人CEKC患者を確認している.当患者は本症例患者の症状発症C2日前より左眼脂,流涙,結膜充血が出現.本症例と同日に眼科コンサルトとなり,EKCと診断され,個室に隔離,同日緊急退院となった.同一病棟にC2人のCEKC患者がいたことから,医療従事者を介しての感染が疑われた.アデノウイルス感染は物理的な抵抗性が強いことが,院内感染を引き起こす最大の理由とされている.ドアノブなどに付着した際,数カ月間強い感染力を保つともいわれている3).アデノウイルスには次亜塩素酸ナトリウムの使用が推奨されている.当センターでアデノウイルス発生時は,患者の個室隔離や早期退院,また,徹底した次亜塩素酸ナトリウムでの診察器具やドアノブなど室内備品の消毒を行う.また,患者接触の際は,マスク,ゴム手袋,ビニールエプロンを使用し,手指などに接触した際は,徹底した手洗いとアルコール消毒を行う決まりとなっている.しかし,アデノウイルスはアルコールに対し抵抗性が382あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(100)強く,またアデノウイルスに有効である次亜塩素酸ナトリウムは使用時の塩素臭が強く,残存臭も問題となる.また,酸化作用により金属類や繊維類を腐食させる.そのため次亜塩素酸ナトリウムは慎重に使用しなければならない.近年,ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする環境消毒ルビスタRが普及している.ペルオキソ一硫酸水素カリウムとその他の配合成分との反応により次亜塩素酸が生成され,次亜塩素酸の酸化作用により効果を発揮する.優れた除菌性能を有するうえ,次亜塩素酸ナトリウムと違い,皮膚,金属,プラスチックに影響が少なく安全に使用できる.また,アデノウイルスをはじめとして,ノロウイルスなどのウイルス,細菌にも有効である.当薬剤は急速に普及しており,次亜塩素酸ナトリウムに代わり,腐食性のある器材にはルビスタCRを使用することも考慮しなければならない.本症例は他に,シーツなどのリネンからの感染の可能性も考えられた4).ウイルスの潜伏期間中に使用されたリネンは感染汚染物としては扱われないため,ウイルスを媒介した可能性もある.今回はウイルス型の同定を行えなかったため,2症例が同一のウイルスであるかは不明のままであり,医療従事者を介したか外部から持ち込まれたかも判別不能である.近年,患者体内に潜伏しているアデノウイルスCDNAによる再発感染の可能性があることが報告されている.熱性呼吸器疾患の学童児のC8%の鼻洗浄液からアデノウイルスが検出されており,そのうちにC81%がCC亜属であった.成長につれアデノウイルス検出率は減少し,成人するとほぼ皆無となる.咽頭組織に潜在性のCC亜属のアデノウイルスが存在し,それが生後数年間に再活性化し発症する可能性を示唆している5).他の報告では,10年前にCEKC発症した患者の涙液や結膜からアデノウイルスCDNAが検出され,かつ既感染患者の多くは慢性乳頭結膜炎があることから,結膜にアデノウイルスCDNAが超期間にわたり潜伏し,再感染につながる可能性があることが示されている6).本症例は,明らかな既感染の情報はなかったが潜伏感染の活性化による発症の可能性も否定はできない.感染経路特定には至らないが,ウイルスは運搬されなければ拡散しない.ウイルスに曝露することの多い医療従事者が運搬の担い手になる可能性は非常に高い.接触感染予防の意識を高め,正しい消毒法や減菌法の知識を共有し,ウイルスの持ち込み,持ち出しを行わないように十分な注意と教育が必要である.CIII結論骨髄移植直後の高度免疫抑制状態で,ウイルス抗原消失に長期間を要したCEKCを経験した.アデノウイルス感染は予防薬投与が困難であり,不用意なウイルスの持ち込みや,感染の拡大には細心の注意が必要であると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宮﨑泰司:骨髄異形成症候群の診断基準と診療の参照ガイド.長崎大学原爆後障害医療研究所,20142)神田善伸:造血幹細胞移植に伴う免疫抑制状態と感染症対策.ICUとCCCU37:613-620,C20133)平田憲:眼科における感染対策.臨床と研究C88:559-562,C20114)原田知子,広島葉子,本郷元ほか:セレウス菌菌血症のアウトブレークを経験して.日赤医学61:338-341,C20105)GarnettCCT,CTalekarCG,CMahrCJACetCal:LatentCspeciesCCCadenovirusesCinChumanCtonsilCtissues.CJCVirolC83:2417-2428,C20096)KayeCSB,CLloydCML,CWilliamsCHCetCal:EvidenceCforCper-sistenceofadenovirusinthetearfilmadecadefollowingconjunctivitis.JMedVirolC77:227-231,C2005参照キョーリンメディカルサプライ株式会社ホームページChttp://www.rubysta.jp/***(101)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C383

基礎研究コラム 10.人工ゲルの可能性

2018年3月31日 土曜日

人工ゲルの可能性既存の眼内タンポナーデ物質の欠点と人工硝子体の必要性網膜.離や増殖硝子体網膜症,黄斑円孔,増殖糖尿病網膜症などの硝子体手術では,術中術後の合併症を防ぐために術終了直前に眼内タンポナーデ物質を充.することが一般的です.しかしながら,空気,ガス,シリコーンオイルなどの既存物質では,患者は術後うつ伏せや安静を強いられ,眼圧上昇や白内障などの副作用があり,網膜毒性のために再手術で抜去しなければならない,など種々の問題があります.また,硝子体との屈折率の違いにより術後しばらくは視力が改善しません.そのためにこれらの欠点を補うような人工硝子体が必要となってきます.生体適合性が高いハイドロゲルは人工硝子体として有望であり,現在までさまざまな研究がなされてきました.しかし,膨潤による眼圧上昇が不可避である点と炎症による混濁を生じるため,未だ臨床応用に至っていません.人工硝子体開発の道のり筆者らは人工硝子体の素材を探すべく,膨潤しないハイドロゲルを探していました.そして2014年に『Science』誌に載った非膨張性ハイドロゲルの研究論文に注目しました1).さっそく,その論文著者である東京大学工学部の酒井先生と連絡を取り,共同研究を始めました.最初にこの非膨張性ハイドロゲルを硝子体としてウサギに埋植しましたが,術後炎症が強く,またゲルが固すぎるために臨床としては使えないということがわかりました.その後試行錯誤を繰り返し,2年の月日を経てやっとこれらハイドロゲルの欠点を解消したものを完成させました.非膨張性で炎症をほとんど惹起せず,反応後数分でゲル化可能なハイドロゲルです(図1).マウスでの安全性を確認し,その後ウサギにこのゲルを埋植し,1年以上の長期観察を行い,安全性と有効性を確認しました.また,ウサギ網膜.離モデルにおいてもこのゲルにて治療可能であることを検証しました2).これら一連の,分子設計から臨床応用前段階までの実験成果が認められ,『NatureBiomedicalEngineering』誌の創刊号にアクセプトされました.そして『Nature』誌や『NatureMaterials』誌にもTopicsとしてLetterが掲載されました(Nature543:岡本史樹筑波大学医学医療系眼科ポリエチレングリコール臨界クラスターゲル人工硝子体PEG152+48Thiol基Maleimide基+PEG2PEG148+PEG252図12段階でゲル化させる人工硝子体の作成プログラム2段階目のゲル化させる直前に,ゾルの状態で27ゲージ針により硝子対腔内に注入できる.319-320,2017doi:10.1038/nature21898).今後の製品化のための第一段階である前臨床試験をクリアするために各種実験を行っている最中です.今後の展望この人工硝子体が実用化されれば,まずは術後のうつ伏せや安静が必要なくなり,すべての硝子体手術が日帰り手術可能となるかもしれません.また,このゲルは出血と混ざらないために,術後合併症である硝子体出血や網膜.離などを大幅に軽減できます.そしてシリコーンオイルが必要な小児の難治性疾患や外傷などにも応用可能です.そして硝子体と屈折率がほぼ同じため,術翌日から良好な視機能を維持できます.未来の硝子体手術が変わっていくかもしれません.文献1)KamataH,AkagiY,Kayasuga-KariyaYetal:“Non-swellable”hydrogelwithoutmechanicalhysteresis.Sci-ence343:873-875,20142)HayashiK,OkamotoF(co-.rst),HoshiSetal:Fast-forminghydrogelswithultralowpolymericcomponentasanarti.cialvitreousbody.NatureBiomedicalEngineering1:2017.doi:10.1038(85)あたらしい眼科Vol.35,No.3,20183670910-1810/18/\100/頁/JCOPY