ルテインLutein尾花明*はじめにルテインに関しては,本誌2010年1月号特集「眼に良い食べ物」1)および2012年8月号特集「臨床において必要なサプリメントの知識」2)で詳述した.2013年のAge-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup(AREDS2)の報告3)以降,ルテイン・ゼアキサンチン含有サプリメントが眼科臨床の場で広く使用されるようになり,ルテインに関する知識は広まっていると思う.そこで,本稿では冒頭に再確認の意味で基本事項を記載し,続いて各項目に沿って歴史的経緯から最新情報を含む詳しい内容を記載した.基本事項1.ルテインは緑色葉物野菜に多く含まれるカロテノイドである.2.ルテインは体内で合成されず,経口摂取により蓄積する.3.黄斑色素の成分はルテイン,ゼアキサンチン,メソゼアキサンチンである.4.黄斑色素はHenle線維層に多く存在する.5.黄斑色素はブルーライトハザードから網膜を保護する.6.黄斑色素はコントラスト感度の向上,グレア障害の低減など視機能に有用である.7.ルテイン含有サプリメントが加齢黄斑変性の予防に有効である.8.ルテイン含有サプリメントの効果には個人差がある.9.ルテイン含有サプリメントは製品による違いがある.I詳しい解説1.ルテインは緑色葉物野菜に多く含まれるカロテノイドであるルテイン(lutein)はラテン語の黄色“luteus”から派生した言葉で,濃緑食野菜に豊富に存在する.自然界のカロテノイドは約750種類で,食品中には約650種類,ヒトの体内には約30種類がある.カロテノイドはC40H56を基本構造とする長鎖ポリイソプレノイド分子である.炭素と水素のみのものがカロテンで,両端のシクロヘキセン環に水酸基をもつルテインはキサントフィルに属する.ゼアキサンチンはルテインの異性体で,シクロヘキセン環の二重結合の位置が異なり,共役二重結合数はルテインが10個,ゼアキサンチンは11個である(図1).ゼアキサンチンには三つの立体異性体があるが,そのうちの二つ(3R,3’R)ゼアキサンチンと(3R,3’S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)が眼に存在する.ルテインはマリーゴールドなどの花やホウレンソウなどの緑色野菜に豊富に含まれるが,花や実では脂肪酸と結合したエステル体,野菜ではフリー体の形で存在する.*AkiraObana:聖隷浜松病院眼科〔別刷請求先〕尾花明:〒430-0906静岡県浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)719図1眼に存在するカロテノイドルテイン,(3R,3’R)ゼアキサンチン,(3R,3’S)ゼアキサンチン(メソゼアキサンチン)の3種類が網膜に存在し,黄斑色素の成分となる.内網状層Tublin特異的結合蛋白外網状層(Henle線維層)視細胞のレチノイド錐体外節受容体:IRBP網膜色素上皮RPEのHDL受容体:SR-BI脈絡膜毛細血管図2ルテインの網膜内取り込み経路脈絡膜毛細血管のルテインはCscavengerreceptorclassBtype1(SR-B1)を介して網膜色素上皮細胞に取り込まれた後,レチノイド受容体を介して視細胞外節から視細胞内に入り,ルテインおよびゼアキサンチンのそれぞれの特異的結合蛋白と結合し,軸索突起に集積する.(組織図は文献C5より引用)ab図3黄斑色素の存在部位a:サル眼の組織切片で黄色色素が黄斑色素である.b:サル眼のトルイジンブルー染色網膜切片標本で,中心窩では視細胞層の内側には神経突起はなく,グリア細胞(赤線で示されたC3角形の部位)がみられる.aと見比べるとこの部位に黄色色素が多いことがわかる.Cc:ヒト眼の錐体・杆体分布図である.種が異なり直接比較はできないが,bの赤四角の範囲がおよそCcの点線の範囲に相当し,ほぼ錐体細胞の存在部位に一致する.すなわち,中心窩の錐体細胞の存在部位に一致して,Mullercellconeがあり,そこに黄斑色素が多く存在する.また,bの黄色点線はCHenle線維層を示すが,aと見比べるとCHenle線維層に色素が多いことがわかる.C(aは文献5,b,cは文献C12より引用)光障害=酸化ストレス図4黄斑色素のフィルター効果黄斑色素は青色可視光を一部吸収することで光障害から錐体を守る.いわば網膜内のサングラスといえる.(組織図は文献C5より引用)内のリポフスチンは青色光励起で一重項酸素を発生し,それにより視細胞の高級不飽和脂肪酸〔ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA),エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)〕が酸化されるが(この青色光による障害をブルーライトハザードという),視細胞外節の細胞膜内ルテインが,この一重項酸素を消去すると考えられる.C6.黄斑色素はコントラスト感度の向上,グレア障害の低減など視機能に有用である網膜内での青色光の散乱はコントラストの低減とグレアの原因になるが,青色光が吸収されることでコントラストの向上(とくに青の背景で黄色から赤のものを見るときなど)とグレアの低減につながる.Hammondらの研究16)では,ルテイン・ゼアキサンチン血清濃度が高い個体で黄斑色素密度が高く,色コントラスト向上,グレア障害軽減,光刺激回復時間短縮が認められている.C7.ルテイン含有サプリメントが加齢黄斑変性の予防に有効であるa.ルテインと加齢黄斑変性の関係1994年,Seddonらは,食事によるルテイン・ゼアキサンチン高摂取が加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)発症リスク低下につながることを初めて報告し17),その後も類似の報告が相次いだ.このころ,米国国立眼研究所が抗酸化ビタミンとミネラルによるCAMDと白内障の発症予防に関する研究を開始し,その結果はC2001年に報告された(本号特集AREDSサプリメント参照)18).この試験開始時点ではルテインサプリメントの市販品がなかったためルテインは含まれなかったが,登録時の食事アンケートをもとに,ルテイン・ゼアキサンチン摂取量をC4群に分けると,最低摂取群(摂取量中央値C0.7mg/日)に対して最大摂取群(3.5mg/日)の滲出型CAMDオッズ比はC0.65,萎縮型C0.45であったことから19),ルテインの重要性が認識されCAREDS2試験が計画された.ルテインサプリメントを用いた最初の介入試験結果はC2004年にCRitch-erらにより報告された20).AREDSのCstage2,3,4に相当するCAMD前駆病変をもつ患者C90人にルテインC10mg/日を投与したところ,黄斑色素密度の増加とコントラスト感度,グレア障害の改善を認めた.2013年にAREDS2の結果3)が報告され,ルテインC10mg・ゼアキサンチンC2mg投与の有効性が示された(本号特集AREDSサプリメント参照).加齢黄斑変性を対照としたルテイン・ゼアキサンチンの効果に関する研究は,欧州その他の国々から多数の報告がある.Cb.ルテインと白内障ルテインは水晶体にも存在し,抗酸化作用により白内障進行抑制効果をもつ.ルテイン・ゼアキサンチン血清濃度と核白内障の危険率は逆相関することが,疫学データのメタ解析で示された21).C8.ルテイン含有サプリメントの効果には個人差があるルテイン・ゼアキサンチンは小腸で吸収されて網膜に蓄積するまでに,種々の結合蛋白とレセプターを介するが,それらの働きによって吸収,蓄積のされ方が異なる.小腸や網膜でのコレステロール輸送蛋白,血中HDL量,カロテノイド分子の解離,オメガC3脂肪酸代謝,遺伝性黄斑症などに関連する遺伝子において,血清ルテイン濃度と黄斑色素密度に関与する一塩基多型が報告されている22).一般的には,ルテインサプリメント摂取を開始すると,2,3カ月間は黄斑色素密度が直線的に上昇し,その後定常状態になる.しかし,上昇の仕方には個人差がある.サプリメントを摂取しても血清濃度も黄斑色素密度も上昇しない例や,血清濃度は上昇するが黄斑色素密度は増加しない例もある23).これには,上記の遺伝的要因と投与開始前の状態が関係すると思われる.投与前からすでに血清濃度,黄斑色素密度が十分に高い例は,サプリメントを投与してももはや増加はしない.このことは過去のCAREDS2やその他の介入試験でも示されており,食事での摂取量の少ない例,血清濃度の低い例,黄斑色素密度の低い例に,サプリメントはとくに有用であることを意味する.C9.ルテイン含有サプリメントは製品による違いがあるルテインはブルーベリーなどのアントシアニンとともに,眼関連サプリメントとして非常に販売量が多く,国(15)あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C723ルテイン・ゼアキサンチンのみAREDS処方に類似(医家向け限定販売)(一般販売)アントシアニンと組み合わせ図5市販されているルテインサプリメント含有成分で分類すると,おもにルテイン・ゼアキサンチン含有のもの,AREDS2に類似しビタミン・ミネラルも含有するもの,アントシアニンと組み合わせたものに分けられる.その他,ドコサヘキサエン酸(DHA)や他の成分と組み合わせたものなど,この図以外に多数の商品が販売されている.摂取量はC0.5.4.0mg/日と報告されているが,日本人未婚者ではC0.35mg/日に過ぎないとの報告24)もある.ルテイン・ゼアキサンチンはCAMD,白内障の予防以外にも,乳幼児の網膜の発達や脳機能の発達に関係するとされ,さらに最近では高齢者の認知機能の維持にも有用であるとの報告がある.したがって,食事から十分な摂取のできていない人は,健常人であってもルテイン・ゼアキサンチンサプリメントを上手に生活に取り入れるのがよいと考える.文献1)尾花明:ホウレンソウ,ケール(ルテイン,ゼアキサンチン).あたらしい眼科C27:9-15,2010C2)尾花明:医科向けのサプリメント:ルテイン.あたらしい眼科C29:1057-1062,2012C3)Age-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edmaculardegeneration:theAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)randomizedclinicaltrial.JAMAC309:C2005-2015,2013C4)BernsteinPS,KhachikF,CarvalhoLSetal:Identi.cationCandquanti.cationofcarotenoidsandtheirmetabolitesinCthetissuesofthehumaneye.ExpCEyeCRes72:215-223,C2001C5)SnodderlyDM,BrownPK,DeloriFCetal:ThemacularCpigment.IAbsorbancespectra,localization,anddiscrimi-nationfromotheryellowpigmentsinprimateretinas.CInvestOphthalmolVisSci25:660-673,1984C6)BernsteinPS,LiB,VachaliPPetal:Lutein,zeaxanthin,andmeso-zeaxanthin:ThebasicandclinicalscienceCunderlyingcarotenoid-basednutritionalinterventionsCagainstoculardisease.ProRetEyeRes50:34-66,2016C7)BoneRA,LandrumJT,TarsisSL:PreliminaryCidenti.cationofthehumanmacularpigment.VisionCResC25:1531-1535,1985C8)ObanaA,HiramitsuT,GohtoYetal:MacularcarotenoidClevelsofnormalsubjectsandage-relatedmaculopathyCpatientsinaJapanesepopulation.Ophthalmology115:C147-157,2008C9)BernsteinPS,SchrifzadehM,LiuAetal:Blue-lightCre.ectanceimagingofmacularpigmentininfantsandCchildren.InvestOphthalmolVisSci54:4034-4040,2013C10)SasanoH,ObanaA,SharifzadehMetal:Opticaldetec-tionofmacularpigmentformationinprematureinfants.TVST2018(印刷中)C11)SherryCL,OliverJS,RenziLMetal:Luteinsupplemen-tationincreasesbreastmilkandplasmaluteinconcentra-tionsinlactatingwomenandinfantplasmaconcentrationsCbutdoesnota.ectothercarotenoids.JCNutri144:1256-(17)1263,2014C12)BernsteinPS:Maculargeology.Age-relatedMacularDegeneration(BergerJW,FineSL,MaguireMG)C,p1-16,CMosby,StLouis,1999C13)GassJDM:Mullercellcone,anoverlookedpartoftheCanatomyofthefoveacentralis.ArchCOphthalmol117:C821-823,1999C14)ObanaA,SasanoH,OkazakiSetal:Evidenceofcarot-enoidinsurgicallyremovedlamellarhole-associatedCepiretinalproliferation.InvestCOphthalmolCVisCSci58:C5157-5163,2017C15)ReichenbachA,BringmannA:NewfunctionsofMullerCcells.Glia61:651-678,2013C16)HammondBR,FletcherLM,ElliottJG:Glaredisability,photostressrecovery,andchromaticcontrast:relationtoCmacularpigmentandserumluteinandzeaxanthin.InvestOphthalmolVisSci54:476-481,2013C17)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:DietarycarotC-enoids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedCmaculardegeneration.JAMA272:1413-1420,1994C18)Age-relatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Aran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andCZinkforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.CAREDSReportNo.8.ArchCOphthalmol119:1417-1436,C2001C19)Age-relatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TheCrelationshipofdietarycarotenoidandvitaminA,E,andCCintakewithage-relatedmaculardegenerationinacase-controlstudy.AREDSReport22.ArchOphthalmol125:C1225-1232,2007C20)RitcherS,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,plaC-cebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantCsupplementationintheinterventionofatrophicage-relat-edmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial)C.OptometryC75:216-230,2004C21)LiuXH,YuRB,HaoZXetal:Associationbetweenluteinandzeaxanthinstatusandtheriskofcataract:ameta-analysis.Nutirients22:452-465,2014C22)MeyersKJ,MaresJA,IgoRPJretal:GeneticevidenceCforroleofcarotenoidsinage-relatedmaculardegenera-tionintheCarotenoidsinAge-RelatedEyeDiseaseStudy(CAREDS).InvestCOphthalmolVisSci55:587-599,2014C23)ObanaA,TanitoM,GohtoYetal:ChangesinmacularCpigmentopticaldensityandserumluteinconcentrationinCJapanesesubjectstakingtwodi.erentluteinsupplements.CPLosCOne10:e013927,2015C24)HosotaniK,KitagawaM:MeasurementofindividualCdi.erencesinintakeofgreenandyellowvegetablesandCcarotenoidsinyoungunmarriedsubjects.JNutrSciVita-minol53:207-212,2007あたらしい眼科Vol.35,No.6,2018C725