眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人福田憲35.ドライアイと炎症高知大学医学部眼科学講座ドライアイでは,共焦点顕微鏡検査や涙液中の起炎因子の検査をしないとわからない細隙灯顕微鏡では見えない炎症や,角結膜角結膜上皮傷害の結果生じる炎症などの関与が示唆され,炎症の抑制がドライアイの病態,自覚症状の改善に貢献する可能性がある.●はじめに日常診療において充血がみられることが少ないドライアイに炎症の関与を認識することは少ないかもしれないが,治療にステロイド点眼薬を用いることは少なくないのではないか.ドライアイにおいて,日本では眼表面の水濡れ性の低下が病態の中心で,炎症は悪循環の「結果」として生じると考えられるのに対し,欧米では涙液浸透圧の上昇とそれに伴う炎症が「原因」と考えられている.本稿では,ドライアイと炎症のかかわりについて概説する.C●細隙灯顕微鏡では見えない炎症ドライアイはさまざまな疾患を含み,Sjogren症候群のように炎症の関与が明らかな疾患もあれば,涙液層破壊時間(tearC.lmCbrake-upCtime:BUT)短縮型では一見炎症の関与がないようにみえる.しかしながらドライアイの眼表面には,角結膜上皮障害やCBUT短縮などの細隙灯顕微鏡で見える変化だけでなく,細隙灯顕微鏡では見えない異常もある.ドライアイ患者では,共焦点顕微鏡で樹状細胞の増加や形態変化,impressioncytologyで結膜上皮細胞のChumanCleucocyteCantigenCD-related(HLA-DR)の発現亢進,涙液の検査によりサイトカインやCmatrixmetalloproteinase(MMP)-9の上昇などの,細隙灯顕微鏡では見えないサブクリニカルな炎症が報告されている1,2).米国ではドライアイ診断のために涙液MMP-9の簡易測定キットが発売されている.さらにドライアイ患者では細隙灯顕微鏡で見える角結膜上皮傷害などの他覚所見と自覚症状がしばしば乖離するが,涙液中や結膜上皮の炎症性サイトカインと眼不快感・眼痛などの自覚症状の程度の相関が報告されており2),見えない炎症がドライアイの治療の標的であることが示唆される.(65)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY●炎症の概念の変化炎症反応は自己と非自己を識別する獲得免疫を中心に研究が始まり,ついでCToll様受容体の発見により病原微生物に対する自然免疫が解明された.さらに近年では無菌性炎症や自然炎症など,免疫や感染が関与しない炎症の概念がより広くなっている.単なる外傷でも,細胞が壊死するとCalarminと呼ばれる細胞内の起炎物質が細胞外に放出され,それを健常な細胞が危険信号(dangersignal)として感知し炎症反応が生じる.ドライアイにおいても,乾燥,摩擦や高浸透圧ストレスなどにより角結膜上皮細胞が傷害されると,alarminが放出され充血がなくてもサブクリニカルな炎症が生じていると考えられる.実際に壊死した角膜上皮細胞から放出されたalarminは,健常な角膜上皮に作用し炎症性サイトカインの産生やバリア機能の低下を引き起こす3)(図1).C●ドライアイ治療薬の抗炎症作用ドライアイ治療薬の作用機序は,保水,角膜保護剤・創傷治癒促進剤,涙液・ムチン産生促進薬,抗炎症薬などに大別される.米国で処方可能な点眼薬はシクロスポリンとClymphocyteCfunction-associatedCantigenC1(LFA-1)阻害薬でいずれも抗炎症薬である.わが国では抗炎症を作用機序として開発された治療薬はないが,ムチン産生促進薬として用いているレバミピドには,角膜上皮細胞において腫瘍壊死因子(tumornecrosisfac-tor:TNF)C-aによる炎症性サイトカインの産生やバリア破壊を抑制する抗炎症作用も有しており4,5)(図2),ステロイド点眼薬と同様に意識せずに抗炎症治療を行っている可能性がある.あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018C225ab5,000**4,000100経上皮電気抵抗(%control)IL-6産生(pg/ml)****7550**3,000**2,000**1,000025050100050100壊死細胞の上清(%v/v)壊死細胞の上清(%v/v)図1角膜上皮細胞におけるalarminによる炎症性サイトカイン産生およびバリアの低下作用壊死させた角膜上皮細胞の上清を,健常な角膜上皮細胞に添加するとCIL-6の産生が促進され(Ca),バリア機能が低下する(Cb).(文献C3より転載)C10.0a+TNF-ab*IL-6産生(ng/ml)7.5****5.02.50***TNF-a:-+レバミピド:--00.51.02.0レバミピド(mM)図2レバミピドによる角膜上皮細胞のサイトカイン産生およびタイトジャンションに対する作用++a:角膜上皮細胞に種々の濃度のレバミピドの存在下でCTNF-aを添加して培養すると,TNF-aによって誘導されたCIL-6の産生がレバミピドの濃度依存的に有意に抑制される.b:TNF-aの添加によりタイトジャンションのCzonulaoccludens-1(緑色)の発現が低下するが,レバミピドの添加により抑制される.青色は細胞核を示す.(文献C4より転載)●おわりに今後,細隙灯顕微鏡では見えない炎症を検出する診断法の開発や,抗炎症作用を有するドライアイ治療薬の登場により,ドライアイの病態における炎症の詳細がさらに解明されていくと考えられる.文献1)BaudouinC,IrkecM,MessmerEMetal:ClinicalimpactofCin.ammationCinCdryCeyeCdisease:proceedingsCofCtheODISSEYCgroupCmeeting.CActaCOphthalmol,C2017.Cdoi:C10.1111/aos.134362)NaKS,MokJW,KimJYetal:Correlationsbetweentearcytokines,Cchemokines,CandCsolubleCreceptorsCandCclinicalCseverityCofCdryCeyeCdisease.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:5443-5450,C20123)FukudaCK,CIshidaCW,CMiuraCYCetCa:A.CCytokineCexpresC-sionCandCbarrierCdisruptionCinChumanCcornealCepithelialCcellsinducedbyalarminreleasedfromnecroticcells.JpnJOphthalmolC61:415-422,C20174)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:RebamipideincreasC-esbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionCandCcytokineCexpressionCinChumanCcornealCepi-thelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C20135)KimuraCK,CMoritaCY,COritaCTCetCal:ProtectionCofChumanCcornealepithelialcellsfromTNF-a-induceddisruptionofbarrierfunctionbyrebamipide.InvestOphthalmolVisSciC54:2572-2760,C2013226あたらしい眼科Vol.35,No.2,2018(66)C