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間接的感染が考えられた成人の睫毛ケジラミ症

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):676.678,2018c間接的感染が考えられた成人の睫毛ケジラミ症高山真祐子戸所大輔廣江孝齋藤千真秋山英雄群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学CAdultCasesofPhthiriasisPalpebrarumCausedbyIndirectTransmissionMayukoTakayama,DaisukeTodokoro,TakashiHiroe,KazumaSaitoandHideoAkiyamaCDepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicineケジラミはおもに陰毛に寄生し性感染症(STD)の一つにあげられているが,まれに睫毛に寄生し睫毛ケジラミ症を発症することがある.国内での睫毛ケジラミ症は小児例が報告されているが,成人例の報告は少ない.今回,明らかな性交渉歴やCSTDを認めず間接的感染と考えられた成人の睫毛ケジラミ症を経験した.症例C1はC38歳の女性.主訴は両眼の異物感.両眼上眼瞼睫毛根部にケジラミの虫体,卵を認めた.同日中に摘出し,その後再発なく経過した.症例C2はC69歳の女性.主訴は両眼の掻痒感.両眼上下眼瞼睫毛根部にケジラミの虫体,卵を多数認め,摘出を行った.同日に皮膚科へ紹介し,頭髪に多数の虫卵を指摘された.3日後,少数の虫体,卵の再発を認め,再度摘出を行った.その後症状は改善し,再発なく経過した.両症例とも近日中の性交渉歴やCSTDの既往はなかった.Phthiriasispubisisoneofthesexuallytransmitteddiseases(STD)causedbyinfestationofPhthiruspubis(alsocalledcrablouse).However,itrarelyinfestseyelashesandcausesphthiriasispalpebrarum.Phthiriasispalpebrarumismainlyseeninchildren;adultcasesarerare.Here,wedescribenon-STDadultcasesofphthiriasispalpebrarumcausedbyindirecttransmission.A38-year-oldfemale(Case1)complainedofforeignbodysensationinbotheyes.Afewliceandeggswereobservedonheruppereyelashes.Afterremoval,hercomplaintimproved.A69-year-oldfemale(Case2)su.ereditchinginbotheyes.AnumberofliceandeggswerepresentonheruppereyelashesandinCfrontalChair.CAfterCtheirCrepeatedCremoval,CherCcomplaintCimproved.CThereCwereCnoCsexualCepisodesCinCeitherCcase.CWhenCadultCcasesCofCphthiriasisCpalpebrarumCareCdiagnosed,CnotConlyCSTD,CbutCalsoCindirectCtransmissionCshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):676.678,C2018〕Keywords:睫毛ケジラミ症,ケジラミ,性感染症.phthiriasispalpebrarum,Phthiruspubis,STD.Cはじめにケジラミ症は,吸血性昆虫であるケジラミが寄生することにより発症し,おもに性行為によって感染するため,性行為感染症(sexuallytransmitteddiseases:STD)の一つにあげられている1).おもな寄生部位は陰毛だが,まれに睫毛への寄生も報告されている2).睫毛ケジラミ症の好発年齢は小児であり,多くが母子間の感染である.睫毛ケジラミ症の成人例は少なく,中高齢者にはあまり認めないとされている3).今回,明らかな性交渉歴がなく,間接的感染と考えられた成人の睫毛ケジラミ症をC2例経験した.CI症例〔症例1〕38歳,女性.初診:2015年C8月.主訴:両眼の異物感.家族歴,既往歴:特記すべきことなし.現病歴:両眼の異物感を自覚し,翌日に近医を受診した.左の睫毛に卵のようなものがあり,精査のため群馬大学病院(以下,当院)へ紹介となった.生活歴:近日中の性交渉なし.海外渡航歴なし.症状出現前にマッサージに行っており,店のタオルを目の上に乗せて施術を受けた.〔別刷請求先〕高山真祐子:〒371-8511群馬県前橋市昭和町C3-39-15群馬大学眼科学教室Reprintrequests:MayukoTakayama,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-39-15Showa-machi,Maebashi,Gunma371-8511,JAPAN676(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C6760910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1症例1の左上眼瞼睫毛根に虫卵と虫体が観察される.図3症例2の左上眼瞼多数の虫体と虫卵が皮膚に張り付くように存在している.初診時所見および経過:初診時,両上眼瞼の睫毛根部に点状の皮膚出血,虫体の血糞の付着,睫毛に強固に付着する半透明の虫卵,睫毛根部に虫体を確認した(図1).矯正視力は両眼ともC1.2,眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C14CmmHgだった.前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.外来処置室で虫卵の付着した睫毛を切除後,数匹の虫体を摘出した(図2).受診からC7日後,違物感は改善しており,虫卵,虫体の再発はなかった.〔症例2〕69歳,女性.初診:2016年C10月.主訴:両眼の掻痒感.家族歴,既往歴:右眼は白内障手術後.他に特記すべきことなし.現病歴:2016年C10月上旬から両眼の掻痒感を自覚,改善しないためC2週間後に近医を受診した.両上眼瞼の睫毛に黄色い内容物を伴う虫卵および虫体を認め,精査のため当院へ図2症例1より摘出したケジラミの虫体大きさは約C1Cmmである.図4症例2より摘出したケジラミの虫体脚で睫毛にしがみついている場合は睫毛ごと切除する必要がある.紹介となった.生活歴:近日中の性交渉なし.海外渡航歴なし.症状出現前に一人暮らしの息子宅の掃除に行った.初診時所見および経過:両上下眼瞼に点状の皮膚出血,虫体の血糞の付着,上下睫毛根部に多数の半透明の虫卵の付着,睫毛根部に張りつく多数の虫体を確認した(図3).矯正視力は右眼C1.2,左眼C0.5,両眼とも前眼部に異常はなく,右眼は眼内レンズ挿入眼,左眼は後.下白内障を認めた.外来処置室で虫卵の付着した睫毛を切除後,縫合鑷子を用いて張りつく虫体を.ぐように摘出し,計C26匹の虫体を摘出した(図4).同日,皮膚科も受診し,前頭部を中心とする頭髪に多数の虫卵の付着を認めた.陰毛はほぼ欠落しておりケジラミの寄生は確認できず,頭部ケジラミ症の診断のもとスミスリンローションRを用いて治療を開始した.受診からC3日後,痒みの自覚症状は消失したものの,両上下睫毛に新たな皮膚出血,血糞の付着,虫卵および虫体の再発を認めた.外(113)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C677来処置室で再度摘出を行い,計C14匹摘出した.受診からC7日後とC10日後は虫卵,虫体の再発がなく経過した.CII考按人体に寄生するシラミ類は,ケジラミ,アタマジラミ,コロモジラミに分類される.ケジラミは約C1週間で孵化し,吸血を始める.雌はC1日C1.4個産卵し,一生の産卵総数はC30.40個,寿命は約C1カ月である.大きさはC1Cmm前後,幅が広く,蟹のような前脚と爪をもつためCcrabClouseとよばれている.寄生部位は陰毛,腋毛で,まれに脛毛,胸毛,頭髪(とくに小児),眉毛,睫毛につくことがある4,5).ケジラミが睫毛に寄生する理由としては,ケジラミは本来アポクリン腺の臭気を好み寄生するが,マイボーム腺がアポクリン腺と類似した構造をもつため眼瞼にも寄生するといわれている4).アタマジラミとコロモジラミは形態的に似ているため分類は不可能であり,髪の毛に寄生しているか,衣類に寄生しているかといった生態による区分が分類の限界とされている.色はやや褐色がかっており,大きさはC2.4Cmm前後,縦に細長い形をしている.アタマジラミはまれに眉毛に寄生するが,睫毛には寄生しない.コロモジラミは衣服や下着の縫い目に卵を産み,皮膚上を移動して吸血する6).したがって睫毛にシラミの寄生をみた場合は,ケジラミである可能性が高いと考えられる.シラミの治療については,陰毛や頭髪に寄生した場合は0.4%フェノトリン粉剤を隔日で塗布または洗髪することにより除虫する.しかし,フェニトリン粉剤は睫毛使用での安全性は確立されていない.添付文書には目に入らないよう注意との記載があり,薬剤の刺激が強く,角膜炎,眼瞼炎などを引き起こす可能性がある.よって,睫毛ケジラミ症の治療の基本は虫体・虫卵の摘出である.卵は粘着性の強い膠質で毛に付着しているため,睫毛から除去することは困難であり,睫毛ごと切除を行う.残存した虫卵が孵化し再発することがあるため,週C2回程度は再発が確認できなくなるまで繰り返し施行する必要がある.海外での報告では,1%水溶性マラチオンを塗布した症例も報告されている7).また,イベルメクチンの内服薬はダニやシラミに効果があることがわかってきており,海外では,睫毛ケジラミ症に対してイベルメクチン内服の治療効果が報告されている8).わが国において現在はイベルメクチンの保険適用は糞線虫症と疥癬症のみであるが,今後,局所療法での治療抵抗例などに対して適用拡大が期待される.国内での睫毛ケジラミ症の報告はC4歳以下の幼児に多い.理由としては,幼児は成人に比べ発汗,流涙によってある程度の睫毛部の湿度が保たれているため,ケジラミが寄生しやすい環境であることと,幼児は顔を枕やベッドに伏せて寝ていることが多く,その際に寝具に存在していたケジラミが睫毛に寄生する可能性があるからと考えられている9).接触の密な親子間,とくに母子間での感染も多いとの報告もある10).まれに成人の睫毛ケジラミ症を経験することがあり,その患者の多くがCSTDによる感染,または他のCSTDを合併している11).このことから,成人例を診た場合は,患者だけではなく配偶者やパートナー,生活背景についての問診を行うことが重要であり,これによりピンポン現象を防止するきっかけにもなると考えられる.しかし,今回のC2症例は,近日中の明らかな性交渉歴や他にCSTDは認めなかった.症例C1は発症時期からマッサージ店で使用したタオルが感染源として疑わしく,症例C2では発症前に行った掃除の際に寝具などから間接的にケジラミに感染した可能性が考えられる.ヒトから離れたケジラミはC9.44時間は生存可能であるため,生存期間内であれば間接的に感染することはありうる.成人の睫毛ケジラミ症に遭遇した場合,STDとしての感染経路(直接感染)以外ににも,タオルや寝具などを介した間接的感染経路の可能性もありうることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)清田浩,石地尚興,岸本寿男ほか:性感染症診断・治療ガイドラインC2016.日本性感染症学会誌27:4-170,C20162)雑賀可珠也,山中修,岡田由香ほか:眼瞼ケジラミ症の3例.臨眼55:1498-1499,C20013)中村聡,秦野寛:睫毛ケジラミ症.臨眼C46:913-914,C19924)小門正英:眼瞼ケジラミ症.眼科58:1077-1082,C20165)森下哲夫,加納六郎,田中寛:新寄生虫病学第C10版.p239-240,南山堂,19846)富田靖,橋本隆,岩月啓氏ほか:標準皮膚科学第C10版.p461-463,医学書院,20137)RundlePA,HughesDS:PhthiruspubisCinfestationoftheeyelids.BrJOphthalmolC77:815-816,C19938)BurkhartCCN,CBurkhartCCG:OralCivermectinCtherapyCforCphthiriasisCpalpebrum.CArchCOphthalmolC118:134-135,C20009)荻野哲男,竹田宗泰,今泉寛子ほか:幼児における睫毛ケジラミ摘出のC2例.眼科手術19:423-425,C200610)上敬宏,方倉聖基,向井聖ほか:睫毛切除が有効であった小児睫毛ケジラミ症のC4例.眼科48:1293-1296,C200611)井内足輔,白石久子,志和健吉:眼瞼毛じらみ症の青年例.眼臨紀1:752-754,C2008***(114)

眼症状を契機にヒト免疫不全ウイルス感染が判明したサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2018年5月31日 木曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(5):671.675,2018c眼症状を契機にヒト免疫不全ウイルス感染が判明したサイトメガロウイルス網膜炎の1例古川達也*1岩見久司*1細谷友雅*1夏秋優*2日笠聡*3五味文*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2兵庫医科大学皮膚科学教室*3兵庫医科大学内科学講座血液内科CACaseofCytomegalovirusRetinitisCausedbyHumanImmunode.ciencyVirusInfection,withOcularSymptomsTatsuyaFurukawa1),HisashiIwami1),YukaHosotani1),MasaruNatsuaki2),SatoshiHigasa3)andFumiGomi1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)DepartmentofDermatology,HyogoCollegeofMedicine,3)DepartmentofHematologyandClinicalOncology,HyogoCollegeofMedicine緒言:原因不明のぶどう膜炎患者の経過観察中にCAIDSが判明したことで,サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎と診断されたC1例を経験したので報告する.症例:67歳,男性.3週前からの右眼充血と眼痛で紹介受診.矯正視力右眼(0.7),左眼(1.0).右眼に角膜後面沈着物,前房内細胞を認めたが,眼底は軽度の滲出性変化のみであった.一般採血で異常なく,ツベルクリン反応陰性.前額部に皮疹があり,皮膚生検と胸部CX線検査を行ったが,サルコイドーシスは否定された.その後網膜炎が増悪し,トリアムシノロンCTenon.下注射を行ったが眼底所見はさらに増悪.皮膚科で口腔カンジダ症から免疫不全を疑い,HIV抗原抗体陽性,CD4陽性リンパ球減少を認めCAIDSと診断された.血中Cantigenemia法と前房水CPCRからCCMV網膜炎と確定診断した.結論:原因不明のぶどう膜炎は,潜在する免疫不全の可能性も念頭に置いて,HIV感染を含めた精査を進める必要がある.CA67-year-oldmalewasreferredtoourhospitalwithchiefcomplaintofhyperemiaandmildpaininhisrighteyelastingmorethan3weeks.Best-correctedvisualacuityoftheeyewas0.7;cellsintheanteriorchamberwithkeraticprecipitates(KPs)wereobserved.FluoresceinangiographyshowedmildvasculitisintheperipheralretinainCtheCrightCeye,CbutCthereCwereCnoCapparentCchangesCinCtheCleftCeye.CGeneralCbloodCcollectionCwasCwithinCnormalCrangeCandCtuberculinCskinCtestCwasCnegative.CSubtenon’sCtriamcinoloneCacetonidCinjectionCwasCperformedCdueCtoCincreasingCretinalCvasculitis,CbutCtheCconditionCworsened.CDermatologistsCsuspectedCimmunode.ciencyConCtheCbasisofCoralCcandidiasis;HIVCantigenCantibody-positiveCandCCD4-positiveClymphocyteCreductionCwasCrevealed.CAIDS-associatedCcytomegalovirus(CMV)infectionCwasCcon.rmedCfromCCMVCantigenemiaCandCPCRCexaminationCofCtheCanteriorCchamberC.uid.CToCavoidCseriousCprogression,CtheCpossibilityCofCimmunode.ciencyCbackgroundCshouldCbeCexcludedinthetreatmentofuveitisofuncertainorigin.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(5):671.675,C2018〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,AIDS,HIV,ぶどう膜炎,サルコイドーシス.cytomegalovirusreti-nitis,acquiredimmunode.ciencysyndrome(AIDS),humanimmunode.ciencyvirus(HIV)C,uveitis,sarcoidosis.Cはじめにわが国のヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunodeficien-cyCvirus:HIV)感染者数および後天性免疫不全症候群(acquiredCimmunode.ciencyCsyndrome:AIDS)発症患者数は,2007年以降,合わせて年間C1,000件を超えている1).このうちCHIV感染に気づかずに,突然免疫不全症状を発症しCAIDSと診断される,いわゆる「いきなりCAIDS」患者の割合が高まっており,約C3割を占めている.他の先進国では新規CAIDS患者の割合は減少傾向にあるのに対し,わが国で増加している理由として,保健所や自治体,あるいは医療機関で自発的にCHIV検査を受ける割合が少ないことがあげられる.〔別刷請求先〕古川達也:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsuyaFurukawa,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8501,JAPAN図1初診時の前眼部細隙灯顕微鏡写真結膜毛様充血,少量のCsmallwhiteKPs,前房内細胞を認める.AIDSの診断基準を満たす指標疾患はC23疾患あるが,このうち日本国籍CAIDS患者にもっとも多くみられるのはニューモシスティス肺炎で,ついでカンジダ症,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症となっている1).なかでもCCMV網膜炎はCCMV感染症のなかでもっとも多くみられる代表的な疾患である.今回,原因不明のぶどう膜炎患者の経過観察中にCAIDSが判明したことで,CMV網膜炎と診断されたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:67歳,男性.主訴:右眼の充血と眼痛.既往歴:梅毒.現病歴:3週前から右眼の充血と眼痛を自覚し,近医を受診.ぶどう膜炎を疑われ,ベタメタゾン点眼が処方されたが改善を認めず,兵庫医科大学病院眼科を紹介受診.初診時所見:視力は右眼(0.7C×sph.3.00D(cyl.1.25D図2右眼眼底写真および眼底造影写真a:初診時眼底写真.アーケード血管外の網膜血管周囲にわずかに滲出性変化がみられる(▽).Cb:初診時CFA写真.同部位の血管透過性亢進を認める(▽).Cc:7週後眼底写真.下方網膜血管炎の増悪を認める(▽).Cd:9週後インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真.脈絡膜循環障害と思われる低蛍光を認める(▽).CAx100°),左眼(1.0C×sph.3.00D(cyl.2.00DAx90°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C17CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,右眼に結膜毛様充血,少量のCsmallCwhitekeraticCprecipitates(KPs),前房内細胞を認めた(図1).右眼眼底の視神経乳頭下方,アーケード血管外の網膜血管周囲にわずかに滲出性変化(図2a)がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinCangiography:FA)では同部位の血管透過性亢進を認めた(図2b).左眼には異常を認めなかった.全身所見:前額部と四肢に紅斑を認めたが,全身症状はなかった.胸部CX線検査では特記すべき異常所見はなかった.血液検査結果は白血球数C4,400/μl,赤血球数C381C×104/μl,ヘモグロビンC11.4Cg/dl,ヘマトクリットC36.0%,血小板数C21.6×104/μl,CRPC0.27,総蛋白C8.3Cg/dl,アルブミンC3.6g/dl,総ビリルビンC0.4Cmg/dl,AST19CU/l,ALT13CU/l,LDHC256CU/l,アルカリホスファターゼC329CU/l,クレアチンキナーゼC54CU/l,尿素窒素C13Cmg/dl,クレアチニンC0.72mg/dl,ナトリウムC140Cmmol/l,カリウムC4.00Cmmol/l,赤沈(1Ch)102Cmm,梅毒トレポネーマ(TP)抗体陽性,梅毒脂質抗原(RPR)陰性,補体C60以上,抗核抗体C40倍,リウマチ因子陰性,IgGC2,264Cmg/dl,IgAC819Cmg/dl,IgM83mg/dl,アンギオテンシン変換酵素C6.7,HTLV-1抗原陰性,HBs抗原陰性,HBs抗体陰性,HCV陰性であり,血算,生a化学所見に有意な異常所見は認めなかった.ツベルクリン反応は陰性であった.経過:smallwhiteKPs,前房内炎症,眼底の網膜血管周囲の滲出斑などの眼科所見と,皮疹の存在,ツベルクリン反応陰転化からサルコイドーシスを疑った.皮膚科で皮疹の皮膚生検を施行したが,病理所見ではリンパ球浸潤のみであり特徴的な類上皮肉芽腫を認めず,紅斑は皮膚科で慢性湿疹ないしアレルギー性皮膚炎と診断され,この時点でサルコイドーシスは否定された.初診時からC7週後,ベタメタゾン点眼継続により前眼部炎症は改善傾向だったが,眼底下方の網膜滲出斑の拡大(図2c)と,右眼矯正視力(0.5)と低下を認めた.眼底所見からCMV網膜炎の可能性も考えられたが,全身状態良好であり基礎疾患もないことからこの時点では否定的と考え,原因不明のぶどう膜炎として,トリアムシノロンCTenon.下注射(40Cmg)を施行した.9週後(注射C2週後),右眼の視力低下はなかったが,網膜血管周囲の滲出性変化の拡大と網膜出血の出現を認めた.FAでは下方網膜を中心に網膜色素上皮および静脈からの色素漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanineCgreenCangiography:IA)でもCFAでの漏出に一致し,脈絡膜循環障害と思われる低蛍光を認めた(図2d).眼底所見の悪化と同時期に口腔内白苔の出現を皮膚科で指b図3眼底写真および光干渉断層計像a:抗ウイルス治療開始C3週後.網膜動静脈血管炎は改善したが網膜.離を認める.Cb:硝子体手術C8週後.シリコーンオイル下に網膜は復位し,血管炎も改善しているが,中心窩には網膜下液が残存している.CCD4リンパ球数121620242832343640初診より経過時間CMV網脈絡膜炎再発図4抗HIV療法開始後のCD4リンパ球数の推移抗CHIV療法開始後CCD4リンパ球の増加を認めるが,網脈絡膜炎の再発時に明らかな急増は認めない.C摘され,同部位の培養からCCandidaCalbicansが検出された.免疫不全状態が疑われ,免疫電気泳動検査にてCgグロブリンの上昇,HIV抗原・抗体陽性,かつCCD4リンパ球がC18.82/μlと著明な減少を認めたことよりCAIDSと診断された.免疫低下を鑑みて,改めてCCMV網膜炎を疑い,前房水を採取してウイルスCDNAをCpolymeraseCchainCreaction(PCR)法で測定した結果,CMVCDNAが検出され,採血にて血中CMVantigenemiaが陽性でありCCMV網膜炎と確定診断した.また,今回のCCMV網膜炎はCIAで脈絡膜の循環障害を顕著に認めたことから,脈絡膜炎も伴う網脈絡膜炎と診断した.診断後速やかにバルガンシクロビルC900Cmg/日内服とガンシクロビル硝子体注射をC4日ごとに計C8回施行(1回C2Cmgを週C2回)施行した.抗ウイルス治療開始C1週(初診時よりC12週)では眼底所見にほとんど変化は認めなかったが,徐々に滲出性変化の改善があり,抗ウイルス治療開始C8週(初診時より約C20週)には網脈絡膜炎の鎮静化を認めた.しかしながら,脈絡膜炎を伴う網膜全層の炎症をきたしていたことから,下方の網膜に強い萎縮とその病変内に裂孔が生じ,網膜.離が発生したことから(図3a),硝子体手術(phacoemulsi.cationCandCaspiration+parsCplanaCvitrectomy+siliconeCoil充.)を施行した(図3b).硝子体手術後C8週(初診時より約C30週)ではシリコーンオイル充.下で再.離を認めず,病態が安定していたため,血中CCMVantigenemiaが陰性になった時点で血液内科から処方されていたバルガンシクロビルの内服が中止となった.しかしながら,術後C12週(初診時より約C34週)で右眼視神経乳頭鼻側とアーケード血管耳上側に網脈絡膜炎の再発を認めた.HIV感染症に対しては血液内科にて診断後より抗CHIV療法を開始し,血中CCD4リンパ球の回復を認めており,このときの血中CCMVantigenemiaは陰性を維持していたが,網脈絡膜炎再発時にはCCD4リンパ球の急激な上昇は認めなかったことから(図4),免疫回復ぶどう膜炎(immuneCrecoveryCuveitis:IRU)の発症ではなく,CMV網膜炎の再燃と考え,再度バルガンシクロビルC1,800Cmg/日の内服を行い,網脈絡膜炎は消退した.CII考按HIV感染患者およびCAIDS患者では死を迎えるまで約C30%の確率でCCMV網膜炎が生じるとされており2),UnitedCStatesCPublicCHealthCServiceCandCInfectiousCDiseasesCSoci-etyCofCAmerica(USPHS/IDSA)によるガイドラインでは,CMV網膜炎はCAIDS患者のCCMV臓器感染症のなかで腸炎や脳炎と同様に頻度の高い臨床病状といわれている.現在ではCHIV感染者に対する多剤併用療法(highlyCactiveCanti-retroviralCtherapy:HAART)が治療として行われるようになったことにより,AIDSの発生頻度はC1980年代と比べ1/4.1/5程度に減っている3).しかしながら,HIV感染を知らない「いきなりCAIDS」患者の増加に伴い,CMV網膜炎も眼科医が初診で出会う機会が多くなっている可能性がある.わが国では成人の約C80.90%は幼少期にCCMVの不顕性感染を起こしているといわれており4),AIDS患者以外でも白血病,自己免疫疾患,臓器移植後の免疫低下時,糖尿病を基礎疾患にもつ免疫正常者や高齢者,内眼手術やステロイド局所注射などでもCCMV網膜炎を発症すると報告されている5.7).しかし,CMV網膜炎は,眼科初診で免疫不全を指摘されていない患者では診断がむずかしく,治療が遅れることがある.CMV網膜炎は網膜全層の滲出と壊死を主体とし,前眼部や硝子体の炎症所見に乏しいといわれている.本症例では初診時には,片眼性の前眼部炎症所見が主体で網膜病変は軽微であり,一般的なCCMV網膜炎とは臨床像が異なっていた.吉永らは免疫正常者に発症するCCMV網膜炎は,免疫能が正常であるため,IRU様の反応が起こり,虹彩炎,硝子体混濁などの炎症所見が多く認められ,通常のCCMV網膜炎と臨床症状が異なると述べている8).本症例は免疫不全患者であったが,初診時の眼所見は免疫正常者のCCMV網膜炎所見に類似しており,免疫能がまだ比較的保たれていた可能性がある.眼底所見の進行により,一度はCCMV網膜炎を疑ったが,一般採血では免疫異常を看破できず,前眼部所見,ツベルクリン反応陰転化と前額部の皮疹所見からサルコイドーシスを疑った.そこでトリアムシノロンのCTenon.下注射を施行したことで局所免疫能を急激に低下させ,典型的なCMV網膜炎としての進行を促進させたと考えられる.皮膚生検でサルコイドーシスが否定された時点で,片眼性であることと特徴的な眼底所見から,改めてCCMV網膜炎の可能性を再検討すべきであったであろう.CMV網膜炎の診断には,前房水内ウイルスCDNAの検索や採血項目の追加による全身再評価が必要である.CMV網膜炎の治療はCHIV陽性,陰性にかかわらず抗ウイルス薬の全身投与が推奨される.これは全身状態の改善につながるうえに,患者のC3/4近くが治療後に視力回復を認めるといわれているからである9).本症例の経験により,わが国での「いきなりCAIDS」患者増加の実態が垣間みえた.AIDS治療薬開発などのニュースによりCHIV感染への危機感が以前より少なくなり,それがHIV検査受検率の低さ10)につながっている可能性も考えられる.原因不明のぶどう膜炎,とくに網膜炎をみた場合には,それがCCMV網膜炎である可能性も念頭に置いて,HIV感染を含めた潜在する免疫不全の有無の精査を進める必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省エイズ動向委員会:平成C27年エイズ発生動向年報.(AvailableCat:http://api-net.jfap.or.jp/status/2015/15nenpo/15nenpo_menu.html)2)JabsCDA,CVanCNattaCML,CKempenCJHCetCal:Characteris-ticsofpatientswithcytomegalovirusretinitisintheeraofhighlyCactiveCantiretroviralCtherapy.CAmCJCOphthalmolC133:48-61,C20023)JabsCDA:AIDSCandCophthalmology.CArchCOphthalmolC126:1143-1146,C20084)八代成子:サイトメガロウイルス網膜炎.眼科C49:1189-1198,C20075)SaidelMA,BerreenJ,MargolisTP:Cytomegalovirusret-initisCafterCintravitreousCtriamcinoloneCinCanCimmunocom-petentpatient.AmJOphthalmolC140:1141-1143,C20156)KarkhanehCR,CLashayCA,CAhmadrajiCA:Cytomegalovirusretinitisinanimmunocompetentpatient:Acasereport.JCurrOphthalmolC28:93-95,C20167)DownesKM,TarasewiczD,WeisbergLJetal:Goodsyn-dromeCandCotherCcausesCofCcytomegalovirusCretinitisCinCHIV-negativeCpatients─caseCreportCandCcomprehensiveCreviewoftheliterature.JOphthalmicIn.ammInfectC6:3,doi:10.1186/s12348-016-0070-7.CEpubC20168)吉永和歌子,水島由香,棈松徳子ほか:免疫正常者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌C112:684-687,C20089)JabsCDA,CAhujaCA,CVanCNattaCMLCetCal:Long-termCout-comesCofCcytomegalovirusCretinitisCinCtheCeraCofCmodernantiretroviralCtherapy:ResultsCfromCaCUnitedCStatesCCohort.OphthalmologyC122:1452-1463,C201510)健山正男,比嘉太,藤田次郎:我が国におけるCAIDSの発症動向─「いきなりAIDS」の問題.日本医事新報C4676:C25-30,C2013***

基礎研究コラム 12.眼のメタボリックシンドローム-加齢黄斑変性

2018年5月31日 木曜日

眼のメタボリックシンドローム――加齢黄斑変性安川力網膜色素上皮の生理機能加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)の病態解明のためには,網膜色素上皮(retinalCpig-mentCepithelium:RPE)の生理機能を理解しておく必要があります(図1).①視細胞外節は光線暴露の宿命により酸化変性するため,お肌と一緒で常に再生され,古くなった先端(お肌でいうところの垢)をCRPEが貪食しています.貪食にRPEのCCD36,インテグリンCavb5,MerTK,Rac1などが関与しています.②ロドプシンの再生(レチノイドサイクル),③外節を処理してリポ蛋白精製1),④血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)放出により脈絡膜毛細血管保持,⑤CBruch膜リモデリングが行われているようです.外節貪食に関連したCRPEの体積調節機構にBest病の原因遺伝子(bestrophin-1)が関与しているようです.外節形成の必須蛋白であるCperipherin-2の異常においてもCBest病に似た病態を示しうることは興味深い状況証拠です.そのほか,AMDの類縁疾患の原因蛋白もこの一連の機能に関連しています.網膜色素上皮の加齢変化光線暴露の影響はお肌と一緒で,RPEにも加齢変化が生名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学じます(図1).①CRPE内へのリポフスチン蓄積に始まり,②C30歳ぐらいからCRPE直下に脂質沈着を認め,加齢とともに肥厚します2).③脂質は過酸化し酸化ストレスの根源となり,RPEの障害,接着障害,軟性ドルーゼンなどのCAMD前駆病変が出現し,脂質の沈着がCVEGF透過を妨げ3),おそらく代償性に発現亢進が起こってCAMD発症の準備が整ってきます.④CRPE萎縮の要素と脂質沈着によるCVEGFの発現亢進量のバランスで,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC),滲出型CAMDの各種病型,地図状萎縮(geographicatrophy:GA)といったさまざまな病態を引き起こすと考えられます.文献1)SatoCR,CYasukawaCT,CKaczaCJCetCal:Three-dimensionalCspheroidalCcultureCvisualizationCofCmembranogenesisCofCBruch’smembraneandbasolateralfunctionsoftheretinalpigmentepithelium.InvestOphthalmolVisSciC54:1740-1749,C20132)HuangJD,CurcioCA,JohnsonM:MorphometricanalysisofClipoprotein-likeCparticleCaccumulationCinCagingChumanCmacularCBruch’sCmembrane.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:2721-2727,C20083)MooreDJ,HussainAA,MarshallJ:Age-relatedvariationinthehydraulicconductivityofBruch’smembrane.InvestOphthalmolVisSciC36:1290-1297,C1995図1網膜色素上皮の生理機能と加齢変化(97)Cあたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6610910-1810/18/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 24.立体視と生活・職業

2018年5月31日 木曜日

連載.二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめに立体視が日常生活や職業とどうかかわるかを考える.眼科で行うTitmusStereoTest(TST)などの静的立体視検査では立体視不能であっても,大型画面の3D映像では立体視可能の例がある1).3D立体映像の視聴に関する実態調査2)では,呈示方法によって立体視の有無に差が出ること,恒常性斜視でも立体視可能な例のあることが報告された.特殊免許取得時の深視力判定に使われる三杆法,それを応用した顕微鏡下の三杆法について説明する.接近するボール接近するボールを見ているとき,両眼と後頭葉第一次視覚野(以下,V1)でどのような情報処理が行われているだろうか(図1).a.ボールの網膜像の拡大b.ボール像の耳側への移動:像は網膜上を常に耳側にずれ,それを中心窩でとらえようとして輻湊運動が続く.刻々と両眼視差が変化する.c.輻湊角(両眼とボールのなす角度)の増加a,b,cの要素は,単眼情報としてもボール接近の情報になるが,V1の両眼視細胞◎内で情報が合流して,像の動きの方向や速度の差などの両眼情報を生み出し,複合的に作用する.ボールの接近に伴い,三つの要素は加速度的に大きくなる.網膜神経節細胞Pa(Y)やV1とそれ以降に存在する方向選択性細胞(連載⑩⑪⑫参照)などM系細胞の活動により三次元情報として再構頭頂連合野で三次元情報接近するボールとして再構築図1接近するボールボールを見るとき,像の拡大(a),像の耳側への移動(b),輻湊角の増加(c)が起こる.M系経路がこれらの情報をV1以降の両眼視細胞に伝え,頭頂連合野で三次元情報として再構築される.(95)あたらしい眼科Vol.35,No.5,20186590910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2三杆法中央の棒は前後に約100mmずつ動く.棒と同じ高さの窓からのぞき,3本が並んで見えるときに手元のボタンを押す.複数回の平均誤差が20mm以内を正常範囲とする.築され,接近するボールとして頭頂連合野(後頭頂葉)で認識される.このように動的立体視(あるいは奥行き運動知覚,連載⑤参照)には周辺視野や眼球運動も含み,さまざまな要素が関与する.3D映像幼少時発症の内斜視(乳児内斜視を含む)の術後でTSTでは.y(視差約1°)の立体視不能の患者の中に,3Dアトラクション(遊園地やアミューズメントパークの大画面の立体映像)で立体視できる例がある1).要因として大画面であること,立体刺激として周辺視野も含めた大きな範囲に大きな視差(3°程度)をもつ立体刺激であること,視差の大きさや範囲が変化する動的刺激であることが考えられる.弱視斜視患者,正常者の3D映像での立体視をアトラクション,映画,テレビ,ゲームで比較した多施設共同研究2)でも同様の結果が得られている.しかし,逆に.yで立体視可能だが,3D映画で立体視できない例があるとしている.映画では,眼精疲労を避けるために視差1°以内,交差性の飛び出し刺激より,同側性の引っ込み刺激が推奨されたことも一因とされる.多くの人が3D映像を楽しむためには,視差の呈示位置や方法により差があることに注意し,M系要素や運動視差など単眼の手がかりを含む3D視覚刺激の検討が必要である.三杆法特殊な車や航空機などの免許取得時の両眼視機能評価に,三杆法による深視力検査が使われている(図2).ちなみに普通車免許の規定は視力のみで,両眼矯正0.7以上,片眼矯正0.3以上,片眼矯正が0.3未満の場合は他眼に150°以上の視野が必要となる.旅客運送に必要な二種免許,トラック・バスなど中型以上の免許では深視力検査が課せられる.箱の中に設置された3本の棒を,2.5mの距離から側面の窓を通して見る.両端の2本は固定され,中央の棒のみ前後に約100mmずつ動く.3660あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018本が並んで見える際に手元のボタンを押す.複数回(車─3回,航空機─5回)行い,平均誤差が20mm以内を正常範囲とみなす.検査結果は,RandotStereotestを用いて3mで行った遠見立体視検査の結果と強い相関を,TSTやTNOtestなど近見立体視検査の結果とも相関を示したと報告されている3).旅客機の操縦士の規定はさらに厳しい.片眼矯正0.7以上,両眼矯正1.0以上の遠見視力(屈折度数±8Dを超えないレンズで矯正可能であること),業務に支障をきたす斜視や両眼視機能の異常がないこと,2D以上の不同視がないことなどが要求される.斜視のプリズム矯正下,不同視の屈折矯正下に三杆法含め上記の規定に適合できれば可としている(航空医療研究センター航空身体検査マニュアルより抜粋).顕微鏡下の立体視医師であれば眼科医になれるが,両眼視機能が安定しているほうが楽な場面が多い.診療に細隙灯あるいは手術顕微鏡など顕微鏡が不可欠であり,奥行きを測りながらの操作や手技を要求される.顕微鏡下の奥行き感覚を測定できる三杆法(M三杆法)の開発をもとに,従来の両眼視,立体視検査との比較研究が行われ,M三杆法で誤差が大きい例では,感覚性および運動性の融像域が狭いと報告された4).私事で恐縮だが,眼科に入局後,顕微鏡下での融像ができず,複視に苦しみながら手術助手として糸を切った半年間の経験がある.ある日突然二つの角膜像が融合して一つになり,像が平面から立体に切り替わった瞬間の感動は忘れられない.弱視・斜視治療で両眼視機能は同時視→融像→立体視へと段階的に改善することが多い.通院する子どもたちにも三次元の感動を体感してほしいと願っている.病気や発見の時期によっては精密立体視の獲得が困難なこともあるが,この連載で紹介した多くの細胞や脳の部位に正しい視覚刺激を届けて活性化させることが,三次元空間での行動の改善につながると考える.拙文が三次元の世界や弱視・斜視分野への興味の入り口になれば幸いである.文献1)遠藤高生,不二門尚,森本壮ほか:内斜視術後患者における3D映像の立体感.臨眼67:1489-1494,20132)仁科幸子,若山曉美,三木淳司ほか:臨床研究3D立体映像の視聴に関する実態調査:多施設共同研究.日眼117:971-982,20133)MatsuoT,NagayamaR,SakataHetal:Correlationbetweendepthperceptionbythree-rodstestandstereo-acuitybydistancerandomstereotest.Strabismus22:133-137,20144)平井教子,阿曽沼早苗,大澤結ほか:顕微鏡下における立体視機能の検討.眼臨紀2:149-152,2009(96)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 180.星状硝子体症を伴う裂孔原性網膜剥離(中級編)

2018年5月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載180180星状硝子体症を伴う裂孔原性網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに星状硝子体症(asteroidhyalosis:AH)は,リン脂質,ムコ多糖などの粒子状混濁(asteroidbody:AB)が硝子体腔内に散在し,眼底の視認性が低下する疾患である.AHを有する眼の特徴として,硝子体の液化が少なく後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)が生じていない症例が多いことがあげられる.AHを有する眼に裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)をきたすことはまれであるが,筆者らは過去にそのような2症例を経験し報告したことがある1).●症例162歳,男性.左眼はAHの混濁を通して,上耳側に網膜格子状変性巣の辺縁が裂けた約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,上耳側から黄斑部にかけてRRDをきたしていた(図1a).硝子体手術時の所見として,ABはやや前方に濃縮された状態を呈しており,一見,PVDを生じているようにみえたが,トリアムシノロンアセトニド塗布後に,網膜全面にやや厚みのある硝子体皮質と一部ABが残存している所見が確認された(図1b).ダイアモンドイレイサーを用いて膜状の硝子体皮質を後極から周辺に向かって.離したが,黄斑部を含む網膜全面で癒着が強固で,双手法を必要とした.全周にわたって人工的PVD作成を行い,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,ガスタンポナーデにて復位を得た.●症例270歳,男性.左眼はAHの混濁を通して上耳側に約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,その周囲に赤道部を越えるRRDを認めた(図2a).硝子体手術所見としては,症例1と同様,網膜全面にやや厚みのある硝子体皮質と一部ABが残存している所見が確認された(図2b).人工的PVD作製時に網膜全面で硝子体の癒着がやや強固であったが,症例1のように双手法は必要としなかっ図1症例1の術前眼底写真(a)と術中所見(b)左眼の上耳側に網膜格子状変性巣の辺縁が裂けた約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,上耳側から黄斑部にかけてRRDをきたしていた.硝子体手術所見として網膜全面にやや厚みのある硝子体皮質と一部ABが残存している所見が確認された.(文献1より引用)図2症例2の術前眼底写真(a)と術中所見(b)左眼の上耳側に約3乳頭径大の弁状裂孔を認め,その周囲に赤道部を越えるRRDを認めた.硝子体手術所見は症例1と同様であった.(文献1より引用)た.その後,同様の手技で網膜は復位した.●AHを有するRRDの特徴今回の2症例は一見PVDが生じているようにみえたが,比較的厚い膜様の硝子体皮質が網膜全面に付着しており,その癒着が強固であった.通常のRRD,とくに強度近視眼や若年のRRDでもこのような所見は認められるが,通常,赤道部までは比較的容易にPVDが作製できる.本症例はその癒着が後極部から強固で,症例1では双手法による人工的PVD作製を必要とした.また,本症例の硝子体膜は通常のRRDよりもやや厚いように思われ,網膜格子状変性巣の存在する象限以外の部位でも,中間周辺部から周辺側に強固な網膜硝子体癒着がみられた.AHを有するRRD例に対して硝子体手術を施行する場合には,このような解剖学的特徴を十分に理解しておく必要がある.文献1)OkudaY,KakuraiK,SatoTetal:Twocasesofrheg-matogenousretinaldetachmentassociatedwithasteroidhyalosis.CaseRepOphthalmol9:43-48,2018(93)あたらしい眼科Vol.35,No.5,20186570910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:マイボーム腺機能不全とドライアイ

2018年5月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人38.マイボーム腺機能不全とドライアイ大矢史香大阪労災病院高静花大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室マイボーム腺機能不全(MGD)では,涙液油層の菲薄化により涙液安定性の低下を生じ,蒸発亢進型ドライアイを併発する.MGDに併発するドライアイに対してはドライアイ治療を主体に行う.●はじめにマイボーム腺は瞼板内にあり,上下の眼瞼縁に開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)はなんらかの原因でマイボーム腺機能に異常をきたした状態であり,さまざまな眼不快感を引き起こす.また,マイボーム腺から分泌される脂質(meibum)は涙液の最表層である油層を形成するため,マイボーム腺機能の低下は涙液安定性の低下,すなわちドライアイと密接に関連している.本稿ではMGDの定義,臨床的特徴,MGDとドライアイの関連について概説する.C●MGDの定義MGDは「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義されている1).MGDは分泌減少型と分泌増加型に分類され,それぞれ原発性のものと続発性のものに分けられる.臨床的には分泌減少型CMGDが分泌増加型CMGDに比べて圧倒的に多い.分泌増加型MGDの病態についてはいまだ不明な点も多く,一般的表1分泌減少型マイボーム腺機能不全(MGD)の診断基準にCMGDというと分泌減少型CMGDをさすため,本稿でも分泌減少型CMGDを中心に述べる.分泌減少型CMGDのうち原発性・閉塞性のものがもっとも頻度が高く,これは過剰角化物によりマイボーム腺導管が閉塞することでCmeibumのうっ滞を引き起こし,最終的にはマイボーム腺の腺房の廃用性萎縮とマイボーム腺の脱落が生じる病態である.これとは異なり,原発性・萎縮性の分泌減少型CMGDは,マイボーム腺の腺房の萎縮が原発性に生じることでCmeibumの分泌が減少する.続発性分泌減少型CMGDはアトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマなどに続発して,マイボーム腺開口部の閉塞が生じた状態である.C●MGDの臨床的特徴分泌減少型CMGDの診断基準を表1に,症例写真を図1,2に示す.MGDでは自覚症状と所見に乖離がみられることがある.理学所見が重症なのにもかかわらず,自覚症状が軽度であったり,その逆もありえる.また,MGDの自覚症状としてあげられる症状はドライアイや図1分泌減少型マイボーム腺機能不全の1例マイボーム腺開口部周囲に血管拡張と閉塞所見(plugging)を認める.(91)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6550910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2マイボーム腺開口部周囲異常所見(眼瞼縁不整)長期にわたるCMGDにより腺構造が線維化した結果,開口部付近にくぼみを生じている.その他の眼表面疾患とも共通するものが多い.MGDに特異的な症状は特定されておらず,また,前述のようにMGDとドライアイは互いに関連し,併発していることもあるため,それぞれの症状を切り離して考えることは困難である.MGDのリスクファクターとしては,加齢,乾燥,性ホルモンの変化,コンタクトレンズの使用,緑内障点眼薬の使用などが知られている.こうしたリスクファクターはCmeibumの性質や分泌量を変化させたり,マイボーム腺の形態異常を引き起こすことでマイボーム腺の腺房の萎縮を生じさせると考えられている.C●MGDとドライアイ近年,ドライアイのコア・メカニズムとして「涙液層の安定性の低下」と「瞬目時の摩擦亢進」が注目されているが,MGDに併発するドライアイにもこのコア・メカニズムが密接にかかわっている.分泌減少型CMGDでは,涙液油層の減少により涙液蒸発が亢進し,涙液安定性が低下すると同時に,潤滑油の減少のため眼瞼摩擦も増大している.MGDでは蒸発亢進型ドライアイを生じることが多い.MGDとドライアイの発現率は報告によってさまざまである.最近の報告では,Kawashimaらが,日本のドライアイ診断基準を満たした患者のうちC42.3%にマイボーム腺開口部周囲閉塞所見を,37.0%にCmeibumの圧出低下を認めた,と報告している2).C●MGDとドライアイの治療MGDに併発する蒸発亢進型ドライアイの治療には涙液油層を補充し,涙液の蒸発を抑制する必要があるが,直接油層を補充する薬剤は現在のところ存在しない.そのため,meibumの分泌をうながすための眼瞼温罨法や眼瞼清拭など,従来のCMGDに対するセルフケアに加え,ドライアイ点眼薬や涙点プラグを用い,症状を改善させることを目標に治療を行う.ジクアホソルが作用するP2Y2受容体はマイボーム腺上皮にも存在している3)ため,ドライアイだけでなくCMGDに対する効果も期待されている4).3カ月間のジクアホソルの使用で,ドライアイとCMGDの症状,マイボーム腺開口部閉塞所見が改善し,油層の厚みも増したという報告がある5).C●おわりに本稿では,MGDの病態とドライアイとの関連について概説した.MGDはそれ単体でも不快な症状を引き起こすが,ドライアイを併発してより複雑な病態を呈し,治療に難渋することもしばしば経験する.現在,MGDに対する特効薬はないが,常に病態を適切に把握し治療を検討するよう努める必要がある.文献1)天野史郎:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,C20102)KawashimaCM,CYamadaCM,CSuwakiCKCetCal:ACclinic-basedCsurveyCofCclinicalCcharacteristicsCandCpracticeCpat-ternofdryeyeinJapan.AdvTherC34:732-743,C20173)CowlenCMS,CZhangCVZ,CWarnockCLCetCal:LocalizationCofCocularCP2Y2CreceptorCgeneCexpressionCbyCinCsituChybrid-ization.ExpEyeResC77:77-84,C20034)AritaCR,CSuehiroCJ,CHaraguchiCTCetCal:TopicalCdiquafosolCforCpatientsCwithCobstructiveCmeibomianCglandCdysfunc-tion.BrJOphthalmol97:725-729,C20135)AmanoS,InoueK:E.ectoftopical3%diquafosolsodiumonCeyesCwithCdryCeyeCdiseaseCandCMeibomianCglandCdys-function.CClinOphthalmolC11:1677-1682,C2017656あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(92)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:長期予後を見すえた治療・私のこだわり

2018年5月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二52.加齢黄斑変性:長期予後を見すえた川上摂子東京医科大学臨床医学系眼科学分野治療・私のこだわり加齢黄斑変性(AMD)は治療開始後数年たつと病状が多様化する.長期予後を見すえた治療には,EBMに基づく治療に加え,個々の症例から過不足なき治療について考えることが重要である.はじめにわが国で滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対し,最初の血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が認可されてからC9年が経過した.2012年に日眼会誌に掲載されたCAMDの治療指針1)では,typicalAMDはVEGF阻害療法,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalCvasculopathy:PCV)は光線力学的療法(pho-todynamicCtherapy:PDT)またはCVEGF阻害療法ないし併用,網膜血管腫状増殖(retinalCangiomatousCprolif-eration:RAP)はCPDTとCVEGF阻害療法の併用とされている.しかし,VEGF阻害療法とあるものの,薬剤選択や維持期の投与間隔などの治療方針に関しては明記されておらず,時を経るにつれ治療に対する考え方も変遷し,指針の内容は現在の治療方針と一部乖離している.Evidence-basedCmedicine(EBM)に基づくアルゴリズムの構築は必要だが,経過が長期化し再発形態が多様になると,一律の方法による治療継続に迷いを生じることも少なくない.そんなとき,どうするべきか.長期予後を見すえたリアルワールドのCAMD治療を筆者なりに考えてみたい.そのためには薬剤の種類やCPDTについても論じるべきだが,今回はおもに投与間隔について述べる.症例ごとに考える維持期の投与間隔維持期の追加投与は再発時投与(prorenata:PRN)が主流であったが,近年は計画的投与しながら滲出の有無で投与間隔を調節するCtreatandextend(TAE)が多くなっている.しかし,治療導入後滲出性変化が消退(ドライ化)した症例では,その後追加投与がなくても再発しない症例がC1年でC3割程度存在する2)ため,全症例にCTAEを導入するのは過剰投与であり,それに伴う(89)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYRPE萎縮などの問題を回避するためにも,症例を選ぶ必要がある.最近,大中らによりCPRNとCTAEのハイブリッドともいえるCmodi.edTAEが提唱された3).必要かつ十分な投与に近づけるには非常にリーズナブルな方法である.その一方で,大きな漿液性(ときに出血を含む)網膜色素上皮.離(retinalCpigmentCepithelialCdetach-ment:PED)や線維血管性CPED,大型のポリープを伴うCPCVでは再発時網膜下出血をきたす場合があるため,最初からCproactiveを推したほうが安全なこともある.さらに患者背景も重要である.たとえば僚眼がすでに視力不良な症例では再発のリスクを極限まで下げる必要があるし,遠距離通院や認知症のある患者にとっては計画的投与のほうが好都合な場合もある.TAEでは調節間隔も議論となる.一般的なC2週間ずつでなくC4週間ずつ延長する方針のほうがドライ化の可否を速やかに判別できるが,易再発性を理由に症例を選んでCTAEにするならC2週の微調節で慎重に行うほうがよいのではないか.筆者はC1週間単位で調整することもある.また,短縮時もC2ないしC4週短縮するか,あるいはマンスリーに戻すか未だ方針は定まっていないが,これも病態に基づいて変えるべきである.上記のように網膜下出血を起こしやすい病態であればマンスリーに戻すべきであろう.症例提示投与間隔を考えるうえで印象に残った症例を紹介する.図1は導入期C3回アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreousCinjectionCofCa.ibercept:IVA)を行い,その後C4週調節のCTAEを行ったCPCVの症例である.初診時にインドシアニングリーン蛍光造影(indocya-nineCgreenCangiography:IA)でポリープを認め,大型の漿液性CPEDを伴っていた.IVA開始後CPEDは減少あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C653図14週間隔で調節するTAEの方針で治療開始したPCVの症例IVA開始後C16週目にCPEDは消失,21週目に再発.22週目から4~5週間ごとに追加したがCPEDは消失せず,6週では増加,再度4~5週に戻した.IAで当初ポリープが認められたがCPED再発時には検出されなかった.し,16週目にCPEDは消失.12週間隔に延長しC28週目に再投与を予定したが,21週目に視力低下を訴え受診した.PEDの再発を認め,光干渉断層計でCPED内部にhyperre.ectiveCmaterialが認められた.22週目にCIVAを施行し,その後C4~5週間ごとの投与としたが,PEDの丈は減るも消失しなかった.減少がプラトーになり39週目でC6週へ延長すると増加したため,再度C4~5週に戻して投与を続けている.Hyperre.ectiveCmaterialの構成成分の特定は困難だが,VEGF阻害薬投与後も残るものはCPED内部の線維化の可能性も考えられる.この症例ではいったんドライ化したかにみえたが,4週調節のCTAEでは潜伏した活動性病変に対し治療不足で,PEDの再発ないし内部の線維化が引き起こされ,治療抵抗症例へと移行したかと思われる.線維血管性CPEDは長期視力維持を妨げ4),ときに急激な黄斑下出血の併発も経験する.難治が予想される症例では,初期の治療不足によりさらなる難治化の危険因子が上積みされる事態を起こさないようにしたい.過剰治療を回避する.その一方で治療不足により病態をこじらせると長期視力の維持が不可能になるばかりか,さらに治療の負担が増えてしまうこともある.各種スタディから学ぶとともに個々の症例と向き合い,考えることで理屈と実臨床との乖離を埋めていきたい.これが長期予後を見すえる治療を行ううえでの筆者のこだわりである.文献1)高橋寛二,小椋祐一郎,石橋達郎ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮調査研究班加齢黄斑変性治療指針ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療方針.日眼会誌C116:C1150-1155,C20122)KurodaY,YamashiroK,MiyakeMetal:Factorsassoci-atedwithrecurrenceofage-relatedmaculardegenerationafteranti-vascularendothelialgrowthfactortreatment.Aretrospectivecohortstudy.AmJOphthalmolC122:2303-2310,C20153)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetCal:ACmodi.edCtreat-andCextendregimenofa.iberceptfortreatment-naivepatientsCwithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Grae-fesArchClinExpCOphthalmolC255:657-664,C20174)HoersterCR,CMuetherCPS,CSitnilskaCVCetCal:FibrovascularCpigmentCepithelialCdetachmentCisCaCriskCfactorCforClong-termCvisualCdecayCinCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.RetinaC34:1767-1773,C2014☆☆☆654あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(90)

緑内障:小児緑内障の診断と治療

2018年5月31日 木曜日

●連載215監修=岩田和雄山本哲也215.小児緑内障の診断と治療地庵浩司木内良明広島大学大学院視覚病態学小児緑内障はまれな疾患であるが,小児の長期にわたる視機能予後に影響するため,早期発見,早期治療が重要である.しかし,検査や治療に十分な協力が得られないことが多く,成人の緑内障診療とは異なることも多い.本稿では,小児緑内障の診断と治療について概説する.●診断基準と分類『緑内障診療ガイドライン』第4版では,WorldGlau-comaAssociation(WGA)のコンセンサスミーティングでの提言1)をふまえて,小児緑内障の診断基準(表1),分類(表2)が変更された.●診断に関する注意点小児は診察,検査などが困難なことが多く,得られた検査結果の信頼性も低いことが多い.眼圧,視神経乳頭,視野,眼球の構造変化などを総合的に評価する必要がある.第一次反抗期(魔の2歳児)にあるときは催眠下,全身麻酔下での検査が必要になる.催眠にはトリクロホスナトリウム(トリクロリールシロップ)を使用する.シロップの内服がむずかしい場合は,抱水クロラール(エスクレ座薬)を使用する.催眠下での検査が困難な場合は全身麻酔下で検査を行う.全身麻酔は子どもの発達に悪影響を及ぼすことがわかっており,必要最小限表1小児緑内障の診断基準(WorldGlaucomaAssociation)にする.●眼圧覚醒下でのGoldmann圧平眼圧計による測定が望ましいが,測定困難な場合が多い.iCareは点眼麻酔が不要であり,小児の眼圧測定に適している.iCareはGoldmann圧平眼圧計の測定値とよく相関し,測定値のばらつきも他の眼圧計より狭い.セボフルレンによる全身麻酔下では眼圧は低くなることから,15mmHgあるいは12mmHgを正常上限とする意見もある.角膜形状の異常を伴っているものでは眼圧測定値の信頼性が乏しい.可能であれば複数の眼圧計で測定することが望ましい.触診がもっとも有効な場合もある.●視神経乳頭小児の視神経乳頭は成人とは異なる特徴がある.陥凹乳頭比が0.3以上,左右差が0.2以上の場合は緑内障を疑う.視神経乳頭陥凹は同心円状に拡大することが多く,可逆性であり,眼圧の下降とともにしばしば縮小する.視神経乳頭の所見は診断や治療効果の判定などに重要であり,可能であれば眼底写真で記録することが望ましい.●視野小児は正確な視野検査が困難であることが多い.5歳表2小児緑内障の分類(87)あたらしい眼科Vol.35,No.5,20186510910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1白内障術後の緑内障先天白内障の術後,両眼とも2回ずつ線維柱帯切開術を行った.さらに右眼は耳上側,耳下側からバルベルト緑内障インプラントを挿入した.耳上側のプレートが露出したため抜去し,鼻上側からアーメド緑内障バルブを挿入した.最終眼圧は11mmHgとなった.以上になれば成人と同様に検査ができることもある.Goldmann動的視野計で練習するとよい.SITAfastなど測定時間の短いプログラムから開始し,徐々に難易度を上げていく方法もある.自動視野計には小児の正常データベースがないが,meandeviation,patternstan-darddeviationなどのパラメータは,あまり年齢の影響を受けないと考えられている.●眼球の構造変化3歳頃までは眼球組織の脆弱性のため,高眼圧によって角膜径は拡大し,眼軸長は延長する.新生児では角膜径が11mm以上,乳児では12mm以上であれば緑内障を疑う.角膜径の拡大に伴うDescemet膜の断裂により,Haab線や角膜浮腫が起こることがあり,弱視の原因となる.また,眼軸長の延長による近視の進行がみられる.通常,乳児では前房は浅いが,深い場合は注意を要する.●隅角小児緑内障は隅角の発育異常がベースにある.隅角検査は病型診断に重要である.検査法はレンズの種類によって,間接法と直接法がある.また,超音波生体顕微鏡は隅角,虹彩,毛様体などの詳細な構造評価が可能である.●治療原発先天緑内障は隅角の発育異常が原因であり,手術治療が第一選択となる.まずは線維柱帯切開術,隅角切開術といった隅角手術が選択される.複数回の隅角手術にもかかわらず十分な眼圧下降が得られない場合は,線維柱帯切除術やチューブシャント手術が選択される.小児の線維柱帯切除術は,レーザー切糸術やneedlingなどの術後処置が困難であり,長期にわたって濾過胞感染のリスクもある.小児のチューブシャント手術は,高眼圧による強膜の菲薄化,眼をこする行為,眼球の成長などによる影響が懸念される.低眼圧,浅前房,脈絡膜.離,チューブの位置異常,角膜内皮障害,水晶体との接触,チューブ閉塞,チューブ・プレート露出,眼内炎,眼球運動障害などさまざまな合併症のリスクがある.近年は世界的に隅角手術が無効であった症例にチューブシャント手術が行われるようになっているが,線維柱帯切除術と異なるチューブシャント手術特有の合併症に対処できなければならない.薬物治療は根本的な治療ではなく,十分な眼圧下降が得られない.薬物治療の役割は手術までの対症療法,手術で眼圧が十分下降しない場合の補助療法と考えるべきである.また,小児期は視機能の発育時期であり,眼圧のコントロールだけでなく弱視治療も重要である.若年開放隅角緑内障は隅角異常の程度は軽く,自分で点眼できる年齢であれば薬物治療を試みる.隅角手術が有効である.点眼治療よりも手術治療を希望する子どももいる.続発小児緑内障はさまざまな疾患があり,いずれも治療抵抗性が高い.文献1)WeinrebRN,GrajewskiAL,PapadopoulosMetal:Child-hoodglaucoma.WorldGlaucomaAssociationconsensusseries9,KuglerPublications,Amsterdam,p1-270,2013652あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018(88)

屈折矯正手術:ORA術中波面収差解析装置の使用経験

2018年5月31日 木曜日

監修=木下茂●連載216大橋裕一坪田一男216.ORA術中波面収差解析装置の使用経験坂谷慶子みなとみらいアイクリニックORA術中波面収差解析装置(アルコン製.以下,ORA)により,眼内レンズ(IOL)度数計算困難症例への対応,乱視度数と乱視軸の確認と決定,手術終了時における屈折誤差の確認が可能となった.乱視用CIOLにおいては,IOLを回転すべき方向を表示する.付加価値CIOLが普及してきた近年において重要なアイテムとして注目されている.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の度数計算の精度は,光学式生体測定装置などの発達や度数計算式の改良により飛躍的に向上し,標準的な眼球であれば術後の屈折誤差は臨床上問題にならないことが多くなった.しかし,光学式眼軸長測定は,進行した白内障では測定困難であり,長眼軸・単眼軸眼においては測定精度が低くなる傾向がある.また,角膜手術後・円錐角膜などにおいてはCIOL度数計算の精度は不安定である.近年の白内障手術においては,術後に良好な裸眼視力を求められるケースが増加している.とくにトーリックIOLや多焦点CIOLのようなプレミアムCIOLを使用するケースでは,屈折誤差は患者の術後不満の大きな原因となるため,誤差を極小にすることが重要である.今回,アルコン製ORAの使用経験について述べる.C図1顕微鏡に取り付けられたアベロメータ(左)とサージカルカート(右)アベロメータは大きく,workingdistanceは小さくなる.サージカルカートは手術室に設置し,米国のサーバーと通信して最新の最適化がなされている.図2ORAのモニターにリアルタイムで表示される無水晶体眼の状態左上は計画されているCIOLモデル,右上にCTR(目標術後等価球面度数)とLP(推奨CIOL16度数).屈折度数とCLPはリアルタイムで変動する.●術中計測の実際ORAは,顕微鏡に取り付ける測定装置アベロメータとサージカルカートとよばれる本体(図1),AnalyzORとよばれるウェブベースデータシステムから構成される.AnalyzORはサージカルカートと連動しており,術前,AnalyzORに入力されたデータは術中計測の基本情報となる.術中,サージカルカートのモニター上にリアルタイムで測定された度数が表示され(図2),captureすると約C3秒間にC40回の測定が行われ,その標準化された測定結果と計算された最適CIOL度数が表示される(図3).サージカルカートは常に米国のデータベースと通信しており,全世界からのデータが逐次入力集計されるためCIOLの最適化係数は最新のものとなり,その係数を使用してCIOL度数計算を行っている.測定から結果の表示まで,約C5~7秒である.IOL挿入後にも測定図3無水晶体眼測定における測定結果画面画面左側はCAnalyzORに入力した術前のデータ(K値,眼軸長,屈折矯正手術の既往など)が示されている.中央右にはCORAが測定した乱視度数および軸(緑)と術前計測された角膜乱視度数およびスティープ軸(青)が示されている.いずれかを選択すると,中央左側にあるトーリックCIOLリストで残余乱視がもっとも小さくなるモデルが太字で示される(この場合CT4).同時に推奨IOLパワーが+8.00で,予想される術後屈折が+0.09Dであることが示される.右側にはCcaptureによる測定結果(屈折度数)が表示されている.(85)あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018C6490910-1810/18/\100/頁/JCOPY図4顕微鏡にオーバーレイされた乱視軸図5a偽水晶体眼におけるトーリック測図5b図4の指示の通りにIOLを回転させ,赤色がCORA,緑色がCVERIONCTM(CAlcon社定結果画面再度測定した画面製)の示す乱視軸である.画面中央に挿入したトーリックCIOLパ残余乱視はC0.35Dとなり,画面右の屈折度数ワーから予測される乱視度数と軸が示さでSEはC.0.15Dであることが示されている.れ,現在のCIOL位置では残余乱視がNRR(CNoCRotationCRecommended)は残余乱1.03Dであるため,CIOLを反時計回りに視が度数C0.50未満,軸がC5度以内の範囲にあ回転する必要があることを示している.る場合に表示される.を行い,予定の度数になっていることを確認して手術を終了する.トーリックCIOLを使用する場合,最適な乱視軸を顕微鏡にオーバーレイすることができる(図4).トーリックCIOL挿入後には残余乱視度数およびCIOLの回転方向を指示する画面が表示され(図5a),乱視度数がC0.50D以下になると「NoCRotationCRecommended」と表示されて,トーリックCIOLが適切な位置に固定されたことが確認できる(図5b).術中測定におけるポイントは,正確なアライメントと角膜の適度で均一な水濡れ性と眼圧である.角膜の乾燥には注意を払う必要があり,眼圧はCORAの測定プロトコールではC20CmmHgを維持する必要があるとされている.術後,データベースにデータを入力すると,サーバー内でのノモグラム計算に反映され,術後結果の統計レポートを受けることができる.C●どのような症例に有用か1)光学的眼軸長測定が困難:超音波眼軸長測定は可能だが精度が劣る.また,水晶体の混濁が急に進行しやすいアトピー性や外傷性の白内障例は若年者に多く,多焦点CIOLを希望する症例も多い.2)角膜不正乱視:円錐角膜・翼状片術後・角膜手術後(LASIK/PRK/PTK/RK/角膜移植)などでは,IOL度数計算に採用するCK値と乱視軸の決定がむずかしい.3)標準的なプロポーションからはずれた症例:長眼軸眼・短眼軸眼,角膜曲率が非常にスティープ・フラットな症例などは,IOL度数計算の誤差が大きくなることが多いが,ORAでは無水晶体での屈折度数を計算式に導入するため,これらの例においても精度良く対応する650あたらしい眼科Vol.35,No.5,2018ことが可能となっている.4)トーリックCIOL:ORAの計測する乱視度数は角膜前後面を含めた全乱視であるので,トーリックCIOL挿入後に表示される乱視は残余乱視となる.挿入されたトーリックCIOLを用いた場合の最小の残余乱視となるようCIOLの回転方向が指示される.5)多焦点CIOL:術後の屈折誤差そのものが手術満足度に大きくかかわるのが多焦点CIOLである.Touchupの手段をもち,術前に説明がされていれば大きな問題とはならないが,Touchupの準備がない施設ではCIOL度数計算勝負となる.ORAで手術終了前に屈折の確認ができれば,その場でのCIOL入れ替えも可能で,術翌日の正視付近の屈折度数がほぼ保証され,術者のストレスを軽減することになる.術中測定にはCIOL度数決定と確認という二つの要素があり,白内障手術に対して高まる患者ニーズに応えるため,ORAは有益なツールである.文献1)DavisonCJA,CPotvinCR:PreoperativeCmeasurementCvsCintraoperativeaberrometryfortheselectionofintraocularlensCsphereCpowerCinCnormalCeyes.CClinCOphthalmolC11:C923-929,C20172)LanchulevCT,CHo.erCKJ,CYooCSHCetCal:IntraoperativeCrefractiveCbiometryCforCpredictingCintraocularClensCpowerCcalculationafterpriormyopicrefractivesurgery.Ophthal-mologyC121:56-60,C20143)WoodcockCMG,CLehmannCR,CCionniCRJCetCal:Intraopera-tiveCaberrometryCversusCstandardCpreoperativeCbiometryCandatoricIOLcalculatorforbilateraltoricIOLimplanta-tionwithafemtosecondlaser;One-monthresults.JCata-ractRefractSurgC42:817-825,C2016(86)

眼内レンズ:多角撮影による白内障手術教育

2018年5月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋378.多角撮影による白内障手術教育秋元正行大阪赤十字病院眼科手術教育において,術野ビデオ映像は重要であるが,実際の手の動作を学習する機会は限られている.フットペダルの操作方法も,映像として確認されることはなかった.防犯カメラを手元の左右,足元などの術野周辺に多角的に設置して,顕微鏡術野映像と同時記録することで,専攻医の眼科手術研修に役立てた.●背景手術手技の習得にはビデオ動画撮影が有効である.ビデオを繰り返し見て,トラブル発生時の状況を確認することで,その経験を次回に生かすことができる.近年登場した3Dビデオ撮影では,通常撮影では得られない奥行き情報を得ることができるが,高額な設備投資が必要である.機械の条件設定やフットペダルの踏み込み状況などを映像にオーバーレイする方法も,通常の撮影方法では得られない情報を映像に追加することができるが,実際の手技を行うために手をどう動かすのか,足をどう使うのかは,介助者は顕微鏡から視線をはずして確認すDVI/HDMIDVI信号converterIkegamiHDMI信号手術用カメラRGB信号(フロントパネル画面)足元カメラHDMI信号(セッティング情報含む)4ch録画装置左方カメラることで学習するしかなく,トラブル時の手技がどうであったかを後から検討する方法はなかった.筆者らは,顕微鏡手術映像以外の情報も同時に記録することで専攻医の技術向上につなげたいと考え,近年安価となってきている防犯カメラを術野周囲に設置し,実際の動作の詳細をあとから確認できるシステムを構築し,手術教育へ導入した.●方法4チャンネル防犯カメラ装置を手術室に設置した(図1).入力は,顕微鏡を介した術野画像に機械条件をオーバーレイしたもの,患者用手術台の底面に設置したカメSDI信号通常顕微鏡像動画SDカード録画Constellationパネル情報(メトリックスなど)電子カルテへの取り込み右方カメラ4chカメラ動画HDDおよびUSBメモリ録画図14チャンネル防犯カメラの設置(83)あたらしい眼科Vol.35,No.5,20186470910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2術者右方向カメラ映像図4ベッド下足元カメラ映像ラで足元を撮影したもの,術野の右上,左上から撮影したもの,これら合計四つの映像を同時に記録し,上級医の映像,専攻医の映像と比較した.●結果専攻医が実施する前.切開時の不安定な操作は,術野ビデオだけでは原因がわからなかったが,術野左からの映像によって,手の固定が不十分であることがわかった.術野右からの映像で,核分割の動作が不自由なのは左手の固定が不十分であることが原因であるとわかった(図2).超音波チップのコントロールが不得手だった理由は,ハンドピースの握り位置が高く,コントロール困難であったことが原因とわかった(図3).超音波発信・停止のコントロールが不得手であったのは,足元映像から,フットペダルのポジションが深くコントロールしにくいためであることがわかった(図4).これらの動作を上級医の映像と比べると,問題点はより明確になり,指摘された部分を修正することで専攻医の技術の向上につながった.●おわりに最近の防犯カメラは,より広角により鮮明に撮影できるように進歩しているが,その価格は通常医療機器と比べるときわめて安価であり,10万円程度でシステム構築が可能である.涙道手術においても,鼻内視鏡やドリルの使い方を記録できた.また,カメラの暗視機能も向上しており,硝子体手術教育への応用も期待される.一方,広角での撮影はより広範囲の情報が得られる反面,術野を拡大して撮影するには不向きであり,前置レンズなどによる改善がより望まれる.当院での使用経験から,多角撮影を導入することでより効果的な手術教育が可能になると考えられる.