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原発性Sjögren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):395.398,2018c原発性Sjogren症候群に眼類天疱瘡様所見を合併した1例上月直之小川葉子山根みお内野美樹西條裕美子坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CACaseofPrimarySjogren’sSyndromewithOcularCicatricialPemphigoid-likeCicatrizingConjunctivitisNaoyukiKozuki,YokoOgawa,MioYamane,MikiUchino,YumikoSaijoandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineSjogren症候群(SS)は涙腺・唾液腺のリンパ球浸潤を特徴としドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である.筆者らは,長期加療をしているCSSに眼類天疱瘡(OCP)様の高度な結膜線維化を併発しているまれなC1例を経験したので報告する.症例はC81歳,女性.49歳時に原発性CSSの診断を受けた.診断時より甲状腺機能低下症を認めた.55歳当科受診時,SSに特徴的な角膜所見に加え,瞼球癒着,眼瞼結膜線維化,広範囲な睫毛乱生症を認め,繰り返し睫毛抜去術を必要とした.レーザー共焦点顕微鏡像は角膜上皮下神経の吻合,枝分かれの異常形態を認め,SSとCOCPに認められる所見を呈していた.SS症例に結膜線維化が合併することはまれであり,本症例は慢性甲状腺炎による異常な免疫応答を契機として,OCP様の高度な結膜線維化所見を併発した可能性が考えられた.Sjogren’ssyndrome(SS)ischaracterizedbydryeyeanddrymouthwithlymphocyticin.ltrationintolacrimalglandsCandCsalivaryCglands.CCicatricialCchangesConCtheCocularCsurfaceCrarelyCoccurCinCSSCpatients.CWeCreportCtheCrarecaseofan81-year-oldfemaleSSpatientwithcicatricialchangesontheocularsurface.Shehadsu.eredfromchronicthyroiditisatthediagnosisofSSin1985.Clinical.ndingsoftheocularsurfaceandteardynamicsrevealeddryeyediseaseaccompaniedbysymblepharon,severetarsalconjunctival.brosisandextensivetrichiasisinbotheyes.InvivoCconfocalimagesrevealedabnormalanastomosisofnervevessels,tortuosity,branchesandanincreaseinthenumberofsubbasalin.ammatorycellsinthecornea,similartoocularcicatricialpemphigoidandSSimages.Conclusion:OurcasesuggestedthatpatientswithSSaccompaniedbyautoimmunethyroiditismaydevelopseveredryeyediseasewithcicatrizingconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):395.398,C2018〕Keywords:シェーグレン症候群,眼類天疱瘡,ドライアイ,慢性甲状腺炎,結膜線維化.Sjogren’ssyndrome,oc-ularcicatricialpemphigoid,dryeyedisease,chronicthyroiditis,cicatrizingconjunctivitis.CはじめにSjogren症候群(SjogrenC’sCsyndrome:SS)は,涙腺と唾液腺にリンパ球浸潤が生じ,ドライアイ,ドライマウスをきたす自己免疫疾患である1).好発年齢は中高年であり,男女比はC1:17と女性に圧倒的に多い2).SSの病態には多因子が関与すると考えられ,これまでに遺伝的素因,Epstein-Barr(EB)ウイルスなどの微生物感染,環境要因,免疫異常による組織障害の原因が考えられている3).全身的に他の膠原病の合併症のない原発性CSSと,全身性エリテマトーデス,強皮症,関節リウマチなどを合併する二次性CSSに分類される.原発性CSSは涙腺唾液腺内に病変がとどまる腺症状と,それ以外の臓器に病変が認められる腺外症状がある.典型的なCSSでは通常,高度な結膜線維化はきたさない点で他の重症ドライアイの亜型である眼類天疱瘡(ocularcica-tricialCpemphigoid:OCP),Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病と臨床像の違いがある4).OCPは中高年に好発する粘膜上皮基底膜に対する自己抗体による慢性炎症性眼疾患である.眼表面の線維化が慢性的に進行することにより,瞼球癒着,結膜.短縮などをきたし〔別刷請求先〕上月直之:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NaoyukiKozuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN重症ドライアイをきたす.角膜輪部疲弊により角膜への結膜侵入と結膜杯細胞の減少または消失を認める.手術や感染の際に急性増悪することもある5).今回,筆者らは,SSによる重症ドライアイ症例の眼表面にCOCP様の結膜線維化所見を呈したまれなC1例を経験したので報告する.CI症例症例はC81歳,女性.1985年C49歳時に原発性CSSを発症した.既往歴として高血圧,骨粗鬆症,慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症を認めた.当科初診よりC1年前には手,胸部,首周囲の皮膚に湿疹が出現したことがあるが内服はしていなかった.SSによるドライアイ,ドライマウスに対し当科と内科にて通院,加療を行うためC1989年に当科受診となった.初診時眼所見はCSchirmer値C5Cmm/5Cmin,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点,フルオレセイン染色スコアC9点中C3点,左眼に糸状角膜炎を認めた.SSによるドライアイにはまれな結膜線維化,瞼球癒着,広範囲な睫毛乱生症を認め,OCPに類似した所見を認めた(図1).口唇生検C1Cfocus/C4Cmm2であり,耳下腺腫脹を認めた.経過観察中の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中C7点からC9点,ローズベンガル染色スコアC9点中C6点からC8点,涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:TFBUT)8秒からC2秒に悪化を認め,ドライアイに進行性の悪化を認めた.1991年C7月に反射性涙液分泌,基礎的涙液分泌ともにC0Cmmとなり眼表面障害の所見はフルオレセイン染色スコアC9点中8点,ローズベンガル染色スコアC9点中C9点,涙液動態の所見は,BUTC2秒,反射性涙液分泌C0Cmmとなり重症化を認めた.2017年C6月自覚症状のCocularCsurfaceCdiseaseCindex(OSDI)はC40.9ポイント,IgGは常にC1,500以上と高値を推移して現在に至っている.SS重症度について,ヨーロッパリウマチ学会の疾患活動性基準であるCEULARCSjogrenC’sSyndromeDiseaseActivitiyIndex(ESSDAI)はC5点以上で活動性が高いとする.本症例はリンパ節腫脹,腺症状,関節症状,生物学的所見よりCESSDAIはC9点であった.採血結果として補体CC3はC84Cmg/dl,補体CC4はC17Cmg/dlで正常範囲内,抗CANA抗体C640倍,リウマチ因子C23CIU/ml,抗SSA抗体C1,200CU/ml,抗CSSB抗体C100CU/mlと高値,IgGはC1,700Cmg/dlを超えることもあり高値を示した.IgGサブクラスのCIgG4はC41Cmg/dlと正常範囲内であった.抗セントロメア抗体はC13であった.甲状腺機能低下症に対し,レ図1結膜線維化を伴う原発性Sjogren症候群によるドライアイ症例の眼瞼所見a,b:眼瞼内反症による粘膜皮膚移行部の前方移動.結膜.短縮(Ca:★).マイボーム腺開口部の位置異常(b:△).Marxlineの著明な前方移動.Cc,d:上眼瞼結膜の線維化(Cc:.).下眼瞼の瞼球癒着(Cd).Cabc図2本症例のレーザー共焦点顕微鏡角膜所見(原発性Sjogren症候群と慢性甲状腺炎の罹病期間32年)Ca,b:側副路吻合形成(Ca:☆)角膜神経の異常走行,枝分かれ(Cb:△)を認める.Cc:ごく少数のリンパ球(Cc:.)および樹状細胞様細胞(Cc:▲)を認める.Cボチロキシンナトリウムを内服中であり,遊離CT3はC3.0Cpg/ml,遊離CT4はC1.5Cng/dl,甲状腺刺激ホルモンC2.61CμIU/mlと正常範囲内であった.これまでに報告されているCSSおよびCOCPの角膜所見と類似するか否かを確認するため,生体共焦点レーザー顕微鏡検査(inCvivoCconfocalCmicroscopyCassessment:IVCM)を行った(倫理委員会承認番号C20130013).両眼ともに,角膜神経の走行異常,神経分岐の異常,側副路の形成とごく少数の炎症細胞と樹状細胞の角膜内浸潤を認めた(図2).IVCM施行時,フルオレセイン染色スコアC2点,リサミングリーン染色スコアC0点,BUT2秒,マイボーム腺スコアC63点,軽度の充血を認め,Schirmer値C3Cmmであった.投与点眼薬はラタノプロスト点眼(1回/日両眼)およびC0.1%ヒアルロン酸点眼(5回/日両眼)であるが,視野に異常がなくラタノプロスト投与は中止となった.CII考按一般的にCOCP症例では抗CSSA抗体,抗CSSB抗体は陰性であるが,本症例は抗CSSA抗体陽性,抗CSSB抗体陽性,リウマチ因子陰性,抗CANA抗体C640倍であり,眼所見CSchirm-er値,フルオレセイン染色像とあわせて,1999年厚生省改訂CSSの診断基準によりCSSの確定診断に至っている2).OCPの結膜瘢痕化は手術や感染症を契機として急性憎悪することがあるとされる.本症例はCSSの診断後,当院へ受診するC1年前に,内服とは関係なく手,胸部,首の皮膚に湿疹が出現したことがある.本症例は慢性甲状腺炎が基礎疾患にあり,甲状腺機能低下症が存在した.結膜線維化の原因として,湿疹の原因となった何らかの感染症,または慢性甲状腺炎としての甲状腺機能低下による免疫応答異常の要因が重なり,OCP類似の結膜線維化に至った可能性がある.甲状腺機能低下と他の臓器の線維化に関する報告では,肝臓の線維化との関連が示唆されている7).また,甲状腺機能低下症を伴う場合,特発性肺線維症を合併する頻度が高いことが報告され,甲状腺機能低下が肺線維症の予後予測因子とされている8).甲状腺機能低下と臓器線維化に関連性が示唆され,本症例の結膜線維化,高度な瞼球癒着と広範囲な睫毛乱生症に至った可能性がある.本症例はC2016年より緑内障初期の疑いがあり,一時,ラタノプロスト点眼薬を使用していたが,諸検査後,緑内障は否定的で点眼を中止していること,結膜線維化は診断当時から存在していたことから,緑内障点眼薬による偽類天疱瘡は否定的である.肺癌に対する放射線治療に関しても,治療以前にCOCP様の所見が出現していたことから,放射線治療は原因として否定的である.近年,新しい疾患概念としてCIgG4関連疾患が報告されているが,その一亜型として甲状腺機能低下症が注目されている.甲状腺CIgG4関連疾患には高度の炎症と特徴的な線維化が生じることが報告されている9).本症例では最近の血清IgG値が高値であるが,IgG4値は正常であり,IgG4関連疾患は否定的と思われる.本症例の角膜,輪部のCIVCMについて検討した.SSでは発症初期より角膜の神経に変化を認め,SSの診断として有用であることが報告されている.OCPのCIVCMについては,Longらにより角膜実質細胞の活性化と樹状細胞の浸潤が報告されている10).また,小澤らは,OCP患者の角膜神経およびその周辺領域の所見についてC2症例の報告をし,IVCM角膜神経所見では走行異常と神経周囲への樹状様細胞浸潤を認め,慢性炎症により神経形態に変化をきたすこと,神経周囲にも炎症があることを報告している11).本症例においても角膜神経の走行異常と神経細胞数の増加,および異常な神経の吻合を多数認め,IVCM像からもCSSとCOCPに報告されている特徴的所見を併せもっていた.結膜瘢痕化の所見はCOCPに類似しているが,確定診断には結膜生検を行い,基底膜への免疫グロブリンの沈着を確認する必要がある.本症例においては,SSと慢性甲状腺炎の併発がCOCP様の高度な結膜線維化所見の原因の一つとして考えられる.本症例では,SSと慢性甲状腺炎が併発したことにより,背景にある自己免疫疾患としての異常な免疫応答の修復機構が働き,OCPに認められるような免疫性線維化をきたしたことが考えられた.SS症例の診療に際し,病像は長期にわたるため重症化に常に注意を払うこと,また他の疾患を併発することにより典型像と異なる所見を呈する場合があることを念頭におく必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SarauxA,PersJO,Devauchelle-PensecV:TreatmentofprimarySjogrensyndrome.NatRevRheumatolC12:456-471,C20162)TsuboiCH,CHagiwaraCS,CAsashimaCHCetCal:ComparisonCofCperformanceofthe2016ACR-EULARclassi.cationcrite-riaforprimarySjogren’ssyndromewithothersetsofcri-teriaCinCJapaneseCpatients.CAnnCRheumCDisC76:1980-1985,C20173)FoxRI:Sjogren’ssyndrome.LancetC366:321-331,C20054)BronAJ,dePaivaCS,ChauhanSKetal:TFOSDEWSIIpathophysiologyreport.OculSurfC15:438-510,C20175)AhmedCM,CZeinCG,CKhawajaCFCetCal:OcularCcicatricialpemphigoid:pathogenesis,CdiagnosisCandCtreatment.CProgCRetinEyeResC23:579-592,C20046)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gyC105:1485-1488,C19987)KimD,KimW,JooSKetal:Subclinicalhypothyroidismandlow-normalthyroidfunctionareassociatedwithnon-alcoholicCsteatohepatitisCandC.brosis.CClinCGastroenterolCHepatolC16:123-131,C20188)OldhamCJM,CKumarCD,CLeeCCCetCal:ThyroidCdiseaseCisCprevalentandpredictssurvivalinpatientswithidiopathicpulmonary.brosis.ChestC148:692-700,C20159)RaessCPW,CHabashiCA,CElCRassiCetCal:OverlappingCMor-phologicandImmunohistochemicalFeaturesofHashimotoThyroiditisCandCIgG4-RelatedCThyroidCDisease.CEndocrCPatholC26:170-177,C201510)LongCQ,CZuoCYG,CYangCXCetCal:ClinicalCfeaturesCandCinvivoCconfocalCmicroscopyCassessmentCinC12CpatientsCwithCocularCcicatricialCpemphigoid.CIntCJCOphthalmolC9:730-737,C201611)小澤信博,小川葉子,西條裕美子ほか:眼類天疱瘡C2症例における角膜神経の病的変化生体レーザー共焦点顕微鏡による観察.あたらしい眼科C34:560-562,C2017***

高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症の臨床像

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):389.394,2018c高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症の臨床像鈴木智*1,2横井則彦*1木下茂*3*1京都府立医科大学眼科学教室*2独立行政法人京都市立病院機構眼科*3京都府立医科大学感覚器未来医療学講座CClinicalFeaturesofMeibomitis-relatedKeratoconjunctivitisinElderlyPatientsTomoSuzuki1,2)C,NorihikoYokoi1)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)KyotoCityHospitalOrganization,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:高齢者におけるマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedCkeratoconjunctivitis:MRKC)の病態について検討し,若年者のCMRKCと比較した.方法:マイボーム腺開口部が閉塞し,発赤・腫脹など明らかな炎症所見を有するマイボーム腺炎とともに,角結膜上皮障害を認めるC60歳以上のCMRKC症例C14例について性別,角膜所見(結節性細胞浸潤,点状表層角膜症〔super.cialpunctatekeratopathy:SPK〕,表層性血管侵入),meibumの細菌培養,抗菌薬内服治療の有効性を検討した.結果:平均年齢はC69.1歳,男性C6例,女性C8例,片眼性C4例,両眼性C10例であった.角膜上皮障害は全症例CSPK主体で結節性細胞浸潤は認めず,表層血管侵入を伴う症例はC4例であった.Meibumの細菌培養を施行できたC11例のうち,6例でCPropionibacteriumCacnes(P.Cacnes)が,5例でCStaphylococcusepidermidis(S.epidermidis)が,1例でCP.acnes+S.epidermidisが検出された(単一症例からの複数検出を含む).治療は,全症例で抗菌薬内服治療が奏効した.結論:高齢者のCMRKCは若年者で診られるCMRKC「非フリクテン型」に相当し,性差は少なく,両眼性であり,ブドウ球菌の検出率が増加していた.治療には抗菌薬内服治療が奏効した.CPurpose:ToCevaluateCtheCclinicalCfeaturesCofCmeibomitis-relatedCkeratoconjunctivitis(MRKC)inCelderlyCpatientsandtocomparethemwithMRKCinyoungpatients.Subjects:FourteenMRKCpatientsover60yearsofageCwereCenrolledCandCevaluatedCasCtoCtheirCcornealCfeatures,CsuchCasCin.ammatoryCcellularCin.ltration,CSPK,Csuper.cialneovascularization,bacterialcultureofmeibum,andthee.ectivenessofsystemicantimicrobialtherapy.Results:Theaverageageofpatientswas69.1years;8ofthe14patientswerefemale;10ofthe14werebilater-al.ThecorneainallcasesshowedSPKbutnocellularin.ltration;4patientsshowedsuper.cialneovascularization.BacterialcultureofmeibumwaspositiveforPropionibacteriumacnesCin6casesandStaphylococcusepidermidisCin5cases.Systemicantimicrobialagentsweree.ectiveforallcases.Conclusion:MRKCinelderlypatientswasbilat-eral,showedlessgenderdi.erenceandhadthesamecorneal.ndingsasnon-phlyctenulartypeMRKCinyoungpatients.Itwastreatedwellwithsystemicantimicrobialagents.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):389.394,C2018〕Keywords:マイボーム腺炎角結膜上皮症,マイボーム腺炎,点状表層角膜症,抗菌薬内服治療,高齢者.mei-bomitis-relatedkeratoconjunctivitis(MRKC),meibomitis,super.cialpunctatekeratopathy(SPK)C,systemicanti-mi-crobialtreatment,elderlypatients.Cはじめに筆者らは,角膜フリクテンではほとんどの症例でマイボーム腺炎を合併していることに着目し,マイボーム腺炎と角膜病変が関連しており,角膜病変の治療のためには全身的な抗菌薬治療によりマイボーム腺炎をコントロールすることが必須であることを報告し1,2),2000年にマイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害を「マイボーム腺炎角膜上皮症」として呼称することを提唱した3).実際,角膜フリクテンは抗菌薬内服を用いて治療することで寛解し,再発予防も可能であった4).当時は,重症な角膜上皮障害に注目して「角膜上皮症」としたが,その後,より正確にその病態を反映させるため,「マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedCkerato-〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2独立行政法人京都市立病院機構眼科Reprintrequests:TomoSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashitakada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPAN図1マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis.relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)a,b:若年者のCMRKCフリクテン型(19歳,女性).上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認め,その延長線上の角膜には上皮下細胞浸潤(一部結節状)とそこに向かう表層血管侵入を認める(Ca).フルオレセイン染色では,結節に一致した上皮びらんを認めるが,SPKは認めない(Cb).Cc,d:若年者のCMRKC非フリクテン型(16歳,女性).上眼瞼縁の中央部にマイボーム腺炎を認め,その延長線上の角膜には結節性細胞浸潤は認めず(Cc),SPKを認める(Cd).上方輪部に,軽度表層血管侵入を伴っている.Cconjunctivitis:MRKC)」と呼称を改めた5,6).MRKCは,マイボーム腺炎に関連して,角膜の結節性細胞浸潤や表層性血管侵入,点状表層角膜症(super.cialpunctateCkeratopathy:SPK),結膜充血を生じる病態である.その病型は,角膜上の結節性細胞浸潤を特徴とするいわゆる「フリクテン型」(図1a,b)と結節病変は認めずCSPKが主体である「非フリクテン型」(図1c,d)に大別される3).いずれの病型も,マイボーム腺炎の重症度と角結膜上皮障害の重症度は相関し,マイボーム腺炎を治療することが眼表面炎症を消退させるために必須と考えられる5.7).1998年以降,筆者らは,フリクテン型の病態については症例数を追加しながら詳細な検討を続け,特徴的な角膜所見の他,1)若年女性に圧倒的に多いこと,2)霰粒腫の既往が多いこと,3)通常は両眼性であること,4)起炎菌はCPropi-onibacteriumCacnes(P.Cacnes)が多いこと,5)特徴的なヒト白血球抗原(humanCleukocyteCantigen:HLA)が認められること,などの臨床的特徴があることを報告してきた5.7).一方で,MRKC非フリクテン型の臨床像は,2000年の段階では,フリクテン型と同様に女性に多く,マイボーム腺炎の起因菌はCP.Cacnesであると推測されたが3),詳細な検討は行っていなかった.そこで,今回,高齢者におけるCMRKCの臨床像について検討し,若年者のCMRKCと比較検討したうえで,MRKCの臨床像の多様性を報告する.CI対象および方法マイボーム腺開口部が閉塞し,開口部周囲の発赤・腫脹など明らかな炎症所見を有するマイボーム腺炎とともに,角結膜上皮障害を認めるC60歳以上のCMRKC症例C14例について,背景因子(年齢,性別,罹患眼),角膜所見(結節性細胞浸潤,SPK,表層性血管侵入),結膜充血,meibumの細菌培養,抗菌薬内服治療について検討した.さらに,32歳以下の若年者のCMRKC非フリクテン型C12例,既報のC33歳以下の若年者のCMRKCフリクテン型C23例4),の検討結果と比較した.ぶどう球菌性眼瞼炎など明らかな前部眼瞼炎を合併している症例,カタル性角膜浸潤(潰瘍)の症例は除外した.Meibumの採取は,40℃,10分間の眼瞼温罨法(目もと表1MRKCの臨床像高齢者若年者非フリクテン型フリクテン型症例数C14C12C23平均年齢(歳)C69.1C15.1C17.9女性(%)C57.1C83.3C87.0両眼性(%)C71.4C83.3C71.1角膜上皮障害結節性細胞浸潤(%)C0C0C100SPK(%)C100C100C0NV(%)C28.6C16.7C100Meibum培養結果(%)CP.acnesC54.5C57.1C60.0CS.epidermidisC45.5C28.6C5.0CP.acnes+S.epiC7.1C14.3C5.0内服抗菌薬CMINO,CAMCCFPN-PICCFPN-PI,CAMSPK:super.cialpunctatekeratopathy,NV:neovascularization,S.epidermidis:Staphylococcusepidermidis,P.acnes:Propionibacteriumacnes,CAM:Clarithro-mycin(クラリスロマイシン),MINO:Minocycline(ミノサイクリン),CFPN-PI:Cefcapene-Pivoxil(セフカペンピボキシル)エステR,Panasonic)の後,手術用顕微鏡下にて眼瞼縁を10%ポビドンヨード液スワブCRで消毒し,さらに同部位を滅菌綿棒で清拭した後に,吉富式マイボーム腺圧迫鑷子で眼瞼縁を圧迫して,マイボーム腺開口部周囲の皮膚に接触しないように,涙液や皮脂の混在がないように細心の注意を払って,圧出したCmeibumをダビール匙で採取した.採取したmeibumは,ただちに滅菌綿棒(直径C2Cmm)にてCANAポート微研C2CR培地に接種し,C.20℃のフリーザーで凍結保存した.後日,大阪大学微生物病研究所にて好気性および嫌気性培養へ供した.CII結果若年者および高齢者のCMRKCの臨床的特徴を表1に示す.高齢者の患者の平均年齢はC69.1歳,男性C6例,女性C8例,両眼性C10例,片眼性C4例であった.角膜上皮障害は全症例でCSPK主体であり,結節性細胞浸潤は認めず,角膜表層血管侵入を認める症例はC4例であった.Meibumの細菌培養を施行できたのはC11例であり,6例でCP.Cacnesが,5例でCS.epidermidisが,1例でCP.acnes+S.epidermidisが検出された(単一症例からの複数検出を含む).治療は,抗菌点眼薬(ガチフロキサシン)に加え,ミノマイシンあるいはクラリスロマイシン内服を併用し,全症例で眼表面炎症は著明に改善した.しかしながら,14例中C8例では,抗菌薬内服治療によりマイボーム腺炎に伴うCSPKが軽快した後に,蒸発亢進型ドライアイに伴うCSPKが残存していると考えられたため,ドライアイ点眼薬(レバミピド)による治療に移行し,全症例で寛解した(表2).典型例を図2,3に示す.表2MRKC非フリクテン型の治療高齢者(n=14)若年者非フリクテン型(n=12)抗菌薬治療後SPK残存なし(%)C42.9C100SPK残存あり(%)C57.1C0+ドライアイ治療追加後SPK残存なし(%)C86.7SPK残存あり(%)C13.3高齢者では抗菌薬内服治療によりCSPKは軽快するが,後にドライアイ治療を追加しなければ寛解できない症例がある.若年者では抗菌薬内服治療のみでCSPKは消退し寛解導入できる.一方,若年者では,MRKC非フリクテン型では,患者の平均年齢はC15.1歳,男性2例,女性C10例,両眼性C10例,片眼性C2例であった.細菌培養を行えたC7例中,4例でCP.acnesが,2例でCS.epidermidisが,1例でCP.acnes+S.epi-dermidisが検出された.セフェム系抗菌薬(フロモックスCR)による内服治療が奏効し,全症例で抗菌薬治療のみで寛解し,SPKは消退した.追加のドライアイ治療は必要なかった.若年者のCMRKCフリクテン型は4),患者の平均年齢は17.9歳,男性C3例,女性C20例,両眼性C16例,片眼性C7例であった.細菌培養を行えたC20例中,12例でCP.Cacnesが検出された.重症例ではセフェム系抗菌薬内服のみならず点滴も用いることで,全症例で寛解した.図2高齢者のMRKC(62歳,男性)初診時(Ca,b,c),マイボーム腺開口部は閉塞し(plugging),その周囲に炎症を伴っている(Ca).角膜全体のびまん性の密なCSPKとともに(Cc),球結膜充血を認める(Cb).ミノマイシン内服C1カ月後(Cd,e,f),マイボーム腺開口部周囲の閉塞所見,炎症所見ともに軽快してきており(Cd,e),角膜のCSPKは著明に改善している(f).III考按マイボーム腺の異常と眼表面の異常には密接な関連がある.1977年CMcCulleyとCSchiallisは,両眼性にびまん性のマイボーム腺異常(開口部でCmeibumがうっ滞しCplugが形成される)とともに,角膜のCSPKと球結膜充血を認める病態を最初に報告し,“meibomianCkeratoconunctivitis”と名付けた8).この病態で認められるCSPKは,涙液の不安定さ(unstabletear.lm)によって生じるCSPKに類似していると考えられている.MeibomianCkeratoconjunctivitisでは,約3分のC2の症例が脂漏性皮膚炎や酒さ(acneCrosacea)などの皮脂腺の機能不全と関連していると報告されている.今回の検討で,高齢者のCMRKCは,SPKが主体で,角膜の結節性細胞浸潤を伴わない「非フリクテン型」であり,若年者の「非フリクテン型」と同様に両眼性が多いものの,女性の割合は若年者の「非フリクテン型」(83.3%)より少なくなっていた(57.1%).若年者のCMRKCは,幼少時より霰粒腫を繰り返すなど,もともとマイボーム腺機能が低下しやすい傾向にある人に発症しやすい4).また,月経周期とともに女性ホルモンの影響を受けてマイボーム腺機能が周期的に低下することは9),MRKCが思春期.若年女性に生じやすい理由の一つと考えられる.一方,高齢者になると性ホルモン濃度は低下し,男女ともに加齢に伴うマイボーム腺機能の低下がCMRKCの発症に影響している可能性が考えられる.「フリクテン型」の原因は,マイボーム腺内で増殖しているCP.acnesに対する遅延型過敏反応が関与している可能性があるC図3高齢者のMRKC(図C2と同一症例,2週後)クラリスロマイシン内服に変更しC2週間後,マイボーム腺炎はさらに軽快し(Ca),SPKはさらに減少し下方へとシフトしている(Cb).この時点でレバミピド点眼を追加すると,1カ月には涙液の安定性が改善しCSPKは消退した(Cc,d).が10),高齢者でいわゆる「フリクテン型」がほとんど認められなかったのは,加齢に伴い免疫反応の主体がCTh1からTh2へと変化するため,P.Cacnesに対する遅延型過敏反応を起こしにくくなっている可能性が推測される.一方で,高齢者のみならず若年者のCMRKC非フリクテン型でCmeibumから検出されたCP.CacnesやCS.Cepidermidisは,結膜.や眼瞼縁からもっともよく検出される細菌でもある.これらの細菌は,どちらもCmeibumに含まれる脂質を分解するリパーゼを有している11).とくに,S.Cepidermidisは,P.Cacnesにはないコレステロールエステルを分解するリパーゼを有しており,リパーゼによって生じる遊離脂肪酸(freeCfattyacid:FFA)そのものが細胞傷害性を有すること11),涙液中にある一定濃度以上CFFAが増加すると,濃度依存性に涙液油層が破綻すること12)などが知られており,「非フリクテン型」のCSPKの原因となっている可能性がある.そのため,ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬の内服を用いることで,細菌のリパーゼによるCmeibum脂質の分解を抑制することが眼表面炎症の治療に有効であることが報告されているが13),実際にはマクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンの内服も有効であった.これは,どちらの抗菌薬も細菌のCMICが低く,マイボーム腺内の細菌を減菌することが結果としてCmeibumのCFFAを減らし,眼表面上皮障害の改善につながると考えられる.高齢者に認められる閉塞性マイボーム腺機能不全(meibo-mianCglandCdysfunction:MGD)における炎症の有無についてはしばしば議論の的になるところである.「眼瞼縁の炎症を伴わないマイボーム腺の異常」については,1980年にKorbとCHenriquezにより初めて報告され14),その後の多くの病理組織学的な検討から,閉塞性CMGDには明らかな炎症所見が存在しないと考えられるようになってきた15,16).炎症がない閉塞性CMGDに伴うCSPKは,蒸発亢進型ドライアイによって生じていると考えられるため,ドライアイ点眼薬でSPKをコントロールすることは可能である.一般的に,日常臨床では,SPKを見かけるとドライアイと診断してドライアイ点眼薬が処方されているのが現状と思われる.そのため,ドライアイ点眼薬で改善しないCSPKは,難治例として涙点プラグまで挿入されることもある.MRKC非フリクテン型のように,マイボーム腺炎とCSPKが同時に認められるC症例では,先に抗菌薬内服治療を用いてマイボーム腺炎をコントロールしなければ,ドライアイ治療のみではCSPKは消退しない.逆に,今回の検討結果のように,高齢者では約半数で,マイボーム腺炎がほぼ軽快してもなかなかCSPKが消退しきらない.これは,長期にわたるマイボーム腺炎によりMGDが高度なため,閉塞性CMGDに伴う蒸発亢進型ドライアイによるCSPKが残存している状態と考えられる.マイボーム腺炎が軽快した段階でドライアイ点眼薬を用いた治療に切り替えると,SPKを消退させることができる.このように,とくに高齢者でCSPKを認める症例では,眼瞼縁,とくにマイボーム腺開口部周囲に炎症がないかを確認し,適切な治療を開始することが重要である.すなわち,若年者ではマイボーム腺炎の治療のみで眼表面上皮障害を消退させることは可能であるが,高齢者では,マイボーム腺炎の治療後に非炎症性閉塞性CMGDに伴うCSPKの治療を行う必要が生じる場合があると考えられる.抗菌薬の選択については,若年者のフリクテン型では,meibumの細菌培養の結果および動物実験の結果から10),マイボーム腺炎および角膜の結節性細胞浸潤の原因としてCP.acnesが関与している可能性が高いと考えられ1.7),P.Cacnesをターゲットとして初期の炎症が非常に強い場合には殺菌的なセフェム系抗菌薬の内服や点滴を,その後常在細菌のコントロールのために静菌的なクラリスロマイシンの内服を継続することが多い.若年者の非フリクテン型も,セフェム系抗菌薬内服が奏効した.ミノサイクリンは,他のテトラサイクリン系抗菌薬に比べ脂溶性が高いこと,細菌のリパーゼ産生を抑制すること13),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusCepidermidis:MRSE)などにも感受性がよいことなどの利点がある一方で,「めまい」などの体調不良を訴える患者にもしばしば遭遇する.そのような症例では,マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンに切り替えることも多いが,クラリスロマイシンには抗菌作用以外に抗炎症作用を有するという利点もある17).ミノサイクリンとクラリスロマイシンは,それぞれ作用機序,特性が異なる抗菌薬であるが,いずれもマイボーム腺炎に有効である.このことから,どちらの抗菌薬にも感受性がある細菌が腺内で増殖している可能性があると考えられる.以上,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとしてとらえるコンセプト(meibomianCglandsCandCocularCsurface:MOS)7)を念頭に,前眼部の観察を行うことがCMRKCの効果的な治療へとつながると考えられる.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:角膜フリクテンの起炎菌に関する検討.あたらしい眼科C15:1151-1153,C19982)鈴木智,横井則彦,木下茂:角膜フリクテンに対する抗生物質点滴大量投与の試み.あたらしい眼科C15:1143-1145,C19983)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,C20004)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisCassociatedCwithCmeibomitisCinCyoungCpatients.CAmJOphthalmolC140:77-82,C20055)SuzukiT,KinoshitaS:Meibomitis-relatedkeratoconjunc-tivitisCinCchildhoodCandCadolescence.CAmCJCOphthalmolC144:160-161,C20076)SuzukiT:Meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:Impli-cationsCandCclinicalCsigni.canceCofCmeibomianCglandCin.ammations.Cornea31(Suppl1):S41-S44,20127)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaCS:MeibomianCglandsCandCocularCsurfaceCin.ammation.COculCSurfC13:133-149,C20158)McCulleyCJP,CSchiallisCGF:MeibomianCkeratoconjunctivi-tis.AmJOphthalmolC84:85-103,C19779)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetCal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201710)SuzukiCT,CSanoCY,CSasakiCOCetCal:OcularCsurfaceCin.am-mationCinducedCbyCPropionibacteriumCacnes.CorneaC21:C812-817,C200211)DoughertyJM,McCulleyJP:Bacteriallipasesandchron-icCblepharitis.CInvestCOphthalmolCVisCSciC27:486-491,C198612)ArciniegaCJC,CNadjiCEJ,CButovichCIA:E.ectCofCfreeCfattyCacidsonmeibomianlipid.lms.ExpEyeResC93:452-459,C201113)ShineCWE,CMcCulleyCJP,CPandyaCAG:MinocyclineCe.ectConCmeibomianCglandClipidsCinCmeibomianitisCpatients.CExpCEyeResC76:417-420,C200314)KorbCDR,CHernriquezCAS:MeibomianCglandCdysfunctionCandcontactlensintorelance.JAmOptomAssocC51:243-351,C198015)GutgesellVJ,SternGA,HoodCL:Histopathologyofmei-bomianglanddysfunction.AmJOphthalmolC94:383-387,C198216)ObataCH:AnatomyCandChistopathologyCofChumanCmeibo-miangland.Cornea21(Suppl7):S70-S74,200217)UeharaH,DasSK,ChoYKetal:Comparisonoftheanti-angiogenicCandCanti-in.ammatoryCe.ectsCofCtwoCantibiot-ics:ClarithromycinCversusCMoxi.oxacin.CCurrCEyeCResC41:474-484,C2016***

不良な転帰をたどった非コンタクトレンズ性アカントアメーバ角膜炎の1例

2018年3月31日 土曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(3):384.388,2018c不良な転帰をたどった非コンタクトレンズ性アカントアメーバ角膜炎の1例宮本龍郎*1,2仁木昌徳*2三田村佳典*2*1社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院眼科*2徳島大学大学院医歯薬学研究部眼科学分野CACasewithNon-contact-lens-relatedPoor-prognosisAcanthamoebaKeratitisTatsuroMiyamoto1,2),MasanoriNiki2)andYoshinoriMitamura2)1)DepartmentofOphthalmology,KaiseiCentralHospital,2)DivisionofOphthalmology,InstituteofBiomedicalSciences,TokushimaUniversityGraduateSchool目的:非コンタクトレンズ(CL)性のアカントアメーバ角膜炎(AK)に対し,治療を行うも不良な転帰をたどった症例の報告.症例:65歳,男性.CL装用歴はない.所見と経過:第C7病日に初診となり,左眼の視力はC0.01で,眼圧はC37CmmHgだった.輪部腫脹を伴う強い毛様充血,角膜上皮と実質の浮腫を伴っており,前房蓄膿があった.輪部に平行な輪状上皮欠損があり,地図状を呈していた.上皮型角膜ヘルペスを疑い治療を開始するも,第C14病日に眼圧はC65CmmHgと上昇し,所見は悪化した.同日に角膜を掻爬し,擦過物の塗抹検鏡にてアカントアメーバのシストを認めた.入院のうえC3者併用療法を開始しいったん所見が改善したが,その後前房蓄膿が再発し,眼圧が再上昇した.前房蓄膿はC7Cmm高となり,リン酸ベタメタゾンの点眼を開始したところ前房蓄膿の改善を得たが,続発緑内障により視力は光覚弁となった.結論:非CCL性のCAKは進行が早く,早期の治療開始が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCnon-contact-lens-relatedCAcanthamoebaCkeratitis(AK).CCase:AC62-year-oldmalewithnohistoryofcontactlens(CL)wear.Findingsandclinicalcourse:Correctedvisualacuitywas0.01inthelefteye.Hehadciliaryinjectionwithlimbaledema,cornealedema,hypopyonandring-shapedcornealepitheli-aldefect.Westartedanti-herpestherapy,buttheconditionsworsened.WedetectedAcanthamoebaCcystsfromcor-nealscrapingsmearsandinitiatedthree-combinationtreatmentforAK.Afterthesetherapies,thecorneal.ndingsimprovedbuthypopyonrecurrenceandIOPelevationwerefound.Afteraddingbetamethasoneeyedropsthehypo-pyonimproved,butBCVAdecreasedtolightperceptionbecauseofsecondaryglaucoma.Conclusion:Thediseasemayprogressrapidlyincasesofnon-CL-relatedAK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(3):384.388,C2018〕Keywords:非コンタクトレンズ性アカントアメーバ角膜炎,輪状上皮欠損,続発緑内障.non-contact-lens-relat-edAcanthamoebaCkeratitis,ring-shapedcornealepithelialdefect,secondaryglaucoma.Cはじめにアカントアメーバは土壌や淡水,粉塵など自然界に生息する原生動物で,元来ヒトに対する病原性は強くないとされている.1974年にCNagingtonらによりアカントアメーバによる眼の感染が初めて報告されたが1),これは土壌関連の外傷に伴う角膜感染症だった.その後欧米ではコンタクトレンズ(contactlens:CL)の普及に伴い,アカントアメーバ角膜炎(AcanthamoebaCkeratitis:AK)の発症者が増加し,わが国ではC1988年に石橋らによりCCL装用者に生じたCAKの症例が初めて報告された2).非CL性AKは欧米で3.15%3),わが国でC1.7.10.7%と報告されていることからも4.6)AKの多くはCCL性であることは広く知られている.今回CCL装用歴のない農業従事者に生じたCAKのC1例を経験し,治療を行うも不良な転帰をたどったので報告する.〔別刷請求先〕宮本龍郎:〒762-0007香川県坂出市室町C3-5-28社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院眼科Reprintrequests:TatsuroMiyamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KaiseiCentralHospital,Muromachi3-5-28,CSakaidecity,Kagawa762-0007,JAPAN384(102)ab図1初診時所見(第7病日)Ca:輪部腫脹を伴う毛様充血と角膜浮腫,前房蓄膿を認める.Cb:上皮欠損は輪部に平行な輪状角膜上皮欠損を生じている.C図2第14病日初診時と比較し毛様充血が強くなり,輪状浸潤を生じている.I症例患者:65歳,男性.既往歴:特記すべきことなし.CL装用歴はない.現病歴:農作業中に左眼の異物感を訴えて近医眼科を受診し,左眼瞼結膜の異物と瞼裂斑炎を指摘された.結膜異物が除去されC1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.1%フルオロメトロン点眼液が処方された.しかし,眼痛と視力低下が進行したため,第C3病日に同院を受診したところ,感染性角膜炎が疑われフルオロメトロン点眼が中止され,レボフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼に変更された.その後も病状が悪化し,第C7病日に徳島大学病院眼科へ紹介された.視力は右眼C0.9(1.5C×sph+3.0D(cyl2.0DAx90°),左眼0.01(矯正不能)だった.眼圧は右眼C15CmmHgで,左眼は37CmmHgだった.左眼は輪部の腫脹を伴う毛様充血があり,角膜上皮と実質に浮腫もあり前房内の微塵は不明だった.前房蓄膿がC1Cmm高あり,角膜浸潤は中央部にわずかにあり(図1a),同部を含め輪部に平行に輪状上皮欠損があり,辺縁はジグザグで地図状上皮欠損様を呈していた(図1b).感染性角膜炎を想起し角膜掻爬を勧めたが疼痛のため同意が得られず,上皮型角膜ヘルペスを疑いアシクロビル眼軟膏C1日5回塗布させ,高眼圧に対しアセタゾラミドC500Cmgを内服させた.第C14病日に再来させたところ輪状浸潤が出現し(図2),上皮欠損が拡大していた.毛様充血と輪部腫脹も悪化し,眼圧はC65CmmHgに上昇していた.病状悪化について説明し同意のうえで角膜掻爬し,塗抹検鏡したところアカントアメーバのシストが同定され(図3),他の微生物は検出されず,培養においても何も検出されなかった.このことからアカントアメーバ角膜炎と診断し同日入院させたうえで,3者併用療法として定期的な角膜掻爬を行いつつ,ボリコナゾール点滴,0.05%クロルヘキシジンとC0.1%ボリコナゾールの1時間毎点眼,ピマリシン眼軟膏のC1日C4回点入にて治療をC眼圧(mmHg)図3角膜擦過物の塗抹像(×400)アカントアメーバのシストが認められる.a:ディフクイック染色.b:ファンギフローラCY染色.C角膜掻把6040200720406080100120150200250300400500(病日)ドルゾラミド/チモロール配合点眼液2×ラタノプロスト点眼液1×アセタゾラミド500mg内服図4治療経過開始した(図4).高眼圧に対してはアセタゾラミドをC750mgに増量し,ドルゾラミド/チモロール配合点眼液を開始した.これらの治療を開始後に前房蓄膿は消失し(図5a),上皮欠損は縮小した.ところが第C49病日に前房蓄膿が再発し,その後鼻下側に虹彩前癒着が出現した(図5b).虹彩ルベオーシスが急速に進行し,第C71病日にはルベオーシスからの前房出血が前房蓄膿に混在するようになり,眼圧もC40mmHgを超えるようになった.アカントアメーバ角膜炎の再発を考慮し,角膜掻爬するもシストは同定されなかった.しかし,その後も病状は悪化し,前房蓄膿はC7Cmm高となった(図5c).アカントアメーバ角膜炎の再発に注意しながら厳重な経過観察のもと,第C95病日にC0.1%リン酸ベタメタゾン点眼液をC1日C4回から開始したところ,徐々に前房蓄膿は減少し虹彩ルベオーシスも改善した.眼圧は下降したが,第C170病日には虹彩前癒着が全周性となった(図5d).第226病日には上方の角膜の菲薄化が認められ,第C442病日にはその範囲が広がっているが角膜穿孔は認められず,視力は光覚弁となっている(図5e).CII考察AKの所見は,初期では輪部結膜の浮腫を伴う結膜充血,上皮下混濁,偽樹枝状の上皮病変や放射状角膜神経炎が出現し,時として上皮型角膜ヘルペスと誤診されることがある.初期に適切な治療がなされないと輪状の角膜浸潤が出現し,完成期として円板状の混濁2,7)となる.AKは緩徐に病変が進行するとされているが8),早期に病状が悪化する経過をたどる症例も報告されており5),AKも他の眼感染症と同様に早期診断と早期治療の開始が望ましいと思われる.本症例も発症C2週間で輪状浸潤が出現していたことから,急速進行性のCAKであると考えられた.そのため初診時に角膜を掻爬C図5臨床経過a:第C31病日.前房蓄膿は減少した.Cb:第C49病日.前房蓄膿の悪化と鼻下側に虹彩前癒着がある.Cc:第C95病日.前房蓄膿がC7Cmm高となっている.Cd:第C170病日.充血は改善し前房蓄膿は減少した.Ce:第C442病日.充血は改善したが,角膜の菲薄化が進行し視力は光覚弁となっている.し,塗抹検鏡したうえで治療を開始していれば,本症例のよ念頭におく必要があると考えられた.うに不良な転帰をたどらなかった可能性が高く,反省すべき昨今CCLとCAKとの関連について広く周知されるようにな点であった.り,以前と比較しCAKを早期に診断し,治療を開始できる本症例は初診時に高度な輪部炎を伴う輪状角膜上皮欠損をようになった.しかし,アカントアメーバは環境中に生息呈していた.上皮欠損の境界はジグザグであり一見地図状上し,農業従事者による外傷性CAKの症例がまれではあるが皮欠損のように見え,上皮型角膜ヘルペスを想起させた.し存在すると報告されている3).本症例では急速進行性のCAKかし,その上皮欠損は輪部に平行に生じており,地図状上皮だったが,外傷性CAKはCCL性CAKと比較し重症化しやすい欠損を呈する上皮型角膜ヘルペスの典型例とは異なっていのかもしれない.Sharmaらも非CCL性のCAKはその診断がた.高度の輪部炎を呈したCAKにおける輪状の周辺部角膜遅れがちになるため,CL性と比較し進行が速く,重症化し上皮欠損については過去に報告されており,進行すると輪状やすいのではないかと推論している3).今回筆者らは本症例混濁へと進行するとされる9,10).本症例ではその上皮欠損のにおいてアカントアメーバの分離培養ができなかったため,パターンおよび病状の進行が既報と酷似していた.加えて輪その生物学的特徴について精査することができなかったが,部に平行な輪状上皮欠損を呈する所見は他の角膜疾患でみらCL装用歴がなくとも外傷の有無について十分な問診を行っれることはまれで,これらの所見があった場合にはCAKをたうえで,外傷と関連する感染性角膜炎を診た場合はCAKCを考慮しつつ精査が必要であると思われた.本症例ではCAKに対する治療を開始し,その所見は改善したが,治療開始後C30日が経過した時点で前房蓄膿の悪化や虹彩ルベオーシスからの前房出血,眼圧の再上昇をきたした.AKの再燃を疑ったが,その後の角膜掻爬では明らかなアカントアメーバのシストを検出できなかった.AKに続発したぶどう膜炎を考慮し十分な経過観察を行いつつステロイド点眼を追加したところ,前房蓄膿が減少し眼圧も正常化し徐々に消炎した.治療開始C1カ月後で所見が悪化したのはAKによる続発性の炎症による可能性もあるが,AKに対する点眼治療による副作用の可能性も否定できない.本症例において使用した点眼は,0.05%クロルヘキシジン点眼とボリコナゾール点眼だった.感染性角膜炎診療ガイドラインでは,AKの治療についてC0.02.0.05%クロルヘキシジン点眼の使用を推奨している.30日間にわたって使用可能な最高濃度の点眼を使用しており,治療開始C30日後以降の炎症については薬剤性であった可能性も否定できない.もし薬剤による炎症を考慮するならば,ステロイド点眼を開始する前に,薬剤の中止を考慮すべきであった.今回筆者らは,非CCL性CAKを発症した農業従事者のC1例を経験した.急速進行性で治療を開始するも予後不良な転帰を辿った.AKは緩徐な経過をたどることが多いが,可能な限り早期に診断し治療を開始することが重要であると考えられた.謝辞:本稿を終えるにあたり御指導頂きました,塩田洋先生に深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NagintonJ,WatsonPG,PlayfairTJetal:Amoebicinfec-tionoftheeye.Lancet28:1537-1540,C19742)石橋康久,松本雄二郎,渡辺良子ほか:AcanthamoebakeratitisのC1例臨床像,病原体検査法,および治療についての検討.日眼会誌92:963-972,C19883)SharmaS,GargP,RaoGN:Patientcharaceristics,diagno-sisCandCtreatmentCofCnon-contactClensCrelatedCAcantham-oebakeratitis.BrJOphthalmolC84:1103-1108,C20004)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近経験したアカントアメーバ角膜炎C28例の臨床的検討.あたらしい眼科C27:680-686,C20105)平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌115:899-904,C20116)鳥山浩二,鈴木崇,大橋裕一:アカントアメーバ角膜炎発症者数全国調査.日眼会誌118:28-32,C20147)塩田洋,矢野雅彦,鎌田恭夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼48:1149-1154,C19948)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C117:467-509,C20149)椎橋美予,宮井尊史,子島良平ほか:角膜周辺部に輪状上皮欠損を呈したアカントアメーバ角膜炎のC1例.眼紀C58:C425-429,C200710)佐々木香る:アカントアメーバ角膜炎における臨床所見の亜型.あたらしい眼科27:47-48,C2010***

骨髄移植治療中に発症した流行性角結膜炎の1例

2018年3月31日 土曜日

《第54回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科35(3):381.383,2018c骨髄移植治療中に発症した流行性角結膜炎の1例髙木理那髙野博子小林未奈田中克明豊田文彦榛村真智子木下望梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科EpidemicKeratoconjunctivitisafterBoneMarrowTransplantation:ACaseReportRinaTakagi,HirokoTakano,MinaKobayashi,YoshiakiTanaka,FumihikoToyoda,MachikoShimmura,NozomiKinoshitaandAkihiroKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter目的:骨髄移植治療中に無菌室で流行性角結膜炎を発症した症例を経験したので報告する.症例:45歳,男性.骨髄移植のため無菌室在室中,移植後C12日目に左眼球結膜充血と流涙,眼痛を自覚.アデノウイルス抗原迅速検査キットで流行性角結膜炎と診断し,ただちにC0.1%フルオロメトロン点眼C4回/日とC1.5%レボフロキサシン点眼C4回/日を開始した.しかし,高度免疫抑制状態であるため,症状改善やウイルス抗原消失にC4週間以上の長期間を要した.結論:無菌室であっても,完全にウイルスを排除することは困難である.アデノウイルス感染に対する予防薬や治療薬がないため,不用意なウイルスの持ち込みや,感染の拡大には細心の注意が必要であると考えた.CPurpose:Toreportapatientwhoreceivedabonemarrowtransplantanddevelopedepidemickeratoconjunc-tivitisduringhisstayinthecleanroom.Case:A45-year-oldmalewhowasaninpatientinthecleanroomhadcongestionCofCtheCbulbarCconjunctiva,Clacrimation,CandCophthalmalgiaCofCtheCleftCeyeC12CdaysCafterCboneCmarrowtransplantation.Hewasdiagnosedwithepidemickeratoconjunctivitis;0.1%.uorometholoneand1.5%levo.oxacinophthalmicCsolutionCwereCprescribedCfourCtimesCdaily.CTimeCtoCresolutionCofCtheCadenovirusCantigenCwasClengthyCbecauseofthesevereimmunosuppressivestatusafterbonemarrowtransplantation.Conclusion:Preventingexpo-suretoadenovirusisdi.culteveninthecleanroom.Becausethereisnoe.ectivetreatmentforkeratoconjunctivi-tis,utmostcautionisrequiredsoasnottointroduceandspreadadenovirusintothatenvironment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):381.383,C2018〕Keywords:流行性角結膜炎,無菌室,骨髄移植,院内感染.epidemickeratoconjunctivitis,cleanroom,bonemarrowtransplantation,nosocomialinfection.Cはじめに流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)はアデノウイルスによる,おもに接触感染で感染する非常に感染力の強い眼感染症である.学校感染症の一つでもあり,診断された場合は出席停止や出勤停止となる.多数の患者と接触する機会の多い医療従事者を有する医療機関では,その感染力の強さから院内感染も起きやすいとされている.院内感染が蔓延すると,感染を終息させるのはむずかしい.今回,骨髄移植治療中,無菌室在室でCEKCを発症した症例を経験したので報告する.CI症例症例はC45歳,男性.2014年骨髄異形成症候群と診断され,2016年C2月骨髄移植目的で当院血液内科に入院.同月中旬より前処置開始.抗がん剤としてブスルファン(ブスルフェクスR),シクロホスファミド(エンドキサンCR),免疫抑制としてシクロスポリン(サンディミュンCR)が投与された.前処置開始C1週間後に骨髄バンクドナーより移植施行され無菌室在室となった.その後,免疫抑制にシクロスポリン(サンディミュンR),メトトレキサート(メソトレキセートCR)投与,感染症予防にアシクロビル内服,フルコナゾール内〔別刷請求先〕髙木理那:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RinaTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyJichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847CAmanuma-chou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPAN0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C381白血球数治療開始時治療開始1週間治療開始4週間治療開始5週間380服,メロペネム,ミカファンギンナトリウム(ファンガードCR),バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシンCR)が点滴投与された.3月上旬,左眼球結膜充血と流涙,眼痛を自覚.症状発現からC2日後,当科コンサルトとなった.無菌室在室であるため,往診での診察であるが,左眼瞼・眼球結膜充血,濾胞形成を認めた.耳前リンパ節腫脹や角膜上皮障害は明らかではなかったが,免疫クロマト法を用いた眼科専用アデノウイルス抗原迅速検査キットのキャピリアアデノアイR(CAE)でCEKCと診断.0.1%フルオロメトロン(フルメトロン点眼液C0.1%CR)4回/日,1.5%レボフロキサシン(クラビット点眼液C1.5%CR)点眼C4回/日での治療を開始した.治療開始C1週間後には右眼にも眼瞼・眼球結膜炎を認めた.治療開始C2週間後には両眼瞼に偽膜形成,角膜上皮障害を認め,偽膜除去を行った.症状は徐々に軽快し,治療開始C4週間後には左眼CCAEは陽性であったが,眼瞼・眼球結膜充血は改善し,偽膜も消退した.治療開始C5間後に左眼CCAE陰性を確認.角膜上皮障害も改善となった.本症例は初回の非血縁からの骨髄移植が生着不全となったため,再度血縁からの末梢血幹細胞移植が行われたため,無菌室を出るのに長期間を要した.受診が可能になったC6月下旬の所見では,角膜混濁や瞼球癒着などはなく,EKCは治癒していた.CII考按骨髄異形成症候群(myelodysplasticCsyndromes:MDS)は,異形成を伴う造血細胞の異常な増殖と細胞死を起こす造血器腫瘍である.無効造血のために,骨髄が正.過形成となり末梢血は汎血球減少をきたす1).また,好中球やマクロファージの貪食機能低下による質的異常を呈し,抗がん剤投与後には好中球やマクロファージの数的異常を呈する2).本症例はCMDSに対する骨髄移植であり,抗がん剤や免疫抑制薬のために高度免疫抑制状態であった.白血球数は前処置時にはC1,090/μl(うち,好中球数C76/μl),移植時にはC380/μlに減少,その後症状出現時,EKC診断時にC20/μlとなり,右眼の症状出現,偽膜形成やCEKC改善までC150/μl以下の低い値で推移した(図1).アデノウイルスが細胞内に感染すると,自然免疫で炎症性サイトカインが産生され症状が出現する.本症例は高度免疫抑制状態であったため,偽膜形成が図2症状と白血球球数治療開始からC2週間後と症状の出現も遅く,また,偽膜形成はあったが,充血は軽度から中程度で症状は顕著ではなかった.また,ウイルス感染ではおもに獲得免疫が働くが,自然免疫同様に獲得免疫の誘導が遅く,症状発現から眼瞼結膜のアデノウイルス抗原陰性化確認までC37日を要した(図2).本症例は無菌室内でのCEKC発症例という点も特徴的である.無菌室内での感染経路として,外部者からの感染が考えられる.当センターの無菌室は外扉の中にC4つの個室があり,徹底した陽圧管理をされている.入室の際は外扉内の手洗い場で手を洗い,マスクを装着し,送風機を強風にして入室することと規定されていた.外部者との面会もC12歳以上で体調に問題ない者に限定されており,生ものや粉塵を含むような荷物の室内への持ち込みは原則として禁止されていた.しかし,外部者からの荷物や洋服にアデノウイルスが付着している場合は,無菌室内へのウイルスの侵入は完全には防止できない.無菌室内での感染経路として,二つ目に院内感染が考えられる.本症例と同時期に同病棟でもう一人CEKC患者を確認している.当患者は本症例患者の症状発症C2日前より左眼脂,流涙,結膜充血が出現.本症例と同日に眼科コンサルトとなり,EKCと診断され,個室に隔離,同日緊急退院となった.同一病棟にC2人のCEKC患者がいたことから,医療従事者を介しての感染が疑われた.アデノウイルス感染は物理的な抵抗性が強いことが,院内感染を引き起こす最大の理由とされている.ドアノブなどに付着した際,数カ月間強い感染力を保つともいわれている3).アデノウイルスには次亜塩素酸ナトリウムの使用が推奨されている.当センターでアデノウイルス発生時は,患者の個室隔離や早期退院,また,徹底した次亜塩素酸ナトリウムでの診察器具やドアノブなど室内備品の消毒を行う.また,患者接触の際は,マスク,ゴム手袋,ビニールエプロンを使用し,手指などに接触した際は,徹底した手洗いとアルコール消毒を行う決まりとなっている.しかし,アデノウイルスはアルコールに対し抵抗性が382あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(100)強く,またアデノウイルスに有効である次亜塩素酸ナトリウムは使用時の塩素臭が強く,残存臭も問題となる.また,酸化作用により金属類や繊維類を腐食させる.そのため次亜塩素酸ナトリウムは慎重に使用しなければならない.近年,ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする環境消毒ルビスタRが普及している.ペルオキソ一硫酸水素カリウムとその他の配合成分との反応により次亜塩素酸が生成され,次亜塩素酸の酸化作用により効果を発揮する.優れた除菌性能を有するうえ,次亜塩素酸ナトリウムと違い,皮膚,金属,プラスチックに影響が少なく安全に使用できる.また,アデノウイルスをはじめとして,ノロウイルスなどのウイルス,細菌にも有効である.当薬剤は急速に普及しており,次亜塩素酸ナトリウムに代わり,腐食性のある器材にはルビスタCRを使用することも考慮しなければならない.本症例は他に,シーツなどのリネンからの感染の可能性も考えられた4).ウイルスの潜伏期間中に使用されたリネンは感染汚染物としては扱われないため,ウイルスを媒介した可能性もある.今回はウイルス型の同定を行えなかったため,2症例が同一のウイルスであるかは不明のままであり,医療従事者を介したか外部から持ち込まれたかも判別不能である.近年,患者体内に潜伏しているアデノウイルスCDNAによる再発感染の可能性があることが報告されている.熱性呼吸器疾患の学童児のC8%の鼻洗浄液からアデノウイルスが検出されており,そのうちにC81%がCC亜属であった.成長につれアデノウイルス検出率は減少し,成人するとほぼ皆無となる.咽頭組織に潜在性のCC亜属のアデノウイルスが存在し,それが生後数年間に再活性化し発症する可能性を示唆している5).他の報告では,10年前にCEKC発症した患者の涙液や結膜からアデノウイルスCDNAが検出され,かつ既感染患者の多くは慢性乳頭結膜炎があることから,結膜にアデノウイルスCDNAが超期間にわたり潜伏し,再感染につながる可能性があることが示されている6).本症例は,明らかな既感染の情報はなかったが潜伏感染の活性化による発症の可能性も否定はできない.感染経路特定には至らないが,ウイルスは運搬されなければ拡散しない.ウイルスに曝露することの多い医療従事者が運搬の担い手になる可能性は非常に高い.接触感染予防の意識を高め,正しい消毒法や減菌法の知識を共有し,ウイルスの持ち込み,持ち出しを行わないように十分な注意と教育が必要である.CIII結論骨髄移植直後の高度免疫抑制状態で,ウイルス抗原消失に長期間を要したCEKCを経験した.アデノウイルス感染は予防薬投与が困難であり,不用意なウイルスの持ち込みや,感染の拡大には細心の注意が必要であると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宮﨑泰司:骨髄異形成症候群の診断基準と診療の参照ガイド.長崎大学原爆後障害医療研究所,20142)神田善伸:造血幹細胞移植に伴う免疫抑制状態と感染症対策.ICUとCCCU37:613-620,C20133)平田憲:眼科における感染対策.臨床と研究C88:559-562,C20114)原田知子,広島葉子,本郷元ほか:セレウス菌菌血症のアウトブレークを経験して.日赤医学61:338-341,C20105)GarnettCCT,CTalekarCG,CMahrCJACetCal:LatentCspeciesCCCadenovirusesCinChumanCtonsilCtissues.CJCVirolC83:2417-2428,C20096)KayeCSB,CLloydCML,CWilliamsCHCetCal:EvidenceCforCper-sistenceofadenovirusinthetearfilmadecadefollowingconjunctivitis.JMedVirolC77:227-231,C2005参照キョーリンメディカルサプライ株式会社ホームページChttp://www.rubysta.jp/***(101)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C383

基礎研究コラム 10.人工ゲルの可能性

2018年3月31日 土曜日

人工ゲルの可能性既存の眼内タンポナーデ物質の欠点と人工硝子体の必要性網膜.離や増殖硝子体網膜症,黄斑円孔,増殖糖尿病網膜症などの硝子体手術では,術中術後の合併症を防ぐために術終了直前に眼内タンポナーデ物質を充.することが一般的です.しかしながら,空気,ガス,シリコーンオイルなどの既存物質では,患者は術後うつ伏せや安静を強いられ,眼圧上昇や白内障などの副作用があり,網膜毒性のために再手術で抜去しなければならない,など種々の問題があります.また,硝子体との屈折率の違いにより術後しばらくは視力が改善しません.そのためにこれらの欠点を補うような人工硝子体が必要となってきます.生体適合性が高いハイドロゲルは人工硝子体として有望であり,現在までさまざまな研究がなされてきました.しかし,膨潤による眼圧上昇が不可避である点と炎症による混濁を生じるため,未だ臨床応用に至っていません.人工硝子体開発の道のり筆者らは人工硝子体の素材を探すべく,膨潤しないハイドロゲルを探していました.そして2014年に『Science』誌に載った非膨張性ハイドロゲルの研究論文に注目しました1).さっそく,その論文著者である東京大学工学部の酒井先生と連絡を取り,共同研究を始めました.最初にこの非膨張性ハイドロゲルを硝子体としてウサギに埋植しましたが,術後炎症が強く,またゲルが固すぎるために臨床としては使えないということがわかりました.その後試行錯誤を繰り返し,2年の月日を経てやっとこれらハイドロゲルの欠点を解消したものを完成させました.非膨張性で炎症をほとんど惹起せず,反応後数分でゲル化可能なハイドロゲルです(図1).マウスでの安全性を確認し,その後ウサギにこのゲルを埋植し,1年以上の長期観察を行い,安全性と有効性を確認しました.また,ウサギ網膜.離モデルにおいてもこのゲルにて治療可能であることを検証しました2).これら一連の,分子設計から臨床応用前段階までの実験成果が認められ,『NatureBiomedicalEngineering』誌の創刊号にアクセプトされました.そして『Nature』誌や『NatureMaterials』誌にもTopicsとしてLetterが掲載されました(Nature543:岡本史樹筑波大学医学医療系眼科ポリエチレングリコール臨界クラスターゲル人工硝子体PEG152+48Thiol基Maleimide基+PEG2PEG148+PEG252図12段階でゲル化させる人工硝子体の作成プログラム2段階目のゲル化させる直前に,ゾルの状態で27ゲージ針により硝子対腔内に注入できる.319-320,2017doi:10.1038/nature21898).今後の製品化のための第一段階である前臨床試験をクリアするために各種実験を行っている最中です.今後の展望この人工硝子体が実用化されれば,まずは術後のうつ伏せや安静が必要なくなり,すべての硝子体手術が日帰り手術可能となるかもしれません.また,このゲルは出血と混ざらないために,術後合併症である硝子体出血や網膜.離などを大幅に軽減できます.そしてシリコーンオイルが必要な小児の難治性疾患や外傷などにも応用可能です.そして硝子体と屈折率がほぼ同じため,術翌日から良好な視機能を維持できます.未来の硝子体手術が変わっていくかもしれません.文献1)KamataH,AkagiY,Kayasuga-KariyaYetal:“Non-swellable”hydrogelwithoutmechanicalhysteresis.Sci-ence343:873-875,20142)HayashiK,OkamotoF(co-.rst),HoshiSetal:Fast-forminghydrogelswithultralowpolymericcomponentasanarti.cialvitreousbody.NatureBiomedicalEngineering1:2017.doi:10.1038(85)あたらしい眼科Vol.35,No.3,20183670910-1810/18/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 22.視覚はよみがえる

2018年3月31日 土曜日

連載.二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科図1大型弱視鏡の構造二つの鏡筒は水平・垂直・回旋方向に独立して動くので,眼位に合わせて視覚刺激を別々に呈示できる.ここでは水平方向の目盛のみ示す.両眼の対応点に個別に刺激を与えることにより,両眼視の検査や訓練が可能である.(83)あたらしい眼科Vol.35,No.3,20183650910-1810/18/\100/頁/JCOPY膜に映る範囲により4段階に分かれる.最小の中心窩スライド(d)で融像可能ならば正常両眼視をもつと考えてよい.訓練の対象は片眼抑制や網膜異常対応である(図2の説明文参照)2).訓練は1990年頃まで精力的に行われたが,片眼抑制がとれ,逆に複視に悩む例も出たため,症例を選んで行うよう注意喚起された.現在は斜視手術や屈折矯正が主体で,訓練は補助的なものとされる.乳児内斜視には手術,調節性内斜視には眼鏡装用でまず斜視角を減少させる.眼位が正位や斜位になれば両眼視はおのずから段階的に改善していく.しかし,わずかな内斜視が残り,微小角斜視になったり交代視したり,両眼視の困難な例が早期発症のものに多い.感覚性融像はあっても運動性融像が弱く,正しい位置に眼を動かせない例もあり,改善に限界がある.著者が受けた訓練は運動面のものが多く,その点で従来の訓練と異なる.48歳からの訓練著者は1954年生まれ.生後3カ月で内斜視を発症し,乳児内斜視の診断のもと,2,3,7歳と3回の斜視手術を受け,わずかに内上斜視を残す状態となった.矯正視力は両眼とも1.0,潜伏眼振を伴い,立体視はなく素早い交代視で対処していた.48歳を前に眼の疲れや遠くが見えにくく運転に困難を覚えたため(絶え間ない交代視のため世界が小刻みに震えて見えるとの記載)眼科医を訪れたが,両眼視なしと確認されただけ.やむなく検眼医を受診した.数年にわたる訓練を受けてrandomdotstereogram(RDS.単眼の手がかりが少ない立体視検査.連載⑤参照)で立体視を得るまでに改善する.米国では眼科医ophthalmologistが斜視手術を,検眼医optometristが眼鏡処方を担当する.発達検眼医は検眼学による視能矯正を行い,日本の視能訓練士の業務に似る.著者の受けた運動面の訓練を紹介する.内上斜視をプリズム眼鏡で矯正し毎日自宅でも訓練を行った.①衝動性眼球運動(saccade)の訓練.部屋の四隅に異なる数字のカードを1枚ずつ張り,人が読みあげた数字に瞬時に眼を向け数秒固視する.内斜視患者では眼と頭の動きが独立せず,眼を動かすときに頭も同時に動く.眼のみ動かせるよう練習する.②滑動性追従運動(persuit)の訓練.ロープで天井からつるしたボールやコインの振子様の動きを,片眼ずつ,頭を動かさないよう注意して追視する.③不安定なボードの上に乗って字を読む訓練.たとえば平均台に乗るなど体のバランスをとる必要に迫られると前庭器官が活発に働き,視線の安定につながる.前章で紹介した宇宙から帰還後に動揺視を自覚した宇宙飛行士とは著者の夫であり,彼の訴えに彼女は斜視の自分と366あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018の共通点を見出して考察を加えた.④周辺視野を使う.1m四方のボードの中心より放射状に広がる線分があり,線上に多数の光る点が同心円状に配置されている.一つの点が光る→見つけて点を手で押す→別の点が光る→手で押す,これを繰り返す.これまで別々に使っていた中心視野と周辺視野を連携して使えるようになった.運動視差(連載⑥参照.自分が動くとき,固視点より近くは反対方向へ,遠くは同側へ動いて見える現象)やオプティカルフロー(連載⑫参照.運動時の網膜上の像の流れ)は本来単眼の手がかりとされているが,それらを認知する力も高まった.訓練後に固視が安定し,眼の方向をコントロールできるようになったと記している.P系細胞は中心窩に,M系細胞は傍中心から周辺部に多い(連載⑨⑩参照).一連の訓練は眼球運動や周辺視野などM系の能力,上丘を含む膝状体外系や前庭の機能を鍛えることでP系と連携しやすくなったと考える.1+1=無限大そしてある日,運転席でハンドルが宙に浮いて見えるのに気づき,ハンドルの周囲になにもない空間が広がっているのに驚く.単に立体的に見えただけでなく,物を取り巻く空間の広がりを実感したり,物の輪郭がくっきり見えるようになったり,さまざまな描写はユニークで興味深い.RDSで立体視可能になるのはそれから随分あとである.ただしRDSの視角や視差について言及はなく,眼科で行う視差1°以内の検査より立体視しやすかった可能性がある.彼女は自身で考察する.「潜在的に能力のあった両眼視細胞が,両眼から同時に均等に刺激を受けることで神経回路に変化が起こり両眼視細胞として機能しはじめたのではないか.この変化には,大脳皮質だけではなく,前脳基底部*への刺激も必要ではないか.」(*前頭葉底面にある発生学的に古い部分.脳全体の活動を調整することで脳の可塑性,学習,記憶,睡眠など基本的行動に影響を与える)M系の感受性期間は生直後から10カ月頃までで,それ以後の訓練は効果がないと考えられてきた(連載⑱参照).著書には長期訓練により立体視を獲得した成人が多数登場する.上記の訓練でM系が鍛えられ,運動性融像や周辺視野の機能がよくなれば,日常でもっと両眼を使いやすくなると考える.文献1)スーザン・ハリー(宇丹貴代美訳):視覚はよみがえる─三次元のクオリア.筑摩書房,20102)久保田伸枝:斜視視能矯正.視能学(丸尾敏夫,久保田伸枝,深井小久子編),第2版,p407-409,文光堂,2011(84)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 178.内因性細菌性眼内炎鎮静後晩期に発症する網膜剥離(中級編)

2018年3月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載178178内因性細菌性眼内炎鎮静後晩期に発症する網膜.離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに内因性細菌性眼内炎は他臓器の感染巣を由来とする菌血症から発症し,眼内炎全体のC2~8%を占めるに過ぎないまれな疾患であるが,その視機能予後は概して不良である.内因性細菌性眼内炎に起因する網膜.離の多くは,急性期に生じる網膜下膿瘍を伴う滲出性網膜.離である.筆者らは以前に内因性細菌性眼内炎に対する抗菌薬硝子体注射後にいったん炎症が鎮静化していたにもかかわらず,晩期に裂孔原性網膜全.離をきたしたC1例を経験し,報告したことがある1).C●症例62歳,男性.近医内科で播種性血管内凝固症候群(disseminatedCintravascularCcoagulation:DIC)と診断され,救命センターに搬送となった.同センターにて肝膿瘍による敗血症と診断され,血液・肝膿瘍培養よりKlebsiellaCpneumoniaeが検出された.その後,髄膜炎,化膿性脊椎炎,右腸腰筋膿瘍を併発した.また,両眼球結膜の充血が改善しなかったため眼科往診依頼となった.視力は意識レベルが低下していたため測定不能.両眼に虹彩炎と高度の硝子体混濁を認め,超音波CBモード検査で網膜下膿瘍と滲出性網膜.離を疑わせる所見を認め,内因性細菌性眼内炎と診断した.硝子体手術の適応と考えられたが,全身状態不良で手術施行困難であったため,両眼にセファゾリンC0.1Cmlの硝子体注射を施行した.また,抗菌薬の点滴治療も並行して行った.その後,右眼は眼内炎症および滲出性網膜.離が改善せず,光覚なしとなったが,左眼は徐々に滲出性網膜.離は軽快し,矯正視力は(0.02)に改善した.しかし,硝子体注射約C10カ月後に網膜全.離を発症したため硝子体手術を施行した.手術は水晶体切除術を施行した後,硝子体を切除した.後部硝子体は未.離で,後極から周辺に向って人工的後部硝子体.離を作製した.網膜.離発症前に認めていた黄斑部付近の瘢痕病巣の耳側に増殖膜が認められ,その牽引によって瘢痕病巣の耳側縁に裂図1硝子体手術時の所見黄斑部付近の瘢痕病巣の耳側に増殖膜が認められ,その牽引によって瘢痕病巣の耳側縁に裂孔が形成されていた.(文献C1より引用)図2術後の眼底写真術後シリコーンオイル下で網膜は復位し,矯正視力は(0.02)に改善した.(文献C1より引用)孔が形成されていた(図1).同部位の増殖膜を除去し,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,シリコーンオイルタンポナ.デを行った.術後網膜は復位し,左眼矯正視力は(0.02)に改善した(図2).C●内因性細菌性眼内炎に続発する網膜.離内因性細菌性眼内炎に続発する網膜.離には,網膜下膿瘍を伴う滲出性網膜.離,硝子体腔内のフィブリン索状物や網膜前膜などによって生じる牽引性網膜.離,壊死性裂孔から生じる裂孔原性網膜.離のC3タイプがある.これらはいずれも炎症が高度な急性期に生じるが,後C2者は眼内炎自体が鎮静化した後,晩期にも生じうる病態と考えられる.細菌性,真菌性を問わず,内因性眼内炎では炎症が遷延化して増殖性変化が生じることを念頭においたうえで,慎重に経過観察する必要がある.また,眼内炎に対して硝子体手術を施行し,いったん炎症が軽減した症例でも,その後に裂孔原性網膜.離をきたす頻度は意外に高いので,その点も十分に留意する必要がある.文献1)KimuraD,SatoT,SuzukiHetal:Acaseofrhegmatoge-nousCretinalCdetachmentCatClateCstageCfollowingCendoge-nousCbacterialCendophthalmitis.CCaseCRepCOphthalmolC8:C334-340,C2017(81)Cあたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3630910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:眼表面の痛みのメカニズム

2018年3月31日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人田川義晃36.眼表面の痛みのメカニズム北海道大学大学院医学研究院眼科学教室眼表面における角結膜は,身体のなかでもっとも知覚の鋭敏な組織であり,痛みに対する感受性が高い.近年,通常の痛みだけでなく,慢性の持続する痛みの神経機序が解明されてきた.今後,眼表面の痛みに対する疾患概念の確立と,新しい治療法の開発が必要である.●はじめに眼が痛い,ゴロゴロする,乾くなどの訴えで受診する患者は多い.全身の他の部位と比較して,眼は乾く,ゴロゴロする,重たい,しみるなどの多様な訴えがある.このような眼の自覚症状には,角結膜に分布する三叉神経が関与している.しかし,その詳細は近年になってようやく解明されてきたのが現状である.本稿では,角結膜においてどのようにさまざまな感覚が受容されるか,さらに病的状態ではそれがどう変化するかについて概説する.C●痛みとはそもそも痛みとは何か?国際疼痛学会は,痛みを「実際に何らかの組織損傷が起こった時,あるいは組織損傷が起こりそうな時,あるいはそのような損傷の際に表現されるような,不快な感覚体験および情動体験」と定義している1).この定義に従うと,狭義の眼の痛み以外にも,眼に生じるさまざまな不快感は痛みに含まれる.そこで,本稿では狭義の痛みのみではなく,眼表面における不快な感覚について取りあげる.C●痛みを伝達する神経線維痛みを伝達する神経線維は知覚神経であり,その太さ(伝導速度)によりCACb,Ad,C線維に分類される(表1)2).Ab線維はおもに触圧覚を伝達し,痛みの伝達にはあまり関与していない.ACd線維はおもに局在が比較的明瞭な痛みを伝達する.C線維は局在が不明瞭な痛みを伝達し,内臓痛などはこのCC線維がおもに伝達している.C●痛みを受容するTRPチャネル痛みを伝達する神経はおもにCACd線維とCC線維であ(79)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1知覚神経線維の種類と特徴2)線維直径伝導速度機能CAb5~1C2Cμm30~7C0Cm/s触覚・圧覚CAd2~5Cμm12~3C0Cm/s痛覚・温度覚・触覚CC0.4~C1.2Cμm0.5~2Cm/s痛覚・温度覚表2眼表面に発現するTRPチャネル3)るが,その線維の神経終末では痛みはどう受容されるのだろうか?全身の末梢知覚神経にはCtransientCrecep-torpotentialcation(TRP)channelとよばれる侵害受容器が存在する2).侵害受容器とは,組織損傷を起こしうるような侵害刺激を電気信号に変える変換器である.ヒトではC27種類あることが知られているが,眼表面では次のC3種類が重要な役割を果たしている(表2)3).まず,熱や酸刺激に対して反応するCTRPV1は代表的な痛みのレセプターである.乾燥感はCTRPM8とよばれる低温や浸透圧変化に対して反応するレセプターが受容する.TRPA1は多様な化学的刺激に反応し,痛みやしびれを伝達するといわれている.角結膜における知覚神経にも,全身の末梢知覚神経と同様に,これらのCTRPチャネルが発現していることが知られており,眼での多様な感覚を受容している.C●通常の痛みと病的な痛み乾燥した部屋では涙液の蒸発が亢進し,眼表面の気化熱が奪われることで眼表面温度が低下する.その温度低下をCTRPM8が受容し,乾燥感を生じる.あるいは,眼に酸性の液体が入るとCTRPV1が酸刺激を受容し,痛あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C361図1角膜神経(生体共焦点顕微鏡による写真)a:正常者.b:ドライアイ患者.神経密度の低下がみられ,神経が障害されている.みが生じる.これらは通常の生体反応であり,生体における警告信号を正しく伝えているという点で生理的な痛みである.一方で,炎症や神経障害が生じているときにはCTRPチャネルの感作が生じるといわれている.たとえば,プロスタグランジンCE2は,TRPV1が反応する閾値を下げて,通常では反応しない刺激に対してもCTRPV1が反応するようにできる.生体内で炎症が生じると炎症性メディエーターが放出され,TRPチャネルの閾値が下がることで痛みを感じやすくなる.また,帯状疱疹などで神経が障害されると,急性期が過ぎても痛みの閾値が下がったままの状態が持続してしまう.このように神経が障害されることで生じる痛みを,とくに神経障害性疼痛とよぶ2).この神経障害性疼痛では,急性期が過ぎても痛みが持続してしまう.これは,本来の生体における警告信号としての役割を果たすわけではなく,病的な痛みが生じていると考えられる.C●眼表面における病的な痛み眼表面においても病的な痛みは存在するのだろうか?日常臨床ではしばしば病的な痛みを訴えていると思われる患者に遭遇する.LASIK後の症例や三叉神経第C1枝の帯状疱疹後の症例では末梢知覚神経が障害されるため,神経障害性疼痛が引き起こされていると想定される(図1).ドライアイと診断されている患者のなかにも,病的な痛みを抱えていると思われる患者は多い.角結膜上皮障害が少なく,涙液層破壊時間の短縮もないか軽度で,強い自覚症状を訴える症例では,眼表面の末梢神経の興奮が持続する神経障害性疼痛が生じていると考えられる.C●おわりに眼表面の病的な痛みを背景に外来受診される患者は思いのほか多いように感じるが,まだ疾患概念が十分に確立されているとはいいがたい.眼の痛みを訴える患者の神経病態の解明とその治療法の開発は,眼科領域においても今後の大きな課題と考えられる.文献1)日本ペインクリニック学会用語委員会(訳):国際疼痛学会痛み用語C2011年版リスト.20122)丸山一男:痛みの考え方─しくみ・何を・どう効かす─.p22,93,南江堂,20143)BelmonteCC,CNicholsCJJ,CCoxCSMCetCal:TFOSCDEWSCIICpainandsensationreport.OculSurfC15:404-437,C2017C362あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(80)

抗VEGF治療:OCTアンギオフラフィー所見と抗VEGF療法

2018年3月31日 土曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二50.OCTアンギオグラフィー所見と片岡恵子名古屋大学大学院医学系研究科眼科学感覚器障害制御学教室抗VEGF療法光干渉断層計(OCT)の技術を発展させたCOCTアンギオグラフィーの登場により,造影剤を使用することなく非侵襲的に脈絡膜新生血管(CNV)をとらえることが可能となってきた.本稿ではCOCTアンギオグラフィーを用いた加齢黄斑変性におけるCCNVの描出方法と,抗CVEGF療法に対するCCNVの反応について紹介する.OCTアンギオグラフィーとは光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)アンギオグフフィーは,血球の動きにより生じるOCT画像の微細な変化をとらえることで血管像を描出する.OCTの技術を用いているため,血管の三次元的な情報を含有しており,網膜および一部脈絡膜の任意の層の血管像を解析することが可能である.現在使用されているCOCTアンギオグラフィーの多くは自動層別解析機能が搭載されており,網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithelium:RPE)などの高反射な構造物を指標に自動で各層を認識している2).しかし,RPEの断裂や出血・滲出物などによるCRPEラインの不明瞭化,RPE下病変による隆起などがほぼ必発である加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegeneration:AMD)のような黄斑疾患においては,自動層別解析では病変をとらえきれない可能性があり,注意が必要である.脈絡膜新生血管(choroidalCneovascularization:CNV)を確実に描出するためには,手動で層別解析の境界線を設定し,病変を含むように網膜外層からCBruch膜までの解析を行う方法がある.この方法を用いたCNV検出率は高い特異度(約C91%)を示すが,感度は約C50%に停まるとの報告がある3).しかし,ここ数年におけるCOCTアンギオグフィー技術の進歩はめざましく,機種によってはこの報告より感度が高くなってきている可能性はある.COCTアンギオグラフィーでみるAMDAMDの一例を図1に示す.従来の造影検査で描出されたCCNVがCOCTアンギオグラフィーでも同程度に描出されている.血管内皮増殖因子(vascularendotherialgrowthfactor:VEGF)阻害薬投与後C1カ月では,OCT(77)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYaFAICGAbcde図1VEGF阻害薬にて脈絡膜新生血管(CNV)が著減し,著明に縮小した一例a:初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)の早期像.Cb~e:初診時(Cb,d)およびCVEGF阻害薬投与C1カ月(Cc,e)の光干渉断層計(OCT)およびCOCTアンギオグラフィー画像.で示すCCNVがCVEGF阻害薬投与後,著明に減少縮小している.C上の明らかな滲出物の減少とCOCTアンギオフラフィー上でのCCNVの縮小がみられる.一方,OCTアンギオグラフィーの最大の欠点として,血管漏出をとらえることができないことがあげられる4).そのため,OCTアンギオグラフィーのみでCCNVあたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C359aFAICGAabbcde図2VEGF阻害薬投与前後でCNVに大きな変化を生じなかった一例a:初診時のCFAおよびCICGAの早期像.Cb~e:初診時(Cb,d)およびCVEGF阻害薬投与C1カ月(Cc,e)のCOCTおよびOCTアンギオグラフィー画像.Cの活動性を評価することは困難である.図2の症例では,VEGF阻害薬投与後C1カ月でCOCT上にて網膜浮腫が消失したことが確認できるが,OCTアンギオグラフィーのCCNV像は治療前後でごくわずかに減少したものの,CNVは依然残存しており,OCTアンギオグラフィーの画像だけでは疾患の活動性は判断できないことがわかる.また,図3の症例はCOCTアンギオグラフィーにて異常血管網とポリープ状病巣が描出されたものの,1年以上にわたり滲出性変化の増強がなく,活動性がないと判断し,抗CVEGF療法を行わなかったポリープ状脈絡膜血管症の一例である.この症例においても,OCTアンギオグラフィーによるポリープ状病巣の描出と疾患活動性は相関していないと考えられる.したがって,CNVの活動性の評価は,従来の画像検査や疾患の経過等と合わせて多角的に判断する必要がある.360あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018cFAICGAd図3活動性変化を示さなかったポリープ状脈絡膜血管症の一例a:カラー眼底写真にて橙赤色病変()がみられる.Cb:OCTアンギオグラフィー画像.Cc:FAおよびCICGAの早期像.Cd:OCT像.中心窩下にわずかに漿液性網膜.離がみられる.Ca~cのは同一のポリープ状病巣を示す.おわりにOCTアンギオグラフィーの画像システムは日々進歩しており,今後の技術の発展に期待したい.文献1)KimDY,FinglerJ,ZawadzkiRJetal:OpticalimagingoftheCchorioretinalCvasculatureCinCtheClivingChumanCeye.CProcNatlAcadSciU.S.A.C110:14354-14359,C20132)GaoSS,JiaY,ZhangMetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiography.InvestOphthalmolVisSciC57:20163)DeCarloTE,FilhoMA,ChinATetal:Spectral-domainopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCofCchoroidalCneovascularization.OphthalmologyC122:1228-1238,C20154)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedCNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC35:C2163-2180,C2015(78)C

緑内障:緑内障と腫瘍壊死因子(TNF)

2018年3月31日 土曜日

●連載213監修=岩田和雄山本哲也213.緑内障と腫瘍壊死因子(TNF)北岡康史聖マリアンナ医科大学眼科学緑内障の原因は多因子であり,眼圧以外では老化,グルタミン酸,血流障害,酸化ストレス,サイトカインなどが報告されている.サイトカインのなかでも腫瘍壊死因子(TNF)はある種の緑内障と関係があると考えられており,ここでは現在までに知られている知見を紹介する.C●前房水のTNF手術時の前房水サンプルから腫瘍壊死因子(tumornecrosisCfactor:TNF)測定キットCELISAでCTNF濃度を測定した研究によると,84例の緑内障患者のサンプルのなかでCTNF陽性はC15例(17.8%)であり,コントロール群白内障患者C79例ではCTNF陽性がC4例(5.0%)であったのに比して,有意に高かったと報告されている1).この研究では緑内障をサブタイプでも比較しており,TNF陽性は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)でC4例(13.7%),正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)でC3例(10.7%),落屑緑内障でC8例(29.6%)となっており,落屑緑内障は明らかに陽性率が高い.また,別のグループの報告では,POAGC32例と白内障C32例を比較し,TNF濃度が緑内障でC3.35Cpg/ml,白内障でC1.09Cpg/mlと有意差をもってやはり緑内障で高値となっている2).しかし,multiplexCbeadCimmunoassayを用いてさまざまなサイトカインを比較した研究では,TNF濃度が白内障C21例でC1.5C±0.7Cpg/ml,POAG20例でC1.6C±1.2Cpg/mlとまったく上昇していない3).この研究では,落屑緑内障C23例でC2.3C±1.7Cpg/mlと有意ではないが(p=0.0800)上昇傾向を示していた3).やはりさまざまなサイトカイン,ケモカインを測定した研究では,TNF濃度が白内障C23例でC9.58Cpg/ml,緑内障C38例(POAG26例,原発閉塞隅角緑内障C12例)でC12.65Cpg/mlと上昇傾向だが有意差を示していなかった(p=0.086)4).この研究では陽性率で有意差を認めたと報告されている(白内障で16/23,緑内障でC35/38)4).これらの所見は,TNFが原因か何かの結果かは不明だが,緑内障ではCTNFが上昇していることを示唆している.C●TNFの遺伝子多型TNF遺伝子のC308位のCGC→CA多型の存在は,転写をC6~7倍増加させることが報告されており,産生されるCTNFレベルがさまざまな臓器で増加することにつながる.この遺伝子多型が緑内障に関与しているとの報告と,関係ないとの報告がある.AsianではCPOAGと関係しているとの報告5),落屑緑内障と関係しているとの報告6)がある一方,CaucasianではCPOAGと有意な関係はないとの報告,落屑緑内障と有意な関係はないとの報告がある7).その後のメタアナリシスの研究では,TNF遺伝子のC308位のCGC→CA多型の存在が高眼圧タイプのPOAGのリスクと有意に相関したと報告されている8).これらのことからも緑内障にCTNFの発現が関与していることが示唆されている.C●TNFの眼組織での発現ヒト緑内障眼でCTNFとその受容体であるCTNF-R1がコントロール眼に比して,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)や視神経乳頭で発現が上昇していたとの報告がある.TNFの産生はアストロサイトやマイクログリアが行っている.Tezelによると,緑内障ストレスがグリアを活性化し,グリアからCTNFが産生され,RGCを直接攻撃,もしくは一酸化炭素,エンドセリン,アミロイドCbなどを介して間接的にCRGC障害を起こす9).同グループからの発表で,ヒト緑内障の網膜サンプルと年齢を一致させたコントロール網膜サンプルをプロテオミクスで比較検討した研究では,緑内障眼からのサンプルにおいて,TNF/TNF-R1Csignalingに結びつく多くの蛋白発現が亢進していたことも報告されている.(75)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3570910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1視神経軸索1本の模式図と電子顕微鏡所見●TNFと軸索障害Nakazawaらによると,高眼圧マウスモデルで網膜のTNFが上昇し,TNFノックダウンで軸索障害が抑制できることを示している.TNFによりマイクログリアやアストロサイトが活性化し,軸索障害に寄与することもわかっている.軸索障害には軸索輸送も関与しており,多くの軸索輸送はレールの役割をするCmicrotubulesによって運ばれている.これは電子顕微鏡では観察することができる(図1).この写真では正常なCneuro.lamentも観察できるが,軸索障害ではこれらは束になって集まり蓄積される.また,ミトコンドリアも行き来しており,ほかにも大きいものではオートファゴソームも輸送されている.C●おわりに他科で臨床応用されているCTNF阻害薬であるCetan-erceptの緑内障への効果は動物モデルでのみ報告があり,ヒトへの応用にはCTNFの関与が高いタイプの緑内障の細分化が必要であると考えられる.文献1)SawadaCH,CFukuchiCT,CTanakaCTCetCal:TumorCnecrosisfactor-alphaCconcentrationsCinCtheCaqueousChumorCofCpatientsCwithCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:C903-906,C20102)BalaiyaCS,CEdwardsCJ,CTillisCTCetCal:TumorCnecrosisCfac-tor-alpha(TNF-a)levelsCinCaqueousChumorCofCprimaryCopenangleglaucoma.ClinOphthalmolC5:553-556,C20113)TakaiCY,CTanitoCM,COhiraCA:MultiplexCcytokineCanalysisCofCaqueousChumorCinCeyesCwithCprimaryCopen-angleCglau-coma,CexfoliationCglaucoma,CandCcataract.CInvestCOphthal-molVisSciC53:241-247,C20124)ChuaJ,VaniaM,CheungCMetal:Expressionpro.leofin.ammatoryCcytokinesCinCaqueousCfromCglaucomatousCeyes.MolVisC18:431-438,C20125)LinCHJ,CTsaiCFJ,CChenCWCCetCal:AssociationCofCtumourCnecrosisCfactorCalphaC-308CgeneCpolymorphismCwithCpri-maryCopen-angleCglaucomaCinCChinese.CEye(Lond)C17:C31-34,C20036)KhanCMI,CMichealCS,CRanaCNCetCal:AssociationCofCtumorCnecrosisCfactorCalphaCgeneCpolymorphismCG-308ACwithCpseudoexfoliativeCglaucomaCinCtheCPakistaniCpopulation.CMolVisC15:2861-2867,C20097)MossbockG,RennerW,El-ShabrawiYetal:TNF-alpha.308G>Aand.238CG>ACpolymorphismsCareCnotCmajorCriskCfactorsCinCCaucasianCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma.MolVisC15:518-522,C20098)XinX,GaoL,WuTetal:RolesoftumornecrosisfactoralphaCgeneCpolymorphisms,CtumorCnecrosisCfactorCalphaClevelinaqueoushumor,andtherisksofopenangleglau-coma:ameta-analysis.MolVisC19:526-535,C20139)TezelCG:TNF-alphaCsignalingCinCglaucomatousCneurode-generation.ProgBrainResC173:409-421,C2008358あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C(76)C