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八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と 糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移

2018年1月31日 水曜日

《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):131.135,2018c八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移大野敦粟根尚子梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesinResultsofConsciousnessSurveyonCooperationbetweenOphthalmologistandInternist,andDiabeticEyeNotebookatOphthalmologyClinicinHachiojiCityAtsushiOhno,NaokoAwane,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:八王子市内の眼科診療所との糖尿病患者の眼科・内科連携をめざすために,両科の連携と糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する意識を,2002年,2010年,2016年に調査し,その結果の推移を検討した.結果:内科医から臨床情報を得るもっとも多い手段は「糖尿病連携手帳を見る」で,その回答率はC3年ともC80%以上であった.通院しやすい眼科選択のための八王子市内の地図作成時の掲載許可は,いずれもC80%を超えていて,その情報をもとに地図を改訂した.眼手帳を患者に渡すことへの抵抗感は経年的に減少を認めた.眼手帳を渡したい範囲は,「すべての糖尿病患者」との回答の比率が経年的に増えていた.眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答が減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が増加した.結論:2002年に比べてC2010年とC2016年は,各アンケート項目において眼科・内科連携に積極的な施設が増えていた.眼手帳を渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになり,眼科医が渡すことへのこだわりが減っていた.CPurpose・Methods:ToCfosterCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwithCdiabeticCpatientsCinHachiojiCity,wesurveyedcooperationbetweenfamiliesandawarenessoftheDiabeticEyeNotebook(EyeNote-book)in2002,2010and2016,andexaminedthetrendinresults.Results:ThemostcommonmeansofobtainingclinicalCinformationCfromCinternistsCwasCviaCtheCdiabetesCcooperationCnotebook;theCresponseCrateCwasCmoreCthan80%forthe3years.ThepermissionofpublishingatthetimeofcreatingaHachiojiCitymapforeasierophthal-mologyclinicchoicewasmorethan80%;themapwasrevisedbasedonthatinformation.ResistancetodeliveringtheCEyeCNotebookCtoCtheCpatientCdecreasedCoverCtime.CInCtheCrangeCthatCICwantedCtoCpassCtheCEyeCNotebook,CtheCresponserateforalldiabeticpatientsincreasedovertime.ResponsesindicatingthattheEyeNotebookshouldbehandedCoverCbyCtheCophthalmologistCdecreased,CandCresponsesCindicatingCthatCinternistCorCeitherCshouldCdoCsoCincreased.CConclusion:InC2010CandC2016,CasCcomparedCwithC2002,CophthalmologyCclinicsCpressingCforCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwereCincreasingCforCeachCquestionnaireCitem.CResistanceCtoCsharingCtheCEyeNotebookhasdecreased,theNotebookwashandedoverearlier,andtheattentiontoophthalmologistshandeddownwasdecreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(1):131.135,C2018〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthalmologistandinter-nist,DiabeticEyeNotebook,questionnairesurvey.Cはじめに高尾駅からもバス便であるため,自家用車での通院患者の割筆者らの所属する東京医科大学八王子医療センターは,八合が高い.しかし,眼科受診の際には自家用車での受診は困王子市のなかでも山梨県や町田市との境に位置し,最寄りの難であり,そのため眼科への定期受診の間隔があいてしまう〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPAN患者もまれではない.そこで糖尿病・内分泌・代謝内科(以下,当科)では,糖尿病患者の診療において,通院しやすい地元の眼科開業医との連携を重要視してきた1).上記の方針のもと,当科では八王子市内の眼科診療所との積極的な眼科・内科連携をめざし,両科の連携と連携のツールとしての糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の位置付けに対する意識調査を,眼手帳発行C6カ月目のC2002年C11月,発行C8年目のC2010年C6月に施行し報告した2,3).今回,眼手帳発行14年目のC2016年C5月に再度同様な調査を施行した4)ので,本稿では意識調査結果の推移を報告する5).CI対象および方法アンケートの対象は,八王子市内で開業中の眼科診療所で,アンケートの配布施設数,回答施設数,回答率は,2002年C20施設,12施設,60%,2010年C25施設,20施設,80%,2016年C27施設,22施設,81.5%と,回答率の上昇を認めた.回答者のプロフィールを表1に示すが,性別はC3年とも男性がC3/4を占めた.年齢は,2002年,2010年がC40歳代,2016年はC50歳代がそれぞれもっとも多く,3群間に有意差を認めた.一方,眼科医としての臨床経験年数は,2002年,2010年がC11.20年,2016年はC21.30年の回答が最多であったが,3群間に有意差を認めなかった.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行った.今回,アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.誌面の制約上,本稿での報告対象としたアンケート項目は,下記のとおりである.I.糖尿病患者の眼科・内科連携について1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得る主な手段2.内科との連携手段3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望II.眼手帳について4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか6.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか上記のC6項目に対するC2002年,2010年,2016年に施行したアンケート調査結果について比較検討した.3回の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.表1回答者のプロフィール性別2002年2010年2016年男性75%(9名)75%(1C5名)77.3%(C17名)C女性25%(3名)25%(5名)22.7%(5名)年齢2002年2010年2016年30歳代25%(3名)C40歳代50%(6名)50%(1C0名)27.3%(6名)50歳代25%(5名)50%(1C1名)60歳代16.7%(2名)20%(4名)13.6%(3名)70歳代8.3%(1名)5%(1名)9.1%(2名)臨床経験年数2002年2010年2016年.1C0年8.3%(1名)C11.2C0年41.7%(5名)45%(9名)27.3%(6名)21.3C0年33.3%(4名)35%(7名)50%(1C1名)31年.16.7%(2名)15%(3名)22.7%(5名)無回答5%(1名)c2検定Cp=0.98c2検定Cp=0.01c2検定Cp=0.48II結果1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段(表2)3年とも「患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る」がC80%以上の回答率でもっとも多く,ついで「患者から直接聞く」がC60.70%台であった.C2.内科との連携手段(表3)2002年は市販の,2010年とC2016年は自院のオリジナルの診療情報提供書の利用がそれぞれもっとも多い傾向を認めた.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望(表4)「掲載して欲しい」と「どちらでもかまわない」を合わせると,2002年C83.3%,2010年C100%,2016年C95.5%といずれもC80%を超えていた.最新のC2016年の結果において,回答されたC22施設のうち閉院予定のC1施設を除くC21施設から掲載許可が得られたので,その情報をもとに地図を改訂した.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(表5上段)有意差は認めないが,2010年とC2016年の方が眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感は少なかった.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか(表5中段)眼手帳を渡したい範囲は,有意差は認めないものの「すべての糖尿病患者」と回答した割合が,2002年よりもC2010年・2016年はC60%台に増えていた.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか(表5下段)「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年よりもC2010年・2016年は減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が約C85%に増加した.CIII考按1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段今回の結果より,血糖コントロール状況を把握する方法として,内科医の発行する糖尿病(連携)手帳の利用が最多ではあったが,手帳を持参されない患者においては血糖値やHbA1c値を聞くとの回答がC60.70%台を占めていた.この背景には,糖尿病(連携)手帳の発行がまだ十分とはいえない状況が考えられるため,手帳の普及も今後の課題である.C2.内科との連携手段今回の検討において,筆者らが作成にかかわった糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書6,7)の利用率は,表2内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段2002年2010年2016年1)2)患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る患者から直接聞く91.7%75%80%70%81.8%63.6%3)内科医に手紙や電話で連絡をとる16.7%15%0%4)その他の手段10%9.1%無回答(5%)複数回答者ありc2検定:p=0.62表3内科との連携手段表4自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための2002年2010年2016年1)自院のオリジナルの診療情報提供書を主に用いている33.3%50%50%2)市販の診療情報提供書を主に用いている50%30%27.3%3)糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書を主に用いている33.3%5%4.5%4)その他の手段25%13.6%無回答(5%)(4C.5%)C八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2002年2010年2016年1)掲載して欲しい66.7%75%81.8%2)どちらでもかまわない16.7%25%13.6%3)掲載して欲しくない16.7%4.5%Cc2検定:p=0.31c2検定:p<0.1表5眼手帳に関する3つのアンケート結果眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感2002年2010年2016年1)まったくない41.7%75%72.7%2)ほとんどない50%15%27.3%3)多少ある8.3%10%0%4)かなりある0%C眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか2002年2010年2016年1)すべての糖尿病患者41.7%65%68.2%2)網膜症の出現してきた患者58.3%35%31.8%3)正直あまり渡したくない0%Cc2検定p=0.14c2検定p=0.29眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか2002年2010年2016年1)眼科医が渡すべきである33.3%15%13.6%2)内科医から渡してもかまわない16.7%35%13.6%3)どちらでも良い41.7%50%72.7%無回答(8C.3%)C2002年にC33.3%認めたものの,2010年とC2016年はC5%以下にとどまり,自院のオリジナルの診療情報提供書の利用が50%で最多であった.連携に熱心な眼科医ほどオリジナルの紹介状を持っている可能性は高く,糖尿病患者専用の提供書をわざわざ利用する必要性を感じないこともうなずける.また眼科医の記入する部分は,糖尿病専門医として欲しい情報が多く含まれており,眼科が発信元になる場合にその記入する部分の多さは負担になることが予想される.それに比べて眼科医がもらえる情報量は多いとはいえず,患者数が多く外来の忙しい眼科医ほど現在の提供書には魅力を感じないかもしれない.そこで日常臨床では,病状が比較的安定している際の両科の連携手段として,糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用を頻用しており,これにより外来での時間的負担を軽減したうえで,より細やかな連携が可能である.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2010年とC2016年の掲載許可は,全回答施設から得ることができ,その情報をもとに作成したマップの利用により,自家用車でないと当センターに来院困難な糖尿病患者に通院しやすい地元の眼科診療所を紹介することが容易になった.また院内の眼科においても,より重症患者を中心の診療が可能になり,待ち時間の短縮も期待される.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感多摩地域の眼科医における眼手帳に対するアンケート調査c2検定p=0.21C結果の推移において,眼手帳発行C2年目以降「まったくない」と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えていた8)が,今回の八王子の結果はさらにその比率が高かった.外来における時間的余裕ならびに眼手帳の配布時と記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果といえる.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか眼手帳を「すべての糖尿病患者に渡したい」との回答が,眼手帳発行半年後のC2002年C11月にC41.7%占めた.前述の多摩地域での検討では,同回答が半年目でC27.1%にとどまり8),船津らの発行C1年目の調査でもC24.8%であった9)ことより,八王子市内の眼科診療所における眼手帳発行直後からの「すべての糖尿病患者」の選択率の高さが浮き彫りにされた.またC2010年とC2016年は同回答がC60%台に増えていたが,この結果も多摩地域での検討8)におけるC7年目C45.6%,10年目C51.9%,船津らの検討でのC6年目の調査9)でのC31.8%を上回っていた.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年はC33.3%認めたが,2010年とC2016年はC15%以下に減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答がC85%以上に増加した.先の多摩地域での検討8)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.先の設問C4とC5の結果を合わせて年次推移をみると,八王子市内の眼科診療所における眼手帳の早期からの広範囲の有効利用による眼科・内科連携への積極的な取り組みが浮き彫りにされた.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました八王子市内の眼科診療所の医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦:眼科と内科の診療連携.月刊糖尿病C7:53-60,C20152)大野敦,齋藤由華,旭暢照ほか:眼科診療所に対する眼科・内科連携ならびに糖尿病眼手帳に関するアンケート調査.日内会誌92((臨時増刊号):177,20033)大野敦,梶明乃,梶邦成ほか:八王子市内の眼科診療所に対する糖尿病眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査.網膜C2010講演抄録集:119,20104)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における糖尿病患者の眼科・内科連携と糖尿病眼手帳第C3版の位置付けに関する意識調査.糖尿病合併症C30(Supplement-1):191,20165)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と眼手帳に関する意識調査結果の推移.糖尿病合併症30(Supplement-1):246,20166)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20027)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20028)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMed34:1657-1663,C20149)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C2005***

基礎研究コラム 8.細胞の老化現象

2018年1月31日 水曜日

細胞の老化現象細胞老化とは細胞老化とは,細胞に対するいろいろなストレスが原因で,不可逆的に細胞が増殖できなくなってしまうプロセスのことです.老化や老化に関係する疾患の原因である可能性があることから,治療のターゲットになるのではないかと注目されています.細胞老化に関しての初めての報告はC1961年のCHay.ickらによるもので,培養細胞は一定回数の分裂を繰り返したらもう分裂することができなくなるというものでした1).これは染色体の端にあるテロメアという構造が細胞分裂とともに短くなり,使い果たされると分裂できなくなるという現象によるものでした.このようなテロメア依存性の細胞老化以外にも,テロメア非依存性の細胞老化もあることが知られています.たとえば,DNA損傷,紫外線,活性酸素種などがトリガーとなって細胞老化プログラムを進めるstress-inducedCprematureCsenescenceとよばれるタイプの細胞老化があります.老化細胞の特徴老化細胞を見わける特異的なマーカーはありませんが,いくつかの特徴的なサインがあります.たとえば,細胞が大きくなる,SA-b-GALという酵素の活性が高まる,細胞周期を止める因子であるCp16やCp21が増加する,などです.さらには,老化細胞は炎症性サイトカイン,増殖因子,マトリックスメタロプロテアーゼなどを分泌することが明らかになり,このような現象はCsenescence-associatedCsecretoryphenotype(SASP)とよばれ,注目されています(図1).細胞老化制御の臨床への応用老化細胞は生体にとってとくに二つの面で悪いと考えられています2).一つ目は細胞分裂ができないために組織修復ができなくなってしまうということです.二つ目はCSASPにより生理活性物質が分泌されることで,動脈硬化,糖尿病,癌などさまざまな疾患の発生,増悪に関係したり,組織の線維化を生じたりするということです.そこで,薬などで体から老化細胞を取り除くことで個体の老化を治したり,老化に関係する疾患の治療をしたりすることができるのではないかと研究が進められています.現在までのところ,そのような治療は行われていませんが,将来的にはもしかすると飲み薬で,体の中から老化細胞だけを取り除くことができる夢のよ奥村直毅同志社大学生命医科学部AutocrineによりParacrineによるテロメア短縮化さらなる細胞老化近くの細胞を細胞老化DNA障害紫外線活性酸素種細胞培養細胞老化SASP・細胞分裂の停止・SASPによる生理活性物質の分泌図1細胞老化の模式図テロメア依存性またはテロメア非依存性(DNA損傷,紫外線,活性酸素種など)の細胞老化が誘導される.老化した細胞は,細胞分裂の停止やCsenescence-associatedsecretoryphenotype(SASP)などの特徴を示す.うな治療が可能になるということも,ありえない話ではないかもしれません.再生医療と細胞老化制御最後に,筆者らが開発している培養角膜内皮細胞移植のことを紹介させていただきます.ヒトの角膜内皮細胞の培養は困難で,培養できても細胞密度がC500個/mmC2くらいで増殖を止めてしまいます.この現象は培養のストレスによる細胞老化ではないかと考え,調べたところ,上述の老化細胞のマーカーがいくつも陽性でした.そこで細胞老化が進むときに活性化するCp38CMAPKシグナルの経路を止める薬を培養液に加えたところ,細胞老化は起こらず,高い密度の細胞の培養に成功しました3).現在までにC35名以上の患者さんの治療を行いましたが,移植した細胞はこの方法で細胞老化を制御したものです.案外,細胞老化の制御の臨床応用は,再生医療の分野で一番に進んでいくのかもしれません.文献1)Hay.ickL,MoorheadPS:Theserialcultivationofhumandiploidcellstrains.ExpCellCResC25:585-621,C19612)ChildsCBG,CDurikCM,CBakerCDJCetCal:CellularCsenescenceinCagingCandCage-relatedCdisease:fromCmechanismsCtoCtherapy.NatMedC21:1424-1435,C20153)HongoA,OkumuraN,NakaharaMetal:Thee.ectofap38mitogen-activatedproteinkinaseinhibitoroncellularsenescenceCofCcultivatedChumanCcornealCendothelialCcells.CInvestOphthalmolVisSciC58:3325-3334,C2017(113)Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1130910-1810/18/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 20.逆さめがね・視覚の三次元地図

2018年1月31日 水曜日

雲井弥生連載⑳二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに外界の景色が反転せず網膜に映る「逆さめがね」をかけると,当初世界は倒立して見えるが,徐々に正立して認識できるようになる.私たちが生後体得した視覚の三次元地図と脳の適応力について考える.逆さめがね外界の景色は網膜に上下左右反転して映るが,私たちが認識するのは正立の景色である.もし反転せず網膜にそのまま映ったらどのように見えるだろうか.Strattonは100年ほど前に実験を行っている1).彼は凸レンズやプリズムを組み合わせて網膜に正立の像が映るような眼鏡を作り,自分で試した.その様子が『動物は世界をどう見るか』(鈴木光太郎著,新曜社,1995)2)に詳しく記載されているので引用する(一部省略).「逆さメガネとは,プリズムや鏡などを使って網膜に正立の(そして左右も逆転していない)像を映し出すしかけだ.このメガネをかけると,当然ながら,外界は上下左右とも逆転して見える.…右足を踏み出せば,足が視野の中で左側の向う側からこちらに向かって踏み出されるように見え,右に見えるものに目を向けようとすると,視線は思いもよらず,左に行ってしまう.視覚的な位置や方向は,実際の位置や方向と対応関係が逆になって,混乱した状態に陥ってしまう.ところがである.このメガネをかけたまま1週間や数十日といった期間生活してゆくと,逆さの世界が不自然ではなく感じられてくるのだ.自分の手足が視野のなかでどの位置にあり,どう動かせばどの方向に動くという対応関係がふたたび身につくようになれば,世界は逆さではないように見えてくるのである.」つまり網膜に映る反転像をもう一度反転させて認識していたが,そのやり方が通用しなくなったため,反転せずに認識するやり方を脳が始めたのである.逆さめがねの世界は,実は眼科医にとって身近なものである.倒像鏡を使いレンズを通して浮かぶのはちょうど逆さめがねの世界なので,その感覚に慣れていく過程を思い出していただければどうだろう.(111)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1視覚に基づく三次元地図XYZ軸方向の情報を統合して視覚による三次元地図を脳内に再現し,物の位置を定める.F:中心窩.視覚に基づく三次元の地図自分を原点としてXYZ軸方向に広がる三次元の空間を,私たちは両眼の網膜像をもとに再現している(図1).基準となるのが固視点と両眼中心窩Fを結ぶ線であるが,両眼を合成したような一つの目を両眼の間に想定する方がイメージしやすい.このような一つの眼を重複眼とよぶ.重複眼の中心窩と固視点を結ぶ線はZ軸と一致し,「真正面」の基準となる.網膜に像の映る場所が位置情報となり,XY平面での位置を定める.Z軸方向の位置を定めるのが,両眼情報として両眼視差や輻湊角,単眼情報として単眼の手がかりや運動視差(連載⑥参照),水晶体による調節などの要素である.両眼視差については,融像による凸凹の感覚以外に,たとえば生理的複視のような融像できないほどの大きな視差も奥行き情報として利用される(連載③参照).これが視覚に基づく三次元の地図である.その他の感覚(聴覚・体性感覚・前庭平衡感覚など)についてもそあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018111れぞれの地図があり,それらが頭頂連合野で統合され(連載⑲参照),違和感なく行動できる.逆さめがねをかけると視覚地図が反転し,他の感覚と乖離してしまう.しかしその世界で体を動かし周囲に働きかけていくと,他の感覚地図とのすり合わせが進み,やがて正立した像を得られるようになる.三次元地図の体得自分が使っている視覚の三次元地図は,その存在も知らされず誕生と同時にこの世界に放り出され,無我夢中で一から体得したものである.その作業は逆さめがねの世界に慣れるより,もっと困難なものだっただろう.視覚地図の体得には,実際に動き回り,物に働きかけることが鍵となると以下の実験で示された3).生直後から約10週間暗室で育てた2匹のネコをメリーゴーランドのような装置につなぐ(図2).1匹は自由に動ける.もう1匹はバスケットに入れられ自分では動けないが,もう1匹のネコの動きに連動して運ばれる.2匹とも1日3時間を装置で,残りの時間を暗室で自由に動き回れる環境で数日から数週間過ごさせる.バスケットネコは,たとえば眼前の机の角に前肢を伸ばすような動作が正確にできず,障害物をうまく避けて歩けないなど,視覚による行動の制御ができなかった.自分の手足や体の動きとそれによる網膜像の変化とを対応づけて行動することを「視覚・運動協応」とよぶ2,3).能動的に周囲に働きかけられる環境が大切である.固視・定位脳内に三次元空間を再現し物の位置を定めるには,安定した固視が必要である.眼・頭・身体が動いても目の前の景色が揺れないように補正する前庭系との協調が必112あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018a.中心窩固視b.傍中心窩固視c.傍黄斑固視d.周辺固視e.固視不良f.固視不良図3固視の分類重度の弱視で固視不良状態(e・f)であっても,早期治療によりd→c→b→aと改善する例もある.要である.「見たい物に目を向ける・対象物を両眼の中心窩でとらえる」という普通のことが実は訓練を要することなのだ.強度の弱視では自分の中心窩がどこを向いているかがわからない.そのため意識的に眼を動かすことができず,眼球は小刻みに揺れ内転したままとなる.早期発見と治療により固視は改善する(図3).治療が遅れると視力は改善しても不安定な固視が残り,視覚地図の基準が定まらず,空間知覚にも影響を及ぼす.文献1)StrattonGM:Visionwithoutinversionoftheretinalimage.PhycholRev4:341-360,463-481,18972)鈴木光太郎:ものの位置を知る.動物は世界をどう見るか,p219-246,新曜社,19953)HeldR,HeinA:Movement-producedstimulationinthedevelopmentofvisuallyguidedbehavior.JComp&Physi-olPsychol56:872-876,1963(112)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 176.梅毒性ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2018年1月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載176176梅毒性ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに梅毒性ぶどう膜炎は梅毒第C2,3期にみられ,臨床症状は多彩で特徴的な所見に乏しい.後眼部病変としては網脈絡膜炎が一般的で,ごま塩眼底(pepper-and-saltfundus)は鎮静化した脈絡膜炎の所見としてよく知られている.筆者らは,過去に網脈絡膜炎から広範な網膜虚血をきたし,増殖性網膜症,硝子体出血をきたした非典型的梅毒性ぶどう膜炎に対して硝子体手術を施行し,報告したことがある1).C●症例38歳,女性.初診時視力はCRV=0.04(0.05),LV=0.3(1.5).右眼底は耳上側の血管アーケードから黄斑部にかけての網膜出血と,軟性白斑および滲出性変化を伴う網膜静脈炎を認めた.フルオレセイン蛍光眼底検査(.uoresceinCangiography:FA)では,右眼耳上側に閉塞性網膜血管炎を認めた.血清梅毒反応でCRPR陽性,TP抗体陽性(RPRC8倍,TP抗体C8.8COI),FTA-ABS-IgM抗体陽性であった.皮膚科所見として,4カ月前に外陰部に無痛性の湿疹様所見あるも自然軽快していた.HIVは陰性であった.網膜血管炎に対して抗凝固薬投与,梅毒感染に対して広域感性ペニシリン製剤による駆梅療法を開始したが,新生血管からの硝子体出血をきたし(図1a),FAでは乳頭上新生血管と周囲の網膜無灌流域の拡大認めた(図1b).その後,硝子体出血が増強したため硝子体手術を施行した.乳頭新生血管膜は硝子体カッターで切除し,その後,周辺部まで人工的後部硝子体.離を作製し,網膜無灌流領域に眼内光凝固を施行した.術中に採取した硝子体液の梅毒定量検査では,ガラス板法C1倍,TPHA5,120倍で,梅毒性ぶどう膜炎と確定診断した.術後,眼底の視認性は改善し(図2a),網膜血管からの蛍光漏出は著明に減少し(図2b),矯正図1術前の眼底写真(a)とフルオレセイン蛍光眼底写真(b)上耳側に網膜出血および硝子体出血を認める.FAでは広範囲の網膜無灌流域を認める.(文献C1より引用)図2術後の眼底写真(a)とフルオレセイン蛍光眼底写真(b)眼底の視認性は改善し,網膜血管からの蛍光漏出は著明に減少した.(文献C1より引用)C視力はC0.3に改善した.C●梅毒性ぶどう膜炎に対する硝子体手術梅毒性ぶどう膜炎に対して硝子体手術を施行した過去の報告では,硝子体混濁例が多いが,なかには本提示例と同様に閉塞性網膜血管炎による増殖性変化に対して硝子体手術が有効であったとする報告もみられる2,3).このような劇症型の梅毒性ぶどう膜炎では,網膜虚血により惹起される増殖性変化のみならず,網膜壊死による裂孔原性網膜.離の発症にも注意をする必要がある.原因不明の閉塞性網膜血管炎に起因する増殖性網膜症をみた場合,原因疾患として梅毒性ぶどう膜炎も念頭に入れて,早期に全身精査を施行する必要がある.また,本症例のように全身所見に乏しく,梅毒の確定診断が困難な症例に対しては,硝子体手術時に採取した検体による血清学的検査が診断に有用である.文献1)KobayashiCT,CKatsumuraCC,CShodaCHCetCal:ACCaseCofCsyphiliticuveitisinwhichvitreoussurgerywasusefulfortheCdiagnosisCandCtreatment.CCaseCRepCOphthalmolC8:C55-60,C20172)QueirozRdeP,DinizAV,Vasconcelos-SantosDV:Fulmi-nantCproliferativeCvitreoretinopathyCinCsyphiliticCuveitis.CJOphthalmicIn.ammInfectC6:6,C20163)HaugSJ,TakakuraA,JumperJMetal:RhegmatogenousretinalCdetachmentCinCpatientsCwithCacuteCsyphiliticCpanu-veitis.OculCImmunolIn.ammC24:69-76,C2016(109)Cあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1090910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:睫毛内反と眼瞼内反の相違

2018年1月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人34.睫毛内反と眼瞼内反の相違小幡博人埼玉医科大学総合医療センター眼科逆さまつげと聞くと,睫毛乱生,睫毛内反,眼瞼内反などが想起されるが,睫毛内反と眼瞼内反の病態の違いを認識しておく必要がある.睫毛内反は,瞼縁の皮膚が余剰のため,睫毛が眼表面側に向いてしまう状態で,先天性のもので東南アジアの小児に多い.一方,眼瞼内反は,眼瞼皮膚や瞼板を含む眼瞼全層が内反し,睫毛が眼表面に触れている状態で,多くが退行性変化であり高齢者に多い.C●睫毛内反とは睫毛内反は,瞼縁に近い眼瞼の皮膚が余剰のため(贅皮),睫毛が眼表面側に向いてしまう状態で,先天性のもので東南アジアの小児に多い1,2)(図1).点状表層角膜症を生じていることが多く,そのために羞明がおもな症状である.先天性のため知覚が鈍麻しているためか,疼痛の訴えはない.角膜不正乱視や角膜炎(角膜潰瘍)の原因となり,視力低下を生じることがある.顔面の発達とともに自然治癒することもあるとされるが,必ずしもそうではない(図2).C●眼瞼内反とは眼瞼内反は,眼瞼皮膚や瞼板を含む眼瞼の全層が内反し,睫毛が眼表面に触れている状態である(図3).おもな症状は異物感だが,角膜潰瘍を生じることがある.眼瞼内反のもっとも多い原因は加齢に伴う退行性変化であ図1睫毛内反6歳,女児.左下眼瞼の鼻側の瞼縁皮膚が余剰となり,睫毛が内反している.その部分の瞼縁のラインは隠れて見えない.る.病態は,瞼板を支える下眼瞼牽引筋腱膜の脆弱性による上下方向の弛緩と,外眼角と内眼角の靭帯の弛緩による水平方向の弛緩,これらに瞼板上の眼輪筋の作用が加わった結果と考えられている3,4).加齢に伴う眼窩脂肪の萎縮による眼球陥凹も内反に加担する.MRIの矢状断像で,下眼瞼牽引筋腱膜が眼球から離れていて,瞼板が内方へ回旋しているのが観察されている5).C●睫毛内反と眼瞼内反の違い両者の病態については前述の通りだが,もっとも大きな違いは,瞼板の位置が正常か,内方に回旋しているかである(図4).C●治療眼瞼の手術にはいろいろな方法がある.睫毛内反にはHotz変法が一般的に行われている6)(図5).退行性下眼瞼内反の手術は,下眼瞼牽引筋腱膜を前転して瞼板に縫着するCJones法が一般的である(図6).Jones法は再発することがあり,水平方向の弛緩を治すClateralCtarsalstripやCtranscanthalCcanthopexyを併用する術式が報告されている7,8).図2睫毛内反の自然経過a:小学C1年生の男児.右下眼瞼内側に睫毛内反がある.Cb:小学C6年時で自然寛解はない.(107)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1070910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3退行性下眼瞼内反70歳,男性.下眼瞼の瞼板を含む眼瞼全層がロールしたように内反している.瞼縁は隠れて見えない.C図5眼瞼内反の術前後12歳,男児.Ca:Hotz変法の術前.Cb:術後.●用語の問題日本眼科学会の『眼科用語集』第C6版によると,眼瞼内反はCentropionCofCeyelid,睫毛内反はCcilialCentropionと訳されている.海外では睫毛内反はCepiblepharonとよばれることが多いが,用語集でCepiblepharonを調べると眼瞼贅皮と訳されている.このような複数の用語と病態の理解不足が今日まで睫毛内反と眼瞼内反という言葉の混乱を招いていると思われる.文献1)NodaCS,CHayasakaCS,CSetogawaCT:EpiblepharonCwithCinvertedCeyelashesCinCJapaneseCchildren.CI.CIncidenceCandCsymptoms.CBrJOphthalmolC73:126-127,C19892)SundarG,YoungSM,TaraSetal:EpiblepharonineastasianCpatients:theCSingaporeCexperience.COphthalmologyC117:184-189,C20103)KakizakiCH,CZakoCM,CKinoshitaCSCetCal:PosteriorClayerC瞼板LER正常LER睫毛内反眼瞼内反図4睫毛内反と眼瞼内反の違い睫毛内反は,瞼縁の眼瞼皮膚が余剰となり,瞼縁に乗っかる(override)状態となり(→),睫毛が内反する.下眼瞼内反は,下眼瞼牽引筋腱膜(LER)が脆弱となり,瞼板を支える力がなくなる.眼瞼の水平方向の弛緩とあいまって,眼瞼全層が内反する.図6下眼瞼内反の術前後88歳,女性.Ca:下眼瞼牽引筋腱膜前転術の術前.b:術後.advancementCofCtheClowerCeyelidCretractorCinCinvolutionalCentropionCrepair.COphthalCPlastCReconstrCSurgC23:292-295,C20074)NishimotoCH,CTakahashiCY,CKakizakiCH:RelationshipCofChorizontalClowerCeyelidClaxity,CinvolutionalCentropionCoccurrence,CandCageCofCAsianCpatients.COphthalCPlastCReconstrSurgC29:492-496,C20135)KakizakiCH,CZakoCM,CMitoCHCetCal:MagneticCresonanceCimagingCofCpre-andCpostoperativeClowerCeyelidCstatesCinCinvolutionalCentropion.CJpnCJCOphthalmolC48:364-367,C20046)KakizakiH,SelvaD,LeibovitchI:Cilialentropion:surgiC-calCoutcomeCwithCaCnewCmodi.cationCofCtheCHotzCproce-dure.OphthalmologyC116:2224-2229,C20097)LeeH,TakahashiY,IchinoseAetal:Comparisonofsur-gicalCoutcomesCbetweenCsimpleCposteriorClayerCadvance-mentCofClowerCeyelidCretractorsCandCcombinationCwithCaClateralCtarsalCstripCprocedureCforCinvolutionalCentropionCinCaCJapaneseCpopulation.CBrCJCOphthalmolC98:1579-1582,C20148)IshidaCY,CTakahashiCY,CKakizakiCH:PosteriorClayerCadvancementCofClowerCeyelidCretractorsCwithCtranscanthalCcanthopexyCforCinvolutionalClowerCeyelidCentropion.CEyeC30:1469-1474,C2016C108あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(108)C

抗VEGF治療:VEGF阻害薬の作用機序

2018年1月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二48.VEGF阻害薬の作用機序安藤亮野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室現在,わが国で眼科領域において使用されているCVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.実臨床ではそれぞれの特性を理解したうえで選択,使用されるべきである.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.はじめに現在の眼科治療において,血管内皮細胞成長因子(vas-cularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬はもはや欠かせないものとなっている.いくつもの臨床試験によってその投与方法は確立しているといえるが,実臨床ではさまざまな患者背景,既往全身疾患,経済的状況などによって治療法を変更せざるをえないことがある.本稿では各薬剤の特性と作用機序について概説する.阻害薬の種類と特性現在,わが国で眼科領域において使用認可されているVEGF阻害薬にはベバシズマブ,ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトのC4種類がある.それぞれの薬剤特性により,阻害する分子には差異がある(表1,図1).ベバシズマブはC2007年に大腸癌に対する抗癌薬として国内で認可された,VEGF-Aを阻害することで血管新生を抑制するヒト化モノクローナル抗体である.分子量はC150,000とC4種類のなかでもっとも大きく,半減期も長い.眼科領域においては,他のCVEGF阻害薬が登場するまで眼内血管新生疾患,とくに滲出型加齢黄斑変性に広く使用されていたが,オフラベル投与であった.現在でも眼疾患に対しての適応はないものの,特発性脈絡膜新生血管,未熟児網膜症,Coats病,網膜血管増殖性腫瘍,血管新生緑内障など,他のCVEGF阻害薬でも適応となっていない眼疾患に対して使われることがある.ペガプタニブは,2008年に国内初の滲出型加齢黄斑変性に対する薬剤として承認された.核酸(RNAやDNA)以外の物質に作用する核酸医薬品のことをアプタマーとよぶが,ペガプタニブはCVEGF-Aに結合し阻害するC1本鎖CRNAアプタマーである.VEGF-Aにはその分子量によっていくつかのアイソフォームが存在するが,生理的な作用にはCVEGF-ACが強く関与しており,病的血管新生や血管透過性亢進な121ど病理的な作用にはCVEGF-AC165が強く関与している.ペガプタニブはこのCVEGF-ACのみを選択的に阻害する唯一の薬剤である.治療効果は165他のCVEGF阻害薬に及ばないが,添付表1VEGF阻害薬の特性と比較薬剤名分子量阻害分子Fc領域平衡解離定数KC(pM)DVEGF-A165CPlGFCVEGF-BベバシズマブC150,000CVEGF-A有C58CNBCNBペガプタニブC50,000CVEGF-A165C─C─C─C─ラニビズマブC50,000CVEGF-A無C46CNBCNBアフリベルセプトC115,000CVEGF-ACPlGFCVEGF-B有C0.49C38.9C1.92NB:nobinding.(105)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1050910-1810/18/\100/頁/JCOPY文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がなく,安全性が高いと考えられる.ラニビズマブはC2009年に国内で承認されたヒト化モノクローナル抗体CFab断片である.ベバシズマブが抗体製剤であるのに対して,ラニビズマブは抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.アフリベルセプトはC2012年に国内で承認されたVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのCFc領域に融合させていることがこの製剤の特性で,このためVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができる.VEGF-Aのほかにも,VEGF-Bや胎盤成長因子(placentalCgrowthCfactor:PlGF)を阻害する.PlGFも滲出型加齢黄斑変性1)や糖尿病黄斑浮腫1)に関与していると考えられており,効果の増強が期待できる.薬剤間の比較それぞれの阻害薬はCVEGF-ACへの親和性も異なる2).平衡解離定数は,その数値が低いほ165ど親和性が高く,分子と結合しやすいことを示すが,アフリベルセプトは表1のとおりベバシズマブやラニビズマブよりもC100倍ほどCVEGF-ACに結合しやすい.また,VEGFR-1とVEGFR-2の平165衡解離定数はC9.33CpMとC88.8CpMであり,アフリベルセプトのほうがより結合しやすいことがわかる.では,全身への影響はどうだろうか.151名の滲出型加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症患者における各種CVEGF阻害薬の全身薬物動態を調査した報告では,硝子体注射後の血漿中の遊離CVEGF濃度はアフリベルセプト,ベバシズマブ,ラニビズマブの順で低かった3).ラニビズマブでは投与前と比べてほとんど変化がなかったのに対し,アフリベルセプトではC1週間後まで検出感度以下となった.この動態の違いはCVEGFへの親和性の違いや分子量に由来するだけでなく,血管内皮細胞に存在するCFcRn-mediatedCrecyclingというFc部分をもつ蛋白質の分解に対する抑制機構の影響も考えられる.この機構によってCFc部分をもつアフリベルセプトとベバシズマブでは,Fc部分のないラニビズマブと比較して,全身循環からのクリアランスが低いと考えられるためである.新規の阻害薬VEGF阻害薬治療では,治療回数の多さが一つの問106あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018題であり,それが患者にとっても医療者にとっても負担となっている.現在でもさらに新しいCVEGF阻害薬が開発され治験が行われているが,その一つがCbroluci-zumabである.これはCVEGF-Aを阻害するヒト化C1本鎖抗体断片であり,分子量はC26,000と他のCVEGF阻害薬と比べて一番小さい.このためC50Cμlの注射でC6Cmgを投与でき,モル濃度で換算でき,アフリベルセプト2CmgのC12倍,ラニビズマブC0.5CmgのC22倍に匹敵する.高容量を投与できるため眼内からの排出期間も長くなり,実際,滲出型加齢黄斑変性の患者に投与したところ,追加投与が必要になるまでの平均期間はラニビズマブよりもC30日長かった.第CII相試験では,滲出型加齢黄斑変性を対象にアフリベルセプトとの比較がされている4).2カ月ごとの投与の結果,40週までの視力は両者に差はなかったが,brolucizumabのほうが中心網膜厚が薄くなり,網膜内浮腫,網膜下液が回復した割合も多かった.第CIII相試験(HAWK試験,HARRIER試験)が終了しており,実臨床への導入が期待される.おわりに以上のように,ベバシズマブとラニビズマブはCVEGF-A165へ同程度の親和性をもつが,ラニビズマブは血中CVEGFへの影響が非常に少ない.ペガプタニブは,添付文書上,4剤のなかで唯一血栓塞栓症に対する慎重投与の記載がない.アフリベルセプトは親和性が高く,VEGF-A以外の標的分子ももち,効果が強いが,血中CVEGFへの影響も大きい.それぞれの薬剤特性を知ることは,症例に応じたより適切な薬剤の選択につながると考えられる.文献1)AndoR,NodaK,NambaSetal:AqueoushumourlevelsofCplacentalCgrowthCfactorCinCdiabeticCretinopathy.CActaCOphthalmolC92:e245-246,C20142)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetCal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20123)AveryRL,CastellarinAA,SteinleNC:Systemicpharma-cokineticsCandCpharmacodynamicsCofCintravitrealCa.ibercept,Cbevacizumab,CandCranibizumab.CRetinaC37:C1847-1858,C20174)DugelPU,Ja.eGJ,SallstigPetal:Brolucizumabversusa.iberceptCinCparticipantsCwithCneovascularCage-relatedmaculardegeneration:Arandomizedtrial.OphthalmologyC124:1296-1304,C2017(106)

緑内障:眼球の剛性と緑内障

2018年1月31日 水曜日

●連載211監修=岩田和雄山本哲也木内良明211.眼球の剛性と緑内障広島大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学(眼科学)眼圧による機械的な障害,循環障害に加えて角膜,強膜,篩状板の剛性も緑内障の発症あるいは進行に関与する危険因子の一つと考えられている.空気式眼圧計に高速シャインプルーフカメラを搭載したCCorvisCSTは眼圧測定中の角膜挙動の変化を詳細にとらえることができる.CorvisSTを用いた緑内障研究が進んでいる.C●緑内障の危険因子緑内障は多因子性の疾患と考えられている.古くから機械障害説と循環障害説が提唱されてきた1).さらに,疫学的な研究からも緑内障発症あるいは進行の危険因子が明らかにされている.わが国で行われたCTajimiCStudy2)では,高眼圧,高年齢,近視であることが緑内障発症の危険因子として示された.薄い中心角膜厚や乳頭出血が緑内障発症の危険因子としてあげられることもある3).加齢に伴いコラーゲン線維間の架橋が増えることで篩状板や角膜の剛性が変化する.近視では強膜が進展されて眼球の剛性が変化する.角膜の厚さも眼球の剛性に影響することは容易に理解できる.眼圧,循環障害に続いて,眼球壁の剛性も緑内障の危険因子ではないかと考えられるようになった.C●空気式非接触眼圧計と高速カメラ眼球の剛性の測定方法には,摘出眼球から得られた組織を用いて物理的な剛性を測定する,白内障手術のときに一定量の人工房水を前房に注入して眼圧を上昇させて測定する5),などの方法がとられてきた.しかし,このような方法は臨床の場で実際に応用することはできない.筆者らは,空気式眼圧計で眼圧を測定する際に,角膜が変位する量や変位に要する時間を測定して角膜(眼球)の剛性を測定しようと試みてきた.初期のころは高速カメラと眼圧計を直角の位置に配置して,得られた画像から変位量を手作業で解析していた(図1).角膜の中央部の初期変位量は眼圧が高いほど,年齢が若いほど,また男性よりも女性のほうが少ないということが示された6).眼圧が高いほど角膜の変位量が少ないということは直感的に理解できる.しかし,男性の組織のほうが女性より,また高齢者の組織が若年者より硬いと予測されるために,男性や高齢者の角膜変位量(103)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYが大きくなるという結果の解釈ができなかった.そこで測定初期と後期のC2時点における変位量を,角膜中央部だけでなく,空気噴流で角膜の変形を生じない部位でも求めた.その結果,眼圧測定中は角膜だけでなく,眼球自体(眼球のどこまでが変位するかはわかっていない)が後方に変位することがわかった.その全体変位は高齢者ほど大きく,とくに高齢の女性の変位が大きいことがわかった.眼球全体の後方変位が少ないことが若さの特徴と考えられた.高齢者は眼球全体の後方変位が大きくなる.とくに女性において高齢になると後方変位量が極端に増大する.つまり女性の眼球変位量は男性よりも年齢の影響を受けやすいことがわかった7).C●高速シャインプルークカメラを搭載した非接触眼圧計高速シャインプルークカメラを搭載したCCorvisCST(OCULUS社)は角膜の変形する様子を撮影し,画像から角膜や眼球変位のパラメータを自動的に提示することあたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C103yDeformationAmplitudeMaxLargerDeformationAmplitudeMaxSameA2andA2timeforce図2角膜の物理学的特性a:角膜はばねとダンパーの組み合わせでできている.b:上方から力が加わり,図の下方にむけて変位するとき(loading)と元に戻るとき(unloading)では,同じ力が加わっていても変位する量は異なっている.LoadingとCunloadingのときの角膜先端の動きをプロットするとCbのようになる.loadingとCunload-ingで囲まれた面積がChysteresisとよばれ,このエネルギーの差は熱に変換される.Cができる.一般的な空気式眼圧計は,眼圧測定値が得られたときから角膜に吹き付ける空気噴流圧を下げる.一方,CorvisSTは眼圧値と関係なく一定量の空気を一定の圧で毎回噴出させる.また,CorvisSTは全体の動きを除外した真の角膜中央部の変化を示すパラメータを表示してくれる.したがって眼球の動きの変化を理解しやすい.角膜の先端部はばねとダンパーの組み合わせで,その物理的な性質を示すことができる(図2).その先端の動きを線でつなげると,陥凹するときと元の形に戻るときにずれを生じる(hysteresis曲線)8).このChystere-sis曲線に囲まれた部分の面積が角膜のChysteresis〔Ocu-larCResponseCAnalyzerで得られるCcornealChysteresis(CH)とは異なる〕である.白内障術後のChysteresis曲線は,術前と比べて最大押し込み量が増えて,元の位置に戻るときに左方変位していることがわかる.角膜の物理特性を表現するばねとダンパーの両者が弱くなっている状態といえる9)(図3).C●眼球剛性と緑内障プロスタグランジン関連薬は眼球の剛性に影響を与えることがわかっている10).緑内障群と非緑内障群のCorvisCSTのパラメータの違いを検討した報告はあるが,緑内障患者にはプロスタグランジン関連薬が点眼されていることが多いために,緑内障群と非緑内障群の剛性の違いを述べることはむずかしい.一方,緑内障の進行速度と関連するCCorvisCSTのパラメータを調べると,空気噴流が当たるとすぐ変形して,その後にすぐ元の形104あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018ForceSameA1andA1ProbableloadingandunloadinglinetimeforceaftercataractsurgeryxDisplacementSameA1andA1DefLargerA2thanA2Def図3超音波白内障手術前後のhysteresiscurveの違い青い線が術前,赤いドットが術後の予想曲線である.両者の差はCunloadingのときに顕著になる.A1time,A2time,A1Def,A2DefはCCorvisSTのパラメータである.C状に戻るような眼球は,緑内障の進行速度が速いことが予測されている11).文献1)YanagiM,KawasakiR,WangJJetal:Vascularriskfac-torsCinCglaucoma:aCreview.CClinCExpCOphthalmolC39:C252-258,C20112)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleCglaucomaCinCaCJapaneseCpopulation:theCTajimiCStudy.Ophthalmology113:1613-1917,C20063)GordonCMO,CBeiserCJA,CBrandtCJDCetCal:TheCOcularHypertensionTreatmentStudy:baselinefactorsthatpre-dicttheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOph-thalmol120:714-720,C20024)AlbonJ,PurslowPP,KarwatowskiWSetal:AgerelatedcomplianceCofCtheClaminaCcribrosaCinChumanCeyes.CBrCJOphthalmolC84:318-323,C20005)PallikarisIG,KymionisGD,GinisHSetal:Ocularrigidityinlivinghumaneyes.InvestOphthalmolVisSciC46:409-414,C20056)KiuchiY,KanekoM,MochizukiHetal:Cornealdisplace-mentduringtonometrywithanoncontacttonometer.CJpnJOphthalmolC56:273-279,C20127)NakakuraS,KiuchiY,KanekoMetal:Evaluationofcor-nealCdisplacementCusingChigh-speedCphotographyCatCtheCearlyCandClateCphasesCofCnoncontactCtonometry.CInvestCOphthalmolVisSciC54:2474-2482,C20138)IshiiCK,CSaitoCK,CKamedaCTCetCal:ElasticChysteresisCinChumanCeyesCisCanCage-dependentCvalue.CClinCExpCOph-thalmolC41:6-11,C20139)KatoCY,CNakakuraCS,CAsaokaCRCetCal:CataractCsurgeryCcausesCbiomechanicalCalterationsCtoCtheCeyeCdetectableCbyCCorvisSTtonometry.PLoSOneC12:e0171941,C201710)WuCN,CChenCY,CYuCXCetCal:ChangesCinCcornealCbiome-chanicalCpropertiesCafterClong-termCtopicalCprostaglandinCtherapy.PLoSOneC11:e0155527,C201611)MatsuuraCM,CHirasawaCK,CMurataCHCetCal:UsingCCor-visSTCtonometryCtoCassessCglaucomaCprogression.CPLoSCOneC12:e0176380,C2017(104)

屈折矯正手術:円錐角膜に対する角膜内リングの効果

2018年1月31日 水曜日

監修=木下茂●連載212大橋裕一坪田一男212.円錐角膜に対する角膜内リングの効果菅沼隆之岡眼科クリニック円錐角膜に対する角膜内リング挿入術は,円錐角膜の角膜形状を改善し,不正乱視を軽減することによって眼鏡矯正視力の向上が期待できる.手術による視力低下はみられない安全性の高い術式で,早期に行うほど術後視力の向上と維持が望める.●はじめに円錐角膜は,進行性の疾患で,角膜中央近傍の菲薄化,脆弱化に伴い角膜が前方突出する.部分的な角膜突出の影響で角膜不正乱視が増大し,眼鏡矯正視力(以下,視力)が低下する.重症化に伴い視力低下が強くなり,進行するとCDescemet膜破裂を起こし急性水腫となる.急性水腫や角膜混濁が生じるとコンタクトレンズでの矯正もむずかしくなる.これまで円錐角膜の治療は,コンタクトレンズでの矯正で経過をみながら,重症化したら角膜移植を行うというものであった.現在では,病期の進行予防と維持目的で角膜クロスリンキングが行われ,角膜形状の改善と維持を目的に角膜内リング(intrastromalCcornealCringsegments:ICRS)挿入術が行われている1,2).ICRS挿入術は,元は軽度近視に対する治療として始まったが,近年ではおもに円錐角膜をはじめペルーシド角膜辺縁変性症などの角膜変形疾患に対して,角膜形状の改善のために用いられている.以前はマニュアルでの角膜内トンネル作製の煩雑さやむずかしさがあったが,フェムトセカンドレーザーの開発に伴い,精確で安全な角膜内トンネル作製が可能になり,世界で広く行われるようになっている(図1).C●角膜内リングの種類ICRSは,Intacs,IntacsSK(AdditionCTechnology社)とCKeraring(Mediphacos社)が販売されている.半円弧状のCPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のリングで二つのセグメントからなり,円錐角膜の矯正効果はリングの直径が小さいほど,厚いほど,円弧角度が大きいほど強い.KeraringのほうがCIntacsよりリング直径が小さく,矯正効果は強いが,リングが瞳孔領にかかると乱反射などが起こりやすいことと,角膜の菲薄化でリング自体が挿入できない場合があるため,当院ではIntacs,IntacsSK(図2)を採用している.以下,当院での自験例を含め,Intacs,IntacsSKでの治療の実際を紹介する.abIntacsCIntacsSK材質CPMMACPMMA円弧角度C150°C150°断面形状八角形楕円リング内周径C6.8CmmC6.0Cmmリング幅C1.3CmmC1.3Cmm厚さ210~C450Cμm210~C550Cμm図1角膜内リング挿入術後1カ月の前眼部写真角膜C11時部より対称的に挿入.6.0Cmm以上のCopticalzone.図2Intacssegmentの外観とIntacs,IntacsSKの規格a:Intacsは半円弧状のCPMMA製のリングである.Cb:矯正効果はリングの直径が小さいほど,厚いほど強い(Intacs<IntacsSK).C(101)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1010910-1810/18/\100/頁/JCOPY表1術前と術後12カ月の眼鏡視力とK.max群A群(0C.7以上)CB群(0C.3~0C.6)CC群(0C.2以下)C全症例C眼鏡視力K-max(D)術前0.900.410.090.39術後C12カ月1.01(Cp=0.26)C0.50(Cp<C0.05)C0.22(Cp=0.01)C0.59(Cp<C0.01)C術前55.0058.5062.5058.10術後C12カ月52.2(Cp<C0.05)54.0(Cp=0.001)55.3(Cp=0.001)52.9(Cp=0.001)経過観察期間A群(0.7以上)B群(0.3~0.6)C群(0.2以下)図4平均眼鏡視力の経過(術前眼鏡視力別)各群で術後より視力が改善した.B群で術後C0.7以上に改善した症例はあったが,C群症例でC0.7以上に改善した症例はなかった.A群:n=20,B群:n=20,C群:n=12.●手術とリング設定手術は角膜内トンネルをフェムトセカンドレーザーで作製し,角膜内リングを挿入するだけのシンプルなものである.角膜内トンネルはC400Cμm以上の深さを確保する必要があるので,術前に前眼部COCTで挿入部の角膜厚がC500Cμm以上あることを確認する.円錐角膜の進行度の評価は症例によるバリエーションが多く,一律にその評価をすることがむずかしいが,不正乱視の増大と視力には相関があり,臨床的な円錐角膜進行度の評価として眼鏡矯正視力が適していると筆者は考えている.挿入するリングの各症例に対する明確な設定やノモグラム3)がないので,IntacsとCIntacsSKの選択,セグメントの厚さ,同一の厚さを挿入するシンメトリーか異なる厚さのアシンメトリーにするか,挿入部位置についても検討しなければならない.これらのリング設定に関して,オーブスキャンなどの角膜形状のデータをCAT社に送り,推奨するリング設定などに関してコンサルトを受けることができる.C●角膜内リングの効果実際の治療効果について,当院の自験例を提示する.対象は円錐角膜でCICRS挿入術を行ったC42例C52眼,平均年齢C33.2歳.イントラレースCiFSレーザー(AMO社)102あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C経過観察期間図3平均眼鏡視力の経過(全体)術後より視力改善した.術後C12カ月経過で視力低下例なし(n=52).Cで角膜内トンネルを作製し,Intacsまたは,IntacsSKの挿入を行った.術前視力別にCA群(0.7以上)20眼,B群(0.3~0.6)20眼,C群(0.2以下)12眼に分類し,術前と術後の視力,最大角膜屈折(K-max)を比較検討(Wilcoxon検定)した.K-maxはCTMS-4(トーメーコーポレーション)で測定した.術前と術後C12カ月の経過を表1に示す.症例全体では視力(図3)とCK-maxは優位に改善した.術前視力別では,視力はCBC群で有意に改善(図4)し,K-maxはABC群すべてで有意に改善した.すべての症例でK-maxが改善し,術後視力は向上もしくは不変で,視力が悪化した症例はなかった.また,重症のCC群でも視力の改善は認めたが,術後視力がC0.7以上になる症例はなかった.C●円錐角膜治療における角膜内リングの適応時期円錐角膜に対するCICRS挿入術は,角膜形状の改善とともに不正乱視が軽減し,視力の改善が望める.手術による視力の低下がない安全性の高い術式で,術前視力が比較的よい軽症の症例ほど術後視力の向上維持が期待できる.重症の急性水腫後や角膜混濁のある症例でも視力改善はあるが,大きな改善は望めない.円錐角膜治療でのCICRS挿入術の手術時期は,視力低下が出はじめる早い段階で行うことが望ましいと考える.文献1)Fernandez-VegaCuetoLetal:Intrastromalcornealringsegmentimplantationin409paracentralkeratoconiceyes.CorneaC35:1421-1426,C20162)FahdDCetal:IntrastromalcornealringsegmentSKformoderateCtoCsevereCkeratoconus:aCcaseCseries.CJCRefractCSurgC28:701-5,C20123)ShettyCRCetCal:DecisionCmakingCnomogramCforCintrastro-malCcornealCringCsegmentsCinCkeratoconus.CIndianCJCOph-thalmolC62:23-28,C2014(102)C

眼内レンズ:CTR挿入時のZinn小帯ダメージを減らすために

2018年1月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋374.CTR挿入時のZinn小帯ダメージを小堀朗福井赤十字病院眼科部長兼アイセンター長減らすために水晶体.拡張内リング(capsulartenisionring:CTR)はCZinn小帯断裂症例に有効なツールであるが,挿入時にCZinn小帯にダメージを与えてしまう.CTR先端をコントロールし,Zinn小帯のダメージを最小限にするための方法(spiral法,sutureguide法)を紹介する.●はじめに通常のマニュアル法やインジェクター法を用いて水晶体.拡張内リング(capsularCtenisionCring:CTR)を挿入する際のCCTRの軌道を示す(図1,2).水晶体.と連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の直径をそれぞれC10mmとC5mmとし,直径C13CmmのCCTRをCCCC縁から挿入する.水晶体.は本来の位置から最大C5.5Cmm外側に偏位し,Zinn小帯が大きくダメージを受ける.さらにCCTRと水晶体.の摩擦力により.が回転する方向に力(トルク)がかかり,さらにダメージが加わる.それらを解決するには,水晶体.より小さな状態でCTRを挿入し,最後に.内でCCTRが拡張することが望ましい.そのためにはCCTRの先端をコントロールする必要があり,二つの方法があげられる.C●Spiral法一つ目はCspiral法である1).左手に特殊な形状のフック(図3,製造計画中で型番はまだない),右手にCCTRインジェクターを把持する.フックはシンスキー型やフェイコチョッパーでも代用できるが,先端をさらに曲げてCCTR先端が途中ではずれるのを防ぐ.インジェク図1CTRをそのまま挿入した際のCTRの位置関係ターでCCTRを押し出しながら,CTR先端のCholeにフックをかける(図4).CTR先端がCCCC縁に添うようフックでコントロールし,.内に挿入する.CTR先端が水晶体.辺縁を回らないために,.にトルクがかからない.挿入の最後の段階で,CTRの先端をフックから離さずに両端が重なるところまでもっていってからCCTRを解放する.CTR両端を重ねるとCCTR直径はC10Cmmとなり,水晶体.は最大C2.5mmの偏位に抑えられ,Zinn小帯のダメージを最小限に減らせる(図2,5).C●Sutureguide法二つ目は,CTR先端を糸でコントロールする方法(sutureCguide法)である2).CTR先端のCholeにC10-0ナイロン糸を通しておく.HoleからC2~3Cmmの位置で糸の両側を鑷子で把持し,CTR先端をコントロールする(図6).CTRのコントロールはCspiral法と同様に行う.なんらかのトラブルの際には,糸を引き出せばCTRを回収できる.問題点としては,糸をつかむ前.鑷子は先端のみ把持しやすくなっているため,糸が抜け13mm円10mm円水晶体.CCC縁図2CTRを挿入する際のCTRの軌道CTRを図C1のようにそのまま挿入すると直径C13Cmmの円軌道を描き(青実線),水晶体.の偏位は最大C5.5Cmm(黄実線矢印)となる.図C5のようにCCTRの両端を重ねると直径C10Cmmの円軌道に縮小し(青点線),水晶体.の偏位は最大C2.5Cmm(黄点線矢印)となる.(99)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C990910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3Spiral法に用いるフック図5CTR先端をコントロールした際のCTRの位置関係やすいことがあげられる.また,2本の糸を適切な長さで把持するのはむずかしく,長い糸も手術操作の邪魔になる.そこで解決策としてCCTR先端に糸の輪を作る方法(ringCsutureCguide法)を勧める.糸を先端のCholeに通し,2~3Cmmのリングになるよう結び,糸の両端は切っておく(図6).リング状にすれば糸をしっかりと把持しなくても,つかんでおくだけでCCTR先端をコントロールできる.挿入方法はCsuture-guide法と同様である.CTRが固定された後は糸の輪が少し飛び出しているだけなので,手術操作の邪魔にならず,トラブルの際にはCCTRを回収する助けになる.C●おわりにSpiral法は簡便であり,sutureguide法は糸の操作の図4Spiral法図6模型眼によるsutureguide法(①)とringsutureguide法(②③④)分だけ手間がかかるが,CTR回収の際には役に立つ.通常のマニュアル法やインジェクター法ではCCTRを入れられないくらいCZinn小帯が弱い症例でも,これらの方法で挿入可能である.文献1)小堀朗:インジェクターによる水晶体.拡張リング(CTR)挿入.あたらしい眼科33:1735-1736,C20162)PageCTP:Suture-guidedCcapsularCtensionCringCinsertionCtoCreduceCriskCforCiatrogenicCzonularCdamage.CJCCataractCRefractSurgC41:1564-1567,C2015

コンタクトレンズ:屈折検査(他覚検査)

2018年1月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一39.屈折検査(他覚検査)半田知也北里大学医療衛生学部視覚機能療法学●はじめに眼科臨床における他覚的屈折検査は,短時間測定,簡便性の点からオートレフラクトメータが中心となっている.わが国ではC1980年頃よりオートレフラクトメータの眼科臨床への普及が始まり,現在でも他覚的屈折検査の中心である.その間,オートレフラクトメータの機能は進歩を続けている.今回は,他覚的屈折検査の臨床的中心であるオートレフラクトメータの原理と使用法を改めて紹介する.C●検査対象眼科臨床において通常使用されている据え置き型オートレフラクトメータは,座位を保つことができ,顎台への顔の固定が可能な被検者が対象となる.ポータブルオートレフラクトメータは場所や体位を選ばずに測定が可能である.C●測定原理オートレフラクトメータの測定原理には画像解析式,合致式,検影式,結像式などがある1).いずれの測定原理においても眼科臨床上問題となる測定誤差は認められない.本稿では画像解析式(ARK-1s,ニデック)について紹介する(図1).画像解析式を用いた眼屈折力測定原理は,被検眼眼底に光軸外から測定用光源(superluminescentdiode:SLD)を投影し,眼底に生じる像の図1装置外観および測定原理(画像解析式,ARK.1s,ニデック)高さを検出することで眼屈折力を測定している.眼屈折力に応じて眼底に形成される像を超高感度CCCD(charged-coupledCdevices)センサーで検出し,コンピュータで画像解析して屈折値(球面,円柱,軸)を求める.C●目標と限界オートレフラクトメータは被検眼の球面,円柱度数と軸を,明室下で容易に,しかも精度よく測定できる.オートレフラクトメータは被検眼に調節が介入していない状態の眼屈折測定を目標とする.調節の介入を防ぐために,各社ともさまざまな雲霧機構を採用している.雲霧機構の雲霧量(各社非公開)は機種により異なるが,デフォーカスと調節介入の関係からC1.5~2.0D程度の雲霧量が適当であると考える.検者側からは意識することが少ないが,固視目標も各社各様である.調節介入を防ぎ,日常視を意識するという観点から考えると,固視を促しやすいことと,同時に絵画的遠近感,およびリアリティのある固視目標が望ましいと考える(図2).オートレフラクトメータの測定限界として,中間透光体混濁,角膜不正乱視,測定範囲を超える屈折異常,小瞳孔,固視不良(眼振など)など,被検眼の原因により測定値が不安定または測定不能になる場合がある.オートレフラクトメータを導入する際にはジョイスティックの操作感,各種応答性という検査者側の視点だけでな(97)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C970910-1810/18/\100/頁/JCOPY図2固視目標(ARK.1s,ニデック)絵画的遠近法により固視目標である気球が遠方に存在するように感じる.リアリティの追及のためか,青空に雲が浮かび,道路には自動車も配置されている.く,雲霧機構と固視目標という被検者側の視点からも考えて機器を選択することが,オートレフラクトメータの正確で安定した測定を行うために考慮すべき点である.C●測定機器の使い方とコツ検者が測定において注意すべき点は,①調節の寛解,②センタリングとピント合わせ,③眼瞼や睫毛への対応である.①調節の寛解日常臨床でおもに用いられる内部視標固視型の機種では,片眼で装置内部を覗き込むため,調節の介入の懸念がある.覗き込むことによる調節の介入要因として器械近視が知られている2~3).器械近視を引き起こす直接的原因は明確ではないが,近接感,視野サイズ制限,瞳孔径4)への影響などが考えられる.②センタリングのピント合わせ器械の測定中心を被検眼の瞳孔中心と正確に合わせることが必要である.測定中,検査者は常にセンタリングを確認し,必要に応じて微調整することが求められる.近年のオートレフラクトメータにはC3Dの自動追尾機能&オート測定が可能な機種もあり,安定したセンタリングとピント合わせが可能になっている.正しいセンタリングのためには,測定開始時に被検者の頭部が傾いていないこと,額当てから額がはずれていないこと,測定前に瞬目を促して眼表面(涙液の貯留)を安定させることなど確認する必要がある.③眼瞼や睫毛に対する対応眼瞼や睫毛が測定光束内にかからないようにする.眼を大きく開けても眼瞼や睫毛が測定光束内にかかる場合には,眼球を圧迫しないように眼瞼挙上が必要である.C●検査データの読み方と解釈左右眼で複数回の測定を行い,各回の測定値に大きな変動がなく,乱視軸も安定している場合には正常に測定されているとみなすことができる.センタリングやピント合わせを正しく測定したにもかかわらず,各回の測定値が大きく変動する場合は,オートレフラクトメータの測定限界,調節の介入,アーチファクトの影響などにより,測定値の信頼性が低下している可能性がある.C●おわりに身近な他覚的屈折検査器であるオートレフラクトメータであるが,その機能は明らかに進歩している.各眼科施設にはオートレフラクトメータが設置されていること多いが,3D自動追尾機構,操作感,雲霧機構,固視目標のデザインなど,各社ごとに多くの違いがあるので,それらの違いについて,検者としてだけでなく,被検者としても改めて試してみることをお勧めしたい.文献1)川守田拓志,半田知也:オートレフラクト(ケラト)メータ.眼科検査ガイド第C2版(根木昭監修),p54-59,文光堂,C20162)大橋利和:器械近視に関する研究.臨眼11:57-60,C19663)霧島正:顕微鏡による眼調節(器械近視).臨眼C8:C55-60,C19674)HandaT,ShojiN,KawamoritaTetal:Developmentofawide-.eld,binocular,open-viewtypeelectronicpupilome-ter.JRefractSurgC28:672-673,C2012CPAS101