《第22回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科35(1):131.135,2018c八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査結果の推移大野敦粟根尚子梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesinResultsofConsciousnessSurveyonCooperationbetweenOphthalmologistandInternist,andDiabeticEyeNotebookatOphthalmologyClinicinHachiojiCityAtsushiOhno,NaokoAwane,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity目的・方法:八王子市内の眼科診療所との糖尿病患者の眼科・内科連携をめざすために,両科の連携と糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する意識を,2002年,2010年,2016年に調査し,その結果の推移を検討した.結果:内科医から臨床情報を得るもっとも多い手段は「糖尿病連携手帳を見る」で,その回答率はC3年ともC80%以上であった.通院しやすい眼科選択のための八王子市内の地図作成時の掲載許可は,いずれもC80%を超えていて,その情報をもとに地図を改訂した.眼手帳を患者に渡すことへの抵抗感は経年的に減少を認めた.眼手帳を渡したい範囲は,「すべての糖尿病患者」との回答の比率が経年的に増えていた.眼手帳は「眼科医が渡すべき」との回答が減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が増加した.結論:2002年に比べてC2010年とC2016年は,各アンケート項目において眼科・内科連携に積極的な施設が増えていた.眼手帳を渡すことへの抵抗感は減少し,より早期に渡すようになり,眼科医が渡すことへのこだわりが減っていた.CPurpose・Methods:ToCfosterCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwithCdiabeticCpatientsCinHachiojiCity,wesurveyedcooperationbetweenfamiliesandawarenessoftheDiabeticEyeNotebook(EyeNote-book)in2002,2010and2016,andexaminedthetrendinresults.Results:ThemostcommonmeansofobtainingclinicalCinformationCfromCinternistsCwasCviaCtheCdiabetesCcooperationCnotebook;theCresponseCrateCwasCmoreCthan80%forthe3years.ThepermissionofpublishingatthetimeofcreatingaHachiojiCitymapforeasierophthal-mologyclinicchoicewasmorethan80%;themapwasrevisedbasedonthatinformation.ResistancetodeliveringtheCEyeCNotebookCtoCtheCpatientCdecreasedCoverCtime.CInCtheCrangeCthatCICwantedCtoCpassCtheCEyeCNotebook,CtheCresponserateforalldiabeticpatientsincreasedovertime.ResponsesindicatingthattheEyeNotebookshouldbehandedCoverCbyCtheCophthalmologistCdecreased,CandCresponsesCindicatingCthatCinternistCorCeitherCshouldCdoCsoCincreased.CConclusion:InC2010CandC2016,CasCcomparedCwithC2002,CophthalmologyCclinicsCpressingCforCcooperationCbetweenCophthalmologistsCandCinternistsCwereCincreasingCforCeachCquestionnaireCitem.CResistanceCtoCsharingCtheCEyeNotebookhasdecreased,theNotebookwashandedoverearlier,andtheattentiontoophthalmologistshandeddownwasdecreasing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(1):131.135,C2018〕Keywords:眼科・内科連携,糖尿病眼手帳,アンケート調査.cooperationbetweenophthalmologistandinter-nist,DiabeticEyeNotebook,questionnairesurvey.Cはじめに高尾駅からもバス便であるため,自家用車での通院患者の割筆者らの所属する東京医科大学八王子医療センターは,八合が高い.しかし,眼科受診の際には自家用車での受診は困王子市のなかでも山梨県や町田市との境に位置し,最寄りの難であり,そのため眼科への定期受診の間隔があいてしまう〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPAN患者もまれではない.そこで糖尿病・内分泌・代謝内科(以下,当科)では,糖尿病患者の診療において,通院しやすい地元の眼科開業医との連携を重要視してきた1).上記の方針のもと,当科では八王子市内の眼科診療所との積極的な眼科・内科連携をめざし,両科の連携と連携のツールとしての糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の位置付けに対する意識調査を,眼手帳発行C6カ月目のC2002年C11月,発行C8年目のC2010年C6月に施行し報告した2,3).今回,眼手帳発行14年目のC2016年C5月に再度同様な調査を施行した4)ので,本稿では意識調査結果の推移を報告する5).CI対象および方法アンケートの対象は,八王子市内で開業中の眼科診療所で,アンケートの配布施設数,回答施設数,回答率は,2002年C20施設,12施設,60%,2010年C25施設,20施設,80%,2016年C27施設,22施設,81.5%と,回答率の上昇を認めた.回答者のプロフィールを表1に示すが,性別はC3年とも男性がC3/4を占めた.年齢は,2002年,2010年がC40歳代,2016年はC50歳代がそれぞれもっとも多く,3群間に有意差を認めた.一方,眼科医としての臨床経験年数は,2002年,2010年がC11.20年,2016年はC21.30年の回答が最多であったが,3群間に有意差を認めなかった.なおアンケート調査は,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者がアンケートを持って各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,回答後直接回収する方式で行った.今回,アンケートの配布と回収という労務提供を眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者に依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担うことになり倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓発を同時に行いたいと考え,そのためには眼手帳の協賛企業に協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにアンケートデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.またアンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,御了承のほどお願い申し上げます」との文章を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.誌面の制約上,本稿での報告対象としたアンケート項目は,下記のとおりである.I.糖尿病患者の眼科・内科連携について1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得る主な手段2.内科との連携手段3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望II.眼手帳について4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか6.眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか上記のC6項目に対するC2002年,2010年,2016年に施行したアンケート調査結果について比較検討した.3回の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.表1回答者のプロフィール性別2002年2010年2016年男性75%(9名)75%(1C5名)77.3%(C17名)C女性25%(3名)25%(5名)22.7%(5名)年齢2002年2010年2016年30歳代25%(3名)C40歳代50%(6名)50%(1C0名)27.3%(6名)50歳代25%(5名)50%(1C1名)60歳代16.7%(2名)20%(4名)13.6%(3名)70歳代8.3%(1名)5%(1名)9.1%(2名)臨床経験年数2002年2010年2016年.1C0年8.3%(1名)C11.2C0年41.7%(5名)45%(9名)27.3%(6名)21.3C0年33.3%(4名)35%(7名)50%(1C1名)31年.16.7%(2名)15%(3名)22.7%(5名)無回答5%(1名)c2検定Cp=0.98c2検定Cp=0.01c2検定Cp=0.48II結果1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段(表2)3年とも「患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る」がC80%以上の回答率でもっとも多く,ついで「患者から直接聞く」がC60.70%台であった.C2.内科との連携手段(表3)2002年は市販の,2010年とC2016年は自院のオリジナルの診療情報提供書の利用がそれぞれもっとも多い傾向を認めた.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望(表4)「掲載して欲しい」と「どちらでもかまわない」を合わせると,2002年C83.3%,2010年C100%,2016年C95.5%といずれもC80%を超えていた.最新のC2016年の結果において,回答されたC22施設のうち閉院予定のC1施設を除くC21施設から掲載許可が得られたので,その情報をもとに地図を改訂した.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感(表5上段)有意差は認めないが,2010年とC2016年の方が眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感は少なかった.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか(表5中段)眼手帳を渡したい範囲は,有意差は認めないものの「すべての糖尿病患者」と回答した割合が,2002年よりもC2010年・2016年はC60%台に増えていた.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか(表5下段)「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年よりもC2010年・2016年は減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答が約C85%に増加した.CIII考按1.内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段今回の結果より,血糖コントロール状況を把握する方法として,内科医の発行する糖尿病(連携)手帳の利用が最多ではあったが,手帳を持参されない患者においては血糖値やHbA1c値を聞くとの回答がC60.70%台を占めていた.この背景には,糖尿病(連携)手帳の発行がまだ十分とはいえない状況が考えられるため,手帳の普及も今後の課題である.C2.内科との連携手段今回の検討において,筆者らが作成にかかわった糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書6,7)の利用率は,表2内科からの臨床情報(血糖コントロール状況など)を得るおもな手段2002年2010年2016年1)2)患者持参の糖尿病(連携)手帳を見る患者から直接聞く91.7%75%80%70%81.8%63.6%3)内科医に手紙や電話で連絡をとる16.7%15%0%4)その他の手段10%9.1%無回答(5%)複数回答者ありc2検定:p=0.62表3内科との連携手段表4自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための2002年2010年2016年1)自院のオリジナルの診療情報提供書を主に用いている33.3%50%50%2)市販の診療情報提供書を主に用いている50%30%27.3%3)糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書を主に用いている33.3%5%4.5%4)その他の手段25%13.6%無回答(5%)(4C.5%)C八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2002年2010年2016年1)掲載して欲しい66.7%75%81.8%2)どちらでもかまわない16.7%25%13.6%3)掲載して欲しくない16.7%4.5%Cc2検定:p=0.31c2検定:p<0.1表5眼手帳に関する3つのアンケート結果眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感2002年2010年2016年1)まったくない41.7%75%72.7%2)ほとんどない50%15%27.3%3)多少ある8.3%10%0%4)かなりある0%C眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか2002年2010年2016年1)すべての糖尿病患者41.7%65%68.2%2)網膜症の出現してきた患者58.3%35%31.8%3)正直あまり渡したくない0%Cc2検定p=0.14c2検定p=0.29眼手帳は眼科医から患者に渡す方が望ましいか2002年2010年2016年1)眼科医が渡すべきである33.3%15%13.6%2)内科医から渡してもかまわない16.7%35%13.6%3)どちらでも良い41.7%50%72.7%無回答(8C.3%)C2002年にC33.3%認めたものの,2010年とC2016年はC5%以下にとどまり,自院のオリジナルの診療情報提供書の利用が50%で最多であった.連携に熱心な眼科医ほどオリジナルの紹介状を持っている可能性は高く,糖尿病患者専用の提供書をわざわざ利用する必要性を感じないこともうなずける.また眼科医の記入する部分は,糖尿病専門医として欲しい情報が多く含まれており,眼科が発信元になる場合にその記入する部分の多さは負担になることが予想される.それに比べて眼科医がもらえる情報量は多いとはいえず,患者数が多く外来の忙しい眼科医ほど現在の提供書には魅力を感じないかもしれない.そこで日常臨床では,病状が比較的安定している際の両科の連携手段として,糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用を頻用しており,これにより外来での時間的負担を軽減したうえで,より細やかな連携が可能である.C3.自宅から通院しやすい眼科診療所を選択してもらうための八王子市内の地図の改訂版作成時の掲載希望2010年とC2016年の掲載許可は,全回答施設から得ることができ,その情報をもとに作成したマップの利用により,自家用車でないと当センターに来院困難な糖尿病患者に通院しやすい地元の眼科診療所を紹介することが容易になった.また院内の眼科においても,より重症患者を中心の診療が可能になり,待ち時間の短縮も期待される.C4.眼手帳を糖尿病患者に渡すことへの抵抗感多摩地域の眼科医における眼手帳に対するアンケート調査c2検定p=0.21C結果の推移において,眼手帳発行C2年目以降「まったくない」と「ほとんどない」を合わせてC80%を超えていた8)が,今回の八王子の結果はさらにその比率が高かった.外来における時間的余裕ならびに眼手帳の配布時と記載時のコメディカルスタッフによるサポート体制が確保されれば,配布率の上昇が期待できる結果といえる.C5.眼手帳を今後どのような糖尿病患者に渡したいか眼手帳を「すべての糖尿病患者に渡したい」との回答が,眼手帳発行半年後のC2002年C11月にC41.7%占めた.前述の多摩地域での検討では,同回答が半年目でC27.1%にとどまり8),船津らの発行C1年目の調査でもC24.8%であった9)ことより,八王子市内の眼科診療所における眼手帳発行直後からの「すべての糖尿病患者」の選択率の高さが浮き彫りにされた.またC2010年とC2016年は同回答がC60%台に増えていたが,この結果も多摩地域での検討8)におけるC7年目C45.6%,10年目C51.9%,船津らの検討でのC6年目の調査9)でのC31.8%を上回っていた.眼手帳は,糖尿病患者全員の眼合併症に対する理解を向上させる目的で作成されているため,今後すべての糖尿病患者に手渡されることが望まれる.C6.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか「眼科医が渡すべき」との回答がC2002年はC33.3%認めたが,2010年とC2016年はC15%以下に減少し,「内科医」もしくは「どちらでもよい」との回答がC85%以上に増加した.先の多摩地域での検討8)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.先の設問C4とC5の結果を合わせて年次推移をみると,八王子市内の眼科診療所における眼手帳の早期からの広範囲の有効利用による眼科・内科連携への積極的な取り組みが浮き彫りにされた.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました八王子市内の眼科診療所の医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦:眼科と内科の診療連携.月刊糖尿病C7:53-60,C20152)大野敦,齋藤由華,旭暢照ほか:眼科診療所に対する眼科・内科連携ならびに糖尿病眼手帳に関するアンケート調査.日内会誌92((臨時増刊号):177,20033)大野敦,梶明乃,梶邦成ほか:八王子市内の眼科診療所に対する糖尿病眼科・内科連携と糖尿病眼手帳に関する意識調査.網膜C2010講演抄録集:119,20104)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における糖尿病患者の眼科・内科連携と糖尿病眼手帳第C3版の位置付けに関する意識調査.糖尿病合併症C30(Supplement-1):191,20165)大野敦,粟根尚子,小暮晃一郎ほか:八王子市内の眼科診療所における眼科・内科連携と眼手帳に関する意識調査結果の推移.糖尿病合併症30(Supplement-1):246,20166)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20027)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20028)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMed34:1657-1663,C20149)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C2005***