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硝子体手術のワンポイントアドバイス 175.MIVS後に生じる強膜創血管新生の処理法(中級編)

2017年12月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載175175MIVS後に生じる強膜創血管新生の処理法(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●MIVSと強膜創血管新生強膜創血管新生については本シリーズ(15)ですでに述べているが,今回はmicro-incisionvitrectomysur-gery(MIVS)施行例の強膜創血管新生について述べる.強膜創血管新生は強膜創周囲の残存硝子体を基盤として線維血管増殖膜を形成するもので,増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の晩期硝子体出血の原因として頻度が高い.MIVSの普及により強膜創自体が小さくなり,その発症頻度や重症度は低下しているが,網膜症の活動性が高い症例では今でもみられる.●MIVS後に生じる強膜創血管新生の処理法強膜創血管新生は周辺部残存硝子体と連続しており,術後の残存硝子体の収縮によって新生血管膜から破綻性出血が生じる.よって,新生血管周囲の硝子体を十分に切除しておくことが重要であるが,MIVSではトロカールが邪魔になって処理しづらいことがある.その場合には,トロカールをいったん抜去し,顕微鏡同軸照明下で確実に強膜創血管新生の処理を行う.図は右眼の下鼻側のトロカールを抜去して,同部位の強膜創血管新生を処理した後(図1),灌流ポートを下鼻側につけ替えて(図2a),下耳側のトロカールを抜去し(図2b),同部位の強膜創血管新生の処理(図2c,d)を行っている症例である.また,再手術の際トロカールを新たに設置する部位は,前回の手術時の創よりも多少ずらしたほうが強膜創血管新生の状態が確認しやすい.新たに作製した強膜創に再度新生血管が発育するリスクはあるが,十分な硝子体切除と眼内光凝固で発症を極力予防する.MIVSでは通常4カ所にトロカールを設置するので,4カ所とも強膜創血管新生が生じている可能性があり,念入りに確認を行う.図1右眼の下鼻側の強膜創血管新生の処理トロカールを抜去したうえで,顕微鏡同軸照明下で強膜創血管新生周囲の硝子体を分離切除し(a),強膜創血管新生自体も切除する(b).図2右眼の下耳側の強膜創血管新生の処理灌流ポートを下鼻側につけ替えて(a),下耳側のトロカールを抜去(b)した後,同様の処理を行う(c).最後に強膜創血管新生の芯の部分を眼内ジアテルミーで凝固する(d).文献1)SawaH,IkedaT,MatsumotoYetal:Neovascularizationfromscleralwoundascauseofvitreousrebleedingaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol44:154-160,2000(107)あたらしい眼科Vol.34,No.12,201717450910-1810/17/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:基底細胞癌の臨床

2017年12月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人33.基底細胞癌の臨床林暢紹須崎くろしお病院眼科眼瞼原発の悪性腫瘍の代表として基底細胞癌がある.基底細胞癌の一番の好発部位は眼瞼を含めた顔部であることから,われわれ眼科医も必ず遭遇する悪性腫瘍であり,その臨床像を知っていることは責務である.眼瞼部腫瘍を診たら疑うことと,多くの症例の臨床写真に触れることが重要である.●はじめに基底細胞癌(basalcellcarcinoma:BCC)は,皮膚悪性腫瘍のなかで最多の腫瘍であり,日本においては眼瞼悪性腫瘍のなかで脂腺癌と並び1位,2位を占める頻度の高い腫瘍である.われわれ眼科医が必ず遭遇する悪性腫瘍といっても過言ではないので,BCCに関して最低限の知識をもつことは責務である.BCCには局所侵襲性は高いが転移はきわめてまれという細胞生物学特徴があり,生命予後の良好さからか,基底細胞腫(basalcellepithelioma:BCE)という名称も用いられる.しかし,病理組織学的に核異型が強く,浸潤性に増殖し,進行速度も速い症例も数多くあるので,筆者は基底細胞癌の名称が望ましいと考えている.●診断と病理BCCは多彩な臨床像を呈するが,典型例では,黒褐色~茶褐色の色素を有した腫瘤性病変(色素性BCC)を呈し,ときにびらんや潰瘍を伴うことがある.色素沈着は均一から不均一まであり,ときにまったく色素沈着を伴わない症例(無色素性BCC)もある.また,上記はBCCの代表といえる結節潰瘍型の特徴であるが,そのほか,隆起や浸潤のほとんどない表在型や,瘢痕様で浸潤の強い強皮症型,さらに広基性または有茎性のPinkus型がある.その他多数の亜分類もあるが,この4亜型まで押さえれば十分と考える(図1,2).腫瘍細胞は,胎生期の毛芽細胞に類似の異型細胞で,定型例では,充実性胞巣を形成し,腫瘍胞巣辺縁では核の柵状配列(これがいわゆるperipheralpalisading)が特徴的である.腫瘍間質はムチンに富むが,ときに線維化に陥っている.腫瘍胞巣と間質との間に裂隙形成を示す傾向がある.また,わが国の例では,メラニン色素を腫瘍胞巣内および真皮内に豊富に認めることが多い(図3).(105)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1内眼角部に生じた結節型の基底細胞癌●鑑別診断BCCと鑑別診断にあげられる眼瞼腫瘍として,良性腫瘍としては母斑と脂漏性角化症がある.母斑とは臨床経過や病変内の潰瘍の有無に加え,色素の色調の違いが鑑別点となり,脂漏性角化症は病変の表面の角化の状態(表面がザラザラ,凸凹といった過角化などの所見)が鑑別点となるが,ときに色素沈着がBCCと酷似し鑑別に苦慮することもある.●治療原則は手術での完全摘出・切除である.腫瘍辺縁から安全域として2~3mm以上離して切除する.また,術中迅速診断を利用して,腫瘍の深部を含め,切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することも重要である.●ダーモスコピー眼科領域ではなじみがないかもしれないが,皮膚科領域では,皮膚の腫瘍やホクロなどの色素病変を診るときに,ダーモスコープとよばれる特殊な拡大鏡にゼリーをあたらしい眼科Vol.34,No.12,20171743図2左下眼瞼に生じた表在型の基底細胞癌図3眼瞼基底細胞癌の病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)a:弱拡大病理組織像(×20).表皮に連続する形で,真皮内に腫瘍細胞の増殖を認める.b:(×100)腫瘍胞巣の辺縁では,腫瘍細胞のpalisading(peripheralpalisading)を認める.つけ,詳細に観察する検査がある.色素性BCCに対してMenzieの診断基準がある.日本人の色素性BCCは90%以上なので,日本人のBCCを診断するのに有用であり,われわれ眼科医も知っておくと有用であるので,参考までに以下に診断基準を列挙する1).1.Negativefeature:pigmentnetworkがみられない2.Positivefeatures(以下の6所見のうち少なくとも一つが認められる)①ulceration②largeblue-grayovoidnests③multipleblue-grayglobules④mapleleaf-likeareas⑤spoke-wheelareas⑥arborizingvessels●おわりに基底細胞癌は多種多様な臨床状を呈するが,眼瞼部の腫瘍を診たらまずは疑うことが重要である.多くの症例を経験することも重要であるが,一人で経験できる症例数には限界があるので,成書などで基底細胞癌の臨床写真に目を通しておくことも重要である2).なお,病理組織像に関して,高知大学医学部病理学講座倉林睦准教授のご協力に感謝します.文献1)斎田俊明:ダーモスコピーの診かた・考えかた.医学書院,20072)林暢紹:基底細胞癌.知っておきたい眼腫瘍診療(大島浩一,後藤浩編),眼科臨床エキスパート,p229-232,医学書院,20151744あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(106)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:光線力学的治療併用のタイミング

2017年12月31日 日曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二47.加齢黄斑変性:光線力学的治療併用の三木明子神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学タイミング滲出型加齢黄斑変性の治療はCVEGF阻害薬硝子体内注射が第一選択であるが,治療抵抗性の症例やポリープ状脈絡膜血管腫症(PCV)では,光線力学的治療(PDT)併用は有効な治療法である.当院では,PCVに対して初回からCPDT併用アフリベルセプト硝子体内注射を行っており,その治療成績について,またCPDT併用のタイミングについて概説する.はじめに現在,日本眼科学会における中心窩下ポリープ状脈絡膜血管腫症(polypoidalCchoroidalCvasculopathy:PCV)の治療方針1)は,矯正視力がC0.6以上の場合は血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬硝子体内注射,0.5以下の場合はCVEGF阻害薬硝子体内注射あるいは光線力学的治療(photodynamictherapy:PDT)併用である.VEGF阻害薬硝子体内注射が加齢黄斑変性治療の第一選択である現在において,0.5以下であってもCPDT併用を考慮するのは,ノンレスポンダーや治療反応性が低下した症例に遭遇した場合であろう.では,初回からCPDT併用を行うメリットはあるのだろうか.PCVに対するCPDT単独群,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCranibizumab:IVR)単独群,両者併用群のC6カ月の比較研究2)では,ベースラインからの最高矯正視力の変化量は各群間に有意差は認めなかったが,ポリープ状病巣完全退縮の割合は,PDT単独群および併用群でCIVR単独群と比較して有意に高かった.PDTの単独治療は,脈絡膜毛細血管板閉塞によるCVEGFなどの炎症性サイトカインの産生,それに伴う出血や血管図1光線力学的治療併用アフリベルセプト硝子体内注射治療前および治療1年後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影および光干渉断層計所見治療前ではインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)においてポリープ状病巣,光干渉断層計(OCT)において漿液性網膜.離を認める.光線力学的治療(PDT)併用アフリベルセプト硝子体内注射(IVA)をC1回行い,その後追加治療は行っていない.治療C1年後CIAではポリープ状病巣が消失し,OCTでは漿液性.離はみられなかった.初回にCPDT併用CIVAを行うことでC1年間再発なく経過した.(文献C3より改変)(103)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C17410910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2当院における光線力学的治療併用の方針再発(C.)の場合は,追加治療は行わず,1カ月ごとの診察を継続する.再発(+)の場合は,追加治療を行う.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)でポリープ状病巣(+)であれば,再度,光線力学的治療(PDT)併用アフリベルセプト硝子体内注射(IVA)を,ポリープ状病巣(.)であれば,IVAを単独で行う.(文献C3より改変)外漏出などの副反応,視力低下などの問題点がある.一方で,併用療法ではCVEGF阻害薬により,PDTによるこれらの副反応を抑制することができる.初回PDT併用の治療成績当院ではCPCVに対して初回よりCPDT併用アフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCa.ibercept:IVA)を行っている.具体的には,IVAをC1回行い,そのC1週間後にCPDTを標準的なCPDTのプロトコールで行う.毎月の診察において再発所見がみられない場合は追加治療は行わず,1カ月ごとの診察を継続する.また,再発所見がみられた場合は,追加治療を行うが,インドシアニングリーン蛍光眼底造影でポリープ状病巣が残存していれば再度CPDT併用CIVAを,ポリープ状病巣が閉塞していればCIVAを単独で行う.PCVに対する初回PDT併用CIVA症例(20眼)の治療後C1年での視力(logC-MAR視力C0.18)は,ベースライン(同C0.30)と比較して有意に改善していた3).また,治療後C1年でのポリープ状病巣の閉塞率はC78%であり,IVA単独での報告4)(55.4%)よりも高かった.また,Kikushima5)らによるPCVに対するCPDT併用CIVAとCIVA単独治療の比較研究では,1年後の視力改善およびポリープ状病巣の閉塞率に有意差はみられなかったものの,治療回数は有意に併用群のほうが少ない結果であった.C1742あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017PDT併用のタイミングFujisanCstudy6)では,IVRにおけるCPDT併用時期の違いによる治療C1年後における視力改善量,ポリープ状病巣の閉塞率,治療回数について検討した.視力改善およびポリープ状病巣の閉塞率に有意差はみられなかったが,治療回数についてはCPDTを初回から行ったほうが,途中から行うよりも有意に少なかった.また,併用療法の方法として,IVRをCPDTのC7日前に行うよりもC2日前に行ったほうが有意に視力の改善か得られるとの報告がある7).おわりにPDT併用治療における最大のメリットは治療回数を減らせることである.治療回数が減ることで患者の経済的負担も軽減できる.IVAにおけるCPDT併用の最適なタイミングおよび長期的な視力予後や再発率については,さらに検討が必要である.文献1)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性治療指針作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌C116:1150-1155,C20122)KohCA,CLeeCWK,CChenCLJCetCal:EVERESTCstudy:Ce.cacyandsafetyofvertepor.nphtodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizum-abCmonotherapyCinCpatientsCwithCsymptomaticCmacularCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC32:1453-1464,C20123)MatsumiyaW,HondaS,MikiAetal:One-yearoutcomeofCcombinationCtherapyCwithCintravitrealCa.iberceptCandCvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:C541-548,C20174)YamamotoA,OkadaAA,KanoMetal:One-yearresultsofCintravitrealCa.iberceptCforCpolypoidalCchoroidalCvascu-lopathy.COphthalmologyC122:1866-1872,C20155)KikushimaW,SakuradaY,IijimaHetal:ComparisonofinitialCtreatmentCbetweenC3-monthlyCintravitrealCa.iberceptCmonotherapyCandCcombinedCphotodynamicCtherapyCwithCsingleCintravitrealCa.iberceptCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthal-mol.255:311-316,C20176)GomiCF,COshimaCY,CMoriCRCetCal;FujisanCStudyCGroup:CInitialCversusCdelayedCphotodynamicCtherapyCinCcombina-tionCwithCranibizumabCforCtreatmentCofCpolypoidalCchoroi-dalCvasculopathy:TheCFujisanCStudy.CRetinaC35:1569-1576,C20157)SaitoM,IidaT,KanoMetal:Two-yearresultsofcom-binedintravitrealranibizumabandphotodynamictherapyforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC251:2099-2110,C2013(104)

緑内障:緑内障インプラント(ロングチューブ)手術のコツ

2017年12月31日 日曜日

●連載210監修=岩田和雄山本哲也210.緑内障インプラント(ロングチューブ)松田彰順天堂大学医学部眼科学講座手術のコツ2012年にバルベルト緑内障インプラント手術が日本でも認可され,施行症例が増えてきた.毎年,緑内障チューブの会の米国手術見学ツアーに参加し,インプラント手術施行時のコツとして学習した中で,筆者が実践している事項をいくつか紹介する.●プレート固定の際のコツプレート固定は通常8-0程度のナイロン糸を用いて強膜に固定するが,プレート上部にある固定用の穴を通して針で強膜に通糸しようとすると,固定用の穴の厚みのために強膜内の通糸の深さを制御することがむずかしい.プレート固定の際は先に強膜に通糸して,針を逆向きに持ち替え,針の根元側から固定用の穴を通すと固定が楽である(図1).●前房内へのチューブ先端の留置に関するコツ角膜内皮障害の可能性を考えて,筆者は可能なかぎり前房内へのチューブ留置を避けている.ただ,発達緑内障の症例などで水晶体を温存したい場合には,前房内へのチューブ留置を選択せざるをえない.前房内へのチューブ先端留置のコツは,米国フロリダ大学でインプラント手術を見学した際にMarkSher-wood教授(後述のSherwood’sSlitで有名)に教えていただいた.まず,チューブを挿入する際の方向は,瞳孔方向に向けるのではなく,できるだけ角膜輪部に対して接線方向に近い方向で挿入するのがコツである1)(図2a).また虹彩面に平行か,やや虹彩にめり込むぐらいの角度で挿入すると,強膜パッチを当てたあとにちょうどよい角度になることが多い(図2c).また,最初に挿入角度や位置を確認するのには粘弾性物質に27ゲージ(G)針を取りつけて前房内に穿刺し,角度および挿入位置に問題がないことを確認してから23G針にて再度穿刺を施行する(図2a,b).とくに発達緑内障などの強膜が薄い症例では穿刺場所の変更には注意が必要で,その場合は30G針で最初の位置確認を施行する(わずかなモレが,術後低眼圧につながる).この2段階穿刺法は虹彩後面かつIOL前面にチューブを留置する際にも有効で,27G針で穿刺しながら,必要に応じて粘弾性物質でチューブ挿入のための空間を確保することができる.●硝子体内へのチューブの留置以前はHo.mannエルボー付きチューブを硝子体内に挿入していたが,エルボーが露出した場合の再被覆がむずかしいことを経験したため,現在はストレートチュー図1プレート固定の際の通糸プレート固定の通糸(8-0ナイロン糸),最初の1糸はすでに通糸後で,プレートは半分固定された状態.まず強膜内を適切な深さで通糸し(a),針の向きを変えて根元部分から固定用の穴を通す(b).(101)あたらしい眼科Vol.34,No.12,201717390910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2前房内へのチューブ先端留置のコツ先天白内障術後に発症した無水晶体眼緑内障の症例.27G針を用いて角膜輪部の接線方向に近い方向で前房内に穿刺する.角度は虹彩と平行(a)とし,前房内に低分子量の粘弾性物質を注入する.次に23G針を用いて同一部位を穿刺(b)後,チューブを虹彩面上に留置する(c).ブを硝子体内に留置している.Ho.mannエルボーの再被覆が困難な理由として,エルボー自体が大きさと厚みをもっていることと,また露出時にストレートチューブと異なり,挿入位置の変更が困難であることがあげられる.ストレートチューブの硝子体内への挿入は23G針による穿孔創から可能であり,挿入後はワイドフィールドの硝子体観察システムでチューブ先端の位置を確認している.現在のところ挿入部位でのチューブの折れ曲がりや,水晶体後.への接触などの問題は経験していない.●強膜パッチ米国では強膜,心外膜,角膜がパッチ材料として市販されており,整容的な問題を生じやすい症例(眼瞼裂の広い眼の耳側下方へのチューブ挿入例)には,角膜パッチを用いている症例もある.日本でもパッチ材料の入手経路の整備が必要と考えられる.強膜は順天堂アイバンクで保存強膜を作製し,使用時にイソジン原液に浸漬,BSSプラスで十分洗浄し,強膜内面の色素細胞を除去するため,内層1/3程度を剪刀で削ぎ落している.また,パッチの大きさを調整した後,角膜輪部に向かう側の段差を少なくするために,斜めに強膜の角を落としている.その後4箇所の角を10-0ナイロン糸で固定している.10-0ナイロン糸での固定時に強く圧迫するとチューブが角膜内皮側に近づくので,強い圧迫は避けるべきである.今年,Duke大学でチューブ手術を見学した際に,強膜パッチを固定せず,そのまま結膜下に留置する術式もあることを知った.多くの症例で問題がないとのことだったが,なかには術後強膜パッチが丸まってしまった症例があるとのことで,やはり4カ所の固定はしておいたほうがよさそうである.●術後低眼圧の防止緑内障インプラント手術(とくに調整弁のないバルベルトインプラント)でもっとも注意すべき点は,術後低眼圧の防止である.筆者は7-0バイクリル糸を用いて,チューブを2箇所3-2-1でしっかりと結紮し,通水がないことを確認している.結紮の際はマイクロ持針器を2本用いて,糸の線維をちぎらないように注意してしっかりと結紮している.術者によってはチューブ内腔にステント(あるいはステント+リップコード)を留置したうえでチューブ結紮をしている.ステントを抜去する手間は必要だが,低眼圧の防止という意味ではより確実な方法と考えられる.術後早期の眼圧コントロール目的でチューブにSherwood’sSlitをおくことも多いが,スリット幅を広くしすぎないこと,スリット位置がチューブ固定の際に極端に屈曲した位置にこないように配慮する必要がある(チューブを固定してからスリットを作製したほうが安全).筆者は全例で低分子量の粘弾性物質を前房内に留置し,指で眼圧を確認して手術を終えることにしている.1740あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(102)

屈折矯正手術:近視進行抑制とバイオレットライト

2017年12月31日 日曜日

監修=木下茂●連載211大橋裕一坪田一男211.近視進行抑制とバイオレットライト鳥居秀成慶應義塾大学医学部眼科学教室世界の近視人口は増加の一途をたどっている.世界中の近視研究者のコンセンサスが得られている唯一の近視進行を抑制する環境因子として,屋外活動がある.筆者らはそのなかでも,屋外環境に豊富にあるC360~400nmのバイオレットライトが近視進行抑制に重要な役割を果たすことを基礎研究・臨床研究より明らかにした.*****●はじめに―バイオレットライトとは―5世界の近視人口は全世界で増加の一途をたどっており,.0.50D以下を近視,C.5.00D以下を強度近視と定義した場合,近視人口はC2050年には全世界人口のC49.8%のC47億C5800万人,失明リスクのある強度近視の人口はC9.8%のC9億C3800万人になると報告1)されている.屈折(ジオプター)0-5-10-15日本国内でも,文部科学省平成C28年度学校保健統計調査結果によると,裸眼視力C1.0未満の割合が小学校・中学校・高校において昭和C54年以来過去最高を記録した.この近視人口の世界的な急増は近年約C50年前からの変化であり2),遺伝因子よりも環境因子の変化が主因であると考えられている.近視と関連する環境因子のうち,これまでに屋外活動が近視進行を抑制することが複数の疫学研究や動物実験から指摘されてきており,近年,屋外活動が注目されている3,4).そのなかで近視進行抑制にかかわる因子としては,運動・遠方視・ビタミンCD・光環境などが考えられているが,そのうち何が効いているのか,また,そのメカニズムはわかっていなかった.そこで筆者らは屋外環境因子のうち,屋外環境に豊富にある波長C360~400Cnmのバイオレットライトに着目し,動物実験・臨床研究・環境調査を行った.JIS/CIEが可視光下限をC360Cnmと定義しているように,人間はバイオレットライトの色を認識することは可能である.C●動物実験実験近視モデルとして確立しているヒヨコを用いて,バイオレットライトをあてる群とあてない群で近視進行程度(屈折値・眼軸長)を比較・検討し,バイオレットライトの近視進行抑制効果の有無を評価した.近視誘導には,バイオレットライトを透過することを確認した凹(99)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY-20VL-VL+VL-VL+近視誘導なし近視誘導あり図1ヒヨコ実験近視モデルにおけるバイオレットライトの近視進行抑制効果バイオレットライト(VL)に暴露されたヒヨコ(VL+)は,暴露されていないヒヨコ(VLC.)に比べ,近視誘導の表現型が抑制された.(文献C5より引用)レンズ効果をもつクリアレンズを使用し,片眼装用を行った.屈折値・眼軸長データから表現型の確認を行うとともに,メカニズム解明のため,眼球を摘出し,網脈絡膜サンプルを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い,ターゲット遺伝子の絞り込みを行い,PCRで確認を行った.その結果,バイオレットライトを浴びたヒヨコの近視進行が抑制され,バイオレットライトを浴びたヒヨコの眼で,近視進行を抑制する遺伝子として知られているearlygrowthresponse1(EGR1[ZENK,zif268])が有意に上昇していることがわかり,バイオレットライトが近視進行を抑制するメカニズムとしてCEGR1が関与している可能性が示唆された(図1).C●臨床研究屈折矯正に用いるコンタクトレンズ(contactClens:CL)のバイオレットライトの透過率を調査し,バイオあたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C17370.25*0.301.60分光放射照度(W/m2/nm)1.401.201.00眼軸長の変化量(mm/年)0.200.800.600.400.200.150.100.000.05図3現代社会に欠如しているバイオレットライトオフィス内,車内,病院内ではC360~400Cnmのバイオレットライトがほとんどないことがわかる.0.00300350400450500550600650700750800(文献C5より引用)図2異なるバイオレットライト透過率のコンタクトレンズ装用による眼軸長変化量の比較バイオレットライト(VL)を透過するコンタクトレンズを装用している群(VL+)は,透過を抑制したコンタクトレンズを装用している群(VLC.)に比べて眼軸長変化量が有意に少なかった.(文献C5より引用)Cレットライトの透過率が高い群と低い群での近視進行程度を後ろ向きに比較・検討した.13~18歳の対象において,バイオレットライトを透過するCCL(透過率C80%以上)を装用している群(116例116眼)と,バイオレットライト透過を抑制したCCL(透過率C80%未満)を装用している群(31例C31眼)の眼軸長伸長量を比較した.その結果,バイオレットライトを透過するCCLを装用している群の眼軸長伸長量はC0.14Cmm/年,バイオレットライト透過を抑制したCCLを装用している群の眼軸長伸長量はC0.19Cmm/年であり,バイオレットライトを透過するCCLを装用している群のほうが,有意に眼軸長伸長量が少ないことがわかった(図2).C●環境調査われわれを取り巻く屋内・屋外環境において,バイオレットライトがどの程度存在するのかを調査した.その結果,現在われわれが日常的に使用しているCLEDや蛍光灯などの照明にはバイオレットライトはほぼ含まれておらず,眼鏡や硝子などの材質もCUVカットに加えてバイオレットライトをほとんど通さないことがわかった(図3).C●おわりに現代社会におけるわれわれを取り巻く環境において,波長C360~400Cnmのバイオレットライトが欠如しており,これが近年の近視の世界的な増大と関係している可能性が考えられる.バイオレットライトの研究は今後の近視人口増加に歯止めをかける一助になる可能性があるものと期待され,慶應義塾大学医学部からプレスリリースされ各種メディアに取りあげられた.ただし,屋外活動によりバイオレットライトは容易に取り入れられるものの,屋外活動だけでは同時に有害な短波長紫外線にも暴露されてしまうため,可視光であるバイオレットライトのみをとり入れる工夫も今後必要であると思われる.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetCal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCMyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.COphthalmologyC123:1036-1042,C20162)DolginE:Themyopiaboom.NatureC519:276-278,C20153)RoseKA,MorganIG,IpJetal:OutdooractivityreducestheCprevalenceCofCmyopiaCinCchildren.COphthalmologyC115:1279-1285,C20084)JonesLA,SinnottLT,MuttiDOetal:Parentalhistoryofmyopia,CsportsCandCoutdoorCactivities,CandCfutureCmyopia.CInvestOphthalmolVisSci48:3524-3532,C20075)ToriiCH,CKuriharaCT,CSekoCYCetCal:VioletClightCexposureCcanbeapreventivestrategyagainstmyopiaprogression.EbiomedicineC15:210-219,C20171738あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(100)C

眼内レンズ:術中波面収差解析装置

2017年12月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋373.術中波面収差解析装置荒井宏幸みなとみらいアイクリニック術中波面収差解析装置を使用することにより,眼内レンズ(IOL)度数計算困難症例への対応,乱視度数と乱視軸の確認と決定,手術終了時における屈折誤差の確認が可能となった.乱視用CIOLにおいては,IOLの回転すべき方向を表示する.付加価値CIOLが普及してきた近年において,重要なアイテムとして注目されている.●術中測定の意義光学的眼軸長測定装置の発達により,眼内レンズ(intraocularClens:IOL)の度数計算の精度は飛躍的に向上した.測定装置の発展に呼応するように,度数計算式も改良され続けている.標準的なプロポーションの眼球であれば,術後の屈折誤差は臨床上問題にならないことがほとんどである.しかし,不良なプロポーションの眼球,屈折矯正術後,角膜不正乱視などにおいては,従来の計算式を用いても精度が不安定である.また,近年に普及している乱視用CIOLにおける軸決定なども,術前検査のみでの決定には限界がある.術中測定には度数決定と屈折度数の確認という二つの要素があり,通常症例であっても有益な術中情報が得られる1).今回はアルコン社の術中波面収差解析装置CORAの機能と有用性に関して解説する(図1).C●どんな症例に有用か・放射状角膜切開(radialCkeratotomy:RK),LASIK(laserCinCsituCkeratomileusis),レーザー屈折矯正角膜切除(photorefractivekeratectomy:PRK),治療的レーザー角膜除去(phototherapeuticCkeratectomy:PTK)後:近年のCLASIK(PRK)後眼に対する度数計算式は精度も向上し,大きな誤差を生じることは少なくなっている.しかし,RK後やCLASIK,PRKによる偏心照射などの場合には精度が極端に低下する.また,PTKの不整な角膜形状の場合などもCK値の設定に苦慮することが多い2).・角膜不正乱視(円錐角膜・翼状片術後・角膜移植後・角膜瘢痕など):角膜形状解析において非対称性の強い乱視を示すことが多い.IOL度数計算に採用するCK値と乱視軸の決定は非常にむずかしい.・光学的眼軸長測定不能:若年性のアトピー性白内障や外傷性白内障では,多焦点CIOLを希望する症例が多い.超音波による眼軸長測定での度数決定には限界がある.(97)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1ORAの計測ユニットと本体計測ユニットは大きくCworkingdistanceは小さくなる.本体は常に米国のサーバーと通信して最新の最適化がなされている.・乱視用CIOL:単焦点・多焦点に限らず,すべての乱視用CIOLを使用する際には,全乱視の測定に基づく乱視軸を決定可能である.前眼部光断層干渉計(opticalcoherenceCtomography:OCT)検査などによる角膜前後面の乱視測定も有用な方法であるが,無水晶体の状態における全乱視測定がより本質的である.C●術中計測の実際術中計測におけるポイントは,角膜の乾燥状態と眼圧である.角膜上皮の水濡れ性を損なうことなく手術を進行させなければならない.ウェットシェル法などが有効であろう.手術終了時にも確認の測定を行うため,手術の全行程を通して角膜の乾燥には注意を払う必要がある.眼圧はCORAのプロコール上,20CmmHg以上を維持する必要がある.BSSでも粘弾性物質でもよいが,均一な媒質での測定が必要となる.測定は約C3秒間にC40回計測され,その標準化されたデータを元に計算もしくは表示される.ORAの本体ユあたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1735図2顕微鏡にオーバーレイされた乱視軸赤色がCORAで,緑色がCVERIONの示す乱視軸である.図4ORAによって解析された結果のレポートORAを使用した乱視用CIOL症例の術後残余乱視を示す.左(赤)が当院,右(青)が全世界での平均値を示している.ニットは常に米国のデータベースと通信しており,データベース内で常に最適化された係数を使用してCIOL度数計算を行う.全世界からのデータが逐次入力されているため,最適化係数は常に最新のものである.測定から結果の表示まで約5~7秒である.最適な乱視軸は顕微鏡内にオーバーレイされる(図2).IOL挿入後には残余乱視および補正すべきCIOLの回転方向を指示する画面が表示される.残余乱視がC0.5D以下になった場合には“NoCRotationCRecommended”(回転不要)との表示がされ,toricIOLの軸が最適な位置にあることを確認できる(図3).C●術後結果と課題ORAのデータベースに術後結果を入力すると,定期図3乱視用IOLの最終確認画面乱視用多焦点CIOLの例である.残余乱視はC0.35Dであり,屈折誤差は-0.15D(画面右下)であることが示されている.的な結果のレポートを受けることができる.当院での乱視用CIOL使用例における残余乱視のデータを図4に示す.課題としては,測定ユニットがかなり大きいため,workingCdistanceが狭くなる.また,硝子体手術を行う施設では,眼底広角観察用のユニットが設置されているが,それとの共存はできない.一時的に硝子体用のユニットをはずしてCORAを付けることは可能であるが,手術時間は相当に延長する.計測の結果にもよるがC3~5分程度の延長になると思われる.最後にコストの問題であろう.C●将来的な必要性今後の白内障手術においては,量よりも質を求められることは容易に想像がつくであろう.多焦点CIOLのような付加価値をもったCIOLも多く開発されてくるであろう.そうした状況のなかで,術後視力や矯正精度へのこだわりはもっとも大切なポイントであり,術中測定は不可避の技術になると思われる.文献1)DavisonCJA,CPotvinCR:PreoperativeCmeasurementCvsCintraoperativeaberrometryfortheselectionofintraocularlensCsphereCpowerCinCnormalCeyes.CClinCOphthalmolC11:923.929,C20172)IanchulevCT,CHo.erCKJ,CYooCSHCetCal:IntraoperativeCrefractiveCbiometryCforCpredictingCintraocularClensCpowerCcalculationafterpriormyopicrefractivesurgery.Ophthal-mologyC121:56.60,C2014

コンタクトレンズ:球面コンタクトレンズと眼精疲労

2017年12月31日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一38.球面コンタクトレンズと眼精疲労梶田雅義梶田眼科●はじめにコンタクトレンズ(CL)は眼鏡よりも見え方にクリアさが欠如しているため,過矯正になりやすい.また,矯正度数を下げた“弱めの矯正”も眼精疲労を生じやすい.快適と感じる矯正を行うことが大切である.●CLで眼精疲労を防ぐために最近では自覚的屈折検査の前に,オートレフラクトメータ(以下,オートレフ)を用いた他覚的屈折値を測定している.適切な他覚的屈折値が得られるように,オートレフの操作に精通することが大切である.・オートレフの設定オートレフは通常の測定モードで測定することが大切である.クイックモードは1回の雲霧機構が作動した後に数回の測定を繰り返して計測を終了するモードである.測定時間は短いが,雲霧機構が十分に機能しないため調節の介入が大きくなると同時に,調節が介入していてもデータのバラツキが少ないので,測定値の信頼度が低くなる.一方,通常モードでの測定は1回の雲霧機構が作動した後に1回だけ屈折値を計測し,これを繰り返すモードで,測定に要する時間は長くなるが,調節が介入している場合にはデータのバラツキが大きくなるため,数回の測定結果にバラツキがないときの測定結果は信頼度が高い.・オートレフ測定時に気をつけることオートレフの測定時には,被験者には視標の中央部分を正しく見てもらう必要がある.これによって視軸方向の屈折値を測定することができる.測定中にはモニター画面に注意を払い,モニター画面に映し出されたマイヤーリングに途切れや不規則な歪みが観察されない状態で測定を開始する必要がある.オートレフの自動追尾機能に任せないで,検者自らがシューティングゲームのように正しく視線を追跡することが大切である.・オートレフの値を用いた自覚的屈折検査十分な注意を払って測定したオートレフの結果の信頼(95)度はかなり高い.自覚屈折の測定では,オートレフの値を参照にして,先に検眼枠に円柱レンズを装入する.通常,円柱レンズ度数は,オートレフ値の円柱度数が.0.75D以下ならば円柱レンズは省略し,.1.00Dならば.0.50Dを,.1.25D以上あれば.0.75Dを減じた値の円柱レンズを,オートレフの円柱軸度を10°ステップで近似した値に装入する.球面度数はオートレフの球面度数よりも.075D低い値を採用して,視力表を読んでもらう.この設定ですでに1.0以上の視力が得られている場合には,さらに.0.75D弱い球面度数を装入して,視力測定を開始する.すなわち,一度は1.0未満の視力値が得られる矯正状態を提供してから,.0.25Dずつ矯正度数を強めて,最良視力が得られる最弱屈折値を求めることにより,極力調節が介入しない自覚屈折を求めることができる.・両眼同時雲霧法円柱レンズは自覚的屈折値の値そのままを採用して検眼枠に装入する.球面レンズは自覚的屈折値に+3.00Dを加えた値を装入して,すぐに測定を開始する.両眼の視力値を確認しながら,両眼同時に.0.50Dずつ加える.両眼での視力値が0.5~0.7に達したところで,交互に片眼遮蔽を行い,左右眼のバランスを確認する.1回目は見やすいほうの矯正を.0.25Dだけ戻し,2回目以降は見づらいほうの度数に.0.25Dを加えて,左右眼のバランスを整える.左右眼のバランスが取れたら,その後は両眼同時に.0.25Dずつ矯正度数を強めて,最良視力が得られる最弱屈折値を求める.これが眼鏡レンズで快適な矯正度数である.両眼同時雲霧法による屈折値は一般には前述の自覚的屈折値よりも.0.50D~.0.75D低い値で得られることが多い.もし,この範囲を超えて異常に強い値になるときには外斜位が存在し,斜位近視が介入している可能性がある.反対に異常に弱い値になるときには内斜位が存在することがある.この場合には,斜位の検査を行い,プリズムレンズを装入した状態で両眼同時雲霧を行うと適切な値の屈折値が得られることがある.あたらしい眼科Vol.34,No.12,201717330910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1頂点間距離補正表・眼鏡レンズ度数をコンタクトレンズ度数に変換するソフトCL(SCL)を処方するときには,眼鏡レンズ度数を頂点間距離補正する必要がある(図1).乱視が.1.00D以下であれば,球面レンズ度数に円柱レンズ度数の半分を加えた値(等価球面度数)を頂点間距離補正した値のトライアルレンズを装着してみる.乱視が.1.00Dを超える場合には,強弱主経線方向それぞれの頂点間距離補正を行ない,乱視用SCLで必要な球面度数と円柱レンズ度数を求めてからトライアルレンズを決定する.たとえば,眼鏡レンズ度数がsph.7.00D(cyl.1.50DAx180°の場合,180°方向の度数は.7.00Dであり,頂点間距離補正値は.6.50Dである.90°方向の度数は.8.50Dであり,頂点間距離補正値は.7.75Dである.その差.1.25Dが乱視用SCLの矯正に必要な円柱レンズ度数である.したがって,トライアルレンズはsph.6.50D(cyl.1.25DAx180°を選択する.●近視過矯正を疑ったらSCL装用者が眼精疲労を訴えたら,まず近視過矯正を疑う.SCLを装用した状態でオートレフ値(オーバーレフ値)を測定してみる.オーバーレフ値の円柱度数が.1.00Dを超えている場合には,乱視矯正不足によって球面度数が過矯正になっている可能性がある.また,球面度数が.0.50Dよりも遠視寄りであれば,球面度数の過矯正を疑ってSCL装用状態で両眼同時雲霧を行ってみる.●過矯正の治し方過矯正であることがわかり,適切な度数のSCLに変更して問題なく装用できればよいが,なかには,適切な矯正度数を提供したにもかかわらず,矯正視力が著しく低下して,強い不満が生じることがある.このような場合にはモノビジョン矯正を勧めると意外に容易に過矯正から抜け出すことができる.また,乱視の未矯正や矯正不足による球面度数過矯正が生じている場合には,乱視用SCLを用いて乱視を矯正し,同時に球面度数は加えた乱視度数分くらいを減じた値を用いることで,疲れにくい矯正を提供することができる.●おわりにSCL処方時には最初のトライアルレンズの選択がもっとも重要である.眼鏡で処方する適切な矯正度数を求めて,その値を適切なSCL度数に変換した値のトライアルレンズを用いることで,処方時間も短縮できると同時に,過矯正も予防できる.眼鏡度数の決定は屈折矯正の基本である.CL処方に携わる者は適切な眼鏡を処方できる技術を必ず身についてほしい.ZS988

写真:術後にILM flapで架橋された大型黄斑円孔

2017年12月31日 日曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦403.術後にILM.apで架橋された永田健児京都府立医科大学大学院医学研究科大型黄斑円孔視覚機能再生外科学C術前術後2週間術後3週間術後5週間術後6カ月術後1年図1OCTの変化大型黄斑円孔の手術後,内境界膜による架橋のみでつながっていたが,徐々に黄斑円孔は閉鎖し,網膜分離も改善した.1年後には網膜の層構造も確認されるようになった.(93)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2図1の術後2週間のシェーマ黄斑円孔は翻転した内境界膜(①)により架橋されているが,網膜の接着は認めない.網膜分離(②)も残存している.図3手術時の写真内境界膜.離し,黄斑円孔周囲は除去せず残した.この後,残した内境界膜を黄斑円孔上に翻転した.図4最終受診時のOCT外境界膜は連続性がみられ,ellipsoidzoneも検出された.あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1731黄斑円孔は硝子体による黄斑の牽引と接線方向の牽引により発症すると考えられており,これらを解除するために手術が行われる.硝子体手術や内境界膜の染色法などの進歩により,硝子体手術を行い,内境界膜.離のうえガスタンポナーデを行うことでC90%以上の症例で黄斑円孔の閉鎖が得られるようになった.しかしながら,円孔径が大きな黄斑円孔や強度近視眼における黄斑円孔については閉鎖が得られにくく,新規治療法が必要と考えられていた.2010年にCMichalewskaらは最小円孔径C400Cμm以上の黄斑円孔に対し,内境界膜を.離し,円孔周囲は残して黄斑円孔の上に翻転して被せる内境界膜翻転法(invertedCinternalClimitingCmembrane.apCtechnique)を開発し,従来法と比較して円孔閉鎖率が改善したことを報告した1).さらに,内境界膜翻転法は強度近視眼に伴う黄斑円孔や2),黄斑円孔網膜.離にも有用なことが報告され3),耳側や上方の内境界膜のみを翻転するといった変法も報告されている.通常,黄斑円孔の閉鎖はガス消失時に得られており,ガス消失時に非閉鎖の場合は追加治療が必要となる.ただし,術後,閉鎖した中心窩下にわずかなスペースがあり,徐々に消失していくことはよくみられる現象である.一方で内境界膜翻転法を用いた場合,術後に網膜の閉鎖は得られていないものの,翻転した内境界膜で円孔が架橋されていることがある.当初はこの場合,非閉鎖として再手術をするかどうか悩ましい症例であった.筆者は強度近視を伴う大きな黄斑円孔に対し,内境界膜翻転法を用いた硝子体手術を施行し,術後に黄斑円孔が内境界膜で架橋された症例を経験した(図1,2).術前,強度近視眼で黄斑上膜と網膜分離を伴う大きな黄斑円孔を認めた.円孔は最小円孔径がC549Cμmで,最大円孔径がC2,302Cμmととくに円孔底径が大きく,従来法では黄斑円孔の閉鎖はむずかしいと考えられた.そこで内境界膜翻転法を用いた硝子体手術を行い,20%CSFC6ガスタンポナーデを行って手術を終了した(図3).術後C2週間で光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)撮影をしたところ,黄斑円孔は翻転した内境界膜で架橋されているものの,網膜間の接着はみられなかった.当時このような症例の経験や報告はなく,再手術も検討したが,1週間経過観察したところ,架橋した内境界膜の下に変化がみられ,徐々に網膜が連続し閉鎖してきた.さらに経過観察したところ,網膜下のスペースも消失し,外境界膜が検出されるようになり,ellipsoidzoneも不明瞭ながら検出されるようになった(図4).これらの変化とともに,矯正視力は術前C0.08からC1年後にはC0.4まで改善した.このような症例はほかにも経験しており,本症例のようにきれいに内境界膜で架橋されていなくても,OCT上,中心窩のあたりに内境界膜が存在すれば,経過観察で黄斑円孔が閉鎖する症例がある.まだ十分には解明されていないが,黄斑円孔の閉鎖には,翻転した内境界膜がグリア細胞の増殖に関与することが考えられている.内境界膜翻転法を行った場合は,術直後に黄斑円孔が閉鎖していなくても,しばらく経過観察するのがよいと考えられる.文献1)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invert-edCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforClargeCmacularholes.OphthalmologyC117:2018-2025,C20102)KuriyamaCS,CHayashiCH,CJingamiCYCetCal:E.cacyCofCinvertedinternallimitingmembrane.aptechniquefortheCtreatmentofmacularholeinhighmyopia.AmJOphthal-molC156:125-131,C20133)LaiCC,ChenYP,WangNKetal:Vitrectomywithinter-nallimitingmembranerepositioningandautologousbloodforCmacularCholeCretinalCdetachmentCinChighlyCmyopicCeyes.COphthalmologyC122:1889-1898,C2015

白点症候群

2017年12月31日 日曜日

白点症候群MultimodalImagingofWhiteDotSyndromes岩田大樹*南場研一*はじめに白点症候群は,眼底後極部の網膜深層から脈絡膜の内層にかけて白点病変が散在性に多発する疾患群である.網膜に散在性の白点を伴う疾患には,サルコイドーシス,結核,梅毒,眼トキソプラズマ症や真菌など全身疾患に伴うものもあるが,全身疾患に伴わない眼局所に所見が限定され,原因が特定不能な症例も多数ある.白点症候群の代表的なものに,急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheli-opathy:APMPPE),多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),点状脈絡膜内層症(punctateinnerchoroidopathy:PIC),多巣性脈絡膜炎(multifocalchoroiditis:MFC),急性網膜色素上皮炎(acuteretinalpigmentepithelitis:ARPE)などがあげられる.これらは互いに類似する所見があり,境界病変というべき所見を呈する症例では慎重に鑑別しなければならない.本稿では,白点症候群の眼底所見,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreenangiography:IA),光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT),眼底自発蛍光(fundusauto-fuluorescence:FAF)などの各種画像所見について紹介する.また,レーザースペックルフローグラフィー(laserspeckle.owgraphy:LSFG)は近年発達した非侵襲的な眼底血流画像化装置であり,眼底血流動態を画像化・定量化できる装置である.LSFGを行うことで,網脈絡膜や視神経乳頭の任意の部位で,血流速度の相対値の指標であるmeanblurrate(MBR)を得ることができる.また,MBRを疑似カラー化することにより,眼球中心部の網脈絡膜血流動態をカラーマップとしてみることができる.検査時間も約4秒と短く簡便であり,再現性も良好であることから,さまざまな疾患における網脈絡膜血流速度を,経時的にかつ定量的に評価するのに適していると考えられており,各疾患におけるLSFGの解析結果についても紹介する.I急性後部多発性斑状色素上皮症APMPPEは,20~30歳代に多く,性差はない1).急激な視力低下がみられるが,視力予後はよい.前駆症状として感冒様症状がみられることがあり,ウイルス感染による血管炎の可能性が指摘されている.両眼性で,眼底後極部の網膜深層に均一な大きさの淡い滲出班が多発する疾患である.病変は後極部から中間周辺部にみられ,その境界は比較的明瞭で,融合することは少ない(図1a).また,黄斑部の漿液性網膜.離,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎や網膜出血を伴うこともある2).enhanceddepthimaging(EDI)-OCTでは急性期で脈絡膜厚がやや肥厚する3)(図1b).漿液性網膜.離を伴うことがあり,病変に一致して網膜外層に高反射領域がみられる.これは回復とともに消失するが,ellip-soidzone(EZ)の断裂がみられることがある.病変部*DaijuIwata&*KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕岩田大樹:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(87)1725位はCFAで早期に低蛍光,後期に過蛍光となり,いわゆる蛍光の逆転現象をきたす(図1c).滲出斑の境界は比較的明瞭で,融合することは少ない.IAでは,静脈相初期では脈絡膜の中大血管は軽度不鮮明となる.病変部Cc図1急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)a:黄斑部,視神経乳頭周囲に黄白色の滲出斑がみられる.Cb:EDI-OCTでは急性期で脈絡膜厚がやや肥厚する.Cc:FAの早期では滲出斑は斑状の低蛍光となるが,後期では低蛍光斑は滲出性変化により過蛍光となる逆転現象がみられる.d:急性期のCIAで静脈層病変部位は早期から低蛍光で,後期にも低蛍光斑が残存する.e:FAFでは網膜色素上皮の障害の程度に応じて低蛍光となり,その周囲は過蛍光となる.位は初期相から低蛍光で,後期相にも低蛍光斑が残存する4,5)(図1d).FAFでは網膜色素上皮の程度に応じて低蛍光となり,その周囲は過蛍光となる(図1e).LSFGでは急性期に黄斑部CMBRが減少,寛解期に1726あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(88)MBRが上昇することから,脈絡膜循環障害が示唆される3).以上の結果から,病変部位では脈絡膜毛細血管板が小葉単位で閉塞していると考えられ,その病態として毛細血管板への流入血管の血管炎が推測されている6).発症から数週間後に改善傾向がみられるようになり,次第に滲出斑は消退する.病変の多くは瘢痕を残さないが,軽度の脱色素斑や色素沈着を残すものがある.したがって,中心窩にかかる病変がみられる場合には,ステロイドの内服や後部CTenon.下注射を検討する.CII多発消失性白点症候群MEWDSは,20~50歳代の女性に好発する7)(男女比1:4).ほとんどが片眼性であるが両眼性もありうる.発症原因は不明であるが,しばしば感冒様症状が先行することから,ウイルス感染に続発する免疫やアレルギー反応が病因としてあげられている.自覚症状は急性の視力低下,光視症や霧視が多い.網膜深層から網膜色素上皮層に類円形のC100~200Cμm淡い白点が多数みられるが,一過性でC1~2カ月で色素沈着などを残さずに消退する.視力障害も一過性で回復する.病変は,黄斑部の外側から血管アーケードの内外に多く,赤道部付近まで観察される(図2a).EDI-OCTでは網膜外層のCEZやinterdigitationCzone(IDZ)は障害され8),脈絡膜はわずかに肥厚する9)(図2b).FAでは急性期において白点部位は早期から過蛍光を示し,後期まで過蛍光が持続する(図2c).回復期には正常化する.急性期のCIAでは,病変部位は静脈相初期には不明瞭であるが,静脈相中期から後期相にかけて徐々に明瞭な低蛍光斑となる(図2d).この低蛍光斑は白点の観察されない部位も含めて多数みられるのが特徴である10,C11).FAFでは病変は過蛍光となるが(図2e),回復期には正常化する.LSFGでは急性期に黄斑部CMBRが減少,寛解期にCMBRが有意に上昇し,発症時の脈絡膜循環障害が示唆される12).CIII点状脈絡膜内層症PICは若年の女性に好発し,近視眼に多い疾患である13).霧視をきたし,両眼性が多い.前房や硝子体の炎症はみられない.後極部中心に,網膜深層から脈絡膜内層に黄白色の点状病巣が数個程度出現する.EDI-OCTでは活動期に軽度の脈絡膜肥厚がみられる(図3a).また,EZの障害に伴い網膜色素上皮は部分的に隆起し,外網状層(outerCplexiformClayer:OPL)に中等度の反射亢進を伴う網脈絡膜結節がみられるようになる.その後にCBruch膜も障害され,外顆粒層の脈絡膜への引き込みがみられる14)(図3b).FAでは病巣は早期から点状の過蛍光となり,後期で蛍光漏出を示す(図3c).IAでは,病巣は静脈相初期から後期相にかけて比較的明瞭な低蛍光を呈し,後期相になっても消失しない15)(図3d).FAFでは急性期では低蛍光となりその周囲は過蛍光となる(図3e).LSFGでは急性期に黄斑部CMBRが減少し,寛解期に上昇する16).治療後は色素沈着を伴った瘢痕を残すが,予後は良好である.しかし,病巣部に脈絡膜新生血管が発生すると視力が低下する.原因は不明で,軽症の多巣性脈絡膜炎の特殊型と考える意見もある.CIV多巣性脈絡膜炎MFC17)はC20~40歳代の若い女性に好発し,両眼性が多い.片眼あるいは両眼に突然の視力低下,変視症や暗点を自覚する.前房と硝子体中に炎症がみられる.網膜色素上皮から内脈絡膜レベルの黄白色の斑状病変が後極部よりは周辺部に多くみられ,後に色素沈着を伴う瘢痕病巣となる.病変はCFAで初期に低蛍光,後期で過蛍光となる.萎縮部位はCwindowdefect,線維性組織は蛍光遮断となる.IAでは初期から低蛍光を示す.再発し慢性の経過をたどり,しばしば視力は不良となる特徴がある.約C25%に.胞様黄斑浮腫を伴い,15~40%に脈絡膜新生血管が発生し,しばしば網膜下増殖をきたす18).CV急性網膜色素上皮炎ARPE19)はC20~40歳代の若年者に多く,突然の霧視で発症する.網膜色素上皮に発症した急性の炎症と考えられている.前眼部から眼底まで炎症所見はほとんどみられない.後極部の網膜色素上皮レベルに境界明瞭な小さい褐色斑が集合してみられ,それぞれが黄色の脱色素を示す輪状帯(halo)で囲まれている.経過とともにhaloは不明瞭になる.急性期のCFAでは中心部の色素沈着部は蛍光遮断による低蛍光,その周囲は組織染によ(89)あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017C1727図2多発消失性白点症候群(MEWDS)a:網膜深層から網膜色素上皮層に類円形のC100~200Cμm淡い白点が多数みられる.Cb:EDI-OCTでは急性期で脈絡膜厚がやや肥厚し,後極部のCEZやCIDZは障害される.Cc:FAでは急性期に白点に一致して早期から後期まで過蛍光が持続する.Cd:急性期のCIAでは,病変は静脈相中期から徐々に明瞭な低蛍光斑となる.白点に一致する部位以外の健常部も含めて多数みられる.e:FAFでは白点病変は過蛍光となる.1728あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017(90)C図3点状脈絡膜内層症(PIC)a:後極部中心に網膜深層から脈絡膜内層に黄白色の点状病巣が数個程度出現する.b:EDI-OCTでは活動期に軽度の脈絡膜肥厚がみられる.また,EZの障害に伴い,網膜色素上皮は部分的に隆起し,OPLに中等度の反射亢進を伴う網脈絡膜結節がみられるようになる.その後にCBruch膜も障害され,外顆粒層の脈絡膜への引き込みがみられる.Cc:FAでは病巣は早期から点状の過蛍光となり,後期で蛍光漏出を示す.Cd:IAでは静脈相初期は中大血管もよく造影され,病巣は静脈相初期から後期相には比較的明瞭な低蛍光斑となる.e:FAFでは急性期では低蛍光となり,その周囲は過蛍光となる.-

Vogt-小柳-原田病

2017年12月31日 日曜日

Vogt-小柳-原田病Vogt-Koyanagi-HaradaDisease(VKH)橋田徳康*はじめに脈絡膜を病変の主座にもつ疾患は多く,ぶどう膜炎疾患ではCVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-HaradaCdis-ease:VKH)をはじめとして,脈絡膜炎および転移性脈絡膜腫瘍など多岐にわたっている.脈絡膜や網膜色素上皮細胞にはメラニン顆粒を含むメラノサイトがあり,これが炎症の起点になるばかりでなく,脈絡膜自体が全身臓器のなかでも一番血流の豊富な部位であるため,炎症細胞の浸潤と拡散が容易に起こり,炎症を惹起しやすい.本稿では,炎症疾患の代表例として発症頻度の高いVKHについて概説する.CI疫学VKHは,メラノサイトを標的とする両眼性の汎ぶどう膜炎であり,その頻度はC2009年に日本眼炎症学会が調査したわが国の大学病院におけるぶどう膜炎の原因疾患の調査においてはC7.0%(第C2位)と,疾患頻度の上位を占める重要な眼炎症疾患である1).日本人をはじめとしたアジア系の有色人種に多いとされる2).疾患発症がCHLAと強い相関があり,日本人を含むモンゴロイドにおいてはCHLA-DR4(DRB1*0405がC95.2%,DRB1*0410がC7.9%)やCHLA-DQB1*0401との相関が報告されている2,3).世界的にみると,VKHはアジア人(Asians),ヒスパニック(Hispanics),アメリカンインディアン(AmericanCIndians),中東人(MiddleCEast-erners)に多いことがわかっている.アフリカ系の黒人の発症はまれで,メラノサイトの存在自体で発症が決まるのではなく,黒色人種と有色アジア系人種では色素沈着の機序が異なる可能性があるからではないかと議論されている.同じアジア諸国において,近隣同士でも国により発症頻度の違いがみられることから,遺伝的背景のみならず環境因子が発症に及ぼす影響が考えられている4).40~50歳代に発症のピークがあるといわれているが,若年者から高齢者まで幅広く発症する.性差に関しては,わが国からの報告では性差はないという報告が多いが,世界的には女性に多いという報告が多く,エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンが発症にかかわるためと考えられている4).CII病態VKH病の発症メカニズムはいまだ明らかではないが,発熱や頭痛といった髄膜刺激様症状を引き起こすなんらかの感染(感冒様症状)などを契機として,HLA-DR4やそのほかの遺伝的背景がある人が発症する可能性が考えられている.最近の研究では,HLAだけでなくCkillerimmunoglobulin-likeCreceptor(KIR)とのかかわりを論じた報告もある.既報を概説すると,免疫抗原としてはチロシナーゼ遺伝子ファミリー,抗原提示機構としてHLAやCKIR,自然免疫関連因子としてCTollClike受容体・補体系,獲得免疫系としてはさまざまなサイトカイン関連因子,その他マイクロCRNAなども発症に関与するものとして報告されている4).VKHの病理は交感性眼*NoriyasuHashida:大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学講座〔別刷請求先〕橋田徳康:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(79)C1717図1発症早期の眼底所見(53歳,女性)両眼性に漿液性網膜.離を認め,視神経乳頭の発赤・腫脹および脈絡膜の皺壁もみてとれ,黄斑にはフィブリン析出所見も認められる.図2図1と同一症例のフルオレセイン眼底造影所見造影初期(造影開始約C1分後)から多発する顆粒状の蛍光漏出点を認め,視神経乳頭の過蛍光も認める.図3図1と同一症例のフルオレセイン蛍光眼底造影所見造影後期(造影開始約C15分後)には,びまん性の蛍光漏出点が融合し,胞状の大きなプーリングを形成している.図4フルオレセイン蛍光眼底造影所見視神経乳頭を中心とした多発する造影剤のプーリングが認められる.図6急性期の光干渉断層計(OCT)所見とくに炎症が強いと,網膜下にフィブリン析出が起こることもある.図5インドシアニングリーン蛍光眼底造影所見脈絡膜の造影パターンが,脈絡膜血管への造影剤の灌流不全により,充盈遅延(ダークスポット)・充盈欠損として観察される.図7VKH急性期のswept-sourceOCT所見脈絡膜厚の著しい増加と強膜との境界の不明瞭化がみられ,間質への炎症細胞浸潤により管腔構造が消失し,一見無構造な所見が認められる.網膜脈絡膜拡張した脈絡膜血管CSC網膜脈絡膜VKH炎症細胞の間質への湿潤図8CSCとVKHの脈絡膜構造のシェーマ両疾患とも脈絡膜の肥厚はみられるが,CSCにおいては脈絡膜血管拡張に伴い個々の血管腔の拡大による肥厚がみられるのに対し,VKHでは間質への炎症細胞浸潤により,血管構造が一見無構造化したように観察され,OCT像が両疾患の鑑別に役立つ.図10皮膚の白斑を生じた症例(45歳,男性)この症例は,眼所見に乏しく,頭痛・皮膚白斑など眼外症状が図9VKH回復期の夕焼け状眼底おもにみられた.ステロイド大量投与により十分な消炎を図ったものの,最終的に夕焼け状眼底を呈している.=recurrentday0day30nonrecurrentday0day30図11治療前後のレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)VKHの再発例で,血管腔内赤血球の相対速度であるCmeanblurrate(MBR)の低下が認められる.’-