眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人31.点眼薬アレルギーによる眼瞼炎佐々木香る地域医療機能推進機構(JCHO)星ヶ丘医療センター眼科点眼薬アレルギーによる眼瞼炎は,浮腫性紅斑を呈し,点眼後C48.72時間で発症する.塩化ベンザルコニウムやミドリンCPC.の主成分のフェニレフリン塩酸塩がよく知られている.その他,抗菌薬,緑内障治療薬,抗アレルギー薬,ステロイド薬でも生じる.ヒアレインミニC.点眼やカタリンCKC.に添加されている添加物Ce-アミノカプロン酸にも注意する.本疾患を疑えば,皮膚科にてパッチテスト・スクラッチテストを施行し,原因薬剤を中止する.C●はじめに多くの外来患者数を診療していると,必ず出会うのがこの疾患である.治療は投薬中止,と容易であるが,「早期に診断すること」と「原因薬剤の患者への情報提供」が,われわれ眼科医の責務である.「点眼薬関連アレルギー」という用語および「接触性皮膚炎」のガイドラインについては,文献C1,2を参考にしていただきたい.ここでは,アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎について解説する.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を疑う臨床所見と鑑別診断実際の臨床では,まず初めに「眼科医による疑い」ありきである.疑ってこそ,投薬に関する詳細な問診が可能となる.主たる臨床所見は,眼瞼から頬部にかけて広い範囲の皮膚の浮腫性の紅斑である(図1).よく観察すると,丘疹や小水疱,びらんを伴い,長期化すると苔癬化も認められる.原因点眼の用法によって,両眼性の場合も片眼性の場合もある.IV型アレルギー反応,つまり遅延型過敏反応で,抗原接触後から発症までは通常48.72時間とされている.高度の浮腫と発赤を認めるため,丹毒,眼窩蜂巣炎,膿痂疹,帯状疱疹との鑑別が必要となる.・丹毒:発熱,CRP上昇,白血球増多,圧痛を伴い,紅斑は境界明瞭である.・眼窩蜂巣炎:片眼性であり,眼窩部に沿った発赤,腫脹である.また,丘疹,小水疱,苔癬化などの表面上の変化は伴わない.・膿痂疹:夏場に多く,発症が急激ではなく,膿などの感染徴候を伴う.・帯状疱疹:片眼性であり,病初期に疼痛や知覚異常,掻痒感が先行する.小水疱がめだたず,眼瞼浮腫が中心となる場合があり鑑別を要するが,典型的な小水疱や痂疲を見逃さないように鑑別する.紅斑の範囲は,神経支配領域に一致する.図1両眼浮腫性紅斑の例a:66歳,男性.緑内障の診断にて眼圧下降薬点眼を開始した数日後,両眼浮腫性紅斑を生じた.パッチテストにて,アイファガン.点眼,タプロス.点眼に陽性と判明した.Cb:73歳,女性.眼科を受診して通水検査の数日後,両眼浮腫性紅斑を生じた.パッチテストにてベノキシール.点眼,クラビット.点眼,亜鉛に陽性反応を示した.(85)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14230910-1810/17/\100/頁/JCOPY●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を生じやすい点眼一般的に防腐剤である塩化ベンザルコニウムやミドリンP.の主成分のフェニレフリン塩酸塩がよく知られている.その他,抗菌薬としては,ゲンタマイシン硫酸塩,硫酸フラジオマイシン,クロラムフェニコール,緑内障治療薬としては,チモロールマレイン酸塩,ジピベフリン塩酸塩の報告が多い.また,ヒアレインミニC.点眼やカタリンCKC.に添加されているCe-アミノカプロン酸などの添加物でも,皮膚科領域で多くの接触性皮膚炎の報告があり,点眼も原因となる.注意すべきは抗アレルギー治療薬でも起こりうることである.たとえば,ケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウム,さらにステロイドでも接触性皮膚炎が報告されている.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を疑った場合の検査パッチテストおよびスクラッチテストを施行する.パッチテストは貼布されるアレルゲンの量・濃度・溶媒となる基剤,貼布時間などが結果に影響を及ぼすため,皮膚科医に依頼するほうが好ましい.パッチテストでは十分量の抗原が必要だが,点眼添加物のCe-アミノカプロン酸やミドリンCPC.のフェニレフリン塩酸塩の濃度は至適濃度より低いため,パッチテストが陰性に出やすい.そのため,点眼アレルギーを疑えば,パッチテストとスクラッチテスト両方の施行を依頼する.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎の治療原因薬剤の除去とステロイドの外用が基本である.接触性皮膚炎を生じやすいネオメドロールCEEC.やリンデロンCA眼軟膏C.は回避する.ステロイド眼軟膏が使用できない症例には,短期間C0.03%小児用タクロリムス眼軟膏の使用を勧める報告もある.高度重症例にはステロイド内服,また掻痒感が強い場合には,抗ヒスタミン薬内服を処方する.軽症例では,原因薬剤の除去と白色ワセリンによる保湿で十分である.緑内障治療薬が疑われた場合は,眼圧下降薬を内服で投与し,局所はすべていったん中止とする.緑内障などで,治癒後の薬剤再開が必要な場合は,パッチテストやスクラッチテストの結果を参考のうえ,1剤から開始し,眼周囲皮膚への点眼薬付着に関して,流水洗浄やふき取りを指導しておく.また,処方の際,添加物の異なる後発医薬品への注意も必要である.C●おわりに本疾患の診断が遅れるのは,眼表面感染症治療中の抗菌点眼薬による発症,またアレルギー性結膜炎治療中の抗アレルギー薬およびステロイドによる発症である.いったん改善傾向がみられたものの,途中から臨床所見の改善が認められない場合,明室下肉眼で患者の顔面を観察し,眼瞼および頬部皮膚の浮腫性紅斑の有無を確認し,「いったん休薬」という治療方針があることも忘れてはいけない.文献1)日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会:接触性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌C119:1757-1793,C20092)庄司純:点眼薬関連アレルギー(総説).日の眼科C87:7,20163)横関博雄:アレルギー性接触皮膚炎.免疫症候群(第C2版)II,新領域別症候群シリーズC35,別冊日本臨床,p118-122,日本臨床社,20163)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日の眼科87:855-858,C20164)大田遥,杉本洋輔,木内良明:角膜潰瘍の治療後に生じた薬剤過敏症のC1例.臨眼68:731-734,C20145)安池理紗,峠岡理沙,加藤則人:フマル酸ケトチフェンによる接触皮膚炎.皮膚病診療37:499-500,C20156)助川俊之:ユニットドーズタイプ精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液によるアレルギー性接触皮膚炎のC1例.日眼会誌118:111-115,C20147)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療C37:475.478,C20158)西岡和恵,小泉晶子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnbironCDerC-matolCutanAllergol9:25-33,C20159)海老原伸行:アレルギー性眼瞼炎.MBCOculistaC24:C39-42,C2015☆☆☆1424あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017(86)C