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眼瞼・結膜:点眼薬アレルギーによる眼瞼炎

2017年10月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人31.点眼薬アレルギーによる眼瞼炎佐々木香る地域医療機能推進機構(JCHO)星ヶ丘医療センター眼科点眼薬アレルギーによる眼瞼炎は,浮腫性紅斑を呈し,点眼後C48.72時間で発症する.塩化ベンザルコニウムやミドリンCPC.の主成分のフェニレフリン塩酸塩がよく知られている.その他,抗菌薬,緑内障治療薬,抗アレルギー薬,ステロイド薬でも生じる.ヒアレインミニC.点眼やカタリンCKC.に添加されている添加物Ce-アミノカプロン酸にも注意する.本疾患を疑えば,皮膚科にてパッチテスト・スクラッチテストを施行し,原因薬剤を中止する.C●はじめに多くの外来患者数を診療していると,必ず出会うのがこの疾患である.治療は投薬中止,と容易であるが,「早期に診断すること」と「原因薬剤の患者への情報提供」が,われわれ眼科医の責務である.「点眼薬関連アレルギー」という用語および「接触性皮膚炎」のガイドラインについては,文献C1,2を参考にしていただきたい.ここでは,アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎について解説する.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を疑う臨床所見と鑑別診断実際の臨床では,まず初めに「眼科医による疑い」ありきである.疑ってこそ,投薬に関する詳細な問診が可能となる.主たる臨床所見は,眼瞼から頬部にかけて広い範囲の皮膚の浮腫性の紅斑である(図1).よく観察すると,丘疹や小水疱,びらんを伴い,長期化すると苔癬化も認められる.原因点眼の用法によって,両眼性の場合も片眼性の場合もある.IV型アレルギー反応,つまり遅延型過敏反応で,抗原接触後から発症までは通常48.72時間とされている.高度の浮腫と発赤を認めるため,丹毒,眼窩蜂巣炎,膿痂疹,帯状疱疹との鑑別が必要となる.・丹毒:発熱,CRP上昇,白血球増多,圧痛を伴い,紅斑は境界明瞭である.・眼窩蜂巣炎:片眼性であり,眼窩部に沿った発赤,腫脹である.また,丘疹,小水疱,苔癬化などの表面上の変化は伴わない.・膿痂疹:夏場に多く,発症が急激ではなく,膿などの感染徴候を伴う.・帯状疱疹:片眼性であり,病初期に疼痛や知覚異常,掻痒感が先行する.小水疱がめだたず,眼瞼浮腫が中心となる場合があり鑑別を要するが,典型的な小水疱や痂疲を見逃さないように鑑別する.紅斑の範囲は,神経支配領域に一致する.図1両眼浮腫性紅斑の例a:66歳,男性.緑内障の診断にて眼圧下降薬点眼を開始した数日後,両眼浮腫性紅斑を生じた.パッチテストにて,アイファガン.点眼,タプロス.点眼に陽性と判明した.Cb:73歳,女性.眼科を受診して通水検査の数日後,両眼浮腫性紅斑を生じた.パッチテストにてベノキシール.点眼,クラビット.点眼,亜鉛に陽性反応を示した.(85)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14230910-1810/17/\100/頁/JCOPY●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を生じやすい点眼一般的に防腐剤である塩化ベンザルコニウムやミドリンP.の主成分のフェニレフリン塩酸塩がよく知られている.その他,抗菌薬としては,ゲンタマイシン硫酸塩,硫酸フラジオマイシン,クロラムフェニコール,緑内障治療薬としては,チモロールマレイン酸塩,ジピベフリン塩酸塩の報告が多い.また,ヒアレインミニC.点眼やカタリンCKC.に添加されているCe-アミノカプロン酸などの添加物でも,皮膚科領域で多くの接触性皮膚炎の報告があり,点眼も原因となる.注意すべきは抗アレルギー治療薬でも起こりうることである.たとえば,ケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウム,さらにステロイドでも接触性皮膚炎が報告されている.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎を疑った場合の検査パッチテストおよびスクラッチテストを施行する.パッチテストは貼布されるアレルゲンの量・濃度・溶媒となる基剤,貼布時間などが結果に影響を及ぼすため,皮膚科医に依頼するほうが好ましい.パッチテストでは十分量の抗原が必要だが,点眼添加物のCe-アミノカプロン酸やミドリンCPC.のフェニレフリン塩酸塩の濃度は至適濃度より低いため,パッチテストが陰性に出やすい.そのため,点眼アレルギーを疑えば,パッチテストとスクラッチテスト両方の施行を依頼する.C●アレルギー性接触性眼瞼皮膚炎の治療原因薬剤の除去とステロイドの外用が基本である.接触性皮膚炎を生じやすいネオメドロールCEEC.やリンデロンCA眼軟膏C.は回避する.ステロイド眼軟膏が使用できない症例には,短期間C0.03%小児用タクロリムス眼軟膏の使用を勧める報告もある.高度重症例にはステロイド内服,また掻痒感が強い場合には,抗ヒスタミン薬内服を処方する.軽症例では,原因薬剤の除去と白色ワセリンによる保湿で十分である.緑内障治療薬が疑われた場合は,眼圧下降薬を内服で投与し,局所はすべていったん中止とする.緑内障などで,治癒後の薬剤再開が必要な場合は,パッチテストやスクラッチテストの結果を参考のうえ,1剤から開始し,眼周囲皮膚への点眼薬付着に関して,流水洗浄やふき取りを指導しておく.また,処方の際,添加物の異なる後発医薬品への注意も必要である.C●おわりに本疾患の診断が遅れるのは,眼表面感染症治療中の抗菌点眼薬による発症,またアレルギー性結膜炎治療中の抗アレルギー薬およびステロイドによる発症である.いったん改善傾向がみられたものの,途中から臨床所見の改善が認められない場合,明室下肉眼で患者の顔面を観察し,眼瞼および頬部皮膚の浮腫性紅斑の有無を確認し,「いったん休薬」という治療方針があることも忘れてはいけない.文献1)日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会:接触性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌C119:1757-1793,C20092)庄司純:点眼薬関連アレルギー(総説).日の眼科C87:7,20163)横関博雄:アレルギー性接触皮膚炎.免疫症候群(第C2版)II,新領域別症候群シリーズC35,別冊日本臨床,p118-122,日本臨床社,20163)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日の眼科87:855-858,C20164)大田遥,杉本洋輔,木内良明:角膜潰瘍の治療後に生じた薬剤過敏症のC1例.臨眼68:731-734,C20145)安池理紗,峠岡理沙,加藤則人:フマル酸ケトチフェンによる接触皮膚炎.皮膚病診療37:499-500,C20156)助川俊之:ユニットドーズタイプ精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液によるアレルギー性接触皮膚炎のC1例.日眼会誌118:111-115,C20147)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療C37:475.478,C20158)西岡和恵,小泉晶子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnbironCDerC-matolCutanAllergol9:25-33,C20159)海老原伸行:アレルギー性眼瞼炎.MBCOculistaC24:C39-42,C2015☆☆☆1424あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017(86)C

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する抗VEGF療法の中止基準

2017年10月31日 火曜日

●連載監修=安川力.橋寛二45.加齢黄斑変性に対する大中誠之関西医科大学眼科学教室抗VEGF療法の中止基準現在,滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する治療としておもに抗CVEGF療法が行われ,treatandextend法を用いることにより,長期にわたって良好な視力を維持することが可能になってきた.しかし,基本的には治療の継続が必要であり,治療の中止に踏み切るタイミングはむずかしい.本稿では,滲出型CAMDに対する抗VEGF療法の中止基準について考察する.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に対する治療として,おもに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬の硝子体内注射(抗CVEGF療法)が用いられる.しかし,滲出型CAMDは慢性疾患と考えられており,どのCVEGF阻害薬を用いても完治は困難であり,多くの症例において抗CVEGF療法を継続して行う必要がある.一般的に抗CVEGF療法は,視力の改善を目的とした導入期と,改善した視力を維持するための維持期に分けて考えられるが,長期予後を考えた場合には,維持期の治療がより重要となってくる.これまでの報告をみてみると,維持期の治療としては,滲出性変化が生じてから治療を追加する必要時投与より,滲出性変化が生じる前に治療を行う計画的投与,とくにCtreatCandCextend法のほうが長期的には視力予後がよい傾向にあり,維持期にCtreatandextend法を用いる施設が増えている1,2).CTreatandExtend法の利点と問題点TreatCandCextend法の利点は,個々の病態に合わせて計画的に治療を行い,来院回数を減らしつつ,長期間にわたり良好な視力を維持できることにあり,現時点においては,この方法を用いて抗CVEGF療法を永続的に行うことは滲出型CAMDに対する理想的な治療かもしれない.しかし,抗CVEGF療法は,眼局所の合併症(眼内炎,白内障など)や全身の副作用(脳卒中や心筋梗塞など)の発生リスクを伴う治療であり,また,高額なCVEGF阻害薬は経済的負担も大きいことから,安易に抗VEGF療法をし続けることは避けるべきであり,個々の状態に合わせて,治療の続行・中止を決定する必要がある.(83)抗VEGF療法の中止基準抗CVEGF療法の中止基準として,Freundら3)は,treatandextend法のアルゴリズムのなかで,さらなる投与の必要がない,あるいはさらなる投与によって継続した恩恵を受けることができないと医師が判断した場合としており,また,McKibbinら4)は具体的に,treatandCextend法によりC1年間治療を行った後,3回連続で疾患活動性がなく,視力も安定していた場合と報告している.抗CVEGF療法の中止後の詳細な検討がないため,現時点ではどの基準が妥当かは不明であるが,抗CVEGF療法の中止を考慮するタイミングとしては,大きく分けて以下の三つが考えられる.すなわち,・抗CVEGF療法により改善した病状が安定しているとき,・抗VEGF療法の継続により視機能と病状の安定化が得られないとき,・患者の事情により治療の継続が困難となったときである.・抗CVEGF療法により改善した病状が安定しているときは,治療後,長期にわたり滲出性変化を認めない状態が続き,視力の悪化がみられない場合である.当院では,導入期治療後に経過観察期間を設け,滲出性所見の再燃後にCtreatCandCextend法を導入している5)が,16週間の間隔でC3回(1年間)連続して病状が安定していた場合を中止の基準としている.しかし,これまでに中止できた症例はわずかであり,残念ながら大多数の症例において治療を継続しているのが現状である.導入期治療の段階で病状の安定化を判断することはきわめて困難であるが,当院における検討では,導入期連続C3回以上の治療により病状の安定化が得られた症例のうち,病状の悪化を一度も認めずに追加治療を必要としなかった症例は,1年目はC3割,2年目でもC2割存在しており,treatandextend法を含む計画的投与を導入するときには,この点に関して留意すべきではないかと考える.あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14210910-1810/17/\100/頁/JCOPY典型AMD視力0.03治療後3カ月視力0.03治療後5カ月視力0.03図1典型加齢黄斑変性(AMD)の網膜色素上皮障害による.胞様黄斑浮腫(CME)広範囲に網膜色素上皮萎縮を認め,抗CVEGF療法によるCCMEの完全消失後も早期に再発し,視力の改善もみられない.・抗CVEGF療法の継続により視機能と病状の安定が得られないときは,治療後,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)が消失しない,あるいは消失しても早期に再発し,徐々に視力が低下する場合である.もちろん僚眼の状態によりこの基準は変わってくるが,筆者は,僚眼に異常なく,患眼の視力がC0.1以下,CMEが消失しても自覚症状の改善がまったくない場合には投薬中止を考慮すべきではないかと考える.このようなCCMEは網膜色素上皮の強い障害によるバリアおよびポンプ機能の代償不全から生じており,完全緩解は困難であることから,いたずらに治療を続けることは避けるべきである(図1).また,治療後に強い線維性瘢痕や網膜色素上皮萎縮が進行して視機能改善が望めない症例も,投与中止を考慮する必要がある.また,いずれの抗VEGF薬の添付文書にも,定期的に有効性を評価し,有効性が認められない場合には漫然と投与しないことと記載されていることも忘れてはならない.・患者の事情により治療の継続が困難となったときは,脳卒中や心筋梗塞が発症した場合や,全身状態の悪化や付き添いの関係で通院が困難となった場合,または金銭的な問題を含めて患者が治療の継続を希望しない場合などである.脳卒中や心筋梗塞を発症した場合には,当院では必要に応じてペガプタニブの単独投与,あるいは光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)との併用療法を行うようにしている.それ以外の場合には,治療の中止により視力が低下することが多いため,改めて治療の重要性を説明し,可能なかぎり治療の継続がで1422あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017きるように努めるべきであり,状況によってはCPDTを併用するなど注射回数をなるべく少なくする配慮も必要であろう.おわりに滲出型CAMDに対する抗CVEGF療法の中止基準について述べたが,抗CVEGF療法のみで長期にわたり良好な視力を維持するためには,基本的にはCVEGF阻害薬を永続的に投与する必要があり,今後の抗CVEGF療法以外の治療法の開発が期待される.文献1)RayessCN,CHoustonCSKCIII,CGuptaCOPCetCal:TreatmentCoutcomesCafterC3CyearsCinCneovascularCage-relatedCmacu.lardegenerationusingatreat-and-extendregimen.AmJOphthalmolC159:3-8,C20152)BarthelmesCD,CNguyenCV,CDaienCVCetCal:TwoCyearCout.comesCof“treatCandCextend”intravitrealCtherapyCusingCa.iberceptpreferentiallyforneovascularage-relatedmac-ulardegeneration.RetinaC2017[Epubaheadofprint]3)FreundCKB,CKorobelnikCJF,CDevenyiCRCetCal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:ACliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C20154)McKibbinCM,CDevonportCH,CGaleCRCetCal:A.iberceptCinwetAMDbeyondthe.rstyearoftreatment:recommen.dationsCbyCanCexpertCroundtableCpanel.CEye(Lond)C29:CS1-S11,C20155)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetCal:ACmodi.edCtreat-and-extendregimenofa.iberceptfortreatment-na.vepatientsCwithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Grae.fesArchClinExpOphthalmolC255:657-664,C2017(84)

緑内障:近視眼緑内障

2017年10月31日 火曜日

●連載208監修=岩田和雄山本哲也208.近視眼緑内障澤田有秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座近視は緑内障発症の危険因子であり,緑内障診療では近視症例を多く経験する.近視眼では視神経乳頭傾斜などの構造変化を認め,これが非近視眼にはない脆弱性を生じる原因となっている.近視眼緑内障では早期から中心視野が障害されることが多く,若年発症の傾向とあいまって,生活に支障をきたし,問題となることがある.C●緑内障リスクファクターとしての近視眼の特徴日本における近視の有病率は,近視を等価球面度数-1.0D以下とした場合,40歳以上の成人でC32.5%であり,これは欧米人においてC20%以下であるのと比較して高い割合となっている.近視は開放隅角緑内障(open-angleCglaucoma:OAG)発症のリスクファクターといわれており,近視とCOAGのオッズ比は,多治見スタデイにおいて弱度近視(>C-3.0D)でC1.65,中等度・強度近視(C.-3.0D)でC2.60であった1).近視眼では視神経乳頭とその周囲組織に特徴的な構造変化を生じる.それらは視神経乳頭の傾斜,耳側の広い乳頭周囲網脈絡膜萎縮(parapapillaryCatrophy:PPA),アーケード血管の黄斑への接近などである(図1).これらの構造変化は,近視化に伴う眼球の伸長により,視神経乳頭が耳側へ牽引されることにより生じる.緑内障眼における軸索障害は,視神経乳頭深部に位置する篩状板において生じることが示されているが,近視眼におけるこれらの視神経乳頭構造変化は篩状板にも影響を与えていることが推測され,近視性変化によって生じた篩状板組織の脆弱性が緑内障性ストレスに対する感受性を高めているものと考えられる.最近の臨床研究で,近視眼緑内障において,近視は等価球面度数や眼軸長の値ではなく,視神経乳頭傾斜とそれに伴う乳頭周囲組織の耳側への変位によって緑内障性視野障害の程度2),さらには進行速度3)に影響を与えることが示唆された.C●近視眼緑内障のOCT所見これらの特徴的な視神経乳頭周囲組織の構造変化から,近視眼緑内障では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見の解釈に注意を要する.一般(81)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1近視眼における視神経乳頭周囲の構造変化視神経乳頭傾斜,耳側の広範な乳頭周囲網脈絡膜萎縮,アーケード血管の黄斑への接近などの特徴的な変化がみられる.に近視眼では視神経乳頭周囲網膜神経線維層(circump.apillaryCretinalCnerveC.berClayer:cpRNFL)値は低く表示され,緑内障の偽陽性と判定されやすい.また,PPAが大きい場合,cpRNFLを測定するサークルがPPAに重なってしまい,その部分の網膜厚が測定できなくなることがある.そのような場合でも,近視性黄斑変化がなければ黄斑部の構造は保たれていることが多いため,黄斑部内層網膜複合体(ganglioncellcomplex:GCC)で上下の網膜厚の対称性を調べることで,緑内障診断を補助することができる.また,RNFLは耳側上下の血管アーケードに一致した膨大部を有するが,近視眼では膨大部が黄斑に近づくため,正常データベースとの比較ではこの部分が菲薄化していると判断され,偽陽性を生じやすく,注意が必要である(図2).あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C1419図2近視眼における神経線維層膨大部の黄斑側への偏位二峰性の神経線維膨大部がデータベースの正常範囲よりも黄斑寄りに偏位しているため,耳上側・耳下側の神経線維層厚は菲薄化していると判断され,ボーダーラインの診断となっている.図3近視眼緑内障における早期からの傍中心暗点52歳,男性,左眼.等価球面度数C-6.5D,眼軸長C26.16mm.Humphrey視野検査のCmeandeviationはC-3.50CdBであるが,傍中心暗点を認め,矯正視力は(0.6).書類を読むときに見ようとするところが見えないなど,仕事上の不自由をきたしている.●臨床的特徴と治療法近視眼緑内障の臨床的特徴として,比較的早期から中心視野が障害されやすいことがある(図3).緑内障眼では通常,Bjerrum領域の感度低下や鼻側階段が出現し,それらが拡大・融合して中心近傍へ障害が及ぶことが多いが,近視眼緑内障では早期から傍中心暗点が出現し,視力低下をきたす症例がある.これらの症例ではCOCTで乳頭黄斑線維束欠損が生じていることが多く,強度近視を伴う緑内障眼では早期から約C40%に乳頭黄斑線維束欠損を認めるという報告がある4).近視眼緑内障は非近視眼緑内障と比較して若年発症する傾向があり,活動性の高い若年者での視力低下は生活に支障をきたし,治療過程で問題となる.近視眼緑内障の治療は,非近視眼緑内障と同様に,まず薬物治療による眼圧下降を試みる.篩状板をはじめとする乳頭組織の脆弱性を考慮してより強力な眼圧下降を1420あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C必要とするという考え方もあるが,統一した見解は得られていない.点眼治療で十分な眼圧下降が得られないときは手術を考慮するが,近視眼では強膜が薄いため手術手技がややむずかしく,また,術後低眼圧になるリスクが高いことを知っておく必要がある.文献1)IwaseCA,CAraieCM,CTomidokoroCACetCal:PrevalenceCandCcausesCofClowCvisionCandCblindnessCinCaCJapaneseCadultpopulation:TheTajimiStudy.OphthalmologyC113:1354.1362,C20062)SawadaCY,CHangaiCM,CIshikawaCMCetCal:AssociationCofCmyopicCopticCdiscCdeformationCwithCvisualC.eldCdefectsCinpairedeyeswithopen-angleglaucoma:Across-sectionalstudy.PLoSOneC11:e0161961,C20163)SawadaCY,CHangaiCM,CIshikawaCMCetCal:AssociationCofCmyopicdeformationofopticdiscwithvisual.eldprogres.sionCinCpairedCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.CPLoSCOneC12:e0170733,C20174)KimuraCY,CHangaiCM,CMorookaCSCetCal:RetinalCnerveC.berlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglau.coma.InvestOphthalmolVisSciC53:6472-6478,C2012(82)

屈折矯正手術:エキシマレーザー治療的角膜切除術(PTK)の術後成績に影響する因子

2017年10月31日 火曜日

監修=木下茂●連載209大橋裕一坪田一男209.エキシマレーザー治療的角膜切除術中村葉稗田牧京都府立医科大学眼科(PTK)の術後成績に影響する因子遺伝性角膜疾患に対して行うエキシマレーザー治療的角膜切除術(PTK)は,視機能向上の得られる有効な治療法である.疾患別の再発率の違いや術後の遠視化,レーザー照射による角膜形状変化,とくにブロードビーム形式時のセントラルアイランドの発生などを考慮のうえ,適切な時期に適切な術式で治療を行うことが大切である.●はじめにエキシマレーザー治療的角膜切除術(phototherapeu-ticCkeratectomy:PTK)は,角膜表層からC150C.m以内に存在する沈着物や変性組織などを除去することによって,視機能向上をめざす手術方法である.適応となる疾患で頻度が高いのは顆粒状角膜ジストロフィ(granularcornealCdystrophy:GCD)と帯状角膜変性(band-shapedCkeratopathy:BSK)で,それ以外に再発性角膜上皮びらん,ブレブによって痛みの生じている水疱性角膜症,限局性アミロイド沈着などもある.角膜ジストロフィとCBSKについてはC2010年より国内で保険収載されており,広く行われている.今回は頻度の高いCBSKとCGCDのC2疾患について述べる.C●PTKの術後成績に関連する因子PTK術後成績に関連する因子として,原疾患による差異,屈折度数の変化,レーザーの切除方式の差異などがあげられる.長期でみた術後経過は疾患によって違いがあり,BSKはほぼ再発しないが,GCDはゆっくりと再発する.まれな疾患ではあるが,GCDのホモ接合体症例では混濁図1顆粒状角膜ジストロフィ(GCD)の2症例a:GCDタイプC2のホモ症例(32歳,男性).視力C0.02(0.04C×S-2.50).b:GCDタイプC2のヘテロ症例(46歳,男性).視力C0.5(矯正不能).Cの発症がC5.6歳と低年齢であり,再発はC1年以内と早期に起こる1)(図1a).GCDのタイプ別頻度としてもっとも多いタイプC2ヘテロ症例の場合(図1b),混濁による羞明感や視力低下などの自覚症状が出るのは中年期以降であり,通常CPTK術後に視力低下を伴う臨床的再発が起こるまでにはC10年程度かかることがわかっている.BSKの症例(図2a,b)では,原因となっている腎障害やぶどう膜炎など疾患の病状が安定していれば,再発する率は少ない.術後早期経過に関連する因子としては,レーザー照射による遠視化および不正乱視の発生があげられる.スリット方式では中央部の照射が強く,術後に遠視化を生じるので,通常のCPTKに遠視矯正を加えて切除し,良好な成績の報告もある2).ブロードビーム方式の場合,照射面中央の一部の切除深度が浅くなるセントラルアイランドという不正乱視を生じる場合があり,矯正視力やコントラスト感度の低下など視機能低下につながる3)(図2c).中央部を十分に切除するため近視切除モードのみで切除すればセントラルアイランドは抑制できるが,近視矯正効果のため強い遠視化が生じることは避けられない.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14170910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2帯状角膜変性症例(80歳,男性,ブロードビーム方式照射.0.5D近視モード切除)a:術前の前眼部写真.視力はC0.5(0.7C×S+1.25(C-1.0DCAx60°).b:術後4カ月の前眼部写真.混濁は消失しており,明るくなったとの自覚はあるが,視力はC0.1(0.2C×S+0.50(C-1.50DAx50°).c:術後C4カ月の前眼部形状(前眼部形状解析装置CTMSによる).中央部に突出した形状となり,セントラルアイランドを生じている.小さい正円形(白線)が直径C2Cmmの範囲,大きい円(黒線)は瞳孔径を示している.●ブロードビーム方式のPTK当院で行ったCBSKおよびCGCDヘテロ症例に対するブロードビーム方式(StarS4CIRC.,CAbbott社)のCPTK術後成績について検討した.セントラルアイランドの定義は前眼部形状解析装置CTMS(トーメー社製)にて突出部中央C2Cmm以上,同系色部分から切除面最周辺部の屈折度がC3Dより大きい変化である場合にセントラルアイランドと定義した(図2c).図2の症例のようにメーカーの推奨設定である近視切除-0.5Dを加えて上皮切除を行う方法ではセントラルアイランドの出現頻度が高かったため,近視切除をC-2.0Dに変更したところ,かなり頻度は減少した.近視切除モードC-2.0Dの場合,屈折度の術前後変化はCBSKではC-0.84±1.68Dと軽度の近視傾向に,GCDではC2.31C±4.60Dと遠視化が生じていた.BSKではカルシウムが沈着した混濁部は切除効率が悪く,混濁していない周辺部ほどは切除されないことによって,近視切除モードを追加したにもかかわらず,術後の近視化を生じたものと考えられる.BSKでは近視モードでの切除を-2.0D程度,もしくはそれ以上に設定したほうがよいかもしれない.一方CGCDの場合は,近視切除モードの増加に伴い術後の遠視化が著明となる.ブロードビーム方式のCPTKに生じるセントラルアイランドを予防するために,PTKに中央の切除深度を深くする近視矯正モードを加えて混濁を除去する方法がよいと考えられる.近視切除のCPRK(photorefractive1418あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017Ckeratectomy)モードのみで行う方法では,術前すでに白内障が生じている症例であれば術後白内障手術によって遠視を減少させることができるため問題ない4)が,白内障がまだ生じていない症例や眼内レンズ眼,若年のため再発が懸念される症例では強い遠視化が問題となる.手術時年齢,術前の屈折度数などを考慮のうえ,患者の生涯にわたるCqualityofvisionを見据えての術式選択が必要である.C●おわりにPTKの術後成績は,疾患のタイプ,レーザー照射の方式により左右されるため,疾患の再発率やCPTKの術後経過などを十分に理解したうえで術式選択を行うことが大切である.文献1)MoonCJW,CKimCSW,CKimCTICetCal:HomozygousCgranularcornealCdystrophyCtypeCII(AvellinoCcornealCdystrophy):CnaturalChistoryCandCprogressionCafterCtreatment.CCorneaC26:1095-1100,C20072)AmanoCS,CKashiwabuchiCK,CSakisakaCTCetCal:E.cacyCofChyperopicCphotorefractiveCkeratectomyCsimultaneouslyCperformedCwithCphototherapeuticCkeratectomyCforCdecreasinghyperopicshift.CorneaC35:1069-1072,C20163)HashimotoCA,CKamiyaCK,CShimizuCKCetCal:Centralislands:rateCandCe.ectConCvisualCrecoveryCafterCphoto-therapeuticCkeratectomy.CJpnCJCOphthalmolC59:409-414,C20154)OyaF,SomaT,OieYetal:OutcomesofphotorefractivekeratectomyCinsteadCofCphototherapeuticCkeratectomyCforCpatientsCwithCgranularCcornealCdystrophyCtypeC2.CGraefesCArchClinExpOphthalmol254:1999-2004,C2016(80)C

眼内レンズ:眼内レンズインジェクターを用いた水晶体残留物除去

2017年10月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋371.眼内レンズインジェクターを用いた山川百李子秋元正行大阪赤十字病院眼科水晶体残留物除去水晶体.破.時の残留核片,眼内レンズ摘出時のSoemmering’sringなどを除去する際,従来の方法では切開創の拡大や,多量の粘弾性物質(OVD)を必要とする.眼内レンズインジェクターで自己閉鎖創の開口を確保することで,OVDの使用総量を減らし,切開創を大きく広げず,残留物の接触による侵襲から創部や角膜内皮を保護しつつ容易に取り出すことができた.●はじめに手術手技の発展により,白内障手術は小切開・極小切開などの小さな自己閉鎖切開創から行われるようになった.しかし,破.時の残留核片や眼内レンズ交換時のSoemmering’sringなどの前房内残留物の除去については,鑷子での除去が困難であるため,切開創を拡大し,粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)を多量に注入することで眼内圧を上昇させ娩出する方法が主流である.輪匙を使用する場合も,切開創付近で硝子体腔に落ちかけている核の処理は困難であり,切開創を拡大しなければ娩出時に自己閉鎖切開創に摘出物が接触し,創部や角膜内皮への侵襲がある.筆者らは,前房内異物を除去に際して,眼内レンズインジェクターを用いた方法を考案した.眼内レンズインジェクターで切開創の開口を確保することで,前房内異物を容易に眼外へ除去することができた.この方法は,残留核やSoemmering’sringなどの前房内残留物の除去においても応用可能と考えて実施した.●症例1:21歳,男性先天白内障にて経毛様体扁平部水晶体切除術が施行された無水晶体眼.虹彩炎と高眼圧発作を繰り返すようになり,虹彩裏面に残存した水晶体に起因するぶどう膜炎が疑われ手術した.残留水晶体は石灰化が非常に強く,毛様体に癒着しており,硝子体カッターでの切除は困難であった(図1a).眼内レンズインジェクターを3mm強角膜輪部一面切開創部より挿入し,ヘラのように使用して残留片の一部を内腔に収め除去した(図1b).落下した石灰化小片は,硝子体カッターで吸引捕獲して前房まで挙上し,改めて挿入したインジェクターを介して除去した(図1c).●症例2:74歳,女性落屑を有する核硬化III度の白内障.術中,超音波乳化吸引中に後.破損し3/4以上の核片が前房内に残った.角膜ポートより粘弾性物質を充.し,残留核片を中央部にできるだけ移動させた.2.4mm切開創からアルコン図1症例1石灰化したSoemmering.sring除去a:過去の経毛様体扁平部水晶体切除術の手術創近くに膨化・石灰化した残留水晶体を認めた.b:灌流下でインジェクターをヘラのように利用して内腔に収めた.c:硝子体カッターで吸引した核片を前房まで挙上し,インジェクターを介して除去した.(77)あたらしい眼科Vol.34,No.10,201714150910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2症例2破.時の残存核処理a:AlconのDカートリッジを挿入,スパーテルで核を破砕しながら粘弾性物質を利用して核を除去した.b:興和のメドショットで核片をすくうように内腔に収めた.のDカートリッジを挿入.スパーテルと双手で核を破砕し,内腔に収めていった(図2a).次に切開創を3.0mmに拡大.開口部が大きい興和のメドショットを使用し,OVDとともに除去した(図2b).●症例3:43歳,男性2回の網膜.離術後の眼内レンズ脱臼症例.眼内レンズを.ごと半切し,3mm切開創から眼内レンズを摘出した.Soemmering’sringは眼内に残った.灌流下にインジェクターを挿入し(図3a),スパーテルで誘引,除去した(図3b).●おわりに眼内レンズインジェクターを挿入して自己閉鎖創の開口を確保することで,灌流下で,あるいはOVDを注入図3症例3Soemmering.sring除去a:眼内レンズ摘出後,灌流下にSoemmering’sringをインジェクター内に収めた.b:摘出したSoemmering’sring.しながら,大きな核片やSoemmering’sringを除去することができた.眼内レンズインジェクターは,多くの施設で比較的容易に手に入る器具であり,その使用方法も簡便である.筆者らは本法をremnantextractionbylensinjectorwithessential.ow(RELIEF)法と名付けた.RELIEF法は,自己閉鎖創を温存したまま,眼内残留物を静的に除去できる有用な手技であると考える.文献1)IshiK,NakanishiM,AkimotoM:Removalofintracamer.almetallicforeignbodybyencapsulationwithanintraocu.larlensinjector.JCataractRefractSurg41:2605-2608,20152)YamakawaM,KusakaM,AkimotoM:Remnantextrac.tionbyusinganintraocularlensinjectorwithessential.ow.EurJOphthalmol27:509-511,2017

コンタクトレンズ:乱視眼のコンタクトレンズ処方の実際

2017年10月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩.症例からみるCL処方.監修/下村嘉一36.乱視眼のコンタクトレンズ処方の実際糸井素純道玄坂糸井眼科医院●はじめに乱視とひとくちにいっても正乱視(直乱視,倒乱視),不正乱視,さらには角膜由来の乱視,水晶体由来の乱視に分けることができ,それぞれコンタクトレンズ(CL)の選択は異なる.また乱視を正確に評価するためには,検査当日,まったくCLを装用していない状態で評価することが望ましい.CL装用はハードコンタクトレンズ(HCL)のみならず,ソフトコンタクトレンズ(SCL)でも顕著な角膜変形(図1,2)を招くことがあり,正確な乱視の評価ができないことがある.本稿では1.00D以上の正乱視眼に対するCL処方について,それぞれのパターン別に解説する.●高度角膜乱視に伴う3D以上の直乱視日本では1日使い捨て乱視用SCLは乱視度-0.75.-2.25D,2週間交換乱視用SCLは乱視度-0.75.-2.75Dのものが流通している.ただし,-2.25D,-2.75Dの乱視度をもつ乱視用SCLは限定されており,たとえ3D未満の直乱視であっても,フィッティングなどの問題で乱視用SCLの処方を断念せざるをえないこともある.また乱視用SCLは球面SCLに比較してレンズ厚が厚く,とくに乱視度が強くなるとその傾向は顕著となる(図3).したがって,低含水性の素材の従来型乱視用SCLは角膜菲薄化,角膜内皮障害などの慢性酸素不足の症状を招きやすいので,常用レンズとしては処方していない.高度角膜乱視に伴う3D以上の直乱視に対するCLの第一選択はHCLとなる.角膜の乱視度が強く,レンズのセンタリングが不安定となるケースでは,乱視用HCL(バイトーリック,あるいは後面トーリック)も選択肢となるが,筆者は球面HCLのレンズ前面に溝(MZ)加工(図4)を施すことによって安定したセンタリングを得ている.HCL特有の異物感で装用が困難な場合は,球面SCLの上にHCLを処方するpiggybacksystemもよい適応となる.●1.00.2.75Dの直乱視HCL,乱視用SCL(1日使い捨て,2週間交換)のよい適応となる.筆者は近視度が強い眼に対しては,眼への酸素供給や装用時間が長くなることも考慮してHCL図1ハードコンタクトレンズ装用者にみられた角膜変形図21日使い捨てハイドロゲルコンタクトレンズ(含水率58%)装用者にみられた角膜変形(75)あたらしい眼科Vol.34,No.10,201714130910-1810/17/\100/頁/JCOPY図32週間交換乱視用ハイドロゲルコンタクトレンズ(含水率66%)の断面図下方が上方に比較してレンズ厚が厚くなっている.図4レンズ前面周辺部の溝加工(MZ加工)図5ソフトコンタクトレンズの長期この加工で上眼瞼によるハードコンタクトレン装用者にみられたバタフライタズ保持がされやすくなり,レンズの安定性が向イプの中等度円錐角膜上する.を,近視度が弱い眼に対しては乱視用SCLを第一選択としている.またoccasionaluse目的の装用者に対しては一日使い捨て乱視用SCLが第一選択となる.HCL特有の異物感の解消には常用することが大原則であり,occasionaluseには適さない.また2週間交換SCLのoccasionaluseでは,レンズケース内での微生物汚染の可能性が高くなる.●高度角膜乱視に伴う3D以上の倒乱視このようなケースで角膜形態異常を伴わない正乱視を経験することはまれである.角膜形状解析を実施すると,バタフライタイプの円錐角膜(図5)やペルーシド角膜辺縁変性であることが多い.CLの選択はHCLとなる.角膜の乱視度が強く,センタリングが不安定となるケースでは,前述したように球面HCLのレンズ前面に溝(MZ)加工(図4)を施す.HCL特有の異物感で装用が困難な場合は,前述したpiggybacksystemもよい適応となる.InstantaneousRadius表示.●1.25.2.75Dの倒乱視水晶体由来の乱視が倒乱視の主体となっているケースで多い.乱視用SCLのよい適応である.球面HCLで矯正しても水晶体由来の乱視は矯正できないため,良好な矯正視力を得ることはまずできない.理論的には前面トーリックのHCLで矯正することが可能であるが,レンズのフィッティングがむずかしく,処方の成功率が低いため,筆者は処方することを控えている.現在,酸素透過性の高いさまざまな1日使い捨て乱視用SCL,2週間交換乱視用SCLが登場しているので,それらを処方している.ただし,倒乱視眼は直乱視眼に比べて角膜乱視が少ないために,乱視用SCLの軸ずれを起こすことが多いので注意が必要である.乱視用SCLを処方する際には,必ずセンタリングとレンズの軸ずれの有無を確認し,必要に応じて軸補正を行う必要がある.ZS986

写真:特徴的な角膜後面沈着物を認める眼内リンパ腫

2017年10月31日 火曜日

写真セミナー監修/島.潤横井則彦401.特徴的な角膜後面沈着物を認める永田健児京都府立医科大学視覚機能再生外科学講座眼内リンパ腫図2図1のシェーマ図1特徴的な角膜後面沈着物大小不同の角膜後面沈着物を認め,大きなものの辺縁は不整である.図3前部硝子体細胞図4本症例の眼底写真多くの大きな前部硝子体細胞をびまん性に認めた.硝子体混濁を認めるが,網膜には病巣を認めなかった.(73)あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017C14110910-1810/17/\100/頁/JCOPY眼内リンパ腫は高率に中枢神経系病変を合併し,致死的疾患であるため,眼所見から眼内リンパ腫が疑われる場合は早期に硝子体生検を行い,採取した硝子体や灌流液の解析を行う必要がある.リンパ腫では通常,組織を採取して組織診を行うが,眼内リンパ腫では組織診を行うのはむずかしいことが多く,細胞診と種々の補助検査を行って総合的に診断する.細胞診のほかには,サイトカイン解析や遺伝子再構成の検討,フローサイトメトリー解析,セルブロックでの解析などの方法がある.とくに判定の容易さや感度が高いことからサイトカイン解析が広く行われており,インターロイキン(IL)-10の濃度がC100Cgp/ml以上の場合や,IL-6の濃度より高い場合には,眼内リンパ腫の可能性が高いとされている1,2).眼内リンパ腫は仮面症候群と称されるように,ぶどう膜炎との鑑別がむずかしい場合があり,その特徴的所見を把握しておくことが重要である.一般的には硝子体混濁や網膜下浸潤病巣が特徴的で,硝子体混濁の性状はびまん性,オーロラ状あるいはベール状と称される.また,眼内リンパ腫の大半はびまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫であり,眼内にみられる腫瘍細胞はぶどう膜炎でおもにみられるCTリンパ球より大きな細胞であることも特徴の一つである.角膜後面沈着物は種々のぶどう膜炎でみられるが,大きさや色調,その配列などから原因疾患の鑑別に役立てられる.たとえば,大きな豚脂様角膜後面沈着物が認められれば,サルコイドーシスやCVogt-小柳-原田病をはじめとする肉芽腫性ぶどう膜炎が考えられ,色素に富んで整然と配列していれば,ヘルペス性虹彩炎を疑うことになる.眼内リンパ腫における角膜後面沈着物の特徴は大小不同で辺縁が不整とされるが,この特徴はあまり認識されていない.筆者は辺縁部が棘状の角膜後面沈着物を伴った眼内リンパ腫の症例を経験した(図1,2).本症例はぶどう膜炎として近医でフォローされていたが,びまん性硝子体混濁を伴い,前部硝子体にみられた細胞は一般的なぶどう膜炎と比較して大きな細胞であった(図3).眼底は強度近視であったが,網膜内や網膜下にはとくに病巣を認めなかった(図4).角膜後面沈着物の性状から眼内リンパ腫を疑い,硝子体生検を行ったところ,IL-10が376.0Cpg/ml,IL-6がC63.2Cpg/mlとCIL-10が高値であり,細胞診ではCclassCVであった.フローサイトメトリー解析でも汎CBリンパ球抗原であるCCD19およびCD20を発現し,免疫グロブリンCk鎖の軽鎖制限を認める細胞群が認められ,B細胞性リンパ腫と診断した.このように眼内リンパ腫の特徴的眼所見を認めた場合は,積極的に手術を行って診断することが重要である.文献1)SugitaS,TakaseH,SugamotoYetal:Diagnosisofintra-ocularClymphomaCbyCpolymeraseCchainCreactionCanalysisCandcytokinepro.lingofthevitreous.uid.JpnJOphthal.molC53:209-214,C20092)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoCHCetCal;JapaneseCIntraocularLymphomaCStudyCG:ClinicalCfeaturesCandCdiagnosticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C2012C

強度近視の網膜病変

2017年10月31日 火曜日

強度近視の網膜病変MyopicMacularComplications大杉秀治*はじめに近視の人口はわが国を含む東アジアで多く,年々増加傾向にある.近視が進行し,病的とよばれるまでに至るとさまざまな合併症を生じ視力障害をきたす.多治見スタディにおいては近視性黄斑変性がWHO基準による片眼性失明の原因疾患第一位であったことが報告された1).病的近視に視力障害を引き起こす網膜病変として,近視性黄斑合併症や裂孔原性網膜.離がある.近視性黄斑合併症には近視性網脈絡膜萎縮,近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization;近視性CNV),近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM),黄斑円孔,黄斑円孔網膜.離が含まれ,本稿ではこれら近視性黄斑合併症について概説する.I近視性網脈絡膜萎縮病的近視眼では近視の進行とともに眼軸の延長や後部ぶどう腫の形成が生じ,これに伴い脈絡膜が高度に菲薄化し,脈絡膜の循環が障害される.その結果,びまん性や限局性の萎縮が生じる.びまん性萎縮は病的近視眼に高頻度にみられ,眼底検査にて黄斑部や視神経乳頭周囲に黄白色の色調を呈する(図1).その病態は網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管板の微細な萎縮とされ,この状態が原因で高度な視力低下をきたすことは少ない.最近,小児の視神経周囲にびまん性萎縮病変がみられた場合,将来的に病的近視による失明リスクが高いことを示唆する報告があり2),注意が必要である.一方,限局性萎縮は脈絡膜血管の完全閉鎖によって生じ,眼底検査にて境界明瞭な白色病変としてみられる(図2).眼底自発蛍光で同部は低蛍光となり,この部位では網膜色素上皮および視細胞が萎縮しているため絶対暗点となるが,病変の拡大は中心窩から離れる方向に進行する傾向にあり,視力が残されることも多い.しかし,境界部に近視性CNVを生じることがあり注意が必要である.また,Bruch膜の断裂により生じる線状の萎縮(lac.quercrack)も近視性CNVが生じる部位として重要である.II近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV)近視性CNVはそのほとんどが網膜色素上皮上に存在(type2CNV)し,病的近視の5.10%にみられ,約30%が両眼性とされる.近視性CNVは眼軸長延長に伴い生じるlacquercrackや脈絡膜循環の障害が関与しているとされる.自然経過により,多くは色素沈着を伴うFuchs斑を経て続発性の網脈絡膜萎縮が生じ,不可逆性の視力障害をきたす.それゆえ,できるだけ早期に診断・治療することが望ましい.1.近視性CNVの診断病的近視眼では網脈絡膜萎縮によるコントラスト低下のため,検眼鏡的検査のみでは微細な病変をとらえることは困難であった.しかし,光干渉断層計(optical*HideharuOhsugi:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕大杉秀治:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(67)1405図1びまん性萎縮の眼底写真図2限局性萎縮の眼底写真後極部に黄白色の萎縮病変がみられる.中心窩周囲に境界明瞭な萎縮病変がみられる.図3近視性脈絡膜新生血管(CNV)a:眼底写真では網膜出血とCCNVの灰白色病変を認める.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影にてCCNVよりの蛍光漏出を認める.Cc:インドシアニングリーン蛍光眼底造影初期ではCCNV周囲にCdarkCrimがみられる.Cd:IA後期ではCCNVが過蛍光として,またCBruch膜の断裂(lacquerCcrack)が線状の低蛍光として描出されている.Ce:OCTにて網膜下にCCNVと滲出物が貯留しているのが確認できる.Cf:抗CVEGF治療後のCOCT.網膜色素上皮によるCCNVの囲い込みが完成し滲出を認めない.図4近視性脈絡膜新生血管CNVの蛍光造影と光干渉断層血管撮影(OCTA)a:眼底写真では網膜出血とCCNVの灰白色病変を認める.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影にてCCNVからの蛍光漏出を認める.Cc:インドシアニングリーン蛍光眼底造影初期でCCNVがはっきりと描出されている.Cd:bの白枠の範囲に相当するCOCTAでCCNVが描出されている.Ce,f:OCTにて網膜下にCCNVと滲出物が貯留しているのが確認できる.図5Bruch膜の断裂により生じた単純出血の蛍光造影と光干渉断層血管撮影(OCTA)a:眼底写真では網膜出血を認める.b,c:bのフルオレセイン蛍光眼底造影およびCcのインドシアニングリーン蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認めない.Cd:bの白枠の範囲に相当するCOCTAで脈絡膜新生血管(CNV)が描出されない.Ce,f:OCTにて網膜下に比較的均一な貯留物(出血)がみられるがCCNVを認めない.図6近視性牽引黄斑症の進行a:近視性網膜分離を認める.Cb:分離症は進行すると網膜の外層に欠損を生じて黄斑部.離となる.Cc:中心窩の神経網膜が欠損することで円孔を生じ,黄斑円孔網膜.離となる.C図7網膜分離と黄斑円孔網膜.離の硝子体手術による改善a:近視性網膜分離症例のOCT.分離が悪化し矯正視力が低下しはじめたため,硝子体手術施行.矯正視力(0.8).b:aの術後C1年のCOCT.分離が軽快している.矯正視力(1.0).c:黄斑円孔網膜.離症例のCOCT.矯正視力(0.2).硝子体手術施行.d:cの術後C6カ月のOCT..離の治癒と円孔の閉鎖が得られ矯正視力も(0.8)まで改善した.-

近視と緑内障

2017年10月31日 火曜日

近視と緑内障MyopiaandGlaucomaType山下高明*はじめに2000からC2001年に行われた緑内障の疫学調査である多治見スタディでは,近視の頻度も報告されており,C-0.5D未満の近視の割合は,70代で男性C13.5%,女性18.6%に対して,40代では男性C70.3%,女性C67.8%と急激に増加している(図1)1).原稿を書いているC2017年C7月は多治見スタディからC17年ほど経過しているので,当時のC70代は今のC87.96歳であり,当時のC40代は今のC57.66歳ということになる.つまり現在C90歳前後の世代では,日本人は近視の少ない民族であり,現在C60歳前後の世代までの間で近視が急増した結果,世界でも有数の近視の多い民族となったのである.本稿では,この近視の急増が緑内障診療に与える影響について,各種緑内障の有病率の変化という観点から解説する.CI閉塞隅角緑内障の減少閉塞隅角緑内障のリスクファクターは高齢,遠視,女性である2).遠視は近視と比較して眼軸長が短く,女性は男性と比較して眼球が小さいため,遠視眼の女性は元々,前眼部の組織が狭いスペースにひしめいている.このような眼では,加齢により水晶体が厚くなったり,Zinn小帯が脆弱になったりすることで,水晶体前面が前方に張り出し,瞳孔部での房水通過の抵抗が大きくなりやすく,瞳孔ブロックを起こしやすいと考えられている(図2a).多治見スタディでは,遠視(>0.5D)の割合は,70代(現在C90歳前後)で男性C56.5%,女性C63.8%に対して,40代(現在C60歳前後)では男性C2.1%,女性C2.9%と急激に減少している(図1)1).そのため,閉塞隅角緑内障は減少傾向にあり,最近では急性閉塞隅角緑内障による緑内障発作をほとんど診察したことのない若い眼科医が増えてきている.もちろん,レーザー虹彩切開術の普及も緑内障発作減少の一因となっているであろう.一方で日本人の寿命は年々伸びており,高齢者が増加することで,上述した水晶体の加齢変化が大きくなることで,遠視が強くなくても緑内障発作を起こす可能性が出てくる.加えて,高齢者で白内障手術を行っていない眼では,水晶体膨化による核性近視が進行して近視化する1).そのため,高齢者では近視であっても閉塞隅角緑内障を発症する可能性があり,vanCHerick法・隅角検査・前眼部画像検査による閉塞隅角の検出が重要である.CII色素散布症候群,色素緑内障の増加色素散布症候群および色素緑内障のリスクファクターは近視と人種(アジア人と比較して欧米人で多い)で,他のタイプの緑内障と比較して若年者で発症する.欧米人の平均年齢C40歳でスクリーニングした研究では,色素散布(緑内障かどうかは問わない)を認めた眼はC2.5%以上であったと報告されている3).遠視眼の多かった昔の日本人では色素緑内障はまれであった.色素緑内障のリスクファクターは近視であり,近視の増加で現在の*TakehiroYamashita:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学〔別刷請求先〕山下高明:〒890-8520鹿児島市桜ヶ丘C8-35-1鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(61)C1399100806040200男性の年代別屈折女性の年代別屈折100806040200遠視正視軽度近視強度近視遠視正視軽度近視強度近視図1多治見スタディにおける男女の年代別屈折値の割合40.4950.5960.6970.7980+40.4950.5960.6970.7980+日本人ではC60代からC40代(現在のC80歳前後からC60歳前後)にかけて,近視が急増し,遠視が急減しているのがわかる(強度近視<C-5.0D<近視<C-0.5D<正視<0.5D<遠視).(文献C1より改変引用)C図2閉塞隅角緑内障(a)と色素緑内障(b)の前眼部シェーマ閉塞隅角緑内障は,角膜が厚く,前房が浅く(遠視),水晶体が厚く硬い(高齢者)眼に発症しやすく,瞳孔ブロック(後房圧>前房圧)によって虹彩が前湾して隅角が閉塞する.色素緑内障は,角膜が薄く,前房が深く(近視),水晶体が柔らかく,調節で厚みが変化しやすい(若年者)眼に発症しやすく,角膜が瞬目により押されて戻る(.)ことで,前房がスポイトのような役割を果たし,後房から前房に大量に房水が移動することで一時的に,前房圧>後房圧となり,逆瞳孔ブロックをきたす.逆瞳孔ブロックで虹彩が後湾し,水晶体・Zinn小帯と接触したり,急速に虹彩が前後に動いたりすることで虹彩色素が散布される.C表1色素散布症候群,色素緑内障の所見(太字は色素散布症候群の古典的三主徴)角膜:CKrukenbergspindle(角膜後面色素沈着),角膜内皮細胞の多形前房:色素顆粒の浮遊,前房深度の増大虹彩:中間部虹彩菲薄化による線状の徹照,まだらな色素沈着,色素脱出,瞳孔不同水晶体:水晶体前.・後.への色素沈着,Zinn小帯への色素沈着隅角:線維柱帯への過度な色素沈着,Schwalbe線への色素沈着,広い隅角,後方へ湾曲した虹彩(湾曲している時としていない時がある)後極部:周辺網膜変性,格子状変性(文献C3より改変引用)図3色素緑内障(22歳,男性)両眼とも高度の緑内障性視神経萎縮,隅角色素沈着を認め,虹彩は後湾,隅角は広く開大し,中間部虹彩に色素脱(C.)が確認できる.本症例では,レーザー虹彩切開術を両眼に施行し,さらなる色素散布を予防した.-

近視による内斜視

2017年10月31日 火曜日

近視による内斜視EsotropiaAssociatedwithMyopia鎌田さや花*稗田牧*はじめにVonGraefeやBielschowskyによると,近視眼に生じる内斜視には二つある.一つは若年者に生じる共同性内斜視で,はじめは遠見での複視で発症し,次第に近見でも複視を生じるもの(これを近視性後天性内斜視と称する),もう一つは強度近視に伴い,徐々に進行するもの(これを強度近視性内斜視と称する)である1).本稿では,近視眼に生じる内斜視のうち,近視性後天性内斜視,強度近視性内斜視について述べ,症例を提示する.近視性後天性内斜視の項では,近見作業過多によると考えられる内斜視について考察する.また,強度近視性内斜視の項では,長眼軸長の強度近視眼に伴う固定内斜視だけではなく,近視の程度が軽くても眼球脱臼と伴う内斜視になる病態についても触れる.I近視性後天性内斜視最近,比較的若年者の近視眼に後天性に発症した共同性内斜視が増加している2.5).このような近視を伴う後天性共同性内斜視は,急性内斜視とは異なる病像を呈する.近視性後天性内斜視は,未矯正や低矯正の近視眼で近見作業が多い場合に生じるという説もあり,スマートフォンの過度な使用に伴う内斜視と同様の病態である可能性がある.典型的な近視性後天性内斜視は,複視を伴って発症する共同性内斜視で眼球運動制限はなく,調節性の要因は少ない.遠見での複視を伴う開散不全で始まり,近見は融像可能であるが,一時的な複視を自覚する間欠性内斜位の時期を経て,近方でも内斜視となり,恒常性に至る.発症年齢は10.30代が中心で,幼少期に斜視や眼疾患の既往はなく,両眼視機能は良好である.急に恒常性の複視を自覚して受診するため急性内斜視として扱われる症例もあるが,よく問診すると,それまでにも一時的に複視になることがあったなど,間欠性内斜位の時期があったと推察される例も少なくない.原因や発症機序は明らかではないが,近見作業の増加や精神的・全身的なストレスを契機に発症したと思われる例もある.鑑別として,後述する強度近視性内斜視や中枢性病変を伴う開散麻痺,外転神経麻痺,輻湊けいれんなどがあげられる.MRIによって,筋円錐からの眼球後部の脱臼を伴う強度近視性内斜視や中枢性病変を除外する.また,外転神経麻痺では外ひきの制限を認め,近見反応が異常に亢進して生じる輻湊けいれんでは縮瞳を伴い,単眼性のひき運動時では外転制限がないが,両眼性のとも向き運動時の外転制限が顕著である6)とされるが,近視性後天性内斜視ではこのような調節過緊張の所見や眼球運動制限は伴わない.近視性後天性内斜視の治療には,屈折矯正のみで改善する例もあり,まず適切な屈折矯正を要する.プリズム眼鏡装用のみで眼位が改善したという報告もあり,眼位の変動がある場合はプリズム眼鏡装用で経過をみるが,半年ほど改善がない場合には手術を行う.手術の他にボツリヌストキシン注射の報告もある.手術は一般的な水*SayakaKamada&*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕鎌田さや花:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(55)1393図1近視性後天性内斜視(術前のHESS赤緑チャート)近視性後天性内斜視は共同性内斜視であり,眼球運動障害を認めない.==SRSMRGGlobeLLRIR図2脱臼角上直筋(S),眼球(G),外直筋(L)のそれぞれの面重心を求め,∠SGLが耳上側の眼窩壁に対してなす角度を脱臼角とする.この角度が大きいほど,眼球の筋円錐外への脱臼は大きい.SR:上直筋,IR:下直筋,LR:外直筋,MR:内直筋,Globe:眼球.れている.SESでは,近視眼ではなくてもCLR-SRbandが破綻することによって眼球脱臼を生じる可能性がある.このようにCMRIを用いた眼窩画像解析によって斜視の病態解明研究が多く報告され,SR-LRCbandの菲薄化,外直筋の下方偏位と上直筋の内方偏位,眼球後部の筋円錐外への脱臼という発症機序が明らかになってくるにつれ,強度近視眼ではなくても眼球脱臼を生じる内斜視の病態についても多くのことがわかってきた.今後さらにさまざまな斜視の病態が明らかにされることが期待されている.C2.強度近視性内斜視の手術強度近視性内斜視の治療法として知られる横山らによる上外直筋縫着術10)(本稿では上外直筋連合術とよぶ)は,上直筋と外直筋の筋腹を接着させて,筋円錐外に脱臼した眼球を整復することを目的としており,切腱や強膜通糸が必要なく安全で,病態から考えても理にかなった術式として定着しつつある.斜視角が小さく眼球運動制限がほとんどない場合でも眼球脱臼を伴う内斜視については,常の前後転あるいは内直筋後転を行ってもほとんど改善しないため,上外直筋連合術を施行する.また,強度近視性内斜視は両眼性であることが多く,両眼同時に手術することが望ましい.もし片眼のみに上外直筋連合術を行う場合は,術後に医原性上下斜視を生じるため,十分な説明を要する.とくに比較的視力のよい症例では術後複視を強く訴えることがある.実際の術式と手術施行における注意点を以下に示す22).・全身麻酔下に外直筋と上直筋を露出.・それぞれの筋付着部からC15Cmm後方の筋腹(外直筋筋腹の上縁と上直筋筋腹の耳側縁)に,筋縁から異なる距離でC1本の糸(5-0ポリエステル糸)をC2回ずつ通糸する.・両直筋間に隙間ができないようにしっかりと引き寄せ,結紮する.外直筋と内直筋の筋腹の結合部が眼球を抑え込むことにより,脱臼した眼球後部が筋円錐内に整復される.≪注意点≫・最初からC15Cmmを露出することがむずかしい場合に,いったんC10Cmmの位置に制御糸を置いて筋腹をたぐり寄せてからC15Cmmの位置を出す方法や,まずC12Cmmの位置で通糸し両筋腹を通糸した後に15Cmmの位置にも通糸するという方法もある.とくに上直筋が出しにくいときは開瞼器をはずして操作すると術野を確保しやすい.・通糸では,各直筋筋腹の少なくとも半分は糸をかけずに残して,糸の結紮による虚血やうっ血を防ぐ.・通糸の前に各直筋を十分に周囲組織から分離しておかないと,結紮の際に直筋が縦に裂けたり筋と腱の移行部で断裂したりすることがある.・術野に下斜筋や上斜筋の付着部が存在するため,誤って一緒に通糸することがないよう,それら斜筋の解剖学的な位置も確認しながら行う必要がある・上外直筋連合術で脱臼を解除した後も,ひっぱり試験で内直筋の拘縮が示唆される場合に,連合術単独では効果不十分である可能性がある.強度近視眼では視力不良例や中心固視困難な例も多く,術量定量が不十分になりやすいこと,上外直筋連合術の術後眼位は予測がむずかしいことなどから,上外直筋連合術を単独で行うか内直筋後転を併用するかは施設により意見が分かれる.筆者らは,上外直筋連合術を施行後数カ月は経過をみてから局所麻酔下に内直筋後転を追加施行することとしている.症例:強度近視性内斜視37歳,男性.5年前から内斜視が増えてきたとの主訴で来院.90・の内斜視に対して両眼上外直筋連合術を施行したが,30・の内斜視が残存し,TST:Fly(C-)であったため,右眼内直筋後転と左眼内直筋後転を追加し,最終眼位は遠見正位,近見2・内斜視でCTSTcircle9/9の立体視機能を回復した.《術前検査》CRV=(1.2C×S-9.75D)CLV=(1.2C×S-9.75D)CRT=15,LT=13CmmHgPAT前:遠見右内斜視63・,近見右内斜視63・PAT後:遠見右内斜視90・,近見右内斜視90・1396あたらしい眼科Vol.34,No.10,2017(58)図3強度近視性内斜視(9方向眼位)耳側左眼右眼図5強度近視性内斜視(術前後のHESS赤緑チャート)上段:術前,下段:3回目の術後.図4強度近視性内斜視上外直筋連合術後CMRI,冠状断,T2強調画像.連続した3スライス:上段,中段,下段の順に,眼球接合部よりから眼球中央へ向かう.上外直筋連合術後,上段中段では上直筋と外直筋の位置が改善し,下段では上直筋と外直筋が接して,眼球の位置が筋円錐内に整復されていることがわかる..