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点眼薬による角結膜障害:その危険信号を察知する!

2017年9月30日 土曜日

点眼薬による角結膜障害:その危険信号を察知する!OcularSurfaceBarrierDisruptionInducedbyEyedrops:CatchtheAlert内野裕一*I点眼薬は薬にも毒にもなる!?われわれ眼科医にとって薬物治療における最重要薬剤であり,点眼薬なくして日々の眼科診療は立ち行かない.しかしながら,点眼薬には本来の薬剤有効成分のみならず,基剤や防腐剤といわれるものが含まれ,これらが眼表面に与える影響は決して少なくない.薬剤有効成分のなかでは,緑内障点眼薬のCb遮断薬やプロスタグランジン製剤,抗炎症薬である非ステロイド性消炎鎮痛薬(non-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)などの薬剤は,涙液分泌に寄与する角膜神経に悪影響を与えるといわれている.また,薬剤自体の懸濁性が点眼直後の見え方に大きく影響を与える場合もあり,処方時の患者への説明は重要である.一方,点眼薬基剤はその浸透圧やCpHなどが,点眼時のしみやすさに関連性があると考えられており,患者の点眼コンプライアンスに直接寄与する重要な因子である.また,防腐剤は点眼薬を構成する成分のなかでも,もっとも眼表面障害に影響を与える可能性がある成分であり,塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumCchloride:BAC)やクロルヘキシジンが代表的な点眼薬防腐剤として知られている.さらに治療過程で点眼薬の種類や回数が増えることはよくあることだが,そのような点眼薬多剤使用によって眼表面上皮障害が生じ,さらに上皮保護薬を追加するという悪循環に陥ることも,一般診療で決して珍しいことではない.本稿では上記の「薬剤有効成分」「基剤」「防腐剤」が眼表面および涙液分泌機構にどのような影響を与え,また過剰な点眼薬使用により,角結膜上皮障害がどのように生じるかを考えてみる.CII涙液分泌機構の破綻メカニズム涙液は外界からの刺激を眼表面にある知覚神経が受容し,その後,三叉神経を経由して,中枢神経である脳幹に伝わり,おもに副交感神経から涙腺への涙液分泌が指示される.このような反射弓(re.exCloop)が正常に働くことにより,機械的(ゴミが目に入るなど)もしくは化学的(煙を浴びる,タマネギを切ったときなど)刺激を眼表面が受けると,反射性に涙液分泌が誘導され,眼表面保護に重要な役割を果たしている1)(図1).しかしながら,さまざまな要因によって,このCre.exloopは破綻をきたすといわれている.とくに点眼薬の中で,角膜知覚神経に対する麻酔効果を示すものとして,緑内障点眼薬のCb遮断薬や,抗炎症薬であるNSAIDsがあげられる.健常者に対してC4種のCNSAIDsを,5分おきにC4回投与後(点眼終了直後をC0分)から角膜知覚低下を時間経過とともに示す(図2).すべてのNSAIDs点眼薬が投与後から知覚低下を示すものの,最後の点眼から約C1時間後には角膜知覚は回復しはじめる.そのなかでC0.3%ネパフェナクはほかの点眼薬(とくにC0.1%ジクロフェナクおよびC0.07%ブロムフェナク)に比較して,早い角膜知覚の回復傾向が認められることは興味深い2).C*YuichiUchino:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内野裕一:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(51)C1263605040re.extear250200150100500バリアの破綻*p<0.05%,vsPBSフルオレセイン透過性(PBS=100%)400350300バリアの破綻250200150100500PBS0.0002%BAC0.002%BAC0.01%BAC0.02%BAC0.2%BAC*p<0.05%,vsPBS図3PG製剤および配合剤による眼表面バリアへの影響図4塩化ベンザルコニウム(BAC)による濃度依存的な眼表(文献C3より引用)C面バリアへの影響(文献C3より引用)CKi67(細胞増殖)ControlBAK0.01%,24Hrs図5塩化ベンザルコニウム(BAC)による角膜上皮障害の免疫組織学的探索赤色もしくは青色が細胞核を示す.緑色が標的としたタンパクの組織染色像を示す.(文献C4より引用)フルオレセイン透過性(PBS=100%)図6BAC含有点眼液による角膜上皮障害77歳,女性.開放隅角緑内障に対してCBAC含有ラタノプロスト点眼液にて加療を開始したところ,瞳孔領およびその下方に角膜上皮障害を認め(Ca),BACフリーのラタノプロスト点眼に切り替えてC1カ月したところ,角膜上皮障害は大幅に改善した(Cb).(文献C1より一部抜粋)薬剤毒性ドライアイ角膜>>結膜角膜<結膜図7薬剤毒性とドライアイにおけるSPKの違い表1緑内障点眼の点眼回数からみた点状表層角膜症(SPK)の発生率(SPK発生数.症例数)O,O.OO.1回C174/43140.4%2回C125/24950.2%3回C47/8257.3%*C4回C42/6366.7%5回C25/4161.0%6回.C6/1637.5%*:p<0.01表2緑内障点眼の点眼剤数からみた点状表層角膜症(SPK)の発生率(SPK発生数.症例数),O.O.1剤処方C204/51239.8%2剤処方C150/27055.6%*C3剤処方C63/9467.0%4剤処方C2/633.3%*:p<0.01

点眼薬のアドヒアランス:教えましょう,向上の秘訣!

2017年9月30日 土曜日

点眼薬のアドヒアランス:教えましょう,向上の秘訣!TheSecretofEyedropAdherenceImprovement浪口孝治*溝上志朗*はじめに点眼は眼科治療の基本であり,全身への影響が少なく,眼局所への有効な治療法ではあるが,毎日確実に眼表面に滴下できなければ十分な効果は発揮できない.患者自身による適切な点眼実施の有無が治療の結果を左右することになる.急性疾患で自覚症状の強い場合は多くの患者が正しく点眼することができるが,緑内障などの自覚症状が乏しく慢性的な疾患では,毎日(治療の継続),眼表面に滴下すること(正確な点眼)はわれわれ医師が考えている以上に困難な作業である.治療の継続と正確な点眼のためには点眼アドヒアランスの向上が必要不可欠である.本稿では,アドヒアランスの把握と向上のためにどのようにすればよいのかを概説する.CIアドヒアランスとは従来は治療の継続性を評価する指標として「コンプライアンス」という用語が用いられていたが,コンプライアンスは医師が策定した治療計画を患者が遵守することをさす.一方で現在主流の考え方となってきた「アドヒアランス」とは,患者が主体となり,自身の病態を理解し,医療従事者の推奨する方法に同意し,服薬,食事療法,そして生活習慣の改善を行うこと,と世界保健機構(WHO)は定義している.コンプライアンスは医師が患者に治療計画を遵守させるといった一方向的な目線であるが,アドヒアランスは医療従事者と患者の相互理解に伴う双方向的な目線という意味合いが強い(図1).これいうことを聞く「受け身」の姿勢図1コンプライアンスとアドヒアランス悪いのは患者という認識図2従来の考え方までの医療現場ではコンプライアンス不良の原因は患者側にあると強調され,医療従事者側でのコンプライアンス向上の取り組みは積極的には行われていなかった(図2).そこで患者側に問題があるという概念を脱却し,患者・医療従事者の双方向的な目線により,いかに患者自らが積極的に治療に参加するかを評価するのにアドヒアランスという考え方が生まれた.CIIアドヒアランスの重要性われわれ医師は,処方した薬剤は処方箋の指示通りに適切に使用されるのが当然と考えがちであるが,実際はそうではない.糖尿病や高血圧などの慢性疾患におけるアドヒアランス良好な患者の割合はC75%程度と報告されている1).眼科も例外ではなく,新規に緑内障薬物治*KojiNamiguchi&*ShiroMizoue:愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕浪口孝治:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(45)C1257療を開始した患者の平均薬剤入手率(処方された日数に対して何日間薬剤を使用したのかを算出したもの)はもっとも高いプロスト系点眼薬でさえ約C60%程度で,他の薬剤ではそれよりもさらに低い数字となっている2).アドヒアランス不良は,治療の非効率化を招き,医療資源の浪費や患者の予後不良の原因となる.緑内障患者ではアドヒアランス不良の患者は視野障害が重症化する危険性がC6倍以上となるという報告もある3).適切な薬剤を処方しても,その薬剤が適正に使用されなければ十分な治療効果を得ることはできない.アドヒアランスは医学的知識や診断技術と同じくらい重要なものであると考えられる.CIIIアドヒアランスの評価アドヒアランスの評価方法には,直接法と間接法がある.直接法は患者やその家族と面談し,アドヒアランスの程度を数値で評価する方法である.間接法は点眼の使用量,残量などから推測する.また,血中濃度などを測定し判定する方法がある.しかし実際は,患者との面談でアドヒアランスの評価を推測していることが多いと思われる.そのため,アドヒアランスの評価ではコミュニケーションスキルが重要となってくる.「点眼をきちんとしていますか?」という質問の方法では,多くの場合「はい」と答えることが多く,アドヒアランスを過大評価することになる.質問はできるだけCyes-noのC2択形式ではなく,「普段はいつ点眼していますか?」などのある程度自由に答えることができるような質問の仕方が望ましいと考えられる.「点眼をしていないのではないか」のような尋問のような質問の仕方では患者は委縮してしまい信頼関係が崩れてしまう恐れもある.患者とのコミュニケーションの方法としてはCask-tell-ask会話法というものがある.最初のCaskで患者の現在の疾病や治療に関する理解と気になる点を聞くことにより,服薬に関して患者が認識している考えを明らかにする.また,患者の性格や教育レベルなどもある程度推測することが可能となる.そしてCtellで医療従事者側から検査結果や,治療方法などの必要な説明をわかりやすい言葉で説明する.その後説明した内容をCaskで尋ねることにより,説明した内容をどの程度理解しているかを評価する.時間にかぎりがある以上,毎回外来でこの作業を繰り返すことは困難ではあるが初診時や治療方針の変更を行う際には必要と考える.CIVアドヒアランスに影響を与える因子アドヒアランスに影響を与える因子はさまざまであるが,大きく四つの要素に分類できると報告されてる4).①治療内容,②患者側,③医師側,④環境の四つである(図3).治療内容の因子は,「点眼薬が途中でなくなった」「点眼の回数が多い」「副作用のため点眼を自己中断した」などがあげられる.緑内障患者では約半数がC2種類以上の点眼を使っているが,点眼の使用薬剤数はアドヒアランスに大きく関与すると報告されている5)(図4,5).さし心地の悪い点眼はアドヒアランス不良を招きやすく,副作用が出るとアドヒアランスは著しく低下する6).点眼開始または変更を行った後は,必ずさし心地に問題がないかを問診する.また,副作用の有無も必ず調べる.夜の点眼より朝の点眼のほうが,アドヒアランスがよくなりやすい7).また,昼間の点眼はもっともアドヒアランスが下がるとされており,点眼時間の指示にも気を配る必要がある.患者側の因子は,「点眼するときどちらの目かを忘れてしまう」「効果の実感がないため点眼をやめた」「ときどき点眼することを忘れてしまう」などがある.薬剤の使用歴がある,点眼の必要性に関する意識が強い,薬剤の知識があるなどはアドヒアランスを改善させる因子である8).医師側の因子は,「点眼の必要性,薬物の効果や副作用,治療の見通しや予測などを明快に説明しない」「薬物治療に対する知識不足」「患者の感情や生活に無関心」などが考えられ,患者とのコミュニケーション技術が重要であることがわかる.環境因子は,「患者の周囲にサポートがいない」「僻地に住んでおり医療機関への受診が困難」などが考えられる.CVアドヒアランス向上のためにアドヒアランスに影響する因子は,上述の通り①治療1258あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(46)アドヒアランス低下●ときどき点眼することを忘れてしまう●ひとり暮らし,家族のサポート不足●妻が死んでから点眼するのがつらい●休暇中は忘れがちである●点眼薬が途中でなくなってしまった●4剤の点眼は無理,3剤のみさしている●副作用のために自己判断で点眼を中止した図3アドヒアランスに影響を与える因子100806040200図4緑内障患者の使用薬剤数対象:国内C23施設でC2008年C3月C12日.19日に外来受診した緑内障・高眼圧症患者,1,935例C1,935眼.人数1剤2剤3剤4剤n=97n=59n=19n=6図5点眼薬数とアドヒアランス100806040200良好率■成功■不成功n=78図6緑内障患者の初回点眼成功率図7看護師による点眼の実演図8点眼補助具’C

周術期における点眼治療戦略:常在菌をいかに制御すべきか?

2017年9月30日 土曜日

周術期における点眼治療戦略:常在菌をいかに制御すべきか?StrategyofPerioperativeAntibioticTherapyinOphthalmologyFieled:HowtoControlIndigenousOcularBacterialFlora子島良平*はじめに現在,眼科手術の周術期には眼内炎の発症予防目的で,抗菌点眼薬を用いた結膜.の周術期減菌化療法が広く行われている.抗菌点眼薬を用いた周術期結膜.減菌化の評価については未だ議論は分かれるが1),抗菌点眼薬を使用することで結膜.からの菌検出率が低下することが報告されている2).しかしながら近年では,周術期の抗菌点眼薬の使用で結膜.常在菌叢において耐性菌の占める割合が増加するとも報告されており3),今後,耐性化を誘導しない抗菌点眼薬の使用方法が求められるようになっている.本稿では,結膜.常在菌叢と抗菌点眼薬が菌叢に対して与える影響および抗菌薬の適正使用についての現状を概説する.CI結膜.常在菌叢胎児は子宮内では無菌状態にあるが,出産の過程からさまざまな菌に暴露され,皮膚や腸管,結膜.などの各組織の常在菌叢が形成される.結膜.常在菌叢はおもに眼瞼,皮膚,マイボーム腺から眼表面に入る菌で構成されている.眼表面に入った菌は,涙液中のリゾチームなどの抗菌物質の影響を受けるとともに,涙液の流れで一部は鼻腔へ排出される.そして,残存した菌が結膜.常在菌叢を形成する.結膜.常在菌叢はさまざまな菌種から構成されており,成人の結膜.の培養からは,グラム陽性球菌である表皮ブドウ球菌(StaphylococcusCepider-midis,以下CS.epidermidis)やグラム陽性桿菌のコリネバクテリウム属,通性嫌気性グラム陽性桿菌のプロピオニバクテリウム・アクネス(PropionibacteriumCacnes,以下CP.acnes)などが多く検出される.CII結膜.常在菌と眼内炎結膜.常在菌および外眼部常在菌と術後感染性眼内炎の発症について,SpeakerらはC17例の眼内炎の起因菌が高率に結膜.・外眼部の常在菌と遺伝子レベルで一致したと報告している4).また,原らがまとめた国内での眼内炎の起因菌についての検討では,術後C4週以内の急性眼内炎の起因菌としてCS.epidermidisを含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCstaphylococ-ci:CNS)(用語解説参照)や腸球菌,黄色ブドウ球菌が多く,4週以降の遅発性眼内炎の起因菌としては,P.acnesやCS.Cepidermidisなどの結膜.常在菌が検出されたと報告しており5),結膜.常在菌の眼内への迷入が,眼内炎の発症に関連していると考えられる.CIII周術期の結膜.減菌化療法結膜.の常在菌が術後眼内炎に関連していることから,現在では眼内炎の発症予防目的で周術期に結膜.常在菌叢の減菌化が広く行われている.結膜.減菌化療法のタイミングは,術前・術中・術後の三つのポイントに分けることができる.術前の減菌化療法としては,抗菌点眼薬の予防的投*RyoheiNejima:宮田眼科病院〔別刷請求先〕子島良平:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(39)C12512週以内:6%2015年米国9)2014年日本10)図1米国と日本の白内障術後の抗菌点眼薬の使用期間米国ではC1週以内がC72%であるのに対し,国内ではC2週間.1カ月がC30%,1カ月以上がC65%と,国内の術後抗菌点眼薬の使用期間は米国に比べ長期に及んでいる.(文献9,10より作図)(%)*:(p<0.0001,McNemartest)図2グラム陽性球菌の検出率1週群,1カ月群ともに,点眼終了時のグラム陽性球菌の検出率は,点眼前に比べ有意に低下した.(%)点眼前術後1週終了時1M3M6M検体採取時期*:(p<0.0001)図4S.epidermidisのLVFXに対する感受性の推移いずれの群においても術前から終了時にかけて有意に低下した.点眼終了時の感性率はC1週群に比べC1カ月群で有意に低かった(p<0.0001:解析方法:logisticモデルCGEE推定量による各時点の感受性率の推定).(文献C12より許可を得て転載)(μg/ml)MICの推定値±95%信頼区間検体採取時期*:(p=0.0224)図3S.epidermidisのLVFXに対するMICの推移1週群,1カ月群ともに,点眼前に比べ点眼後に有意に上昇した.点眼終了後C3カ月目のCMICはC1週群に比べC1カ月群で優位に高かった(p=0.0224:解析方法:混合効果モデルによる推定).(文献C12より許可を得て転載)C●感受性菌MIC:最小発育阻止濃度●耐性菌MPC:耐性菌出現阻止濃度●高度耐性菌MSW:耐性菌選択濃度枠MPCMSWMIC●感受性菌MIC:最小発育阻止濃度●耐性菌MPC:耐性菌出現阻止濃度●高度耐性菌MSW:耐性菌選択濃度枠MPCMSWMIC抗菌薬組織濃度抗菌薬組織濃度時間図5最小発育阻止濃度,耐性菌出現阻止濃度および耐性菌選択濃度枠MIC(青線)以上の濃度では,感受性菌は増殖・発育ができないが,耐性菌は増殖可能な濃度である.MPC(赤線)より高い濃度では,耐性菌も発育・増殖できない.MICとCMPCの間の濃度(緑矢印)がCMSWであり,この濃度内では耐性菌は発育・増殖ができる.抗菌薬投与抗菌薬投与時間図6耐性菌増加のメカニズム抗菌薬(C.)を投与すると組織内濃度が上昇し感受性菌が検出されなくなるが,抗菌薬の濃度がCMSW内の時間では,耐性菌は増殖していく.これを繰り返していくと,最終的には高度耐性菌の割合が増加していく.■用語解説■コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase.negativeCStaphylococci:CNS):ブドウ球菌は,血液凝固作用をもつ菌体外酵素である.コアグラーゼをもつコアグラーゼ陽性ブドウ球菌とコアグラーゼをもたないコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に分類することができる.臨床的には,ヒトから分離されるブドウ球菌のうち,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌のみであり,CNSはそれ以外の表皮ブドウ球菌を含むブドウ球菌をさすことが多い.メタ解析:過去に行われた複数の研究のデータを収集し,統合して分析すること,またはそのための手法や統計解析をさす.長所として,一つの研究では有意差が出ない場合でも,複数の研究を統合することで,有意差を検出できる可能性がある.一方,解析対象とする研究の選択により結果が異なる可能性があり注意が必要である.

感染性角膜炎における点眼治療戦略:Empiric therapyからDefinitive therapyへ

2017年9月30日 土曜日

感染性角膜炎における点眼治療戦略:EmpirictherapyからDefinitivetherapyへManagementofInfectiousKeratitisusingEyedrops星最智*はじめに感染性角膜炎におけるCempirictherapyとは,感染疫学的知見に基づき,患者背景や前眼部所見から起炎菌を推定して治療を行うことである.起炎菌を推定できる理由は菌種ごとに感染源,感染経路,感染部位,発症誘因に特徴があるからである.Empirictherapyでは,推定した起炎菌を含めた広い範囲の菌種に抗菌効果を有する点眼薬を選択するのが基本である.しかしながら,感染性角膜炎は視力予後に影響する疾患であるため,角膜に強い組織障害を残さないよう,できるだけ確実に早く治すことが求められる.したがって,empirictherapyの段階においても広域の菌種をカバーするだけでなく,可能性がもっとも高い起炎菌に特化した抗菌点眼薬を併用する姿勢が求められる.De.nitivetherapyとは本来は起炎菌が確定した後に,その起炎菌にもっとも適した抗菌点眼薬に変更することを意味する.眼科においては点眼固有の薬物動態や角膜毒性などの観点から,治療効果を認める場合は他の抗菌点眼薬への変更が必ずしも適切であるとは限らない.むしろ問題なのは,すでに角膜病巣の菌が死滅している状態でも長期間,複数の抗菌薬を頻回に使用するおそれがあることである.これは治療後の反応において,感染症がいまだ継続しているのか,あるいは何らかの理由で組織破壊の修復が滞っているだけなのかの見きわめができないために生じる問題であると考えられ,眼科の特殊性を考慮したCde.nitivetherapyの考え方が求められる.感染性角膜炎の診断と治療の基本的な流れは「感染性角膜炎診療ガイドライン」が参考になる1)(図1).とくにC2013年のガイドライン改定に際し感染性角膜炎の治療の項も修正されているので,改定ポイントを踏まえつつ実際の臨床で遭遇しやすい事象への対処方も示すこととする.なお,細菌性角膜炎が一般診療でもっとも遭遇しやすく,治療点眼薬としても抗菌点眼薬がもっとも種類が多いため,細菌性角膜炎を中心に解説する.CI患者背景からの診断2003年の感染性角膜炎全国サーベイランスにおいて,角膜炎患者はC20代とC60代のC2峰性であり,20代の角膜炎のC89.8%がコンタクトレンズ装用者であることが明らかとなった2).このように疫学調査から起炎菌構成や感染リスクが明らかになることがある.感染症では菌種ごとにリスク因子が存在するため,初診時には感染疫学的知見を駆使して可能性の高い起炎菌を絞り込んでいく.患者背景の問診は感染症診断においてきわめて重要な診療部分を占める.問診は感染源,感染経路,宿主の状態,発症誘因をイメージしながら行う.感染性角膜炎で確認しておきたい問診事項を表1に示す.感染性角膜炎の初診時には問診のみからの起炎菌診断を必ず行い,これを背景診断とする.CII前眼部所見からの診断感染性角膜炎では,前眼部所見から起炎菌を推定する*SaichiHoshi:田村眼科〔別刷請求先〕星最智:〒124-0006東京都葛飾区堀切C5-1-3サンヨシダビルC2F田村眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)C1243図1感染性角膜炎診断治療のながれ(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版より)表1確認しておきたい問診事項コンタクトレンズの使用状況角膜疾患の既往乳幼児との接触歴内反症や睫毛乱生植物や小石などによる外傷慢性的な眼瞼結膜炎涙道閉塞,慢性涙.炎抗菌点眼薬の使用状況糖尿病ステロイド点眼の使用状況アトピー性皮膚炎ステロイド内服図2グラム陰性桿菌角膜炎a.緑膿菌(輪状膿瘍),b.緑膿菌(複数病変),c.セラチア,d.モラクセラ.図3グラム陽性球菌角膜炎a.肺炎球菌,b.黄色ブドウ球菌.表2主要角膜炎起炎菌の抗菌スペクトラム菌種セフェム系アミノグリコシド系フルオロキノロン系クロラムフェニコールバンコマイシン緑膿菌C△C◎C◯C××肺炎球菌C◎C×◯C◯C◯CMSSAC◎C◯C◯C◯C◯CMRSAC×△C×◯C◎◎:第C1選択薬,◯:有効,△:菌株により有効,C×:効果得にくい.MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版をもとに改変)図4紛らわしい治療経過の例a.図C2dの一過性炎症悪化,Cb.黄色ブドウ球菌角膜炎による角膜浸潤の遷延,c.緑膿菌角膜炎による遷延性上皮欠損,d.慢性涙.炎によるCMRSA角膜炎の併発.て,角膜が原発の細菌性角膜炎の場合はC2剤併用で苦慮することはまれである.しかしながら,細菌検査の結果から耐性菌の関与が疑われる場合は,抗菌点眼薬の修正を検討するほうが望ましい.とくにCMRSA感染症ではクロラムフェニコール点眼のほか,眼瞼炎が併発していることが多いことから,バンコマイシン眼軟膏の使用も検討する11).C2.遷延する角膜浸潤グラム陽性球菌角膜炎ではC1.2週間たっても角膜浸潤が改善しないことがある.上皮欠損は小さいかほとんど認めないことが多い(図4b).この場合はカタル性角膜潰瘍と同じ理由で感染アレルギーが起こっている可能性が考えられ,低濃度ステロイド点眼をC1日C4回程度加えると数日で角膜浸潤は消失し瘢痕治癒が得られる.C3.遷延性上皮欠損グラム陰性桿菌角膜炎では遷延性上皮欠損が生じやすい.遷延性上皮欠損では潰瘍底は一様に灰白色で辺縁の上皮は隆起している(図4c).この段階では細菌はすでに死滅しており,何らかの理由で角膜組織障害の回復が遅延していることが問題であるため,まずは使用抗菌薬を見直すことから始める.抗菌点眼薬ではアミノグリコシド系抗菌点眼薬は角膜障害を起こしやすいので中止する.セフェム系かフルオロキノロン系抗菌点眼薬が扱いやすく,いずれかC1剤をC1日C4回程度で経過をみる.点眼回数にもよるが,角膜実質への影響を考えて高濃度のものや中性での溶解度の低い抗菌点眼薬は避けておくほうがよい.それでも改善が得られない場合は低濃度ステロイド点眼や治療用ソフトコンタクトレンズの装用などを検討する.C4.角膜以外が主病巣細菌性角膜炎であっても主病巣が角膜以外に存在する場合,抗菌点眼薬の治療効果が十分に得られないことがある.とくに慢性涙.炎,後部眼瞼炎など眼球付属器に慢性的な感染症が存在すると角膜炎が併発しやすい12)(図4d).この場合,角膜炎はなかなか改善せず鎮静化したとしても再発しやすい.主病巣である眼球付属器感染症を治療することが重要で,抗菌点眼薬だけでは鎮静化が困難である場合は抗菌薬の全身投与が必要となる.C5.起炎菌が細菌ではない1.2週間経過しても治療に反応がなく,眼球付属器にも問題がなく,徐々に病変が拡大する場合は,真菌性角膜炎など細菌以外の病原体の可能性を考える必要がある.角膜病巣所見では二次元的な形状だけでなく,角膜実質深部への進展具合やCendothelialplaqueの有無にも注意を払う.治療方針を決定するためには角膜病巣擦過など積極的な起炎菌検索が必要になるため,自施設での対応が困難な場合は速やかに専門施設に紹介する.おわりに感染症の発症において感染源,感染経路,宿主の状態,発症誘因は必ず存在する.この感染症の原則にもとづいて問診と前眼部所見から起炎菌を推定することが大前提である.初期診断を行う際は,問診による背景診断と前眼部による所見診断を比較するとよい.Empirictherapyでは,広域抗菌点眼薬を使用して主要な角膜炎起炎菌に幅広く対応するに留まらず,もっとも可能性の高い起炎菌に特化した抗菌点眼薬を併用することで早く確実に菌の死滅をめざす.De.nitiveCtherapyではempirictherapy後の反応の見きわめが重要で,抗菌薬の複数頻回点眼の期間をなるべく短くして角膜障害の回復の妨げにならないようにする.首尾よく感染性角膜炎が治癒したら最終診断を必ず行う.たとえ起炎菌が検出されなくても治療経過から総合的に起炎菌を決める習慣をつけると,質の高いCempiricCtherapyとCde.nitivetherapyを行うことができるようになるであろう.文献1)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日本眼科学会雑誌117:467-509,C20132)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の状況─.日眼会誌110:961-972,C20063)佐々木香る,稲田紀子,熊谷直樹ほか:緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討.新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言.あたらしい眼科30:255-259,C2013(37)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1249-

アレルギー性結膜疾患における点眼治療戦略:病態に応じた薬剤選択のポイント

2017年9月30日 土曜日

アレルギー性結膜疾患における点眼治療戦略:病態に応じた薬剤選択のポイントStrategiesforTopicalTreatmentinAllergicConjunctivalDiseases:StrategicPointsofMedicamentSelectionDependingonPathologicCondition庄司純*はじめにアレルギー性結膜疾患(allergicconjunctivaldiseas-es:ACD)は,「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの」と定義され1),臨床所見からいくつかの病型に分類される.巨大乳頭や輪部堤防状隆起などの結膜所見は,結膜増殖性変化とよばれ,ACDの病型は,結膜増殖性変化がみられない季節性アレルギー性結膜炎(seasonalallergiccon-junctivitis:SAC)および通年性アレルギー性結膜炎(perennialallergicconjunctivitis:PAC)と結膜増殖性変化がみられるアトピー性角結膜炎(atopickeratocon-junctivitis:AKC)および春季カタル(vernalkerato-conjunctivitis:VKC)とに大別されている.一方,I型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)は,外界から侵入した抗原(アレルゲン)が抗原特異的IgE抗体と反応することで生じるアレルギー反応で,その経過は即時相と遅発相とからなる2相性である(図1).アレルギー疾患の治療は,I型アレルギー反応の病態に基づいて開発された治療薬を,個々の患者の病状に合わせて適切に選択し,用いる必要がある.今回は,ACDに対する点眼薬による局所療法について,点眼薬の選択とその背景にあるアレルギー学的病態について解説する.I即時型アレルギー反応への対応:アレルギー性結膜炎を中心に1.即時相と遅発相の病態a.即時相I型アレルギー反応の即時相は,抗原侵入後20~30分で生じる急性の反応で,持続時間は短く1時間程度で消退する.即時相は,外来から侵入した抗原がマスト細胞に高親和性IgE受容体(FceRI)を介して結合した抗原特異的IgE抗体と結合することで,マスト細胞は脱顆粒し,ケミカルメディエーターが放出されることにより臨床症状が発現する.代表的なマスト細胞由来のケミカルメディエーターは,ヒスタミン,ロイコトリエン,トロンボキサンA2,プロスタグランジンD2などである.即時相に対する治療薬は,マスト細胞に作用してケミカルメディエーターの遊離を抑制するメディエーター遊離抑制薬,および各種ケミカルメディエーターまたはその受容体と反応してケミカルメディエーターの作用を抑制する薬剤であるヒスタミンH1受容体拮抗薬,ロイコトリエン受容体拮抗薬,トロンボキサンA2合成阻害薬,トロンボキサンA2受容体拮抗薬などがある.点眼薬として使用可能な薬剤は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬である(図2).b.遅発相遅発相は,抗原侵入後6~12時間後に炎症が再燃す*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(21)1233030min6hr48hr遅発相好酸球・リンパ球治療薬図1即時型(I型)アレルギー反応即時型アレルギー反応は,即時相と遅発相との2相性反応である.血管内皮細胞:血管拡張・血管透過性亢進→充血・浮腫神経線維(Cファイバー)→掻痒図2I型アレルギー反応即時相の病態と抗アレルギー薬即時相では,マスト細胞の脱顆粒により放出されたヒスタミンがヒスタミンH1受容体に作用することで,結膜充血,結膜浮腫,眼掻痒感などの臨床症状を発症する.抗アレルギー点眼薬は,その薬理作用からメディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬とに分類される.花粉結膜炎アレルゲン花粉初観測日初期療法過敏性亢進ダニスギ(抗アレルギー薬)気象条件・気温:寒暖差花粉飛散開始発症・気圧:低気圧過敏性亢進=最小持続炎症Minimalpersistentin.ammation図3スギ花粉結膜炎とminimalpersistentin.ammation閾値下のアレルゲン刺激や気象条件によりminimalpersistentin.ammation(MPI)が生じる.MPIにより粘膜組織に過敏性亢進が生じると,アレルギー症状の発症閾値が低下して,少量の抗原刺激に反応して症状が出現する.表1抗アレルギー薬(点眼薬)の種類分類薬剤名商品名点眼回数メディエーター遊離抑制作用抗ヒスタミン作用クロモグリク酸ナトリウムインタールR1日4回+.アンレキサノクスエリックスR1日4回+.ペミロラストカリウムアレギサールR1日2回+.メディエーター遊離抑制薬ペミラストンR1日2回+.トラニラストリザベンR1日4回+.トラメラスR1日4回+.イブジラストケタスR1日4回+.アイビナールR1日4回+.アシタザノラスト水和物ゼペリンR1日4回+.ケトチフェンフマル酸塩ザジテンR1日4回++ヒスタミンオロパタジン塩酸塩パタノールR1日4回++H1拮抗薬レボカバスチン塩酸塩リボスチンR1日4回.+エピナスチン塩酸塩アレジオンR1日4回++健常者活性型H1受容体非活性型H1受容体ヒスタミン(アゴニスト)ニュートラルアンタゴニストインバースアゴニストシグナル:増強シグナル:減弱シグナル:減弱活性化H1R:増加活性化H1R:不変活性化H1R:減少図4抗ヒスタミン薬におけるアンタゴニスト作用とインバースアゴニスト作用健常な状態の組織では,活性型および非活性型ヒスタミンCH1受容体(H1R)が平衡状態を保っている.ヒスタミンの作用(アゴニスト)によりCH1Rは活性型が多くなり,受容体の数自体も増加する.ニュートラルアンタゴニスト作用を有する薬剤は,ヒスタミンと拮抗して受容体をブロックすることでシグナル伝達を抑制するが,受容体数に変化はない.インバースアゴニスト作用を有する薬剤は,受容体の数を減らすこと,非活性型が増えた状態で安定させることなどにより,シグナル伝達を減少させる.基本治療オプション治療眼瞼の治療眼軟膏の眼瞼塗布・プロペトR軟膏・ステロイド軟膏鼻炎の治療点鼻薬の使用・ステロイド薬全身の治療内服薬の追加・抗ロイコトリエン薬・抗ヒスタミン薬図5アレルギー性結膜炎の治療アレルギー性結膜炎の基本治療は,抗アレルギー点眼薬を基礎治療薬として用いることである.合併するアレルギー疾患に対する治療は,アレルギー性結膜炎の治療と同時並行して進めていく.●重症例・急性増悪例でみられる所見①眼脂増強②眼瞼炎の合併③ビロード状乳頭増殖④トランタス斑⑤角膜上皮障害②④図6アレルギー性結膜炎重症例にみられる所見※1:シクロスポリン点眼液ルート※2:タクロリムス点眼液ルートパターン2bパターン1図7春季カタルのパターン治療のためのプロトコル免疫抑制薬を使用した春季カタルの治療では,重症度に合わせてパターンC1からパターンC4までの治療法を適用する.抗アレルギー薬とステロイド点眼薬との併用療法を施行している症例に対して,免疫抑制薬による治療に切り替える場合には,シクロスポリン点眼薬とタクロリムス点眼薬とでは切り替え方法が異なる点に注意する必要はある.(文献C19より改変)どがあげられている15).したがって,結膜増殖性変化は,結膜下組織の増殖を伴う好酸球炎症であると考えられる.好酸球炎症は,I型アレルギー反応により誘導されるアレルギー炎症により好酸球浸潤が生じるとされ,アレルギー炎症の主要病態であるCTh2細胞による免疫応答は,組織の好酸球浸潤に深く関連している.春季カタル症例における涙液検査では,好酸球関連因子であるCeosinophilCcationicCprotein(ECP)や好酸球の遊走に関連するケモカインCeotaxin-1,eotaxin-2が高値となり,臨床スコアと良く相関することが報告されている16,17).また,眼表面被覆液を採取して,real-timereverseCtranscriptionCpolymeraseCchainCreaction法によりCmRNA発現量を検討したところ,好酸球に発現されているCeotaxin-2CmRNAやヒスタミンCH1およびCH4受容体CmRNA量が健常対照と比較してCVKCで有意に増加していることが示された18).これらの報告は,結膜増殖性変化を有するCACDでは,結膜の好酸球炎症が主要病態であり,好酸球炎症を標的とした治療が必要であることを示していると考えられる.C2.免疫抑制薬の使用方法とその効果結膜増殖性変化を有するアレルギー性結膜疾患に対する第C1選択薬は,免疫抑制薬の点眼である.現在市販されている免疫抑制薬の点眼は,シクロスポリン点眼薬(パピロックCRミニ点眼液C0.1%,参天製薬)とタクロリムス点眼薬(タリムスCR点眼液C0.1%,千寿製薬)であり,両者ともに適応症は春季カタルである.免疫抑制点眼薬の使用法は,免疫抑制点眼薬調査委員会がパピロックCRミニ点眼液C0.1%市販後全例調査およびタリムスCR点眼液C0.1%市販後全例調査をもとにまとめた治療指針に示されている19).Ca.シクロスポリン点眼薬VKCに対するシクロスポリン点眼薬の使用方法の概略は,混合型または眼瞼型CVKCの重症例に対してはステロイド薬および抗アレルギー点眼薬とのC3者併用療法,中等症以下の混合型または眼瞼型CVKCおよび輪部型CVKCに対しては抗アレルギー点眼薬とのC2者併用療法を行うことである.とくに輪部型CVKCに対してはシクロスポリン点眼薬の有効性が高く,第C1選択薬になりうると考えられる.3者併用療法時のステロイド投与法には,点眼,結膜下注射,内服などの方法があり,重症度を考慮した投与量および投与方法の選択が必要である.有害事象に関しては,点眼時の刺激および前眼部感染症,とくに単純ヘルペスウイルス感染症(眼瞼炎・結膜炎・角膜炎)に注意が必要である.アトピー性皮膚炎患者では,皮膚のブドウ球菌感染症や単純ヘルペスウイルス感染症を合併しやすいため,免疫抑制点眼薬を処方する前には,ブドウ球菌および単純ヘルペスウイルス感染症の既往について問診しておく必要がある.Cb.タクロリムス点眼薬VKCに対するタクロリムス点眼薬の使用方法の概略は,どの重症度の症例に対しても,まず抗アレルギー点眼薬とのC2者併用療法で治療を開始することである.タクロリムス点眼開始後1~2週目で自覚症状の改善が,2~4週目で他覚所見の軽症化がみられる.2者併用療法に抵抗する難治例,重症例に対しては,ステロイド薬の併用を検討する.2者併用療法に抵抗する症例において,ステロイド点眼薬を追加してもあまり効果に変化がない場合には,ステロイド結膜下注射を検討する.有害事象に関しては,シクロスポリン点眼薬と同様に,点眼時の刺激および前眼部感染症に注意が必要である.おわりにACDに対する現在行われている薬物治療は,免疫抑制薬の登場により画期的に進歩したと考えられる.今後,難治例や重症例に対しては,分子標的治療薬(抗体療法)や免疫療法などの新たな治療法が検討されていくであろうと考えられる.将来は,新しい治療法の確立と病態解明とが両輪となってCACD治療が進んで行くと考えられる.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:829-870,C20102)ShojiCJ,CSakimotoCT,CMuromotoCKCetCal:ComparisonCofCtopicalCdexamethasoneCandCtopicalCFK506CtreatmentCforC1240あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(28)

ドライアイにおける点眼治療戦略:TFOT完全マスター道場!

2017年9月30日 土曜日

ドライアイにおける点眼治療戦略:TFOT完全マスター道場!CurrentStrategyofTopicalTreatmentforDryEye:PerfectUnderstandingofTFOT渡辺仁*Iドライアイの定義,診断基準の改訂の内容ドライアイの定義,診断基準はC2016年に改訂され,“ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある”と定義され,診断基準としては表1にあるように,自覚症状と涙液層破壊時間のC2項目で診断できるようになった1).この変更は,ドライアイの診断には角膜上での涙液の安定性が角結膜上皮障害より重視されるようになったことを意味している.その意味からも涙液の安定性を妨げる要因を取り除くことがドライアイの治療となる.そうした考え方が,最近ドライアイ研究会から提唱されているCTHOT(tear.lmorientedtherapy)に反映されている.そして,涙液層の要素,眼表面上皮のどの要素によってドライアイが生まれているかを見きわめ,それに対応する治療薬を選択する,それがCTFOTである.こうした概念が生まれたのも,これまでの治療薬に加えてジクアス点眼薬,ムコスタ点眼薬という臨床効果が異なる二つの点眼薬が日本でのみ使用可能で,そこから得られる知見に負うところが大きい.ジクアス点眼薬は結膜上皮の下方から眼表1ドライアイの新しい診断基準①眼不快感,視機能異常などの自覚症状ドライアイ診断2項目で確定②涙液層破壊時間(BUT)がC5秒以下(文献C1より引用)表面に水が移動し涙液量を増加させ,また杯細胞からの分泌型ムチンを分泌促進させる2).そして膜型ムチンの発現アップがその作用として知られている3).一方,ムコスタ点眼薬は,その起源が胃潰瘍の薬ということでもわかるように,角結膜上皮の健全性を高めることが主たる効果で,microvilliの修復が早かったり,タイトジャンクションの増強,2週間以上の点眼で杯細胞も増加させるというものである4).こうしたCTFOTを行うためには,TFOD(tearC.lmorienteddiagnosis),涙液層の要素,眼表面上皮のいずれの要因でドライアイが生じているかを見きわめることが臨床上必要となる.現状でもっともその鑑別に適しているのが,涙液層の破壊パターンにより不安定性要因を推察することである.これまでこうした涙液層の破壊パターンの成因についての解説は多いが,そこから突っ込んだ治療については,やや表面的になりがちであることから,本稿ではその涙液層破壊パターンをみた際,どの治療法を選ぶのがよいかを解説し(実はどれがベストか確立していないことも理解していただき),今後のよりよい治療に生かしていただきたい.CII涙液層破壊パターンの鑑別を正しく行うには?一般に涙液層破壊パターンを観察する際,フルオレセイン染色を眼表面に付加し,判定されている方が多い.その際,注意すべきことは,多くのフルオレセイン液をC*HitoshiWatanabe:関西ろうさい病院眼科〔別刷請求先〕渡辺仁:〒660-8511大阪府尼崎市稲葉荘C3-1-69関西ろうさい病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(15)C1227図1フルオレセイン溶液量の違いによる眼表面所見の違いa:最小量のフルオレセイン染色液で眼表面を染色した場合.Tearmeniscusは高くなく,角膜上皮障害も判定しやすい.この症例ではClinebreakを示した.Cb:同じ眼で多量のフルオレセイン染色液で眼表面を染色した場合.Tearmeniscusは高くなり,角膜上皮障害も判定しがたく,涙液層破壊パターンもCrandombreakとなった.C図2最小量のフルオレセイン液の染色法フルオレセイン紙に生理食塩水C2.3滴湿らし,その後,フルオレセイン紙を振って余剰水分をなくし,眼瞼結膜の先に垂直にあてる.図3涙液層破壊パターンa:Areabreak.涙液は眼表面上にほとんどなく,角膜上を涙液がカバーしない状態.Cb:Linebreak.いったん涙液が角膜上をカバーした後,下方で縦状に破壊される.Cc:SpotCbreak.開瞼と同時に涙液が上昇する際に類円形の涙液の破壊がみられる.d:Dimplebreak.涙液が上昇する際に,水濡れ性が悪い部位の涙液が上方あるいは下方に引っ張られ,その部位で涙液層の破壊が起こる.e:Randombreak.蒸発亢進で生じる.正常でもみられる破壊パターンで,異なる部位で破壊が生じる.C涙液はカバーできない部位を囲むこむように上昇するので類円形となる涙液はこの部位で角膜をカバーできない図4Spotbreakの涙液の動き

緑内障における点眼治療戦略:豊富なバリエーションをどう使い分けるのか?

2017年9月30日 土曜日

緑内障における点眼治療戦略:豊富なバリエーションをどう使い分けるのか?MedicalTreatmentStrategyforGlaucoma:HowtoChooseGlaucomaMedications中元兼二*はじめに緑内障に有効な治療は眼圧下降のみであるが,緑内障は超慢性的な疾患で,生涯にわたり定期的な通院と点眼治療が必要となる.点眼薬の眼圧下降効果および副作用は患者によって異なり,許容できる副作用も異なる.そのため眼科医は,患者の点眼へのモチベーションを保つために,眼圧下降効果が良好であることはもちろんであるが,少しでも毎日点眼を継続しやすい薬剤を患者に応じて選択する必要がある.近年,多種多様の緑内障点眼薬が発売され,処方できるようになった(図1,表1).このこと自体は治療のバリエーションが増えるため,医師・患者ともに大変ありがたいことではあるが,眼科医はますます薬剤選択に苦慮することが多くなってきた.そこで,本稿では,まず眼圧下降治療の重要性と治療戦略について述べ,ついで緑内障点眼薬選択のポイントを,最後に薬物治療の限界について筆者の見解も混じえて解説する.CI眼圧下降治療の重要性と治療戦略1,2)眼圧は,多くの大規模研究により,緑内障の有病率,発症,進行のリスクファクターであり,かつ唯一治療可能なリスクファクターである.眼圧がかかわるリスクファクターのなかでは,外来眼圧レベル(平均眼圧)がもっとも重要である.したがって,まず眼科医が最初に行うべき眼圧下降治療は,外来眼圧から目標眼圧を設定し,それを下回るようしっかり外来眼圧を下降させることである(図2).しかし,眼圧には,眼圧長期変動,日内変動,体位変動(たとえば,座位から仰臥位への体位変換に伴う眼圧上昇)などの変動があり,これらの変動の大きさも緑内障進行のリスクファクターの一つとされている.とくに外来眼圧レベルが低い症例に対しては,これらの変動も小さくすることが望ましい.他に,眼圧がかかわるリスクファクターとしては,低い(とくに夜間の)眼灌流圧(血圧C.眼圧),脳脊髄圧との差(眼圧C.脳脊髄圧差)があるが,いずれの因子も理論的に眼圧を十分下降させることで改善させうる(図3).CII緑内障点眼薬選択のポイント(図4)3)C1.第一選択薬緑内障点眼薬の選択のポイントは,①眼圧下降効果が大きいこと,②(とくに全身的)副作用が少ないこと,③点眼回数が少ないことのC3条件のバランスがよい薬剤を選択することといえる.最近では,経済的な問題を訴える患者も増え,ジェネリック医薬品を含むより安価な薬剤を選択する必要性も生じてきた.3条件のバランスは個々の患者により異なるが,ここでは代表的な点眼薬の選択法について述べる.現在,緑内障治療薬の第一選択薬には,優れた眼圧下降効果と良好な認容性により,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬またはCb遮断薬が推奨され*KenjiNakamoto:日本医科大学眼科〔別刷請求先〕中元兼二:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)C1221ピロカルピンリパスジルジピベフリン膜強膜流出量増加による両方の機序を有する.ab遮断薬ニプラジロールブナゾシンa2刺激薬ブリモニジン炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミドブリンゾラミドアセタゾラミド図1緑内障点眼薬と眼圧下降機序緑内障点眼薬を眼圧下降機序別に分類した.ab遮断薬,a2刺激薬は房水産生抑制,ぶどう表1配合点眼薬一覧商品名ザラカムデュオトラバタプコムミケルナコソプトアゾルガ成分チモロールラタノプロストチモロールトラボプロストチモロールタフルプロストカルテオロールラタノプロストチモロールドルゾラミドチモロールブリンゾラミド市販年2000年2005年2014年2017年2010年2013年保存年数2年1.5年3年2.5年3年2年点眼回数1日1回1日1回1日1回1日1回1日2回1日2回保存状況2.C8℃室温室温室温室温室温防腐剤CBAC塩化ポリドロニウムCBACC─CBACCBACBAC:塩化ベンザルコニウム.図3眼圧が関与するリスクファクターと治療方針眼圧レベルを下降させることがもっとも重要で,十分な眼圧下降が得られても進行する場合は,眼圧変動について考慮する.いずれのファクターも理論的に眼圧を十分下降させることで改善させうる.図5PAPがみられた1例PG関連薬治療によりCDUES,上眼瞼下垂がみられることがある.目標眼圧達成(+)(-)薬剤変更薬剤継続レーザー治療・手術治療*図2眼圧下降治療戦略外来眼圧から目標眼圧を設定し,できるだけ単剤でそれを下回るようしっかり外来眼圧を下降させる.配合点眼薬は多剤併用治療であることに注意する.PG関連薬・PG関連薬内変更・PG関連薬以外に変更・PG/b配合剤・PG+borCAIora2orROCK・PG+CAI/b配合剤+a2orROCKa2:a2刺激薬b:b遮断薬CAI:炭酸脱水酵素阻害薬ROCK:ROCK阻害薬図4緑内障点眼薬の具体的処方例第C1選択薬はCPG関連薬.眼圧下降不十分の場合は他剤に変更.併用治療では配合剤をうまく活用する.眼圧(mmHg)2015105010am1pm4pm7pm10pm1am3am7am測定時刻図63剤併用治療中に座位測定眼圧の日内変動で夜間眼圧が高かった症例58歳,女性の原発開放隅角緑内障患者.緑内障点眼薬C3剤併用治療中.外来眼圧は低いが,夜間に著しい眼圧上昇を認めた.C■用語解説■Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP):プロスタグランジン関連薬による脂肪組織の萎縮やコラーゲン分解などに伴う眼周囲形態変化の総称.上眼瞼溝深化(DUES)に加え,眼球のくぼみ,上眼瞼下垂,下眼瞼涙袋の平坦化,下方強膜の露出などがある.-

眼科医療における点眼薬の位置づけ

2017年9月30日 土曜日

眼科医療における点眼薬の位置づけPresentSituationofEyedropsinOphthalmicPractice山田昌和*はじめにもうC20年ほど前,米国のCDuke大学に留学していたときの話になる.Dukeアイセンターではスタッフや外部から招聘した臨床医,研究者のセミナーが頻繁に開催された.英語に少しでも慣れようと出席していたなかで今も記憶に残っている二つのレクチャーがある.一つは白内障,もう一つは網膜色素変性症の薬物治療の可能性についてのものだった.前者では,たとえば糖尿病による白内障を完全に予防できる点眼薬ができたとしても,白内障の原因は数多く,それぞれの原因をブロックするために何十種類もの薬を一生涯使用しなくてはならなくなる.それよりは白内障になってから手術治療をしたほうがよいという結論であった.一方,後者の網膜色素変性症では原因遺伝子が異なっていても最終的にはよく似た臨床型を示す.何らかのC.nalcommonpathwayがあるはずで,ここに介入すれば薬物療法が可能なはずだと締めくくられた.二つの疾患の性格が異なることもあるが,薬物療法に対する多様な見方,考え方として印象深い.本稿では眼科医療における点眼薬の位置づけを俯瞰してみる.まず,薬剤投与法としての点眼薬について述べ,眼科で点眼薬が頻用される理由と問題点について考える.次に,薬剤が医療のなかで占める位置,主要な薬剤の変遷について述べ,そのうえで眼科医療における点眼薬の位置づけを医療全体の薬剤の位置づけと対比してみる.最後に点眼薬の未来,点眼薬に代わる治療法について述べる.CI点眼薬が使われる理由薬剤の投与方法としては,内服,点滴,局所注射などさまざまな方法があり,点眼薬はそのなかの一つにすぎない.しかし,眼科医療では点眼薬が圧倒的に多く使われる.これには大きく三つの理由があるように思う.一つ目は効率よく眼組織に薬剤を移行させるため,二つ目は眼局所だけに薬剤を到達させることができ,全身への影響を減らすことができるため,三つ目は簡単な投与法で,患者の苦痛や負担が少ないことである1).点眼された薬剤は,涙液に溶け込んだ後に角膜に接触して吸収され,前房内,さらに虹彩・毛様体に至る.ただし,角膜のバリア機能のために点眼された薬剤のうち前房内に到達するのはC0.01~0.1%程度で,ほとんどは眼内に達しない2).一見,効率の悪い薬剤投与法のようだがそうでもない.たとえば,オフロキサシンをC200mg内服した場合,静脈内投与した場合の前房水中濃度はそれぞれC0.38μg/ml,0.45μg/mlであるのに対し,0.3%点眼薬をC6回点眼すると前房水中濃度はC0.84Cμg/mlとなり,全身投与を大きく上回る薬剤濃度を達成できる3).同様のことはステロイド剤や非ステロイド系抗炎症薬でも報告されている.点眼という投薬経路を取ることで全身への影響を避けるという意味では,炭酸脱水酵素阻害薬が代表例である.内服による全身投与では手足のしびれ,尿路結石,*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)C12155045国民医療費40薬剤費4035薬剤費比率金額(兆円)3025201510503020100薬剤費の比率(%)図1国民医療費と薬剤費,薬剤費の比率の推移医療費に占める薬剤費の比率はC30%を超えた時期もあったが,1998年以降はC20%前後の値を推移している.中医協資料(文献4)を基に筆者が作図.循環器官用薬外皮用薬中枢神経作用薬感覚器官用薬消化器官用薬抗生物質製剤割合(%)2520151050200520072009201120132015図2医薬品の薬効大分類別生産金額(国内生産分)の推移加齢性疾患,慢性疾患に対する治療薬の比率が増加している.感覚器用薬はC3~4%の間を推移している.薬事工業生産動態統計調査(文献5)を基に筆者が作図.350,000300,000250,000200,000150,000金額(百万円)100,00080,000金額(百万円)60,00040,00019981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520161998199920002001200220032004200520062007200820092010201120122013201420152016図3眼科用剤市場の推移図4点眼薬市場の領域別の推移眼科用剤市場の急速な伸びは抗CVEGF薬によるもので抗緑内障薬と角膜疾患治療薬の成長は,眼科領域でも加齢ある.ただし点眼薬に限っても着実な増加がみられる.性慢性疾患が主要な治療対象となっていることを示す.-

序説:点眼治療戦略:Pros & Cons

2017年9月30日 土曜日

点眼治療戦略:Pros&ConsEye-dropTreatmentStrategy:Pros&Cons白石敦*高橋浩**はじめに点眼治療は手術治療とともに眼科治療を支える大きな柱であり,眼科医療になくてはならないものです.毎年のように,主要疾患に対して新たな点眼薬が上市され,多くの後発点眼薬がリリースされる中で,2,000億円を超える市場に成長しています.そうした現状を踏まえ,本特集では,点眼薬・点眼治療の基本的な知識を再確認していただくとともに,使用機会の多い疾患を対象に,臨床医がマスターしておくべき点眼治療の最新情報を,各専門領域のエキスパートからわかりやすく紹介していただきました.今回はとくに,副題を「Pros&Cons」と定め,点眼薬の上手な使い方,犯しやすい過ちなどについて解説いただきました.われわれ眼科医は,日常診療のなかで当たり前のように点眼治療を行っており,他の治療法は?と疑問を抱くことはほとんどないと思います.点眼治療を行ううえで,なぜ点眼治療なのか,薬剤としての点眼薬の特徴について知識の整理をし,眼科医療における点眼薬の位置づけも含めて,眼科医療の現状について改めて考えていただきたいと思います.1.各種専門領域における点眼治療戦略専門領域としては,緑内障,ドライアイ,アレルギー性結膜炎,感染性角膜炎,周術期を取りあげました.上述したように点眼市場は2,000億円を超える規模となりましたが,約半数は緑内障点眼薬が占めています.新たな緑内障点眼薬が続々と登場して治療の選択肢が増えたことにより,眼科医と患者さんの双方にさまざまな恩恵がもたらされましたが,その反面,薬剤選択に苦慮する場面にも直面するようになりました.緑内障に対する治療戦略における点眼薬の役割と限界について,最新の治療戦略を学んでいただきたいと思います.ドライアイ領域においては,従来の涙液減少から,涙液膜の安定性の評価による診断であるTFOD(tear.lmorienteddiagnosis)という概念がわが国を中心に広がりつつあります.それに伴い,ドライアイ治療もTFOT(tear.lmorientedtherapy)が提唱されるようになってきました.その治療の中心になるのが,近年処方が可能となったジクアホソルナトリウム点眼とレバミピド点眼です.まさに,日本が世界をリードする分野での最新の治療戦略に触れていただきたいと思います.これまで治療に難渋していた重症のアレルギー性結膜疾患は,免疫抑制剤点眼薬の登場により治療戦略が画期的に進歩しました.一方で,増殖性変化を伴わない季節性や通年性アレルギー性結膜炎に対し*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学**HiroshiTakahashi:日本医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)1213

2週間で急激な視力低下をきたし両眼光覚に至った癌関連網膜症

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1201.1204,2017c2週間で急激な視力低下をきたし両眼光覚に至った癌関連網膜症村上敬憲*1難波広幸*1冨田善彦*2土谷順彦*3大黒浩*4山下英俊*1*1山形大学医学部眼科学講座*2新潟大学泌尿器科学講座*3山形大学泌尿器科学講座*4札幌医科大学眼科学講座CCancer-associatedRetinopathywithRapidOnsetofSevereVisualLossin2WeeksTakanoriMurakami1),HiroyukiNamba1),YoshihikoTomita2),NorihikoTsuchiya3),HiroshiOhguro4)CHidetoshiYamashita1)and1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofUrology,NiigataUniversityFacultyofMedicine,3)DepartmentofUrology,YamagataUniversityFacultyofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine癌関連網膜症(cancer-associatedretinopathy:CAR)は自身の網膜への自己抗体により種々の症状・所見を呈する.今回C2週間で急速に視力が低下し光覚に至ったCCARの症例を経験したので報告する.症例はC82歳,男性で両視力低下のため近医を受診.近医初診時の矯正視力は右眼C0.1,左眼C0.5であったが約C2週間で両光覚まで増悪したため,山形大学附属病院を紹介受診した.網膜電図(electroretinogram:ERG)で平坦な波形を認め,血清中の抗リカバリン抗体が陽性であったことからCCARと診断した.血液検査にて前立腺特異抗原(prostatespeci.cantigen:PSA)の上昇を認め,MRI上でも前立腺がんが疑われたが,患者に生検検査の希望なく,現在は近医泌尿器科にて経過観察となっている.短期間で所見に乏しく急速な視力低下をきたす場合はCCARの可能性を考慮し,全身検査を行う必要がある.InCcancer-associatedCretinopathy(CAR)C,CseveralCretinalClesionsCareCcausedCbyCantiretinalCautoantibodies.CThisCreportdescribesacaseofCARwithseverevisuallossoccurringrapidlywithin2weeks.An82-year-oldmalevis-itedanophthalmologicalclinicduetovisualloss.Hisdecimalbest-correctedvisualacuityat.rstvisitwas0.1righteyeCandC0.5CleftCeye.CHeCwasCreferredCtoCourChospitalCbecauseChisCvisualCacuityCdecreasedCtoClightCperceptionCinC2weeks.Sinceanelectroretinogram(ERG)revealedsigni.cantlydecreasedretinalfunctionandanti-recoverinanti-bodywasdetectedintheserum,thediseasewasdiagnosedasCAR.Elevatedprostate-speci.cantigenlevelsledtoCaCsuspicionCofCprostateCcancer.CHowever,CtheCpatientCrefusedCbiopsyCandCfollow-upCexamination.CSevereCvisualClossCcanCoccurCrapidlyCinCCAR.CHence,CitCisCnecessaryCtoCconsiderCCARCinCcasesCwithCrapidCdeteriorationCinCvisionCoverafewweeks.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1201.1204,C2017〕Keywords:癌関連網膜症,網膜電図,抗リカバリン抗体.cancer-associatedretinopathy,electroretinogram,an.ti-ricoverinantibody.Cはじめに癌関連網膜症(cancer-associatedCretinopathy:CAR)は自身の網膜を標的とする抗リカバリン抗体などの自己抗体により種々の症状・所見を呈する.自覚症状としては視力低下や視野障害,暗順応の低下など,検眼鏡的には網膜血管の狭細化や視神経萎縮,網脈絡膜萎縮などを認めることが多い1).しかし,特異的所見が少なく網膜色素変性症とも類似した眼底所見を呈するため,鑑別に苦慮することも多い.短期間で急激な視力低下をきたす場合もあり,3日間で急速に手動弁にまで低下した症例報告があるが,その一方で視力低下がほとんどないままC11年経過した症例も報告されている2,3).今回,2週間の経過で急速に両眼の視力が低下し,光覚に至ったCCARの症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕村上敬憲:〒990-9585山形市飯田西C2-2-2山形大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakanoriMurakami,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine,YamagataCity,Yamagata990-9585,JAPANI症例患者:82歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2012年C11月下旬より両眼の視力低下を自覚し近医眼科を受診.矯正視力は右眼C0.1,左眼C0.5であったが前眼部や眼内に明らかな異常所見は認めなかった.12月上旬再診時に両眼光覚まで増悪し,山形大学附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼が光覚(+)(矯正不能),左眼は光覚(C.)(矯正不能)で眼圧は右眼C17mmHg,左眼C15mmHgであった.前眼部には両眼にCEmery-Little分類でGradeIIIの核白内障を認めたが炎症所見は認めず,眼底にも明らかな異常所見を認めなかった(図1).対光反応は両眼とも遅鈍であり,相対的入力瞳孔反射異常は陰性.中心フリッ図1初診時眼底写真両眼底に明らかな異常所見を認めない.図2初診時フルオレセイン蛍光眼底造影写真右は腕網膜循環時間の遅延を認める.左は視神経乳頭の過蛍光を認める.図3初診時OCT両眼ともCellipsoidzoneが不明瞭となっている.カー値は両眼ともにC0CHz,動的量的視野検査でも両眼とも反応は検出されなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinCangiography:FA)では右眼では腕網膜循環時間の遅延を認め,左眼では視神経乳頭で過蛍光を認めた(図2).頭部磁気共鳴画像(magneticCresonanceCimaging:MRI)では明らかな異常所見を認めなかった.光干渉断層計(opti-calCcoherenceCtomograpy:OCT)では両眼ともにCellipsoidzoneが消失していた(図3).網膜電図(electroretinogram:ERG)では暗順応CERG(桿体応答,フラッシュCERG),明順応CERG(錐体応答,フリッカーCERG)ともに平坦な波形を認めた.経過:鑑別診断として網膜色素変性症,CAR,ビタミンA欠乏症などが考えられたが,入院直後にノロウイルス感染による胃腸炎を認めたため,ステロイドパルスを施行せずビタミン製剤の内服のみで経過観察となった.血液検査で抗リカバリン抗体が陽性であったためCCARと診断し全身検索を行ったところ,血液生化学検査で前立腺特異抗原(pros-tateCspeci.cCantigen:PSA)がC33.817Cng/ml(基準値≦4.0ng/ml)と上昇を認めた.骨盤部単純CMRIでも前立腺左葉の浸潤発育を認めたため前立腺癌が疑われた.当院泌尿器科へ紹介し,確定診断のための前立腺生検を提案したが,本人が拒否したため臨床的前立腺癌として経過観察されていた.PSAは徐々に上昇がみられていたが後に近医泌尿器科へ紹介となった.眼科も通院を拒否し無治療で経過観察終了となった.CII考按本症例ではC2週間で両眼の急激な視力低下,視野狭窄をきたし,ERGの波形平坦化やCOCTでのCellipsoidCzoneの不明瞭化もみられている.FAでは腕網膜循環時間の遅延や視神経乳頭の過蛍光を認めているものの,検眼的に前眼部や眼底に明らかな異常所見は認めなかった.急激な視力低下や視野狭窄をきたす疾患として網膜動脈閉塞症や硝子体出血が考えられるが,眼底やCFA所見からは否定的であった.ERGの波形平坦化がみられる疾患としては網膜色素変性症が鑑別にあがったが,色素沈着も認めておらず視野狭窄の進行も緩徐であり,今回の経過からは否定的,またCellipsoidzoneが不明瞭化する疾患としては急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonalCoccultCouterCretinopathy:AZOOR)が考えられたが,視野の部分欠損を示す疾患であり,本症例の動的量的視野検査でまったく反応が検出されないものとは異なる.このような経過から鑑別疾患としてCARの可能性を考え,血中抗体検査を施行したところ抗リカバリン抗体陽性であったことからCCARの診断となった.また,同時期に腫瘍性病変の検索として造影CMRIを施行したところ,前立腺癌の可能性が考えられた.CARはC1976年にCSawyerらが初めてC3例の報告をしており1),網膜視細胞の特異的抗原が異所性に癌細胞に発生し,自己免疫機序によって網膜障害が生じる疾患である2).抗原としてはリカバリン,heat-shock-proteinC70などが報告されている3).また,血液中に抗リカバリン抗体が陰性であっても,肺小細胞癌の腫瘍細胞上にリカバリンの異所性発現を示した報告がある4).原因となる癌としては肺,消化器系,婦人科系の癌が多く,Yamaguchiらの報告ではCCAR57例のうちで肺癌はC43例,そのうち肺小細胞癌はC37例という結果が報告されている5).また,肺小細胞がんや広範囲で遠隔転移が存在している症例で急速な視力低下が生じるという報告がある6,7).本症例では臨床的に前立腺癌が疑われたが,生検未施行であるため詳細は不明となっている.CARの臨床的所見としては進行性の視力低下,視野狭窄,網膜中心動脈の狭細化,夜盲,網膜電図の平坦化などがある2).過去の報告として眼底に明らかな異常は認めないもののCOCTで網膜外層の菲薄化を認めたこと,ERGで振幅の低下を認めたことからCCARを疑い診断に至ったという報告があり8),本症例もほぼ同様の臨床像がみられている.CARは眼症状から癌の発見につながりうるため,早期発見により眼のみならず生存率延長にも寄与する可能性がある.本症例のように短期間で急速な視力低下を認めているにもかかわらず検眼的に異常を認めない場合,CARの可能性を検討し,必要に応じて全身検査を施行する必要があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawyerRA,SelhorstJB,ZimmermanLEetal:BlindnesscausedCbyCphotoreceptorCdegenerationCasCaCremoteCe.ectCofcancer.AmJOphthalmolC81:606-613,C19762)大黒浩,山崎仁志:癌関連網膜症の分子病態と新しい治療法.医学のあゆみ201:193-195,C20023)OhguroCH,CYumikoCY,CIkuyoCOCetCal:ClinicalCandCimmu-nologicalCaspectsCofCcancer.associatedCretinopathy.CAmJOphthalmolC137:1117-1119,C20044)新屋智之,笠原寿郎,藤村正樹ほか:悪性腫瘍随伴網膜症(Cancer-associatedCretinopathy:CAR)を合併した肺小細胞癌の一例.肺癌C46:741-746,C20065)AkiraCY,CTamiCF,COsamuCHCetCal:ACsmallCcellClungCcan-cerCwithCcancer-associatedCretinopathy:detectionCofCtheCprimarysiteinthelung15monthsafterresectionofmet-astaticCmediastinalClymphadenopathy.CJpnCJCLungCCancerC44:43-48,C20046)KornguthCSE,CKleinCR,CAppenCRCetCal:OccurrenceCofCanti-retinalCganglionCcellCantibodiesCinCpatientsCwithCsmallCcellCcarcinomaofthelung.CancerC50:1289-1293,C19827)GuyCJ,CAptsiauriCN:TreatmentCofCparaneoplasticCvisualClossCwithCintravenousCimmunoglobulin.CReportCofC3Ccases.CArchOphthalmolC117:471-477,C19998)上野真治:腫瘍関連網膜症.あたらしい眼科C33:971-979,C2016***