眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋375.白内障手術中の粘弾性物質の動態鈴木久晴日本医科大学武蔵小杉病院白内障手術中の角膜内皮保護において,粘弾性物質(OVD)の使用は必須といえる.OVDにはいくつか種類があるが,その性質を把握しておくことは重要である.しかし,OVDは無色透明であり,前房内の動態を把握することは困難である.そこで,今回筆者らは,実験的に豚眼を用い,OVDを黄色に染色して細隙灯顕微鏡を用いて,その動態を観察した.●SlitSideViewの開発(図1)現在の白内障手術は安全性が非常に高く,合併症が生じることは少なくなっている.しかし,術中に角膜内皮が障害されることによって生じる水疱性角膜症は,さらなる加療が必要とされる大きな合併症であることに変わりはない.そこで,角膜内皮細胞を保護するために,術中に粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)を前房内に滞留させることは有用であると考えられている.しかし,OVDは無色透明であり,また手術用顕微鏡は正面から観察しているため,前房におけるOVDの残存状況と動態を把握することはむずかしい.そこで,まずOVDをフルオレセインで染色・可視化し,摘出豚眼を用いて,細隙灯顕微鏡にて術中OVDの動態を観察する方法を開発した.筆者らは,この方法をSlitSideView(SSV)と名付けた.●凝集型OVD(図2)凝集型OVDはペダルを踏み,吸引をかけてからわずか数秒で灌流液がOVDと角膜内皮細胞の間に入り込み,前房内から吸引除去されてしまった.よって,凝集型OVDは角膜内皮保護作用が弱いと考えられる.しかし,眼内レンズ挿入時の水晶体.の空間保持などにおいては,むしろ吸引除去しやすいほうが有用と考えられるため,一時的な空間保持能が必要な場合は有用であるといえる.●分散型OVD(図3)分散型OVDは吸引をかけた瞬間にチップの周りからすぐに吸引除去されたが,角膜内皮側に接着したOVDは吸引されなかった.そして時間がたつにつれ,角膜内皮に接着したOVDが前房側へ垂れ下がって吸引され,網目状にOVDが残存している状況も観察された.この結果により,臨床上,核片や空気がトラップされやすい(57)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1SSVの実験画像術中の前房内の状態を詳細に観察できる.ことが視覚的に理解できる.また,灌流液が流れていくことによって,OVDが次第に削り取られるように吸引除去されることもわかった.よって,トラップされた核片などは,灌流液の流れの方向をうまく利用して処理することが,角膜内皮に侵襲を与えない方法として有用であると考えられた.●ソフトシェルテクニック(図4)上記のように分散型OVDは核や空気をトラップしやすく,単独で使用すると術中の視認性が落ちてしまうことを経験する.そこでArshino.が提唱した,分散型OVDを注入後に凝集型OVDを注入するソフトシェルテクニック1)を検証した.吸引をかけた瞬間にやはり凝集型OVDは吸引除去されてしまうが,分散型OVDは長い時間,ある一定の厚みをもって角膜内皮に接着してあたらしい眼科Vol.35,No.2,2018217いた.よって,ソフトシェルテクニックは視認性を確保するのと同時に,角膜内皮保護作用に優れていることが視覚的にも実証された.●おわりにSSVは術中のOVDの動態を把握するために優れた方法であると考えられた.機械のセッティングや術式の評図2凝集型OVDa:吸引をかける前,b:吸引をかけて数秒後.図上の白線で示したXY軸スケールの単位はmm,他の写真も同様図3分散型OVDa:矢状断面,b:横断面.図4ソフトシェルテクニックa:矢状断面,b:横断面価など,今後もさまざまな評価に有用である可能性が示唆された.文献1)Arshino.SA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.JCataractRefractSurg25:167-173,1999