●連載監修=安川力髙橋寛二44.ラニビズマブ,t-PA,ガスを用いた北川順久島田宏之日本大学病院アイセンター黄斑下血腫移動術滲出型加齢黄斑変性によって生じる黄斑下血腫は,放置すると高度の視力障害が永続するため,早急な治療が必要である.治療は硝子体手術や硝子体内ガス注入がある.本稿では,VEGF阻害薬,t-PA,ガスを硝子体内に注射する黄斑下血腫移動術について解説する.はじめに黄斑下血腫に対する治療は,硝子体手術を行う方法と硝子体内ガス注入を行う方法に大別される.過去の両方の治療手技についてC38論文を検討した研究では,血腫の完全移動率,術後の再出血と網膜.離の比率に差は認められていない1).両者ともそれぞれ利点や欠点がある(表1).黄斑下血腫の治療硝子体内ガス注入は,硝子体を切除せず温存し,血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)阻害薬,組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissueCplasminogenCactivator:t-PA),ガスを硝子体内に注射して治療する方法である(表2).使用するガスは八フッ化プロパン(C3F8),六フッ化硫黄(SF6)がある.硝子体内ガス注入の利点は,硝子体を切除しないため,硝子体に注入したCVEGF阻害薬の半減期が短くならず,再発に有利であること,手技が注射のみと容易なため外来処置室でも行え,多くの施設で治療できることなどがある.欠点は,比較的強い白内障,硝子体出血を伴っている例では,これらを同時に治療できないことである2).筆者は,黄斑の上下アーケード血管を大きく上回る広範囲で丈の高い網膜下出血や色素上皮.離を認める症例では,治療選択に苦慮する場合がある.経過観察,硝子体注射のみ,硝子体内ガス注入,硝子体手術があるが,なかでも手術を行う場合には慎重に選択している.黄斑円孔や色素上皮裂孔など手術に伴うリスクや,手術により中心窩の出血をどれほど処理できるかを考えてから行っている.そのような症例では,手術経験がある術者では手術を選択しても良いかもしれない.本術式に至る理由硝子体内ガス注入による過去の後ろ向き研究では,(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1黄斑下血腫に対する硝子体手術と硝子体内注射の比較硝子体手術硝子体内注射利点網膜下注入,薬剤が直接効果ある白内障・硝子体出血も同時に治療硝子体を温存,再燃に有利低侵襲手技が容易,外来治療可能欠点再燃の際,硝子体注射・薬剤半減期は短縮する硝子体手術設備が必要手技に熟練を要す白内障,硝子体出血は同時に治療できない合併症への対応術後硝子体出血,網膜.離に対しては硝子体手術が必要表2黄斑下血腫治療におけるt.PA,ガス,VEGF阻害薬の役割t-PA血腫を溶かすガス血腫の移動ラニビズマブ病巣の治療(t-PAと併用しても抗CVEGF効果が保たれる)アフリベルセプト再燃に有効t-PAとガスを併用したほうが,VEGF阻害薬とガスの併用より視力予後が良く3),またCVEGF阻害薬とCt-PAとガスの三つを併用したほうが,t-PAとガスを併用した方法より視力予後が良いとされる4).よって,VEGF阻害薬とCt-PAとガスを一度に硝子体内注射をする方法は,黄斑下血腫の移動と病巣への治療を同時に行えるため視力予後が良く,有利と考えられる4).ラニビズマブはCt-PAやCt-PAにより産生されたプラスミンに分割されず,VEGFを抑制して,その効果は保持される.一方,アフリベルセプトはCt-PAにより増加するプラスミンによりCVEGFを抑制する効果が部分的に減少するとされている5).以上からラニビズマブ,t-PA,ガスを一度に硝子体内注入をする治療法を行い,前向き研究で効果,安全性を検討した.対象は典型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularあたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1285ab図1症例a:ポリープ状脈絡膜血管症.術前CETDRS58文字.9乳頭径の網膜下出血と色素上皮.離を認めた.Cb:術後C3カ月.ETDRS70文字.網膜下出血は消失していた.degeneration:AMD)とポリープ状脈絡膜血管症(pol-ypoidalCchoroidalCvasculopathy:PCV)によって黄斑下血腫を生じた連続症例20例20眼(AMD:1眼,PCV:19眼).方法は,球後麻酔下でCt-PA(アクチバシンR:25Cμg/0.05Cml;4万単位)0.05Cml,ラニビズマブ(ルセンティスCR2.3mg/0.23ml)0.05mlを注入後,前房穿刺を行い,ガス(100%CC3F8)0.3Cmlを硝子体内注射し,48時間の腹臥位を行った.主要評価項目は術後C6カ月での矯正視力(ETDRS),副次評価項目は血腫の移動の有無,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomo-graphy:OCT)で測定した中心窩網膜厚(centralCreti-nalthickness:CRT),中心窩網膜色素上皮.離厚(cen-tralretinalpigmentepithelialdetachmentthickness:CRPEDT),術後合併症,術後C6カ月における再燃,t-PAの安全性を検討した.結果は,平均CETDRSは術前C52文字,術後C6カ月で65文字であり,有意に改善した(p=0.0040).血腫の完全移動はC85%(20眼中C17眼)で得られた.OCTで測定した平均CCRTは,術前C599μm,術後C6カ月C207μmとなり,有意に減少し(p<0.0001),CRPEDTは術前C188Cμm,術後C6カ月C88Cμmとなり,有意に減少した(p=0.0140).術後C3カ月までの術後合併症はC3眼で硝子体出血,1眼で裂孔原性網膜.離を生じた.それらに対しては硝子体手術あるいは網膜復位術を行い完治した.合併症を生じたC4眼を術後C6カ月でみると,ETDRSはC51文字からC67文字へ有意に改善した(p=0.0058).再燃はC50%(20眼中C10眼)にみられたが,アフリベルセプトの硝子体内注射を適宜行い,視力維持が得られた.再発症例の病型はC19眼でCPCVであったため,再燃にはアフリベルセプトが有用と考える.ラニビズマブ,t-PA,ガスの硝子体内注入後,眼内炎や全身の血栓症など重篤な合併症やCt-PA関連の網膜毒性による網膜萎縮などはみられなかった.1286あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017おわりにt-PAを用いることで血腫を溶解し,ガスの浮力による血腫の移動をより容易にし,またラニビズマブを同時に注射することによりCCNVの退縮が得られたと考える.また,術後に裂孔原性網膜.離や硝子体出血を生じても,適切に対応すれば,すでに血腫を中心窩から移動させ,中心窩の機能を確保できているため,矯正視力を維持し改善することができた.ラニビズマブ,t-PA,ガスの硝子体内注入による黄斑下血腫移動術は矯正視力が改善する有用な治療法である.視力を維持するためには術後合併症に対する適切な処置と病変の再燃に対する適宜アフリベルセプトの硝子体内注射が必要である.文献1)vanCZeeburgCEJ,CCeredaCMG,CAmarakoonCSCetCal:Pro-spective,randomizedinterventionstudycomparingretinalpigmentepithelium-choroidgraftsurgeryandanti-VEGFtherapyCinCpatientsCwithCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologicaC233:134-145,C20152)KitagawaCY,CShimadaCH,CMoriCRCetCal:IntravitrealCtissueCplasminogenCactivator,Cranibizumab,CandCgasCinjectionCforCsubmacularhemorrhageinpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.OphthalmologyC123:1278-1286,C20163)MayerWJ,HakimI,HaritoglouCetal:E.cacyandsafe-tyCofCrecombinantCtissueCplasminogenCactivatorCandCgasCversusCbevacizumabCandCgasCforCsubretinalChaemorrhage.CActaOphthalmol91:274-278,C20134)Gutho.R,Gutho.T,MeigenTetal:IntravitreousinjecC-tionofbevacizumab,tissueplasminogenactivator,andgasinthetreatmentofsubmacularhemorrhageinage-relatedCmaculardegeneration.RetinaC31:36-40,C20115)KlettnerA,GroteluschenS,TreumerFetal:Compatibili-tyCofCrecombinantCtissueCplasminogenCactivator(rtPA)CandCa.iberceptCorCranibizumabCcoappliedCforCneovascularCage-relatedmaculardegenerationwithsubmacularhaem-orrhage.BrJOphthalmolC99:864-869,C2015(74)C