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感染性角膜炎における点眼治療戦略:Empiric therapyからDefinitive therapyへ

2017年9月30日 土曜日

感染性角膜炎における点眼治療戦略:EmpirictherapyからDefinitivetherapyへManagementofInfectiousKeratitisusingEyedrops星最智*はじめに感染性角膜炎におけるCempirictherapyとは,感染疫学的知見に基づき,患者背景や前眼部所見から起炎菌を推定して治療を行うことである.起炎菌を推定できる理由は菌種ごとに感染源,感染経路,感染部位,発症誘因に特徴があるからである.Empirictherapyでは,推定した起炎菌を含めた広い範囲の菌種に抗菌効果を有する点眼薬を選択するのが基本である.しかしながら,感染性角膜炎は視力予後に影響する疾患であるため,角膜に強い組織障害を残さないよう,できるだけ確実に早く治すことが求められる.したがって,empirictherapyの段階においても広域の菌種をカバーするだけでなく,可能性がもっとも高い起炎菌に特化した抗菌点眼薬を併用する姿勢が求められる.De.nitivetherapyとは本来は起炎菌が確定した後に,その起炎菌にもっとも適した抗菌点眼薬に変更することを意味する.眼科においては点眼固有の薬物動態や角膜毒性などの観点から,治療効果を認める場合は他の抗菌点眼薬への変更が必ずしも適切であるとは限らない.むしろ問題なのは,すでに角膜病巣の菌が死滅している状態でも長期間,複数の抗菌薬を頻回に使用するおそれがあることである.これは治療後の反応において,感染症がいまだ継続しているのか,あるいは何らかの理由で組織破壊の修復が滞っているだけなのかの見きわめができないために生じる問題であると考えられ,眼科の特殊性を考慮したCde.nitivetherapyの考え方が求められる.感染性角膜炎の診断と治療の基本的な流れは「感染性角膜炎診療ガイドライン」が参考になる1)(図1).とくにC2013年のガイドライン改定に際し感染性角膜炎の治療の項も修正されているので,改定ポイントを踏まえつつ実際の臨床で遭遇しやすい事象への対処方も示すこととする.なお,細菌性角膜炎が一般診療でもっとも遭遇しやすく,治療点眼薬としても抗菌点眼薬がもっとも種類が多いため,細菌性角膜炎を中心に解説する.CI患者背景からの診断2003年の感染性角膜炎全国サーベイランスにおいて,角膜炎患者はC20代とC60代のC2峰性であり,20代の角膜炎のC89.8%がコンタクトレンズ装用者であることが明らかとなった2).このように疫学調査から起炎菌構成や感染リスクが明らかになることがある.感染症では菌種ごとにリスク因子が存在するため,初診時には感染疫学的知見を駆使して可能性の高い起炎菌を絞り込んでいく.患者背景の問診は感染症診断においてきわめて重要な診療部分を占める.問診は感染源,感染経路,宿主の状態,発症誘因をイメージしながら行う.感染性角膜炎で確認しておきたい問診事項を表1に示す.感染性角膜炎の初診時には問診のみからの起炎菌診断を必ず行い,これを背景診断とする.CII前眼部所見からの診断感染性角膜炎では,前眼部所見から起炎菌を推定する*SaichiHoshi:田村眼科〔別刷請求先〕星最智:〒124-0006東京都葛飾区堀切C5-1-3サンヨシダビルC2F田村眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)C1243図1感染性角膜炎診断治療のながれ(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版より)表1確認しておきたい問診事項コンタクトレンズの使用状況角膜疾患の既往乳幼児との接触歴内反症や睫毛乱生植物や小石などによる外傷慢性的な眼瞼結膜炎涙道閉塞,慢性涙.炎抗菌点眼薬の使用状況糖尿病ステロイド点眼の使用状況アトピー性皮膚炎ステロイド内服図2グラム陰性桿菌角膜炎a.緑膿菌(輪状膿瘍),b.緑膿菌(複数病変),c.セラチア,d.モラクセラ.図3グラム陽性球菌角膜炎a.肺炎球菌,b.黄色ブドウ球菌.表2主要角膜炎起炎菌の抗菌スペクトラム菌種セフェム系アミノグリコシド系フルオロキノロン系クロラムフェニコールバンコマイシン緑膿菌C△C◎C◯C××肺炎球菌C◎C×◯C◯C◯CMSSAC◎C◯C◯C◯C◯CMRSAC×△C×◯C◎◎:第C1選択薬,◯:有効,△:菌株により有効,C×:効果得にくい.MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版をもとに改変)図4紛らわしい治療経過の例a.図C2dの一過性炎症悪化,Cb.黄色ブドウ球菌角膜炎による角膜浸潤の遷延,c.緑膿菌角膜炎による遷延性上皮欠損,d.慢性涙.炎によるCMRSA角膜炎の併発.て,角膜が原発の細菌性角膜炎の場合はC2剤併用で苦慮することはまれである.しかしながら,細菌検査の結果から耐性菌の関与が疑われる場合は,抗菌点眼薬の修正を検討するほうが望ましい.とくにCMRSA感染症ではクロラムフェニコール点眼のほか,眼瞼炎が併発していることが多いことから,バンコマイシン眼軟膏の使用も検討する11).C2.遷延する角膜浸潤グラム陽性球菌角膜炎ではC1.2週間たっても角膜浸潤が改善しないことがある.上皮欠損は小さいかほとんど認めないことが多い(図4b).この場合はカタル性角膜潰瘍と同じ理由で感染アレルギーが起こっている可能性が考えられ,低濃度ステロイド点眼をC1日C4回程度加えると数日で角膜浸潤は消失し瘢痕治癒が得られる.C3.遷延性上皮欠損グラム陰性桿菌角膜炎では遷延性上皮欠損が生じやすい.遷延性上皮欠損では潰瘍底は一様に灰白色で辺縁の上皮は隆起している(図4c).この段階では細菌はすでに死滅しており,何らかの理由で角膜組織障害の回復が遅延していることが問題であるため,まずは使用抗菌薬を見直すことから始める.抗菌点眼薬ではアミノグリコシド系抗菌点眼薬は角膜障害を起こしやすいので中止する.セフェム系かフルオロキノロン系抗菌点眼薬が扱いやすく,いずれかC1剤をC1日C4回程度で経過をみる.点眼回数にもよるが,角膜実質への影響を考えて高濃度のものや中性での溶解度の低い抗菌点眼薬は避けておくほうがよい.それでも改善が得られない場合は低濃度ステロイド点眼や治療用ソフトコンタクトレンズの装用などを検討する.C4.角膜以外が主病巣細菌性角膜炎であっても主病巣が角膜以外に存在する場合,抗菌点眼薬の治療効果が十分に得られないことがある.とくに慢性涙.炎,後部眼瞼炎など眼球付属器に慢性的な感染症が存在すると角膜炎が併発しやすい12)(図4d).この場合,角膜炎はなかなか改善せず鎮静化したとしても再発しやすい.主病巣である眼球付属器感染症を治療することが重要で,抗菌点眼薬だけでは鎮静化が困難である場合は抗菌薬の全身投与が必要となる.C5.起炎菌が細菌ではない1.2週間経過しても治療に反応がなく,眼球付属器にも問題がなく,徐々に病変が拡大する場合は,真菌性角膜炎など細菌以外の病原体の可能性を考える必要がある.角膜病巣所見では二次元的な形状だけでなく,角膜実質深部への進展具合やCendothelialplaqueの有無にも注意を払う.治療方針を決定するためには角膜病巣擦過など積極的な起炎菌検索が必要になるため,自施設での対応が困難な場合は速やかに専門施設に紹介する.おわりに感染症の発症において感染源,感染経路,宿主の状態,発症誘因は必ず存在する.この感染症の原則にもとづいて問診と前眼部所見から起炎菌を推定することが大前提である.初期診断を行う際は,問診による背景診断と前眼部による所見診断を比較するとよい.Empirictherapyでは,広域抗菌点眼薬を使用して主要な角膜炎起炎菌に幅広く対応するに留まらず,もっとも可能性の高い起炎菌に特化した抗菌点眼薬を併用することで早く確実に菌の死滅をめざす.De.nitiveCtherapyではempirictherapy後の反応の見きわめが重要で,抗菌薬の複数頻回点眼の期間をなるべく短くして角膜障害の回復の妨げにならないようにする.首尾よく感染性角膜炎が治癒したら最終診断を必ず行う.たとえ起炎菌が検出されなくても治療経過から総合的に起炎菌を決める習慣をつけると,質の高いCempiricCtherapyとCde.nitivetherapyを行うことができるようになるであろう.文献1)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日本眼科学会雑誌117:467-509,C20132)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の状況─.日眼会誌110:961-972,C20063)佐々木香る,稲田紀子,熊谷直樹ほか:緑膿菌角膜炎における臨床所見の検討.新しい代表的所見としてのブラシ状混濁の提言.あたらしい眼科30:255-259,C2013(37)あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017C1249-

アレルギー性結膜疾患における点眼治療戦略:病態に応じた薬剤選択のポイント

2017年9月30日 土曜日

アレルギー性結膜疾患における点眼治療戦略:病態に応じた薬剤選択のポイントStrategiesforTopicalTreatmentinAllergicConjunctivalDiseases:StrategicPointsofMedicamentSelectionDependingonPathologicCondition庄司純*はじめにアレルギー性結膜疾患(allergicconjunctivaldiseas-es:ACD)は,「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの」と定義され1),臨床所見からいくつかの病型に分類される.巨大乳頭や輪部堤防状隆起などの結膜所見は,結膜増殖性変化とよばれ,ACDの病型は,結膜増殖性変化がみられない季節性アレルギー性結膜炎(seasonalallergiccon-junctivitis:SAC)および通年性アレルギー性結膜炎(perennialallergicconjunctivitis:PAC)と結膜増殖性変化がみられるアトピー性角結膜炎(atopickeratocon-junctivitis:AKC)および春季カタル(vernalkerato-conjunctivitis:VKC)とに大別されている.一方,I型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)は,外界から侵入した抗原(アレルゲン)が抗原特異的IgE抗体と反応することで生じるアレルギー反応で,その経過は即時相と遅発相とからなる2相性である(図1).アレルギー疾患の治療は,I型アレルギー反応の病態に基づいて開発された治療薬を,個々の患者の病状に合わせて適切に選択し,用いる必要がある.今回は,ACDに対する点眼薬による局所療法について,点眼薬の選択とその背景にあるアレルギー学的病態について解説する.I即時型アレルギー反応への対応:アレルギー性結膜炎を中心に1.即時相と遅発相の病態a.即時相I型アレルギー反応の即時相は,抗原侵入後20~30分で生じる急性の反応で,持続時間は短く1時間程度で消退する.即時相は,外来から侵入した抗原がマスト細胞に高親和性IgE受容体(FceRI)を介して結合した抗原特異的IgE抗体と結合することで,マスト細胞は脱顆粒し,ケミカルメディエーターが放出されることにより臨床症状が発現する.代表的なマスト細胞由来のケミカルメディエーターは,ヒスタミン,ロイコトリエン,トロンボキサンA2,プロスタグランジンD2などである.即時相に対する治療薬は,マスト細胞に作用してケミカルメディエーターの遊離を抑制するメディエーター遊離抑制薬,および各種ケミカルメディエーターまたはその受容体と反応してケミカルメディエーターの作用を抑制する薬剤であるヒスタミンH1受容体拮抗薬,ロイコトリエン受容体拮抗薬,トロンボキサンA2合成阻害薬,トロンボキサンA2受容体拮抗薬などがある.点眼薬として使用可能な薬剤は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬である(図2).b.遅発相遅発相は,抗原侵入後6~12時間後に炎症が再燃す*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(21)1233030min6hr48hr遅発相好酸球・リンパ球治療薬図1即時型(I型)アレルギー反応即時型アレルギー反応は,即時相と遅発相との2相性反応である.血管内皮細胞:血管拡張・血管透過性亢進→充血・浮腫神経線維(Cファイバー)→掻痒図2I型アレルギー反応即時相の病態と抗アレルギー薬即時相では,マスト細胞の脱顆粒により放出されたヒスタミンがヒスタミンH1受容体に作用することで,結膜充血,結膜浮腫,眼掻痒感などの臨床症状を発症する.抗アレルギー点眼薬は,その薬理作用からメディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬とに分類される.花粉結膜炎アレルゲン花粉初観測日初期療法過敏性亢進ダニスギ(抗アレルギー薬)気象条件・気温:寒暖差花粉飛散開始発症・気圧:低気圧過敏性亢進=最小持続炎症Minimalpersistentin.ammation図3スギ花粉結膜炎とminimalpersistentin.ammation閾値下のアレルゲン刺激や気象条件によりminimalpersistentin.ammation(MPI)が生じる.MPIにより粘膜組織に過敏性亢進が生じると,アレルギー症状の発症閾値が低下して,少量の抗原刺激に反応して症状が出現する.表1抗アレルギー薬(点眼薬)の種類分類薬剤名商品名点眼回数メディエーター遊離抑制作用抗ヒスタミン作用クロモグリク酸ナトリウムインタールR1日4回+.アンレキサノクスエリックスR1日4回+.ペミロラストカリウムアレギサールR1日2回+.メディエーター遊離抑制薬ペミラストンR1日2回+.トラニラストリザベンR1日4回+.トラメラスR1日4回+.イブジラストケタスR1日4回+.アイビナールR1日4回+.アシタザノラスト水和物ゼペリンR1日4回+.ケトチフェンフマル酸塩ザジテンR1日4回++ヒスタミンオロパタジン塩酸塩パタノールR1日4回++H1拮抗薬レボカバスチン塩酸塩リボスチンR1日4回.+エピナスチン塩酸塩アレジオンR1日4回++健常者活性型H1受容体非活性型H1受容体ヒスタミン(アゴニスト)ニュートラルアンタゴニストインバースアゴニストシグナル:増強シグナル:減弱シグナル:減弱活性化H1R:増加活性化H1R:不変活性化H1R:減少図4抗ヒスタミン薬におけるアンタゴニスト作用とインバースアゴニスト作用健常な状態の組織では,活性型および非活性型ヒスタミンCH1受容体(H1R)が平衡状態を保っている.ヒスタミンの作用(アゴニスト)によりCH1Rは活性型が多くなり,受容体の数自体も増加する.ニュートラルアンタゴニスト作用を有する薬剤は,ヒスタミンと拮抗して受容体をブロックすることでシグナル伝達を抑制するが,受容体数に変化はない.インバースアゴニスト作用を有する薬剤は,受容体の数を減らすこと,非活性型が増えた状態で安定させることなどにより,シグナル伝達を減少させる.基本治療オプション治療眼瞼の治療眼軟膏の眼瞼塗布・プロペトR軟膏・ステロイド軟膏鼻炎の治療点鼻薬の使用・ステロイド薬全身の治療内服薬の追加・抗ロイコトリエン薬・抗ヒスタミン薬図5アレルギー性結膜炎の治療アレルギー性結膜炎の基本治療は,抗アレルギー点眼薬を基礎治療薬として用いることである.合併するアレルギー疾患に対する治療は,アレルギー性結膜炎の治療と同時並行して進めていく.●重症例・急性増悪例でみられる所見①眼脂増強②眼瞼炎の合併③ビロード状乳頭増殖④トランタス斑⑤角膜上皮障害②④図6アレルギー性結膜炎重症例にみられる所見※1:シクロスポリン点眼液ルート※2:タクロリムス点眼液ルートパターン2bパターン1図7春季カタルのパターン治療のためのプロトコル免疫抑制薬を使用した春季カタルの治療では,重症度に合わせてパターンC1からパターンC4までの治療法を適用する.抗アレルギー薬とステロイド点眼薬との併用療法を施行している症例に対して,免疫抑制薬による治療に切り替える場合には,シクロスポリン点眼薬とタクロリムス点眼薬とでは切り替え方法が異なる点に注意する必要はある.(文献C19より改変)どがあげられている15).したがって,結膜増殖性変化は,結膜下組織の増殖を伴う好酸球炎症であると考えられる.好酸球炎症は,I型アレルギー反応により誘導されるアレルギー炎症により好酸球浸潤が生じるとされ,アレルギー炎症の主要病態であるCTh2細胞による免疫応答は,組織の好酸球浸潤に深く関連している.春季カタル症例における涙液検査では,好酸球関連因子であるCeosinophilCcationicCprotein(ECP)や好酸球の遊走に関連するケモカインCeotaxin-1,eotaxin-2が高値となり,臨床スコアと良く相関することが報告されている16,17).また,眼表面被覆液を採取して,real-timereverseCtranscriptionCpolymeraseCchainCreaction法によりCmRNA発現量を検討したところ,好酸球に発現されているCeotaxin-2CmRNAやヒスタミンCH1およびCH4受容体CmRNA量が健常対照と比較してCVKCで有意に増加していることが示された18).これらの報告は,結膜増殖性変化を有するCACDでは,結膜の好酸球炎症が主要病態であり,好酸球炎症を標的とした治療が必要であることを示していると考えられる.C2.免疫抑制薬の使用方法とその効果結膜増殖性変化を有するアレルギー性結膜疾患に対する第C1選択薬は,免疫抑制薬の点眼である.現在市販されている免疫抑制薬の点眼は,シクロスポリン点眼薬(パピロックCRミニ点眼液C0.1%,参天製薬)とタクロリムス点眼薬(タリムスCR点眼液C0.1%,千寿製薬)であり,両者ともに適応症は春季カタルである.免疫抑制点眼薬の使用法は,免疫抑制点眼薬調査委員会がパピロックCRミニ点眼液C0.1%市販後全例調査およびタリムスCR点眼液C0.1%市販後全例調査をもとにまとめた治療指針に示されている19).Ca.シクロスポリン点眼薬VKCに対するシクロスポリン点眼薬の使用方法の概略は,混合型または眼瞼型CVKCの重症例に対してはステロイド薬および抗アレルギー点眼薬とのC3者併用療法,中等症以下の混合型または眼瞼型CVKCおよび輪部型CVKCに対しては抗アレルギー点眼薬とのC2者併用療法を行うことである.とくに輪部型CVKCに対してはシクロスポリン点眼薬の有効性が高く,第C1選択薬になりうると考えられる.3者併用療法時のステロイド投与法には,点眼,結膜下注射,内服などの方法があり,重症度を考慮した投与量および投与方法の選択が必要である.有害事象に関しては,点眼時の刺激および前眼部感染症,とくに単純ヘルペスウイルス感染症(眼瞼炎・結膜炎・角膜炎)に注意が必要である.アトピー性皮膚炎患者では,皮膚のブドウ球菌感染症や単純ヘルペスウイルス感染症を合併しやすいため,免疫抑制点眼薬を処方する前には,ブドウ球菌および単純ヘルペスウイルス感染症の既往について問診しておく必要がある.Cb.タクロリムス点眼薬VKCに対するタクロリムス点眼薬の使用方法の概略は,どの重症度の症例に対しても,まず抗アレルギー点眼薬とのC2者併用療法で治療を開始することである.タクロリムス点眼開始後1~2週目で自覚症状の改善が,2~4週目で他覚所見の軽症化がみられる.2者併用療法に抵抗する難治例,重症例に対しては,ステロイド薬の併用を検討する.2者併用療法に抵抗する症例において,ステロイド点眼薬を追加してもあまり効果に変化がない場合には,ステロイド結膜下注射を検討する.有害事象に関しては,シクロスポリン点眼薬と同様に,点眼時の刺激および前眼部感染症に注意が必要である.おわりにACDに対する現在行われている薬物治療は,免疫抑制薬の登場により画期的に進歩したと考えられる.今後,難治例や重症例に対しては,分子標的治療薬(抗体療法)や免疫療法などの新たな治療法が検討されていくであろうと考えられる.将来は,新しい治療法の確立と病態解明とが両輪となってCACD治療が進んで行くと考えられる.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:829-870,C20102)ShojiCJ,CSakimotoCT,CMuromotoCKCetCal:ComparisonCofCtopicalCdexamethasoneCandCtopicalCFK506CtreatmentCforC1240あたらしい眼科Vol.34,No.9,2017(28)

ドライアイにおける点眼治療戦略:TFOT完全マスター道場!

2017年9月30日 土曜日

ドライアイにおける点眼治療戦略:TFOT完全マスター道場!CurrentStrategyofTopicalTreatmentforDryEye:PerfectUnderstandingofTFOT渡辺仁*Iドライアイの定義,診断基準の改訂の内容ドライアイの定義,診断基準はC2016年に改訂され,“ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある”と定義され,診断基準としては表1にあるように,自覚症状と涙液層破壊時間のC2項目で診断できるようになった1).この変更は,ドライアイの診断には角膜上での涙液の安定性が角結膜上皮障害より重視されるようになったことを意味している.その意味からも涙液の安定性を妨げる要因を取り除くことがドライアイの治療となる.そうした考え方が,最近ドライアイ研究会から提唱されているCTHOT(tear.lmorientedtherapy)に反映されている.そして,涙液層の要素,眼表面上皮のどの要素によってドライアイが生まれているかを見きわめ,それに対応する治療薬を選択する,それがCTFOTである.こうした概念が生まれたのも,これまでの治療薬に加えてジクアス点眼薬,ムコスタ点眼薬という臨床効果が異なる二つの点眼薬が日本でのみ使用可能で,そこから得られる知見に負うところが大きい.ジクアス点眼薬は結膜上皮の下方から眼表1ドライアイの新しい診断基準①眼不快感,視機能異常などの自覚症状ドライアイ診断2項目で確定②涙液層破壊時間(BUT)がC5秒以下(文献C1より引用)表面に水が移動し涙液量を増加させ,また杯細胞からの分泌型ムチンを分泌促進させる2).そして膜型ムチンの発現アップがその作用として知られている3).一方,ムコスタ点眼薬は,その起源が胃潰瘍の薬ということでもわかるように,角結膜上皮の健全性を高めることが主たる効果で,microvilliの修復が早かったり,タイトジャンクションの増強,2週間以上の点眼で杯細胞も増加させるというものである4).こうしたCTFOTを行うためには,TFOD(tearC.lmorienteddiagnosis),涙液層の要素,眼表面上皮のいずれの要因でドライアイが生じているかを見きわめることが臨床上必要となる.現状でもっともその鑑別に適しているのが,涙液層の破壊パターンにより不安定性要因を推察することである.これまでこうした涙液層の破壊パターンの成因についての解説は多いが,そこから突っ込んだ治療については,やや表面的になりがちであることから,本稿ではその涙液層破壊パターンをみた際,どの治療法を選ぶのがよいかを解説し(実はどれがベストか確立していないことも理解していただき),今後のよりよい治療に生かしていただきたい.CII涙液層破壊パターンの鑑別を正しく行うには?一般に涙液層破壊パターンを観察する際,フルオレセイン染色を眼表面に付加し,判定されている方が多い.その際,注意すべきことは,多くのフルオレセイン液をC*HitoshiWatanabe:関西ろうさい病院眼科〔別刷請求先〕渡辺仁:〒660-8511大阪府尼崎市稲葉荘C3-1-69関西ろうさい病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(15)C1227図1フルオレセイン溶液量の違いによる眼表面所見の違いa:最小量のフルオレセイン染色液で眼表面を染色した場合.Tearmeniscusは高くなく,角膜上皮障害も判定しやすい.この症例ではClinebreakを示した.Cb:同じ眼で多量のフルオレセイン染色液で眼表面を染色した場合.Tearmeniscusは高くなり,角膜上皮障害も判定しがたく,涙液層破壊パターンもCrandombreakとなった.C図2最小量のフルオレセイン液の染色法フルオレセイン紙に生理食塩水C2.3滴湿らし,その後,フルオレセイン紙を振って余剰水分をなくし,眼瞼結膜の先に垂直にあてる.図3涙液層破壊パターンa:Areabreak.涙液は眼表面上にほとんどなく,角膜上を涙液がカバーしない状態.Cb:Linebreak.いったん涙液が角膜上をカバーした後,下方で縦状に破壊される.Cc:SpotCbreak.開瞼と同時に涙液が上昇する際に類円形の涙液の破壊がみられる.d:Dimplebreak.涙液が上昇する際に,水濡れ性が悪い部位の涙液が上方あるいは下方に引っ張られ,その部位で涙液層の破壊が起こる.e:Randombreak.蒸発亢進で生じる.正常でもみられる破壊パターンで,異なる部位で破壊が生じる.C涙液はカバーできない部位を囲むこむように上昇するので類円形となる涙液はこの部位で角膜をカバーできない図4Spotbreakの涙液の動き

緑内障における点眼治療戦略:豊富なバリエーションをどう使い分けるのか?

2017年9月30日 土曜日

緑内障における点眼治療戦略:豊富なバリエーションをどう使い分けるのか?MedicalTreatmentStrategyforGlaucoma:HowtoChooseGlaucomaMedications中元兼二*はじめに緑内障に有効な治療は眼圧下降のみであるが,緑内障は超慢性的な疾患で,生涯にわたり定期的な通院と点眼治療が必要となる.点眼薬の眼圧下降効果および副作用は患者によって異なり,許容できる副作用も異なる.そのため眼科医は,患者の点眼へのモチベーションを保つために,眼圧下降効果が良好であることはもちろんであるが,少しでも毎日点眼を継続しやすい薬剤を患者に応じて選択する必要がある.近年,多種多様の緑内障点眼薬が発売され,処方できるようになった(図1,表1).このこと自体は治療のバリエーションが増えるため,医師・患者ともに大変ありがたいことではあるが,眼科医はますます薬剤選択に苦慮することが多くなってきた.そこで,本稿では,まず眼圧下降治療の重要性と治療戦略について述べ,ついで緑内障点眼薬選択のポイントを,最後に薬物治療の限界について筆者の見解も混じえて解説する.CI眼圧下降治療の重要性と治療戦略1,2)眼圧は,多くの大規模研究により,緑内障の有病率,発症,進行のリスクファクターであり,かつ唯一治療可能なリスクファクターである.眼圧がかかわるリスクファクターのなかでは,外来眼圧レベル(平均眼圧)がもっとも重要である.したがって,まず眼科医が最初に行うべき眼圧下降治療は,外来眼圧から目標眼圧を設定し,それを下回るようしっかり外来眼圧を下降させることである(図2).しかし,眼圧には,眼圧長期変動,日内変動,体位変動(たとえば,座位から仰臥位への体位変換に伴う眼圧上昇)などの変動があり,これらの変動の大きさも緑内障進行のリスクファクターの一つとされている.とくに外来眼圧レベルが低い症例に対しては,これらの変動も小さくすることが望ましい.他に,眼圧がかかわるリスクファクターとしては,低い(とくに夜間の)眼灌流圧(血圧C.眼圧),脳脊髄圧との差(眼圧C.脳脊髄圧差)があるが,いずれの因子も理論的に眼圧を十分下降させることで改善させうる(図3).CII緑内障点眼薬選択のポイント(図4)3)C1.第一選択薬緑内障点眼薬の選択のポイントは,①眼圧下降効果が大きいこと,②(とくに全身的)副作用が少ないこと,③点眼回数が少ないことのC3条件のバランスがよい薬剤を選択することといえる.最近では,経済的な問題を訴える患者も増え,ジェネリック医薬品を含むより安価な薬剤を選択する必要性も生じてきた.3条件のバランスは個々の患者により異なるが,ここでは代表的な点眼薬の選択法について述べる.現在,緑内障治療薬の第一選択薬には,優れた眼圧下降効果と良好な認容性により,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬またはCb遮断薬が推奨され*KenjiNakamoto:日本医科大学眼科〔別刷請求先〕中元兼二:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(9)C1221ピロカルピンリパスジルジピベフリン膜強膜流出量増加による両方の機序を有する.ab遮断薬ニプラジロールブナゾシンa2刺激薬ブリモニジン炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミドブリンゾラミドアセタゾラミド図1緑内障点眼薬と眼圧下降機序緑内障点眼薬を眼圧下降機序別に分類した.ab遮断薬,a2刺激薬は房水産生抑制,ぶどう表1配合点眼薬一覧商品名ザラカムデュオトラバタプコムミケルナコソプトアゾルガ成分チモロールラタノプロストチモロールトラボプロストチモロールタフルプロストカルテオロールラタノプロストチモロールドルゾラミドチモロールブリンゾラミド市販年2000年2005年2014年2017年2010年2013年保存年数2年1.5年3年2.5年3年2年点眼回数1日1回1日1回1日1回1日1回1日2回1日2回保存状況2.C8℃室温室温室温室温室温防腐剤CBAC塩化ポリドロニウムCBACC─CBACCBACBAC:塩化ベンザルコニウム.図3眼圧が関与するリスクファクターと治療方針眼圧レベルを下降させることがもっとも重要で,十分な眼圧下降が得られても進行する場合は,眼圧変動について考慮する.いずれのファクターも理論的に眼圧を十分下降させることで改善させうる.図5PAPがみられた1例PG関連薬治療によりCDUES,上眼瞼下垂がみられることがある.目標眼圧達成(+)(-)薬剤変更薬剤継続レーザー治療・手術治療*図2眼圧下降治療戦略外来眼圧から目標眼圧を設定し,できるだけ単剤でそれを下回るようしっかり外来眼圧を下降させる.配合点眼薬は多剤併用治療であることに注意する.PG関連薬・PG関連薬内変更・PG関連薬以外に変更・PG/b配合剤・PG+borCAIora2orROCK・PG+CAI/b配合剤+a2orROCKa2:a2刺激薬b:b遮断薬CAI:炭酸脱水酵素阻害薬ROCK:ROCK阻害薬図4緑内障点眼薬の具体的処方例第C1選択薬はCPG関連薬.眼圧下降不十分の場合は他剤に変更.併用治療では配合剤をうまく活用する.眼圧(mmHg)2015105010am1pm4pm7pm10pm1am3am7am測定時刻図63剤併用治療中に座位測定眼圧の日内変動で夜間眼圧が高かった症例58歳,女性の原発開放隅角緑内障患者.緑内障点眼薬C3剤併用治療中.外来眼圧は低いが,夜間に著しい眼圧上昇を認めた.C■用語解説■Prostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP):プロスタグランジン関連薬による脂肪組織の萎縮やコラーゲン分解などに伴う眼周囲形態変化の総称.上眼瞼溝深化(DUES)に加え,眼球のくぼみ,上眼瞼下垂,下眼瞼涙袋の平坦化,下方強膜の露出などがある.-

眼科医療における点眼薬の位置づけ

2017年9月30日 土曜日

眼科医療における点眼薬の位置づけPresentSituationofEyedropsinOphthalmicPractice山田昌和*はじめにもうC20年ほど前,米国のCDuke大学に留学していたときの話になる.Dukeアイセンターではスタッフや外部から招聘した臨床医,研究者のセミナーが頻繁に開催された.英語に少しでも慣れようと出席していたなかで今も記憶に残っている二つのレクチャーがある.一つは白内障,もう一つは網膜色素変性症の薬物治療の可能性についてのものだった.前者では,たとえば糖尿病による白内障を完全に予防できる点眼薬ができたとしても,白内障の原因は数多く,それぞれの原因をブロックするために何十種類もの薬を一生涯使用しなくてはならなくなる.それよりは白内障になってから手術治療をしたほうがよいという結論であった.一方,後者の網膜色素変性症では原因遺伝子が異なっていても最終的にはよく似た臨床型を示す.何らかのC.nalcommonpathwayがあるはずで,ここに介入すれば薬物療法が可能なはずだと締めくくられた.二つの疾患の性格が異なることもあるが,薬物療法に対する多様な見方,考え方として印象深い.本稿では眼科医療における点眼薬の位置づけを俯瞰してみる.まず,薬剤投与法としての点眼薬について述べ,眼科で点眼薬が頻用される理由と問題点について考える.次に,薬剤が医療のなかで占める位置,主要な薬剤の変遷について述べ,そのうえで眼科医療における点眼薬の位置づけを医療全体の薬剤の位置づけと対比してみる.最後に点眼薬の未来,点眼薬に代わる治療法について述べる.CI点眼薬が使われる理由薬剤の投与方法としては,内服,点滴,局所注射などさまざまな方法があり,点眼薬はそのなかの一つにすぎない.しかし,眼科医療では点眼薬が圧倒的に多く使われる.これには大きく三つの理由があるように思う.一つ目は効率よく眼組織に薬剤を移行させるため,二つ目は眼局所だけに薬剤を到達させることができ,全身への影響を減らすことができるため,三つ目は簡単な投与法で,患者の苦痛や負担が少ないことである1).点眼された薬剤は,涙液に溶け込んだ後に角膜に接触して吸収され,前房内,さらに虹彩・毛様体に至る.ただし,角膜のバリア機能のために点眼された薬剤のうち前房内に到達するのはC0.01~0.1%程度で,ほとんどは眼内に達しない2).一見,効率の悪い薬剤投与法のようだがそうでもない.たとえば,オフロキサシンをC200mg内服した場合,静脈内投与した場合の前房水中濃度はそれぞれC0.38μg/ml,0.45μg/mlであるのに対し,0.3%点眼薬をC6回点眼すると前房水中濃度はC0.84Cμg/mlとなり,全身投与を大きく上回る薬剤濃度を達成できる3).同様のことはステロイド剤や非ステロイド系抗炎症薬でも報告されている.点眼という投薬経路を取ることで全身への影響を避けるという意味では,炭酸脱水酵素阻害薬が代表例である.内服による全身投与では手足のしびれ,尿路結石,*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)C12155045国民医療費40薬剤費4035薬剤費比率金額(兆円)3025201510503020100薬剤費の比率(%)図1国民医療費と薬剤費,薬剤費の比率の推移医療費に占める薬剤費の比率はC30%を超えた時期もあったが,1998年以降はC20%前後の値を推移している.中医協資料(文献4)を基に筆者が作図.循環器官用薬外皮用薬中枢神経作用薬感覚器官用薬消化器官用薬抗生物質製剤割合(%)2520151050200520072009201120132015図2医薬品の薬効大分類別生産金額(国内生産分)の推移加齢性疾患,慢性疾患に対する治療薬の比率が増加している.感覚器用薬はC3~4%の間を推移している.薬事工業生産動態統計調査(文献5)を基に筆者が作図.350,000300,000250,000200,000150,000金額(百万円)100,00080,000金額(百万円)60,00040,00019981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520161998199920002001200220032004200520062007200820092010201120122013201420152016図3眼科用剤市場の推移図4点眼薬市場の領域別の推移眼科用剤市場の急速な伸びは抗CVEGF薬によるもので抗緑内障薬と角膜疾患治療薬の成長は,眼科領域でも加齢ある.ただし点眼薬に限っても着実な増加がみられる.性慢性疾患が主要な治療対象となっていることを示す.-

序説:点眼治療戦略:Pros & Cons

2017年9月30日 土曜日

点眼治療戦略:Pros&ConsEye-dropTreatmentStrategy:Pros&Cons白石敦*高橋浩**はじめに点眼治療は手術治療とともに眼科治療を支える大きな柱であり,眼科医療になくてはならないものです.毎年のように,主要疾患に対して新たな点眼薬が上市され,多くの後発点眼薬がリリースされる中で,2,000億円を超える市場に成長しています.そうした現状を踏まえ,本特集では,点眼薬・点眼治療の基本的な知識を再確認していただくとともに,使用機会の多い疾患を対象に,臨床医がマスターしておくべき点眼治療の最新情報を,各専門領域のエキスパートからわかりやすく紹介していただきました.今回はとくに,副題を「Pros&Cons」と定め,点眼薬の上手な使い方,犯しやすい過ちなどについて解説いただきました.われわれ眼科医は,日常診療のなかで当たり前のように点眼治療を行っており,他の治療法は?と疑問を抱くことはほとんどないと思います.点眼治療を行ううえで,なぜ点眼治療なのか,薬剤としての点眼薬の特徴について知識の整理をし,眼科医療における点眼薬の位置づけも含めて,眼科医療の現状について改めて考えていただきたいと思います.1.各種専門領域における点眼治療戦略専門領域としては,緑内障,ドライアイ,アレルギー性結膜炎,感染性角膜炎,周術期を取りあげました.上述したように点眼市場は2,000億円を超える規模となりましたが,約半数は緑内障点眼薬が占めています.新たな緑内障点眼薬が続々と登場して治療の選択肢が増えたことにより,眼科医と患者さんの双方にさまざまな恩恵がもたらされましたが,その反面,薬剤選択に苦慮する場面にも直面するようになりました.緑内障に対する治療戦略における点眼薬の役割と限界について,最新の治療戦略を学んでいただきたいと思います.ドライアイ領域においては,従来の涙液減少から,涙液膜の安定性の評価による診断であるTFOD(tear.lmorienteddiagnosis)という概念がわが国を中心に広がりつつあります.それに伴い,ドライアイ治療もTFOT(tear.lmorientedtherapy)が提唱されるようになってきました.その治療の中心になるのが,近年処方が可能となったジクアホソルナトリウム点眼とレバミピド点眼です.まさに,日本が世界をリードする分野での最新の治療戦略に触れていただきたいと思います.これまで治療に難渋していた重症のアレルギー性結膜疾患は,免疫抑制剤点眼薬の登場により治療戦略が画期的に進歩しました.一方で,増殖性変化を伴わない季節性や通年性アレルギー性結膜炎に対し*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学**HiroshiTakahashi:日本医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)1213

2週間で急激な視力低下をきたし両眼光覚に至った癌関連網膜症

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1201.1204,2017c2週間で急激な視力低下をきたし両眼光覚に至った癌関連網膜症村上敬憲*1難波広幸*1冨田善彦*2土谷順彦*3大黒浩*4山下英俊*1*1山形大学医学部眼科学講座*2新潟大学泌尿器科学講座*3山形大学泌尿器科学講座*4札幌医科大学眼科学講座CCancer-associatedRetinopathywithRapidOnsetofSevereVisualLossin2WeeksTakanoriMurakami1),HiroyukiNamba1),YoshihikoTomita2),NorihikoTsuchiya3),HiroshiOhguro4)CHidetoshiYamashita1)and1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofUrology,NiigataUniversityFacultyofMedicine,3)DepartmentofUrology,YamagataUniversityFacultyofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine癌関連網膜症(cancer-associatedretinopathy:CAR)は自身の網膜への自己抗体により種々の症状・所見を呈する.今回C2週間で急速に視力が低下し光覚に至ったCCARの症例を経験したので報告する.症例はC82歳,男性で両視力低下のため近医を受診.近医初診時の矯正視力は右眼C0.1,左眼C0.5であったが約C2週間で両光覚まで増悪したため,山形大学附属病院を紹介受診した.網膜電図(electroretinogram:ERG)で平坦な波形を認め,血清中の抗リカバリン抗体が陽性であったことからCCARと診断した.血液検査にて前立腺特異抗原(prostatespeci.cantigen:PSA)の上昇を認め,MRI上でも前立腺がんが疑われたが,患者に生検検査の希望なく,現在は近医泌尿器科にて経過観察となっている.短期間で所見に乏しく急速な視力低下をきたす場合はCCARの可能性を考慮し,全身検査を行う必要がある.InCcancer-associatedCretinopathy(CAR)C,CseveralCretinalClesionsCareCcausedCbyCantiretinalCautoantibodies.CThisCreportdescribesacaseofCARwithseverevisuallossoccurringrapidlywithin2weeks.An82-year-oldmalevis-itedanophthalmologicalclinicduetovisualloss.Hisdecimalbest-correctedvisualacuityat.rstvisitwas0.1righteyeCandC0.5CleftCeye.CHeCwasCreferredCtoCourChospitalCbecauseChisCvisualCacuityCdecreasedCtoClightCperceptionCinC2weeks.Sinceanelectroretinogram(ERG)revealedsigni.cantlydecreasedretinalfunctionandanti-recoverinanti-bodywasdetectedintheserum,thediseasewasdiagnosedasCAR.Elevatedprostate-speci.cantigenlevelsledtoCaCsuspicionCofCprostateCcancer.CHowever,CtheCpatientCrefusedCbiopsyCandCfollow-upCexamination.CSevereCvisualClossCcanCoccurCrapidlyCinCCAR.CHence,CitCisCnecessaryCtoCconsiderCCARCinCcasesCwithCrapidCdeteriorationCinCvisionCoverafewweeks.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1201.1204,C2017〕Keywords:癌関連網膜症,網膜電図,抗リカバリン抗体.cancer-associatedretinopathy,electroretinogram,an.ti-ricoverinantibody.Cはじめに癌関連網膜症(cancer-associatedCretinopathy:CAR)は自身の網膜を標的とする抗リカバリン抗体などの自己抗体により種々の症状・所見を呈する.自覚症状としては視力低下や視野障害,暗順応の低下など,検眼鏡的には網膜血管の狭細化や視神経萎縮,網脈絡膜萎縮などを認めることが多い1).しかし,特異的所見が少なく網膜色素変性症とも類似した眼底所見を呈するため,鑑別に苦慮することも多い.短期間で急激な視力低下をきたす場合もあり,3日間で急速に手動弁にまで低下した症例報告があるが,その一方で視力低下がほとんどないままC11年経過した症例も報告されている2,3).今回,2週間の経過で急速に両眼の視力が低下し,光覚に至ったCCARの症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕村上敬憲:〒990-9585山形市飯田西C2-2-2山形大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakanoriMurakami,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine,YamagataCity,Yamagata990-9585,JAPANI症例患者:82歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2012年C11月下旬より両眼の視力低下を自覚し近医眼科を受診.矯正視力は右眼C0.1,左眼C0.5であったが前眼部や眼内に明らかな異常所見は認めなかった.12月上旬再診時に両眼光覚まで増悪し,山形大学附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼が光覚(+)(矯正不能),左眼は光覚(C.)(矯正不能)で眼圧は右眼C17mmHg,左眼C15mmHgであった.前眼部には両眼にCEmery-Little分類でGradeIIIの核白内障を認めたが炎症所見は認めず,眼底にも明らかな異常所見を認めなかった(図1).対光反応は両眼とも遅鈍であり,相対的入力瞳孔反射異常は陰性.中心フリッ図1初診時眼底写真両眼底に明らかな異常所見を認めない.図2初診時フルオレセイン蛍光眼底造影写真右は腕網膜循環時間の遅延を認める.左は視神経乳頭の過蛍光を認める.図3初診時OCT両眼ともCellipsoidzoneが不明瞭となっている.カー値は両眼ともにC0CHz,動的量的視野検査でも両眼とも反応は検出されなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinCangiography:FA)では右眼では腕網膜循環時間の遅延を認め,左眼では視神経乳頭で過蛍光を認めた(図2).頭部磁気共鳴画像(magneticCresonanceCimaging:MRI)では明らかな異常所見を認めなかった.光干渉断層計(opti-calCcoherenceCtomograpy:OCT)では両眼ともにCellipsoidzoneが消失していた(図3).網膜電図(electroretinogram:ERG)では暗順応CERG(桿体応答,フラッシュCERG),明順応CERG(錐体応答,フリッカーCERG)ともに平坦な波形を認めた.経過:鑑別診断として網膜色素変性症,CAR,ビタミンA欠乏症などが考えられたが,入院直後にノロウイルス感染による胃腸炎を認めたため,ステロイドパルスを施行せずビタミン製剤の内服のみで経過観察となった.血液検査で抗リカバリン抗体が陽性であったためCCARと診断し全身検索を行ったところ,血液生化学検査で前立腺特異抗原(pros-tateCspeci.cCantigen:PSA)がC33.817Cng/ml(基準値≦4.0ng/ml)と上昇を認めた.骨盤部単純CMRIでも前立腺左葉の浸潤発育を認めたため前立腺癌が疑われた.当院泌尿器科へ紹介し,確定診断のための前立腺生検を提案したが,本人が拒否したため臨床的前立腺癌として経過観察されていた.PSAは徐々に上昇がみられていたが後に近医泌尿器科へ紹介となった.眼科も通院を拒否し無治療で経過観察終了となった.CII考按本症例ではC2週間で両眼の急激な視力低下,視野狭窄をきたし,ERGの波形平坦化やCOCTでのCellipsoidCzoneの不明瞭化もみられている.FAでは腕網膜循環時間の遅延や視神経乳頭の過蛍光を認めているものの,検眼的に前眼部や眼底に明らかな異常所見は認めなかった.急激な視力低下や視野狭窄をきたす疾患として網膜動脈閉塞症や硝子体出血が考えられるが,眼底やCFA所見からは否定的であった.ERGの波形平坦化がみられる疾患としては網膜色素変性症が鑑別にあがったが,色素沈着も認めておらず視野狭窄の進行も緩徐であり,今回の経過からは否定的,またCellipsoidzoneが不明瞭化する疾患としては急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonalCoccultCouterCretinopathy:AZOOR)が考えられたが,視野の部分欠損を示す疾患であり,本症例の動的量的視野検査でまったく反応が検出されないものとは異なる.このような経過から鑑別疾患としてCARの可能性を考え,血中抗体検査を施行したところ抗リカバリン抗体陽性であったことからCCARの診断となった.また,同時期に腫瘍性病変の検索として造影CMRIを施行したところ,前立腺癌の可能性が考えられた.CARはC1976年にCSawyerらが初めてC3例の報告をしており1),網膜視細胞の特異的抗原が異所性に癌細胞に発生し,自己免疫機序によって網膜障害が生じる疾患である2).抗原としてはリカバリン,heat-shock-proteinC70などが報告されている3).また,血液中に抗リカバリン抗体が陰性であっても,肺小細胞癌の腫瘍細胞上にリカバリンの異所性発現を示した報告がある4).原因となる癌としては肺,消化器系,婦人科系の癌が多く,Yamaguchiらの報告ではCCAR57例のうちで肺癌はC43例,そのうち肺小細胞癌はC37例という結果が報告されている5).また,肺小細胞がんや広範囲で遠隔転移が存在している症例で急速な視力低下が生じるという報告がある6,7).本症例では臨床的に前立腺癌が疑われたが,生検未施行であるため詳細は不明となっている.CARの臨床的所見としては進行性の視力低下,視野狭窄,網膜中心動脈の狭細化,夜盲,網膜電図の平坦化などがある2).過去の報告として眼底に明らかな異常は認めないもののCOCTで網膜外層の菲薄化を認めたこと,ERGで振幅の低下を認めたことからCCARを疑い診断に至ったという報告があり8),本症例もほぼ同様の臨床像がみられている.CARは眼症状から癌の発見につながりうるため,早期発見により眼のみならず生存率延長にも寄与する可能性がある.本症例のように短期間で急速な視力低下を認めているにもかかわらず検眼的に異常を認めない場合,CARの可能性を検討し,必要に応じて全身検査を施行する必要があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawyerRA,SelhorstJB,ZimmermanLEetal:BlindnesscausedCbyCphotoreceptorCdegenerationCasCaCremoteCe.ectCofcancer.AmJOphthalmolC81:606-613,C19762)大黒浩,山崎仁志:癌関連網膜症の分子病態と新しい治療法.医学のあゆみ201:193-195,C20023)OhguroCH,CYumikoCY,CIkuyoCOCetCal:ClinicalCandCimmu-nologicalCaspectsCofCcancer.associatedCretinopathy.CAmJOphthalmolC137:1117-1119,C20044)新屋智之,笠原寿郎,藤村正樹ほか:悪性腫瘍随伴網膜症(Cancer-associatedCretinopathy:CAR)を合併した肺小細胞癌の一例.肺癌C46:741-746,C20065)AkiraCY,CTamiCF,COsamuCHCetCal:ACsmallCcellClungCcan-cerCwithCcancer-associatedCretinopathy:detectionCofCtheCprimarysiteinthelung15monthsafterresectionofmet-astaticCmediastinalClymphadenopathy.CJpnCJCLungCCancerC44:43-48,C20046)KornguthCSE,CKleinCR,CAppenCRCetCal:OccurrenceCofCanti-retinalCganglionCcellCantibodiesCinCpatientsCwithCsmallCcellCcarcinomaofthelung.CancerC50:1289-1293,C19827)GuyCJ,CAptsiauriCN:TreatmentCofCparaneoplasticCvisualClossCwithCintravenousCimmunoglobulin.CReportCofC3Ccases.CArchOphthalmolC117:471-477,C19998)上野真治:腫瘍関連網膜症.あたらしい眼科C33:971-979,C2016***

当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1196.1200,2017c当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績本田紘嗣*1野本洋平*1戸塚清人*2高田幸子*1曽我拓嗣*1杉本宏一郎*1中川卓*1*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科Short-termResultsofCombinedPhacoemulsi.cation,IntraocularLensandTrabeculotomywithSinusotomyatAsahiGeneralHospitalKojihonda1),YouheiNomoto1),KiyohitoTotsuka2),SachikoTakada1),HirotsuguSoga1),KouichirouSugimoto1)andSuguruNakagawa1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:当院で術後1年間フォロー可能であったサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術について検討を行った.対象および方法:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を施行した症例のうち,術後1年間フォロー可能であった症例39症例50眼を対象とした.病型,術前後眼圧,術前後点眼スコア,合併症および生存率について検討を行った.結果:眼圧に関しては,術前平均18.0±4.9mmHgから術後1年で13.0±3.3mmHgと下降していた.また,点眼スコアに関しても,術前4.3±1.8から術後1年で2.1±1.6と下降していた.合併症に関しては重篤なものはなかった.生存率に関して,原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に有意差は認めなかった.結論:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術は重篤な合併症なく,術後眼圧および点眼スコアにおいて下降が得られた.Purpose:Toevaluatethesurgicaloutcomeoftrabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomy(LOT+PEA+IOL+SIN).Methods:Weconductedaretrospectivestudy,1yearpostoperatively,ofpatientswhohadundergoneLOT+PEA+IOL+SIN.Analysisincludedtypeofglaucoma,preop-erativeandpostoperativeintraocularpressure(IOP),preoperativeandpostoperativeeyedropscore,postoperativecomplicationsandsurvivalrate.Results:IOPdecreasedfrom18.0±4.9mmHgpreoperativeaverageto13.0±3.3mmHgpostoperativeaverage.Eyedropscoredecreasedfrom4.3±1.8preoperativeaverageto2.1±1.6postop-erativeaverage.Therewasnoseriouspostoperativecomplication,norwasthereanysigni.cantdi.erencebetweenprimaryopen-angleglaucomaandexfoliationglaucomaasregardssurvivalrate.Conclusions:IOPandeyedropscoredecreasedafterLOT+PEA+IOL+SINwithoutseriouscomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1196.1200,2017〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,同時手術,超音波乳化吸引術,glaucoma,trabeculotomy,sinusotomy,combinedsurgery,phacoemulsi.cation.はじめに緑内障手術はさまざまな術式があるが,その中で線維柱帯切開術は緑内障手術のなかで流出路再建術として濾過胞を作らないため,術中および術後に重篤な合併症が少ない手術である.また,近年になってサイヌソトミーを併用することで術後の一過性眼圧上昇を予防するとともに,さらなる眼圧低下が報告されている1,2).既報では術前平均眼圧が19.8.26.1mmHgでの報告がなされている.今回当院での手術では緑内障や薬物治療を行ったうえで,平均術前眼圧18.0mmHgの緑内障症例で検討を行った.また,原発開放隅角緑内障お〔別刷請求先〕本田紘嗣:〒289-2511千葉県旭市イ1326総合病院国保旭中央病院眼科ReprintAdress:KojiHonda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,1326I,Asahicity,Chiba289-2511,JAPAN1196(122)よび落屑緑内障を中心に緑内障病型による術後眼圧の成績について検討を行った.I方法2013年7月23日.2015年10月28日に,当院でサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を行い,術後1年フォロー可能であった39症例50眼について,病型,術前および術後眼圧,術前および術後点眼スコア,合併症,生存率について検討を行った(表1).平均年齢は72.0±8.8歳,術眼は右眼27眼,左眼23眼であった.対象眼は緑内障として診断されたもので,術前に緑内障の薬物治療を行った症例とした.除外基準は,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,レーザー線維柱帯形成術,毛様体光凝固術などの眼圧降下目的の手術を施行されていた症例とした.病型としては,原発開放隅角緑内障がもっとも多く28眼,ついで落屑緑内障が15眼,ステロイド緑内障が3眼,正常眼圧緑内障が1眼,その他が3眼であった.視野としては,湖崎分類IV期までの緑内障を対象とした.1.術.後.評.価眼圧はGoldmann圧平眼圧測定を行い,細隙灯顕微鏡検査および眼底検査により合併症の評価を行った.2.手.術.方.法当院のサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術式は,耳側角膜切開による超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行する.その後,下耳側を基本に二重強膜弁を作製し,Schlemm管を剖出して深層強膜弁は切除する.プローブをSchlemm管に挿入してOcularPosnerGonioprismでSchlemm管への留置を確認した後,プローブを回旋させて線維柱帯切開を行う.強膜弁を10-0ナイロン角針で縫合して,サイヌソトミーを輪部に2カ所作製,結膜を10-0ナイロン丸針で縫合する.前房洗浄を行い,眼圧調整を行い終刀とする.3.術.後.管.理術後点眼はベタメタゾン,レボフロキサシン,ピロカルピ表1対象症例内訳対象眼数39症例50眼性別男性30眼女性20眼手術時平均年齢72.0±8.8歳術眼右眼27眼左眼23眼緑内障病型原発開放隅角緑内障(POAG)28眼(56%)落屑緑内障(PEgla)15眼(30%)ステロイド緑内障(Steroidgla)3眼(6%)正常眼圧緑内障(NTG)1眼(2%)その他(高眼圧症1眼,慢性閉塞隅角緑内障2眼)3眼(6%)ン,ジクロフェナクナトリウムを基本処方とした.術後の目標眼圧は術前眼圧または20mmHg以下とし,眼圧上昇を認めた場合は内服または点眼による薬物療法を行った.術直後の30mmHg以上の眼圧上昇に対しては,サイドポートからの前房穿刺を行った.4.データ解析手術成績判定は,Kaplan-Meier生命表法を用いて,眼圧18mmHg以下および15mmHg以下の生存率を検討した.一過性眼圧上昇も考慮し,術後は1カ月後より生存率の検討を行った.各眼圧が2回連続で規定眼圧を超えた最初の時期をエンドポイントとした.なお,点眼スコアについては,合剤およびアセタゾラミド内服については2として換算した.II結果術前平均眼圧は18.0±4.9mmHgで,術後1年での平均眼圧は13.0±3.3mmHgと下降を認めた.病型別では,原発開放隅角緑内障では術前平均眼圧17.5±4.6mmHgから術後1年での平均眼圧は13.1±3.9mmHgに,落屑緑内障では術前平均眼圧18.0±4.5mmHgから術後1年での平均眼圧は13.3±2.4mmHgに,ステロイド緑内障では術前平均眼圧20.7±9.8mmHgから術後1年での平均眼圧は13.7±2.5mmHgに,正常眼圧緑内障では術前眼圧11.0mmHgから術後1年での眼圧は8.0mmHgに,その他では術前平均眼圧21.1±4.5mmHgから術後1年での眼圧は12.2±2.7mmHgに下降を認めた.眼圧推移としては術翌日および1週間後に眼圧は上昇傾向にあり,2週間で眼圧は安定していた(図1).病型別ではどの病型においても全体と比較してほぼ同様の推移を記録した(図2~5).原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に眼圧の低下を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05).点眼スコアに関しては,術前4.3±1.8から1年後は2.1±1.6と改善を認めた(図6).点眼スコア推移に関しては,2日目より点眼スコアの上昇を認め,その後は安定していた.病型別でみても,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に点眼スコアの改善を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05)(図7).ステロイド緑内障に関しては,一過性眼圧上昇に対し使用していた点眼を中止しても眼圧が維持されたため,点眼スコアが低下していったものと考えられる.生存率に関して,18mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には43眼が生存となった.15mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には28眼が生存となった(図8,10).病型別では原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に差は認めなかった(図9,11).眼圧の上限設定や観察期間が既報によって違うところがあるので,一概に比30眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)252015105観察期間(月)観察期間(月)図1術後眼圧推移:全群(n=50)図2病型別の術後眼圧推移:原発開放隅角緑内障(n=28)35353030眼圧(mmHg)25201510252015105500観察期間(月)観察期間(月)図3病型別の術後眼圧推移:落屑緑内障(n=15)図4病型別の術後眼圧推移:ステロイド緑内障(n=3)35730術前123612術前1236126点眼スコア(点)25520415310250観察期間(月)図5病型別の術後眼圧推移:正常眼圧緑内障(n=1)較はできないが,20mmHg以下でおおむね1年の生存率は90%弱とほぼ同等の生存率であった5,7,10).合併症に関しては,1週間以上続くような前房出血が4眼,Niveauを形成するような前房出血が23眼,フィブリンの析出が6眼,Descemet膜.離が2眼,1週間以内の21mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は26眼であった.Descemet膜.離に関して,1眼は前房内に空気を入れたが,もう1眼は経過観察となっていた.いずれも視機能に影響するような10観察期間(月)図6点眼スコア:全群(n=50)*:Wilcoxonsignedranktestp<0.05.重篤な後遺症は残っていなかった.病型別では,原発開放隅角緑内障に術後のフィブリンやDescemet膜.離が生じる場合が多く,前房出血や一過性眼圧上昇は落屑緑内障に多い傾向となった(表2).III考按本研究では,進行性緑内障であることに加えて,将来的な薬物治療の継続やさらなる薬物治療の強化,それに伴う副作術前1236120.90.8POAGPEglaSteroidgla***************生存率点眼スコア(点)0.70.60.50.40.3観察期間(月)観察期間(月)図7点眼スコア比較:病型別(n=50)図8生存率:全群18mmHg(n=50)*:Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05.10.910.90.80.70.8(n=28)(n=15)生存率生存率0.20.10.70.60.60.50.50.40.40.30.30.20.20.10.100024681012024681012観察期間(月)観察期間(月)図9生存率:病型別18mmHg図10生存率:全群15mmHg(n=50)10.90.80.70.60.50.40.30.20.1生存率0024681012観察期間(月)図11生存率:病型別15mmHg表2術中術後合併症(n=50)全群(n=50)POAG群(n=28)PEgla群(n=15)Steroidgla群(n=3)Descemet膜.離2(4%)2(7.1%)0(0%)0(0%)1週間以上続く前房出血4(8%)2(7.1%)2(13.3%)0(0%)Niveauを形成した前房出血23(46%)10(35.7%)10(66.7%)1(33.3%)Fibrin析出6(12%)5(17.9%)0(0%)0(0%)一過性眼圧上昇(>21mmHg,1週間以内)26(52%)14(50%)9(32.1%)1(33.3%)一過性眼圧上昇(>30mmHg,1週間以内)4(8%)1(3.6%)2(13.3%)1(33.3%)用を念頭に手術適応を判断した.また,薬物治療で正常眼圧が達成されていても,年齢,視野障害の程度,他眼の状態,全身状態,生活環境などを加味して手術適応を判断した.当院でのサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術前平均眼圧は18.0±4.9mmHg,術後1年での眼圧は13.0±3.3mmHgの結果となった.既報では術前眼圧が19.8.26.1mmHg,術後1年での眼圧が12.3.18.1mmHgと報告1.9)されており,今回の研究では術後眼圧は既報と同等であった.今回の研究では既報に比べると術前眼圧は低値であり,眼圧下降率としては27.8%と既報の29.7%.48.0%とほぼ同等であった.点眼スコアについて,既報では術前1.9±1.4から6年後1.0±1.0と半分に改善を認めたとの報告があり,本研究でも半分に改善しており,ほぼ同様の結果が得られた5).今回の研究でも緑内障合剤であれば1種類でのコントロールも可能であり,患者のアドヒアランスの向上にも寄与できると考えられた.術中・術後合併症では,全体として1週間以内の21mmHgを超える眼圧上昇は26眼(52%),30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は4眼(8%),前房穿刺の処置を行ったのは1眼であった.既報では30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は20%と報告があり6),本研究は良好な結果であった.また,前房出血が原因の眼圧上昇に対して観血的手術を要した症例は,本研究では認めなかった.また,Niveauを形成するような前房出血は全体の23眼(46%)が認められ,1週間以上の前房出血が持続したのは4眼(8%)であった.7日以上続くような前房出血は8%,フィブリン析出は8%との報告がなされており,既報と同程度であった6).病型別では,原発開放隅角緑内障にDescemet膜.離が2眼(7.1%)に生じ,他の病型には認められなかった.既報ではDescemet膜.離の症例は0%となっており,本症例では合併症として多い結果となった6).今回,眼軸長を含めた解析は行っていないが,近視などによる前房深度などの多様性があったのかもしれない.落屑緑内障に10眼(66.7%)の前房出血が認められ,1週間以上の前房出血は2眼(13.3%)であり,他の病型より多い結果となった.術後の一過性眼圧上昇は9眼(32.1%)で認め,原発開放隅角緑内障に比べると術後早期の眼圧上昇は比較的少ない結果であった.線維柱帯切開術は房水流失の主経路の大きな抵抗となる傍Schlemm管結合組織からSchlemm管内壁を直接開放する術式であり,落屑緑内障は比較的集合管以降の房水動態が保たれており,集合管からの逆流が多いことが考えられる.これらの結果より,緑内障を有する初期から中期の患者で白内障を手術する際は,点眼スコアの改善も考慮し,線維柱帯切開術を併用することが望ましいと考える.一方,7日以内に30mmHg以上の一過性眼圧上昇を認めたものは16.1.34.8%との報告がある3,6,7,11).サイヌソトミー併用により一過性眼圧上昇が少なくなったとはいえ,術後合併症としてかなりの症例数が存在するため,末期緑内障に対してはやはり線維柱帯切除術などを考慮したほうがよいと思われる.ただ,認知機能低下や易感染性などのリスクを有する患者においては,線維柱帯切開術も念頭においてもよいと考えられる.今後,長期的な成績をまとめ,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の有効性を検討していく必要があると考えられる.文献1)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19962)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicale.ectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmicScand78:191-195,20003)TaniharaH,HonjyoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimary-openangleglaucomaandcoexistingcataract.OphthalmicSurgLasers28:810-817,19974)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科19:761-765,20025)福本敦子,松村美代,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,20136)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.JJpnGlaucomaSoc12:30-34,20027)野田理恵,山本佳乃,越山健ほか:落屑緑内障に対する線維柱帯切開術と白内障同時手術の成績.眼科手術26:623-627,20138)小野岳志:開放隅角緑内障に対する白内障同時手術(流出路再建術)トラベクロトミー(トラベクトーム,suture-lot-omyabinterno/externo含む).眼科手術29:182-188,20169)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,199610)落合春幸,落合優子,山田耕輔ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとPEA+IOL同時手術の長期成績.臨眼61:209-213,200711)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科32:583-586,201512)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,200813)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,2011

無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績

2017年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(8):1191.1195,2017c無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績宮平大輝與那原理子新垣淑邦酒井寛琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座COutcomesofSurgicalRevisionforAvascularFilteringBlebHirokiMiyahira,MichikoYonahara,YoshikuniArakakiandHiroshiSakaiCOphthalmology,UniversityoftheRyukyus目的:無血管濾過胞に対する濾過胞再建術の成績を報告する.対象:琉球大学医学部附属病院において,2011年10月.C2015年C9月に線維柱帯切除術後の無血管濾過胞に対し濾過胞再建術を施行した連続症例C8例C8眼.7眼で濾過胞漏出を,2眼で濾過胞感染を合併していた.方法:手術はC1眼で無血管濾過胞下にCTenon.被覆を,1眼は濾過胞除去+結膜縫合を,6眼は濾過胞除去+結膜円蓋部減張切開+自家結膜有茎弁移植を行った.結果:術後経過観察期間は12.48カ月(平均C24.8カ月).術前眼圧はC4.16mmHg(7.6C±4.3mmHg),緑内障点眼数はC1.9C±1.2であった.Tenon.被覆を行ったC1眼と,濾過胞除去と減張切開併用結膜被覆を行ったC6眼で術後有血管性濾過胞が形成された.濾過胞除去と結膜被覆のみを行ったC1眼では濾過胞は消失した.濾過胞漏出再発はなく,最終観察時眼圧はC8.18mmHg(13.5C±2.8CmmHg),点眼数C2.1C±1.1であった.結論:無血管濾過胞に対する濾過胞再建術により濾過胞漏出は解消され,眼圧もコントロールされた.結膜円蓋部減張切開を併用した結膜被覆術は,濾過胞を維持する有効で安全な方法である.CPurpose:Toreportthesurgicalresultsofblebrevisionforleakingavascularblebaftertrabeculectomy.Sub-jects:EightCconsecutiveCeyesCofC8CpatientsCwhoChadCundergoneCtrabeculectomyCdevelopedCleakingCavascularCblebCorblebitis.Methods:Sixeyesunderwentblebremoval+autologousconjunctivatransplantationwithrelaxinginci-sion.CTennon’sCcapsuleCtransplantationCorCsimpleCconjunctivaCsuturingCwereCperformedCinCtheCotherC2Ceyes.CResults:PreoperativeCintraocularCpressure(IOP)wasC7.6C±4.3CmmHg,CtreatedCwithC1.9±1.2Canti-glaucomaCeye-drops.Inanaverageof24.8months’(range12-48)follow-upperiod,IOPwascontrolledwithin8-18CmmHg(13.5C±2.8)withC2.1±1.1Canti-glaucomaCeyedrops.CVascularCblebCwasCobservedCinC7Ceyes,Cexcepting1CeyeCthatCreceivedCsimplesuturing.Conclusions:Surgicalblebrevisionforavascularblebise.ectiveandsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1191.1195,C2017〕Keywords:線維柱帯切除術,無血管濾過胞,濾過胞漏出,濾過胞炎,結膜移植.trabeculectomy,avascularbleb,leakingbleb,blebitis,autologousconjunctivatransplantation.Cはじめに緑内障は世界において失明原因の第C2位1),日本において視力障害の原因の第C1位2)とされている.治療法として眼圧下降療法の有用性が示されており,開放隅角緑内障に対しては薬物治療が第一選択とされるが,眼圧コントロールが不十分な症例には手術が行われる.手術による眼圧下降療法としてはレーザー線維柱帯形成術,流出路再建術,線維柱帯切除術や深層強膜切除術などの濾過手術,緑内障インプラント手術などがある.なかでも,マイトマイシンCC(MMC)併用線維柱帯切除術(trabeclectomy:TLE)は,確実な眼圧下降によりわが国において標準術式として広く行われている3).一方,TLEにはさまざまな合併症が存在することが知られている.浅前房・前房消失,濾過胞漏出,脈絡膜.離,巨大濾過胞,悪性緑内障,上脈絡膜出血,線維柱帯切除部の閉鎖,encapsulatedCbleb,角膜乱視,中心視野消失,過剰濾過,濾過胞漏出,低眼圧黄斑症,濾過胞感染,白内障,over-hangingbleb,眼瞼下垂,角膜乱視の増加などのさまざまな合併症のなかでも,濾過胞感染および術後眼内炎は失明の可〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学医学部眼科医局Reprintrequests:HiroshiSakai,Ophthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN表1濾過胞漏出に対する保存的加療の報告治療方法Cn成功寧(%)合併症ソフトコンタクトレンズ7)C15C80ドライアイ(6.7%)CSimmons’shell8)C5C80C.フィブリン糊9)C12C75記載なしシアノアクリレート9)C8C37.5記載なし自己血清点眼10)C42C42.1C.自己血濾過胞内注入11)C12C58.3前房出血(58.3%)全眼球炎(8.3%)ヒアルロン酸CNa濾過胞内注入12)C2C100C.トリクロロ酢酸による焼灼13)C3C100C.Nd:YAGレーザー14)C14C57.1医原性漏出(42.9%)虹彩収縮(42.9%)高眼圧(7.1%)Argonレーザー15)C15C86.7医原性穿孔(20%)角膜実質混濁(6.7%)表2濾過胞漏出に対する手術療法の報告(海外,国内)術式Cn術後眼圧(mmHg)緑内障手術追加漏出再発濾過胞感染発症49C13.8±4.8C2C..上方結膜前方移動16.18)C34C14.08±7.36C1C1C1C海外濾過胞切除+遊離結膜弁19)C羊膜移植18)C強膜移植20)C15C58C15C15C12.7±1.3C12.67±4.83C10.9±0.9C14.1±3.3C3C2C3C.1C3C4C..1.1濾過胞焼灼+遊離結膜弁21)C47C11.9±4.1C.2C.国内濾過胞切除+上方結膜前方移動22)C遊離結膜弁23)C337.1C5C6.1C6C……Tenon.遊離移植24)C54.1C4C.1C.濾過胞切除または温存+羊膜移植25)C211.1C5C…濾過胞拡大+compressionsuture26)C21.9C…能性のある重篤な合併症と考えられている.最近,日本においてCTLE術後の濾過胞感染症の発症頻度を研究する前向きの多施設前向き研究CCollaborativeCBleb-relatedCInfectionIncidenceCandCTreatmentCStudy(CBIITS)が行われ,TLE術後の濾過胞感染症の発症率はC5年間で累積C2.0C±0.5%と報告された4).TLE術後の濾過胞感染症の実態を調査する多施設調査研究CJapanGlaucomaSocietySurveyofBleb-relatedInfection(JGSSBI)では,開放隅角緑内障眼の術後濾過胞感染における失明率は全濾過胞関連感染においてC16%,眼内炎を発症した場合にはC44%と報告されている5).筆者らは当院において硝子体手術を必要とした重症濾過胞感染症例の視力予後の検討を行い,失明率がC70%(10眼中C7眼)と高率であることを報告した6).TLE術後の濾過胞感染の危険因子として濾過胞漏出の既往が示されており,CBIITSによれば術後C5年間での発症率は濾過胞漏出の既往がある場合C7.9C±3.1%であり,既往のない場合C1.7C±0.4%の約C5倍である4).濾過胞漏出に対する治療としてさまざまな方法が報告され1192あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017ている.手術以外の保存的方法には,濾過胞内に物質を注入する方法と濾過胞を被覆する方法がある.(表1)7.15)有効率の低さ,治療後の重篤な合併症の可能性も報告されており,菲薄化した濾過胞が残存するという根本的な問題点も存在する.手術加療には大きく分けて二つの方法がある.一つは濾過胞を拡大させ,濾過胞にかかる内圧を減少させることにより漏出を止める方法,もう一つは濾過胞を自家組織(結膜,Tenon.)や生体材料(羊膜,ドナー強膜)を用いて被覆する方法である.表2に国外,国内から報告されている手術方法およびその術後眼圧,緑内障手術追加,漏出再発,濾過胞感染発症などの術後成績を示す16.26).わが国においては過剰濾過に対する濾過胞再建術の術後成績の報告は比較的少ない.今回,筆者らは当院で行った濾過胞再建術の経過についてその術式を含めて報告する.CI対象および方法対象:2011年C10月.2015年C9月に,濾過手術後に無血(118)術前術後術前術後図1濾過胞再建術前(a,c,e,g,i,k,m,o,q)および術後(b,d,f,h,j,l,n,p,r)濾過胞の細隙灯顕微鏡写真および前眼部OCT写真(o,p)Ca,b:症例1,Cc,d:症例2,Ce,f:症例3,Cg,h:症例4,Ci,j:症例5,Ck,l:症例6,Cm,n,o,p,:症例7,Cq,r:症例8.C管濾過胞を呈し濾過胞再建術を行った全症例C9例C9眼.このうち,無血管濾過胞に広範な強膜壊死と眼内炎を生じ,緊急で姑息的に結膜被覆術を行ったC1症例(図1a,b)を除外したC8例C8眼を解析対象とした.1例のみ通院自己中断があり,その他C7例はC2016年C9.11月が最終診察で,現在術後C1.5年の経過観察中である.観察期間はC12.48カ月,平均C24.8カ月であった.濾過手術の術式はすべて線維柱帯切除術であり,1例を除いてCMMCを併用していた.術前背景,術後眼圧,術後点眼,術後濾過胞の経過について検討した.術式:濾過胞再建術はCTenon.または結膜+Tenon.の自家移植または縫合で行った.1例では濾過胞は切除せずにTenon.を輪部側へ進展させ無血管濾過胞の下の強膜に10-0ナイロン糸で縫着した(症例C1,図1c,d).7例では無血管濾過胞を切除した.このうち,1例では,強膜弁縫合と10-0ナイロン糸により周辺結膜を寄せて縫合する結膜縫合のみを行った(症例2,図1e,f).6例(症例3.8,図1i.t)で円蓋部で結膜のみを減張切開し,Tenon.を伸展させ結膜を角膜輪部へC7-0バイクリル糸で縫合する有茎弁移植を施行した.後方の結膜を寄せて角膜輪部をC10-0ナイロン糸にて縫合した.輪部へと寄せるための円蓋部結膜の減張切開は1.3列,すだれ状に行いCTenon.を伸展させ,結膜を角膜輪部へC7-0バイクリル糸で縫合する有茎弁移植(図2)を施行した.円蓋部結膜減張切開部は縫合や被覆は行わず,abc図2濾過胞切除術+減張切開併用結膜有茎弁移植術a:濾過胞切除+円蓋部結膜減張切開(灰色線).b:結膜減張切開のさらに円蓋部側に結膜切開をすだれ状に追加.Cc:結膜弁を前方移動させ輪部にC7-0バイクリル糸で縫合,円蓋部CTenon.は露出(斜線).Tenon.が露出した状態で手術を終了した.このC6例のうちC1例では強膜弁縫合を追加し,1例では同時手術として白内障手術を行った.CII結果全C8症例の術前,術後の細隙灯顕微鏡写真および症例C7の術前および術後の前眼部COCT所見を図1に示す.Tenon.移植した症例C1と,結膜有茎弁移植を行った症例C3.8において術後も丈のある濾過胞が維持された.濾過胞再建術前,術後の視力,眼圧,薬剤数(1薬C1点,アセタゾラミド内服2点),術後濾過胞の有無,術後の濾過胞漏出の有無を表3に示す.術後に矯正視力が術前からC2段階以上の視力低下を表3術前,術後患者背景と所見MMC発症までの術前濾過胞性状濾過胞術後術前術後術前眼圧術後最終術前術後術後術後症例年齢性別緑内障病型C観察眼圧濾過胞濾過胞(0.04%)期間(年)丈血管漏出C感染期間視力視力(mmHg)(mmHg)点眼数点眼数の有無漏出1C70CM血管新生緑内障5分C10.3ありなしありなしC14C0.04C0.01C4C13C1C3ありなしC2C75CMCPOAG5分C4.0ありなしなしありC48C0.01手動弁C4C15C2C3なしなしC3C68CMCPOAG3分30秒C4.0ありなしありありC37C0.7C0.9C4C12C4C3ありなしC4C56CMぶどう膜炎続発4分20秒C8.4ありなしありなしC31C0.9C1.2C6C14C2C1ありなしC5C56CM血管新生緑内障不明約8ありなしありなしC22C0.03C0.06C16C16C3C3ありなしC6C72CM落屑緑内障5分C0.8ありなしありなしC19C0.5C0.7C6C8C0C2ありなしC7C59CFCPACG4分C7.3ありなしありなしC15C0.04C0.03C10C14C2C0ありなしC8C57CM色素緑内障なしC26.4ありなしありなしC12C1.0C1.2C11C14C1C2ありなしPOAG:原発開放隅角緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.きたした症例はなかった.濾過胞再建後に水晶体再建術がC2眼に施行され,1例で術前C0.9が術後C1.2,1例で術前C0.5が術後C1.5に回復した.点眼数は術前平均C1.9,術後C2.1で統計的に差はなかったが,眼圧は術前平均C7.6C±4.3CmmHgからC13.5C±2.8CmmHgへと有意に上昇した(p=0.0032,対応のあるCt検定).術前眼圧はC6CmmHg以下の低眼圧がC5眼であったが,術後に低眼圧症例はなかった.術後に濾過胞漏出や感染をきたした症例はなく,眼圧上昇により緑内障手術の追加を要した症例もなかった.CIII考按濾過胞漏出に対してはさまざまな保存的療法が報告されており,当院においても過去に自己血注射,粘弾性物質の注入,レーザー光凝固などを施行してきた.しかしながら,その成績は既報のとおり満足のいくものではなかった.そのため,保存療法としては眼軟膏の点入などを行っているだけであった.また,濾過胞漏出への対応としては強膜フラップの縫合により濾過胞を完全に機能させなくすることが有効であると考えていたが,緑内障性視神経症の進行予防のためにはより低い眼圧が望ましいと考えられるため,こうした観血的手術の施行を行うことは非常にまれであった.しかしながら,TLE術後症例数の増加に伴い,当院においても術後感染症例は近年増加傾向である.筆者らも参加した全国的な多施設研究であるCCBIITSによれば,線維柱帯切除術後に濾過胞漏出のある濾過胞では術後C5年以内にC12.7人にC1人(7.9%)が感染性の眼内炎を発症する4).濾過胞漏出の発症時期は術後一定期間を経てからであることを考慮すると,漏出した濾過胞を呈して眼が数年以内に濾過胞感染を引き起こす可能性は十分に高いことが認識できる.また,硝子体手術を必要とする重症濾過胞感染症例の視力予後が失明率C70%(10眼中C7眼)と不良であったこと6)を考慮すると,濾過胞漏出に対して再建術を行うことを検討しなければならない.濾過胞再建術は,海外から比較的多数例の報告があるが,わが国においてその報告は少ない.眼圧下降が得られている濾過胞に対して侵襲を加えることにより濾過効果が失われ,眼圧上昇,緑内障性視神経症が進行することには懸念がある.一方で,TLE術後眼内炎の頻度は高く,予後不良であることから治療の必要性は高い.わが国において濾過胞漏出に対する再建術の報告が少ない理由の一つとしては,日本人では西洋人よりも術後瘢痕の形成が強いと推定されていることがあるだろう.加えて,沖縄県住民は眼球構造が小さく27),濾過胞形成の条件はさらに不利であることが推定される.結膜円蓋部も浅く濾過胞形成に不利である眼に形成された濾過胞に侵襲を加えるためには,濾過胞再建術の成績を検討する意義は大きい.今回,筆者らがC4年間に行った濾過胞再建術の成績は,おおむね海外からの報告どおり良好であった.また,筆者らは結膜.が狭い症例への対応のための必要性から結膜円蓋部の減張切開をC5眼に施行したが,結果として濾過胞圧の軽減と術後濾過胞の維持に貢献した可能性がある.円蓋部の結膜を大きく無縫合にする術式であり濾過胞漏出や結膜被覆不全も懸念されたが,Tenon.により濾過胞漏出はなく,結膜上皮欠損部は上眼瞼結膜上皮にシールドされて結膜上皮の増殖による被覆に問題が起きた症例もなかった.今回の検討はC8眼と少なく,最小経過観察期間がC1年と短いことは本研究の限界である.過去の報告にあるように濾過胞漏出の再発,眼内炎の発症,眼圧上昇による緑内障手術の追加の可能性については今後とも経過観察を行いたい.結論として,TLE後の濾過胞漏出漏出に対する濾過胞再建術は安全で有効な方法であり,減張切開を併用する結膜有茎弁移植濾過胞維持の可能な術式である.濾過胞感染の発症率の高さを考慮すると,TLE術後に濾過胞漏出が出現した場合濾過胞再建術を検討する必要がある.文献1)WorldCHealthCOrganization.CVisualCimpairmentCandCblind-ness,FactsheetNo.282.April2011.Availableat:http://Cwww.who.int/mediacentre/factsheets/fs282/en/.CAccessedAugust6,20112)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患─最近の視覚障害原因の疫学調査から.GeriatricCMedicineC44:1221-1224,C20063)阿部春樹,相原一,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C116:3-46,C20124)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafter.lteringsurgerieswithadjunctivemitomycinC.col-laborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreatmentCstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)YamamotoT,KuwayamaY,NomuraEetal:ChangesinvisualCacuityCandCintra-ocularCpressureCfollowingCbleb-relatedCinfection:theCJapanCGlaucomaCSocietyCSurveyCofCBleb-relatedCInfectionCReportC2.CActaCOphthalmolC91:Ce420-e426,C20136)宮平大輝,新垣淑邦,與那原理子ほか:琉球大学眼科における重症濾過胞炎の臨床的特徴と経過,眼科手術C30:335-340,C20177)BlokCMD,CKokCJH,CvanCMilCCCetCal:UseCofCtheCMegasoftCBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabec-ulectomy.AmJOphthalmolC110:264-268,C19908)RudermanCJM,CAllenCRC:SimmonsC’CtamponadeCshellCforCleaking.ltrationblebs.ArchOphthalmolC103:1708-1710,C19859)AsraniSG,WilenskyJT:Managementofblebleaksafterglaucoma.lteringsurgery.Useofautologous.brintissueglueasanalternative.OphthalmologyC103:294-298,C199610)MatsuoCH,CTomidokoroCA,CTomitaCGCetCal:TopicalCappli-cationofautologousserumforthetreatmentoflate-onsetaqueousCoozingCorCpoint-leakCthroughC.lteringCbleb.CEyeC19:23-28,C200511)LeenCMM,CMosterCMR,CKatzCLJCetCal:ManagementCofCover.lteringCandCleakingCblebsCwithCautologousCbloodCinjection.ArchOphthalmolC113:1050-1055,C199512)出口香穂里,横山知子,木内良明:線維柱帯切除術後早期の濾過胞からの房水漏出に対し高分子量ヒアルロン酸ナトリウム高濃度製剤の濾過胞内注入を行ったC2例.あたらしい眼科C26:969-972,C200913)GehringCJR,CCiccarelliCEC:TrichloraceticCacidCtreatmentCof.lteringblebsfollowingcataractextraction.AmJOph-thalmolC74:622-624,C197214)GeyerCO:ManagementCofClarge,Cleaking,CandCinadvertant.lteringblebswiththeneodymium:YAGlaser.Ophthal-mologyC105:983-987,C199815)HennisCHL,CStewartCWC:UseCofCtheCargonClaserCtoCcloseC.lteringCblebCleaks.CGraefesCAuchCClinCExpCOphthalmolC230:537-541,C199216)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200417)Al-ShahwanS,Al-TorbakAA,Al-JadaanIetal:Long-termCfollowCupCofCsurgicalCrepairCofClateCblebCleaksCafterCglaucomaC.lteringCsurgery.CJCGlaucomaC15:432-436,C200618)RauscherCFM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中心暗点を有する網膜変性患者の視覚神経回路構築と機能

2017年8月31日 木曜日

《第5回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科34(8):1186.1190,2017c中心暗点を有する網膜変性患者の視覚神経回路構築と機能増田洋一郎東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科CVisualNeuralCircuitFunctioninCentralScotomaYoichiroMasudaCDepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,KatsushikaMedicalCenterCはじめに両眼の中心視野障害は,視覚の質を大きく損なうこととなる.そのため両眼性中心視野障害をきたす網膜変性疾患の治療は,眼科医療において重要な課題である.網膜治療の成功は,変性網膜以降の神経回路の構築が保たれ,正常に機能することに依存する.両眼の中心視野障害をきたす網膜変性疾患はいくつか存在するが,疾患によって発症時期,変性細胞が異なる.網膜視細胞変性で先天発症のものではレーベル先天盲(Lebercongenitalamaurosis:LCA),後天発症のものは黄斑ジストロフィ(maculardystrophy:MD),網膜神経節細胞変性で後天発症のものはレーベル遺伝性神経症(LeberhereditaryCopticCneuropathy:LHON)が代表的なものとしてあげられる.これらC3疾患は両眼の中心暗点を有するという点で共通の臨床症状を呈するが,発症時期,変性細胞の違いなど疾患のプロフィールが異なる,本稿では,これらC3疾患における視覚神経回路の機能と構築に関する研究成果と若干の考察を紹介する.CI視覚神経回路眼球に入射された光刺激は,網膜では視細胞,双極細胞,神経節細胞へと伝達され,神経節細胞から発生する神経活動電位が長い軸索で外側膝状体(lateralCgeniculateCnucleus:LGN)へと伝達されていく(膝状体経路).LGNからはさらに長い軸索として視放線を形成し,大脳皮質の第一次視覚野(primaryCvisualCcortex:V1)のニューロンへ投射されていく.外側膝状体投射ニューロンは,直接CV1ニューロンを刺激するCprimaryCsignalを伝達するもの,V1へのフィードバックを抑制するCgatingCsignalを伝達するものなどが考えられている(図1).この膝状体経路とは別に,網膜神経節細胞から上丘などに投射し高次視覚野とよばれている領域へとPhotoreceptorBipolarcellRGCLGNPrimaryFeed-backsignalvisualcortexExtrastriatecortex図1視覚神経回路模式図投射する膝状体外経路も存在する.両眼性中心部網膜変性患者の場合,網膜変性部以降のニューロンへの刺激が失われ,V1へと投射するCprimarysignalとCgatingCsignalを失うこととなるが,この網膜病変脳投射領域(lesionCprojectionCzone:LPZ)の構築と機能がどのように変化するのか,しないのかを知ることは網膜治療成功のために重要となる(図2).CII網膜変性疾患のプロフィール今回計測したC3疾患の症例の特徴について提示する(図3).図3は左からMD,LHON,LCAであり,それぞれ視野,眼底写真(白字は機能的磁気共鳴画像(functionalCMRI:fMRI)撮像時期),網膜COCT,発症時期(年齢),網膜障害部,視力を示す.MDは後天発症,視細胞変性であり,〔別刷請求先〕増田洋一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:YoichiroMasuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversity,KatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPAN1186(112)Visual.eld図2網膜部位再現と網膜病変脳投射領域(lesionprojectionzone:LPZ)黄斑ジストロフィレーベル遺伝性視神経症(MD)(LHON)左右90PRL:視覚刺激提示領域発症時期後天:18歳後天:34歳先天障害部視細胞神経節細胞視細胞視力(右,左)0.05,0.07HM,HM0.09,0.08図3黄斑ジストロフィ,レーベル遺伝性視神経症,レーベル先天盲症例のプロフィールLHONは後天発症でCMDと同様であるが異なるのは神経節細胞変性である.CLCAは先天発症の視細胞変性である.こIIIV1の網膜部位再現とLPZれらC3疾患の共通点は両眼性の大きな中心暗点を有するといV1は,網膜からの投射に規則性をもった地図を有しておう点であるが,それぞれ発症時期もしくは網膜変性細胞のプり,それを網膜部位再現地図という.網膜中心窩の投射は,ロフィールが異なる点が特徴となる.C後頭葉後頭極へ,視野の水平経線にあたる網膜投射は鳥距溝へ,垂直経線はそれぞれCV1の上端と下端へと投射されるC図4機能的磁気共鳴画像(functionalMRI)(図2).そのため,視野欠損に一致して網膜からの信号を失うCLPZを有することになる.このCLPZの構築と機能が先にあげたプロフィールの異なるC3疾患においてコントロールとどのように異なるのか,を検証した.推察されるCV1-LPZの状態は,①経シナプス変性により,構築が変性,機能が低下.消失していること,②可塑性により,構築が改変,機能が変化していること,③安定性により,構築が保存,機能も保存されていること,の三つの仮説が考えられる.CIVLPZ機能計測法:functionalMRI(fMRI)本研究では,脳機能計測の手法として,MRIを用いて計測するCfunctionalCMRI(fMRI)を用いた(図4).fMRIは非侵襲的に大脳皮質におけるベースラインとの比較における活動をCBOLD(bloodCoxygenClevelCdependent)効果を応用して計測する手法である.視覚刺激は,driftingCcontrastCpattern(DCP)を用いた(図5).DCPは,1秒ごとに動的コントラストパターンの動き方向が変化する特徴をもつ.被験者はこのCDCPを二つの条件で固視する.一つ目の条件は,中心の固視点を見続け,課題を行わない「タスクなし」,もう一つの条件は固視点を見続けながら,コントラストの動き方向が一つ前と同じ動きをしたときに手に持ったボタンを指で押す「タスクあり」である.また,固視点は患者の偏心視域(PRL:preferredret-inallocus)の網膜部位に投影した(図2).CVMDのfMRI結果MD,コントロールにおいて,DCPの「タスクなし」の場合CLPZは無反応であった(図6).しかし,「タスクあり」の場合,LPZはCMDでのみ有意な反応を呈した.視覚刺激は同じCDCPであるが,LPZはタスク依存性に反応を有したといえる.この現象は,網膜変性部から入力を失ったCgat-ingsignalが,既存のタスク依存性のフィードバック信号を図5Driftingcontrastpattern視覚刺激抑制することができず,この信号が顕性化した結果の反応であると筆者らは推察している.つまり,MDではCV1における神経回路が比較的保存されている可能性が示唆される.CVILHONのfMRI結果LHONにおいては,タスクの有無にかかわらずCLPZは無反応であった(図7).これは同じ中心暗点を有するCMDとは異なる反応を呈したことになる.つまり,LHONにおけるCLPZはタスク非依存性無反応であった.この現象は,網膜変性部からCgatingsignalを失う点ではCMDと同様であるが,網膜視細胞変性と異なり神経節細胞変性の場合,V1に至る視覚神経回路が経シナプス変性をきたしており,フィードバック信号が到達できない結果であると推察した.つまり,LHONではCV1における神経回路が変性されている可能性が示唆される.CVIILCAのfMRI結果LCAにおいては,タスクにかかわらずCLPZは反応した(図8).つまり,LCAにおけるCLPZはタスク非依存性反応を有した.これはCMD,LHONとはまったく異なる反応を呈したことになる.この現象は,機能網膜からのCprimarysignalが,LPZにタスクに依存することなくCV1へと到達した結果であると推察した.つまり,LCAではCV1までに至る神経回路が改変されている可能性が示唆された.CVIII結果のまとめと考按結果のまとめを表1に提示する.臨床症状としては,両眼性中心暗点を有するという点で共通するこれらC3疾患ではあるが,V1におけるCLPZのCfMRI反応はそれぞれ異なった.MDにおけるタスク依存性CLPZ反応は,タスクによるフィードバック反応によるものであり,既存の神経回路におけるフィードバック信号が顕性化さPrimaryvisualcortexExtrastriatecortex図6黄斑ジストロフィのfMRI結果(coherence>0.3)図7レーベル遺伝性視神経症のfMRI結果(coherence>0.3)れた結果なのではないかと考えている.つまり,後天的に視障患者におけるCLGN,CV1が変性をきたしていることを合わ細胞が変性しても,安定性により構築と機能が保存されていせ,LCHONでも緑内障と同様に経シナプス変性をCV1にきたる可能性が示唆される.CLHONでは,CMDで認めたタスクしている可能性があり,タスクの有無にかかわらずCV1が無依存性反応を呈さなかった.後天発症であるという点でCMD反応であった可能性が示唆される.LCCAは,MCD,LHONでと共通するが,網膜神経節細胞変性であるという点でCMD認めなかったタスク非依存性CLPZ反応をCV1に認めた.とは異なる.過去の報告で網膜神経節細胞変性をきたす緑内LCAはこれらC3疾患のなかで唯一先天発症であるが,可塑Cレーベル先天盲(LCA)PhotoreceptorBipolarcellRGCLGNPrimaryvisualcortex図8レーベル先天盲のfMRI結果(coherence>0.3)表1中心暗点を有する疾患において実験的に推察されるLPZ構築と機能黄斑ジストロフィ(MD)レーベル遺伝性視神経症(LHON)レーベル先天盲(LCA)障害部視細胞神経節細胞視細胞発症後天後天先天LPZ反応タスク依存性反応無反応タスク非依存性反応LPZ特性安定性経シナプス変性可塑性構築保存変性改変機能保存低下.消失変化性を有する臨界期に神経回路構築が改変し,網膜部位再現地図が通常と異なっている可能性が示唆された.謝辞本研究は東京慈恵会医科大学研究奨励費,公益信託参天製薬創業者記念眼科医学研究基金の助成を受けた.文献1)MasudaY,DumoulinSO,NakadomariSetal:V1projecC-tionCzoneCsignalsCinChumanCmacularCdegenerationCdependContask,notstimulus.CerebCortexC18:2483-2493,C20082)MasudaY,HoriguchiH,DumoulinSOetal:Task-depen-dentCV1CresponsesCinChumanCretinitisCpigmentosa.CInvestCOphthalmolVisSciC51:5356-5364,C20103)OgawaCS,CTakemuraCH,CHoriguchiCHCetCal:WhiteCmatterCconsequencesCofCretinalCreceptorCandCganglionCcellCdam-age.InvestOphthalmolVisSciC55:6976-6986,C20144)Ho.mannCMB,CKauleCFR,CLevinCNCetCal:PlasticityCandCstabilityofthevisualsysteminhumanachiasma.NeuronC75:393-401,C20125)WandellCBA,CSmirnakisCSM:PlasticityCandCstabilityCofCvisualC.eldCmapsCinCadultCprimaryCvisualCcortex.CNetCRevCNeurosciC10:873-884,C20096)BaselerCHA,CGouwsCA,CHaakCKVCetCal:Large-scaleCremap-pingCofvisualcortexisabsentinadulthumanswithmac-ulardegeneration.NatNeurosciC14:649-655,C2011C***