眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人34.睫毛内反と眼瞼内反の相違小幡博人埼玉医科大学総合医療センター眼科逆さまつげと聞くと,睫毛乱生,睫毛内反,眼瞼内反などが想起されるが,睫毛内反と眼瞼内反の病態の違いを認識しておく必要がある.睫毛内反は,瞼縁の皮膚が余剰のため,睫毛が眼表面側に向いてしまう状態で,先天性のもので東南アジアの小児に多い.一方,眼瞼内反は,眼瞼皮膚や瞼板を含む眼瞼全層が内反し,睫毛が眼表面に触れている状態で,多くが退行性変化であり高齢者に多い.C●睫毛内反とは睫毛内反は,瞼縁に近い眼瞼の皮膚が余剰のため(贅皮),睫毛が眼表面側に向いてしまう状態で,先天性のもので東南アジアの小児に多い1,2)(図1).点状表層角膜症を生じていることが多く,そのために羞明がおもな症状である.先天性のため知覚が鈍麻しているためか,疼痛の訴えはない.角膜不正乱視や角膜炎(角膜潰瘍)の原因となり,視力低下を生じることがある.顔面の発達とともに自然治癒することもあるとされるが,必ずしもそうではない(図2).C●眼瞼内反とは眼瞼内反は,眼瞼皮膚や瞼板を含む眼瞼の全層が内反し,睫毛が眼表面に触れている状態である(図3).おもな症状は異物感だが,角膜潰瘍を生じることがある.眼瞼内反のもっとも多い原因は加齢に伴う退行性変化であ図1睫毛内反6歳,女児.左下眼瞼の鼻側の瞼縁皮膚が余剰となり,睫毛が内反している.その部分の瞼縁のラインは隠れて見えない.る.病態は,瞼板を支える下眼瞼牽引筋腱膜の脆弱性による上下方向の弛緩と,外眼角と内眼角の靭帯の弛緩による水平方向の弛緩,これらに瞼板上の眼輪筋の作用が加わった結果と考えられている3,4).加齢に伴う眼窩脂肪の萎縮による眼球陥凹も内反に加担する.MRIの矢状断像で,下眼瞼牽引筋腱膜が眼球から離れていて,瞼板が内方へ回旋しているのが観察されている5).C●睫毛内反と眼瞼内反の違い両者の病態については前述の通りだが,もっとも大きな違いは,瞼板の位置が正常か,内方に回旋しているかである(図4).C●治療眼瞼の手術にはいろいろな方法がある.睫毛内反にはHotz変法が一般的に行われている6)(図5).退行性下眼瞼内反の手術は,下眼瞼牽引筋腱膜を前転して瞼板に縫着するCJones法が一般的である(図6).Jones法は再発することがあり,水平方向の弛緩を治すClateralCtarsalstripやCtranscanthalCcanthopexyを併用する術式が報告されている7,8).図2睫毛内反の自然経過a:小学C1年生の男児.右下眼瞼内側に睫毛内反がある.Cb:小学C6年時で自然寛解はない.(107)あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018C1070910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3退行性下眼瞼内反70歳,男性.下眼瞼の瞼板を含む眼瞼全層がロールしたように内反している.瞼縁は隠れて見えない.C図5眼瞼内反の術前後12歳,男児.Ca:Hotz変法の術前.Cb:術後.●用語の問題日本眼科学会の『眼科用語集』第C6版によると,眼瞼内反はCentropionCofCeyelid,睫毛内反はCcilialCentropionと訳されている.海外では睫毛内反はCepiblepharonとよばれることが多いが,用語集でCepiblepharonを調べると眼瞼贅皮と訳されている.このような複数の用語と病態の理解不足が今日まで睫毛内反と眼瞼内反という言葉の混乱を招いていると思われる.文献1)NodaCS,CHayasakaCS,CSetogawaCT:EpiblepharonCwithCinvertedCeyelashesCinCJapaneseCchildren.CI.CIncidenceCandCsymptoms.CBrJOphthalmolC73:126-127,C19892)SundarG,YoungSM,TaraSetal:EpiblepharonineastasianCpatients:theCSingaporeCexperience.COphthalmologyC117:184-189,C20103)KakizakiCH,CZakoCM,CKinoshitaCSCetCal:PosteriorClayerC瞼板LER正常LER睫毛内反眼瞼内反図4睫毛内反と眼瞼内反の違い睫毛内反は,瞼縁の眼瞼皮膚が余剰となり,瞼縁に乗っかる(override)状態となり(→),睫毛が内反する.下眼瞼内反は,下眼瞼牽引筋腱膜(LER)が脆弱となり,瞼板を支える力がなくなる.眼瞼の水平方向の弛緩とあいまって,眼瞼全層が内反する.図6下眼瞼内反の術前後88歳,女性.Ca:下眼瞼牽引筋腱膜前転術の術前.b:術後.advancementCofCtheClowerCeyelidCretractorCinCinvolutionalCentropionCrepair.COphthalCPlastCReconstrCSurgC23:292-295,C20074)NishimotoCH,CTakahashiCY,CKakizakiCH:RelationshipCofChorizontalClowerCeyelidClaxity,CinvolutionalCentropionCoccurrence,CandCageCofCAsianCpatients.COphthalCPlastCReconstrSurgC29:492-496,C20135)KakizakiCH,CZakoCM,CMitoCHCetCal:MagneticCresonanceCimagingCofCpre-andCpostoperativeClowerCeyelidCstatesCinCinvolutionalCentropion.CJpnCJCOphthalmolC48:364-367,C20046)KakizakiH,SelvaD,LeibovitchI:Cilialentropion:surgiC-calCoutcomeCwithCaCnewCmodi.cationCofCtheCHotzCproce-dure.OphthalmologyC116:2224-2229,C20097)LeeH,TakahashiY,IchinoseAetal:Comparisonofsur-gicalCoutcomesCbetweenCsimpleCposteriorClayerCadvance-mentCofClowerCeyelidCretractorsCandCcombinationCwithCaClateralCtarsalCstripCprocedureCforCinvolutionalCentropionCinCaCJapaneseCpopulation.CBrCJCOphthalmolC98:1579-1582,C20148)IshidaCY,CTakahashiCY,CKakizakiCH:PosteriorClayerCadvancementCofClowerCeyelidCretractorsCwithCtranscanthalCcanthopexyCforCinvolutionalClowerCeyelidCentropion.CEyeC30:1469-1474,C2016C108あたらしい眼科Vol.35,No.1,2018(108)C