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視機能検査のraison d'etre~視機能から病態に迫る~ 網膜電図(ERG)による視機能解析

2017年8月31日 木曜日

《第5回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科34(8):1182.1185,2017c視機能検査のraisond'etre~視機能から病態に迫る~網膜電図(ERG)による視機能解析篠田啓*1,2,3大出尚郎*3,4寺内岳*2*1埼玉医科大学医学部眼科学講座*2帝京大学医学部眼科学講座*3慶應義塾大学医学部眼科学講座*4幕張おおで眼科CVisualFunctionAnalysisbyElectroretinogramKeiShinoda1,2,3),HisaoOhde3,4)andGakuTerauchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniverstyFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TeikyoUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,4)MakuhariOodeEyeClinicCはじめに網膜電図(electroretinogram:ERG)は,視覚電気生理検査の一つであり,網膜機能についてきわめて多くの情報をもたらしてくれる1).視覚電気生理検査は数少ない他覚的視機能検査である.また,ERG以外の検査も含めた視覚電気生理検査の組み合わせによる視路疾患評価は,障害部位の特定に役立つ.たとえば,ERGを行い網膜レベルの異常の可能性が否定され,視覚誘発電位(visualCevokedCpotentials:VEP)での異常が認められた場合,障害部位は網膜より上位であることが示唆される.本稿ではおもにCERGを中心に,視野障害の部位特定や病態評価における視覚電気生理検査の有用性を紹介する.CIERGの種類と各成分ERGでは刺激条件を変えることで網膜全体あるいは網膜局所からの反応を記録できる.また,順応状態や記録条件を変化させることで得られる波形成分が異なるが,その分析によって網膜内の層別機能解析が可能である(図1)2,3).図2は各種検査および各成分とそれらが対応する視路の特定部位の対応を示している.従来CERGは網膜の機能評価に有用であるが,視神経の評価には不適切と考えられてきたが,今世紀に入ったころからは,錐体応答の波形成分の一つであるphotopicCnegativeCresponse(PhNR)を解析することで神経節細胞の機能評価が可能となり,緑内障や視神経疾患の評価に多く用いられるようになった4,5).また,刺激時間を長くした錐体応答においてCon応答とCo.応答を分離記録することで,on型双極細胞,o.型双極細胞の応答経路を別々に評価することができる6).CII症.例.検.討症例C1は,52歳,男性.2カ月前から両視力低下,視野狭窄,羞明が出現.血液検査異常なし,家族歴なし,喫煙歴30年.視力は右眼(0.9×.4.75D),左眼(0.9×.4.25D),両眼ともに視野検査では広範囲の傍中心暗点を認め,ERGは著明に減弱していた(図3).4週間後には視力は(0.07)/(0.09)に低下し,血液検査では抗リカバリン抗体陽性,全身画像検査にて肺癌が認められ,癌関連網膜症(cancerassociatedretinopathy:CAR)7)と診断された.症例C2は,39歳,男性.7年前に両眼視力低下を自覚し複数の病院で精密検査受けるも原因不明.家族歴はなし.視力は右眼C0.05(0.4p×sph.6.0D),左眼C0.09(0.7×sph.4.25DCcyl.0.75DCAx100°),両眼ともに眼底は近視性変化を認め,視神経乳頭は蒼白様であった(図4).また,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)では一部乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapirallyCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)の菲薄化と黄斑部の網膜神経節細胞複合体層(ganglionCcellCcomplex:GCC)の菲薄化を認めた.視野検査では傍中心暗点を認め,ERGはおおむね異常なく,パターンCVEPでは潜時延長を認めた(図4).また,両眼なので評価はむずかしいが,PhNRの低下が認められた.家族歴はないものの優性遺伝性視神経萎縮を疑い血液検査を行ったところCOPA1(MIMCno.C605290)の変異が見つかり,本疾患と診断することができた8).症例C3は,26歳,男性.1年前に左眼羞明を自覚し,複〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間群毛呂山町毛呂本郷C38埼玉医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KeiShinoda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniverstyFacultyofMedicine,38Morohongo,Moroyama-machi,Iruma-gun,Saitama350-0498,JAPAN1182(108)C(108)C1182図1全視野網膜電図の種類上段:暗順応下記録によるCERG.左:杆体応答,中央:錐体杆体混合応答,右:律動様小波(oscillatorypotentials:OP波)の抽出.下段:明順応下記録によるERG.左:錐体応答,右:フリッカー刺激によるERG.網膜電図は記録条件によって得られる波形が異なる.PhNR:photopicnegativeresponse.C網膜~中枢VEP(視覚誘発電位)網膜神経節細胞PhNRパターンERGERG網膜内層b波とOP(網膜電図)(双極細胞,アマクリン)網膜外層a波(錐体,杆体)網膜色素上皮細胞EOG(眼電図)図2網膜の各層と電気生理検査各波形成分の起源の対応左に網膜断面のシェーマ(上が硝子体側)を示す.中央は各種波形成分とその起源.右は対応する検査名.PhNR:photopicnegativeresponse,OP:律動様小波数の病院で検査したが原因不明.家族歴はなし.視力は,右眼C0.04(1.2C×sph.11.75D(cyl.1.75DCAx40°),左眼C0.04(0.8C×sph.10.0D(cyl.2.25DCAx150°).視野検査では左眼にCMariotte盲点を含む中心比較暗点を有し,眼底検査では強度近視を認めた.錐体CERGにて左眼のCPhNRの低下が認められた(図5).視神経レベルの障害と判断し,眼窩MRIを行ったところ,眼窩腫瘍が見つかった.症例C4は,26歳,女性.4日前に左眼の飛蚊症と光視症が出現し眼科を受診.視力は右眼C0.04(1.2C.2.5D(cyl.0.75DCAx80°),左眼C0.04(1.2C.4.0D).眼底所見に異常なく,多局所CERGで視野障害に一致した応答密度の低下を認めた.図3症例1の臨床所見上段:眼底写真(左が右眼).中段:Goldmann視野(左が右眼).輪状暗点および周辺にも暗点が散在している.下段:全視野網膜電図.左は混合応答,右は律動様小波,いずれも著明に減弱している.図4症例2の臨床所見1段:眼底写真(左が右眼).C2段:Goldmann視野(左が右眼).右眼はCMariotte盲点と連続した中心暗点,左眼は傍中心暗点を認める.C3段:多局所網膜電図(左が右眼).左右とも正常な応答を認める.C4段:左:光干渉断層計(OCT)による乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapirallyCretinalCnerve.berClayer:cpRNFL)厚解析.一部に菲薄化を認めたが視野所見とは一致しない.中央:OCTによる黄斑部の網膜神経節細胞複合体層(ganglionCcellCcomplex:GCC)厚解析.両眼ともびまん性の菲薄化を認める.右:視覚誘発電位.左右とも潜時の延長を認める.図5症例3の臨床所見左:眼底写真および光干渉断層計(OCT).いずれも左が右眼.中央:Goldmann視野(GP)および多局所網膜電図(mfERG)の結果.いずれも左が右眼.GPでは左眼にCMariotte盲点を含む中心比較暗点を認める.mfERGでは視野障害に一致した応答密度低下は認められない.右上段:全視野網膜電図錐体応答.左が右眼.左眼はCphotopicnegativeresponse(PhNR)が低下している(→).下段左:OCTによる黄斑部の網膜神経節細胞複合体層(ganglioncellcomplex:GCC)厚解析.左眼はびまん性の菲薄化を認める.下段右:眼科CMRIT2強調イメージにて,左眼窩腫瘍が認められる.また,OCTでは視野障害部位に対応した網膜の範囲内の断層像において視細胞外層の構造に異常がみられ,総合的に急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopa-thy:AZOOR)と診断した(図6)9,10).本例は眼底所見は正常であったがCERGによって局所的な障害を特定できた.CIII考按本シンポジウムは,視機能検査のCraisond’etre,すなわち存在意義をテーマとしたもので,本稿では,おもにCERGを含む視覚電気生理検査から病態にアプローチする臨床例を提示した.症例C1では,急激に進行する視力,視野障害の症例で,眼底所見に大きな異常がみられない場合,視野障害の原因が網膜レベルにあること,その障害の程度が強いことを確認することでCCARを疑うことができた.CARは眼症状のみ発症することも多いこと,しかし抗リカバリン抗体の検出率は必ずしも高くなく,ときに全身画像検索でも現病が見つかりにくいこともあり,眼科医の診断力が予後に大きく影響する可能性が高いことからも,ERGはきわめて有用であると考えられた.症例C2,C3では,ERGが正常であることから網膜レベルでは二次ニューロンまでには異常がないこと,そしてCPhNRまたはCVEPの異常から,三次ニューロン以降の障害を特定できた.PhNRは錐体CERGのCb波に続く陰性波で,神経節細胞由来と考えられている4,5).今回提示した診断学的ツールとしての有用性はもとより,緑内障,視神経疾患,網膜循環障害や,近年広く行われている硝子体手術時の内境界膜.離などにおける網膜内層機能の評価での有用性も大きい.症例C4では,視野障害に対応した局所網膜の反応の低下を検出することができ,診断の有力な根拠となった.このことから,多局所CERGは網膜レベルの他覚的視野検査としてきわめて有用であると考えられる.診断技術,各種治療法の発展とともに,ERGを含む視覚電気生理学的検査は視野異常において,障害レベルの特定,治療効果の評価,病態の理解に有用であり,とくに視野検査,さらには画像検査との組み合わせによりその威力は強く発揮される.視覚電気生理検査は種類が多く得られる情報が多岐にわたるので,臨床の各場面において適切な検査を選ぶことも重要である.文献1)MiyakeCY:ElectrodiagnosisCofCRetinalCDiseases(editedbyMiyakeY)C,p1-231,Springer,Tokyo,20052)McCullochCDL,CMarmorCMF,CBrigellCMGCetCal:ISCEVStandardCforCfull-.eldCclinicalCelectroretinography(2015update).DocOphthalmol130:1-12,C2015図6症例4の臨床所見上段:眼底写真.左が右眼.中央:光干渉断層計(OCT).左が右眼.左眼の黄斑部の網膜外層のCellipsoidzoneが断続的に低反射となっている.下段:左:左眼のCHumphrey30-2検査結果.固視点を囲むように上方と耳側に暗点を認める.右:左眼の多局所網膜電図の結果.視野障害に一致した応答密度低下を認める.3)篠田啓:ERGとはなにか,どうとる?どう読む?CERG(山本修一,新井三樹,近藤峰生ほか編),p12-27,メジカルビュー社,20154)FrishmanL:Electrogenesisoftheelectroretinogram.Ret-ina,C5thCedition(editedCbyCRyanCSJ,CSchachatCAP,CSaddaAR),p177-201,Elsevier,NewYork,20135)MachidaS:CClinicalapplicationsofthephotopicnegativeresponsetoopticnerveandretinaldiseases.JOphthalmol2012;2012:397178.Cdoi:10.1155/2012/3971786)MiyakeCY,CShinodaCK:ClinicalCElectrophysiology.CRetina,5thCedition(editedCbyCRyanCSJ,CSchachatCAP,CSaddaCAReditors),p202-226,Elsevier,NewYork,20137)DhaliwalR,SchachatA:Remotee.ectsofcancerontheretina.CRetina,C5thCedition(editedCbyCRyanCSJ,CSchachatAP,SaddaAR)C,p2196-2204,Elsevier,NewYork,20138)GochoCK,CKikuchiCS,CKabutoCTCetCal:High-resolutionCenCfaceCimagesCofCmicrocysticCmacularCedemaCinCpatientsCwithCautosomalCdominantCopticCatrophy.CBiomedCResCInt2013;2013:676803.Cdoi:10.1155/2013/6768039)AgarwalCA:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CGassC’atlasCofCmacularCdiseases,C5thCedition(editedCbyCAgarwalA),p980-983,Elsevier,201210)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetCal:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathyCinCJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOne.2015CAprC28;10(4):e0125133.Cdoi:10.1371/journal.Cpone.0125133

ニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1178.1181,2017cニードリングによる濾過胞再建術の術前に施行した赤外線画像を用いた強膜弁の位置決め野村英一*1安村玲子*2石戸岳仁*1伊藤典彦*3野村直子*1田勢沙帆*1武田亜紀子*1遠藤要子*4西出忠之*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜市立みなと赤十字病院*3鳥取大学農学部動物医療センター*4長後えんどう眼科クリニックCPositioningofScleraFlapsUsingInfraredRayImagingbeforeFiltrationBlebNeedlingRevisionsEiichiNomura1),ReikoYasumura2),TakehitoIshido1),NorihikoItoh3),NaokoNomura1),SahoTase1),AkikoTakeda1),YokoEndo4),TadayukiNishide1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)C3)TottoriUniversityVeterinaryMedicalCenter,4)ChogoEndoEyeClinicYokohamaCityMinatoRedCrossHospital,目的:ニードリング前に赤外線(IR)画像で強膜弁の位置を確認し,強膜弁下から前房内へ針を挿入できたC6例を報告する.対象および方法:平均年齢C70.3±12.7歳,原発開放隅角緑内障C2名,続発緑内障C4名のC6例C6眼.12回のニードリングが行われた.点眼麻酔後,scanninglaserophthalmoscope(SLO)でCIR画像を撮影中に強膜弁の角の位置をピオクタニンで結膜上に転写し,手術顕微鏡でニードリングを施行した.IRと可視光で確認した強膜弁の辺の数を視認性の指標として比較した.転写できた強膜弁の角の数,強膜弁下から前房内へのC27CG針の挿入の可否を確認した.結果:確認できた強膜弁の辺の数はCIRでC2.91±0.29,可視光でC1.00±1.04であった(WilcoxonCsigned-rankstest:p<0.05).強膜弁の角はC3.85±0.55カ所を転写できた.12回すべてで強膜弁下から前房内までC27CG針を挿入できた.CObjective:Wereport6casesinwhichneedlescouldbeinsertedunderscleral.apsthroughpositioningofthe.apsCusingCinfraredCray(IR)imagingCbeforeC.ltrationCblebCneedlingCrevisions.CCasesandmethods:12Cneedlingrevisionsfrom6casesofglaucoma(2primaryopen-angleglaucomaand4secondaryglaucoma,averageage70.3±12.7years)wereCstudied.CBeforeCneedlingCrevisions,CtheCanglesCofCscleraC.apsCvisibleCviaCinfraredCrayCimagesCformscanningClaserCophthalmoscope(SLO)wereCmarkedCwithCgentianCviolet.CToCassessCvisibility,CtheCnumberCofCsidesCviaCIRCimagesCandCvisibleCrayCimagesCwereCcompared.CNeedleCrevisionsCwereCperformedCwithCsurgicalCmicroscopeCguidedbythegentianvioletmarks.Result:ThenumberofsidesviaIRimagesandvisiblerayimageswere2.91C±0.29CandC1.00±1.04,respectively(Wilcoxonsigned-rankstest:p<0.05).The3.85±0.55anglesofthequadran-gularscleral.apweremarkedontheconjunctivawithgentianviolet.Inall12instances,needlescouldbeinsertedintotheanteriorchamber.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1178.1181,C2017〕Keywords:赤外線,緑内障手術,濾過胞再建術,ニードリング,位置決め.infraredrays,glaucomasurgery,.ltrationblebrevision,needling,positioning.Cはじめに波である.赤色の可視光線に近い特性のため,人間に感知で波長がおよそC0.75.1,000Cμmの電磁波は赤外線(IR)とよきない光として,IR(infraredCray)カメラや情報機器などばれる.そのうち,近赤外線はおよそC0.75.2.5Cμmの電磁に応用されている1).さらに,IRには組織深達性があり,イ〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN1178(104)ンドシアニングリーンの蛍光と併せて,乳がんでリンパ節の検索に利用されている2).IRを利用した緑内障領域の研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある3).また,前眼部CopticalCcoherenceCtomography(OCT)はCIRを光源とするが,これにより濾過胞形状を調べ,濾過機能の評価や4,5),濾過胞再建術に役立てた報告がある6).ニードリングの際に,結膜下の強膜弁の視認性が不良のため,強膜弁下への注射針の挿入が困難な場合がある.筆者らは,IR画像を用いることで,IRの組織深達性により,術前に以前の緑内障手術の強膜弁の位置を確認できることを報告した7).さらに筆者らは,手術顕微鏡に赤外線に感受性のあるCcharge-coupledCdevice(CCD)を設置し,組織深達性があるCIR画像を用いて,観血的濾過胞再建術の術中に結膜下,Tenon.下,強膜弁下の手術器具の視認性が改善されることを報告した8).また,同様の手法でニードリングの術中に,器具の先端の視認性が改善することを,第C22回日本緑内障学会にて報告した(2011年,秋田).手術中にCIR画像を用いる方法は結膜下の視認性の改善に有用であるが,手術顕微鏡にCIR用CCCDを設置する必要がある8).また,術中にCOCT画像によってガイドしながら行うニードリングの報告9)もあるが,OCTを付属した手術顕微鏡が必要となる.今回,筆者らは術前にCscanningClaserCophthalmoscope(SLO)のCIR画像で強膜弁を撮影することで判明した強膜弁の角の位置を,SLO画像を取得中にピオクタニンで結膜上に転写し,その後ピオクタニンの印を参考にニードリングを行うことで,強膜弁下への注射針の挿入を行う際に強膜弁の位置がわかりやすくなる方法を考案した.この方法は術中に特殊な機器を使用しない利点がある.ニードリング前にCIR画像で強膜弁の位置を確認し,強膜弁下から前房内へ針の挿入が可能であったC6例を経験したので報告する.CI症例症例は平均年齢C70.3C±12.7歳,男性C2例,女性C4例,病型は原発開放隅角緑内障C2例,続発緑内障C4例(ぶどう膜炎2例,落屑症候群2例)の6例6眼.2016年4.10月に行われたC12回のニードリングを対象とした.このC6例に対して線維柱帯切除術はC7回施行されていた.最後の線維柱帯切除術から各症例の初回のニードリングまでの期間は平均C4.3年C±5.6年(最小C57日,最大C9年)であった.CII方法IR画像は,SLO(HeidelbergCEngineering,CSPECTRA-LIS)で濾過胞部分を波長C920Cnmで撮影し取得した.可視abc図1IR画像で強膜弁の位置を決めた後,ニードリングする方法a:可視光では瘢痕化した濾過胞の下にある強膜弁(四角形)の位置はわかりにくいことがある.円弧は角膜輪部,三角形は周辺虹彩切除部を示す.Cb:0.4%オキシブプロカイン点眼液で点眼麻酔後,IRで強膜弁の辺が見えたら強膜弁の角に相当する部位にピオクタニンで印(丸印)を付ける.Cc:可視光の手術顕微鏡下でピオクタニンの印をガイドに,強膜弁下にC27CG針(矢印)をくぐらせ前房内まで挿入する.線維柱帯切除部や強膜弁下も癒着を.離,その後C27G針およびCblebknifeを用いて結膜と強膜の癒着も.離する.刺入部はC10-0ナイロン糸(丸針)にて縫合する.C光画像は眼底カメラ(Kowa,CVx10i)の前眼部モードで撮影し取得した.0.4%オキシブプロカインで点眼麻酔後,強膜弁の角の位置を結膜上からCIR画像で確認し,撮影中にピオクタニン(Richard-Allan,RegularTipSkinMarker)で結膜上に転写した.その後,27CG針,および幅C1.0Cmmのベントタイプの濾過胞再建用ナイフ(KAI,blebknife,BKB-10AGF)を用いて手術顕微鏡下にニードリングを行った(図1).これらの操作を行った症例に対して,診療録をもとに後ろ向きに下記の項目を検討した.IR画像と可視光画像で確認できた強膜弁の辺の数を視認性の指標として比較した.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込まれ,四角形の強膜弁の輪部を除いたC3辺のうち何辺がみえるかを比較した.IR画像の取得には当院の倫理委員会の承認(承認番号B1000106015),および患者の文書による同意を得た.また,結膜上にピオクタニンで転写できた強膜弁の角の数の平均値を求めた.さらに強膜弁下から前房内までC27CG針が挿入できたか,またニードリングに伴う有害事象がないかを調査した.さらに,強膜弁の辺のうち,実際に刺入した辺がCIRまたは可視光で視認できたかを比較した.さらに術前と術後C2週目の平均眼圧,平均点眼数を対応のあるCt検定を用いて比較した.CIII結果確認できた強膜弁の辺の数はCIRでC2.91C±0.29,可視光でC1.00±1.04.(WilcoxonCsigned-ranksCtest:p<0.05)であり,IRで有意に強膜弁の視認性が改善していた.強膜弁の角はC3.85C±0.55カ所を結膜上にピオクタニンで印を付けることが可能であった.12回すべてにおいて強膜弁下から前IR画像可視光画像図2IR画像下に強膜弁の位置決めをした症例89歳,女性,続発緑内障(落屑症候群).13年前に他院で左眼の線維柱帯切除術を施行された.VS=(0.02),眼圧はC15.19CmmHg程度で経過した.1年半前から眼圧C39CmmHgとなり,当院紹介受診し,ニードリングでC13.19CmmHg程度に下降した.2カ月前より次第に眼圧上昇し,点眼数C4にて眼圧C32CmHgと上昇し,今回,2度目のニードリングを施行された.IR画像で強膜弁のC3辺が確認できた(C.).可視光画像ではC1辺が確認できた(C.).強膜弁の角に赤外線画像下にピオクタニンで印を付けた.術後C2カ月の時点で点眼数C5にて左眼眼圧C16CmmHgとなった.房内までC27CG針を挿入できた.図2に典型例を示した.術後に前房出血がC2回みられたが自然軽快した.そのほかに明らかな有害事象はみられなかった.12回のニードリングにおいて,実際に刺入した強膜弁の辺が視認できたのは,IRでC12回,可視光ではC3回で,IRで有意に視認できた(WilcoxonCsigned-ranksCtest:p<0.05).可視光では辺が視認できず,IRのみで視認できた回数はC9回(75%)であった.術前の平均眼圧C26.2C±6.4CmmHgに対して,術後C2週目の平均眼圧はC19.3C±3.0CmmHgと有意に下降した(対応のあるt検定,p<0.05).平均点眼数は術前C3.7C±1.9,術後C2週目C3.3±1.7で有意差はみられなかった(対応のあるCt検定,p=0.81).ニードリングの追加,術前眼圧をC2回連続で上回ったときを死亡と定義すると,術後C2週の生存率はC50.0%であった.6眼中C1眼において線維柱帯切除術の追加を要した.CIV考察IR画像ではカラー画像より強膜弁の辺の視認性が高い傾向がみられた.このため強膜弁の角の位置をCIR画像下で結膜上にピオクタニンで転写が可能であったと考えられた.ニードリングによる濾過胞再建術を手術顕微鏡で施行する際,強膜弁の角の位置をピオクタニンで結膜上に転写した印に基づいて,強膜弁の辺の位置が想定できた.これにより注射針を辺に相当する強膜弁の切開部を通して,強膜弁下から前房内に挿入する操作が容易になった.可視光で手術をしているため操作自体は通常と変わらないが,挿入部位がわかりやすいため,安全に施行できたと考えられた.手術操作自体は可視光で行ったため,手術の前半では結膜と強膜との.離は最小限に留め,結膜下の出血を抑えることで針先の視認性を保った.強膜弁下から前房内に注射針を刺入後,強膜弁下の組織を.離し,手術の後半で濾過胞の大きさを維持するため強膜弁の上および周辺の結膜と強膜の.離をC27CG針およびCblebknifeで行った.12回のニードリングにおいて,可視光では辺が視認できず,IRのみで視認できた回数はC9回(75%)であった.刺入部位は濾過胞の状態や,鼻や前額部の張り出し具合などで制限をうけるため,可視光で視認できる部位が必ずしも術者の希望する刺入部位とは限らない.今回のC12回は図1のようにすべて放射状方向の辺から刺入している.刺入部位に制限のあるなかで,75%の部位でCIRでのみ視認できており,本法は可視光で視認できない部位から術者が刺入を検討する場合にとくに有用であると考えられた.また,直接刺入しない辺も含めて視認性がCIR画像で改善していたが,これは強膜弁と濾過胞全体の形状の把握に役立ち,結膜の癒着範囲が想定しやすくなると考えられた.筆者らは,濾過胞再建術の術中にCIR画像で観察する場合は視認性が改善することを報告している8).今回の方法は手術顕微鏡にCIR画像用の器具が不要な利点はある.しかし,手術顕微鏡の可視光で手術するため,結膜下出血がある場所では視認性が低下する.このため結膜下出血が少ない処置の前半で,強膜弁下から前房内へのC27CG針の刺入の操作を終えることで術中にCIR画像で確認できない点を補った.ニードリングは結膜下の増成組織を強膜と結膜から.離し,さらに可能であれば強膜弁下から前房への交通の回復,強膜弁下の癒着を解除することで濾過胞の機能を回復する手技である10).強膜弁下から前房内への注射針の挿入は,線維柱帯切除部から強膜弁下に癒着が生じている場合には房水流出路の回復が得られると考えられる.結膜上からの視認性が悪い場合に,強膜弁下から前房内への注射針の刺入は施行が困難な場合がある.また,視認性が悪い場合は強膜穿孔,結膜穿孔などの合併症の危険性が生じうる.今回の方法は前房内への注射針の挿入を安全に行うために有用であると考えられた.CV結論IRの組織深達性を利用しCIRでの位置決め後に行うニードリングは,可視光で視認できないがCIRで視認できる部位からの刺入,および強膜弁全体の形状の把握に利点があり,強膜弁下から前房内への注射針の挿入において有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiCT,CInomotoCT,CMiwaCMCetCal:FluorescenceCnaviga-tionwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancerC12:211-215,C20053)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationof.lteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmolC93:1331-1336,C20094)KawanaK,KikuchiT,YasunoYetal:Evaluationoftra-beculectomyblebsusing3-dimensionalcorneaandanteri-orsegmentopticalcoherencetomography.OphthalmologyC116:848-855,C20085)TominagaA,MikiA,YamazakiYetal:Theassessmentofthe.lteringblebfunctionwithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucomaC19:551-555,C20106)KojimaCS,CInoueCT,CKawajiCTCetCal:FiltrationCblebCrevi-sionCguidedCbyC3-dimensionalCanteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography.JGlaucomaC23:312-315,C20147)野村英一,伊藤典彦,野村直子ほか:赤外線を用いた強膜弁の観察.あたらしい眼科C28:879-882,C20118)野村英一,安村玲子,伊藤典彦ほか:赤外線画像により観血的濾過胞再建術を観察したC1例.あたらしい眼科C32:C1027-1031,C20159)DadaT,AngmoD,MidhaNetal:IntraoperativeopticalcoherenceCtomographyCguidedCblebCneedling.CJCOpthalmicCVisResC11:452-454,C201610)Green.eldDS,MillerMP,SunerIJetal:Needleelevationofthescleral.apforfailing.ltrationblebsaftertrabecu-lectomywithmitomycinC.OphthalmicSurgC24:242-248,C1993***

緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1169.1177,2017c緑内障眼の傍視神経乳頭網膜分離症市.岡.伊.久.子市岡眼科CPeripapillaryRetinoschisisinGlaucomaEyesIkukoIchiokaCIchiokaEyeClinic緑内障症例に網膜分離症を認めることがあり,おもに黄斑部に及んだ例が報告されているが,網膜.離の合併がなく黄斑部に及ばない症例は見過ごされている可能性がある.当院で緑内障経過観察中の症例にCOCTにて視神経乳頭耳側断面を測定したところ,5眼に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めた.分離部形状は網膜各層間.層内の浮腫で黄斑部に進展した例はなく,経過を追えたC4眼では緩解,増悪を繰り返した.平均年齢C71.2歳,屈折はC.0.15±1.5D,発症時眼圧はC12.2C±1.3CmmHg,発症時CMD値はC.3.73±3.4CdBであった.網膜分離症の範囲は神経線維層菲薄部に一致し,網膜分離症の視神経乳頭部にC1眼に乳頭Cpitを認めた.頻度はC6カ月間にCOCTにて検査した緑内障患者C5人/490人(1.0%)に認めた.3眼は網膜分離症に対応する部の視野障害が進行した.眼圧は低めだが,さらなる眼圧下降によりC3眼の分離症は軽減している.OCTによる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定では網膜分離症発症時の網膜神経線維層厚が厚く検出されるため,注意が必要である.Retinoschisiswithglaucomaisreportedasmainlyinvolvingthemacularregion;casesrestrictedtobesidetheopticdiscarerare.Atourhospital,thetemporalsideoftheopticdiscwasscannedusingCirrus(CarlZeissMed-itec,CInc.)OCT.CInC490CpatientsCundergoingCglaucomaCfollowCup,C5CretinoschisisCeyesCwereCfound(1.0%)C.CAverageagewas71.2years;1male,4female;refractionC.0.15±1.5D,intraocularpressureatonset12.2±1.3CmmHgandMDvalueatonset.3.73±3.4CdB.Theschisiswasinvolvedeachretinallayer,attachedtotheopticdiscandover-lappedwiththeretinalnerve.berlayerdefect(NFLD);nocaseinvolvedthemacula.OpticdiscpitwasobservedinConeCeye.CAlthoughCtheCintraocularCpressureCwasClow,CthreeCretinoschisisCeyesCwereCreducedCowingCtoCfurtherCreductionCofCintraocularCpressure.CAttentionCshouldCbeCpaidCinCmeasuringCtheCretinalCnerveC.berClayerCaroundCtheopticdisc(cpRNFL)withtheOCT,becauseincreaseinRNFLthicknessmeasurementwasobservedatthetimeofretinoschisis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1169.1177,C2017〕Keywords:緑内障,網膜分離症,視神経乳頭pit,視野障害.glaucoma,retinoschisis,opticdiscpit,visual.elddisturbance.Cはじめに緑内障症例に視神経乳頭近傍に網膜分離症を認めることがあり,黄斑部に及んだ例が報告されている1.4)が,視神経乳頭近傍に限局する場合,見過ごされやすい.近年ようやく光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)を用い視神経乳頭近傍に限局した網膜分離症が注目されはじめているが報告は少ない5,6).今回当院で緑内障経過観察中の症例C5眼に視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症を認めたので,臨床所見を含め報告する.CI症例当院で緑内障にて経過観察中の男性C1人,女性C4人,計C5人の片眼C5眼にCCirrus(CarlCZeissCMeditec,CInc.)OCTにて傍視神経乳頭網膜分離症を認めた.当院ではC2012年より緑内障全例に経過観察中,6カ月ごとに視神経乳頭耳側の網膜断層撮影を施行し,網膜分離症疑い例にはC3-DCscanや検査〔別刷請求先〕市岡伊久子:〒690-0003島根県松江市朝日町C476-7市岡眼科Reprintrequests:IkukoIchioka,M.D.,IchiokaEyeClinic,476-7Asahi-machi,Matsue,Shimane690-0003,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(95)C1169表1症例の内訳網膜分離症発症部位経過観察期間(年)症例性別年齢左右屈折(D)眼軸長(mm)視神経乳頭発症まで発症後C1CMC62CRC0.5C24.37下C5.83C2.80C2CFC60CLC.2.75C24.59下C13.31C1.42C3CFC79CRC0.75C21.08下C18.63C1.08C4CFC69CLC0.25C21.74上C11.57C2.26C5CFC86CRC0.5C22.91下C9.3C0.1平均C71.2C.0.15±1.5C22.9±1.7C13.2±4.5表2症例の内訳症例初診時眼圧(mmHg)初診時CMD分離症発症時眼圧(mmHg)平均眼圧(mmHg)網膜分離症発症後平均眼圧発症時CMD(dB)CMDCslope(dB/年)分離症部CMDCslope(dB/年)CPit発症時CPVD分離症部位(Disc.CNFLD部)視野欠損部C1C21C2.35C12C13.4±1.9C12.2±1.1C.5.45C.0.35C.0.56+.耳下鼻上C2C13C.0.56C13C13.2±1.3C13.4±1.1C.5.47C.0.48C.0.59不明+耳下鼻上C3C14C.3.66C13C12.5±1.7C11.4±2.0C.7.17C.0.81C.1.16不明+耳下鼻上C4C13C1.84C10C8.6±0.9C8.5±1.0C1.39C0.01C.0.06不明+耳上鼻下C5C13C.1.95C13C12.6±1.8C.1.95C0.04C0.06不明+耳下上平均C14.8±3.5C.0.39±2.5C12.2±1.3C12.1±2.0C11.4±2.0C.3.73±3.4C.0.32±0.4C.0.5±0.5C部を変えて断層撮影を施行し視神経乳頭周囲の変化を精査している.平成C28年C3.8月のC6カ月間に緑内障患者C972眼490人中C5人C5眼に網膜分離症を認めた.症例の内訳を表1,2に示す.男性C1人,女性C4人,平均年齢C71.2歳,屈折は近視C1人,遠視C4人で高度近視症例はなかった.眼軸長は平均C22.9C±1.68Cmmであった.経過観察期間は平均C13.2C±4.5年,初診後網膜分離症を認める前は5.18年,認めた後はC0.1.2.8年経過をみていた(表1).初診時眼圧はC13.21mmHg,平均C14.8C±3.5CmmHg,初診時MD値はC.3.66.2.35CdB,平均C.0.39±2.5CdB,網膜分離症発症時の眼圧はC12.2C±1.3CmmHgと低めで発症時CMD値はC.7.17.+1.39CdB,平均C.3.73±3.4CdBであった(表2).網膜分離症は全例視神経乳頭から神経線維層菲薄部に一致し,黄斑部に分離症が及ぶ症例はなかった.症例C1は視神経乳頭耳下側に網膜分離症を認めた(図1a,b).視神経乳頭の分離症部に明らかなCpitを認め,OCTにてCpit部より網膜分離症をきたしている様子を認め,視神経乳頭陥凹内部に硝子体癒着を認めた(図1c,d).初診時眼圧はC21CmmHg,その後点眼薬で眼圧は下降し,経過観察中の平均眼圧はC13.4C±1.9CmmHg,視野感度低下部は下方網膜分離症に対応する上方視野欠損を認め,MDCslopeはC.0.35±0.2CdB/年であったが,下方網膜分離症に対応する上方視野は.0.56±0.24CdBの進行を認めた.図2に網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.眼圧と網膜厚とは連動してはいなかったが,最近は網膜分離症の程度はやや軽減している.症例C2は後部硝子体.離後の症例で,視神経乳頭陥凹は全体に深く下方C1/4に及ぶ網膜分離症をきたした.図3aにOCTCangiographyのCenCface画像,上層に網膜分離症部の神経線維層が描出されており,断面図(図3b)では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.蛍光眼底撮影では中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが漏出点は認めなかった(図4).眼圧平均は網膜分離症をきたした右眼C13.2C±1.3CmmHgと比較的安定しているが,MDslopeは.0.48±0.2CdB/年で他眼C0.11C±0.2CdB/年に比し,視野進行を認め,網膜分離症部に対応する上方視野はC.0.59±0.25dB/年の進行を認めた(表2).網膜分離症をきたした後の眼圧と網膜厚のグラフを示す.この症例も眼圧と網膜分離症厚にあまり関連はないが網膜分離症がやや増悪傾向である(図5).本症例のCOCTでの視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(cpRNFL)の網膜分離症発症前後を比較すると,発症前に視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し左眼の菲薄化を認め図1症例1のOCT画像a:OCTenface画像で視神経乳頭耳下側の暗い部分が網膜分離症の範囲.Cb:OCT視神経乳頭下方断面,視神経乳頭Cpit部より下方に網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像にて耳下側のCpit部の深い陥凹を認める.Cd:OCT水平断にて視神経乳頭下方Cpit部内側に硝子体癒着を認める.C80016網膜厚(μm)700600500400300200100014121086420眼圧mmHg2014/112014/122015/12015/22015/32015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/72016/8disc下部厚(μm)耳側部厚(μm)眼圧(mmHg)図2症例1の眼圧と視神経乳頭下部,耳下側部の網膜厚眼圧と網膜厚は連動していない.Cるが(図6),網膜分離症発症後,下方網膜厚は厚く測定され,MDslopeはC.0.81±0.12dB/年と他眼C.0.35±0.17dB/年に左眼の神経線維層菲薄部が右眼より厚くなっている(図7).比し進行しており,とくに上方視野はC.1.16±0.2CdB/年の症例C3は右眼耳下側に網膜分離症を認め,OCTangiogra-進行を認めた(表2).phyの脈絡膜層で右眼視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた症例C4は左眼耳上側の網膜分離症を認め,視神経乳頭陥凹(図8).網膜分離症に対応する上方視野欠損の進行が著明で,は全体に拡大しており,OCT断面図で視神経乳頭陥凹内部図3症例2のOCT画像a:OCTangiographyのCenface画像,表層に網膜分離症部の神経線維層が描出されている.Cb:断面図では網膜分離症部が何層にも膨化し,菲薄した神経線維層を認める.図4症例2の蛍光眼底撮影中期から後期にびまん性の過蛍光を認めたが,漏出点は認めなかった.80020網膜厚(μm)6001540010200500眼圧mmHg2015/42015/52015/62015/72015/82015/92015/102015/112015/122016/12016/22016/32016/42016/52016/62016/7disc下部厚(μm)眼圧(mmHg)図5症例2の眼圧と視神経乳頭下部の網膜分離症部の網膜厚経過眼圧と網膜厚は連動せず,網膜厚はやや増加し,網膜分離症が増悪傾向である.C図6症例2.網膜分離症発症前のOCT画像a:網膜分離症発症前のCcpRNFL測定にて右眼に比し左眼の視神経乳頭下部神経線維層の菲薄化を認める.Cb:同時期の視神経乳頭耳側網膜断面図.耳下側に網膜神経線維層の著明な菲薄化を認める.C図7症例2.網膜分離症発症後のOCT画像a:症例2,網膜分離症発症後のCcpRNFL測定にて左眼の視神経乳頭下方神経線維層が右眼に比し厚く測定されている.Cb:視神経乳頭下方に網膜分離症を発症し,網膜厚が厚くなっている.図8症例3のOCT画像a:症例3,右眼耳下側に網膜分離症を認める.OCTangiographyのCenface画像,網膜分離症部が暗く認められる.Cb:視神経乳頭下方の網膜分離症.外顆粒層より内層の各層間,層内に浮腫を認める.Cc:OCTangiographyの脈絡膜層で視神経乳頭耳下側に深い陥凹を認めた.Cd:視神経乳頭耳下側の断面図.pitは不明だが網膜分離症に接する部分の陥凹が深くなっている.より網膜分離症発症を認める(図9).MDCslopeは+0.01±0.1CdB/年と進行傾向はなかったが,網膜分離症に対応する下方視野のCMDCslopeはC.0.06±0.08CdB/年と感度低下を認めた(表2).症例C5は約C1カ月前に右眼耳下側に網膜分離症を認めた症例である.OCTCangiographyのCenCface画像で網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く,分離症部と接していることがわかる(図10).CII考按緑内障眼における網膜分離症については以前より黄斑部に及ぶ症例が報告されていたが,最近ではCOCTの解像度の向上に伴い,視神経乳頭近傍に限局する網膜分離症症例が報告され始めている.Leeら5)は視神経乳頭周囲の網膜神経線維層と黄斑部のCSD-OCTCscan,赤外線写真撮影により緑内障の網膜分離症を調査し,372人中C22人(5.9%)25眼に網膜分離症を認めたと報告.当院の症例と同様,網膜分離症は視神経乳頭に接続し,網膜神経線維層菲薄部にきたしており,C黄斑部に網膜分離症が波及している症例はなかったと報告している.Bayraktarら6)はCOCTを用いC940人の緑内障と801人の緑内障疑患者を比較調査し,緑内障群はC3.1%,緑内障疑群はC0.87%の網膜分離症を認めたとし,彼らの症例も黄斑部に網膜分離症が波及している症例はない.今回は当院で緑内障経過観察中,網膜分離症を視神経乳頭付近に認めたC5症例を報告した.当院では緑内障経過観察時全例半年ごとにOCTで視神経乳頭耳側断面を測定しており,当院での網膜分離症出現頻度は約C1.0%である.上記C2文献と比べると頻度が低いが,これらは視神経乳頭周囲全周の断面図CBモードスキャンを測定し調査しており,当院では視神経乳頭鼻側のみ測定したため,上方,下方にきたした軽度の網膜分離症を検出できなかったものと思われる.Leeらの報告5)では神経線維層のみの分離がC13眼C52%と報告しており,比較的軽度な症例が多く含まれていることがわかる.今回の症例では全例多層にわたって網膜分離をきたしていた.上記C2文献のように視神経乳頭サークルスキャンの断層像を用い軽度の症例を見逃さなければ,より高い検出率となる可図9症例4のOCT画像a,b:左眼耳上側の網膜分離症を認める.Cc:OCTangiography脈絡膜層Cenface画像,視神経乳頭陥凹は全体に拡大していた.Cd:OCT網膜分離症部断面図で視神経乳頭陥凹内部より分離症を認める.C図10症例5のOCT画像a:症例5,OCTangiographyのCenface画像,右眼耳下側に網膜分離症が暗く認められる.網膜分離症部の視神経乳頭陥凹が深く分離症部と接している.Cb:網膜分離症部の断面図.視神経乳頭陥凹に接して網膜分離症を認める.能性がある.OCTの視神経乳頭周囲のサークルスキャンに緑内障の網膜分離症の原因は以前より黄斑部に網膜分離症おいては今回症例C2で表示したように,網膜分離症をきたすをきたした症例より考察されている.Zhaoら1)は正常眼圧と厚みが増加し,神経線維層菲薄部が改善したように見える緑内障の黄斑部網膜分離症症例を報告し,緑内障に伴い神経ため,断層像を直接チェックできない機種では注意が必要で線維層菲薄化や欠損部より液化硝子体が網膜内に入り,網膜ある.C分離症または網膜.離を引き起こす危険があると考察,Zumbroら2)は緑内障患者C5人の網膜分離症につき報告,明らかな視神経乳頭の先天異常を認めない症例に網膜分離症をきたしたことより,視神経乳頭に先天異常がなくても緑内障性陥凹拡大より黄斑網膜分離症,症例によっては網膜.離をきたすことを報告している.彼らは液化硝子体が乳頭陥凹の薄い組織の小孔より漏れ出た可能性がありCopticCpitと機序が類似していると考察している.Takashinaら3)はCpitを認めない緑内障患者に黄斑分離症をきたし硝子体手術を施行,視神経乳頭上膜様組織から網膜分離症をきたし,トンネル状に硝子体と網膜分離症がつながっていたと報告している.Inoueら4)は緑内障C11人C11眼の黄斑分離症(そのうちC10眼は.離症例)を報告,視神経乳頭陥凹拡大はC0.7以上でCpitは認めていない.脆弱神経線維層,視神経乳頭部に硝子体牽引が加わり,網膜血管に沿った裂け目より液化硝子体が入る可能性につき言及している.上記のように網膜分離症は乳頭pitを認めない緑内障例で多数報告されており,緑内障による視神経乳頭陥凹拡大症例に多く,低眼圧の症例でも報告されている.今回の症例は全例網膜分離症はすべて緑内障による網膜神経線維層菲薄部に生じ,OCTで視神経乳頭陥凹部内側の網膜分離を認めた.症例C1のみCopticpitとCpit部への硝子体癒着をCOCTにて認めた.その他の症例ではCpitを認めていない.OCTangiographyのCenface画像でCpitのある症例C1では網膜分離症に接する視神経乳頭部にCpitを認めたが,pitを認めていない症例C3,5において最深陥凹部が網膜分離部に偏り,近接していた.症例C2,4では陥凹が全体に拡大していた.症例2,3,5は網膜分離症を認めるC5年以上前より後部硝子体.離をきたしており,症例C4は分離症を認める約半年前に後部硝子体.離をきたしていた.Kiumehrら7)はEDI-OCTを用い緑内障C45眼中C34眼に篩状板障害を検出したと報告,そのうちC11眼は乳頭Cpitで他はCrimの菲薄化,欠損で下方耳下側に多く上方視野感度低下が強いことを報告,Youら8)は同様にCEDI-OCTで検出できた緑内障篩状板185眼中C40眼にClamellarhole(11眼),離断(36眼)を認めたことを報告している.このように緑内障症例では後天性pitのみでなくCOCTの発展とともに緑内障篩状板障害の頻度の高さが報告されてきている.今回COCTで網膜分離症を視神経乳頭陥凹内に認め,硝子体癒着が明らかな例以外に,後部硝子体.離数年後の硝子体牽引があった可能性の少ない症例にも網膜分離症を認めたことより,Zumbroら2)の考察したように乳頭下部の篩状板部の小孔より硝子体液が網膜内に侵入し網膜分離症をきたした可能性が考えられる.菲薄化した網膜や視神経乳頭縁,血管側の小孔から網膜分離症をきたす可能性については強度近視例や視神経乳頭部の硝子体癒着例でそのような症例を認めることがあるが,今回報告した網膜分離症は視神経乳頭内から隣接する網膜線維層欠損部に扇状に及んでおり,形状が異なると思われる.経過観察中,眼圧,硝子体牽引にかかわらず,網膜分離症部の網膜厚の増減を認め,自然閉鎖が困難な篩状板小孔が原因となっている可能性がある.網膜分離症は緑内障進行に影響があるかどうかだが,今回の症例1.3は網膜分離症に対応する視野の進行傾向を認め,症例C2,3は他眼に比しとくに著明な視野進行を認めた(表2).症例C4は耳上部の網膜分離症で軽度のためか進行は少なく,症例C5は網膜分離症を最近きたした状態で現在はまだ視野進行は認めていない.網膜分離症では分離した網膜神経線維層は著明に菲薄化しており,分離症自体が悪化要因になるかどうかは不明だが,眼圧が低めでも進行性緑内障に発症しやすい可能性がある.網膜分離症の原因が分離症部に接する視神経乳頭に篩状板障害をきたしているとするとCKiumehrら9)の症例と同様に進行しやすい可能性があると思われる.網膜分離症をきたした症例に対する治療法だが,黄斑部に進展した症例はCpit-macular症候群と同様硝子体手術を施行した症例が報告されており,Inoueら4)はC11眼に硝子体手術を施行し,消失まで平均C11カ月かかったと報告している.Zumbroら2)はC1眼は緑内障濾過手術,2眼は硝子体手術で治癒したと報告している.Leeら5)はC22眼中C2眼にトラベクレクトミー,5眼に緑内障点眼を追加し,眼圧下降後の網膜分離症は軽減したと報告している.以上の報告より緑内障合併網膜分離症は黄斑部に及ぶと黄斑.離をきたす危険性もあり,定期検査,注意が必要かと思われる.硝子体手術以外に緑内障手術でも網膜分離症が治癒した報告があり,機序が不明だが網膜分離症の発症に眼圧上昇や変動が誘因になっている可能性が報告されており5,9),濾過手術による大幅な眼圧低下が有効な可能性がある2,5).今回のC5症例は網膜分離症発症時眼圧はC10.13CmmHgと低めだが,視野進行傾向に伴い点眼薬を増加し症例C2以外はさらなる眼圧降下により網膜分離症は軽減している.症例C2に関しては網膜分離症をきたした後の眼圧平均はあまり低下していなかったのでさらに眼圧を低下させる必要があるのかもしれない.これら,網膜分離症の機序や治療についてはさらなる検討が必要かと思われる.網膜神経線維層菲薄部の網膜分離症はCOCTにて同部の断層撮影をしないと発見しにくい変化である.網膜分離症は悪化すると病変が黄斑部に及ぶ危険性もあり,より眼圧を下降させる必要があると思われる.また視神経乳頭周囲サークルスキャンでの神経線維層厚の増加に注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ZhaoCM,CLiCX:MacularCretinoschisisCassociatedCwithCnor-maltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1255-1258,C20112)ZumbroCDS,CJampolCLM,CFolkCJCCetCal:MacularCschisisCandCdetachmentCassociatedCwithCpresumedCacquiredCenlargedCopticCnerveCheadCcups.CAmCJCOphthalmolC144:C70-74,C20073)TakashinaS,SaitoW,NodaKetal:MembranetissueontheCopticCdiscCmayCcauseCmacularCschisisCassociatedCwithCaCglaucomatousCopticCdiscCwithoutCopticCdiscCpits.CClinCOphthalmolC7:883-887,C20134)InoueM,ItohY,RiiTetal:Macularretinoschisisassoci-atedCwithCglaucomatousCopticCneuropathyCinCeyesCwithCnormalCintraocularCpressure.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC253:1447-1456,C20155)LeeEJ,KimTW,KimMetal:Peripapillaryretinoschisisinglaucomatouseyes.PLoSOneC9:e90129,C20146)BayraktarS,CebeciZ,KabaaliogluMetal:PeripapillaryretinoschisisCinCglaucomaCpatients.CJCOphthalmol,C2016:CID1612720C8pages,C20167)KiumehrCS,CParkCSC,CSyrilCDCetCal:InCvivoCevaluationCofCfocalClaminaCcribrosaCdefectsCinCglaucoma.CArchCOphthal-molC130:552-559,C20128)YouJY,ParkSC,SuDetal:FocallaminacribrosadefectsassociatedCwithCglaucomatousCrimCthinningCandCacquiredCpits.JAMAOphthalmolC131:314-320,C20139)KahookCMY,CNoeckerCRJ,CIshikawaCHCetCal:PeripapillaryCschisisCinCglaucomaCpatientsCwithCnarrowCanglesCandCincreasedCintraocularCpressure.CAmCJCOphthalmolC143:C697-699,C2007***

インプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較

2017年8月31日 木曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(8):1165.1168,2017cインプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較植木麻理*1小嶌祥太*1河本良輔*1三木美智子*1杉山哲也*2徳岡覚*3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2京都医療生活協同組合・中野眼科医院*3北摂総合病院眼科CComparisonofOutcomeafterTubeShuntSurgeryviaParsPlanainDi.erentTypesofGlaucomaImplantMariUeki1),ShotaKojima1),RyohsukeKohmoto1),MichikoMiki1),TetsuyaSugiyama2),SatoruTokuoka3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operative,3)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital目的:アーメド緑内障バルブ(AGV)とバルベルト緑内障インプラント(BGI)の経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術(シャント手術)成績を比較.対象および方法:術後,3年以上経過観察できたCAGI群(12例C12眼)とCBGI群(15例C16眼)の術後成績,処置を比較する.不成功はC5CmmHg≧IOP,21CmmHg<IOP,光覚なし,緑内障の再手術と定義した.結果:術後C3年の成功率はCAGIC75.0%,BGIC88.9%であった.術前,3年後の眼圧(mmHg)はCAGIC34.4±7.6,13.1C±6.1,BGIC38.0C±12.9,14.1C±3.7と有意差はなかったが,術後高眼圧期に眼球マッサージをCAGVで58.3%(平均C8.8カ月),BGIでC18.8%(平均C0.4カ月)とCAGVで有意に多く,かつ長期に施行していた.結論:シャント手術の成績は種類による差はなかったが,AGVで長期の眼球マッサージが必要であった.CPurpose:ToCcompareCtheCoutcomesCofCpars-planaCtubeCshuntCsurgeriesCwithCtheCAhmedCglaucomaCvalve(AGV)andtheBaerveldtglaucomaimplant(BGI)C.Methods:Weretrospectivelyreviewedthemedicalrecordsof12eyesof12patients(AGVgroup)and16eyesof15patients(BGIgroup)C,whichwerefollowedupformorethan3Cyears.CMainCoutcomeCmeasuresCwereCsuccessCrate,CintraocularCpressure(IOP)andCtreatmentCafterCsurgery.CFail-ureCwasCde.nedCasCintraocularCpressureC≦5CmmHgCor>21CmmHg,ClossCofClightCperception,CorCneedCforCadditionalCglaucomasurgery.Results:At3years,successrateswere75.0%inAGVand88.9%inBGI.IOPs(mmHg)beforesurgeryCandCatC3CyearsCwereC34.4±7.6,C13.1±6.1CinCAGVCandC38.0±12.9,C14.1±3.7CinCBGI;thereCwasCnoCdi.erencebetweenthetwogroups.However,digitalocularmassageinthehypertensivephaseaftersurgerywasconductedCinC58.3%CofCpatientsCinCAGV(meanCduration:8.8Cmonths)andC18.6%CofCpatientsCinCBGI(meanCdura-tion:0.4Cmonths)C.CConclusion:AlthoughCthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCoutcomesCofCpars-planaCtubeCshuntsurgerieswithAGVandBGI,longer-termocularmassagewasnecessaryinAGVgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(8):1165.1168,C2017〕Keywords:経毛様体扁平部チューブシャント手術,緑内障,アーメド,バルベルト,眼球マッサージ.pars-planatubeshuntsurgery,glaucoma,Ahmed,Baerveldt,ocular-massage.Cはじめにント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI),2014年からはプレートを有する緑内障ドレナージデバイスを用いたチュアーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomaCvalve:AGV)がーブシャント手術は結膜の瘢痕化した症例に対し有効な術式承認された.海外において前房挿入型CAGVとCBGIを比較しであり,わが国でもC2012年よりバルベルト緑内障インプラた報告は散見され,眼圧下降はCAGVよりもCBGIがよいとす〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariUeki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigakucho,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPAN表1患者背景AGV(1C2例C12眼)(C2009年C1月.C2012年C3月)BGI(1C5例C16眼)(C2012年C4月.C2013年C3月)p値病型NVG8例8眼(PDRC6眼CRVOC2眼)POAG3例C3眼SGL1例C1眼NVG7例7眼(PDRC6眼CRVOC1眼)POAG2例C3眼SGL7例C7眼内眼手術回数C3.2±1.4C2.4±1.6C0.12a緑内障手術回数C1.3±1.0C1.2±1.7C0.39a術前点眼スコアC3.3±1.8C4.1±1.7C0.28a術前眼圧C34.4±7.3C37.5±12.2C0.55a硝子体手術既往の有無有:無=10:2有:無=13:3C0.88ba:Mann-WhitneyのCU検定b:Fisherの直接法る報告が多い1,2).しかし,経毛様体扁平部挿入型同士を比較したものはない.今回,筆者らは経毛様体扁平部挿入型CAGVとCBGIを用いたチューブシャント手術の中期成績を比較したので報告する.CI対象および方法1.対象大阪医科大学にて経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術(以下,シャント手術)を施行し,3年以上経過観察できた連続したC27例C28眼.シャント手術は同一術者(MU)が施行した.AGV群が12例12眼,BGI群が15例16眼であった.AGVについては大阪医科大学倫理委員会の承認を受け経毛様体扁平部挿入型のCPC-7を挿入している.内眼手術既往,緑内障手術既往,術前の点眼スコア,術前眼圧,硝子体手術既往の有無に群間の有意差はなかった(表1).C2.方法AGVとCBGIによるシャント手術後の眼圧推移(術前,術後C3カ月,6カ月,1年,2年,3年),視力,視野変化,角膜内皮細胞密度の変化,成功率,合併症の有無をレトロスペクティブに比較検討した.視野は湖崎分類のCI期をC1点,IIa期をC2点,IIb期をC3点とスコア化し,統計学検討を行った.検討には経時変化はCone-wayCANOVA,2群間の比較にはMann-WhitneyのCU検定,生存曲線はCKaplan-Meier曲線を用いた.手術不成功はCAhmedCBarveldtCComparisonCstudy(以下,ABCstudy)に準じて眼圧がC5CmmHg以下,21CmmHgを超えるもの,緑内障による再手術,インプラントの抜去,光覚消失と定義した1).C3.基本術式および術後処置a.AGV群結膜を輪部にてC100°切開.有硝子体眼は硝子体手術を先行して行い,無硝子体眼はインフュージョン設置後,AGVを上外直筋もしくは外下直筋間に挿入し,8-0バイクリル糸およびC9-0ナイロン糸にて本体を直筋付着部後方に縫着した.輪部よりC4CmmでCV-ランスで穿刺,輪部よりC2Cmm角膜側で切端したチューブを硝子体腔内に挿入,毛様体クリップを強膜床にC9-0ナイロン糸で縫着した.チューブ被覆はマイトマイシンCC(MMC)併用線維柱帯切除術後眼では保存強膜,それ以外は自己強膜弁にて行った.全例CTenon.を直筋付着部に縫着,整復した.術後はベタメタゾンおよびレボフロキサシンC1日C4回点眼をC3カ月継続,その後C3カ月C1日C2回点眼を行った.術後C20CmmHgを超えた場合はC1日C3回の眼球マッサージを開始し,適宜,緑内障点眼を追加した,眼球マッサージはC3カ月継続後もしくはC15CmmHg以下となった時点で中止し,2週間後の再診時C20CmmHg以上でマッサージを再開し,維持できるまで継続した.適宜,眼圧下降点眼は追加した.Cb.BGI群結膜を輪部にてC120°切開した.有硝子体眼は硝子体手術を先行して行い,無硝子体眼はインフュージョン設置後,BGIを上外直筋もしくは外下直筋間に挿入し,8-0バイクリル糸およびC9-0ナイロン糸にて本体を直筋付着部後方に縫着した.輪部より4mmでV-ランスで穿刺し,輪部より2Cmm角膜側で切端したチューブを硝子体腔内に挿入し,毛様体クリップを強膜床にC9-0ナイロン糸で縫着した.チューブの被覆はCMMC併用線維柱帯切除術後眼では保存強膜,それ以外は自己強膜弁にて被覆した.全例CTenon.を直筋付着部に縫着し,整復した.術後はベタメタゾンおよびレボフロキサシンC1日C4回点眼をC3カ月継続した,その後C3カ月1日C2回点眼を行った.5-0ナイロン糸にてCripcordを設置した.内服を含めたCfullmedicationでC25CmmHgを超えるものはC4週間後にCripcordを抜去した.抜去後にC20CmmHgを超えるものはCAGVと同様にマッサージ,緑内障点眼を開始した.両群とも術後C3カ月はレボフロキサシンC1日C4回,ベタメタゾンC1日C4回点眼,術後C3.6カ月はC1日C2回で継続した.CII結果眼圧は術前,AGV群でC34.4C±7.6CmmHg,BGI群でC38.0C±12.9CmmHgであった.術後C3年間において眼圧下降は維持され,術C3年後の眼圧はCAGV群でC13.1C±6.2mmHg,BGI群でC14.1C±3.7CmmHgであった.どの期間においてもC2群間に有意差はなかった(図1).手術成功率はC3年でCAGV群でC75.0%,BGI群でC88.9%と各群間に有意差はなく(図2),不成功の原因としては,眼圧がC21CmmHgを超えるものや緑内障再手術例はなく,原疾患や合併症にて光覚なしやチューブ摘出となったものや,眼圧がC5CmmHg以下となったものであった(表2).視力,視野は術前,術後経過観察期間で両群とも有意な変化はなく,3年間維持されていた.また,角膜内皮細胞密度(cells/mmC2)は術前,術C3年後でCAGV群C1,687.6C±997.4,C1,549.3±797.5,BGI群はC1,899.5C±680.4,1,814.4C±758.5と両群とも有意な減少はなかった.2群間で差があったのは術後処置の眼球マッサージであり,術後眼球マッサージをしていたものはCAGVでC12眼中7眼(53.8%),BGIで16眼中3眼(18.8%)とAGV群で有意に多く,マッサージ継続期間もAGVでC8.8C±8.9カ月,BGIでC0.4C±1.3カ月とCAGV群で有意に長かった(図3).CIII考按AGVとCBGIによるチューブシャント手術成績の多施設前向き研究はCABCCstudyとCAhmedCversusCBaerveldtCstudy(以下,AVBstudy)が知られている.ABCstudyでは不成功率はC3年でCAGV31.3%,BGI32.3%,5年でCAGV44.7%,BGI39.4%と有意差はなかったが,眼圧コントロールで不成功となったものは不成功群のなかでCAGI80%,BGI53%とCAGVで多く,眼圧コントロールはCAGVで悪かった.しかし光覚消失やインプラント摘出などの合併症はCBGIがAGVのC2倍であったという結果となった1,2).一方,AVBstudyでは,5年での不成功率はCAGV53%,BGI40%と有意にCBGIで少なく,最終眼圧もCBGIが低く,合併症の発症率は有意差がなかったとしている2).今回の結果ではC3年の経過観察で不成功がCAGVC25%,BGIC12.5%と両群間に有意差はなく,緑内障再手術はなく,不成功となったのは光覚消失および低眼圧,インプラント摘生存曲線1.8.6.4.203年生存率(AGV):75.0%p=0.18(BGI):88.9%061218243036術前36122436(月)(月)Mann-WhitneyのU検定図2生存曲線aorb:p<0.01(One-wayANOVA)図1眼圧の推移20表2不成功の原因眼球マッサージ継続期間(月)AGVCBGIIOP>2C1CmmHg0眼0眼CIOP≦5CmmHg3眼2眼緑内障再手術0眼0眼光覚なし2眼2眼チューブ摘出2眼2眼合計3眼(25%)2眼(1C2.5%)151050重複ありAGVBGI図3眼球マッサージ継続期間*:p<0.05:Mann-WhitneyのCU検定.C出によるものであった.ABCCstudyでのC3年の不成功率はAGV51%,BGI34%であり3),今回の結果はこれと比較して不成功率は低くなった.過去の経毛様体扁平部挿入型インプラント手術の成績はC2.3年でC80%以上の良好なものが多く4.6),また,前房型と経毛様体扁平部挿入型を比較した報告では,眼圧コントロール率はC80%以上と良好であり,有意差はなかった.これは前房型で血管新生緑内障が少なく,原発開放隅角緑内障が多い傾向があったことが関与している可能性がある6).今回,筆者らの症例では半数以上が血管新生緑内障であったが,不成功例が少なかったのは硝子体手術により網膜病変が落ち着いていたことも一因ではないかと推察された.Hypertensivephase(HP)はチューブシャント術後,数週間.数カ月に発症する眼圧上昇で,どのタイプのインプラントでも起こるが,とくにCAGVにて多く,40.80%と報告されており7.9),その原因として術後,プレート周囲組織が炎症細胞やサイトカインに曝露することが推察されている10,11).HPは手術不成功のリスクファクターであるが7.11),McIlraithらはCHPに眼球マッサージを平均C4カ月継続することでC1年後の術後緑内障点眼を減少させることができる12)と初めてCHPに対する眼球マッサージの有効性を報告した.また,Smithらは眼球マッサージで眼圧が下降する症例では,6カ月後に半数の症例でC20%以上の眼圧下降が可能であったと報告している13).筆者らの症例ではCHPにCAGVでCBGIよりも多くの症例が眼球マッサージをしており継続期間も長かったが,観察期間内の眼圧は有意差なく,3年後には眼球マッサージなしで眼圧コントロール可能であった.経毛様体扁平部挿入チューブシャント手術はC3年の中期において眼圧下降はCAGV,BGIで有意差なく,有効な術式であったが,AGVでは多くの症例が眼圧コントロール維持に長期にわたる眼球マッサージが必要であった,利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BudenzCDL,CBartonCK,CGeddeCSJCetCal:Five-yearCtreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC112:308-316,C20152)ChristakisPG,KalenakJW,TsaiJC:TheAhmedVersusBaerveldtCStudy:Five-YearCTreatmentCOutcomes.COph-thalmologyC123:2093-2102,C20163)BartonK,FeuerWJ,BudenzDLetal:Three-yeartreat-mentCoutcomesCinCtheCAhmedCBaerveldtCcomparisonCstudy.OphthalmologyC121:1547-1557,C20144)JeongCHS,CNamCDH,CPaikCHJCetCal:ParsCplanaCAhmedCimplantationCcombinedCwithC23-gaugeCvitrectomyCforCrefractoryCneovascularCglaucomaCinCdiabeticCretinopathy.CKoreanJOphthalmolC26:92-99,C20125)BanittCMR,CSidotiCPA,CGentileCRCCetCal:ParsCplanaCBaer-veldtCimplantationCforCrefractoryCchildhoodCglaucomas.CJGlaucomaC18:412-417,C20096)RososinskiA,WechslerD,GriggJ:RetrospectivereviewofparsplanaversusanteriorchamberplacementofBaer-veldtCglaucomaCdrainageCdevice.CJCGlaucomaC24:95-99,C20157)AyyalaCRS,CZurakowskiCD,CSmithCJACetCal:ACclinicalCstudyoftheAhmedglaucomavalveimplantinadvancedglaucoma.OphthalmologyC105:1968-1976,C19988)Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:EvaluationofthehypertenC-siveCphaseCafterCinsertionCofCtheCAhmedCGlaucomaCValve.CAmJOphthalmolC136:1001-1008,C20039)JungCKI,CParkCCK:RiskCfactorsCforCtheChypertensiveCphaseCafterCimplantationCofCaCglaucomaCdrainageCdevice.CActaOphthalmolC94:260-267,C201610)FreedmanCJ,CIserovichCP:Pro-in.ammatoryCcytokinesCinCglaucomatousCaqueousCandCencystedCMoltenoCimplantCblebsCandCtheirCrelationshipCtoCpressure.CInvestCOphthal-molVisSciC54:4851-4855,C201311)GeddeSJ,PanarelliJF,BanittMRetal:Evidenced-basedcomparisonCofCaqueousCshunts.CCurrCOpinCOphthalmolC24:87-95,C201312)McIlraithCI,CBuysCY,CCampbellCRJCetCal:OcularCmassageCforCintraocularCpressureCcontrolCafterCAhmedCvalveCinser-tion.CanJOphthalmolC43:48-52,C200813)SmithCM,CGe.enCN,CAlasbaliCTCetCal:DigitalCocularCmas-sageCforChypertensiveCphaseCafterCAhmedCvalveCsurgery.CGlaucomaC19:11-14,C2010***

基礎研究コラム 3.次世代シーケンサーとエピゲノム解析

2017年8月31日 木曜日

次世代シーケンサーとエピゲノム解析次世代シーケンサーとエピゲノム解析の発展神経,皮膚など異なる系譜の細胞ごとに,利用される遺伝子発現の制御領域や染色体領域は異なっており,DNAのメチル化やヒストンの化学修飾による標識,転写因子結合,クロマチン相互作用といったエピゲノムが関与しています.遺伝子発現の制御領域は,転写開始点直近のプロモーター領域のみならず,遺伝子領域から数百kb(キロ塩基対)離れているエンハンサー領域などにも認められ,このような領域はヌクレオソームがはずれたオープンクロマチン領域であることがわかっています.これらの制御領域は,転写因子やコファクターを介して,転写開始点と空間的に近接することにより相互作用を及ぼすと考えられています.当初,これらのエピゲノム解析は免疫染色などの細胞レベルで行われてきましたが,次世代シークエンサーを用いた測定技術の大幅な性能向上により,さまざまな細胞の全ゲノムレベルでの高解像度なエピゲノム解析が可能になりました(図1).ヒストン修飾や転写因子結合領域に関しては,クロマチン免疫沈降(ChIP)に次世代シークエンサーを組み合わせたChIP-seq,オープンクロマチン領域はDNase-seq,FAIRE-seq,ATAC-seq,クロマチン相互作用については4C(circularchromosomeconformationcapture)やHi-C,ChIA-PET法が考えられています.ENCODEprojectやRoadmapepigenomicsprojectらにより,多くの細胞腫におけるエピゲノムデータが報告されており,UCSCgenomebrowser(https://genome.ucsc.edu/)などで参照できるようになっています.眼の領域ではどうでしょうか網膜ではすでに網膜色素上皮細胞において,ENCODEやEpigenomeRoadmapprojectでも詳細な解析が行われています.しかし,角膜においてはほとんど解析が進んでいませんでした.筆者らは,角膜上皮細胞におけるエピゲノム解析を行い,他細胞と比較しました.その結果,角膜細胞に特徴的なオープンクロマチン領域や,ヒストン修飾や転写因子結合,クロマチン相互作用が明らかとなり,角膜上皮細胞の分化維持において,特徴的なエンハンサーに対するkey転写中川卓旭中央病院眼科東京大学大学院医学系研究科眼科学図1次世代シーケンサーを用いたエピゲノム解析次世代シーケンサーを用いたエピゲノム解析により,さまざまな細胞の全ゲノムレベルでのエピゲノムが高解像度で把握可能となった.これまで蓄積された多くのエピゲノムデータはUCSCgenomebrowser(https://genome.ucsc.edu/)などで参照できる.因子の結合と,エンハンサー・プロモーター間のクロマチン相互作用が,角膜における特異的な遺伝子発現の転写制御に重要であることが示唆されました(投稿準備中).今後の展望次世代シーケンサーを用いたエピゲノム解析により,角膜上皮細胞の分化維持のメカニズムを全ゲノムレベルでバイアスなく捉えることができます.これらにより,角膜疾患の病態メカニズムの解明と新規治療法の開発につながることが期待されます.新規治療にはエピゲノムの修飾による薬物治療や,角膜上皮細胞へのダイレクトリプログラミングのような再生医療への応用が考えられます.文献1)ENCODEProjectConsortium:Anintegratedencyclope-diaofDNAelementsinthehumangenome.Nature6:57-74,20122)RoadmapEpigenomicsConsortium,KundajeA,MeulemanWetal:Integrativeanalysisof111referencehumanepigenomes.Nature518:317-330,2015(81)あたらしい眼科Vol.34,No.8,201711550910-1810/17/\100/頁/JCOPY

二次元から三次元を作り出す脳と眼 15.眼優位コラム

2017年8月31日 木曜日

連載⑮二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめに両眼の対応点の情報は,後頭葉第一次視覚野(以下V1)で互いに隣り合う場所に到達して,右左それぞれの情報の優位な柱状構造(コラム)を作る.コラムは中心窩を基準とする網膜内の位置関係を保ちながら,右左右左…と交互に並ぶ.このような構造を眼優位コラム(oculardominancecolumn)とよぶ.コラムは生後,両眼から同等の視覚刺激を受けることにより形成され,発育期の弱視や弱視によって患眼のコラムの幅が狭くなるなどの変化をきたす.この発見は発育期の外的刺激の変化が脳の神経回路構築に影響を及ぼすことを示し,視覚情報処理の分野を超えて脳の可塑性について新たな視点をもたらした.眼優位コラム視覚の流れについて考える(図1).座標軸原点0を固視するとき,0は両眼中心窩に映る.原点0の左側の点1~5は中心窩より同じ方向(右側)に同じ距離ずれたaL点,網膜対応点に投影される.対応点同士の情報は視交叉より後ろで互いに併走し,外側膝状体を経てV1の隣り合う場所に到達して柱状構造(コラム)を作る.図1aでは中心窩を含む水平軸上の点0~5の一対のコラムのみを示すが,実際にはすべての軸方向に対してコラムが存在する.左右眼のコラムが互い違いに,なおかつ網膜内での位置関係を保って並ぶ.図1bではV1の1~6層を立体的に示す.左右眼の情報が外側膝状体を経て4層に達する(注:細かくはP系情報は4Cb層,M系情報は4Ca層と,達する亜層が異なるが,ここでは簡略化して4層とする).この細胞は単眼反応性であり,4層以外に情報を送る.そこで左右眼の情報が初めて合流する(図では2/3層).4層以外の細胞はほとんど両眼反応性である.両眼反応性細胞は4層の影響を受けるため左右眼の刺激に対する反応に差があり,黄色コラム内では右眼,青色コラム内では左眼の刺激に強く反応する.どちらかの眼の刺激や情報が優位に働く柱(コラム)が交互に並ぶ構造を眼優位コラムとよぶ.コラムの幅はヒ1層2/3層4層5層6層網膜神経節細胞第一次視覚野(V1)左眼コラム右眼コラムLRLRLRLR図1眼優位コラムa:両眼網膜対応点の情報はV1で隣り合う場所に到達し,右左眼それぞれの情報の優位なコラムを作る.b:左右眼の網膜神経節細胞からの情報は,外側膝状体を経てV1の4層に達する.これらの細胞は単眼反応性である.コラムの境界の細胞◎は両眼から同等に情報を受け取り,両眼視細胞(視差選択性細胞)として働く.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.8,201711530910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2HubelとWieselによるマカクサルの大脳皮質切片の暗視野オートラジオグラフ(1982年)a:VI垂直断面写真.右眼に注射したマーカー物質が外側膝状体を経てV1に到達したあとに,脳の断面をオートラジオグラフで撮影した.白い縞は右眼優位コラム(図1bの黄色の縞)を示す.その間の部分は左眼優位コラム(図1bの青い縞)を示す.b:V14層水平断面写真.(文献1より許可を得て改変転載)トではおよそ1mmである.コラム境界の細胞◎は両眼から同等に情報を受け,両眼視差に反応する視差選択性細胞であり,両眼視細胞ともよばれる(連載⑭参照).眼優位コラムは1963年にHubelとWieselによって初めて報告された1).図2は1982年に『別冊サイエンス』に掲載された二人による総説から引用した写真である.マカクサルの右眼に注射したマーカー物質が,外側膝状体を経てV1に到達したあとに,脳の断面を特殊な方法(オートラジオグラフ)で撮影している.白く光る縞状の部分がマーカーの到達した部分で,右眼優位コラムの4層を表す.間の暗く抜けた部分が左眼からの情報が届く左眼コラムである.白い縞は図1bの黄色の縞に,暗い部分は青い縞に相当する.眼優位コラムと弱視・斜視サルやネコで幼少期に片方の眼瞼を縫合して視覚入力を遮断すると,縫合眼に対応するコラムの幅が狭くなったり,眼筋を切断して斜視の状態で育てると,両眼視細胞が認められなくなったりすることも,二人の研究から明らかになった(図3).この発見は,発達期の外的刺激の変化が脳の神経回路構築に恒常的な変化を残すことを示し,視覚情報処理のみならず脳の可塑性について新た1154あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017LRLRLRLR1層V22/3層4層5層6層LRLRLRLR図3右眼瞼縫合後のV1眼優位コラムの変化右眼瞼を縫合し,右眼の視覚入力が遮断された状態で成長したサルは,右眼に対応するコラムの幅が狭く,左眼のコラムは広くなる.コラム境界の細胞には左眼からの入力しか届かず,両眼視細胞として育たない.な視点をもたらした.一連の研究により,二人は1981年ノーベル医学生理学賞を受賞している.発達のある時期の外的刺激により恒常性の変化を残す期間を感受性期間あるいは臨界期とよぶ.ヒトでのコラムの証明は長らく困難であったが,特殊例やMRIの進歩で実証されていく2,3).生後4カ月に片眼角膜混濁,20年後に同眼の網膜.離を患った92歳の剖検例において,細胞代謝活性の指標となるチトクロム酸化酵素染色を行い,患眼のコラムの狭細化を認めたと報告された.生体においては高磁場MRIを用いてV1優位コラムの同定がある程度可能になった.機能的MRIを用いた研究により,片眼弱視患者のV1や高次視覚野において弱視眼刺激時の機能低下を認めたこと,斜視・不同視弱視患者においてコラム狭細化を認めたこと,ただしそれは早期発症例のみで,晩期発症例では認めなかったことが報告されている.基礎医学では臨界期を延長させたり,一度終了した臨界期を再開させたり等ができないか研究が行われている.文献1)ヒューベルDH,ウィーゼルTN:視覚の脳内機構.脳を探る(塚田裕三編),別冊サイエンス50,日経サイエンス,p82-97,19822)増田洋一郎:視覚心理と神経眼科ヒト第一次視覚野の可塑性と安定性.神経眼科26:371-381,20093)三木淳司,山下力:弱視の病因論について,これまでの変遷を含めて教えてください.弱視・斜視のスタンダード(不二門尚編),眼科診療クオリファイ22,p58-61,中山書店,2014(80)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 171.Arruga suture syndrome(中級編)

2017年8月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載171171Arrugasuturesyndrome(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにArrugasuturesyndromeは強膜バックリング手術後に生じる合併症の一つである.バックル素材としてシリコーンが普及する前に,Arrugasutureという糸を用いて輪状締結術を施行していた時期があった.このArru-gasutureに使用された糸が強膜さらには脈絡膜を侵食し,網膜をテント状に吊り上げたり,硝子体腔内に露出するなどの合併症をきたすことがあり,これをArrugasuturesyndromeとよぶ.筆者は以前にArrugasuturesyndromeの1例を経験し報告したことがある1).●症例62歳,男性.40年以上前に左眼の裂孔原性網膜.離に対して某病院にて強膜バックリング手術を受けた.網膜は復位したが,経過中,結膜充血,結膜浮腫,軽度の眼瞼下垂が持続していた.最近左眼の霧視を自覚するようになり,当科を受診した.左眼の矯正視力は(0.5),眼圧は20mmHgであった.左眼の前眼部には虹彩炎を認め,角膜後面には多数の色素細胞の付着を認めた(図1).左眼眼底は軽度の硝子体混濁,網膜色素上皮萎縮,網膜下索状物を認めたが,網膜は復位していた.全周に丈の高い輪状締結の隆起を認めたが,下方のバックルの隆起を食い破るように光沢のある紐状の異物を硝子体腔内にあるのを認めた(図2).Arrugasuturesyndromeと診断し,左眼の虹彩炎に対して低濃度のステロイド点眼を開始し,炎症はその後消退した.●Arrugasuturesyndromeの臨床的特徴Arrugasutureに用いられるスプラミッド糸は非吸収性合成糸である.Arrugasutureはシリコーン素材に比べて幅が狭く,単位面積あたりの絞扼力が強くなる上に弾性が少ないので,眼球壁を侵蝕しやすい.直径は2mm程度で表面はやや光沢を帯びている.Arrugasuturesyndromeの眼所見としては,結膜炎,虹彩炎,(77)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1左眼の前眼部写真虹彩炎を認め,角膜後面には多数の色素細胞の付着を認める.(文献1より引用)図2左眼の眼底写真下方のバックルの隆起を食い破るように光沢のある紐状の異物を硝子体腔内にあるのを認める.(文献1より引用)眼瞼下垂,硝子体混濁,網脈絡膜萎縮などがある.●Arrugasuturesyndromeの硝子体手術適応通常は経過観察するが,眼球内へのArrugasutureの侵入によって裂孔原性網膜.離が再発した症例,非裂孔原性テント状.離が黄斑部に及んだ症例,網脈絡膜出血や硝子体出血が生じた症例では,硝子体手術の適応となることがある.従来は眼外よりArrugasutureを除去する方法が用いられてきたが,眼内液の漏出や眼球破裂の危険がつきまとうので,硝子体手術によって眼内から治療するほうが理に適っている.その際には,眼内から硝子体剪刀や硝子体カッターで硝子体腔に露出したArrugasutureを部分的に除去し,穿孔部位に眼内光凝固を施行するのが一般的と考えられる.●おわりにArrugasuturesyndromeのようにバックル材料が強膜を浸食し,硝子体腔内に脱出したとする合併症は,シリコーンバンドやロッドでも報告があり,とくに強度近視眼で強膜がもともと菲薄化しているような症例では注意が必要である.また,輪状締結を施行する際には,必要以上に締めすぎないことも重要と考えられる.文献1)KitagakiT,MorishitaS,KohmotoRetal:Acaseofintra-ocularerosionandintrusionbyanArrugasuture.CaseRepOphthalmol7:174-178,2016あたらしい眼科Vol.34,No.8,20171151

斜視と弱視のABC 12.甲状腺眼症

2017年8月31日 木曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保12.甲状腺眼症木村亜紀子兵庫医科大学眼科学講座甲状腺眼症の特徴と検査について述べる.甲状腺眼症の臨床症状は大きく眼瞼症状,眼球突出,複視,視力低下に分類され,すべてに共通して,炎症期には消炎が,慢性期には観血的治療が優先される.複視や視力低下などの重症型では,とくに積極的な治療により後遺症を最小限に抑えることが重要である.はじめに甲状腺眼症の中には,他人から最近顔貌が変わったと指摘されて眼科を受診するものがある一方,複視や視力障害などの重篤な症状で受診するものもあり,病態は多彩である.そのため,甲状腺眼症は常に念頭に置いていなければ,他疾患に交じり見逃されやすい疾患ともいえる.治療時期を逸すると重症化する.特徴をつかんで速やかに診断・治療へとつなげる必要がある.甲状腺眼症の基本事項必ずしも甲状腺機能亢進症を伴っているわけではなく,甲状腺機能が正常な場合もある(euthyroidGraves’disease,CeuthyroidCthyroidCophthalomopathy).基本的には甲状腺機能ではなく甲状腺関連自己抗体と関連がある1).甲状腺眼症を疑った場合には,甲状腺機能だけでなく,甲状腺関連自己抗体を調べることが必須である(表1).ただし,甲状腺機能亢進症があれば,甲状腺機能の正常化が最優先である.また,甲状腺眼症は両眼性と思われがちだが,約半数は片眼性であり2),眼症は局所でサイトカインネットワークなどを中心とした炎症により増悪していく疾患であることを忘れてはならない.炎症期と非炎症期甲状腺眼症は大きく炎症期と非炎症期(慢性期)に分けられ,炎症期には消炎が,非炎症期には観血的治療が行われるため,その判断が速やかになされることが重要である.治療の時期は大切で,時期を逸すると重症化,再発のリスクが上昇する.炎症期の判断はCMRI画像がもっとも適しているが,臨床的にも簡便に判断する方法としてCclinicalCactivityscore(CAS)がある3)(表2).炎症期かどうかのおおよその判断をつけてからCMRIへ進むほうが良い.甲状腺(75)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1甲状腺眼症採血セットFreeT3CFreeT4サイログロブリン甲状腺刺激性抗体(TSAb)TSHレセプター抗体(TRAb)抗サイログロブリン抗体抗ペルオキシダーゼ抗体抗CAChR抗体**甲状腺眼症は筋無力症との合併が多いため,抗アセチルコリンレセプター(AChR)抗体も同時に採血しておく.眼症の眼窩CMRIでは,造影せずに炎症の有無がわかるSTIR法(shortCTICinversionCrecovery)が有用である(図1).甲状腺眼症の臨床症状症状は大きく四つに分類できる.眼瞼症状,眼球突出,複視,視力障害である.i)眼瞼症状眼瞼症状は整容的な問題だけでなく,角膜障害により視力低下をきたすこと,涙液異常をきたすことなどが指摘されている.上眼瞼挙筋の炎症が原因で生じている上眼瞼後退症には,トリアムシノロンアセトニドの局所注射が著効する(図1).慢性期は上眼瞼延長術などが施行され,上眼瞼の浮腫・腫脹に対しては脂肪を取り除く上眼瞼形成術が施行される3).ii)眼球突出高度な眼球突出では,整容面での問題に加え角膜上皮障害あるいは角膜潰瘍などの重症な角膜障害をきたす.最近の眼窩減圧術はClateralapproachが主流となり,術後の斜視の発生率はきわめて低いと報告されている3).整容目的での眼窩減圧術はあり得ないという時代は,現あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017C1149表2Clinicalactivityscore球後痛眼球運動痛眼瞼発赤眼瞼腫脹結膜浮腫結膜充血涙丘腫脹本来はC10項目からなるが,視診のみで判断できるのはC7項目である.3点以上あれば炎症期と考えられる.図1甲状腺眼症の上眼瞼後退症a:眼窩MRI,STIR法,矢状断.上眼瞼挙筋(C..)が高信号で描出されている.Cb:トリアムシノロンアセトニド投与前.c:投与2週間後.C在の眼形成の世界では過去の話である.iii)複視複視が初発症状のことも少なくない.甲状腺眼症では罹患筋の肥大・炎症に始まり機械性斜視をきたすのが特徴である.たとえば,下直筋が罹患筋の場合,外眼筋炎であれば患側の上斜視と下転制限(麻痺性パターン)を呈するが,甲状腺眼症では患側の下斜視と上転障害(伸展障害,拘縮性の眼球運動障害)をきたす.下直筋が罹患筋となりやすいことから,上方視での複視に始まり正面視での上下斜視,顎上げの頭位異常をきたすことが多い(眼球が下転位をとるため下方視に両眼単一視野がある).複数筋に炎症が認められた場合にはステロイドパルス療法の適応だが,ステロイドパルス療法のみで複視が消失する確率は低く,消炎後,眼位が安定すれば斜視手術の適応である.斜視手術は罹患筋の後転術が基本である.iv)圧迫性視神経症甲状腺眼症の外眼筋肥大の形状はコカ・コーラボトル様と表現されるように,筋付着部ではなく筋腹(もしくはそれ以降)の肥大を呈するため,最重症型では眼窩先端部で視神経が圧迫される.視力低下に加え,眼圧上昇を伴っている.炎症期であれば早急にステロイドパルス治療を行い,2週間して圧迫の解除が得られなければ眼窩減圧術の適応である.おわりに甲状腺眼症では喫煙は重症化の危険因子であり,禁煙は最初の治療といえる.甲状腺眼症の治療においては,患者にとって,発病前とは異なる容姿を受け入れるという精神的苦痛も伴っていることを忘れずに治療にあたる必要がある.文献1)NohCJY,CHamadaCN,CInoueCYCetCal:Thyroid-stimulatingCantibodyisrelatedtoGraves’ophthalmopathy,butthyro-tropin-bindingCinhibitorCimmunoglobulinCisCrelatedCtoChyperthyroidisminpatientswithGraves’disease.ThyroidC10:809-813,C20002)保科幸次:甲状腺眼症210例の検討と新たな診断基準の提案.兵庫医科大学医学会雑誌35:89-95,C20103)MouritsCMP,CKoornneefCL,CWiersingaCWMCetCal:ClinicalCcriteriaCforCtheCassessmentCofCdiseaseCactivityCinCGraves’ophthalmopathy:anovelapproach.BrJOphthalmolC73:C639-644,C19894)松田弘道,柿﨑裕彦:甲状腺眼症に対する手術治療.眼科手術26:319-328,C20131150あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017(76)

眼瞼・結膜:眼表面扁平上皮腫瘍

2017年8月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人永田真帆29.眼表面扁平上皮腫瘍京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学眼表面に生じる異常増殖を眼表面扁平上皮腫瘍とよび,結膜上皮の異形成症,上皮内癌,扁平上皮癌などが含まれる.日常診療で出会うことは少なく,腫瘍としての認識が遅れたり,腫瘍とわかっていても対処に迷う場合がある.異常上皮を慎重に観察し,悪性が疑われる場合は早期に眼表面腫瘍に詳しい専門医に相談することが望ましい.C●はじめに眼表面扁平上皮腫瘍(ocularCsurfaceCsquamousCneo-plasia:OSSN)は,眼表面に生じる腫瘤性病変全体の総称で,異形成症,上皮内癌,扁平上皮癌などを含む.OSSNは,臨床所見が互いに類似しており,前眼部所見だけで扁平上皮癌などの診断をつけることは困難である.そのため,臨床上,眼表面の扁平上皮系腫瘍を総称して“眼表面扁平上皮腫瘍”とするようになった.一般診療で出会うことが少ない疾患であり,出会ったときに診断に困らないよう,特徴的な所見,所見のバリエーション,前眼部診察のコツ,悪性を疑う所見など,診断の助けになる情報を中心に述べる.C●特徴的な所見異形成症,上皮内癌,扁平上皮癌は,典型的には瞼裂部の角膜輪部から球結膜にかけて生じ,境界明瞭で血管豊富なやや隆起した腫瘤として観察される.打ち上げ花火状血管といわれる微細な蛇行血管が放射状に配列している所見や,腫瘍に流入するやや太い栄養血管が特徴的である.腫瘍の性状は多様で,①表面が膠様で比較的平坦な半透明の境界明瞭な腫瘤(gelatinousCtype),②表面がベルベット状の境界明瞭な腫瘤(velvetytype),③血管が豊富で凹凸が大きくカリフラワー状結節がある乳頭腫様のもの(papilliformtype),④角化を伴う白板状の沈着を伴うもの(leukoplakictype)がある(図1).進行のタイプは,平面上に薄く伸展していくもの(di.usetype)と,充実性の腫瘤が立体的に大きく隆起してくるもの(nodularCtype)がある(図2).白板状の病変や透明で平坦な病変では,腫瘍と認識されにくく,腫瘍が拡gelatinoustypevelvetytypepapilliformtypeleukoplakictype図1OSSNの臨床病型図2OSSNの進行様式di.usetypenodulartype(73)あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017C11470910-1810/17/\100/頁/JCOPY図3フルオレセイン染色とscleralscatteringによる観察図4扁平上皮癌の病理組織大して初めて腫瘍と認識される場合も多い.C●診察のポイント特徴的な所見を伴う病変は腫瘍と診断しやすいが,結膜とよく似た半透明の平坦な病変は見落としやすい.そういった場合には,フルオレセイン染色を行うと,表面が不整な部分が明らかとなるうえ,腫瘍部分の透過性亢進もみられる場合があり,腫瘍の範囲を把握しやすくなる.半透明な病変が角膜表面に薄く進展しているときは,scleralCscatteringの手法により腫瘍の範囲が明らかとなる(図3).C●臨床所見と病理診断臨床所見では,異形成症の多くは無茎の平坦な隆起性病変で進行が遅く,扁平上皮癌は他に比べてより大きく隆起することがあり,腫瘤拡大が早いとされる.しかし,臨床所見だけで組織型を特定することは非常に困難1148あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017であり,鑑別のためには病理学的診断が必須である.C●病理組織分類細胞異形を示す異常増殖細胞が角膜上皮層内の一部分にみられるものはCmilddysplasia,比較的均一な異常増殖細胞が角膜上皮のほぼ全層に置き換わっているものはseveredysplasiaと定義される.角膜上皮層すべてが高度な核異型や核分裂像,異常角化などを示す不均一な癌細胞に置き換わり,異常増殖が基底膜内に留まっているものは上皮内癌,基底膜より下にまで浸潤しているものは扁平上皮癌と定義される.異形成症では基底膜が比較的平坦であるのに対し,上皮内癌,扁平上皮癌では,間質方向への異常増殖により,増殖組織が小葉状に下方へ突出し基底が不整となる(図4).扁平上皮癌では,基底膜下への浸潤を示す間質方向への索状の突出や,間質内の巣状の癌細胞塊が認められ,間質の炎症反応が強い.C●おわりにOSSNはまれな疾患であり,とくに平坦な病変では見過ごされやすい.なかには,慢性結膜炎などとして経過観察され,腫瘍が眼表面全体に広がってから気づかれる症例もある.特徴的な所見や,所見のバリエーションを認識し,少しでも腫瘍を疑うようなら早めに眼表面腫瘍に詳しい眼科医に紹介することが望ましい.文献1)LeeCGA,CHirstCLW:OcularCsurfaceCsquamousCneoplasia.CSurvOphthalmolC39:429-450,C19952)ShieldsCCL,CShieldsCJA:TumorsCofCtheCconjunctivaCandCcornea.SurvOphthalmolC49:3-24,C2004(74)

抗VEGF治療:網膜静脈閉塞症に対するレーザー治療と手術

2017年8月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二43.網膜静脈閉塞症に対する佐藤新兵井上麻衣子横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科レーザー治療と手術網膜静脈閉塞症による視力障害のおもな原因は黄斑浮腫と血管新生および硝子体出血である.本稿では網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)と網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に対するレーザー治療および手術治療をそれぞれ概説する.網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)による視力障害のおもな原因は黄斑浮腫と硝子体出血である.黄斑浮腫は急性期にみられ,治療抵抗性を示すと,ときとして慢性化する.BRVOに伴う黄斑浮腫に対するレーザー治療として,BranchVeinOccluC-sionCStudyにより格子状光凝固が標準治療として推奨されてきたが1),わが国では一般的には施行されていないのが現状である.周辺部無血管領域への光凝固はBRVO慢性期の硝子体出血のリスクを低減させる効果は認められているものの,黄斑浮腫への治療効果は議論のあるところである2).しかし,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfactor:VEGF)療法後に黄斑浮腫が再発する症例に対し,周辺部無血管領域に光凝固を施行することで,以降の黄斑浮腫の再発を予防できた症例にしばしば遭遇する(図1,2).抗CVEGF療法に抵抗性を示す症例に対していたずらに治療を長期化させるよりも,無血管領域への光凝固を検討する余地はある.虚血が強く再発を繰り返す症例や,抗CVEGF薬の頻回投与を望まない症例では,硝子体手術も考慮する.BRVOに伴う黄斑浮腫に対して硝子体手術が奏効する機序として,①後部硝子体や網膜前膜,内境界膜による黄斑部への牽引の解除,②硝子体腔に貯留したCVEGFなどのサイトカインの除去,③酸素分圧が高い房水が硝子体腔を灌流することによる網膜内酸素濃度の上昇,が考えられている.図1網膜静脈分枝閉塞症症例の初診時所見視神経乳頭上耳側から周辺部にかけての斑状出血と,.胞様黄斑浮腫がみられる.図2図1の治療後所見ラニビズマブC3回投与後では上耳側周辺部に広範な無血管領域がみられる.同部位に光凝固施行後はC2年間にわたり黄斑浮腫の再発はみられなかった.(71)あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017C11450910-1810/17/\100/頁/JCOPY慢性期において,遷延する硝子体出血や裂孔原性網膜.離を生じた場合には,硝子体手術が必要になる.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)において治療対象となる病態は血管新生と黄斑浮腫である.血管新生に対する治療法としては,虚血が強い症例においては抗CVEGF薬のみでは効果不十分な場合が多く,汎網膜光凝固が施行されることに異論はない.しかし,虚血が軽度である症例においては,開放隅角期であれば虹彩新生血管がみられてから汎網膜光凝固を施行することも検討される.CRVOに伴う黄斑浮腫に対するレーザー治療としては,CentralVeinOcclusionStudyにおいて格子状光凝固の有用性が検討され3),黄斑浮腫を軽減する効果は認められたものの,視力の改善は得られないことが示された.この結果を受け,わが国でも一般的には格子状光凝固は施行されていない.BRVOと同様に,CRVOにおいても虚血が強く再発を繰り返す症例や抗CVEGF薬の頻回投与を望まない症例,また硝子体出血をきたした症例では硝子体手術が検討される.大規模な無作為試験は施行されておらず,エビデンスとしては確立していないものの,非虚血型の症1146あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017図3網膜中心静脈閉塞症に対する網膜血管内治療マイクロニードルを視神経乳頭上から網膜中心静脈に穿刺している.穿刺後はバックラッシュニードルで出血を吸引している.図4図3の症例の網膜血管内治療前後の蛍光造影写真とOCT像術前には高度の虚血と黄斑浮腫がみられるが,術後には改善している.例では視力の改善がみられたとの報告がある.これまで,CRVOの根治治療として網膜中心静脈内の血栓の溶解除去療法が有望視されてきた.近年では先端径C50Cμmというマイクロニードルが開発され,網膜血管内治療が試みられており,一定の治療効果と安全性が報告されている4)(図3,4).現状では高度虚血で治療抵抗性を示す症例を対象としているため,視機能の維持が主目的とならざるを得ないものの,今後の治療技術や診断検査機器の進歩により,網膜血管内治療が難症例克服への切り札となることが期待される.文献1)TheCBranchCVeinCOcclusionCStudyCGroup:ArgonClaserCphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclu-sion.AmJOphthalmol98:271-282,C19842)CampochiaroPA,Ha.zG,MirTAetal:Scatterphotoco-agulationCdoesCnotCreduceCmacularCedemaCorCtreatmentburdenCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusion:TheCRELATETrial.OphthalmologyC122:1426-1437,C20153)TheCCentralCVeinCOcclusionCStudyCGroup:EvaluationCofCgridCpatternCphotocoagulationCforCmacularCedemaCinCcen-tralCveinCocclusion:theCCentralCVeinCOcclusionCStudyCGroupMreport.OphthalmologyC102:1425-1433,C19954)KadonosonoCK,CYamaneCS,CArakawaCACetCal:Endovascu-larCcannulationCwithCaCmicroneedleCforCretinalCveinCocclu-sion.JAMAophthalmolC131:783-786,C2013(72)