●連載213監修=岩田和雄山本哲也213.緑内障と腫瘍壊死因子(TNF)北岡康史聖マリアンナ医科大学眼科学緑内障の原因は多因子であり,眼圧以外では老化,グルタミン酸,血流障害,酸化ストレス,サイトカインなどが報告されている.サイトカインのなかでも腫瘍壊死因子(TNF)はある種の緑内障と関係があると考えられており,ここでは現在までに知られている知見を紹介する.C●前房水のTNF手術時の前房水サンプルから腫瘍壊死因子(tumornecrosisCfactor:TNF)測定キットCELISAでCTNF濃度を測定した研究によると,84例の緑内障患者のサンプルのなかでCTNF陽性はC15例(17.8%)であり,コントロール群白内障患者C79例ではCTNF陽性がC4例(5.0%)であったのに比して,有意に高かったと報告されている1).この研究では緑内障をサブタイプでも比較しており,TNF陽性は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)でC4例(13.7%),正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)でC3例(10.7%),落屑緑内障でC8例(29.6%)となっており,落屑緑内障は明らかに陽性率が高い.また,別のグループの報告では,POAGC32例と白内障C32例を比較し,TNF濃度が緑内障でC3.35Cpg/ml,白内障でC1.09Cpg/mlと有意差をもってやはり緑内障で高値となっている2).しかし,multiplexCbeadCimmunoassayを用いてさまざまなサイトカインを比較した研究では,TNF濃度が白内障C21例でC1.5C±0.7Cpg/ml,POAG20例でC1.6C±1.2Cpg/mlとまったく上昇していない3).この研究では,落屑緑内障C23例でC2.3C±1.7Cpg/mlと有意ではないが(p=0.0800)上昇傾向を示していた3).やはりさまざまなサイトカイン,ケモカインを測定した研究では,TNF濃度が白内障C23例でC9.58Cpg/ml,緑内障C38例(POAG26例,原発閉塞隅角緑内障C12例)でC12.65Cpg/mlと上昇傾向だが有意差を示していなかった(p=0.086)4).この研究では陽性率で有意差を認めたと報告されている(白内障で16/23,緑内障でC35/38)4).これらの所見は,TNFが原因か何かの結果かは不明だが,緑内障ではCTNFが上昇していることを示唆している.C●TNFの遺伝子多型TNF遺伝子のC308位のCGC→CA多型の存在は,転写をC6~7倍増加させることが報告されており,産生されるCTNFレベルがさまざまな臓器で増加することにつながる.この遺伝子多型が緑内障に関与しているとの報告と,関係ないとの報告がある.AsianではCPOAGと関係しているとの報告5),落屑緑内障と関係しているとの報告6)がある一方,CaucasianではCPOAGと有意な関係はないとの報告,落屑緑内障と有意な関係はないとの報告がある7).その後のメタアナリシスの研究では,TNF遺伝子のC308位のCGC→CA多型の存在が高眼圧タイプのPOAGのリスクと有意に相関したと報告されている8).これらのことからも緑内障にCTNFの発現が関与していることが示唆されている.C●TNFの眼組織での発現ヒト緑内障眼でCTNFとその受容体であるCTNF-R1がコントロール眼に比して,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)や視神経乳頭で発現が上昇していたとの報告がある.TNFの産生はアストロサイトやマイクログリアが行っている.Tezelによると,緑内障ストレスがグリアを活性化し,グリアからCTNFが産生され,RGCを直接攻撃,もしくは一酸化炭素,エンドセリン,アミロイドCbなどを介して間接的にCRGC障害を起こす9).同グループからの発表で,ヒト緑内障の網膜サンプルと年齢を一致させたコントロール網膜サンプルをプロテオミクスで比較検討した研究では,緑内障眼からのサンプルにおいて,TNF/TNF-R1Csignalingに結びつく多くの蛋白発現が亢進していたことも報告されている.(75)あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C3570910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1視神経軸索1本の模式図と電子顕微鏡所見●TNFと軸索障害Nakazawaらによると,高眼圧マウスモデルで網膜のTNFが上昇し,TNFノックダウンで軸索障害が抑制できることを示している.TNFによりマイクログリアやアストロサイトが活性化し,軸索障害に寄与することもわかっている.軸索障害には軸索輸送も関与しており,多くの軸索輸送はレールの役割をするCmicrotubulesによって運ばれている.これは電子顕微鏡では観察することができる(図1).この写真では正常なCneuro.lamentも観察できるが,軸索障害ではこれらは束になって集まり蓄積される.また,ミトコンドリアも行き来しており,ほかにも大きいものではオートファゴソームも輸送されている.C●おわりに他科で臨床応用されているCTNF阻害薬であるCetan-erceptの緑内障への効果は動物モデルでのみ報告があり,ヒトへの応用にはCTNFの関与が高いタイプの緑内障の細分化が必要であると考えられる.文献1)SawadaCH,CFukuchiCT,CTanakaCTCetCal:TumorCnecrosisfactor-alphaCconcentrationsCinCtheCaqueousChumorCofCpatientsCwithCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:C903-906,C20102)BalaiyaCS,CEdwardsCJ,CTillisCTCetCal:TumorCnecrosisCfac-tor-alpha(TNF-a)levelsCinCaqueousChumorCofCprimaryCopenangleglaucoma.ClinOphthalmolC5:553-556,C20113)TakaiCY,CTanitoCM,COhiraCA:MultiplexCcytokineCanalysisCofCaqueousChumorCinCeyesCwithCprimaryCopen-angleCglau-coma,CexfoliationCglaucoma,CandCcataract.CInvestCOphthal-molVisSciC53:241-247,C20124)ChuaJ,VaniaM,CheungCMetal:Expressionpro.leofin.ammatoryCcytokinesCinCaqueousCfromCglaucomatousCeyes.MolVisC18:431-438,C20125)LinCHJ,CTsaiCFJ,CChenCWCCetCal:AssociationCofCtumourCnecrosisCfactorCalphaC-308CgeneCpolymorphismCwithCpri-maryCopen-angleCglaucomaCinCChinese.CEye(Lond)C17:C31-34,C20036)KhanCMI,CMichealCS,CRanaCNCetCal:AssociationCofCtumorCnecrosisCfactorCalphaCgeneCpolymorphismCG-308ACwithCpseudoexfoliativeCglaucomaCinCtheCPakistaniCpopulation.CMolVisC15:2861-2867,C20097)MossbockG,RennerW,El-ShabrawiYetal:TNF-alpha.308G>Aand.238CG>ACpolymorphismsCareCnotCmajorCriskCfactorsCinCCaucasianCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma.MolVisC15:518-522,C20098)XinX,GaoL,WuTetal:RolesoftumornecrosisfactoralphaCgeneCpolymorphisms,CtumorCnecrosisCfactorCalphaClevelinaqueoushumor,andtherisksofopenangleglau-coma:ameta-analysis.MolVisC19:526-535,C20139)TezelCG:TNF-alphaCsignalingCinCglaucomatousCneurode-generation.ProgBrainResC173:409-421,C2008358あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018C(76)C