●連載204監修=岩田和雄山本哲也204.視神経乳頭の外縁山下高明鹿児島大学病院眼科視神経乳頭外縁は,検眼鏡的な輪郭,光干渉断層計(OCT)で自動検出されるBruch膜開口部,OCT断層像における強膜リングの3者で異なる.この違いはコーヌス,乳頭周囲網膜神経線維隆起などの近視性変化に起因している.視神経乳頭外縁の違いを理解して視神経乳頭の評価を行う必要がある.緑内障診療ガイドラインにおける視神経乳頭外縁の定義は,「検眼鏡的に観察される乳頭周囲の白色の強膜リング(Elschnigの強膜リング)の内側」である1).すなわち視神経が強膜を貫く領域を視神経乳頭としている.図1は検眼鏡的な視神経乳頭外縁と,画像解析装置における視神経乳頭外縁が一致している眼である.一方で,「ただし,ここでのパラメータは臨床観察における定義であり,近年開発された画像解析装置における定義とは異なる」との記載もある.これは検眼鏡的な視神経乳頭の外縁と,画像解析装置における視神経乳頭の外縁が一致していないことを示している.近年の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)の進歩は著しく,画像取得のスピードが格段に向上した.そのため,視神経乳頭は三次元画像で撮影され,視神経乳頭周囲網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)厚の測定円の位置決めや,視神経乳頭面積の算出が自動で行われるようになった.これらの自動化のためには,視神経乳頭外縁をOCTが自動認識する必要がある.現行のほとんどのOCTは,Bruch膜断端を視神経乳頭外縁として認識している(図2d,赤○印).つまり,視神経乳頭の断層像を得られるOCTでは,視神経が強膜を貫く領域,すなわち強膜の断端(Elschnigの強膜リング)を特定することができるが,あえてそこを視神経乳頭の外縁としなかったのである.その理由はおもに三つあり,一つ目は,最近の高深達で深い部分まで画像化できるOCTでは強膜の断端は確認できるが,従来のOCTでは不明瞭な症例が多かったこと,二つ目は,Bruch膜は眼球伸長に伴って伸長しにくいため,元々の円形の視神経乳頭外縁をもっとも反映していると考えられているからである.三つ目は,緑内障診断で用いられる視神経乳頭周囲RNFL厚の測定円の位置決めをする際に,Bruch膜断端で形成される円または楕円の中心を測定円の中心としたほうが,近視眼でみられる上下耳側網膜神経線維の耳側へのシフトの影響を軽減でき,正常眼データベースと比較しやすくなる利点(77)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYがあげられる2).上述したようにOCTではBruch膜断端を視神経乳頭外縁としているが,Bruch膜の断端を検眼鏡的に確認できるのであろうか.コーヌスの耳側境界(図2,黒矢印)や検眼鏡的視神経乳頭の辺縁(図2,緑○印,緑矢印)などの検眼鏡的に見える所見とBruch膜の断端が一致していれば確認できるであろうが,実際は一致してない2).Bruch膜,脈絡膜,視細胞層の断端は眼球伸長に伴って乖離していくと考えられている.成長期の眼球伸長は,出生時約16mmから成人時24mmと長さにして約1.5倍,体積にすると約3倍も大きくなる3).さらに,眼球伸長は後眼部全体が均一ではなく(後部ぶどう腫),一部の眼では成人後も眼球伸長が継続し,程度が強ければ病的近視となる.視神経乳頭周囲では視神経が固定されているため,眼球壁が後方に伸長していくと,視神経乳頭の耳側ではBruch膜や視細胞層が元来の乳頭縁から離れていき,コーヌスを生じる4).しかしながら,コーヌスの耳側境界は視細胞層(ellipsoidzoneまたはIS/OSline)の断端(図2f,黒矢印)であり,Bruch膜の断端(図2f,赤矢印1)と一致していない.つまり,Bruch膜の断端はコーヌス内に位置しており,コーヌス内にあるBruch膜の断端を検眼鏡的に確認できない眼がほとんどである.コーヌスのある眼において,検眼鏡的な視神経乳頭の耳側境界は,ほとんどの症例で強膜断端と一致している.すなわち,視神経乳頭の耳側では,検眼鏡的視神経乳頭辺縁とElschnigの強膜リングはほぼ一致している(図2f,緑矢印2)が,OCTで視神経乳頭と自動認識されるBruch膜の断端(図2f,赤矢印1)とは乖離している.では,鼻側はどうであろうか.視神経が固定されている状態で眼球が後方に伸長すれば,耳側のコーヌスとは逆に,鼻側は網膜神経線維が視神経乳頭に乗り上げてくるはずである.筆者らは,若年健常眼で,おもに鼻側で網膜神経線維が視神経乳頭に乗り上げている眼(図2f,青矢印)が珍しくないことを報告し,これを乳頭周囲網あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017835図1検眼鏡的視神経乳頭外縁とElschnigの強膜リングおよびBruch膜開口部がほぼ一致している眼a:カラー眼底写真,b:SLO眼底画像,c:OCT断層像.膜神経線維隆起(peripapillarynerve.berelevation:pNFE)と命名した5).pNFEをもつ眼では,検眼鏡的な視神経乳頭の外縁(図2f,緑矢印4)は,Bruch膜や強膜の断端(図2f,赤矢印3)より外側にあり,検眼鏡的な視神経乳頭がElschnigの強膜リングより大きく見える.乖離している部位は三日月状で,通常の視神経乳頭の色調よりもやや白っぽく見える(図2).白っぽく見える原因は,白色調である神経線維が盛り上がって厚くなっているためではないかと推察している.ただし,OCT画像と一緒に取得されるSLO(scanninglaserophthalmoscopy)眼底画像では,pNFEは視神経乳頭の一部とは映らないため,SLO眼底画像の視神経乳頭は,検眼鏡的視神経乳頭より小さく見える(図2b).pNFEのある眼では,視神経乳頭の陥凹が過小評価されてしまい,他の近視性変化と相まって,検眼鏡的な視神経乳頭で緑内障をスクリーニングしようとすると,緑内障を見逃してしまう可能性がある.視神経乳頭の鼻側では,OCTで視神経乳頭と自動認識されるBruch膜の断端はElschnigの強膜リングとほぼ一致している(図2f,赤矢印3)が,pNFEのある眼では,検眼鏡的視神経乳頭辺縁(図2f,緑矢印4)はElschnigの強膜リングと乖離しているといえる.このように視神経乳頭の辺縁は,OCTで自動認識されるBruch膜断端,検眼鏡的な色調による所見,Elschnigの強膜リングの3者で乖離していることが判明した.辺縁同士がほぼ一致していると書いたが,「ほぼ」としたのは,一致しているとした辺縁同士も実は微妙に乖離しているからである2).また,コーヌスが視神経乳頭の全周にある眼では,上述した耳側コーヌスの変化が,耳側だけでなく全周に認められる.臨床診察や疫学調査で用いられるC/D比をはじめとする視神経乳頭に関するパラメータは,どの視神経乳頭の辺縁を選択するかで異なる.どの辺縁が,緑内障診断,進行判定に有効かはいまだ不明であり,今後検討する必要がある.これらの知見から現時点でいえる臨床上の注意点は,OCTによる視神経乳頭パラメータは検眼鏡的な評価と836あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017図2検眼鏡的視神経乳頭外縁とElschnigの強膜リングおよびBruch膜開口部が一致していない眼a・d:カラー眼底写真,b・e:SLO眼底画像,c・f:OCT断層像.aとd,bとe,cとfはそれぞれ同一画像.視神経乳頭の耳側は検眼鏡的外縁(○印)と強膜リングがほぼ一致している(↑2)が,Bruch膜開口部(○印)すなわちOCTの視神経乳頭外縁(↑1)は一致していない.視神経乳頭の鼻側はBruch膜開口部,すなわちOCTの視神経乳頭外縁と強膜リングはほぼ一致している(↑3)が,検眼鏡的外縁(↑4)は一致していない.この鼻側の乖離部がperipapillarynerve.berele-vation(pNFE)であり,検眼鏡的には視神経乳頭の一部に見えるが,三日月状でやや白色調である.は乖離しており,pNFEやコーヌスを認める近視眼底の眼ではC/D比などの視神経乳頭パラメータの評価はむずかしく,網膜神経線維束欠損で緑内障を診断したほうが良いということである.本稿では詳述できないが,後部ぶどう腫を伴う病的近視眼では眼球伸長の程度が強いため,さらに大きく,複雑な視神経乳頭辺縁の変形を生じる.日本人は若年になるほど近視眼が多いため6),pNFE,コーヌスなどの視神経乳頭周囲の近視変化を理解することは,今後の緑内障診療に必須である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20122)ChauhanBC,BurgoyneCF:Fromclinicalexaminationoftheopticdisctoclinicalassessmentoftheopticnervehead:aparadigmchange.AmJOphthalmol156:218-227,20133)所敬,大野京子:近視.基礎と臨床.金原出版,20124)KimTW,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangewithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:21-26,20125)YamashitaT,SakamotoT,YoshiharaNetal:Peripapil-larynerve.berelevationinyounghealthyeyes.InvestOphthalmolVisSci57:4368-4372,20166)SawadaA,TomidokoroA,AraieMetal:RefractiveerrorsinanelderlyJapanesepopulation:theTajimistudy.Ophthalmology115:363-370,2008(78)