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悪性リンパ腫患者に発症した前眼部炎症を伴うサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2017年6月30日 金曜日

《第53回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科34(6):875.879,2017c悪性リンパ腫患者に発症した前眼部炎症を伴うサイトメガロウイルス網膜炎の1例谷口行恵佐々木慎一矢倉慶子宮﨑大山﨑厚志井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学分野ACaseofCytomegalovirusRetinitiswithAnteriorChamberIn.ammationinaPatientwithMalignantLymphomaYukieTaniguchi,Shin-ichiSasaki,KeikoYakura,DaiMiyazaki,AtsushiYamasaki,YoshitsuguInoueDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)網膜炎は免疫不全状態の患者に発症し,通常は前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しい.今回,前眼部炎症を伴うCMV網膜炎の1例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.悪性リンパ腫に対する化学療法中に両眼の霧視にて受診.両眼に前眼部炎症と眼底に出血を伴う白色病変を認めた.Real-timepolymerasechainreaction(PCR)法で前房水中1.4×106コピー/mlのCMV-DNAを認め,CMV網膜炎と診断.ガンシクロビル点滴および硝子体内注射により治療を開始し,前眼部炎症は速やかに消退.網膜病変も3カ月半後には鎮静化した.経過中real-timePCR法にて前房水中のCMV-DNAを測定した.発症時に強い前眼部炎症を伴っていたことは,本症例が後天性免疫不全症候群のように重篤な免疫抑制状態になかったため,免疫回復ぶどう膜炎と類似した反応が起こった可能性が推測された.鑑別診断と治療効果のモニタリングにreal-timePCR法が有用と思われた.Cytomegalovirus(CMV)retinitisoccursinimmunocompromisedpatientsandusuallydoesnothavesigni.cantin.ammatoryreactionssuchasanteriorchamberin.ammationorvitritis.WereportacaseofCMVretinitiswithanteriorchamberin.ammation.An80-year-oldman,whohadunderwentchemotherapyformalignantlymphoma,wasreferredtouswiththecomplaintofbilateralblurredvision.Botheyesshowedanteriorchamberin.ammationandwhiteretinallesionwithhemorrhage.HewasdiagnosedasCMVretinitis,because1.4×106copies/mlofCMV-DNAwasdetectedintheaqueoushumorbyreal-timepolymerasechainreaction(PCR)method.Treatmentwithsystemicandintraocularganciclovirwasstarted,andanteriorchamberin.ammationhadbecomeregressedpromptly,andretinitishadbecomesubsidedwithin3andahalfmonths.Duringthecourse,CMV-DNAamountinaqueoushumorhadbeenmonitoredbyreal-timePCRmethod.Theanteriorchamberin.ammationwasobservedbecausethiscasewasnotsoseverelyimmunocompromisedlikeacquiredimmunode.ciencysyndrome.Thismani-festationispresumedtobesimilartoimmunerecoveryuveitis.Real-timePCRwasusefulfordiagnosingCMVret-initisandmonitoringthee.ectofthetherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):875.879,2017〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,悪性リンパ腫,前眼部炎症,real-timepolymerasechainreaction(PCR)法.cytomegalovirusretinitis,malignantlymphoma,anteriorchamberin.ammation,real-timepolymerasechainreaction(PCR)method.はじめに症候群(acquiredimmunode.ciencysyndrome:AIDS)患サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)網膜炎者においては主たる眼合併症である.CMV網膜炎はウイルは免疫不全状態にあるものに発症し,とくに後天性免疫不全スの直接的な網膜での増殖による病変であり,通常は前眼部〔別刷請求先〕谷口行恵:〒683-0826鳥取県米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学分野Reprintrequests:YukieTaniguchi,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishicho,Yonago-shi,Tottori683-8504,JAPAN炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しいといわれている1).しかし,近年ではAIDS患者のみならず,血液腫瘍性疾患や臓器移植,抗癌剤治療による免疫不全に伴うものや,明らかな免疫不全のない健常者といった,非AIDS患者におけるCMV網膜炎の報告も多数ある2.9).さらに,非AIDS患者におけるCMV網膜炎では,眼内炎症などの多様な臨床所見が認められている2,4,6.8).今回,筆者らは悪性リンパ腫に対する化学療法中に前眼部炎症を伴うCMV網膜炎を発症した1例を経験したので報告する.I症例患者:80歳.男性.主訴:両眼の霧視.既往歴:60歳代,両眼白内障手術.79歳,悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫).現病歴:近医血液内科で悪性リンパ腫に対し,2015年4月下旬よりリツキシマブ,エトポシド,プレドニゾロン,ビンクリスチン,シクロフォスファミド,ドキソルビシンを用いた化学療法(R-EPOCH療法)を施行中.著明な骨髄抑制を認め,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colonystimulatingfactor:G-CSF)の投与および輸血を施行しながら化学療法を継続していた.2015年6月下旬より両眼の霧視あり.10日後に近医眼科受診.両眼とも前眼部に角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を伴う前房内炎症所見を認め,眼底にはCMV網膜炎を強く疑わせる白色病変が著明であった.翌日当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼0.07(0.8),左眼0.09(1.2).眼圧は右眼16mmHg,左眼12mmHgであった.角膜内皮細胞密度は右眼1,610/mm2,左眼1,988/mm2.両眼に右眼優位に小さな豚脂様KPと前房内細胞を認めた(図1).右眼眼底には,下方アーケード血管に沿って出血を伴う白色病変を認めた.また,鼻側上方には顆粒状の白色病変を認め,病型としては後極部劇症型と周辺部顆粒型であった(図2a).左眼眼底には,上方アーケード外にわずかに出血斑を伴う白色病変を認め,病型としては周辺部顆粒型であった(図2b).両眼ともに硝子体中に細胞を認めた.右眼の前房水よりreal-図1初診時前眼部写真a:右眼.小さな豚脂様角膜後面沈着物を認める.b:左眼.小さな豚脂様角膜後面沈着物を軽度認める.図2初診時眼底写真a:右眼.後極部劇症型+周辺部顆粒型病変.b:左眼.周辺部顆粒型病変.ab右眼左眼図3治療中の眼底写真a:治療6日目.出血性変化が目立つ.b:治療112日目.病変部位の網膜は極度の菲薄化を残し鎮静化した.timepolymerasechainreaction(PCR)法で1.4×106コピー/mlのCMV-DNAを認めた.なお,前房水中の単純ヘルペスウイルスDNA,水痘帯状疱疹ウイルスDNAは陰性であった.血液検査では白血球数41.7×103/μl,分画は好中球97%,リンパ球1%,単球0%,好酸球1%,好塩基球1%とリンパ球数の低下を認めた.CD4陽性Tリンパ球数は未測定.白血球の著明な増多はG-CSF投与による一時的なものと考えられた.CMV抗原血症検査(CMVアンチゲネミア)は陰性であった.II治療および経過眼底所見および前房水real-timePCRの結果よりCMV網膜炎と診断.全身投与としてガンシクロビル点滴600mg/日(5mg/kg,1日2回)を3週間継続の後,300mg/日(5mg/kg,1日1回)に減量し1週間,その後バルガンシクロビル内服900mg/日に切り替えた.なお,ガンシクロビル投与開始より5日目,6日目の2日間は化学療法による著明な骨髄抑制を認めたため,ガンシクロビルは半量投与とした.局所投与としては,ガンシクロビル750μg/0.15mlの硝子体内注射を両眼に週1回(合計12回)行い,硝子体注射時に前房水を0.1ml採取しreal-timePCRにてCMV-DNA量をモニタした.また,前眼部炎症も伴っていたことより0.5%ガンシクロビル点眼を両眼に1日6回,0.1%ベタメタゾン点眼を両眼に1日4回行った.治療開始2日目より両眼底の出血性変化が目立ち,右眼の後極部劇症型部位はかなりの範囲が出血で覆われ,黄斑下方は網膜下出血となった.治療20日目には両眼ともに白色病変は徐々に消退し,同部位の網膜の菲薄化を認めた.右眼後極の出血も吸収傾向となった.治療112日目には病変部位の網膜は極度の菲薄化を残し鎮静化した(図3).また,化学療法による骨髄抑制のため,治療開始5日目より末梢血中リンパ球数が100/μl台まで一時低下したが,その後のリンパ球数の回復と同時期に硝子体混濁の増強を認めた.なお,前眼部炎症は約1カ月をかけて徐々に軽快し,経過中に眼圧上昇や角膜内皮細胞密度の減少は認めなかった.前房水中CMV-DNA量は,眼底の出血性変化が目立っていた治療開始後8日目時点では右眼が6.8×106コピー/ml,左眼が3.9×106コピー/mlと一時的に増加を認めたが,その後は低下を認め,治療開始91日目の最終の硝子体注射時点では両眼とも1.1×102コピー/mlであった(図4).↑↑入院退院図4治療経過と前房水中CMV.DNA量の推移III考按本症例は悪性リンパ腫に対し化学療法中であり,著明な骨髄抑制が認められていた.2015年6月末の自覚症状が現れた時点での白血球数は,前医のデータより0.8×103/μl(リンパ球26.2%)と低下しており,免疫抑制状態であったことが推察された.眼底所見とreal-timePCRにて前房水中のCMV-DNA高値を認めたため,CMV網膜炎と診断した.CMV網膜炎では,通常は前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しいといわれているが,本症例では前眼部炎症と硝子体混濁を伴っていた.近年では,非AIDS患者におけるCMV網膜炎の報告も多数あり,重要性を増している4,5,9).柳田らは,2003.2013年の10年間に東京大学医学部附属病院眼科を受診したCMV網膜炎の症例36例53眼につき,臨床像および視力予後の検討をしているが,基礎疾患は36例中22例(61%)を血液腫瘍性疾患,8例(22%)をAIDSが占め,AIDSと血液腫瘍性疾患が大半を占めた.また,36例中糖尿病を有する症例は9例あり,そのうち1例はHbA1c5.9%と血糖コントロール良好で,他に明らかな全身疾患のない患者であったと報告している3).非AIDS患者においては眼内炎症などの多様な臨床所見が認められるとの報告もある.Pathanapitoonらは,非AIDS患者でCMVによる後部ぶどう膜炎あるいは汎ぶどう膜炎を起こした18例22眼の臨床像を検討しているが,18例中13例17眼は免疫抑制状態の患者で,17眼中10眼で汎ぶどう膜炎を認めている.18例中5例5眼は糖尿病または明らかな基礎疾患のない患者であったが,5眼中4眼で汎ぶどう膜炎が認められ,全体としては22眼中14眼(64%)に汎ぶどう膜炎を認めていた.免疫抑制状態の患者の中に非ホジキンリンパ腫は5例含まれていた2).このように明らかな免疫不全が認められない患者を含む非AIDS患者におけるCMV網膜炎では,眼内炎症を認めるなど,典型的なCMV網膜炎とは異なり,より多様な臨床所見を呈する可能性が示唆される.わが国において健常成人に発症したCMV網膜炎の報告でも,前眼部炎症や高眼圧などが認められている6).近年,AIDS患者に対して多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)導入後にCMV網膜炎罹患眼の眼内炎症が悪化することが知られ,免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis:IRU)とよばれる.IRUの発症機序は明確に解明されていないが,HAARTによりCMV特異的T細胞の反応が回復すると,すでに鎮静化したCMV網膜炎病巣辺縁の細胞内でわずかに複製される残存CMV抗原が,免疫反応によりぶどう膜炎を顕在化させるとの説が有力である10).AIDS以外の疾患では免疫機能障害の程度がAIDSと異なっており,IRU様の反応が同時に起きているために眼内炎症が随伴すると推測される7).本症例は悪性リンパ腫に対する化学療法を契機に発症したCMV網膜炎であり,化学療法により一時的に著明な骨髄抑制を生じていた一方で,その後のリンパ球増加もあり,免疫状態は不安定であった.AIDSのように重篤な免疫抑制状態でなかったために,前述のIRUに類似した病態により前眼部炎症と硝子体混濁が生じた可能性が考えられる.治療経過において硝子体混濁が増強した時期と末梢血中リンパ球が増加した時期が一致していたことも矛盾しないと考えられる.なお,治療開始後の一時的な前房水中CMV-DNA量の増加と眼底出血の増加は,眼底の壊死性変化を反映したものと思われたが,治療との関連性は不明である.ただ,緑膿菌による細菌性角膜炎では,治療開始後に免疫反応により一時的に所見が悪化するケースがあることが知られており,免疫不全によるCMV網膜炎と異なり,今回のように免疫が関与しているCMV網膜炎では治療への反応性が単純ではないケースがありうると推測された.以上より,非AIDS患者におけるCMV網膜炎では典型的なCMV網膜炎とは異なり,より多様な臨床所見を呈する可能性を念頭に診療を行う必要があると考えられる.また,完全な免疫不全によるCMV網膜炎では,眼底の所見がそのままCMVの量を反映していると考えられるが,今回の症例のように同時に免疫反応が生じていると,臨床所見がウイルス増殖によるものか,免疫反応によるものか判断することがむずかしい.そのような場合,ウイルスの有無だけでなく量的評価のできるreal-timePCR法が診断および治療効果の評価において有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)竹内大:ウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎).あたらしい眼科28:363-370,20112)PathanapitoonK,TesabibulN,ChoopongPetal:Clinicalmanifestationsofcytomegalovirus-associatedposterioruveitisandpanuveitisinpatientswithouthumanimmuno-de.ciencyvirusinfection.JAMAOphthalmol131:638-645,20133)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科32:699-703,20154)上田浩平,南川裕香,杉崎顕史ほか:非Hodgkinリンパ腫患者に発症した虹彩炎と高眼圧を併発したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科31:1067-1069,20145)相馬実穂,清武良子,野村慶子ほか:サイトメガロウイルス網膜炎を発症した成人T細胞白血病の1例.あたらしい眼科26:529-531,20096)堀由起子,望月清文:緑内障を伴って健常成人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科25:1315-1318,20087)吉永和歌子,水島由佳,棈松徳子ほか:免疫能正常者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌112:684-687,20088)北善幸,藤野雄次郎,石田政弘ほか:健常人に発症した著明な高眼圧と前眼部炎症を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科22:845-849,20059)多々良礼音,森政樹,藤原慎一郎ほか:骨髄非破壊的同種骨髄移植後にサイトメガロウイルス網膜炎を発症した成人T細胞白血病.自治医科大学紀要30:81-86,200710)八代成子:HIV感染症に関連した眼合併症.医学と薬学71:2281-2286,2014***

関西医大附属病院におけるEales病の臨床像の検討

2017年6月30日 金曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(6):868.873,2017c関西医大附属病院におけるEales病の臨床像の検討加賀郁子山田晴彦中道悠太星野健髙橋寛二関西医科大学眼科学講座ClinicalFeaturesofRecentCasesofEales’DiseaseIkukoKaga,HaruhikoYamada,YutaNakamichi,TakeshiHoshinoandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity目的:両眼網膜静脈周囲炎を伴い再発性硝子体出血をきたすEales病について,当院での臨床像を検討した.方法:2007.2015年に当院を受診し,1年以上経過を追うことのできた6例11眼(男性5例,女性1例)の治療内容と経過を,診療録から後ろ向きに検討した.結果:初診時平均年齢は40歳,平均経過観察期間は53カ月であった.両眼性5例,片眼性1例で,両眼性の1例で初診時に血管新生緑内障(NVG)を認めた.全例にフルオレセイン蛍光眼底造影を行い,網膜周辺部の無灌流領域(NPA)に光凝固を施行した.7眼に硝子体手術を施行し,初診時NVGを認めた1例2眼でNPAの拡大から黄斑変性に至り低視力を生じたが,それ以外の症例では治療により病状は安定した.平均logMAR視力は初診0.36から最終0.89と有意差はなかった(p=0.34).結論:Eales病は適切な時期に十分な光凝固あるいは硝子体手術を施行することで,比較的良好な視力が維持できる.進行性にNPAの拡大を呈する症例は,NVGのほか,黄斑部まで拡大進行したNPAによる網膜変性も呈し,予後不良となると考えられた.WeretrospectivelyanalyzedthecharacteristicsofpatientswithEales’disease,using11eyesof6Eales’patientswhohadconsultedKansaiMedicalUniversityduring2007to2015.Patientmeanagewas40years;thediseasewasbilateralin5patientsandunilateralin1.Allpatientsunderwentfundus.uoresceinangiography;laserphotocoagulationwasappliedinthenon-perfusionareatopreventthedevelopmentofnewvessels.Parspla-navitrectomywasperformedin7eyesandyieldedfairvisualoutcome,exceptin2eyesof1patientthatdevel-opedextensiveischemiainvolvingthemacula.Therewasnosigni.cantdi.erenceinmeanvisualacuitybetweenbaseline(0.36)andlastvisit(0.89)(p=0.3369).Adequatephotocoagulationand/orvitrectomyattheappropriatetimeprovidessatisfactoryvisualresultsinEales’disease.Progressionofneovascularglaucomaisthoughttobeamostimportantfactorinpoorprognosis,whichcanresultinmacularischemiaandbringpoorvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):868.873,2017〕Keywords:Eales病,光凝固,硝子体出血,硝子体手術,血管新生緑内障.Eales’disease,photocoagulation,vit-reoushemorrhage,vitrectomy,neovascularglaucoma.はじめにEales病は,特発性の周辺部網膜静脈周囲炎から網膜無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)が形成され再発性網膜硝子体出血をきたす疾患として,1880年にEalesによって報告された.Eales病の病因に関しては,近年でも結核菌の関与を示唆する報告があり1.3),現在においてその疾患名称の使用については議論がある.若年性再発性硝子体出血とも表現されるが,いまだ確定的な診断基準がないため,本疾患の診断は網膜静脈周囲炎を起こしうる他疾患を除外したうえで成立する.治療としては,虚血網膜に対するレーザー光凝固や抗結核薬の投与の報告1,4)のほか,再発性硝子体出血に対しては硝子体手術が施行され,その視力予後は一般的に良好とされている4.7).しかし,牽引性網膜.離や血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)を併発し,予後不良な症例の報告も散見される8,9).今回,関西医大附属病院(以下,当院)にて最近8年間に〔別刷請求先〕加賀郁子:〒573-1191大阪府枚方市新町2-3-1関西医科大学眼科学講座Reprintrequests:IkukoKaga,M.D.,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1ShinmachiHirakata573-1191,JAPAN868(110)表1全症例の詳細症例年齢性別病変初発症状*病期初診/最終初診視力STTA**/内服手術加療観察期間(月)最終視力178男R飛蚊,視力低下2b/3b0.01+/.PC,PEA+IOL+PPV67.00.03L視力低下2b/2b0.03+/.PC,PEA+IOL67.00.6246男R無症状3a/3b1.2+/+PC,PEA+IOL+PPV89.50.02L飛蚊,視力低下2b/4b1.5+/+PC,cryoPEA+IOL+PPV+SO89.520cmCF347男R飛蚊,視力低下2a/3b2+/.PC,PPV23.11447女R視力低下2b/4a0.4+/.PC,PPV2回(t-RD)99.40.6L飛蚊3b/4a1./.PC,PPV99.41.2521女R無症状2b/2b1.2./.PC16.01.2L視力低下3b/3b1./.PC,PPV16.01632男R無症状2b/2b1.5./.PC23.61.5L視力低下2b/2b0.2./.PC23.60.2PC:レーザー光凝固,PEA+IOL:超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入,PPV:硝子体手術,SO:シリコーンオイル注入術,cryo:網膜冷凍凝固術,t-RD:牽引性網膜.離,CF:指数弁.*病期分類は表2を用いた.**STTA:ステロイドTenon.下注射.Eales病と診断され,1年以上経過を追うことのできた症例につき,その臨床像を検討した.なお,最近では結核菌感染に付随するぶどう膜炎に対しては結核性ぶどう膜炎の呼称を使用することが多くなっているが1),本研究においては全身的に結核を生じ続発性にぶどう膜炎を生じた症例は除外したため,旧知のEales病としての名称を使用した.I対象2007.2015年に当院を受診し,眼所見および全身検査から他疾患を除外し,Eales病と診断できた症例のうち,1年以上経過を追うことのできた症例について,診療録から後ろ向きに検討した.症例は6例11眼(男性5例,女性1例)で,両眼性の症例が5例,片眼性の症例が1例であった.平均年齢は39.7±19.3歳(15.73歳).平均経過観察期間は53.1±36.9カ月(16.99カ月)であった.全症例の詳細を表1に示す.II結果1.初診時所見初診時の自覚症状は視力低下が7眼(63.6%),飛蚊症が4眼(36.4%)にみられたが,無症状も3眼(27.3%)あった.初診時眼底所見では網膜血管の白線化が全例にみられた.硝子体出血を3眼(27.3%)に認め,そのうち1眼(9.1%)では網膜前に線維血管組織の増殖を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)を行ったところ,血管壁からの血管外漏出や血管壁の組織染などの静脈炎所見,および網膜周辺部の無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)を全例で認めた.網膜新生血管は3眼(27.3%),seafan様のloop状血管増殖は2眼(18.2%)にみられた.2.治.療.内.容ツベルクリン反応を施行できた症例のうち2例でツベルクリン反応強陽性を認めた(表1,症例4,6).この症例については呼吸器内科へ紹介し,クオンティフェロンで全身の顕性結核感染がないことを確認したが,抗結核薬による治療の要否について検討してもらったところ,全身に結核の活動性病巣はないため抗結核薬の投与は行われなかった.NPAに対しては全例でレーザー光凝固が施行され,そのうち4眼はレーザー光凝固のみで病態は安定した.血管炎および血管炎に伴う黄斑浮腫を生じた6眼(54.5%)で,デポ・メドロールRTenon.下注射を行った(表1,症例1.4).また,経過中に増殖性変化を呈した1例でステロイドの全身投与(プレドニゾロン30mgより漸減)を併用した(表1,症例2).最終的に硝子体手術を施行した症例は5例7眼で,手術の理由として遷延する硝子体出血が5眼(45.5%),経過中病状が進行し牽引性網膜.離をきたした症例が2眼(18.2%)で,牽引性網膜.離を認めた1眼でシリコーンオイル注入を要した(表1,症例2左眼).全症例の平均手術回数は1.7回で,5例5眼で再手術を要した.再手術の理由として,術後の白内障進行に伴う超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入(phacoemulsi.cationandaspiration+intraocularlensimplantation:PEA+IOL)を行ったもの2眼(18.2%),術後再出血,術後の牽引性網膜.離の非復位,シリコーンオイ44図1全症例の視力変化ほとんどの症例で初診時と最終受診時で視力の変化はなかったが,症例2の2眼で最終受診時に0.02と指数弁と著しい視力低下きたした.ル抜去の目的で硝子体手術を行ったものが各1眼であった.3.視.力.経.過全症例の初診時と最終受診時の視力変化を図1に示す.ほとんどの症例で視力は維持されたが,3眼で著しい視力低下をきたした.このうち2眼は同一症例の両眼で(表1,症例2),治療途中までの経過は教室の舘野らが報告した10)が,その後に通院の自己中断により虚血性変化の著しい進行を認め,最終視力は光覚弁,指数弁まで低下した症例であった.全症例での平均logMAR視力は初診時0.36,最終診察時0.89で有意差はなかった(pairedt-test:p=0.3369).以下にとくに予後が不良であった症例を提示する.III症例〔症例1〕72歳,男性(表1,症例1).初診:2010年5月25日.主訴:両眼視力低下.家族歴:特記事項なし.既往歴:糖尿病(投薬加療中),ラクナ梗塞,高血圧,高脂血症.現病歴:2010年5月20日に右眼飛蚊症,視力低下を自覚.2日後に両眼に同症状を認めたため前医を受診し,精査目的で紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.01(n.c.),左眼0.03(n.c.).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHgであった.前眼部は両眼に炎症細胞(2+)を認めたが,虹彩新生血管はなかった.両眼に豚脂様角膜後面沈着物(2+)とDescemet膜皺襞(+)を認めた.両眼ともに成熟白内障のため眼底は不明瞭にしか観察できなかったが,周辺網膜に出血を認めた.経過:前房内炎症が強く,また高齢であったことより,当初はEales病以外のぶどう膜炎を考え,血液生化学検査を施行したうえで,前眼部炎症を抑える目的で両眼にデキサメサゾン結膜下注射を施行した.採血結果では貧血と糖尿病を認めたが,その他の生化学検査の異常値はみられず,CRPや赤沈など炎症反応も陰性で,自己免疫疾患も否定された.ステロイドの局所治療により前眼部炎症は軽減したが,成熟白内障により眼底の詳細な観察ができず,FAを行っても撮影不能であったため,デポメドロールRのTenon.下注射を術前に行い十分な消炎を行ったうえで,同年8月に両眼PEA+IOLを施行した.術後,両眼の眼底が観察できるようになると,周辺部網膜に静脈白線化と出血を認めた.右眼では視神経が萎縮し乳頭陥凹も皿状に拡大して蒼白となっており,当院での経過中に眼圧高値は認めなかったため,既存の緑内障による視神経障害の合併が示唆された.FAでは両眼周辺部網膜にNPAを認めたが,網膜新生血管や増殖膜の形成は認めなかった.全身検査にて血管閉塞をきたす全身性疾患を認めず,FAでは糖尿病網膜症でみられる微小血管瘤を認めなかったことからEales病と診断し,両眼のNPAに対しレーザー光凝固術を施行した.2011年5月より右眼に繰り返す硝子体出血を認めFAで再評価をしたところ,十分な光凝固を施行したにもかかわらず後極へのNPAの拡大を認めたため,さらに光凝固を追加した.その後も右眼に硝子体出血を繰り返すため2012年8月に右眼硝子体手術を施行した.術後,右眼白線化血管を広範囲に認めたが黄斑部虚血は認めず,視神経は蒼白萎縮となっていたため術後視力は0.03にとどまった.〔症例2〕40歳,男性(表1,症例2).初診:2008年7月17日.主訴:左眼霧視.家族歴,既往歴:特記事項なし.現病歴:2008年6月頃より左眼の霧視を自覚したが自然に軽快したために放置していた.同年7月中旬から左眼霧視および充血と眼痛を自覚し近医眼科を受診したところ,左眼の前房出血を指摘され,精査目的で当院紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.9(1.2×sph.0.75D),左眼0.2(1.5×sph.1.0D(cyl.1.5DAx80°),眼圧は右眼10mmHg,左眼30mmHgであった.右眼は前眼部,中間透光体に異常を認めなかったが,左眼前房内に細胞(2+)を認めた.左眼虹彩と隅角に新生血管を認めたが周辺虹彩前癒着は生じておらず,水晶体は両眼とも透明であった.眼底は両眼とも眼底周辺部の網膜静脈の白鞘化がみられ,視神経乳頭近傍の動静脈交差部の網膜に限局性の浮腫と硬性白斑を認めた(図2).FAを行ったところ,両眼ともに広範囲なNPAと網膜血管吻合を認め,右眼には健常部とNPA部の境界に網膜新生血管を認めた(図3,4).経過:NPAに伴う網膜虚血が原因と考えられるNVGを右眼左眼図2初診時カラー眼底写真(症例2)両眼ともに後極の静脈拡張と乳頭近傍に硬性白斑を認め,左眼でとくに顕著であった.図3初診時FA(症例2右眼)周辺部に広範な網膜血管の閉塞,無血管領域を認め,境界部には血管吻合と網膜新生血管を認めた.図4初診時FA(症例2左眼)左眼は右眼よりも広範囲な無血管領域を認め,明瞭な血管吻合もみられたが,網膜新生血管は認めなかった.発症していたため,血液検査,ツベルクリン反応のほか,内科に依頼し全身検索を行ったが,循環器,呼吸器,血液系には異常は認めず,自己免疫疾患や膠原病も否定された.左眼はNVGを伴ったEales病と診断し,両眼のNPAに汎網膜光凝固を開始した.左眼眼圧上昇に対しては緑内障点眼および炭酸脱水酵素阻害薬の内服による治療を行ったが,眼圧下降は図れず,隅角新生血管が消失しなかった.広範囲な網膜周辺部の虚血を改善する目的で2008年11月19日に左眼網膜冷凍凝固術を施行した.術後左眼隅角血管は退縮し,点眼での眼圧コントロールが可能となった.2009年3月に左眼に続発性網膜上膜の形成を認め,左眼視力は0.7に低下した.その後,患者の受診が途絶えたが,2010年5月に両眼視力低下を主訴に再来した.再診時には両眼ともに網膜静脈炎の再燃を認めていた.矯正視力は右眼0.6,左眼0.05まで低下しており,左眼は虹彩新生血管の再燃と周辺虹彩前癒着の増加により23mmHgと眼圧再上昇を認めた.デポ・メドロールRTenon.下注射およびステロイド内服(プレドニゾロン30mg)による消炎とレーザー光凝固術の追加を行ったが,経過中に左眼は硝子体出血をきたしたため,同年11月にPEA+IOL併用硝子体手術+シリコーンオイル注入を行った.術中所見で左眼の網膜血管はほぼ全域で白線化しており,術後左眼の矯正視力は0.06と改善はみられなかった.その後再度受診が途絶え,2013年右眼の硝子体出血による視力低下を主訴に再来した.右眼は硝子体炎および硝子体出血を繰り返していたようで,再診時には視力は0.1を下回っていた.左眼はIOL後方に厚い増殖膜形成を認めていたが病態は鎮静化していたため,2013年8月にシリコーンオイル抜去術を行ったが,左眼視神経は蒼白となっており,術後視力は指数弁であった.その後右眼の繰り返す硝子体出血と併発白内障の進行により眼底透見が不能となったため,2015年7月にPEA+IOL併用硝子体手術を行ったが,黄斑部虚血により最終受診時の右眼矯正視力は0.02となった.IV考按Eales病は若年者にみられる網膜静脈周囲炎を伴う再発性硝子体出血をきたす疾患である.その病因については,結核菌およびその菌蛋白に対するアレルギー性反応という説が有力とされているが1.3),本疾患は先進国における報告が少なく,多数症例の報告は公衆衛生がやや不良とされるアジア地域からの報告が多いため4,5),いまだ病因は確定的ではない.本疾患の診断において,ツベルクリン皮内反応は他のぶどう膜炎の補助診断としても簡便に行える検査であり,本研究では3例(50%)でツベルクリン皮内反応を確認した.そのうち2例が強陽性,1例は陰性の結果であった.わが国ではBCG接種が義務づけられていた時期もあるため,検査結果のみで結核感染を証明するには不十分である.今回のツベルクリン反応強陽性を示した2症例については,呼吸器内科にて画像診断やクオンティフェロンを施行し,結果的には活動性のある眼外結核病巣は否定されたため,抗結核薬の投与は保険診療ガイドラインに則して行われなかった.近年,Eales病は結核関連ぶどう膜炎の一症状としてとらえられ1),レーザー光凝固による局所治療のほかに,炎症に対するステロイド治療,および結核菌に対する抗菌治療の三者併用療法が試みられるようになっている1,4).当院では,従来積極的な抗結核療法は行っていないが,今後,本疾患を疑った場合には眼外病巣がなくても抗結核薬の投与を検討していく必要があると考えられた.本疾患の長期経過については,これまでの報告では8割の症例で何らかの侵襲的治療を要するが,6割で視力は維持され予後は比較的良好とされる.今回の検討ではレーザー光凝固のみで病態が安定した症例が4眼(36.4%),硝子体手術を要したが経過が良好であった症例が4眼(36.4%)であり,7割を超える症例で治療による病態の安定を認めた.しかし,本疾患の予後については,早期にレーザー光凝固を施行すれば永続的に鎮静化する症例もある一方で,遷延する硝子体出血や増殖性変化により視力低下をきたし硝子体手術を要する症例もある.また,硝子体手術の術後成績も症例によってさまざまであり,NVGの合併例は頻度が0.9.1.7%と低いがその予後はきわめて不良とされ8),術前の牽引性網膜.離合併例は,治療を行っても3%が失明に至る予後不良因子とされている8,9).本研究でも3眼(27.2%)では複数回の治療にもかかわらず視力が不良であった.1眼は治療前から認めた視神経萎縮,1例2眼は術前からのNVGおよび進行性の網膜灌流障害による黄斑虚血のため,いずれも極度の視力低下をきたしたものであった.症例2については拡大するNPAに対し十分なレーザー光凝固の施行を行い,炎症に対してはステロイドの局所投与と,全身投与を行ったにもかかわらず不良な視力にとどまった.この症例に関しては,虹彩および隅角に新生血管をきたす著しい眼虚血状態であったにもかかわらず,通院の自己中断で悪化する病態に対し治療できなかった時期があったことも,予後不良の一因と考えられる.SaxenaらはEales病について,網膜出血を伴う静脈周囲炎を認めるstage1,NPAや網膜新生血管を認めるstage2,線維血管増殖や硝子体出血を認めるstage3,牽引性網膜.離およびNVGを認めるstage4の4型に病期を分類している(表28)).そのなかでstage4の症例と黄斑部を含んだ病変の進行を予後不良因子にあげている.報告のなかで,初期には黄斑病変を認めず,速やかに治療を開始した症例でも,2.71%で最終的に黄斑虚血に至ったとしており,本研究の症例2も同様の経過をたどったものと考えられた.症例2の経過のように,本疾患が若年者にみられることや,硝子体出血が自然に寛解して自覚症状が一時的に改善することもあるため,就労などの都合で定期受診から脱落することがある.しかし,再診時には病状が進行しており,治療時期を逸することもあるため,早期治療のタイミングを逃さないことと,定期的通院の必要性を強く患者に指導することも重要と考えら表2Eales病の病期分類stage特徴stage1aPeriphlebitisofsmallcalibervesselswithsuper.cialretinalhemorrhagesstage1bPeriphlebitisoflargecalibervesselswithsuper.cialretinalhemorrhagesstage2aPeripheralcapillarynon-perfusionstage2bNeovascularizationelsewhere/neovascularizationofthediscstage3aFibrovascularproliferationstage3bVitreoushemorrhagestage4aTraction/combinedrhegmatogenousdetachmentstage4bRubeosisiridis,neovascularglaucoma,complicatedcataract,andopticatorophy(文献8より引用)れた.海外では,本疾患に硝子体出血を併発した症例に対し,抗VEGF薬の硝子体注射の報告がある11,12).抗VEGF薬の治療の有無を無作為に割り付けた結果,抗VEGF薬注射の有無で術後視力予後には差はなく,むしろ抗VEGF薬注射群の30%に牽引性網膜.離をきたし,視力予後が不良であったと報告している11).わが国ではEales病に対する抗VEGF薬は適用外使用であり,今のところ治療成績の報告はみられないが,症例2の治療抵抗性の閉塞性血管炎により黄斑部まで冒されるような症例においては,増殖組織が生じる前のタイミングでレーザー光凝固の補助治療として,消炎および血管新生抑制の効果を期待して,試験的に抗VEGF療法を施行してみても良いのではないかと考えられた.わが国において結核は,昨今,再興感染症として注意が必要な疾患であり,若年患者での再発を繰り返す硝子体出血や血管炎を呈する眼疾患として,結核との関連が示唆されるEales病についても念頭に置いて全身検索を行う必要があると考えられた.また,適切な時期に十分な網膜光凝固あるいは硝子体手術を行うことで比較的良好な視力が維持できるが,黄斑部にまで進行する炎症性虚血をきたす予後不良例もあるため,必要に応じて治療法の検討を要すると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BiswasJ,RaviRK,NaryanasamyAetal:Eales’disease─currentconceptsindiagnosisandmanagement.JOph-thalmicIn.ammInfect3:11,20132)BiswasJ,ThereseL,MadhavanH:UseofpolymerasechainreactionindetectionofMycobacteriumtuberculosiscomplexDNAfromvitreoussampleofEales’disease.BrJOphthalmol83:994,19993)MadhavanH,ThereseKL,GunishaPetal:PolymerasechainreactionfordetectionofMycobacteriumtuberculo-sisinepiretinalmembraneinEales’disease.InvestOph-thalmolVisSci41:822-825,20004)El-AsrarAMA,Al-KharashiSA:Fullpanretinalphoto-coagulationandearlyvitrectomyimproveprognosisofretinalvasculitisassociatedwithtuberculoproteinhyper-sensitivity(Eales’disease).BrJOphthalmol86:1248-1251,20025)DehghanMH,AhmadiehH,SoheilianMetal:Therapeu-tice.ectsoflaserphotocoagulationand/orvitrectomyinEales’disease.EurJOphthalmol15:379-383,20056)ShuklaD,KanungoS,PrasadNMetal:Surgicalout-comesforvitrectomyinEales’disease.Eye22:900-904,20087)DasT,PathengayA,HussainNetal:Eales’disease:diagnosisandmanagement.Eye24:472-482,20108)SaxenaS,KumarD:Newclassi.cationsystem-basedvisualoutcomeinEales’disease.IndianJOphthalmol55:267-269,20079)AtmacaLS,BatiogluF,SonmezPA:Along-termfollow-upofEales’disease.OculImmunolIn.amm10:213-221,200210)舘野寛子,城信雄,山田晴彦ほか:血管新生緑内障を合併したEales病の一例.臨眼64:1511-1515,201011)PatwardhanSD,AzadR,ShahBMetal:Roleofintravit-realbevacizumabinEales’diseasewithdensevitreoushemorrhage:aprospectiverandomizedcontrolstudy.Retina31:866-870,201112)ChananaB,AzadRV,PatwardhanS:RoleofintravitrealbevacizumabinnthemanagementofEales’diseas.IntOphthalmol30:57-61,2010***

急性涙腺炎を発症したEpstein-Barrウイルスによる伝染性単核球症の1例

2017年6月30日 金曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(6):862.867,2017c急性涙腺炎を発症したEpstein-Barrウイルスによる伝染性単核球症の1例児玉俊夫*1北畑真美*1池川泰民*1岡奈央子*1水戸毅*1山西茂樹*1上田陽子*2*1松山赤十字病院眼科*2松山赤十字病院内科ACaseofAcuteDacryoadenitisinAssociationwithInfectiousMononucleosisduetoEpstein-BarrVirusToshioKodama1),MamiKitahata1),YoshihitoIkegawa1),NaokoOka1),TakeshiMito1),ShigekiYamanishi1)YokoUeda2)and1)DeparttmentofOphthalmology,2)DepartmentofInternalMedicine,MatsuyamaRedCrossHospital目的:両側の急性涙腺炎を発症したEpstein-Barrウイルス(EBV)による伝染性単核球症の1例を経験した.症例:症例は18歳,女性.両上眼瞼の腫脹で紹介されたが,眼窩CT検査で両涙腺腫脹を認めた.血液検査では白血球数19,360で異型リンパ球が31%を占めていた.全身CT検査では多発性の頸部リンパ節の腫大と軽度脾腫を認めた.血清ウイルス抗体価ではEBVのviralcapsidantigen(VCA)-IgM80倍,VCA-IgG320倍,EBnucleusantigen(EBNA)10倍以下でEBVの初感染による伝染性単核球症と診断された.全身症状は対症療法のみで寛解したが,発症後7カ月で両涙腺の腫大は持続していた.結論:Bリンパ球に親和性のあるEBVは,リンパ増殖性疾患を発症する涙腺に感染を生じて急性涙腺炎の原因となりうる.Purpose:ToreportacaseofbilateralacutedacryoadenitisassociatedwithinfectiousmononucleosiscausedbyEpstein-Barrvirus(EBV).Case:An18year-oldfemalehadacute,bilaterallacrimalglandenlargementasdetectedbycomputedtomographicscanning(CT)oftheorbit.Laboratoryinvestigationshowedawhitebloodcellcountof19,360/mm2with31percentatypicallymphocytes.SystemicCTrevealedbilateralcervicallymphadenopa-thyandmildsplenomegaly.Thetiterofviralcapsidantigen(VCA)-IgMwas1:80,VCA-IgGwas1:320andEB-nuclearantigen(EBNA)was1:10.Thepatientwasdiagnosedwithacuteinfectiousmononucleosis.Symptomsandsignsregressed,exceptingthebilaterallacrimalglandenlargement,whichwaspresent7monthslater.Conclu-sion:SinceEBVhasana.nityforBlymphocytes,itisaprobablecauseofin.ammationinvolvingthelacrimalgland,whichisthesiteoflymphoproliferation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):862.867,2017〕Keywords:Epstein-Barrウイルス,伝染性単核球症,急性涙腺炎,異型リンパ球,涙腺腫瘤.Epstein-Barrvi-rus,infectiousmononucleosis,acutedacryoadenitis,atypicallymphocyte,lacrimalglandtumor.はじめにEpstein-Barrウイルス(EBV)はヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルスで,小児期に感染してそのほとんどが不顕性感染である1).しかし,成人における初感染では伝染性単核球症を発症するリスクが高い.なお伝染性単核球症はウイルス感染後,経過中に単核球(リンパ球)が増加することから名づけられた1).今回筆者らは,両側の涙腺腫脹で紹介された症例が全身検索の結果,末梢血に異型リンパ球を伴うリンパ球増多症およびリンパ節腫脹を合併し,血清学的ウイルス抗体価の結果よりEBV感染による伝染性単核球症と診断した1症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPAN862(104)I症例患者:18歳,女性.約1週間前より微熱,関節痛を自覚していた.2日前より38℃を超える発熱を生じたために救急病院に受診し,インフルエンザの迅速診断キットによりインフルエンザウイルスの感染ではないと診断され,解熱薬を処方された.翌日,両)上眼瞼腫脹を自覚したために近くの眼科を受診して,平成27年11月,松山赤十字病院眼科(以下,当科)を紹介され受診した.初診時視力は,右眼0.07(1.2×sph.6.5D(cyl.0.75DAx20°),左眼0.08(1.2×sph.5.75D(cyl.0.25DAx125°)眼圧は右眼19mmHg,左眼19mmHgであった.角結膜,,中間透光体,眼底には著変はなかったが,両側の上眼瞼腫脹を認めたため(図1a),眼窩CT撮影を行ったところ両側の涙腺腫脹が明らかとなった(図1b).血液検査所見として,末梢血では白血球数は19,360/μlで,好中級13.0%,好酸球0%,好塩基球2.0%,単球6.0%,リンパ球47.0%,異型リンパ球31.0%を示した.図2に血液の塗抹標本において認められた異型リンパ球(図2a)と正常リンパ球(図2b)を示す.異型リンパ球は正常リンパ球と比較すると大型で核膜に切れ込みを示しており,核小体も見うけられた.生化学検査ではAST138U/l,ALT502U/l,LDH529U/l,ALP541U/l,g-GTP143U/l,T-Bil0.8mg/dlと黄疸は合併していないものの肝機能異常が認められた.CRPは0.46mg/dlと軽度上昇していた.涙腺腫脹の原因を明らかにするために可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)と免疫グロブリンGサブクラスであるIgG4を測定した.T細胞の活動性の指標で造血器悪性腫瘍やウイルス感染症で上昇するsIL-2Rは,初診時には2,401IU/mlと高値を示していたが,平成28年6月の採血では284IU/mlと正常範囲に低下したことより,EBV感染のために一時的に上昇したと考えた.IgG4は即時型アレルギーに関連し,喘息,アトピーや寄生虫疾患などで上昇するが,最近では組織へのIgG4陽性形質細胞の浸潤と腫瘤形成を特徴とするIgG4関連疾患が提唱されており,その鑑別のために血清IgG4を測定した.本症例では血清IgG4は123mg/dlと軽度上昇を認めたのみでIgG4関連疾患による涙腺腫脹とは考えにくかった.Sjogren症候群に特異性の高い抗SS-A/Ro抗体および抗SS-B/La抗体はいずれも陰性で,眼科的所見において点状表層角膜症は生じておらず,フルオレセイン染色でも角膜上皮欠損は認めなかったために,Sjogren症候群の合併はないと考えられた.なお涙液分泌量はSchirmer第1法で右眼14mm,左眼27mmと涙液分泌障害は認めなかった.異型リンパ球が31.0%と高値を示したために内科に紹介したところ,伝染性単核球症が疑われ,さらに感染性ウ図1初診時所見a:初診時の顔写真.両上眼瞼の腫脹を認めた.b:眼窩CT撮影.両涙腺腫脹(矢印)を認める.図2末梢血のギムザ染色a:異型リンパ球.異型リンパ球は正常リンパ球と比較すると大型で核膜に切れ込みを示しており,核小体も見うけられる.b:正常リンパ球.イルス血清検査が施行された.血清ウイルス抗体価では,サイトメガロウイルスIgGは0.9,IgMは0.63倍といずれも抗体陰性であった.EBVの抗体価では,ウイルスがDNA合成を行う前に生成するearlyantigen(EA)についてはEA-IgM10倍以下,EA-IgG10倍以下といずれも抗体陰性であった.ウイルス構成蛋白の合成が始まると産生されるviralcapsidantigen(VCA)についてはVCA-IgG320倍,VCA-IgM80倍と高値を示したが,核内に存在するDNA結合蛋白であるEpstein-Barrnuclearantigen(EBNA)は10倍以下であっ表1EBV特異抗体の変化H27年11月H28年1月H28年6月VCA-IgG32032080VCA-IgM801010>EA-IgG10>1010>EA-IgM10>10>10>EBNA10>─20図3頸部CT撮影多発性の頸部リンパ節腫脹(矢印)が認められた.たためにEBVの初感染による伝染性単核球症と診断された(表1).伝染性単核球症の発症後,咽頭痛で摂食が困難なために内科入院となった.対症療法として水分,電解質,ぶどう糖およびアミノ酸を補給するために点滴治療が施行されたが,ステロイドの全身投与は行われなかった.おもな内科入院時所見として,体温は37.3℃の微熱を認めた.身体所見として口蓋扁桃は発赤して白苔が付着し,左頸部に示指頭大の有痛性リンパ節の腫大を指摘された.腋窩および鼠径部にリンパ節腫大は認めなかった.腹部所見として肝脾腫は触れず,腹部に圧痛は認めなかった.全身CT撮影で多発性の頸部リンパ節腫脹が認められ(図3),軽度の脾腫は認めたものの,肝臓の腫大は伴っていなかった(図4).なお,脾腫の根拠としてCT画像上,脾臓の断面が最大である画像において脾臓の頭尾方向の直径が10cm以上であれば脾腫を生じているという簡易診断法2)があり,本症例では脾臓の直径が12.5cmであったので軽度脾腫と考えた.その後,咽頭痛は消失し,摂食可能となったため退院となった.12月当科の再診時に採血を行ったが,白血球数は4,800/μlと正常範囲で異型リンパ球は認めず,生化学検査では肝腎機能は正常値を示した.さらに両上眼瞼腫脹は軽減してい図4腹部CT撮影軽度の脾腫が認められる.図5伝染性単核球症の発症7カ月後a:両上眼瞼は腫脹しておらず,開瞼は良好である.b:眼窩CT撮影.両涙腺は軽度の腫脹を認める(矢印).た.平成28年1月受診時には両上眼瞼の腫脹は消失していたものの,同日の眼窩CT撮影では両涙腺には軽度の腫大が認められた.EBVの抗体価はVCA-IgGは320倍と変わっていなかったが,VCA-IgMは10倍以下と正常範囲に低下した.その後,6月受診時にも両上眼瞼は腫脹しておらず(図5a),眼窩CT撮影では1月と同様に両涙腺は軽度腫脹していた(図5b).EBVの抗体価はVCA-IgGは80倍とやや低下し,VCA-IgMは前回と同様に10倍以下を示したが,EBNAは20倍とEBNA抗体は陽性となった(表1).II考按EBVは小児期に初感染して無症候性に経過するものがほとんどであるが,成人における初感染では伝染性単核球症として発症する.伝染性単核球症の診断基準には,臨床症状として発熱,滲出性咽頭扁桃炎,頸部リンパ節腫脹,肝腫,脾腫の5項目のうち3項目以上を呈すること,末梢血液所見としてリンパ球増多,10%以上の異型リンパ球の出現,およびEBV関連抗体の動態があげられる3).本症例では臨床症状のうち発熱,滲出性咽頭扁桃炎,頸部リンパ節腫脹および軽度ではあるが脾腫の4項目を満たしており,さらに末梢血液所見では白血球百分率において異型リンパ球が31%と高値を示していたことより伝染性単核球症と診断された.なお,異型リンパ球とはEBV感染Bリンパ球の排除を行って変性した細胞障害性T細胞性リンパ球である1).EBVが初感染なのか再活性化を生じているのか,その鑑別はウイルス蛋白質に対する免疫グロブリンの抗体価を測定することで可能となる.臨床検査室において鑑別に有用なEBV抗原としてEA,VCAおよびEBNAがあげられる.EAはEBVがDNA合成を始める前に産生されるが,本症例ではEA-IgM10倍以下,EA-IgG10倍以下といずれも抗体陰性であった.その後ウイルス構成蛋白質の合成が始まりVCAが感染細胞膜に表出されてくる.VCA-IgMは初感染から数カ月後まで陽性であり,VCA-IgGについては急性期ペア血清で有意に上昇する.その後,VCA-IgG抗体は持続して産生され,ウイルスの再活性化により抗体価は上昇する3).EBNAはEBV感染後から産生されるが,EBV特異的細胞膜障害性Tリンパ球により感染細胞が破壊されることでEBNAが血液中に流出してくるためにEBNAに対する抗体の出現は数週間から数カ月後と遅れてくる.本症例では発症時,VCA-IgG320倍,VCA-IgM80倍と高値を示したが,EBNAは10倍以下であったために,EBVの初感染による伝染性単核球症と診断された.2カ月後にはVCA-IgGは320倍と変わっていなかったが,VCA-IgMは10倍以下と正常範囲に低下した.7カ月後にはVCA-IgGは80倍とやや低下し,VCA-IgMは前回と同様に10倍以下を示したが,EBNAは20倍とEBウイルス血清抗体価EBNA(-)EBNA(+)VCAIgM(-)VCAIgM(+)EAIgM(-)あるいはEAIgM(+)VCAIgG(-)VCAIgG(+)かつあるいはEAIgG(-)EAIgG(+)図6EBウイルスによる伝染性単核球症の診断フローチャートEBNA抗体は陽性となり,典型的なEBV初感染後のEBV特異抗体の変化がみられた.図6にEBVによる伝染性単核球症の診断フローチャートを示す.EBV感染が関与する眼疾患は結膜炎,実質性角膜炎,ぶどう膜炎および視神経炎など多彩である4).しかし,伝染性単核球症に涙腺炎を合併した症例報告は決して多いとはいえない5.10).RhemらはCullenEyeInstituteにおける17年間の調査で,眼科新患患者155,000人のうち16人が涙腺炎と診断されたが,そのうちEBVの初感染症例は5人のみであった.すなわち,EBV起炎性涙腺炎の発症頻度は31,000人に1人と報告しており,伝染性単核球症に涙腺炎を合併する症例はまれという結論に至っている10).非化膿性涙腺炎のうち病原微生物が明らかにされた報告は少なく,EBV以外では単純ヘルペスウイルス11)や水痘・帯状ヘルペスウイルス12,13)などが報告されている.本症例では伝染性単核球症の罹患に伴って両涙腺の腫脹を呈したが,EBVの感染7カ月後でも涙腺の腫大は継続していた.その理由として,EBVの初感染後,いったん潜伏感染の状態となったEBV陽性の涙腺上皮細胞のなかには再活性化した細胞もあると考えられ,サイトカインや増殖因子の放出を行ってEBV感染細胞の増殖を促し,その結果両側の涙腺腫脹が持続しているという可能性が考えられる.ただしVCA-IgGの抗体価は発症後7カ月で低下傾向を示しているために,涙腺上皮細胞内のEBV再活性化を支持するものではない.本症例では涙腺組織の生検を行っていないので,EBVによる涙腺炎が遷延化しているのか,涙腺組織の腫瘍化が生じているのか明らかにすることはできない.EBV感染による涙腺組織の腫瘍化の可能性について考えてみたい.EBVはおもにB細胞に感染するが,それ以外にも上皮系細胞にも感染して多彩な増殖性疾患の原因となりうる14).EBVは感染細胞内で溶解感染か潜伏感染のいずれかの状態となる.溶解感染とはウイルス産生感染で,潜伏感染とはウイルスの潜伏遺伝子(latentgene)のみを発現し,炎症のないサイレントな状態を保つことである.潜伏遺伝子には①ポリAがなく蛋白質に翻訳されない遺伝子EBV-encod-edsmallRNA(EBER)1,2,②感染細胞の核に存在する蛋白質をコードする遺伝子EBNA1,2,③感染細胞の膜に存在する蛋白質をコードする遺伝子latentmembraneprotein(LMP)1,2Aなどが知られている.LMP1は癌遺伝子として知られており,Bリンパ球の不死化に必須である.LMP2Aはアポトーシスを阻止するために癌化に関与すると考えられている15).EBVがリンパ増殖性疾患の発症に関与している例としてSjogren症候群があげられる.伝染性単核球症罹患後にSjogren症候群を発症した症例16)やSjogren症候群の涙腺の生検によりリンパ増殖組織にEBVの潜伏遺伝子であるEBNA1,2を高率に認めた報告がみられる17,18).さらにP.ugfelderらはSjogren症候群患者から生検により採取した涙腺組織の免疫組織化学法を行い,リンパ増殖性組織に浸潤するリンパ球にEBNA2やtotalLMPが発現していることを示している18).Sjogren症候群以外では,Jinらは生検した眼窩偽腫瘍16例のうち15例からEBVのDNAが検出されており,EBVが眼窩偽腫瘍の発症に関与していると報告している19).Usuiらはpolymerasechainreaction法によりEBVのウイルスゲノムが眼付属器に発症したリンパ増殖性疾患に発現しているかどうかを調べた.その結果,EBVのウイルスゲノムの発現率は眼窩びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)28.6%,IgG4関連眼疾患31.8%,反応性リンパ組織過形成28.6%と比較的高率であり,EBVは良性および悪性のリンパ増殖性疾患の発症に関与している可能性について報告した20).しかし,Bijlsmaらは同様に眼窩偽腫瘍の生検試料よりEBVのDNA発現について検討したが,眼窩偽腫瘍ではEBVの発現率は19%,対照(外眼筋や眼窩の結合組織など)は11%と有意差は認めず,さらにその発現率も低いことから眼窩偽腫瘍の発症に対してEBVの関与の可能性は低いとしている21).Burkittリンパ腫のようにEBVが発癌に関与していることが明らかな疾患とは異なり,眼付属器のリンパ増殖性疾患においてはEBV感染による腫瘍化メカニズムについてまだ不明な点が多い.涙腺炎を発症した伝染性単核球症の報告例の大多数ではとくに後遺症を残さず治癒するとしているが,まれにSjogren症候群を発症することがある16).本症例では伝染性単核球症の寛解後も涙液分泌量も正常で,Sjogren症候群は合併していない.しかし,涙腺腫脹が続く限り,今後何らかの涙腺疾患を発症する可能性があり,厳重な経過観察を行う必要があると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)南嶋洋一:ヘルペスウイルス科D.EBウイルス.戸田新細菌学,改訂32版(吉田眞一,柳雄介編),p748-752,南山堂,20022)井上正則,竹田利明:VII.脾.腹部のCT,改訂2版(栗林幸夫,谷本仲弘,陣崎雅弘編),p264-293,メディカルサイエンスインターナショナル,20103)中山哲夫:ウイルス感染症EBウイルス.日本臨牀68(増刊号6):319-321,20104)MatobaAY:OculardiseaseassociatedwithEpstein-Barrvirusinfection.SurvOphthalmol35:145-150,19905)AburnNS,SullivanTJ:Infectiousmononucleosispresent-ingwithdacryoadenitis.Ophthalmology103:776-778,19966)Marchese-RagonaR,MarioniG,Sta.eriAetal:Acuteinfectiousmononucleosispresentingwithdacryoadenitisandtonsillitis.ActaOphthalmolScand80:345-346,20027)高橋義徳,鈴木一作,高橋茂樹:Epstein-Barrウイルス感染によると思われる急性涙腺炎に角膜潰瘍を合併した1例.臨眼47:420-421,19938)直川匡晴,荒牧陽,米谷昇ほか:両側涙腺炎と眼球運動障害を来したEBウイルスによる伝染性単核球症.内科専門会誌14:193-196,20029)伊佐敷靖,井口昭久,三宅養三:眼瞼浮腫を主徴とした伝染性単核球症の2例.臨眼62:1995-1998,200810)RhemMN,WilhelmusKR,JonesDB:Epstein-Barrvirusdacryoadenitis.AmJOphthalmol129:372-375,200011)FosterWJJr,KrausMD,CusterPL:Herpessimplexvirusdacryoadenitisinanimmunocompromisedpatient.ArchOphthalmol121:911-913,200312)ObataH,YamagamiS,SaitoSetal:Acaseofacutedac-ryoadenitisassociatedwithherpeszosterophthalmicus.JpnJOphthalmol47:107-109,200313)PathejaRS,WeaverT,MorrisS:Uniquecaseoforbitalmyositisanddacryoadenitisprecedingthevesicularrashofherpeszosterophthalmicus.ClinExpOphthalmol44:138-140,201614)西連寺剛:EBウイルス感染と発がん.ウイルス52:273-279,200215)村田貴之:EBウイルスの感染様式とがん.ウイルス64:95-104,201416)GastonJSH,RoweM,BaconP:SjogrensyndromeafterinfectionbyEpstein-Barrvirus.JRheumatol17:558-561,199017)JonesDT,MonroyD,JiZetal:Sjogren’ssyndrome:cytokineandEpstein-Barrviralgeneexpressionwithintheconjunctivalepithelium.InvestOphthalmolVisSci35:3493-3504,199418)P.ugfelderSC,CrouseCA,MonroyDetal:Epstein-BarrvirusandlacrimalglandpathologyofSjogrensyndrome.AmJPathol143:49-64,199319)JinR,ZhaoP,MaXetal:Quanti.cationofEpstein-BarrvirusDNAinpatientswithidiopathicorbitalin.ammato-rypseudotumor.PLOSONE8:e50812,doi:10.1371/journal.phone.0050812,201320)Us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Acute Syphilitic Posterior Placoid Chorioretinitisの1例

2017年6月30日 金曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(6):857.861,2017cAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitisの1例熊野誠也*1武田篤信*1,2仙石昭仁*1清武良子*1,3川野庸一*3園田康平*1*1九州大学大学院医学研究院眼科学分野*2国立病院機構九州医療センター眼科*3福岡歯科大学総合医学講座眼科学分野ACaseofAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitisSeiyaKumano1),AtsunobuTakeda1,2),AkihitoSengoku1),RyokoKiyotake1,3),YoichiKawano3)andKoh-HeiSonoda1)1)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuMedicalCenter,3)SectionofOphthalmology,DepartmentofGeneralMedicine,FukuokaDentalCollegeAcutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)は梅毒性ぶどう膜炎のなかでもまれな病型である.眼所見,画像所見,血清および前房水の梅毒抗体価上昇からASPPCと診断した1例を報告する.症例は39歳,女性.1週間前からの左眼視力低下を主訴に来院した.左眼黄斑部に網膜下黄白色扁平病変がみられた.光干渉断層計では,左眼黄斑部では視細胞内節エリプソイドと外境界膜の消失,また網膜色素上皮から外顆粒層へ突出した結節性病変がみられた.血清および前房水の梅毒抗体価上昇からASPPCと診断した.髄液中の梅毒抗体価上昇から神経梅毒の合併も考慮しペニシリン点滴治療を開始した.治療に速やかに反応し,以後再燃はみられていない.ASPPCが疑われた場合には血清および前房水の梅毒抗体価測定が診断に有用なことがある.A39-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalduetoseveresuddenvisuallossinherlefteyeforaweek.Ophthalmicexaminationshowedyellowishplacoidlesionsinvolvingthemaculainthelefteye.Opticcoherencetomographyrevealedthatbothellipsoidzoneandouterlimitedmembranehaddisappeared,andthattherewerenodularlesionsprojectingbetweentheretinalpigmentepitheliumandoutergranularlayerattheyellowishplacoidlesions.Thepatientwasdiagnosedashavingacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC),basedonpositiveresultsofserologyforsyphilisinserumandaqueoushumor.Thepatientwassuccessfullytreatedwithhigh-doseintravenouspenicillin,inviewofpositiveserologyresultsforsyphilisinthespinal.uid.Serologictestingofocular.uids,aswellasserum,isusefulfordiagnosingASPPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):857.861,2017〕Keywords:梅毒,acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis,光干渉断層計,前房水,梅毒血清反応.syph-ilis,acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis,opticalcoherencetomography,ocular.uids,serologyforsyphi-lis.はじめに近年,わが国の梅毒患者報告数は2014年で1,671人,2015年で2,698人と急増しており,とくに若年女性の増加が顕著である1).梅毒性ぶどう膜炎はおもに梅毒第2期以降でみられ,その臨床像は多彩で特徴的な眼所見に乏しい2).Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)は1988年,第2期にみられた中心性網脈絡膜炎としてdeSouzaらによって報告され3),黄斑部に大型の円板状黄白色病変を呈する特徴から1990年にGassらによりASPPCと命名された4).筆者らはASPPCと診断した1例を経験したので報告する.I症例患者:39歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:2015年2月,甲状腺乳頭癌摘出術を受けた.術〔別刷請求先〕熊野誠也:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:SeiyaKumano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka-shi,Fukuoka812-8582,JAPAN前に梅毒感染は検出されなかった.現病歴:2016年1月に左眼視力低下を自覚し1週間後に近医受診.左眼後部強膜炎と診断され,左眼トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を施行されるも改善がみられず,精査加療のため九州大学病院眼科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.08(1.2×sph.3.00D),左眼Vs=0.03(0.04×sph.2.50D).眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg.両眼とも前眼部に炎症所見はみられず,中間透光体にSUN分類で1+の硝子体混濁がみられた.眼底は両眼に視神経乳頭の軽度の発赤腫脹がみられ,左眼には黄斑部を中心に約6乳頭径大の円板状黄白色病変がみられた(図1).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では,左眼黄斑部に視細胞内節エリプソイド(photoreceptorinnersegmentellipsoid:ellipsoidzone)と外境界膜の消失,および,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)から外顆粒層へ突出した結節性病変がみられた(図2).右眼黄斑部にOCT上特記すべき所見はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinfundusangiography:FA)では,右眼アーケード上方と左眼黄斑部で造影初期には顆粒状の過蛍光がみられ,造影後期にはその増強を認めた.右眼は検眼鏡的にはみられなかった病変が蛍光眼底造影ではみられ,左眼と同様に造影初期には顆粒状の過蛍光,造影後期にはその増強がみられた.インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreenfundusangiography:IA)では,両眼とも同部位で造影初期には低蛍光,造影後期にはFAの過蛍光部位に一致した蛍光漏出を認めた(図3a).眼底自発図1眼底写真両眼に視神経乳頭の軽度の発赤腫脹,左眼黄斑にかけて約6乳頭径大の円板状黄白色病変がみられた.図2光干渉断層計左眼黄斑部では視細胞内節エリプソイドと外境界膜の消失,網膜色素上皮から外顆粒層へ突出した結節性病変(白矢印)がみられた.図3蛍光眼底検査,眼底自発蛍光検査a:(FA)右眼アーケード上方と左眼黄斑部で造影初期には顆粒状の過蛍光がみられ,造影後期にはその増強を認めた.(IA)両眼とも同部位で造影初期には低蛍光,造影後期にはFAの過蛍光部位に一致した蛍光漏出を認めた.b:(FAF)両眼とも同部位で過蛍光がみられた.図4Goldmann視野検査右眼は明らかな視野異常はみられなかったが,左眼は中心暗点がみられた.蛍光検査(fundusauto-.uorescence:FAF)においても同部位で過蛍光がみられた(図3b).中心フリッカー値は右眼39.8Hz,左眼22.8Hzであった.Goldmann視野検査(Gold-mannperimeter:GP)では,右眼には異常はみられず,左眼に中心暗点がみられた(図4).全身検査所見:胸部X線では異常所見がなく,ツベルクリン反応は弱陽性であった.血液検査ではCRP0.64mg/dlと軽度上昇,また梅毒血清反応では,ラテックス凝集法(Treponemapallidumlatexagglutinationtest:TPLA)1,662.0TU,rapidplasmareagintest(RPR)18.0RUと陽性を示した.ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.-ciencyvirus:HIV)抗体検査は陰性であった.前房水の梅毒抗体価はTPLA8倍と上昇していた.髄液検査では糖108mg/dl,蛋白65mg/dl,白血球数20/mm3,蛍光トレポネーマ抗体吸収試験(.uorescenttreponemalantibody-absorptiontest:FTA-ABS)8倍と上昇していた.発熱およびリンパ節腫脹や皮疹,粘膜疹などはみられなかった.治療経過:眼所見および全身検査所見よりASPPCと診断図5治療開始後の光干渉断層計,Goldmann視野検査a:治療開始前にみられた外境界膜の一部消失や網膜色素上皮から突出した結節性病変は消失していた.b:治療開始1カ月(右)から3カ月(左)後と中心暗点領域の改善を認めた.し,神経梅毒の合併を考慮しベンジルペニシリンカリウム2,400万単位/日の経静脈投与を14日間行った.治療開始1カ月後,左眼視力は(1.0)まで改善した.治療開始3カ月後,OCTで初診時にみられた外境界膜の一部消失やRPEからの結節性突出は消失していた(図5a).FAFでは右眼で過蛍光は消失し,左眼では一部残存するもその後増悪はみられなかった.GPでは左眼で中心暗点が縮小していた(図5b).梅毒血清反応ではTPLA28.5TU,RPR1.5RUまで低下し,眼底病変の再発はみられていない.II考按ASPPCの特徴として,半数は片眼性で平均年齢は40歳,約80%に前房や硝子体に炎症がみられ,黄斑部に大型の円板状黄白色病変がみられる5).画像所見では,spectral-domainOCTにてellipsoidzoneと外境界膜の消失,RPEの肥厚や結節性突出などが報告されており6.8),本症例でも過去の報告と一致していた.また,FAで病変部は初期で低蛍光,後期にかけて増強する過蛍光とleopardspottingとよばれる部分的な低蛍光を呈すると報告されており4,5),本症例でも同様であった.ASPPCの病変の主座については,過去の報告における画像所見から脈絡膜毛細血管板.RPE.網膜視細胞層にあると考えられている3,4)が,さらに本症例ではFAFで過蛍光を呈していたことから機能的にRPEレベルの異常も考えられた.鑑別診断として,画像所見からは急性帯状潜在性網膜外層症や多発消失性白点症候群,また片眼性急性特発性黄斑症などがあげられたが6),臨床所見のみでは鑑別が困難であった.本症例では眼所見や画像所見に加え,血清および前房水中の梅毒抗体価が上昇したことからASPPCと診断した.梅毒性ぶどう膜炎は眼内にTreponemapallidum(TP)が直接浸潤して生じるとされている.神経梅毒では髄液中の梅毒抗体価上昇や細胞数,蛋白増多などの炎症所見が検出されるが,これは中枢神経系にTPが直接浸潤し炎症が励起されることに起因する9).本症例では前房水中の梅毒抗体価が上昇したことから,ASPPCの病態にTPの眼内直接浸潤の関与が示唆された.また,polymerasechainreaction(PCR)を利用した眼微量検体での迅速で網羅的な病原体遺伝子検索法が開発されており10),今回のような症例に用いることで診断がより迅速で効率的になる可能性について,今後検討が必要であると考えられた.梅毒は性感染症であり,海外では20.70%にHIV感染との合併が報告されている11).HIV感染合併例では梅毒性ぶどう膜炎の頻度が高く,非典型的であり,重篤化することがある12).本症例では発症約1年前の血液検査では梅毒感染は検出されておらず,その後の性交渉による感染が疑われている.HIV感染は検出されなかったが,ASPPCの症例ではHIV感染の検索を進めると同時に,パートナーを含めた感染拡散や再感染の防止に努める必要があると考えられた.また梅毒は感染症法により全数把握対象疾患の5類感染症に定められており,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務づけられている.梅毒性ぶどう膜炎では第2期以降に出現するため,治療は一般の駆梅療法第2期に準じて行う13).また,ASPPCの患者の約25%に神経梅毒の合併があると報告されている9).本症例では髄液中の蛋白増多,細胞数増多,梅毒抗体価上昇がみられたため,神経梅毒に準じた治療を行った.治療によく反応したものの,初診時OCTにみられたellipsoidzoneと外境界膜の消失は治療開始3カ月後にも一部残存していた.そのためASPPCの治療では,神経梅毒の合併がなくても長期的な神経網膜の保護を考慮した強力な治療を行う必要性があると考えられた.また,駆梅療法としての抗生物質投与にステロイドを併用した報告がある14).本症例では前医でステロイド局所投与が行われていたこともあり,ステロイド全身投与は行わなかった.しかし,抗炎症による神経保護の観点からASPPCに対してはステロイド全身投与についても検討する必要があるかもしれない.以上,梅毒性ぶどう膜炎のなかでもまれな病型であるASPPCの1例を報告した.本症例では短期間で重篤な視力低下がみられたが,眼所見よりASPPCを疑い,血液検査や眼内液の梅毒抗体価の測定を行うことで早期に診断,治療を行うことが可能であった.RPE障害を伴うぶどう膜炎において梅毒検査は重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岩橋千春,大黒伸行:梅毒.あたらしい眼科33:953-956,20162)八代成子:梅毒性ぶどう膜炎.所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩編):p226-231,医学書院,20133)deSouzaEC,JalkhAE,TrempeCLetal:Unusualcen-tralchorioretinitisasthe.rstmanifestationofearlysec-ondarysyphilis.AmJOphthalmol105:271-276,19884)GassJD,BraunsteinRA,ChenowethRG:Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis.Ophthalmology97:1288-1297,19905)EandiCM,NeriP,AdelmanRAetal:Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis:reportofacaseseriesandcomprehensivereviewoftheliterature.Retina32:1915-1941,20126)関根裕美,八代成子,大平文ほか:画像所見よりacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitisを疑い駆梅療法が奏効した1例.日眼会誌119:266-272,20157)PichiF,CiardellaAP,CunninghamETJretal:Spectraldomainopticalcoherencetomography.ndingsinpatientswithacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinopathy.Retina34:373-384,20148)BurkholderBM,LeungTG,OstheimerTAetal:Spectraldomainopticalcoherencetomography.ndingsinacutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis.JOphthalmicIn.ammInfect4:2,20149)松室健士,納光弘:炎症性疾患スピロヘータ感染症梅毒トレポネーマ.別冊領域別症候群シリーズ神経症候群1,日本臨躰26:615-619,199910)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacompre-hensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularinfectiousdiseases.Opthalmology120:1761-1768,201311)LeeSY,ChengV,RodgerDetal:Clinicalandlaboratorycharacteristicsofocularsyphilis:anewfaceintheeraofHIVco-infection.JOphthalmicIn.ammInfect5:26,201512)ChessonHW,He.el.ngerJD,VoigtRFetal:EsimatesofprimaryandsecondarysyphilissrateinpersonswithHIVintheUnitedStates,2002.SexTransmDis32:265-269,200513)後藤晋:疾患別くすりの使い方梅毒性ぶどう膜炎.眼科診療プラクティス11,眼科治療薬ガイド(本田孔士編),p138-139,文光堂,199414)原ルミ子,三輪映美子,佐治直樹ほか:網膜炎として発症した梅毒性ぶどう膜炎の1例.あたらしい眼科25:855-859,2008***

基礎研究コラム 1.ダイレクトリプログラミング

2017年6月30日 金曜日

ダイレクトリプログラミングダイレクトリプログラミングとは受精卵から各細胞への分化は一方向で,いったん分化した細胞は元の細胞に逆戻りできないと考えられてきました.しかし,2006年のiPS細胞の発見で,細胞の特異的な分化の鍵となる転写因子群(コア転写因子)を導入することで逆戻り(リプログラミング)ができることがわかりました.さらに最近では細胞特異的な“コア転写因子”を用いることで,心筋,神経,肝細胞などのさまざまな分化細胞を直接誘導できることがわかってきました.このように体細胞から多能性幹細胞を経ずに特異的な分化細胞に直接誘導することを“ダイレクトリプログラミング”といいます(図1).ES/iPS細胞を利用した再生医療は,多能性幹細胞を分化にそって少しずつ誘導させていくため,培養期間が長期になり,医療コストも膨大になります.一方,ダイレクトリプログラミングでは直接誘導することができるため,短期間に誘導できることが期待されます.また,ダイレクトリプログラミングは培養皿の中だけでなく,生体内で直接分化転換することも可能です.たとえば,心臓の中の非心筋細胞(線維芽細胞)を直接生体内で心筋に転換することで心臓再生をめざす研究が国内外で進められています.最近では,遺伝子を導入するだけでなく,さまざまな低分子化合物を利用したリプログラミグの報告も数多くされていて,将来的には薬でのダイレクトリプログラミングが期待されます.眼の領域ではどうでしょうか網膜の領域では転写因子の研究が進んでおり,転写因子を用いたリプログラミングの研究が行われています1).しかし,角膜ではどのような転写因子がコア転写因子であるかはわかっていませんでした.そこで筆者のグループでは,独自に開発したiPS干渉法2)を用いて,転写因子のスクリーニングを行いました.その結果,6つの転写因子(PAX6,OVOL2,KLF4,SOX9,TP63,MYC)を用いると,わずか11日でヒト皮膚線維芽細胞から角膜上皮様細胞を誘導できました(図2)3).このことは6つの転写因子が角膜上皮のコア転写因子ネットワークを形成していることを示唆します.今後の展望一つはダイレクトリプログラミングを用いた再生医療が考えられます.これには培養皿でのリプログラミングだけでなく,生体内でのリプログラミングも含まれます.もう一つは,このようなコア転写因子ネットワークは細胞の健常状態(89)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY北澤耕司京都府立医科大学感覚器未来医療学バプテスト眼科クリニック図1Epigeneticlandscapeコア転写因子を用いて,多能性幹細胞を経ずに特異的な細胞分化に直接誘導できることをダイレクトリプログラミングという.(6因子)図2角膜上皮のダイレクトリプログラミング6つの転写因子を用いると,11日で角膜上皮様細胞が誘導される.の維持に大きく関与していて,そのことは,病気の発症とコア転写因子ネットワーク崩壊との関連を示唆します.今回示したような転写因子群がどのようにして細胞の分化状態を維持しているかがわかれば,病気発症や予防のメカニズム解明にもつながり,薬での逆戻り(リプログラミング)も可能になるかもしれません.文献1)ZhangK,LiuGH,YiFetal:Directconversionofhuman.broblastsintoretinalpigmentepithelium-likecellsbyde.nedfactors.ProteinCell4:48-58,20132)HikichiT,MatobaR,IkedaTetal:Transcriptionfactorsinterferingwithdi.erentiationinducecelltype-speci.ctranscriptionalpro.les.ProcNatlAcadSci110:6412-6417,20133)KitazawaK,HikichiT,NakamuraTetal:OVOL2main-tainsthetranscriptionalprogramofhumancornealepi-theliumbysuppressingepithelial-to-mesenchymaltransi-tion.CellRep15:1359-1368,2016あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017847

二次元から三次元を作り出す脳と眼 13.形態視の障害-失認・空間視の障害-失行

2017年6月30日 金曜日

雲井弥生連載⑬二次元から三次元を作り出す脳と眼淀川キリスト教病院眼科はじめに腹側経路では形態視情報,背側経路では空間視情報を扱うため,それぞれの障害で表れる病状はかなり異なる.前者では失認,後者では失行という形をとる1)(連載⑫参照).1960年代の記録を元にした書籍『先天盲開眼者の視覚世界』には,先天性白内障や角膜混濁のため重度の弱視となった患者が,成長後に手術を受け視覚訓練で苦悩する様子が描かれている2).失認や失行に似た症状が記され,正常な視覚が働くために脳がどのような力や機能を獲得する必要があるか考えさせられる.視覚失認・視覚失行脳血管障害や脳腫瘍の際の臨床症状やCT・MRI画像,動物の脳の局所的な破壊実験から,失認・失行の病態が明らかとなってきた(表1).腹側経路の障害では形態視が影響を受ける.物を見てその名前や特徴が認識できなくなるが,その操作はできる.ハサミや電話を見てもそれがなにか認識できないが,ハサミを触ったり電話の音を聞いたり,触覚や聴覚などほかの感覚を使えば認識できる.このように視覚によって物を認識できない状態を視覚失認とよぶ.眼から入った情報と脳に蓄積された視覚記憶とをマッチさせられなくなるためである.背側経路は正常なので,物の操作や絵の模写は可能である.障害部位によっては家族や知人の顔,鏡に映る自分の顔がわからなくなる相貌失認という病状が起こる.動物実験ではV4の破壊で形の弁別や恒常性(形・大きさ・色)が障害される.図1ではV4破壊後のサルで形の恒常性が障害された例を示す3).中央と同じ形の図形を選ぶ課題で,大きさが同じであれば右下の円を選べる場合(図1a)でも,大きさが変わると選べなくなる(図1b).下側頭葉の破壊では形の弁別のほか,形を見て記憶するのが困難になる.背側経路の障害では空間視が影響を受ける.眼前の物の名前や特徴はわかるのに操作ができなくなる.鍵を鍵穴の向きに合わせて差し込んだり,郵便ポストに手紙を投函するためスリットの向きに手紙を合わせたりするような手や指の操作ができない.視覚情報に基づく手や指の制御ができない.これを視覚性運動失行とよぶ.その他,距離や奥行きの判断ができなくなることもある.動物実験ではV5/MTの破壊により動きの方向の判断が困難になる.失認・失行は脳局所の後天的な障害で起こるのだが,幼少時に中間透光体の混濁などで視覚が育たず,成長後表1腹側経路と背側経路の障害の比較腹側(側頭葉)経路背側(頭頂葉)経路機能形態視空間視部位V4下側頭葉V5/MTV5A/MST後頭頂葉障害による臨床症状視覚による認識物の操作や模写視覚失認相貌失認×触覚や聴覚での認識可能〇視覚性運動失行〇×視覚に基づく手や指の制御が困難×距離や奥行きの判断が困難動物実験(脳局所破壊)V4破壊形弁別×形・大きさ・色の恒常性×下側頭葉破壊形弁別×視覚記憶×V5/MT破壊動きの方向の判断×(87)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178450910-1810/17/\100/頁/JCOPYabV4を破壊されたサルでも,中央の円と同じ大きさ・形の右下の円を選ぶことができた.同じサルで,中央の円の大きさが変わると右下の円を選べなくなった.図1図形の弁別課題(形の恒常性)に手術を受け視覚訓練を受ける患者にも同様の症状が認められる.『先天盲開眼者の視覚世界』「新生児の両眼に白内障や角膜混濁など中間透光体の混濁を見つけたら,3~4カ月以内に手術をして視覚刺激が網膜に届くようにしなければならない.そうでないと視力が育たずに弱視と眼球振盪を残してしまう」筆者が研修医だった1980年代,このように指導を受けた.この事実の確立には多くの研究の蓄積が必要だった.1960年代に先天性白内障や角膜混濁のために眼前光覚弁あるいは手動弁など,ほとんど視力のない人たちに対して,少しでも視覚をと試みられた開眼手術もその一つである.幼少時に異常を発見されても当時まだ手術が困難で,そのまま成長し10~30歳で手術を受けた10人の患者の視覚訓練に苦悩する様子が前掲の『先天盲開眼者の視覚世界』2)に記されている.まず形態視についてである.手術後は光がまぶしいだけで,網膜に映るようになった外界の情報は洪水のようなものでしかなく,それを聴覚や触覚など日頃使っている感覚によって認識している物と一致させることはできなかった.具体的には目の前のハサミや時計を視覚だけでは認識できず,ハサミに触れ時計の音を聞いて聴覚や触覚などこれまでの情報源を用いて初めて認識できた.視覚失認と似ているが,こちらは視覚記憶の蓄積そのものがない状態である.形の弁別訓練では,円と正三角形の区別がむずかしいが,円と正方形ではさらに困難となる(図2a).眼を図形のすぐ近くまで近づけて,円や三角形や正方形などの輪郭にそって,まるで指でなぞっていくように,頭を動かしてたどり,角があるかないか,846あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017ab平面図形立体図形円と正方形の区別がむずかしい!円柱と円錐の区別がむずかしい!図2重度弱視患者の手術後の視覚訓練あるとすればいくつあるかなど特徴的な部分を探してようやく図形を見分けられる.同じ形であっても,大きさが変わると認識がむずかしくなる(形の恒常性が弱いことを示す).立体図形はさらに難度が上がる.たとえば円柱と円錐の区別がむずかしい(図2b).「手で触れればすぐに分かる,その円錐のトンガリが眼では探し当てられないのです.平面図形はどこから見ても同じ形なのに,立体は見る位置によって形が違うから…」というコメントに,無限に形を変える立体に難なく対応する脳の力をあらためて再認識させられる.次に空間視について,方向や距離を視覚でとらえたり,物を操作したりするのが困難な様が記される.「声を手がかりにして室内(6~8畳)にいるひとの識別や人数の確定を行うことはできるが,同じ部屋の中に立っているひとの位置を視覚で定位したり(筆者註:網膜に映っている場所から実際の空間の位置を定めるという意味),適切な距離から物を手渡すというようなことができなかった.机(90cm×90cm)の上で前方30cmの距離に3個の立方体を横に並べておく,あるいは,それらを前方30cm以内の種々の奥行き距離に置くといったごく限られた探索空間においても,提示された立方体を正確に定位してそれを手でつかむことは困難であった」正常の視覚には腹側経路・背側経路両方の機能が必要であること,成長期に両者を発育させるためにさまざまな視覚刺激が必要であることを示している.文献1)藤田一郎:第2章知覚と行動のつじつま.「見る」とはどういうことか─脳と心の関係をさぐる,p28-61,化学同人,20072)鳥居修晃,望月登志子:先天盲開眼者の視覚世界.東京大学出版会,20003)ScillerPH:E.ectoflesionsinvisualcorticalareaV4ontherecognitionoftransformedobjects.Nature376:342-344,1995(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 169.強膜バックリング手術習得のコツ(その4)結膜下液排除(初級編)

2017年6月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載169169強膜バックリング手術習得のコツ(その4)網膜下液排除(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに強膜バックリング手術の手術手技のうち,網膜下液排除は脈絡膜出血(図1),網膜嵌頓などの重篤な合併症をきたしやすいので細心の注意をもって施行すべきである.今回はこれらの合併症を未然に回避するコツを述べる.●網膜下液排除を施行する位置教科書的には網膜下液量が十分あり,脈絡膜血管が少ない部位が適当とされているが,図2のように,渦静脈は各象限の中央よりもやや上下に近い部位に認めることが多い1).多少の個人差はあるものの,通常は1時,5時,7時,11時方向は比較的脈絡膜の太い血管が存在する可能性が高いので,この部位でも穿刺はできるだけ避ける.一方,この部位から離れた水平直筋の上下(2時半,3時半,8時半,9時半)と上下直筋の直下(6時,12時)は脈絡膜の血管が比較的少ない.筆者は網膜下液量が十分にある場合には,これらの位置で網膜下液排除を施行している.●網膜下液排除の方法まずゴルフ刀で強膜に切開を加えた(図3a)後に,眼内ジアテルミーで切開縁を凝固する.これにより強膜が収縮し,縫合糸をかけなくても脈絡膜が露出する(図3b).あとは顕微鏡の倍率を拡大して,27ゲージ(G)針で脈絡膜の血管を確実に同定しながら,血管を損傷しないようにゆっくりと斜めに穿刺する(図3c).バックルの隆起で裂孔を閉鎖しながらその後極で穿刺すると,液化硝子体が裂孔を介して網膜下に流入しにくくなるため,術中に網膜復位が得られやすい.なお,網膜下液排除の直前には,前房穿刺により眼圧を正常あるいはやや低めにしておく.眼圧が高いと穿刺部位に網膜が嵌頓し図1脈絡膜出血穿刺時に脈絡膜の血管を損傷し,網膜下出血をきたしている.図2渦静脈の解剖渦静脈は各象限の中央よりもやや上下に近い部位に認めることが多い.図3網膜下液排除の方法ゴルフ刀で強膜に切開を加えた(a)後に,眼内ジアテルミーで切開縁を凝固し脈絡膜を露出させる(b).その後顕微鏡の倍率を拡大して,27G針で脈絡膜血管を損傷しないようにゆっくりと穿刺する(c).上斜筋渦静脈文献やすくなるだけでなく,急激な圧の変動で脈絡膜出血を1)眼科Surgeonsの会(編):網膜.離の手術~確実な復位をきたしやすくなる.めざして.医学書院,1986(85)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178430910-1810/17/\100/頁/JCOPY

弱視と斜視のABC 10.滑車神経麻痺

2017年6月30日 金曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保10.滑車神経麻痺古森美和浜松医科大学医学部眼科学講座滑車神経麻痺には先天性と後天性があるが,ここでは後天性について解説する.後天性滑車神経麻痺は上下複視に加え回旋複視を主訴とし,頭部外傷や抹消循環不全により発症しやすい.自然回復もあるため発症から半年間は保存的に経過をみる.その後プリズム療法などの非観血的治療で対応できない場合は斜視手術を検討する.はじめに滑車神経は中脳背側を交叉して走行しており,対側の上斜筋を支配する.上斜筋の作用方向は,内方回旋作用がとくに強く,加えて下転,さらに外転に作用する.このため,滑車神経麻痺では,眼球は外方回旋し,患眼が上転しやすい.これを打ち消すように,患者はやや顎を下げて健側方向を向き,頭を健側へ傾斜する異常頭位をとっていることが多い.原因と症状後天性滑車神経麻痺の原因としては,50歳未満では頭部外傷が,50歳以上では抹消循環不全が頻度としてもっとも高いと報告されている1).先天性では通常広い融像幅をもち,異常頭位をとることによって良好な眼位を保っているため複視を訴えることは少ないが,後天性では,突然発症する眼位異常に対し複視を自覚する.上下複視に加え,回旋の複視を主訴とすることが特徴である.とくに両側性滑車神経麻痺の場合は,上下偏位が両眼にみられるために,第一眼位での上下偏位は打ち消さaれ,回旋性複視のみが著明に現れる.①頭部傾斜試験が両側で陽性,②15°を超える外方回旋複視,③V型斜視では両側性の滑車神経麻痺を考える.とくに強く頭部を打撲した症例では両側性麻痺を起しやすい.診断に必要な検査Bielschowsky頭部傾斜試験や,Parksのthree-steptestに加え,後天性滑車神経麻痺では強い回旋複視が特徴であるため,回旋複視を測定する必要がある.Hess赤緑試験(図1a)ではV型斜視のパターンをとりやすいが,この検査では回旋偏位は測定できない.一方,大型弱視鏡(図1b)では,水平・上下偏位に加え,回旋偏位を定量することができる.Maddoxdoublerodtestは,自覚的な回旋偏位を簡単に測定することができる方法であるが,眼鏡枠の1メモリは5°と大きいため,おおよその回旋角度の測定であることを認識しておく必要がある.眼底写真(図2)で外方回旋偏位を確認することも有用である.両側性では外方回旋15°以上の回旋偏位を伴うことがb-5-3+13L/R1L/R0Ex19Ex19Ex15-2+1+15L/R1L/R0Ex19Ex14Ex15+1+2+33L/R1L/R0Ex20以上Ex18Ex18図1両眼後天性滑車神経麻痺のHess赤緑試験と大型弱視鏡による9方向眼位a:Hess赤緑試験.V型斜視のパターンをとりやすいが,回旋偏位は測定できない.b:大型弱視鏡による9方向眼位.上段:水平偏位(+:内斜,.:外斜),中段:上下偏位(R/L:右上斜,L/R:左上斜),下段:回旋偏位(Ex:外方回旋,In:内方回旋).数字はすべて角度を表す.両側性では,外方回旋15°以上の回旋偏位を伴うことが多い.(83)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178410910-1810/17/\100/頁/JCOPY右眼左眼図2両眼後天性滑車神経麻痺の眼底写真両眼ともに外方回旋偏位を認める.多く,とくに下方視で大きくなる.人は正面から下方を見て生活することが多いため,このことは患者のQOLに大きな支障となる.経過・治療宮本の報告では微小循環障害による血管性が原因の場合は,全身疾患に対する治療を行ったうえでの回復率は高く,約9割が完全回復するのに対し,外傷が原因の場合は自然回復は約半数であった2).したがって,発症から少なくとも半年間は保存的に経過をみる必要がある.その間,次に述べる非観血的治療で症状を緩和させる.非観血的治療①プリズム療法:眼鏡の上に貼るシール状のフレネル膜プリズム(1-40プリズムまで幅広い角度に対応可能)と,眼鏡に組み込むタイプ(片眼に5プリズム程度の矯正が限界)の2種類がある.発症初期は膜プリズム装用を行い,斜視角が安定してから組み込みプリズムを処方する.回旋複視はプリズムでは減少しないが,上下偏位をプリズムで矯正することによって,融像が促されて回旋複視の改善が見込まれる.上下偏位が3プリズム以内,回旋複視が8°以内の高齢者でプリズムに適応しやすいと報告されている3).②遮閉療法:眼帯やアイパッチなどで直接片眼を遮閉する方法と,片方のレンズの透光性を落として単眼視させる方法がある.半年以上経過し,症状固定後も複視が残存した場合,プリズム眼鏡を継続するか,手術を行うかを検討する.観血的治療①健眼の下直筋後転+鼻側移動術:下直筋を後転させることで上下偏位の矯正を,さらに鼻側移動させることによって外方回旋を矯正する効果もある.下直筋を842あたらしい眼科Vol.34,No.6,20171mm後転することで約2°上下偏位の改善効果が,一筋腹鼻側移動で5.5~7.0°の内方回旋効果があるとされる4).鼻側移動する際にはTillauxのらせんに沿って移動させる.下直筋を5mm以上後転させると,下眼瞼の後退を生じたり,術後に上下が逆転したりする可能性があるため注意が必要である.後転と鼻側移動を同時に行う場合は,定量が不安定になる可能性も考慮しておく.②下斜筋減弱術:患眼の内上転過動が強い場合,下斜筋減弱術を選択する.減弱のための方法としては,下斜筋切除術,後転術,前転術などがある.③上斜筋縫縮術:牽引試験で上斜筋腱が緩い場合は上斜筋縫縮術も検討するが,後天性では上斜筋の緩みが少なく,上斜筋縫縮術後に医原性Brown症候群を起こしやすいため注意が必要である.④原田.伊藤法(上斜筋前部前転法):上下,水平眼位への影響を与えずに,外方回旋のみを矯正したいときに行う.片眼で6.0~9.7°の内方回旋効果があると報告されている5).しかし,定量が不安定であったり,術後の低矯正5)が問題となる.直筋の手術は局所麻酔で行え,術中の微調整も可能であるのに対し,斜筋手術,とくに上斜筋は熟練を要し,全身麻酔での手術が好ましい.おわりに後天性滑車神経麻痺では,わずかな上下斜視や回旋性の複視でも患者の訴えは強いことが多い.一見眼位異常がないように見える症例でも,上下にずれて見える,傾いて見えるなどの訴えがある場合は滑車神経麻痺を疑って問診を行う必要がある.文献1)AkagiT,MiyamotoK,KashiiSetal:Causeandprogno-sisofneurologicallyisolatedthird,fourth,orsixthcranialnervedysfunctionincasesofoculomotorpalsy.JpnJOph-thalmol52:32-5,20082)宮本和明:神経眼科MinimumRequirements眼運動神経麻痺をみたら.あたらしい眼科30:753-759,20133)稲垣理佐子,浅野麻衣,正木勢津子ほか:複視に対するプリズム適応の検討.日本視能訓練士協会誌35:93-97,20064)OkamotoM,KimuraA,MasudaAetal:Surgicale.ectsofnasaltranspositionofinferiorrectusmuscle-135casesofacquiredsuperiorobliquepalsy.ClinOphthalmol9:691-695,20155)NishimuraJK,RosenbaumAL:Thelong-termtorsione.ectoftheadjustableHarada-Itoprocedure.JAAPOS6:141-144,2002(84)

眼瞼・結膜:濾胞性結膜炎とは

2017年6月30日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人27.濾胞性結膜炎とは高村悦子東京女子医科大学医学部眼科学教室濾胞性結膜炎は,結膜下のリンパ濾胞による隆起を形成する結膜炎の総称であり,感染や薬剤などの刺激が濾胞形成の原因としてあげられる.日常診療で遭遇する濾胞性結膜炎は,アデノウイルス,クラミジアによる感染症や薬剤アレルギーを原因とするものが多い.濾胞の形状や経過は,その原因によってそれぞれ特徴がある.●はじめに結膜の炎症所見としては,主として充血,眼脂であるが,濾胞形成や乳頭増殖などの隆起性病変を伴う結膜炎もある.ここでは,濾胞形成をきたす結膜炎の原因や所見の特徴を述べる.●結膜の構造結膜は,結膜上皮と結膜下組織(結膜固有層)からなる.結膜固有層は結膜上皮基底膜の下層の比較的疎な結合組織で,浅層の腺様組織層と深層の線維層の2層からなる.腺様組織層には,マスト細胞(肥満細胞),リンパ球,プラズマ細胞(形質細胞),好中球などの炎症細胞が存在し,感染や炎症に対応し,反応する一種の防御機構を形成している.一方,線維層は厚いコラーゲン線維や弾性線維によって構成され,血管や神経はこの中を走行する.結膜上皮リンパ濾胞●濾胞と乳頭結膜炎に伴う結膜の隆起性病変には,濾胞形成と乳頭増殖がある.濾胞は結膜固有層のリンパ濾胞であり,ウイルス感染など種々の刺激によりリンパ球が増殖し隆起したものである.組織学的には未分化のリンパ球が中心にあり,その周辺に成熟したリンパ球が認められる.結膜下の濾胞形成は年齢によって差があり,生後2カ月以内の乳児にはみられないが,2~15歳でもっとも形成能が高く,その後年齢とともに減少する.濾胞は円蓋部や輪部に好発し,形成される濾胞も大型である.瞼板部結膜では固有層が少ないため濾胞も小さく,肉眼的に乳頭との鑑別がむずかしいこともある.そのため,濾胞形成は下眼瞼結膜で観察しやすい.乳頭は,結膜に炎症が続くことで血管の周囲に浸潤細胞が集まり,それが遷延化し,結膜上皮層の肥厚と上皮下組織の増殖が起こったものである.正常でも乳頭は存図1濾胞と乳頭の比較濾胞では周辺部から血管が入っているのに対し,乳頭ではその頂点から新生した毛細血管が観察される.(81)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178390910-1810/17/\100/頁/JCOPY図2アデノウイルス結膜炎の瞼結膜所見充血とともに下眼瞼全体に濾胞形成を認める.在するが,直径0.3mm以上の場合,病的な乳頭と考える.上眼瞼の瞼板部結膜では瞼板があるため,増殖した上皮組織は外方に向かって突出し,乳頭の隆起を形成する.上皮下には細胞浸潤と線維増殖が起こる.一方,球結膜では,瞼板がなく,下方にスペースがあり,結合がゆるいので,結合組織の増殖が起こっても瞼結膜のような隆起病変とはならない.したがって,乳頭増殖は上眼瞼結膜で観察しやすい.いずれも結膜の隆起として観察されるが,細隙灯顕微鏡で血管の走行をみると,乳頭ではその頂点から新生した毛細血管が赤い小点として観察されるのに対し,濾胞では周辺部から血管が入っていることで区別できる(図1).春季カタルなどでみられる癒合乳頭は濾胞との鑑別がむずかしい場合もあるが,数個の単位乳頭の集合であり,血管の走行から,乳頭内に数本の血管が現れ乳頭内で分岐しており,乳頭の血管の特徴が残されている.●濾胞性結膜炎濾胞性結膜炎とは,結膜に濾胞形成,すなわち結膜下のリンパ濾胞による隆起を形成する結膜炎の総称で,外界からの種々の刺激,感染や薬剤アレルギーなどにより結膜固有層のリンパ濾胞が反応し炎症を引き起こす.急性濾胞性結膜炎としては,アデノウイルス,単純ヘルペスウイルス,クラミジアによる感染症が代表である.これらの結膜炎は,同時に耳前リンパ節腫脹を伴い,種々の程度の角膜炎を合併することもある.慢性濾胞性結膜炎は,感染症のほかに,点眼薬によるアレルギーでみられる.●濾胞性結膜炎を呈する代表的な疾患1.アデノウイルス結膜炎耳前リンパ節腫脹を伴う両眼性の急性濾胞性結膜炎を図3成人クラミジア結膜炎の瞼結膜所見クラミジア感染にみられる濾胞は,アデノウイルスによるものより充実性で大きい.特徴とする.約1週間の潜伏期の後,片眼に結膜炎が発症し,数日遅れて他眼に発症する.症状は,細菌性結膜炎に比べ重症で,激しい充血,大量の漿液線維素性の眼脂,流涙,眼瞼腫脹などがみられる.圧痛を伴う耳前リンパ節腫脹は,ウイルス以外を原因とする結膜炎との鑑別点になる.ただし,乳幼児ではリンパ組織が未熟なため,耳前リンパ節腫脹を伴わないことがある.細隙灯顕微鏡では,濾胞形成(図2)のほかに,瞼結膜の充血,混濁,濾胞形成,ときに小出血斑が観察される.結膜炎の症状および所見は1週間以内に症状のピークを迎え,ウイルスに対する抗体ができると約2週間程度で軽快する.2.成人型封入体結膜炎(成人クラミジア結膜炎)Chlamydiatrachomatisによる結膜炎で,性活動の盛んな青壮年にみられることが多い.多くは片眼性で,充血,粘液膿性眼脂,耳前リンパ節腫脹を急性濾胞性結膜炎で発症する.封入体結膜炎では下眼瞼結膜から円蓋部にかけ濾胞形成を特徴とするが,経過とともに徐々に悪化し,感染から約3週間後には充実性で堤防状に癒合した大型の濾胞(図3)が形成され,粘液膿性の眼脂を伴うようになる.発病初期にはアデノウイルスによる濾胞形成と鑑別はむずかしいが,経過とともに濾胞は大きさを増し,充実性になる.発病初期から,上方周辺部角膜に淡い小円形の上皮下混濁や上輪部の浸潤や軽度の表層性血管侵入(パンヌス)を伴う.封入体結膜炎では2週間以上症状が続き,経過とともに症状が悪化する.流行性角結膜炎が10日~2週間で自然に治癒するのに比べ,経過が長い.840あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017(82)

抗VEGF治療:抗VEGF療法時代における他治療の位置づけ DME編:レーザーについて,抗VEGF療法との使い分けや併用療法について

2017年6月30日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二41.抗VEGF療法時代における他治療の位置づけDME編:レーザーについて,抗VEGF療法との使い分けや併用療法について稲垣圭司聖路加国際病院眼科糖尿病黄斑浮腫(DME)に対するレーザー治療は,抗VEGF療法が普及するまでもっともエビデンスの高い治療法であった.現在DME治療の第一選択は抗VEGF療法であるが,治療効果は永続的でなく,治療抵抗例も存在する.本稿では,DMEに対するレーザー治療を中心に,抗VEGF療法との使い分け,併用療法について概説する.糖尿病黄斑浮腫の治療法糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対するレーザー光凝固術は,1985年にEarlyTreat-mentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)1)が報告して以来,抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法が登場するまで,唯一エビデンスに基づいた治療だったが,今日ではレーザー治療単独より,抗VEGFと併用または抗VEGF療法単独が成績良好であるという結果が示されている.しかし,抗VEGF療法単独では注射の回数が1年間に8回前後となり,患者の経済的な負担が大きく,医療経済的にも問題になっている2).近年,抗VEGF療法とレーザー治療を併用することにより,注射の回数が減少したという報告があり,抗VEGF療法との併用療法という観点から,レーザー治療が注目されている3).ETDRSの時代のレーザー光凝固術は,熱で網膜を破壊するため,暗点が出現するなど,レーザー治療の負の側面が強調されてきた.しかし近年,眼底に凝固斑を残さない低侵襲レーザーであるマイクロパルス閾値下凝固,PASCALレーザーを用いたエンドポイントマネージメントが登場し,黄斑部に瘢痕を残すことなしに浮腫を引かせる方法として注目されている.大越ら,筆者らは,マイクロパルス閾値下凝固は日本人において視力維持,黄斑浮腫軽減に有効であることを報告した4,5).閾値下レーザー治療の効果については最近メタアナリシスの結果が報告され,従来のレーザー治療と同等の効果があり,かつ黄斑の感度は従来のレーザーより良好であったことが判明した.局所浮腫では閾値下レーザー単独でも治療可能であるが,びまん性浮腫の重症例ではレーザー治療単独では限界がある.そこで筆者らは,抗VEGF治療とレーザー治療を計画的に併用する方法を行っている.抗VEGF療法とレーザー治療の併用療法具体的方法であるが,まず抗VEGF薬を3回連続で投与し,その後浮腫が引いた段階で,閾値下レーザーを併用する.閾値下レーザーは抗VEGF療法前に撮影したフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangi-ography:FA)の後期相にてびまん性の蛍光漏出を認めるびまん性浮腫を呈すると思われる範囲に密に照射する.局所性の浮腫の場合は,責任病巣である毛細血管瘤に対して眼底にわずかに凝固斑を認める閾値凝固の条件でレーザーを行う.閾値下レーザーの治療効果は即効性がなく,術後3カ月経過したのちに効果を発揮することが多く,抗VEGF療法の治療効果が切れる頃にその治療効果が出現し,1年経過で抗VEGF薬硝子体注射回図1抗VEGF薬初回投与前ステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤に対する直接凝固を施行するも,黄斑浮腫の増悪緩解を繰り返していた難治性の糖尿病黄斑浮腫.a:抗VEGF薬の硝子体内注射前の眼底写真.右眼視力0.4(0.6×S.0.25C.1.00Ax70°).b:光干渉断層計所見..胞様黄斑浮腫と漿液性網膜.離を認める.c:フルオレセイン蛍光眼底造影所見.びまん性の蛍光漏出を認める.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.6,20178370910-1810/17/\100/頁/JCOPYラニビズマブ硝子体内注射を1カ月おきに3回施行a.初回注射から4カ月照射条件:エンドポイント閾値下凝固エンドポイント50%SPOTサイズ200μm波長577nm時間0.015SecPower300mWShot数304発b.閾値下凝固直後c.閾値下凝固から1年4カ月RV=0.5(1.0p)図2図1の症例の治療経過抗VEGF薬硝子体内注射3回施行後にエンドポイントマネージメントを用いた閾値下凝固併用した(a).閾値下凝固施行後,眼底に凝固斑は認められない(b).併用療法後1年4カ月経過し,黄斑浮腫は再燃なく改善している(c).数の減少に繋がっていると考えている.症例提示患者は64歳女性.DMEでステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤に対する直接凝固を施行するも黄斑浮腫の増悪緩解を繰り返し,聖路加病院眼科を紹介された.まず抗VEGF薬の硝子体内注射を1カ月おきに3回連続で投与し,黄斑浮腫が十分に消失したところで最終注射から1カ月以内にエンドポイントマネージメントを用いた閾値下凝固を,硝子体内注射前に行ったFAにてびまん性の蛍光漏出を認めた範囲に施行した(図1,2).抗VEGF薬の硝子体内注射3回に閾値下凝固を併用後,1年4カ月経過した時点で,硝子体内注射の追加施行はせず,黄斑浮腫の再発はなく,矯正視力も併用療法前0.6から1.0まで改善している(図2).当院の基本的治療方針は,中心窩に及ばないDMEはレーザー単独で治療し,浮腫が中心窩に及んだ場合は,視力が良好で浮腫が軽度であればレーザー単独,重症化した場合は抗VEGF薬の硝子体内注射を約3回連続で投与し,その後低侵襲レーザーである閾値下凝固,毛細血管瘤に対する閾値凝固を併用している.まだランダム化試験の結果は得られていないが,パイロット試験の結果では,注射の本数が少なくすんでいる印象である.おわりに抗VEGF療法がDME治療の中心になっている今日838あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017でも,レーザー治療は重要なDME治療に位置づけられており,レーザー治療を上手に取り入れることで患者負担を軽減させることが可能と思われる.また,可能であれば,従来の熱凝固ではなく,閾値下レーザーを取り入れることで,より低侵襲に安全で効果的な併用療法を行うことができると思われる.文献1)EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyresearchgroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyreportnum-ber1.ArchOphthalmol103:1796-1806,19852)TheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork:A.ibercept,bevacizumab,orranibizumabfordiabeticmacularedema.NEnglJMed372:1193-1203,20153)LieglR,LangerJ,SeidenstickerFetal:Comparativeevaluationofcombinednavigatedlaserphotocoagulationandintravitrealranibizumabinthetreatmentofdiabeticmacularedema.PLoSOne26:e113981,20144)OhkoshiK,YamaguchiT:SubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedemainJapa-nesepatients.AJO149:133-139,20105)InagakiK,OhkoshoK,OhdeS:Spectral-domainopticalcoherencetomographyimagingofretinalchangesafterconventionalmulticolorlaser,subthresholdmicropulsediodelaser,orpatternscanninglasertherapyinJapanesewithmacularedema.Retina32:1592-1600,2012(80)